説明

インジウムターゲットの製造方法及びインジウムターゲット

【課題】スパッタ時の異常放電の発生を良好に抑制することが可能なインジウムターゲットの製造方法及びインジウムターゲットを提供する。
【解決手段】インジウム原料を溶解鋳造する工程を含み、該工程においてインジウム原料を鋳型の下部から供給するインジウムターゲットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリングターゲットの製造方法及びスパッタリングターゲットに関し、より詳細にはインジウムターゲットの製造方法及びインジウムターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムは、Cu−In−Ga−Se系(CIGS系)薄膜太陽電池の光吸収層形成用のスパッタリングターゲットとして使用されている。
【0003】
インジウムターゲットは、従来、バッキングプレート上にインジウム合金等を付着させた後、金型にインジウムを流し込み鋳造することで作製されている。このようなインジウムターゲットの溶解鋳造法においては、鋳型に供給された原料インジウムが空気中の酸素と反応して酸化物を形成することがあるが、このような酸化物がインジウムターゲット中に存在していると、スパッタ時の異常放電の発生等の問題が生じる。
【0004】
このような問題に対し、特許文献1では、所定量のインジウム原料を一度に鋳型に供給せずに複数回に分けて供給し、都度生成した溶湯表面の酸化インジウムを除去し、その後、冷却して得られたインゴットを表面研削してインジウムターゲットを作製している。そして、これによれば、得られるインジウムターゲット中の酸化物の発生を抑制することができると記載されている。なお、特許文献1では、この方法による酸化物の発生の抑制に関するメカニズムについては正確な解析はできておらず、生成した酸化物(酸化インジウム)とインジウム溶体との分離性に原因があるのではと推定されているのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−24474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この様な溶解鋳造法でインジウムターゲットを作製しても、作製雰囲気に酸素が含有されている以上、酸化インジウムの発生を完全に抑制することはできず、且つ、インジウム原料複数回に分けて鋳型に供給することによって都度発生した酸化物の除去よりも、供給する間に発生する酸化物やその後に続いて行われる原料供給の際の酸化物の形成や巻き込み等によって、かえってインゴット中に酸化物を多く含有してしまうおそれがある。従って、特許文献1に記載された方法でも、インジウムターゲット中に発生する酸化物に起因するスパッタ時の異常放電を抑制することは難しい。
【0007】
そこで、本発明は、スパッタ時の異常放電の発生を良好に抑制することが可能なインジウムターゲットの製造方法及びインジウムターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討したところ、インジウム原料を溶解鋳造する工程において、インジウム原料を鋳型の下部から供給することによって、供給するインジウム原料の雰囲気中の酸素との接触を避けることで、酸化物の発生を良好に抑制することができることを見出した。
【0009】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、インジウム原料を溶解鋳造する工程を含み、該工程においてインジウム原料を鋳型の下部から供給するインジウムターゲットの製造方法である。
【0010】
本発明は別の一側面において、酸素濃度が0.0005質量%以下であるインジウムターゲットである。
【0011】
本発明に係るインジウムターゲットは一実施形態において、平均粒径が10mm以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スパッタ時の異常放電の発生を良好に抑制することが可能なインジウムターゲットの製造方法及びインジウムターゲットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るインジウムターゲットの製造方法の好適な例を順を追って説明する。まず、原料であるインジウムを溶解する。使用する原料インジウムは、不純物が含まれていると、その原料によって作製される太陽電池の変換効率が低下してしまうという理由により高い純度を有していることが望ましく、例えば、純度99.99質量%(純度4N)以上のインジウムを使用することができる。次に、溶解した原料インジウムを、鋳型の下部から流し込む。ここで、原料インジウムを供給する位置である「鋳型の下部」は、鋳型の底部、又は、鋳型の側面の底部から半分の高さにおけるいずれかの位置である。原料インジウムを供給する位置は、より下方であればあるほど好ましい。このため、「鋳型の下部」は、インジウムの供給部分が鋳型の底の部分と繋がっている位置であるのがより好ましく、鋳型の底部であるのが最も好ましい。
【0014】
その後、室温まで冷却して、インジウムインゴットを形成する。冷却速度は空気による自然放冷でよい。続いて、得られたインジウムインゴットを必要であれば所望の厚さまで冷間圧延し、さらに必要であれば酸洗、脱脂及び表面の切削加工を行うことにより、インジウムターゲットを作製する。
【0015】
このような製造方法によれば、原料インジウムが鋳型の下部から供給されるため、鋳型に供給された当初の原料インジウムの融液表面が雰囲気中の酸素によって酸化されて、その表面に酸化膜が形成される可能性がある。しかしながら、一旦、表面に酸化膜が形成されると、その後に続いて鋳型の下部から供給されるインジウム原料の融液は、酸化膜の下部にあるために、雰囲気中の酸素との接触を避けることができ、酸化されることが抑制される。雰囲気中の酸素により酸化が行われるとしても、せいぜい酸化膜の膜厚が少し厚くなる程度である。また、従来のインジウムターゲットの製造方法のように、原料インジウムの融液を鋳型に上部から注ぐと、融液が鋳型の底に到達した際に、その勢いによって種々の方向に飛び散るおそれがある。このとき、雰囲気中の酸素を巻き込んで微小な酸化物を形成することがあり、この酸化物が融液中に取り込まれ易くなる。これに対し、本発明の製造方法によれば、融液は鋳型の下部から供給されており、融液の暴れや乱れがないために、酸化物の生成が良好に抑制される。
【0016】
本発明のインジウムターゲットは、酸素濃度が0.0005質量%以下である。酸素濃度が0.0005質量%を超えると、スパッタ時に異常放電が発生するおそれがある。インジウムターゲットの酸素濃度は、好ましくは、0.0003質量%以下である。
【0017】
また、本発明のインジウムターゲットは、平均粒径が10mm以下であるのが好ましい。平均粒径が10mm超であると、成膜速度の低下という問題が生じるおそれがある。インジウムターゲットの平均粒径は、より好ましくは8mm以下である。
【0018】
本発明のインジウムターゲットは、例えば、CIGS系薄膜太陽電池用光吸収層のスパッタリングターゲットとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0020】
(実施例1)
直径205mm、高さ7mmの円柱状の鋳型の内部に160℃で溶解させたインジウム原料(純度4N)を、鋳型の底部から流し込んだ後、室温まで冷却して、円盤状のインジウムインゴット(直径204mm×厚み6mm)を形成した。続いて、このインジウムインゴットを10回圧延することで、厚み6mmのインジウムターゲットを作製した。
【0021】
(比較例1)
インジウム原料を上部から流し込んだ以外は、実施例1と同様の条件でインジウムターゲットを作製した。
【0022】
(比較例2)
溶解させたインジウム原料の供給を5回に分けて行った以外は、比較例1と同様の条件でインジウムターゲットを作製した。
【0023】
(評価)
実施例及び比較例で得られたインジウムターゲットについて、目視により、酸化物で形成されたと考えられる異物の存在の有無を確認した。また、目視で異物の存在が確認されなかったものについては、超音波深傷検査により酸化物の有無を確認した。
また、これら実施例及び比較例のインジウムターゲットについて、不活性ガス溶融赤外吸収法による分析により、ターゲット中の異物部分及び異物周辺部分について、それぞれ酸素濃度を測定した。
さらに、これら実施例及び比較例のインジウムターゲットを、ANELVA製SPF−313Hスパッタ装置で、スパッタ開始前のチャンバー内の到達真空度圧力を1×10-4Pa、スパッタ時の圧力を0.5Pa、アルゴンスパッタガス流量を5SCCM、スパッタパワーを650Wで30分間スパッタし、目視により観察されたスパッタ中の異常放電の回数を計測した。
また、これら実施例及び比較例のインジウムターゲットについて、平均粒径を表面研削と酸によるエッチングによって粒界を観察し易くした後に、ターゲットの中心部分の100mm×100mmの面積中の結晶粒を観察し、寸法測定によって粒径及び平均粒径を算出した。
各測定結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1では、インジウム原料を鋳型の底部から供給したため、雰囲気中の酸素による酸化が良好に抑制され、インジウムターゲット中の異物が目視により確認されず、異物部分及びその周辺の酸素濃度が極めて低いか、又は、検出されなかった。また、スパッタ時の異常放電も確認されなかった。また、構成粒子の平均粒径も小さかった。
比較例1では、インジウム原料を鋳型の上部から供給したため、インジウム原料が雰囲気中の酸素と接触する機会が実施例1と比べて非常に多く、インジウムターゲット中の異物が目視により確認され、異物部分及びその周辺の酸素濃度が高かった。また、スパッタ時の異常放電の回数も非常に多く、構成粒子の平均粒径も10mmを超えた。
比較例2では、インジウム原料を5回に分けて鋳型の上部から供給したため、比較例1と比べると表中の全ての項目で改善が見られたが、実施例1と比べると、異物部分又はその周辺の酸素濃度が高く、スパッタ時の異常放電も観察され、構成粒子の平均粒径も高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム原料を溶解鋳造する工程を含み、該工程においてインジウム原料を鋳型の下部から供給するインジウムターゲットの製造方法。
【請求項2】
酸素濃度が0.0005質量%以下であるインジウムターゲット。
【請求項3】
平均粒径が10mm以下である請求項2に記載のインジウムターゲット。