説明

インクセット及び画像形成方法

【課題】ざらつきが抑制され、均一性に優れた画像を形成できるインクセットを提供する。
【解決手段】顔料を含有するインク組成物と、有機酸性化合物及び下記一般式(A)で表される構造単位を含む高分子化合物を含有する処理液と、を含むインクセットである〔Ra1:水素原子又はメチル基;La1:単結合、−COO−、又は−CONRa3−(Ra3は、水素原子、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基);La2:単結合、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の2価の連結基;A:イオン性基〕。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法を利用した記録方法は、インクジェットヘッドに設けられた多数のノズル孔からインクを液滴状に吐出することにより、多種多様な記録媒体に対して高品位の画像を記録できること等から広く利用されている。
インクジェット法による画像記録では、顔料インクと該顔料インク中の成分を凝集させる処理液とを接触させて画像を形成する画像記録方法が用いられることがある。このような顔料インクと処理液との組み合わせはインクセットと呼ばれている。
【0003】
例えば、ドット径が揃う均質な画像を形成できるインクセットとして、顔料インクと、多価有機酸とポリリン酸及びメタリン酸の少なくとも1種とを含有する処理液(処理液)と、を有するインクセットが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、記録によるカール及びカックルの発生を抑制しつつ、画像中のインク滲み及び混色の発生を抑えることができるインクセットとして、着色剤、樹脂粒子、水溶性有機溶剤、及び水を含むインク組成物と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤、及び前記インク組成物中の成分の凝集を起こさない水溶性ポリマーを含む処理液と、を含むインクセットが知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、インクの凝集性に優れ、従来以上の高速記録が可能なインクジェット記録用インクセットとして、色材と自己分散性樹脂の粒子とを含有するインク組成物と、カチオン性ポリマーを含み、前記インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液と、を含むインクジェット記録用インクセットが知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、インクの凝集性に優れ、従来以上の高速で耐擦過性及び描画性に優れた画像の記録が行なえるインクセットとして、顔料、樹脂粒子、及び活性エネルギー線により重合する水溶性の重合性化合物を含むインク組成物と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤、及び活性エネルギー線により重合する水溶性の重合性化合物を含む処理液と、を含むインクセットが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−188661号公報
【特許文献2】特開2010−23339号公報
【特許文献3】特開2010−58374号公報
【特許文献4】特開2010−69805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜4に記載のインクセットを用いると、形成された画像にざらつきが生じる場合や形成された画像の均一性が低下する場合がある。画像のざらつきや画像の均一性の低下の一因として、凝集速度が速すぎることにより、記録媒体に付与されたインク滴の広がりが不足することが考えられる。
本発明は上記に鑑みなされたものであり、ざらつきが抑制され、均一性に優れた画像を形成できるインクセット及び画像形成方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、顔料を含有するインク組成物と、有機酸性化合物を含む処理液と、を用いて画像を形成する際、処理液に、イオン性基を有する構造単位を含む特定の高分子化合物を含有させることにより、凝集速度がある程度抑えられてインク滴の広がりが促進され、これにより画像のざらつきや均一性の低下が抑制されるとの知見を得、かかる知見に基づき本発明を完成した。
【0007】
即ち、前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 顔料を含有するインク組成物と、有機酸性化合物及び下記一般式(A)で表される構造単位を含む高分子化合物を含有する処理液と、を含むインクセット。
【0008】
【化1】

【0009】
〔一般式(A)中、Ra1は水素原子又はメチル基を表す。
一般式(A)中、La1は、単結合、−COO−、又は−CONRa3−(Ra3は、水素原子、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基を表す)を表す。
一般式(A)中、La2は、単結合、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の2価の連結基を表す。
一般式(A)中、Aはイオン性基を表す。〕
【0010】
<2> 前記高分子化合物が、更に、下記一般式(B)で表される構造単位を含む<1>に記載のインクセット。
【0011】
【化2】

【0012】
〔一般式(B)中、Rb1は、水素原子又はメチル基を表す。
一般式(B)中、Lb1は、単結合、−COO−、又は−CONRb3−(Rb3は、水素原子、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基を表す)を表す。
一般式(B)中、Rb2は、水素原子、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基を表す。
但し、前記Rb2が水素原子であるときは、前記Lb1は単結合である。〕
【0013】
<3> 前記Aが、アニオン性基である<1>又は<2>に記載のインクセット。
<4> 前記Rb2が、直鎖の炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、分岐構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、環構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基である<2>又は<3>に記載のインクセット。
<5> 前記高分子化合物中における前記一般式(A)で表される構造単位の含有量が、10質量%〜50質量%である<1>〜<4>のいずれか1項に記載のインクセット。
<6> 前記高分子化合物の重量平均分子量が、20000〜80000である<1>〜<5>のいずれか1項に記載のインクセット。
【0014】
<7> 前記Ra1が水素原子であり、前記La1が−COO−又は−CONH−であり、前記La2が炭素数1〜12のアルキレン基であり、前記Aがカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種であり、前記Rb1が水素原子又はメチル基であり、前記Lb1が−COO−であり、前記Rb2が、直鎖の炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、分岐構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、環構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基である<2>〜<6>のいずれか1項に記載のインクセット。
<8> 前記処理液の全量に対する前記高分子化合物の含有量が、0.1質量%〜10質量%である<1>〜<7>のいずれか1項に記載のインクセット。
<9> 前記インク組成物が、更に、樹脂粒子を含む<1>〜<8>のいずれか1項に記載のインクセット。
【0015】
<10> 前記処理液が、更に、リン酸及びリン酸化合物の少なくとも一方を含む<1>〜<9>のいずれか1項に記載のインクセット。
【0016】
<11> 前記有機酸性化合物が、DL−リンゴ酸、マロン酸、グルタル酸、ジメチルマロン酸、及びマレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種である<1>〜<10>のいずれか1項に記載のインクセット。
【0017】
<12> <1>〜<11>のいずれか1項に記載のインクセットが用いられ、前記処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、前記処理液付与工程で前記処理液が付与された記録媒体に前記インク組成物を付与するインク付与工程と、を有する画像形成方法。
<13> 更に、前記インク付与工程によって形成された画像を加熱定着する加熱定着工程を有する<12>に記載の画像形成方法。
<14> 前記記録媒体が炭酸カルシウムを含有するコート層を有する<12>又は<13>に記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ざらつきが抑制され、均一性に優れた画像を形成できるインクセット及び画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のインクセット及び画像形成方法について詳細に説明する。
【0020】
≪インクセット≫
本発明のインクセットは、顔料を含有するインク組成物(以下、単に「インク」ともいう)と、有機酸性化合物と後述の一般式(A)で表される構造単位を含む高分子化合物(以下、「特定高分子化合物」ともいう)とを含有する処理液と、を含む。
【0021】
近年では、画像の定着性や凝集速度の向上等の観点から、顔料を含有するインク組成物と、有機酸性化合物を含む処理液と、を用い、前記インク組成物中の成分を前記処理液中の前記有機酸性化合物により凝集させて画像を形成することが行われている。
しかし、この方法で画像を形成すると、形成された画像にざらつきが生じる場合や形成された画像の均一性が低下する場合があることが判明した。画像のざらつきや画像の均一性の低下の一因として、凝集速度が速すぎることにより、記録媒体に付与されたインク滴の広がりが不足することが考えられる。
【0022】
そこで、処理液に一般式(A)で表される構造単位を含む高分子化合物(特定高分子化合物)を含有させ、インクセットを上記本発明の構成とすることにより、凝集速度をある程度抑えることができ、記録媒体に付与されたインク滴の広がりを促進でき(インク滴を目的とする大きさに広げることができ)、ひいては、画像のざらつきや画像の均一性の低下を抑制できる。
かかる効果が得られる理由は以下のように推測されるが、本発明は以下の理由により限定されることはない。
特定高分子化合物は、側鎖部分のイオン性基(下記一般式(A)のA)の作用により処理液中の溶媒(例えば水)との親和性を保持している。一方、記録媒体上に付与された処理液において特定高分子化合物は、主に主鎖部分とイオン性基を除いた側鎖部分との作用により、処理液の表面付近(記録媒体から離れた側の付近)に存在すると考えられる。この状態で記録媒体上の処理液にインク組成物が付与されると、処理液の表面付近に存在する特定高分子化合物によって処理液のインク組成物中への浸透がある程度妨げられ、その結果、有機酸性化合物によるインク組成物の凝集速度がある程度抑えられるものと考えられる。
【0023】
従来でも処理液中に水溶性ポリマーを含有させる場合があったが、処理液中に一般式(A)で表される構造単位を含まない高分子化合物(例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、等)を含有させるのみでは、本発明のインクセットほどの効果は得られない。この理由は、水溶性ポリマーの親水性が高すぎる場合には、記録媒体上に付与された処理液において、水溶性ポリマーが処理液の内部にまで浸透してしまうためと推測される。
【0024】
以下、本発明のインクセットにおける処理液及びインク組成物について説明する。
【0025】
<処理液>
本発明における処理液は、有機酸性化合物と、下記一般式(A)で表される構造単位を含む高分子化合物(以下、「特定高分子化合物」ともいう)と、を含有する。前記有機酸性化合物によりインク組成物中の顔料等の成分を凝集させることができる。また、前記特定高分子化合物により凝集速度をある程度抑えることができ、インク滴の広がりを確保できる。
前記有機酸性化合物及び前記特定高分子化合物は、それぞれ、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0026】
(一般式(A)で表される構造単位を含む高分子化合物(特定高分子化合物))
前記特定高分子化合物は、下記一般式(A)で表される構造単位を少なくとも1種含む。下記一般式(A)で表される構造単位は親水性の構造単位である。
【0027】
【化3】

【0028】
一般式(A)中、Ra1は水素原子又はメチル基を表す。
一般式(A)中、La1は、単結合、−COO−、又は−CONRa3−(Ra3は、水素原子、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基を表す)を表す。
一般式(A)中、La2は、単結合、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の2価の連結基を表す。
一般式(A)中、Aはイオン性基を表す。
【0029】
前記Ra1として好ましくは、水素原子である。
前記La1として、好ましくは−COO−又はCONRa3−であり、より好ましくは−COO−又はCONH−であり、特に好ましくは−CONH−である。
【0030】
前記Ra3において、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基としては、炭素数1〜30の1価の炭化水素基、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種と炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される炭素数1〜30の1価の基が挙げられる。
前記Ra3における炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの組み合わせからなる基等が挙げられる。
【0031】
ここで、本発明における、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの組み合わせからなる基について説明する。
本発明において、脂肪族炭化水素基は直鎖の炭化水素基には限定されず、環構造(脂環構造)及び分岐構造の少なくとも一方を有していてもよい。
また、本発明において、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの組み合わせからなる基は無置換であっても置換基により置換されていてもよい。該置換基としては、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、等が挙げられる。
【0032】
本発明における脂肪族炭化水素基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、が挙げられる。これらは、分岐構造を有していてもよく、環状構造を有していてもよい。また、これらは置換基によって置換されていてもよい。
【0033】
前記アルキル基としては、無置換のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。また、置換アルキル基として、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等で置換された、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
【0034】
本発明における芳香族炭化水素基(即ち、アリール基)の具体例としては、フェニル基、又は、炭素数8以上の縮環型芳香環化合物、若しくはヘテロ環が縮環した芳香環化合物、から誘導される1価の基が挙げられる。
前記炭素数8以上の縮環型芳香環化合物とは、2個以上のベンゼン環が縮環した芳香環、及び/又は、少なくとも1種の芳香環と該芳香環に縮環した脂環式炭化水素とから構成される、炭素数8以上の芳香族化合物である。
炭素数8以上の縮環型芳香環化合物の具体例としては、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アセナフテンなどが挙げられる。
【0035】
本発明における、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせからなる基としては、アラルキル基、アルキルアリール基が挙げられる。これらは、分岐構造を有していてもよく、脂環構造を有していてもよい。また、これらは置換基によって置換されていてもよい。
【0036】
また、本発明における、「エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種と炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される1価の基」としては、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アルキルオキシアリール基、アリールオキシアルキル基、アルキルチオアリール基、アリールチオアルキル基、アルキルカルボニルオキシアリール基、アリールカルボニルオキシアルキル基、アルキルオキシカルボニルアリール基、アリールオキシカルボニルアルキル基、等が挙げられる。
【0037】
前記Ra3において、前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、1〜12が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜3が特に好ましく、1が最も好ましい。
前記Ra3において、前記芳香族炭化水素基の炭素数は、6〜16が好ましく、6〜14がより好ましく、6〜10がさらに好ましく、6が特に好ましい。
前記Ra3において、前記脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせからなる炭化水素基の炭素数は、7〜28が好ましく、7〜15がより好ましく、7〜12がさらに好ましく、7〜9が特に好ましい。
【0038】
前記Ra3として、好ましくは、水素原子、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種と炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される炭素数1〜12の1価の基であり、より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子である。
【0039】
前記La2において、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の2価の連結基としては、炭素数1〜30の2価の炭化水素基、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種と炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される炭素数1〜30の2価の基が挙げられる。
前記La2における炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの組み合わせからなる基等が挙げられる。
【0040】
前記La2における脂肪族炭化水素基の具体例としては、分岐構造を有していてもよく、脂環構造を有していてもよい、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、が挙げられる。
前記La2における前記脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基(アリーレン基)との組み合わせからなる基としては、分岐構造を有していてもよく、脂環構造を有していてもよい、アリーレンアルキレン基、アルキレンアリーレン基が挙げられる。
前記La2における「エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種と炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される2価の基」としては、前述の「エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種と炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される1価の基」で例示された基から水素原子1個を除いた2価の基が挙げられる。
【0041】
前記La2において、前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、1〜12が好ましく、1〜8がさらに好ましく、1〜6がさらに好ましく、炭素数3〜4が特に好ましい。
前記La2において、前記芳香族炭化水素基の炭素数は、6〜16が好ましく、6〜14がさらに好ましく、6〜10がより好ましく、6が特に好ましい。
前記La2において、前記脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせからなる炭化水素基の炭素数は、7〜28が好ましく、7〜15がさらに好ましく、7〜12がより好ましく、7〜9が特に好ましい。
【0042】
前記La2として、好ましくは、水素原子、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、又は、エーテル結合、チオエーテル結合もしくはエステル結合の少なくとも1種と炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される炭素数1〜12の基であり、より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基であり、更に好ましくは、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくは、炭素数1〜12のアルキレン基である。
【0043】
前記Aで表されるイオン性基としては、カチオン性基、アニオン性基が挙げられ、中でもアニオン性基が好ましい。
ここで、カチオン性基とは、カチオンに解離可能な基、もしくはカチオンに解離している基を表し、アニオン性基とは、アニオンに解離可能な基、もしくはアニオンに解離している基を表す。
前記Aとして、具体的には、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ボロン酸基、アミノ基、アンモニウム基、又はこれらの塩等が挙げられる。中でも、適度な酸性という点から、好ましくは、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、又はこれらの塩であり、より好ましくは、カルボキシル基、スルホン酸基、又はこれらの塩であり、更に好ましくは、スルホン酸基又はこの塩である。
【0044】
前記一般式(A)で表される構成単位は、イオン性基を有するモノマーに由来する構造単位(即ち、イオン性基を有するモノマーの重合により形成された構造単位)であっても、主鎖(幹ポリマー)の形成後にイオン性基を導入して形成された構造単位であってもよい。本発明においては、製造効率と安定性の観点から、イオン性基を有するモノマーに由来する構造単位であることが好ましい。
前記イオン性基を有するモノマーとしては、通常用いられるモノマーを特に制限なく用いることができる。
【0045】
前記イオン性基としてアニオン性基を有するモノマーとして具体的には、前記カルボキシル基を有するモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
またスルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコネート等が挙げられる。
またリン酸基を有するモノマーとしては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0046】
前記イオン性基として、カチオン性基を有するモノマーの具体例としては、「ポリマーハンドブック第4版John Wiley & Sons」等に記載のモノマーを挙げることができ、これらはそれぞれ1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
前記一般式(A)で表される構成単位の含有量としては、特定高分子化合物の全質量中、例えば10〜100質量%とすることができ、10〜90質量%であることが好ましく、10〜70質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることがさらに好ましく、20〜40質量%であることが特に好ましい。
【0048】
前記一般式(A)における各基の組み合わせとしては、本発明の効果をより効果的に奏する観点から、前記Ra1が水素原子であり、前記La1が−COO−又は−CONH−であり、前記La2が炭素数1〜12のアルキレン基であり、前記Aがカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種である組み合わせが好ましく、前記La1が−CONH−であり、前記La2が炭素数3〜4のアルキレン基であり、前記Aがスルホン酸基、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種である組み合わせがより好ましく、前記La2が炭素数4のアルキレン基であり、前記Aがスルホン酸の塩からなる群から選択される少なくとも一種である組み合わせが特に好ましい。
【0049】
以下、前記一般式(A)で表される構成単位の具体例を示すが、本発明は以下の具体例に限定されることはない。なお、以下の具体例において、カルボキシル基、スルホン酸基、及びリン酸基は、塩となっていてもよい。
【0050】
【化4】



【0051】
前記特定高分子化合物は、下記一般式(A)で表される構造単位に加え、下記一般式(B)で表される構造単位の少なくとも1種を含むことがより好ましい。下記一般式(B)で表される構造単位は疎水性の構造単位である。
これにより、インク滴の広がりをより促進でき、画像のざらつき及び画像の均一性の低下をより効果的に抑制できる(即ち、より少ない特定高分子化合物の含有量で、本発明の効果が効果的に奏される)。この効果が得られる理由は、特定高分子化合物が一般式(B)で表される構造単位を含むことにより、特定高分子化合物が処理液表面により存在しやすくなるため、と推測される。
下記一般式(B)で表される構造単位は疎水性の構造単位である。
【0052】
【化5】

【0053】
一般式(B)中、Rb1は、水素原子又はメチル基を表す。
一般式(B)中、Lb1は、単結合、−COO−、又は−CONRb3−(Rb3は、水素原子、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基を表す)を表す。
一般式(B)中、Rb2は、水素原子、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基を表す。
但し、前記Rb2が水素原子であるときは、前記Lb1は単結合である。
【0054】
前記Rb1として好ましくは、メチル基である。
前記Lb1として、好ましくは−COO−又はCONRa3−であり、より好ましくは−COO−又はCONH−であり、特に好ましくは−COO−である。
【0055】
前記Rb3において、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基としては、炭素数1〜30の1価の炭化水素基、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種と炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される炭素数1〜30の1価の基が挙げられる。
前記Rb3において、前記炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの組み合わせからなる基等が挙げられる。
ここで、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの組み合わせからなる基の例については前述のとおりである。
【0056】
前記Rb3において、前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、1〜12が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜3が特に好ましく、1が最も好ましい。
前記Rb3において、前記芳香族炭化水素基の炭素数は、6〜16が好ましく、6〜14がより好ましく、6〜10がさらに好ましく、6が特に好ましい。
前記Rb3において、前記脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせからなる炭化水素基の炭素数は、7〜28が好ましく、7〜15がより好ましく、7〜12がさらに好ましく、7〜9が特に好ましい。
【0057】
前記Rb3として、好ましくは、水素原子、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、又は、エーテル結合、チオエーテル結合もしくはエステル結合の少なくとも1種と炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される炭素数1〜12の1価の基であり、より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子である。
【0058】
また、前記Rb2において、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基としては、炭素数1〜30の1価の炭化水素基、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種と炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される炭素数1〜30の1価の基が挙げられる。
前記Rb2において、前記炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの組み合わせからなる基等が挙げられる。
ここで、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの組み合わせからなる基の例については前述のとおりである。
【0059】
前記Rb2において、前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、環構造及び分岐構造を含まない場合は、1〜12が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜4が特に好ましい。前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、環構造を含む場合は、3〜12が好ましく、6〜12がより好ましく、6〜10が特に好ましい。前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、分岐構造を含む場合は、3〜12が好ましく、6〜12がより好ましく、6〜10が特に好ましい。
前記Rb2において、前記芳香族炭化水素基の炭素数は、6〜16が好ましく、6〜14がより好ましく、6〜10がさらに好ましく、6が特に好ましい。
前記Rb2において、前記脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせからなる基の炭素数は、7〜28が好ましく、7〜15がより好ましく、7〜12がさらに好ましく、7〜9が特に好ましい。
【0060】
前記Rb2として、好ましくは、脂肪族炭化水素基(即ち、直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基、又は脂環構造を有する脂肪族炭化水素基);脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせからなる基(好ましくはアラルキル基);エーテル結合、チオエーテル結合若しくはエステル結合の少なくとも1種と脂肪族炭化水素基の少なくとも1種とが連結されて構成される1価の基(好ましくはアリールオキシ基);エーテル結合、チオエーテル結合若しくはエステル結合の少なくとも1種と脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが連結されて構成される1価の基(好ましくはアリールオキシアルキル基);である。
【0061】
前記Rb2として、より好ましくは、脂肪族炭化水素基(即ち、直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基、又は環構造を有する脂肪族炭化水素基);脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせからなる基(好ましくはアラルキル基);エーテル結合、チオエーテル結合若しくはエステル結合の少なくとも1種により脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが連結されて構成される1価の基(好ましくはアリールオキシアルキル基);
である。
【0062】
前記Rb2として、更に好ましくは、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせからなる基(好ましくはアラルキル基);エーテル結合、チオエーテル結合若しくはエステル結合の少なくとも1種により脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが連結されて構成される1価の基(好ましくはアリールオキシアルキル基);である。
【0063】
前記Rb2として、特に好ましくは、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせからなる基(好ましくはアラルキル基)である。
【0064】
また、前記Rb2のより具体的な形態としては、本発明による効果をより効果的に奏する観点からは、直鎖の炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、分岐構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、環構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基が好ましく、分岐構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、環構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基がより好ましく、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基がさらに好ましく、炭素数7〜12のアラルキル基が特に好ましい。
【0065】
また、前記一般式(B)における各基の組み合わせとしては、前記Rb1が水素原子又はメチル基であり、前記Lb1が−COO−であり、前記Rb2が、直鎖の炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、分岐構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、環構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基である組み合わせが好ましく、前記Rb1がメチル基であり、前記Rb2が、分岐構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、環構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基である組み合わせがより好ましく、前記Rb1がメチル基であり、前記Rb2が、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基である組み合わせが特に好ましい。
【0066】
前記一般式(B)で表される構造単位は、下記のモノマーに由来する構造単位であることが好ましい。
即ち、前記一般式(B)で表される構造単位を構成するモノマーとして、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、tert−オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)クリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレート、4−クロロブチル(メタ)アクリレート、シアノエチル(メタ)アクリレート、2−アセトキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、クロロベンジル(メタ)クリレート、メトキシベンジル(メタ)アクリレート、2−クロロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、クレジル(メタ)クリレート、ナフチル(メタ)クリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)クリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)クリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)クリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)クリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)クリレート、2−iso−プロポキシエチル(メタ)クリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)クリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(3−フェニルプロピルオキシ)エチル(メタ)クリレート、2−アセトキシエチルメタクリレート、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、1−ブロモ−2−メトキシエチルアクリレート、1,1−ジクロロ−2−エトキシエチルアクリレート、2,2,2−テトラフルオロエチルアクリレート、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルアクリレート、などが挙げられる。
ここで、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを指す。
【0067】
前記特定高分子化合物が記録媒体上に付与された処理液の表面付近に存在するためには、処理液の加熱乾燥時において流動性が低い方が好ましいと考えられる。このため、前記特定高分子化合物としては、一般に高分子化合物の軟化温度と相関するガラス転移温度が高いものが好ましい。その観点から、前記一般式(B)で表される構造単位を形成するモノマーとしては、アクリレートよりもメタクリレートが好ましい。
【0068】
前記特定高分子化合物が前記一般式(B)で表される構成単位を1種又は2種以上含む場合、その総含有量は、特定高分子化合物の全質量中、例えば10〜90質量%とすることができ、30〜90質量%であることが好ましく、50〜90質量%であることがより好ましく、60〜80質量%であることが特に好ましい。
【0069】
前記特定高分子化合物は、上記一般式(A)で表される構造単位に加え、上記一般式(B)で表される構造単位の少なくとも1種を含むことがより好ましいが、特定高分子化合物の「親水性」と「処理液の表面付近に存在する性質」を構造単位の組成比の調整によって制御することが容易である観点から、上記一般式(A)で表される構造単位及び上記一般式(B)で表される構造単位からなる群から選択される3種以上の構造単位を含むことが特に好ましい。
【0070】
本発明における前記特定高分子化合物は、必要に応じ、前記一般式(A)で表される構造単位及び前記一般式(B)で表される構造単位以外のその他の構造単位を含有していてもよい。
その他の構造単位としては、例えば、公知のビニルモノマーに由来する構造単位のうち、前記一般式(A)で表される構造単位及び前記一般式(B)で表される構造単位以外の構造単位を用いることができる。
【0071】
前記特定高分子化合物の重量平均分子量には特に限定はないが、例えば10000〜100000とすることができ、好ましくは20000〜80000であり、より好ましくは30000〜80000である。
【0072】
また、前記特定高分子化合物は、水溶性ポリマーであることが好ましい。
ここで、水溶性とは、水に一定濃度以上溶解できることをいい、水性の処理液中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであればよい。具体的には、25℃の水に対する溶解度が5質量%以上であることが好ましく、10質量以上であることがより好ましい。
【0073】
また、本発明における処理液中における前記特定高分子化合物の含有量には特に限定はないが、処理液の全量に対し、0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.1質量%〜4質量%がより好ましい。
前記含有量が0.1質量%以上であれば、インク滴の広がりをより促進でき、前記含有量が10質量%以下であれば、処理液の増粘をより抑制できる。
【0074】
前記特定高分子化合物は、種々の重合方法、例えば溶液重合、沈澱重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合により、少なくとも一般式(A)で表される構造単位を形成するためのモノマー(好ましくは、更に、一般式(B)で表される構造単位を形成するためのモノマー)を含むモノマー成分を、単独重合又は共重合させる公知の合成方法により合成できる。
重合反応は回分式、半連続式、連続式等の公知の操作で行うことができる。重合の開始方法は重合開始剤を用いる方法、光または放射線を照射する方法等がある。これらの重合方法、重合の開始方法は、例えば鶴田禎二「高分子合成方法」改定版(日刊工業新聞社刊、1971)や大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊、124〜154頁に記載されている。
上記重合方法のうち、特に重合開始剤(例えば、ラジカル重合開始剤)を用いた溶液重合法が好ましい。溶液重合法で用いられる溶剤は、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールのような種々の有機溶剤の単独あるいは2種以上の混合物でも良いし、水との混合溶媒としても良い。
重合温度は生成するポリマーの分子量、開始剤の種類などと関連して設定することができ、通常、0℃〜100℃程度であるが、50〜100℃の範囲で重合を行うことが好ましい。反応時間は、1〜30時間程度が好ましい。得られたポリマーは再沈澱などの精製を行っても良い。
【0075】
以下、特定高分子化合物の例示化合物(A−1〜A−29)を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
【化6】

【0077】
【化7】

【0078】
【化8】

【0079】
【化9】

【0080】
上記例示化合物A−1〜A−29において、a、b、c、及びdは、各構造単位の含有比率(質量%)を示している。a、b、c、及びdの合計は100である。
例示化合物A−1〜A−29では、前記aが0〜73であり、前記bが0〜90であり、前記cが10〜90であり、前記dが0〜90である組み合わせが好適である。
例示化合物A−1〜A−29におけるa/b/c/dの具体的な組み合わせとしては、5/5/90/0、33/33/34/0、17/50/33/0、50/17/33/0、40/10/30/0、56/17/27/0、60/13/27/0、70/3/27/0、90/0/10/0、73/0/27/0、50/0/50/0、20/0/80/0、5/0/90/0、0/90/10/0、0/77/23/0、0/50/50/0、0/20/80/0、40/30/27/3、34/30/27/9、18/40/27/15、が挙げられる。
【0081】
(有機酸性化合物)
前記処理液は、有機酸性化合物を少なくとも1種含む。これにより、インク組成物を凝集させることができる。
前記有機酸性化合物としては、多価有機酸の少なくとも1種を用いることができる。
前記多価有機酸としては、一分子内に2つ以上のカルボキシル基を含む化合物が好ましい。
一分子内に2つ以上のカルボキシル基を含む化合物としては、酒石酸、フタル酸、4−メチルフタル酸、DL−リンゴ酸、マロン酸、グルタル酸、ジメチルマロン酸、マレイン酸が好ましく、DL−リンゴ酸、マロン酸、グルタル酸、ジメチルマロン酸、マレイン酸がより好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0082】
また、前記多価有機酸としては、下記一般式(I)で表される化合物も好適である。これにより、凝集性がより高められ、記録媒体上に付与されたインク滴の移動がより抑制される。
2n+2−m(COOH) … 一般式(I)
〔一般式(A)中、nは2以上の整数を表し、mは3以上の整数を表す。〕
【0083】
前記一般式(I)において、前記nは、3〜5の整数であることが好ましい。前記nが3以上であると、画像のざらつきが更に抑制される。前記nが5以下であると、画像の耐擦性(画像の物理的強度。以下同じ。)が更に向上する。
また、前記一般式(I)において、前記mは、3〜5の整数であることが好ましい。前記mが3以上であると、インク滴の移動が更に抑制される。前記mが5以下であると、画像の耐擦性が更に向上する。
【0084】
前記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、等が挙げられる。
【0085】
また、本発明において、処理液に含まれる全有機酸性化合物の含有量には特に限定はないが、インクの凝集性及び画像のざらつき抑制の観点からは、該含有量は処理液の全量に対し、0.5質量%〜25質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることが特に好ましい。
【0086】
また、本発明における有機酸性化合物が前記一般式(I)で表される化合物を含む場合、その含有量には特に限定はないが、有機酸性化合物の全量に対し、5質量%〜30質量%であることが好ましい。
【0087】
(リン酸、リン酸化合物)
本発明における処理液は、無機酸として、リン酸及びリン酸化合物の少なくとも1種をを含有してもよい。これにより、画像の光沢ムラが抑制される。画像の光沢ムラは、記録媒体中の成分(例えば炭酸カルシウム)と処理液中の有機酸性化合物との反応による生じると考えられる。
リン酸化合物としては、例えば、オルトリン酸(以下、単に「リン酸」ともいう)、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、又はこれらの塩を用いることができる。
【0088】
本発明における処理液において、前記有機酸性化合物と前記リン酸及びリン酸化合物との総和に対する前記有機酸性化合物の含有量には特に限定はないが、60質量%〜90質量%であることが好ましい。
【0089】
(水)
本発明における処理液は、水を含有することが好ましい。水の含有量は、特に制限はないが、10〜99質量%の範囲が好ましく、より好ましくは50〜90質量%であり、更に好ましくは60〜80質量%である。
【0090】
(有機溶剤)
本発明における処理液は、有機溶剤から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
前記有機溶剤としては、20℃で100gの水に5g以上溶解する有機溶剤(以下、「水溶性有機溶剤」ともいう。)であることが好ましい。
前記水溶性有機溶剤としては、後述するインクに含まれる水溶性有機溶剤と同様のものを用いることができる。中でも、カール抑制の観点から、ポリアルキレングリコール又はその誘導体であることが好ましく、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
有機溶剤の処理液中における含有率としては、特に制限はされないが、カール抑制の観点から、処理液全体に対して1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
【0091】
(含窒素ヘテロ環化合物及び有機メルカプト化合物)
本発明における処理液は、含窒素ヘテロ環化合物及び有機メルカプト化合物から選択される少なくとも1種を含有してもよい。これにより、画像のざらつきがより抑制され、かつ、画像の耐擦性及び記録媒体の搬送性が向上する。中でも、含窒素ヘテロ環化合物を含有することが好ましい。
【0092】
−含窒素ヘテロ環化合物−
前記含窒素ヘテロ環化合物の構造としては、含窒素5員環構造又は6員環構造が好ましく、中でも含窒素5員環構造が好ましい。
【0093】
前記含窒素5員環構造又は前記含窒素6員環構造の中でも、好ましくは炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子及びセレン原子の少なくとも一種の原子を含む5又は6員のヘテロ環の構造が好ましい。
尚、このヘテロ環は炭素芳香環又は複素芳香環で縮合していてもよい。
ヘテロ環としては、例えばテトラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、チアジアゾール環、オキサジアゾール環、セレナジアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズイミダゾール環、ピリミジン環、トリアザインデン環、テトラアザインデン環、ペンタアザインデン環等があげられる。
【0094】
これらの環は、置換基を有してもよく、置換基は、ニトロ基、ハロゲン原子(例えば塩素原子、臭素原子)、メルカプト基、シアノ基、それぞれ置換もしくは無置換のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、t−ブチル、シアノエチルの各基)、アリール基(例えばフェニル、4−メタンスルホンアミドフェニル、4−メチルフェニル、3,4−ジクロルフェニル、ナフチルの各基)、アルケニル基(例えばアリル基)、アラルキル基(例えばベンジル、4−メチルベンジル、フェネチルの各基)、スルホニル基(例えばメタンスルホニル、エタンスルホニル、p−トルエンスルホニルの各基)、カルバモイル基(例えば無置換カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイルの各基)、スルファモイル基(例えば無置換スルファモイル、メチルスルファモイル、フェニルスルファモイルの各基)、カルボンアミド基(例えばアセトアミド、ベンズアミドの各基)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミドの各基)、アシルオキシ基(例えばアセチルオキシ、ベンゾイルオキシの各基)、スルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、ウレイド基(例えば無置換ウレイド、メチルウレイド、エチルウレイド、フェニルウレイドの各基)、アシル基(例えばアセチル、ベンゾイルの各基)、オキシカルボニル基(例えばメチキシカルボニル、フェノキシカルボニルの各基)、オキシカルボニルアミノ基(例えばメトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、2−エチルヘキシルオキシカルボニルアミノの各基)、ヒドロキシル基などで置換されていてもよい。置換基は、一つの環に複数置換してもよい。
【0095】
好ましい含窒素ヘテロ環化合物の具体例としては以下のものが挙げられる。
即ち、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾインダゾール、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ピリジン、キノリン、ピリミジン、ピペリジン、ピペラジン、キノキサリン、モルホリンなどが挙げられ、これらは、上記記載のアルキル基、カルボキシル基、スルホ基、などの置換基を有してよい。
【0096】
好ましい含窒素6員環化合物としては、トリアジン環、ピリミジン環、ピリジン環、ピロリン環、ピペリジン環、ピリダジン環、ピラジン環を有する化合物であり、中でもトリアジン環、ピリミジン環を有する化合物が好ましい。これらの含窒素6員環化合物は置換基を有していてもよく、その場合の置換基としては炭素数1〜6、より好ましくは1〜3のアルキル基、炭素数1〜6、より好ましくは1〜3のアルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、炭素数1〜6、より好ましくは1〜3のアルコキシアルキル基、炭素数1〜6、より好ましくは1〜3のヒドロキシアルキル基が挙げられる。
好ましい含窒素6員環化合物の具体例としては、トリアジン、メチルトリアジン、ジメチルトリアジン、ヒドロキシエチルトリアジン環、ピリミジン、4−メチルピリミジン、ピリジン、ピロリンがあげられる。
【0097】
−有機メルカプト化合物−
前記有機メルカプト化合物としては、アルキルメルカプト化合物や、アリールメルカプト化合物、ヘテロ環メルカプト化合物などが挙げられる。
アルキルメルカプト化合物としては、システインやチオリンゴ酸などが挙げられ、アリールメルカプト化合物としては、チオサリチル酸などが挙げられ、ヘテロ環メルカプト化合物としては、2−フェニル−1−メルカプトテトラゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトピリミジン、2,4−ジメルカプトピリミジン、2−メルカプトピリジンなどが挙げられ、これらは、アルキル基、カルボキシル基、スルホ基、などの置換基を有してよい。
【0098】
前記含窒素ヘテロ環化合物及び前記有機メルカプト化合物の中でも、ベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、5−アミノベンゾトリアゾール、5−クロロベンゾトリアゾール、テトラゾール、5−アミノテトラゾール、5−メチルテトラゾール、5−フェニルテトラゾールが特に好ましく、ベンゾトリアゾールが最も好ましい。
【0099】
前記含窒素ヘテロ環化合物及び前記有機メルカプト化合物は、単独あるいは複数種併用して用いることができる。
処理液中における前記含窒素ヘテロ環化合物及び前記有機メルカプト化合物の含有量(総含有量)には特に限定はないが、処理液の全量に対し、0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.1〜3.0質量%であることがより好ましい。
【0100】
(界面活性剤)
本発明における処理液は、界面活性剤の少なくとも1種を含んでいてもよい。界面活性剤は、表面張力調整剤として用いることができる。表面張力調整剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。
中でも、インク組成物の凝集速度の観点から、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0101】
界面活性剤の具体的な例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&ChemicaLs社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。
【0102】
更に、特開昭59−157636号公報の第(37)〜(38)頁、リサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも用いることができる。
また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載のフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等も挙げられる。
【0103】
前記処理液中における界面活性剤の含有量としては特に制限はないが、処理液の表面張力が40mN/m以上となるような含有量であることが好ましく、40〜60mN/mとなるような含有量であることがより好ましく、42〜50mN/mとなるような含有量であることがさらに好ましい。
【0104】
(その他の凝集成分)
本発明における処理液は本発明の効果を損なわない限り、前述の有機酸性化合物に加え、その他の凝集成分を含むことができる。その他の凝集剤としては、多価金属塩及びポリアリルアミン等を挙げることができる。
多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩、及びポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
多価金属塩の処理液中における含有量としては、例えば1〜10質量%とすることができる。
【0105】
−その他の添加剤−
本発明における処理液は、前記成分に加えて、その他の添加剤を含んで構成することができる。処理液におけるその他の添加剤としては、後述のインク組成物中におけるその他の添加剤と同様である。
【0106】
前記処理液の表面張力としては特に制限はなく、例えば、40mN/m以上とすることができる。なかでも、記録媒体におけるカールの発生抑制の観点から、40〜60mN/mであることがより好ましく、42〜50mN/mであることがより好ましく、42〜47mN/mであることがさらに好ましい。
処理液の表面張力は、例えば、界面活性剤を添加することで調整することができる。また処理液の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0107】
また本発明における処理液は、インク組成物の凝集速度の観点から、pH(25℃±1℃)が3.5以下であることが好ましく、0.5〜2.5であることがより好ましく、0.5〜2.0であることがさらに好ましい。
また処理液の粘度としては、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。なお、粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0108】
<インク組成物>
本発明におけるインク組成物は、顔料を含有する。
前記インク組成物は、必要に応じ、樹脂粒子、顔料分散剤(ポリマー分散剤)、有機溶剤、中和剤、水、及びその他の成分を含む。
【0109】
(顔料)
本発明におけるインク組成物は、顔料を少なくとも1種含む。
前記顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機及び無機顔料を用いることができる。例えば、アゾレーキ、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等の無機顔料が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても、水相に分散可能であればいずれも使用できる。更に、前記顔料を界面活性剤や高分子分散剤等で表面処理したものや、グラフトカーボン等も使用可能である。
これら顔料のうち、特に、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、カーボンブラック系顔料が好ましい。
【0110】
〜分散剤〜
本発明におけるインク組成物では、前記顔料が分散剤によって分散されている形態が好ましい。
この形態の中でも、特に、前記顔料がポリマー分散剤によって分散されている形態、即ち、顔料の少なくとも一部が該ポリマー分散剤により被覆されている形態が好ましい。少なくとも一部がポリマー分散剤により被覆されている顔料を、以下、「樹脂被覆顔料」ともいう。
【0111】
前記分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては、水溶性のポリマー分散剤でも非水溶性のポリマー分散剤でもよい。
前記低分子の界面活性剤型分散剤としては、特開2010−188661号公報の段落0016〜0020に記載の界面活性剤型分散剤を用いることができる
【0112】
前記ポリマー分散剤のうち、水溶性のポリマー分散剤としては、親水性高分子化合物を用いることができる。
前記水溶性のポリマー分散剤としては、例えば、特開2010−188661号公報の段落0021〜0022に記載の天然の親水性高分子化合物を用いることができる。
【0113】
また、前記水溶性のポリマー分散剤としては、合成系の親水性高分子化合物を用いることもできる。
前記合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物等が挙げられる。
【0114】
これらの中でも、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、カルボキシル基を含む高分子化合物が好ましく、例えば、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂等のようなカルボキシル基を含む高分子化合物が特に好ましい。
【0115】
前記ポリマー分散剤のうち非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部との両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
前記スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、前記(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、前記ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、前記スチレン−マレイン酸共重合体は、2元共重合体であっても3元以上の共重合体であってもよい。
前記ポリマー分散剤としては、これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸−メチル(メタ)アクリレート3元共重合体が特に好ましい。
ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を指し、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを指す。
【0116】
前記ポリマー分散剤の重量平均分子量としては、3,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、更に好ましくは5,000〜80,000、特に好ましくは10,000〜60,000である。
【0117】
前記ポリマー分散剤の酸価には特に限定はないが、凝集性の観点からは、該ポリマー分散剤の酸価は、必要に応じ用いられることがある後述する樹脂粒子(好ましくは自己分散性樹脂粒子)の酸価よりも大きいことが好ましい。
【0118】
また、本発明におけるインク組成物において、顔料と分散剤との質量比(顔料:分散剤)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0119】
顔料の平均粒子径(樹脂被覆顔料である場合には樹脂被覆顔料の平均粒子径。以下、同じ。)としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材を2種以上混合して使用してもよい。
なお、顔料の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒子径を測定することにより求められるものである。
【0120】
本発明において、顔料のインク組成物中における含有量としては、画像濃度の観点から、インク組成物全量に対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、2〜10質量%が特に好ましい。
顔料は、1種単独で又は2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0121】
(樹脂粒子)
本発明におけるインク組成物は、樹脂粒子の少なくとも1種を含むことが好ましい。
前記樹脂粒子は、前述のポリマー分散剤(顔料の少なくとも一部を覆うポリマー分散剤)とは異なり、前記顔料とは別に存在する粒子である。
前記樹脂粒子は、前述の処理液中の有機酸性化合物によって凝集される。これにより、画像の定着性や凝集速度がさらに向上する。
該樹脂粒子を含むインク組成物が、前記特定高分子化合物を含む前記処理液とともに用いられることにより、凝集速度がある程度抑えられてインク滴の広がりが促進されるので、インク滴の広がり不足に起因する画像のざらつきや画像の均一性の低下がさらに改善される。
【0122】
前記樹脂粒子は、非水溶性又は難水溶性の樹脂粒子であることが好ましい。
ここで、「非水溶性又は難水溶性」であるとは、樹脂を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が15g以下であることをいう。インクの連続吐出性及び吐出安定性が向上する観点から、前記溶解量は好ましくは10g以下、より好ましくは5g以下であり、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0123】
前記樹脂粒子としては、例えば、熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、又はフッ素系の樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等のポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系材料、あるいはそれらの共重合体又は混合物などのアニオン性基を有する樹脂の粒子が挙げられる。これらのうち、アニオン性のアクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(アニオン性基含有アクリルモノマー)及び必要に応じて該アニオン性基含有アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。前記アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、及びホスホン基からなる群より選ばれる1以上を有するアクリルモノマーが挙げられ、中でもカルボキシル基を有するアクリルモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等)が好ましく、特にはアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0124】
本発明で用いることができる樹脂粒子としては、吐出安定性及び顔料を含む系の液安定性(特に分散安定性)の観点から、自己分散性樹脂の粒子(自己分散性樹脂粒子)であること好ましい。ここで、自己分散性樹脂とは、界面活性剤の不存在下、転相乳化法により分散状態としたとき、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーをいう。
ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
また、前記水性媒体は水を含む媒体を指す。前記水性媒体は、必要に応じて親水性有機溶媒を含んでいてもよい。前記水性媒体は、水と水に対して0.2質量%以下の親水性有機溶媒とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。
前記自己分散性樹脂としては、インク組成物に含有されたときの凝集速度と定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる自己分散性樹脂粒子であることが好ましい。
【0125】
前記自己分散性樹脂の乳化又は分散状態を得る方法、すなわち自己分散性樹脂粒子の水性分散物の調製方法としては、転相乳化法が挙げられる。
前記転相乳化法としては、例えば、自己分散性樹脂を溶媒(例えば、水溶性有機溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、自己分散性樹脂が有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、前記溶媒を除去した後、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
【0126】
また、自己分散性樹脂における安定な乳化又は分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、乳化又は分散状態が、25℃で少なくとも1週間安定に存在する状態(即ち、沈殿を目視で確認できない状態)であることをいう。
【0127】
また、自己分散性樹脂における乳化又は分散状態の安定性は、遠心分離による沈降の加速試験によっても確認することができる。遠心分離による、沈降の加速試験による安定性は、例えば、上記の方法により得られた樹脂粒子の水性分散物を、固形分濃度25質量%に調整した後、12000rpmで一時間遠心分離し、遠心分離後の上澄みの固形分濃度を測定することによって評価できる。
遠心分離前の固形分濃度に対する遠心分離後の固形分濃度の比が大きければ(1に近い数値であれば)、遠心分離による樹脂粒子の沈降が生じない、すなわち、樹脂粒子の水性分散物がより安定であることを意味する。本発明においては、遠心分離前後での固形分濃度の比が0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、0.95以上であることが特に好ましい。
【0128】
自己分散性樹脂は、分散状態としたときに水溶性を示す水溶性成分の含有量が10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。水溶性成分を10質量%以下とすることで、樹脂粒子の膨潤や樹脂粒子同士の融着を効果的に抑制し、より安定な分散状態を維持することができる。また、水性インク組成物の粘度上昇を抑制でき、例えば、水性インク組成物をインクジェット法に適用する場合に、吐出安定性がより良好になる。
ここで水溶性成分とは、自己分散性樹脂に含有される化合物であって、自己分散性樹脂を分散状態にした場合に水に溶解する化合物をいう。前記水溶性成分は自己分散性樹脂を製造する際に、副生又は混入する水溶性の化合物である。
【0129】
前記水不溶性ポリマーの主鎖骨格としては、特に制限は無く、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、特にビニルポリマーが好ましい。
【0130】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0131】
本発明において用いることができる自己分散性樹脂粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と、芳香族基含有モノマー又は環状脂肪族基含有モノマーに由来する構成単位と、を含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0132】
前記「親水性の構成単位」は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。
前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0133】
前記親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることが好ましい。
前記解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0134】
前記不飽和カルボン酸モノマーとして、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
前記不飽和スルホン酸モノマーとして、具体的には、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
前記不飽和リン酸モノマーとして具体的には、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0135】
前記自己分散性樹脂粒子は、自己分散性と処理液と接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が25〜100mgKOH/gであるポリマーを含むことがより好ましい。更に、前記酸価は、自己分散性と処理液と接触したときの凝集速度の観点から、25〜80mgKOH/gであることがより好ましく、30〜65mgKOHであることが特に好ましい。
特に、酸価は、25以上であると自己分散性の安定性が良好になり、100以下であると凝集性が向上する。
【0136】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば特に制限はない。前記芳香族基は芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
また前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0137】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記芳香族基含有モノマーとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0138】
前記環状脂肪族基含有モノマーは、環状脂肪族炭化水素に由来する環状脂肪族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましく、環状脂肪族基含有(メタ)アクリレートモノマー(以下、脂環式(メタ)アクリレートということがある)がより好ましい。
脂環式(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリル酸に由来する構造部位と、アルコールに由来する構造部位とを含み、アルコールに由来する構造部位に、無置換又は置換された脂環式炭化水素基(環状脂肪族基)を少なくとも1つ含む構造を有しているものである。尚、前記脂環式炭化水素基は、アルコールに由来する構造部位そのものであっても、連結基を介してアルコールに由来する構造部位に結合していてもよい。
【0139】
脂環式炭化水素基としては、環状の非芳香族炭化水素基を含むものであれば特に限定はなく、単環式炭化水素基、2環式炭化水素基、3環式以上の多環式炭化水素基が挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基や、シクロアルケニル基、ビシクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、アダマンチル基、デカヒドロナフタレニル基、ペルヒドロフルオレニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、及びビシクロ[4.3.0]ノナン等を挙げることができる。
前記脂環式炭化水素基は、更に置換基を有してもよい。該置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アルキル又はアリールカルボニル基、及びシアノ基等が挙げられる。また、脂環式炭化水素基は、さらに縮合環を形成していてもよい。本発明における脂環式炭化水素基としては、粘度や溶解性の観点から、脂環式炭化水素基部分の炭素数が5〜20であることが好ましい。
【0140】
脂環式(メタ)アクリレートの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
単環式(メタ)アクリレートとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基の炭素数が3〜10のシクロアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
2環式(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3環式(メタ)アクリレートとしては、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0141】
これらのうち、自己分散性樹脂粒子の分散安定性と、定着性、ブロッキング耐性の観点から、2環式(メタ)アクリレート、又は3環式以上の多環式(メタ)アクリレートを少なくとも1種であることが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0142】
自己分散性樹脂は、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、更には、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含み、その含有量が10質量%〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートの含有量が10質量%〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。
自己分散状態の安定性、芳香環同士又は脂環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15質量%〜90質量%であることがより好ましく、15質量%〜80質量%であることがより好ましく、25質量%〜70質量%であることが特に好ましい。
【0143】
前記自己分散性樹脂は、例えば、芳香族基含有モノマー又は環状脂肪族基含有モノマーに由来する構成単位と、解離性基含有モノマーに由来する構成単位とを用いて構成することができる。更に、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んでもよい。
【0144】
前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。
前記アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0145】
前記自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量範囲は、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
【0146】
なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel、Super Multipore HZ−H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0147】
前記自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)又は環状脂肪族基含有モノマー(好ましくは脂環式(メタ)アクリレート)を共重合比率として自己分散性樹脂粒子の全質量の15〜80質量%を含むことが好ましい。
また、前記水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましい。
また、前記水不溶性ポリマーは、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が25〜95であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
【0148】
以下に、自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの具体例として、例示化合物B−01〜B−23を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
【0149】
B−01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(50/45/5)
B−02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(30/35/29/6)
B−03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(50/44/6)
B−04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(30/55/10/5)
B−05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/59/6)
B−06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(10/50/35/5)
B−07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(55/40/5)
B−08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸 共重合体(45/47/8)
B−09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(5/48/40/7)
B−10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/30/30/5)
B−11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸 共重合体(12/50/30/8)
B−12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(93/2/5)
B−13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/5/20/25)
B−14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)
B−15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/51/4)
B−16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/49/6)
B−17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/48/7)
B−18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/47/8)
B−19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/45/10)
B−20:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/72/8)
B−21:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(40/52/8)
B−22:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/62/10/8)
B−23メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/72/8)
【0150】
前記自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては特に制限はなく、例えば、重合性界面活性剤の存在下に、乳化重合を行い、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、上記親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマー又は脂環族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法により、共重合させる方法を挙げることができる。前記重合法の中でも、凝集速度とインク組成物としたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶媒を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0151】
前記自己分散性樹脂粒子は、凝集速度の観点から、有機溶媒中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはアニオン性基(カルボキシル基)を有し、(好ましくは酸価が20〜100であって)該ポリマーのアニオン性基(カルボキシル基)の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。
すなわち、前記自己分散性樹脂粒子の製造は、有機溶媒中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのアニオン性基(カルボキシル基)の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程と、を設けて行なうことが好ましい。
【0152】
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程
工程(2):前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程
【0153】
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性樹脂粒子を得ることができる。
該混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
また、前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性樹脂粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0154】
前記有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。有機溶媒としては、特開2010−188661号公報の段落0059に例示された有機溶媒を用いることができる。
前記中和剤としては、特開2010−188661号公報の段落0060〜0061に例示された中和剤を用いることができる。
【0155】
本発明で用いることができる樹脂粒子(特に自己分散性樹脂粒子)の平均粒子径は、体積平均粒子径で10〜400nmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、10〜100nmの範囲が更に好ましく、特に好ましくは10〜50nmの範囲である。体積平均粒子径が10nm以上であると製造適性が向上する。また、体積平均粒子径が400nm以下であると保存安定性が向上する。また、前記樹脂粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、前記樹脂粒子を2種以上混合して使用してもよい。
なお、樹脂粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0156】
本発明におけるインク組成物が樹脂粒子(好ましくは自己分散性樹脂粒子)を含む場合、該樹脂粒子(好ましくは自己分散性樹脂粒子)を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
本発明におけるインク組成物が樹脂粒子(好ましくは自己分散性樹脂粒子)を含む場合、樹脂粒子(好ましくは自己分散性樹脂粒子)のインク組成物中における含有量(総含有量)としては、画像の光沢性などの観点から、インク組成物全量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。
【0157】
(水)
本発明におけるインク組成物は、水を含有することが好ましい。水の含有量は、特に制限はないが、10〜99質量%の範囲が好ましく、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0158】
(有機溶剤)
本発明におけるインク組成物は、有機溶剤(好ましくは、水溶性有機溶剤)の少なくとも1種を更に含有することがより好ましい。有機溶剤、特に、水溶性有機溶剤を含有することで、乾燥防止、浸透促進を図ることができる。
水溶性有機溶剤を乾燥防止剤として用いる場合、インク組成物をインクジェット法で吐出して画像記録する際に、インク吐出口でのインクの乾燥によって発生し得るノズルの目詰まりを効果的に防止することができる。
【0159】
乾燥防止のためには、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。乾燥防止に好適な水溶性有機溶剤の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。
中でも、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。また、これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの水溶性有機溶剤は、インク組成物中に10〜50質量%含有されることが好ましい。
【0160】
また、浸透促進のためには、インク組成物を記録媒体により良く浸透させる観点から水溶性有機溶剤が好適に用いられる。浸透促進に好適な水溶性有機溶剤の具体的な例としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等が挙げられる。これらは、インク組成物中に5〜30質量%含有されることで良好な効果が得られる。また、これらの水溶性有機溶剤は、印字・画像の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲内で用いられるのが好ましい。
【0161】
また、水溶性有機溶剤は、上記以外にも粘度の調整に用いることができる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶剤の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。
なお、水溶性有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0162】
(界面活性剤)
本発明におけるインク組成物は、界面活性剤の少なくとも1種を含有することが好ましい。
前記界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。凝集速度の観点からは、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0163】
界面活性剤は、インクジェット法で良好に打滴するために、インク組成物の表面張力を25mN/m以上40mN/m以下に調整できる量を含有するのが好ましい。中でも、界面活性剤の含有量は、表面張力を27〜37mN/mに調整できる量が好ましい。
【0164】
また、これら界面活性剤は、消泡剤としても使用することができる。該界面活性剤としては、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等、も使用することができる。
【0165】
(重合性化合物、重合開始剤)
本発明におけるインク組成物は、上記成分以外に重合性化合物を更に含有することができる。重合性化合物とは、重合性基を有する化合物であって、前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。前記重合性基としては、水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
また、本発明におけるインク組成物は、重合性化合物のほかに、重合開始剤を含有することができる。前記重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤が挙げられる。
【0166】
(その他の添加剤)
本発明におけるインク組成物は、上記成分以外にその他の添加剤を更に含有することができる。その他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、インク組成物を調製後に直接添加してもよく、インク組成物の調製時に添加してもよい。
【0167】
前記pH調整剤としては、中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。pH調整剤は、インク組成物の保存安定性を向上させる観点から、インク組成物のpHが6〜10となるように添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0168】
本発明におけるインク組成物の粘度は、インクジェット法で吐出する場合の吐出安定性、及び後述の処理液を用いた際の凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。
粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定されるものである。
【0169】
本発明におけるインク組成物は、カルボキシル基を有するポリマー分散剤で被覆された顔料と、樹脂粒子とを含み、固形分含有率が7〜10質量%であって、顔料に対する顔料以外の固形分の含有比が0.8〜1.6であることが好ましく、アクリル系ポリマーで被覆された顔料と、自己分散性樹脂粒子とを含み、固形分含有率が7〜9質量%であって、顔料に対する顔料以外の固形分の含有比が1.0〜1.4であることがより好ましい。
【0170】
以上、本発明のインクセットについて説明したが、本発明のインクセットは、前記インク組成物の少なくとも1種と、前記処理液と、の組み合わせを含んでいれば、具体的な構成には特に限定はない。
本発明のインクセットの好適な構成としては、前記インク組成物であるシアンインクと、前記インク組成物であるマゼンタインクと、前記インク組成物であるイエローインクと、前記処理液と、の組み合わせからなる構成(3色構成)や、前記インク組成物であるブラックインクと、前記インク組成物であるシアンインクと、前記インク組成物であるシアンインクと、前記インク組成物であるマゼンタインクと、前記インク組成物であるイエローインクと、前記処理液と、の組み合わせからなる構成(4色構成)が挙げられる。
但し、本発明のインクセットは、必要に応じ、1種又は2種のインク組成物と処理液とからなる1色構成又は2色構成のインクセットであってもよい。
また、本発明のインクセットは、上述のインク組成物に加え、必要に応じ、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク、及びライトイエローインクから選択される少なくとも1つ等、その他のインク組成物を有していてもよい。上述のその他のインク組成物としては、公知のインク組成物を特に制限無く使用することができる。
また、本発明のインクセットは、必要に応じ、2種以上の処理液を含んでいてもよい。 本発明のインクセットが2種以上のインク組成物を含む場合、該インク組成物の少なくとも1種が、顔料を含有するインク組成物であればよい。また、本発明のインクセットが2種以上の処理液を含む場合、該処理液の少なくとも1種が、有機酸性化合物と上記特定高分子化合物とを含有する処理液であればよい。
本発明のインクセットは、下記の本発明の画像形成方法に好適に用いられるものである。
【0171】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、既述の本発明のインクセットが用いられ、前記処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、前記処理液付与工程で前記処理液が付与された記録媒体に前記インク組成物を付与するインク付与工程と、を有する。
かかる構成の画像形成方法により、画像のざらつき及び画像の均一性の低下を抑制できる。
【0172】
(処理液付与工程)
処理液付与工程は、前記処理液を記録媒体に付与する工程である。
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレッドコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、後述する。
【0173】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程前に設けられる。
すなわち、記録媒体上に、インク組成物を付与(打滴)する前に、予めインク組成物中の成分を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を打滴して画像化する。
これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0174】
また本発明においては、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥することが好ましい。これにより、にじみ防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0175】
加熱乾燥は、ヒーター等の公知の加熱手段やドライヤー等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。
加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒーター等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒーターを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0176】
(インク付与工程)
インク付与工程は、既述のインク組成物をインクジェット法により、処理液が付与された記録媒体上(の処理液上)に付与(打滴)する。
本工程では、記録媒体上にインク組成物を付与でき、所望の可視画像を形成できる。なお、インク組成物の詳細については既述の通りである。
【0177】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0178】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0179】
インクジェットヘッドとしては、単尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。
本発明の画像形成方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0180】
前記インク付与工程は、処理液付与工程の後、10秒以内に開始されることが好ましく、0.1秒以上10秒以内に開始されることがより好ましい。これにより高速に画像を記録することができる。
また本発明の画像形成方法においては、既述のインクセットを用いることで、高速に画像を記録した場合でも、着弾干渉が抑制され、高精細な画像を形成することができる。
ここで「処理液付与工程の後、10秒以内に開始」とは、処理液の付与・乾燥終了から、最初のインク滴が記録媒体上に着滴するまでの時間が10秒以内であることを意味する。
【0181】
また、前記インク付与工程は、高精細印画の観点から、付与(打滴)されるインク滴の液滴量が1.5〜3.0pLであることが好ましく、1.5〜2.5pLであることがより好ましい。
尚、インク滴の液滴量は、打滴するインク組成物に応じて、インクジェット法における吐出条件を適宜選択することで調整することができる。
【0182】
(加熱定着工程)
本発明においては、インク付与工程後に、前記インク付与工程によって形成された画像(インク)を加熱定着する加熱定着工程を更に設けることが好ましい。
かかる加熱定着により、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の耐擦過性がより向上する。
【0183】
前記加熱は、画像中の樹脂粒子の最低造膜温度(MFT)以上の温度で行なうことが好ましい。MFT以上に加熱されることで、粒子が皮膜化して画像が強化される。
加熱と共に加圧する場合、加圧時における圧力は、表面平滑化の点で、0.1〜3.0MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0MPaの範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.5MPaの範囲である。
【0184】
加熱の方法は特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等で加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。
また、加熱加圧の方法は、特に制限はないが、例えば、熱板を記録媒体の画像形成面に押圧する方法や、一対の加熱加圧ローラ、一対の加熱加圧ベルト、あるいは記録媒体の画像記録面側に配された加熱加圧ベルトとその反対側に配された保持ローラとを備えた加熱加圧装置を用い、対をなすローラ等を通過させる方法など、接触させて加熱定着を行なう方法が好適に挙げられる。
【0185】
加熱加圧する場合、好ましいニップ時間は、1ミリ秒〜10秒であり、より好ましくは2ミリ秒〜1秒であり、更に好ましくは4ミリ秒〜100ミリ秒である。また、好ましいニップ幅は、0.1mm〜100mmであり、より好ましくは0.5mm〜50mmであり、更に好ましくは1mm〜10mmである。
【0186】
前記加熱加圧ローラとしては、金属製の金属ローラでも、あるいは金属製の芯金の周囲に弾性体からなる被覆層及び必要に応じて表面層(又は離型層ともいう)が設けられたものでもよい。後者の芯金は、例えば、鉄製、アルミニウム製、SUS製等の円筒体で構成することができ、芯金の表面は被覆層で少なくとも一部が覆われているものが好ましい。被覆層は、特に、離型性を有するシリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂で形成されるのが好ましい。また、加熱加圧ローラの一方の芯金内部には、発熱体が内蔵されていることが好ましく、ローラ間に記録媒体を通すことによって、加熱処理と加圧処理とを同時に施したり、あるいは必要に応じて、2つの加熱ローラを用いて記録媒体を挟んで加熱してもよい。発熱体としては、例えば、ハロゲンランプヒーター、セラミックヒーター、ニクロム線等が好ましい。
【0187】
加熱加圧装置に用いられる加熱加圧ベルトを構成するベルト基材としては、シームレスのニッケル電鍮が好ましく、基材の厚さは10〜100μmが好ましい。また、ベルト基材の材質としては、ニッケル以外にもアルミニウム、鉄、ポリエチレン等を用いることができる。シリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂を設ける場合は、これら樹脂を用いて形成される層の厚みは、1〜50μmが好ましく、更に好ましくは10〜30μmである。
【0188】
また、前記圧力(ニップ圧)を実現するには、例えば、加熱加圧ローラ等のローラ両端に、ニップ間隙を考慮して所望のニップ圧が得られるように、張力を有するバネ等の弾性部材を選択して設置すればよい。
【0189】
加熱加圧ローラ、あるいは加熱加圧ベルトを用いる場合の記録媒体の搬送速度は、200〜700mm/秒が好ましく、より好ましくは300〜650mm/秒であり、更に好ましくは400〜600mm/秒である。
【0190】
(記録媒体)
本発明の画像形成方法では、上述のとおり、記録媒体上に画像が形成される。
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、セルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。
【0191】
また、記録媒体としては、いわゆる塗工紙が好適である。
塗工紙は、支持体となるセルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面に、無機顔料などを含有するコート層(塗工層ともいう。)を設けたものである。塗工紙は画像部の光沢ムラが発生しやすい傾向があるが、前記処理液にリン酸又はリン酸化合物を含む場合には、画像部の光沢ムラの発生を効果的に抑制することができる。具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙が好ましい。
【0192】
前記コート層に含有される無機顔料としては特に制限はないが、前記処理液にリン酸又はリン酸化合物を含有させることによる光沢ムラ抑制の効果がより顕著に発揮される観点から、シリカ、カリオン、クレー、焼成クレー、酸化亜鉛、酸化錫、硫酸マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、スメクタイト、ゼオライト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、及び珪藻土から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、炭酸カルシウム、シリカ、及びカリオンがより好ましい。特にコート層に炭酸カルシウムが含まれる場合に、リン酸又はリン酸化合物による光沢ムラ抑制の効果が特に顕著である。
【0193】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0194】
上記の中でも、色材移動の抑制効果が大きく、従来以上に色濃度及び色相の良好な高品位な画像を得る観点からは、好ましくは、水の吸収係数Kaが0.05〜0.5でmL/m・ms1/2の記録媒体であり、より好ましくは0.1〜0.4mL/m・ms1/2の記録媒体であり、更に好ましくは0.2〜0.3mL/m・ms1/2の記録媒体である。
【0195】
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機(株)製)を用いて接触時間100msと接触時間900msの水の転移量の差から算出されるものである。
【0196】
本発明において、処理液の付与量、及び水性インクの付与量は、必要に応じて調節することが好ましい。例えば、記録媒体に応じて、処理液と水性インクとが混合してできる凝集物の粘弾性等の物性を調節する等のために、処理液の付与量を変えてもよい。
【実施例】
【0197】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。尚、特に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。また、「wt%」は質量%を示す。
【0198】
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した。GPCは、特に断りがない限り、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel、Super Multipore HZ−H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いた。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なった。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製した。
【0199】
<一般式(A)で表される構造単位を含む高分子化合物の合成>
一般式(A)で表される構造単位を含む高分子化合物として、水溶性ポリマーであるポリマーaa−1〜aa−13を合成した。
【0200】
(ポリマーaa−1の合成)
下記スキームに従って、ポリマーaa−1を合成した。
【0201】
【化10】

【0202】
上記スキームでは、モノマー種として、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、及びアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を用いた。質量比〔メチルメタクリレート(MMA)(a)/エチルアクリレート(EA)(b)/アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)(c)〕は、56/17/27とした。
【0203】
上記スキームの詳細な操作は以下のとおりである。
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた200ミリリットル三口フラスコに、イソプロピルアルコール30.0gを仕込んで、窒素雰囲気下に、65℃まで昇温した。
次に、メチルメタクリレート(28.0g)、エチルアクリレート(8.5g)、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(13.5g)、イソプロピルアルコール(30g)、水(15g)、及び「V−601」(和光純薬工業(株)製の重合開始剤)(2.97g(0.0129モル);モノマーの総モル数(0.430モル)に対して3モル%)を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。
滴下完了後2時間攪拌し、その後、「V−601」(モノマーの総モル数に対して1.5モル%(1.48g))及びイソプロピルアルコール(3.0g)を加え、2時間攪拌を行った。
得られたポリマー溶液を、用いたアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と等モル数の水酸化ナトリウムの水溶液で中和し、減圧濃縮によってイソプロピルアルコールを留去し、ポリマー溶液の総量が250gになるまで水を加え、ポリマーaa−1を20質量%含むポリマー水溶液を得た。
得られたポリマーaa−1の重量平均分子量(Mw)は40200(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出、使用カラムはTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製))であった。
【0204】
(ポリマーaa−2〜aa−13の合成)
ポリマーaa−1の合成において、モノマー種及び比率を、後述の表2に示すように変更したこと以外はポリマーaa−1の合成と同様にして、ポリマーaa−2〜aa−13を合成した。ポリマーaa−2〜aa−13の合成において、モノマーの総質量はポリマーaa−1の合成におけるモノマーの総質量と同じ量とした。
【0205】
<ポリマー分散剤P−1の合成>
下記スキームにしたがって、以下に示すようにしてポリマー分散剤P−1を合成した。
【0206】
【化11】

【0207】
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、ポリマー分散剤P−1を96g得た。なお、上記に示したポリマー分散剤P−1の各構成単位の数字は質量比を表す。
得られた樹脂の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44,600であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法により酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
【0208】
<顔料分散液の調製>
(シアン分散液の調製)
シアン顔料であるピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブル−A220、大日精化株式会社製)10部と、前記ポリマー分散剤P−1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1規定 NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部と、を混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去した後、更に、高速遠心冷却機7550(久保田製作所製)を用いて、50mL遠心管を使用し、8000rpmで30分間遠心処理を行ない、沈殿物以外の上澄み液を回収した。その後、吸光度スペクトルから顔料濃度を求め、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(シアン分散液C)を得た。得られたシアン分散液Cの平均粒径は105nmであった。
【0209】
(マゼンタ分散液の調製)
シアン分散液の調製において、ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブル−A220、大日精化株式会社製)の代わりに、マゼンタ顔料であるピグメント・レッド122を用いた以外はシアン分散液の調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(マゼンタ分散液M)を調製した。得られたマゼンタ分散液Mの平均粒径は85nmであった。
【0210】
(イエロー分散液の調製)
シアン分散液の調製において、ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブル−A220、大日精化株式会社製)の代わりに、イエロー顔料であるピグメントイエロー74を用いた以外は、同様の方法で樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(イエロー分散液Y)を調製した。得られたイエロー分散液Yの平均粒径は82nmであった。
【0211】
(ブラック分散液の調製)
シアン分散液の調製において、ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブル−A220、大日精化株式会社製)の代わりに、カーボンブラック(デグッサ社製NIPEX160−IQ)を用いた以外は、同様の方法で樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(ブラック分散液K)を調製した。得られたブラック分散液Kの平均粒径は130nmであった。
【0212】
<自己分散性樹脂粒子の調製>
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。反応容器内温度を75℃に保ちながら、フェノキシエチルアクリレート180.0g、メチルメタクリレート162.0g、アクリル酸18.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V−601」(和光純薬(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V−601」0.72g、メチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.72g、イソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続けた。得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は64000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出、使用カラムはTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製))、酸価は38.9(mgKOH/g)であった。
次に、重合溶液668.3gを秤量し、イソプロパノール388.3g、1mol/L NaOH水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化せしめた。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で913.7g留去し、固形分濃度28.0%の自己分散性樹脂微粒子(B−01)の水分散物(エマルジョン)を得た。なお、下記に示した化合物例(B−01)の各構成単位の数字は質量比を表す。以下、各構造式に関しても同様である。
【0213】
【化12】



【0214】
<インクの作製>
上記で得られた各顔料分散液(シアン分散液C,マゼンタ分散液M,イエロー分散液Y,ブラック分散液K)及び自己分散性樹脂粒子B−01を用い、下記表1に示すインクの組成となるように各成分を混合し、各インク組成物(マゼンタインク組成物M1、M2、ブラックインク組成物K1、K2、シアンインク組成物C1、C2、イエローインク組成物Y1、Y2)をそれぞれ調製した。
調製した各インク組成物をプラスチック製ディスポーサブルシリンジにて、PVDF5μmフィルター(ミリポア社製Millex SV、直径25mm)で濾過して完成インク(マゼンタインクM1、M2、ブラックインクK1、K2、シアンインクC1、C2、イエローインクY1、Y2)とした。
各完成インクについて、東亜DKK(株)製pHメーターWM−50EGを用いてpHを測定した。また、協和界面科学(株)製 FASE Automatic Surface Tensionmeter CBVP−Zにて、表面張力を測定した。
結果を表1に示す。
【0215】
【表1】

【0216】
<表1の説明>
・ニューポールGP−250 … 山洋化学工業(株)製の有機溶剤
・オルフィンE1010 … 日信化学工業(株)製のノニオン系界面活性剤
【0217】
<処理液の作製>
下記表2に示す処理液1〜32(処理液No.1〜32)を作製した。
以下、処理液7の作製を中心に説明する。
(処理液7の作製)
下記組成を混合して、処理液7を作製した。
−処理液7の組成−
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル … 4質量%
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル … 4質量%
・有機酸性化合物(マロン酸) … 17.2質量%
・リン酸 … 4.3質量%
・水溶性ポリマー(ポリマーaa−1) … 0.5質量%
・ベンゾトリアゾール … 1質量%
・イオン交換水 … 残量
【0218】
(処理液1〜6及び8〜32)
前記処理液7の作製において、水溶性ポリマーの種類及び含有量、有機酸性化合物の種類、並びにリン酸又はリン酸化合物(以下、「リン酸等」ともいう)の有無、を下記表2に示すように変更したこと以外は処理液7の作製と同様にして、処理液1〜6及び8〜32を作製した。
処理液1〜6及び8〜32において、有機酸性化合物の総含有量及びリン酸等の総含有量は、それぞれ、処理液7における有機酸性化合物の総含有量及びリン酸等の総含有量と同じとなるようにした。
また、有機酸性化合物として2種の化合物を用いた例では、当該2種の化合物の質量比は1:1とし、有機酸性化合物として3種の化合物を用いた例では、当該3種の化合物の質量比は1:1:1とした。
【0219】
<インクセット>
上記各完成インク(マゼンタインクM1、M2、ブラックインクK1、K2、シアンインクC1、C2、イエローインクY1、Y2)と、各処理液(処理液1〜32)と、を下記表2に示すように組み合わせたインクセット1〜35を準備した。
下記表2では、マゼンタインクM1、ブラックインクK1、シアンインクC1、及びイエローインクY1の組み合わせをインクNo.1(インク1)とし、マゼンタインクM2、ブラックインクK2、シアンインクC2、及びイエローインクY2の組み合わせをインクNo.2(インク2)とした。
【0220】
<インクジェット画像記録>
記録媒体としてA4サイズの特菱アート(三菱製紙製)を用い、下記表2に示すインクセット1〜35を用い、下記画像記録条件で画像を描画記録した。
尚、下記画像記録では、処理液付与工程の後、10秒以内にインク打滴が開始されるようにした。
【0221】
(処理液付与工程)
記録媒体へのインク付与の直前に、処理液を塗布バーを用いて、塗工量1.7g/mになるように記録媒体表面に塗設した。
【0222】
次いで、記録媒体上に付与された処理液を、下記条件で乾燥させた。
〜処理液用乾燥条件(送風乾燥)〜
風速: 15m/s
温度及び加熱方法: 記録媒体の表面温度(処理液が付与された側の温度)が60℃となるように記録媒体の背面(処理液が付与されていない側の面)から接触型平面ヒーターで加熱した。
送風領域: 450mm(乾燥時間0.7秒)
【0223】
(インク付与工程)
処理液が付与された記録媒体上に、下記の条件で4色シングルパス画像形成を行った。
具体的には、処理液が付与された記録媒体の該処理液上に、下記条件で各色のインクを付与(打滴)して画像を形成した。
ヘッド :1,200dpi/20inch幅ピエゾフルラインヘッドを4色分配置したヘッドを用いた。
吐出液滴量:2.4pLとした。
駆動周波数:30kHz(記録媒体搬送速度635mm/sec)とした。
【0224】
次に、記録媒体上に付与されたインクを下記条件で乾燥させた。
〜インク用乾燥条件(送風乾燥)〜
風速 :15m/s
温度 :記録媒体の表面温度(インクが付与された側の温度)が60℃となるように記録媒体の背面(インクが付与されていない側の面)から接触型平面ヒーターで加熱した。
送風領域:640mm(乾燥時間1秒間)
【0225】
(加熱定着工程)
上記インクの付与により形成された画像を、シリコンゴムローラ(硬度50°、ニップ幅5mm)を用い、下記条件で加熱定着した。
これにより、記録媒体上に画像が形成された試料を得た。
〜加熱定着の条件〜
ローラ温度:90℃
圧力:0.8MPa
【0226】
<評価>
1.画像の均一性
上記インク付与工程において、シアンインクを全面に描画し、シアンベタ画像を得た。
得られたシアンベタ画像に対し、上述の加熱定着処理を施した。
加熱定着後のシアンベタ画像を目視で観察し、画像の均一性を下記基準に従って評価した。評価結果を下記表2に示す。
−評価基準−
A:全体に色むらや白抜けスジ等が見られず均一であった。
B:良く見ると稀に微小な白抜け点が観察されるが全体としてはほぼ均一であった。
C:わずかに細かい白抜け点が観察されるが濃淡差は極僅かであった。
D:すじ状の白抜けが散発し部分濃淡差が見られるが、実用上の許容範囲内であった。
E:大きな縞状の濃淡が発生し、実用上の許容範囲を超えていた。
【0227】
2.画像のざらつき評価
上記インク付与工程において、処理液上にマゼンタインクをベタ状に付与してマゼンタのベタ画像を形成し、得られたマゼンタのベタ画像上にシアンインクを網点面積率50%〜80%となるように網点状に付与し、2次色画像を得た。
得られた2次色画像に対し、上述の加熱定着処理を施した。
加熱定着後の2次色画像を目視で観察し、画像のざらつきを下記基準に従って評価した。評価結果を下記表2に示す。
−評価基準−
A:全体にざらつきが見られず均一であった。
B:わずかに微小なざらつきが見られるが、全体としてはほぼ均一であった。
C:微小なざらつきが見られた。
D:ざらつきが見られるが、実用上の許容範囲内であった。
E:強い濃淡をもったざらつきが多く発生し、均一とは言えないレベルであり、実用上の許容範囲を超えていた。
【0228】
3.画像の光沢ムラ評価
前記ざらつき評価と同様にして、記録媒体に2次色画像を形成した(以下、画像が形成された側の面を、便宜上「オモテ面」とする)。次に、この記録媒体の裏面(2次色画像が形成されていない側の面)の一部に、オモテ面に形成された2次色画像と同じ条件で2次色画像を形成した。これにより、一つの記録媒体上に、片面にのみ2次色画像が形成された片面画像部と、両面に2次色画像が形成された両面画像部と、を設けた。
次に、片面画像部における2次色画像の光沢度(以下、「光沢度a」とする)と、両面画像部における2次色画像の光沢度(以下、「光沢度b」とする)と、をそれぞれ測定した。ここで、光沢度の測定は、HORIBA GLOSS CHECKER IG−331(堀場製作所社製)を用い、入射角60°の条件で行った。
光沢度aと光沢度bとの差に基づき、下記評価基準に従って、光沢ムラを評価した。評価結果を下記表2に示す。
なお、ここでの光沢ムラは、記録媒体に含まれる炭酸カルシウムと処理液に含まれる有機酸性化合物とが反応してカルシウム塩が生じることにより発生するムラである。このため、光沢度aと光沢度bとの差が大きいほど、光沢ムラが顕著となる。
−評価基準−
A:光沢度aと光沢度bとの差が、1%未満であった。
B:光沢度aと光沢度bとの差が、1%以上5%未満であった。
C:光沢度aと光沢度bとの差が、5%以上10%未満であり許容限界だった。
D:光沢度aと光沢度bとの差が、10%以上であり、実用不可レベルであった。
【0229】
【表2】

【0230】
<表2の説明>
表2において、水溶性ポリマー欄の「MMA+EA+AMPS(56/17/27)」等の表記は、モノマー種及び組成比を表している。
例えば、「MMA+EA+AMPS(56/17/27)」との表記は、質量比〔メチルメタクリレート(MMA)(a)/エチルアクリレート(EA)(b)/アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)(c)〕=56/17/27で共重合させて得られたポリマーであることを示している。
上記表2におけるモノマー種の構造を以下に示す。
下記モノマー種の構造において、Meはメチル基であり、Etはエチル基であり、nBuはノルマルブチル基であり、tBuはターシャリーブチル基であり、Bzはベンジル基であり、Phはフェニル基である。
【0231】
【化13】

【0232】
表2において、水溶性ポリマー欄のポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸としては、市販品を用いた。
また、ポリリン酸としては、CAS番号8017−16−1のポリリン酸(市販品)を用いた。
【0233】
表2に示すように、処理液が一般式(A)で表される構造単位を有する高分子化合物を含んでいるインクセット7〜35では、処理液が該高分子化合物を含んでいないインクセット1〜6と比較して、画像の均一性に優れ、画像のざらつきが抑制されていた。
【0234】
インクセット7〜35の中でも、処理液が一般式(A)で表される構造単位及び一般式(B)で表される構造単位を有する高分子化合物を含んでいるインクセット8及び11〜35では、画像の均一性に更に優れ、画像のざらつきが更に抑制されていた。
また、インクセット7〜35においては、処理液がリン酸又はリン酸化合物を含む場合に光沢ムラが改善されることが確認された。
【0235】
以上では、シアンインクによるシアンベタ画像、並びにマゼンタインク及びシアンインクによる2次色画像の評価結果について説明したが、ブラックインクを用いて形成された網点面積率50%〜80%の網点画像(ブラック単色画像)についても同様の評価を行ったところ、2次色画像の評価結果と同様の評価結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有するインク組成物と、
有機酸性化合物及び下記一般式(A)で表される構造単位を含む高分子化合物を含有する処理液と、
を含むインクセット。
【化1】


〔一般式(A)中、Ra1は水素原子又はメチル基を表す。
一般式(A)中、La1は、単結合、−COO−、又は−CONRa3−(Ra3は、水素原子、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基を表す)を表す。
一般式(A)中、La2は、単結合、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の2価の連結基を表す。
一般式(A)中、Aはイオン性基を表す。〕
【請求項2】
前記高分子化合物が、更に、下記一般式(B)で表される構造単位を含む請求項1に記載のインクセット。
【化2】


〔一般式(B)中、Rb1は、水素原子又はメチル基を表す。
一般式(B)中、Lb1は、単結合、−COO−、又は−CONRb3−(Rb3は、水素原子、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基を表す)を表す。
一般式(B)中、Rb2は、水素原子、又は、エーテル結合、チオエーテル結合、及びエステル結合の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜30の1価の基を表す。
但し、前記Rb2が水素原子であるときは、前記Lb1は単結合である。〕
【請求項3】
前記Aが、アニオン性基である請求項1又は請求項2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記Rb2が、直鎖の炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、分岐構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、環構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基である請求項2又は請求項3に記載のインクセット。
【請求項5】
前記高分子化合物中における前記一般式(A)で表される構造単位の含有量が、10質量%〜50質量%である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
前記高分子化合物の重量平均分子量が、20000〜80000である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項7】
前記Ra1が水素原子であり、前記La1が−COO−又は−CONH−であり、前記La2が炭素数1〜12のアルキレン基であり、前記Aがカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記Rb1が水素原子又はメチル基であり、前記Lb1が−COO−であり、前記Rb2が、直鎖の炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、分岐構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、環構造を有する炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基である請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項8】
前記処理液の全量に対する前記高分子化合物の含有量が、0.1質量%〜10質量%である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項9】
前記インク組成物が、更に、樹脂粒子を含む請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項10】
前記処理液が、更に、リン酸及びリン酸化合物の少なくとも一方を含む請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項11】
前記有機酸性化合物が、DL−リンゴ酸、マロン酸、グルタル酸、ジメチルマロン酸、及びマレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項12】
請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のインクセットが用いられ、
前記処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、
前記処理液付与工程で前記処理液が付与された記録媒体に前記インク組成物を付与するインク付与工程と、
を有する画像形成方法。
【請求項13】
更に、前記インク付与工程によって形成された画像を加熱定着する加熱定着工程を有する請求項12に記載の画像形成方法。
【請求項14】
前記記録媒体が炭酸カルシウムを含有するコート層を有する請求項12又は請求項13に記載の画像形成方法。

【公開番号】特開2013−1854(P2013−1854A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135773(P2011−135773)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】