説明

インクジェット記録装置

【課題】インクジェットヘッドのインク吐出口面の汚染を抑え、しかもインク吐出口が形成された部分における高い密封性を実現する。
【解決手段】インクジェットヘッド15は、インクジェットヘッド支持部13の表面から突出して形成されたノズルフェイス面152aにインク吐出口152bを有する。キャップ18は、ノズルフェイス面152aに対して対向可能であり、少なくとも一部に膨張可能な膨張部17を有し、膨張状態の膨張部17がノズルフェイス面152aを除くインクジェットヘッド15周囲の面に密着してインクジェットヘッド15のインク吐出口152bを密閉する。流体供給装置21はキャップ18の膨張部17を膨張させるための機構である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク吐出口を含むインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、主に、インクヘッド装置を含むインク画像形成部と、このインク画像形成部に用紙を搬送する用紙搬送部とを有している。また、インクヘッド装置は、複数のインクジェットヘッドを有しており、各インクジェットヘッドにはインク吐出口が形成されている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置では、用紙が用紙搬送部によってインク画像形成部に搬送され、インク画像形成部において、画像情報に応じてインク吐出口からインクが用紙に対して噴射されてインク画像が形成される。そして、インク画像が表面に形成された用紙は用紙搬送部によって排出部に搬送される。
【0004】
ここで、インク画像形成動作が終了し、待機状態が長時間続くと、インク吐出口のインクが乾燥してインク吐出口につながるインク流路が詰まったり、インク吐出口の周囲にほこりが付着したりする場合がある。このような場合には、インク画像形成時にドット抜け等が発生し、画像品質が劣化することになる。
【0005】
そこで、インクジェットヘッドにおけるインクの乾燥を防止したり、あるいはインクジェットヘッド先端にほこりなどが付着するのを防止するために、保護キャップが設けられている。この保護キャップは、例えば、インク吐出面に対向する部分が開放された弾性体で形成されており、インク吐出口の周囲を取り囲むとともに、キャップの周縁部分をインク吐出口が形成された面に押圧することにより、インクの乾燥及びほこりの付着等を防止するようにしている。
【0006】
また、インクジェットヘッドの別の保護機構として、キャップを膨張可能な部材で構成し、膨張状態のキャップをインク吐出口の面に接触させてインク吐出口をシールするようにしたインク乾燥防止装置も提案されている(特許文献1)。
【0007】
この特許文献1の装置では、インク画像形成動作が終了して待機状態になると、キャップとしての膨張部材がインクジェットヘッドの先端に移動する。そして、膨張部材が膨張してインクジェットヘッドの先端面に押しつけられる。このように、インク吐出口が形成されたインクジェットヘッドの先端面に膨張部材が押しつけられることで、インク吐出口内部が密封され、インク流路内のインクの乾燥及び劣化を防止するとともに、インク吐出口部分にほこりが付着するのを防止するようにしている。
【特許文献1】特開2002−292883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の装置では、画像形成をしていない状態でインクジェットヘッドの先端面に膨張部材を接触させ、インク画像形成時には膨張部材をインクジェットヘッドの先端面から離すようにしている。
【0009】
この装置では、インクジェットヘッド先端面から膨張部材を離す際に、膨張部材の移動によって、インク吐出口に形成されたインクのメニスカス(液体架橋)が崩壊される場合がある。この場合には、メニスカスが崩壊させられることで、画像形成の際にインクが吐出されない可能性がある。インクが吐出されない場合には、画像形成とは無関係に圧力を加える等によりインクの吐出等を行い、メニスカスを回復させる必要がある。
【0010】
さらに、インク吐出口が形成された面に膨張部材を押し当てるために、インクが膨張部材に付着することになるが、この膨張部材に付着したインクが乾燥して高粘度化した場合、高粘度化したインクを再度インク吐出口の面に押し当てることによってインク吐出口の面が汚染されてしまうことになる。この場合には、インク吐出口からインクの液滴を精度良く吐出することができず、画質が低下するおそれがある。
【0011】
本発明の課題は、画像形成の際にインクが吐出不良になることを防止し、インクジェットヘッドのインク吐出口が形成された面の汚染を抑え、しかもインク吐出口が形成された部分をキャップで封止する際に、高い密封性を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係るインクジェット記録装置は、インクジェットヘッド支持部と、インクジェットヘッドと、キャップと、キャップ移動機構と、膨張機構と、を備えている。インクジェットヘッドは、インクジェットヘッド支持部の表面から突出して形成されたノズルフェイス面にインク吐出口を有する。キャップは、ノズルフェイス面に対して対向可能であり、少なくとも一部に膨張可能な膨張部を有し、膨張状態の膨張部がノズルフェイス面を除くインクジェットヘッド周囲の面に密着してインクジェットヘッドのインク吐出口を密閉するためのものである。キャップ移動機構は、キャップを、インクジェットヘッドに対向する保護位置と、保護位置から退避した待機位置との間で相対移動させる。膨張機構はキャップの膨張部を膨張させるための機構である。
【0013】
この装置では、インクジェットヘッド支持部の表面から突出するようにインクジェットヘッドが形成されており、このインクジェットヘッドは、先端に、インク吐出口が形成されたノズルフェイス面を有している。すなわち、ノズルフェイス面とインクジェットヘッド支持部の表面とは面一ではなく、段差が形成されている。そして、キャップの膨張部が、膨張状態でノズルフェイス面を除くインクジェットヘッドの周囲の面に密着し、これによりインクジェットヘッドのインク吐出口が密閉される。
【0014】
ここでは、キャップの少なくとも一部に設けられた膨張部が膨張し、インクジェットヘッド周囲の面に密着するので、インク吐出口近傍の空間を良好に密封することができ、インクの乾燥及びほこりの付着を防止できる。また、インクジェットヘッド先端のノズルフェイス面は他の面から突出して形成されており、膨張部はノズルフェイス面以外の面に接触して密封する。すなわち、膨張部は膨張状態においてもノズルフェイス面に接触しない。このため、膨張部の伸縮や移動等によってインク吐出口のメニスカスが崩壊するのを防止でき、メニスカスの崩壊によるインクの汚染を防止することができる。
【0015】
請求項2に係るインクジェット記録装置は、請求項1の装置において、キャップの膨張部は、膨張状態でノズルフェイス面の周囲のインクジェットヘッド支持部及び/又はインクジェットヘッドの側面に接触する。
【0016】
この場合は、前記同様に、キャップの膨張部がインクジェットヘッド周囲の面に密着して、インク吐出口近傍の空間を良好に密封することができる。また、膨張部はノズルフェイス面に接触しないために、膨張部の伸縮や移動等によってインク吐出口のメニスカスが崩壊するのを防止できる。
【0017】
請求項3に係るインクジェット記録装置は、請求項1又は2の装置において、キャップの膨張部は内部に流体を収納可能な袋状に形成されており、膨張機構は膨張部の内部に流体を注入することで膨張部を膨張させる。
【0018】
この装置では、キャップの膨張部の内部に流体が注入され、これにより膨張部が膨張してインクジェットヘッド周囲の面に密着する。この場合は、空気などの流体の注入量を制御することによって膨張度合いを容易に調整することができ、密封のための押圧力の調整が容易になる。
【0019】
請求項4に係るインクジェット記録装置は、請求項1から3のいずれかの装置において、キャップ移動機構は、キャップを水平面内でのみ移動させて、キャップを保護位置と待機位置との間で移動させる。
【0020】
ここでは、キャップがキャップ移動機構によって保護位置と待機位置との間で移動させられる。そして、保護位置では、キャップは、インクジェットヘッドに対向し、インクジェットヘッドを保護する。そして、インク画像の形成時には、キャップは待機位置に移動させられる。
【0021】
この移動に際して、キャップは水平面内でのみ移動させられる。具体的には、キャップの膨張部は、膨張していない状態では高さ位置を低くすることができるので、膨張部が膨張していない状態で、膨張部をノズルフェイス面に干渉しない高さ位置に配置することができる。これにより、膨張部を有するキャップを、高さ方向に移動させることなく、水平面内だけの移動で、保護位置にセットすることができる。このため、移動機構の構成を簡単にすることができる。
【0022】
請求項5に係るインクジェット記録装置は、請求項4の装置において、移動機構によって移動させられるときに、キャップとともに移動してノズルフェイス面に接触し、ノズルフェイス面を清掃する清掃部材をさらに有している。
【0023】
この場合は、キャップの移動に伴ってノズルフェイス面を清掃することができる。
【0024】
請求項6に係るインクジェット記録装置は、請求項1から5のいずれかの装置において、キャップはキャップ本体を有している。キャップ本体は、インクジェットヘッドと対向する部分に開口を有するとともに、インクジェットヘッド支持部におけるインクジェットヘッドの周囲部分と対向するように形成された側壁部を有する箱状に形成されている。そして、膨張部はキャップ本体の側壁部の上部に装着されている。
【0025】
ここでは、キャップ全体が膨張部で形成されているわけではなく、キャップはキャップ本体と膨張部とで形成されている。したがって、キャップ本体を樹脂等で形成することにより、キャップの強度を高めることができる。
【0026】
請求項7に係るインクジェット記録装置は、請求項6の装置において、側壁部には、膨張機構から膨張部の内部に流体を注入するための流体通路が設けられている。
【0027】
ここでは、キャップ本体の側壁部に、膨張部に流体を注入するための流体通路が設けられているために、膨張部への流体の供給が容易になる。
【0028】
請求項8に係るインクジェット記録装置は、請求項6又は7の装置において、キャップ本体には、インクジェットヘッドのインク吐出口から吐出されたインク滴を外部に排出するための排出流路が設けられている。
【0029】
ここで、インクジェット記録装置では、インクジェットヘッドの吐出回復処理を行う必要がある。このとき、キャップに排出流路が設けられているので、キャップを保護位置にセットした状態で、吐出回復処理の際の廃棄インクを外部に排出することができる。
【0030】
請求項9に係るインクジェット記録装置は、請求項1から8のいずれかの装置において、膨張部は膨張状態でインクジェットヘッド支持部に接触するものであり、インクジェットヘッド支持部の膨張部が接触する部分に膨張部が接触したことを検知可能な接触検知センサをさらに備えている。
【0031】
ここでは、接触検知センサによって膨張部がインクジェットヘッド支持部に接触していることを確実に検知することができる。この接触検知センサの検知結果に基づいて膨張部の膨張度合いを制御することで、確実な密封を実現することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、インクジェットヘッドのインク吐出口が形成された面の汚染を抑え、しかもインク吐出口が形成された部分をキャップで封止する際に、高い密封性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[全体構成]
図1は本発明の一実施形態が採用されたインクジェット記録装置としてのインクジェットプリンタ1である。このインクジェットプリンタ1は、外部のコンピュータから送信された画像情報に基づいて画像形成可能な装置であって、インクヘッド装置2と、後述するインクヘッド機構10を保護するための保護機構11と、用紙収納部3と、用紙搬送部4と、排出部5と、を備えている。なお、このインクジェットプリンタ1に使用されるインクは顔料の表面を樹脂コーティングしたものである。
【0034】
[インクヘッド装置]
図2はインクヘッド装置2を上方から見た平面図であり、図3は図1のインクヘッド装置2を含む装置の主要部分を拡大して示したものである。また、図4は後述するインクジェットヘッド15の正面断面図である。このインクヘッド装置2は、画像情報に基づいて用紙に画像を形成する部分であって、図1から図3に示すように、インクヘッド機構10を有している。
【0035】
<インクヘッド機構>
インクヘッド機構10は、インクジェットヘッド支持部材13と、ヘッド本体14と、複数のインクジェットヘッド15とを有している。
【0036】
インクジェットヘッド支持部材13は、複数のインクジェットヘッド15を支持するための部材であって、インクジェットヘッド15を配置可能な孔13a(図6及び図7参照)が複数設けられた板状の部材である。
【0037】
ヘッド本体14は、内部にインクジェットヘッド支持部材13や複数のインクジェットヘッド15を収納可能な部材であって、金属製の部材である。また、ヘッド本体14は、略直方体状に形成されており、図1における上側の面に図示しないインクチューブや配線の接続部が設けられている。さらに、ヘッド本体14は、インクジェットヘッド15及びインクジェットヘッド支持部材13が露出するように下面が大きく開口しており、内側にインクジェットヘッド支持部材13を支持している。
【0038】
インクジェットヘッド15は、インクを用紙に向かって吐出するための部分であって、図4に示すように、主に、上ヘッド151と、下ヘッド152とを有している。また、インクジェットヘッド15は、インクジェットヘッド支持部材13に設けられた孔13aに配置される部材であって、インクジェットヘッド支持部材13から下方に全長の約3分の1が突出するようにインクジェットヘッド支持部材13に固定されている(図1及び3参照)。このために、図6に示すように、インクジェットヘッド15の下方側先端面(ノズルフェイス面152a)とインクジェットヘッド支持部材13との間には段差が形成されている。なお、図6はインクジェットヘッド支持部材13に支持された1つのインクジェットヘッド15と、このインクジェットヘッド15に対応する保護機構11の一部とを拡大して示したものである。上ヘッド151は、上部に2つのインク供給口151aが形成されており、内部には、2つのインク供給口151aと連通する第1インク溜151bと、第1インク溜151bの底側に設けられたフィルタ151cと、フィルタ151cを介して第1インク溜151bと連通する第2インク溜151dと、第2インク溜151dの底部から下方に延びるインク分配口151eとを有している。下ヘッド152は、下面(ノズルフェイス面152a)に複数(例えば4000個)のインク吐出口152b(図6参照)が形成されており、供給通路152cと、加圧室152eと、圧電素子152f及び図示しない個別電極とを有している。供給通路152cは、インクジェットヘッド15の長手方向に沿って複数設けられており、加圧室152eにインクが供給されるようになっている。加圧室152eは、インク吐出口152bに対して1つずつ設けられている。圧電素子152f及び図示しない個別電極は、加圧室152eの上方に設けられている。この加圧室152eと供給流路152cとは供給孔152hによって接続されている。
【0039】
図示しないヘッド駆動部から、図示しない個別電極に駆動パルスが印加されることで、各電圧素子152fが個別に駆動される。電圧素子152fの駆動によって加圧室152eが圧縮され、加圧室152e内のインクに圧力が加わる。そして、インク吐出口152bからインクがインク滴となって用紙上に吐出され、吐出されたインクによって用紙上に画像が形成される。
【0040】
[保護機構]
保護機構11は、インクヘッド機構10のインクジェットヘッド15のうち、特にインク吐出口152bが形成されたノズルフェイス面152aを保護するものであり、インクヘッド機構10の下方において水平面内でのみ移動可能に構成されている。この保護機構11の移動方向を図2の矢印A−Bで示している。
【0041】
保護機構11は、図2〜図7等に示すように、支持板16と、膨張部17を有し支持板16上に配置された複数のキャップ18と、ワイピングブレード19と、支持板16とともにキャップ18を移動させるための移動機構20と、膨張部17を膨張させるための膨張機構としての流体供給装置21と、を有している。なお、図5は、支持板16と移動機構20とを示す斜視図であり、図6及び図7は、前述のように、インクジェットヘッド支持部材13に固定された1つのインクジェットヘッド15と、このインクジェットヘッド15に対応するキャップ18とを拡大して示したものである。なお、ここでインクジェットヘッド15は先端のみを簡略化して記載している。
【0042】
支持板16は、図2から明らかなように、平面視でヘッド本体14より若干大きめに形成されたプレート部材である。より詳細には、図5に示すように、支持板16は、複数のキャップ18が配置された本体部16aと、本体部16aの対向する1対の側部から縦方向に延びる1対の壁部16b(図5では一方のみ表われている)と、1対の壁部16bから横方向外側に延びる1対のフランジ部16cとを有している。本体部16aはインクジェットヘッド支持部材13と平行に配置されている。また、1対のフランジ部16cは移動機構20に連結されている。この両者の関係については後述する。
【0043】
複数のキャップ18は、それぞれ、図2に示すように、複数のインクジェットヘッド15に対応する位置に配置されている。各キャップ18は、図6等に示すように、インクジェットヘッド15と対向する上部が開口した箱状のキャップ本体25を有している。キャップ本体25は、底部25aと、底部25aから上方に延びる側壁部25bと、を有している。側壁部25bは、インクジェットヘッド支持部材13におけるインクジェットヘッド15の周囲の部分に対向するように設けられている。すなわち、側壁部25bは、上下方向においてインクジェットヘッド15と重なってはいないが、キャップ18が後述する保護位置に位置する場合にインクジェットヘッド15の周囲を取り囲むように設けられている。
【0044】
また、キャップ本体25の底部25a及び側壁部25bには流体通路25cが形成されており、側壁部25bに形成された流体通路25cは側壁部25bの上端部において開口している。底部25aの下面には、底部25aに形成された流体通路25cと流体供給装置21とを連絡するためのチューブ等の連絡部26が設けられている。
【0045】
さらに、キャップ本体25の底部25aには、キャップ本体25内部に排出されたインクを外部に排出するための排出流路27が形成されている。排出流路27の末端には不図示の廃インクタンクと接続するためのチューブ接続口が設けられチューブ29が接続されている。
【0046】
キャップ18に設けられた膨張部17は、膨張可能な弾性材料で形成された袋状の部材であり、キャップ本体25の側壁部25bの上部に装着されている。この膨張部17の内部には、流体供給装置21から供給された流体が、流体通路25cを介して注入可能となっている。そして、流体が内部に注入されず、膨張していない状態では、図6に示すように、自身の弾性復元力で縮退し、高さ位置でノズルフェイス面152aよりも低い位置に位置している。一方、膨張部17の内部に流体が注入されて膨張した状態では、図7に示すように、膨張部17の一部が、インクジェットヘッド15周囲のインクジェットヘッド支持部材13及びインクジェットヘッド15の側面15aに接触可能となる。ここで、流体供給装置21から供給される流体は、例えばオイル等の液体や空気等の気体である。また、膨張部17には、流体やインクに対して耐性のあるフッ素ゴム等のゴム(流体が空気や水の場合はシリコンゴムを使用可能)が用いられる。
【0047】
なお、図6、図7等に示すように、インクジェットヘッド支持部材13において、膨張部17と対向する位置、すなわち膨張部17が膨張して接触する位置には、膨張部17がインクジェットヘッド支持部材13に接触したことを検出するための接触検知センサ28が設けられている。
【0048】
移動機構20は、図2の矢印A−Bで示すように、キャップ18が設けられた支持板16を水平面内でのみ移動させるものであり、これにより、各キャップ18は、対応するインクジェットヘッド15に対向する保護位置と、支持板16がインクジェットヘッド支持部材13と対向しない待機位置(図2に示す位置)とに移動させられる。
【0049】
この移動機構20は、図5に示すように、駆動モータ30と、支持板16の移動方向に沿って配置された1対のガイドレール31と、第1プーリ32aと、第2プーリ32bと、第3プーリ32cと、第4プーリ32dと、第5プーリ32eと、1対の移動用ベルト33と、伝達用ベルト34と、を有している。
【0050】
駆動モータ30は、装置の奥側(後側)のフレームに固定されており、モータ軸の先端に歯車が取り付けられている。この歯車は、第1プーリ32aを駆動するための歯車と噛み合っている。1対のガイドレール31は、支持板16(具体的にはフランジ部16c)の移動をガイドするための部材である。第1プーリ32aは図4の右奥隅に配置されている。第2プーリ32bは図4の左奥隅に配置されている。第3プーリ32cは図4の左前隅に配置されている。第4プーリ32dは図4の右前隅に配置されている。第5プーリ32eは、図4の右奥に配置されており、第1プーリ32aと並べて配置されている。また、1対の移動用ベルト33は、各ガイドレール31に沿って循環するように設けられ、第1プーリ32aと第4プーリ32d及び第2プーリ32bと第3プーリ32cにそれぞれ掛け渡されている。伝達用ベルト34は一方の移動用ベルト33に動力を伝達するように、駆動モータ30近傍の第5プーリ32eと一方のガイドレール31の後端部に設けられた第2プーリ32bとを連絡するように設けられている。
【0051】
そして、1対の移動用ベルト33には、それぞれ複数の係止片35が固定されており、この係止片35が支持板16のフランジ部16cに形成された切欠きに係止している。したがって、各移動用ベルト33が互いに逆方向に循環することにより、支持板16が前後方向に移動可能となっている。
【0052】
なお、ここで、図5の前側は図1の紙面手前側であり、後側は図1の紙面奥側である。また、支持板16(キャップ18)の待機位置とは、インクによる画像形成動作を行っている状態の位置であって、保護位置とは、画像形成動作終了後に一定期間画像形成命令がなく、次の画像形成命令を待っているときの位置であって、支持板16に設けられたキャップ18が対応するインクジェットヘッド15の直下に位置している場合の位置である。
【0053】
ワイピングブレード19は、ノズルフェイス面152aを清掃するための部材であって、支持板16前端の部分に取り付けられている。より具体的には、支持板16の前側端部に各インクジェットヘッド15の位置に対応するように並べて配置されている。このワイピングブレード19は、弾性変形可能な部材であって、ノズルフェイス面152aに向かって、すなわち上方に延びている。
【0054】
[用紙収納部]
用紙収納部3は、用紙を収納可能な部分であって、図1に示すように、インクジェットプリンタ1の下部に配置されている。また、用紙収納部3は、用紙が収納される給紙カセット41と、用紙搬送方向側の先端部上方に、用紙搬送部4に対して用紙を供給するための用紙供給ローラ42とを有している。
【0055】
[用紙搬送部]
用紙搬送部4は、用紙収納部3の用紙をインクヘッド機構10に搬送する給紙搬送部50と、インクヘッド機構10に対向するようにインクヘッド機構10の直下に配置されたベルト搬送部51と、インク画像が形成された用紙を排出部5に排出する排紙搬送部52と、を有している。
【0056】
給紙搬送部50及び排紙搬送部52は、それぞれ、用紙の搬送をガイドする搬送ガイド55と、用紙を搬送するための複数のローラ対56と、を有している。
【0057】
ベルト搬送部51は、1対の循環ローラ57と、この1対の循環ローラ57に掛け渡されたベルト58と、吸引装置59とを備えている。なお、1対の循環ローラ57は、図1の紙面に直交する方向に延びている。そして、一方の循環ローラは、図示しないモータ等を含む駆動機構に連結されている。ベルト58には複数の孔が形成されており、この複数の孔を通して、吸引装置59によって用紙がベルト58に吸引されるようになっている。
【0058】
また、ベルト搬送部51の下方には、このベルト搬送部51を画像形成動作位置と待機位置とに移動させるための搬送部移動機構60が設けられている。この搬送部移動機構60は1対の支持部材61を有している。1対の支持部材61は、それぞれ略円形状の部分から一部が外部に向かって突出する曲玉形状の部材であって、外周面に4つの小ローラ62が設けられている。そして、この小ローラ62がベルト搬送部51を構成するフレーム(図示せず)に当接している。また、1対の支持部材61は、それぞれ略円形状の部分のほぼ中心が回動自在に装置のフレームに取り付けられており、図1の矢印の方向に回動自在である。ここで、図1の状態は画像形成動作位置であって、この状態から1対の支持部材61がそれぞれ内側に向かって回動することで、ベルト搬送部51が下降し、インクジェットヘッド15とベルト搬送部51との間に、キャップ18が配置された支持板16が挿入可能になる。インクジェットヘッド15とベルト搬送部51との間に支持板16及びキャップ18が挿入された状態を、図3に示している。
【0059】
[排出部]
排出部5は、インク画像が形成された用紙を排出するための部分であって、インクジェットプリンタ1の上部に配置されている。
【0060】
[動作]
まず、インク画像形成動作について説明する。このインク画像形成動作中は、保護機構11、すなわちキャップ18を含む支持板16は、図2に示すように、インクヘッド機構10と対向しない待機位置に移動している。また、ベルト搬送部51は、搬送部移動機構60によって上昇させられ、図1に示す画像形成動作位置に移動している。
【0061】
このような状態で、例えば外部に接続されたコンピュータから画像形成動作が指示されると、このコンピュータから送信されてきた画像情報に基づいてインク画像が用紙に形成される。すなわち、まず、用紙収納部3から用紙が送りだされ、給紙搬送部50によって用紙がインクヘッド装置2に搬送される。インクヘッド装置2では、用紙がベルト搬送部51で搬送されつつその用紙上にインクジェットヘッド15からインクが吐出され、用紙上に画像が形成される。そして、インク画像が形成された用紙は排紙搬送部52によって搬送されて、排出部5に排出される。このようにして印字動作が終了する。
【0062】
次にインクジェットヘッド15の保護動作について説明する。
【0063】
画像形成動作の終了後、所定時間が経過するまで次の画像形成命令がなされない場合や電源スイッチ(不図示)がオフされた場合等には、次の画像形成動作がなされるまでや電源がオンされるまで待機状態になる。この待機状態では、ベルト搬送部51が下方の待機位置に移動し、支持板16及びキャップ18が保護位置に移動する。
【0064】
具体的には、搬送部移動機構60の1対の支持部材61がそれぞれ内側に回動することにより、この支持部材61に支持されていたベルト搬送部51(具体的にはフレーム)が下降する。このベルト搬送部51の下降により、インクジェットヘッド15の下方にスペースが形成される。次に、移動機構20の駆動モータ30が歯車及び各プーリ32a、32b、32c、32d、32eを介して各ベルト33,34を循環させる。移動用ベルト33には支持板16のフランジ部16cに係止する係止片35が設けられているので、移動用ベルト33が循環することにより、支持板16及びキャップ18が図2のB方向に移動し、前述したインクジェットヘッド15の下方のスペースに移動する。すなわち、キャップ18が対応するインクジェットヘッド15の直下の位置(保護位置)に移動する。
【0065】
以上の支持板16及びキャップ18が保護位置に移動する際に、支持板16に取り付けられたワイピングブレード19によって、ノズルフェイス面152aが清掃される。
【0066】
以上のような状態で、流体供給装置21から流体が連絡部26を介して流体通路25cに供給される。流体通路25cに供給された流体は、膨張部17の内部に注入され、これにより膨張部17が膨張する。膨張部17が膨張すると、図7に示すように、膨張部17の一部が、インクジェットヘッド支持部材13に接触するとともに、インクジェットヘッド15の側面15aにも接触する。そしてこのとき、接触検知センサ28によって膨張部17とインクジェットヘッド支持部材13との接触が検知されると、流体供給装置21による流体の供給が停止させられる。
【0067】
このようにして膨張部17とインクジェットヘッド支持部材13及びインクジェットヘッド15の側面15aとが確実に接触し、インク吐出口152bを含むその近傍領域の空間が密封状態になる。その後、インク吐出口152bから、必要に応じて所定量のインクが吐出され、インク吐出機能回復動作が実行される。すなわち、インクジェットヘッド15内のインクを吐出することでインク吐出口152bの近傍のインクを入れ替え、インク吐出機能を回復する。このインクジェットヘッド15から吐出されたインクは排出流路27を通ってキャップ18の外部に排出される。
【0068】
そして、次の画像形成動作の際には、膨張部17の内部に注入されていた流体が流体供給装置21によって排出される。これにより、膨張部17は自身の弾性力で縮退し、図6に示すような状態になる。その後、移動機構20によってキャップ18を含む支持板16が待機位置に移動させられる。
【0069】
[特徴]
ここでは、膨張部17が膨張させられることで、膨張部17とインクジェットヘッド支持部材13とが接触し、ノズルフェイス面152aを密封している。このために、インク吐出口152b内部のインクの乾燥を防止でき、またノズルフェイス面152aにほこり等が付着するのを防止できる。特に、ここでは、インクジェットヘッド15を保護する際に、ノズルフェイス面152aに膨張部17が接触しないので、インク吐出口152b内部のメニスカスが崩壊されにくくなるとともにインク吐出口152b内部に空気などを押し込むのを防止できる。このために、ノズルフェイス面152aが汚染されるのを防止でき、これに伴う画質の低下を防止できる。
【0070】
また、膨張部17を膨張させてシールを実現しているために、膨張部17の膨張度合いを制御することによって押圧力を制御でき、シール(密封)性能を制御しやすくなる。
【0071】
さらに、膨張部17が縮退した状態では、高さ方向においてノズルフェイス面152aよりもさらに低い位置に位置しているために、キャップ18を水平面内でのみ移動させることによって待機位置と保護位置との間で移動させることができ、シール及びシール解除のために昇降させるための機構が不要となり、機構が簡単になる。
【0072】
4.他の実施形態
(a)膨張部17に注入する流体は、一般的には空気が考えられるが、他の気体や液体を用いることができる。
【0073】
(b)上記実施形態では、移動機構20によってキャップ18を水平方向にのみ移動させたが、本発明はこれに限らずに、キャップを水平方向に移動させた後、インクジェットヘッド15に近づけるように鉛直方向に移動させても良い。
【0074】
(c)上記実施形態では、インクジェットヘッド支持部材13に接触検知センサ28を配置したが、本発明はこれに限らずに、接触検知センサを配置せずに膨張部17への流体供給量を制御することによって膨張部17の膨張程度(押圧力)を制御しても良い。
【0075】
(d)上記実施形態では、キャップ18の膨張部17はインクジェットヘッド支持部材13に接触するとともにインクジェットヘッド15の側面15aにも接触するようにしたが、本発明はこのような構成に限定されない。例えば、図7に示すようにキャップ18’の膨張部17'がインクジェットヘッド支持部材13のみに接触するように構成したり、あるいは図8に示すようにインクジェットヘッド15の側面15aのみに接触するように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】インクジェットプリンタの全体概略図。
【図2】インクヘッド装置の平面図。
【図3】インクヘッド装置の正面図。
【図4】インクジェットヘッドの正面断面図。
【図5】キャップの移動機構を示す斜視図。
【図6】ノズル及びキャップの断面概略図。
【図7】ノズル及びキャップの断面概略図。
【図8】他の実施形態のキャップを示す断面概略図。
【図9】さらに他の実施形態のキャップを示す断面概略図。
【符号の説明】
【0077】
1 インクジェットプリンタ
2 インクヘッド装置
3 用紙収納部
4 用紙搬送部
5 排出部
10 インクヘッド機構
11 保護機構
13 インクジェットヘッド支持部材
15 インクジェットヘッド
15a 側面
16 支持板
17 膨張部
18 キャップ
19 ワイピングブレード
20 移動機構
21 流体供給装置(膨張機構)
25 キャップ本体
25b 側壁
25c 流体通路
27 排出流路
28 接触検知センサ
152a ノズルフェイス面
152b インク吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッド支持部と、
前記インクジェットヘッド支持部の表面から突出して形成されたノズルフェイス面にインク吐出口を有するインクジェットヘッドと、
前記ノズルフェイス面に対して対向可能であり、少なくとも一部に膨張可能な膨張部を有し、膨張状態の前記膨張部が前記ノズルフェイス面を除く前記インクジェットヘッド周囲の面に密着して前記インクジェットヘッドのインク吐出口を密閉するためのキャップと、
前記キャップを、前記インクジェットヘッドに対向する保護位置と、前記保護位置から退避した待機位置との間で相対移動させるキャップ移動機構と、
前記キャップの膨張部を膨張させるための膨張機構と、
を備えたインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記キャップの膨張部は、膨張状態で前記ノズルフェイス面の周囲の前記インクジェットヘッド支持部及び/又は前記インクジェットヘッドの側面に接触する、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記キャップの膨張部は内部に流体を収納可能な袋状に形成されており、
前記膨張機構は前記膨張部の内部に流体を注入することで前記膨張部を膨張させる、
請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記キャップ移動機構は、前記キャップを水平面内でのみ移動させて、前記キャップを前記保護位置と前記待機位置との間で移動させる、
請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記移動機構によって前記キャップが移動させられるときに、前記キャップとともに移動して前記ノズルフェイス面に接触し、前記ノズルフェイス面を清掃する清掃部材をさらに有している、請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記キャップは、
前記インクジェットヘッドと対向する部分に開口を有するとともに前記インクジェットヘッド支持部における前記インクジェットヘッドの周囲部分と対向するように形成された側壁部を有する箱状のキャップ本体を有しており、
前記膨張部は前記キャップ本体の側壁部の上部に装着されている、
請求項1から5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記側壁部には、前記膨張機構から前記膨張部の内部に流体を注入するための流体通路が設けられている、請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記キャップ本体には、前記インクジェットヘッドのインク吐出口から吐出されたインク滴を外部に排出するための排出流路が設けられている、
請求項6又は7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記膨張部は膨張状態で前記インクジェットヘッド支持部に接触するものであり、
前記インクジェットヘッド支持部の前記膨張部が接触する部分に前記膨張部が接触したことを検知可能な接触検知センサをさらに備えている、
請求項1から8のいずれかに記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−107268(P2009−107268A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283465(P2007−283465)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】