説明

インク吸引システムおよびインク吸引方法

【課題】適切なメニスカスを形成することができると共に、吸引処理にかかる時間を短縮することのできるインク吸引システム等を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド51にインクを供給するインク供給装置10を介して、インクジェットヘッド51内に正圧を付与するヘッド内加圧装置78と、ノズル面57に離接自在に密接する吸引キャップ71a内に負圧を付与してインクジェットヘッド51からインクを吸引する吸引装置14と、を備え、制御装置13は、ヘッド内加圧装置78および吸引装置14を駆動させて、インクジェットヘッド51内への正圧付与とインクジェットヘッド51からのインク吸引とからなる吸引処理を開始した後、吸引処理の終了に際し、吸引装置14の駆動を停止させた後、吸引キャップ71a内の圧力と大気圧との圧力差が所定の値となるまで、ヘッド内加圧装置78の駆動を継続させる継続制御を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク供給手段に接続されたインクジェットヘッドに対し、そのノズル面に離接自在に密接したキャップを介して、インクを吸引するインク吸引システムおよびインク吸引方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録ヘッドのノズル面を覆うように装着される吸引キャップと、吸引キャップ内に負圧を付与して記録ヘッドからインクを吸引する吸引ポンプと、を備えたインク吸引装置が知られている(特許文献1参照)。
このインク吸引装置では、吸引ポンプの作動を開始し、吸引期間の途中の時点から作動終了時までの期間において、吸引ポンプの出力を最高目標出力値より低い目標出力値に制御し、作動終了時から所定期間置いて、吸引キャップ内の圧力が大気圧に戻るまで待って、吸引キャップを記録ヘッドから離脱させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−034663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸引ポンプの停止直後は、ノズル面に密着した吸引キャップ内は負圧となっている。この状態で吸引キャップをノズル面から引き離すと、急激な圧力変化により、インクがノズル内に引き込まれ、ノズル内のインク液面(メニスカス)を適切に維持することができない。なお、インクジェット方式の記録ヘッドでは、吸引処理後のメニスカスが、記録のための吐出開始後にも維持される傾向がある。このため、吸引処理後のメニスカスを適切に形成することが非常に重要となる。
そこで、上記したインク吸引装置では、吸引期間の途中から吸引ポンプの出力を低くして吸引を行い、作動終了時において吸引キャップ内の圧力が低くなり過ぎないようにすることで、大気圧に戻るまでの時間を短縮し、吸引キャップの離脱までの時間を短縮させている。
【0005】
しかし、上記した、従来のインク吸引装置では、吸引期間の途中から吸引ポンプの出力を低下させているため、適切なメニスカスの形成ができるものの、吸引にかかる時間が延びるという問題があった。また、粘性の高いインクの場合、吸引ポンプ停止後、吸引キャップの離脱まで、所定期間の経過を待つ必要があった。このため、吸引キャップの密着から離脱までの一連の吸引処理に要する時間が増大するという問題があった。
【0006】
本発明は、適切なメニスカスを形成することができると共に、吸引処理にかかる時間を短縮することのできるインク吸引システムおよびインク吸引方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインク吸引システムは、インクジェットヘッドにインクを供給するインク供給手段と、インク供給手段を介して、インクジェットヘッドのヘッド内に正圧を付与するヘッド内加圧手段と、インクジェットヘッドのノズル面に離接自在に密接するキャップと、キャップに連通し、密接したキャップのキャップ内に負圧を付与してインクジェットヘッドからインクを吸引する吸引手段と、ヘッド内加圧手段および吸引手段を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、ヘッド内加圧手段および吸引手段を駆動させて、ヘッド内への正圧付与とインクジェットヘッドからのインク吸引とからなる吸引処理を開始した後、吸引処理の終了に際し、吸引手段の駆動を停止させた後、キャップ内の圧力と大気圧との圧力差が所定の値となるまで、ヘッド内加圧手段の駆動を継続させる継続制御を実施することを特徴とする。
【0008】
本発明のインク吸引方法は、インク供給手段に接続されたインクジェットヘッドに対し、インクジェットヘッドのノズル面に離接自在に密接したキャップを介して、インクを吸引するインク吸引方法であって、インク供給手段を介して、インクジェットヘッドのヘッド内に正圧を付与するヘッド内加圧工程と、キャップのキャップ内に負圧を付与して、インクジェットヘッドからインクを吸引する吸引工程と、を所定のタイミングで連動させて開始する吸引処理工程を開始した後、吸引処理工程の終了に際し、吸引工程を終了させた後、キャップ内の圧力と大気圧との圧力差が所定の値となるまで、ヘッド内加圧工程を継続させることを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、吸引処理(工程)は、ヘッド内に対する加圧と、キャップ内に対する減圧とが、同時期に行なわれているため、ヘッド内を通過するインクの流速(または流量)が増大する。これにより、インクの吸引を短時間で行うことができる。また、吸引手段の駆動を停止(吸引工程を終了)させた後も、ヘッド内に対する加圧を継続することで、キャップに対して、インクジェットヘッドからのインクの流出が継続されるため、キャップ内の圧力は、負圧の状態から上昇して、速やかに大気圧と略同等となる。これにより、インクの吸引終了(吸引手段の駆動停止または吸引工程の終了)からキャップの離脱までの時間を短縮することができると共に、キャップを外した際のノズル内のメニスカスを適切に形成することができる。これらにより、一連の吸引処理を短時間で行うことができる。
【0010】
この場合、キャップ内に正圧を付与するキャップ内加圧手段を、更に備え、制御手段は、吸引処理の終了に際し、吸引手段の駆動を停止させると共にキャップ内加圧手段を駆動させ、その後、キャップ内の圧力と大気圧との圧力差が所定の値となるまで、ヘッド内加圧手段の駆動およびキャップ内加圧手段の駆動を継続させる継続制御を実施することを特徴とすることが好ましい。
【0011】
この場合、吸引処理工程は、キャップ内に正圧を付与するキャップ内加圧工程を、更に備え、吸引処理工程の終了に際し、吸引工程を終了すると共にキャップ内加圧工程を開始し、その後、キャップ内の圧力と大気圧との圧力差が所定の値となるまで、ヘッド内加圧工程およびキャップ内加圧工程を継続させることが好ましい。
【0012】
これらの構成によれば、吸引手段の駆動を停止(吸引工程を終了)させた後も、ヘッド内に対する加圧が継続され、インクジェットヘッドからのインクの流出が継続されると共に、キャップ内に対する加圧が開始されるため、キャップ内の圧力は、負圧の状態から直ちに大気圧と同等となる。これにより、一連の吸引処理を更に短時間で行うことができる。
【0013】
この場合、制御手段は、圧力差が所定の値となるまでの回復時間を記憶した制御テーブルを有し、制御テーブルに基づいて、継続制御を実施することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、キャップ内の圧力が大気圧となったことを簡易な制御で認識することができ、適切なメニスカスを形成可能な安定した吸引処理を短時間で実施することができる。
【0015】
この場合、キャップ内の圧力を検出するキャップ内圧力検出手段を、更に備え、制御手段は、キャップ内圧力検出手段の検出結果に基づいて、継続制御を実施することが好ましい。
【0016】
また、この場合、ヘッド内の圧力を検出するヘッド内圧力検出手段を、更に備え、制御手段は、ヘッド内圧力検出手段の検出結果に基づいて、継続制御を実施することが好ましい。
【0017】
これらの構成によれば、キャップ内の圧力が大気圧となったことを確実に検出することができ、良好なメニスカスの形成と確実な吸引処理とを短時間で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】記録装置の(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
【図2】ヘッドユニットの平面図である。
【図3】(a)は、インクジェットヘッドの斜視図、(b)はヘッド本体の構造を模式的に示した斜視断面図である。
【図4】吸引装置の側面図である。
【図5】吸引装置の配管系統図である。
【図6】第1実施形態に係るインク供給装置および吸引装置を模式的に示した側面図である。
【図7】第1実施形態に係るインク吸引方法のフローチャートである。
【図8】第1実施形態に係るインク吸引方法において、(a)はキャップ内の圧力と時間との関係を示す図、(b)はエジェクターの出力と時間との関係を示す図、(c)はヘッド内加圧手段の出力と時間との関係を示す図である。
【図9】第2実施形態に係るインク供給装置および吸引装置を模式的に示した側面図である。
【図10】第2実施形態に係るインク吸引方法のフローチャートである。
【図11】第2実施形態に係るインク吸引方法において、(a)はキャップ内の圧力と時間との関係を示す図、(b)はエジェクターの出力と時間との関係を示す図、(c)はヘッド内加圧手段の出力と時間との関係を示す図、(d)はキャップ内加圧手段の出力と時間との関係を示す図である。
【図12】(a)は第3実施形態に係るインク供給装置および吸引装置を模式的に示した側面図、(b)は第4実施形態に係るインク供給装置および吸引装置を模式的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る吸引装置(インク吸引システム)を備えた記録装置について説明する。この記録装置は、いわゆるリール・ツー・リール形式で除給材される薄いフィルム状のワークに対して、例えば、紫外線硬化インク(UVインク)をインクジェットヘッドにより吐出することで、所望の画像等を印刷するものである。なお、以下の説明では、ワークの送り方向をX軸方向と、X軸方向に直交する方向をY軸方向と、X軸方向およびY軸方向に直交する方向をZ軸方向と、さらにワークと平行な平面内における回転方向をθ方向と規定する。
【0020】
図1に示すように、記録装置1は、機台2と、ロール状に巻回された長尺のワークWを繰り出す繰出装置3と、印刷済みのワークWを巻き取る巻取装置4と、機台2上に配設され、給材されたワークWを吸着セットするワークステージ5と、X軸方向に延在し、ワークステージ5を介してワークWをX軸方向に間欠送りするX軸テーブル7と、X軸テーブル7を跨ぐようにY軸方向に架け渡されたY軸テーブル8と、インクを吐出してワークWに印刷を行う複数のインクジェットヘッド51を有し、Y軸テーブル8に移動自在に搭載されたキャリッジユニット9と、を備えている。
【0021】
また、記録装置1は、各インクジェットヘッド51にインクを供給するためのインク供給装置10と、各インクジェットヘッド51の機能の保守および回復を図るための保守装置11と、記録装置1を統括制御する制御装置13と、を備えている。保守装置11は、X軸テーブル7およびY軸テーブル8が交差する印刷領域からY軸方向に外れた保守領域に配設されており、保守領域に臨ませたインクジェットヘッド51の保守を行う。
【0022】
この記録装置1では、繰出装置3により繰出されたワークWをワークステージ5で吸着した後、X軸テーブル7によりワークステージ5を介してワークWをX軸方向に間欠送り(副走査)すると共に、吸着保持されたワークWの印刷領域に対し、キャリッジユニット9を往復動(主走査)させながらインクジェットヘッド51からインクを吐出して印刷を行う。
【0023】
繰出装置3は、ワークWを巻回した繰出リール21を繰り出し回転させる繰出モーター22と、繰り出されたワークWをZ軸方向に「V」字状に屈曲させると共に、ワークWに軽いバックテンションを付与する繰出側バッファー機構23と、を備え、ワークWの送り方向(X軸方向)上流側に配設されている。
【0024】
巻取装置4は、ワークWを巻き取る巻取リール24を巻き取り回転させる巻取モーター25と、巻き取られたワークWをZ軸方向に「V」字状に屈曲させると共に、ワークWに軽いフォワードテンションを付与する巻取側バッファー機構26と、を備え、ワークWの送り方向(X軸方向)下流側に配設されている。
【0025】
ワークステージ5は、その表面に複数形成された孔(図示省略)を介して、繰出装置3から送られてきたワークWを吸着する。ワークステージ5の搬送(X軸)方向上流端部および下流端部には、送込ローラー28と送出ローラー29とが、それぞれ添設されている。なお、詳細な説明は省略するが、ワークステージ5に形成された複数の孔は、それぞれ真空吸引設備(図示省略)および圧縮エアー供給設備76(図5参照)に連通している。
【0026】
送込ローラー28および送出ローラー29は、それぞれ昇降可能に設けられた自由回転するニップローラーであり、X軸方向に並んで配設され、ワークWを挟み込んで、ワークステージ5上面にワークWを臨ませる。そして、ワークステージ5は、ワークWを吸着した状態で、X軸テーブル7によりX軸方向(上流側から下流側)に間欠送りされる。
【0027】
X軸テーブル7は、機台2上に配設され、X軸方向に延在する一対のX軸ガイドレール31と、ワークステージ5をX軸ガイドレール31に沿ってスライド自在に支持するモーター駆動のX軸スライダー32と、を有している。X軸テーブル7は、キャリッジユニット9の往動(または復動)時には停止し、次の復動(または往動)までに、印刷幅分、ワークWをX軸方向の下流側に送る(改行送り)。
【0028】
Y軸テーブル8は、機台2をY軸方向に跨ぐように架け渡された一対のY軸ガイドレール34と、キャリッジユニット9を吊設したブリッジプレート35と、ブリッジプレート35をY軸方向にスライド自在に支持するモーター駆動のY軸スライダー36と、を有している。Y軸テーブル8は、キャリッジユニット9を介して印刷時にインクジェットヘッド51をY軸方向に往復移動させるほか、インクジェットヘッド51を保守装置11に臨ませる。
【0029】
キャリッジユニット9は、ブリッジプレート35に垂設したキャリッジ本体43と、キャリッジ本体43に垂設され、複数個のインクジェットヘッド51を有するヘッドユニット44と、を備えている。図2に示すように、ヘッドユニット44は、複数個のインクジェットヘッド51を、ヘッドプレート50に所定のパターンで配置され固定されており、ヘッドプレート50のY軸方向両端部には、一対の紫外線ランプ45が搭載されている。
【0030】
図3(a)に示すように、インクジェットヘッド51は、いわゆる2連のものであり、2つの接続針55を有するインク導入部52と、インク導入部52に連なる2連のヘッド基板53と、インク導入部52の下方に連なり、内部にインクで満たされるヘッド内流路が形成されたポンプ部54と、多数の吐出ノズル56が開口したノズル面57を有するノズルプレート58と、を備えている。
【0031】
図3(b)に模式的に示すように、ポンプ部54は、接着フィルム54a上に設置され、各吐出ノズル56に対応する圧電素子54bと、接着フィルム54aとノズルプレート58とを接合して、各吐出ノズル56に対応する圧力室54dを構成するシリコンキャビティ54cと、で構成されている。また、ポンプ部54には、圧力室54dに供給するための機能液を溜めると共に各接続針55に連通する共通室54eと、各圧力室54dと共通室54eとをつなぐ供給路54fと、が形成されている。そして、各圧力室54dは、各吐出ノズル56(圧電素子54b)に対応し、各吐出ノズル56に連通している。ヘッド基板53に接続されたケーブルを介して制御装置13から出力された駆動波形が各圧電素子54bに印加されることで、各吐出ノズル56からインクが吐出される。なお、請求項に言う「ヘッド内」とは、各圧力室54dの内部を指す。
【0032】
本実施形態で使用するインクは、いわゆる紫外線硬化型のインクであり、ヘッドユニット44に搭載した一対の紫外線ランプ45が点灯し、ワークWに着弾した紫外線硬化型のインクを硬化・定着させる。なお、インクは、紫外線硬化型のものに限られず、赤外線硬化型や可視光硬化型等のインクでもよい。
【0033】
図1および図6に示すように、インク供給装置10は、複数色のインクをそれぞれ貯留する複数のインクタンク61と、各インクタンク61と各インクジェットヘッド51とを連通させる複数のインク供給流路62と、各インクタンク61の上部空間に連通した大気開放流路63と、を有している。各インク供給流路62は、下流端部が二分岐して、それぞれ2つの接続針55に接続されている。また、各大気開放流路63には、流路の開閉を行う大気開閉弁64が介設されている。各色のインクは、各大気開閉弁64を開放することで、各インクタンク61から自然水頭(大気圧)を利用し、一定の圧力で各インクジェットヘッド51に供給される。なお、各インク供給流路62は、気体不透過性のチューブで構成されていることが好ましい。
【0034】
次に、図4ないし図6を参照して、保守装置11について説明する。保守装置11は、各インクジェットヘッド51からインクを強制的に吸引排出させる吸引装置14と、吸引後のノズル面57を払拭するワイピング装置15(図1参照)と、を有している。
【0035】
吸引装置14は、各インクジェットヘッド51に密接する複数の吸引キャップ71aを搭載したキャップユニット71と、支持構造体72aを介してキャップユニット71を昇降させる昇降機構72と、吸引したインクを貯留する廃液タンク73と、各吸引キャップ71aと廃液タンク73とを連通させる吸引流路系74と、吸引流路系74に介設されたエジェクター75(吸引手段)と、インク供給装置10の各インクタンク61に連通したヘッド内加圧装置78と、を備えている。また、吸引装置14は、エジェクター75に制御用の圧縮エアーを供給する圧縮エアー供給設備76と、各部から排気を行うための排気設備77と、を有している。
【0036】
本実施形態では、記録装置1の稼動停止時には、Y軸テーブル8によりキャリッジユニット9が吸引装置14の位置まで移動し、キャップユニット71を昇降機構72により上昇させ、全てのインクジェットヘッド51に対し、いわゆるキャッピング(ヘッド保全)が行われる。一方、稼動開始時には、各インクジェットヘッド51に対し、キャッピングされた状態でエジェクター75を駆動して吸引処理が行なわれ、続いてワイピング装置15により払拭処理が行なわれる。そして、キャリッジユニット9は、ワークステージ5にセットされたワークW上に移動する。
【0037】
図4に示すように、キャップユニット71は、ヘッドユニット44に搭載した複数のインクジェットヘッド51と同じ配置で、かつ、同じ傾き姿勢となるように、複数の吸引キャップ71aをキャッププレート71bに搭載して構成されている。
【0038】
昇降機構72は、支持構造体72aを介してキャップユニット71を鉛直方向に昇降させる昇降駆動機構72bを有している。昇降機構72は、各インクジェットヘッド51のノズル面57に密着する密接位置と、ノズル面57から僅かに離間した離間位置と、ヘッドユニット44やキャップユニット71の消耗品交換が可能な位置まで下降させた交換位置と、の間でキャップユニット71を3段階に昇降させる。
【0039】
図5に示すように、各吸引流路系74は、各キャップユニット71に連なる複数のキャップ側流路74aと、各キャップ側流路74aの下流端部が接続するマニホールド74bと、マニホールド74bと廃液タンク73とを連通させるタンク側流路74cと、を有している。また、各キャップ側流路74aおよびタンク側流路74cには、各流路の開閉を行う開閉バルブ74dがそれぞれ介設されている。なお、各キャップ側流路74aおよびタンク側流路74cは、気体不透過性のチューブで構成されていることが好ましい。
【0040】
エジェクター75は、圧縮エアー供給設備76から一次側に、電空レギュレーター79により圧力調整された圧縮エアーを導入すると共に、二次側を廃液タンク73の上部空間に接続し、廃液タンク73の内部を減圧する。なお、制御装置13は、開閉バルブ74dの開放数等に基づいて、廃液タンク73の圧力が適正吸引圧力となるように電空レギュレーター79を制御している。
【0041】
なお、吸引キャップ71a毎に、廃液タンク73を複数設け、各キャップ側流路74aを各廃液タンク73に連通させてもよい。この場合、マニホールド74bおよびタンク側流路74cを省略することができ、吸引したインクを色毎に個別に回収することができる。これにより、インクの再利用性を向上させることができる。また、この場合、エジェクター75を吸引キャップ71a(廃液タンク73)毎に設け、インクを色毎に個別に吸引を行ってもよい。なお、エジェクター75に代えて、チューブポンプ等の吸引ポンプを用いてもよい。
【0042】
図6に示すように、各ヘッド内加圧装置78は、いわゆる加圧ポンプであり、インクの供給源となる各インクタンク61の上部空間に、ヘッド加圧流路78aを介して連通している。ヘッド加圧流路78aには、流路の開閉を行うヘッド加圧開閉弁78bが介設されている。各ヘッド内加圧装置78は、各インクタンク61内を加圧し、インク供給流路62を介してインクをインクジェットヘッド51へと押し出し、間接的に圧力室54d内を加圧する。なお、ヘッド内加圧装置78を、加圧ポンプに代えて、圧縮空気供給設備に連通させ圧縮空気を導入するようにしてもよい。この場合には、ヘッド加圧開閉弁78bの開閉によって、各ヘッド内加圧装置78の駆動開始・停止がなされる。
【0043】
次に、図6ないし図8を参照して、制御装置13によるインク吸引方法(請求項で言う「吸引処理工程」)ついて説明する。なお、説明を簡単にするために、1のインクジェットヘッド51と、1の吸引キャップ71aと、に着目して説明する。
【0044】
制御装置13は、昇降機構72を駆動して、キャップユニット71を密接位置に上昇させ、各吸引キャップ71aを、各インクジェットヘッド51のノズル面57に密着させる(ステップS1)。
【0045】
その後、ステップS2では、大気開閉弁64を閉じ、ヘッド加圧開閉弁78bを開放した状態で、エジェクター75およびヘッド内加圧装置78の駆動を同時に開始する(請求項で言う「吸引工程」および「ヘッド内加圧工程」)。ヘッド内加圧装置78の駆動を開始すると、各圧力室54d内の圧力が上昇する(正圧となる)。他方、エジェクター75の駆動を開始すると、ノズル面57に密着した状態の吸引キャップ71a内の圧力が低下する(負圧となる(図8(a)参照))。このため、インク供給装置10からインク供給流路62を介して供給されたインクは、吸引キャップ71aおよび吸引流路系74を介して廃液タンク73へと排出される。このように、各圧力室54d内に対する加圧と、吸引キャップ71a内に対する減圧とが、同時期に行なわれているため、各圧力室54dおよび吐出ノズル56を通過するインクの流速(または流量)が増大する。これにより、インクの吸引を短時間で行うことができる。
【0046】
なお、本実施形態では、エジェクター75とヘッド内加圧装置78とを同時に駆動開始しているが、エジェクター75およびヘッド内加圧装置78の駆動開始は、所定のタイミングで連動して行われればよい。すなわち、ヘッド内加圧装置78の駆動開始を先行させ、所定時間経過後にエジェクター75の駆動を開始させてもよいし、また、その逆でもよい。
【0047】
制御装置13は、吸引処理に必要な時間(「吸引時間」と言う。)を予め記憶しており、ステップS3では、ステップS2の開始から吸引時間が経過すると、エジェクター75の駆動を停止する(図8(b)参照)。このとき、制御装置13は、駆動中のヘッド内加圧装置78については、その駆動を継続するように制御(継続制御)する(図8(c)参照)。すると、ヘッド内加圧装置78の駆動により、インクがインクジェットヘッド51へと圧送され続けるため、エジェクター75を駆動停止しても、吸引キャップ71a内に対し、各吐出ノズル56からのインクの流出が継続される。このため、吸引キャップ71a内の圧力は、負圧の状態から速やかに上昇し、大気圧と略同圧となる(図8(a)参照)。このようなヘッド内加圧装置78の継続制御は、エジェクター75の駆動停止後、自然水頭によるインクの流出を継続できないような、粘度の高いインク(30〜50ポアズ)を用いている場合に特に有効である。
【0048】
制御装置13は、上記した吸引時間の他に、エジェクター75の駆動停止から吸引キャップ71a内の圧力が大気圧と略同圧となるまでに要する時間(「回復時間」と言う。)を記憶した制御テーブルを有している。ステップS4では、この制御テーブルに基づいて、回復時間を経過するとヘッド内加圧装置78の駆動(継続制御)を停止する。そして、大気開閉弁64を開放し、ヘッド加圧開閉弁78bを閉じる。なお、吸引キャップ71a内の圧力と大気圧との圧力差は、無い(ゼロである)ことが理想であるが、吸引キャップ71a内の圧力が、大気圧よりも僅かに低圧であるときに継続制御を停止してもよい。つまり、次のステップS5において、吸引キャップ71aを離間させた際、吐出ノズル56内のインク液面(メニスカス)を適切に保つことができる程度の圧力差であればよい。
【0049】
ステップS5では、昇降機構72を駆動して、キャップユニット71を離間位置に下降させ、吸引キャップ71aを、各インクジェットヘッド51のノズル面57から離脱させる。この場合、ノズル面57に密着した吸引キャップ71a内は、大気圧と同等の圧力となっているため、吸引キャップ71aは、ノズル面57から難無く引き離すことができ、各吐出ノズル56に対して急激な圧力変化を与えるものでも無いため、インクが吐出ノズル56内に引き込まれてしまうことも無い。これにより、吐出ノズル56内のインクのメニスカスを適切に維持することができる。
【0050】
以上の構成によれば、インクの吸引時間を短縮することができると共に、各吸引キャップ71aを外した際の各吐出ノズル56内の適切なメニスカス形成を担保した上で、各吸引キャップ71a内の圧力の回復時間を短縮することができる。これにより、一連の吸引処理工程を短時間で行うことができる。
【0051】
(第2実施形態)
図9ないし図11を参照して、第2実施形態に係るインク吸引システムを適用した記録装置1について説明する。図9に示すように、この記録装置1の吸引装置14は、各吸引キャップ71a内に正圧を付与するキャップ内加圧装置81を備えている。各キャップ内加圧装置81は、いわゆる加圧ポンプであり、各吸引キャップ71aの内部空間に、キャップ加圧流路81aを介して連通している。キャップ加圧流路81aには、流路の開閉を行うキャップ加圧開閉弁81bが開設されている。各キャップ内加圧装置81は、各吸引キャップ71a内を加圧する。なお、その他の記録装置1の構成は、第1実施形態のものと同様であるため説明は省略する。なお、キャップ内加圧装置81を、加圧ポンプに代えて、圧縮空気供給設備に連通させ圧縮空気を導入するようにしてもよい。この場合には、キャップ加圧開閉弁81bの開閉によって、各キャップ内加圧装置81の駆動開始・停止がなされる。
【0052】
第2実施形態に係る制御装置13によるインク吸引方法は、第1実施形態において説明したステップS1、ステップS2およびステップS5は同様であり、ステップS3およびステップS4(ステップS13およびステップS14とする。)が異なる(図10参照)。そこで、以降の説明では、第1実施形態に係るものと同様の説明は省略し、異なる点のみを示す。
【0053】
上記したステップS1およびステップS2の後、ステップS13では、ステップS2の開始から吸引時間が経過すると、エジェクター75の駆動を停止させる(図11(b)参照)と共に、キャップ加圧開閉弁81bを開放し、キャップ内加圧装置81を駆動させる(図11(d)参照)。そして、制御装置13は、吸引キャップ71a内の圧力が大気圧となるまで、駆動中のヘッド内加圧装置78と、キャップ内加圧装置81との駆動を継続するように制御(継続制御)する(図11(c),(d)参照)。これにより、第1実施形態のものと同様に、ヘッド内加圧装置78の駆動による各吐出ノズル56からのインクの流出が継続されると共に、吸引キャップ71a内がキャップ内加圧装置81により加圧されるため、吸引キャップ71a内の圧力は、負圧の状態から直ちに上昇し、大気圧と略同圧となる(図11(a)参照)。
【0054】
制御装置13の制御テーブルには、エジェクター75の駆動停止から、ヘッド内加圧装置78およびキャップ内加圧装置81の駆動を考慮した回復時間が記憶されている。なお、回復時間は、吸引キャップ71a内の圧力が大気圧よりも高くならないように設定されている。ステップS14では、この回復時間の経過後にヘッド内加圧装置78およびキャップ内加圧装置81の駆動(継続制御)を同時に停止し、キャップ加圧開閉弁81bを閉じる。そして、大気開閉弁64を開放し、ヘッド加圧開閉弁78bを閉じる。なお、ヘッド内加圧装置78およびキャップ内加圧装置81の駆動停止は、所定のタイミングで連動して行われればよい。すなわち、ヘッド内加圧装置78の駆動停止を先行させ、所定時間経過後にキャップ内加圧装置81の駆動を停止させてもよいし、また、その逆でもよい。
【0055】
ステップS14の後、上記したステップS5が行われ、一連の吸引処理工程が終了する。これにより、一連の吸引処理工程を更に短時間で行うことができる。
【0056】
(第3実施形態)
図12(a)を参照して、第3実施形態に係るインク吸引システムを適用した記録装置1について説明する。この記録装置1の吸引装置14は、吸引キャップ71a内の圧力を検出するキャップ内圧力検出手段82を備えている。また、制御装置13は、制御テーブルに記憶された回復時間が省略され、キャップ内圧力検出手段82の検出結果に基づいて継続制御を実施するようになっている。すなわち、上記したステップS4では、キャップ内圧力検出手段82が、吸引キャップ71a内の圧力が大気圧(または大気圧と所定の圧力差)となったことを検出したときにヘッド内加圧装置78の駆動(継続制御)を停止する。なお、その他の記録装置1の構成は、第1実施形態のものと同様であるため説明は省略する。
【0057】
なお、第3実施形態に係る制御装置13(インク吸引方法)を、第2実施形態に係るものに適用してもよい。すなわち、ステップS14において、キャップ内圧力検出手段82の検出結果を用いてヘッド内加圧装置78およびキャップ内加圧装置81の駆動(継続制御)を停止するようにしてもよい。
【0058】
この構成によれば、各吸引キャップ71a内の圧力が大気圧となったことを確実に検出することができ、良好なメニスカスの形成と確実な吸引処理とを短時間で実施することができる。
【0059】
(第4実施形態)
図12(b)を参照して、第4実施形態に係るインク吸引システムを適用した記録装置1について説明する。この記録装置1は、上記した第3実施形態に係る吸引装置14に設けたキャップ内圧力検出手段82の他に、各圧力室54d内の圧力を検出するヘッド内圧力検出手段83を更に備えている。ヘッド内圧力検出手段83は、インクジェットヘッド51の近傍において、インク供給流路62に介設されている。
【0060】
また、制御装置13は、キャップ内圧力検出手段82およびヘッド内圧力検出手段83のそれぞれの検出結果に基づいて継続制御を実施するようになっている。すなわち、上記したステップS4では、キャップ内圧力検出手段82の検出結果と、ヘッド内圧力検出手段83の検出結果と、を比較して、その圧力差が、制御テーブルに予め記憶した所定範囲内である場合に、ヘッド内加圧装置78の駆動(継続制御)を停止する。なお、その他の記録装置1の構成は、第1実施形態のものと同様であるため説明は省略する。
【0061】
なお、第4実施形態に係る制御装置13(インク吸引方法)を、第2実施形態に係るものに適用してもよい。すなわち、ステップS14において、キャップ内圧力検出手段82およびヘッド内圧力検出手段83のそれぞれの検出結果を用いてヘッド内加圧装置78およびキャップ内加圧装置81の駆動(継続制御)を停止するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10:インク供給装置、13:制御装置、51:インクジェットヘッド、78:ヘッド内加圧装置、71a:吸引キャップ、75:エジェクター、81:キャップ内加圧装置、82:キャップ内圧力検出手段、83:ヘッド内圧力検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドにインクを供給するインク供給手段と、
前記インク供給手段を介して、前記インクジェットヘッドのヘッド内に正圧を付与するヘッド内加圧手段と、
前記インクジェットヘッドのノズル面に離接自在に密接するキャップと、
前記キャップに連通し、密接した前記キャップのキャップ内に負圧を付与して前記インクジェットヘッドからインクを吸引する吸引手段と、
前記ヘッド内加圧手段および前記吸引手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記ヘッド内加圧手段および前記吸引手段を駆動させて、前記ヘッド内への正圧付与と前記インクジェットヘッドからのインク吸引とからなる吸引処理を開始した後、
前記吸引処理の終了に際し、前記吸引手段の駆動を停止させた後、前記キャップ内の圧力と大気圧との圧力差が所定の値となるまで、前記ヘッド内加圧手段の駆動を継続させる継続制御を実施することを特徴とすることを特徴とするインク吸引システム。
【請求項2】
前記キャップ内に正圧を付与するキャップ内加圧手段を、更に備え、
前記制御手段は、
前記吸引処理の終了に際し、前記吸引手段の駆動を停止させると共に前記キャップ内加圧手段を駆動させ、
その後、前記キャップ内の圧力と大気圧との圧力差が所定の値となるまで、前記ヘッド内加圧手段の駆動および前記キャップ内加圧手段の駆動を継続させる継続制御を実施することを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載のインク吸引システム。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記圧力差が所定の値となるまでの回復時間を記憶した制御テーブルを有し、
前記制御テーブルに基づいて、前記継続制御を実施することを特徴とする請求項1または2に記載のインク吸引システム。
【請求項4】
前記キャップ内の圧力を検出するキャップ内圧力検出手段を、更に備え、
前記制御手段は、前記キャップ内圧力検出手段の検出結果に基づいて、前記継続制御を実施することを特徴とする請求項1または2に記載のインク吸引システム。
【請求項5】
前記ヘッド内の圧力を検出するヘッド内圧力検出手段を、更に備え、
前記制御手段は、前記ヘッド内圧力検出手段の検出結果に基づいて、前記継続制御を実施することを特徴とする請求項4に記載のインク吸引システム。
【請求項6】
インク供給手段に接続されたインクジェットヘッドに対し、前記インクジェットヘッドのノズル面に離接自在に密接したキャップを介して、インクを吸引するインク吸引方法であって、
前記インク供給手段を介して、前記インクジェットヘッドのヘッド内に正圧を付与するヘッド内加圧工程と、前記キャップのキャップ内に負圧を付与して、前記インクジェットヘッドからインクを吸引する吸引工程と、を所定のタイミングで連動させて開始する吸引処理工程を開始した後、
前記吸引処理工程の終了に際し、前記吸引工程を終了させた後、前記キャップ内の圧力と大気圧との圧力差が所定の値となるまで、前記ヘッド内加圧工程を継続させることを特徴とするインク吸引方法。
【請求項7】
前記吸引処理工程は、前記キャップ内に正圧を付与するキャップ内加圧工程を、更に備え、
前記吸引処理工程の終了に際し、前記吸引工程を終了すると共に前記キャップ内加圧工程を開始し、
その後、前記キャップ内の圧力と大気圧との圧力差が所定の値となるまで、前記ヘッド内加圧工程および前記キャップ内加圧工程を継続させることを特徴とする請求項6に記載のインク吸引方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−61656(P2012−61656A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206409(P2010−206409)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】