説明

インク組成物、インクジェット記録方法、及び記録物

【課題】 記録物の耐ガス性に優れた高品質な画像を得ることのできるインク組成物、記録媒体、記録物、及びインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】 水性のインク組成物中に、着色剤と、水と、温度40℃以下において液体であり、温度20℃における水に対する溶解度が1重量%以上であり、かつ、温度20℃における飽和蒸気圧が1.7Pa以下である水溶性の有機溶剤を10〜35重量%と、カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物を少なくとも一種以上と、を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インク組成物、インクジェット記録方法、及び記録物に関し、特に、記録物の保存性に優れ、インクジェット記録用インクとして用いた場合にノズルの目詰まりを起こさない吐出信頼性に優れ、高品質な画像を得ることのできるインク組成物、インクジェット記録方法、及び記録物に関する。
【0002】
【従来の技術】インクジェット記録方法は、インク組成物の小滴を飛翔させ、これを紙等の記録媒体に付着させて記録を行う印刷方法である。この方法は、比較的安価な装置を用いながら、解像度が高く鮮明な画像を高速に印刷することができるという特徴を有する。
【0003】このインクジェット記録方法は、微細なノズルからインク液滴を吐出させて記録するものであり、ノズルからインク液滴が連続的にかつ安定して吐出されなければならない。
【0004】また、近年は、長期にわたって記録画像を劣化させることなく高品位に維持する要求が高まってきており、このため、記録画像の保存性を向上させる種々の工夫がなされている。
【0005】例えば、記録画像の耐光性を向上させる方法として、特開平11−170686号公報では、記録液に特定の化合物を添加することが提案されており、その他にも様々な耐光性向上剤を添加することや、新規な色剤の提案等もなされている。
【0006】耐光性に関してはこれら多くの方法により改良ないし改善がなされており、額縁やアルバムに入れて掲示する等、外気と遮断がなされ光暴露のみの影響を受けるような形態で保存される場合においては、非常に保存性が向上し、長期に渡って画像品質を良好に維持することができる。
【発明が解決しようとする課題】一方、上記のような保存形態以外に、ポスターやカレンダー等、記録画像がそのまま外気と直接接触する状態で室内や屋外に掲示される場合も増えてきている。
【0007】しかしながら、このような場合には、光以外に空気にも暴露されるために、画像品質が劣化してしまうという問題がある。この記録画像の劣化の原因は定かではないが、空気中に存在するオゾン等に代表される各種の酸化性ガスの影響によるものと考えられる。
【0008】特に、記録物が長期にわたり空気中に曝された場合には、シアン染料の劣化が顕著であり、記録画像が赤みを帯びてくることもある。このシアン染料の劣化は、記録物を屋外で保存した場合に特に進行し易い。
【0009】記録画像の、これら空気(ガス)への耐性(耐ガス性)を向上させる方法としては、例えば特開平7−314882号では、チオシアン酸塩などからなる群より選ばれる化合物を記録用シートに添加し、記録画像の劣化を抑制する方法が提供されている。この方法の場合、初期的には有効にガスによる劣化を抑制できるが、空気に長期間曝され続けた場合、やがて耐ガス性の効力を無くし、効力が切れた時点で急激に劣化しはじめるため、長期間にわたり耐ガス性を維持できないという課題がある。
【0010】また、特開平8−3497号では、チオセミカルバジド誘導体やチオカルボヒドラジド誘導体等をインク組成物に添加することにより耐ガス性の向上を図る提案もなされているが、これら添加剤については安全性の面で課題があり、使用においては十分な検証が必要である。
【0011】従って、本発明の目的は、記録画像の耐ガス性に優れ、高品質な記録画像を保存することができるとともに、ノズルの目詰まりを起こさない吐出信頼性の高いインク組成物、インクジェット記録方法、及び記録物を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者は、鋭意検討した結果、インク組成物中に着色剤と、水と、特定の有機溶剤と、カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物と、を含む構成とすることにより、記録画像の耐ガス性が向上するとともに、インクの吐出信頼性が向上することを知見した。
【0013】本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、着色剤と、水と、水溶性の有機溶剤と、カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物を少なくとも一種以上と、を含んでなり、前記有機溶剤は、少なくとも0〜40℃の温度範囲において液体であって、温度20℃における水に対する溶解度が1重量%以上であり、温度20℃における飽和蒸気圧が1.7Pa以下であり、かつ、前記有機溶剤は、インク組成物中、10重量%以上、35重量%以下含有されてなることを特徴とするインク組成物を提供する。
【0014】上記構成とすることにより、記録画像の耐ガス性及びインクの吐出信頼性を向上させることができる。
【0015】上記においては、前記有機溶剤としては、グリセリン、1,5−ペンタンジオール、トリエチレングリコールからなる群から選ばれる1種又は2種以上を少なくとも含有するものであることが好ましい。
【0016】上記構成とすることにより、記録画像の耐ガス性及びインクの吐出信頼性を向上させることができる。
【0017】また、上記においては、カルバジド系化合物は、一般式RNCONHNR(R〜Rは、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である)で表される化合物、又は一般式RNNHCONHNR(R〜Rは、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である)で表される化合物であることが好ましい。特に、R〜Rがメチル基であるとより好ましい。
【0018】また、上記においては、カルバジド系化合物は、同一分子中にカルバジド構造を2つ以上有するものであることが、より好ましい。
【0019】上記構成とすることにより、記録画像の耐ガス性及びインクの吐出信頼性を向上させることができる。
【0020】また、上記においては、ヒドラジド系化合物は、一般式RCONHNR1011(R〜R11は、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である)で表される化合物であることが好ましい。特に、R10〜R11がメチル基であるとより好ましい。
【0021】また、上記においては、ヒドラジド系化合物は、同一分子中にヒドラジド構造を2つ以上有するものであることが、より好ましい。
【0022】上記構成とすることにより、記録画像の耐ガス性及びインクの吐出信頼性を向上させることができる。
【0023】上記カルバジド系化合物は、耐ガス性のさらなる向上の観点からは、インク組成物中、0.1重量%以上、10重量%以下含まれることが好ましく、0.5重量%以上、5重量%以下含まれることがさらに好ましい。
【0024】上記ヒドラジド系化合物は、耐ガス性のさらなる向上の観点からは、インク組成物中、0.1重量%以上、10重量%以下含まれることが好ましく、0.5重量%以上、5重量%以下含まれることがさらに好ましい。
【0025】カルバジド系化合物及びヒドラジド系化合物の双方を含有する場合には、双方の比率は特に限定されるものではないが、双方の合計量が0.1重量%以上、10重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上、5重量%以下であることがさらに好ましい。
【0026】前記カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物の含有量と、前記有機溶剤の含有量と、の重量比は、1:3〜1:100の範囲であることがさらに好ましい。本構成とすることにより、記録画像の耐ガス性及びインクの吐出信頼性をさらに向上させることができる。
【0027】本発明のインク組成物においては、前記着色剤として、金属錯体からなる染料を含んでいる場合に特に有効に作用する。金属錯体からなる染料を含むと、画像品質が高くかつ耐ガス性に優れた記録画像が得られる。金属錯体からなる染料としては、フタロシアニン染料、金属錯体アゾ染料等が挙げられる。
【0028】上記においては、着色剤としては、銅錯体からなる染料を含んでいる場合にさらに効果的に作用する。特に、銅フタロシアニン染料を用いた場合に、より耐ガス性に優れた記録画像が得られる。銅フタロシアニンの具体例としては、C.I.ダイレクトブルー86、199等が挙げられる。
【0029】本発明のインク組成物においては、前記着色剤として、下記一般式(B)で表される染料を含んでいる場合にも、特に有効に作用する。
【0030】
【化2】


(式中、Xは少なくとも1つのSOMで置換されたアニリノ基を示し、Yは、OH、Cl又はモルホリノ基を示し、Mは、H、Li、Na、K、アンモニウム又は有機アミン類を示す。)
本染料を含むと、画像品質が高くかつ耐ガス性に優れた記録画像が得られる。
【0031】一般式(B)で表される染料の具体例としては、以下が挙げられる。
【0032】
【化3】


【0033】
【化4】


【0034】
【化5】


【0035】
【化6】


上記インク組成物は、さらに、アセチレングリコール系化合物を少なくとも一種以上含有していてもよい。アセチレングリコール系化合物をさらに含有させることにより、記録画像の耐ガス性を劣化させることなく、インクの吐出安定性を高めることができる。
【0036】上記インク組成物は、さらに、グリコールエーテル系化合物を少なくとも一種以上含有していてもよい。溶剤としてグリコールエーテル系化合物を用いることにより、記録画像の耐ガス性を劣化させることなく、インクの吐出安定性を高めることができる。
【0037】上記インク組成物は、さらに第三級アミンからなる保湿剤を少なくとも一種以上含有していてもよい。
【0038】また、本発明のインクジェット記録方法は、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うものであって、前記インク組成物として、上記のインク組成物を用いることを特徴とする。
【0039】これらの記録方法を用いることにより、耐ガス性に優れた記録物を得ることができる。
【0040】
【発明の実施の形態】以下、本発明のインク組成物の好ましい実施形態について説明する。
【0041】本発明のインク組成物は、着色剤と、水と、特定の有機溶剤と、カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物を少なくとも一種以上と、を必須成分として含むものである。
【0042】前記水溶性の有機溶剤は、少なくとも0〜40℃の温度範囲において液体であって、温度20℃における水に対する溶解度が1重量%以上、好ましくは5重量%以上であり、かつ、温度20℃における該水溶性有機溶剤単体での飽和蒸気圧が1.7Pa以下、好ましくは1Pa以下であり、かつ、前記有機溶剤は、インク組成物中、10重量%以上、35重量%以下含有されてなる。
【0043】飽和蒸気圧の測定に際しては、一般の多くの方法を用いることができるが、本発明に係る前記有機溶剤のような低揮発性溶剤の場合は、トランスピレーション法(気体流通法)を用いることで、より正確に測定できる。
【0044】前述の如き特性を有する前記有機溶剤を含有させた本発明のインク組成物は、カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物により附与される優れた耐ガス性を低減させることなく、吐出信頼性及び印字品質に優れ、特にインクジェット記録用インクとして用いた場合には、ノズルにおける該インクの乾燥が防止されて、ノズルの目詰まりを確実に防止することができる。
【0045】前記水溶性の有機溶剤としては、グリセリン、1,5−ペンタンジオール、トリエチレングリコールからなる群から選ばれる1種又は2種以上を少なくとも含有することが好ましい。特に、グリセリンが好ましい。
【0046】前記水溶性の有機溶剤は、インク組成物中、10重量%以上、35重量%以下含まれることが好ましい。10重量%以上とすることにより、記録画像の保存性及びインクの吐出信頼性をより好ましく両立することができる。記録画像の保存性及びインクの吐出信頼性をさらに向上させる観点からは、有機溶剤の含有量を、インク組成物中、15重量%以上、30重量%以下とすることがさらに好ましい。
【0047】カルバジド系化合物としては、カルバジド及びその誘導体が挙げられる。具体的には、該当するイソシアネートやジイソシアネート、尿素誘導体等と、NHNR(R及びRは、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基)で表されるヒドラジン化合物類との縮合反応等によって得られる、−NYCONHNR(R及びRは、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。Yは水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。)基を持つ化合物を言う。
【0048】また、カルバジド系化合物としては、一般式RNCONHNR(R〜Rは、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である)で表される化合物、又は一般式RNNHCONHNR(R〜Rは、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0049】本発明のカルバジド系化合物は、下記一般式に代表されるような同一分子中にカルバジド構造を2つ以上有している化合物であってもよい。
【0050】
【化7】


(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。また、Xは、好ましくは炭素数1〜12、さらに好ましくは炭素数1〜8の鎖状炭化水素基である。)
上記一般式等に示すように、同一分子中にカルバジド構造を二つ以上有していると、特に耐ガス性向上の効果が高い。
【0051】以下に、本発明のカルバジド系化合物の具体例を示す。
【0052】
【化8】


【0053】
【化9】


ヒドラジド系化合物としては、ヒドラジド及びその誘導体が挙げられる。具体的には、該当するカルボン酸のエステル、酸ハロゲン化物のような酸誘導体、酸無水物等と、一般式NHNR1011(R10及びR11は、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基)で表されるヒドラジン化合物類との縮合反応等によって得られる−CONHNR1011(R10及びR11は、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基)基を持つ化合物を言う。
【0054】より具体的には、一般式RCONHNR1011(R〜R11は、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0055】本発明のヒドラジド系化合物は、下記一般式に代表されるような、同一分子中にヒドラジド構造を2つ以上有している化合物であってもよい。
【0056】
【化10】


(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。また、Xは、好ましくは炭素数1〜12、さらに好ましくは炭素数1〜8の鎖状炭化水素基である。)
上記一般式等に示すように、同一分子中にヒドラジド構造を2つ以上有していると、特に耐ガス性向上の効果が高い。
【0057】以下に、本発明のヒドラジド系化合物の具体例を示す。
【0058】
【化11】


本発明では、インク組成物中に一種類以上のカルバジド系化合物を単独又は混合して添加してもよく、一種類以上のヒドラジド系化合物を単独又は混合して添加してもよく、あるいはカルバジド系化合物及びヒドラジド系化合物の双方を適宜混合して添加してもよい。
【0059】上記カルバジド系化合物は、インク組成物中、0.1重量%以上、10重量%以下含まれることが好ましく、特に0.5重量%以上、5重量%以下含まれることがさらに好ましい。好ましい含有量とすることにより、インクジェット記録用のインク組成物として要求される吐出安定性、耐目詰まり性といった信頼性を確保しながら、記録画像の耐ガス性を改善することができる。
【0060】上記ヒドラジド系化合物は、インク組成物中、0.1重量%以上、10重量%以下含まれることが好ましく、特に0.5重量%以上、5重量%以下含まれることがさらに好ましい。好ましい含有量とすることにより、インクジェット記録用のインク組成物として要求される吐出安定性、耐目詰まり性といった信頼性を確保しながら、記録画像の耐ガス性を改善することができる。
【0061】カルバジド系化合物及びヒドラジド系化合物の双方を含有する場合には、双方の含有率は特に限定されるものではないが、双方の合計量が0.1重量%以上、10重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上、5重量%以下であることがさらに好ましい。
【0062】前記カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物の含有量と、前記有機溶剤の含有量と、の重量比は、1:3〜1:100の範囲であることが好ましく、1:10〜1:80の範囲であることがさらに好ましい。カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物のうち二種類以上のものを混合して添加する場合には、これらの合計含有量と、前記有機溶剤の含有量との重量比が上記所定の範囲であることが好ましい。着色剤としては、水溶性の染料を用いることが好ましく、具体的にはカラーインデックスにおいて酸性染料、直接染料、触媒染料、反応染料、可溶性建染染料、硫化染料や食用染料に分類されているもの等が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていないものであっても、好適に使用できるものは多い。着色剤は、金属錯体からなる染料、特に銅錯体からなる染料である場合、又は一般式(B)で表される染料である場合に、画像品質が高くかつ耐ガス性に優れた記録画像が得られる。好適な着色剤の具体例としては、C.I.ダイレクトブラック17、19、32、38、51、62、71、74、75、112、117、154、163、168、C.I.アシッドブラック7、24、26、48、52、58、60、107、109、118、119、131、140、155、156、187、C.I.フードブラック1、2、C.I.リアクティヴブラック5、C.I.ダイレクトイエロー11、28、33、39、44、58、86、100、132、142、330、C.I.アシッドイエロー3、19、23、25、29、38、49、59、62、72、C.I.ベーシックイエロー11、51、C.I.ディスパースイエロー3、5、C.I.リアクティヴイエロー2、C.I.ダイレクトレッド23、79、80、83、99、220、224、227、C.I.アシッドレッド1、8、17、18、32、35、37、42、52、57、92、115、119、131、133、134、154、186、249、254、256、C.I.ベーシックレッド14、39、C.I.ディスパースレッド60、C.I.ダイレクトブルー6、8、15、25、71、76、80、86、90、106、108、123、163、165、168、199、226、C.I.アシッドブルー9、29、40、62、74、102、104、113、117、120、175、183、C.I.ベーシックブルー41、C.I.リアクティブブルー15、C.I.ダイレクトバイオレット47、51、90、94、C.I.アシッドバイオレット11、34、75や前述の一般式(B)で表される染料等が挙げられる。
【0063】着色剤の含有量はインク組成物中、好ましくは0.1重量%以上、20重量%以下が好ましく、0.5重量%以上、10重量%以下がさらに好ましい。
【0064】特に、着色剤として銅フタロシアニン等の染料や一般式(B)で表される染料を含み、かつ、上記一般式で表されるカルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物を含有させたインク組成物は、種々のインクジェット印刷用の記録媒体(フォト用紙、マット紙等)へ記録された場合の記録画像の耐ガス性向上において有効である。
【0065】本発明のインク組成物においては、主溶媒として水を用いる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水の何れも好ましく用いることができる。特に、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインクの長期保存を可能とする点で好ましい。
【0066】前記水の含有量は、本発明のインク組成物中、好ましくは40重量%以上、90重量%以下、更に好ましくは55重量%以上、80重量%以下である。
【0067】上記インク組成物は、さらに、アセチレングリコール系化合物を少なくとも一種以上含んでいてもよい。アセチレングリコール系化合物を用いることにより、耐ガス性を劣化させることなく、インクの吐出安定性をさらに高めることができる。インクの吐出安定性が高まるのは、アセチレングリコール系化合物がインク組成物の表面張力を低下させ、インクが記録媒体へ浸透するのを促進するためであると考えられる。
【0068】アセチレングリコール系化合物としては、オルフィンSTG(商品名、日信化学社製)、サーフィノール104(商品名、Air Products and Chemicals Inc.製)、オルフィンE1010(商品名、日信化学社製)等の市販品を用いることができる。アセチレングリコール系化合物の含有量は、インク組成物全体量中1重量%以上、3重量%以下が好ましい。当該範囲であると、記録画像の耐ガス性及びインク吐出安定性をより好ましく両立させることができる。
【0069】上記インク組成物は、さらに、グリコールエーテル系化合物を少なくとも一種以上含んでいてもよい。浸透促進剤としてグリコールエーテル系化合物を含むことにより、記録画像の耐ガス性を劣化させることなく、記録画像の画像品質を高めることができる。
【0070】グリコールエーテル系化合物としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられ、使用に際してはそれぞれ単独で又は混合して用いることができる。
【0071】グリコールエーテル系化合物の含有量は、本発明のインク組成物中、好ましくは3重量%以上、20重量%以下、さらに好ましくは5重量%以上、15重量%以下である。
【0072】グリコールエーテル系化合物を溶剤として用いることにより、記録画像の耐ガス性を劣化させることなく、インクの吐出安定性を高めることができる。
【0073】上記インク組成物は、さらに、第三級アミンからなる保湿剤を少なくとも一種以上含有していてもよい。第三級アミンからなる保湿剤を上記保湿剤と併用することにより、さらに吐出安定性を向上させることができる。
【0074】第三級アミンの例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロペノールアミン、ブチルジエタノールアミン等が挙げられる。これらは単独または混合して使用されてよい。これら第三級アミンのインク組成物への添加量は、0.1〜10重量%程度が好ましく、より好ましくは、0.5〜5重量%である。なお、上記のアセチレングリコールエーテル系化合物、グリコールエーテル系化合物、第三級アミンの具体例として挙げた中には、温度20℃における飽和蒸気圧が1.7Pa以下であるものもあり、このような化合物は、本発明の特定の有機溶剤の具体例であると同時に、アセチレングリコールエーテル系化合物添加剤、グリコールエーテル系化合物添加剤、又は第三級アミン添加剤としても機能するものである。
【0075】本発明のインク組成物は、必要に応じてインクジェット記録用インクに一般的に用いられている助剤をさらに含むことができる。そのような助剤としては、防腐剤、防カビ剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、防錆剤、表面張力調整剤、誘電率調整剤等の添加剤等が挙げられる。
【0076】本発明のインク組成物は、その温度20℃における粘度が5mPa・s未満であることが好ましい。
【0077】本発明のインク組成物に添加できる前記防腐剤・防カビ剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジペンジソチアゾリン−3−オン(AVECIA社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などが挙げられ、使用に際してはこれらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0078】また、本発明のインク組成物に添加できる前記pH調整剤ないし前記溶解助剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリン等のアミン類及びそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム等の炭酸塩類その他燐酸塩等、あるいは2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネート等のアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレット等のビウレット類等、L−アスコルビン酸及びその塩が挙げられ、使用に際してはこれらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0079】前記酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール化合物、アミン化合物、リン化合物、硫黄化合物等が挙げられる。
【0080】前記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、サルシレート系、ベンゾトリアゾール系及びシアノアクリレート系、並びに酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セレン及び酸化セリウム等の金属酸化物等が挙げられる。前記消光剤としては、例えば、ニッケルジブチルジチオカルバメート、硫酸ニッケル、シュウ酸ニッケル等のニッケル塩、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム等のハロゲン化金属塩、チオシアン酸カリウム、硫酸コバルト、硫酸銅、硫酸第一鉄等が挙げられる。
【0081】また本発明においては、カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物を、インク組成物とは別に、又は更に加えて、付与液として、記録媒体上に印加した場合においても、有効に作用する。この場合、付与液としては、着色剤を除き、上述のインク組成物の構成と同様の範囲で作成されることが望ましい。
【0082】さらに、本発明のインクジェット記録方法について、説明する。本発明のインクジェット記録方法では、上記インク組成物を用いてインクジェット記録を行うことにより、インクが目詰まりすることなく記録を行なうことができるとともに、記録物中にカルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物が好適に共存することが可能となり、耐ガス性に優れた記録物を得ることができる。
【0083】
【実施例】次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。
【0084】(インク組成物の調製)表1に示すような組成を有する各成分を常温にて30分攪拌した後、1μmのメンブランフィルターで濾過して、各インク組成物を得た。
【0085】
【表1】


次いで、上記のインク組成物それぞれを、インクジェットプリンタPM800C(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、これの専用カートリッジに充填して、インクジェット専用記録媒体(PM写真用紙及びPMマット紙;いずれもセイコーエプソン株式会社製)に、OD(Optical Density)が0.9〜1.1の範囲に入るように印加Dutyを調製して印刷を行った。そして、以下の評価を行った。
【0086】(オゾン暴露試験)定流量フロー型ガス腐食試験装置GH−180形((株)山崎精機研究所製)を用い、25℃60%RH、オゾン濃度2ppmの条件下にて、記録物を所定時間(8時間、16時間、24時間)暴露した。
【0087】(屋外暴露試験)直射日光及び雨には曝されることなく、かつ、壁や障害物によって空気の流動が妨げられることが無いように、柱と屋根だけからなる構造物を作製した。これを屋外に設置し、この中に記録物を配置して、所定時間(1.5ヶ月、3ヶ月、6ヶ月)暴露した。
【0088】(評価基準)上記の暴露試験を行った後、それぞれの記録物のODを、反射濃度計(「SPM−100」Gretag社製)を用いて測定し、以下の式により光学濃度残存率(Relict Optical Density;ROD)を求めた。
【0089】ROD(%)=(D/D)×100(D:暴露試験後のOD、D:暴露試験前のOD)
そして求めたRODにより、以下の判定基準により評価した。
【0090】A:RODが90%以上。耐ガス性良好。
【0091】B:RODが80%以上、90%未満。実用上問題なし。
【0092】C:RODが70%以上、80%未満。見るに堪える。
【0093】D:RODが70%未満。実用に堪えない。
【0094】(吐出信頼性試験)各インク組成物を充填したインクカートリッジを、PM−800Cに装填し、初期的に正常にインク組成物が吐出されることを確認した後、PM−800Cの本体電源を切り、インクカートリッジを装填した状態のまま、温度40℃、相対湿度20%RHの環境下に放置した。所定時間放置した後、PM−800Cを常温の環境下に移し、PM−800C本体の温度が常温に下がるまで待ってから本体電源を入れ、インク組成物を吐出させて、その吐出状態を目視で観察した。その際、吐出が正常でない場合は、PM−800C所定のクリーニング回復動作を行い、正常にインク組成物が吐出されるようになるまでに要した該クリーニング回復動作の回数を調べ、下記評価基準により評価した。
【0095】(評価基準)
A:クリーニング回復動作なし又は1回で正常に吐出。
【0096】B:クリーニング回復動作2回又は3回で正常に吐出。
【0097】C:クリーニング回復動作4〜6回で正常に吐出。
【0098】NG:クリーニング回復動作を6回行っても正常に吐出しない。
【0099】上記評価基準により評価した結果を表2に示す。
【0100】
【表2】


表2から分かるように、実施例1〜10のインク組成物を用いた記録画像は、何れも耐ガス性に優れるとともに、実施例1〜10のインク組成物は吐出信頼性に優れていた。これに対し、比較例1〜3では記録画像の耐ガス性及びインク組成物の吐出信頼性の何れかが実用上十分なレベル(C以上)に達していないことが分かる。
【0101】
【発明の効果】本発明のインク組成物、又はインクジェット記録方法によれば、インクの吐出信頼性に優れるとともに、記録画像の耐ガス性に優れた高画質な画像を得ることができる。
【0102】また、本発明の記録物は、記録画像の耐ガス性に優れたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 着色剤と、水と、水溶性の有機溶剤と、カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物を少なくとも一種以上と、を含んでなり、前記有機溶剤は、少なくとも0〜40℃の温度範囲において液体であって、温度20℃における水に対する溶解度が1重量%以上であり、温度20℃における飽和蒸気圧が1.7Pa以下であり、かつ、前記有機溶剤は、インク組成物中、10重量%以上、35重量%以下含有されてなることを特徴とするインク組成物。
【請求項2】 前記有機溶剤として、グリセリン、1,5−ペンタンジオール、トリエチレングリコールからなる群から選ばれる1種又は2種以上を少なくとも含有するものである請求項1記載のインク組成物。
【請求項3】 前記カルバジド系化合物は、一般式RNCONHNR(R〜Rは、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である)で表される化合物、又は一般式RNNHCONHNR(R〜Rは、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である)で表される化合物である請求項1又は2記載のインク組成物。
【請求項4】 前記カルバジド系化合物は、同一分子中にカルバジド構造を2つ以上有するものである請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】 前記ヒドラジド系化合物は、一般式RCONHNR1011(R〜R11は、それぞれ独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である)で表される化合物である請求項1又は2記載のインク組成物。
【請求項6】 前記ヒドラジド系化合物は、同一分子中にヒドラジド構造を2つ以上有するものである請求項1、2又は5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】 前記カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物は、インク組成物中、0.1重量%以上、10重量%以下含有されてなる請求項1〜6のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項8】 前記カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物は、インク組成物中、0.5重量%以上、5重量%以下含有されてなる請求項7記載のインク組成物。
【請求項9】 前記カルバジド系化合物及び/又はヒドラジド系化合物の含有量と、前記有機溶剤の含有量と、の重量比が、1:3〜1:100の範囲である請求項1〜8のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項10】 前記着色剤として、金属錯体からなる染料を含む請求項1〜9のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項11】 前記着色剤として、銅錯体からなる染料を含む請求項10記載のインク組成物。
【請求項12】 前記着色剤として、銅フタロシアニン染料を含む請求項11記載のインク組成物。
【請求項13】 前記着色剤として、下記一般式(B)で表される染料を含む請求項1〜9のいずれか一項に記載のインク組成物。
【化1】


(式中、Xは少なくとも1つのSOMで置換されたアニリノ基を示し、Yは、OH、Cl又はモルホリノ基を示し、Mは、H、Li、Na、K、アンモニウム又は有機アミン類を示す。)
【請求項14】 さらに、アセチレングリコール系化合物を少なくとも一種以上含有する請求項1〜13のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項15】 さらに、グリコールエーテル系化合物を少なくとも一種以上含有する請求項1〜14のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項16】 さらに、第三級アミンからなる保湿剤を少なくとも一種以上含有する請求項1〜15のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項17】 インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法であって、前記インク組成物として、請求項1〜16のいずれか一項に記載のインク組成物を用いることを特徴とする、インクジェット記録方法。
【請求項18】 請求項17記載のインクジェット記録方法によって記録がなされた記録物。

【公開番号】特開2002−294117(P2002−294117A)
【公開日】平成14年10月9日(2002.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−102702(P2001−102702)
【出願日】平成13年3月30日(2001.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】