説明

インク受容層用組成物及びインクジェット用記録シート

【課題】油系インクを使用した場合の印刷濃度が高く、階調性にも優れた画像を形成できるインクジェット用記録シートの提供。
【解決手段】比表面積が180m/g未満である非晶質シリカと、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル樹脂からなるバインダーと、溶媒と、が配合されてなることを特徴とするインク受容層用組成物;かかるインク受容層用組成物が基材上に塗布及び乾燥されてなるインク受容層を備えたことを特徴とするインクジェット用記録シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクの受容層を形成するための組成物及び該組成物を使用して形成したインク受容層を備えるインクジェット用記録シートに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットインクによる情報記録方式は、フルカラーの高画質な画像を容易に得られ、近年の技術進歩により、銀塩写真に迫る高画質も実現できることから、急速に広まってきている。
インクとしては、水や、水及び親水性有機溶媒の混合溶媒等の溶媒中に、各種色材を含有させた水系インクと、疎水性有機溶媒中に油溶性の色材を含有させた油系インクとが挙げられ、目的に応じて使い分けられる。
一方、インクジェット用の記録シートは、インクを吸収させて画像を形成するためのインク受容層が、紙等の基材上に形成されてなる。そして、インク受容層は、例えば、シリカを主成分とし、さらにこれを分散させるための分散媒を含む組成物を塗布及び乾燥することで形成できる。
【0003】
このような記録シートとしては、これまでに種々のものが提案されており、例えば、インクの吸収速度が速く、受容層の基材からの剥離が抑制された、高速での印刷に適した記録シート(特許文献1参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−130694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の記録シートの多くは、特に油系インクを使用した場合に、基材中へインクが浸透し易いために受容層に色材が残り難く(いわゆる「裏抜け」)、印刷濃度が低くなって、高画質の画像を容易に形成できないという問題点があった。
これに対して、引用文献1に記載の記録シートは、印刷濃度の低下は抑制されているものの、階調性が良好ではなく、高画質の画像を容易に形成できないという問題点があった。これは、受容層のインク吸収量の上限値が比較的小さいために、インク吐出量が多い場合に、インク吐出量と印刷濃度との間に比例関係が得られないことが原因であると考えられた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、油系インクを使用した場合の印刷濃度が高く、階調性にも優れた画像を形成できるインクジェット用記録シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、比表面積が180m/g未満である非晶質シリカと、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル樹脂からなるバインダーと、溶媒と、が配合されてなることを特徴とするインク受容層用組成物を提供する。
本発明のインク受容層用組成物は、前記非晶質シリカが加熱処理されたものであり、比表面積が150〜170m/gであることが好ましい。
本発明のインク受容層用組成物は、前記ポリオレフィン系樹脂が、エチレン・酢酸ビニル共重合体であり、前記アクリル樹脂がアクリル酸エステル共重合体であることが好ましい。
本発明のインク受容層用組成物は、前記アクリル樹脂の配合量100質量部あたりの、前記ポリオレフィン系樹脂の配合量が、5〜570質量部であることが好ましい。
また、本発明は、上記本発明のインク受容層用組成物が基材上に塗布及び乾燥されてなるインク受容層を備えたことを特徴とするインクジェット用記録シートを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油系インクを使用した場合の印刷濃度が高く、階調性にも優れた画像をインクジェット用記録紙に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例2のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例1)を示すグラフである。
【図2】比較例5のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例2)を示すグラフである。
【図3】比較例6のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例3)を示すグラフである。
【図4】比較例7のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例4)を示すグラフである。
【図5】比較例8のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例5)を示すグラフである。
【図6】実施例2のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例6)を示すグラフである。
【図7】実施例9のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例7)を示すグラフである。
【図8】実施例10のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例8)を示すグラフである。
【図9】実施例11のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例9)を示すグラフである。
【図10】実施例12のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例10)を示すグラフである。
【図11】実施例13のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例11)を示すグラフである。
【図12】実施例14のインクジェット用記録シートにおける、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係(試験例12)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<インク受容層用組成物>
本発明のインク受容層用組成物(以下、単に「組成物」と略記することがある)は、比表面積が180m/g未満である非晶質シリカと、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル樹脂からなるバインダーと、溶媒と、が配合されてなることを特徴とする。かかる組成物は、油系インクの受容層の形成に特に好適なものである。
【0011】
(非晶質シリカ)
本発明において非晶質シリカは、比表面積が180m/g未満であれば良い。具体的には、乾式シリカ及び湿式シリカ等の合成非晶質シリカが例示できる。
乾式シリカは、例えば、四塩化ケイ素を酸素・水素炎中で燃焼させる燃焼法で得られる。
湿式シリカは、例えば、ケイ酸ナトリウムを無機酸で中和する沈殿法又はゲル法、あるいはアルコキシシランを加水分解するゾルゲル法等で得られる。
本発明において、非晶質シリカは湿式シリカであることが好ましい。
【0012】
非晶質シリカの比表面積は、150〜170m/gであることが好ましく、160m/g程度であることが特に好ましい。比表面積は、例えば、透過法や窒素等の気体分子を利用する気体吸着法等、公知の方法で測定できる。本発明において、非晶質シリカの比表面積を180m/g未満とすることで、インクの印刷濃度が十分に高くなる。
【0013】
非晶質シリカとしては、比表面積がほぼ均一なものを使用しても良いし、比表面積が均一ではなく、180m/g未満の広い範囲に渡って分布を有しているものを使用しても良い。また、非晶質シリカとしては、比表面積の分布の有無によらず、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0014】
非晶質シリカの比表面積は、原料となるシリカを加熱処理することで調節できる。非晶質シリカの比表面積は、加熱処理によって通常は10〜20%程度減少するので、この減少幅を勘案して、加熱後の比表面積が所望の値となるように、原料となるシリカを選択すれば良い。
シリカの加熱処理の方法としては、高温炉を使用して加熱する方法、火炎と接触させて加熱する方法が例示できる。
加熱条件は、加熱処理の方法に応じて適宜調節すれば良い。例えば、高温炉を使用する場合には、400〜800℃で1〜20分間加熱する条件が例示でき、火炎と接触させる場合には、500〜1200℃で0.5〜5秒間加熱する条件が例示できる。
【0015】
非晶質シリカの平均粒子径は、0.5〜15μmであることが好ましく、1〜5μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで、インク受容層における非晶質シリカの粒子間の空隙部が適度な広さに保たれ、インクの吸収量及び吸収速度が良好となり、印刷濃度が一層向上する。また、上限値以下とすることで、インク受容層表面の凹凸が低減され、画質が一層向上する。
【0016】
非晶質シリカの細孔容積は、0.5ml/g以上であることが好ましく、3ml/g以上であることがより好ましい。下限値以上とすることで、インクの印刷濃度が一層向上する。上限値は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されない。
【0017】
非晶質シリカは通常、加熱処理することで、上記のように比表面積が減少する。そして、加熱処理した非晶質シリカを使用した場合には、加熱処理していない非晶質シリカを使用した場合よりも、インク受容層に亀裂が入り難くなって安定化し、また画質が向上する傾向にある。
したがって、本発明において、非晶質シリカは加熱処理されたものが好ましく、加熱処理により、比表面積が上記の好ましい範囲に調整されたものがより好ましい。
【0018】
非晶質シリカとしては、比表面積だけでなく、上記の平均粒子径や細孔容積をはじめとする各種物性が明らかに異なるものを二種以上併用しても良い。その場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0019】
本発明の組成物における非晶質シリカの配合量は、1〜30質量%であることが好ましく、4〜15質量%であることがより好ましい。下限値以上とすることで、インクの印刷濃度を一層良好な範囲に調節でき、上限値以下とすることで、インク受容層を一層安定して形成できる。
【0020】
非晶質シリカは、溶媒、好ましくは極性溶媒を分散媒とする分散物として配合することが好ましい。極性溶媒の好ましいものとして、具体的には、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等の鎖状又は環状ケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状又は環状エーテル類等が例示できる。極性溶媒は一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
非晶質シリカの分散媒としては、水又は水を含む極性溶媒であることが好ましく、水であることがより好ましい。
【0021】
前記分散物中の非晶質シリカの総配合量は特に限定されず、適宜調節すれば良い。例えば、取り扱い性等を考慮すると、1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
【0022】
(バインダー)
本発明においてバインダーは、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル樹脂からなる。これら樹脂を併用することで、印刷濃度及び階調性の双方に優れた画像を形成できる。
前記ポリオレフィン系樹脂は、一種以上のオレフィンモノマーが重合されたものである。
オレフィンモノマーが二種以上である場合、これらモノマーの種類及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。また、二種以上のオレフィンモノマーが重合した共重合体は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれでも良い。
ポリオレフィン系樹脂の好ましいものとして具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体等が例示でき、エチレン・酢酸ビニル共重合体がより好ましい。
【0023】
前記アクリル樹脂は、一種以上のアクリル酸又はその誘導体であるモノマーが重合されたものである。ここで、「アクリル酸の誘導体」としては、アクリル酸のカルボキシ基がエステル化されたアクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸のカルボキシ基がエステル化されたメタクリル酸エステル等が例示できる。前記エステルは、メチルエステル又はエチルエステルが好ましい。
アクリル酸又はその誘導体であるモノマーが二種以上である場合、これらモノマーの種類及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。また、二種以上の前記モノマーが重合した共重合体は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれでも良い。
前記アクリル樹脂の好ましいものとしては、アクリル酸エステル共重合体が例示できる。
【0024】
前記ポリオレフィン系樹脂及びアクリル樹脂は、いずれも一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0025】
本発明においては、例えば、バインダーとして、エチレン・酢酸ビニル共重合体とアクリル酸エステル共重合体とを併用することで、特に優れた効果が得られる。
【0026】
バインダーは、前記ポリオレフィン系樹脂及びアクリル樹脂を共に含有していれば良く、これら樹脂の組み合わせ等を考慮して、使用量の比率を調節すれば良いが、アクリル樹脂100質量部に対するポリオレフィン系樹脂の含有量(インク受容層用組成物への配合量)が5〜1000質量部であることが好ましく、10〜1000質量部であることがより好ましい。このような範囲とすることで、本発明の一層優れた効果が得られる。そして、組成物の塗工適性及び分散性にも優れることから、前記含有量は5〜570質量部であることが好ましく、30〜500質量部であることがより好ましく、30〜320質量部であることがさらに好ましく、50〜300質量部であることが特に好ましい。
【0027】
本発明の組成物におけるバインダーの総配合量は、1〜30質量%であることが好ましく、4〜15質量%であることがより好ましい。下限値以上とすることで、インク受容層を一層安定して形成でき、上限値以下とすることで、インクの印刷濃度を一層良好な範囲に調節できる。
【0028】
バインダーの総配合量は、非晶質シリカの配合量100質量部に対して、40〜160質量部であることが好ましく、80〜120質量部であることがより好ましい。このような範囲とすることで、印刷濃度が高く、且つ階調表現にも優れた画像を形成する一層優れた効果が得られる。
【0029】
バインダーは、溶媒、好ましくは極性溶媒を分散媒とする分散物として配合することが好ましい。分散媒としては、非晶質シリカの分散物の場合と同様のものが例示できる。
【0030】
バインダーの分散物を使用する場合には、前記ポリオレフィン系樹脂及びアクリル樹脂が別々に分散されたものを使用しても良いし、前記ポリオレフィン系樹脂及びアクリル樹脂の混合物が分散されたものを使用しても良い。
【0031】
分散物中のバインダーの総配合量は特に限定されず、バインダーの種類に応じて適宜調節すれば良い。例えば、取り扱い性等を考慮すると、30〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがより好ましい。
【0032】
(溶媒)
本発明の組成物は、必須成分として、前記非晶質シリカ及びバインダー以外に、さらに溶媒が配合されてなるものである。ここで「溶媒」とは、非晶質シリカ及び/又はバインダーを分散物として配合し、前記分散媒として使用したもの以外に溶媒を使用しなかった場合には、前記分散媒を指す。また、前記分散媒として使用したもの以外に、別途溶媒を配合した場合には、前記分散媒とこの別途配合した溶媒の双方を指す。そして、非晶質シリカ及びバインダーを共に固形物として配合した場合には、これらとは別に添加される溶媒を指す。
前記分散媒として使用したもの以外に、別途配合する溶媒は、極性溶媒であることが好ましく、前記分散媒と同様のものが例示できる。
【0033】
本発明の組成物において、溶媒の総配合量は特に限定されないが、非晶質シリカ及びバインダーの総量100質量部に対して、100〜2000質量部であることが好ましく、300〜700質量部であることがより好ましい。
【0034】
(その他の成分)
本発明の組成物は、本発明の効果を妨げない範囲内において、前記非晶質シリカ、バインダー及び溶媒以外に、その他の成分が配合されていても良い。
その他の成分としては、pH調整剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、酸化防止剤、防腐剤、耐水化剤、紙力増強剤、着色染料、着色顔料、色素定着剤、顔料分散剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等、インクジェット用記録シートの受容層において通常使用される成分が例示できる。
本発明の組成物における、前記その他の成分の総配合量は、目的に応じて適宜調節すれば良い。
【0035】
(インク受容層用組成物の製造方法)
本発明の組成物は、前記非晶質シリカ、バインダー、溶媒、さらに必要に応じてその他の成分を配合して、これら配合成分を十分に撹拌することで製造できる。本発明の組成物において、非晶質シリカ及びバインダーは、共に分散されていることが好ましい。
【0036】
上記のように、非晶質シリカ及びバインダーは、それぞれ分散物として配合することが好ましい。そして、この場合、前記分散物の分散媒以外に、別途溶媒を配合することが好ましい。
各成分は、一度にまとめて配合しても良いし、成分ごとに順次配合しても良く、一部の成分のみをまとめて配合しても良い。各成分の配合順序は特に限定されない。
【0037】
配合時の温度は特に限定されず、配合成分の種類等に応じて適宜調整すれば良いが、15〜30℃であることが好ましい。
撹拌は、ミキサーを使用する方法等、分散物を調製する公知の方法で行えば良い。撹拌時間は、製造する組成物の総量や撹拌方法等に応じて、適宜調整すれば良い。
【0038】
<インクジェット用記録シート>
本発明のインクジェット用記録シート(以下、単に「記録シート」と略記することがある)は、上記本発明の組成物が基材上に塗布及び乾燥されてなるインク受容層を備えたことを特徴とする。
【0039】
基材の材質は特に限定されず、目的に応じて選択すれば良い。具体的には、原紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、レジンコート紙、合成紙等の紙類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等の合成樹脂等が例示できる。また、二種以上の材質のものが積層されたものでも良い。
【0040】
基材の厚さは、基材の形状がシート状又はフィルム状である限り、特に限定されないが、20〜1000μmであることが好ましく、50〜200μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで、インク受容層の構造を一層安定して保持でき、上限値以下とすることで、記録シートとしての取り扱い性が一層良好となる。
【0041】
組成物の塗布方法は特に限定されず、液状物を塗布できる方法であれば、いずれでも良い。具体的には、エアーナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロッドコーター等の各種コーター;ワイヤーバー等の装置を使用する公知の方法が例示できる。
【0042】
組成物の塗布は、一回で行っても良いし、複数回に分けて行っても良い。複数回に分けて行う場合には、乾燥させた塗布層上にさらに塗布する方法、乾燥していない塗布層上にさらに塗布する方法のいずれでも良い。
組成物の塗布量は、組成物の固形分濃度、インク受容層の所望の厚み等を考慮して、適宜調節すれば良い。
【0043】
塗布した組成物は、送風乾燥、加熱送風乾燥等、公知の方法で乾燥させれば良い。乾燥温度、乾燥時間等の条件は、乾燥方法に応じて適宜設定すれば良い。
【0044】
インク受容層は、厚さが1〜20μmであることが好ましく、2〜10μmであることがより好ましい。このような範囲とすることで、インク受容層の構造を一層安定して保持できると共に、本発明の効果に一層優れた記録シートとなる。
【0045】
本発明の記録シートは、インク受容層形成後に、マシンカレンダー、TGカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の装置を使用して、表面が平滑化処理されていても良い。
【0046】
本発明の組成物から形成されたインク受容層は、インクの吸収量及び吸収速度が良好で、インク受容力が高いので、インクの印刷濃度の上限値が高い。そして、インクの吐出量を横軸、インクの印刷濃度を縦軸としてグラフにプロットした場合、得られるグラフはほぼ直線関係となり、インクの吐出量と印刷濃度との間には、ほぼ比例関係が成立する。これは、油系インクを使用した場合に特に顕著であり、顔料系の油系インク全般に対して、優れた効果を奏する。このような特性を有するので、インク受容層上に形成された画像は、印刷濃度に優れるだけでなく、階調性にも優れ、自然で精密な高画質の画像となる。このように、印刷濃度と階調性に優れるのは、比表面積が180m/g未満である非晶質シリカと、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル樹脂からなるバインダーとを組み合わせて配合した、本発明の組成物を使用したことによる。
【0047】
例えば、特開2006−130694号公報(特許文献1)には、比表面積が180m/g以上、400m/g未満の非晶質シリカと有機バインダーが配合された組成物を使用することにより、受容層の接着強度が高く且つインクの吸収速度が速い記録シートを提供することが記載されている。しかし、印刷濃度と階調性の双方を向上させるという課題は記載されておらず、かかる課題を解決する記録シートが記載されていないのは言うまでもない。実際に本発明者らは、このような記録シートは、印刷濃度が高くても階調性が満足できるレベルに無いことを確認している。加えて、かかる文献には、非晶質シリカの比表面積が180m/g未満では画像濃度が低くなると記載されている。これに対して、本発明は、比表面積が180m/g未満の非晶質シリカを使用して、印刷濃度が高いだけでなく階調性にも優れる記録シートを提供する点で、従来の記録シートとは全く相違するものである。
【実施例】
【0048】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
<使用原料>
以下に示す実施例又は比較例では、非晶質シリカとして「E−70」、「E−50」又は「X−70」(いずれも商品名、株式会社トクヤマ製)を使用した。これら非晶質シリカの物性を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
また、アクリル樹脂は水分散物である「LDM7582」(商品名、ニチゴー・モビニール株式会社製)を、エチレン・酢酸ビニル共重合体は水分散物である「BE−814」(商品名、中央理化工業株式会社製)を、ポリビニルアルコールは水溶液である「PVA−117」(商品名、株式会社クラレ製)を、それぞれ使用した。これらの物性を以下に示す。
【0051】
(アクリル樹脂の水分散物「LDM7582」)
主成分:自己架橋型のアクリル酸エステル共重合樹脂
外観:乳白色エマルジョン(保護コロイドはエーテル系界面活性剤)
不揮発成分:46%
粘度:300mPa・s未満
イオン性:ノニオン性
pH:3〜5
平均粒径:0.1μm
最低造膜温度(Minimum film forming temperature、MFT):20℃
【0052】
(エチレン・酢酸ビニル共重合体の水分散物「BE−814」)
主成分:エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂
外観:乳白色エマルジョン(保護コロイドはポリビニルアルコール)
不揮発成分:55%
粘度:1000mPa・s(BM型、#3、60rpm、25℃)
イオン性:ノニオン性
pH:7.5
【0053】
(ポリビニルアルコールの水溶液「PVA−117」)
けん化度:98〜99mol%
【0054】
<インク受容層用組成物の製造>
[実施例1]
室温にて、非晶質シリカ(E−70)100質量部に水904質量部を加え、ハイスピードミキサーを使用して、4000rpmで30分間撹拌することで十分に分散を行い、シリカの水分散物を調製した。
次いで、アクリル樹脂の水分散物(LDM7582)89質量部(アクリル樹脂40質量部)、及びエチレン・酢酸ビニル(EVA)共重合体の水分散物(BE−814)109質量部(EVA共重合体60質量部)を、得られたシリカの水分散物に加え、400rpmで20分間撹拌することにより、非晶質シリカ及びバインダーが分散された、固形分濃度が16.5質量%のインク受容層用組成物(1)を製造した。
原料の組成及び配合量を表2に示す。なお、表2中、「溶媒(質量部)」は、組成物中のすべての溶媒とその配合量を示す。
【0055】
[比較例1]
アクリル樹脂の水分散物(LDM7582)とエチレン・酢酸ビニル共重合体の水分散物(BE−814)の代わりに、ポリビニルアルコール(PVA)の水溶液(PVA−117)900質量部(PVA90質量部)を使用し、原料の配合量を表2に示す通りとした(固形分濃度10質量%)こと以外は、実施例1と同様に、比較用のインク受容層用組成物(1’)を製造した。
【0056】
[比較例2〜4]
原料の組成及び配合量を表2に示す通りとした(固形分濃度16.5質量%)こと以外は、実施例1と同様に、比較用のインク受容層用組成物(2’)〜(4’)を製造した。
【0057】
<インクジェット用記録シートの製造>
[実施例2]
ワイヤーバーを使用して、実施例1で製造したインク受容層用組成物(1)をフォーム用紙(商品名:NPiフォーム<55>(日本製紙社製)、厚さ85±5μm、B4サイズ)の片面上に塗布し、オーブンを使用して110℃で90秒間加熱送風乾燥を行い、厚さが5μmのインク受容層を形成して、インクジェット用記録シート(1)を製造した。
【0058】
[比較例5〜8]
インク受容層用組成物(1)の代わりに、比較用のインク受容層用組成物(1’)〜(4’)を使用したこと以外は実施例2と同様に、比較用のインクジェット用記録シート(1’)〜(4’)を製造した。
【0059】
<インク受容層用組成物の製造>
[実施例3〜8]、[参考例1]
アクリル樹脂及びEVA共重合体の配合量を表2に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様にインク受容層用組成物(3)〜(8)(実施例3〜8)、インク受容層用組成物(9)(参考例1)を製造した。
【0060】
[比較例9]
アクリル樹脂の水分散物(LDM7582)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様に、比較用のインク受容層用組成物(9’)を製造した。
【0061】
<インクジェット用記録シートの製造>
[実施例9〜14]、[参考例2]
インク受容層用組成物(1)の代わりに、インク受容層用組成物(3)〜(8)、インク受容層用組成物(9)を使用したこと以外は実施例2と同様に、インクジェット用記録シート(3)〜(8)(実施例9〜14)、インクジェット用記録シート(9)(参考例2)を製造した。
【0062】
[比較例10]
インク受容層用組成物(1)の代わりに、比較用のインク受容層用組成物(9’)を使用したこと以外は実施例2と同様に、比較用のインクジェット用記録シート(9’)を製造した。
【0063】
【表2】

【0064】
<油系インクによる評価>
[試験例1]
(I)印刷濃度の評価
実施例2で製造したインクジェット用記録シート(1)を、23℃で湿度50%の恒温恒湿室内で一日調湿した後、この記録シート(1)に対して、インクジェットプリンター(商品名:ORPHIS HC5000(理想科学工業社製))を使用して油系インクを吐出させ、ベタ印刷を行った。この時、油系インクとしては、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの四色を使用した。また、油系インクの吐出量は、各色ごとに基本量(一倍量)と、その二倍量、三倍量、四倍量、五倍量、六倍量及び七倍量の七段階とし、それぞれ七階調でベタ印刷を行った。
印刷終了から二時間後に、積分球分光測色計(X−rite社製SP60)を使用して、インクジェット用記録シート(1)上での印刷濃度を測定した。測定結果を表3に示す。また、下記評価基準に従って、印刷濃度を評価した。評価結果を表15に示す。
(印刷濃度の評価方法)
インクの吐出量が二番目に多い六階調目(インク吐出量が基本量の六倍量)のベタ部におけるブラックの印刷濃度が1.20以上である場合を○、1,20未満である場合を×とした。
【0065】
(II)階調性の評価
上記(I)における、ブラックインクを使用した場合の七階調での印刷濃度とインク吐出量との関係をグラフにプロットした。結果を図1に示す。また、そのグラフの傾きから階調性を評価した。具体的には、グラフの直線性を最小二乗法で評価し、相関係数(R値)が0.99以上であるものを◎、0.90以上0.99未満であるものを○、0.90未満であるものを×と評価した。すなわち、インク吐出量が1〜7(一倍量〜七倍量)の範囲で直線性が特に高いものが◎、高いものが○、低いものが×との評価になる。評価結果を表16に示す。
【0066】
<その他の評価>
(III)塗工適正の評価
実施例1のインク受容層用組成物について、紙からなる基材上へ塗布した時の塗工適性を評価した。塗布は、上記のインクジェット用記録シートの製造時と同様の方法で行なった。そして、下記基準に従って評価した。評価結果を表16に示す。
○:組成物製造時にわずかに増粘するが、基材上に容易に塗布できる。
△:組成物製造時に増粘するが、基材上に問題なく塗布できる。
×:組成物製造時に著しく増粘し、基材上で広がらず、塗布が困難である。
【0067】
(IV)分散性の評価
実施例1のインク受容層用組成物について、製造後翌日における分散性を、下記基準に従って目視により評価した。評価結果を表16に示す。
○:沈殿物が見られない。
△:わずかに沈殿物が見られるが、容易に再分散できる程度である。
×:再分散を行うのが困難な沈殿物が見られる。
【0068】
[試験例2〜5]
インクジェット用記録シート(1)の代わりに、比較用のインクジェット用記録シート(1’)〜(4’)を使用したこと以外は試験例1と同様に、印刷濃度の測定及び評価、並びに階調性の評価を行った。印刷濃度の測定結果を表4〜7に、印刷濃度とインク吐出量との関係をグラフにプロットした結果を図2〜5に、印刷濃度の評価結果を表15に、階調性の評価結果表16に、それぞれ示す。
【0069】
<水系インクによる評価>
[試験例6]
油系インクの代わりに水系インクを使用し、インクジェットプリンター(商品名:IPSiO GX5000(リコー社製))で吐出させたこと以外は試験例1と同様に、印刷濃度の測定及び評価、並びに階調性の評価を行った。水系インクとしては、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの四色を使用した。印刷濃度の測定結果を表8に、ブラックインクを使用した場合の印刷濃度とインク吐出量との関係をグラフにプロットした結果を図6に、印刷濃度の評価結果を表15に、階調性の評価結果表16に、それぞれ示す。
【0070】
<油系インクによる評価>
[試験例7〜13]
(I)印刷濃度の評価、(II)階調性の評価
インクジェット用記録シート(1)の代わりに、インクジェット用記録シート(3)〜(8)を使用したこと以外は試験例1と同様に、印刷濃度の測定及び評価、並びに階調性の評価を行った(試験例7〜12)。印刷濃度の測定結果を表9〜14に、印刷濃度とインク吐出量との関係をグラフにプロットした結果を図7〜12に、印刷濃度の評価結果を表15に、階調性の評価結果表16に、それぞれ示す。
【0071】
<その他の評価>
(III)塗工適正の評価
実施例3〜8、参考例1のインク受容層用組成物について、試験例1と同様に評価を行った(試験例7〜13)。評価結果を表16に示す。
【0072】
(IV)分散性の評価
実施例3〜8のインク受容層用組成物について、試験例1と同様に評価を行った(試験例7〜12)。評価結果を表16に示す。
【0073】
[試験例14]
<その他の評価>
(III)塗工適正の評価
インクジェット用記録シート(1)の代わりに、比較用のインクジェット用記録シート(9’)を使用したこと以外は試験例1と同様に評価を行った。評価結果を表16に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
【表7】

【0079】
【表8】

【0080】
【表9】

【0081】
【表10】

【0082】
【表11】

【0083】
【表12】

【0084】
【表13】

【0085】
【表14】

【0086】
【表15】

【0087】
【表16】

【0088】
表3〜8、表15〜16、及び図1〜6から明らかなように、実施例2の本発明の記録シート(1)は、油系インクを使用した場合に印刷濃度が高く、階調表現にも優れた画像を形成できることが確認できた。
これに対して、比較例5の記録シート(1’)は、バインダーとしてポリビニルアルコールを使用した組成物(1’)を使用したことにより、印刷濃度は高いものの、低階調で階調性に劣るものであった。
また、比較例6の記録シート(2’)は、バインダーとしてアクリル酸エステル共重合樹脂を単独で使用した組成物(2’)を使用したことにより、印刷濃度が低いものであった。
また、比較例7及び8の記録シートは、非晶質シリカとして比表面積が180m/g以上であるものを使用した組成物(3’)及び(4’)をそれぞれ使用したことにより、印刷濃度が低いものであった。
一方、実施例2の記録シート(1)は、水系インクを使用した場合には、印刷濃度が低くなった。
【0089】
表9〜16、及び図7〜12から明らかなように、実施例9〜14の本発明の記録シート(3)〜(8)は、油系インクを使用した場合に印刷濃度が高く、階調表現にも優れた画像を形成できることが確認できた。特に、記録シート(5)、(7)及び(8)は、階調表現が顕著に優れていた。
【0090】
実施例1、実施例3〜8、及び参考例1のインク受容層用組成物を使用した場合の結果から、アクリル樹脂の配合量100質量部あたりのEVA共重合体の配合量が、5.3質量部(実施例8)〜567質量部(実施例3)の範囲内で、油系インクを使用した場合の印刷濃度及び階調性が特に優れることが確認できた。さらに、アクリル樹脂の配合量100質量部あたりのEVA共重合体の配合量が、33.3質量部(実施例7)〜300質量部(実施例4)の範囲内である場合には、印刷濃度及び階調性に加え、インク受容層用組成物の塗工適性及び分散性も特に優れることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、画像形成に関わる各種イメージング分野、印刷分野等で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が180m/g未満である非晶質シリカと、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル樹脂からなるバインダーと、溶媒と、が配合されてなることを特徴とするインク受容層用組成物。
【請求項2】
前記非晶質シリカが加熱処理されたものであり、比表面積が150〜170m/gであることを特徴とする請求項1に記載のインク受容層用組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂が、エチレン・酢酸ビニル共重合体であり、前記アクリル樹脂がアクリル酸エステル共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインク受容層用組成物。
【請求項4】
前記アクリル樹脂の配合量100質量部あたりの、前記ポリオレフィン系樹脂の配合量が、5〜570質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク受容層用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のインク受容層用組成物が基材上に塗布及び乾燥されてなるインク受容層を備えたことを特徴とするインクジェット用記録シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−131570(P2011−131570A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34814(P2010−34814)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【Fターム(参考)】