説明

インクセット

【課題】金属特有の光沢感に優れた記録物の形成に好適に用いることのできるインクセットを提供すること。
【解決手段】本発明のインクセットは、インクジェット方式により吐出される紫外線硬化型インクジェット用インクを複数種備えるものであって、前記紫外線硬化型インクジェット用インクとして、第1の金属粉末を含み、記録媒体上に吐出されたとき金色を呈する第1のインク、第2の金属粉末を含み、記録媒体上に吐出されたとき銀色を呈する第2のインク、および、第3の金属粉末を含み、記録媒体上に吐出されたとき銅色を呈する第3のインクのうち、少なくとも2つを備えることを特徴とする。第1の金属粉末、第2の金属粉末および第3の金属粉末は、それぞれ鱗片状をなしているのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。
他方、顔料または染料を含む組成物による記録媒体への記録方法として、インクジェット法による記録方法が用いられている。インクジェット法では、微細なパターンの形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。また、近年、インクジェット法において、耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を特に優れたものとするため等に、紫外線を照射すると硬化する組成物(紫外線硬化型インクジェット用インク)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような紫外線硬化型インクジェット用インクは、通常、色の三原色を呈する顔料や染料を含んでおり、色ごとのインクを表色系に基づいて吐出することにより、フルカラー印刷を可能にする。また、インクの吐出方法を工夫することにより、金属の質感を疑似的に表現することもできる。しかしながら、このような表現方法では、印刷物(印刷部)において金属が本来有している光沢感(高い輝度、明度)等の特性を十分に発揮させることができないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−57548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、金属特有の光沢感に優れた記録物の形成に好適に用いることのできるインクセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のインクセットは、インクジェット方式により吐出される紫外線硬化型インクジェット用インクを複数種備えるインクセットであって、
前記紫外線硬化型インクジェット用インクとして、第1の金属粉末を含み、記録媒体上に吐出されたとき金色を呈する第1のインク、第2の金属粉末を含み、記録媒体上に吐出されたとき銀色を呈する第2のインク、および、第3の金属粉末を含み、記録媒体上に吐出されたとき銅色を呈する第3のインクのうち、少なくとも2つを備えることを特徴とする。
これにより、金属特有の光沢感に優れた記録物の形成に好適に用いることのできるインクセットが得られる。
【0007】
本発明のインクセットでは、前記第1の金属粉末、前記第2の金属粉末および前記第3の金属粉末は、それぞれ鱗片状をなしていることが好ましい。
これにより、インクジェット法により記録媒体上に液滴として吐出されたとき、自ずと、金属粉末の主面が記録媒体の表面形状に沿うように配置されることとなる。その結果、得られた印刷部は、一定の向きに配置された金属粉末に基づいて、優れた光反射特性を有するものとなり、金属材料が本来有している金属光沢感を十分に発現したものとなる。
【0008】
本発明のインクセットでは、前記第1の金属粉末、前記第2の金属粉末および前記第3の金属粉末の各平均粒径は、それぞれ500nm以上2μm以下であることが好ましい。
これにより、各インクを用いて形成される印刷部の明度、輝度をさらに高いものとすることができ、その結果、インクセット全体として、光沢感、高級感の高い印刷部をさらに好適に形成することができる。
【0009】
本発明のインクセットでは、前記第1の金属粉末は、金または真鍮を主材料とするものであることが好ましい。
これにより、金が本来有している金属光沢感に近い光反射特性を有し、美感、質感においてとりわけ優れた印刷部が得られる。
本発明のインクセットでは、前記第2の金属粉末は、鉄またはアルミニウムを主材料とするものであることが好ましい。
これにより、銀が本来有している金属光沢感に近い光反射特性を有し、美感、質感においてとりわけ優れた印刷部が得られる。
【0010】
本発明のインクセットでは、前記第3の金属粉末は、銅を主材料とするものであることが好ましい。
これにより、銅が本来有している金属光沢感に近い光反射特性を有し、美感、質感においてとりわけ優れた印刷部が得られる。
本発明のインクセットでは、前記第1の金属粉末、前記第2の金属粉末および前記第3の金属粉末は、それぞれ水アトマイズ法により製造されたものであることが好ましい。
これにより、各インクを用いて形成される印刷部の明度、輝度をさらに高いものとすることができ、その結果、インクセット全体として、光沢感、高級感の高い印刷部をさらに好適に形成することができる。また、各インクの保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0011】
本発明のインクセットでは、前記第1のインク、前記第2のインクおよび前記第3のインクは、それぞれ、紫外線の照射により重合する重合性化合物としてフェノキシエチルアクリレートを含むものであることが好ましい。
これにより、各インクの保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の各インクの反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成される印刷部の耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0012】
本発明のインクセットでは、前記第1のインク、前記第2のインクおよび前記第3のインクは、それぞれ前記重合性化合物として、前記フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
これにより、各インクの保存安定性を特に優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の各インクの反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成される印刷部の耐擦性等をさらに優れたものとすることができる。
【0013】
本発明のインクセットでは、前記第1のインク、前記第2のインクおよび前記第3のインクは、それぞれ、紫外線の照射により重合する重合性化合物としてジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよびアミノアクリレートの少なくとも一方を含むものであることが好ましい。
これにより、各インクの保存安定性をより優れたものとしつつ、形成される印刷部の耐擦性等をさらに優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[インクセット]
ところで、従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。また、箔押し印刷では、オンデマンド性が低く、多品種生産への対応が困難であるという問題があった。
【0015】
他方、顔料または染料を含む組成物による記録媒体への記録方法として、インクジェット法による記録方法が用いられている。インクジェット法では、微細な印刷部の形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。また、近年、インクジェット法において、耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を特に優れたものとするため等に、紫外線を照射すると硬化する組成物(紫外線硬化型インクジェット用インク)が用いられている。
【0016】
このような紫外線硬化型インクジェット用インクは、通常、色の三原色を呈する顔料や染料を含んでおり、色ごとのインクを表色系に基づいて吐出することにより、フルカラー印刷を可能にする。また、インクの吐出方法を工夫することにより、金属の質感を疑似的に表現することが可能であるが、この表現方法では、金属が本来有している光沢感(高い輝度、明度)等の特性を十分に発揮させることができないという問題があった。
【0017】
そこで、発明者は、上記のような問題を解決する目的で鋭意研究を行った結果、本発明に至った。すなわち、本発明のインクセットは、インクジェット方式により吐出される紫外線硬化型インクジェット用インク(インク)を複数種備えるものであって、紫外線硬化型インクジェット用インクとして、印刷部が金色を呈する第1のインク、印刷部が銀色を呈する第2のインク、および印刷部が銅色を呈する第3のインクのうち、少なくとも2つを備えるものである。そして、各インクは、それぞれ金属粉末を含んでおり、各インクに含まれる金属粉末は、互いに異なる組成の金属材料で構成されたものである。
【0018】
このように、印刷部がそれぞれ金色、銀色、銅色を呈する3種類のインクのうち、少なくとも2種類を備えることにより、本発明のインクセットは、従来のインクセットでは表現することが難しかった、金属が本来有している光沢感等の特性を十分に再現することができる。特に、金属特有の光沢の中でもやや黄色がかっている金色と、やや灰色がかっている銀色と、やや赤色がかっている銅色のうち、少なくとも2色を吐出し得るよう構成されていることで、ほとんどの種類の金属材料の質感を確実に再現することが可能である。このため、高級感に富んだ記録物が得られる。
【0019】
≪第1のインク≫
本発明のインクセットを構成する第1のインクは、インクジェット方式により吐出されるものであり、第1の金属粉末と、紫外線の照射により重合する重合性化合物とを含むものである。
このような第1のインクは、記録媒体上に吐出され、乾燥したときに金色を呈するインクである。
【0020】
ここで、金色とは、遷移金属元素の1種である金単体が呈する色またはそれに類似した色であり、日本工業規格の慣用色名にも金色として規格されている色であるが、具体的には、黄色またはそれに類似した色であって、かつ金属光沢を有する色である。
このような金色については、得られた印刷部の分光反射率を測定することにより特定することが可能である。
【0021】
具体的には、第1のインクを記録媒体上に吐出することで得られた印刷部について、400nm以上700nm以下の波長領域においてJIS Z 8722(物体色の測定方法)に従って分光反射率(反射スペクトル)を測定したとき、波長550nm以上では相対的に高い反射率を有し、波長450nm以下ではそれより低い反射率になるスペクトルが得られるよう、第1のインクが調製されているのが好ましい。具体的には、波長550nm以上における反射率は、60%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。一方、波長450nm以下における反射率は、10%以上50%以下であるのが好ましく、20%以上40%以下であるのがより好ましい。このような分光反射率を有する第1のインクの印刷部は、人が視認したとき、それが金色を呈していると感じられるものとなる。
なお、分光反射率の測定にあたっては、記録媒体に白色の紙を使用し、第1のインクの印刷部の厚さは100nm以上になるよう設定される。
【0022】
<第1の金属粉末>
上述したように、本発明のインクセットを構成する第1のインクは、第1の金属粉末を含んでいる。
第1の金属粉末の粒子形状としては、特に限定されず、略球状、鱗片状、針状等の形状が挙げられる。このうち、第1のインク中に含まれる金属粒子は、鱗片状をなしているのが好ましい。このような形状の金属粉末は、インクジェット法により記録媒体上に液滴として吐出されたとき、自ずと、その主面が記録媒体の表面形状に沿うように配置されることとなる。その結果、得られた印刷部は、一定の向きに配置された金属粉末に基づいて、優れた光反射特性を有するものとなり、金属材料が本来有している金属光沢感を十分に発現したものとなる。よって、得られた印刷部は、美感、質感において特に優れたものとなる。
【0023】
第1の金属粉末の構成材料は、第1のインクから得られた印刷部が金色を呈するよう設定されたものであれば、いかなる材料であってもよいが、好ましくは、金、セシウム、チタンのような単体の他、金含有合金、セシウム含有合金、チタン含有合金、銀−銅合金、アルミニウム青銅、真鍮、黄鉄鉱、黄銅鉱、キューバ鉱、磁硫鉄鉱、ペントランド鉱のような合金が挙げられる。
【0024】
このうち、光反射特性の観点から、金合金または真鍮を主材料とする金属粉末が好ましく用いられる。このような第1の金属粉末は、金が本来有している金属光沢感に近い光反射特性を有するものとなり、かかる第1の金属粉末を含む第1のインクから得られた印刷部は、美感、質感においてとりわけ優れたものとなる。また、このような材料は、化学的安定性に優れていることから、耐久性に優れた印刷部が得られる。
【0025】
なお、上述したような構成材料は、第1の金属粉末中に60質量%以上含まれているのが好ましく、70質量%以上含まれているのがより好ましい。この場合、上記の構成材料以外の成分としては、第1の金属粉末の製造時に不可避的に混入する成分等が挙げられ、例えば、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ケイ素、リン、硫黄、ヒ素、セレン、テルル等が挙げられる。
【0026】
また、第1の金属粉末は、粒子の表層と内部で構成材料が異なっていてもよい。この場合、表層の構成材料が前述したような材料であればよく、内部の構成材料については特に限定されない。表層の形成には、例えば、各種蒸着法、各種めっき法等が用いられる。さらに、例えばチタンやステンレス鋼のように表面を酸化させることで光の干渉現象を利用した発色が生じる材料を用いる場合、それにより金色に発色させた金属粉末を用いるようにしてもよい(酸化発色)。この発色は、表面の酸化膜の厚さによって色を変化させることができる。したがって、各種の酸化処理により酸化膜の厚さを調整することで、金色に発色する金属粉末を得ることができる。
また、第1の金属粉末は、前述したように、印刷部が金色を呈するように設定されているのであれば、異なる材料で構成された金属粉末の混合物であってもよい。例えば、金で構成された金属粉末と真鍮で構成された金属粉末との混合物を「第1の金属粉末」として用いるようにしてもよい。
【0027】
本発明において、鱗片状とは、平板状、湾曲板状等のように、所定の角度から観察した際(平面視した際)の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいい、特に、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S[μm]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S[μm]に対する比率(S/S)が、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは8以上である。この値としては、例えば、任意の10個の粒子について観察を行い、これらの粒子についての算出される値の平均値を採用することができる。
【0028】
第1の金属粉末の平均粒径は、500nm以上2μm以下であるのが好ましく、800nm以上1.8μm以下であるのがより好ましい。これにより、第1のインクを用いて製造される印刷部の光沢感、高級感をさらに優れたものにしつつ、第1の金属粉末の表面積が最適化され、第1のインクの保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。なお、本発明において、平均粒径とは、個数基準の平均粒径のことをいい、投影面積が最大となる方向から観察した際の面積Sと同一の面積を有する真円の直径の平均値のことをいう。
【0029】
第1のインク中の第1の金属粉末の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であるのがより好ましい。これにより、第1のインクを用いて製造される印刷部の光沢感、高級感をさらに優れたものにしつつ、金属粒子による触媒作用が著しく増大するのを抑制されることとなる。その結果、前述の光沢感や高級感と保存安定性とを高度に両立し得る第1のインクが得られる。
【0030】
このような第1の金属粉末は、いかなる方法で製造されたものであってもよく、例えば、インゴット等を粉砕することにより得られた粗大粉末を所望の粒径まで粉砕する粉砕法、蒸着等の気相成膜法等によりフィルム上に形成した金属膜を前記フィルムから剥離・粉砕させる方法(特に、液体中において剥離・粉砕を行い、前記液体中に分散させる方法)、化学的な造粒法等の方法により製造することができる。また、各種アトマイズ法により製造された金属粉末を用いるようにしてもよい。
【0031】
アトマイズ法は、溶融金属(溶湯)を水やガス等の冷却剤に衝突させ、微粉化して製造する方法である。このため、粒径の揃った金属粉末が得られる。したがって、アトマイズ法で製造された金属粉末を用いることにより、均一性の高い印刷部を製造可能な第1のインクが得られる。また、アトマイズ法では、粗大粒子が発生し難いので、第1のインクの吐出安定性をより高めることができる。
【0032】
なお、水アトマイズ法では、高温溶解した金属を水に衝突させて粉末を作ることから、水アトマイズ法により製造された粒子は、その表面が酸化し、化学的安定性の高いものとなり、水やモノマーとの反応性が低いものとなる。このため、第1のインクを用いて形成される印刷部の明度、輝度をさらに高いものとすることができ、その結果、インクセット全体として特に優れた光沢感を有する印刷部をさらに好適に形成することができる。また、第1のインクの保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
また、金属粒子を鱗片状にするためには、アトマイズ法で金属粒子を製造した後、圧延処理を施すようにすればよい。圧延処理としては、例えば、ロール圧延、ボールミル、スタンプミル等を用いた処理が用いられる。
【0033】
<重合性化合物>
第1のインクは、紫外線の照射により重合し、硬化する成分である重合性化合物を含むものである。このような成分を含むことにより、インクセットを用いて製造される記録物の耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を優れたものとすることができる。重合性化合物は、液状をなすものであり、第1のインクにおいて、金属粉末を分散する分散媒として機能するものであるのが好ましい。これにより、別途、記録物の製造過程において除去される(蒸発する)分散媒を用いる必要がなく、記録物の製造においても、分散媒を除去する工程を設ける必要がないため、記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。また、分散媒として一般に有機溶媒として用いられているものを使用する必要がないため、揮発性有機化合物(VOC)の問題の発生を防止することができる。また、重合性化合物を含むことにより、様々な記録媒体(基材)に対する、インクセットを用いて形成される印刷部の密着性を優れたものとすることができる。すなわち、重合性化合物を含むことにより、第1のインクは、メディア対応性に優れたものとなる。
【0034】
重合性化合物としては、紫外線の照射により重合する成分であればよく、例えば、各種モノマー、各種オリゴマー(ダイマー、トリマー等を含む)等を用いることができるが、第1のインクは、重合性化合物として、少なくともモノマー成分を含むものであるのが好ましい。モノマーは、オリゴマー成分等に比べて、一般に、低粘度の成分であるため、第1のインクの吐出安定性を特に優れたものとする上で有利である。
【0035】
重合性化合物としてのモノマーとしては、例えば、イソボニルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、PO変性ノニルフェノールアクリレート、EO変性ノニルフェノールアクリレート、EO変性2エチルヘキシルアクリレート、EO変性ノニルフェノールアクリレート、フェニルグリシジルエーテルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、EO変性フェノールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、EO変性フェノールアクリレート、EO変性クレゾールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1.9−ノナンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、ポリエチレングリコール300ジアクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピパレートジアクリレート、2−エチル−2−ブチル−プロパンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレート、ポリエチレングリコール600ジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1.9−ノナンジオールジアクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、PO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性水添ビスフェノールAジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル等が挙げられる。中でも、4−ヒドロキシブチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0036】
特に、第1のインクは、重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートを含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の第1のインクの反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成される印刷部の耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0037】
また、第1のインクは、重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性を特に優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の第1のインクの反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成される印刷部の耐擦性等をさらに優れたものとすることができる。
【0038】
また、第1のインクは、重合性化合物として、モノマー以外に、オリゴマーを含むものであってもよい。特に多官能のオリゴマーを含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性を優れたものとしつつ、形成される印刷部の耐擦性等を特に優れたものとすることができる。なお、本発明では、重合性化合物の中でも、分子の骨格中に繰り返し構造を有し、分子量が600以上のものをオリゴマーと呼ぶ。オリゴマーとしては、繰り返し構造がウレタンであるウレタンオリゴマー、繰り返し構造がエポキシであるエポキシオリゴマー等が好ましく用いられる。
また、第1のインクは、重合性化合物として、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよびアミノアクリレートの少なくとも一方を含むのが好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性をより優れたものとしつつ、形成される印刷部の耐擦性等をさらに優れたものとすることができる。
【0039】
<その他の成分>
第1のインクは、上述した以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、光重合開始剤、スリップ剤(レベリング剤)、分散剤、重合促進剤、重合禁止剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、着色剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤、増感剤(増感色素)等が挙げられる。
【0040】
光重合開始剤は、紫外線照射によってラジカルやカチオン等の活性種を発生し、上記重合性化合物の重合反応を開始させるものであれば特に制限されない。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができるが、光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。光重合開始剤を用いる場合、当該光重合開始剤は、紫外線領域に吸収ピークを有していることが好ましい。
【0041】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物等)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アルキルアミン化合物等が挙げられる。
これらの中でも、重合性化合物への溶解性および硬化性の観点から、アシルホスフィンオキサイド化合物およびチオキサントン化合物から選択される少なくとも1種が好ましく、アシルホスフィンオキサイド化合物およびチオキサントン化合物を併用することがより好ましい。
【0042】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン、およびビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等が挙げられ、これらのうちから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
第1のインク中における光重合開始剤の含有量は、0.5質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。光重合開始剤の含有量が前記範囲であると、紫外線硬化速度が十分大きく、かつ、光重合開始剤の溶け残りや光重合開始剤に由来する着色がほとんどなくなる。
第1のインクがスリップ剤を含むものであると、レベリング作用により記録物の表面が平滑になり、耐擦性が向上する。
【0044】
スリップ剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーン等のシリコーン系界面活性剤を用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンまたはポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが好ましい。
第1のインクが分散剤を含むものであると、金属粉末の分散性を優れたものとすることができ、第1のインクの保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマーおよびコポリマー、アクリル系ポリマーおよびコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0045】
また、第1のインクは、記録物の製造工程において除去される(蒸発する)有機溶剤を含まないものであるのが好ましい。これにより、揮発性有機化合物(VOC)の問題の発生を効果的に防止することができる。
第1のインクの室温(20℃)での粘度は、20mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上15mPa・s以下であるのがより好ましい。これにより、インクジェット法による液滴吐出を好適に行うことができる。
【0046】
≪第2のインク≫
本発明のインクセットを構成する第2のインクは、インクジェット方式により吐出されるものであり、第2の金属粉末と、紫外線の照射により重合する重合性化合物とを含むものである。
このような第2のインクは、記録媒体上に吐出され、乾燥したときに銀色を呈するインクである。
【0047】
ここで、銀色とは、遷移金属元素の1種である銀単体が呈する色またはそれに類似した色であり、日本工業規格の慣用色名にも銀色として規格されている色であるが、具体的には、白色または灰色であって、かつ金属光沢を有する色である。
このような銀色については、得られた印刷部の分光反射率を測定することにより特定することが可能である。
【0048】
具体的には、第2のインクを記録媒体上に吐出することで得られた印刷部について、400nm以上700nm以下の波長領域においてJIS Z 8722(物体色の測定方法)に従って分光反射率(反射スペクトル)を測定したとき、前記波長領域の全体で高い反射率を有するスペクトルが得られるよう、第2のインクが調製されているのが好ましい。具体的には、波長400nm以上700nm以下における反射率は、60%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。このような分光反射率を有する第2のインクの印刷部は、人が視認したとき、それが銀色を呈していると感じられるものとなる。
なお、分光反射率の測定にあたっては、記録媒体に白色の紙を使用し、第1のインクの印刷部の厚さは100nm以上になるよう設定される。
【0049】
<第2の金属粉末>
上述したように、本発明のインクセットを構成する第2のインクは、第2の金属粉末を含んでいる。
第2の金属粉末の粒子形状、粒径、インク中の含有率、製法、粘度等は、第1の金属粉末と同様とされる。
【0050】
第2の金属粉末の構成材料は、第2のインクから得られた印刷部が銀色を呈するよう設定されたものであれば、いかなる材料であってもよいが、好ましくは、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、クロム、白金、スズ、亜鉛、インジウム、ジルコニウムのような単体の他、ステンレス鋼のような鉄含有合金、ジュラルミンのようなアルミニウム含有合金、ニッケル合金、銀合金、クロム合金、スズ合金、亜鉛合金、インジウム合金、ジルコニウム合金、白銅、洋白のような銅合金等が挙げられる。
【0051】
このうち、光反射特性の観点から、鉄またはアルミニウムを主材料とする金属粉末が好ましく用いられる。このような第2の金属粉末は、銀が本来有している金属光沢感に近い光反射特性を有するものとなり、かかる第2の金属粉末を含む第2のインクから得られた印刷部は、美感、質感においてとりわけ優れたものとなる。また、このような材料は、化学的安定性に優れていることから、耐久性に優れた印刷部が得られる。
【0052】
なお、上述したような構成材料は、第2の金属粉末中に60質量%以上含まれているのが好ましく、70質量%以上含まれているのがより好ましい。この場合、上記の構成材料以外の成分としては、第2の金属粉末の製造時に不可避的に混入する成分等が挙げられ、例えば、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ケイ素、リン、硫黄、ヒ素、セレン、テルル等が挙げられる。
【0053】
また、第2の金属粉末は、粒子の表層と内部で構成材料が異なっていてもよい。この場合、表層の構成材料が前述したような材料であればよく、内部の構成材料については特に限定されない。
また、第2の金属粉末は、前述したように、印刷部が銀色を呈するように設定されているのであれば、異なる材料で構成された金属粉末の混合物であってもよい。例えば、銀で構成された金属粉末とアルミニウムで構成された金属粉末との混合物を「第2の金属粉末」として用いるようにしてもよい。
【0054】
<重合性化合物>
第2のインクは、前述した第1のインクに含まれるのと同様の重合性化合物を含む。
第2のインクに含まれる重合性化合物としては、第1のインクに含まれる重合性化合物と異なる組成のものでも、同じ組成のものでもよい。
同じ組成の重合性化合物を用いる場合、第1のインクと第2のインクとが接するように吐出された際に、これらが混じり合ったとしても、相互の硬化性に悪影響を及ぼすことが確実に防止される。
一方、異なる組成の重合性化合物を用いる場合、第1のインクと第2のインクとが接するように吐出した場合でも、これらが混じり合い難い。このため、混じり合うことによるインクの滲み等を防止して、高精細な印刷部が得られる。
【0055】
<その他の成分>
第2のインクは、前述した第1のインクに含まれるのと同様のその他の成分を含んでいてもよい。
【0056】
≪第3のインク≫
本発明のインクセットを構成する第3のインクは、インクジェット方式により吐出されるものであり、第3の金属粉末と、紫外線の照射により重合する重合性化合物とを含むものである。
このような第3のインクは、記録媒体上に吐出され、乾燥したときに銅色を呈するインクである。
ここで、銅色とは、遷移金属元素の1種である銅単体が呈する色またはそれに類似した色であるが、具体的には、赤色または褐色であって、かつ金属光沢を有する色である。
【0057】
このような銅色については、得られた印刷部の分光反射率を測定することにより特定することが可能である。
具体的には、第3のインクを記録媒体上に吐出することで得られた印刷部について、400nm以上700nm以下の波長領域においてJIS Z 8722(物体色の測定方法)に従って分光反射率(反射スペクトル)を測定したとき、波長600nm以上で相対的に高い反射率を有し、波長550nm以下ではそれより低い反射率になるスペクトルが得られるよう、第3のインクが調製されているのが好ましい。具体的には、波長600nm以上における反射率は、65%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。一方、波長550nm以下における反射率は、15%以上60%以下であるのが好ましく、25%以上55%以下であるのがより好ましい。このような分光反射率を有する第3のインクの印刷部は、人が視認したとき、それが銅色を呈していると感じられるものとなる。
なお、分光反射率の測定にあたっては、記録媒体に白色の紙を使用し、第3のインクの印刷部の厚さは100nm以上になるよう設定される。
【0058】
<第3の金属粉末>
上述したように、本発明のインクセットを構成する第3のインクは、第3の金属粉末を含んでいる。
第3の金属粉末の粒子形状、粒径、インク中の含有率、製法、粘度等は、第1の金属粉末と同様とされる。
【0059】
第3の金属粉末の構成材料は、第3のインクから得られた印刷部が銅色を呈するよう設定されたものであれば、いかなる材料であってもよいが、好ましくは、銅単体の他、丹銅のような銅合金、ピンクゴールドのような金合金等が挙げられる。
なお、上述したような構成材料は、第3の金属粉末中に60質量%以上含まれているのが好ましく、70質量%以上含まれているのがより好ましい。この場合、上記の構成材料以外の成分としては、第3の金属粉末の製造時に不可避的に混入する成分等が挙げられ、例えば、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ケイ素、リン、硫黄、ヒ素、セレン、テルル等が挙げられる。
【0060】
また、第3の金属粉末は、粒子の表層と内部で構成材料が異なっていてもよい。この場合、表層の構成材料が前述したような材料であればよく、内部の構成材料については特に限定されない。
また、第3の金属粉末は、前述したように、印刷部が銅色を呈するように設定されているのであれば、異なる材料で構成された金属粉末の混合物であってもよい。例えば、銅で構成された金属粉末と銅合金で構成された金属粉末との混合物を「第3の金属粉末」として用いるようにしてもよい。
【0061】
<重合性化合物>
第3のインクは、前述した第1のインクに含まれるのと同様の重合性化合物を含む。
第3のインクに含まれる重合性化合物としては、第1のインクに含まれる重合性化合物と異なる組成のものでも、同じ組成のものでもよい。
同じ組成の重合性化合物を用いる場合、第1のインクと第3のインクとが接するように吐出された際に、これらが混じり合ったとしても、相互の硬化性に悪影響を及ぼすことが確実に防止される。
一方、異なる組成の重合性化合物を用いる場合、第1のインクと第3のインクとが接するように吐出した場合でも、これらが混じり合い難い。このため、混じり合うことによるインクの滲み等を防止して、高精細な印刷部が得られる。
【0062】
<その他の成分>
第3のインクは、前述した第1のインクに含まれるのと同様のその他の成分を含んでいてもよい。
【0063】
≪その他のインク≫
本発明のインクセットは、上述した第1のインク、第2のインクおよび第3のインクのうち、少なくとも2つを備えるものであればよいが、これらに加えて、さらに、その他のインクを備えるものであってもよい。
このようなインクとしては、それ単独で有彩色の印刷部の形成に用いることのできるインク(有彩色インク)や、着色剤および金属粉末を含まない無色インク(クリアーインク)等が挙げられる。特に、無色インクは、例えば、記録媒体の上述した第1のインク、第2のインクおよび第3のインクのうちの少なくとも2つが付与された部位の上に付与することにより、印刷部の耐久性(耐擦性等)を特に優れたものとすることができたり、また、記録媒体上に予め付与しておくことにより、記録媒体に対する各インクの密着性をより高めることができる。
【0064】
[記録物]
次に、本発明のインクセットを用いて形成される記録物について説明する。
この記録物は、印刷部が金色を呈する第1のインク、印刷部が銀色を呈する第2のインク、および印刷部が銅色を呈する第3のインクを、インクジェット方式により記録媒体上に付与し、紫外線を照射することにより製造されたものである。このような記録物は、光沢感、コントラスト比に優れたパターンを有するものとすることができる。
【0065】
上述したように、本発明のインクセットを構成する第1のインク、第2のインクおよび第3のインクは、それぞれ重合性化合物を含むものであり、記録媒体に対する密着性に優れるものである。このため、これらのインクにより形成される印刷部は記録媒体に対する密着性に優れたものとすることができる。したがって、記録媒体は、いかなるものであってもよく、吸収性または非吸収性のいずれを用いてもよく、例えば、紙(普通紙、インクジェット用専用紙等)、プラスチック材料、金属、セラミックス、木材、貝殻、綿、ポリエステル、ウール等の天然繊維・合成繊維、不織布等を用いることができる。
【0066】
また、記録物の用途は、いかなるものであってもよく、例えば、装飾品やそれ以外に適用されてもよい。具体例としては、コンソールリッド、スイッチベース、センタークラスタ、インテリアパネル、エンブレム、センターコンソール、メーター銘板等の車両用内装品、各種電子機器の操作部(キースイッチ類)、装飾性を発揮する装飾部、指標、ロゴ等の表示物等が挙げられる。
【0067】
液滴吐出方式(インクジェット法の方式)としては、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、インクの構成成分の変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。
インクジェット法によるインク(インクセットを構成するインク)の吐出は、公知の液滴吐出装置を用いて行うことができる。
【0068】
インクジェット法により吐出された第1のインク、第2のインクおよび第3のインクは、紫外線の照射により硬化する。
紫外線源としては、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線発光ダイオード(UV−LED)、紫外線レーザダイオード(UV−LD)等を用いることができる。中でも、小型、高寿命、高効率、低コストの観点から、紫外線発光ダイオード(UV−LED)および紫外線レーザダイオード(UV−LD)が好ましい。
【0069】
照射される光の波長は、200nm以上450nm以下程度であるのが好ましく、350nm以上450nm以下程度であるのがより好ましい。光の波長が前記範囲であれば、各インクの硬化時間を十分に短くしつつ、均一に硬化させることができる。
また、照射部における照射強度は、10mW/cm以上2000mW/cm以下であるのが好ましく、20mW/cm以上1500mW/cm以下であるのがより好ましい。照射強度が前記範囲内であれば、各インクをムラなく均一に、かつ確実に硬化させることができる。なお、光照射は通常、各インクの吐出後、すぐに開始されるが、その際、照射強度を前記範囲内で低くすることにより、その分、照射時間を長くとることができる。これにより吐出された各インク中で金属粒子が配向するのに必要な時間が確保される。その結果、例えば鱗片状をなす金属粒子の主面が記録媒体の表面に沿うように配向され、パターン(印刷部)の光反射性を高めることができる。照射時間は、照射強度によって異なるものの、0.1秒以上60秒以下程度であるのが好ましく、0.5秒以上30秒以下程度であるのがより好ましい。
【0070】
また、光照射による照射エネルギー(積算光量)は、5mJ/cm以上1000mJ/cm以下であるのが好ましく、10mJ/cm以上800mJ/cm以下であるのがより好ましい。照射エネルギーが前記範囲内であれば、各インクをムラなく均一に、かつ確実に硬化させることができる。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]インクセットの製造
(実施例1)
<第1のインクの製造>
まず、水アトマイズ法により、真鍮粉末を製造した。次いで、得られた真鍮粉末を、ジルコニアビーズ(直径:5mm)を用いた遊星ボールミルに投入し、真鍮粉末を鱗片状に加工した。なお、本工程は、フェノキシエチルアクリレート中で行った。
【0072】
次に、得られた平板状真鍮粉末を超音波分散機に投入し、微細処理を行い、さらにその後、3μmメンブレンフィルターにて濾過を行い、ジルコニアビーズを除去するとともに、金属粉末の粗大粒子をカットして、平均粒径D50が0.8μmの第1の金属粉末を得た。
次に、鱗片化した金属粉末を分離し、その後、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、光重合開始剤としてのIrgacure819(チバ・ジャパン社製)、4−ヒドロキシブチルアクリレート、光重合開始剤としてのSpeedcure TPO(ACETO社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure DETX(Lambson社製)、レベリング剤としてのUV−3500(ビックケミー社製)、および、重合禁止剤としてのp−メトキシフェノールと混合することにより、第1のインクを得た。
【0073】
ここで、得られた第1のインクを白色紙(セイコーエプソン社製、EPSONスーパーファイン紙)に乾燥後厚さが150nmになるように吐出した。そして、得られた印刷部について、分光光度計により分光反射スペクトルを取得した。その結果、波長600nmにおける反射率が85%、波長550nmにおける反射率が80%、波長450nmにおける反射率が40%、波長400nmにおける反射率が40%であった。また、印刷部を目視で観察したところ、金色を呈していることが認められた。
【0074】
<第2のインクの製造>
まず、水アトマイズ法により、アルミニウム粉末を製造した。次いで、得られたアルミニウム粉末を、ジルコニアビーズ(直径:5mm)を用いた遊星ボールミルに投入し、アルミニウム粉末を鱗片状に加工した。なお、本工程は、フェノキシエチルアクリレート中で行った。
【0075】
次に、得られた平板状アルミニウム粉末を超音波分散機に投入し、微細処理を行い、さらにその後、3μmメンブレンフィルターにて濾過を行い、ジルコニアビーズを除去するとともに、金属粉末の粗大粒子をカットして、平均粒径D50が0.8μmの第2の金属粉末を得た。
次に、鱗片化した金属粉末を分離し、その後、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、光重合開始剤としてのIrgacure819(チバ・ジャパン社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure TPO(ACETO社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure DETX(Lambson社製)、レベリング剤としてのUV−3500(ビックケミー社製)、および、重合禁止剤としてのp−メトキシフェノールと混合することにより、第2のインクを得た。
【0076】
ここで、得られた第2のインクを白色紙(セイコーエプソン社製、EPSONスーパーファイン紙)に乾燥後厚さが150nmになるように吐出した。そして、得られた印刷部について、分光光度計により分光反射スペクトルを取得した。その結果、波長600nmにおける反射率が90%、波長550nmにおける反射率が95%、波長450nmにおける反射率が95%、波長400nmにおける反射率が85%であった。また、印刷部を目視で観察したところ、銀色を呈していることが認められた。
【0077】
<第3のインクの製造>
まず、水アトマイズ法により、銅粉末を製造した。次いで、得られた銅粉末を、ジルコニアビーズ(直径:5mm)を用いた遊星ボールミルに投入し、銅粉末を鱗片状に加工した。なお、本工程は、フェノキシエチルアクリレート中で行った。
次に、得られた平板状銅粉末を超音波分散機に投入し、微細処理を行い、さらにその後、3μmメンブレンフィルターにて濾過を行い、ジルコニアビーズを除去するとともに、金属粉末の粗大粒子をカットして、平均粒径D50が0.8μmの第3の金属粉末を得た。
【0078】
次に、鱗片化した金属粉末を分離し、その後、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、光重合開始剤としてのIrgacure819(チバ・ジャパン社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure TPO(ACETO社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure DETX(Lambson社製)、レベリング剤としてのUV−3500(ビックケミー社製)、および、重合禁止剤としてのp−メトキシフェノールと混合することにより、第3のインクを得た。
【0079】
ここで、得られた第3のインクを白色紙(セイコーエプソン社製、EPSONスーパーファイン紙)に乾燥後厚さが150nmになるように吐出した。そして、得られた印刷部について、分光光度計により分光反射スペクトルを取得した。その結果、波長600nmにおける反射率が85%、波長550nmにおける反射率が75%、波長450nmにおける反射率が50%、波長400nmにおける反射率が45%であった。また、印刷部を目視で観察したところ、銅色を呈していることが認められた。
以上のようにして、3種のインクからなるインクセットを得た。
【0080】
(実施例2〜16)
第1のインク、第2のインクおよび第3のインクの調製に用いる原料の種類・比率を変更するようにした以外は、それぞれ前記実施例1と同様にしてインクセットを製造した。
なお、実施例7で得られたインクセットでは、第1のインク、第2のインクおよび第3のインクに用いられる重合性化合物の組成が互いに異なるよう設定した。
【0081】
一方、実施例1〜6、8〜12で得られたインクセットでは、第1のインク、第2のインクおよび第3のインクに用いられる重合性化合物の組成が同じになるよう設定した。
また、実施例13で得られたインクセットは、第1のインクと第2のインクのみで構成され、それぞれに用いられる重合性化合物の組成が同じになるよう設定した。
また、実施例8、9で得られたインクセットでは、それぞれ第1の金属粉末、第2の金属粉末および第3の金属粉末として、ガスアトマイズ法で製造された粉末を用いた。
【0082】
また、実施例14〜16で得られたインクセットでは、第1のインク、第2のインクおよび第3のインクにおいて、それぞれ同一の原料から製造した平均粒径の異なる2種類の粉末を所定の比率で混合して各インクを調製するようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクセットを製造した。また、実施例14〜16で得られたインクセットでは、第1のインク、第2のインクおよび第3のインクに用いられる重合性化合物の組成が互いに異なるよう設定した。
【0083】
(比較例1)
金属粉末以外の成分を以下のものに変更した以外は、実施例1と同様にして各インクを調製し、インクセットを得た。なお、得られた各インクは、いずれも紫外線の照射により硬化する成分を含まないものとなる。
<各インクの成分>
・金属粉末 : 4.0質量%
・グリセリン :10.0質量%
・1,2−プロパンジオール : 5.0質量%
・界面活性剤(ビックケミー製BYK348): 0.5質量%
・イオン交換水 :残部
【0084】
(比較例2)
イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクの4つのインクで構成されるインクセットを用意した。なお、得られた各インクは、いずれも紫外線の照射により硬化する成分を含まないものとなる。
各インクの組成は以下の通りである。
【0085】
<イエローインクの組成>
・C.I.ピグメントイエロー74 : 4.0質量%
・グリセリン :10.0質量%
・1,2−プロパンジオール : 5.0質量%
・界面活性剤(ビックケミー製BYK348): 0.5質量%
・イオン交換水 :残部
【0086】
<マゼンタインクの組成>
・C.I.ピグメントレッド122 : 4.0質量%
・グリセリン :10.0質量%
・1,2−プロパンジオール : 5.0質量%
・界面活性剤(ビックケミー製BYK348): 0.5質量%
・イオン交換水 :残部
【0087】
<シアンインクの組成>
・C.I.ピグメントブルー15:3 : 4.0質量%
・グリセリン :10.0質量%
・1,2−プロパンジオール : 5.0質量%
・界面活性剤(ビックケミー製BYK348): 0.5質量%
・イオン交換水 :残部
【0088】
<ブラックインクの組成>
・C.I.ピグメントブラック7 : 4.0質量%
・グリセリン :10.0質量%
・1,2−プロパンジオール : 5.0質量%
・界面活性剤(ビックケミー製BYK348): 0.5質量%
・イオン交換水 :残部
【0089】
(比較例3)
金属粉末としてアルミニウム粉末を用い、必要に応じてこれに色顔料を混ぜることで各インクを調製するようにした以外は、実施例1と同様にしてインクセットを得た。
各インクの組成は以下の通りである。
<第1のインクの組成>
・金属粉末(アルミニウム粉末)
【0090】
<第2のインクの組成>
・金属粉末(アルミニウム粉末)
・イエロー顔料(C.I.ピグメントイエロー74)
<第3のインクの組成>
・金属粉末(アルミニウム粉末)
・シアン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)
・マゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド122)
【0091】
なお、前記各実施例および比較例について、インクセットを構成する各インクの組成等を、表1〜3にまとめて示した。表中、フェノキシエチルアクリレートを「PEA」、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルを「VEEA」、トリプロピレングリコールジアクリレートを「TPGDA」、ジプロピレングリコールジアクリレートを「DPGDA」、N−ビニルカプロラクタムを「VC」、ベンジルメタクリレートを「BM」、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートを「DMTCDDA」、アミノアクリレートを「AA」、ウレタンアクリレートを「UA」、Irgacure 819(チバ・ジャパン社製)を「ic819」、Speedcure TPO(ACETO社製)を「scTPO」、Speedcure DETX(Lambson社製)を「scDETX」、UV−3500(ビックケミー社製)を「UV3500」、p−メトキシフェノールを「pMP」、4−ヒドロキシブチルアクリレートを「HBA」、グリセリンを「GL」、1,2−プロパンジオールを「1,2PD」、BYK348(ビックケミー社製)を「BYK348」で示した。また、各インク中に含まれるそれぞれ任意の10個の金属粒子について観察を行い、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S[μm]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S[μm]に対する比率(S/S)を求め、これらの平均値を、表1〜3にあわせて示した。また、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された前記各実施例のインクセットを構成する各インクの20℃における粘度は、いずれも、3mPa・s以上15mPa・s以下の範囲内の値であった。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
[2]液滴吐出の安定性評価(吐出安定性評価)
前記各実施例および各比較例のインクセットを用いて、下記に示すような試験による評価を行った。
まず、チャンバー(サーマルチャンバー)内に設置した液滴吐出装置および前記各実施例および各比較例のインクセットを用意し、ピエゾ素子の駆動波形を最適化した状態で、25℃、55%RHの環境下で、各色のインクについて、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、2000000発(2000000滴)の液滴の連続吐出を行った。その後、液滴吐出装置の運転を停止し、液滴吐出装置の流路に各インクが充填された状態で、25℃、55%RHの環境下に、120時間放置した。
【0096】
その後、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、25℃、55%RHの環境下で、3000000発(3000000滴)の液滴の連続吐出を行った。上記120時間放置した後の、液滴吐出ヘッドの中央部付近の指定したノズルから吐出された3000000発の液滴について、着弾した各液滴の中心位置の中心狙い位置からのズレ量dの平均値を求め、以下の5段階の基準に従い、評価した。この値が小さいほど飛行曲がりの発生が効果的に防止されていると言える。
【0097】
A:ズレ量dの平均値が0.09μm未満。
B:ズレ量dの平均値が0.09μm以上0.15μm未満。
C:ズレ量dの平均値が0.15μm以上0.18μm未満。
D:ズレ量dの平均値が0.18μm以上0.22μm未満。
E:ズレ量dの平均値が0.22μm以上。
【0098】
[3]各インクの保存安定性評価(長期安定性評価)
前記各実施例および各比較例のインクセットを構成する第1のインクについて、40℃の環境下に、30日間放置した後、目視による観察を行い、以下の5段階の基準に従い、評価した。
A:金属粉末の凝集・沈降が全く認められない。
B:金属粉末の凝集・沈降がほとんど認められない。
C:金属粉末の凝集・沈降がわずかに認められる。
D:金属粉末の凝集・沈降がはっきりと認められる。
E:金属粉末の凝集・沈降が顕著に認められる。
【0099】
[4]硬化性
前記各実施例および各比較例のインクセットを構成する各インクについて、エプソン製インクジェットプリンター;PM800Cへ導入し、基材として三菱樹脂(株)製、ダイアホイル G440E(厚さ38μm)を用いて、インク量wet 9g/mにて、ベタ印刷を行い、印刷後、ただちにLED−UVランプ;フォセオン社製 RX firefly(ギャップ6mm 1000mW/cm)を用いて紫外線の照射を行い、インクが硬化したか否かを確認し、以下の5段階の基準に従い、評価した。硬化したか否かは、綿棒にて表面をこすって、未硬化のインクが付着しないか否かで判断した。なお、下記A〜Eの照射量に該当するかどうかは、ランプを何秒照射したかによって算出できる。
【0100】
A:100mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
B:100mJ/cm以上200mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
C:200mJ/cm以上500mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
D:500mJ/cm以上1000mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
E:1000mJ/cm以上の紫外線照射量にて硬化する。もしくはまったく硬化しない。
【0101】
[5]記録物の製造
各実施例および各比較例のインクセットを用いて、それぞれ、以下のようにして、記録物としてのインテリアパネルを製造した。
まず、製造直後のインクセットをインクジェット装置に投入した。
その後、ポリカーボネート(旭硝子社製、カーボグラス ポリッシュ 2mm厚)を用いて成形した曲面部を有する基材(記録媒体)上に、インクセットを構成する各インクを吐出した。このとき、各インクを単独で着弾させた領域と、各インクの混色比率を順次変更した領域とを形成することにより、明度、輝度の異なる領域を多数形成した。
【0102】
その後、365nm、380nm、395nmの波長に極大値を有するスペクトルの紫外線の照射を、照射強度180mW/cmで20秒間照射し、基材上のインクを硬化させ、記録物としてのインテリアパネルを得た。
上記のような方法を用いて、各実施例および各比較例のインクセットを用いて、それぞれ、10個のインテリアパネル(記録物)を製造した。
なお、比較例2については、4色の顔料インクを用い、擬似的に明度、輝度の異なる領域を形成した。
【0103】
[6]記録物の評価
上記のようにして得られた各記録物について、以下のような評価を行った。
[6.1]記録物の外観評価
前記各実施例および比較例で製造した各記録物を目視により観察し、以下の4段階の基準に従い、評価した。
A:金属特有の質感が非常に高く、美観が極めて良好である
B:金属特有の質感がやや高く、美観がやや良好である
C:金属特有の質感がやや低く、美観がやや不良である
D:金属特有の質感が低く、美観が不良である
【0104】
[6.2]光沢度
前記各実施例および比較例で製造した各記録物の印刷部について、光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268)を用い、煽り角度60°での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
A:光沢度が300以上。
B:光沢度が200以上300未満。
C:光沢度が100以上200未満。
D:光沢度が60以上100未満。
E:光沢度が60未満。
【0105】
[6.3]耐擦性
前記各実施例および比較例に係る記録物について、記録物の製造から48時間経過した時点で、サウザーランドラブテスターを用い、JIS K5701に準じて耐擦性試験を行い、上記[6.2]で述べたのと同様の方法により、耐擦性試験後の記録物の印刷部について、光沢度(煽り角度60°)を測定し、耐擦性試験前後での光沢度の低下率を求め、以下の基準に従い評価した。
【0106】
A:光沢度の低下率が10%未満。
B:光沢度の低下率が10%以上20%未満。
C:光沢度の低下率が20%以上30%未満。
D:光沢度の低下率が30%以上。
これらの結果を表4に示す。
【0107】
【表4】

【0108】
表4から明らかなように、本発明のインクセットは、光沢感等の金属特有の質感に優れた印刷部の形成に好適に用いることができた。また、本発明のインクセットを構成するインクは、液滴の吐出安定性、保存安定性および硬化性に優れていた。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式により吐出される紫外線硬化型インクジェット用インクを複数種備えるインクセットであって、
前記紫外線硬化型インクジェット用インクとして、第1の金属粉末を含み、記録媒体上に吐出されたとき金色を呈する第1のインク、第2の金属粉末を含み、記録媒体上に吐出されたとき銀色を呈する第2のインク、および、第3の金属粉末を含み、記録媒体上に吐出されたとき銅色を呈する第3のインクのうち、少なくとも2つを備えることを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記第1の金属粉末、前記第2の金属粉末および前記第3の金属粉末は、それぞれ鱗片状をなしている請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記第1の金属粉末、前記第2の金属粉末および前記第3の金属粉末の各平均粒径は、それぞれ500nm以上2μm以下である請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記第1の金属粉末は、金または真鍮を主材料とするものである請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記第2の金属粉末は、鉄またはアルミニウムを主材料とするものである請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
前記第3の金属粉末は、銅を主材料とするものである請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項7】
前記第1の金属粉末、前記第2の金属粉末および前記第3の金属粉末は、それぞれ水アトマイズ法により製造されたものである請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項8】
前記第1のインク、前記第2のインクおよび前記第3のインクは、それぞれ、紫外線の照射により重合する重合性化合物としてフェノキシエチルアクリレートを含むものである請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項9】
前記第1のインク、前記第2のインクおよび前記第3のインクは、それぞれ前記重合性化合物として、前記フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである請求項8に記載のインクセット。
【請求項10】
前記第1のインク、前記第2のインクおよび前記第3のインクは、それぞれ、紫外線の照射により重合する重合性化合物としてジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよびアミノアクリレートの少なくとも一方を含むものである請求項1ないし7のいずれかに記載のインクセット。

【公開番号】特開2012−246348(P2012−246348A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117335(P2011−117335)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】