説明

インク吐出ヘッドの製造方法

【課題】フォトリソグラフィー法の紫外線照射工程において、ノズル孔となる位置のノズル形成層の半硬化又は硬化を防止し、不良品の発生を防止することができるインク吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】流路壁53により形成され、インク加熱要素52を含む空間に紫外線を吸収する樹脂を注入し、当該樹脂で流路壁53を覆い犠牲層54を形成することにしたので、紫外線照射工程において、紫外線が犠牲層54で吸収され、基板51で反射する紫外線量を抑制することが可能となり、マスク部56a直下のノズル形成層55に照射される紫外線量が抑制される。このため、ノズル孔55aとなる位置のノズル形成層55の半硬化又は硬化が抑制され、不良品の発生が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンター等に用いられるインク吐出ヘッドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンター等に用いられる熱源駆動方式のインク吐出ヘッドは、熱源を用いてインクにバブルを発生させ、そのバブルの膨張力によりインク液滴を吐出させるものである。このような熱源駆動方式のインク吐出ヘッドの製造方法は、特許文献1に示されるようにフォトリソグラフィー法により製造される。以下に図2を用いて、従来のインク吐出ヘッドの製造方法を説明する。
【0003】
まず、シリコン製等の基板51上に、抵抗発熱体からなるインク加熱要素52を形成するインク加熱要素形成工程を行う(図2の(1))。基板51上のインク加熱要素52の周囲位置に、流路壁53を形成する流路壁形成工程を行う(図2の(2))。流路壁53により形成され、インク加熱要素52を含む空間に、流路壁53上端を覆うように、樹脂を注入し、犠牲層54を形成する犠牲層形成工程を行う(図2の(3))。研磨による機械加工により、流路壁53の上端面が露出するまで、流路壁53の上部及び犠牲層54の上部を除去して、流路壁53の上端面及び犠牲層54上面を同一平坦面にする犠牲層削除工程を行う(図2の(4))。
【0004】
流路壁53の上端面及び犠牲層54上面上に、溶媒に溶解させた紫外線硬化型樹脂を塗布・乾燥させてノズル形成層55を形成するノズル形成層形成工程を行う(図2の(5))。ノズル形成層55上に、ノズル孔に相当するマスク部56aが形成されたフォトマスク56を載置するフォトマスク形成工程を行う(図2の(6))。フォトマスクに対向する位置から紫外線をノズル形成層55に照射して、ノズル形成層55を硬化させる紫外線照射工程を行う(図2の(7))。マスク部56aで紫外線が遮断される位置のノズル形成層55は、硬化することが無く、ノズル孔55aが形成される。
【0005】
基板51ごとノズル孔溶解液に浸漬させて、ノズル孔55aが形成された位置のノズル形成層55を除去する。その後、基板51ごと犠牲層溶解液に浸漬させて、犠牲層54を除去する犠牲層除去工程を行い、インク吐出ヘッドの製造が完了する(図2の(8))。犠牲層54が除去された後の、基板51、流路壁53、ノズル形成層55で囲まれる空間は、インクが流入するインク流入部56となっている。
【0006】
熱源駆動方式のインク吐出ヘッドには、インク流入部56が多数形成されている。このインク流入部56に流入したインクが、インク加熱要素52により加熱されてバブルが発生し、そのバブルの膨張力によりインク液滴が、ノズル孔55aから吐出される。なお、犠牲層形成工程及び犠牲層削除工程を行うのは、ノズル形成層形成工程において、犠牲層54でノズル形成層55を支持させて、平面なノズル形成層55を形成するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−104156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
紫外線照射工程において、紫外線をノズル形成層55に照射する際に、図2の(7)に示されるように、照射した紫外線が基板51で乱反射し、マスク部56a直下のノズル形成層55にも、紫外線が照射されてしまう。すると、本来紫外線があたってはいけないノズル孔55aとなる位置のノズル形成層55が真円ではない形状で硬化し、ノズル孔55a除去工程において、ノズル孔55aが形成されるべき位置のノズル形成層55の一部分が除去されないことがあった。すると、ノズル孔55aの形状が真円ではなくいびつな形状になり、不良品が発生してしまうという問題が発生する。また、特に、ノズル孔55aの孔径が小さいインク吐出ヘッドの場合、ノズル孔55aとなる位置のノズル形成層55がそもそも除去できなく、ノズル孔55aが開口しないことすらあった。このような場合、基板を廃棄するしかなく、不良品が多く発生してしまう。
本発明は、上記問題を解決し、フォトリソグラフィー法の紫外線照射工程において、ノズル孔となる位置のノズル形成層の半硬化又は硬化を防止し、不良品の発生を防止することができるインク吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、
基板上に、インクを加熱するインク加熱要素を形成するインク加熱要素形成工程と、
前記基板上の前記インク加熱要素の周囲位置に流路壁を形成する流路壁形成工程と、
前記流路壁により形成され、前記インク加熱要素を含む空間に紫外線を吸収する樹脂を注入し、当該樹脂で前記流路壁を覆い犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記流路壁の上端面が露出するまで犠牲層を除去し、犠牲層上面を平坦にする犠牲層除去工程と、
前記流路壁上端面及び前記犠牲層上面に、紫外線の照射により硬化するノズル形成層を形成するノズル形成層形成工程と、
前記ノズル形成層上に、ノズル孔に相当するマスク部が形成されたフォトマスクを形成するフォトマスク形成工程と、
フォトマスクに対向する位置から紫外線を前記ノズル形成層に照射して、前記ノズル形成層を硬化させる紫外線照射工程と、
基板を溶解液に浸漬させて、前記ノズル形成層のノズル孔位置の樹脂及び前記犠牲層を除去する除去工程を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
犠牲層は、溶解液に可溶な樹脂に紫外線吸収剤が含有されて構成されていることを特徴とする。
これにより、犠牲層除去工程において、ドライエッチングやアッシャなどの真空工程を必要とせず、確実に犠牲層を除去させることが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
犠牲層の紫外線吸収剤は、黒色着色剤であることを特徴とする。
これにより、犠牲層での紫外線の吸収効果が高く、照射された紫外線が殆ど基板に到達することが無く、紫外線が殆ど基板で反射することが無い。このため、紫外線がマスク部直下のノズル形成層に照射されることが殆ど無く、ノズル孔を精度よく加工できるとともに、ノズル孔があかないことによる不良品の発生をより確実に防止することが可能となる。
【0012】
請求項4に記載に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
犠牲層の紫外線吸収剤は、可視光を透過することを特徴とする。
これにより、犠牲層は可視光を透過するので、基板上のインク加熱要素は可視可能であり、基板上に位置合わせ用のマークが設けられている等の場合、フォトマスク形成工程において、犠牲層を透してそのマークを確認することで、フォトマスクの水平方向の位置合わせが容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、流路壁により形成され、インク加熱要素を含む空間に紫外線を吸収する樹脂を注入し、当該樹脂で前記流路壁を覆い犠牲層を形成することにしたので、フォトリソグラフィー法の紫外線照射工程において、紫外線が犠牲層で吸収される。そのため、基板で反射する紫外線量を抑制することが可能となり、マスク部直下のノズル形成層に照射される紫外線量が抑制される。このため、ノズル孔となる位置のノズル形成層が半硬化又は硬化が抑制され、不良品の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態を示すインク吐出ヘッド製造方法の説明図である。
【図2】従来のインク吐出ヘッド製造方法を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(発明の概要)
本発明では、犠牲層61、62として、溶解液に可溶な樹脂に紫外線吸収剤を含有させたもの使用する。このように、犠牲層61、62に紫外線吸収剤が含有されているので、図1の(1)や(2)に示されるように、紫外線照射工程において、紫外線は犠牲層61で吸収され、基板51で反射する紫外線量が抑制され、マスク部56a直下のノズル形成層55に照射される紫外線量が抑制される。このため、ノズル孔55aとなる位置のノズル形成層55の半硬化又は硬化が抑制され、不良品の発生を防止できる。なお、犠牲層61、62として、溶解液に可溶な樹脂を使用しているので、真空工程によらず犠牲層除去工程において、確実に犠牲層を除去させることが可能となる。
【0016】
(第1の実施形態)
図1の(1)に示される第1の実施形態では、犠牲層61は、可視光を透過し、溶解液に可溶な樹脂に、紫外線吸収剤を含有させて構成されている。可視光を透過し、溶解液に可溶な樹脂には、半硬化ポリイミド(例えば東レ株式会社の商品名セミコファイン)、ポリメチルイソポロペニルケトンを含む電離放射型のポジ型レジスト(例えば株式会社東京応化工業の商品名ODUR−1010)、メタクリル酸エステルとメタクリル酸との共重合を含む電離放射分解型のポジ型レジスト(例えばPMMA系共重合体)が含まれる。紫外線吸収剤には、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリルレート系の紫外線吸収剤が含まれる。具体的には、紫外線吸収剤には、2,4−ジ−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,2’−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、フェニルサリシレート、4−t−ブチルフェニルサリシレート、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートが含まれる。
【0017】
犠牲層61は可視光を透過するので、基板51上のインク加熱要素52は可視可能であり、基板51上に位置合わせ用のマークが設けられている等の場合、フォトマスク形成工程において、犠牲層61を透してそのマークを確認することで、フォトマスク56の水平方向の位置合わせが容易となる。
【0018】
(第2の実施形態)
図1の(2)に示される第2の実施形態では、犠牲層62は、溶解液に可溶な樹脂に、黒色着色剤を含有させて構成されている。溶解液に可溶な樹脂には、前記した、半硬化ポリイミド、ポリメチルイソポロペニルケトンを含む電離放射型のポジ型レジスト、メタクリル酸エステルとメタクリル酸との共重合を含む電離放射分解型のポジ型レジストが含まれる。黒色着色剤には、黒色固体微粒子や黒色染料が含まれる。
【0019】
犠牲層62には、黒色着色剤が含まれるので、犠牲層62での紫外線の吸収効果が高く、照射された紫外線が殆ど基板51に到達することが無く、紫外線が殆ど基板51で反射することが無い。このため、紫外線がマスク部56a直下のノズル形成層55に照射されることが殆ど無く、不良品の発生をより確実に防止できる。
【0020】
なお、犠牲層削除工程において、犠牲層54の上面が平坦になるように、流路壁53の上端面から離間する位置まで犠牲層54を削除し、基板51を犠牲層溶解液に浸漬させて、流路壁53の上端面が露出するまで、犠牲層54を溶解させて、流路壁53の上端面及び犠牲層54上面を平坦面にしても差し支えなく、このような実施形態にも本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【0021】
なお、フォトマスク形成工程において、ノズル形成層55上に、紫外線を遮蔽するインクを塗布して、フォトマスクを形成しても差し支えなく、このような実施形態にも本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【0022】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うインク吐出ヘッドの製造方法もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0023】
51 基板
52 インク加熱要素
53 流路壁
54 犠牲層
55 ノズル形成層
55a ノズル孔
56 フォトマスク
56a マスク部
58 欠損部
61 犠牲層(第1の実施形態)
62 犠牲層(第2の実施形態)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、インクを加熱するインク加熱要素を形成するインク加熱要素形成工程と、
前記基板上の前記インク加熱要素の周囲位置に流路壁を形成する流路壁形成工程と、
前記流路壁により形成され、前記インク加熱要素を含む空間に紫外線を吸収する樹脂を注入し、当該樹脂で前記流路壁を覆い犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記流路壁の上端面が露出するまで犠牲層を除去し、犠牲層上面を平坦にする犠牲層除去工程と、
前記流路壁上端面及び前記犠牲層上面に、紫外線の照射により硬化するノズル形成層を形成するノズル形成層形成工程と、
前記ノズル形成層上に、ノズル孔に相当するマスク部が形成されたフォトマスクを形成するフォトマスク形成工程と、
フォトマスクに対向する位置から紫外線を前記ノズル形成層に照射して、前記ノズル形成層を硬化させる紫外線照射工程と、
基板を溶解液に浸漬させて、前記ノズル形成層のノズル孔位置の樹脂及び前記犠牲層を除去する除去工程を含むことを特徴とするインク吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
犠牲層は、溶解液に可溶な樹脂に紫外線吸収剤が含有されて構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインク吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
犠牲層の紫外線吸収剤は、黒色着色剤であることを特徴とする請求項2に記載のインク吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
犠牲層の紫外線吸収剤は、可視光を透過することを特徴とする請求項2に記載のインク吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−30458(P2012−30458A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171348(P2010−171348)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】