説明

インク組成物と、それを用いた印刷方法及びパターン膜

【課題】予め全面にインクが塗布されたある基体を別の基体と接触させ、各々の基体の密着性の違いならびに基体面内の密着性の違いを利用してインクを分離する工程を含む印刷方法では、電子部品形成に求められる微細パターンに対応するには、インクの糸曳きを如何に防止するかが重要である一方で、系全体の粘度を一様としたインク組成物を用いた方法では、転写時にせん断面にて選択的にインクが分断されず、転写後のパターンが所望の形状に対し欠けた構造しか形成できない課題を有する。
【解決手段】微粒子と、該微粒子と相互作用する複数の官能基を有するリンカーと、溶剤とを少なくとも含み、静置時は、微粒子同士がリンカーを介して連結された構造をとり、かつ、せん断力作用時には、該せん断力がかかる領域において、微粒子とリンカーとの界面において連結が切断されることを特徴とするインク組成物及びこれを用いる印刷方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、該インク組成物を用いた印刷方法、及び該印刷方法によって形成されたパターン膜に関する。
【背景技術】
【0002】
表示部材、光学部材及び配線版などの電子部品を製造するために利用される微細パターン形成技術としては、一般に、フォトレジストを用いたフォトリソグラフィ技術が用いられる。例えば、液晶パネルの製造において、配線パターン又は素子を形成するために、フォトリソグラフィ技術を用いて、フォトレジストの加工及びエッチングが行われる。
しかしながら、フォトリソグラフィ技術は、露光機及び真空設備が必要であり、近年の基板大型化に対応するためには、これらの設備の大型化も必要になり、製造設備のコスト面で不利である。製造設備への投資コストの増加を避けるためには、真空設備を用いない微細パターン形成技術が求められている。
【0003】
一方、真空設備を用いない技術としては、従来よりオフセット印刷が用いられている。オフセット印刷とは、印刷パターンが形成された版に付けられたインクを、一旦ブランケットなどの中間転写体にオフ(転写)した後、紙又は基板などの媒体にセットする方法である。
しかしながら、電子部品に必要なパターンが10μmレベルである一方で、オフセット印刷で微細パターンを形成する場合、インク組成物の泣き別れや糸曳きによるパターン乱れの影響が顕著になり、30μm以下のパターンを形成できない課題があった。
【0004】
パターン乱れの軽減化としては、印刷方法やインク組成物での対応が報告される。
印刷方法としては、精度向上のために、シリコンシート(ブランケット)にインクを塗布して塗布面を形成し、形成した塗布面に対して所定の形状で形成された凸版を押圧して凸部にインクを転写・除去し、塗布面に残ったインクを基板に転写する凸版反転印刷方法(例えば、特許文献1)が提案されている。また、撥樹脂層による画線部と親樹脂層による非画線部とが形成された画像形成版の全面に樹脂(例えば、インク)を塗布することにより撥樹脂層上のインクのみを、撥樹脂性の画像転写シート(ブランケット)上に転写し、更に画像転写シート上に転写されたインクを基板上に転写して画像形成を行う印刷方法(例えば、特許文献2)も提案されている。
【0005】
上記手法により、インクの泣き別れ防止が可能であり、ある程度微細なパターン形成は可能になる。しかし、糸曳き防止の対策をしない限り、電子部品用途に要求される10μmレベルの微細パターン形成は困難である。また、上記いずれの印刷方法においても、インクを基体全面に均一に塗布できることが条件になる。
このような課題への対応はインク組成物にて検討されている。
【0006】
塗布性やインク切れを良好する方法として、粘度を50mPa・s以下とした絶縁インク組成物を用いる手法(例えば、特許文献3)や、粒径5〜100nmのフィラーを添加して減粘させるレジストインク組成物(例えば、特許文献4)が提案されている。
【0007】
一方、糸曳き防止としてチキソトロピー性を利用する技術が知られている。この技術を利用するインク組成物として、グラビアオフセット印刷用途に、樹脂系材料を添加することで粘度80Pa・s、ずり速度1sec-1及び12sec-1での粘度比を3〜10とした導電性ペースト(例えば、特許文献5)が提案されている。
この手法は、グラビアオフセット印刷にてパターン形状を良好とすることを課題としており、上述のとおり、インク特性を変化させることで、凹版の凹部にインクを充填する際にはインクの流動性を高め、充填後は、凹部にとどまるようにする方法である。
【0008】
【特許文献1】特許第3689536号明細書
【特許文献2】特開2004−249696号公報
【特許文献3】特開2005−353770号公報
【特許文献4】特開2006−37059号公報
【特許文献5】特開2000−76930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3又は特許文献4のように系全体の粘度を一様とする方法では、転写時にインクがせん断面にて選択的に分断されず、転写後のパターンは所望の形状に対し欠けた構造で形成されてしまうという課題を有する。また、厚膜になるほど、インクの切れ性は顕著に悪化するため、従来のインク組成物では特許文献1又は特許文献2の印刷手法を用いても、膜厚数百nm程度の薄膜でしかパターン形成ができなかった。
【0010】
特許文献5の方法は、グラビアオフセット印刷法を利用しているが、グラビアオフセット印刷では、パターンが微細化されるほど、凹部へのインク充填時のドクタリングで、凹部間のインク分断が困難になることに加え、膜厚が大きくなるほど、凹部のインクをブランケットに全量転写することが困難になるので、電子部品に要求される10μmレベルの転写は困難であった。また、インク表面張力の影響により、凹部充填時のエッジ形状の調整が困難であり、したがって転写後のパターンテーパーを抑えることは困難であった。
【0011】
また、特許文献5のインク組成物は、グラビアオフセット印刷によるパターン形成を考慮した結果、凹部に充填後ブランケットに転写する際に、インクが分断しないように、せん断面においても数Pa・sレベルの粘度になるように調合されているため、インクをせん断力により側面で分断させる方法に適用しても、糸曳きを防止できないという課題を有する。
以上のように、従来のインク組成物は1Pa・s以下の低粘度領域において、粘度とせん断性との両立ができていなかったため、インクの切れ性が悪く、パターンの微細化ができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、微粒子と、該微粒子と相互作用する複数の官能基を有するリンカーと、溶剤とを少なくとも含み、静置時は、微粒子同士がリンカーを介して連結された構造をとり、かつ、せん断力作用時には、該せん断力がかかる領域において、微粒子とリンカーとの界面において連結が切断されることを特徴とするインク組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインク組成物によれば、真空設備等の大型設備を必要としない印刷技術により、インク糸曳きがなく表面の面粗さやテーパーを抑えた良好な微細なパターンを形成することができる。また、膜厚パターンも良好な形状を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<インク組成物>
本発明のインク組成物を説明する前に、従来のインク組成物の課題を説明する。
図6は、従来のインク組成物において、ある領域21と別の領域22とを、せん断面23でせん断分離した様子を模式的に示したものである。上述のとおり、従来のインク組成物は、系全体の粘度が高いため、図6の24で示した領域にてインクが引き伸ばされた結果、図7の25又は25'で示すインク糸曳きが発生し、パターン周辺に付着してしまうことでパターンの乱れ(図8)が起こってしまう課題を有していた。本発明は上記の課題を改善するものである。
【0015】
以下、本発明のインク組成物について説明する。
本発明のインク組成物は、少なくとも微粒子とリンカーと溶剤により構成される。ここで、リンカーは、微粒子と相互作用する官能基を複数有しており、リンカーと微粒子とを相互作用させ、溶液状態において、微粒子とリンカーによる可逆的に構築及び分解可能な高次構造を形成させることが本発明のポイントである。
【0016】
この内容を図面に従って説明する。
図1は、本発明のインク組成物の静置時を模式的に示したものである。ここで、静置時とは、せん断力が働いていない状態をいう。図1に示すとおり、本発明のインク組成物は、静置時、リンカー2に含まれる官能基3と微粒子1とが相互作用することで、微粒子同士がリンカーを介した分子間力によって連結された高次構造を形成する。このような構造を形成させることで、インク組成物の見かけ上の粘性を上げることができる。
【0017】
一方、図2は、図1のインク組成物のある領域4と別の領域5とを、せん断面6でせん断分離させた様子を模式的に示したものである。リンカー2に含まれる官能基3と微粒子1との結合は、分子間力によるものであり、可逆的に連結/分断が可能であるため、溶液中に含まれる分子に対して図2に示すような負荷がかかると、例えば矢印7、7’で示す箇所での結合の切断を起こすことが可能であり、最終的には図3のようにエッジ等での糸曳きを起こすことなく、インクを分断することができる。
すなわち、本発明の構成を採用することで、高次構造形成により静置時に見かけ上高い粘度を維持しつつ、せん断面での粘度を低下させることのできるインク組成物を実現できる。
【0018】
ここで、微粒子とリンカーとの連結強度としては、下記で説明する印刷方法に対して本発明のインク組成物を利用することを考慮すると、インク組成物は少なくともずり速度0.1sec-1レベルの低ずり速度領域では微粒子とリンカーとが連結された状態を維持し、かつ、ずり速度12sec-1レベルの高ずり速度領域では、微粒子とリンカーとの連結が分断されることが必要である。本発明のインク組成物は、微粒子とリンカーとが分子間力によって連結されているために、通常の共有結合等よりも連結の強度が低く、上記の連結及び分断条件を満たすことができる。
【0019】
上述のとおり、本発明のインク組成物は、少なくとも微粒子、リンカー分子及び溶剤から構成される。
微粒子としては、導電性、絶縁性を問わず、例えば金属又は金属等の酸化物の微粒子、好ましくは銀、金、銅、ITO、SiO2、TiO2等の微粒子が利用できる。また、大きさとしても、現在形成が可能な数nm(例えば5nm)以上であれば特に限定されないが、高次構造形成による増粘及びせん断面における粘度低下をより顕著に発現させることを考慮すると、粒径100nm程度までであることが好ましい。
微粒子の含有量は、前述のとおり、低ずり領域と高ずり領域とで粘性が異なり、かつ、後述のとおり、インク組成物の粘度が約20mPa・s〜約100mPa・sとなるように、選択する微粒子の種類に応じて適切に選択されるが、例えば、インク組成物全体に対して10重量%〜70重量%である。
【0020】
リンカーは、微粒子と相互作用する官能基を複数有する。官能基としては、微粒子の種類に応じて選択される。微粒子が、金属又は金属酸化物の微粒子である場合、官能基としては、親水基が好ましくアミノ基、カルボキシル基、水酸基、エーテル基、アルコキシ基、チオール基がより好ましい。
【0021】
リンカーの官能基以外の部分(主鎖)は、(好ましくは末端の)2つ又はそれ以上の官能基を、同時に別個の2つ又はそれ以上の微粒子との相互作用に供し得る構造であれば特に限定されない。主鎖としては、官能基をより選択的に微粒子と相互作用させ、かつ、微粒子同士のリンクを維持することを考慮すると、官能基とは逆に疎水性のもので、かつ、少なくとも1nm以上の鎖長をもったもの、例えば炭素数6の直鎖状炭化水素に対応する長さ以上の長さのものから選択されることが好ましい。更に、主鎖そのものの絡まり等による増粘を防止することを考慮すると、分子量1000程度までの低分子であることがより好ましい。このような例としては例えば炭素数6〜30のアルキル基や芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0022】
具体的なリンカーの例としては、例えば1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノドデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,6−ヘキサン二酸、1,7−ヘプタン二酸、1,8−オクタン二酸、1,10−デカン二酸、1,12−ドデカン二酸、1,10−デカンジチオール、4,4’−ビフェニルジチオール等が挙げられる。
【0023】
リンカーの濃度としては、微粒子同士をリンクするのに必要な量がよく、例えばインク組成物全体に対して0.01重量%〜10重量%とし、(微粒子の含有量)/(リンカーの含有量)の比を1〜700とすることが好ましい。また、微粒子をあらかじめ分散させるために利用する分散剤が含まれていてもよい。
【0024】
本発明のインク組成物は、上記の微粒子を選択した上で、微粒子に合わせて選択したリンカーを選択し、適切な溶媒中に分散させることで形成される。製法としては一般的な方法が適用可能であり、例えばあらかじめ所定濃度のリンカーを適切な溶媒に溶解させた上で微粒子を導入し、所定の温度条件下で攪拌することで形成することができる。また、ナノ粒子を利用する場合だと、あらかじめナノ粒子を例えば還元法で形成する際に、所定濃度のリンカーを分散した溶液を用いることで、ナノ粒子表面をリンカーでコーティングさせる方法でも形成することができる。
【0025】
このようにして形成した本発明のインク組成物を前記印刷方法に適用し、パターンを形成するには、静置時はインク粘度が適度に高く、かつ、せん断力を負荷することで低下すればよい。静置時及びせん断力負荷時の粘度はそれぞれずり速度の異なる条件下で測定した粘度測定により評価できる。転写時の糸曳きを防止することを考慮すると、温度25℃で、ずり速度0.1sec-1における粘度η1が100mPa・s以下であり、ずり速度12sec-1における粘度η2との比であるη1/η2が3以上であることがより好ましい。一方、撥液層への塗布膜維持を考慮すると、さらにずり速度0.1sec-1における粘度η1が20mPa・s以上であることがより好ましい。
【0026】
本発明のインク組成物は、静置時に微粒子とリンカーとが連結された構造によって高粘性を発現させ、かつ、せん断力負荷時には、せん断力を受ける領域において微粒子とリンカーとの連結が切断されることで減粘する特性を有している。このような手法を用いると、静置時の粘度はあるレベル以上は増加しないようになっており、かつ、せん断力が負荷される領域でのみ粘性が低下する特性を持たせているため、本発明のインク組成物を用いた本発明の印刷方法において、均一な塗布面から、特定のパターンのみをせん断分離する際に、インク組成物を効率的に分断することができる。したがって、微細なパターンであっても、インク組成物の粘度影響が非常に小さく、インク糸曳き等のない良好な形状を実現できる。このようにして形成したパターン膜は、インクのせん断分離によって実現したものであるため、あらかじめパターン状にインクを充填する手法と異なり、パターン表面の面粗さや、テーパーを抑えた良好な形状とすることができる。さらに、上述のインク特性は膜厚に依存するものではないため、従来困難であった厚膜パターン形成であっても、糸曳き等のない良好な形状を実現できる。
【0027】
<印刷方法>
次に、本発明のインク組成物を用いた印刷方法について説明する。
本発明のインク組成物は、インクをせん断分離させることでパターン形状を形成するプロセス、具体的には、少なくとも、第一の基体の全面に塗布する工程;及び、第二の基体と接触させ、基体間及び/又は基体内におけるインク組成物と基体面との密着性の違いを利用して、離型時に第一の基体上のインク組成物と第二の基体上のインク組成物とをせん断分離させる工程とを含むプロセスに用いることが好ましい。
【0028】
以下に、本発明のインク組成物を用いる好ましい印刷方法の具体的態様を説明する。
【0029】
まず、第一の密着部と第一の非密着部とを所望のパターンで有する第一の基体面に本発明のインク組成物を塗布する。
ここで、密着部及び非密着部はそれぞれ、基体面において、本発明のインク組成物に対する付着力が相対的に大きい領域及び小さい領域である。
【0030】
次に、第一の基体面上の密着部と非密着部が反転したパターンで第二の密着部と第二の非密着部とを有する第二の基体面を、第一の基体面上のインク組成物に、第二の密着部が第一の非密着部と対向し第二の非密着部が第一の密着部と対向するように接触させる。
第二の基体面は、第二の密着部及び第二の非密着部を第一の基体面上の密着部と非密着部が反転したパターンで有し、よって第一の基体面と対向して配置されると、第二の密着部は第一の非密着部と対向し、第二の非密着部は第一の密着部に対向する。
すなわち、第二の基体面を第一の基体面上のインク組成物に接触させると、第一の基体面上で第一の密着部のインク組成物は、第二の基体面の(インク組成物に対する付着力がより小さい)第二の非密着部と接触し、第一の基体面上で第一の非密着部のインク組成物は、第二の基体面の(インク組成物に対する付着力がより大きい)第二の密着部と接触することになる。
【0031】
次いで、第一の基体面を第二の基体面に対して、その垂直方向に相対的に移動させることにより、第一の基体面の第一の非密着部上のインク組成物を第二の基体面の第二の密着部上に転写する。
移動に際して、対向する2つの基体面間のインク組成物に対する付着力の差により、第一の基体面上のインク組成物には、密着部と非密着部の境界上をせん断面として、せん断力が作用する。本方法では、インクとして、本発明のインク組成物を使用しているので、せん断面でインク糸曳きなく良好に分断される。
【0032】
上記印刷方法の1つの実施形態において、第二の基体面において第二の密着部は凸部であり第二の非密着面は凹部であり、第一の基体面の第一の非密着部上のインク組成物を第二の基体面の第二の密着部上に転写後に、更に、第一の基体面上に残るインク組成物を第三の基体と接触させ、第一の基体面上のインク組成物を第三の基体に転写する。
【0033】
以下に、この実施形態の具体例を説明する。
図4は、凸版反転印刷法によってパターンを形成するときの各々の工程におけるインク授受を模式的に示した図である。
図4(a)のように、転写体12全面に本発明のインク組成物11を塗布する。転写体が第一の基体面であり、転写体を後述する(第二の基体面である)凸版13と対向させたとき、転写体のうち凸版の凸部と対向する領域が第一の非密着部、凸版の凹部と対向する領域が第一の密着部である。
【0034】
転写体としては、例えば、金属、ゴム、樹脂、セラミック製のロールに離型剤で離型処理したもの、離型処理層を設けたもの等が挙げられる。離型処理層として表面張力の小さい、例えば、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン系樹脂やリンカー等で被覆した層を有するもの、金属複合酸化物層、セラミック層等をメッキ、蒸着、プラズマ、焼付け等により形成したものなどが挙げられる。中でも、柔軟性で離型性に優れたシリコーン樹脂で作製されたものやシリコーン樹脂を被覆したものが好ましい。塗布方法としては、一般的な手法が適用可能であり、例えば、スピンコート法、スリットコート法、ディップコート法、キャスト法等が利用できる。図では、簡略化するため、模式的に平板の転写体を示しているが、転写体の形状は、平板状、ローラー状いずれのものも使用できる。本発明のインク組成物は、静置時の粘度を比較的高く維持できるため、続けて別の基体に転写するまでの一定時間であれば、撥液性が高い転写体上でもはじくことなく、均一な形状を維持することができる。
【0035】
図4(b)のように、凸版を転写体上のインク組成物に、凸部及び凹部がそれぞれ転写体の非密着部及び密着部と対向するように接触させる。凸版が第二の基体面であり、凸版の凸部が第二の密着部、凸版の凹部が第二の非密着部である。
【0036】
次に、図4(c)〜(e)のように、転写体を凸版に対して、その垂直方向に相対的に移動させることにより(すなわち離型することにより)、転写体の第一の非密着部上のインク組成物を凸版の凸部上に転写する。このとき、インク組成物授受のプロセスとしては、転写体12と凸版13とを接触させた状態(図4(b))から、転写体12及び凸版13を相対的に移動させる(離す)過程で、ある程度の距離までは両者に吸着されたままであるが(図4(c))、更に離れることで、転写体のうち凸部と対向する部分のインク組成物のみが転写体から離型される(図4(d))。続いて、凸版13と転写体12に吸着されたインクがせん断面14にて分離されることで、最終的には転写体の全面に塗布されたインク組成物は、凸部パターンに従って凸版に転写される(図4(e))。
【0037】
凸版としては、例えば、水現像ナイロン系感光性樹脂凸版(東洋紡プリンタイト;東洋紡績株式会社製商品名)等の感光性樹脂を用いことができる。凸部に印刷インク組成物の塗布層を転写除去するので表面張力の大きな組成としたり、印刷インク組成物の塗布層との接触面積を大きくするため凸部を粗化したりすることが好ましい。本発明のインク組成物は、静置時の粘度が高く、せん断力が負荷された箇所の粘度が低くなるため、すなわち、図4(d)において、せん断面14近傍のインク粘度のみが低くなるため、図4(e)のように、転写体に残るインク組成物においても、また凸版の凸部に転写されたインク組成物においても、パターンエッジ15を糸曳きのない良好な形状とすることができる。
【0038】
更に、図4(f)〜(g)のように、残りのパターンを含む転写体を基板16(第三の基体)に押し当て(接触させ)、離型することで、基板上にパターンを形成してもよい。この場合、凸版には目的とする所望の形状の逆パターンを形成する。
基板としては、転写体よりもインク組成物との密着性が高いものであれば特に限定されず、ガラス、シリコン、酸化シリコン、石英、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルフォン、ポリイミドフィルム等の基板にパターンを形成することができる。
【0039】
上記印刷方法の別の1つの実施形態において、第一の基体面において第一の密着部は親液性を示す層により形成された非画線部であり、第一の非密着部は撥液性を示す層により形成された画線部であり、第一の基体面の撥液性の画線部上のインク組成物を第二の基体面の第二の密着部上に転写後に第一の基体面上に残るインク組成物を第三の基体と接触させ、第一の基体面上のインク組成物を第三の基体に転写する。
【0040】
以下に、この実施形態の具体例を説明する。
図5は、特許文献2に記載の印刷方法によってパターンを形成するときの各々の工程におけるインク授受を模式的に示した図である。
図5(a)のように、版13’全面に本発明のインク組成物を塗布する。版が第一の基体面であり、第一の密着部17及び第一の非密着部18を有する。
【0041】
版としては、例えば、第一の密着部に相当し、インク組成物の溶剤との親液性が高い材料の領域と、第一の非密着部に相当し、インク組成物の溶剤との撥液性が高い材料の領域とを有してなるものであればよい。親液部の材料としては、アルミニウム、銅、ニッケル、タンタル等が挙げられ、これらの中でもアルミニウムが易加工性、良成形性であるため好ましい。撥液部の樹脂材料としては、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0042】
版の製造方法としては、たとえば、親液材料であるアルミニウム基板上に、感光層を形成した上で、撥液材料であるシリコーン樹脂層を塗布し、通常のフォトプロセスを用いることで形成することができる。前記凸版反転法と同様、続けて別の基体に転写するまでの一定時間であれば、版の撥液部であってもはじくことなく、均一な形状を維持することができる。
【0043】
図5(b)のように、転写体12’を版上のインク組成物11’に接触させる。転写体が第二の基体面であり、版と対向させて配置したとき、転写体のうち版の親液部と対向する領域が第二の非密着部、版の撥液部と対向する領域が第二の密着部である。前記接触は、第二の非密着部及び第二の密着部がそれぞれ版の親液部及び撥液部と対向する領域が対向するように行う。
【0044】
次に、図5(c)〜(e)のように、版を転写体に対して、その垂直方向に相対的に移動させることにより(すなわち離型することにより)、版の撥液部のインク組成物を転写体の第二の密着部上に転写する。このとき、インク組成物授受のプロセスとしては、インク組成物が全面に塗布された版13’と転写体12’とを接触させた状態(図5(b))から、転写体及び版を相対的に移動させる(離す)過程で、ある程度の距離までは両者に吸着されたままであるが(図5(c))、更に離れることで、まず版の撥液部のインクが版から離型され(図5(d))、続いて、版の親液部と対向する部分のインク組成物のみが転写体から離型する(図5(e))。この状態において、その後、版と転写体に吸着されたインクがせん断面14’にて分離されることで、最終的には版の撥液部のインク組成物が転写体に転写される(図5(f))。
【0045】
転写体としては、凸版反転印刷法で利用するものと同様のものが利用できる。
この方法でも、前記凸版反転印刷法の場合と同様に、本発明のインク組成物は、静置時の粘度が高く、せん断力が負荷された箇所の粘度が低くなるため、図5(e)において、せん断面14’近傍のインク粘度のみが低くなるため、図5(f)のように、版に残るインク組成物においても、また転写体に転写されたインク組成物においても、パターンエッジ15’を糸曳きのない良好な形状とすることができる。
【0046】
更に、図5(g)〜(h)のように、残るパターンを含む転写体を基板16’(第三の基体)に押し当て(接触させ)、離型することで、基板上にパターンを形成してもよい。ここで、利用できる基板は、前記凸版反転法で利用できる基板と同様である。
【0047】
上記印刷方法の別の1つの実施形態において、第二の基体面において第二の密着部は親液性を示す層により形成された非画線部であり、第二の非密着面は撥液性を示す層により形成された画線部であり、第一の基体面の撥液性の画線部上のインク組成物を第二の基体面の第二の密着部上に転写後に第一の基体面上に残るインク組成物を第三の基体と接触させ、第一の基体面上のインク組成物を第三の基体に転写する。
【0048】
本発明のインク組成物を用いる別の好ましい印刷方法は、第一の基体面に本発明のインク組成物を塗布し、第一の基体面上のインク組成物に第二の基体面を接触させ、第一の基体面を第二の基体面に対して、その垂直方向に相対的に移動させることにより、第一の基体面上のインク組成物を第二の基体面上に転写する印刷方法において、第一の基体面又は第二の基体面のいずれか一方が密着部及び非密着部を所望のパターンで有し、他方はインク組成物に対する密着性が一様であることを特徴とする方法である。
ここで、インク組成物に対する密着性が一様である基体面は、本発明のインク組成物に対する付着力が、他方の基体面の密着部より小さく、非密着部より大きい。このことにより、移動に際して、インク組成物には、密着部と非密着部の境界上をせん断面として、せん断力が作用する。本方法では、インクとして、本発明のインク組成物を使用しているので、せん断面でインク糸曳きなく良好に分断される。
【0049】
以下に、この印刷方法を具体的に説明する。
まず、版(第一の基体面)上にインク組成物を塗布する。
次に、転写体(第二の基体面)を版上のインク組成物に接触させる。
続いて、版を転写体に対して、その垂直方向に相対的に移動させることにより(すなわち離型することにより)、版上のインク組成物を転写体の密着部上に転写する。
【0050】
ここで、版の密着性が一様である場合(すなわち、転写体が密着部及び非密着部を有する場合)のインク組成物授受のプロセスとしては、インク組成物が全面に塗布された版と転写体とを接触させた状態から、転写体及び版を相対的に移動させる(離す)過程で、ある程度の距離までは両者に吸着されたままであるが、更に離れることで、まず転写体の非密着部からインク組成物が離型され(版上の対向する領域に残り)、続いて、転写体の密着部と対向する部分のインク組成物のみが版から離型する。この状態において、その後、版と転写体に吸着されたインクがせん断面にて分離されることで、最終的には版上のインク組成物が転写体上の密着部に転写される。
【0051】
第二の基体面の密着部は、例えば、上記の印刷方法に関して記載したような親液性を示す領域(層)又は凸部であり得、非密着部は、例えば、上記の印刷方法に関して記載したような撥液性を示す領域(層)又は凹部であり得る。
【0052】
一方、転写体の密着性が一様である場合(すなわち、版が密着部及び非密着部を有する場合)のインク組成物授受のプロセスとしては、まず版の非密着部からインク組成物が離型され、続いて、版の密着部と対向する部分のインク組成物のみが転写体から離型する。この状態において、その後、版と転写体に吸着されたインクがせん断面にて分離されることで、最終的には版上の非密着部のインク組成物が転写体上に転写される。
【0053】
第一の基体面の密着部は、例えば、上記の印刷方法に関して記載したような親液性を示す領域(層)であり得、非密着部は、例えば、上記の印刷方法に関して記載したような撥液性を示す領域(層)であり得る。
密着性が一様な基体面には、上記の印刷方法に関して転写体として記載したものが使用できる。
【0054】
この方法でも、上記印刷方法の場合と同様に、本発明のインク組成物は、静置時の粘度が高く、せん断力が負荷された箇所の粘度が低くなるため、せん断面近傍のインク粘度のみが低くなるので、版に残るインク組成物においても、また転写体に転写されたインク組成物においても、パターンエッジを糸曳きのない良好な形状とすることができる。
【0055】
更に、残るパターンを含む転写体(第二の基体面)上のインク組成物を基板(第三の基体)に押し当て(接触させ)、離型することで、転写体(第二の基体面)上のインク組成物を基板(第三の基体)に転写してパターンを形成してもよい。ここで、利用できる基板は、上記印刷方法で利用できる基板と同様である。
【0056】
本発明のインク組成物を用いる別の好ましい印刷方法は、本発明のインク組成物を塗布層形成基体上に塗布して塗布層を形成し、
塗布層と、前記インク組成物に対して撥液性及び親液性を示す層により画線部及び非画線部が所望のパターンで形成された基体とを接触させて親液性の画像部に塗布層を転写して除去し、
塗布層形成基体上に残る塗布層と基板とを接触させ、塗布層形成基体上の塗布層を基板に転写させる印刷方法である。
【0057】
上記の方法のほか、本発明のインク組成物を使用できる印刷方法としては、ブランケットにインクを塗布して塗布面を形成し、形成した塗布面に対し、親液性と撥液性の樹脂層からなる画像形成版を押圧して親液性の樹脂層上のインクのみを転写して除去し、塗布面に残ったインクを基板に転写する印刷方法のように、版側にあらかじめ密着層と非密着層を持たせた印刷方法や、撥液性の版にインクを塗布して塗布面を形成し、形成した塗布面に対し、親液性と撥液性の層からなる転写体を押圧して親液性の層上のインクのみを転写する印刷方法のように転写体側にあらかじめ密着層と非密着層を持たせた印刷方法、さらには、版ならびに転写体の双方に密着層と非密着層を持たせた印刷方法等が挙げられ、これらの方法を用いてパターンを形成することができる。
また、本発明のインク組成物はインクの糸曳きを防止できるため、一般的なオフセット印刷方法に適用も可能であり、一般的なオフセット印刷によっても良好なパターン形状が形成可能である。
【0058】
このように本発明のインク組成物を用い、上記に示す印刷方法によって、導電性、絶縁性を問わず、各種微細パターンを形成することができる。また、本発明のインク組成物は、せん断時の粘度を低くすることができるため、厚膜パターンであっても、糸曳き等を起こすことなく、パターン乱れのない微細パターンを形成することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を参照しながら本発明の詳細を説明する。実施例では、本発明のインク組成物を用い、凸版反転印刷方法及び特許文献2に記載の印刷方法によってパターンを形成する場合のみを説明するが、これに限定されず、一般的なオフセット印刷等、種々の印刷方法にも適用することができる。
【0060】
実施例1:Ag微粒子を含むインク組成物の作製及び導電パターンの形成
本実施例においては、Agナノ粒子を微粒子として、1,12−ジアミノドデカンを該微粒子と相互作用し得る複数の基(アミノ基)を有するリンカーとして用いた。
1Lの2口ナスフラスコにおいて、テトラデカン溶媒500mLに1,12−ジアミノドデカン(東京化成社製)を溶解させた後、Agナノ粒子(アルバックマテリアル社製) 60重量部テトラデカン分散液(温度25℃で、ずり速度0.1sec-1における粘度10mPa・s)を添加し、窒素雰囲気下、室温で6時間攪拌して標記のインク組成物を作製した。各々の添加量は、最終濃度としてAg30重量部、1,12−ジアミノドデカン2重量部となるように調整した。作製した組成物の粘度(25℃)は28mPa・s(ずり速度0.1sec-1)及び6.4mPa・s(ずり速度12sec-1)であった。
【0061】
このインク組成物を用い、以下の方法により導電パターンを形成した。版は、幅30μm及び間隔30μmの複数本のラインパターンの撥液部を含むものを使用した。
【0062】
まず、スリットコーターを用い、上記インク組成物を上記版全面にスリットコーターを用いて塗布し、2分間風乾させることで版上にインク組成物膜を形成した。塗布後、レーザー顕微鏡(キーエンス社製)で評価したところ、膜厚は500nmであり、表面粗さもRa=10nmと均一な塗布膜を形成できたことを確認した。
続いて、インク組成物膜が形成された版に対して、転写体であるシリコーンゴムを押し当て、離型することで、版の撥液部(シリコーン樹脂面)上にあったインク組成物のみをシリコーンゴムに転写させた。シリコーンゴム上及び版上のパターン形状を光学顕微鏡にて確認したところ、各々に膜厚500nm、幅30μm±1μmのラインパターンが30μm±1μmの間隔で形成されていた。
【0063】
その後、前記ラインパターンを有するシリコーンゴムをガラス基板に押し当て、離型することでガラス基板上へ転写した後、ガラス基板を250℃、30分間焼成することで、ガラス基板上に導電パターンを形成した。
光学顕微鏡観察により、形成した導電パターンが、所望の形状にて形成されていることが確認された。また、形成した導電パターンの体積抵抗率を評価したところ、5μΩ・cmと、バルクの銀とほぼ同様の値となった。これらの評価より、本実施例のインク組成物を用いて、良好なパターン形状を形成できることを確認した。
【0064】
実施例2:SiO2微粒子を含むインク組成物の作製
本実施例においては、SiO2微粒子粒子を微粒子として、1,18−オクタデカン二酸を該微粒子と相互作用し得る複数の基(カルボキシル基)を有するリンカーとして用いた。
1Lの2口ナスフラスコにおいて、ポリアミック酸500mLに、最終濃度がそれぞれ5重量部及び2重量部となるように平均粒径25nmのSiO2微粒子(シーアイ化成社製:NanoTek(登録商標))及び1,18−オクタデカン二酸(東京化成社製)を添加した後、窒素雰囲気下、室温で5時間攪拌することで、標記のインク組成物を作製した。作製した組成物の粘度(25℃)は47mPa・s(ずり速度0.1sec-1)及び10mPa・s(ずり速度12sec-1)であった。
【0065】
このインク組成物を用い、以下の方法により絶縁膜パターンを形成した。
版は、水現像ナイロン系感光性樹脂凸版(東洋紡プリンタイト、東洋紡社製)に対し、通常のフォトプロセスによって、複数本の凸部(幅W1=30μm)及び凹部(幅W2=30μm)が交互に含まれるパターンを形成したものを作製、使用した。
【0066】
まず、キャップコーターを用い、上記インク組成物をシリコーンゴム全面にキャップコーターを用いて塗布し、2分間風乾させることでシリコーンゴム上にインク組成物膜を膜厚2.2μmで形成した。このときのインク組成物膜の表面粗さはRa=12nmであり、基板全面に均一な塗布膜を形成できたことを確認した。
続いて、インク組成物膜が形成されたシリコーンゴムに対し、前記凸版を押し当て、離型することで、シリコーンゴム上のインク組成物のうち、版の凸部と接触したインク組成物のみを凸版に転写、除去した。その後、シリコーンゴムをガラス基板に押し当て、離型することで、シリコーンゴム上に残ったインク組成物をガラス基板上へ転写した。ガラス基板を250℃、60分間焼成することで、ガラス基板上に絶縁膜パターンを形成した。
【0067】
形成した絶縁膜パターンの形状は、膜厚2μm、幅30μm±1μm、間隔30μm±1μmであった。抵抗値測定、絶縁耐圧測定を行ったところ、抵抗値20MΩ、絶縁耐圧2.2MV/cmと良好な絶縁性を持っていることが確認できた。これらの評価より、本実施例のインク組成物を用い、凸版反転印刷法によって良好な絶縁膜パターン形状を形成できることを確認した。
【0068】
実施例3〜7、比較例1〜3:各種微粒子、リンカーを含むインク組成物の作製及びそれらを用いた各種パターン形成
下記表1に示すインク組成物を実施例2と同様の手法により作製した。
比較として、表1に示すような、微粒子を含むが、複数の官能基を有するリンカーを添加しないインク組成物を添加したインク組成物を作製し用いた。
【0069】
【表1】

【0070】
また、それぞれのインク組成物の粘度を表2に示す。粘度1、粘度2はそれぞれずり速度0.1sec-1及びずり速度12sec-1における粘度(25℃)である。
これらインク組成物を用いて、膜厚400nm、パターン幅30μm、パターン間隔30μmの導電性及び透明導電性パターンを形成した。
印刷結果を表2に示す。
【0071】
表2において、「塗布性」とは、50mm□版上にキャップコーターを用いて塗布したときの被覆レベルを示したものであり、被覆率が90%以上を○とし、90%未満を×とした。
「糸曳き」とは、印刷されたインク組成物パターンの糸曳きによる乱れの有無を示している。糸曳きとは、インク粘度が高い場合、印刷過程で図7のように発生し、印刷パターンでは図8における矢印Bのような形状として現れる。したがって、インク組成物の印刷パターンを顕微鏡にて観察時(1000倍)に、図8中の矢印Bで示すような形状が確認されなかった場合を○、1箇所でも確認された場合を×とした。
【0072】
「転写性」とは、最終的に基板に転写されるべき版上のインク組成物が、版から転写体を経て基板へ転写される過程で、全量転写されているかどうかを示したものである。必要なインク組成物の全量が基板まで転写されている場合を○とし、それ以外を×とした。
「面粗さ」とは、基板上に形成されたパターン上部の面粗さRaを示したものであり、Raが膜厚の5%未満を○、5%以上を×とした。
【0073】
「テーパー」とは、パターン上面距離と下面距離との差分を示したものであり、差分が小さいほどパターンエッジ形状が鋭いことを示す。差分がパターン下面距離の5%未満を○、5%以上を×とした。
上記の評価項目に基づいて、最終的に基板に良好なパターンを形成できたどうかの判定を行った。全ての項目について○であれば判定を○とし、1項目にでも×があれば判定を×とした。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例3〜実施例7より、Cu、Ag、Au、ITO微粒子を含む本発明のインク組成物を用いることで、表面の面粗さが小さく、エッジ形状が鋭い良好なパターンを形成できることが確認できた。表面の面粗さを小さくできたのは、インク組成物のせん断面近傍の粘度のみが低下することで、他の領域でのインクの引き合いを最小限に抑制できた結果、最終的にガラス基板上に形成すべきパターンが版又は転写体に残らず、全量転写できたことに起因する。また、エッジ形状を鋭くできたのは、インク組成物のせん断面近傍の粘度のみが低下することで、せん断面近傍でのインクの引き合いを抑制できたために、糸曳きの無いパターンを形成できたことに起因する。
【0076】
一方、実施例5と比較例1、又は実施例3と比較例2とを比較することより、本発明に係るリンカーを含有させることにより、粘度にずり速度依存性を持たせることが、塗布性、転写性をともに向上し、良好なパターンを形成するための条件となっていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】静置時の本発明のインク組成物における微粒子とリンカーとの関係を示す模式図である。
【図2】せん断力負荷時の本発明のインク組成物における微粒子とリンカーとの関係を示す模式図である。
【図3】せん断力負荷により切断された本発明のインク組成物における微粒子とおり簿マーとの関係を示す模式図である。
【図4】本発明のインク組成物を用いた凸版反転印刷によるパターン形成を説明する模式図である。
【図5】本発明のインク組成物を用いた特許文献2に記載の印刷方法によるパターン形成を説明する模式図である。
【図6】せん断力負荷時の従来のインク組成物の状態を示す模式図である。
【図7】せん断力負荷により切断された従来のインク組成物の状態を示す模式図である。
【図8】糸曳きによるパターンの乱れを示す模式図である。
【符号の説明】
【0078】
1 微粒子
2 リンカー分子
3 リンカー分子に含まれる官能基
4 本発明のインク組成物のある領域
5 本発明のインク組成物の別の領域
6 せん断面
11、11’ 本発明のインク組成物
12、12’ 転写体
13、13’ 版
14、14’ せん断面
15、15’ パターンエッジ
16、16’ 基板
17 親液部
18 撥液部
20 従来のインク組成物
21 従来のインク組成物のある領域
22 従来のインク組成物の別の領域
23 せん断面
24 従来のインクにせん断力が負荷された結果、従来のインクが引き伸ばされる領域
25、25’ インクの糸曳き
26 基板
B 糸曳きによるパターン崩れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子と、該微粒子と相互作用する複数の官能基を有するリンカーと、溶剤とを少なくとも含み、静置時は、微粒子同士がリンカーを介して連結された構造をとり、かつ、せん断力作用時には、該せん断力がかかる領域において、微粒子とリンカーとの界面において連結が切断されることを特徴とするインク組成物。
【請求項2】
温度25℃でずり速度0.1sec-1における粘度η1が20〜100mPa・sであり、ずり速度12sec-1における粘度η2との比η1/η2が3以上である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
微粒子がインク組成物全体に対し10重量%〜70重量%で含まれ、リンカーがインク組成物全体に対し0.01重量%〜10重量%で含まれ、両者の含有量の比(微粒子/リンカー)が1〜700である、請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
第一の密着部と第一の非密着部とを有する第一の基体面と、第一の非密着部と対向する第二の密着部と第一の密着部に対向する第二の非密着部とを有する第二の基体面との間に配され、前記第一の基体面を第二の基体面に対して、その垂直方向に相対的に移動させることによって、前記第一の基体面の第一の密着部及び前記第二の基体面の第二の密着部に保持されながらせん断分離される請求項1〜3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記リンカーの主鎖が、炭素数6以上30以下の直鎖状の炭化水素基を含み、且つ、前記リンカーの官能基が、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、エーテル基、チオール基から選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記微粒子の大きさが5nm以上100nm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記微粒子が、Ag、Cu、Au、In、SnO2、ITO、SiO2、TiO2から選択される微粒子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項8】
第一の密着部と第一の非密着部とを所望のパターンで有する第一の基体面に請求項1〜7のいずれか1項に記載のインク組成物を塗布し、
第一の基体面上の密着部と非密着部が反転したパターンで第二の密着部と第二の非密着部とを有する第二の基体面を、第一の基体面上のインク組成物に、第二の密着部が第一の非密着部と対向し第二の非密着部が第一の密着部と対向するように接触させ、
第一の基体面を第二の基体面に対して、その垂直方向に相対的に移動させることにより、第一の基体面の第一の非密着部上のインク組成物を第二の基体面の第二の密着部上に転写する印刷方法。
【請求項9】
第一の基体面において第一の密着部が親液性を示す層により形成された非画線部であり、第一の非密着部が撥液性を示す層により形成された画線部であり、
第一の基体面の撥液性の画線部上のインク組成物を第二の基体面の第二の密着部上に転写後に第一の基体面上に残るインク組成物を第三の基体と接触させ、第一の基体面上のインク組成物を第三の基体に転写する請求項8に記載の印刷方法。
【請求項10】
第二の基体面において第二の密着部が凸部であり第二の非密着面が凹部であり、
第一の基体面の第一の非密着部上のインク組成物を第二の基体面の第二の密着部上に転写後に第一の基体面上に残るインク組成物を第三の基体と接触させ、第一の基体面上のインク組成物を第三の基体に転写する請求項8に記載の印刷方法。
【請求項11】
第二の基体面において第二の密着部が親液性を示す層により形成された非画線部であり、第二の非密着面が撥液性を示す層により形成された画線部であり、
第一の基体面の撥液性の画線部上のインク組成物を第二の基体面の第二の密着部上に転写後に第一の基体面上に残るインク組成物を第三の基体と接触させ、第一の基体面上のインク組成物を第三の基体に転写する請求項8に記載の印刷方法。
【請求項12】
第一の基体面に請求項1〜7のいずれか1項に記載のインク組成物を塗布し、第一の基体面上のインク組成物に第二の基体面を接触させ、第一の基体面を第二の基体面に対して、その垂直方向に相対的に移動させることにより、第一の基体面上のインク組成物を第二の基体面上に転写する印刷方法において、第一の基体面又は第二の基体面のいずれか一方が密着部及び非密着部を所望のパターンで有し、他方はインク組成物に対する密着性が一様である印刷方法。
【請求項13】
第一の基体面のインク組成物を第二の基体面に転写後に第二の基体面上のインク組成物を第三の基体と接触させ、第二の基体面上のインク組成物を第三の基体に転写する請求項12に記載の印刷方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項に記載の印刷方法によって形成されたパターン膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−70606(P2010−70606A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237881(P2008−237881)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】