説明

インクジェット記録装置

【課題】熱によって固化が進むようなインクの場合、記録ヘッドの吐出口面に関して、蒸発による粘度上昇だけでなくクリーニング性が極端に低下する。
【解決手段】本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体に沿って走査されインクを吐出する記録ヘッドと、前記記録媒体に対して前記記録ヘッドが走査する領域を加熱する加熱手段と有する。そして該記録装置は、前記記録ヘッドの液体吐出口が形成された吐出口面に相対する位置に置かれて該吐出口面を摺擦するベルト状の払拭部材を有していて、前記記録ヘッドの走査の際に該払拭部材と前記吐出口面を接触させて相対的に移動することにより前記吐出口面の払拭動作を行うクリーニング機構を備え、前記加熱手段による加熱温度が高いほど該クリーニング機構による前記吐出口面のクリーニング頻度を増やすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドから記録媒体に対しインクを吐出させて記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては、吐出口(ノズル)が形成された記録ヘッドの面(以下ではフェース面と称する)にインクが付着し正常な吐出を妨害することが知られている。そのため、フェース面に付着したインクを、ワイパーブレードを用いて拭き取るクリーニング機構が設けられるのが一般的である。
【0003】
このような動作の例として、特許文献1には、タイマと、記録ヘッドによるインク吐出数の計数(ドットカウント)とを併用してワイピングのタイミングを決定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−125228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年では、画像堅牢性の向上や被記録材の選択自由度の向上を目的として、インクの高機能化が進められており、例えば熱によって固化が進むようなインクを用いたインクジェット記録装置が挙げられる。このようなインクにおいては、蒸発や加熱に伴い相変化したり、蒸発による濃度上昇により分散破壊し固形化したりすることが原因で、蒸発による粘度上昇だけでなくクリーニング性が極端に低下する。
【0006】
このような課題に対して、特許文献1に示される技術は記録媒体にインクを定着させるための加熱ヒータによるクリーニング性の低下を考慮してないため、クリーニング性が不十分になるという課題があった。一方で、単純にクリーニング頻度を増やすと、通常撥水処理または親水処理されているフェース面のその機能(撥水性または親水性)の劣化が早期に進み、記録ヘッドの寿命が短くなるという問題がある。
【0007】
本発明は上記問題点を鑑み、フェース面での固着が強固に進み得るインクを用いた場合にも、記録ヘッドの劣化を極力抑え、適切なタイミングでクリーニングを実施する事が可能なインクジェット記録装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体に沿って走査されインクを吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドが走査する領域にある前記記録媒体を加熱する加熱手段と、有するものである。
【0009】
本願発明は、このような記録装置を前提としたもので、前記記録ヘッドのインク吐出口が形成された吐出口面に相対する位置に置かれて該吐出口面を摺擦するベルト状の払拭部材を有していて、前記記録ヘッドの走査の際に該払拭部材と前記吐出口面を接触させて相対的に移動させることにより前記吐出口面の払拭動作を行うクリーニング機構を備え、前記加熱手段による加熱温度が高いほど該クリーニング機構による前記吐出口面のクリーニング頻度を増やすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、記録媒体へのインク定着性を上げるため加熱ヒータ温度を高く設定する事に対して、記録ヘッドの吐出口面におけるインク固着状態を予測して吐出口面に対するクリーニングの頻度を増やすため、適切なタイミングで吐出口面クリーニングを実施する事が出来る。その結果、ヘッド寿命に渡り、スループットを低下させることなく、インク固着による吐出不良の影響がない良好な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に適用可能な記録装置全体図である。
【図2】本発明に適用可能な記録装置の記録領域拡大模式図である。
【図3】本発明に適用可能な記録ヘッドの模式図である。
【図4】本発明に適用可能な記録ヘッドに搭載された吐出部の模式図である。
【図5】本発明に適用可能な記録装置の全体制御図である。
【図6】本発明に好適なインクの特性図である。
【図7】実施例1に係る記録走査間のクリーニング頻度設定のためのフローチャート及びテーブルである。
【図8】実施例2に係る記録走査間のクリーニング頻度設定のためのフローチャート及びテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明を適用可能な実施形態を説明する。
【0013】
<記録装置の概要>
図1は本発明に適用可能なインクジェット記録装置(以下、プリンタと記す)の外観を示す。この図に示すプリンタはいわゆるシリアルスキャン型のプリンタであり、記録媒体Pの搬送方向に対して直交する方向(主走査方向)に記録ヘッドをスキャン(主走査)して画像を形成するものである。
【0014】
次に、図1を用いてこのプリンタの構成および記録時の動作の概略を説明する。まず、不図示の給紙モータ(図5の給紙モータ5を参照。)と、ギヤを介して駆動される不図示の給紙ローラーとによって、記録媒体Pを保持しているスプール6より記録媒体Pが搬送される。一方、所定の搬送位置において不図示のキャリッジモータによりキャリッジユニット2を当該搬送方向と直交する方向に延在するガイドシャフト8に沿ってスキャンさせる。そして、このスキャンの過程で、エンコーダ7によって得られる位置信号に基づいたタイミングで、キャリッジユニット2に着脱自在に装着される記録ヘッド(図3の記録ヘッド9参照)のインク吐出口(ノズル)から吐出動作を行わせ、ノズル配列範囲に対応した一定のバンド幅を記録する。その後、記録媒体Pの搬送を行い、さらに次のバンド幅について記録を行う構成となっている。このようなプリンタでは、各スキャン間でバンド幅分の記録媒体搬送を行う場合もあるし、必要に応じて、1スキャン毎にバンド幅分の搬送を行わず、複数回スキャンを行ってから搬送を行う場合もある。また、1スキャン毎に所定のマスクによって間引かれたデータを記録してから1/nバンド前後の紙送りを行い、再度スキャンを行うことによって、一画像領域に対し記録に関与するノズルを異ならせた複数回のスキャンと搬送とによって画像を完成させる方法(いわゆるマルチパス記録)を行う場合もある。記録ヘッド9に対しては、吐出駆動のための信号パルスやヘッド温調用信号などを供給するためのフレキシブル配線基板10が取り付けられている。フレキシブル基板10の他端は、本プリンタの制御を実行する制御回路を備えた制御回路(後述)に接続されている。なお、キャリッジモータからキャリッジユニット2への駆動力の伝達には、キャリッジベルトを用いることができる。しかしキャリッジベルトの代わりに、例えばキャリッジモータにより回転駆動され、主走査方向に延在するリードスクリュと、キャリッジユニット2に設けられ、リードスクリュの溝に係合する係合部とを備えたものなど、他の駆動方式を用いることも可能である。給送された記録媒体Pは、不図示の給紙ローラーとピンチローラーとに挟持されつつ搬送されて、プラテン4上の記録位置(記録ヘッド9の主走査領域)に導かれる。通常休止状態では記録ヘッド9の吐出口が形成された吐出口面(フェース面とも呼ぶ。)にはキャッピングが施されているため、記録に先立ってキャップを開放して記録ヘッド9ないしキャリッジユニット2をスキャン可能状態にする。その後、1スキャン分のデータがバッファに蓄積されたらキャッリッジモータによりキャリッジユニット2をスキャンさせ、上述のように記録を行う。
【0015】
図2は図1の記録走査領域を拡大した模式図(加熱ヒータ及びプラテン周辺のクリーニング機構の構成を被記録媒体Pの搬送方向から見た図)である。記録に伴い、キャリッジユニット2は図中の矢印方向に往復動作を行う。加熱ヒータ1は、キャリッジユニット2に搭載された記録ヘッドからインク吐出が行われた直後に被記録材P上のインクを加熱定着できるように、プラテン4の下に最大記録幅と同等の長さで配設される。そして、被記録材Pの種類や記録モードに応じて設定される加熱温度を維持するよう適切な制御がなされる。図2においてはプラテン4の下から被記録媒体Pを加熱する例を示したが、これに限られるものでなく加熱ヒータをキャリッジユニット2の直上に設けても構わない。キャリッジユニット移動方向に関して記録領域の両外側には、それぞれクリーニング機構30が配設されている。一般にフェース面に付着したインクを拭き取るにはゴム製のワイパでフェース面を摺擦するワイピングが行われる。しかし、本実施例の好適な適用例としてあげるような、加熱されることで成分の一部が相変化して固着を促進させるインクにおいては、一度高温下に晒されると相変化が起こり、通常インクと比較してかなり粘度が高い状態となる。
【0016】
加熱ヒータ1はキャリッジユニット2の直下に配置されるため、フェース面は記録中に高温になり易い。従ってフェース面に付着したインクの粘度が高いので、一般的なワイピングでは除去することが困難である。このように従来型のワイピング機構により拭き取りが困難な場合、また拭き取り後のインク残渣が固化しやすい場合等には拭き部材として、多孔質のウレタンフォームやメラミンフォーム、またはポリオレフィン、PET、ナイロンを用いたウェブ(不織布)などを用いてヘッドの拭き取りが行われる場合がある。本実施例に好適なクリーニング機構30は、このようなウェブを用いたクリーニング機構の一例を説明するものである。
【0017】
クリーニング機構30では、ベルト状に長尺に成型されたウェブ31が、一端が供給ローラー32にロール状に巻きつけられ、他端は巻き取りローラー33に固定されており、両者の間で一定の張力を持って張られた形態となっている。供給ローラー32と巻き取りローラー33の間には押し上げ部材34が配設され、不図示のモータ(図5のクリーニング機構制御モータ35を参照。)を制御することにより押し上げ部材34が上下動し、供給ローラー32と巻き取りローラー33の間に張られたウェブ31が上下動する。押し上げ部材34で上下動されるウェブ31の部分はフェース面に相対することができる位置に配置されている。よって、押し上げ部材34が下方にあり、ウェブ31が図2中の破線で示された位置にある場合は、クリーニング機構30の上方をキャリッジユニット2が通過しても、記録ヘッド9のフェース面にウェブ31が当接することは無く、従ってフェース面のクリーニングは行われない。一方、押し上げ部材34が上方にあり、ウェブ31が図2中の実線で示された、記録ヘッド9のフェース面よりも高い位置にある場合は、クリーニング機構30の上方をキャリッジユニット2が通過した時に、フェース面がウェブ31に当接する。その際、フェース面に固着していたインクの大部分がウェブ31によって拭き取られることで、クリーニング(払拭動作)が実行される。そして、キャリッジユニット2が通過した後に、押し上げ部材34の幅の分だけウェブ31を巻き取ることにより、汚れの無い部分のウェブ31を用いて次回のクリーニングを行うことが出来る。払拭力については、押し上げ部材34の位置が高いほど強まるので、押し上げ部材34の位置を調節することで、フェース面のクリーニング強度を調節することが出来る。このように、クリーニング機構30の上をフェース面が相対的に通過するだけでフェース面のクリーニングが可能となるため、生産性を低下させることなく、記録走査間(すなわち記録走査してから次の記録走査を実施する間)の払拭クリーニングが可能である。尚、よりクリーニング性を高めるため、払拭部材としてのウェブ31をフェース面に接触させる際にウェブ31にインク溶剤を含浸させておくと良い。
【0018】
また、キャリッジユニット2の移動方向に関して記録領域の両外側のうちの片方には、前記クリーニング機構とは別にキャップ36が配設される。キャップ36は不図示のモータ(図5のキャッピングモータ37を参照。)を制御することにより昇降可能である。キャップ36は、上昇位置では、例えば後述する記録ヘッドの3つの吐出部のフェース面毎にキャッピングを施し、非記録動作時等においてその保護を行ったり、あるいは吸引回復を行ったりすることが可能である。さらにキャップ36は、記録動作時には、キャリッジユニット2に搭載された記録ヘッドとの干渉を避ける下降位置に設定され、かつ、該記録ヘッドのフェース面との対向によって予備吐出のインクを受けることが可能である。
【0019】
<記録ヘッド>
図3は、上記したプリンタのキャリッジユニット2に搭載される記録ヘッド9を、インクが吐出される方向に対して斜め上から見た模式的斜視図である。ここで、記録ヘッド9には、被記録媒体Pの搬送方向とは交差する、好ましく直交する方向である主走査方向Sに沿って、異なる色調(色、濃度を含む)のインク、例えば、ブラック(Bk)、ライトシアン(Lc)、シアン(C)、ライトマゼンタ(Lm)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクを吐出可能な複数の吐出部11〜16が並設されている。各吐出部に対しては、インク導入部23から記録ヘッド9内部のインク流路を介してインクが供給される。インク導入部23には後述のインクタンクより供給チューブを介してインクが導入される。
【0020】
図4は各吐出部の模式的な斜視図である。各吐出部は、インクを吐出するために利用されるエネルギーとして、例えば通電に応じインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギーを用いる方式のものである。具体的には、各吐出部は所定のピッチで発熱部52が形成された発熱部列を2列、並列させてなる基板51を有している。基板51の発熱部列間には、上記インク流路に連通するインク供給口56が設けられている。基板51に対しては、発熱部52毎に対応した複数のノズル55と、ノズル55のそれぞれに対応してインク供給口56からインクを供給するための複数のインク路59とが形成された部材(オリフィスプレート)54が接合されて、吐出部が構成される。各発熱部列では互いに、発熱部52およびノズル55を半ピッチずらして配置することで、所望の記録解像度を実現している。ここで、図3に示した吐出部11〜16のそれぞれについて同じ記録密度およびノズル数とすることもできるし、異なる記録密度およびノズル数とすることもできる。本実施形態では、吐出部11〜16では各色とも1cmあたり約490ノズルの密度で1280個のノズルが配列されている。なお、本例では発熱部52が基板51に対して交差する方向にインクを吐出させる方式の吐出部を用いているが、基板51の主面に沿った方向にインクを吐出させる形態の吐出部を用いるものでもよい
<制御系の構成例>
図5は本発明によるプリンタに適用可能な制御回路の構成例を示す。図5において、図5に示すプリンタはプログラマブル・ペリフェラル・インターフェース(以下、PPIとする)101を有する。PPI101は、ホストコンピュータ100から送られてくる指令信号(コマンド)や記録データを含む記録情報信号を受信してMPU102に転送するとともに、ホストコンピュータ100に対しては必要に応じプリンタのステータス情報を送出する。またPPI101は、ユーザーがプリンタに対して各種設定を行う設定入力部やユーザーに対してメッセージを表示する表示部などを有したコンソール106との間で入出力を行う。さらにPPI101は、キャリッジユニット102ないし記録ヘッド9がホームポジションにあることを検出するホームポジションセンサや、キャッピングセンサなどを含むセンサー群107からの信号入力を受容する。
【0021】
MPU(マイクロプロセッシングユニット)102は、制御用ROM105に記憶された、処理手順および設定(本発明の特徴となるフェース面のクリーニング頻度を含む)に対応した制御プログラムに従って、プリンタ内の各部を制御する。
【0022】
さらに、上記プリンタはRAM103、フォント発生用ROM104、制御用ROM105、プリントバッファ121、ドライバ110,111,113〜116、シートセンサ109、電源部120等を有している。
【0023】
RAM103は受信した信号を格納し、あるいはMPU102のワークエリアとして使用され、また各種データを一時的に記憶するためのRAMである。フォント発生用ROM104は、コード情報に対応して文字や記録等のパターン情報を記憶しており、入力したコード情報に対応して各種パターン情報を出力する。プリントバッファ121はRAM103等に展開された記録データを記憶するためのプリントバッファであって、M行記録分の容量を持つ。制御用ROM105には上記制御プログラムのほか、後述するクリーニング制御の過程で使用されるデータ等に対応した固定データを格納しておくことができる。これらの各部は、アドレスバス117およびデータバス118を介して、MPU102により制御される。
【0024】
ドライバ110、113〜116は、それぞれ、加熱ヒータ1、クリーニング機構制御モータ35、キャッピングモータ37、キャリッジモータ3および給紙モータ5をMPU102の制御に応じて駆動するためのドライバである。
【0025】
シートセンサ109は、記録媒体Pの有無、すなわち記録媒体Pが記録ヘッド9による記録が可能な位置に供給されたか否かを検知する。
【0026】
ヘッドドライバ111は記録情報信号に応じて記録ヘッド9の発熱部52を駆動するためのドライバである。
【0027】
電源部124は上記各部へ電源を供給する電源部であり、駆動電源装置としてACアダプタと電池とを有している。
【0028】
上記プリンタおよびこれに対して記録情報信号を供給するホストコンピュータ100からなる記録システムにおいては、ホストコンピュータ100よりパラレルポート、赤外線ポート、あるいはネットワーク等を介して記録データを送信する際、その先頭部分に所要のコマンドが付加される。そのコマンドとしては、例えば記録の行われる記録媒体の種類(普通紙,OHPシート,光沢紙等の種類や、さらには転写フィルム,厚紙,バナー紙等の特殊な記録媒体の種別)、媒体サイズ(A0判,A1判,A2判,B0判,B1判,B2判など)、記録品位(速い(ハヤイ),標準,綺麗(キレイ),特定色の強調,モノクローム/カラーの種別など)、給紙経路(プリンタが備える記録媒体の送給手段の形態や種類に応じて定められる。例えばロール紙,手差しなど)、およびオブジェクトの自動判別の有無などがある。これらのコマンドに従って、プリンタ側では前述したROM105から記録に必要なデータを読み込み、それらのデータに基づいて記録を行う。
【0029】
データとしては、例えば上述したマルチパス記録を行う際の記録パス数や、キャリッジ速度、記録ヘッドの高さ設定、記録媒体単位面積あたりのインクの打ち込み量、記録方向、加熱ヒータ温度、及び後述のシーケンスに基づき設定されるフェース面のクリーニング頻度等を決定するためのものがある。またその他、マルチパス記録を行う際に適用されるデータ間引き用のマスク種類や、記録ヘッド9の駆動条件(たとえば発熱部52に印加する駆動パルスの形状,印加時間等)、ドットのサイズ、記録媒体搬送の条件、さらにはキャリッジ走査速度等もある。
【0030】
以下に実施例に基づき詳細に説明する。各実施例で示す各種設定値はあくまでも一例であり、本発明を限定するものではない。
【0031】
「実施例1」
図6は、本発明によるプリンタに好適なインクの特性を示したものである。本発明に適用するインクは、加熱されることで成分の一部が相変化して固着を促進させるインクであり、図6ではその水分蒸発及び相変化の関係を示している。そして、Y軸が温度、X軸がその温度での放置時間であり、破線は水分蒸発が完了するタイミング、実線は相変化が開始するタイミングを示す。
【0032】
図6に示すように、前記インクを同じ温度で放置すると、まずは水分が蒸発し、さらに加熱を続けると相変化が起こることが分かる。また、この変化は温度が高いほど加速されることも分かる。前記インクに関して、水分が蒸発していない状態(段階1)、または水分は蒸発しているが相変化はしていない状態(段階2)であればクリーニングは可能である。しかし、相変化が始まっている状態(段階3)まで至ると強固に固着してしまうためクリーニングが困難となる。
【0033】
そこで、これらを踏まえ適切なタイミングでクリーニングを行う必要性がある。図7(a)に示すフローチャートをもとに、記録ヘッドのクリーニング動作に利用されるクリーニング頻度設定シーケンスの例を説明する。
【0034】
ステップ701にて記録媒体Pをセットするにあたり、記録媒体種類が設定される(ステップ702)。その記録媒体種類毎に、設定すべき加熱ヒータ温度情報を取得し(ステップ703)、その情報を基に、ステップ704において、フェース面に対する記録走査間(記録走査してから次の記録走査を実施する間)のクリーニング頻度を決定する。
【0035】
ここでは記録媒体セット時のユーザー選択情報に基づき記録媒体種類の特定を実施しているが、これに限られるものでなく、記録媒体種類の特定は、別途センサー等により自動選択による情報に基づいて実施されてもよい。また加熱ヒータ温度設定手段をプリンタに備え、ユーザーが選択できるような場合には、前記選択された加熱ヒータ温度に基づいてクリーニング頻度を決定する。
【0036】
フェース面に対する記録走査間のクリーニング頻度の設定については図7(b)に示すテーブルを参照して行う。図7(b)に示すテーブルは、加熱ヒータの上で記録走査が行われる時間の最長値(2秒)をベースに設定した例である。40℃条件下においては、図6を参照すると10秒までに水分蒸発が終了し、18秒までに相変化が開始しクリーニング困難な状態になる事が予想される。これを踏まえ5走査(10秒)毎に1回のクリーニングを実施するように設定している。一方、加熱ヒータ温度を60℃まで上げた場合、図6によると、2秒までに水分蒸発が終了し、4秒後までには相変化が開始しクリーニング困難な状態になる事が予想される。そこで40℃よりクリーニング頻度を増やし1走査(2秒)毎に1回行うように設定している。
【0037】
上記では加熱ヒータ温度を基にクリーニング頻度を規定しているが、これに限られるものでなく、記録媒体上の表面温度を基にクリーニング頻度を規定しても構わないものである。
【0038】
上記のフローに基づき、記録媒体セット時に、フェース面に対する記録走査間のクリーニング頻度は設定され、記録データを受信した際には前記設定値を基にクリーニングを実施する。
【0039】
「実施例2」
実施例1では、加熱ヒータ温度毎に、フェース面に対する記録走査間のクリーニング頻度を設定する例を示したが、実施例2では図8に示すように、さらに加熱ヒータ上の記録走査時間を考慮した例を示す。加熱ヒータ上の記録走査時間はキャリッジ走査速度に比例するものであり、以下ではキャリッジ走査速度を取得しそれを基にクリーニング頻度を設定する例を示す。
【0040】
図8(a)に示すフローチャートをもとに、記録ヘッドのクリーニング動作に利用されるクリーニング頻度設定シーケンスの例を説明する。
【0041】
ステップ801〜803は実施例1と同様である。一方でステップ804にて記録データを受信した際に、続くステップ805でキャリッジ速度情報を取得する。前記加熱ヒータ温度情報とキャリッジ速度情報を合わせ、続くステップ806において、フェース面に対する記録走査間のクリーニング頻度設定を行う。
【0042】
その記録走査間のクリーニング頻度の設定においては図8(b)に示すテーブルを参照して行う。図8(b)では、加熱ヒータ温度40℃の場合の例を示してある。記録走査時間2秒(キャリッジ速度:25inch/s)のもとでは、図8(b)に示したように5走査に1回のクリーニングを実施するよう設定している。これに対し、キャリッジ速度が速くなり記録走査時間が短縮された場合、図6を考慮すると、図8(b)に示すようにクリーニング回数を削減する事ができる。例えば、記録走査時間1.4秒(キャリッジ速度:36inch/s)のもとでは7走査に1回のクリーニングを、記録走査時間1.0秒(キャリッジ速度:50inch/s)のもとでは10走査に1回のクリーニングを実施するよう設定する。
【0043】
前記記録走査間のクリーニング頻度設定を行ったところで、続くステップ807に移り記録を開始する。また、本実施例は加熱ヒータ温度40℃における設定条件を示すが、これに限定されるものではない。つまり、実施例1に示した加熱ヒータ温度毎の、フェース面に対する記録走査間クリーニング頻度の設定と同様に、図8(b)に示したテーブルを加熱ヒータ温度毎に用意して、加熱ヒータ温度と記録走査時間の両方を基にクリーニング頻度を規定するものであっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、紙や布、革、不織布、OHP用紙等、さらには、金属などの記録媒体を用いる機器すべてに適用可能である。具体的な適用機器としては、インクジェット記録方法を用いたプリンタ、複写機、ファクシミリ等の事務機器や、工業用生産機器などを挙げることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 加熱ヒータ
9 記録ヘッド
30 クリーニング機構
31 払拭部材
35 クリーニング機構制御モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に沿って走査されインクを吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドが走査する領域にある前記記録媒体を加熱する加熱手段と、有するインクジェット記録装置において、
前記記録ヘッドのインク吐出口が形成された吐出口面に相対する位置に置かれて該吐出口面を摺擦するベルト状の払拭部材を有していて、前記記録ヘッドの走査の際に該払拭部材と前記吐出口面を接触させて相対的に移動することにより前記吐出口面の払拭動作を行うクリーニング機構を備え、前記加熱手段による加熱温度が高いほど該クリーニング機構による前記吐出口面のクリーニング頻度を増やすことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記加熱手段が配置された領域を前記記録ヘッドが走査する時間が長いほど、前記クリーニング機構による前記吐出口面のクリーニング頻度を増やすことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記加熱手段による加熱温度が前記記録媒体の種類に応じて設定されることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドの走査速度が前記記録媒体を記録するときの画像品位に応じて設定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−218399(P2012−218399A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89242(P2011−89242)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】