説明

インスリン治療のための薬学的組成物及びその供給装置

【課題】インスリンの透過性が改善されたインスリンの経鼻送達するのに適した形状の薬学的組成物を提供する。
【解決手段】インスリン、透過促進剤、及び液体担体を含み、pHは、4.5以下である。透過促進剤として、特定のHsieh促進剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2003年12月8日に出願された合衆国仮出願60/527728号の優先権を主張し、その開示は全体で引用例としてここに組み込まれている。
【0002】
本発明は、インスリンの送達のための組成物及び方法に関し、より特に、皮膚及び、眼、鼻、口(oral)、口腔(buccal)、肛門、直腸、膣及び血液脳関門等の各種体腔の膜、及び類似の膜を経る注入によるもの以外のインスリンの送達のための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
インスリンは糖尿病を患う患者を処置するために一般に用いられる。通常、インスリンは注入によって患者に送達される。
【0004】
下記特許文献1は、注入によるもの以外の投与法によるインスリンの送達のための組成物を開示する。より特に、前記特許文献は注入を要さない皮膚及び体腔の膜を経由するインスリンの送達のための透過促進剤を含む組成物の使用を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5023252号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記組成物及びその供給装置に関する改善に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にしたがって、(A)インスリン、(B)透過促進剤、及び(C)液体担体を含む薬学的組成物が提供され、ここで前記組成物は酸性pHにあるものである。
【0008】
出願人は、インスリンと透過促進剤の組み合わせを包含する組成物を用いた場合、組成物が酸性pHにある場合には、改善された結果が得られることを発見した。
【0009】
本発明はさらに、4.5以下の酸性pHを持つ、インスリン、透過促進剤及び液体担体の組み合わせで、インスリンを必要とする患者を処置することに関する。好ましくは組成物のpHは4以下で、2より下ではない。pHは好ましくは最低2である。
【0010】
通常、組成物のpHは最低2であり、4.5以下である。好ましい実施例において、pHは4以下である。pHの好ましい範囲は2.5から3.8の間である。一つの好ましい実施例において、pHは約3である。
【0011】
組成物のpHは適当な緩衝剤(バッファ)の使用により維持され得る。所望のpHを維持するためのバッファの選択は、ここで説明された教示に基づいてこの分野における通常の知識を有する者の範囲内にあると思われる。適当なバッファの代表例としては、クエン酸バッファ、リン酸バッファ等がよく使われているものとして、また医療処方に適しているものとして言及され得る。
【0012】
通常、用いられる透過促進剤は、体腔の膜を介したインスリン組成物の透過を促進するものである。
【0013】
通常、用いられる透過促進剤は、体腔の膜を介した、特に鼻粘膜を介したインスリン組成物の透過を促進するものである。
【0014】
有効量のインスリンを包含する組成物において、好ましい透過促進剤は以下の構造の化合物である。

【0015】
ここで、X及びYは酸素、硫黄あるいは、構造

あるいは=N−Rのイミノ基であり、ただしYがイミノ基の場合、Xはイミノ基であり、Yが硫黄の場合、Xは硫黄あるいはイミノ基である。Aは構造

を持つグループであり、ここでX及びYは上記のように定義される。m及びnは1から20の値を持つ整数であり、m+nの合計は25以下である。pは0あるいは1の値を持つ整数である。qは0あるいは1の値を持つ整数である。rは0あるいは1の値を持つ整数である。またR、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のそれぞれは、R1からR6の一つのみがアルキル基であるという条件で、無関係に水素あるいは、直鎖あるいは枝分かれした1から6の炭素原子を持つアルキル基である。ただし、p、q及びrが0の値を持ち、Yが酸素である場合、m+nは最低11であり、またさらなる条件としてXがイミノ基、qが1、Yが酸素、p及びrが0の場合、m+nは最低11であり、前記化合物は体膜を経る薬剤の通過速度を促進するであろう。以下、これらの化合物は促進剤と称される。R、R1、R2、R3、R4、R5あるいはR6がアルキルである場合、それはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、アミル、ヘキシル等であり得る。前記透過促進剤は、合衆国特許第5023252号及び合衆国特許第5731303号に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】平均グルコース値を示す図
【図2】平均インスリン値を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
好ましくは、本発明の化合物は環状ラクトン(化合物はここでX及びYの両方ともが酸素、qが1、rが0)、環状ジエステル(化合物はここでX及びYの両方ともが酸素、q及びrの両方ともが1)、及び環状ケトン(化合物はここでq及びrの両方ともが0、Yが酸素)である。環状ジエステルにおいて、m+nは好ましくは最低3である。環状ケトンにおいて、m+nは好ましくは11から15であり、pは好ましくは0である。
【0018】
上記構造式の促進剤は、ここで“Hsieh促進剤”と称され、例えば上記合衆国特許第5023252号及び第5731303号(以下“Hsieh特許”)に開示される。
前記促進剤は脂溶性であり、また本発明の組成物が適用される膜(以下“標的膜”)を傷めないことを意味する“膜適合性”である。前記促進剤はまた低レベルの被刺激性あるいは非被刺激性を標的膜にもたらし、実際軟化剤として働く。
【0019】
本発明における使用のための好ましい促進剤は、大環状促進剤である。“大環状”という用語は、ここでは環中に最低12個の炭素を持つ環状化合物について言及するために用いられる。本発明に用いるための好ましい大環状促進剤の例は、(A)大環状ケトン、例えば3メチルシクロペンタデカノン(ムスコン)、9−シクロヘプタデセン−1−オン(シベトン)、シクロヘキサデカノン、及びシクロペンタデカノン(ノルムスコン(normuscone))、及び(B)大環状エステル、例えばオキサシクロヘキサデカン−2−オン(シクロペンタデカノリド、ω−ペンタデカラクトン)等のペンタデカラクトンを含む。
【0020】
オキサシクロヘキサデカン−2−オン及びシクロペンタデカノンが特に好ましい。
【0021】
上記のものが好ましい透過促進剤であるが、この分野における通常の知識を有する者は、この教示が他の透過促進剤にも適用可能であることを認識しているであろう。本発明において有用な他の透過促進剤の限定されない例としては、各種の薬局方大要で一般に安全と認められる(Generally Recognized As Safe)(GRAS)単長鎖エステルがある。これらは中間長鎖までの単純脂肪族不飽和あるいは飽和(好ましくは完全飽和)エステルを含み得る。前記エステルの限定されない例としては、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸オクチル等が含まれる。前記促進剤は、薬学的組成物での使用に適したものである。
この分野における通常の知識を有する者はまた、これらの材料のうち粘膜に不適合であるかあるいは粘膜を刺激するものは避けるべきであることを認識しているであろう。
【0022】
促進剤は、膜を通して送達されるインスリンの透過を促進するのに有効な濃度で組成物中に存在する。使用する促進剤の量を決定するにあたって、様々なことを考慮すべきである。前記考慮すべきことには、例えば得られる流動量(膜の通過率)、製剤中の成分の安定性及び親和性が含まれる。促進剤は通常、組成物の約0.01から約25重量%の量で、より一般的には組成物の約0.1から約15重量%の量で、好ましい実施例においては組成物の約0.5から約15重量%の量で用いられる。
【0023】
液体担体は、本発明の組成物の適当な輸送手段として働くのに有効な濃度で組成物中に存在する。通常、前記担体は組成物の約40から約98重量%の量で、好ましい実施例においては組成物の約50から約98重量%の量で用いられる。
【0024】
本発明のインスリン組成物は好ましくは鼻内噴霧で送達される。このような実施例において、好ましい液体担体は、治療上有効な量のインスリンが分散あるいは溶解する水である。
【0025】
一つの好ましい実施例において、透過促進剤はインスリンを包含する水相中に乳化する。前記乳化は、一つあるいはそれ以上の適切な界面活性剤を用いてもたらすことができる。適切な界面活性剤の選択は、ここでの教示に基づいてこの分野における通常の知識を有する者の範囲内にあると思われる。基本的に、任意の適切な界面活性剤あるいは界面活性剤の混合物、例えば陰イオン、陽イオン、非イオン性界面活性剤が本発明の実施に用いることができる。好ましい界面活性剤は、約7から特に好ましくは約14の親水性−新油性バランス(HLB)を持つ非イオン性界面活性剤である。前記非イオン性界面活性剤の例としては、PEG−60トウモロコシグリセリド、PEG−20モノステアリン酸ソルビタン、フェノキシ−ポリ(エチレンオキシ)エタノール、モノオレイン酸ソルビタン等がある。特に好ましくは、食品用公定化学品集(Food Chemicals Codex)国民医薬品集(National Formulary)、米国薬局方(U.S. Pharmacopeia)、及び連邦規制基準(Code of Federal Regulations)等の大要に開示されている簡潔な界面活性剤である。乳液(エマルジョン)の液滴の平均直径は、約500nmから約20μm、より好ましくは約1μmから約10μmであることが好ましい。通常、界面活性剤は組成物の約2重量%以下の量で、より一般的には組成物の約0.5重量%以下の量で存在する。
【0026】
一つの好ましい実施例において、透過促進剤を包含する乳化あるいは不連続相は液滴の形状である。通常、より小さい液滴がより優れた安定性を与える。大きな液滴ほど不安定性の原因となり、また保存期間を短縮する。好ましい実施例において、液滴サイズは0.1ミクロンから20ミクロンの範囲、好ましくは0.1ミクロンから5ミクロンの範囲である。
【0027】
通常インスリンを包含する組成物は冷蔵室に保存され、このような冷蔵は透過促進剤の結晶化を引き起こし得る。前記結晶化を阻止あるいは防止するために、好ましい実施例において組成物は透過促進剤の結晶化を阻止するために一つあるいはそれ以上の結晶化阻害剤を包含する。結晶化は、その進行を許すと、エマルジョンを不安定にし、保存期間に悪影響を与える。好ましい結晶化阻害剤は、関連する化合物が結晶化する温度を下げることにより機能する。前記結晶化阻害剤の例としては、天然油、油性物質、ワックス、エステル及び炭化水素が含まれる。天然油あるいは油性物質の例としては、ビタミンE酢酸塩、パルミチン酸オクチル、ゴマ油、大豆油、紅花油、アボカド油、ヤシ油及び綿実油が含まれる。適切な結晶化阻害剤の選択は、ここでの教示からこの分野における通常の知識を有する者の範囲内であると思われる。好ましい結晶化阻害剤は、透過促進剤が結晶化する温度を下げることにより機能する。
【0028】
関連する化合物の結晶化温度を約25℃より下に下げることができる阻害剤が特に好ましく、関連する化合物の結晶化温度を約5℃より下に下げることができるものがとりわけ好ましい。オキサシクロヘキサデカン−2−オンの結晶化の阻止に用いられる特に好ましい結晶化阻害剤の例としては、ヘキサデカン、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、綿実油、紅花油及びビタミンE酢酸塩が含まれ、それぞれは医薬品に用いることができる。
【0029】
結晶化阻害剤は透過促進剤の結晶化を阻止するのに有効な濃度で組成物中に存在する。
通常、結晶化阻害剤は組成物の約0.001から約5重量%の量で、より一般的には組成物の約0.01から約2重量%の量で存在する。一実施例において、結晶化阻害剤は組成物の約0.1から約1重量%の量で存在する。結晶化阻害剤は、好ましくは促進剤の結晶化温度が約0℃以上の場合に用いられるものである。特に、例えば結晶化阻害剤は、好ましくは促進剤がペンタデカラクトン及びまたはシクロヘキサデカノンである場合に、これらは室温以上で結晶化するため、用いられる。
【0030】
本発明の組成物は通常、鼻内噴霧塗布器により送達される。鼻腔内塗布が望まれる場合には、組成物は鼻腔内噴霧投与装置あるいは噴霧器に入れられ、鼻腔の粘膜に送達するために患者の鼻腔に吹き付けることにより塗布することができる。所望の全身あるいは局所的薬剤レベルが得られるように、十分な量が塗布される。鼻腔内噴霧では通常、約200マイクロリットルまで塗布され、約50から約150マイクロリットルの塗布が好ましい。一つあるいはそれ以上の鼻腔に投与することができ、塗布は要望に応じてあるいは必要に応じて何回でも行うことができる。好ましい実施例において、鼻内噴霧塗布器は平均サイズ約10ミクロンから約200ミクロンの組成物の液滴を供給するものが選択される。
より一般的には、液滴サイズは約30ミクロンから約100ミクロンである。
【0031】
通常、本発明のインスリン噴霧組成物は処置される患者によって決まる投与方式で用いられる。したがって使用頻度及び投与量は患者毎に異なり得る。通常、投与される量(粘膜から吸収された後内在化する量)は約3IUから約15IUであり、投与頻度は一日に3から4回である。この分野において知られているとおり、インスリン療法による糖尿病等の疾患の治療法は患者毎に異なり、既知のインスリン療法とここでの教示に基づいて、この分野における通常の知識を有する者は特定の患者あるいは患者群への投与方式及び投与量を選択することができる。
【0032】
本発明の組成物はインスリンを含む。インスリンは治療上有効な量で組成物中に存在する。通常、インスリンは組成物の約0.01から約15重量%の量で、より一般的には組成物の約0.01から約10重量%の量で存在する。一実施例において、インスリンは組成物の約0.1から約5重量%の量で存在する。
【0033】
好ましい実施例は製剤化された組成物であるが、製剤化されていない上記組成物で患者を処置することができることもまた本発明の範囲内である。すなわち、液体担体中のインスリンと促進剤は塗布時に混合することができ、例えばここで混合は組成物の塗布時に噴霧器中で行われる。
【0034】
以下本発明の好ましい実施例が開示されるが、これらは限定するものと見なされるべきものではない。
【実施例1】
【0035】
本発明の4つの別個の水性インスリンエマルジョン(処方A、B、C及びD)を、以下の表に開示された処方にしたがって調製した。成分CPE−215は出願人が特許権を有する化合物であり、シクロペンタデカノリドとして知られており、鼻粘膜を通したインスリンの移行を促進するものである。
【0036】

【実施例2】
【0037】
C−ペプチド血中濃度は、ヒトがインスリンを産生しているか否か、及びその大よその量の指標とすることができる。インスリンは最初膵臓内でプロインスリンとして合成される。この形態では、活性化インスリンのアルファ鎖及びベータ鎖が、結合(connecting)ペプチド、略してC−ペプチドと呼ばれる第三のポリペプチド鎖で連結されている。インスリンとC−ペプチド分子の双方が分泌されることから、血中のインスリン全分子に対して、一つのC−ペプチドがある。したがって、血中のC−ペプチドレベルを測定し、インスリン産生の指標とし用いることができる。この場合、(注入による)外因性インスリンが存在し、(体内で産生された)内因性インスリンと混合しているため、インスリン自体の測定は無意味となる。C−ペプチド試験はまた、高血糖がインスリン産生の低下が原因であるか、あるいは細胞によるグルコース取り込みの低下が原因であるかを判断する助けとして用いることができる。1型糖尿病を患うヒトの血中にはC−ペプチドがほとんどないかあるいは全くない。また2型糖尿病でのC−ペプチドレベルは減少しているかあるいは正常である。非糖尿病患者におけるC−ペプチドの濃度はおよそ0.5から3.0ng/mlである。
【0038】
本発明の組成物の評価は、以下に示すようにin vivoで実施した。
【0039】
鼻腔内投与CPE−215/インスリン処方のユカタンミニブタにおける薬物動態及び薬力学
この研究は、NIH「実験動物の管理と使用に対する指針(Guide For the Care and Use of Laboratory Animals)」及び連邦動物福祉法(Federal Animal Welfare Act)にしたがって実施され、またニューハンプシャー大学動物管理及び使用制度委員会(The University of New Hampshire Institutional Animal Care and Use Committee)の認可した手順にしたがった。この研究の目的は、ユカタンミニブタへの鼻腔内投与送達後のインスリン処方の薬物動態及び薬力学的有効性を評価し特徴付けることであった。
【0040】
以前にビーグル犬において(Hseih、1993年)、シクロペンタデカノリドが鼻粘膜を通したインスリンの移行を促進することが確認されている。これを、ヒト志願者における評価への一歩としてミニブタで検証するために、処方をインスリン血中濃度と糖力学(glucodynamics)について評価した。
【0041】
材料、方法及び処方
試験した処方は、アクゾノーベル社(Akzo Nobel,Inc.)の一部門であるディオシンス社(Diosynth,Inc.)から入手した医薬品等級ヒト組み換えインスリンを含む水性インスリンエマルジョンであった。これらの処方は組成物中でわずかに変化するが、それぞれ1%w/wのインスリン及び2%w/wのCPE−215を含む。これらの処方は、アメリカのバロア(Valois)によりヒト用に開発された鼻腔内噴霧器から投与された。それぞれ100マイクロリットルの二吹きが、予め留置頸静脈カテーテルを挿入されたブタに投与された。各100マイクロリットルの噴霧が、インスリン1ミリグラムあるいは大よそ25IUに分注された。アメリカのバロアにより提供されたアクチュエータのエクステンションが用いられ、その必要性(前庭及び迷路鼻甲介領域(vestibule and labyrinthine turbinate region)の吸収面への処方の送達の必要性)は、予備試験的研究において判断した。
100マイクロリットルを投与する同じアクチュエータが、付属のエクステンションと合わせて用いられた。これらの鼻腔内送達投与は、陽性コントロールとして皮下に投与された(SQ)3ユニットのインスリンと比較された。
【0042】
動物プロトコル
4匹のメスユカタンミニブタをUNHミニブタ研究農場から購入した。研究期間中は、ブタは環境を制御した研究動物飼育室(温度25+/−2℃、12時間明/暗サイクル)で飼育され、市販の研究ブタ餌が与えられ、いつでも水を自由に摂取できるようにした。
ブタは以下の21週齢ユカタンメスであった。
【0043】
ブタ#1、タグ121−5;研究開始時重量:16.8kg;DOB 11/26/02
ブタ#2、タグ121−4;研究開始時重量:22.3kg;DOB 11/26/02(記:#1及び#2は同腹子である)
ブタ#3、タグ122−7;研究開始時重量:18.3kg;DOB 12/1/02 ブタ#4、タグ122−9;研究開始時重量:15.5kg;DOB 12/1/02(記:#3及び#4は同腹子である)
【0044】
カテーテル法手順
動物は、研究のために、研究開始4から6日前に頸静脈カテーテルの外科的移植を行った。キシラジン及びケタミンの筋肉内投与による十分な鎮静後、動物はマスクされ、イソフルラン麻酔及び酸素の吸入による深い外科麻酔をもたらすために維持した。動物を、背面を地面につけた姿勢で、右頸部しわを皮膚切開し、続いて胸郭入り口の頭方の右頸部静脈を露出するために、皮下及び血管周囲の結合組織を鈍的切開した。内径0.050インチ長のタイゴン(Tygon)(登録商標)静脈内カテーテル管をクランプ固定した静脈の小切開部分から挿入し、前部大静脈の末端(頸部切開位置から大よそ12から15cm)に配置した。カテーテルを静脈及び深皮下組織に縫合結紮した。カテーテルの頭方の頸部静脈をポリプロピレン縫合糸で縛った。カテーテルの自由端は、鈍的切開によって皮下組織を通して肩甲骨間の背側に送られ、小皮膚切開部を貫通し、ポリプロピレン縫合糸で皮膚に縫合結紮した。カテーテルをシリンジ結合具で蓋をし、抗血栓症製剤で満たした。
抗血栓症製剤は、60%(w/v)ポリビニルピロリドン(10000mw、PVP−10)及び生理的食塩水/ヘパリンナトリウム(100ml当たりヘパリン50000ユニット)よりなる。皮下組織及び頸部しわの皮膚切開部を、それぞれ合成吸収性縫合糸及びポリプロピレン縫合糸で閉じた。動物には、カテーテルと皮膚切開部を保護するために無理なく包袋を巻き、犬カテーテル作業用に作られたベストで覆った。鎮痛剤として筋肉内ブトルファノールを直ぐに、また手術から12時間後に投与した。
【0045】
研究デザイン
投薬時、ブタをつり布で拘束した。ブタはその後それぞれ個々の囲い内を自由に動くことができ、血液採取の時にのみ、木製の可動ゲートのある囲い前の狭い場所に一時的に拘束した。各ブタには、2週間にわたって4つの異なる処方のそれぞれを2回、処置間を最低18時間として投与した。鼻腔内投与(処方B、C、D)は、各鼻腔につき一回のエアロゾル投与器(ヒト型鼻腔内アクチュエータ)を介した1%インスリンエマルジョン100μlの配合(総量50IU)を伴い、また皮下投与(処方A)は、22ゲージ針を装着した1cc滅菌シリンジ(3IU)を用いた0.1%緩衝滅菌溶液1200μlの配合を伴う。ブタ間の投与間隔を計測したが、大よそ5分であった。
【0046】
基準静脈血材料を鼻腔内あるいはSQインスリン投与の直前に回収し、その後血液を塗布後0(処置直前)、15、30、45、60、90、120及び180分でサンプリングした。出血は、ブタ間で別々に大よそ5分であり、間隔は、目標時間の1分内で投与時間に関連して調節した。各ブタは、健康であることを確認するために、各血液採取時間に市販の携帯型グルコメータ(glucometer)で観察した。血液をヘパリンナトリウム化(sodium heparinized)ガラス管に採取した。血漿を回収し、インスリン、C−ペプチド及びグルコースについての分析まで−20℃で保存した。処置の日は8日間であり、4匹のブタのそれぞれは毎日処置した。各ブタが日々異なる処置を受けるように、以下のスケジュールにしたがってブタをクロスオーバー(二つの連続する同一のラテン方陣)させた。
【0047】
処置スケジュール
【0048】

【0049】
処置/日
【0050】

【0051】
サンプル採取及び分析法
市販のインスリン用RIA分析キット(Linco research,Inc.;ヒトインスリン特異的RISキット、Cat#HI−14K)を用いて、ヘパリン化血漿のインスリン濃度を分析した。インスリンはマイクロ国際単位(International Unit)/血漿のミリリットル(μU/mL)で記録した。C−ペプチドは、市販のブタC−ペプチド特異的キット(Linco research,Inc.;ブタC−ペプチドRIAキット、Cat#PCP−22K)で分析し、ng/mLの単位で記録した。
【0052】
グルコースは、グルコメータ(Lifescan(J&J)One Touch Fast Take)を用いて回収した時に、研究室で市販の酵素分析(Sigma Diagnostics、Procedure 315)を用いて、mg/dLで測定した。
【0053】
プロトコルからの偏差
プロトコルからの偏差はなかった。
【0054】
グルコースについての結果
結果は、ヘキソキナーゼ酵素法により血中で測定されたように、血中グルコース濃度の十分な減少を示し、この陽性コントロールであるSQインスリンと同量であった。SQ投与では処方後平均30分で最低グルコースレベルに達した。鼻腔内処方Bでは、より急速に起こる優れた糖力学的(glucodynamic)減少が見られ、最低値まで15分かあるいはそれ以上早くに到達し、しかしながらSQ(180分)よりも短い継続期間(90から120分)であった。処方CはBと同様に急速な発現が見られたが、程度は低かった。処方Dは相当程度の糖力学的活性を持っていなかった。投与中及び毎日の双方の再現性は、良好であった(いずれの処置の変化も著しく異なることはなかった。P<0.05)(図1参照)。
【0055】
酵素的グルコース分析は、血液採取時に行われた対応するグルコメータの結果と相関が認められた(r=0.9575;p<0.0001)。
【0056】
インスリンについての結果
結果は、処方A、SQ陽性コントロールについて優れた血中インスリン濃度が示され、平均Cmax59.85μU/mLで平均値は15分で頂点に達した(図2参照)。
【0057】
処方Bは、他の処方よりも非常に高い血中濃度を示し、平均Cmax182.4μU/mLで15分で頂点に達した(図2参照)。
【0058】
処方Cは、AあるいはBよりも低い血中濃度を示し、これは酸性様式と比べて生理的pHではインスリンの送達が減少することを示し、処方Cは15分でCmax64.59μU/mLであった(図2参照)。
【0059】
処方Dは、絶食基準値からの変化はほとんど示さなかった。Cmaxは観察されなかった(図2参照)。
【0060】
C−ペプチドについての結果
絶食未処理動物(時間0)についてのC−ペプチドは平均0.35ng/mL(n=36)であった。4つの処置の作用の発現は、糖力学について得られたそれぞれの曲線と類似していた。C−ペプチドの低下の発現は、処置Bがより早く、続いてA、続いてC、続いてDであった。処置AはC−ペプチドのもっとも長い低下が見られ、大よそ3時間であった。一方他の処置はこの時間では正常値であり、これは内因性インスリン産生の回復を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に経鼻送達するのに適した形状の薬学的組成物であって、
治療上有効な量のインスリン、透過促進剤、及び液体担体を含み、
前記組成物は、酸性pHであるが、pH4.5以下であり、
前記透過促進剤は、構造

ここで、Xは酸素、硫黄、又は、構造

のイミノ基であり、
また、ここで、Yは酸素、硫黄、又は構造
=N−R
のイミノ基であり、
ただしYがイミノ基の場合、Xはイミノ基であり、Yが硫黄の場合、Xは硫黄あるいはイミノ基であり、
Aは構造

を持つ基であり、
ここでX及びYは前記のように定義され、
m及びnは1から20の値を持つ整数であり、m+nの合計は25以下であり、
pは0あるいは1の値を持つ整数であり、
qは0あるいは1の値を持つ整数であり、
rは0あるいは1の値を持つ整数であり、
またR、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のそれぞれは、R1からR6の一つのみがアルキル基となり得るという条件で、それぞれ独立に水素あるいは、直鎖あるいは枝分かれした1から6の炭素原子を持つアルキル基であり、
ただし、p、q及びrが0の値を持ち、Yが酸素である場合、m+nは最低11であり、またさらなる条件としてXがイミノ基、qが1、Yが酸素、p及びrが0の場合、m+nは最低11である、
を有するHsieh促進剤であることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の薬学的組成物において、
前記酸性pHは、約2から約4であることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の薬学的組成物において、
さらに結晶化阻害剤を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薬学的組成物において、
前記組成物は、エマルジョンの形状であり、
前記Hsieh促進剤は、インスリンを包含する水相中に乳化されることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の薬学的組成物において、
前記Hsieh促進剤は、大環状透過促進剤であることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の薬学的組成物において、
前記Hsieh促進剤は、シクロペンタデカラクトンあるいはシクロヘキサデカノンであることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載の薬学的組成物において、
前記透過促進剤は、約7から約14のHLBを有する界面活性剤により前記水相中に乳化されることを特徴する薬学的組成物。
【請求項8】
請求項3に記載の薬学的組成物において、
前記結晶化阻害剤は、天然油、油性物質、ワックス、エステル及び炭化水素より成るグループから選択されることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の薬学的組成物において、
インスリンを用いた患者の治療方法に用いられることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の薬学的組成物を供給するための薬学的組成物供給装置であって、
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の薬学的組成物を内包した、鼻内噴霧塗布器、鼻腔内噴霧投与装置、あるいはアトマイザーを含むことを特徴とする薬学的組成物供給装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−292820(P2009−292820A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166623(P2009−166623)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【分割の表示】特願2006−543887(P2006−543887)の分割
【原出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(508361818)シーペックス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】