説明

インク及びその利用

【課題】プラテン上で乾燥工程を一度行なうだけで乾燥させることができるインクを提供する。
【解決手段】本発明に係るインクは、バインダ樹脂の粒子が分散質として分散溶液に分散しており、上記バインダ樹脂の粒子中には当該バインダ樹脂とは異なる粒子が分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置として、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載のインクジェット記録装置は、次のような構成である。
【0003】
4つのインクジェットヘッドよりも用紙搬送方向に関する下流側に、乾燥機構を設ける。乾燥機構は、高温の空気を生成して画像の形成された用紙を乾燥させるヒータが内部に配置された加熱筐体を備えている。インクジェットヘッドと対向する領域を通過した搬送ベルトは、加熱筐体に形成された開口部を介して、加熱筐体内を通過する。さらに、乾燥機構のヒータによって暖められた高温空気を吸引し、各インクジェットヘッドよりも用紙搬送方向に関する上流側の位置から用紙に吹き付ける噴射機構を設ける。
【0004】
また、ラテックス粒子により構成されたインクジェットインクとして特許文献2に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−52184号公報(2010年3月11日公開)
【特許文献2】国際公開第2004/072134号パンフレット(2004年8月26日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に記載されたインクジェット記録装置では、次のような問題がある。即ち、4つのインクジェットヘッドよりも用紙搬送方向の下流側に乾燥機構を設ける必要がある。そのため、インクジェット記録装置が大型化するという問題がある。
【0007】
しかし、大型化を解消するためにプラテン上で乾燥させようとすると、従来のラテックスインク(例えば特許文献2に記載のインク)では、乾燥工程を2回に分ける必要があり、且つ、プラテン上での乾燥工程を低温にする必要がある。
【0008】
また、2回目の乾燥を行なうために、プラテンの下流側に印刷媒体を乾燥する専用部材をさらに配設する必要があり、装置が大型化するという問題がある。
【0009】
ここで、従来のラテックスインクでは乾燥工程を2回に分ける必要がある点について図5を用いて説明する。図5は従来のラテックスインクが2回の乾燥工程を必要とする理由を説明するための模式図である。
【0010】
図5の(a)に示すように、インクが着弾する前は溶媒中にラテックス粒子101と顔料粒子102が分散している。
【0011】
ラテックスインクが印刷媒体に着弾した直後は図5の(b)に示すようになる。図5の(b)に示すようにラテックス粒子101の間に顔料粒子102が入り込んでいる。
【0012】
次に、第1回の乾燥(加熱)を行なう。具体的には第1回の乾燥工程では40℃〜60℃で加熱する。この加熱により図5の(c)に示すようにラテックス粒子101同士が溶融して一体化する。また、水などの溶媒が除去される。しかし、このとき、顔料粒子は均一に分散しておらず凝集している。
【0013】
そこで、顔料粒子102をラテックス中に分散させるための第2回の乾燥(加熱)が必要になる。これにより図5の(d)に示すようにラテックス中に顔料粒子102が分散する。具体的には90℃〜110℃の高温加熱が必要になる。なお、プラテン上での乾燥工程を低温にする必要があると説明したが、これは、プラテン上で90℃〜110℃の高温で加熱するとインクジェットヘッドのノズル内のインクが固まってしまうという不具合が生じるためである。そのため、2回目の乾燥工程を行なうための加熱手段はプラテンの下流方向に加熱手段を設ける必要が生じる。
【0014】
また、このように2回目の乾燥工程を高温で行なうと、電力の消費が大きいという問題、2段階の加熱により時間がかかるという問題、オペレータに危険が伴うという問題がある。高温加熱のため、その温度で溶けたり、反り及び曲がりが生じたりするメディアには印刷ができず、印刷可能なメディアが限られるという問題もある。
【0015】
なお、図6に示すように従来のラテックスインクであって、白インクのように比重の大きな酸化チタンを用いるものでは、その容器等の内部において顔料微粒子102が凝集してしまうという問題も有している。顔料は微細になる程、透明性が増して繊細な色を表現できることから、用途によっては数nm〜数十nm程度の微細な大きさの顔料微粒子を使用したいという要望がある。しかし、微細であればある程、顔料微粒子は凝集し易いという問題がある。また、微細であればある程、表面積が小さくなるので、紫外線及び酸素の影響が顕著になり、脱色の影響が大きくなるため、画質に影響があるという問題も有している。
【0016】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みて、プラテン上で乾燥工程を一度行なうだけで乾燥させることができるインク、及び当該インクを用いたインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明に係るインクは、バインダ樹脂の粒子が分散質として分散溶液に分散しており、上記バインダ樹脂の粒子中には当該バインダ樹脂とは異なる粒子が分散していることを特徴としている。
【0018】
上記の構成により、プラテン上で乾燥工程を一度行なうだけで乾燥させることができる。
【0019】
本発明に係るインクでは、上記バインダ樹脂の粒子中に分散している粒子が、有機顔料、分散染料、酸化チタン、磁性粒子、アルミナ、シリカ、セラミック、カーボンブラック、金属ナノ粒子及び有機金属よりなる群から選ばれる少なくとも一種の粒子であることがより好ましい。
【0020】
上記の構成により、プラテン上で乾燥工程を一度行なうだけで乾燥させることができ、且つ、様々な用途に利用できるインクを提供できる。
【0021】
本発明に係るインクでは、上記バインダ樹脂が、ラテックス及び光若しくは熱で硬化するか又は硬化した高分子化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂であることがより好ましい。
【0022】
上記の構成により、粒子をバインダ樹脂中に、分散させた上で閉じ込めることをより効率よく行なうことができる。
【0023】
本発明に係るインクでは、上記分散溶液が水であることがより好ましい。安全性が高く環境汚染がないインクを提供できる。
【0024】
また、本発明に係るインクジェット記録方法は、印刷媒体を保持する載置面及び上記印刷媒体に着弾したインクを加熱する加熱手段を備えるプラテンと、上記プラテンの載置面に対向して配置されており、上記印刷媒体の印刷対象領域にインクを吐出して印刷を施すプリンタヘッドとを備えるインクジェット記録装置を用いて、上記プリンタヘッドを上記プラテンの載置面上に載置された上記印刷媒体に対して相対移動させながら、上述の本発明に係るインクを吐出して上記印刷媒体に印刷することを特徴としている。
【0025】
上記の構成により、プラテン上で乾燥工程を一度行なうだけで乾燥させるだけで、印刷を行なうことができる。
【0026】
また、本発明に係るインクの製造方法は、バインダ樹脂の液体、及び、バインダ樹脂の材料の液体のうちいずれかの液体であって、バインダ樹脂とは異なる物の粒子が分散している液体を、当該液体とは相溶しない液体中に入れ、攪拌する工程を含むことを特徴としている。
【0027】
上記の構成により、本発明に係るインクを好適に製造することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、プラテン上で乾燥工程を一度行なうだけでインクを乾燥させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクに含まれるバインダ樹脂粒子の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るインクがメディア(印刷媒体)に着弾して、メディアを印刷する様子を示す模式図である。
【図3】本発明に係るインクの製造方法の一実施形態のフローを示す図である。
【図4】本発明に係るインクの製造方法の一実施形態で用いる装置の構成を概略的に示す図である。
【図5】従来のラテックスインクが2回の乾燥工程を必要とする理由を説明するための模式図である。
【図6】従来のラテックスインクの問題点を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<インク>
本発明に係るインクは、バインダ樹脂の粒子が分散質として分散溶液に分散しており、上記バインダ樹脂の粒子中には当該バインダ樹脂とは異なる粒子が分散している。
【0031】
以下、説明の便宜のため、本明細書では、バインダ樹脂の粒子を「バインダ樹脂粒子」といい、バインダ樹脂中に分散しており、バインダ樹脂とは異なる粒子を「微粒子」という。
【0032】
また、本明細書において「インク」とは、印刷媒体を着色するための有色の液体のみならず、印刷媒体をコーティングするためのコーティング剤等をも包含し、透明な液体であってもよい。
【0033】
本発明においてバインダ樹脂粒子中には微粒子が分散している。例えば図1に示すように構成されている。図1は本発明の一実施形態に係るインクに含まれるバインダ樹脂粒子の構成を模式的に示す図である。図1に示すように一粒のバインダ樹脂粒子中に複数の微粒子が分散している。
【0034】
このようにバインダ樹脂粒子1中に微粒子2が分散することによって、低い温度で印刷を行なうことができる。図2を用いてこの理由を説明する。図2は本発明の一実施形態に係るインクがメディア(印刷媒体)に着弾して、メディアを印刷する様子を示す模式図である。
【0035】
図2の(a)に示すように、メディアに着弾する前は、バインダ樹脂粒子1は分散溶液に分散している。
【0036】
次に、メディアに着弾した直後は図2の(b)に示すようにバインダ樹脂粒子1がメディア上に積層する。印刷の目的によっては、図2の(b)に示す状態から乾燥を行なうことで分散溶液を除去するだけでも、印刷の終了とすることができる。バインダ樹脂粒子1中に微粒子2が分散しているため、メディア上に均一に微粒子2が積層している状態になっているからである。
【0037】
次に、メディア上を加熱してバインダ樹脂を溶融させて一体化することにより図2の(c)の状態となる。この状態であれば、バインダ樹脂がしっかりとメディアに付着する。既に、バインダ樹脂中に微粒子2が分散している。このように、最終的にバインダ樹脂をメディアに付着させる場合であっても、一度加熱するだけでよく、上述した従来のラテックスインクのように、二回の加熱工程を行なう必要がない。
【0038】
このように、本発明に係るインクは、インクをメディアに定着させるための加熱温度が低温で済むという利点を有している。
【0039】
従来のラテックスインクでは、微粒子とラテックス粒子とがそれぞれ独立して分散溶液に分散しているため、ラテックス粒子を溶融しなければ微粒子をラテックス中に分散させることができない。しかし、本発明に係るインクでは、既に微粒子がバインダ樹脂に分散しているので、バインダ樹脂中に微粒子を分散させるために加熱温度を高温にする必要がなく、バインダ樹脂を溶融一体化させ、メディアに定着させるために必要な低温で済む。
【0040】
また、本発明に係るインクは他にも様々な利点がある。
【0041】
まず、保存安定性に優れている。なぜなら微粒子がバインダ樹脂に最初から安定的に覆われているため、微粒子の表面がバインダ樹脂によって保護されているからである。そのため、微粒子に対する紫外線及び酸素の影響を抑え、微粒子の変質を抑制することができる。
【0042】
また、微粒子がバインダ樹脂中に含まれることにより、微粒子を分散溶液に分散させるための分散剤が不要となる。換言すれば、上述した顔料の微粒子が凝集してしまうという従来のラテックスインクの欠点を解消することができる。
【0043】
バインダ樹脂の具体的な材料としてはビヒクルに溶けないものであれば特に限定されないが、例えば、ラテックスの原液、当該原液がラテックス化したもの、光若しくは熱で硬化するか又は硬化した高分子、紫外線、電子線、放射線等のエネルギー線の照射又は熱により硬化するモノマー、オリゴマー及び低分子量樹脂等が挙げられる。
【0044】
ここで、「ビヒクル」とは、本発明に係るインクにおいて、微粒子が内部に分散しているバインダ樹脂以外の成分をいい、後述の分散溶液、添加物、共溶媒等が意図される。
【0045】
バインダ樹脂としてラテックスを採用する場合、ラテックスとしては、分散剤が必要な高分子分散型であっても、自己分散型(特開2001−152063号公報を参照)であってもよい。ラテックスの具体例としては、天然ゴムラテックス、スチレンブタジエンラテックス、スチレン−アクリルラテックス、ポリウレタンラテックス等が挙げられる。
【0046】
バインダ樹脂粒子の大きさとしては、目的に応じて適宜設定すればよいが、粒径50nm〜500nmが好ましく、100nm〜200nmがより好ましく、100nm〜150nmがさらに好ましい。
【0047】
また、硬化した高分子としては下記表1に挙げるものを例示できる。
【0048】
【表1】

【0049】
バインダ樹脂中に分散している微粒子の具体例としては、ビヒクルに溶けないものであれば特に限定されず、目的に応じて様々な微粒子を採用することができる。具体的な微粒子としては、例えば、有機顔料、分散染料、酸化チタン、磁性粒子、アルミナ、シリカ、セラミック、カーボンブラック、金属ナノ粒子及び有機金属よりなる群から選ばれる少なくとも一種の粒子が挙げられる。金属ナノ粒子の材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム等が挙げられる。なお、酸化チタンの場合は白色の塗料として好適に用いることができる。
【0050】
微粒子の大きさとしては、目的に応じて適宜設定すればよい。上述した微粒子の凝集を防ぐという効果は、微粒子の大きさが、一般的な数百nmという大きさより小さい、1nm〜50nmという大きさのときに、より大きい。また、微粒子が顔料である場合、数百nmという大きさよりも小さい1nm〜100nmであるときに、鮮やかさ及び透明度が増え、画質が向上することから好ましい。
【0051】
分散溶液の具体例としては、バインダ樹脂を溶解しないものである限り限定されず、目的に応じて様々な分散溶液を採用することができる。具体的な分散溶液としては、例えば、水を挙げることができる。水は安全性が高く環境汚染がないという利点から、一般に使用されるインクジェットプリンタ用のインク等の用途に好適に用いることができる。水単独では乾燥速度が速く、インクジェットヘッドのノズル詰りの原因となるため、水に保湿剤を添加することがより好ましく、また、メディア上でのヒータによる加熱時にすばやく蒸発させることによって、滲むことを防止するために水に有機溶剤を添加することがより好ましい。
【0052】
バインダ樹脂粒子の濃度については、目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、ラテックス粒子の中に顔料の微粒子を分散させる場合においては、インクの全量に対して、ラテックス粒子を5体積%〜70体積%であればより好ましく、15体積%〜50体積%がさらに好ましい。
【0053】
本発明に係るインクは、バインダ樹脂粒子、微粒子、分散溶液の他に、添加物を含んでいてもよい。添加物の種類としては、目的に応じて適宜選択すればよく、例えば、界面活性剤、カップリング剤、緩衝剤、殺生物剤、金属イオン封止剤、粘度修正剤、溶剤等が挙げられる。また、添加物は、バインダ樹脂粒子の中に分散していてもよく、バインダ樹脂粒子外であって分散溶液内に存在していてもよい。
【0054】
<インクの製造方法>
本発明に係るインクの製造方法は、バインダ樹脂の液体、及び、バインダ樹脂の材料の液体のうちいずれかの液体であって、バインダ樹脂とは異なる物の粒子が分散している液体を、当該液体とは相溶しない液体中に噴射する工程を含む。
【0055】
バインダ樹脂の材料の液体とは、重合反応をさせることで所望のバインダ樹脂となるモノマーの液体、架橋させることで所望のバインダ樹脂となる重合体の液体等が意図される。
【0056】
バインダ樹脂の液体、及び、バインダ樹脂の材料の液体のうちいずれかの液体を、当該液体とは相溶しない液体中、つまり、本発明に係るインクの分散溶液となる液体中に、噴射することでバインダ樹脂又はその材料の粒子を分散溶液中に分散させることができる。
【0057】
噴射する際には高速で噴射することが好ましく、例えば、噴霧器等を用いて噴霧することが好ましい。
【0058】
噴射する液体の中には、予め微粒子が分散している。そのため、微粒子が内部に分散したバインダ樹脂の粒子又はバインダ樹脂の材料の粒子が、分散溶液中に分散したものが得られる。バインダ樹脂の材料を用いた場合は、適宜、重合反応、架橋反応等をさせてバインダ樹脂を形成すればよい。これにより、本発明に係るインク、又は、所望の濃度にする前の本発明に係るインクの原液を得ることができる。
【0059】
本発明に係るインクの製造方法の一実施形態について説明する。ここでは、本発明に係るインクの一実施形態として、バインダ樹脂がラテックス、微粒子が顔料微粒子、分散溶液が水である形態について説明する。また、以下の製造方法の説明では図3及び図4を用いる。図3は本発明に係るインクの製造方法の一実施形態のフローを示す図である。図4は本発明に係るインクの製造方法の一実施形態で用いる装置の構成を概略的に示す図である。
【0060】
図3に示すように、まず、ラテックスの原液を生成する(ステップS1)。ここでは、ラテックス粒子の中に分散させることとなる顔料微粒子をラテックスの原液に加えて、分散させておく。目的に応じて添加物を加えておいてもよい。
【0061】
ここで、ステップS1の前工程として顔料微粒子の製造方法について説明する。顔料微粒子の製造方法としては、例えばビルドアップ法が挙げられる。ビルドアップ法は気相及び液相の原子、分子、イオンのオーダーで純度の高い原料から反応、過飽和、核生成、成長を通して固相の材料(原料)を作製することにより微粒子を作製する方法である。工業的には、粒径が数nm〜数十nmまでの高純度微粒子の合成に用いられる方法である。ビルドアップ法としては特許第3936558号公報を参照できる。
【0062】
次に、ラテックスの原液をエマルジョン化する(ステップS2)。即ち、図4に示す装置は、容器10及び攪拌機20により構成されている。未反応モノマー等からなるラテックスの原液は容器10に入っている。また、水及び溶剤等のラテックス粒子を分散させる溶媒は攪拌機20に入っている。
【0063】
ポンプ12により原液を容器10から配管11を介して攪拌機20に注入しながら攪拌翼21により高速で攪拌する。この動作により、水等からなる溶媒中に分散したラテックスの原液の球状の粒子からなるエマルジョン液が形成される。
【0064】
エマルジョン化の手段は、機械的な各種の攪拌機以外にも超音波攪拌機等の乳化や分散に使用される装置が使用可能である。
【0065】
また、当該原液中には顔料が予め分散しているので、このエマルジョンを構成するラテックスの原液の粒子中には顔料の微粒子が分散している。また、ラテックスの原液中に存在している顔料の微粒子は当該原液の粘性によって凝集が抑えられている。このようにして、顔料微粒子が一様に内部で分散したラテックスの原液の粒子を水中に形成することができる。
【0066】
次にラテックスの原液をラテックス化してインクの原液を生成する(ステップS3)。例えば、当該原液を加熱するか、又は当該原液を重合反応させてゴム化する(例えば水中に混入させた架橋剤を用いる)ことにより、ラテックス化を行なえばよい。このラテックス化により、ラテックス粒子中の顔料微粒子は固定化され、再凝集することは完全になくなる。また、用途によっては、ラテックス化は必須ではなく、原液の粒子が水中に分散した状態でステップS4に進んでもよい。
【0067】
最後に、ステップS3で得られたインクの原液を目的の濃度に希釈して、所望の濃度又は粘度のインクを得る(ステップS4)。ステップS4では、インクの表面張力を調整するために、適宜添加剤を加えてもよい。
【0068】
<インクジェット記録方法>
本発明に係るインクジェット記録方法は、印刷媒体を保持する載置面及び上記印刷媒体に着弾したインクを加熱する加熱手段を備えるプラテンと、上記プラテンの載置面に対向して配置されており、上記印刷媒体の印刷対象領域にインクを吐出して印刷を施すプリンタヘッドとを備えるインクジェット記録装置を用いて、上記プリンタヘッドを上記プラテンの載置面上に載置された上記印刷媒体に対して相対移動させながら、上述した本発明に係るインクを吐出して上記印刷媒体に印刷する方法である。
【0069】
本発明に係るインクでは微粒子が予めバインダ樹脂内に分散しているため、従来のラテックスインクのように微粒子をバインダ樹脂内に分散させるまでに加熱する必要がない。そのため、プラテンの備える加熱手段は、バインダ樹脂が融解して一体化する程度の低温、又は、目的によっては分散溶液が蒸発する程度の低温でインクを加熱すれば十分である。つまり、本発明に係るインクジェット記録方法において、プラテンがインクを加熱する温度は、例えば40℃〜60℃という低温で十分であるため、インクジェットヘッドのノズル内のインクが乾燥することを抑制できる。その結果、インクの吐出不良を防止できる。
【0070】
<付記事項>
以上のように、本発明に係るインクの一実施形態は、バインダ樹脂粒子1が分散質として分散溶液に分散しており、バインダ樹脂粒子1中には微粒子2が分散している。これにより、プラテン上で乾燥工程を一度行なうだけでインクを乾燥させることができる。
【0071】
また、微粒子2が、有機顔料、分散染料、酸化チタン、磁性粒子、アルミナ、シリカ、セラミック、カーボンブラック、金属ナノ粒子及び有機金属よりなる群から選ばれる少なくとも一種の粒子であることがより好ましい。プラテン上で乾燥工程を一度行なうだけで乾燥させることができ、且つ、様々な用途に利用できるインクとなる。
【0072】
また、バインダ樹脂が、ラテックス及び光若しくは熱で硬化するか又は硬化した高分子化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂であることがより好ましい。微粒子2をバインダ樹脂中に、より効率よく、分散させた上で閉じ込めることができる。
【0073】
また、分散溶液が水であることがより好ましい。安全性が高く環境汚染がないインクを提供できる。
【0074】
また、本発明に係るインクジェット記録方法の一実施形態は、印刷媒体を保持する載置面及び印刷媒体に着弾したインクを加熱する加熱手段を備えるプラテンと、プラテンの載置面に対向して配置されており、印刷媒体の印刷対象領域にインクを吐出して印刷を施すプリンタヘッドとを備えるインクジェット記録装置を用いて、プリンタヘッドをプラテンの載置面上に載置された印刷媒体に対して相対移動させながら、上述の本実施の形態に係るインクを吐出して印刷媒体に印刷する。これにより、プラテン上で乾燥工程を一度行なうだけで乾燥させるだけで、印刷を行なうことができる。
【0075】
また、本発明に係るインクの製造方法の一実施形態は、バインダ樹脂粒子1の元となる液体、及び、バインダ樹脂粒子1の材料の液体のうちいずれかの液体であって、微粒子2が分散している液体を、当該液体とは相溶しない液体中に入れ、高速で攪拌する工程を含む。上記の構成により、上述した実施形態に係るインクを好適に製造することができる。
【0076】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は染料及びコーティング剤等のインクに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダ樹脂の粒子が分散質として分散溶液に分散しており、上記バインダ樹脂の粒子中には当該バインダ樹脂とは異なる粒子が分散していることを特徴とするインク。
【請求項2】
上記バインダ樹脂の粒子中に分散している粒子が、有機顔料、分散染料、酸化チタン、磁性粒子、アルミナ、シリカ、セラミック、カーボンブラック、金属ナノ粒子及び有機金属よりなる群から選ばれる少なくとも一種の粒子であることを特徴とする請求項1に記載のインク。
【請求項3】
上記バインダ樹脂が、ラテックス及び、光若しくは熱で硬化するか又は硬化した高分子化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のインク。
【請求項4】
上記分散溶液が水であることを特徴とする請求項1に記載のインク。
【請求項5】
印刷媒体を保持する載置面及び上記印刷媒体に着弾したインクを加熱する加熱手段を備えるプラテンと、上記プラテンの載置面に対向して配置されており、上記印刷媒体の印刷対象領域にインクを吐出して印刷を施すプリンタヘッドとを備えるインクジェット記録装置を用いて、上記プリンタヘッドを上記プラテンの載置面上に載置された上記印刷媒体に対して相対移動させながら、請求項1に記載のインクを吐出して上記印刷媒体に印刷することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
バインダ樹脂の液体、及び、バインダ樹脂の材料の液体のうちいずれかの液体であって、バインダ樹脂とは異なる物の粒子が分散している液体を、当該液体とは相溶しない液体中に入れ、攪拌する工程を含むことを特徴とするインクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−207081(P2012−207081A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72454(P2011−72454)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】