説明

インサート成形品及びその製造方法

【課題】金型構造の単純化とボルト固定力の強度アップを図る。
【解決手段】ボルト3をバスバー2の密着位置に配置するボルトセット工程を行い、次に、バスバー2に折り曲げ加工を施してボルト保持部5を形成し、ボルト保持部5でボルト3をバスバー2の密着位置に保持するボルト保持工程を行い、次に、バスバー2とボルト3をインサート成形して合成樹脂部を形成するインサート成形工程を行ってインサート成形品を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性部材とこれに密着されたボルトをインサート成形することによって形成されるインサート成形品、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のインサート成形品としては、特許文献1に開示されたものがある。このインサート成形品は、ボルト挿通孔を有するバスバーと、ボルト挿通孔に挿入され、バスバーに密着されたボルトと、バスバーとボルトのインサート成形によって形成された合成樹脂部とを備えている。ボルトは、合成樹脂部によって導電性部材に保持され、ネジ締結によって相手端子に確実に固定できる端子として利用される。
【0003】
次に、この種の従来のインサート成形品の製造工程について説明する。図13(a)に示すように、下方の金型部111にボルト101をセットする。ボルト101の頭部101aは、下方の金型部111のボルト保持部111aによって所定位置に保持される。次に、図13(b)に示すように、ボルト101のネジ部101bにボルト挿通孔102aを挿入し、バスバー102を下方の金型部111内にセットする。これによって、ボルト101は、バスバー102に密着された状態とされる。次に、図14に示すように、下方の金型部111に上方の金型部112をセットする。次に、双方の金型部111,112で構成された樹脂充填室113に溶融合成樹脂を注入する。この合成樹脂の硬化によって合成樹脂部103が形成される。溶融樹脂の硬化後に、図15に示すように、双方の金型部111,112を離型すれば、インサート成形品100が作製される。
【0004】
次に、他の従来のインサート成形品の製造工程について説明する。図16(a)に示すように、下方の金型部131にバスバー122をセットする。次に、図16(b)に示すように、バスバー122のボルト挿通孔122aにボルト121のネジ部121bを挿入し、ボルト121を下方の金型部131にセットする。これによって、ボルト121がバスバー122に密着状態とされる。次に、図17に示すように、下方の金型部131に上方の金型部132をセットする。ボルト121は、上方の金型部132のボルト保持部132aによってバスバー122に密着状態で保持される。次に、双方の金型部131,132で構成された樹脂充填室133に溶融合成樹脂を注入する。この合成樹脂の硬化によって合成樹脂部123が形成される。溶融合成樹脂の硬化後に、図18に示すように、双方の金型部131,132を離型すれば、インサート成形品120が作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−297683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来例のインサート成形品100,120では、インサート成形時にバスバー102,122にボルト101,121を密着された状態で保持するために下方の金型部111若しくは上方の金型部132にボルト保持部111a,132aを設ける必要がある。従って、金型の構造が複雑化するという問題がある。
【0007】
また、ボルト101,121は、バスバー102,122に合成樹脂部103,123の固定力によってのみ密着されると共に、ボルト保持部111a,132aに対応する合成樹脂部103,123には開口(図示せず),123aができて合成樹脂部103,123による固定力が低下するため、ボルト101,121の固定力が弱いという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、金型構造の単純化とボルト固定力の強度アップを図ることができるインサート成形品、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、導電性部材と、前記導電性部材に密着されたボルトと、前記導電性部材と前記ボルトのインサート成形によって形成された合成樹脂部とを備えたインサート成形品であって、前記導電性部材には、前記導電性部材に密着された前記ボルトを保持するボルト保持部が折り曲げによって設けられていることを特徴とするインサート成形品である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のインサート成形品であって、前記ボルト保持部は、複数方向より前記ボルトを挟み込んで前記ボルトを保持することを特徴とするインサート成形品である。
【0011】
請求項3の発明は、ボルトを導電性部材の密着位置に配置するボルトセット工程を行い、次に、前記導電性部材に折り曲げ加工を施してボルト保持部を形成し、前記ボルト保持部で前記ボルトを前記導電性部材の密着位置に保持するボルト保持工程を行い、次に、前記導電性部材と前記ボルトをインサート成形して合成樹脂部を形成するインサート成形工程を行うことを特徴とするインサート成形品の製造方法である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3に記載のインサート成形品の製造方法であって、金型にセットされた前記ボルトは、前記金型の開閉方向に対し斜め方向にセットされていることを特徴とするインサート成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、ボルトは導電性部材のボルト保持部によって保持されるため、金型にボルト保持部を設ける必要がない。又、ボルトは、合成樹脂部の固定力と導電性部材のボルト保持部の固定力によって固定され、その上、合成樹脂部には従来例のような開口ができない。以上より、金型構造の単純化とボルト固定力の強度アップを図ることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、複数箇所のボルト保持部でボルトを挟み込むように保持するため、ボルト固定力の更なる強度アップを図ることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、ボルトは導電性部材のボルト保持部によって保持されるため、金型にボルト保持部を設ける必要がない。又、ボルトは、合成樹脂部の固定力と導電性部材のボルト保持部の固定力によって固定され、その上、合成樹脂部には従来例のような開口ができない。以上より、金型構造の単純化とボルト固定力の強度アップを図ることができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、導電性部材にボルトが保持されているため、金型の開閉方向に平行にボルトをセットしなくてもインサート成形が可能であり、ボルトのセット位置の自由度が高いという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態を示し、インサート成形品の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示し、(a)、(b)、(c)はそれぞれインサート成形品の製造工程を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態を示し、インサート成形品の製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態を示し、インサート成形品の製造工程を示す斜視図である。
【図5】本発明の第2実施形態を示し、インサート成形品の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態を示し、折り曲げ前のバスバーの斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態を示し、(a)、(b)それぞれインサート成形品の製造工程を示す斜視図である。
【図8】本発明の第2実施形態を示し、インサート成形品の製造工程を示す斜視図である。
【図9】本発明の第2実施形態を示し、(a)はインサート成形品の製造工程を示す側面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態を示し、インサート成形品の製造工程を示す斜視図である。
【図11】本発明の第2実施形態を示し、インサート成形品の製造工程を示す断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態を示し、インサート成形品の製造工程を示す斜視図である。
【図13】従来例を示し、(a)、(b)それぞれインサート成形品の製造工程を示す斜視図である。
【図14】従来例を示し、インサート成形品の製造工程を示す断面図である。
【図15】従来例を示し、インサート成形品の製造工程を示す斜視図である。
【図16】他の従来例を示し、(a)、(b)それぞれインサート成形品の製造工程を示す斜視図である。
【図17】他の従来例を示し、インサート成形品の製造工程を示す断面図である。
【図18】他の従来例を示し、インサート成形品の製造工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1〜図4は本発明の第1実施形態を示し、図1はインサート成形品1の断面図、図2(a)、(b)、(c)はそれぞれインサート成形品1の製造工程を示す斜視図、図3はインサート成形品1の製造工程を示す断面図、図4はインサート成形品1の製造工程を示す斜視図である。
【0020】
図1に示すように、インサート成形品1は、導電性部材であるバスバー2と、バスバー2に密着されたボルト3と、バスバー2とボルト3のインサート成形によって形成された合成樹脂部4とを備えている。
【0021】
バスバー2にはボルト挿通孔2aが形成されている。ボルト3は、ボルト挿通孔2aにネジ部3bが挿入され、頭部3aの底面がバスバー2に密着されている。バスバー2には、バスバー2に密着されたボルト3を保持するボルト保持部5が折り曲げによって設けられている。ボルト保持部5は、一箇所であり、ボルト3の頭部3aを片側から挟み込んでいる。
【0022】
合成樹脂部4は、ボルト3の頭部3aが突出されたバスバー2の一方面側に設けられている。合成樹脂部4は、ボルト3の頭部3aを完全に覆っている。
【0023】
次に、前記インサート成形品1の製造工程を説明する。先ず、図2(a)に示すように、バスバー2のボルト挿通孔2aにボルト3のネジ部3bを位置合わせし、バスバー2のボルト挿通孔2aにボルト3のネジ部3bを挿入し、ボルト3をバスバー2の密着位置に配置する(ボルトセット工程)。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、バスバー2に折り曲げ加工を施してボルト保持部5を形成する。これにより、ボルト保持部5でボルト3をバスバー2に密着させて保持する(ボルト保持工程)。
【0025】
次に、図2(c)に示すように、一体化されたバスバー2とボルト3を下方の金型部11にセットし、下方の金型部11に上方の金型部12をセットする。そして、図3に示すように、双方の金型部11,12の樹脂充填室13に溶融された合成樹脂を注入する。この合成樹脂の硬化によって合成樹脂部4が形成される。溶融樹脂の硬化後に、図4に示すように、双方の金型部11,12を離型すれば、インサート成形品1が作製される(インサート成形工程)。
【0026】
以上、第1実施形態では、バスバー2には、バスバー2に密着されたボルト3を保持するボルト保持部5が折り曲げによって設けられているので、ボルト3はバスバー2のボルト保持部5によって保持されるため、従来例のように双方の金型部11,12のいずれにもボルト保持部を設ける必要がない。又、ボルト3は、合成樹脂部4の固定力とバスバー2のボルト保持部5の固定力によって固定され、その上、合成樹脂部4には従来例のような開口ができない。以上より、金型構造の単純化とボルト固定力の強度アップを図ることができる。
【0027】
(第2実施形態)
図5〜図12は本発明の第2実施形態を示し、図5はインサート成形品20の断面図、図6は折り曲げ前のバスバー21の斜視図、図7(a)、(b)及び図8はそれぞれインサート成形品20の製造工程を示す斜視図、図9(a)はインサート成形品20の製造工程を示す側面図、図9(b)は図9(a)のA−A線断面図、図10はインサート成形品20の製造工程を示す斜視図、図11はインサート成形品20の製造工程を示す断面図、図12はインサート成形品20の製造工程を示す斜視図である。
【0028】
図5に示すように、インサート成形品20は、導電性部材であるバスバー21と、バスバー21に密着されたボルト22と、バスバー21とボルト22のインサート成形によって形成された合成樹脂部23とを備えている。
【0029】
バスバー21は、二箇所で折曲された傾斜状のプレート(図7(a)参照)であり、バスバー21の中央傾斜部にはボルト挿通孔21aが形成されている。ボルト22は、ボルト挿通孔21aにネジ部22bが挿入され、頭部22aの底面がバスバー21に密着されている。バスバー21には、バスバー21に密着されたボルト22を保持するボルト保持部24が折り曲げによって設けられている。ボルト保持部24は、2箇所に設けられ、ボルト22の頭部22aを両側から挟み込んでいる。
【0030】
合成樹脂部23は、ボルト22の頭部22aが突出されたバスバー21の一方面側に設けられている。合成樹脂部23は、ボルト22の頭部22aを完全に覆っている。
【0031】
次に、前記インサート成形品20の製造工程を説明する。先ず、図6に示すフラット形状のバスバー21に折り曲げ加工(図7(a)、(b)参照)を施し、次に、図7(a)、(b)に示すように、バスバー21のボルト挿通孔21aにボルト22のネジ部22bを挿入し、ボルト22をバスバー21の密着位置に配置する(ボルトセット工程)。
【0032】
次に、図8、図9(a)、(b)に示すように、バスバー21に折り曲げ加工を施してボルト保持部24を2箇所に形成し、2箇所のボルト保持部24でボルト22をバスバー21の密着位置に保持する(ボルト保持工程)。
【0033】
次に、図10に示すように、一体化されたバスバー21とボルト22を下方の金型部31にセットし、下方の金型部31に上方の金型部32をセットする。そして、図11に示すように、双方の金型部31,32の樹脂充填室33に溶融された合成樹脂を注入する。この合成樹脂の硬化によって合成樹脂部23が形成される。溶融樹脂の硬化後に、図12に示すように、双方の金型部31,32を離型すれば、インサート成形品20が作製される(インサート成形工程)。
【0034】
以上、この第2実施形態でも、バスバー21には、バスバー21に密着されたボルト22を保持するボルト保持部24が折り曲げによって設けられているので、ボルト22はバスバー21のボルト保持部24によって保持されるため、従来例のように双方の金型部のいずれにもボルト保持部24を設ける必要がない。又、ボルト22は、合成樹脂部23の固定力とバスバー21のボルト保持部24の固定力によって固定され、その上、合成樹脂部23には従来例のような開口ができない。以上より、金型構造の単純化とボルト固定力の強度アップを図ることができる。
【0035】
この第2実施形態では、2箇所のボルト保持部24でボルト22の頭部22aを両側から挟み込むように保持するため、ボルト固定力の更なる強度アップを図ることができる。又、ボルト保持部24を3箇所以上に設け、3方向以上からボルト22の頭部22aを挟む込みように保持しても良い。
【0036】
又、従来例では、双方の金型部の開閉方向に平行にボルトをセットするのが通常であるが、本発明ではバスバー21にボルト22が保持されているため、双方金型部31,32の開閉方向に平行にボルトをセットしなくてもインサート成形が可能である。従って、第2実施形態のように双方の金型部31,32の開閉方向に平行にボルト22をセットする必要性がないため、ボルト22のセット位置の自由度が高いという利点もある。
【符号の説明】
【0037】
1,20 インサート成形品
2,21 バスバー(導電性部材)
3,22 ボルト
4,23 合成樹脂部
5,24 ボルト保持部
11,31 下方の金型部
12,32 上方の金型部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性部材と、前記導電性部材に密着されたボルトと、前記導電性部材と前記ボルトのインサート成形によって形成された合成樹脂部とを備えたインサート成形品であって、
前記導電性部材には、前記導電性部材に密着された前記ボルトを保持するボルト保持部が折り曲げによって設けられていることを特徴とするインサート成形品。
【請求項2】
請求項1に記載のインサート成形品であって、
前記ボルト保持部は、複数方向より前記ボルトを挟み込んで前記ボルトを保持することを特徴とするインサート成形品。
【請求項3】
ボルトを導電性部材の密着位置に配置するボルトセット工程を行い、
次に、前記導電性部材に折り曲げ加工を施してボルト保持部を形成し、前記ボルト保持部で前記ボルトを前記導電性部材の密着位置に保持するボルト保持工程を行い、
次に、前記導電性部材と前記ボルトをインサート成形して合成樹脂部を形成するインサート成形工程を行うことを特徴とするインサート成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のインサート成形品の製造方法であって、
金型部にセットされた前記ボルトは、前記金型部の開閉方向に対し斜め方向にセットされていることを特徴とするインサート成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−180977(P2010−180977A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26224(P2009−26224)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】