説明

インターフェロンαの産生促進又は抑制物質のスクリーニング方法

【課題】 インターフェロン制御因子7(IRF7)と相互作用するインターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)のToll様受容体7(TLR7)又はToll様受容体9(TLR9)シグナル伝達経路を介するインターフェロンαの産生促進又は抑制する物質のスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】 IRAK−1IRF7とを、被検物質が存在する細胞内で発現させ、IRAK−1とIRF7との会合の程度を測定したり、IRAK−1によるIRF7のC末端のリン酸化の程度を、被検物質の存在下にインビトロで測定したり、TLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスや該マウス由来の細胞に、被検物質とTLR7リガンド又はTLR9リガンドを投与又は刺激し、モデルマウスや由来の細胞におけるインターフェロンαの産生量やIRF7の活性化の程度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターフェロン制御因子7(IRF7)と相互作用するインターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)のToll様受容体7(TLR7)又はToll様受容体9(TLR9)シグナル伝達経路を介するインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法に関する。
【0002】
また本発明は、TLR7又はTLR9を介したシグナル伝達経路において、IRF7の活性化に必須の制御因子としてのインターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)の使用方法や、TLR7又はTLR9を介したシグナル伝達経路において、IRF7を活性化してインターフェロンαの産生を誘導する必須の制御因子としてのインターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)の使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
トール様受容体(TLR)は、異物を認識することで、活性化シグナルを伝え、樹状細胞成熟化を誘導する獲得免疫のリンクに重要なレセプター分子であり、哺乳動物における自然免疫応答に重要な役割を果たしている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。これまでに、TLRファミリーとして11種類の受容体が同定されている(例えば、非特許文献3)。これらの受容体のうち、TLR7、8、9は、それぞれが密接な分子構造をもち、核酸リガンドを認識することにより同様の免疫応答を示すことが知られている(例えば、非特許文献4参照。)。TLR7及びTLR8は、一本鎖RNA(ssRNA)や、イミダゾキノリンを認識し、TLR9は、細菌性DNAや、CpGオリゴデオキシ核酸分子(CpG ODN)を認識する(例えば、非特許文献5〜10参照)。これら核酸リガンドとの結合時に、TLR7やTLR9は、TIRドメインを含むアダプターMyD88をリクルートする。さらに、MyD88は、デスドメイン間の同分子種間相互作用(homophilic interaction)を通じ、インターロイキン1受容体結合キナーゼ(IRAK)ファミリーメンバーと会合する。TNF受容体結合因子6(TRAF6)もTLR受容体複合体にリクルートされ、最終的にNF−κBとMAPキナーゼ(MAPKs)が活性化される。これらのメカニズムにより、TNF−α、IL−6、IL−1β、IL−12等の炎症性サイトカインが誘発される(例えば、非特許文献3参照)。これらは、MyD88依存性伝達経路と呼ばれるTLRシグナルにおける既知の伝達経路である(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
IRAKファミリーメンバーには、IRAK−1、IRAK−2、IRAK−M、IRAK−4を含む4つのファミリーメンバーが知られている(例えば、非特許文献11〜14参照)。これら4つのファミリーメンバーの中で、IRAK−1とIRAK−4だけが内在性セリン/スレオニンキナーゼ活性を有する(例えば、非特許文献15参照)。IRAK−1は、インビトロにおいて、IL−1Rシグナルと関わりのあるキナーゼとして報告されていた(例えば、非特許文献16及び17参照)。Irak−1−/−胚性繊維芽細胞(EFs)では、IL−1を介するIL−6の産生のみならず、MAPKsやNF−κBの活性化が減少した(例えば、非特許文献14及び18参照)。しかし、Irak−1−/−マウスのマクロファージは、TLRリガンドの応答におけるNF−κBの活性化や、サイトカイン産生の部分的障害を示しただけであった(例えば、非特許文献19)。対照的に、IRAK−4−/−では、IL−1や、IL−18又はTLRファミリーの各種リガンドに対する応答において、顕著な障害を示した(例えば、非特許文献20参照)。IRAK−4-/-での表現型は、MyD88−/−マウスでの表現型と極めて類似している。このように、IRAK−4は、MyD88依存性経路において必須であると考えられていた。また、インビトロの実験では、IRAK−1は、IRAK−4によってリン酸化し活性化することが示されている(例えば、非特許文献12及び20参照)。しかし、IRAK−1とIRAK−4との関係や、様々なシグナル伝達(発生)におけるIRAKsのキナーゼ活性化に必要な条件は、明らかにされていない(例えば、非特許文献21及び22参照)。
【0005】
炎症性サイトカインの産生に加えて、樹状細胞(DCs)では、TLR7、8、9リガンドによる受容体刺激は、I型インターフェロンの産生を誘発することが報告されている。さらに、樹状細胞(DCs)の特殊なサブセットである形質細胞様樹状細胞(pDCs)において、TLR7、8、9リガンドによる受容体刺激は、インターフェロンαの産生を誘発することが報告されている。このDCsの特殊なサブセットは、ウイルス感染によるI型インターフェロンの大量生産能を持つことが知られている(例えば、非特許文献23〜25参照)。これらTLRリガンドに応答するインターフェロンαの誘導は、MyD88−/−pDCsにおいて、完全に消滅されており(例えば、非特許文献26参照)、TLR7、8、9は、pDCsでのMyD88依存的に、インターフェロンαをコードする遺伝子を活性化する独特のメカニズムを持っていることを示唆している。TLR受容体複合体において活性化されたIRF7は、細胞核に移行し、I型インターフェロン遺伝子の転写を誘発する。このようにIRAK−1は、MyD88の下流で作用すると考えられてきたが、TLR7やTLR9を介したインターフェロンαの産生におけるIRAK−1の役割は不明であった。
【0006】
【非特許文献1】Cell 91:295-298. 1997.
【非特許文献2】Annu Rev Immunol. 21:335-376. 2003.
【非特許文献3】Nat Rev Immunol. 4:499-511. 2004.
【非特許文献4】Curr Mol Med 3:373-385. 2003.
【非特許文献5】Proc Natl Acad Sci U S A 101:11416-11421. 2004.
【非特許文献6】Blood 103:1433-1437. 2004.
【非特許文献7】J Exp Med 198:513-520. 2003.
【非特許文献8】Nature 408:740-745. 2000.
【非特許文献9】Nat Immunol. 3:196-200. 2002.
【非特許文献10】Science 303:1526-1529. 2004.
【非特許文献11】Science 278:1612-1615. 1997.
【非特許文献12】Proc Natl Acad Sci U S A 99:5567-5572. 2002.
【非特許文献13】Cell 110:191-202. 2002.
【非特許文献14】J Exp Med 187:2073-2079. 1998.
【非特許文献15】Mol Cell 11:293-302. 2003.
【非特許文献16】Immunity 7:837-847. 1997.
【非特許文献17】Eur J Immunol 28:3100-3109. 1998.
【非特許文献18】J Immunol 163:978-984. 1999.
【非特許文献19】J Immunol 164:4301-4306. 2000.
【非特許文献20】Nature 416:750-756. 2002.
【非特許文献21】J Biol Chem 279:40653-40658. 2004.
【非特許文献22】J Biol Chem 279:26748-26753. 2004.
【非特許文献23】Nat Immunol 2:1144-1150. 2001.
【非特許文献24】J Exp Med 194:1171-1178. 2001.
【非特許文献25】Blood 100:383-390. 2002.
【非特許文献26】J Immunol. 170:3059-3064. 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、インターフェロン制御因子7(IRF7)と相互作用するインターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)のToll様受容体7(TLR7)又はToll様受容体9(TLR9)シグナル伝達経路を介するインターフェロンαの産生促進又は抑制する物質のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
IRAK−1は、当初IL−1処理後IL−1R複合体にリクルートされたキナーゼとして同定された(非特許文献16,17参照)。インビトロでの研究で、IRAK−1が、IL−1R/TLRシグナルのNF−κB活性と関係があることが証明された(非特許文献15参照)。Irak−1−/−EFsを用いた研究で、IRAK−1が、MAPKsやNF−κBの活性化に関わり、IL−1を介したIL−6の産生に必須であることが確認された(非特許文献14,18参照)。しかし、TLR−4リンガンドLPSに応答したNF−kBの活性化及びサイトカイン産生は、Irak−1−/−マクロファージ(非特許文献19参照)において部分的にのみ障害されており、TLRリガンドに対する応答におけるIRAK−1の役割は細胞特異性があることが示唆された。本発明者らは、IRAK−1は、pDCsにおけるTLR7やTLR9を介したシグナル伝達経路においてIRF7の活性化に必須の制御因子であるという、IRAK−1の新規な機能を見い出した。IRAK−1は、pDCsにおけるTLR9を介した炎症性サイトカインの産生及びNF−κBやMAPキナーゼの活性化に必須でなかった。IRAK−1は、IFNαの産生を誘導するIRF7経路の活性化への分岐点としての役割を果たすことを見い出した(図5C)。
【0009】
IL−1Rのシグナル伝達経路における研究に基づき、IRAK−1活性化メカニズムを説明する精巧なモデルが構築された(非特許文献15参照)。リガンド刺激により、IRAK−1はIL−1Rへリクルートされ、MyD88、IRAK−4やTRAF6と複合体を形成する。IRAK−4は、IRAK−1の上流に位置し、IL−1R複合体においてIRAK−1をリン酸化することが示唆されている。このリン酸化が、IRAK−1自体のキナーゼ活性の誘発を引き起こし、結果として、IRAK−1は、複数のリン酸化を誘発し、TRAF6との親和性の向上をもたらす(Nat Cell Biol 2:346-351. 2000及びJ Exp Med 197:263-268. 2003参照)。IRAK−1のキナーゼ活性は、下流のNF−κBの活性化に必須でないことが報告(Mol Cell Biol 19:4643-4652.1999参照)されたため、キナーゼ活性の正確な役割はまだ明らかにされていなかった。pDCSにおけるTLR7やTLR9を介したシグナル伝達経路では、リガンド刺激により類似した受容体複合体が形成されると思われていた。遺伝学研究では、MyD88やIRAK−4は、炎症性サイトカインとIFN−αの両方の誘導に必須であると示され(Proc Natl Acad Sci U S A 101:15416-15421.2004参照)、これらの分子は、シグナルの特異性を決定していないことを示している。さらに、IRAK−4は、IRF7と直接的に結合せず、シグナルにおいて、IRAK−1の上流で作用することを示している。つまり、IRAK4は、IRAK−1のリン酸化を介してIRF7経路に参画する可能性がある。
【0010】
IRF7の活性化は、リン酸化によって調節されているとも考えられていた(Mol Cell Biol. 20:8803-8814.2000,EMBO J. 17:1087-1095.1998参照)。以前の研究で、2つのIKK関連キナーゼ、TBK1(TANK binding kinase 1)や、誘導性IKK(inducible IKK)がIRF3と同様に、IRF7のリン酸化と関係がある(Science 300:1148-1151.2003,Nat Immunol. 4:491-496.2003参照)。TBK−/−細胞は、TLR3やTLR4刺激に応答してI型IFNを産生することができなかった(Nat Immunol. 4: 1144-1150. 2003,J Immunol. 169:6668-6672.2002,Science 301:640-643.2003,J Exp Med. 199:1641-1650.2004参照)。それにもかかわらず、本発明者らは、TBK1やIKKi欠失マウス由来のpDCsにおいて、CPG ODNに応答するIFN−αの産生が、野生型細胞と比較して障害されていないことを見い出した。重複の可能性を排除するために、TBK1及びIKKiの両方が欠失するマウスを用いた更なる研究が必要であるが(J Exp Med199:1651-1658.2004参照)、他のキナーゼがTLR7やTLR9のシグナル伝達に関係していると信じるのが妥当である。他方、DNAに損傷を与える紫外線や化学療法薬(chemotherapeutic agent)に応答して、IRF7がマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK);MKK4−JNK経路(kinase 4 (MKK4)-c-Jun NH2-Terminal kinase (JNK))によって活性化することが報告されている(Cancer Res 60:1153-1156.2000参照)。これらの観察結果から、IRF7の活性化は、様々な刺激に応答するMAPKカスケードの下流で起きることが暗示された。しかし、TLR9リガンドに応答するMAPKの活性化は、Irak−1−/−pDCにおいて障害されず、IRF7の活性化に関与する他の経路の存在が示唆されている。
【0011】
本発明者らは、インビトロでIRAK−1がIRF7をリン酸化することや、IRAK−1のキナーゼ ネガティブ変異体(IRAK−1 KN)又はIRAK−1 KNの発現が、IRF7やMyD88との共発現によって誘因されるIFN−α4プロモータの活性化を抑制することを示した。これらのデータは、IRAK−1がIRF7のキナーゼとして役立つ可能性を示唆している。しかし、本発明者らは、IRAK−1によってIRF7の内因性リン酸化を示すことができなった。というのも、これらの実験は、IRF7の発現(量)がわずかであることや、IRAK−1の刺激依存性退化(stimulus-dependent degradation)のために技術的に難しかった。
【0012】
TLRファミリーメンバーのうち、TLR7、8、9は形質細胞様樹状細胞(pDCs)において、インターフェロンαの産生を誘発し、この誘発には、MyD88、TNF受容体結合因子6(TRAF6)及びIRF7からなる複合体の形成が必要とされるが、本発明者らは、TLR7やTLR9を介したIRF7シグナル伝達経路におけるIRAK−1の重要な役割を明らかにした。すなわち、IRAK−1はインビトロにおいてIRF7と直接的に結合しリン酸化すること、IRAK−1のキナーゼ活性はIRF7の転写活性に必要であること、TLR7やTLR9を介したインターフェロンαの産生はIRAK−1―/Yマウスにおいては完全に消滅したが、プロ炎症性サイトカインの産生は障害されなかったこと、NF−κBやMAPKsが正常に活性化されるにもかかわらず、IRAK−1―/YpDCsにおいて、IRF7はTLR9リガンドによって活性化されなかったことを確認した。
【0013】
以上の結果から、IRAK−1は、pDCsにおけるTLR7やTLR9を介したインターフェロンαに特異的な制御因子であることが示された。これらの結果は、IRAK−1がIFN−αの産生の特異的な調節に対する(興味深い)治療上のターゲットとなる可能性を与え、ウイルス感染や自然免疫疾患の治療へ応用することができることを示している。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0014】
すなわち本発明は、(1)インターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)とインターフェロン制御因子7(IRF7)とを、被検物質が存在する細胞内で発現させ、IRAK−1とIRF7との会合の程度を測定し、被検物質の不存在下にIRAK−1とIRF7を細胞内で発現させた場合のIRAK−1とIRF7との会合の程度と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(2)IRAK−1とIRF7との会合の程度を、ペプチドタグ標識IRAK−1及びIRF7を細胞内で発現させ、共免疫沈降法により測定することを特徴とする前記(1)記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(3)IRAK−1とIRF7との会合の程度を、蛍光タンパク質標識IRAK−1及びIRF7を細胞内で発現させ、倒立蛍光顕微鏡で視覚化することにより測定することを特徴とする前記(1)記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(4)IRAK−1とIRF7との会合の程度を、蛍光タンパク質標識IRAK−1及びIRF7を細胞内で発現させ、フローサイトメトリーを用いてFRETを分析することにより測定することを特徴とする前記(1)記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(5)IRF7として、IRF7のアミノ酸配列238と285の間の領域を少なくとも有するIRF7を用いることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法に関する。
【0015】
また本発明は、(6)インターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)によるインターフェロン制御因子7(IRF7)のC末端のリン酸化の程度を、被検物質の存在下にインビトロで測定し、IRAK−1によるIRF7のC末端のリン酸化の程度を被検物質の不存在下にインビトロで測定した場合と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(7)IRAK−1によるIRF7のC末端のリン酸化の程度を、GST−IRF7を基質として用いたキナーゼ分析により測定することを特徴とする前記(6)記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(8)インターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)をコードする遺伝子の一部若しくは全部が欠損し、TLR7又はTLR9が認識するリガンドに対するインターフェロンα産生の応答性が特異的に障害されているTLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに、被検物質とTLR7リガンド又はTLR9リガンドを投与し、モデルマウスにおけるインターフェロンαの産生量を測定し、被検物質を投与することなく、TLR7リガンド又はTLR9リガンドを投与した場合のモデルマウスにおけるインターフェロンαの産生量を測定した場合と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(9)モデルマウスにおけるインターフェロンαの産生量を、モデルマウスにおけるインターフェロンαのmRNA量としてノーザンブロット分析により測定することを特徴とする前記(8)記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法に関する。
【0016】
さらに本発明は、(10)インターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)をコードする遺伝子の一部若しくは全部が欠損し、TLR7又はTLR9が認識するリガンドに対するインターフェロンα産生の応答性が特異的に障害されているTLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに由来する細胞を、被検物質の存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激し、モデルマウス由来の細胞におけるインターフェロンαの産生量を測定し、被検物質を不存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激した場合のモデルマウス由来の細胞におけるインターフェロンαの産生量を測定した場合と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(11)モデルマウス由来の細胞におけるインターフェロンαの産生量を、細胞の培養上澄のELISAによるIFN−α濃度として測定することを特徴とする前記(10)記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(12)インターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)をコードする遺伝子の一部若しくは全部が欠損し、TLR7又はTLR9が認識するリガンドに対するインターフェロンα産生の応答性が特異的に障害されているTLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに由来する細胞を、被検物質の存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激し、モデルマウス由来の細胞におけるIRF7の活性化の程度を、抗IRF7抗体を用いたイムノブロット分析により核タンパクを分析することにより測定し、被検物質を不存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激した場合のモデルマウス由来の細胞におけるIRF7の活性化の程度を測定した場合と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(13)TLR9リガンドがCpGオリゴデオキシ核酸分子(CpG ODN)であることを特徴とする前記(8)〜(12)のいずれか記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(14)CpGオリゴデオキシ核酸分子(CpG ODN)がD35又はODN1668であることを特徴とする前記(13)記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法や、(15)TLR7リガンドがR−848であることを特徴とする前記(8)〜(12)のいずれか記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法に関する。
【0017】
また本発明は、(16)TLR7又はTLR9を介したシグナル伝達経路において、IRF7の活性化に必須の制御因子としての下記(a)又は(b)に記載のタンパク質及び該タンパク質をコードする遺伝子の使用方法や、(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIRF7を活性化する機能を有するタンパク質(17)タンパク質が、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAにコードされることを特徴とする前記(16)に記載の使用方法や、(18)タンパク質が、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされ、かつIRF7を活性化する機能を有することを特徴とする前記(16)に記載の使用方法や、(19)タンパク質が、配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有し、かつIRF7を活性化する機能を有することを特徴とする前記(16)に記載の使用方法に関する。
【0018】
さらに本発明は、(20)TLR7又はTLR9を介したシグナル伝達経路において、IRF7を活性化してインターフェロンαの産生を誘導する必須の制御因子としての下記(a)又は(b)に記載のタンパク質及び該タンパク質をコードする遺伝子の使用方法や、(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIRF7を活性化する機能を有するタンパク質(21)タンパク質が、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAにコードされることを特徴とする前記(20)に記載の使用方法や、(22)タンパク質が、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされ、かつIRF7を活性化する機能を有することを特徴とする前記(20)に記載の使用方法や、(23)タンパク質が、配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有し、かつIRF7を活性化する機能を有することを特徴とする前記(20)に記載の使用方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
TLRによって誘導されるIFN−αは、抗ウイルス作用や抗癌作用を示すことが知られており、本発明のIRF7と結合するIRAK−1のTLR7又はTLR9を介したIFN−αの産生(誘導)を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法を用いることで、自然免疫系に関わる種々の病気の病態解明や、自然免疫応答の調節による治療薬等として有用なIFN−αの産生(誘導)促進物質等の開発が期待できる。
【0020】
さらに、本発明のIRAK−1は、IRF7と相互作用し、TLR7又はTLR9を介したIFN−αの産生に関与する分子であることから、IRAK−1が、IFN−αの産生の特異的な調節に対する治療上のターゲットとなる可能性を与え、ウイルス感染や自然免疫疾患への治療へ応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
IRAK−1とIRF7とを、被検物質が存在する細胞内で発現させ、IRAK−1とIRF7との会合の程度を測定し、被検物質の不存在下にIRAK−1とIRF7を細胞内で発現させた場合のIRAK−1とIRF7との会合の程度と比較・評価することを特徴とする本発明のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法(以下「スクリーニング方法[1]」ということがある)において、細胞内に被検物質を導入する方法としては特に制限されないが、各種トランスポーター発現細胞を利用する方法や、巨大分子と非共有結合体を形成し、タンパク質等の巨大分子の構造を変化させ、タンパク質等の巨大分子を細胞内にデリバリーすることができるChariot(Active Motif社製)等の細胞毒性のない試薬を用いる方法や、候補物質(被検物質)がペプチドの場合、該候補ペプチドをコードするDNAを発現ベクターにインテグレートした組換えベクターとして、細胞内に導入することができる。細胞内への導入方法としては、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング (scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、感染等を例示することができる。
【0022】
スクリーニング方法[1]において、IRAK−1とIRF7との会合の程度を測定する方法として、ペプチドタグ標識IRAK−1及びペプチドタグ標識IRF7を細胞内で発現させ、抗Myc抗体や抗FLAG抗体等の抗ペプチドタグ抗体を用いる共免疫沈降法により測定する方法を挙げることができ、かかるペプチドタグとしては、FLAG、Myc、HA等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。また、ペプチドタグ標識に代えて、マーカータンパク質とIRAK−1やIRF7との融合タンパク質として、共免疫沈降法により測定することもできる。かかるマーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、HRP、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ−ス−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ等の酵素、抗体のFc領域、GFP等の蛍光物質などを具体的に挙げることができる。
【0023】
また、スクリーニング方法[1]において、IRAK−1とIRF7との会合の程度を測定する方法として、蛍光タンパク質標識IRAK−1及び蛍光タンパク質標識IRF7を細胞内で発現させ、ある蛍光分子から他の分子へ励起エネルギーが移動する現象であるFRET(蛍光エネルギー移動)を利用して生細胞内のIRAK−1とIRF7との相互作用を倒立蛍光顕微鏡で視覚化することにより測定する方法を挙げることができ、かかる蛍光タンパク質としては、GFP(緑色)、EGFP(Enhanced GFP)、YFP(黄色)、EYFP(Enhanced Yellow Fluorescent Protein)、CFP(青色)、ECFP(enhanced CYAN fluorescent protein)、DsRed(赤色)を挙げることができる。
【0024】
また、スクリーニング方法[1]において、IRAK−1とIRF7との会合の程度を測定する方法として、蛍光タンパク質標識IRAK−1及び蛍光タンパク質標識IRF7を細胞内で発現させ、フローサイトメトリーを用いてFRETを分析することにより測定する方法を挙げることができる。
【0025】
上記IRAK−1としては、IRAK−1のキナーゼ活性を有する限りにおいて、IRAK−1のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものであってもよく、また、上記IRF7及びその遺伝子としては、配列表の配列番号1に示される塩基配列及び配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するものの他、アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつIRF7活性を有するタンパク質や該タンパク質をコードするDNAであれば特に制限されないが、IRF7のアミノ酸配列238と285の間の領域を少なくとも有するIRF7を用いることが好ましい。
【0026】
IRAK−1とIRF7を細胞内で発現させるには、1種類のTLR若しくはTLR関連遺伝子の発現に用いられるベクター、例えば市販の発現ベクターpUNO−[TLR gene]にIRAK−1遺伝子とIRF7遺伝子をそれぞれ導入してコトランスフェクションにより細胞内に導入してIRAK−1とIRF7を細胞内で発現させたり、2種類のTLR若しくはTLR関連遺伝子の発現に用いられるベクター、例えば市販の発現ベクターpUNO−[TLR gene1/gene2]にIRAK−1遺伝子とIRF7遺伝子を導入してトランスフェクションにより細胞内に導入してIRAK−1とIRF7を細胞内で発現させることもできる。また、使用しうる宿主細胞としては、HEK293細胞、L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、MDCK細胞、HKG細胞、BALB/c3T3細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、BHK21細胞、Bowesメラノーマ細胞、卵母細胞等の動物細胞の他、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞などを挙げることができる。
【0027】
IRAK−1によるIRF7のC末端のリン酸化の程度を、被検物質の存在下にインビトロで測定し、IRAK−1によるIRF7のC末端のリン酸化の程度を被検物質の不存在下にインビトロで測定した場合と比較・評価することを特徴とする本発明のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法(以下「スクリーニング方法[2]」ということがある)において、IRAK−1によるIRF7のC末端のリン酸化の程度を測定する方法としては特に制限されないが、バクテリアにおいて発現したGST−IRF7を基質として用いたキナーゼ分析により測定する方法を好適に例示することができる。より具体的には、HEK293細胞等にFLAG−IRAK−1遺伝子をトランジェントにトランスフェクションし、細胞のリゼートを抗FLAG抗体と免疫沈降し、GST−IRF7及び[γ-32P]ATPの存在下にキナーゼ分析する方法を挙げることができる。
【0028】
IRAK−1をコードする遺伝子の一部若しくは全部が欠損し、IRAK−1を発現することがない、TLR7又はTLR9が認識するリガンドに対するインターフェロンα産生の応答性が特異的に障害されているTLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに、被検物質とTLR7リガンド又はTLR9リガンドを静脈注射等により投与し、モデルマウスにおけるインターフェロンαの産生量を測定し、被検物質を投与することなく、TLR7リガンド又はTLR9リガンドを投与した場合のモデルマウスにおけるインターフェロンαの産生量を測定した場合と比較・評価することを特徴とする本発明のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法(以下「スクリーニング方法[3]」ということがある)において、モデルマウスにおけるインターフェロンαの産生量の測定方法としては特に制限されず、例えば、抗インターフェロンαモノクローナル抗体を用いたELISAによる方法や、モデルマウスにおけるインターフェロンαのmRNA量としてノーザンブロット分析により測定する方法を好適に例示することができる。
【0029】
IRAK−1をコードする遺伝子の一部若しくは全部が欠損し、IRAK−1を発現することがない、TLR7又はTLR9が認識するリガンドに対するインターフェロンα産生の応答性が特異的に障害されているTLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに由来する細胞を、被検物質の存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激し、モデルマウス由来の細胞におけるインターフェロンαの産生量を測定し、被検物質を不存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激した場合のモデルマウス由来の細胞におけるインターフェロンαの産生量を測定した場合と比較・評価することを特徴とする本発明のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法(以下「スクリーニング方法[4]」ということがある)において、モデルマウス由来の細胞におけるインターフェロンαの産生量の測定方法としては特に制限されないが、例えば、抗インターフェロンαモノクローナル抗体を用いて、細胞の培養上澄のELISAにより測定する方法や、細胞におけるインターフェロンαのmRNA量としてノーザンブロット分析により測定する方法を好適に例示することができる。また、TLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに由来する細胞としては、Flt3リガンドの存在下で培養して分化させた骨髄樹状細胞である該モデルマウスのFlt3リガンド(Flt3L)−骨髄樹状細胞(BMDCs)を好適に例示することができる。Flt3リガンドの存在下で培養して分化させることにより、形質細胞様樹状細胞を多く含んだ細胞群を誘導することができる。
【0030】
IRAK−1をコードする遺伝子の一部若しくは全部が欠損し、IRAK−1を発現することがない、TLR7又はTLR9が認識するリガンドに対するインターフェロンα産生の応答性が特異的に障害されているTLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに由来する細胞を、被検物質の存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激し、モデルマウス由来の細胞におけるIRF7の活性化の程度を、抗IRF7抗体を用いたイムノブロット分析により核タンパクを分析することにより測定し、被検物質を不存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激した場合のモデルマウス由来の細胞におけるIRF7の活性化の程度を測定した場合と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法(以下「スクリーニング方法[5]」ということがある)において、モデルマウス由来の細胞におけるIRF7の活性化の程度を測定する方法としては特に制限されないが、例えば、核タンパク質を調製し、抗IRF7抗体を用いて、核へトランスロケーション(移行)したTLR7量をイムノブロット分析法により測定する方法を好適に例示することができる。また、TLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに由来する細胞としては、該モデルマウスのFlt3リガンド−骨髄樹状細胞を好適に例示することができる。
【0031】
スクリーニング方法[3]〜[5]において用いられるTLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスや、該マウスに由来する細胞は、常法によって調製することができる。ここで、不応答性とは、TLR7リガンド又はTLR9リガンドによる刺激に対する生体又は生体を構成する細胞、組織若しくは器官の反応性がほぼ失われていることを意味する。また、スクリーニング方法[3]〜[5]において用いられるTLR9リガンドとしては、CpG ODN、好ましくはD35、ODN1668を例示することができ、また、TLR7リガンドとしては、市販のR−848(small antiviral molecule)を具体的に例示することができる。
【0032】
スクリーニング方法[1]〜[5]により得られるインターフェロンαの産生促進物質は、インターフェロンαが必要とされる疾病、例えばウイルス感染症の予防・治療剤として期待できる。上記促進物質を医薬品として用いる場合は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。またこれら予防・治療剤を用いる予防若しくは治療方法においては、患者の性別・体重・症状に見合った適切な投与量を、経口的又は非経口的に投与することができる。すなわち通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができ、あるいは、例えば溶液、乳剤、懸濁液等の剤型にしたものを注射の型で非経口投与することができる他、スプレー剤の型で鼻孔内投与することもできる。スクリーニング方法[1]〜[5]により得られるインターフェロンαの産生抑制物質は、インターフェロンαの生体内における生合成のメカニズムを解明する上で有用であり、また、これらインターフェロンαの産生抑制物質は、樹状細胞からのインターフェロンαの過剰産生が病態と考えられているSLE(全身性エリテマトーデス)の治療にも使える可能性がある。
【0033】
本発明のIRAK−1の使用方法としては、TLR7又はTLR9を介したシグナル伝達経路において、IRF7の活性化に必須の制御因子としての下記(a)又は(b)に記載のタンパク質及び該タンパク質をコードする遺伝子の使用方法や、TLR7又はTLR9を介したシグナル伝達経路において、IRF7を活性化してインターフェロンαの産生を誘導する必須の制御因子としての下記(a)又は(b)に記載のタンパク質及び該タンパク質をコードする遺伝子の使用方法であれば特に制限されず、IRAK−1等の上記タンパク質は、前記[1]〜[5]に記載のスクリーニング方法におけるツールとして使用できるほか、IRAK−1がIRF7活性化やインターフェロンα産生に関与しているとする新たな知見から、ウイルス感染や自然免疫疾患の治療への応用研究において使用することができる。また、上記IRAK−1等の遺伝子は、インターフェロンαが必要とされる疾病、例えば、ウイルス感染症の遺伝子治療に使用することができ、IRAK−1等の遺伝子のアンチセンス鎖は、形質細胞様樹状細胞からのインターフェロンαの過剰産生が病態と考えられているSLE(全身性エリテマトーデス)の遺伝子治療に使用することができる。また、これらはIRAK−1がIRF7活性化やインターフェロンα産生に関与しているとする新たな知見から、ウイルス感染や自然免疫疾患の治療への遺伝子レベルでの研究において使用することができる。
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(IRAK−1)
(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIRF活性を有するタンパク質
【0034】
本発明のIRAK−1の使用方法に用いられるタンパク質は、上記(a)又は(b)に記載のタンパク質のほか、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAにコードされるタンパク質や、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされ、かつIRF7を活性化する機能を有するタンパク質や、配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有し、かつIRF7を活性化する機能を有するタンパク質を使用することも可能である。また、ここでいうストリジェントな条件下とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、50〜70%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1×SSC、0.1%SDS、又は0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。
【0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
(IRAK−1とIRF7との会合)
IRAK−1やIRAK−4は、MyD88と会合することが示されていたことから、IRAK−1やIRAK−4がIRF7複合体と関わりがあるかどうかを調べた。まず、共免疫沈降法(coimmunoprecipitation)により、IRAK−1とIRF7又はIRAK−4とIRF7との相互作用を分析した。FLAGでタグしたIRF7をコードするプラスミドと、Mycでタグ標識したIRAK−1又はIRAK−4とで、ヒト胎生期腎細胞(HEK−293)をトランジェントにコトランスフェクションしたとき、FLAG−IRF7は、Myc−IRAK−4ではなく、Myc−IRAK−1を発現する細胞で抗Myc抗体と共沈した(図1A)。このことは、IRF7と相互作用するのはIRAK−4ではなく、IRAK−1であることを示している。
【0037】
さらに、生細胞におけるIRF7やIRAKsの物理学的相互作用を分析した。HEK293細胞を、黄色蛍光タンパク質(YFP)でラベルしたIRF7と、シアン蛍光タンパク質(CFP)でラベルしたIRAK−1又はIRAK−4でコトランスフェクションし、倒立蛍光顕微鏡で視覚化した。IRF7−YFPは、IRAK−4−CFPと共発現させた細胞質において広く発現した。反対に、IRAK−1−CFPと共発現させたとき、IRF7−YFPは、細胞質において、IRAK−1−YFPと縮合した形として発現する(図1B)。これらの細胞での、IRF7−YFPとIRAK−1−CFP又はIRF7−YFPとIRAK−4−CFPとの間の物理的相互作用について分析したところ、IRAK−1でマージした領域で、IRF7から強いFRETシグナルを検出したが、IRAK−4と合併した領域では検出しなかった(図1B)。
【0038】
また、細胞をIRF7−CFPとIRAK−1−YFPでコトランスフェクションしたときに、同一の共局在や物理学的相互作用を観察した。さらに、フローサイトメトリーを用いてFRETを測定することで、この観察結果を確認した。HEK293細胞を、IRF7−YFPとIRAK−1−CFP又はIRF7−YFPとIRAK−4−CFPでコトランスフェクションしたとき、IRAK−4ではなく、IRAK−1と共にIRF7を発現する細胞だけが、強いFRETシグナルを示したことから、生細胞の細胞質において、IRF7が、IRAK−4ではなくIRAK−1と直接的に相互作用していることが示唆された(図1B)。IRF7−CFPとIRAK−1−YFPを交互に導入した細胞においても、同様の結果が観測された。
【0039】
次に、IRF7のどの部位がIRAK−1と相互作用する原因となるのかを調べた。HEK293細胞を、FLAG−IRF7とMyc−IRAK−1、又はアミノ酸配列の1〜285若しくは1〜237をコードするFLAG−IRF7の欠失変異体とMyc−IRAK−1で、トランジェントにトランスフェクトした。HEK293細胞において発現したFLAG−IRF7や、FLAG−IRF7 1−285を、抗Myc抗体と共沈し、IRF7のアミノ酸配列238と285の間の領域が、IRAK−1と相互作用するのに必須部位であることが示された(図1C)。この領域のIRF7は、以前、MyD88とTRAF6との両方の相互作用に必要であることが示されており、このことからIRAK−1が、この部位との相互作用を通して複合体と、関与していることが示唆される。
【実施例2】
【0040】
(IRAK−1のキナーゼ活性)
IRF7は、ウイルス感染中に、C末端セリン残基のリン酸化により活性化して細胞質核に転座し、そこでインターフェロンαを含むターゲット遺伝子の発現を調節することが示されてきた(Immunity 13:539-548.2000参照)。そこで、IRAK−1のキナーゼ活性が、IRF7の活性化に必要か否かを調べた。
【0041】
HEK293細胞を、Myc−IRAK−1又はIRAK−1のMyc−キナーゼ ネガティブ変異体(IRAK−1 KN)と共に、FLAG−IRF7でトランスフェクトした。FLAG−IRF7は、IRAK−1やIRAK−1 KNの両方を発現する細胞において、抗Myc抗体と共沈した(図2A)。IRAK−1 KNを共発現した細胞中ではなく、IRAK−1を発現した細胞中で、FLAG−IRF7の遅延した移動型(slow migrating form)を検出した。このことから、IRAK−1が、キナーゼ活性化を通じたIRF7のリン酸化を誘発することが示唆された。
【0042】
IRAK−1が、IRF7のC末端をリン酸化するかどうかを判断するために、インビトロで、バクテリアにおいて発現したGST−IRF7を基質として用いたキナーゼ分析を行った。IRAK−1、IRAK−1 KN、IRAK−4、IRAK4 KNは、HEK293細胞で発現し、細胞のリゼートを、抗FLAG抗体で免疫沈降した。GST−IRF7のリン酸化は、IRAK−4ではなく、IRAK−1の免疫沈降物において観察された(図2B)。これらの結果は、インビトロで、IRAK−4ではなく、IRAK−1が、IRF7をリン酸化することを示している。
【0043】
次に、IRAK−1のキナーゼ活性がIRF7の転写活性に必要であるか否かを調べた。これまでの研究で、MyD88とIRF7の共発現によって、IFN−αプロモーターが相乗的に活性化されることを示した。しかし、IRF7とIRAK−1や、IRF7とIRAK−4とを組み合わせた過剰発現は、いずれにおいても、HEK293細胞で、IFN−αプロモーターを相乗的に活性化しなかった。そこで、IFN−α4プロモーターを保有するレポータープラスミドと一緒に、IRF7、MyD88、様々な量のIRAK−1 KNとの組合せで、HEK293細胞をトランジェントにトランスフェクトした。IRAK−1 KNは、MyD88とIRF7との共発現によって誘導されたIFN−α4プロモーターの活性化を、用量依存的に阻害したが、IRAK−1 KNは、MyD88によるNF−kBの活性化は阻害しなかった。IRAK−1 KNの影響は、優性抑制型変異体(dominant negative mutant)として作用する、C末端のTRAFドメインのみを含むTRAF6の切断した変異体(TRAF6c)と明確な対照をなし、IFN−α4及びNF−κBプロモーター両方の活性化を妨害した(図2C)。
【0044】
以上の結果より、IRAK−1は、IRF7をインビトロでリン酸化し、IRAK−1のキナーゼ活性は、NF−κBではなくIRF7の転写活性に対して必要であることが示している。
【実施例3】
【0045】
(Irak−1−/YpDCにおけるA/DタイプCpG ODNへの応答)
TLRを介するIFN−αの産性におけるIRAK−1のインビボでの役割を解明するために、CpG ODNにより誘導されたIFN−αの産生を、Irak−1−/Yマウス由来のFlt3リガンド(Flt3L)−骨髄樹状細胞(BMDCs)を用いて調べた。Irak−1+/YFlt3L−BMDCsからのIFN−αの大量産生は、A/DタイプCpG ODNであるD35に応答して観察された(J Leukoc Biol 71:813-820.2002参照)。しかし、IFN−αの産生は、Irak−1−/YFlt3L−BMDCsで著しく障害された。対照的に、Irak−1+/Y及びIrak−1−/YFlt3L−BMDCsでは、D35に応答するTNF−α、IL−6、IL−12p40の産生は同程度であった(図3A)。さらに、ノーザンブロット分析により、IL−6のmRNAの誘導は、Irak−1+/Y及びIrak−1−/YFlt3L−BMDCsで同程度とみられるが、D35によるINF−α4のmRNAの誘導は、Irak−1−/YFlt3L−BMDCsにおいて障害されていることを示している(図3B)。
【0046】
Flt3Lを伴った骨髄細胞の培養は、pDCs(B220)や、従来型DCs(B220)の両者を誘発した(J Exp Med 195:953-958.2002参照)。pDCsは、IFN−αの産生に重要な要素であるが、IL−12のようなプロ炎症性サイトカインは、DCsサブセットによって産生される(非特許文献4参照)。プロ炎症性サイトカインの誘発が、pDCsで障害されているか否かを見分けることは難しいため、さらにフローサイトメトリーにより、B220pDCsからのIL−12やIFN−αの産生を分析した。Irak−1+/YやIrak−1−/Yマウス由来のFlt3L−BMDCsをD35により刺激し、IFN−αやIL−12に対する抗体で染色し、CD11cやB22で共染色した。フローサイトメトリーによる分析は、Irak−1−/YB220pDCSからD35を介したIFN−αの産生が、Irak−1+/YB220pDCsと比較して著しく障害されていることを明らかにした。一方、Irak−1+/YB220pDCsにおけるIL−12の産生は障害されていなかった(図3C)。
【0047】
以上の結果より、TLR9リガンドが誘導するIFN−αの産生が、Irak−1−/YpDCで特異的に障害されていることを示している。
【実施例4】
【0048】
(他のTLRリガンドに対するIrak−1−/Y細胞の応答)
Kタイプ若しくは従来のCpG ODNであるODN1668は、最大限の誘導がD35刺激DCsよりも低い濃度である、0.01〜01μMの低い濃度でIFN−αを産生する(非特許文献26参照)。A/Dタイプ CpGODNによって観測された結果と同様、ODN1668に応答するIFN−αの産生が、Irak−1−/Y Flt3L−BMDCsで著しく障害された。しかし、他のサイトカイン、例えば、TNF−α、IL−6及びIL−12p40の産生は、Irak−1+/Yや、Irak−/Y細胞で同程度であった(図4A)。
【0049】
また、Irak−1−/Yマウスで、TLR9リガンドを介したIFN−αの産生が消滅したので、Irak−1−/YマウスでのTLR7を介したIFN−αの誘導を調べた。TLR7リガンドであるR−848をIrak−1+/YやIrak−1−/Yマウスに静脈注射し、IFN−αの血清濃度を調べた。R−848の注射後、1時間以内に、Irak−1+/YマウスでのIFN−αの血清濃度が増加することが示されたが、Irak−1−/Yマウスでは、IFN−αの血清濃度レベルは増加しなかった。対照的に、Irak−1+/YマウスとIrak−1−/Yマウスとでは、IL−12p40の血清濃度に違いは表れなかった(図4B)。これらの結果は、IRAK−1がTLR7を介したIFN−αの産生にも関与していることを示唆している。
【0050】
また、Irak−1−/−マウスにおけるIFN−α産生の本質的欠陥の可能性を除外するために、Irak−1+/Yマウス由来のFlt3−BMDCsへ二重鎖(ds)RNAであるポリ(I:C)をトランスフェクトし、IFN−αの産生を測定した。Irak−1+/YやIrak−1−/YのFlt3L−BMDCsはポリ(I:C)に応答し同レベルのIFN−αを産生し(図4C)、Irak−1−/Yマウスが、IFN−αを産生する能力を持つことを示している。
【0051】
以上の結果より、IRAK−1は、TLR7やTLR9を介したIFN−αの産生に特異的に関与していることを示している。
【実施例5】
【0052】
(Irak−1−/Y細胞におけるIRF活性化の欠如)
TLRリガンドによってIRF7が活性化されるか否かをIrak−1−/Yマウスで調べた。Irak−1+/YマウスやIrak−1−/Yマウス由来のFlt3L−BMDCsをD35で刺激し、抗IRF7抗体又は、抗NF−κB抗体であるRelAを用いたイムノブロット分析により、核タンパクを分析した。Irak−1+/Y細胞におけるIRF7は、D35による刺激後、1時間で核に転座し、6時間で減少した。対照的に、Irak−1−/Y細胞においては、IRF7は、D35に応答して核に転座しなかった(図5A)。Irak−1+/Y及びIrak−1−/Y細胞の両方で、RelAはD35に応答して、核へトランスロケーション(転座)したが、より遅い時点ではIrak−1−/Yでは、わずかな量のRelAしか残らなかった(図5A)。さらに、MAPキナーゼファミリーメンバーであるERK1のD35に応答した活性化をイムノブロット分析法により調べた。Irak−1−/Y細胞でのERK1のチロシンリン酸化は、Irak−1+/Y細胞よりいささか過渡的であったが、Irak−1+/Y及びIrak−1−/Y細胞の両方で誘導された(図5のB参照)。
【0053】
以上の結果から、IRAK−1が、IRF7の活性化を調節し、CpG ODNに応答するIFN−αの産生に関与することを示している。
【実施例6】
【0054】
[試験及び材料]
(マウス)
Irak1−/Yマウスは、Dr.J.A.Thomas氏から提供された(テキサス大学 サウストン メディカル センター ダラス)
【0055】
(細胞及び試薬)
Flt3L−BMDCsは、上記非特許文献26に記載の方法により調製した。CpGオリゴデオキシヌクレオチド(D35や、ODN1668)は、上記非特許文献26に記載の方法により調製した。R−848は、生物薬学研究所、日本エネルギー株式会社から提供されたものを使用した。ポリイノシン酸−ポリシチジル酸(polyI:C)は、Amersham社から購入したものを使用し、抗IRF7や、抗ERK抗体や抗リン酸化ERK抗体はZymed社及びSanta Cruz社並びにNew England Biolab社から入手したものを使用した。
【0056】
(プラスミド)
IFN−α4プロモーターや、ELAMプロモーターの構築は、文献(Nat Immunol 5:1061-1068. 2004.)に記載の方法によりおこなった。FLAG−IRF7は、IRF7やTRAF6cの欠失変異体の一種としてすでに記載されている。IRF7−CF、IRAK−1−CFP、IRAK−4−CFP、IRF−YFP、IRAK−1−YFP、IRAK−4−YFPなどの変異タンパクをコードするプラスミドは、文献(Nat Immunol 5:1061-1068. 2004.)記載の方法により構築した。IRF7のC末端は、PCRによって入手し、pGEX−5X1ベクター(Amersham社製)のSalI及びEcoRI部位に結紮した。IRAK−1やJRAK−4をコードする全長DNAフラグメントは、ヒト脾臓相補DNAライブラリー(Clontech社製)からPCRにより増幅させ、適切な制限酵素で処理し、pFLAG−CMV2(Sigma−Aldrich社製)や、pCMV−Myc(Clontech社製)に挿入した。製造者の指示に従って、Quick Chage XL-Site Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)を用いた部位特異的変異導入を行って、ヒトIRAK−1(K239A)や、IRAK−4(K213/214A)のキナーゼネガティブ変異体を産出した。PCRによって入手したDNAフラグメントの配列は、DNAシークエンシングによって確認した。
【0057】
(トランスフェクション、免疫沈降、イムノブロット分析)
HEK293細胞(1×10)を、100mmディッシュに蒔いた。12時間後、細胞にLipofectamine 2000 (Invitrogen社製)を用いて、合計6.0μgの様々なプラスミドをトランジェントにトランスフェクトした。免疫沈降及びウエスタンブロット分析を、文献(Kawai, T., S. Sato, K.J. Ishii, C. Coban, H. Hemmi, M. Yamamoto, K. Terai, M. Matsuda, J. Inoue, S. Uematsu, O. Takeuchi, and S. Akira. 2004. Interferon-alpha induction through Toll-like receptors involves a direct interaction of IRF7 with MyD88 and TRAF6. Nat Immunol 5:1061-1068.)記載の通り行った。
【0058】
(FRET)
コラーゲンでコーティングしたグラスディッシュに載せたHEK293細胞を、文献記載の通り、撮像した。要約すると、細胞を、冷却CCDカメラを装備し、MetaMorph softwareにより制御された倒立顕微鏡で撮像した(Universal Imaging社製)。YFP又はCFPで融合した、一対のタンパク質が、HEK−293細胞で発現した。以下のフィルターセットを用いて、細胞を撮像した:CFP画像には、MX0420励起フィルター及びBP470−490発光フィルター(オリンパス社製);FRET画像には、MX0420励起フィルター及び535DF35発光フィルター(Omega Optical Inc社製);YFP画像には、510DF23励起フィルター及び560DF15発光フィルター(Omega Optical Inc社製)。XF2052二色性鏡(Omega Optical Inc社製)を実験を通して使用した。露出時間は、CFP及びFRET画像には200msecで、YFP画像には100msecであった。データを入手後、CFP、FRET及びYFPの平均強度を測定し、FRETコンポーネント(“訂正”FRET、FRET)からなるFRETフィルターセットを通して蛍光を計算した。非FRETコンポーネントを、文献(Curr. Biol. 10, 1395-1398, 2000)記載の通り差し引いた。本研究者らの実験の条件として、次の方程式を使用した:FRET=FRET−(0.34×CFP)−(0.02×YFP)。FRETのフローサイトメトリー分析用に、CFP及び/又はYFP融合タンパク質と、上記記載の通りトランスフェクトしたHEK293細胞を、293発現培地(Invitrogen社製)に再懸濁し、FAC aria(BD)及びBD FACSDiVa softwareを用いて、YFP(励起:488nm;発光:530nm)、CFP(励起:407nm;発光:510nm)、FRET(励起:407nm;発光:535nm)を測定した。
【0059】
(ルシフェラーゼレポータアッセイ)
24ウェルプレートに蒔いたHEK293細胞(1×10細胞/ウェル)に、ルシフェラーゼレポータープラスミド100ngと、合計900ngの様々な発現ベクターとを、トランジェントにトランスフェクトした。36時間後、Dual-luciferaseレポーターアッセイシステム(Promega社製)を用いて、全細胞可溶化液のルシフェラーゼ活性を測定した。Renilla-luciferaseレポーター遺伝子50ngを、同時にトランスフェクトし、内部コントロールとして用いた。
【0060】
(ELISA)
Flt3−BMDCs(1×10細胞/ウェル)を、様々な濃度のCpGオリゴヌクレオチドD35やODN1668で24時間刺激した。上澄みのTNF−α、IL−6、IL−12p40やIFN−α濃度を、製造者の指示に従ってELISAで測定した(PBL Bio. Lab.,社製)。
【0061】
(インビトロキナーゼアッセイ)
200万個のHEK293細胞を、直径60mmディッシュに蒔いた。24時間後、細胞にLipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いて、合計6.0μgの空又は記載した量(2.0μgのpFLAG−CMV2IRAK−1、IRAK−1キナーゼ、又は、4.0μのpFLAG−CMV2 IRAK−1、IRAK−1キナーゼ)のプラスミドをトランジェントにトランスフェクトした。トランスフェクションの36時間後に細胞を回収して溶解させ、1.0μgの抗FLAGM2 モノクローナル抗体(Sigma−Aldrich社製)と共にプロテインG−Sepharoseを用いて12時間遠心させ免疫沈降した。ビーズをリーシス緩衝液で4回洗浄し、更に、キナーゼアッセイ緩衝液(20mMのHEPES[pH7.5]、20mMのMgClや、3mMのMnClや、10mMのβ-グリセロホスホレイト)で3回洗浄した。免疫沈殿物は、2.0μgのGST−IRF7や、10Ci[γ-32P]ATP(Amersham社製)を用い、30℃で30分間インキュベートした。キナーゼ反応を、Laemmliサンプル緩衝液の付加により止め、4〜20%ポリアクリルアミドグラジエントゲル上で分離した。ゲルを保持し、乾燥させ、X線フィルムに暴露した。
【0062】
(フローサイトメトリー)
細胞内でIL−12p40やIFN−αを染色するために、Ftl3L−DCsを3μMのD35で処理し、5時間培養した。Golgi stop(BD PharMingen社製)を、さらに3時間加え、細胞をパラホルムアルデヒドに固定して回収した。IFN−αを、ラット抗マウスIFN−α(rat anti−mouseIFN−α)の混合体(clone F18,Hycult Biotechnology b.V. and clone RMMA-1,PBL Biomedical Laboratories社製)を用い、サポニンを含む緩衝液中で染色し、次に、ビオチン化したマウス抗ラットIgG抗体( mouse anti-rat IgG)(Jackson Immuno Research社製)や、スプレプトアビジン−APC(Streptavidin−APC)(Pharmingen社製)を用い染色した。IL−12を、抗−IL−12−PE抗体(PharMingen社製)を用い、サポニンを含む緩衝液中で蛍光した。その後、細胞を抗−CD11c−FITC抗体(clone HL3)や抗−B220−cychrome抗体(clone RA3-6B2)で染色し、FACSCalibur(BD Bioscience社製)で分析した。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、IRAK−4ではなく、IRAK−1が、IRF7と結合することを示す図である。(A)細胞溶解物(cell lystates)を抗Myc抗体又は抗FLAG抗体で免疫沈降し、抗FLAG抗体又は抗Myc抗体を用いて、イムノブロット分析を行った。FLAG−IRF7のslow migrated formをアスタリスクで示した。(B)上パネル:HEK293細胞を、IRF7−YFP(黄色)や、IRAK−1−CFP又は、IRAK−4−CFP(青色)でトランスフェクトし、FRET(pseudocolor)を用いて決定されたこれら2つの分子の物理的相互作用を視覚化した。下パネル:HEK293細胞は、IRF7−YFP,IRAK−1−CFP又はIRAK−4−CFPとトランスフェクトした。左側に、単一細胞(水平軸)のCFP励起によるCFP放射の蛍光発光強度や、単一細胞(垂直方向)のCFP励起によるYFP放射の蛍光発光強度を示した。CFP励起によって、YFPやCFPのいずれに対してもポジティブである細胞を、FRETとして囲んで示した。右側に、IRAK−1−CFP又はIRAK−4−CFPや、IRF7−YFPのFRETの計算値を示した。(C)HEK293細胞から調製された細胞分解産物可溶化液を、FLAG−IRF7欠失変異体とMyc−IRAK−1との結合体でトランジェントにトランスフェクトし、抗Myc抗体又は、抗FLAG抗体で免疫沈降し、図に記載の通りの組合せによる、抗Myc抗体又は、抗FLAG抗体を用いたイムノブロットによる分析を行った。
【図2】図2は、IRAK−1によるIRF7の活性化の結果を示す図である。(A)HEK293細胞から調製された細胞分解産物可溶化液を、Myc−IRAK1又は、Myc−IRAK1 KNと共にFLAG−IRF7をトランジェントにトランスフェクトし、抗Myc抗体又は抗FLAG抗体で免疫沈降し、図に記載の通りの組合せによる、抗Myc抗体又は、抗FLAG抗体を用いたイムノブロットによる分析を行った。(B)HEK293細胞を、FLAG−IRAK−1、FLAG−IRAK−1 KN、FLAG−IRAK−4又はFLAG−IRAK−4 KNとトランジェントにトランスフェクションした。細胞溶解液を抗FLAG抗体と免疫沈降し、GST−IRF7の存在下、インビトロでのキナーゼ反応を行った。タンパク質をSDS−PAGE上で分離し、続いてオートラジオグラフィによって視覚化した。(C)HEK293細胞を、IFN−α4プロモーターを運搬するレポータープラスミドと共に、IRF7、MyD88や、1、10、50ngのIRAK−1キナーゼネガティブ変異体(IRAK−1KN)とを組み合わせてトランジェントにトランスフェクトした(左側)。さらにHEK293細胞を、ELAMプロモーターを運搬するレポータープラスミドと共に、MyD88と、1、10、50ngのIRAK−1KNとを組み合わせてトランジェントにトランスフェクトした(右側)。トランフェクションから36時間後に、細胞をレポータージーンアッセイによって、IFN−α4又は、ELAMに依存するプロモーター活性について分析した。
【図3】図3は、IRAK−1−/YマウスのD35によるIFN−α誘導の障害についての結果を示す図である。(A)IRAK−1+/Y、IRAK−1−/Yマウス由来のFlt−3L−BMDCsを、図に示した濃度のD35で24時間刺激した。培養上澄のIFN−α、TNF−α、IL−6、IL−12p40の濃度をELISAにより測定した。データは平均値±SDとして示した。(B)Irak−1+/Y、Irak−1−/Yマウス由来のFlt3L−BMDCsを、1MのD35で図に示した時間刺激した。全RNAを抽出し、ノーザンブロット分析を行った。(C)Irak−1+/Yや、Irak−1−/Yマウス由来のFlt3−BMDCsにおける蛍光した細胞内IFN−αやIL−12染色を3μMのCpGDNA(D35)で刺激した。Flt3−BMDCsのCD11cB220個体数をpDCとして、それぞれ分析した。
【図4】図4は、Irak−1−/Yマウスでの他のTLRリガンドによるIFN−αの誘導の結果を示す図である。(A)Irak−1+/Y、Irak−1−/Yマウス由来のFlt3L−BMDCsを図に示したODN1668の濃度で24時間刺激した。培養上澄のIFN−α、TNF−α、IL−6、IL−12p40の濃度をELISAにより測定した。データは平均値±SDとして示した。(B)Irak−1+/Y、Irak−1−/Yマウスに50nmolのR−848を静脈注射した。血清サンプルを取りだし、IFN−α、TNF−α、IL−6、IL−12p40の濃度をELISAで測定した。(C)Irak−1+/Y、Irak−1−/Yマウス由来のFlt3L−BMDCsを10μg/mlのポリイノシン酸−ポリシチジル酸(polyI:C)で24時間トランスフェクトした。培養上澄のIFN−αの濃度をELISAにより測定した。データは平均値±SDとして示した。(N.D.は検出していないことを示す。)
【図5】図5は、Irak−1−/Y細胞でのD35に応答するIRF7の核転座を障害することを示す図である。(A)Irak−1+/Y、Irak−1−/Yマウス由来のFlt3L−BMDCsをD35で、1時間、2時間、6時間刺激した。核タンパク質を調製し、抗IRF7抗体や、抗RelA抗体を用いてイムノブロット分析を行った。アスタリスクはIRF7タンパク質を示す。(B)Irak−1+/Y、Irak−1−/Yマウス由来のFlt3L−BMDCsをD35で、10分、30分、60分間刺激した。全細胞可溶化液を抗phospho特異的ERK1抗体を用いてイムノブロット分析を行った。(C)TLR7や、TLR9を介したシグナル伝達経路の概略図である。IRF7はMyD88と相互作用することで複合体を形成し、IFN−αの誘導の基礎として働く。IRAK−1はIRF7と直接結合し、複合体を形成する。IRAK−1は、NF−κBの活性化に必要でないが、IRF7の活性化を介してIFN−αの誘導を調節する。IRAK−4は、IRAK−1の上流に位置し、IRAK−1の活性化に関係する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)とインターフェロン制御因子7(IRF7)とを、被検物質が存在する細胞内で発現させ、IRAK−1とIRF7との会合の程度を測定し、被検物質の不存在下にIRAK−1とIRF7を細胞内で発現させた場合のIRAK−1とIRF7との会合の程度と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
IRAK−1とIRF7との会合の程度を、ペプチドタグ標識IRAK−1及びIRF7を細胞内で発現させ、共免疫沈降法により測定することを特徴とする請求項1記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項3】
IRAK−1とIRF7との会合の程度を、蛍光タンパク質標識IRAK−1及びIRF7を細胞内で発現させ、倒立蛍光顕微鏡で視覚化することにより測定することを特徴とする請求項1記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項4】
IRAK−1とIRF7との会合の程度を、蛍光タンパク質標識IRAK−1及びIRF7を細胞内で発現させ、フローサイトメトリーを用いてFRETを分析することにより測定することを特徴とする請求項1記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項5】
IRF7として、IRF7のアミノ酸配列238と285の間の領域を少なくとも有するIRF7を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項6】
インターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)によるインターフェロン制御因子7(IRF7)のC末端のリン酸化の程度を、被検物質の存在下にインビトロで測定し、IRAK−1によるIRF7のC末端のリン酸化の程度を被検物質の不存在下にインビトロで測定した場合と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項7】
IRAK−1によるIRF7のC末端のリン酸化の程度を、GST−IRF7を基質として用いたキナーゼ分析により測定することを特徴とする請求項6記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項8】
インターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)をコードする遺伝子の一部若しくは全部が欠損し、TLR7又はTLR9が認識するリガンドに対するインターフェロンα産生の応答性が特異的に障害されているTLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに、被検物質とTLR7リガンド又はTLR9リガンドを投与し、モデルマウスにおけるインターフェロンαの産生量を測定し、被検物質を投与することなく、TLR7リガンド又はTLR9リガンドを投与した場合のモデルマウスにおけるインターフェロンαの産生量を測定した場合と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
モデルマウスにおけるインターフェロンαの産生量を、モデルマウスにおけるインターフェロンαのmRNA量としてノーザンブロット分析により測定することを特徴とする請求項8記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項10】
インターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)をコードする遺伝子の一部若しくは全部が欠損し、TLR7又はTLR9が認識するリガンドに対するインターフェロンα産生の応答性が特異的に障害されているTLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに由来する細胞を、被検物質の存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激し、モデルマウス由来の細胞におけるインターフェロンαの産生量を測定し、被検物質を不存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激した場合のモデルマウス由来の細胞におけるインターフェロンαの産生量を測定した場合と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
モデルマウス由来の細胞におけるインターフェロンαの産生量を、細胞の培養上澄のELISAによるIFN−α濃度として測定することを特徴とする請求項10記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
インターロイキン1受容体結合キナーゼ1(IRAK−1)をコードする遺伝子の一部若しくは全部が欠損し、TLR7又はTLR9が認識するリガンドに対するインターフェロンα産生の応答性が特異的に障害されているTLR7リガンド又はTLR9リガンド不応答性のモデルマウスに由来する細胞を、被検物質の存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激し、モデルマウス由来の細胞におけるIRF7の活性化の程度を、抗IRF7抗体を用いたイムノブロット分析により核タンパクを分析することにより測定し、被検物質を不存在下にTLR7リガンド又はTLR9リガンドで刺激した場合のモデルマウス由来の細胞におけるIRF7の活性化の程度を測定した場合と比較・評価することを特徴とするインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項13】
TLR9リガンドがCpGオリゴデオキシ核酸分子(CpG ODN)であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項14】
CpGオリゴデオキシ核酸分子(CpG ODN)がD35又はODN1668であることを特徴とする請求項13記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項15】
TLR7リガンドがR−848であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか記載のインターフェロンαの産生を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項16】
TLR7又はTLR9を介したシグナル伝達経路において、IRF7の活性化に必須の制御因子としての下記(a)又は(b)に記載のタンパク質及び該タンパク質をコードする遺伝子の使用方法。
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIRF7を活性化する機能を有するタンパク質
【請求項17】
タンパク質が、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAにコードされることを特徴とする請求項16に記載の使用方法。
【請求項18】
タンパク質が、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされ、かつIRF7を活性化する機能を有することを特徴とする請求項16に記載の使用方法。
【請求項19】
タンパク質が、配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有し、かつIRF7を活性化する機能を有することを特徴とする請求項16に記載の使用方法。
【請求項20】
TLR7又はTLR9を介したシグナル伝達経路において、IRF7を活性化してインターフェロンαの産生を誘導する必須の制御因子としての下記(a)又は(b)に記載のタンパク質及び該タンパク質をコードする遺伝子の使用方法。
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIRF7を活性化する機能を有するタンパク質
【請求項21】
タンパク質が、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAにコードされることを特徴とする請求項20に記載の使用方法。
【請求項22】
タンパク質が、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされ、かつIRF7を活性化する機能を有することを特徴とする請求項20に記載の使用方法。
【請求項23】
タンパク質が、配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有し、かつIRF7を活性化する機能を有することを特徴とする請求項20に記載の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−280361(P2006−280361A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207837(P2005−207837)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】