説明

インク組成物及びインクジェット記録方法

【課題】 小粒子径の荷電粒子の増加を防止し、荷電を安定的に高く保持することができ、良好な画像を形成することのできるインク組成物及びインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】 熱及び/又は光により反応可能な官能基を有する樹脂、及び、色材を、混合し、熱及び/または光を照射し、当該樹脂を架橋し、得た混合物を分散媒に分散して、架橋した樹脂で被覆された色材粒子が分散したインク組成物、及び、該インク組成物を、静電界を利用したインクジェット記録方式でインク滴として飛翔させるインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、インク組成物の製造方法、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙などの被記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型及び溶融型熱転写方式、インクジェット記録方式などがある。電子写真方式は、感光体ドラム上に帯電及び露光により静電潜像を形成するプロセスを必要とし、システムが複雑となり高価な装置となる。熱転写方式は、装置は安価であるが、インクリボンを用いるため、ランニングコストが高くかつ廃材が出る。一方インクジェット記録方式は、安価な装置で、且つ必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。さらに、騒音が少なく、画像記録方式として優れている。
【0003】
インクジェット記録方式には、例えば、発熱体の熱により発生する蒸気の圧力でインク滴を飛翔させる方式や、圧電素子によって発生される機械的な圧力パルスによりインク滴を飛翔させる方式、また、静電界を利用して荷電粒子を含有するインク滴を飛翔させる方式(特許文献1、2参照)がある。蒸気や機械的圧力でインク滴を飛翔させる方式は、インク滴の飛翔方向を制御できず、インクノズルの歪みや空気の対流により、被印刷媒体上の望ましい位置へ、インク滴を正確に着弾させることが困難である。
一方、静電界を利用する方式は、インク滴の飛翔方向を静電界により制御するため、望ましい位置へインク滴を正確に着弾させることが可能であり、高画質の画像形成物(印刷物)を作成でき優れている。
【0004】
静電界を利用するインクジェット記録に用いられるインク組成物としては、分散媒および、色材を少なくとも含む荷電粒子を含有するインク組成物が用いられる(特許文献3、4参照)。色材を含有するインク組成物は、色材を変更することにより、イエロー、マゼンタ、シアン、墨の4色のインクを作成することができ、さらに金や銀の特色インクを作成することができる。したがって、カラーの画像形成物(印刷物)を作成することができるため有用である。
【0005】
インクジェット記録用インク組成物は、一般的に、色材とその被覆樹脂を溶融混練し、粉砕して粒子形成し、これを分散剤を含んだ分散媒中に微粒子状に分散し(湿式分散)、さらに荷電を与えることにより形成することができる。
【0006】
高速かつ高画質を維持し、カラーの画像形成物(印刷物)を安定に出力させるためには、荷電粒子が速い電気泳動速度で吐出部先端で濃縮される必要があり、そのためには荷電粒子に十分な荷電を付与する必要があることが確認されている。しかし、電子写真システムにて一般に使用される0.5μm以下のトナー粒子から成る液体現像剤等では本インクジェットシステムにおいては不適であり、粒子直径を画質低下しない程度(0.8〜2.0μm)に大きくして、荷電粒子1個あたりの荷電量を増やすことが必要である。さらには、ランニング時蓄積する、小粒子径の荷電粒子の増加を防ぐために、粒子径分布を狭くすることも必要であり、現状における粒子形成技術では満足できるレベルではないという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特許第3315334号公報
【特許文献2】米国特許第6158844号明細書
【特許文献3】特開平8−291267号公報
【特許文献4】米国特許第5952048号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、小粒子径の荷電粒子の増加を防止し、荷電を安定的に高く保持することができ、良好な画像を形成することのできるインク組成物、その製造方法、及び、インクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のとおりである。
(1)色材、及び、熱及び/又は光により反応可能な官能基を有する樹脂を混合し、熱及び/または光を照射し当該樹脂を架橋し、得た混合物を分散媒に分散して、架橋した樹脂で被覆された色材粒子が分散したインク組成物を製造する方法。
(2)上記(1)の製造方法により製造したインク組成物。
(3)当該架橋した樹脂で被覆された色材粒子が、荷電粒子であることを特徴とする上記(2)に記載のインク組成物。
(4)静電界を利用したインクジェット記録方式でインク組成物をインク滴として飛翔させるインクジェット記録方法において、前記インク組成物が、上記(2)または(3)に記載のインク組成物であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被覆樹脂が熱及び/又は光により反応可能な官能基を有するとともに、色材と粒子形成する過程で架橋構造を形成している。これにより、色材が被覆樹脂内に均一に固定され、分散工程時に色材が脱落せず、また小粒子径の荷電粒子もほとんど生成されないことから、荷電を安定的に高く保持することができ、良好な画像を形成することのできるインク組成物及びインクジェット記録方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明について詳細に述べる。
熱及び/又は光により反応可能な官能基を有する樹脂、及び、色材を、混合し、熱及び/または光を照射し、当該樹脂を架橋し、得た混合物を分散媒に分散して、架橋した樹脂で被覆された色材粒子が分散したインク組成物を製造する。
【0012】
色材粒子を形成する方法としては、一般的には、下記の方法が挙げられる。
(1)色材および被覆樹脂を加熱混合し、粒子形成した後、分散剤と分散媒を用いて分散し、荷電調整剤を加える。
混合や分散する際に用いられる装置としては、例えば、ニーダー、ディゾルバー、ミキサー、高速ディスパーザー、サンドミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ビーズミル(技術情報協会発行 「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」 2001年12月25日 第1刷参照。)等が挙げられる。
【0013】
本発明において、適用される方法は方法(1)であり、特に、色材と被覆樹脂を架橋させることが好ましい。
架橋温度は一般的には40〜160℃、好ましくは50〜130℃、より好ましくは60〜120℃である。架橋時間は一般的には0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3.0
である。
【0014】
なお、光を用いて被覆樹脂を架橋させる場合は、色材と被覆樹脂を混合する際に、光重合開始剤を添加し、光照射しながら混合することにより被覆樹脂を架橋することが好まし
い。
【0015】
樹脂を架橋した後の混合物は、必要により冷却乾燥後、粉砕し、一般的に平均体積直径30〜100μmの粉体とし、分散媒中に分散し、色材粒子とする。色材粒子の平均体積直径は、一般的には0.2〜5.0μm、好ましくは0.3〜3.0μmである。この色材粒子は、好ましくは荷電調整剤の添加により、荷電粒子を構成する。
【0016】
このような方法で製造されたインク中の荷電粒子のうち、小粒子径の荷電粒子の割合が小さいと、例えば、インクジェット記録装置に使用した場合、ランニング時にインク中への蓄積が少なく、十分な描画性が得られる。その割合としては、平均体積直径の1/5以下に相当する直径の荷電粒子の含有率が1%以下であることが望ましい。より好ましくは、0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。
平均体積直径は、インクの状態で遠心沈降法(CAPA700/堀場製作所製)によって測定することができる。
【0017】
まず、本発明のインク組成物の各構成成分について述べる。
[分散媒]
本発明に用いる分散媒は、高い電気抵抗率、具体的には1010Ωcm以上を有する誘電性の液体であることが好ましい。仮に電気抵抗率の低い分散媒を使用すると、隣接する記録電極間で電気的導通を生じさせるため、本形態には不向きである。また、誘電性液体の比誘電率は5以下が好ましく、より好ましくは4以下、更に好ましくは3.5以下である。このような比誘電率の範囲とすることによって、誘電性液体中の荷電粒子に有効に電界が作用されるため好ましい。
【0018】
本発明に用いる分散媒としては、直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化素、または芳香族炭化水素、およびこれらの炭化水素のハロゲン置換体、シリコーンオイル等がある。例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、トルエン、キシレン、メシチレン、アイソパーC、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM(アイソパー:エクソン社の商品名)、シェルゾール70、シェルゾール71(シェルゾール:シェルオイル社の商品名)、アムスコOMS、アムスコ460溶剤(アムスコ:スピリッツ社の商品名)、KF−96L(信越シリコーン社の商品名)等を単独又は混合して用いることができる。インク組成物全体に対する分散媒の含有量は、20〜99質量%の範囲内であることが好ましい。20質量%以上において、良好に色材を含有する粒子を分散媒に分散することができ、また、99質量%以下において、色材の含有量を充足することができる。
【0019】
[色材]
本発明に用いる色材としては、公知の染料および顔料を使用することができ、用途や目的に応じて選択することができる。例えば、記録された画像記録物(印刷物)の色調の観点からは、顔料を用いることが好ましい(例えば、技術情報協会発行 「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」 2001年12月25日 第1刷参照。)。色材を変更することにより、イエロー、マゼンタ、シアン、墨(ブラック)の4色のインクを作成することができる。特に、オフセット印刷用インクやプルーフに用いられる顔料を使用するとオフセット印刷物と同様な色調が得られるので好ましい。
【0020】
イエローインク用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、 C.I.ピグメントイエロー74等のモノアゾ顔料、 C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー17等のジスアゾ顔料、 C.I.ピグメントイエロー180等の非ベンジジン系のアゾ顔料、 C.I.ピグメントイエロー100等のアゾレーキ顔料、 C.I.ピグメントイエロー95等の縮合アゾ顔料、 C.I.ピグメントイエロー115等の酸性染料レーキ顔料、 C.I.ピグメントイエロー18等の塩基性染料レーキ顔料、フラバントロンイエロー等のアントラキノン系顔料、イソインドリノンイエロー3RLT等のイソインドリノン顔料、キノフタロンイエロー等のキノフタロン顔料、イソインドリンイエロー等のきイソインドリン顔料、 C.I.ピグメントイエロー153等のニトロソ顔料、 C.I.ピグメントイエロー117等の金属錯塩アゾメチン顔料、C.I.ピグメントイエロー139等のイソインドリノン顔料などが挙げられる。
【0021】
マゼンタインク用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド3等のモノアゾ系顔料、 C.I.ピグメントレッド38等のジスアゾ顔料、 C.I.ピグメントレッド53:1等やC.I.ピグメントレッド57:1等のアゾレーキ顔料、 C.I.ピグメントレッド144等の縮合アゾ顔料、 C.I.ピグメントレッド174等の酸性染料レーキ顔料、 C.I.ピグメントレッド81等の塩基性染料レーキ顔料、 C.I.ピグメントレッド177等のアントラキノン系顔料、 C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ顔料、 C.I.ピグメントレッド194等のペリノン顔料、 C.I.ピグメントレッド149等のペリレン顔料、 C.I.ピグメントレッド122等のキナクリドン顔料、 C.I.ピグメントレッド180等のイソインドリノン顔料、 C.I.ピグメントレッド83等のアリザリンレーキ顔料等が挙げられる。
【0022】
シアンインク用の顔料としては、例えば、C.Iピグメントブルー25等のジスアゾ系顔料、 C.I.ピグメントブルー15等のフタロシアニン顔料、 C.I.ピグメントブルー24等の酸性染料レーキ顔料、 C.I.ピグメントブルー1等の塩基性染料レーキ顔料、 C.I.ピグメントブルー60等のアントラキノン系顔料、 C.I.ピグメントブルー18等のアルカリブルー顔料等が挙げられる。
【0023】
墨インク用の顔料としては、例えば、アニリンブラック系顔料等の有機顔料や酸化鉄顔料、及びファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料類等が挙げられる。
更にマイクロリス−A,−K,−Tなどのマイクロリス顔料に代表される加工顔料も好適に使用できる。その具体例としてはマイクロリスイエロー4G−A,マイクロリスレッドBP−K,マイクロリスブルー4G−T,マイクロリスブラックC−Tなどが挙げられる。
また、白インク用の顔料として炭酸カルシウムや酸化チタン顔料を、銀インク用としてアルミニウム粉を、金インク用として銅合金を用いる等、必要に応じて各種の顔料を使用することができる。
【0024】
顔料は、基本的には一色につき一種類の顔料を使うことが、インク製造の簡便性の点で好ましいが、色相調整として例えば、墨インク用に、カーボンブラックにフタロシアニンを混合するなど、場合によっては2種以上併用することも好ましい。また、ロジン処理等、公知の方法により顔料を表面処理した後使用してもよい(技術情報協会発行 「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」 2001年12月25日 第1刷参照。)。
インク組成物全体に対する顔料の含有量は、0.1〜50質量%の範囲内であることが好ましい。0.1質量%以上において、顔料量が充足し、印刷物において充分良好な発色が得られ、また、50質量%以下において、色材を含有する粒子を分散媒に良好に分散させることができる。さらに好ましくは、1〜30質量%である。
【0025】
[被覆樹脂]
本発明における粒子は、少なくとも1種の被覆樹脂を含む。本発明では、被覆樹脂が、熱及び/又は光により反応可能な官能基を有するとともに、前記色材と粒子形成する過程で架橋構造を形成することを特徴としている。被覆樹脂は、顔料等の色材を被覆し、この
状態で後の湿式分散工程に施される。
被覆樹脂としては、例えば、ロジン類、ロジン変性フェノール樹脂、アルキッド樹脂、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールのアセタール変性物、ポリカーボネート等の樹脂中に、熱及び/又は光により反応可能な官能基を有していることが好ましい。なお、合成上、性能上の観点から、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリスチレン、ポリエステル樹脂中に該官能基を有していることが特に好ましい。最も好ましくは(メタ)アクリル系ポリマーに該官能基を有している樹脂である。
【0026】
熱及び/又は光により反応可能な官能基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン化カルボニル基、カルボキシル基またはその塩、アミノ基、エポキシ基、ハロアルキル基、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、重合性官能基などが挙げられ、これらの官能基を含有するモノマーとしては、「高分子データ・ハンドブック−基礎編−(高分子学会編、培風館、1986)」記載のモノマー等が挙げられる。また、互いに反応可能な官能基を同一被覆樹脂中に存在させておいてもよいし、互いに反応可能な官能基をそれぞれ含有する被覆樹脂をブレンドしてもよい。
【0027】
熱及び/又は光により反応可能な官能基のうち、反応性と効果の点から、重合性官能基がより好ましく、熱重合性官能基が特に好ましい。
重合性官能基としては、付加重合可能な不飽和結合基(例えば(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、(メタ)アクリロニトリル基、アリル基、スチレン構造、ビニルエーテル構造や、アセチレン構造等)、−SH、−PH、SiH、−GeH、ジスルフィド構造等が挙げられる。この中でも、付加重合可能な不飽和結合基であることが好ましい。なお、ここで(メタ)アクリル基とは、アクリル基またはメタアクリル基を表す。
【0028】
付加重合可能な不飽和結合基を有するポリマーを合成する方法としては、付加重合可能な不飽和結合基を含有するモノマーを用いて他の共重合成分と共重合させる方法、反応性官能基を有するポリマーを合成しておいて、該反応性官能基と結合可能な官能基と、不飽和結合基とを含有する化合物を反応させる方法などがあるが、これに限定されるものではない。
付加重合可能な不飽和結合基を有するポリマーを合成する方法としては、特開2001−312068号、特開2002−62648号の各公報などに記載の方法を参考に合成することができる。
【0029】
被覆樹脂を構成する全繰り返し単位に対する、熱及び/又は光により反応可能な官能基を有する繰り返し単位の好ましい範囲は1〜90モル%であり、より好ましくは5〜60モル%、特に好ましくは10〜40モル%である。官能基量を上記範囲にすることにより、粒子形成時に十分な架橋がかかり,他の性能を害することなく望ましい効果を発現しうる。
【0030】
これら付加重合可能な不飽和結合基を含有するモノマーは他のモノマーと共重合してもよい。他のモノマーとしては公知の重合性モノマーであれば特に限定されない。中でも特に好ましい他のモノマーとしては,下記一般式(A)で表されるモノマーが挙げられる。
【0031】
【化1】

【0032】
一般式(A)中、
1、a2は互いに同じでも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
Xは単結合又はC、H、N、O、S、Pから選ばれる2種以上の原子からなる総原子数50個以下の2価の連結基を表す。
1は炭素数4以上の脂肪族炭化水素基を表す。
【0033】
一般式(A)のa1、a2は好ましくは、水素原子、置換基を有していても良い炭素数20以下のアルキル基が挙げられ、特に好ましい構造としては、a1が水素原子、a2が水素原子又はメチル基が挙げられる。
1で表される脂肪族炭化水素基は、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素数6〜30の置換されてもよい炭化水素基である。
脂肪族炭化水素基としては、例えば置換されていてもよいアルキル基が挙げられ、具体的にはブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ヘプチル基、ヘキシル基、エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。
上記一般式(A)で表されるモノマーを共重合することにより、粒子形成性を容易にすることができる。この効果を発現するために,一般式(A)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位の、被覆樹脂を構成する全繰り返し単位に対する含有量は1質量%〜50質量%が好ましく、より好ましくは1質量%〜30質量%である。
【0034】
また、好ましいその他のモノマーとしては、プロトン受容性基を含有するモノマーが挙げられる。
プロトン受容性基を含有するモノマーとしては、例えば中性官能基が、窒素原子、酸素原子、硫黄原子および/または燐原子を含有する官能基である化合物が挙げられ、特に好ましくは窒素原子を含有する官能基を有するモノマーである。
具体的には,1,2または3級脂肪族アミノ基、1,2または3級芳香族アミノ基、ピロール環、ピリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、オキサゾール環、イソオキサオゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアテトラゾール環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環等などのN原子含有ヘテロ環基等が挙げられる。
【0035】
好ましいプロトン受容性基を含有するモノマーの具体例を以下に示すが、これらに限定されない。lは正の整数を表し、好ましくは1〜20の整数である。
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
上記のプロトン受容性基を含有するモノマーを共重合することにより、インク粒子の単位体積あたりの荷電密度を高くすることができる.この効果を十分発現するために、プロトン受容性基を含有するモノマーに由来する繰り返し単位の、被覆樹脂を構成する全繰り返し単位に対する含有量は1質量%〜99質量%が好ましく、より好ましくは3質量%〜95質量%である。
【0041】
本発明において、熱及び/又は光により反応可能な官能基を含有する被覆樹脂は、粒子形成の容易さの観点から、質量平均分子量は好ましくは2,000〜1,000,000、より好ましくは5000〜100,000の範囲内であるポリマーがよく、かつ多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が、好ましくは1.0〜5.0、より好ましくは1.0〜3.0の範囲内であるポリマーがよい。さらに、定着の容易さの観点から、軟化点、ガラス転移点または融点のいずれか1つが40℃〜120℃の範囲内にあるポリマーが好ましい。
【0042】
本発明において、被覆樹脂は、その物性として、50℃での動的弾性率が106Pa以上、かつ100℃での動的弾性率が103Pa以上105Pa以下であることが特に好ましい。
ここで、重合体物性としての動的弾性率は、重合体の変形しやすさや流動性を示し、その挙動はレオロジーと呼ばれる学問体系に属している。そして、動的弾性率は、インク粒子の熱的流動性、すなわちフロー性、上に重ねられた被記録媒体への画像の裏移りのしにくさ、すなわち耐ブロッキング性、そしてインク画像の熱定着時におけるヒートローラへ画像の一部が転移するオフセット等と深く関係すると考えられる。
動的弾性率の測定は、当業界でよく知られ、再現性よく測定可能であるが、例えばレオメ−タ−と称する測定装置を用い、熱溶融させた重合体をロ−タ−(ギャップ1mm)で挟み、ある一定の周波数で振動を与え、その周波数のズレから求めることができる。
さらに具体的には、例えば試料の微粉砕物3gをUBM社製レオメ−タ−「Rheosol−G1000型」の試料チャンバ−内にセットし、所定の測定方法に則りまず200℃でこれを溶融させたのち、温度を降下させながらロ−タ−を周波数1Hzで振動させ自動的に「温度ー動的弾性率曲線」を記録し、動的弾性率を測定することができる。この動的弾性率曲線の好ましい挙動として、40℃〜100℃の範囲において2箇所の変曲点を有していることが好ましい。
【0043】
インク組成物全体に対する被覆樹脂の含有量は、0.1〜40質量%の範囲内であることが好ましい。0.1質量%以上において、被覆樹脂の量が充足し、より充分な定着性が得られるとともに、40質量%以下において、色材と被覆樹脂を含有する粒子をより良好に形成することができる。
【0044】
本発明において、被覆樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また被覆樹脂は、熱及び/又は光により反応可能な官能基を有するポリマー以外のポリマーも必要に応じて用いることができる。
好ましいその他のポリマーとしては特に限定されないが、(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン/(メタ)アクリル系ポリマーや、結晶性ポリエステル、結晶性ポリエチレンなどの融点を有する高分子化合物、結晶性化合物などの融点を有する低分子成分であることが特に好ましい。上記融点を有する高分子化合物および低分子成分の融点(Tm)は30〜120℃の範囲が好ましく、より好ましくは、30〜110℃の範囲、さらに好ましくは、40〜100℃の範囲である。この融点(Tm)の温度範囲において、画像の定着性が一層高まる。ここで本発明において、融点(Tm)は、DSC測定での吸熱ピ−クの頂点温度を意味する。その他のポリマーの含有量は、被覆樹脂全量に対して0〜99質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜70質量%である。
【0045】
[重合開始剤]
本発明は被覆樹脂が色材と粒子形成する過程で熱及び/又は光により架橋構造を形成することを特徴としている。粒子形成時に効率よく架橋構造を形成するために熱及び/又は光重合開始剤を添加することが好ましい。
【0046】
熱重合開始剤としては、ラジカル重合による高分子合成反応に用いられる公知のラジカル重合開始剤を特に制限なく使用することができ、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビスプロピオニトリル等のアゾビスニトリル系化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過安息香酸t−ブチル、α−クミルヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、過酸類、アルキルパーオキシカルバメート類、ニトロソアリールアシルアミン類等の有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過塩素酸カリウム等の無機過酸化物;ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム、アゾビス置換アルカン類、ジアゾチオエーテル類、アリールアゾスルホン類等のアゾまたはジアゾ系化合物;ニトロソフェニル尿素、テトラメチルチウラムジスルフィド等のテトラアルキルチウラムジスルフィド類;ジベンゾイルジスルフィド等のジアリールジスルフィド類;ジアルキルキサントゲン酸ジスルフィド類、アリールスルフィン酸類、アリールアルキルスルホン類、1−アルカンスルフィン酸類等を挙げることができる。
【0047】
また、光重合開始剤としては、使用する光源の波長により、特許、文献等で公知である種々の光重合開始剤、または2種以上の光重合開始剤の併用系(光重合開始系)を適宜選択して使用することができる。
可視光線、Arレーザー、半導体レーザーの第2高調波、SHG−YAGレーザーを光源とする場合には、種々の光重合開始剤(系)が提案されており、例えば米国特許第2,850,445号明細書に記載のある種の光還元性染料、例えばローズべンガル、エオシン、エリスロシンなど、あるいは染料と開始剤との組み合わせによる系、例えば染料とアミンの複合開始系(特公昭44−20189号公報)、ヘキサアリールビイミダゾールとラジカル発生剤と染料との併用系(特公昭45−37377号公報)、ヘキサアリールビイミダゾールとp−ジアルキルアミノベンジリデンケトンの系(特公昭47−2528号公報、特開昭54−155292号公報)、環状シス−α−ジカルボニル化合物と染料の系(特開昭48−84183号公報)、環状トリアジンとメロシアニン色素の系(特開昭54−151024号公報)、3−ケトクマリンと活性剤の系(特開昭52−112681号公報、特開昭58−15503号公報)、ビイミダゾール、スチレン誘導体、チオールの系(特開昭59−140203号公報)、有機過酸化物と色素の系(特開昭59−1504号公報、特開昭59−140203号公報、特開昭59−189340号公報、特開昭62−174203号公報、特公昭62−1641号公報、米国特許第4766055号明細書)、染料と活性ハロゲン化合物の系(特開昭63−1718105号公報、特開昭63−258903号公報、特願平2−63054号公報など)、染料とボレート化合物の系(特開昭62−143044号公報、特開昭62−150242号公報、特開昭64−13140号公報、特開昭64−13141号公報、特開昭64−13142号公報、特開昭64−13143号公報、特開昭64−13144号公報、特開昭64−17048号公報、特開平1−229003号公報、特開平1−298348号公報、特開平1−138204号公報など)、ローダニン環を有する色素とラジカル発生剤の系(特開平2−179643号公報、特開平2−244050号公報)、チタノセンと3−ケトクマリン色素の系(特開昭63−221110号公報)、チタノセンとキサンテン色素さらにアミノ基あるいはウレタン基を含む付加重合可能なエチレン性不飽和化合物を組み合わせた系(特開平4−221958号公報、特開平4−219756号公報)、チタノセンと特定のメロシアニン色素の系(特開平6−295061号公報)、チタノセンとベンゾピラン環を有する色素の系(特開平8−334897号公報)等を挙げることができる。
上記重合開始剤は単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0048】
本発明に好適な重合開始剤の添加量としては、熱及び/又は光により反応可能な官能基を有する被覆樹脂100質量部に対し、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは0.2〜20質量部である。
【0049】
[分散剤]
本発明において好ましくは、色材と被覆樹脂とを含む混合物を分散媒中に分散するが、粒子直径を制御し、かつ粒子の沈降を抑制するために分散剤を使用することがさらに好ましい。
好適な分散剤としては、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステルや、ポリオキシエチレンジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステルに代表される界面活性剤が挙げられる。また、例えば、スチレンとマレイン酸のコポリマー、及びそのアミン変性物、スチレンと(メタ)アクリル化合物のコポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリエチレンと(メタ)アクリル化合物のコポリマー、ロジン、BYK−160、162、164、182(ビックケミー社製のポリウレタン系ポリマー)、EFKA−401、402(EFKA社製のアクリル系ポリマー)、ソルスパース17000,24000(ゼネカ社製のポリエステル系ポリマー)等が挙げられる。本発明においては、インク組成物の長期間保存安定性の観点から、質量平均分子量が1,000〜1,000,000の範囲内であり、かつ多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が、1.0〜7.0の範囲内であるポリマーが好ましい。さらに、グラフトポリマーまたはブロックポリマーを用いることが最も好ましい。
【0050】
本発明において特に好適に用いられるポリマーは、下記一般式(5)及び(6)で示される構成単位の少なくともいずれか一方からなる重合体成分と、下記一般式(7)で示される構成単位を少なくともグラフト鎖として含有する重合体成分とを少なくとも含有するグラフトポリマーである。
【0051】
【化6】

【0052】
式中、X51は、酸素原子または−N(R53)−を示す。R51は、水素原子またはメチル基を示し、R52は、炭素数1から10個の炭化水素基を示し、R53は、水素原子または炭素数1から10の炭化水素基を示す。R61は、水素原子、炭素数1から20の炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、または、炭素数1から20個のアルコキシ基を示す。X71は、酸素原子または−N(R73)−を示す。R71は、水素原子またはメチル基を示し、R72は、炭素数4から30個の炭化水素基を示し、R73は、水素原子または炭素数1から30の炭化水素基を示す。尚、R52、R72の炭化水素基中にエーテル結合、アミノ基、ヒドロキシ基、または、ハロゲン置換基を含んでいても良い。
【0053】
上記グラフトポリマーは、一般式(7)に対応するラジカル重合性モノマーを、好ましくは連鎖移動剤の存在下重合し、得られたポリマーの末端に重合性官能基を導入し、さらに、一般式(5)または(6)に対応するラジカル重合性モノマーと共重合することにより得ることができる。
【0054】
一般式(5)に対応するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルの(メタ)アクリル酸エステル類、及び、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0055】
一般式(6)に対応するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、4−メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン等が上げられる。
また、一般式(6)に対応するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、等が挙げられる。
これらのグラフトポリマーの具体例としては、下記の構造式で示されるポリマーが挙げられる。
【0056】
【化7】

【0057】
【化8】

【0058】
一般式(5)及び(6)で示される構成単位のいずれか1つを少なくとも含有する重合体成分と、一般式(7)で示される構成単位を少なくともグラフト鎖として含有する重合成分とを含有するグラフトポリマーは、一般式(5)及び/又は(6)、並びに一般式(7)で示される構成単位のみを有していてもよいし、他の構成成分を含有していても良い。グラフト鎖を含有する重合体成分と、その他の重合体成分との好ましい組成比(質量比)は、10:90〜90:10である。この範囲において、良好な粒子形成性が得られ、所望の粒子直径を得やすく、好ましい。これらのポリマーは、分散剤として単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0059】
インク組成物全体に対する分散剤の含有量は、0.01〜30質量%の範囲内であることが好ましい。この範囲内において、良好な粒子形成性が得られ、所望の粒子直径を得ることができる。
【0060】
[荷電調整剤]
本発明において、粒子の荷電量を制御するために荷電調整剤を使用するのが好ましい。
【0061】
本発明において使用する荷電調整剤としては、公知のものを使用することができる。例えばナフテン酸、オクテン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸の金属塩、スルホコハク酸エステルの金属塩、特公昭45−556号、特開昭52−37435号、特開昭52−37049号の各公報等に示されている油溶性スルホン酸金属塩、特公昭45−9594号公報に示されているリン酸エステル金属塩、特公昭48−2.5666号公報に示されているアビエチン酸もしくは水素添加アビエチン酸の金属塩、特公昭55−2620号公報に示されているアルキルベンゼンスルホン酸Ca塩類、特開昭52−107837号、同52−38937号、同57−90643号、同57−139753号の各公報に示されている芳香族カルボン酸あるいはスルホン酸の金属塩類、ポリオキシエチル化アルキルアミンのような非イオン性界面活性剤、レシチン、アマニ油等の油脂類、ポリビニルピロリドン、多価アルコールの有機酸エステル、特開昭57−210345号公報に示されているリン酸エステル系界面活性剤、特公昭56−24944号公報に示されているスルホン酸樹脂等を使用することができる。また特開昭60−21056号、同61−50951号の各公報に記載されたアミノ酸誘導体も使用することができる。また特開昭60−173558号、同60−179750号の各公報に記載されているマレイン酸ハーフアミド成分を含む共重合体等が挙げられる。さらに特開昭54−31739号、特公昭56−24944号の各公報等に示されている4級化アミンポリマーを挙げることができる。
【0062】
また、本発明においてはプロトン供与性基を有する荷電調整剤(プロトン供与性荷電発生剤)を用いることがより好ましい。プロトン供与性基としては、カルボキシル基、水酸基、ホスホノ基、スルホ基、チオール基、イミド基、スルホンアミド基等が挙げられる。 本発明においては酸基を有する化合物を荷電調整剤として用いることがより好ましく、具体的には、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、イミド基、スルホンアミド基、フェノール性水酸基などを挙げることができ、特に好ましい酸基としては、−COOH、−SO3H、−OSO3H、−PO32、−OPO32、−CONHSO2、−SO2NHSO2等が挙げられる。
【0063】
荷電調整剤は、分散媒に可溶であれば、低分子化合物であってもよく、高分子化合物であってもよい。高分子化合物に酸基を導入する方法としては、合成の容易性の観点から、酸基を有するモノマーを公知の(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類などの他の重合性モノマーと共重合させることが好ましいが、これに限定されない。
【0064】
酸基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、無水マレイン酸、マレイン酸イミド、3−スルホプロピルアクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、4−スチレンスルホン酸、アシッドホスホキシエチルメタクリレート、3−クロロ−2−アシッドホスホキシプロピルメタクリレート、アシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明においては、上記荷電調整剤を2種以上適宜併用してもよい。この場合、酸基を有する荷電調整剤の使用量が、荷電調整剤の全体量に対し、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%、さらに好ましくは80質量%である。
【0065】
また、インク粒子に付与される荷電は、正荷電であっても負荷電であってもよい。インク組成物全体に対する荷電調整剤の含有量は、0.0001〜10質量%の範囲内であることが好ましい。なお、本発明のインク組成物の電気伝導度は、10nS/m〜300nS/m、荷電粒子の電気伝導度は、インク組成物の電気伝導度の50%以上であるのが好ましい。これらの条件は、荷電調整剤の含有量の増減によって、容易に調整できる。
【0066】
[その他の成分]
本発明においては、さらに、腐敗防止のために防腐剤や、表面張力を制御するための界面活性剤等を目的に応じて含有することができる。
【0067】
[インク組成物の物性値]
以上のようにして作成したインク組成物を、インクジェット記録方式により、被記録媒体へ記録するが、本発明においては、長時間のインクジェット記録において常に安定してインク滴を吐出するため、下記条件(A)〜(D)のすべてを満足するインク組成物を使用することが好ましい。
(A)インク組成物の20℃での電気伝導度が、10nS/m〜300nS/mの範囲内である。
(B)荷電粒子の電気伝導度が、インク組成物の電気伝導度の50%以上である。
(C)荷電粒子の平均体積直径が、0.2〜5.0μmの範囲内である。
(D)インク組成物の20℃での粘度が、0.5〜5mPa・sの範囲内である。
【0068】
インク組成物の20℃での電気伝導度は、10nS/m〜300nS/mの範囲内であることが好ましい。インク組成物の電気伝導度が10nS/m以上の場合に、インク滴の吐出が良好であり、300nS/m以下の場合に、インクジェット装置のヘッド(吐出部)において導通し、ヘッドの損傷が生じない。さらに好ましくは、30nS/m〜200nS/mである。
粒子の電気伝導度は、インク組成物を遠心沈降し、粒子を沈降させた上澄み液の電気伝導度を測定し、インク組成物の電気伝導度から差し引いた値である。
本発明では、粒子の電気伝導度が、インク組成物の電気伝導度の50%以上であることが好ましい。静電界を利用したインクジェット記録方式では、インク滴が吐出する際、荷電粒子の濃縮が起こるが、50%以上の場合には、この濃縮が生じず、結果として、被記録媒体に記録された際インクのにじみも生じない。さらに好ましくは60%以上である。
また、粒子の荷電量は、5〜200μC/gの範囲が好ましい。荷電量が5μC/g以上の場合に、濃縮が十分であり、また200μC/g以下の場合に、過度に濃縮されることもなく、ヘッド吐出口でのインクの詰まりが防止できる。より好ましくは10〜150μC/g、更に好ましくは15〜100μC/gの範囲である。
【0069】
粒子の平均体積直径は、例えば、超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−700(堀場製作所(株)製)等の装置を用い、遠心沈降法により測定できる。荷電粒子の平均体積直径が、0.2〜5.0μmの範囲内であることが好ましい。0.2μm以上の場合、粒子の濃縮が充分となり、結果として、非記録媒体に記録された際インクのにじみが防止できる。また、5.0μm以下の場合に、ヘッド吐出口の詰まりの問題が生じない。さらに好ましくは、0.3〜3.0μmである。粒度分布は、狭く均一なほうが好ましい。
【0070】
本発明では、インク組成物の粘度が、0.5〜5mPa・sの範囲内であることが好ましい。粘度が0.5mPa・s以上の場合には、ヘッドのインク吐出口からインク組成物が液だれしてしまうという問題が生じず、また、5mPa・s以下の場合に、インク滴の吐出が良好である。さらに好ましくは、0.8〜4mPa・sの範囲内である。
また、インク組成物の表面張力は、10〜70mN/mの範囲内であることが好ましい。表面張力が10mN/m以上の場合に、ヘッドのインク吐出口からインク組成物が液だれしてしまうという問題が生じず、また、70mN/m以下の場合に、インク滴の吐出が良好である。さらに好ましくは、15〜50mN/mの範囲である。
【0071】
[インクジェット記録装置]
本発明では、以上記述したインク組成物を、例えばインクジェット記録方式により、被記録媒体へ記録する。本発明においては、静電界を利用したインクジェット記録方式を用いることが好ましい。静電界を利用するインクジェット記録方式は、制御電極と被記録媒体背面の背面電極間に電圧を印加することにより、インク組成物の荷電粒子を静電力によって吐出位置に濃縮し、吐出位置から被記録媒体へ飛翔させる方式である。制御電極と背面電極間に印加する電圧は、例えば荷電粒子が正の場合、制御電極が正極であり背面電極が負極となる。背面電極へ電圧を印加する代わりに被記録媒体に帯電を行っても同様の効果が得られる。
【0072】
インクを飛翔させる方式として、例えば、注射針のようなニードル状の先端からインクを飛翔させる方式があり、本発明のインク組成物を用いて記録することができる。ただし、荷電粒子を濃縮・吐出した後の荷電粒子の補給が難しく安定に長期間の記録を行うことが難しい。荷電粒子を強制的に供給するため、インクを循環させる場合には、注射針先端からインクを溢れさせる方法になるため、吐出位置である注射針先端のメニスカス形状が安定せず、安定な記録を行うことが困難であり、短期間の記録に適している。
【0073】
一方、吐出開口部からインク組成物を溢れさせることなく、インク組成物を循環させる
方法が好ましく用いられる。例えば、吐出開口を有するインク室内にインクが循環されており、吐出開口周縁に形成された制御電極に電圧を印加することによって、吐出開口中に存在しており先端が被記録媒体側に向いたインクガイドの先端から、濃縮されたインク滴が飛翔する方法では、インクの循環による荷電粒子の補給と、吐出位置のメニスカス安定性を両立することができるため、長期間安定に記録を行うことができる。さらに本方式ではインクが外気と接する部分が吐出開口部だけと非常に少ないため、溶媒の蒸発を抑え、インク物性が安定化するため、本発明において好適に使用することができる。
【0074】
本発明のインク組成物を適用するに適したインクジェット記録装置の構成例を以下に示す。
まずは、図1に示す被記録媒体に片面4色印刷を行う装置の概要について説明する。図1に示されるインクジェット記録装置1は、フルカラー画像形成を行うための4色分の吐出ヘッド2C、2M、2Y及び2Kから構成される吐出ヘッド2にインクを供給し、さらに吐出ヘッド2からインクを回収するインク循環系3、図示されないコンピュータ、RIP等の外部機器からの出力により吐出ヘッド2を駆動させるヘッドドライバ4、位置制御手段5を備える。またインクジェット記録装置1は、3つのローラ6A、6B、6Cに張架された搬送ベルト7、搬送ベルト7の幅方向の位置を検知可能な光学センサなどで構成された搬送ベルト位置検知手段8、被記録媒体Pを搬送ベルト上に保持するための静電吸着手段9、画像形成終了後に被記録媒体Pを搬送ベルト7から剥離するための除電手段10及び力学的手段11を備える。搬送ベルト7の上流、下流には、被記録媒体Pを図示されないストッカーから搬送ベルト7に供給するフィードローラ12及びガイド13、剥離後の被記録媒体Pへインクを定着させると共に図示されない排紙ストッカーに搬送する定着手段14及びガイド15が配置されている。またインクジェット印刷装置1の内部には、搬送ベルト7を挟んで吐出ヘッド2に対向する位置には、被記録媒体位置検出手段16を有し、さらにインク組成物から発生する溶媒蒸気を回収するための排出ファン17及び溶媒蒸気吸着材18からなる溶媒回収部が配置され、装置内部の蒸気は該回収部を通って装置外部に排出される。
【0075】
フィードローラ12は公知のローラが使用でき、被記録媒体に対するフィード能力が高まるように配置される。また被記録媒体P上には垢・紙粉等が付着していることがあるため、それらの除去を行うことが望ましい。フィードローラによって供給された被記録媒体Pは、ガイド13を経て、搬送ベルト7に搬送される。搬送ベルト7の裏面(好ましくは金属裏面)はローラ6Aを介して設置されている。搬送された被記録媒体は、静電吸着手段9により搬送ベルト上に静電吸着される。図1では、負の高圧電源に接続されたスコロトロン帯電器により静電吸着がなされる。静電吸着手段9により、被記録媒体Pが搬送ベルト7上に浮き無く静電吸着されると共に、被記録媒体表面を均一帯電する。ここでは静電吸着手段を被記録媒体の帯電手段としても利用しているが、別途設けてもよい。帯電された被記録媒体Pは、搬送ベルト7によって吐出ヘッド部まで搬送され、帯電電位をバイアスとして記録信号電圧を重畳することにより静電インクジェット画像形成がなされる。 画像形成された被記録媒体Pは、除電手段10により除電され、力学的手段11により搬送ベルト7により剥離されて定着部へ搬送される。剥離された被記録媒体Pは、画像定着手段14に送られ、定着がなされる。定着された被記録媒体Pは、ガイド15を通って図示されない排紙ストッカーに排紙される。また、該装置は、インク組成物から発生する溶媒蒸気の回収手段を有する。回収手段は溶媒蒸気吸収材18からなり、排気ファン17により機内の溶媒蒸気を含む気体が吸着材に導入され、蒸気が吸着回収された後、機外に排気される。該装置は、上記例に限定されず、ローラ、帯電器等の構成デバイスの数、形状、相対配置、帯電極性等は任意に選べる。また上記システムでは4色描画について記述しているが、淡色インクや特色インクと組み合わせて、より多色のシステムとしてもよい。
【0076】
上記インクジェット印刷方法に使用されるインクジェット記録装置は、吐出ヘッド2、インク循環系3からなり、インク循環系3は、さらにインクタンク、インク循環装置、インク濃度制御装置、インク温度管理装置等を有し、インクタンク内には撹拌装置を含んでいてもよい。
【0077】
吐出ヘッド2としては、シングルチャンネルヘッド、マルチチャンネルヘッド、又はフルラインヘッドを使うことができ、搬送ベルト7の回転により主走査を行う。
本発明で好適に使用されるインクジェットヘッドは、インク流路内での荷電粒子を電気泳動させて開口付近のインク濃度を増加させ、吐出を行うインクジェット方法であり、主に被記録媒体又は被記録媒体背面に配置された対向電極に起因する静電吸引力によりインク滴の吐出を行うものである。従って、被記録媒体又は対向電極がヘッドに対向していない場合や、ヘッドと対向する位置にあっても被記録媒体又は対向電極に電圧が印加されていない場合には、誤って吐出電極に電圧が印加された場合や振動が与えられた場合でもインク滴の吐出は起こらず、装置内を汚すことはない。
【0078】
上記インクジェット装置に好適に使用される吐出ヘッドを図2及び図3に示す。図2及び図3に示すように、インクジェットヘッド70は、一方向のインク流Qが形成されるインク流路72の上壁を構成する電気絶縁性の基板74と、インクを被記録媒体Pへ向けて吐出する複数の吐出部76とを有する。吐出部76には、いずれもインク流路72から飛翔するインク滴Gを被記録媒体Pへ向けて案内するインクガイド部78が設けられ、基板74には、インクガイド部78がそれぞれ挿通する開口75が形成されており、インクガイド部78と開口75の内壁面との間にはインクメニスカス42が形成されている。インクガイド部78と被記録媒体Pとのギャップdは200μm〜1000μm程度であることが好ましい。また、インクガイド部78は、下端側で支持棒部40に固定されている。
【0079】
基板74は、2つの吐出電極を所定間隔で離して電気的に絶縁している絶縁層44と、絶縁層44の上側に形成された第1吐出電極46と、第1吐出電極46を覆う絶縁層48と、絶縁層48の上側に形成されたガード電極50と、ガード電極50を覆う絶縁層52とを有する。また、基板74は、絶縁層44の下側に形成された第2吐出電極56と、第2吐出電極56を覆う絶縁層58とを有する。ガード電極50は、第1吐出電極46や第2吐出電極56に印加された電圧によって隣接する吐出部に電界上の影響が生じることを防止するために設けられる。
【0080】
更に、インクジェットヘッド70には、インク流路72の底面を構成すると共に、第1吐出電極46及び第2吐出電極56に印加されたパルス状の吐出電圧によって定常的に生じる誘導電圧により、インク流路72内の正に帯電したインク粒子(荷電粒子)Rを上方へ向けて(すなわち被記録媒体側に向けて)泳動させる浮遊導電板62が電気的浮遊状態で設けられている。また、浮遊導電板62の表面には、電気絶縁性である被覆膜64が形成されており、インクへの電荷注入等によりインクの物性や成分が不安定化することを防止する。絶縁性被覆膜の電気抵抗は、1012Ω・cm以上が好ましく、より望ましくは1013Ω・cm以上である。また、絶縁性被覆膜はインクに対して耐腐食性であることが望ましく、これにより、浮遊導電板62がインクに腐食されることが防止される。また、浮遊導電板62は下方から絶縁部材66で覆われており、このような構成により、浮遊導電板62は完全に電気的絶縁状態にされている。
【0081】
浮遊導電板62は、ヘッド1ユニットにつき1個以上である(例えば、C、M、Y、Kの4つのヘッドがあった場合、浮遊導電板数は最低各1個ずつ有し、CとMのヘッドユニット間で共通の浮遊導電板とすることはない)。
【0082】
図3に示すように、インクジェットヘッド70からインクを飛翔させて被記録媒体Pに記録するには、インク流路72内のインクを循環させることによりインク流Qを発生させ
た状態にし、ガード電極50に所定の電圧(例えば+100V)を印加する。更に、インクガイド部78に案内されて開口75から飛翔したインク滴G中の正の荷電粒子Rが被記録媒体Pにまで引きつけられるような飛翔電界が、第1吐出電極46及び第2吐出電極56と、被記録媒体Pとの間に形成されるように、第1吐出電極46、第2吐出電極56及び被記録媒体Pに正電圧を印加する(ギャップdが500μmである場合に、1kV〜3.0kV程度の電位差を形成することを目安とする)。
【0083】
この状態で、画像信号に応じて第1吐出電極46及び第2吐出電極56にパルス電圧を印加すると、荷電粒子濃度が高められたインク滴Gが開口75から吐出する(例えば、初期の荷電粒子濃度が3〜15%である場合、インク滴Gの荷電粒子濃度が30%以上になる)。
その際、第1吐出電極46と第2吐出電極56の両者にパルス電圧が印加された場合にのみインク滴Gが吐出するように、第1吐出電極46と第2吐出電極56とに印加する電圧値を調整しておく。
【0084】
このように、パルス状の正電圧を印加すると、開口75からインク滴Gがインクガイド部78に案内されて飛翔し、被記録媒体Pに付着すると共に、浮遊導電板62には、第1吐出電極46及び第2吐出電極56に印加された正電圧により正の誘導電圧が発生する。 第1吐出電極46及び第2吐出電極56に印加される電圧がパルス状であっても、この誘導電圧はほぼ定常的な電圧である。従って、浮遊導電板62及びガード電極50と、被記録媒体Pとの間に形成される電界によって、インク流路72内で正に帯電している荷電粒子Rは上方へ移動する力を受け、基板74の近傍で荷電粒子Rの濃度が高くなる。図3に示すように、使用する吐出部(すなわちインク滴を吐出させるチャンネル)の個数が多い場合、吐出に必要な荷電粒子数が多くなるが、使用する第1吐出電極46及び第2吐出電極56の枚数が多くなるため、浮遊導電板62に誘起される誘導電圧は高くなり、被記録媒体側へ移動する荷電粒子Rの個数も増大する。
【0085】
上記では、着色粒子が正荷電に帯電している例について説明したが、着色粒子は負荷電に帯電されていてもよい。その場合には、上記の帯電極性は、すべて逆極性となる。
【0086】
なお、本発明においては、被記録媒体へのインク吐出後、適切な加熱手段によりインクを定着することが好ましい。用いられる加熱手段としては、ヒートローラー、ヒートブロック、ベルト加熱等の接触式加熱装置、及びドライヤー、赤外線ランプ、可視光線ランプ、紫外線ランプ、温風式オーブン等の非接触式加熱装置を用いることができる。これらの加熱装置は、インクジェット記録装置と連続し、一体となっていることが好ましい。定着時の被記録媒体の温度は、定着の容易さから、40℃〜200℃の範囲内であることが好ましい。また、定着の時間は、1マイクロ秒〜20秒の範囲内であることが好ましい。
【0087】
[インク組成物の補充]
静電界を利用したインクジェット記録方式では、インク組成物中の荷電粒子が濃縮されて吐出する。従って、長時間インク組成物の吐出を行うと、インク組成物中の荷電粒子が減量し、インク組成物の電気伝導度が低下する。また、荷電粒子の電気伝導度とインク組成物の電気伝導度との割合が変化する。さらに、吐出の際、直径の小さな荷電粒子よりも大きな荷電粒子が優先して吐出する傾向にあるため、荷電粒子の平均体積直径が小さくなる。また、インク組成物中の固形物の含有量が変化するため、粘度も変化する。
これらの物性値の変化により、結果として、吐出不良を起こしたり、記録された画像の光学濃度の低下やインクのにじみが発生する。このため、当初インクタンクへ仕込んだインク組成物よりも、高濃度(固形分濃度の高い)のインク組成物を補充することにより、荷電粒子の減量を防止し、インク組成物の電気伝導度や、荷電粒子の電気伝導度とインク組成物の電気伝導度の割合を一定の範囲に留めることができる。また、平均体積直径や粘
度を維持することができる。さらに、インク組成物の物性値を一定の範囲内に保つことにより、インク吐出が長時間安定して均一に行われる。この際の補充は、例えば、使用しているインク液の電気伝導度や光学濃度等の物性値を検出し、不足量を算出して、機械的または人力で成されることが好ましい。また、画像データを基に使用するインク組成物の量を算出し、機械的または人力で成されてもよい。
【0088】
[被記録媒体]
本発明においては、用途に応じて様々な被記録媒体を用いることができる。例えば、紙、プラスチックフイルム、金属、及び、プラスチックまたは金属がラミネートまたは蒸着された紙、金属がラミネートまたは蒸着されたプラスチックフィルム等を用いれば、例えばインクジェット記録することにより、直接印刷物を得ることができる。また、アルミなどの金属を粗面化した支持体等を用いれば、オフセット印刷版を得ることができる。さらに、プラスチック支持体等を用いれば、フレキソ印刷版や液晶画面用のカラーフィルターを得ることができる。被記録媒体の形状は、シート状のように平面的であっても、円筒形状のように立体的であってもよい。また、シリコンウエハーや配線基板を被記録媒体として用いれば、半導体やプリント配線基板の製造に適用できる。
【0089】
以上記述した、インク組成物、インクジェット記録装置、インク組成物の補充を組み合わせることにより、インクにじみがなく、かつ画像濃度の高い高画質の画像記録物を、長時間に渡って安定して得ることができる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
[実施例1]
<使用した材料>
本実施例1においては、下記の材料を使用した。
・シアン顔料(色材) フタロシアニン顔料 C.I.Pigment Blue(15:3)(東洋インキ製造(株)製、LIONOL BLUE FG−7350)
・被覆樹脂 [下記参照]
・分散剤 [BZ−2]
・荷電調整剤 [CT−1](下記参照)、[CT−2]金属石鹸ナフテン酸ジルコニル塩
・分散媒 アイソパーG(エクソン社(株)製)
【0092】
分散剤[BZ−2]、荷電調整剤[CT−1]の構造を以下に示す。
【0093】
【化9】

【0094】
被覆樹脂の合成
[被覆樹脂AP−1の合成]
1-メトキシ2-プロパノール(MFG)46.6gを入れた500ml三口フラスコに、メチルメタクリレート35g(0.350mol)、 メタクリル酸ブチル45g(0.316mol)、メタクリル酸ステアリル5g(0.0148mol)、ジメチルアミノエチルメタクリレート5g(0.032mol)、アリルメタクリレート10g(0.079mol)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(V-601)3.65g(15.8mmol)、MFG 186.4gの混合溶媒を窒素雰囲気下、80℃で2.5時間かけて滴下し、さらに2.5時間反応後、90℃に昇温し2時間反応した。この反応溶液を室温まで冷却し、水で再沈、真空乾燥してポリマー(AP-1)を95g得た。質量平均分子量は、30000であり、多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、2.3であった。
【0095】
【化10】

【0096】
[被覆樹脂AP−2の合成]
1-メトキシ2-プロパノール(MFG)46.6gを入れた500ml三口フラスコに、ベンジルメタクリレート80g(0.454mol)、メタクリル酸ステアリル5g(0.015mol)、ビニルピリジン5g(0.048mol)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート10g(0.077mol)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(V-601)2.73g(11.9mmol)、MFG 186.4gの混合溶媒を窒素雰囲気下、80℃で2.5時間かけて滴下し、さらに2.5時間反応後、90℃に昇温し2時間反応した。この反応溶液を室温まで冷却し、2-イソシアナトエチルメタクリレート15.5g(0.100mol)、ジブチルチンジラウレート10mg、ハイドロキノン50mgを添加し60℃で6時間反応した。この反応液を水で再沈、真空乾燥してポリマー(AP-2)を99g得た。質量平均分子量は、35000であり、多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、2.2であった。
【0097】
【化11】

【0098】
[被覆樹脂AP−3の合成]
1-メトキシ2-プロパノール(MFG)46.6gを入れた500ml三口フラスコに、メチルメタクリレート45g(0.445mol)、 2−フェノキシエチルメタクリリレート25g(0.121mol)、メタクリル酸ドデシル5g(0.0197mol)、ジメチルアミノエチルメタクリレート5g(0.032mol)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート20g(0.154mol)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(V-601)3.55g(15.4mmol)、MFG 186.4gの混合溶媒を窒素雰囲気下、80℃で2.5時間かけて滴下し、さらに2.5時間反応後、90℃に昇温し2時間反応した。この反応溶液を室温まで冷却し、2-イソシアナトエチルメタクリレート30.99g(0.200mol)、ジブチルチンジラウレート10mg、ハイドロキノン50mgを添加し60℃で6時間反応した。この反応液を水で再沈、真空乾燥してポリマー(AP-3)を106g得た。質量平均分子量は、29000であり、多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、2.5であった。
【0099】
【化12】

【0100】
[被覆樹脂AP−4の合成]
1-メトキシ2-プロパノール(MFG)46.6gを入れた500ml三口フラスコに、メチルメタクリレート40g(0.400mol)、 メタクリル酸ブチル45g(0.316mol)、モノマー(M-1)5g(0.023mol)、グリシジルメタクリレート10g(0.070mol)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(V-601)3.73g(16.2mmol)、MFG 186.4gの混合溶媒を窒素雰囲気下、80℃で2.5時間かけて滴下し、さらに2.5時間反応後、90℃に昇温し2時間反応した。この反応溶液を室温まで冷却し、メタクリル酸7.87g(0.091mol)を添加し、120℃で5時間反応した。この反応液を水で再沈、真空乾燥してポリマー(AP-4)を102g得た。質量平均分子量は、28000であり、多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、2.1であった。
【0101】
【化13】

【0102】
[被覆樹脂AP−5の合成]
1-メトキシ2-プロパノール(MFG)46.6gを入れた500ml三口フラスコに、メチルメタクリレート30g(0.300mol)、 メタクリル酸ブチル40g(0.281mol)、モノマー(M-2)15g(0.050mol)、アリルメタクリレート15g(0.119mol)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(V-601)3.45g(15.0mmol)、MFG 186.4gの混合溶媒を窒素雰囲気下、80℃で2.5時間かけて滴下し、さらに2.5時間反応後、90℃に昇温し2時間反応した。この反応溶液を室温まで冷却し、水で再沈、真空乾燥してポリマー(AP-5)を92g得た。質量平均分子量は、35000であり、多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、2.3であった。
【0103】
【化14】

【0104】
<インク組成物[EC−1]の作成>
シアン顔料10g、被覆樹脂[AP−1]20g、重合開始剤ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)0.2gを入江商会(株)製卓上型ニーダーPBV−0.1に入れ、ヒータ温度を100℃に設定し2時間加熱混合した。得られた混合物30gをトリオサイエンス(株)製トリオブレンダーにて粗粉砕し、さらに協立理工(株)製SK−M
10型サンプルミルにて微粉砕した。得られた微粉砕物30gを、分散剤[BZ−2]7.5g、アイソパーG75g、直径約3.0mmのガラスビーズと共に、東洋精機製作所(株)製ペイントシェーカーにて予備分散した。ガラスビーズを除去した後、直径約0.6mmのジルコニアセラミックビーズと共に、シンマルエンタープライゼズ(株)製TypeKDLダイノミルにて、内温を25℃に保ちながら5時間、引き続き45℃で5時間、2,000rpmの回転数で分散(粒子化)した。得られた分散液からジルコニアセラミックビーズを除去し、アイソパーG316g、荷電調整剤[CT−1]0.6gを加え、インク組成物[EC−1]を得た。
【0105】
[実施例2〜5]
使用素材として、被覆樹脂[AP-1]を[AP-2]〜[AP-5]に変えた以外は、まったく同素材にて、同様な方法にてインク[EC−2〜5]を作成した。
【0106】
[実施例6]
使用素材として、被覆樹脂[AP-1]、荷電調整剤[CT-2]を使用した以外は全く同素材にて、同様な方法にてインク[EC−6]を作成した。
【0107】
[実施例7]
使用素材として、被覆樹脂[AP-3]、荷電調整剤[CT-2]を使用した以外は全く同素材にて、同様な方法にてインク[EC−7]を作成した。
【0108】
[比較例1]
実施例1の被覆樹脂[AP-1]を比較ポリマーポリメチルメタクリレート((Mw15000)アルドリッチ製) [BP-1]に変えた以外は実施例1と同様にして、インク組成物[RC−1]を作成した。
【0109】
[比較例2]
実施例1の被覆樹脂[AP-1]を比較ポリマーメチルメタクリレート/ブチルメタクリレート/ステアリルメタクリレート(45/45/10質量%)共重合体 [BP-2]に変えた以外は実施例1と同様にして、インク組成物[RC−2]を作成した。
【0110】
<インクジェット記録/画像評価>
図1〜3に示すインクジェット記録装置に、実施例1のインク組成物[EC−1]をインクタンクに充填した。ここでは吐出ヘッドとして図2に示すタイプの150dpi(チャンネル密度50dpiの3列千鳥配置)、833チャンネルヘッドを使用し、また定着手段として1kWのヒータを内蔵したシリコンゴム性ヒートローラを使用した。インク温度管理手段として投げ込みヒータと攪拌羽をインクタンク内に設け、インク温度は30℃に設定し、攪拌羽を30rpmで回転しながらサーモスタットで温度コントロールした。ここで攪拌羽は沈澱・凝集防止用の攪拌手段としても使用した。またインク流路を一部透明とし、それを挟んでLED発光素子と光検知素子を配置し、その出力シグナルによりインクの希釈液(アイソパーG)あるいは濃縮インク(上記インク組成物の固形分濃度を2倍に調整したもの)投入による濃度管理を行った。被記録媒体としてオフセット印刷用微コート紙を使用した。エアーポンプ吸引により被記録媒体表面の埃除去を行った後、吐出ヘッドを画像形成位置まで被記録媒体に近づけ、記録すべき画像データを画像データ演算制御部に伝送し、搬送ベルトの回転により被記録媒体を搬送させながら吐出ヘッドを逐次移動しながらインク組成物を吐出して2400dpiの描画解像力で画像を形成した。搬送ベルトとして、金属ベルトとポリイミドフィルムを張り合わせたものを使用し、このベルトの片端付近に搬送方向に沿ってライン状のマーカーを配置し、これを搬送ベルト位置検知手段で光学的に読みとり、位置制御手段を駆動して画像形成を行った。この際、光学的ギャップ検出装置による出力により吐出ヘッドと記録媒体の距離は0.5mmに保った。また吐出の際には被記録媒体の表面電位を−1.5kVとしておき、吐出をおこなう際には+500Vのパルス電圧を印加し(パルス巾50μsec)、15kHzの駆動周波数で画像形成を行った。
【0111】
得られたグレースケール画像記録物(印刷物)について、筋ムラ、インクのにじみの程度を評価した。具体的には、描画画像の滲みの程度を目視評価し、◎を滲みなし、△を若干滲み発生、×を滲み発生とした。
【0112】
<荷電評価>
インク粒子の荷電量は、LCRメーター及び液体用電極(川口電機製作所(株)社製LP−05型)を使用し、印加電圧5V、周波数1kHzの条件で測定した比電導度より求め、インク粒子の荷電量は、インク組成物の全体の比電導度から、インク組成物を遠心分離器にかけた上澄みの比電導度を差し引いて求めた。また遠心分離は、小型高速冷却遠心機(トミー精工(株)社製SRX−201)を使用し、回転速度14500rpm、温度23℃の条件で30分間行ったものである。
【0113】
インク粒子の荷電発生効率は下式より求めた。
インク粒子の荷電発生効率(%)=(インク粒子の荷電量Q1/インク組成物の荷電量Q2)×100
【0114】
また、得られたインク組成物[EC−1]について、粒子の平均体積直径を、超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−700(堀場製作所(株)製)により、遠心沈降法により測定し、0.2μm以下の粒子割合も求めた。
前記のインク組成物[EC−1]の評価を、実施例2〜7および比較例1〜2についても同様に行った。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
本発明のインク組成物を用いることにより、色材が被覆樹脂内に均一に固定され、分散工程時に色材が脱落せず、0.2μm以下の微小粒子がほとんど生成されていない。したがって、荷電を安定的に高く保持することができ、良好な画像を形成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明に用いるインクジェット印刷装置の一例を模式的に示す全体構成図である。
【図2】本発明のインクジェット記録装置のインクジェットヘッドの構成を示す斜視図である(判りやすくするために、各吐出部でのガード電極のエッジは描いていない)。
【図3】図2に示す、インクジェットヘッドの吐出部の使用数が多いときの荷電粒子の分布状態を示す側面断面図である(図2の矢視X−Xに相当)。
【符号の説明】
【0118】
G 飛翔したインク滴
P 被記録媒体
Q インク流
R 荷電粒子
1 インクジェット記録装置
2、2Y、2M、2C、2K 吐出ヘッド
3 インク循環系
4 ヘッドドライバ
5 位置制御手段
6A、6B、6C 搬送ベルト張架ローラ
7 搬送ベルト
8 搬送ベルト位置検知手段
9 静電吸着手段
10 除電手段
11 力学的手段
12 フィードローラ
13 ガイド
14 画像定着手段
15 ガイド
16 被記録媒体位置検知手段
17 排出ファン
18 溶媒蒸気吸着材
38 インクガイド
40 支持棒部
42 インクメニスカス
44 絶縁層
46 第1吐出電極
48 絶縁層
50 ガード電極
52 絶縁層
56 第2吐出電極
58 絶縁層
62 浮遊導電板
64 被覆膜
66 絶縁部材
70 インクジェットヘッド
72 インク流路
74 基板
75、75A、75B 開口
76、76A、76B 吐出部
78 吐出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材、及び、熱及び/又は光により反応可能な官能基を有する樹脂を混合し、熱及び/または光を照射し当該樹脂を架橋し、得た混合物を分散媒に分散して、架橋した樹脂で被覆された色材粒子が分散したインク組成物を製造する方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法により製造したインク組成物。
【請求項3】
当該架橋した樹脂で被覆された色材粒子が、荷電粒子であることを特徴とする請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
静電界を利用したインクジェット記録方式でインク組成物をインク滴として飛翔させるインクジェット記録方法において、前記インク組成物が、請求項2または3に記載のインク組成物であることを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−206724(P2006−206724A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19944(P2005−19944)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】