説明

インサート成形方法及びインサート成形装置

【課題】構造が簡単となって、インサート物の位置決めが確実に行え、インサート物に対して気密性が高く、また一次成形品と二次成形品とが綺麗な状態で融合して見栄えを良好にすること。
【解決手段】キャビティS1内に熱可塑性の合成樹脂Jを射出してインサート物IMを位置決め保持するための位置決め部LJが形成された一次成形品FJを作製し、作製された前記一次成形品FJに形成された前記位置決め部LJにて前記インサート物IMを位置決め保持し、その溶融温度が前記一次成形品FJのための合成樹脂Jの溶融温度と同等以上である合成樹脂JAをキャビティS2内に射出することにより前記位置決め部LJを溶融して、前記インサート物IMを封止して成形品を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融した合成樹脂をゲートを介して射出して、キャビティ内に配設されたインサート物を封止して成形品を作製するインサート成形方法及びインサート成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インサート部品の成形方法が、特開平9−38982号公報(特許文献1)に開示されているが、この方法では、インサート部品が配置されるキャビティを有する金型に、キャビティ内に突出してインサート部品を保持する進退動自在に保持ピンを備えると共に、少なくともキャビティに溶融した合成樹脂が充填されるときにその合成樹脂の融点以上の温度に前記保持ピンを加熱する加熱手段を備えた成形装置が用いられている。そして、保持ピンの溶融した合成樹脂と接触する表面を金型のキャビティに露出する表面よりも高い温度に加熱し、溶融した合成樹脂の充填完了前又は充填完了後に保持ピンを後退させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−38982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インサート部品の位置精度を高めるためには、保持ピンの加熱手段を温度管理して、保持ピンを後退させるタイミング調整を行う必要がある。このため、特別に設けられたインサート部品の温度管理及び後退に係る制御が必要であって、構造が複雑で、インサート部品の位置決めが甚だ面倒であった。
【0005】
そこで本発明は、上記の点に鑑み、構造が簡単となって、インサート物の位置決めが確実に行え、インサート物に対して気密性が高く、また一次成形品と二次成形品とが綺麗な状態で融合して見栄えを良好にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため第1の発明は、溶融した合成樹脂をゲートを介して射出して、キャビティ内に配設されたインサート物を封止して成形品を作製するインサート成形方法において、
前記キャビティ内に熱可塑性の溶融した合成樹脂を射出して前記インサート物を位置決め保持するための位置決め部が形成された一次成形品を作製し、
前記キャビティ内にて作製された前記一次成形品に形成された前記位置決め部により前記インサート物を位置決め保持し、
その溶融温度が前記一次成形品の作製のための合成樹脂の溶融温度と同等以上である溶融した合成樹脂を射出することにより前記位置決め部を溶融して、前記インサート物を封止して成形品を作製するようにしたことを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、溶融した合成樹脂をゲートを介して射出して、キャビティ内に配設されたインサート物を封止して成形品を作製するインサート成形方法において、
前記キャビティ内において、熱可塑性の合成樹脂から成る一次成形品に形成された位置決め部にて前記インサート物を位置決め保持し、
その溶融温度が前記一次成形品の作製のための合成樹脂の溶融温度と同等以上である溶融した合成樹脂を前記キャビティ内に射出することにより前記位置決め部を溶融して、前記インサート物を封止して成形品を作製するようにしたことを特徴とする。
【0008】
また第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記一次成形品に形成された前記位置決め部の前記ゲートに最も近い部位は前記インサート物と同じ高さ以上の高さとして、前記ゲートから最も遠い部位は前記インサート物と同じ高さ以下であることを特徴とする。
【0009】
また第4の発明は、第1の発明において、前記一次成形品が硬化を開始してから硬化する前に、インサート成形のために前記溶融した合成樹脂を射出するようにしたことを特徴とする。
【0010】
更に第5の発明は、溶融した合成樹脂をゲートを介して射出して、キャビティ内に配設されたインサート物を封止して成形品を作製するインサート成形装置において、
前記インサート物を位置決め保持する位置決め部を備えた熱可塑性の合成樹脂から成る一次成形品を前記キャビティ内に配設した状態下で、その溶融温度が前記一次成形品の作製のための合成樹脂の溶融温度と同等以上である溶融した合成樹脂を前記キャビティ内に射出して前記位置決め部を溶融することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造が簡単となって、インサート物の位置決めが確実に行え、インサート物に対して気密性が高く、また一次成形品と二次成形品とが綺麗な状態で融合して見栄えを良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インサート成形装置の縦断正面図である。
【図2】固定金型の底面図である。
【図3】一次成形動作説明のためインサート成形装置の要部の部分拡大図である。
【図4】二次成形動作における型閉めした状態のインサート成形装置の要部の部分拡大図である。
【図5】二次成形動作における溶融した合成樹脂の射出途中の状態のインサート成形装置の要部の部分拡大図である。
【図6】二次成形動作における溶融した合成樹脂を射出した状態のインサート成形装置の要部の部分拡大図である。
【図7】二次成形動作における保圧した状態のインサート成形装置の要部の部分拡大図である。
【図8】他の実施形態の固定金型の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図1に基づき、本発明のインサート成形装置の実施の形態について説明する。先ず、1は図示しない固定プラテンにボルトによって取り付けられた固定側組立体であり、この固定側組立体1は固定側第1ベースプレート2と、この固定側第1ベースプレート2にボルトによって固定された固定側第2ベースプレート3と、この固定側第2ベースプレート3にボルトによって固定された固定側第3ベースプレート4と、この固定側第3ベースプレート4に取り付けられる上金型である固定金型6と、前記固定プラテン寄りに設けられ固定側第1ベースプレート2を固定プラテンに対して位置決めするロケートリング7と、このロケートリング7に隣設して配設されたスプルーブッシュ8等とから成る。
【0014】
そして、前記スプルーブッシュ8の中心には射出ノズルから射出される溶融した熱可塑性の合成樹脂を通すための第1スプルー9が形成され、その下端部には第1ランナー10が形成され、この第1ランナー10の出口たる第2スプルー11が形成され、更にこの第2スプルー11の下端部には第2ランナー12が形成され、この第2ランナー12の出口たるゲート13が形成される。
【0015】
一方、20は図示しない可動プラテンにボルトによって取り付けられた可動側組立体であり、この可動側組立体20は可動側第1ベースプレート21と、この可動側第1ベースプレート21にボルトによって固定された可動側第2ベースプレート22(エジェクタプレート)と、この可動側第2ベースプレート22を囲むように前記可動側第1ベースプレート21にボルトによって固定された可動側第3ベースプレート23と、この可動側第3ベースプレート23にボルトによって固定された可動側第4ベースプレート24と、この可動側第4ベースプレート24の凹部内に嵌合してこの可動側第4ベースプレート24に固定される下金型である可動金型26等から成る。
【0016】
そして、前記可動側第3ベースプレート23に立設されたガイド棒(図示せず)が、固定側第3ベースプレート4に設けられたガイド孔に挿入して、このガイド孔に前記ガイド棒が案内されて可動側組立体20が上下可能となる。
【0017】
前記固定金型6を右方へ移動させた第1の状態では、この可動金型26上面に形成された凹部26Aと前記固定金型6の下面とで第1キャビティS1が形成され、この第1キャビティS1内に溶融した合成樹脂Jが射出され、一次成形品FJが作製される。
【0018】
また、前記固定金型6のキャビティSを形成する面には、図1に示すように、縦断面形状が直角三角形状(内方の底角が直角)を呈する溝から成る凹部5Aが、連続して底面から見て矩形状を呈するように形成される(図2参照)。従って、この凹部5A内の空間はキャビティSの一部を形成することとなり、作製された成形品、即ち一次成形品FJにインサート物IMを位置決め保持するための位置決め部LJが形成されることとなる。
【0019】
この場合、この凹部5Aを前記ゲート13に最も近い部位をその深さが最も深い凹部5A1とすると共に、この凹部5A1以外の他の部位の凹部5A2を前記凹部5A1より浅く形成する(図2参照)。即ち、前記位置決め部LJが前記インサート物IMを囲むように、このインサート物IMを位置決め保持した際に、この位置決め部LJの前記ゲート13に最も近い部位は前記インサート物IMと同じ高さ以上の高さとなるように(本実施形態では、前記インサート物IMより高い。)、それ以外の部位は前記インサート物IMと同じ高さ以下となるように(本実施形態では、前記インサート物IMより低い。)、前記凹部5Aは形成される。
【0020】
従って、前記一次成形品FJの上面に立ち上がって形成された平面視矩形状の前記位置決め部LJ(4壁面ある。)のうち、前記ゲート13に最も近い壁面である前記位置決め部LJは前記インサート物IMと同じ高さ以上の高さとなるように、他の3壁面である前記位置決め部LJは前記インサート物IMと同じ高さ以下となるように形成される。結果として、前記ゲート13に最も近い壁面である前記位置決め部LJは前記インサート物IMと同じ高さ以上の高さとなり、前記ゲート13に最も遠い壁面である前記位置決め部LJは前記インサート物IMと同じ高さ以下となる。
【0021】
なお、以上のような凹部5Aや、前記位置決め部LJに限らず、前記位置決め部LJが前記インサート物IMを位置決め保持した際に、この位置決め部LJの前記ゲート13に最も近い部位はインサート物IMよりも高くなるように、ゲート13から遠くなるに従い徐々に低くして最も遠い部位はインサート物IMよりも低くなるように形成するために、前記凹部5Aを形成してもよい。
【0022】
なお、前記インサート物IMは、例えば金属材料で作製されたものや、合成樹脂材料で作製されたものでも良い。しかし、合成樹脂材料で作製されたものである場合には、このインサート物IMの合成樹脂の溶融温度はインサート成形のための合成樹脂の溶融温度よりも高い。
【0023】
また、前記固定金型6を左方へ移動させた第2の状態では、この可動金型26上面に形成された凹部26Aと前記固定金型6の下面に形成された底面視矩形状の凹部5Bとで第2キャビティS2が形成される。この第2キャビティS2はインサート成形用のキャビティであって、前記固定金型6と可動金型26とを型開きした状態で、前記可動金型26の凹部26A内の前記一次成形品FJ上にインサート物IMを載置してセットする。
【0024】
この場合、前記一次成形品FJ上にインサート物IMを載置するときに、このインサート物IMはその周囲を位置決め部LJにて確実に位置決めされた状態に保持されることとなる。しかも、前記位置決め部LJの縦断面形状においては、内方の底角が直角であるから、確実に直方体形状を呈する前記インサート物IMを位置決め保持できる。なお、前記インサート物IMは直方体形状に限るものではなく、種々の形状があり得るが、その場合、前記位置決め部LJもこの前記インサート物IMの形状に合わせることで、確実に位置決め保持できる。
【0025】
このように、前述したように、一次成形品FJを射出成形するため又はインサート成形するための切替えのために前記固定金型6を移動させる機構・構造については、種々の切替え手段が考えられ、例えば前記固定金型6又は前記固定側第3ベースプレート4のいずれかに案内用の細長孔形状の案内孔又は案内溝を形成し、前記固定側第3ベースプレート4又は前記固定金型6のいずれかに前記案内孔又は案内溝に嵌合して案内されるガイド体を設けて、適宜な手段により前記固定金型6を移動させ、固定するが、前記固定金型6の移動、固定はそれぞれ自動的に行っても、又は手動で行ってもよい。
【0026】
なお、一次成形品FJを射出成形するため又はインサート成形するために、固定金型6の固定位置によって、前記第2スプルー11は、固定側第3ベースプレート4に形成される通路11Aと可動金型26に形成される通路11B1又は11B2とで構成されることとなる。また、同様に、一次成形品FJを射出成形するため又はインサート成形するために、第2ランナー12は可動金型26に形成されたランナー12Aのみで、又はランナー12Aと12Bとで形成されることとなる。更には、同様に、一次成形品FJを射出成形するため又はインサート成形するために、前記ゲート13は可動金型26に形成されたゲート13Aのみで、又はゲート13Aと13Bとで形成されることとなる。
【0027】
30は固定金型6寄りの前記固定側第3ベースプレート4に形成された熱媒体通路で、31は可動金型26寄りの可動側第4ベースプレート24に形成された熱媒体通路で、これらの熱媒体通路30、31には前記キャビティS内に射出される合成樹脂に適した温度に応じて固定側第3ベースプレート4、固定金型6、可動側第4ベースプレート24及び可動金型26が所定温度に維持されるように、常時熱媒体が供給される。
【0028】
以上の構成により、前記固定金型6を右方へ移動させた第1の状態にある場合において、初めに媒体通路30、31には常時加熱用の熱媒体が供給されて、前記固定側第3ベースプレート4、固定金型6、可動側第4ベースプレート24及び可動金型26が所定温度に維持されており、この状態下において、固定側組立体1と可動側組立体20とを、即ち固定金型6と可動金型26とを型閉めする(図1参照)。
【0029】
そして、この型閉めした後に、射出ノズルをスプルーブッシュ8に通して、溶融した合成樹脂Jを第1スプルー9、第1ランナー10、第2スプルー11(固定側第3ベースプレート4に形成される通路11Aと可動金型26に形成される通路11B1)、第2ランナー12(可動金型6に形成されたランナー12Aのみ)及びゲート13(可動金型26に形成されたゲート13Aのみ)を介して前記可動金型26と固定金型6とで形成されるキャビティS1内に射出する(図3参照)。
【0030】
そして、この溶融した合成樹脂Jを射出した後、この合成樹脂Jの圧縮密度を高めるため、圧縮を開始すると共に射出圧力を維持して保圧するが、合成樹脂Jが硬化を開始してから硬化する前に(「硬化が終了する前に」であり、以下同じ。)、前記可動金型26と固定金型6を型開きする。このようにして生産された一次成形品FJの上面には、前記固定金型6に形成された凹部5Aにより、インサート物IMを位置決めして保持するための位置決め部LJが形成されることとなる。
【0031】
次に、前述したように、インサート成形を行うために、前記固定金型6と可動金型26とを型開きして、この固定金型6と固定側第3ベースプレート4との固定を解除して前記固定金型6を左方へ移動させて、再度固定金型6と固定側第3ベースプレート4とを固定すると、この可動金型26上面に形成された凹部26Aと前記固定金型6の下面に形成された底面視矩形状の凹部5Bとで第2キャビティS2が形成される。
【0032】
また、型開きした状態で、前記可動金型26の凹部26A内の前記一次成形品FJ上にインサート物IMを載置してセットし、その周囲を位置決め部LJにて囲むように、確実に位置決め保持する。
【0033】
このように、前記一次成形品FJの前記位置決め部LJが前記インサート物IMを位置決め保持した際に、この位置決め部LJの前記ゲート13に最も近い部位は前記インサート物IMより高く、それ以外の部位は前記インサート物IMより低く形成される。
【0034】
そして、型閉めした後に、前記合成樹脂Jが硬化を開始してから硬化する前の状態の時に、この射出ノズルをスプルーブッシュ8に通して、前記一次成形品FJと同じ材料であって熱可塑性の溶融した合成樹脂JA、即ち溶融温度が同じである溶融した合成樹脂JAを第1スプルー9、第1ランナー10、第2スプルー11(前記固定側第3ベースプレート4に形成される通路11Aと前記可動金型26に形成される通路11B2)、第2ランナー12(前記可動金型6に形成されたランナー12Aと前記固定金型6に形成されたランナー12B)及びゲート13(前記可動金型26に形成されたゲート13Aと前記固定金型6に形成されたゲート13B)を介して前記可動金型26上面に形成された凹部26Aと前記固定金型6の下面に形成された底面視矩形状の凹部5Bとで形成されるキャビティS2内に射出する。
【0035】
この射出動作の途中において、図5の矢印に示すように、溶融した合成樹脂JAはゲート13に近い位置から前記一次成形品FJの位置決め部LJをその熱で溶融しながらキャビティS2内の奥方へ、即ち、一次成形品FJ及びインサート物IM上に沿ってキャビティS2内の奥方へ進んで、全ての位置決め部LJを溶融する。
【0036】
このとき、射出された溶融した合成樹脂JAは、立ち上がった4壁面から成る前記位置決め部LJのうち、前記ゲート13に最も近い壁面である前記位置決め部LJの斜辺に沿って上昇しながら移動することとなって、この位置決め部LJの高さは前記ゲート13に最も近い部位はインサート物IMよりも高いので、図5において点線で示すように、この前記ゲート13に最も近い壁面である位置決め部LJの頂部を溶融して、この溶融された頂部が上方から前記インサート物IMを下方へ押圧し、且つ射出された溶融した合成樹脂が前記インサート物IMを下方へ押圧しながら、キャビティS2内の奥方へ進むので、インサート物IMの位置ズレを防止できる。
【0037】
また、前記位置決め部LJの厚さは、射出された溶融した合成樹脂JAにより溶融できる程度の厚さとなるように、前記凹部5Aの形状を定めているので、射出された溶融した合成樹脂JAが進行するに伴い、確実に前記位置決め部LJは溶融されることとなる。従って、前記位置決め部LJと前記インサート物IMとの間に僅かな隙間があったとしても、前記位置決め部LJの溶融によって、気泡が閉じ込められることなく、前記インサート物IMと前記合成樹脂JAとが密着される。
【0038】
なお、前記ゲート13から最も遠い前記位置決め部LJも、射出された合成樹脂JAにより上方から押圧されるように溶融するので、前記インサート物IMと前記合成樹脂JAとが密着される。
【0039】
そして、二次成形のためにこの溶融した合成樹脂JAを射出した後(図6参照)、この合成樹脂JAの圧縮密度を高めるため、圧縮を開始すると共に射出圧力を維持して保圧すると、一次成形品FJと射出された合成樹脂JAとが融合して、インサート物IMと密着して一体化して(図7参照)、インサート物IMの全周囲を合成樹脂JAが被覆して封止することとなる。
【0040】
なお、前述したように、前記合成樹脂Jが硬化を開始してから硬化する前に、溶融した合成樹脂JAをキャビティS2内に射出するようにしたから、前記インサート物IMと合成樹脂とがより良く密着して一体化される。従って、前記合成樹脂Jが硬化してから、インサート成形のために、溶融した合成樹脂JAをキャビティS2内に射出する場合には、一次成形品FJをアニールする必要があるが、本実施形態によれば、このようなアニールをする必要がない。
【0041】
従って、インサート物IMに対して気密性、防水性が高く、また一次成形品と二次成形品とが綺麗な状態で融合して見栄えが良好である。しかも、キャビティ内に突出してインサート物を保持する進退動自在な保持ピンを設ける必要がないから、構造が簡単である。
【0042】
そして、キャビティS2より取り出すのに十分なほど合成樹脂JAが硬化したら、型開きして、エジェクターピンにより成形品を離型して、インサートされた成形品を前記固定金型6及び可動金型26から取り出し、次の成形品の生産に備える。
【0043】
なお、図2に示す固定金型6の底面に形成した凹部5Aの形状を、図8に示すような形状としてもよい。即ち、図2に示す実施形態にあっては、凹部5Aは縦断面形状が直角三角形状(内方の底角が直角)を呈し、しかも連続して底面から見て矩形状を呈するように形成したが、図8に示すように、必ずしも連続しない複数の溝から成る凹部5Cで構成してもよいし、更には図8における対角線上の一対の凹部だけでもよい。
【0044】
この図8の実施形態においては、前記位置決め部が前記インサート物IMを位置決め保持した際に、この位置決め部の前記ゲート13に最も近い部位はインサート物IMと同じ高さ以上の高さとなるように、それ以外の部位はインサート物IMと同じ高さ以下となるように、前記凹部5Cは形成される。即ち、この凹部5Cを前記ゲート13に最も近い部位をその深さが最も深い3つの凹部5C1とすると共に、この凹部5C1以外の他の部位の5つの凹部5C2を前記凹部5C1より浅く形成する(図2参照)。
【0045】
なお、図8の最左方の3つの前記凹部5C1のうち、図8の上下両端の2つの前記凹部5C1の前記ゲート13に最も近い部位(図8において、縦方向に延びている。)及び中間に位置する前記凹部5C1のみ、インサート物IMと同じ高さ以上の高さの位置決め部を形成するような深さとし、また両端の2つの前記凹部5C1の前記ゲート13に最も近い部位を除いた部位(図8において、横方向に延びている。)と5つの前記凹部5C2をインサート物IMと同じ高さ以下の高さの位置決め部を形成するような深さとする。更には、この場合、図8の上下両端の2つの前記凹部5C1の前記ゲート13に最も近い部位(図8において、前記凹部5C1の縦方向に延びている部位。)から前記ゲート13から最も遠い前記凹部5C2の部位(図8において、前記凹部5C2の縦方向に延びている部位。)に向けて、前記凹部5C1及び凹部5C2をゲート13から遠くなるに従い徐々に浅くなるように形成してもよい。
【0046】
従って、この凹部5C内の空間はキャビティS1の一部を形成することとなり、作製された一次成形品FJにインサート物IMを位置決め保持するための位置決め部が複数形成されることとなるが、以上のような前記固定金型6に形成される凹部の形状や、その個数は、インサート物の形状などに応じて、任意に選択して設計することにより対処できる。
【0047】
従って、固定金型6の凹部によって形成された一次成形品の位置決め部の形状は、断面形状が三角形に限らず、台形その他の四角形などでもよく、その厚さは射出された溶融した合成樹脂JAにより溶融できる程度の厚さであればよい。
【0048】
また、インサート成形に係る二次成形のための合成樹脂JAの溶融温度は、一次成形のための合成樹脂Jの溶融温度と同じである場合に限らず、同等以上であれば、インサート成形の際に一次成形品FJの位置決め部LJは溶かすことができるので、一次成形品FJと射出された合成樹脂JAとが融合して、射出された合成樹脂JAとインサート物IMと一次成形品FJとが一体化して(図7参照)、インサート物IMの全周囲を合成樹脂JAが被覆して封止することができる。
【0049】
以上の実施形態は1台の成形装置で、一次成形品FJの生産と、インサート物IMを合成樹脂が被覆して封止するインサート成形を行ったが、別の成形装置で位置決め部を備えた一次成形品を生産して、この一次成形品をインサート成形装置にセットしてインサート物をインサート成形してもよい。
【0050】
以上のように、本発明の実施態様について説明したが、上述の説明に基づいて当業者にとって種々の代替例、修正又は変形が可能であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で前述の種々の代替例、修正又は変形を包含するものである。
【符号の説明】
【0051】
5A、5C 凹部
6 固定金型
13 ゲート
26 可動金型
S1、S2 キャビティ
J、JA 合成樹脂
LJ 位置決め部
FJ 一次成形品
IM インサート物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した合成樹脂をゲートを介して射出して、キャビティ内に配設されたインサート物を封止して成形品を作製するインサート成形方法において、
前記キャビティ内に熱可塑性の溶融した合成樹脂を射出して前記インサート物を位置決め保持するための位置決め部が形成された一次成形品を作製し、
前記キャビティ内にて作製された前記一次成形品に形成された前記位置決め部により前記インサート物を位置決め保持し、
その溶融温度が前記一次成形品の作製のための合成樹脂の溶融温度と同等以上である溶融した合成樹脂を射出することにより前記位置決め部を溶融して、前記インサート物を封止して成形品を作製するようにしたことを特徴とするインサート成形方法。
【請求項2】
溶融した合成樹脂をゲートを介して射出して、キャビティ内に配設されたインサート物を封止して成形品を作製するインサート成形方法において、
前記キャビティ内において、熱可塑性の合成樹脂から成る一次成形品に形成された位置決め部にて前記インサート物を位置決め保持し、
その溶融温度が前記一次成形品の作製のための合成樹脂の溶融温度と同等以上である溶融した合成樹脂を前記キャビティ内に射出することにより前記位置決め部を溶融して、前記インサート物を封止して成形品を作製するようにしたことを特徴とするインサート成形方法。
【請求項3】
前記一次成形品に形成された前記位置決め部の前記ゲートに最も近い部位は前記インサート物と同じ高さ以上の高さとして、前記ゲートから最も遠い部位は前記インサート物と同じ高さ以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインサート成形方法。
【請求項4】
前記一次成形品が硬化を開始してから硬化する前に、インサート成形のために前記溶融した合成樹脂を射出するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のインサート成形方法。
【請求項5】
溶融した合成樹脂をゲートを介して射出して、キャビティ内に配設されたインサート物を封止して成形品を作製するインサート成形装置において、
前記インサート物を位置決め保持する位置決め部を備えた熱可塑性の合成樹脂から成る一次成形品を前記キャビティ内に配設した状態下で、その溶融温度が前記一次成形品の作製のための合成樹脂の溶融温度と同等以上である溶融した合成樹脂を前記キャビティ内に射出して前記位置決め部を溶融することを特徴とするインサート成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−232519(P2012−232519A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103328(P2011−103328)
【出願日】平成23年5月3日(2011.5.3)
【出願人】(311005024)株式会社フジ (1)
【Fターム(参考)】