説明

インクジェット記録装置

【課題】負圧発生手段を用いた構成において、待機時に温度変化による空気の体積変化による影響を受けづらいインクジェット記録装置を実現することを目的とする。
【解決手段】ヘッドユニット22K内が大気と連通する大気開放路87をヘッドユニット22Kに設け、記録以外の待機時に、大気開放路87のインクの水頭によって、ヘッドユニット22K内の圧力を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体にインクを吐出することで記録を行なうインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来インクジェット記録装置では、特許文献1に示すように、記録動作中は記録ヘッドをファン等の負圧発生手段を動作さることで、記録ヘッド内の負圧を最適に制御することで、記録を行っている。また、記録動作を行わない待機状態の時は負圧バルブを閉塞状態とし、記録ヘッド内を大気と連通させない略密閉系として、記録ヘッド内に保持されているインクがノズルから排出されないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−148955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例において、温度変化によるヘッド内の空気の体積変化でメニスカスが破壊されることがあり、本来不必要な回復処理を行わなければならないことがあった。
【0005】
本発明は、負圧発生手段を用いた構成において、待機時に温度変化による空気の体積変化による影響を受けづらいインクジェット記録装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため本発明のインクジェット記録装置は、インクを記録ヘッドの吐出口から吐出することで記録動作を行うインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドの内部の液室と、前記液室内のインクの上部に位置する空間と、前記空間の気圧を減圧させることにより、前記記録ヘッドに負圧を付与する負圧発生手段と、前記液室と大気とを連通させる大気開放流路と、前記空間と前記負圧発生手段との間に設けられた第一弁と、前記大気開放流路に設けられた第二弁と、前記大気開放流路内のインクの液面が、前記吐出口よりも下方に設定された所定位置に位置するか否かを検知する流路液面検知手段と、前記負圧発生手段、前記第一弁及び前記第二弁を制御する制御手段と、を備え、前記記録動作終了後、前記制御手段は、前記第一弁を開いた状態で、前記負圧発生手段により前記記録ヘッドに負圧を付与させながら前記第二弁を開き、前記待機開放流路内のインクの液面が前記所定位置に位置したことを前記流路液面検知手段が検知した後、前記第一弁を閉じることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によればインクジェット記録装置の記録ヘッドは、記録ヘッドの内部の液室と大気とが連通する大気開放流路を備えており、記録ヘッド内の空気が膨張するに伴って、液室内のインクが大気開放流路内で液面を上昇させる。こうすることで、記録ヘッド内の圧力変化を抑制することができる。これによって、複雑な制御を行うことなく、記録ヘッド内の負圧の変化を最小限に抑えるインクジェット記録装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態を適用可能なインクジェット記録装置を模式的に示した正面図である。
【図2】図1の記録装置の制御系を示すブロック図である。
【図3】本実施形態の記録装置におけるインクタンクからヘッドユニットまでのインクの通る経路を模式的に示した図である。
【図4】ヘッドユニットの吐出口面をクリーニングする際の手順を示したフローチャートである。
【図5】(a)から(c)は、吐出面からワイパによってインクを拭き取る手順を示す模式図である。
【図6】ヘッドユニットとその周囲を拡大して示した図である。
【図7】初期設置時のインク充填の動作を表わしたフローチャートである。
【図8】記録装置が待機状態に入るときの動作を表わしたフローチャートである。
【図9】待機状態から通常状態への復帰の動作を表わしたフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態を適用可能なインクジェット記録装置(以下、単に記録装置ともいう)を模式的に示した正面図である。記録装置10はホストPC12と接続されており、ホストPC12から送信される記録情報に基づいて、記録ヘッドとしての4つのヘッドユニット22K、22C、22M、22Yから記録媒体(以下、ロール紙ともいう)Pにインクを吐出することで記録を行う。4つのヘッドユニット22K、22C、22M、22Yは、記録媒体Pの搬送方向(矢印A方向)に沿って配置されている。各ヘッドユニットは搬送方向に黒インク用ヘッドユニット22K、シアンインク用ヘッドユニット22C、マゼンタインク用ユニットヘッド22M、イエローインク用ヘッドユニット22Yの順で配置されている。ヘッドユニット22K、22C、22M、22Yは所謂ラインヘッドであり、記録媒体搬送方向に対して記録幅全域に亘ってそれぞれを平行に並べた状態で設けられている。記録装置が記録を行う際は、各ヘッドユニットを移動させることなく、各ヘッドユニットに設けられたヒータを駆動することによってノズルからインクを吐出して記録を行う。
【0010】
ヘッドユニットは記録に伴って、ノズルの吐出口を有する面(以下、インク吐出口面ともいう)22Ks、22Cs、22Ms、22Ysにゴミやインク滴等の異物が付着することで吐出状態が変わり、記録に影響を与えることがある。そのため、各ヘッドユニット22K、22C、22M、22Yから安定してインクを吐出できるように、記録装置10には回復ユニット40が組み込まれている。この回復ユニット40によるインク吐出口面のクリーニングを定期的に行うことによって、ヘッドユニット22K、22C、22M、22Yのノズルからのインク吐出状態を初期の良好なインク吐出状態に回復することができる。回復ユニット40には、クリーニング動作のときに4つのヘッドユニット22K、22C、22M、22Yのインク吐出口面22Ks、22Cs、22Ms、22Ysからインクを除去するキャップ50が備えられている。キャップ50は各ヘッドユニット22K、22C、22M、22Yに独立して設けられており、ブレード、インク除去部材、ブレード保持部材、キャップ等から構成されている。
【0011】
記録媒体Pはロール紙供給ユニット24から供給され、記録装置10に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。搬送機構26は、ロ−ル紙Pを載置して搬送する搬送ベルト26a、この搬送ベルト26aを回転させる搬送モータ26b、搬送ベルト26aに張力を与えるローラ26cなどから構成されている。
【0012】
記録を行う際には、搬送中のロール紙Pがブラックのヘッドユニット22Kの下に到達すると、ホストPC12から送られた記録情報に基づいて、ヘッドユニット22Kからブラックインクが吐出される。同様にヘッドユニット22C、ヘッドユニット22M、ヘッドユニット22Yの順に、各色のインクが吐出されてロール紙Pへのカラー記録が完成する。
【0013】
更に記録装置10には各ヘッドユニットに供給されるインクを貯めておくメインタンク28K、28C、28M、28Yや、各ヘッドユニットにインクを補充可能なポンプや、後述するクリーニング動作をするためのポンプ(図3等参照)などが備えられている。
【0014】
図2は、図1の記録装置10の制御系を示すブロック図である。ホストPC(ホスト装置)12から送信された記録情報やコマンドは、インターフェイスコントローラ102を介してCPU100に受信される。CPU100は、記録装置10の記録情報の受信、記録動作、ロール紙Pのハンドリング等全般の制御を掌る演算処理装置である。CPU100では、受信したコマンドを解析した後に、記録データの各色成分のイメージデータをイメージメモリ106にビットマップ展開して描画する。記録前に行う動作処理では、出力ポート114およびモータ駆動部116を介してキャッピングモータ122とヘッドアップダウンモータ118を駆動し、各ヘッドユニット22K、22C、22M、22Yをキャップ50から離して記録位置に移動させる。またCPU100は、後述するように、ヘッドユニット22K、22C、22M、22Yに適正な負圧を付与するためのファン(負圧発生手段)のファンモータ125の回転を、圧力検出センサ81によって得られた圧力情報に基づいて随時補正する制御を行う。さらにCPU100は、出力ポート114およびモータ駆動部116を介してロ−ル紙Pを繰り出すロールモータ126およびロール紙Pを搬送する搬送モータ120等を駆動してロ−ル紙Pを記録位置に搬送する制御を行う。なお、本実施形態においては、負圧発生手段としてファンを用いたが、本発明はこれに限ったものではなく、ヘッドユニット22に負圧を付与できる手段であればそれを用いても良い。
【0015】
記録を行う際は、一定速度で搬送されるロール紙Pにインクを吐出するタイミング(記録タイミング)を決定するため、先端検知センサ109でロール紙Pの先端位置を検出する。その後、ロ−ル紙Pの搬送に同期して、CPU100はイメージメモリ106から記録情報を順次読み出し、この読み出した記録情報を各ヘッドユニット22K、22C、22M、22Yに、ヘッドユニット制御回路112経由して転送する。
【0016】
CPU100の動作はプログラムROM104に記憶された処理プログラムに基づいて実行される。プログラムROM104には、制御フローに対応する処理プログラムおよびテーブルなどが記憶されている。CPU100は作業用のメモリとしてワークRAM108を使用する。CPU100は、各ヘッドユニット22K、22C、22M、22Yのクリーニングや回復動作時に、出力ポート114、モータ駆動部116を介してポンプモータ124を駆動し、クリーニングポンプ92(図3参照)を動作させることによって、ヘッドユニット22のノズルからインクを吸引する吸引動作の制御を行う。さらに、CPU100は、各ヘッドユニット22K、22C、22M、22Yにインクを供給する供給ポンプ72(図3参照)を動作させるポンプモータ127を制御する。また、CPU100には、液面検知センサ86(図3参照)、流路液面検知センサ88(図3参照、流路液面検知手段)、大気バルブ84(図3参照、第一弁)及び流路切替えバルブ85(図3参照、第二弁)が接続されている。
【0017】
図3は、本実施形態の記録装置におけるインクタンク28Kからヘッドユニット22Kまでのインクの通る経路を模式的に示した図である。各ヘッドユニットは同じ構造であるため、以下、例としてブラックインク用ヘッドユニット22Kについてのみ説明を行う。
【0018】
記録装置10には、ヘッドユニット22Kにインクを供給するインク供給装置60が組み込まれており、ヘッドユニット22Kは、貯留部22Krとインクを吐出可能な吐出部22KSiとを備えている。インク供給装置60は、記録装置10の本体に着脱自在なインクタンク28Kと、このインクタンク28Kとヘッドユニット22Kとをつなぐインク供給路62と、インク供給路62の途中に配置されたインク供給ポンプ72などから構成されている。インク供給路62がヘッドユニット22Kに接続される接続部は、ヘッドユニット22K内のインクの液面が液面検知センサ86で検知される下限位置となった場合の位置よりも低い位置に位置している。供給ポンプ72は、インクフィルタ90を介して貯留部22Krへのインク供給を担う。また、インク供給路62は、インク供給ポンプ72とインクフィルタ90の間に、インク供給路62から分岐するように大気開放流路87が設けられており、ヘッドユニット22により記録動作を行わない待機状態のときには貯留部22Krと大気開放流路87とが接続される。インク供給路62と大気開放流路87の接続部を分岐部89とする。大気開放流路87とインク供給装置60との接続は、インク供給路62と大気開放流路87との分岐部89近傍に設けられ大気開放流路に設けられた流路切替えバルブ85の開動作によって行われ、大気開放流路87とインク供給装置60との遮断は、流路切替えバルブ85の閉動作によって行われる。なお、この分岐部89は、図3に示すようにヘッドユニット22Kの吐出口よりも下方に位置している。また、ヘッドユニット22Kと分岐部89までの間のインク供給路62は、本発明における大気開放流路でもある。
【0019】
流路切替えバルブ85は、記録時には閉じられており、待機状態となった際に開かれる。待機時に流路切替えバルブ85を開くことで、環境温度等の変化によって高くなったヘッドユニット22K内の圧力を大気開放流路87内のインクの水頭差として逃がしている。このヘッドユニット22K内の圧力を水頭差として逃がす詳細については後述する。
【0020】
貯留部22Krには、貯留されているインク(以下、貯留インクともいう)の液面22Krsのレベルを検知する液面検知センサ86が取り付けられている。また、貯留部22Kr下方では、ヘッドユニット22Kのノズル22Knと、ノズル22Knへのインク供給口が形成された吐出部22KSiとが接続されている。
【0021】
貯留部22Kr上部には、空気で満たされた空間(以下、空気室という)66にエアーフィルタ95を介して空気流路64が接続されており、その空気流路64には、大気バルブ84および圧力を測定可能な圧力検出センサ81が備えられている。圧力検出センサ81は空気室66内の圧力を検出することが可能である。また、空気流路64のエアーフィルタ95が設けられている側の一方端部とは反対側の他方端部は、減圧流路65とT字状に接続されており、その減圧流路65は、一端が大気開放、他端はファン68に接続されている。インクタンク28Kには、このインクタンク28K内のインクの有無を検出する検出センサ(不図示)が取り付けられている。また、インクタンク28Kには、インクタンク28Kの内部圧力を大気圧にするための大気開放バルブ74が取り付けられている。
【0022】
CPU100は、貯留部22Krの液面検知センサ86の測定結果に基づき、インク液面22Krsが一定レベル以下と判断した時は、インクタンク28Kの大気開放バルブ74が開放され、供給ポンプ72を稼動してインクタンク28Kからインクを吸引し、吸引したインクを貯留部22Kr内に供給する。一方、CPU100は、液面検知センサ86が一定レベル以上のインク液面22Krsを検知したときは、供給ポンプ72が停止させ、インクタンク28Kの大気解放バルブ74が密閉させる。
【0023】
ところで、供給ポンプ72にはチューブポンプが用いられており、供給ポンプ72が非稼動時にはインク供給路62は遮断する(インクタンク28Kと貯留部22Krとの間の流路が遮断される)。
【0024】
図4は、ヘッドユニットの吐出口面22Ksをクリーニングする際の手順を示したフローチャートである。また、図5は、吐出面22Ksからワイパ52によってインクを拭き取る手順を示す模式図であり、(a)は拭き取り開始前を示し、(b)は拭き取り終了直後を示し、(c)は拭き取り終了後の待機状態を示す図である。ここでいうクリーニングとはヘッドユニット22Kのインク吐出を良好な状態に継続的に維持するために行われる動作をいい、経過時間や吐出状況等の条件を満たした場合、または、記録品位に異常が見られる場合等に自動的にもしくは任意で実施される動作である。以下、クリーニングの動作について順に説明する。
【0025】
CPU100は、ステップS401でクリーニング指令を受信すると、ステップS402で大気開放バルブ84を解放する。その後、CPU100は、ステップS403でクリーニングポンプ92がキャップ50内を減圧させる方向に駆動することにより、貯留部22Kr内のインクをノズル22Knからキャップ50に引き込んで排出させる。このインクの排出によって、記録動作中等にノズル22Knの周囲部に溜まった微細な気泡や、ヘッドユニットの吐出口面22Ks上に付着したゴミ等の異物を除去することができる。そして、CPU100は、一定時間経過後、ステップ404でクリーニングポンプ92の駆動を停止し、ステップ405で大気バルブ84を閉じる。
【0026】
なお、この状態ではヘッドユニット22Kの各ノズル22Knの開口を含む吐出口面22Ksに、まだインクが付着していることがある。そこで、この汚れを除去するために、後述するように、キャップ50と共に設けられたワイパ52で吐出口面22Ksを拭く。その際、CPU100は、先ずステップS406で図5(a)に示すように、キャッピングモータ122を駆動しヘッドユニット22Kを回復キャップ50の上方へと移動させる。その後、CPU100は、ステップS407でキャップ50を矢印B方向に移動させ、後述するワイピング動作が可能なワイピング位置に位置させる。そして、図5(b)に示すように、CPU100は、フェイス面22Ksに付着しているインクなどの汚れを、不図示のワイパ駆動手段を駆動することによりワイパ52を動作させることによってワイパ52により拭き取る。この動作をワイピング動作と呼び、ワイピング動作終了後は、CPU100は、ステップS408で図5(c)に示すように、ヘッドユニット22Kをキャップ50により再びキャッピングさせることにより、待機状態とする。この待機状態にあるヘッドユニット22Kはフェイス面22Ksがキャップ当接部54でキャッピングされている(塞がれている)ので、キャップ50内での空気の対流がほとんど無く、ノズル22Knにあるインクが増粘するのを防止することができる。ヘッドユニット22Kが待機状態になってクリーニング動作は終了となる。
【0027】
なお、ノズル22Knから排出されたインク(回収インク)はキャップ50に受容されてクリーニングポンプポンプ92(図3参照)によって吸引される。吸収された回収インクは、回収インクタンク71(図3参照)に圧送される。回収インクタンク71には微小な大気開放口75が設けられており、回収インク(および気泡)の流入に伴い変化する回収インクタンク71内の圧力を大気へと解放する役割を担う。
【0028】
図6は、ヘッドユニット22Kとその周囲を拡大して示した図である。記録時にはノズル22Knにメニスカスを形成するために、ヘッドユニット22Kに適正な負圧を付与する必要がある。そのため、記録時には大気バルブ84を開放状態にして、ファン68をC方向への空気の流れを作るように作動させることによって、ヘッドユニット内の空気室66(液室69における、インク満たされていない上部空間)の気圧が減圧される。その結果、貯留部22Krを介してノズル22Kn内も同様に減圧される。
【0029】
本実施形態では大気と連通した貯留部(液室69)22Krが、吐出部22Ksの上方に配置されているので、大気バルブ84が開くことによりノズル22Kn先端の開口部には液面22Krsからの水頭圧力Hの正圧力がノズル22Kn開口部に作用する。そのため、ファン68による空気室66内への減圧量は水頭圧力H以上に設定される。これによりヘッドユニット22Kのノズル22Knに負圧が付与される。この結果、ノズル22Knの開口部(吐出口)においてインクのメニスカスが形成されることになる。
【0030】
本実施形態では、ファン68を作動させることで発生する負圧が直接空気室66に掛かるのではなく、大気を導入可能な吸入口61(空気導入部)を設けていることで、負圧は間接的に空気室66に掛かることになる。また本実施形態では、ファン68を作動させることにより、吸入口61から取り込まれた空気の流れが減圧流路65に生じ、その減圧流路65に接続された空気流路64内の空気は、主にエジェクタの原理により、減圧流路65の空気の流れに引き込まれる。この結果、空気室66に負圧が生じることになる。
【0031】
図7は、初期設置時のインク充填の動作を表わしたフローチャートである。ここでいうインク充填とは貯留部22Kr内(液室69内)へインクを供給し、貯留部22Kr内に所定量インクを貯留させることを示し、ノズル部へのインク充填の説明は割愛する。この、インクの充填動作を行う際は、ヘッドユニット22Kをキャップ50によりキャップされた状態にしておく。CPU100は、まずステップS701でファン68を作動させる。CPU100は、ステップS702で、ファン68による減圧が正常に行われているかを確認するために空気流路64内の圧力を圧力検出センサ81で確認する。ここで、CPU100は、所定の圧力が得られていない場合には、ステップS703へ進み、ファン68の回転数の補正を行い、ステップS702の判断を行う。CPU100は、ステップS702で所定の圧力が得られていればステップS704へと移行して大気バルブ84を解放する。
【0032】
CPU100は、ステップS705で、ポンプモータ127を駆動させることにより供給ポンプ72を動作させる。CPU100は、ステップS706で貯留部22Kr内のインクの液面が上限になったか否かを、液面上検知センサ86を用いて確認し、液面検知センサ86が液面の上限を検知した場合、ステップS707でポンプモータ127を停止し供給ポンプを停止させる。
【0033】
次にCPU100は、ステップS708で流路切替えバルブ85を開いてヘッドユニット22Kと大気開放路87とを接続する。CPU100がその後ステップS709でファン68を停止させると、分岐部89がヘッドユニット22Kの吐出口よりも下方に位置し、かつ、インクがヘッドユニット22Kから分岐部89までのインク供給路62内に満たされているので、インクは大気開放路87へと流入する。CPU100は、ステップS710で流路液面検知センサ88による検知結果に基づいて大気開放路87内の所定位置Aにインクが流入したか否かをチェックし、所定位置にインクが流入したと判断した場合、ステップS711で大気バルブ84を閉じてインク充填を完了する。CPU100は、ステップS710で流路液面検知センサ88による検知結果に基づいて大気開放路内の所定位置Aにインクが流入したか否かをチェックし、所定位置Aにインクが流入していないと判断した場合、所定位置Aにインクが流入した(大気開放路87中のインクの液面が所定位置に位置した)と判断するまで、チェックを繰り返す。所定位置Aは、ヘッドユニット22Kの吐出口よりも下方に位置に設定される。さらに、この所定位置Aは、大気バルブ84を解放されファン68が動作していない状態において、ヘッドユニット22Kの吐出口と所定位置Aに位置する液面との水等差によってノズル22Knの開口部(吐出口)においてインクのメニスカスが形成される位置として設定される。また、大気開放路87は、上方に立ち上がる立ち上がり部91が設けられており、所定位置Aは立ち上がり部91の途中に位置する。そして、大気開放路87においてヘッドユニット22Kから所定位置Aに向かう方向に関して、立ち上がり部の端部は大気開放されるように構成されている。
【0034】
また、ヘッドユニット22Kから所定位置Aにいたるまでの経路の容積は、ヘッドユニット22K内において、液面が上限位置にあるインクの体積から液面が下限位置にあるインクの体積を引いたものよりも小さく設定されている。そのため、大気開放路87にインクを流出させても、ヘッドユニット22K内のインクが無くなることはない。
【0035】
なお、本実施形態では流路液面検知センサ88を1つ用いた構成を示したが、複数個(例えば2個)用いてインクの液面の管理を行ってもよい。
【0036】
図8は、記録装置が待機状態に入るときの動作を表わしたフローチャートである。CPU100は、ステップS801で記録動作終了後、ステップS802でヘッドアップダウンモータ118駆動することによってヘッドユニット22Kを上昇させて、待機位置まで移動させ、キャッピングモータ122を駆動することによりキャップ50によってヘッドユニット22Kをキャッピングさせる。そのときCPU100は、ステップS803で、流路切替えバルブ85を開いてヘッドユニット22Kと大気開放路87とを接続する。ヘッドユニット22Kが大気開放路87と接続されると、ファン68により大気開放路87中のインクが引き込まれ、ファン68によって負圧が発生する。CPU100は、圧力検出センサ81にて所定の圧力に到達したことを確認した後、ステップS804で、流路液面検知センサ88にて大気開放路87のインク量を確認する。このとき、流路液面検知センサ88がインクを検知していた場合、CPU100は、引き続き流路液面検知センサ88がインクを検知しなくなるまでファン68にて負圧を発生させ続ける。CPU100は、大気開放路87のインクの液面が流路液面検知センサ88により検知しなくなった位置になったところでステップS805でファン68を停止させ、ステップS806で流路液面検知センサ88が再びインクを検知し所定位置Aにインクの液面が位置したところで、ステップS807で大気バルブを閉鎖する。その結果、大気開放路87と空気室66は、に負圧が生じた状態で保持されて待機状態となる。
【0037】
このように、大気開放路87のインクの水頭によって、ヘッドユニット22K内の圧力を調整することで、複雑な制御を行うことなく、かつインクタンク交換時の操作性を損なうことなくヘッドユニット22K内の負圧の変化を最小限に抑えることができる。
【0038】
本実施形態において、負圧の到達圧は圧力検出センサにて管理しているが、それ以外の管理方法(例えば一定時間経過による到達圧予測による管理等)でもかまわない。空気室66に負圧が生じた状態で、インクジェット記録装置を待機させて置き、環境温度が変化して空気室66の空気が膨張した場合、空気の体積変化分のインクが大気開放路87へ押し出されて行き、空気室66の圧力変化を最小限に抑制することが可能となる。また、空気室66の空気が収縮した場合、空気の体積変化分のインクが大気開放路87から吸い込まれて行くため、空気室66の空気が膨張した場合と同様に空気室66の圧力変化を最小限におさえることが可能となる。
【0039】
図9は、待機状態から通常状態への復帰の動作を表わしたフローチャートである。
通常、記録装置を使用していない状態では、ノズルKnからのインクの漏れを防止する目的で大気バルブ84は閉じられている。記録を開始する場合には、先ず大気バルブ84が閉じられている状態で、ファン68を作動させて、減圧流路65および空気流路64内を減圧させてから、大気バルブ84を開く。以下、このような記録を行う際の処理に関して順に説明する。
【0040】
CPU100は、ステップS900で記録装置10が記録信号を受信すると、ステップS901へ進み流路切替えバルブ85を閉じてヘッドユニット22Kを略密閉状態にする。次にCPU100は、ステップS902へ進みファン68を作動させる。CPU100は、ステップS903で、ファン68による減圧が正常に行われているかを確認するために空気流路64内の圧力を圧力検出センサ81で確認する。ここでCPU100は、所定の圧力が得られていない場合には、ステップS904へ進み、ファン68の回転数の補正を行う。CPU100は、ステップS903で所定の圧力が得られていればステップS905へと移行して大気バルブ84を解放する。大気バルブ84の解放によって空気室66が減圧されて、ノズル22Knにも負圧が作用するようになり、ノズルKnの開口(吐出口)にはメニスカスが最適な状態で形成される。次に、CPU100は、ステップS906でヘッドアップダウンモータ118駆動することによってヘッドユニット22Kをワイピング位置へ移動させる。なお、前回の記録動作後にヘッドユニット22Kがワイピンク位置に位置していた場合は、この動作は省略される。そして、CPU100は、ステップS907でヘッドユニット22Kの吐出口面22Ksのワイピングを行う。その後、CPU100は、ステップS908で記録を行うためヘッドユニット22Kを下降させてから記録位置へ移動させる。CPU100は、ステップS909で、ヘッドユニット22Kからインクを吐出させることにより記録媒体Pに対して記録を行う。ステップS910で記録媒体Pに対して記録を行う事で貯留部22Kr内のインクが消費され、液面検知センサ86によって液面が下限レベルを下回るのを検知すると、CPU100は、ステップS911でポンプモータ127を駆動させることにより供給ポンプ72を動作させ、インク消費量を上回る供給速度でインクをヘッドユニット22Kに供給させる。CPU100は、ステップS910で貯留部22Kr内のインクが下限レベルを上回っている事を確認すると、ステップS912で供給ポンプ72が動作中であるかの確認を行う。供給ポンプ72が動作中のときは、CPU100は、ステップS913で液面検知センサ86を確認して液面が上限になったところで供給ポンプ72を停止する。供給ポンプ72が停止中のとき、CPU100は、ステップS915で記録動作終了の確認を行い、終了しない場合は記録動作終了までステップS910からS915を繰り返す。CPU100は、記録動作終了後、ステップS916でヘッドアップダウンモータ118駆動することによってヘッドユニット22Kを上昇させて、待機位置まで移動させ、キャッピングモータ122を駆動することによりキャップ50によってヘッドユニット22Kをキャッピングさせる。その後、CPU100は、ステップS917で大気バルブ84を閉じて、ステップS918でファン68の作動を停止し、再び待機モードとしてこのフローチャートを終了する。
【0041】
このように、ヘッドユニット22K内が大気と連通する大気開放路87をヘッドユニット22Kに設け、記録以外の待機時に、大気開放路87のインクの水頭によって、ヘッドユニット22K内の圧力を調整する。これによって、複雑な制御を行うことなく、かつインクタンク交換時の操作性を損なうことなく記録ヘッド内の負圧の変化を最小限に抑えるインクジェット記録装置を実現することができた。
【符号の説明】
【0042】
22K ヘッドユニット
22Kr 貯留部
28K インクタンク
50 キャップ
64 空気流路
66 空気室
68 ファン
81 圧力検出センサ
84 大気バルブ
85 流路切替えバルブ
87 大気開放路
88 流路液面検知センサ
89 分岐部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを記録ヘッドの吐出口から吐出することで記録動作を行うインクジェット記録装置において、
前記記録ヘッドの内部の液室と、
前記液室内のインクの上部に位置する空間と、
前記空間の気圧を減圧させることにより、前記記録ヘッドに負圧を付与する負圧発生手段と、
前記液室と大気とを連通させる大気開放流路と、
前記空間と前記負圧発生手段との間に設けられた第一弁と、
前記大気開放流路に設けられた第二弁と、
前記大気開放流路内のインクの液面が、前記吐出口よりも下方に設定された所定位置に位置するか否かを検知する流路液面検知手段と、
前記負圧発生手段、前記第一弁及び前記第二弁を制御する制御手段と、を備え、
前記記録動作終了後、前記制御手段は、前記第一弁を開いた状態で、前記負圧発生手段により前記記録ヘッドに負圧を付与させながら前記第二弁を開き、前記待機開放流路内のインクの液面が前記所定位置に位置したことを前記流路液面検知手段が検知した後、前記第一弁を閉じることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記大気開放流路には、前記記録ヘッドの前記液室にインクを供給する供給路が前記大気開放流路に設けられた分岐部において分岐して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記分岐部は、前記吐出口よりも下方に位置していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記記録動作時、前記制御手段は、前記第二弁を閉じることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−22851(P2013−22851A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160225(P2011−160225)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】