説明

インク組成物及びインクジェット記録方法

【課題】耐擦性に優れ、かつ濃淡ムラが低減された画像が得られると共に、保存安定性に優れ、かつノズルの目詰まりを低減できるインク組成物、及びそれを用いたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るインク組成物は、色材と、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類と、1気圧下での沸点が180〜230℃の範囲内である側鎖を有するアルキルポリオール類と、を含んでなり、1気圧下での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を実質的に含まないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物及びこれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録用ヘッドのノズルから吐出させた微小なインク滴によって画像や文字を記録するいわゆるインクジェット記録方法は、主に紙等のインク吸水性の被記録媒体表面への記録に利用されてきた。このようなインクジェット記録方法に用いられるインク組成物としては、各種の染料及び/又は顔料等の色材を高沸点有機溶剤及び水の混合物に溶解ないし分散させたものが広く利用されている。かかる高沸点有機溶剤は、低揮発性及び保水能力に優れていることから、インクジェット記録用ヘッドのノズルの乾燥防止に寄与している。
【0003】
一方、紙等の吸水性の被記録媒体だけではなく、印刷本紙、合成紙、フィルム等のインク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体に対してもインクジェット記録方法により記録可能なインク組成物が要求されている。このような要求に対して、インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体に記録可能なインク組成物が幾つか提案されている(たとえば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−217671号公報
【特許文献2】特開2008−101192号公報
【特許文献3】特開2009−67909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来提案されているインク組成物は、高沸点有機溶剤を含有するため、インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体上に記録した際に、どうしてもインクの乾燥が遅くなる傾向があった。その結果、記録された画像や文字の耐擦性が低下したり、特にベタ部等のインク量の多い部分においては濃淡ムラが発生しやすい傾向があった。
【0006】
その一方で、高沸点有機溶剤を含有しないインク組成物では、インクジェット記録用ヘッドのノズルの乾燥を防止することができずノズルの目詰まりが生じやすくなると共に、インクの保存安定性も低下する傾向があった。
【0007】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、前記課題を解決することで、種々の被記録媒体、特にインク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体上に記録した際に、耐擦性に優れ、かつ濃淡ムラが低減された画像が得られると共に、保存安定性に優れ、かつノズルの目詰まりを低減できるインク組成物、及びそれを用いたインクジェット記録方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]
本発明に係るインク組成物の一態様は、
色材と、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類と、1気圧下での沸点が180〜230℃の範囲内である側鎖を有するアルキルポリオール類と、を含んでなり、
1気圧下での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を実質的に含まないことを特徴とする。
【0010】
適用例1のインク組成物によれば、前記グリコールエーテル類と前記アルキルポリオール類とを併用することで、種々の被記録媒体、特にインク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体上に記録した際に、耐擦性に優れ、かつ濃淡ムラが低減された画像が得られると共に、保存安定性に優れ、かつノズルの目詰まりを低減できる。
【0011】
[適用例2]
適用例1のインク組成物において、前記側鎖を有するアルキルポリオール類がアルキルジオール類であることができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1又は適用例2のインク組成物において、前記側鎖を有するアルキルポリオール類の含有量が5質量%以上20質量%以下であることができる。
【0013】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例のインク組成物において、前記グリコールエーテル類中のアルキル基が分岐構造を有することができる。
【0014】
[適用例5]
適用例4のインク組成物において、前記アルキル基が2−エチルヘキシル基であることができる。
【0015】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれか一例のインク組成物において、前記グリコールエーテル類の含有量が0.05質量%以上6質量%以下であることができる。
【0016】
[適用例7]
適用例1ないし適用例6のいずれか一例のインク組成物において、さらに炭素数が4〜8の範囲内である側鎖を有しない1,2−アルキルジオール類を含むことができる。
【0017】
[適用例8]
適用例1ないし適用例7のいずれか一例のインク組成物において、さらにピロリドン誘導体を含むことができる。
【0018】
[適用例9]
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
被記録媒体上に適用例1ないし適用例8のいずれか一例のインク組成物の液滴を吐出して画像を形成する第1工程と、
前記第1工程時又は前記第1工程後において前記被記録媒体を加熱して前記被記録媒体上の前記インク組成物を乾燥させる第2工程と、
を含むことを特徴とする。
【0019】
適用例9のインクジェット記録方法によれば、被記録媒体を加熱することによって乾燥させる第2工程をさらに設けることにより、該被記録媒体表面に形成された画像の濃淡ムラをより低減でき、該画像を被記録媒体上により強固に定着させて耐擦性を向上できる。
【0020】
[適用例10]
適用例9のインクジェット記録方法において、
前記被記録媒体が、インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体であることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0022】
1.インク組成物
本発明の一実施形態に係るインク組成物は、色材と、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類と、1気圧下での沸点が180〜230℃の範囲内である側鎖を有するアルキルポリオール類と、を含んでなり、1気圧下での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を実質的に含まないことを特徴とする。
【0023】
本実施の形態に係るインク組成物は、1気圧下での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を実質的に含まない。1気圧下での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を含むことで、インク組成物の乾燥性が大幅に低下してしまう。その結果、種々の被記録媒体、特にインク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体において、画像の濃淡ムラが目立つだけではなく、画像の定着性も得られないからである。1気圧下での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類としては、たとえば1気圧下での沸点が290℃のグリセリンが挙げられる。
【0024】
また、1気圧下での沸点が280℃以上の有機溶剤を1.5質量%以上含まないことが好ましく、当該有機溶剤を1.0質量%以上含まないことがより好ましく、当該有機溶剤を0.5質量%以上含まないことが特に好ましい。1気圧下での沸点が280℃以上の有機溶剤としては、たとえば1気圧下での沸点が335℃のトリエタノールアミンが挙げられる。
【0025】
なお、本発明において、「Aを実質的に含まない」とは、インク組成物を製造する際にAを意図的に添加しないという程度の意味であり、インク組成物を製造中又は保管中に不可避的に混入又は発生する微量のAを含んでいても構わない。「実質的に含まない」の具体例としては、たとえば1.0質量%以上含まない、好ましくは0.5質量%以上含まない、より好ましくは0.1質量%以上含まない、さらに好ましくは0.05質量%以上含まない、特に好ましくは0.01質量%以上含まないことである。以下、本実施の形態に用いられる各成分について詳細に説明する。
【0026】
1.1.グリコールエーテル類
本実施の形態に係るインク組成物は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類を含んでなる。本実施の形態に係るインク組成物は、前述のHLB値範囲を満たすグリコールエーテル類を含むことで、被記録媒体種の影響をあまり受けずに濡れ性・浸透速度を制御することできる。これにより、種々の被記録媒体、特にインク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体に対して濃淡ムラが少ない鮮明な画像を記録することができる。
【0027】
ここで、本実施の形態において用いられるグリコールエーテル類のHLB値は、デービスらが提唱した化合物の親水性を評価する値であり、たとえば文献「J.T.Davies and E.K.Rideal,“Interface Phenomena”2nd ed.Academic Press,New York 1963」中で定義されているデービス法により求められる数値で、下記の式(1)によって算出される値をいう。
【0028】
【数1】

(但し、[1]は親水基の基数を表し、[2]は疎水基の基数を表す。)
【0029】
下記の表1に、代表的な親水基及び疎水基の基数を例示する。
【0030】
【表1】

【0031】
本実施の形態に係るインク組成物に含まれるグリコールエーテル類は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であり、5.8〜8.0の範囲内であることが好ましい。HLB値が4.2未満であるとグリコールエーテル類の疎水性が高まり、主溶媒である水との親和性が低下してインクの保存安定性が低下する場合がある。HLB値が8.0より大きくなると、被記録媒体への濡れ性・浸透性の効果が減少し、画像の濃淡ムラが目立つ場合がある。特に疎水表面であるインク非吸収性又は低吸収性記録媒体への濡れ性の効果は顕著に低下する傾向がある。
【0032】
このようなグリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、エチレングリコールモノイソオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソオクチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソオクチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
前記例示したグリコールエーテル類の中でも、そのグリコールエーテル類中に含まれるアルキル基が分岐構造を有することがより好ましい。アルキル基が分岐構造を有するグリコールエーテル類を含有することで、特にインク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体に対して濃淡ムラが少ない鮮明な画像を記録することができる。具体的には、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、エチレングリコールモノイソオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソオクチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソオクチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル等が挙げられる。
【0034】
前記グリコールエーテル類中に含まれるアルキル基の分岐構造の中でも、発色性をさらに高める観点から、2−メチルペンチル基、2−エチルペンチル基、2−エチルヘキシル基がさらに好ましく、2−エチルヘキシル基が特に好ましい。具体的には、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル等が挙げられ、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル等が特に好ましい。
【0035】
前記グリコールエーテル類の含有量は、被記録媒体への濡れ性及び浸透性を向上させて濃淡ムラを低減させる効果や、インク保存安定性及び吐出信頼性を確保する観点から、インク組成物全量に対して0.05質量%以上6質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。0.05質量%未満であると、インク組成物の濡れ性、浸透性、乾燥性が乏しくなってしまい、鮮明な画像が得られにくく、また印刷濃度(発色性)が不充分である場合がある。また、6質量%よりも大きくなると、インクの粘度が高くなりヘッドの目詰まりが発生したり、インク組成物中に完全に溶解しないことにより保存安定性が得られない場合がある。
【0036】
1.2.アルキルポリオール類
本実施の形態に係るインク組成物は、1気圧下での沸点が180〜230℃の範囲内である側鎖を有するアルキルポリオール類を含んでなる。本実施の形態に係るインク組成物は、前述の沸点範囲を満たすアルキルポリオール類を含むことで、被記録媒体種の影響をあまり受けずに、インク組成物の濡れ性、浸透性、乾燥性を制御することできる。これにより、種々の被記録媒体、特にインク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体に対して定着性に優れた画像を記録することができると共に、インクジェット記録用ヘッドのノズルの目詰まりを低減させることができる。
【0037】
本実施の形態に係るインク組成物に含まれる側鎖を有するアルキルポリオール類は、1気圧下での沸点が180〜230℃の範囲内であり、197〜230℃の範囲内であることが好ましい。1気圧下での沸点が180℃未満であるとインク組成物の乾燥性が高まることにより、インクジェット記録用ヘッドのノズルの目詰まりが発生する場合がある。1気圧下での沸点が230℃より大きくなると、インク組成物の乾燥性が低下することで、画像の濃淡ムラが目立ち、画像の定着性が低下する場合がある。
【0038】
また、本実施の形態に係るインク組成物に含まれるアルキルポリオール類は、側鎖を有することを特徴とする。ここで「側鎖」とは、アルキルポリオール類中のアルキル基において、主鎖から枝分かれした炭素鎖のことをいう。アルキルポリオール類が側鎖を有することにより、側鎖の分だけ炭素数が多いアルキル部分を有していても水溶性をあまり低下させることなく、炭素数が増えた分インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体への親和性を高めることができる。そのため、水性インクであっても所望のインク乾燥性を維持できるだけの量を添加することができ、かつそれらを含むインクで形成された画像の濃淡ムラをさらに低減でき、画像の定着性もさらに向上するという、格別な効果を得ることができる。さらに、インク組成物の色材として顔料等の親水性に乏しい色材を用いた場合、側鎖を有するアルキルポリオール類は側鎖を有さないそれよりも顔料等に対して親和性が向上するため、インク乾燥時に色材周辺(たとえば顔料粒子表面)に偏在して色材そのものの凝集を抑える効果がある。そのためにインク乾燥固化物の再分散性が容易となるため、結果的にインクジェットヘッドノズルが目詰まりし難くなるという効果を有する。
【0039】
1気圧下での沸点が180〜230℃の範囲内である側鎖を有するアルキルポリオール類の中でも、アルキルジオール類が好ましい。このようなアルキルジオール類の具体例としては、3−メチル−1,3−ブタンジオール[203℃]、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール[226℃]、2−メチル−1,3−プロパンジオール[214℃]、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール[230℃]、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール[210℃]、2−メチルペンタン−2,4−ジオール[197℃]等が挙げられる。なお、括弧内の数値は、1気圧下での沸点を表す。
【0040】
前記アルキルポリオール類の含有量は、被記録媒体への濡れ性及び浸透性を向上させて濃淡ムラを低減させる効果や、インク保存安定性及び吐出信頼性を確保する観点から、インク組成物全量に対して5質量%以上20質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。5質量%未満であると、インク組成物の保存安定性が低下し、またインク組成物の乾燥性が高まることで、インクジェット記録用ヘッドのノズルの目詰まりが発生する場合がある。一方、20質量%よりも大きくなると、インク組成物の乾燥性が低下することで、画像の濃淡ムラが目立ち、画像の定着性が低下する場合がある。また、インク組成物粘度をインクジェット記録方式に適した範囲に調整し難くなる。
【0041】
1.3.色材
本実施の形態に係るインク組成物は、色材を含んでなる。色材としては、染料又は顔料が挙げられるが、耐水性、耐ガス性、耐光性等を有する観点から顔料であることが好ましい。
【0042】
このような顔料としては、公知の無機顔料、有機顔料、カーボンブラックのいずれも用いることができる。これらの顔料は、インク組成物全量に対して0.5質量%以上20質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、1質量%以上10質量%以下の範囲で含まれることがより好ましい。
【0043】
前記顔料をインク組成物に適用するためには、顔料が水中で安定的に分散保持できるようにする必要がある。その方法としては、水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂等の樹脂分散剤にて分散させる方法(以下、この方法により処理された顔料を「樹脂分散顔料」と記載する)、水溶性界面活性剤及び/又は水分散性界面活性剤の界面活性剤にて分散させる方法(以下、この方法により処理された顔料を「界面活性剤分散顔料」と記載する)、顔料粒子表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、前記の樹脂あるいは界面活性剤等の分散剤なしで水中に分散及び/又は溶解可能とする方法(以下、この方法により処理された顔料を「表面処理顔料」と記載する)等が挙げられる。本実施の形態に係るインク組成物は、前記の樹脂分散顔料、界面活性剤分散顔料、表面処理顔料のいずれも用いることができ、必要に応じて複数種混合した形で用いることもできる。
【0044】
樹脂分散顔料に用いられる樹脂分散剤としては、ポリビニルアルコール類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等及びこれらの塩が挙げられる。これらの中でも、疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を持つモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0045】
前記の塩としては、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等の塩基性化合物との塩が挙げられる。これら塩基性化合物の添加量は、前記樹脂分散剤の中和当量以上であれば特に制限はない。
【0046】
前記樹脂分散剤の分子量は、重量平均分子量として1,000〜100,000の範囲であることが好ましく、3,000〜10,000の範囲であることがより好ましい。分子量が前記範囲であることにより、顔料が水中で安定的に分散し、またインク組成物に適用した際の粘度制御等がしやすい。
【0047】
また、酸価としては50〜300の範囲であることが好ましく、70〜150の範囲であることがより好ましい。酸価がこの範囲であることにより、顔料粒子の水中での分散性が安定的に確保でき、またこれを用いたインク組成物にて記録された記録物の耐水性が良好となる。
【0048】
以上述べた樹脂分散剤としては市販品を用いることもできる。詳しくは、ジョンクリル67(重量平均分子量:12,500、酸価:213)、ジョンクリル678(重量平均分子量:8,500、酸価:215)、ジョンクリル586(重量平均分子量:4,600、酸価:108)、ジョンクリル611(重量平均分子量:8,100、酸価:53)、ジョンクリル680(重量平均分子量:4,900、酸価:215)、ジョンクリル682(重量平均分子量:1,700、酸価:238)、ジョンクリル683(重量平均分子量:8,000、酸価:160)、ジョンクリル690(重量平均分子量:16,500、酸価:240)(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0049】
また、界面活性剤分散顔料に用いられる界面活性剤としては、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アシルメチルタウリン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸塩、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルピリジウム塩、アルキルアミノ酸塩、アルキルジメチルベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0050】
前記樹脂分散剤又は前記界面活性剤の顔料に対する添加量は、顔料100質量部に対して好ましくは1質量部〜100質量部であり、より好ましくは5質量部〜50質量部である。この範囲であることにより、顔料の水中への分散安定性が確保できる。
【0051】
また、表面処理顔料としては、親水性官能基として、−OM、−COOM、−CO−、−SOM、−SONH、−RSOM、−POHM、−PO、−SONHCOR、−NH、−NR(但し、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいナフチル基を示す)等が挙げられる。これらの官能基は、顔料粒子表面に直接及び/又は多価の基を介してグラフトされることによって、物理的及び/又は化学的に導入される。多価の基としては、炭素数が1〜12のアルキレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基又は置換基を有していてもよいナフチレン基等が挙げられる。
【0052】
また、前記の表面処理顔料としては、硫黄を含む処理剤によりその顔料粒子表面に−SOM及び/又はRSOM(Mは対イオンであって、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウムイオンを示す)が化学結合するように表面処理されたもの、すなわち、前記顔料が活性プロトンを持たず、スルホン酸との反応性を有せず、顔料が不溶ないしは難溶である溶剤中に、顔料を分散させ、次いでアミド硫酸、又は三酸化硫黄と第三アミンとの錯体によりその粒子表面に−SOM及び/又はRSOMが化学結合するように表面処理され、水に分散及び/又は溶解が可能なものとされたものであることが好ましい。
【0053】
一つの顔料粒子にグラフトされる官能基は単一でも複数種であってもよい。グラフトされる官能基の種類及びその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、及びインクジェット記録用ヘッド前面での乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
【0054】
以上に述べた樹脂分散顔料、界面活性剤分散顔料、表面処理顔料を水中に分散させる方法としては、樹脂分散顔料については顔料と水と樹脂分散剤、界面活性剤分散顔料については顔料と水と界面活性剤、表面処理顔料については表面処理顔料と水、また各々に必要に応じて水溶性有機溶剤・中和剤等を加えて、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミル等の従来用いられている分散機にて行なうことができる。この場合、顔料の粒径としては、体積基準の平均粒径で20nm〜500nmの範囲になるまで、より好ましくは50nm〜200nmの範囲になるまで分散することが、顔料の水中での分散安定性を確保する点で好ましい。
【0055】
1.4.1,2−アルキルジオール類
本実施の形態に係るインク組成物は、炭素数が4〜8(以下、「C4〜8」と略記することもある)の範囲内である側鎖を有しない1,2−アルキルジオール類をさらに含んでもよい。C4〜8の側鎖を有しない1,2−アルキルジオール類は、前述したグリコールエーテル類と相乗して、被記録媒体に対するインク組成物の濡れ性をさらに高めて均一に濡らす作用、及び浸透性をさらに高める効果を有する。そのため、インク組成物にC4〜8の側鎖を有しない1,2−アルキルジオール類を含有させることで、さらにインクの濃淡ムラを低減させることができる。また、C4〜8の1,2−アルキルジオール類は、前述したグリコールエーテル類との相溶性に優れる。ここで「相溶する」とは、インク組成物を構成する各成分の中で、水を主溶媒としたインク組成において、前記グリコールエーテル類とC4〜8の側鎖を有しない1,2−アルキルジオール類の混合物が完全に溶解するような、各材料とこれら各材料の比率との組み合わせを意味する。前記グリコールエーテル類との相溶性に優れるC4〜8の側鎖を有しない1,2−アルキルジオールをインク組成物中に含ませることで、インク組成物における前記グリコールエーテルの溶解性を高めることができ、インク保存安定性及び吐出安定性の向上を実現できる。また、インク組成中へ前記グリコールエーテル類の含有量を増量することが容易となるため、さらなる記録画像の品質の向上に寄与することを可能とする。
【0056】
このような特性を有するC4〜8の側鎖を有しない1,2−アルキルジオール類として、具体的には、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール等が挙げられる。これらの中でも特に、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール等のC6〜8(炭素数が6〜8)の1,2−アルキルジオールが、水への溶解性と前記グリコールエーテル類との相溶性の観点からより好ましい。
【0057】
C4〜8の1,2−アルキルジオール類の添加量は、前記グリコールエーテル類との相溶性の観点から、前記グリコールエーテル類1質量部に対して、0.5質量部〜5質量部の範囲であることが好ましく、2質量部〜5質量部の範囲であることがより好ましい。また、前記グリコールエーテル類との相溶性、インク組成物の保存安定性・吐出安定性確保の観点から、インク組成物全量に対して好ましくは0.5質量%〜20質量%の範囲、より好ましくは1質量%〜8質量%の範囲である。より好ましい1質量%〜8質量%の範囲であると、そのインク組成物を用いた後述するインクジェット記録方法の第2の工程(乾燥工程)において、C4〜8の側鎖を有しない1,2−アルキルジオール類の蒸発飛散速度が充分速いため、結果的に記録物の乾燥が迅速となって記録速度が向上するという格別な効果がある。また各工程中での臭気の点でも問題が出ない。
【0058】
1.5.ピロリドン誘導体
本実施の形態に係るインク組成物は、ピロリドン誘導体をさらに含んでもよい。これを含んだインク組成物は、特にポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなるフィルム系のインク非吸収性の被記録媒体を用いた場合、インク組成物の小滴を付着させた際の濡れ拡がりが均一となって、ベタ画像においても濃淡ムラや滲みの少ない、くっきりとした鮮明な画像が得られるという特性を有する。その理由は定かではないが、ピロリドン誘導体の分子骨格構造に含まれるピロリドン構造がフィルム系の被記録媒体に対する親和性が高いため、それを含むインク組成物においてもフィルムに対する濡れ性が向上するものと推察される。また、ピロリドン誘導体は前記グリコールエーテル類やアルキルポリオール類との相溶性にも優れているため、本実施の形態に係るインク組成物は優れた保存安定性及び吐出安定性の両立が可能となる。さらにピロリドン誘導体は乾燥後には皮膜成分として機能するため、記録された画像の耐擦性向上にも寄与する。
【0059】
ピロリドン誘導体としては、たとえばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの中でも、インク組成物の保存性確保の点、樹脂定着剤の皮膜形成促進の点、及び臭気が比較的少ない点で、2−ピロリドンが好ましい。
【0060】
以上述べたピロリドン誘導体は、本実施の形態に係るインク組成物に所望の特性を与えられるのに必要なだけ加えることができるが、好ましい添加量はインク組成物全量に対して0.1質量%〜10質量%の範囲であり、より好ましくは1質量%〜8質量%の範囲である。この範囲内であれば、上述した特性をインク組成物に付与することができ、インク組成物の粘度をインクジェット記録方式において適正な範囲に調整しやすい。
【0061】
1.6.界面活性剤
本実施の形態に係るインク組成物は、界面活性剤をさらに含んでもよい。インク組成物に界面活性剤を含有させることにより、被記録媒体上に均一に濡れ拡がる作用が付与される。これにより、濃淡ムラが少ない鮮明な画像を記録することが可能となる。
【0062】
このような効果を有する界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤であることが好ましい。ノニオン系界面活性剤の中でも、特に本実施の形態に係るインク組成物に含まれる前記グリコールエーテル類と前記アルキルポリオール類との相溶性・相乗効果に優れるものとして、シリコーン系界面活性剤及び/又はアセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
【0063】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。より詳しくは、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の含有量は、インク組成物全量に対して、好ましくは1.0質量%以下である。
【0064】
アセチレングリコール系界面活性剤は、他のノニオン系界面活性剤と比較して、表面張力及び界面張力を適正に保つ能力に優れており、かつ起泡性がほとんどないという特性を有する。これにより、アセチレングリコール系界面活性剤を含有するインク組成物は、表面張力及びヘッドノズル面等のインクと接触するプリンター部材との界面張力を適正に保つことができるため、これをインクジェット記録方式に適用した場合、吐出安定性を高めることができる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、前記グリコールエーテル類と前記アルキルポリオール類と同様に被記録媒体に対して良好な濡れ性・浸透剤として作用するため、これを含んでなるインク組成物により記録された画像は濃淡ムラや滲みの少ない高精細なものとなる。アセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、インク組成物全量に対して、好ましくは1.0質量%以下である。
【0065】
アセチレングリコール系界面活性剤として、たとえばサーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0066】
1.7.樹脂粒子
本実施の形態に係るインク組成物は、樹脂粒子をさらに含んでもよい。インク組成物に樹脂粒子を含有させることにより、被記録媒体上に耐擦性に優れた画像を形成することができる。特に塩化ビニルやポリプロピレン等のインク非吸収性又はインク低吸収性の被記録媒体上に該樹脂粒子を含んでなるインク組成物を用いて記録する場合、後述するインクジェット記録方法における第2工程(乾燥工程)を経ることで、さらに耐擦性に優れた画像が得られる。その理由は、後述するインクジェット記録方法における第2工程(乾燥工程)において、当該樹脂粒子がインクを固化させ、さらにインク固化物を被記録媒体上に強固に定着させる作用を有するためであり、加熱によってこの作用をより高めることができるからである。特に本実施の形態に係るインク組成物には、該樹脂粒子は微粒子状態(すなわち、エマルジョン状態又はサスペンジョン状態)で含有されていることが好ましい。樹脂粒子を微粒子状態で含有することにより、インク組成物の粘度をインクジェット記録方式において適正な範囲に調整しやすく、また保存安定性・吐出安定性を確保しやすい。
【0067】
樹脂粒子には、主として後述するインクジェット記録方法における第2工程(乾燥工程)により樹脂皮膜を形成し被記録媒体上に定着させる効果を持つポリマー粒子と、記録された記録物の表面に滑沢を付与し耐擦性を向上させるワックス粒子と、が含まれる。本実施の形態に係るインク組成物には、樹脂粒子としてポリマー粒子とワックス粒子とを併用して添加することが好ましい。以下、ポリマー粒子及びワックス粒子について詳細に説明する。
【0068】
前記ポリマー粒子を構成する成分としては、たとえばポリアクリル酸エステルもしくはその共重合体、ポリメタクリル酸エステルもしくはその共重合体、ポリアクリロニトリルもしくはその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレンもしくはそれらの共重合体、石油樹脂、クロマン・インデン樹脂、テルペン樹脂、ポリ酢酸ビニルもしくはその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ポリ塩化ビニルもしくはその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリブタジエンもしくはその共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、天然樹脂等が挙げられる。この中で、特に分子構造中に疎水性部分と親水性部分とを併せ持つものが好ましい。
【0069】
前記のようなポリマー粒子としては、公知の材料・方法で得られるものを用いることもできる。市販品としては、たとえばマイクロジェルE−1002、マイクロジェルE−5002(以上商品名、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001、ボンコート5454(以上商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(商品名、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(商品名、サイデン化学株式会社製)、ジョンクリル7100、ジョンクリル390、ジョンクリル711、ジョンクリル511、ジョンクリル7001、ジョンクリル632、ジョンクリル741、ジョンクリル450、ジョンクリル840、ジョンクリル74J、ジョンクリルHRC−1645J、ジョンクリル734、ジョンクリル852、ジョンクリル7600、ジョンクリル775、ジョンクリル537J、ジョンクリル1535、ジョンクリルPDX−7630A、ジョンクリル352J、ジョンクリル352D、ジョンクリルPDX−7145、ジョンクリル538J、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641、ジョンクリル631、ジョンクリル790、ジョンクリル780、ジョンクリル7610(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0070】
上記のポリマー粒子は、以下に示す方法で得られ、そのいずれの方法でもよく、必要に応じて複数の方法を組み合わせてもよい。その方法としては、所望のポリマー粒子を構成する成分の単量体中に重合触媒(重合開始剤)と分散剤とを混合して重合(すなわち乳化重合)する方法、親水性部分を持つポリマーを水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を水中に混合した後に水溶性有機溶剤を蒸留等で除去することで粒子を得る方法、ポリマーを非水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を分散剤と共に水溶液中に混合して粒子を得る方法等が挙げられる。上記の方法は、用いるポリマーの種類・特性に応じて適宜選択することができる。ポリマーを微粒子状態に分散する際に用いることのできる分散剤としては、特に制限はないが、アニオン性界面活性剤(たとえばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ラウリルリン酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩等)、ノニオン性界面活性剤(たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)が挙げられ、これらを単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0071】
以上述べたポリマー粒子を構成する成分のガラス転移温度(以下、「Tg」と記載する)は、室温以上(概ね30℃以上)であるものを少なくとも1種含んでいることが好ましい。Tgが室温以上である成分を含むことにより、後述する第2工程(乾燥工程)においてより強固な樹脂皮膜が形成される効果が高い。そのため、記録された画像の耐擦性がさらに良好となる。またインクジェット記録式ヘッドのノズル先端でのインクの目詰まりが発生しにくい。一方、Tgが室温未満である成分のみからなるポリマー粒子を用いた場合、後述する第2工程(乾燥工程)を経ても強固な樹脂被膜が形成されにくく記録された画像の耐擦性が不良となる場合がある。さらにノズル先端でインク固化物が発生して目詰まりが発生しやすくなる場合がある。
【0072】
前記ワックス粒子を構成する成分としては、たとえばカルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α−オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等を単独あるいは複数種を混合して用いることができる。この中で好ましいワックスの種類としては、ポリオレフィンワックス、特にポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスである。ワックス粒子としては市販品をそのまま利用することもでき、たとえばノプコートPEM17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515、AQUACER593(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0073】
樹脂粒子の平均粒子径は、水性インク組成物の保存安定性・吐出安定性を確保する点から、好ましくは5nm〜400nmの範囲であり、より好ましくは50nm〜200nmの範囲である。
【0074】
樹脂粒子の含有量は、インク組成物全量に対して、固形分換算で0.5質量%〜10質量%の範囲であることが好ましい。この範囲内であることにより、インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体上においても、本実施の形態に係るインク組成物と、好ましいインクジェット記録方法として後述する第2工程(乾燥工程)と、を組み合わせることで、インク組成物を固化・定着させることができる。
【0075】
樹脂粒子として上述したポリマー粒子及びワックス粒子を併用した場合に記録された画像の耐擦性が良好となる理由はいまだ明らかではないが、下記のように推察される。ポリマー粒子を構成する成分は、インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体及び水不溶性の着色剤に対して良好な親和性を有するため、第2工程(乾燥工程)において樹脂皮膜を形成する際に色材を包み込みながら被記録媒体上に強固に定着する。一方、ワックス粒子の成分は、樹脂皮膜の表面にも存在しており、樹脂皮膜表面の摩擦抵抗を低減する特性を有する。これにより、外部からの擦れによって削れにくく、かつ被記録媒体から剥がれにくい樹脂皮膜を形成することができるため、記録された画像の耐擦性が向上するものと推察される。
【0076】
樹脂粒子中のポリマー粒子とワックス粒子の含有比率は、固形分換算の質量基準でポリマー粒子:ワックス粒子=1:1〜5:1の範囲であることが好ましい。この範囲内であると、前述した機構が良好に働くため記録された画像の耐擦性が良好となる。
【0077】
1.8.水
本実施の形態に係るインク組成物は、水を含んでなる。水は、前記インク組成物の主となる媒体であり、後述する第2工程(乾燥工程)において蒸発飛散する成分である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、顔料分散液及びこれを用いたインク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0078】
1.9.その他の添加剤
本実施の形態に係るインク組成物には、さらにその特性を向上させる観点から、以上に述べた構成成分の他に、必要に応じて浸透溶剤、保湿剤、防腐・防かび剤、pH調整剤、キレート化剤等を添加することができる。
【0079】
1.10.インク組成物の物性
インク組成物のpHは、中性ないしアルカリ性であることが好ましく、7.0〜10.0の範囲内であることがより好ましい。pHが酸性であると、インク組成物の保存安定性及び分散安定性が損なわれることがある。また、インクジェット記録装置内のインク流路に用いられている金属部品の腐食等の不具合が発生しやすくなる。pHは、前述したpH調整剤を用いて中性ないしアルカリ性に調整することができる。
【0080】
インク組成物の粘度は、20℃において1.5mPa・s〜15mPa・sの範囲であることが好ましい。この範囲内であれば、後述する第1工程においてインクの吐出安定性を確保することができる。
【0081】
インク組成物の表面張力は、25℃において20mN/m〜40mN/mであることが好ましく、25mN/m〜35mN/mであることがより好ましい。この範囲内であれば、後述する第1工程においてインクの吐出安定性を確保することができ、インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体に対する適正な濡れ性を確保することができる。
【0082】
1.11.インク組成物の製造方法
本実施の形態に係るインク組成物は、前述した材料を任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。ここで、色材は、あらかじめ水性媒体中に均一に分散させた状態に調製した上で混合した方が、取り扱いの簡便さ等から好ましい。
【0083】
各材料の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0084】
2.インクジェット記録方法
本実施の形態に係るインクジェット記録方法は、被記録媒体上に前述のインク組成物の液滴を吐出して画像を形成する第1工程と、前記第1工程時又は前記第1工程後において前記被記録媒体を加熱して前記被記録媒体上の前記インク組成物を乾燥させる第2工程と、を含むことを特徴とする。以下、各工程について詳細に説明する。
【0085】
2.1.第1工程
本実施の形態に係るインクジェット記録方法における第1の工程は、インクジェット記録方式で、被記録媒体上に前述したインク組成物の液滴を吐出して画像を形成する工程である。
【0086】
インクジェット記録方式は、前述したインク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して該液滴を被記録媒体に付着させる方式であれば、いかなる方法も使用することができる。インクジェット記録方式として、たとえば以下の4つの方式が挙げられる。
【0087】
第1の方式は、静電吸引方式と呼ばれるもので、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
【0088】
第2の方式は、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0089】
第3の方式は、圧電素子を用いる方式であり、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0090】
第4の方式は、熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方式であり、インク液を印刷情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0091】
被記録媒体としては、所望に応じてどのようなものを用いてもよい。その中でも、本実施の形態に係るインクジェット記録方法では、インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体を好適に用いることができる。なお、本明細書において「インク非吸収性及び低吸収性の被記録媒体」とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体」を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。
【0092】
インク非吸収性の被記録媒体としては、たとえばインクジェット印刷用に表面処理をしていない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。インク低吸収性の被記録媒体として、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。
【0093】
2.2.第2工程
本実施の形態に係るインクジェット記録方法における第2の工程は、前記第1工程時及び前記第1工程後の少なくとも一方において、被記録媒体上の前記インク組成物を乾燥させる工程である。第2工程を組み込むことにより、被記録媒体上に付着させた前記インク組成物中に含有される液媒体(具体的には、水、グリコールエーテル類、アルキルポリオール類、C4〜8の1,2−アルキルジオール類)が速やかに蒸発飛散して、前記インク組成物中に好ましく用いられるピロリドン誘導体及び/又はポリマー粒子の皮膜が形成される。これにより、インク吸収層を有しないプラスチックフィルムのようなインク非吸収性の被記録媒体上においても、濃淡ムラが少ない高画質な画像を短時間で得ることができる。また、前記インク組成物中に好ましく用いられるピロリドン誘導体及び/又はポリマー粒子の皮膜を形成させることで被記録媒体上にインク乾燥物が接着するため画像が定着する。
【0094】
第2工程は、インク組成物中に存在する液媒体の蒸発飛散を促進させる方法であれば特に限定されない。第2工程に用いられる方法として、第1工程時及び第1工程後の少なくとも一方で被記録媒体に熱を加える方法、第1の工程後に被記録媒体上のインク組成物に風を吹きつける方法、さらにそれらを組み合わせる方法等が挙げられる。具体的には、強制空気加熱、輻射加熱、電導加熱、高周波乾燥、マイクロ波乾燥等が好ましく用いられる。
【0095】
第2工程において熱を与える際の温度範囲は、インク組成物中に存在する液媒体の蒸発飛散を促進することができれば特に制限はないが、40℃以上であればその効果が得られ、好ましくは40℃〜80℃であり、より好ましくは40℃〜60℃の範囲である。温度が80℃を超える場合、被記録媒体の種類によっては変形等の不具合が生じて第2工程後の被記録媒体の搬送に支障が生じたり、被記録媒体が室温まで冷えた際に収縮等の不具合が起こる場合がある。
【0096】
また、第2の工程における加熱時間は、インク組成物中に存在する液媒体が蒸発飛散し、かつ好ましく用いられるピロリドン誘導体及び/又は樹脂粒子の皮膜を形成することができれば特に制限はなく、用いる液媒体種・樹脂粒子種・印刷速度を加味して適宜設定することができる。
【0097】
3.実施例
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0098】
3.1.インク組成物の調製
3.1.1.顔料分散液の調製
本実施例で使用するインク組成物は、色材として水不溶性の顔料(カーボンブラック:C.I.ピグメントブラック7)を使用した。顔料をインク組成物に添加する際には、あらかじめ該顔料を樹脂分散剤で分散させた顔料分散液を用いた。
【0099】
顔料分散液は、以下のようにして調製した。まず、30%アンモニア水溶液(中和剤)1.5質量部を溶解させたイオン交換水76質量部に、樹脂分散剤としてアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:25,000、酸化:180)7.5質量部を加えて溶解させた。そこに、顔料(カーボンブラック)15質量部を加えてジルコニアビーズによるボールミルにて10時間分散処理を行なった。その後、遠心分離機による遠心濾過を行って粗大粒子やゴミ等の不純物を除去し、顔料濃度が15質量%となるように調整した。
【0100】
3.1.2.インク組成物の調製
上記の「3.1.1.顔料分散液の調製」で調製された顔料分散液を用いて、表2〜3に示す材料組成にてブラック色の材料組成の異なるインク組成物を調製した。各インク組成物は、表2に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間混合撹拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。なお、表2〜3中の数値は、全て質量%を示し、イオン交換水はインク全量が100質量%となるように添加した。また、表3に示した比較例6のインク組成物は、特開2008−101192号公報に記載されているインク組成例に準じて作製した。
【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
表2〜3において商品名で記載した各材料は、以下の通りである。
・BYK−348(ビックケミー・ジャパン株式会社製、シリコーン系界面活性剤)
・サーフィノールDF110D(日信化学株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
・FS−300(DuPONT社製、フッ素系界面活性剤)
・Joncryl1535(BASFジャパン株式会社製、スチレン−アクリル系エマルジョン(Tg:50℃、41%分散液))
・AQUACER515(ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエチレンワックスエマルジョン(35%分散液))
【0104】
3.2.インク組成物の評価
3.2.1.インク組成物の保存安定性
表2〜3に示した各インク組成物を、各々サンプル瓶内に密封して60℃環境下にて2週間放置した。放置後のインクの粘度変化、及びインク成分の分離・沈降・凝集状況を観察することにより、インク組成物の保存安定性を評価した。その評価基準を以下に示すと共に、その評価結果を表4に示す。
【0105】
<粘度変化>
A:調製直後の粘度と比較して変化率が±5%未満
B:調製直後の粘度と比較して変化率が±5%以上±10%未満
C:調製直後の粘度と比較して変化率が±10%以上±20%未満
D:調製直後の粘度と比較して変化率が±20%以上
【0106】
<インク成分の分離・沈降・凝集>
A:インク成分の分離・沈降・凝集が無い
B:インク成分の分離・沈降・凝集のうちのいずれかがわずかに見られる
C:インク成分の分離・沈降・凝集のうちのいずれかが明確に見られる
D:インク成分の分離・沈降・凝集のうちのいずれかが著しい
【0107】
【表4】

【0108】
表4に示したように、実施例1〜14のインク組成物のうち、実施例13以外のインク組成物は、粘度変化及びインク成分の分離・沈降・凝集において問題なく、保存安定性に優れていた。実施例13のインク組成物は、アルキルポリオール類の添加量が少ないためインク全体のバランスが崩れてしまい、保存安定性が低下したものと推測される。また、比較例4及び5のインク組成物においては、粘度変化及びインク成分の分離・沈降・凝集のいずれにおいても保存安定性が低下した。この理由は、HLB値が3.8のグリコールエーテル類を使用することによりインク全体のバランスが崩れてしまい、保存安定性が低下したものと推測される。
【0109】
3.2.2.ヘッドの目詰まり性
表2〜3に示した各インク組成物を、インクジェット記録方式のプリンターであるインクジェットプリンター(製品名「PX−G930」、セイコーエプソン株式会社製、ノズル解像度:180dpi)のヘッド内に充填した。充填後、ノズルチェックパターンを印刷して充填不良・ノズル目詰まりのないことを確認してから、プリンターヘッドのキャップを外した状態(すなわちヘッドノズル面が乾燥しやすい状態)にして、25℃/40〜60%RHの環境下で一週間放置した。放置後、必要に応じてクリーニング動作を行ってノズルチェックパターンを印刷してノズルの吐出状況を観察することで、インク組成物のインクジェットヘッドの目詰まり性を評価した。その評価基準を以下に示すと共に、その評価結果を表5に示す。
A:クリーニング動作が3回以内で、全ノズルからインク組成物が正常吐出された
B:クリーニング動作が4回〜6回の範囲内で、全ノズルからインク組成物が正常吐出された
C:クリーニング動作が7回〜10回の範囲内で、全ノズルからインク組成物が正常吐出された
D:全ノズルからインク組成物が正常吐出されるまでにクリーニング動作が11回以上必要、あるいはクリーニング動作を11回以上行っても正常吐出されないノズルがあった
【0110】
【表5】

【0111】
表5に示したように、実施例1〜14のインク組成物のうち、実施例4及び13以外のインク組成物では、インクジェットヘッドの目詰まりが発生し難いことが判った。また、実施例4及び13のインク組成物の結果より、アルキルポリオール類の添加量が少なくなるにつれて、インクの乾燥性が高まりインクジェットヘッドの目詰まりが発生しやすくなることが判った。比較例2のインク組成物においても、インクジェットヘッドの目詰まりが発生しやすかった。この理由は、1気圧下での沸点が174℃のアルキルポリオール類を使用することによりインクの乾燥性が高くなることで、インクジェットヘッドの目詰まりが発生したものと推測される。
【0112】
3.2.3.記録物の濃淡ムラ評価
被記録媒体としてインク低吸収性の印刷本紙(商品名「PODグロスコート」、王子製紙株式会社製)、インク非吸収性のポリプロピレンフィルム(商品名「SY51M 2.6mil.PPWhite TC RP37 2.2mil.HIGH DENSITY WHITE」、UPM RAFLATA社製、以下「SY51M」と略記する)を使用した。また、インクジェット記録方式のプリンターとして、紙案内部に温度が可変できるヒーターを取り付けたインクジェットプリンター(製品名「PX−G930」、セイコーエプソン株式会社製、ノズル解像度:180dpi)を用いた。
【0113】
インクジェットプリンターにインク組成物のいずれかを充填して、前記被記録媒体のいずれか一方に画像を記録した。画像パターンとしては、横720dpi、縦720dpiの解像度で、50〜100%の範囲のdutyで10%刻みで記録できる塗り潰しパターンを作製し、これを用いた。記録条件は、プリンターのヒーター設定を「記録面の温度が40℃となる設定」とした。さらに、記録中及び記録直後の記録物に対して80℃の温度の風を送風することにより乾燥処理を行った。なお、前記送風の強度は、被記録媒体表面での風速が2〜5m/秒程度となる状態とした。また、記録直後の送風時間は1分間とした。このような条件で記録したときの記録物の濃淡ムラを目視で確認した。その評価基準を以下に示すと共に、その評価結果を表6及び表7に示す。なお、表6は被記録媒体として印刷本紙(PODグロスコート)を使用した場合の評価結果を示すものであり、表7は被記録媒体としてポリプロピレンフィルム(SY51M)を使用した場合の評価結果を示すものである。
A:duty80%以上でも濃淡ムラが認められなかった
B:duty70%まで濃淡ムラが認められなかった
C:duty60%まで濃淡ムラが認められなかった
D:duty60%以下でも濃淡ムラが認められた
【0114】
【表6】

【0115】
【表7】

【0116】
表6及び表7に示したように、実施例1〜14のインク組成物では、濃淡ムラの少ない記録物が得られた。一方、比較例1、3、6のインク組成物では、濃淡ムラの多い記録物が得られた。比較例1のインク組成物では、グリセリンを含むことによりインク乾燥性が大幅に低下したため、記録物に濃淡ムラが発生したものと推測される。比較例3のインク組成物では、HLB値が8.0より大きいグリコールエーテル類を使用したため、被記録媒体への濡れ性・浸透性の効果が減少し、記録物に濃淡ムラが発生したものと推測される。特開2008−101192号公報に記載されている比較例6のインク組成物では、グリセリンや2−エチル−1,3−ヘキサンジオールのような高沸点溶剤を含むためインク乾燥性が低く、濃淡ムラの多い記録物が得られやすいと推測される。
【0117】
3.2.4.記録物の耐擦性評価
まず、前記「3.2.3.記録物の濃淡ムラ評価」の場合と全く同様にして、各種被記録媒体上に画像を記録した。その後、室温(25℃)環境下の実験室にて5時間放置した記録物の記録面を学振型摩擦堅牢度試験機(製品名「AB−301」、テスター産業株式会社製)を用いて、荷重200g下、綿布にて10回擦ったときの記録面の剥がれ状態や綿布へのインク移り状態を確認することにより耐擦性を評価した。その評価基準を以下に示すと共に、その評価結果を表8及び表9に示す。なお、表8は被記録媒体として印刷本紙(PODグロスコート)を使用した場合の評価結果を示すものであり、表9は被記録媒体としてポリプロピレンフィルム(SY51M)を使用した場合の評価結果を示すものである。
A:10回擦ってもインク剥がれ・綿布へのインク移りが認められなかった
B:10回擦った後インク剥がれ又は綿布へのインク移りがわずかに認められた
C:10回擦った後インク剥がれ又は綿布へのインク移りが認められた
D:10回擦り終わる前にインク剥がれ又は綿布へのインク移りが認められた
【0118】
【表8】

【0119】
【表9】

【0120】
表8及び表9に示したように、実施例1〜14のインク組成物では、耐擦性に優れた記録物が得られた。一方、比較例1及び6のインク組成物では、耐擦性に劣る記録物が得られた。比較例1のインク組成物では、グリセリンを含むことによりインク乾燥性が大幅に低下したため、記録物の耐擦性が低下したものと推測される。特開2008−101192号公報に記載されている比較例6のインク組成物では、グリセリンや2−エチル−1,3−ヘキサンジオールのような高沸点溶剤を含むためインク乾燥性が低く、耐擦性に劣る記録物が得られやすいと推測される。
【0121】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類と、1気圧下での沸点が180〜230℃の範囲内である側鎖を有するアルキルポリオール類と、を含んでなり、
1気圧下での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を実質的に含まないことを特徴とする、インク組成物。
【請求項2】
前記側鎖を有するアルキルポリオール類がアルキルジオール類である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記側鎖を有するアルキルポリオール類の含有量が5質量%以上20質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記グリコールエーテル類中のアルキル基が分岐構造を有する、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記アルキル基が2−エチルヘキシル基である、請求項4に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記グリコールエーテル類の含有量が0.05質量%以上6質量%以下である、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
さらに炭素数が4〜8の範囲内である側鎖を有しない1,2−アルキルジオール類を含む、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項8】
さらにピロリドン誘導体を含む、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項9】
被記録媒体上に請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載のインク組成物の液滴を吐出して画像を形成する第1工程と、
前記第1工程時又は前記第1工程後において前記被記録媒体を加熱して前記被記録媒体上の前記インク組成物を乾燥させる第2工程と、
を含む、インクジェット記録方法。
【請求項10】
前記被記録媒体が、インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体である、請求項9に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2012−167227(P2012−167227A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30878(P2011−30878)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】