説明

インクセット、並びにインクメディアセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置

【課題】全湿度において、水分に関る平衡がほぼ完全に一致し、ノズル抜け、噴射曲がりを防止でき、信頼性が高く、目詰まりを起こしにくいインクセット、並びにインクメディアセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置の提供。
【解決手段】少なくとも着色剤、湿潤剤、及び樹脂を含有するインクを2種以上組み合わせてなるインクセットにおいて、前記インクセットにおける各インクが異なる種類の湿潤剤を少なくとも1種含み、前記各インクにおける湿潤剤総量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率、及び温度23℃で湿度50%RHでの平衡時残存水分量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率が、それぞれ5%以内であるインクセットとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方式による各種画像記録に好適に用いられるインクセット、並びにインクメディアセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平衡水分量を規定したインクに関する先行技術文献として、例えば特許文献1には、印字ヘッドと、その前面のノズルを覆う該前面に対し接着可能なキャップとの間に形成される空間の一部に湿潤液を充填し、それにより前記ノズルのインクによる目詰まりを防止する方法において、前記湿潤剤としてインクの蒸気圧とほぼ等しい蒸気圧を有する、水を主成分とする無色液体を使用することが提案されている。
また、特許文献2には、着色剤水溶液を主成分とし、湿潤剤を含有してなり、前記湿潤剤は、1種の水溶性有機溶媒又は2種以上の水溶性有機溶媒の混合系であって25℃、60%RHの温湿度条件下における湿潤剤100質量部に対する平衡水分量が30質量部以下であるインクセットにおける各インクが提案されている。
また、特許文献3には、水に分散する着色剤、湿潤剤、界面活性剤、及び浸透剤からなり、インクの水分蒸発に伴う粘度上昇率(mPa・s/%)が、全インク質量に対する水分蒸発量が30質量%までは5.0以下であり、かつ水分蒸発量が30質量%〜45質量%の間に粘度上昇率が50を超える点を持つように構成されたインクであって、粘度上昇率が50を超える点での、インク中の着色剤の平均粒子径が、初期平均粒子径の5倍以下であり、かつ0.8μm以下であるインクが提案されている。
【0003】
また、特許文献4には、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出して記録するインクジェット記録装置における維持回復装置において、インクが、少なくとも水に分散する着色剤、湿潤剤、及び浸透性向上剤を含み、水分蒸発に伴う粘度上昇率(mPa・s/%)がインク全質量に対する水分蒸発率30%までは1.0以下であり、かつ水分蒸発率30%〜45%の間に粘度上昇率が50を超える点を持つように構成され、かつヘッドを覆蓋する複数の覆蓋手段と、少なくとも一つの覆蓋手段に連通された吸引力発生手段とを有し、前記吸引力発生手段と連通しない覆蓋手段を少なくとも1つ有する維持回復装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献5には、顔料系微粒子からなる着色剤と、湿潤剤と、界面活性剤と、浸透剤と、水分とを含有してなり、インクの水分蒸発率、水分蒸発に伴う粘度上昇率を下記式で表すと、水分蒸発率30%までは粘度上昇率が10以下であり、水分蒸発率30%〜50%の間に粘度上昇率が500を超える点を持ち、水分蒸発率30%までのインク中の着色剤の平均粒子径が、初期の平均粒子径の2倍以下であるインクジェットインクセットにおける各インクが提案されている。
水分蒸発率(%)=((初期質量−水分蒸発後の質量)/初期質量)×100
粘度上昇率=水分蒸発後の粘度/初期粘度
【0005】
このように平衡水分量に関する先行技術文献は数多く開示されているが、インクの平衡時の水分量が単独の湿潤剤の平衡水分量からの近似計算の和でかなり精度よく求められること、それから計算される水分蒸発量が実測値と合うこと、インクの湿潤剤量総量と、平衡時残存水分量とを同じにすれば、インクの湿潤剤種類が異なっていても、全湿度において水分に関する平衡がよく一致することについては開示も示唆もない。
【0006】
また、特許文献6、特許文献7、及び特許文献8には、湿潤剤を1種単独あるいは2種からなり、湿潤剤量が15質量%〜25質量%でそのうち多い方の平衡水分の湿度差が小さいものを選択し、それがアミド結合をもつ多価アルコール、又はスルホン基をもつ多価アルコールであるインクが提案されている。この提案では、水分量についても規定されており、カール防止が図れることが開示されている。しかし、この提案は、2種以上のインクからなるインクセットにおける平衡水分量を計算して合わせたものではない。
【0007】
このようにインクの処方設計においては、粘度合わせ、色調合わせ、などが行われているが、インクの信頼性に関係している平衡水分量について厳密なインク処方設計方法は知られていない。これは、湿潤剤を複数種含む場合の各湿度でのそれぞれ単独の湿潤剤の平衡水分量のデータは測定できるが、それがインク中の平衡水分量とどのように関係するのか、又はそれが湿度とどのように関係するのかが明確になっておらず、更なる改良、開発が望まれているのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開昭64−5852号公報
【特許文献2】特開平6−287495号公報
【特許文献3】特開2006−16412号公報
【特許文献4】特開2005−170035号公報
【特許文献5】特開2006−77232号公報
【特許文献6】特開2005−298813号公報
【特許文献7】特開2005−297549号公報
【特許文献8】特開2005−297548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、インクセットにおける各インクの湿潤剤の種類及びその量、並びに固形分種類が異なっていても、各インクの湿潤剤量総量と、平衡時残存水分量とを同じに合わせることにより、全湿度において、水分に関る平衡がよく一致し、ノズル抜け、噴射曲がりを防止でき、信頼性が高く、目詰まりを起こしにくいインクセット、並びに該インクセットを用いたインクメディアセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、インク中の平衡時の全水分量はそれぞれ単独の湿潤剤の平衡水分量の単純和でかなり精度よく計算できること、インクの湿潤剤種類及びその量、並びに固形分種類が異なっていても、インクの湿潤剤総量と、平衡時残存水分量とを同じにすれば、全湿度において水分蒸発など水に関わる変化が比較的良く一致すること、好ましくは固形分総量も一致させれば(必然的に初期水分量も一致する)、より一層水分蒸発に関する特性の近いインクセットが得られることを知見した。
また、各色のインクにおいて湿潤剤種類及びその量、並びに固形分種類が異なっていても、水分平衡に関して、インク処方を厳密に設計したインクセットは、インクの平衡時の水分蒸発量、及び平衡時残留水分量が同じになるため、インク信頼性において極めて好ましいインクセットになることを知見した。
また、このようなインクセットは平衡時の値だけでなく、水分蒸発速度においても類似した傾向を示し、最終的な平衡水分量の多いインクは蒸発速度においても相対的に小さくなる傾向にあることを知見した。これは、化学平衡における平衡からの差が反応速度に比例する状況と類似するからである。
【0011】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも着色剤、湿潤剤、及び樹脂を含有するインクを2種以上組み合わせてなるインクセットにおいて、
前記インクセットにおける各インクが異なる種類の湿潤剤を少なくとも1種含み、
前記各インクにおける湿潤剤総量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率、及び温度23℃で湿度50%RHでの平衡時残存水分量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率が、それぞれ5%以内であることを特徴とするインクセットである。
<2> 各インクにおける初期水分量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率、並びに着色剤及び樹脂を含む固形分量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率が、それぞれ5%以内である前記<1>に記載のインクセットである。
<3> 湿潤剤が、グリセリン、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、及び2−ピロリドンから選択される少なくとも1種である前記<1>から<2>のいずれかに記載のインクセットである。
<4> 各インクにおける固形分量が、それぞれ10質量%〜13質量%である前記<2>から<3>のいずれかに記載のインクセットである。
<5> 各インクにおける初期水分量が、それぞれ44質量%〜60質量%である前記<2>から<4>のいずれかに記載のインクセットである。
<6> インクセットにおける各インクが、マゼンタインク、シアンインク、イエローインク、及びブラックインクの少なくともいずれかである前記<1>から<5>のいずれかに記載のインクセットである。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のインクセットと、支持体の少なくとも一方の面にインク受容層を有する記録用メディアとからなるインクメディアセットであって、
前記記録用メディアが、動的走査吸液計で測定した接触時間100msにおける純水の該記録用メディアへの転移量が2ml/m〜35ml/mであり、かつ接触時間400msにおける純水の前記記録用メディアへの転移量が3ml/m〜40ml/mであることを特徴とするインクメディアセットである。
<8> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のインクセットの各インクに刺激を印加し、該インクを飛翔させて画像を記録するインク飛翔工程を少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録方法である。
<9> インクセットの各インクに対応する各インクヘッドを同一の覆蓋手段で覆蓋して保湿する前記<8>に記載のインクジェット記録方法である。
<10> インクセットの各インクに対応する各インクヘッドのクリーニングを同時に行う前記<8>から<9>のいずれかに記載のインクジェット記録方法である。
<11> 記録用メディア上に記録された画像を乾燥する乾燥工程を含む前記<8>から<10>のいずれかに記載のインクジェット記録方法である。
<12> インクセットの各インクに対応する各インクヘッドがライン状ヘッドである前記<8>から<11>のいずれかに記載のインクジェット記録方法である。
<13> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のインクセットの各インクに刺激を印加し、該インクを飛翔させて画像を記録するインク飛翔手段を少なくとも有することを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0012】
本発明のインクセットは、少なくとも着色剤、湿潤剤、及び樹脂を含有するインクを2種以上組み合わせてなり、
前記インクセットにおける各インクが異なる種類の湿潤剤を少なくとも1種含み、
前記各インクにおける湿潤剤総量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率、及び温度23℃で湿度50%RHでの平衡時残存水分量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率が、それぞれ5%以内である。その結果、以下の(1)〜(5)の作用効果を奏し、インクジェット記録において好適である。更には、前記着色剤及び前記樹脂を含む固形分量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率が、5%以内であれば、よりインク間の水分蒸発に関わる差が小さくなり、以下の(1)から(5)の作用効果を得るにはより好適である。
(1)同一の覆蓋手段(保湿キャップ)で異なる色の各インクのノズルを保湿した場合に、双方のインクの湿潤剤総量及び平衡時残存水分量を同じにしておくと、蒸発バランスがよいため、どちらかに水分が移動することなく、目詰まりを起こしにくい。
(2)比較的類似した構造の顔料であれば、水分蒸発が同じ程度であると、維持回復動作、即ちクリーニングさせるタイミングが同じになる。もし、平衡水分量が大きくことなると、残存可能水分量が少なく早めに乾燥凝固しやすい方のインクにクリーニングタイミングを合わせなければならなくなる。
特に、同一ヘッドに2色のインクノズルのある場合、クリーニングは2色とも同時に行わざるを得ないため、水分蒸発に関わる特性が類似していることがクリーニング効率の向上に有効となる。
(3)非常に水吸収能力の低い用紙(例えばオフセット用紙、アート紙)を用いると、印字後の乾燥に多くの時間がかかる。これが各インクで同程度であると、印字後の乾燥に要する時間に各インク間でバラツキがなくなる。そうすると、印刷速度設定に無駄がなくなる。
(4)水吸収能力の低い紙において強制的な加熱乾燥工程が必要とされる場合に、それぞれのインクで蒸発速度、量が類似していると、乾燥エネルギー、乾燥時間に無駄がなくなる。そうでないと、蒸発の遅い方に合わせなければならなくなる。
(5)ラインヘッドで印字する高速プリントであると、印字後の乾燥時間の短縮がより厳しく要求されること、長時間非吐出のノズルも存在すること、維持動作回数が制限されることから、上記条件はかなり厳しくなり、各インクの水分平衡特性にバラツキのないことが更に好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、インクセットにおける各インクの湿潤剤の種類及びその量、並びに固形分種類が異なっていても、各インクの湿潤剤量総量と、平衡時残存水分量とを同じに合わせることにより、更に固形分総量(必然的に初期水分量も)も合わせれば、全湿度において、水分に関る平衡がよく一致し、ノズル抜け、噴射曲がりを防止でき、信頼性が高く、目詰まりを起こしにくいインクセット、並びに該インクセットを用いたインクメディアセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(インクセット)
本発明のインクセットは、少なくとも着色剤、湿潤剤、及び樹脂を含有するインクを2種以上組み合わせてなる。
【0015】
本発明においては、前記インクセットにおける各インクが異なる種類の湿潤剤を少なくとも1種含む。即ち、各インクは異なる種類の湿潤剤を少なくとも1種含んでいる。
各インク間で湿潤剤の種類及びその量を変える必要がある場合としては、例えば(1)黒インクとカラーインクが紙面上で接触してその境界で滲みが発生するときに、各インクの湿潤剤の種類及びその量を変えて、境界で相溶しにくくする場合、(2)黒インクをカラーインク側に浸透させにくくする場合、(3)各インクに用いる顔料種により分散が良好な湿潤剤の種類が異なる場合、などが挙げられる。
【0016】
一方、湿潤剤の種類を変えた場合、湿潤剤間で平衡水分量が異なるために、平衡水分量の小さい湿潤剤を含むインクは、平衡水分量の大きな湿潤剤を含むインクとは、水分蒸発に関わる特性が異なっていた。今までは、インク毎に個別に画質、及び信頼性で評価していたために、両者の水分蒸発に関わる特性を、共通化することの利点には気がついていなかった。したがって比較的早めに乾燥するインクに合わせてクリーニング操作をしたり、紙面上で比較的遅めに乾燥するインクに合わせて記録(印字)スピードを決める傾向にあった。本発明者らの鋭意検討の結果、湿潤剤総量とその平衡水分量を各インクで合わせることによりそのような無駄を省き、より理想的なインクとなることを知見した。これは、各湿潤剤単独の平衡水分量データからインクの平衡水分量あるいは水分蒸発量が近似的に計算可能であり、実測と合っていることがわかったため可能となった。また、そのようにインクの平衡水分量をある湿度で合わせると他の湿度でも同じ処方条件で合ってくるという現象を知見した。
【0017】
前記各インクにおける湿潤剤総量の最大値(a)と最小値(b)との差の該最大値(a)に対する比率〔(a−b)/a×100%〕が5%以内であり、0%(同じ)であることが好ましい。前記比率が5%を超えると、インク中の液体部分の総量(湿潤剤とその平衡水分の分)を乾燥後も含めてインク間で合わせようという本発明の目的とするインク組み合わせから外れてしまうことがある。なお、差の比率は厳密に5%以内でなくてもよりそのインク間で差が少ないほど好ましい。
【0018】
前記湿潤剤は、常温(23℃)、常湿度(50%RH)で平衡水分量が1%以上の平衡水分を含むものを示す。厳密には、すべての成分の平衡水分量を計算にいれるべきであるが、実際上、その他の添加剤は、もともとインク中に少量しか含まれない。また、インク中に比較的多く含まれる顔料及び樹脂は殆ど水分を保持しないため計算から除いても影響はない。ただし、アクリル樹脂、アクリル−シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂等で吸湿性の低いものはよいがセルロース系などで吸湿性の高い樹脂の場合はその影響を考慮しなければならない。
【0019】
前記湿潤剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用して使用してもよい。
【0020】
前記多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオールなどが挙げられる。
前記多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、などが挙げられる。
前記多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、などが挙げられる。
前記含窒素複素環化合物としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタムなどが挙げられる。
前記アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
前記アミン類としては、例えば、モノエタノ−ルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
前記含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール、チオジグリコールなどが挙げられる。
これらの中でも、インクの噴射安定性の点から、グリセリン、2−ピロリドン、ジエチレングリコール、チオジエタノール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ペトリオール、1,5−ペンタンジオール、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオールが好ましく、これらの中でも、グリセリン、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−ピロリドンが特に好ましい。
また、固体系の湿潤剤、ソルビトール等の多糖類、あるいはセルロース樹脂系の保湿剤も溶解している限りは湿潤剤の1種として計算にいれる。なお、セルロース系樹脂等の増粘の激しいものは、もともとインク中には大量に添加できないのでその影響は小さい。
前記各インクにおける湿潤剤総量は、それぞれ、15質量%〜40質量%が好ましい。前記湿潤剤総量が、15質量%未満であると、インクの噴射安定性に劣ることがあり、40質量%を超えると、インク粘度が高すぎて同様に噴射安定性に劣ることがある。
【0021】
また、前記各インクにおける温度23℃で湿度50%RHでの平衡時残存水分量の最大値(a’)と最小値(b’)との差の該最大値(a’)に対する比率〔(a’−b’)/a’×100%〕が5%以内であり、0%(同じ)であることが好ましい。前記比率が5%を超えると、インク間の水分蒸発に関する特性をインク間で合わせようとする本発明の目的から外れてしまうことがある。なお、差の比率は厳密に5%以内でなくてもよりそのインク間で差が少ないほど好ましい。
前記インクの平衡時残存水分量とは、初期のインクの量が100質量部のときに、温度23℃、湿度50%RHの環境で平衡になるときの残存可能な水分量を意味する。ここで温度及び湿度を特定したのは5%という値を特定するためで、23℃、50%RHで平衡水分量が一致すれば、その他の湿度でも一致することが今回明らかとなっている。
【0022】
インクに含まれる湿潤剤iのインク中の質量比をMi(質量%)とし、湿度50%RHにおける湿潤剤単独の平衡水分量をEi(質量%)とすると、温度23℃、湿度50%RHにおけるインクの平衡時残存水分量(Wt(質量%))は、下記数式1で表される。
<数式1>
Wt=ΣMi×Ei/(100−Ei)
前記数式1中、iは湿潤剤種、Σは各湿潤剤の和を表す。
前記湿潤剤単独の平衡水分量Eiとは、温度23℃、湿度50%RHにおける湿潤剤単独の平衡水分量を意味する。
Eiとは、湿潤剤が単一の種類(i)の液体であって、水分を平衡量含んでいる場合においての、全質量に対する水分の%である。即ち、単独湿潤剤液中の、湿潤剤の量がS(質量%)であり、該湿潤剤の平衡時に含まれる水分量をW(質量%)とした場合、該湿潤剤の平衡水分量(Ei(質量%))は、下記数式2で表される。
<数式2>
Ei=W/(S+W)×100(%)
【0023】
ここで、前記平衡水分量は、以下のようにして求めることができる。まず、温度23℃、湿度50%RHに調節したデシケーター内に直径35mmのシャーレに0.5g〜1g(M)の湿潤剤を添加し、質量が一定になるまで放置する。デシケーター内は湿度計で常に湿度管理をする。湿度、温度に変動がなくなった時点で秤量し、上記数式2により平衡水分量(E(%))を求める。
なお、平衡水分量測定時の温度は23℃環境下であるが、平衡水分量の値は湿度の影響は大きいが温度による変動はわずかである。
湿度の調整は、飽和炭酸カリウム溶液(湿度が44〜45%RH)、飽和塩化ナトリウム溶液(湿度約76%RH)、飽和塩化カリウム溶液(湿度約87%RH)で行った。
低湿(21%RH)の調湿は、シリカゲルで乾燥しつつ、外部との湿度調整により安定したところで秤量した。正確な湿度値は湿度計をデシケーター内部に入れて測定した。なお、一部湿潤剤自身がわずかに蒸発するものもあるがその分は補正した。
温度環境は23℃であるが、平衡水分の値は、沸点、凝固点に近いような特殊な場合を除いて温度の影響はあまり大きくない。使用した湿潤剤は不純物としての水分の少ないものを使用した。
前記各インクにおける平衡時残存水分量は、特定の温度及び湿度に放置した場合の、初期のインク全質量に対しての水分蒸発後の残存可能水分量であるが、この値が大きいほど保湿性がよく信頼性が上がるが、あまり大きすぎると印字後の紙面上の乾燥が遅くなる(特に水が浸透しにくい紙の場合)。平衡時の残存水分量は温度23℃、湿度50%RHで2〜3%乃至10%が通常である。
【0024】
なお、固形分総量はインク間で極端に異なっていなければあえて合わせなくても湿潤剤総量と平衡時残存水分量が合っていれば水分蒸発後半の水分蒸発に関わることは一致してくる。ただ固形分量もインク間で合わせると、水分蒸発後の総固形分量が合ってくるため、平衡になった後に、湿潤剤量と水分量とが合う以外に固形分量も合ってくるため、顔料沈降などの信頼性の特性に関しても、より一層、特性が共通化したインクとなる。
前記各インクにおける前記着色剤及び前記樹脂を含む固形分量の最大値(a”)と最小値(b”)との差の該最大値(a”)に対する比率〔(a”−b”)/a”×100%〕が5%以内であり、0%(同じ)であることが好ましい。前記比率が5%を超えると、インク間の水分蒸発に関する特性をインク間で合わせようとする本発明の目的から外れてしまうことがある。なお、差の比率は厳密に5%以内でなくてもよりそのインク間で差が少ないほど好ましい。
前記固形分量として計算されるのは、主に着色剤及び樹脂である。即ち単独では常温で固体のものを示す。なお、平衡水分量が温度23℃、湿度50%RHで1%以上の固体湿潤剤は湿潤剤として計算する。
前記着色剤のうち、染料はインク中に溶解しているものの、水分蒸発により、固着の可能性があるという意味で染料系インクでも適用できるが、主に顔料が該当する。
前記樹脂としては水性樹脂エマルジョンを中心に検討した。顔料分散剤などの樹脂もある程度添加量が大きければ計算に入れなければならない。これら、水性分散性顔料及び水性樹脂エマルジョンはその水分保持能力は湿潤剤に比べて無視できるほど少ないことは確認できている。
前記固形分量(ここでは固形分としては着色剤の顔料及び樹脂としている)を各インクで同じにするのは水分の平衡に直接関係するというのでなく、水分が減少した場合の信頼性に直接関係するという意味で同じにしている。
前記各インクにおける固形分量は、それぞれ8質量%〜20質量%であることが好ましく、10質量%〜13質量%がより好ましい。前記固形分量が、8質量%未満であると、画像濃度が劣る傾向があり、20質量%を超えると、噴射信頼性が悪化することがある。
【0025】
更に、前記各インクにおける初期水分量の最大値(c)と最小値(d)との差の該最大値(c)に対する比率〔(c−d)/c×100%〕が、5%以内であることが好ましく、0%(同じ)であることがより好ましい。前記比率が5%を超えると、インク間の水分蒸発に関する特性をインク間で合わせようとする本発明の目的から外れることがある。なお、差の比率は厳密に5%以内でなくてもよりそのインク間で差が少ないほど好ましい。
ここで、各インクにおける初期水分量とは、顔料、樹脂の固形分、湿潤剤、及び少量の添加剤を除いたインク初期調合時の水分量を意味する。
前記各インクにおける初期水分量は、それぞれ44質量%〜60質量%であることが好ましく、49質量%〜54質量%がより好ましい。前記初期水分量が44質量%未満であると、相対的に固形分量又は湿潤剤総量が増加し、信頼性低下、或いは粘度増加により噴射安定性が悪化する。一方、前記初期水分量が60質量%を超えると、相対的に固形分量、又は湿潤剤総量が減少し、画像濃度や信頼性が低下することがある。
【0026】
水分平衡に直接関係するのは、各インクにおける湿潤剤量とその平衡水分量、及び初期の水分量であった。固形分量はその増減が初期の水分量の減増に間接的に関係するという意味で関係する。したがって各インクの固形分量は異なっていても、湿潤剤総量とその平衡水分量が同じにする場合も有効である。
各インク中の着色剤である顔料、樹脂、湿潤剤、水以外の添加剤、浸透剤、pH調整剤、防腐防カビ剤、消泡剤、表面張力低減用界面活性剤はその添加量が少ないので、平衡水分量の計算には加えていない。しかし、少なくとも、湿度50%RHで平衡水分量が1%以上で添加量が多いものは、湿潤剤と同様のものとして平衡水分の計算に入れた方が好ましい。
【0027】
前記インクセットにおける各インクは、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、及びブラックインクのいずれかが好ましく、これらの着色を2種以上併用したインクセットを使用して記録を行うと、多色画像を記録することができ、全色併用したインクセットを使用して記録を行うと、フルカラー画像を記録することができる。
前記インクセットにおける各インクは、少なくとも着色剤、湿潤剤、及び樹脂を含有してなり、浸透剤、界面活性剤、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0028】
−着色剤−
前記着色剤としては、顔料及び染料のいずれでも用いることができ、両者を混合して用いることもできる。
前記着色剤として顔料を用いると、耐光性に優れたインクを得ることができる。前記顔料としては、特に制限はなく、通常のインクジェット用の顔料が用いられ、次に挙げるものが好ましい。
(1)顔料表面に親水基を付与した顔料
(2)ポリマー微粒子に水不溶性乃至水難溶性の色材を含有させてなるポリマーエマルジョン型の顔料
(3)顔料を親水基を有する樹脂で被覆したマイクロカプセル型の顔料
【0029】
前記(1)の顔料では、顔料の表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合するように表面改質されたものである。該表面改質は、顔料の表面に、ある特定の官能基(スルホン基やカルボキシル基等の官能基)を化学的に結合させるか、あるいは、次亜ハロゲン酸又はその塩の少なくともいずれかを用いて湿式酸化処理するなどの方法が用いられる。これらの中でも、顔料の表面にカルボキシル基が結合され、水中に分散している形態が特に好ましい。このように顔料が表面改質され、カルボキシル基が結合しているため、分散安定性が向上するばかりではなく、高品位な印字品質が得られるとともに、印字後の記録媒体の耐水性がより向上する。
また、この形態のインクは乾燥後の再分散性に優れるため、長期間印字を休止し、インクジェットヘッドのノズル付近のインクの水分が蒸発した場合も目詰まりを起こさず、簡単なクリーニング動作で容易に良好な印字が行える。
前記自己分散型顔料の体積平均粒径は、インク中において0.01μm〜0.16μmが好ましい。
【0030】
例えば、自己分散型カーボンブラックとしては、イオン性を有するものが好ましく、アニオン性に帯電したものやカチオン性に帯電したものが好適である。
前記アニオン性親水基としては、例えば、−COOM、−SOM、−POHM、−PO、−SONH、−SONHCOR(ただし、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表す。Rは、炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基を表す)等が挙げられる。これらの中でも、−COOM、−SOMがカラー顔料表面に結合されたものを用いることが好ましい。
【0031】
また、前記親水基中における「M」は、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、等が挙げられる。前記有機アンモニウムとしては、例えば、モノ乃至トリメチルアンモニウム、モノ乃至トリエチルアンモニウム、モノ乃至トリメタノールアンモニウムが挙げられる。前記アニオン性に帯電したカラー顔料を得る方法としては、カラー顔料表面に−COONaを導入する方法として、例えば、カラー顔料を次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法、スルホン化による方法、ジアゾニウム塩を反応させる方法が挙げられる。
【0032】
前記カチオン性親水基としては、例えば、第4級アンモニウム基が好ましく、下記に挙げる第4級アンモニウム基がより好ましく、本発明においては、これらのいずれかがカーボンブラック表面に結合されたものが色材として好適である。
【0033】
【化1】

【0034】
前記親水基が結合されたカチオン性の自己分散型カーボンブラックを製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記構造式で表されるN−エチルピリジル基を結合させる方法として、カーボンブラックを3−アミノ−N−エチルピリジウムブロマイドで処理する方法が挙げられる。
【0035】
【化2】

【0036】
前記親水基は、他の原子団を介してカーボンブラックの表面に結合されていてもよい。他の原子団としては、例えば、炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基が挙げられる。上記した親水基が他の原子団を介してカーボンブラックの表面に結合する場合の具体例としては、例えば、−CCOOM(ただし、Mは、アルカリ金属、又は第4級アンモニウムを表す)、−PhSOM(ただし、Phはフェニル基を表す。Mは、アルカリ金属、又は第4級アンモニウムを表す)、−C10NH等が挙げられる。
【0037】
前記(2)の顔料では、色材を含有したポリマーエマルジョンとは、ポリマー微粒子中に顔料を封入したもの、及びポリマー微粒子の表面に顔料を吸着させたものの少なくともいずれかを意味する。例えば、特開2001−139849号公報に記載されたものなどが挙げられる。
この場合、全ての顔料がポリマー微粒子中に封入及び/又は吸着している必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲で該顔料がエマルジョン中に分散にしていてもよい。
前記「水不溶性又は水難溶性」とは、20℃で水100質量部に対し色材が10質量部以上溶解しないことを意味する。また、前記「溶解する」とは、目視で水溶液表層又は下層に色材の分離や沈降が認められないことを意味する。
前記ポリマーエマルジョンを形成するポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー、特開2000−53897号公報、特開2001−139849号公報に開示されているポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマーが特に好ましい。
前記色材を含有させたポリマー微粒子(着色微粒子)の体積平均粒径は、前記インク中において0.01μm〜0.16μmが好ましい。
前記(2)の顔料を用いると、耐光性、定着性に優れたインクを得ることができる。
【0038】
前記(3)の顔料は、親水性水不溶性の樹脂で顔料を被覆し、該顔料表面の樹脂層にて親水化することで顔料を水に分散するようにしたものであり、例えば、特開2002−67473号公報に記載されたものなどが挙げられる。
水不溶性の顔料を有機高分子類で被覆してマイクロカプセル化する方法としては、従来公知のすべての方法を用いることが可能である。
【0039】
前記着色剤の発色成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが好ましい。なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
【0040】
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。なお、前記アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、などが挙げられる。前記多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、などが挙げられる。前記染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート、などが挙げられる。
【0041】
前記顔料の色としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、黒色用のもの、カラー用のもの、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記黒色用のものとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料、などが挙げられる。
【0042】
前記カラー用のものとしては、黄色インク用では、例えばC.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、23、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、150、153、などが挙げられる。
マゼンタ用では、例えばC.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、92、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(ジメチルキナクリドン)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、などが挙げられる。
シアン用では、例えばC.I.ピグメントブルー1、2、15(銅フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63などが挙げられる。
また、中間色としてはレッド、グリーン、ブルー用として、C.I.ピグメントレッド177、194、224、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントバイオレット3,19,23,37、C.I.ピグメントグリーン7,36などが挙げられる。
【0043】
前記着色剤として染料を用いると、色調に優れたインクを得ることができる。前記染料としては、例えば、水溶性染料、油溶性染料、分散染料等が挙げられる。
前記水溶性染料としては、カラーインデックスにおいて酸性染料、直接性染料、塩基性染料、反応性染料、食用染料に分類される染料であり、好ましくは耐水、耐光性が優れたものが用いられる。
前記酸性染料及び食用染料としては、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142;C.I.アシッドレッド 1,8,13,14,18,26,27,35,37,42,52,82,87,89,92,97,106,111,114,115,134,186,249,254,289;C.I.アシッドブルー 9,29,45,92,249;C.I.アシッドブラック 1,2,7,24,26,94;C.I.フードイエロー 3,4;C.I.フードレッド 7,9,14;C.I.フードブラック 1,2などが挙げられる。
前記直接性染料としては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,26,33,44,50,86,120,132,142,144;C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,13,17,20,28,31,39,80,81,83,89,225,227;C.I.ダイレクトオレンジ 26,29,62,102;C.I.ダイレクトブルー 1,2,6,15,22,25,71,76,79,86,87,90,98,163,165,199,202;C.I.ダイレクトブラック 19,22,32,38,51,56,71,74,75,77,154,168,171などが挙げられる。
前記塩基性染料としては、例えば、C.I.べーシックイエロー 1,2,11,13,14,15,19,21,23,24,25,28,29,32,36,40,41,45,49,51,53,63,64,65,67,70,73,77,87,91;C.I.ベーシックレッド 2,12,13,14,15,18,22,23,24,27,29,35,36,38,39,46,49,51,52,54,59,68,69,70,73,78,82,102,104,109,112;C.I.べーシックブルー 1,3,5,7,9,21,22,26,35,41,45,47,54,62,65,66,67,69,75,77,78,89,92,93,105,117,120,122,124,129,137,141,147,155;C.I.ベーシックブラック 2,8などが挙げられる。
前記反応性染料としては、例えば、C.I.リアクティブブラック 3,4,7,11,12,17;C.I.リアクティブイエロー 1,5,11,13,14,20,21,22,25,40,47,51,55,65,67;C.I.リアクティブレッド 1,14,17,25,26,32,37,44,46,55,60,66,74,79,96,97;C.I.リアクティブブルー 1,2,7,14,15,23,32,35,38,41,63,80,95などが挙げられる。
【0044】
−樹脂−
前記樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、樹脂の添加量を多くできる点から樹脂微粒子が好ましい。
前記樹脂微粒子は、連続相としての水中に分散した樹脂エマルジョンとして存在しているものがインク製造時に使用される。樹脂エマルジョン中には必要に応じて界面活性剤のような分散剤を含有しても構わない。
前記分散相成分としての樹脂微粒子の含有量(樹脂エマルジョン溶液中の樹脂微粒子の含有量:製造後のインクセットにおける各インク中の含有量ではない)は、一般的には10質量%〜70質量%が好ましい。
また、前記樹脂微粒子の粒径は、特にインクジェット記録装置に使用することを考慮すると、体積平均粒径が10nm〜1,000nmが好ましく、100nm〜300nmがより好ましい。これは樹脂エマルジョン中での粒径であるが、安定なインクセットにおける各インクの場合、樹脂エマルジョン中の粒径とインクセットにおける各インク中の樹脂微粒子粒径には大きな違いはない。前記体積平均粒径が大きいほどエマルジョンの添加量を多くすることができる。前記体積平均粒径が、100nm未満であると、エマルジョンの添加量を多くすることができないことがあり、300nmを超えると、信頼性が低下することがある。ただし、必ずしもこれ以外の範囲の粒径のエマルジョンでも使用できないことはない。これらはエマルジョン種によらず一般的傾向である。
ここで、前記体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(マイクロトラック MODEL UPA9340、日機装株式会社製)を用いて測定することができる。ここでは、50%の値を体積平均粒径とした。
【0045】
前記分散相の樹脂微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、アクリル−シリコーン系樹脂などが挙げられる。
前記樹脂エマルジョンとしては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
該市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、マイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE−1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学株式会社製
)、プライマルAC−22、AC−61(アクリル系樹脂エマルジョン、ローム・アンド・ハース製)、ナノクリルSBCX−2821、3689(アクリル−シリコーン系樹脂エマルジョン、東洋インキ製造株式会社製)、#3070(メタクリル酸メチル重合体樹脂エマルジョン、御国色素株式会社製)などが挙げられる。これらの中でも、定着性が良好である点からアクリルシリコーンエマルジョンが特に好ましい。
【0046】
前記浸透剤としては、炭素数8〜11のポリオール化合物、又はグリコールエーテル化合物が用いられる。これらのポリオール化合物及びグリコールエーテル化合物の少なくともいずれかは、紙への浸透速度を速めると共にブリードを防止する効果を有し、25℃の水中において0.1質量%〜4.5質量%の溶解度を有する部分的に水溶性の化合物である。
【0047】
前記炭素数8〜11のポリオール化合物としては、例えば、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールなどが挙げられる。
【0048】
前記グリコールエーテル化合物としては、例えば、多価アルコールアルキルエーテル化合物、多価アルコールアリールエーテル化合物などが挙げられる。
前記多価アルコールアルキルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。
前記多価アルコールアリールエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテルなどが挙げられる。
【0049】
前記浸透剤の前記インクセットにおける各インクにおける含有量は、10質量%以下が好ましく、0.5質量%〜5質量%がより好ましい。
【0050】
−界面活性剤−
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、着色剤の種類や湿潤剤、浸透剤などの組合せによって、分散安定性を損なわない界面活性剤の中から目的に応じて適宜選択することができるが、特に、印刷用紙に印刷する場合には、表面張力が低く、レベリング性の高いものが好ましく、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤から選択される少なくとも1種が好適である。これらの中でも、フッ素系界面活性剤が特に好ましい。
【0051】
前記フッ素系界面活性剤としては、フッ素が置換した炭素数が2〜16が好ましく、4〜16がより好ましい。前記フッ素置換炭素数が2未満であると、フッ素の効果が得られないことがあり、16を超えると、インク保存性などの問題が生じることがある。
前記フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物、などが挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少なく、特に好ましい。
【0052】
前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルカルボン化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルリン酸エステルの塩、などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩、などが挙げられる。
これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)などが挙げられる。
【0053】
前記フッ素系界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
該市販品としては、例えば、サーフロンS−111、S−112、S−113、S−121、S−131、S−132、S−141、S−145(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC−135、FC−170C、FC−430、FC−431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF−470、F1405、F−474(いずれも、大日本インキ化学工業株式会社製);Zonyl TBS、FSP、FSA、FSN−100、FSN、FSO−100、FSO、FS−300、UR(いずれも、DuPont社製);FT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW(いずれも、株式会社ネオス製);PF−151N(オムノバ社製)などが挙げられ、これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する均染性が著しく向上する点から株式会社ネオス製のFT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW及びオムノバ社製のPF−151Nが特に好ましい。
前記フッ素系界面活性剤の具体例としては、下記構造式で表されるものが好適である。
【0054】
(1)アニオン性フッ素系界面活性剤
【化3】

ただし、前記構造式中、Rfは、下記構造式で表されるフッ素含有疎水基の混合物を表す。Aは、−SOX、−COOX、又は−POX(ただし、Xは対アニオンであり、具体的には、水素原子、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、又はNH(CHCHOH)が挙げられる)を表す。
【化4】

【0055】
【化5】

ただし、前記構造式中、Rf’は下記構造式で表されるフッ素含有基を表す。Xは、上記と同じ意味を表す。nは1又は2の整数、mは2−nを表す。
【化6】

ただし、前記構造式中、nは3〜10の整数を表す。
【0056】
【化7】

ただし、前記構造式中、Rf’及びXは、上記と同じ意味を表す。
【0057】
【化8】

ただし、前記構造式中、Rf’及びXは、上記と同じ意味を表す。
【0058】
(2)ノニオン性フッ素系界面活性剤
【化9】

ただし、前記構造式中、Rfは上記と同じ意味を表す。nは5〜20の整数を表す。
【0059】
【化10】

ただし、前記構造式中、Rf’は上記と同じ意味を表す。nは1〜40の整数を表す。
【0060】
(3)両性フッ素系界面活性剤
【化11】

ただし、前記構造式中、Rfは、上記と同じ意味を表す。
【0061】
(4)オリゴマー型フッ素系界面活性剤
【化12】

ただし、前記構造式中、Rf”は、下記構造式で表されるフッ素含有基を表す。nは0〜10の整数を表す。Xは、上記と同じ意味を表す。
【化13】

ただし、前記構造式中、nは1〜4の整数を表す。
【0062】
【化14】

ただし、前記構造式中、Rf”は、上記と同じ意味を表す。lは0〜10の整数、mは0〜10の整数、nは0〜10の整数をそれぞれ表す。
【0063】
前記シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
このような界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
該市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越シリコーン株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社などから容易に入手できる。
【0064】
前記ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記構造式で表されるポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物、などが挙げられる。
【化15】

ただし、前記構造式中、m、n、a、及びbは整数を表す。R及びR’は、それぞれアルキル基、アルキレン基を表す。
【0065】
前記ポリエーテル変性シリコーン化合物としては、市販品を用いることができ、例えば、KF−618、KF−642、KF643(いずれも、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0066】
また、前記フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤以外にも、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを用いることができる。
【0067】
前記アニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、琥珀酸エステルスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
【0068】
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
前記アセチレングリコール系の界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。該アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品として、例えば、エアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485、TGなどが挙げられる。
【0069】
前記両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、ポリオキシエチレンヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド、ジメチルアルキル(ヤシ)ベタイン、ジメチルラウリルベタイン等が挙げられる。
このような界面活性剤としては、市販品として日光ケミカルズ株式会社、日本エマルジョン株式会社、日本触媒株式会社、東邦化学株式会社、花王株式会社、アデカ株式会社、ライオン株式会社、青木油脂株式会社、三洋化成工業株式会社などから容易に入手できる。
前記界面活性剤は、これらに限定されるものではなく、単独で用いても、複数のものを混合して用いてもよい。単独ではインクセットにおける各インク中で容易に溶解しない場合も、混合することで可溶化され、安定に存在することができる。
【0070】
これら界面活性剤の中でも、下記構造式(1)〜(5)で示されるものが好適である。
−O−(CHCHO)−R ・・・構造式(1)
ただし、前記構造式(1)中、Rは、炭素数6〜14の分岐していてもよいアルキル基、又は炭素数6〜14の分岐していてもよいパーフルオロアルキル基を表す。Rは、水素原子、又は分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。hは、5〜20の整数を表す。
【0071】
−COO−(CHCHO)−R ・・・構造式(2)
ただし、前記構造式(2)中、Rは、炭素数6〜14の分岐していてもよいアルキル基を表す。Rは、水素原子、又は分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。hは、5〜20の整数を表す。
【0072】
【化16】

ただし、前記構造式(3)中、Rは、炭化水素基を表し、例えば、分岐していてもよい炭素数6〜14のアルキル基などが挙げられる。kは5〜20の整数を表す。
【0073】
【化17】

ただし、前記構造式(4)中、Rは、炭化水素基を表し、例えば、分岐していてもよい炭素数6〜14のアルキル基を表す。Lは5〜10、pは5〜20の整数を表す。プロピレングリコール鎖、及びエチレングリコール鎖は、ブロック重合又はランダム重合していてもよい。
【0074】
【化18】

ただし、前記構造式(5)中、q及びrは、それぞれ5〜20の整数を表す。
【0075】
前記界面活性剤の前記インクセットにおける各インク中における含有量は、0.01質量%〜3.0質量%が好ましく、0.5質量%〜2質量%がより好ましい。前記含有量が、0.01質量%未満であると、界面活性剤を添加した効果が無くなることがあり、3.0質量%を超えると、記録用メディアへの浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
【0076】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤、比抵抗調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤、粘度調整剤、などが挙げられる。
【0077】
前記消泡剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点でシリコーン系消泡剤が好ましい。
【0078】
前記シリコーン系消泡剤としては、例えば、オイル型シリコーン消泡剤、コンパウンド型シリコーン消泡剤、自己乳化型シリコーン消泡剤、エマルジョン型シリコーン消泡剤、変性シリコーン消泡剤、などが挙げられる。該変性シリコーン系消泡剤としては、例えば、アミノ変性シリコーン消泡剤、カルビノール変性シリコーン消泡剤、メタクリル変性シリコーン消泡剤、ポリエーテル変性シリコーン消泡剤、アルキル変性シリコーン消泡剤、高級脂肪酸エステル変性シリコーン消泡剤、アルキレンオキサイド変性シリコーン消泡剤、などが挙げられる。これらの中でも、水系媒体である前記インクセットにおける各インクへの使用を考慮すると、前記自己乳化型シリコーン消泡剤、前記エマルジョン型シリコーン消泡剤などが好ましい。
【0079】
前記消泡剤としては、市販品を使用してもよく、該市販品としては、信越化学工業株式会社製のシリコーン消泡剤(KS508、KS531、KM72、KM85等)、東レ・ダウ・コーニング株式会社製のシリコーン消泡剤(Q2−3183A、SH5510等)、日本ユニカー株式会社製のシリコーン消泡剤(SAG30等)、旭電化工業株式会社製の消泡剤(アデカネートシリーズ等)、などが挙げられる。
【0080】
前記消泡剤の前記インクセットにおける各インクにおける含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.001質量%〜3質量%が好ましく、0.05質量%〜0.5質量%がより好ましい。
【0081】
前記防腐防黴剤としては、例えば、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、などが挙げられる。
前記比抵抗調整剤としては、無機塩類、例えば、アルカリ金属ハロゲン化物又はハロゲン化アンモニウム(例えば、塩化リチウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム)等を含有させることにより、インクセットにおける各インクを帯電するタイプのインクジェット記録方法に使用される記録液を調製することができる。
【0082】
前記pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼすことなくpHを7以上に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて任意の物質を使用することができ、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物;水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、などが挙げられる。
【0083】
前記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト、などが挙げられる。
【0084】
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、りん系酸化防止剤、などが挙げられる。
前記フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)としては、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトライキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3',5'−ジ−tert−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、などが挙げられる。
前記アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−β−ナフチルアミン、α−ナフチルアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチル−フェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ジヒドロキフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタンなどが挙げられる。
前記硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリルβ,β’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾール、ジラウリルサルファイドなどが挙げられる。
前記リン系酸化防止剤としては、例えばトリフェニルフォスファイト、オクタデシルフォスファイト、トリイソデシルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、トリノニルフェニルフォスファイト、などが挙げられる。
【0085】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤などが挙げられる。
前記ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、などが挙げられる。
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−4'−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、などが挙げられる。
前記サリチレート系紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリチレート、p−tert−ブチルフェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレート、などが挙げられる。
前記シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート、ブチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート、などが挙げられる。
前記ニッケル錯塩系紫外線吸収剤としては、例えば、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、2,2’−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)−n−ブチルアミンニッケル(II)、2,2’−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)−2−エチルヘキシルアミンニッケル(II)、2,2’−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)トリエタノールアミンニッケル(II)、などが挙げられる。
【0086】
本発明のインクセットにおける各インクは、着色剤及び樹脂を含有し25℃で固体である固体成分、水よりも沸点が高く25℃で液体である液体成分、及び水、更に必要に応じてその他の成分を水性媒体中に分散又は溶解し、更に必要に応じて攪拌混合して製造する。なお、一般に、着色剤、樹脂は、予め水中に溶解乃至分散しているものを使用する。前記分散は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシャイカー、超音波分散機等により行うことができ、攪拌混合は通常の攪拌羽を用いた攪拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機等で行うことができる。
【0087】
本発明のインクセットにおける各インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
【0088】
前記インクセットにおける各インクの粘度は、25℃で、1.0mPa・s〜20mPa・sが好ましく、3.0mPa・s〜15mPa・sがより好ましい。前記粘度が20mPa・sを超えると、吐出安定性の確保が困難になることがある。ただし、ヘッド構造によっては必ずしも使用できないわけではない。
前記インクセットにおける各インクの表面張力としては、25℃で、20mN/m〜50mN/mが好ましく、25mN/m〜45mN/mがより好ましい。前記表面張力が、50mN/mを超えると、記録用メディア上のインクのレベリングが起こりにくく、乾燥時間の長時間化を招くことがある。
前記インクセットにおける各インクのpHとしては、例えば、7〜11が好ましい。
【0089】
本発明のインクセットにおける各インクは、インクジェットヘッドとして、インク流路内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子を用いてインク流路の壁面を形成する振動板を変形させてインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの(特開平2−51734号公報参照)、あるいは、発熱抵抗体を用いてインク流路内でインクを加熱して気泡を発生させるいわゆるサーマル型のもの(特開昭61−59911号公報参照)、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで,インク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させる静電型のもの(特開平6−71882号公報参照)などいずれのインクジェットヘッドを搭載するプリンタにも良好に使用できる。
【0090】
本発明のインクセットにおける各インクは、各種分野において好適に使用することができ、インクジェット記録方式による画像記録装置(プリンタ等)において好適に使用することができ、例えば、印字又は印字前後に被記録用紙及び前記インクセットにおける各インクを50〜200℃で加熱し、印字定着を促進する機能を有するもののプリンタ等に使用することもでき、以下の本発明のインクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法に特に好適に使用することができる。
【0091】
<インクカートリッジ>
本発明で用いるインクカートリッジは、本発明の前記インクセットにおける各インクを容器中に収容してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の部材などを有してなる。
前記容器としては、特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で
形成されたインク袋などを少なくとも有するもの、などが好適に挙げられる。
【0092】
次に、インクカートリッジについて、図1及び図2を参照して説明する。ここで、図1は、前記インクカートリッジの一例を示す図であり、図2は図1のインクカートリッジのケース(外装)も含めた図である。
インクカートリッジは、図1に示すように、インク注入口42からインク袋41内に充填され、排気した後、該インク注入口42は融着により閉じられる。使用時には、ゴム部材からなるインク排出口43に装置本体の針を刺して装置に供給される。
インク袋41は、透気性のないアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。このインク袋41は、図2に示すように、通常、プラスチックス製のカートリッジケース44内に収容され、各種インクジェット記録装置に着脱可能に装着して用いられるようになっている。
【0093】
(インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法)
本発明のインクジェット記録装置は、インク飛翔手段を少なくとも有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の手段、例えば、刺激発生手段、制御手段、などを有してなる。
本発明のインクジェット記録方法は、インク飛翔工程を少なくとも含んでなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の工程、例えば、刺激発生工程、制御工程、などを含んでなる。
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクジェット記録装置により好適に実施することができ、前記インク飛翔工程は前記インク飛翔手段により好適に行うことができる。また、前記その他の工程は、前記その他の手段により好適に行うことができる。
【0094】
−インク飛翔工程及びインク飛翔手段−
前記インク飛翔工程は、前記本発明のインクセットにおける各インクに、刺激を印加し、該インクセットにおける各インクを飛翔させて画像を形成する工程である。
前記インク飛翔手段は、前記本発明のインクセットにおける各インクに、刺激を印加し、該インクセットにおける各インクを飛翔させて画像を形成する手段である。該インク飛翔手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、各種の記録ヘッド(インク吐出ヘッド)が挙げられ、特に複数のノズル列を有するヘッドと、液体保管用タンクから供給される液体を収容して前記ヘッドに液体を供給するサブタンクとを有するものが好ましい。
前記サブタンクは、該サブタンク内に負圧を発生するための負圧発生手段と、該サブタンク内を大気開放するための大気開放手段と、電気抵抗の差によりインクの有無を検知する検知手段とを有するものが好ましい。
【0095】
前記刺激は、例えば、前記刺激発生手段により発生させることができ、該刺激としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、熱(温度)、圧力、振動、光、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、熱、圧力が好適に挙げられる。
【0096】
なお、前記刺激発生手段としては、例えば、加熱装置、加圧装置、圧電素子、振動発生装置、超音波発振器、ライト、などが挙げられる。具体的には、圧電素子等の圧電アクチュエータ、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータ、などが挙げられる。
【0097】
前記インクセットにおける各インクの飛翔の態様としては、特に制限はなく、前記刺激の種類等応じて異なり、例えば、前記刺激が「熱」の場合、記録ヘッド内の前記インクセットにおける各インクに対し、記録信号に対応した熱エネルギーを例えばサーマルヘッド等を用いて付与し、該熱エネルギーにより前記インクセットにおける各インクに気泡を発生させ、該気泡の圧力により、該記録ヘッドのノズル孔から該インクセットにおける各インクを液滴として吐出噴射させる方法、などが挙げられる。また、前記刺激が「圧力」の場合、例えば記録ヘッド内のインク流路内にある圧力室と呼ばれる位置に接着された圧電素子に電圧を印加することにより、圧電素子が撓み、圧力室の容積が縮小して、前記記録ヘッドのノズル孔から該インクセットにおける各インクを液滴として吐出噴射させる方法、などが挙げられる。
ピエゾ素子に電圧を印加してインクセットにおける各インクを飛翔させる方法が好ましい。ピエゾ方式は発熱しないため、樹脂を含有するインクを飛翔させるのに有利であり、特に湿潤剤の含有量の少ないインクを用いた場合にノズル詰まりが少ない有効な方法である。
また、ノズル抜けを防止するため、ピエゾ素子にインクを吐き出さない強さの電圧を印加して空スキャンを行うことが好ましい。更に、1ページ印刷分の空スキャンに達する前に、インク溜め部にインクを吐き出す動作を行うことが好ましい。
【0098】
また、空吐出受けに固着したインクを掻き落とす掻き落とし手段を有することが好ましい。該掻き落とし手段としては、ワイパー及びカッターのいずれかが好ましい。
各インクヘッドには、できれば個別に覆蓋手段(保湿キャップ)を設けたほうが好ましいが、スペース確保、維持装置の共有化のため、2色のヘッドを同一の覆蓋手段で覆蓋して保湿する場合もある。
2色のヘッドを同一の覆蓋手段で覆蓋して保湿する場合は、インクセットの各インクに対応する各インクヘッドのクリーニングを同時に行うことができ、クリーニング回数を減らすことができる。ただし、双方のインクの水蒸発特性の違いが大きい場合、クリーニングが効率的に行えないので、本特許のように厳密に水分蒸発特性を合わせるのが有効となる。
また、副走査をなくして高速印刷をするためにインクセットの各インクに対応する各インクヘッドをライン状にする場合もある。
【0099】
本発明のインクジェット記録方法において、水吸収能力の低い紙に印写する場合は、乾燥速度を上げるため、前記記録用メディア上に記録された画像を乾燥する乾燥工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては記録前に乾燥工程を設ける方法でも、記録後に設ける方法のどちらでもよい。
前記乾燥手段としては、マイクロ波エネルギーを使用して記録用メディアにマイクロ波エネルギーを与えるようなもの、ヒーティングワイヤー方式のもののような非接触式のものでもよい。また接触式のもの(例えば加熱ローラ)を別に設けてもよい。ローラ自身を直接加熱するもの、あるいは他の熱源からローラを間接的に加熱するものでもよい。
【0100】
なお、前記制御手段としては、前記各手段の動きを制御することができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シークエンサー、コンピュータ等の機器が挙げられる。
【0101】
ここで、本発明のインクジェット記録装置により本発明のインクジェット記録方法を実施する一の態様について、図面を参照しながら説明する。図3は、本発明のインクジェット記録装置の一例を示す概略図である。この図3に示すインクジェット記録装置は、装置本体1と、該装置本体1に装着した用紙を装填するための給紙トレイ2と、装置本体1に装着され画像が記録(形成)された用紙をストックするための排紙トレイ3と、インクカートリッジ装填部6とを有する。インクカートリッジ装填部6の上面には、操作キーや表示器などの操作部7が配置されている。インクカートリッジ装填部6は、インクカートリッジ10の脱着を行うための開閉可能な前カバー8を有している。
【0102】
装置本体1内には、図4及び図5に示すように、図示を省略している左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド11とステー12とでキャリッジ13を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モータ(不図示)によって図5で矢示方向に移動走査する。
【0103】
キャリッジ13には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインクセットにおける各インク滴を吐出する4個のインクジェット記録用ヘッドからなる記録ヘッド14を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
記録ヘッド14を構成するインクジェット記録用ヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどをインクセットにおける各インクを吐出するためのエネルギー発生手段として備えたものなどを使用できる。
また、キャリッジ13には、記録ヘッド14に各色のインクを供給するための各色のサブタンク15を搭載している。サブタンク15には、図示しないインクセットにおける各インク供給チューブを介して、インクカートリッジ装填部6に装填された本発明のインクカートリッジ10から本発明の前記インクセットにおける各インクが供給されて補充される。
【0104】
一方、給紙トレイ2の用紙積載部(圧板)21上に積載した用紙22を給紙するための給紙部として、用紙積載部21から用紙22を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ23)、及び該給紙コロ23に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド24を備え、この分離パッド24は給紙コロ23側に付勢されている。
【0105】
この給紙部から給紙された用紙22を記録ヘッド14の下方側で搬送するための搬送部として、用紙22を静電吸着して搬送するための搬送ベルト31と、給紙部からガイド25を介して送られる用紙22を搬送ベルト31との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ32と、略鉛直上方に送られる用紙22を略90°方向転換させて搬送ベルト31上に倣わせるための搬送ガイド33と、押さえ部材34で搬送ベルト31側に付勢された先端加圧コロ35とが備えられ、また、搬送ベルト31表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ36が備えられている。
【0106】
搬送ベルト31は、無端状ベルトであり、搬送ローラ37とテンションローラ38との間に張架されて、ベルト搬送方向に周回可能である。搬送ベルト31の裏側には、記録ヘッド14による印写領域に対応してガイド部材77が配置されている。なお、記録ヘッド14で記録された用紙22を排紙するための排紙部として、搬送ベルト31から用紙22を分離するための分離爪51と、排紙ローラ52及び排紙コロ53とが備えられており、排紙ローラ52の下方に排紙トレイ3が配置されている。
【0107】
装置本体1の背面部には、両面給紙ユニット61が着脱可能に装着されている。両面給紙ユニット61は、搬送ベルト31の逆方向回転で戻される用紙22を取り込んで反転させて再度カウンタローラ32と搬送ベルト31との間に給紙する。なお、両面給紙ユニット61の上面には手差し給紙部62が設けられている。
【0108】
このインクジェット記録装置においては、給紙部から用紙22が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙22は、ガイド25で案内され、搬送ベルト31とカウンタローラ32との間に挟まれて搬送される。更に先端を搬送ガイド33で案内されて先端加圧コロ35で搬送ベルト31に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0109】
このとき、帯電ローラ36によって搬送ベルト37が帯電されており、用紙22は、搬送ベルト31に静電吸着されて搬送される。そこで、キャリッジ13を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド14を駆動することにより、停止している用紙22にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙22を所定量搬送後、次行の記録を行う。記録終了信号又は用紙22の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙22を排紙トレイ3に排紙する。
そして、サブタンク15内のインクセットにおける各インクの残量が少なくなってきたことが検知されると、インクカートリッジ10から所要量のインクセットにおける各インクがサブタンク15に補給される。
【0110】
なお、ここでは、キャリッジが走査するシリアル型(シャトル型)インクジェット記録装置に適用した例で説明したが、ライン型ヘッドを備えたライン型インクジェット記録装置にも同様に適用することができる。
【0111】
ここで、記録ヘッド14(複数のヘッドを総称する意味で用いる)は、例えば、図6に示すように、イエロー(Y)のインク滴を吐出する多数のノズルNからなるノズル列14yn及びマゼンタ(M)のインク滴を吐出する多数のノズルNからなるノズル列14mnを有する液滴吐出ヘッド14aと、シアン(C)のインク滴を吐出する多数のノズルNからなるノズル列14cn及びブラック(Bk)のインク滴を吐出する多数のノズルNからなるノズル列14knとを有するヘッド14bとで構成している。
なお、この場合は一つの記録ヘッドに2個の別のサブタンクより2色を供給し、4個のサブタンク2ヘッドでYMC及び黒の4色印写する場合の図であるが、2列のノズル列を有するヘッドを4個設けそれぞれに1個ずつの別色のサブタンクを用意し2列のノズル列を有する4個のヘッド、4個のサブタンクでYMC及び黒の4色を印写するようにしてもよい。
【0112】
この図6の例は、インクジェットプリンタ(株式会社リコー製、IPSiO G505)を示し、同じヘッドに異なる色のインクを吐出するノズルが並んで設けられている。
また、インクジェットプリンタ(株式会社リコー製、IPSiO G707)では、図示を省略しているが、同じ構造のヘッドを4個設け、それぞれにイエロー、マゼンタ、シアン、及び黒のインクを供している。
【0113】
記録ヘッド14を構成するインクジェットヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどをインクを吐出するためのエネルギー発生手段として備えたものなどを使用できる。なお、後述する実施例では、圧電アクチュエータ(圧電素子)をエネルギー発生手段に用いたヘッドを搭載している。
【0114】
また、キャリッジ13には、記録ヘッド14の各ノズル列14yn、14mn、14cn、14knにそれぞれ各色のインクを供給するための各色の液体容器であるサブタンク15(各色を区別する場合には、ノズル列に対応して15y、15m、15c、15kの符号を用いる。)を搭載している。このサブタンク15にはインク供給チューブ16を介して前述した各色のメインタンク(インクカートリッジ)10(各色を区別する場合には、ノズル列に対応して10y、10m、10c、10kの符号を用いる)からインクが補充供給される。ここで、メインタンク10は、それぞれ各色に対応してイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインクを収容しているが、ブラックインクを収容するメインタンク10kは、他のカラーインクを収容するメインタンク10y、10m、10cよりもインクの収容容量を大きくしている。
【0115】
次に、この記録装置における液体供給装置であるインク供給装置の詳細について図7〜図9を参照して説明する。なお、図7は同インク供給装置に係わる部分の分解斜視説明図、図8はその詳細図、図9は同サブタンクの模式的側面説明図である。
このインク供給装置は、前述したようにキャリッジ13に搭載されて各記録ヘッド14(14a、14b)にインクを供給する液体容器であるサブタンク15と、このサブタンク15に供給チューブ16を介してインクを供給補充するためのメインタンク(インクカートリッジ)10とによって構成される。
1つのサブタンク15は、インクを収容するインク収容部100を形成する容器本体(ケース本体)101に、インク収容部100の開口(サブタンク15の一面)を封止する可撓性を有するフィルム状部材(可撓性フィルム状部材)102を接着又は溶着などで貼り付け、更にインク収容部100内部にはケース本体101とフィルム状部材102との間にフィルム状部材102を外方に付勢するための弾性部材であるバネ(スプリング)103を設けている。
【0116】
ここで、前記フィルム状部材102は単層構成でもよいが、図10Aに示すように、種類の異なる第1層102aと第2層102bとをラミネートした二層構成、例えば、ポリエチレンとナイロンのフィルム状部材をラミネートした構成としたり、また、図10Bに示すように、第1層102aにシリカ蒸着層102cを形成した構成とすることができる。このような構成とすることにより、インクに対する耐液性を確実に確保することができる。また、フィルム状部材102にシリカ蒸着層を含むことでも収容するインクに対する耐液性の向上を図れる。
また、フィルム状部材102の厚みは10μm〜100μmが好ましい。前記厚みが、10μm未満であると、経時的劣化による破損などが生じ易くなることがあり、100μmを超えると、可撓性が低下して負圧の効率的な発生が困難になることがある。
更に、フィルム状部材102にはバネ103に対応して凸部形状となる膨らみ部102aを形成してその外面に補強部材104を貼り付けている。このように、可撓性フィルム状部材102に凸部を設けることで弾性部材(ここではバネ)103を安定して保持することができる。この場合、可撓性フィルム状部材102は、シート状のフィルム部材を凸形状に成形して作製することで、容易に凸部を形成することができる。
【0117】
また、ケース101にはインク収容部100にインクを補充するためのインク導入路部111を設け、このインク導入路部111とインクカートリッジ10に接続された供給チューブ16とを接続するための連結手段112を着脱自在に装着できるようにしている。なお、インクカートリッジ10とサブタンク15との間にはインクカートリッジ10からサブタンク15にインクを圧送するために後述するような送液ポンプを設けている。
【0118】
更に、ケース101の下部にはインク収容部100から記録ヘッド14にインクを供給するための連結部材113を取り付け、この連結部材113には記録ヘッド14のインク供給路114を形成し、インク収容部100との間にはフィルタ115を介装している。
【0119】
そして、ケース101の上部分にはインク収容部100から空気を出すための空気流路121を形成している。この空気流路121は、インク収容部100に開口が臨む入口流路部分122と、この入口流路部分122に続く流路部分(これを「直交流路部分」という。)123と、を含み、下流側でケース101に設けた大気開放穴131に連通し、更に大気開放穴131よりも使用状態で下側になる部分に蓄積部126を連続して形成している。
【0120】
この大気開放穴131にはサブタンク15内の密閉状態及び大気開放状態を切り替えるための大気開放手段である大気開放弁機構132を設けている。この大気開放弁機構132はホルダ133内に弁座134、弁体であるボール135及びこのボール135を弁座134側に付勢するスプリング136を収納して構成している。
【0121】
なお、蓄積部126の作用について説明すると、装置本体が傾けられたり、揺らされたりしたときには、空気流路121内にインクが侵入する可能性が高くなる。そこで、空気流路121から侵入したインクを蓄積部126に蓄積できるようにして、輸送時に落下等されインクが侵入しても、大気開放口131及びこれを開閉する大気開放弁機構132内にインクが侵入して固まるなどして大気開放弁機構132が作動不良になることを防止している。
【0122】
また、ケース101の上部にはサブタンク15内のインク量が所定量以下になったこと(この状態を「インク無し」とする)を検知するための2本の検知電極141、142を装着している。検知電極141、142がいずれもインクに浸されている状態と少なくとも一方がインクに浸されていない状態とで検知電極141、142間の導通状態が変化することによって「インク無し」を検知することができる。
【0123】
本発明のインクジェット記録装置は、図11及び図12に示すように、キャリッジ13の走査方向の一方側(又は両側でもよい)の非印字領域には、記録ヘッド14のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構(以下、「サブシステム」と称することもある)71を配置している。図11は、維持回復機構の上方向から見た図であり、図12は維持ユニットの概略説明図である。このサブシステム71には、記録ヘッド14a、14bの各ノズル面をキャピングするためのキャップ部材72A、72Bと、ノズル面をワイピングするためのワイパーブレード73と、を備えている。このキャップ部材72Aとワイパーブレード73との間にインクを空吐出する際の空吐出受けが設けられている。この空吐出受けは、ここにインクが吐き出され下部の廃液タンクまで流れるように構成されており、この部分(吐き出された部分)にインクが固着し易いので、固着したインクを自動的に掻き落すワイパーが設けられている。
【0124】
次に、本発明のインクジェット記録装置に係る維持回復機構71について説明する。
図11及び図12に示すように、まず、モータ231が正転すると、モータギヤ232、ポンプギヤ234、中間ギヤ235、中間ギヤ236、中間ギヤ237までが回転し、チューブポンプ220が作動してポンプとチューブ219で連結された一番右(記録領域側)のキャップ内を吸引する。その他のギヤは、一方向クラッチ237が不連結となり作動しない。
モータ231が逆転すると、一方向クラッチ237が連結され、モータ〜カム軸までが回転する。チューブポンプ220は逆転するが、ポンプとしては作動しない構造となっている。
カム軸221には、キャリッジロックカム227とキャップカム222B及び222Aとワイパーカム224及びワイパークリーナカム228及びホームポジションセンサ用カム241が一体的に回転するように取付けられている。
キャリッジロック215は圧縮ばね(不図示)により上方(ロック方向)に付勢されている。キャリッジロックカム227のカム面と接触したキャリッジロックアーム217によりキャリッジロック215は上下させられる。
キャップ72A及び72B、キャップホルダ212Aは、キャップカム222A及び222Bにより上下させられる。
ワイパー73は、ワイパーカム228により上下させられる。
ワイパークリーナ218は、バネによりワイパー73から離れる方向に付勢されていて、ワイパークリーナカム218によりワイパー方向に動作する。ワイパー73はワイパークリーナ218と空吐出受けに挟まれながら下降することにより、ワイパー73のインクが空吐出内へ掻き落とされる。
維持ユニット本体にはセンサ(ホトインタラプタ/不図示)が固定されており、ホームポジションカムにてキャップが最下端にきた時にHPレバー(不図示)を動作させセンサが開状態になってモータ(ポンプ以外の)ホームポジションを検知する(それ以外は、HPレバーは動作せずにセンサは常時閉)構成となっている。
電源ON時には、キャップ72A及び72B、キャップホルダ212A及び212Bの位置に関係なく上下し(移動開始までは位置検出を行わない)、キャップのホーム位置(上昇途中)を検知した後に、定められた量を移動して最下端へ移動する。その後、キャリッジが左右に移動して位置検知後キャップ位置に戻り、キャッピングされる。
【0125】
モータ逆転時の動作順序は、キャップ上昇(キャリッジロックもほぼ同時)、キャップ下降(キャリッジロックもほぼ同時)、ホームポジションセンサ開、ワイパー上昇、ワイパークリーナ動作開始(ワイパーを空吐出受けに押し付ける)、ワイパー下降(ワイパーをワイパークリーナでしごく)、ワイパークリーナ戻りへ戻る一連の動作を繰り返す。
【0126】
本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法は、インクジェット記録方式による各種記録に適用することができ、例えば、インクジェット記録用プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、などに特に好適に適用することができる。
【0127】
(インクメディアセット)
本発明のインクメディアセットは、本発明の前記インクセットと、記録用メディアとからなり、更に必要に応じてその他の構成を有してなる。
【0128】
<記録用メディア>
前記記録用メディアは、支持体と、該支持体の少なくとも一方の面にインク受容層を有してなり、更に必要に応じてその他の層を有してなる。
【0129】
前記記録用メディアとしては通常の水を吸収し易い、所謂上質紙、あるいはPPC用紙(所謂普通紙)のほかに、水吸収層を塗布したインクジェット専用紙でもよい。しかし、水を吸収しにくく、一般には水性インクジェットには向かないといわれる以下のような記録用メディアに印字する場合には、特に、乾燥時間を短くする要請が強いが、この場合、各インクで本発明のように水蒸発に関わる特性を合わせると乾燥時間を各インクで共通化するのに有効である。
このような記録用メディアとしては、動的走査吸液計で測定した接触時間100msにおける純水の前記記録用メディアへの転移量は、2ml/m〜35ml/mであり、2ml/m〜10ml/mがある。
前記接触時間100msでの前記インク及び純水の転移量が少なすぎると、ビーディングが発生しやすくなることがあり、多すぎると、記録後のインクドット径が所望の径よりも小さくなりすぎることがある。
動的走査吸液計で測定した接触時間400msにおける純水の前記インクの前記記録用メディアへの転移量は、3ml/m〜40ml/mであり、3ml/m〜10ml/mが好ましい。
前記接触時間400msでの転移量が少なすぎると、乾燥性が不十分であるため、拍車痕が発生しやすくなることがあり、多すぎると、乾燥後の画像部の光沢が低くなりやすくなることがある。
【0130】
ここで、前記動的走査吸収液計(dynamic scanning absorptometer;DSA,紙パ技協誌、第48巻、1994年5月、第88〜92頁、空閑重則)は、極めて短時間における吸液量を正確に測定できる装置である。前記動的走査吸液計は、吸液の速度をキャピラリー中のメニスカスの移動から直読する、試料を円盤状とし、この上で吸液ヘッドをらせん状に走査する、予め設定したパターンに従って走査速度を自動的に変化させ、1枚の試料で必要な点の数だけ測定を行う、という方法によって測定を自動化したものである。紙試料への液体供給ヘッドはテフロン(登録商標)管を介してキャピラリーに接続され、キャピラリー中のメニスカスの位置は光学センサで自動的に読み取られる。具体的には、動的走査吸液計(K350シリーズD型、協和精工株式会社製)を用いて、純水又はインクの転移量を測定した。接触時間100ms及び接触時間400msにおける転移量は、それぞれの接触時間の近隣の接触時間における転移量の測定値から補間により求めることができる。
【0131】
−支持体−
前記支持体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、木材繊維主体の紙、木材繊維及び合成繊維を主体とした不織布のようなシート状物質などが挙げられる。
【0132】
前記紙としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、木材パルプ、古紙パルプなどが用いられる。前記木材パルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、NBSP、LBSP、GP、TMPなどが挙げられる。
【0133】
前記古紙パルプの原料としては、財団法人古紙再生促進センターの古紙標準品質規格表に示されている、上白、罫白、クリーム白、カード、特白、中白、模造、色白、ケント、白アート、特上切、別上切、新聞、雑誌などが挙げられる。具体的には、情報関連用紙である非塗工コンピュータ用紙、感熱紙、感圧紙等のプリンタ用紙;PPC用紙等のOA古紙;アート紙、コート紙、微塗工紙、マット紙等の塗工紙;上質紙、色上質、ノート、便箋、包装紙、ファンシーペーパー、中質紙、新聞用紙、更紙、スーパー掛け紙、模造紙、純白ロール紙、ミルクカートン等の非塗工紙、などの紙や板紙の古紙で、化学パルプ紙、高歩留りパルプ含有紙などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0134】
前記古紙パルプは、一般的に、以下の4工程の組み合わせから製造される。
(1)離解は、古紙をパルパーにて機械力と薬品で処理して繊維状にほぐし、印刷インキを繊維より剥離する。
(2)除塵は、古紙に含まれる異物(プラスチックなど)及びゴミをスクリーン、クリーナー等により除去する。
(3)脱墨は、繊維より界面活性剤を用いて剥離された印刷インキをフローテーション法、又は洗浄法で系外に除去する。
(4)漂白は、酸化作用や還元作用を用いて、繊維の白色度を高める。
前記古紙パルプを混合する場合、全パルプ中の古紙パルプの混合比率は、記録後のカール対策から40%以下が好ましい。
【0135】
前記支持体に使用される内添填料としては、例えば、白色顔料として従来公知の顔料が用いられる。前記白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等のような白色無機顔料;スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等のような有機顔料、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0136】
前記支持体を抄造する際に使用される内添サイズ剤としては、例えば、中性抄紙に用いられる中性ロジン系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)、アルキルケテンダイマー(AKD)、石油樹脂系サイズ剤などが挙げられる。これらの中でも、中性ロジンサイズ剤又はアルケニル無水コハク酸が特に好適である。前記アルキルケテンダイマーは、そのサイズ効果が高いことから添加量は少なくて済むが、記録用メディア表面の摩擦係数が下がり滑りやすくなるため、インクジェット記録時の搬送性の点からは好ましくない場合がある。
【0137】
−インク受容層−
前記インク受容層は、顔料及びバインダー(結着剤)を含有してなり、更に必要に応じて、界面活性剤、その他の成分を含有してなる。
【0138】
前記顔料としては、無機顔料、又は無機顔料と有機顔料を併用したものを用いることができる。
前記無機顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、非晶質シリカ、チタンホワイト、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クロライトなどが挙げられる。これらの中でも、カオリンは光沢発現性に優れており、オフセット印刷用の用紙に近い風合いとすることができる点から特に好ましい。
前記カオリンには、デラミネーテッドカオリン、焼成カオリン、表面改質等によるエンジニアードカオリン等があるが、光沢発現性を考慮すると、粒子径が2μm以下の割合が80質量%以上の粒子径分布を有するカオリンが、カオリン全体の50質量%以上を占めていることが好ましい。
前記カオリンの添加量は、前記バインダー100質量部に対し50質量部以上が好ましい。前記添加量が50質量部未満であると、光沢度において十分な効果が得られないことがある。前記添加量の上限は特に制限はないが、カオリンの流動性、特に高せん断力下での増粘性を考慮すると、塗工適性の点から、90質量部以下がより好ましい。
【0139】
前記有機顔料としては、例えば、スチレン−アクリル共重合体粒子、スチレン−ブタジエン共重合体粒子、ポリスチレン粒子、ポリエチレン粒子等の水溶性ディスパージョンがある。これら有機顔料は2種以上が混合されてもよい。
前記有機顔料の添加量は、前記インク受容層の全顔料100質量部に対し2質量部〜20質量部が好ましい。前記有機顔料は、光沢発現性に優れていることと、その比重が無機顔料と比べて小さいことから、嵩高く、高光沢で、表面被覆性の良好なインク受容層を得ることができる。前記添加量が2質量部未満であると、前記効果がなく、20質量部を超えると、塗工液の流動性が悪化し、塗工操業性の低下に繋がることと、コスト面からも経済的ではない。
前記有機顔料には、その形態において、密実型、中空型、ドーナツ型等があるが、光沢発現性、表面被覆性及び塗工液の流動性のバランスを鑑み、平均粒子径は0.2μm〜3.0μmが好ましく、より好ましくは空隙率40%以上の中空型が採用される。
【0140】
前記バインダーとしては、水性樹脂を使用するのが好ましい。
前記水性樹脂としては、水溶性樹脂及び水分散性樹脂の少なくともいずれかを好適に用いられる。前記水溶性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコールの変性物;ポリウレタン;ポリビニルピロリドン及びポリビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体、ビニルピロリドンとジメチルアミノエチル・メタクリル酸の共重合体、四級化したビニルピロリドンとジメチルアミノエチル・メタクリル酸の共重合体、ビニルピロリドンとメタクリルアミドプロピル塩化トリメチルアンモニウムの共重合体等のポリビニルピロリドンの変性物;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等セルロース;カチオン化ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースの変性物;ポリエステル、ポリアクリル酸(エステル)、メラミン樹脂、又はこれらの変性物、ポリエステルとポリウレタンの共重合体等の合成樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、自家変性澱粉、カチオン化澱粉、又は各種変性澱粉、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ソーダ、アルギン酸ソーダ、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、インク吸収性の観点から、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエステルとポリウレタンの共重合体、などが特に好ましい。
【0141】
前記水分散性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル系重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリビニルエーテル、シリコーン−アクリル系共重合体、などが挙げられる。また、メチロール化メラミン、メチロール化尿素、メチロール化ヒドロキシプロピレン尿素、イソシアネート等の架橋剤を含有してよいし、N−メチロールアクリルアミドなどの単位を含む共重合体で自己架橋性を持つものでもよい。これら水性樹脂の複数を同時に用いることも可能である。
前記水性樹脂の添加量は、前記顔料100質量部に対し、2質量部〜100質量部が好ましく、3質量部〜50質量部がより好ましい。前記水性樹脂の添加量は、記録用メディアの吸液特性が所望の範囲に入るように決定される。
【0142】
前記着色剤として水分散性の着色剤を使用する場合には、カチオン性有機化合物は必ずしも配合する必要はないが、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択使用することができる。例えば、水溶性インク中の直接染料や酸性染料中のスルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基等と反応して不溶な塩を形成する1級〜3級アミン、4級アンモニウム塩のモノマー、オリゴマー、ポリマーなどが挙げられ、これらの中でも、オリゴマー又はポリマーが好ましい。
【0143】
前記カチオン性有機化合物としては、例えば、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン縮合物、ポリ(メタクリル酸トリメチルアミノエチル・メチル硫酸塩)、ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合物、ポリ(ジアリルアミン塩酸塩・二酸化イオウ)、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリ(アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩)、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合物、ポリビニルアミン共重合物、ジシアンジアミド、ジシアンジアミド・塩化アンモニウム・尿素・ホルムアルデヒド縮合物、ポリアルキレンポリアミン・ジシアンジアミドアンモニウム塩縮合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ポリジアリルメチルアミン塩酸塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・二酸化イオウ)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・ジアリルアミン塩酸塩誘導体)、アクリルアミド・ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合物、アクリル酸塩・アクリルアミド・ジアリルアミン塩酸塩共重合物、ポリエチレンイミン、アクリルアミンポリマー等のエチレンイミン誘導体、ポリエチレンイミンアルキレンオキサイド変性物、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ポリアリルアミン塩酸塩等の低分子量のカチオン性有機化合物と他の比較的高分子量のカチオン性有機化合物、例えば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)等とを組み合わせて使用するのが好ましい。併用により、単独使用の場合よりも画像濃度を向上させ、フェザリングが更に低減される。
【0144】
前記カチオン性有機化合物のコロイド滴定法(ポリビニル硫酸カリウム、トルイジンブルー使用)によるカチオン当量は3meq/g〜8meq/gが好ましい。前記カチオン当量がこの範囲であれば上記乾燥付着量の範囲で良好な結果が得られる。
ここで、前記コロイド滴定法によるカチオン当量の測定に当たっては、カチオン性有機化合物を固形分0.1質量%となるように蒸留水で希釈し、pH調整は行わないものとする。
【0145】
前記カチオン性有機化合物の乾燥付着量は0.3g/m〜2.0g/mが好ましい。前記カチオン性有機化合物の乾燥付着量が0.3g/mより低いと、充分な画像濃度向上やフェザリング低減の効果が得られないことがある。
【0146】
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アニオン活性剤、カチオン活性剤、両性活性剤、非イオン活性剤のいずれも使用することができる。これらの中でも、非イオン活性剤が特に好ましい。前記界面活性剤を添加することにより、画像の耐水性が向上するとともに、画像濃度が高くなり、ブリーディングが改善される。
【0147】
前記非イオン活性剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級脂肪族アミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド、などが挙られる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記多価アルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリット、ソルビトール、ショ糖などが挙げられる。また、エチレンオキサイド付加物については、水溶性を維持できる範囲で、エチレンオキサイドの一部をプロピレンオキサイドあるいはブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドに置換したものも有効である。置換率は50%以下が好ましい。前記非イオン活性剤のHLB(親水性/親油性比)は4〜15が好ましく、7〜13がより好ましい。
【0148】
前記界面活性剤の添加量は、前記カチオン性有機化合物100質量部に対し、0質量部〜10質量部が好ましく、0.1質量部〜1.0質量部がより好ましい。
【0149】
前記インク受容層には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、更に必要に応じて、その他の成分を添加することができる。該その他の成分としては、アルミナ粉末、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤等の添加剤が挙げられる。
【0150】
前記インク受容層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記支持体上にインク受容層液を含浸又は塗布する方法により行うことができる。前記インク受容層液の含浸又は塗布方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コンベンショナルサイズプレス、ゲートロールサイズプレス、フィルムトランスファーサイズプレス、ブレードコーター、ロッドコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーターなど各種塗工機で塗工することも可能であるが、コストの点から、抄紙機に設置されているコンベンショナルサイズプレス、ゲートロールサイズプレス、フィルムトランスファーサイズプレスなどで含浸又は付着させ、オンマシンで仕上げてもよい。
前記インク受容層液の付着量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、固形分で、0.5g/m〜20g/mが好ましく、1g/m〜15g/mがより好ましい。
前記含浸又は塗布の後、必要に応じて乾燥させてもよく、この場合の乾燥の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100℃〜250℃程度が好ましい。
【0151】
前記記録用メディアの坪量は、50g/m〜250g/mが好ましく、50g/m〜200g/mがより好ましい。前記坪量が50g/m未満であると、コシがないために搬送経路の途中で記録用メディアが詰まってしまうなどの搬送不良が生じやすい。一方、前記坪量が250g/mを超えると、コシが大きくなりすぎるため搬送経路の途中にある曲線部で記録用メディアが曲がりきれず、やはり記録用メディアが詰まってしまうなどの搬送不良が生じやすい。
【0152】
前記記録用メディアは、更に支持体の裏面にバック層、支持体とインク受容層との間、また、支持体とバック層間にその他の層を形成してもよく、インク受容層上に保護層を設けることもできる。これらの各層は単層であっても複数層であってもよい。
【0153】
水吸収能力の低い前記記録用メディアは、吸液特性が上記本発明の範囲であれば、インクジェット記録用メディアの他、市販のオフセット印刷用コート紙、グラビア印刷用コート紙などであってもよい。
【0154】
<インク記録物>
本発明で用いられるインク記録物は、記録用メディア上に本発明の前記インクセットにおける各インクを用いて形成された画像を有してなる。
前記記録用メディアとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、普通紙、印刷用塗工紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、普通紙及び印刷用塗工紙の少なくともいずれかが好ましい。
前記普通紙は安価である点で有利である。また、前記印刷用塗工紙は光沢紙に比べ比較的安価でしかも平滑な光沢ある画像を与える点で有利である。
【実施例】
【0155】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0156】
(製造例1)
<マゼンタポリマー微粒子の水分散体の作製>
−ポリマー溶液Aの調製−
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g、及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。
次に、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、濃度が50質量%のポリマー溶液Aを800g調製した。
【0157】
−マゼンタポリマー微粒子の水分散体の作製−
次に、得られたポリマー溶液Aを28g、C.I.ピグメントレッド122を42g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及びイオン交換水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレータ用いてメチルエチルケトン及び水を留去して、顔料15質量%含有、固形分20質量%の製造例1のマゼンタポリマー微粒子の水分散体を作製した。
【0158】
(製造例2)
−銅フタロシアニン顔料含有ポリマー微粒子分散体の調製−
製造例1において、C.I.ピグメントレッド122を銅フタロシアニン顔料に変更し、更に顔料12質量%、固形分20質量%とした以外は、製造例1と同様にして、シアンポリマー微粒子の水分散体を調製した。
【0159】
(製造例3)
−モノアゾ黄色顔料含有ポリマー微粒子分散体の調製−
製造例1において、C.I.ピグメントレッド122を顔料ピグメントイエロー74に変更し、更に顔料12質量%、固形分20質量%とした以外は、製造例1と同様にして、黄色のポリマー微粒子の水分散体を調製した。
【0160】
(製造例4)
−ポリマー微粒子分散体B(アクリル−シリコーン系エマルジョン)の調製−
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、ラテムルS−180を8.0g、イオン交換水350gを加え混合し、65℃に昇温した。昇温後、反応開始剤であるt−ブチルパーオキソベンゾエート3.0g、イソアスコルビン酸ナトリウム1.0gを加え、5分間後にメタクリル酸メチル45g、メタクリル酸2エチルヘキシル160g、アクリル酸5g、メタクリル酸ブチル45g、メタクリル酸シクロヘキシル30g、ビニルトリエトキシシラン15g、ラテムルS−180を8.0g、及びイオン交換水340gを混合し、3時間かけて滴下を行った。その後、80℃で2時間加熱熟成を行った後、常温まで冷却し水酸化ナトリウムでpHを7〜8に調整した。エバポレータ用いてエタノールを留去し、水分調節をして、固形分40質量%のポリマー分散体B溶液730gを作製した。
得られた樹脂微粒子の粒径は130nmであった(23℃測定)。なお、粒径の測定にはマイクロトラック社製の粒度分布測定器UPA150を使用し、希釈倍率500倍で測定した。
【0161】
(製造例5)
−表面処理黒顔料分散液の調製−
CTAB比表面積が150m/g、DBP吸油量100ml/100gのカーボンブラック90gを、2.5Nの硫酸ナトリウム溶液3,000mlに添加し、温度60℃、速度300rpmで攪拌し、10時間反応させて酸化処理を行った。この反応液を濾過し、濾別したカーボンブラックを水酸化ナトリウム溶液で中和し、限外濾過を行った。得られたカーボンブラックを水洗いし乾燥させて、固形分20質量%となるよう純水中に分散させて、製造例5のブラック顔料分散液を作製した。
【0162】
(製造例6)
<黒インク1の作製>
まず、下記インク組成の湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、及び水を混合し、1時間攪拌を行い均一に混合した。この混合液に対して水分散性樹脂を添加し、1時間撹拌して、顔料分散体、pH調整剤、及び消泡剤を添加し、1時間攪拌した。この分散液を平均孔径0.8μmのセルロースアセテートメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子及びごみを除去して、黒インク1を作製した。
【0163】
−黒インク1の組成−
・製造例5の黒顔料分散体(固形分20質量%)・・・40質量%
・製造例4のポリマー微粒子分散体B・・・13.75質量%
・3−メチル1,3−ブタンジオール・・・17質量%
・グリセリン・・・8.5質量%
・2−ピロリドン・・・2質量%
・浸透剤(2−エチルヘキサンジオール)・・・2質量%
・アミン系pH調整剤1・・・0.6質量%
・アミン系pH調整剤2・・・0.05質量%
・界面活性剤(ゾニールFS−300、DuPont社製)・・・2.5質量%
・安定剤(ベンゾトリアゾール)・・・0.05質量%
・防腐防カビ剤・・・0.2質量%
・消泡剤・・・0.1質量%
・水・・・残量
【0164】
<平衡時残存水分量の計算値と実測値の比較>
前記黒インク1の組成のうち、湿潤剤として平衡水分量を計算したのは、グリセリン、3−メチル1,3−ブタンジオール、及び2−ピロリドンである。湿潤剤総量は27.5質量%、固形分量は樹脂と顔料を合わせて13.5質量%、初期水分量は55質量%であった。
ここで、湿潤剤としてグリセリン(GLY)、1,3−ブタンジオール(13BD)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(MBD)、2−ピロリドン(2−Py)の平衡水分量(Ei)の湿度変化を図13に示す。図13中には原点を通るようにして導いた近似式を描いている。
各湿潤剤の量(Mi(%))と、図13の平衡水分量Ei(%)との下記近似式1を使用して、環境湿度での平衡時残存水分量Wtを計算した(i=1,2,3;湿潤剤3種)。
<近似式1>
Wt=ΣMi×Ei/(100−Ei)
ただし、前記近似式1中、iは湿潤剤種、Σは各湿潤剤の和を表す。
【0165】
一方、黒インク1をシャーレに0.5g採取し、デシケーター中に放置し、湿度が安定したところで、秤量し、実測の平衡水分量を求めた。
図14は、最終的な平衡時残存水分量(%)を初期水分量(%)から引いた水分蒸発量(%)の計算値と、実測で求めた平衡時までの水分蒸発量とを示しているが、両者は非常によく一致しており、水分蒸発量がそれぞれの湿潤剤の平衡水分量から、上記近似式1で算出可能であることが分かった。
【0166】
(製造例7)
<シアンインク1の作製>
まず、下記インク組成の湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、及び水を混合し、1時間攪拌を行い均一に混合した。この混合液に対して水分散性樹脂を添加し、1時間撹拌して、顔料分散体、pH調整剤、及び消泡剤を添加し、1時間攪拌した。この分散液を平均孔径0.8μmのセルロースアセテートメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して、シアンインク1を作製した。
−シアンインク1の組成−
・製造例2のシアン分散体((固形分20質量%)・・・42質量%
・製造例4のポリマー微粒子分散体B・・・8.3質量%
・1,3−ブタンジオール・・・24.4質量%
・グリセリン・・・8.1質量%
・浸透剤(2−エチルヘキサンジオール)・・・2質量%
・アミン系pH調整剤1・・・0.6質量%
・界面活性剤(ゾニールFS−300、DuPont社製)・・・2.5質量%
・防腐防カビ剤・・・0.05質量%
・消泡剤・・・0.1質量%
・水・・・残量
【0167】
前記シアンインク1の組成のうち、湿潤剤として平衡水分量を計算したのは、グリセリン、1,3−ブタンジオールである。湿潤剤総量は32.5質量%、固形分量は樹脂と顔料を合わせて11.7質量%、初期水分量は52質量%であった。
このシアンインク1の各湿度における平衡水分量を湿度と平衡水分量の関係式を使用して計算した。これを初期水分量から引いたものが、インクの平衡までの水分蒸発量であり、図15に示すように、黒インク1と同様にして計算値と実測値と比較したところ、よく一致していた。
【0168】
次に、黒インク1とシアンインク1の各湿度における平衡時残存水分量(%)の計算値の対比を図16に示す。
図16の結果から、黒インク1はシアンインク1に比べて平衡時残存水分量が小さく、蒸発量が大きいことが分かった。
【0169】
(比較例1)
−インクセット1の作製−
インクセット1として、シアンインク1と黒インク1との組み合わせを用い、ノズルが同じインクヘッドに存在しており、インクヘッドを同一の覆蓋手段(保湿キャップ)で覆蓋して保湿するインクジェットプリンタ(株式会社リコー製、G707、G505、の実験用改良機)を用いて、以下のようにして、諸特性を評価した。
【0170】
<各インクの噴射乱れの確認>
温度35℃、湿度20%RHで放置した後、平衡状態に達した黒インク1及びシアンインク1を用いて、インクジェットプリンタ(株式会社リコー製、G707 G505、の実験用改良機)にて印字評価した。その結果、黒インク1のみ画像にスジが生じ、黒インク1の噴射乱れが発生したことが分かった。
【0171】
<各インクの乾燥時間の確認>
水を吸収しにくい印刷用紙(王子製紙株式会社製、PODグロスコート100g/m紙)を用い、黒インク1及びシアンインク1をインクジェットプリンタ(株式会社リコー製、G707 G505、の実験用改良機)にて印写した。
なお、印刷用紙(王子製紙株式会社製、PODグロスコート100g/m紙)の動的走査吸液計で測定した接触時間100msにおける純水の記録用メディアへの転移量は3.1ml/mであり、かつ接触時間400msにおける純水の記録用メディアへの転移量は3.5ml/mであった。
インク付着量が10mg/mのときの印写画像に、濾紙5A(アドバンテック株式会社製)を押し付けた際に、インクの付着がなくなるまでの乾燥時間は、黒インク1が30秒間であるのに対し、シアンインク1が40秒間であり、乾燥時間に差が認められた。
【0172】
<乾燥後の粘度測定>
粘弾性測定装置(Anton Paar社製、Physica MCR301)を用いて、マイクロピペットで0.9cc採取した黒インク1及びシアンインク1について、粘弾性測定を行った。測定環境は、40℃の乾燥台上に粘弾性測定装置を設置して、温度29℃、湿度24%RHで、初期及び5分間水分蒸発後に測定した。結果を図17に示す。
その結果、初期の粘度は同じだが、5分間水分蒸発乾燥させた後に粘度のせん断速度を比べると、回転直後の黒インク1はシアンインク1に比べてかなり増粘していた。
これは、黒インク1はシアンインク1に比べて湿潤剤総量が少なく、また、平衡時残存水分量の計算推定値も少ないため、結果として水分蒸発も速く、平衡時残存水分量が小さく、平衡時の固形分濃度が多くなったためであると思われる。
このように、シアンインク1は蒸発しにくいため、黒インク1に比べて増粘し難く噴射信頼性面ではよいが、印字後の乾燥不良による裏写りは逆にシアンインク1の方が多いことになる。
この比較例1のインクセットのようにインク毎に湿潤剤総量と平衡時残存水分量に違いがあるのは、噴射信頼性、乾燥性のインク間のバラツキを増大させるため装置設計上好ましくない。
また、湿潤剤総量及び平衡時残存水分量を黒インク1、シアンインク1で一致させる(後述する湿潤剤のGLY比率を50%とした黒インク1の改良インク)と、図17に示すように、水分蒸発後の粘度において両者の傾向はより近いものとなる。なお、初期はいずれのインクとも差がない。
【0173】
(実験)
次に、黒インク1の平衡水分量をシアンインク1の平衡水分量に合わせるために、黒インク1の湿潤剤総量をシアンインク1の湿潤剤総量と同じ32.5質量%にして、各湿潤剤比率を変化させた。具体的には、2−Pyの量は変化させずに、GLYとMBDの比率を変化させて、平衡時残存水分量の計算を行った。結果を図18〜図24に示す。
計算結果からGLY比率が50%で黒インク1とシアンインク1の平衡時残存水分量(初期インク量100質量部あたりの残存可能水分量)が一致する。しかも、どの湿度でも同じGLY比率で一致する。
<数式4>
GLY比率(%)≒GLY(質量)×100/((GLY(質量)+MBD(質量))
GLY比率を変化させた場合の、平衡時残存水分量の計算値を示す。
【0174】
図18〜図24において、黒インク1と記載があるが、それぞれ、黒インク1の湿潤剤総量を32.5質量%にして、GLY比率を変えたものである。
シアンインク1と黒インク1で湿潤剤種が異なるにも関らず黒インク1の湿潤剤のGLY比率を50%とすることによりどの湿度でも平衡時の残存水分量が一致した。このようにどの湿度でも同じGLY比率で一致するのは、各湿潤剤の平衡水分量と湿度の関係が化合物により全く無関係な式にあるのでなく、ある相関関係を有していることによると思われる。このことは、平衡水分量と湿度の関係を示す図13の結果から分かった。それぞれの湿潤剤の湿度と平衡水分量の関係の対象性が高く、もしどれかの湿潤剤が上に凸の関係であったら、両者のインクの平衡時残存水分量が一致するGLY比率は湿度により異なるはずである。50%という数字は、このインクの組み合わせの場合、たまたま50%になっただけで、湿潤剤種が異なれば別の比率になる。
このように湿潤剤種が異なったインクにおいても湿潤剤総量と平衡時残存水分量を一致させることにより水分蒸発に関わる特性が近くなりインク使用上で様々な利点がある。
ここでは、GLY比率を50%としてシアンインクの湿潤剤総量、平衡時残存水分量を合わせた黒インク1をここでは黒インク1の改良インクと呼ぶ(図21のものに対応)。
このようにGLY比率を50%として平衡水分量を合わせても、平衡時固形分(%)(EM(%))は両者のインクで異なっている。また、平衡時までに蒸発する水分量は異なっている。
これは両者のインクの初期水分量が異なるためである。このように、初期水分量及び固形分量が異なったインクでも平衡時残存水分量を両者で合わせることは、極めて有効である。
【0175】
(実施例1)
−インクセット2の作製−
インクセット2として、シアンインク1と、黒インク1の改良インク(図21のGLY比率を50%)との組み合わせを用い、ノズルが同じインクヘッドに存在しており、インクヘッドを同一の覆蓋手段(保湿キャップ)で覆蓋して保湿するインクジェットプリンタ(株式会社リコー製、G707、G505、の改良機)を用いて、比較例1と同様にして、諸特性を評価した。
【0176】
<各インクの噴射乱れの確認>
いずれもインクも噴射乱れは発生しなかった。また、シアンインク1と黒インク1の改良インクとの蒸発が同じ程度であり、固形分量も同じであるためか、ノズルを放置した場合の劣化の程度の違いも、変更前に比べて改良した。
【0177】
<各インクの乾燥時間の確認>
水を吸収しにくい印刷用紙として王子製紙株式会社製、PODグロスコート100g/m紙にインクジェッツトプリンター(株式会社リコー製、G707、G505、の実験用改良機)にて印写した場合の、シアンインク1と黒インク1の改良インクとの乾燥時間の差もなくなった。
【0178】
<乾燥後の粘度測定>
40℃乾燥台(湿度20%RH)で同じ時間それぞれのインクを乾燥させた場合の粘度のせん断速度による変化を測定したところ、シアンインク1と黒インク1の改良インクとで粘度の増加の違いはなかった。
【0179】
実施例1のインクセット2のように、水分平衡に関る特性を共通化することにより、各インクの信頼性、画像の乾燥性などのインク色による差が小さくなり、共通の覆蓋手段(保湿キャップ)使用の場合に、どちらかの水分蒸発を増加させることがなくなる。更に、保湿キャップが共通でない場合にも、クリーニングタイミングの共通化、印字後の乾燥時間、ひいては印刷速度の最適化が可能となる。
【0180】
なお、実施例1の黒インク1の改良インク、及びシアンインク1の組み合わせの他に、シアンインク1の処方に合わせて、マゼンタインク、及びイエローインクについても同様に湿潤剤総量、平衡時残存水分量を合わせることにより4色のインクいずれの組み合わせにも同じ効果が得られた。
【0181】
(実施例2)
<インクセット3の作製>
−黒インク2の作製−
下記インク組成の湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、及び水を混合し、1時間攪拌を行い均一に混合した。この混合液に対して水分散性樹脂を添加し、1時間撹拌して、顔料分散体、pH調整剤、及び消泡剤を添加し、1時間攪拌した。この分散液を平均孔径0.8μmのセルロースアセテートメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子及びごみを除去して、黒インク2を作製した。
この黒インク2は、前記シアンインク1と、湿潤剤総量、平衡時残存水分量の他に固形分量、及び初期水分量も一致している。
−黒インク2の組成−
・製造例5の黒顔料分散体(固形分20質量%)・・・42質量%
・製造例4のポリマー微粒子分散体・・・8.3質量%
・3−メチル−1,3−ブタンジオール・・・15.26質量%
・グリセリン・・・15.26質量%
・2−ピロリドン・・・2質量%
・浸透剤(2−エチルヘキサンジオール)・・・2質量%
・アミン系pH調整剤1・・・0.6質量%
・アミン系pH調整剤2・・・0.05質量%
・界面活性剤(ゾニールFS−300、DuPont社製)・・・2.5質量%
・安定剤(ベンゾトリアゾール)・・・0.05質量%
・防腐防カビ剤・・・0.2質量%
・消泡剤・・・0.1質量%
・水・・・残量
【0182】
この場合、シアンインク1と黒インク2とは、湿潤剤総量、固形分量を合わせてあり、湿潤剤と固形分量以外の添加物の量差がわずかであるため、初期水分量が殆ど同じ(違い2%以下)になる。その結果、平衡までの水分蒸発量及び平衡時固形分(%)(EM(%))も含めて水分平衡にかかわることがすべて殆ど完全に一致した。勿論、湿潤剤種類とその量、及び固形分種類は双方のインクで異なっている。このように全湿度で一致したのは、各湿潤剤の平衡水分量と湿度とが比例関係を持っているためと思われる。
【0183】
このように、複数の湿潤剤を含む黒インク2及びシアンインク1からなるインクセット3において、それぞれのインクの湿潤剤種及び量が異なっていても、それぞれのインクの湿潤剤総量と、それぞれの湿潤剤の平衡時残存水分量を同じにし、かつそれぞれのインクの固形分量を同じにすると、平衡までの水分蒸発量、平衡時残存水分量、最終固形分比率が同じになる(図25参照)。
このような湿潤剤総量と平衡時残存水分量の他に顔料と樹脂の固形分総量と初期水分量を一致させた黒インク2とシアンインク1との組み合わせでは実施例1の湿潤剤総量と平衡時残存水分量のみを合わせた場合以上に、水分蒸発に関わる特性が両者のインクで近くなるために、クリーニング工程タイミング及び乾燥工程タイミングを各ヘッドで共通化が可能となり、信頼性が向上し、印刷速度アップにつながることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明のインクセットは、インクセットにおける各インクの湿潤剤の種類及びその量、並びに固形分種類が異なっていても、各インクの湿潤剤量総量と、平衡時残存水分量と、を合わせること、好ましくは固形分総量も同じに合わせることにより、全湿度において、水分に関る平衡がほぼ完全に一致し、ノズル抜け、噴射曲がりを防止でき、信頼性が高く、目詰まりを起こしにくいので、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置などに好適に用いられる。
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録方式による各種記録に適用することができ、例えば、インクジェットプリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、などに特に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】図1は、本発明で用いられるインクカートリッジの一例を示す図である。
【図2】図2は、図1のインクカートリッジのケース(外装)も含めた図である。
【図3】図3は、本発明のインクジェット記録装置の一例を示す概略説明図である。
【図4】図4は、図3のインクジェット記録装置の内部構造の一例を示す概略説明図である。
【図5】図5は、本発明のインクジェットヘッドの一例を示す概略拡大図である。
【図6】図6は、本発明のインクジェットヘッドのノズル列を示す概略図である。
【図7】図7は、本発明のインクジェット記録装置における液体供給装置の分解斜視説明図である。
【図8】図8は、図7の拡大分解斜視図である。
【図9】図9は、サブタンクの模式的側面説明図である。
【図10A】図10Aは、図9のA−A線での概略断面図である。
【図10B】図10Bは、図9のA−A線での概略断面図である。
【図11】図11は、本発明のインクジェットプリンタの維持ユニットの上方向から見た図である。
【図12】図12は、本発明のインクジェットプリンタの維持ユニットの一例を示す概略説明図である。
【図13】図13は、グリセリン、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、及び2−ピロリドンの平衡水分量と湿度との関係を示す図である。
【図14】図14は、黒インク1の最終的な平衡時残存水分量を初期水分量から引いた水分蒸発量の計算値と、実側で求めた平衡時までの水分蒸発量とを示す図である。
【図15】図15は、シアンインク1の最終的な平衡時残存水分量を初期水分量から引いた水分蒸発量の計算値と、実側で求めた平衡時までの水分蒸発量とを示す図である。
【図16】図16は、黒インク1とシアンインク1の各湿度における平衡時残存水分量の計算値を示す図である。
【図17】図17は、黒インク1とシアンインク1におけるせん断速度と粘度との関係を示す図である。
【図18】図18は、グリセリン比率100%の黒インク1と、シアンインク1との湿度と平衡時残存水分量との関係を示す図である。
【図19】図19は、グリセリン比率75%の黒インク1と、シアンインク1との湿度と平衡時残存水分量との関係を示す図である。
【図20】図20は、グリセリン比率60%の黒インク1と、シアンインク1との湿度と平衡時残存水分量との関係を示す図である。
【図21】図21は、グリセリン比率50%の黒インク1(黒インク1の改良インク;実施例1)と、シアンインク1との湿度と平衡時残存水分量との関係を示す図である。
【図22】図22は、グリセリン比率40%の黒インク1と、シアンインク1との湿度と平衡時残存水分量との関係を示す図である。
【図23】図23は、グリセリン比率25%の黒インク1と、シアンインク1との湿度と平衡時残存水分量との関係を示す図である。
【図24】図24は、グリセリン比率0%の黒インク1と、シアンインク1との湿度と平衡時残存水分量との関係を示す図である。
【図25】図25は、黒インク2とシアンインク1との湿度と平衡時固形分/(固形分+湿潤剤+残留水分)との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0186】
1 装置本体
2 給紙トレイ
3 排紙トレイ
6 インクカートリッジ装填部
7 操作部
8 前カバー
10 インクカートリッジ
11 ガイドロッド
12 ステー
13 キャリッジ
14 記録ヘッド
15 サブタンク
16 供給チューブ
22 用紙
23 給紙コロ
24 分離パッド
25 ガイド
31 搬送ベルト
32 カウンタローラ
33 搬送ガイド
34 押さえ部材
36 帯電ローラ
37 搬送ローラ
38 テンションローラ
41 インク袋
42 インク注入口
43 インク排出口
44 カートリッジ外装
71 維持回復機構(サブシステム)
100 インク収容部
101 ケース本体
102 フィルム状部材
103 バネ(スプリング)
113 連結部材
121 空気流路
126 蓄積部
131 大気開放穴
132 大気開放弁機構
133 ホルダ
134 弁座
135 ボール
136 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着色剤、湿潤剤、及び樹脂を含有するインクを2種以上組み合わせてなるインクセットにおいて、
前記インクセットにおける各インクが異なる種類の湿潤剤を少なくとも1種含み、
前記各インクにおける湿潤剤総量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率、及び温度23℃で湿度50%RHでの平衡時残存水分量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率が、それぞれ5%以内であることを特徴とするインクセット。
【請求項2】
各インクにおける初期水分量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率、並びに着色剤及び樹脂を含む固形分量の最大値と最小値との差の該最大値に対する比率が、それぞれ5%以内である請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
湿潤剤が、グリセリン、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、及び2−ピロリドンから選択される少なくとも1種である請求項1から2のいずれかに記載のインクセット。
【請求項4】
各インクにおける固形分量が、それぞれ10質量%〜13質量%である請求項2から3のいずれかに記載のインクセット。
【請求項5】
各インクにおける初期水分量が、それぞれ44質量%〜60質量%である請求項2から4のいずれかに記載のインクセット。
【請求項6】
インクセットにおける各インクが、マゼンタインク、シアンインク、イエローインク、及びブラックインクの少なくともいずれかである請求項1から5のいずれかに記載のインクセット。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のインクセットと、支持体の少なくとも一方の面にインク受容層を有する記録用メディアとからなるインクメディアセットであって、
前記記録用メディアが、動的走査吸液計で測定した接触時間100msにおける純水の該記録用メディアへの転移量が2ml/m〜35ml/mであり、かつ接触時間400msにおける純水の前記記録用メディアへの転移量が3ml/m〜40ml/mであることを特徴とするインクメディアセット。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載のインクセットの各インクに刺激を印加し、該インクを飛翔させて画像を記録するインク飛翔工程を少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項9】
インクセットの各インクに対応する各インクヘッドを同一の覆蓋手段で覆蓋して保湿する請求項8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
インクセットの各インクに対応する各インクヘッドのクリーニングを同時に行う請求項8から9のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
記録用メディア上に記録された画像を乾燥する乾燥工程を含む請求項8から10のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
インクセットの各インクに対応する各インクヘッドがライン状ヘッドである請求項8から11のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
請求項1から6のいずれかに記載のインクセットの各インクに刺激を印加し、該インクを飛翔させて画像を記録するインク飛翔手段を少なくとも有することを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図25】
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【図10A】
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【図10B】
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【図13】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−40858(P2009−40858A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206485(P2007−206485)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】