説明

インターロイキン産生調節剤、該インターロイキン産生調節剤を含む医薬組成物及び飲食品、並びにその製造方法

【課題】炎症を主たる症状とする消化管疾患及び自己免疫疾患に対する予防、治療、及び再発防止のために使用可能なインターロイキン産生調節剤であって、安全性が高く、長期の投与にも不安のないインターロイキン産生調節剤、及びその製造方法、前記インターロイキン産生調節剤を含む医薬組成物及び飲食品を提供すること。
【解決手段】インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを有するインターロイキン産生調節剤を、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体を破砕する工程、を含む方法によって、製造する方法、及び該製造方法によって得られるインターロイキン産生調節剤、該インターロイキン産生調節剤を含む医薬組成物及び飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを有するインターロイキン産生調節剤、該インターロイキン産生調節剤を含む医薬組成物及び飲食品、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リウマチ性疾患や炎症性腸疾患等の自己免疫疾患は、その主たる症状に炎症が挙げられる。炎症は、それを起こすサイトカインが存在し、指令を出すサイトカインとその指令を受けるサイトカイン・レセプター(受容体)とのバランスによって引き起こされると考えられている。炎症は、炎症を抑えるサイトカインが勝ると自然に治癒するが、炎症を起こすサイトカインの作用が強いといつまでも炎症が続き慢性炎症となるとされている。このように、サイトカイン(例えばインターロイキン等)産生のバランスが自己免疫疾患の発症に大きく関与し、これらサイトカインの産生を調節することが疾患の予防や治療に重要な意味を持つと考えられる。
【0003】
IL−10は、T細胞、B細胞、単球およびマクロファージによって産生されるサイトカインである。IL−10は、B細胞の増殖と抗体分泌細胞への分化を促進し、ほとんどの場合、抗炎症性活性を示す。これは単球によるIL−1RA発現をアップレギュレーションし、単球炎症活性の大半を抑制するメカニズムによるとされる。IL−10は、PGE2−cAMP依存性経路に干渉することによって小腸コラゲナーゼとIV型コラゲナーゼの産生を阻害することが明らかにされており、慢性炎症性疾患で見られる結合組織破壊の制御剤となるものと考えられている。
IL−12は、主にマクロファージのような抗原提示細胞によって炎症カスケード初期に産生されるサイトカインであり、35kDと40kDとから構成された70kDのヘテロダイマー蛋白質である。IL−12は、IFN−γ産生の強力な誘発剤でありかつナチュラルキラー細胞の活性化剤であり、主にIFN−γ産生の細胞賦活能力により、細胞性免疫すなわちTh1免疫応答の産生に重要なサイトカインとされる。すなわち、IL−12は、一般に、炎症促進的活性を示す。
【0004】
乳酸菌は、発酵乳等の形で体内に摂取されることにより、整腸作用や血清コレステロール低下作用等、乳酸菌の機能性に基づく様々な生理的効用を発揮することが知られている。このような乳酸菌の効用については、近年「プロバイオティクス」(宿主の健康維持に有益に働く生きた微生物)という概念が導入され、消費者の健康志向を反映して広く関心を集めており、多くの研究が行われている。この「プロバイオティクス」という言葉は当初、「腸内フローラのバランスを改善することによって宿主動物に有益に働く微生物添加物」と定義されてきたが、現在は上記のように、広義の意味で用いられることが多い。
乳酸菌の生理的効用として、インスリン依存性糖尿病や慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患や、過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患に対する効能について注目され始めてきている。
【0005】
これに関し、現在までに、自己免疫疾患等の免疫病の予防・治療に資するラクトコッカス株とその取得方法(特許文献1)、炎症性腸疾患又は過敏性腸症候群等の消化管炎症活性の予防及び/又は治療に有用なラクトバチラス株(特許文献2及び特許文献3)等が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、各種乳酸菌を用いた潰瘍性大腸炎の予防若しくは治療、又は再発防止の機序について、乳酸菌体が宿主細胞に対して抗炎症サイトカインであるインターロイキン−10(IL−10)の産生を誘導することで症状が改善されることが示されている。また、乳酸菌体が宿主細胞に対して炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン−12(IL−12)やインターフェロン−γ(IFN−γ)を誘導することが症状改善にとって負の影響を与えていることも示されている。
【0007】
また、インスリン依存性糖尿病の発症に及ぼす乳酸菌による作用として、非特許文献2には、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ロイコノストック属及びペディオコッカス属の各種の乳酸菌株を1)IL−10の産生のみを強く刺激するもの、2)IL−12の産生のみを強く刺激するもの、3)両者とも強く刺激するもの、4)両者とも強く刺激しないものにそれぞれ分類し、1)に属する乳酸菌株はインスリン依存性糖尿病の発症を誘導する自己免疫応答を抑制できること、2)に属する株は逆にそれを促進することが報告されている。
【0008】
また、乳酸菌は、マクロファージや樹状細胞といったプロフェッショナル抗原提示細胞が菌体の刺激を受け、IL−12を産生することでT細胞からのIFN−γの産生を誘導してTh1を誘導し、免疫担当細胞に対するIL−12産生誘導能は菌株ごとに大きく異なるものの、潜在的にIL−12産生誘導能を有していることが報告されている(非特許文献3、特許文献4)。
【0009】
このように、これらの各種インターロイキン(IL)の産生誘導については、各種の菌株によってその産生誘導能が異なるものと考えられ、これまでの研究が行われている。
【特許文献1】特開2005−154387号公報
【特許文献2】特表2005−506063号公報
【特許文献3】特表2005−508150号公報
【特許文献4】特開平10−139674号公報
【非特許文献1】PNAS、第102巻、第29号、2005年、第10321〜10326頁
【非特許文献2】日本食品免疫学会2005年度大会プログラム・要旨集、平成17年11月9日発行、第19〜20頁、及び第48頁
【非特許文献3】インターナショナル・アチーブス・オブ・アレルギー・アンド・イムノロジー(Int Arch Allergy Immunol)、第135巻、2004年、第205〜215頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記背景技術が示すとおり、炎症を主たる症状とする消化管疾患及び自己免疫疾患に対する予防、治療、及び再発防止のためには、サイトカイン、特にインターロイキンの産生を調節することが重要であり、そのなかでも、抗炎症性サイトカインであるIL−10と炎症誘発性サイトカインであるIL−12が重要であると考えられる。
【0011】
本発明者等は、抗炎症性サイトカインであるIL−10の産生量を増大させつつ、同時に炎症誘発性サイトカインであるIL−12の産生量を減少させることで、炎症性の症状の予防、治療、及び再発防止を効果的に達成するという着想を得た。すなわち、インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを、同時に有するインターロイキン産生調節剤によって、炎症性の症状の予防、治療、及び再発防止を効果的に達成するという着想を得た。
また、炎症を主たる症状とする消化系疾患及び自己免疫疾患は、真の原因が不明であることもあって根本的治療法は確立されていない。そのために、治療の方針は、治癒(完全に治療された状態)を目指すのではなく、緩解(寛解)(一時的に症状がよくなった状態)を早期に導入して、それをできるだけ長期間維持することを目指すものとなる。投薬の中断は症状の再燃(再発)をもたらすことにつながるため、投薬は長期間に渡って継続的に続けることになる。炎症性の症状の予防を目的とする場合も同じく投薬は長期間に渡る継続的なものとなる。すなわち、これらの症状の予防、治療、及び再発防止のために使用される薬剤は、安全性が高く、長期の投与にも不安のないことが、特に強く求められる。
従って、本発明の目的は、炎症を主たる症状とする消化管疾患及び自己免疫疾患に対する予防、治療、及び再発防止のために使用可能な、インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを、同時に有するインターロイキン産生調節剤、及びその製造方法を提供することにある。さらに前記インターロイキン産生調節剤を有効成分とする医薬組成物、前記インターロイキン産生調節剤を含む飲食品を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、炎症を主たる症状とする消化管疾患及び自己免疫疾患に対する予防、治療、及び再発防止のために使用可能なインターロイキン産生調節剤であって、安全性が高く、長期の投与にも不安のないインターロイキン産生調節剤、及びその製造方法を提供することにもある。さらに前記インターロイキン産生調節剤を有効成分とする医薬組成物、前記インターロイキン産生調節剤を含む飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記の目的を達成するために、炎症を主たる症状とする消化管疾患及び自己免疫疾患に対する予防、治療、及び再発防止のために使用可能であって、医薬品や飲食品として使用した場合に安全性が高く、長期の摂取にも不安のない素材の探索を行っていたところ、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体を破砕する工程により製造して得られた破砕物に、インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを、同時に備えたインターロイキン産生調節能を見いだして、本発明を完成するに至った。
【0013】
そして、驚くべきことに、本発明者等は、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体を破砕する工程により製造して得られた破砕物は、実験を行ったいずれの乳酸菌を出発材料としても、このような有用なインターロイキン産生調節能を有していることを見いだした。すなわち、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌うちのいずれの乳酸菌の菌体の破砕物であっても、十分な破砕工程を行うことにより、上記の有用なインターロイキン産生調節能を引き出すことができた。
この驚くべき知見は、例えば非特許文献3等の先行技術文献で前提とされていた従来の当業者の常識、すなわち、各種のインターロイキンの産生誘導能は、各種乳酸菌ならばその乳酸菌の菌株によって異なっており、目的とするインターロイキン産生誘導能を利用したい場合には、各種の乳酸菌の菌株をスクリーニングすることによって目的の菌株を見いだすことが研究開発として必要であり、このようなスクリーニングを行うことによって初めて、目的の産生誘導能(を有する乳酸菌の菌体)の利用が可能になるのだ、という従来の当業者の常識を覆すものである。
従って、本願発明は、インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを有するインターロイキン産生調節剤を、
ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体を破砕する工程、
を含む方法によって、製造する方法にある。
【0014】
上記の製造方法は、インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用によって促進的に産生されるインターロイキン−10の産生量と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用によって抑制的に産生されるインターロイキン−12の産生量との比の値(インターロイキン−10/インターロイキン−12)が、10以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましい。
乳酸菌の菌体を破砕する工程が、物理的破砕によって行われることが好ましく、乳酸菌の菌体を破砕する工程が、超音波破砕によって行われることがさらに好ましい。
【0015】
ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌が、
ラクトバチルス・デルブリュッキイ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトコッカス・ラクティス・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、及びストレプトコッカス・サリバリウス・サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌であることが好ましい。
また、本願発明は、上記の製造方法によって得られる、
インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを有するインターロイキン産生調節剤にもある。
【0016】
上記のインターロイキン産生調節剤は、インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用によって促進的に産生されるインターロイキン−10の産生量と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用によって抑制的に産生されるインターロイキン−12の産生量との比の値(インターロイキン−10/インターロイキン−12)が、10以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましい。
【0017】
また、本願発明は、上記のインターロイキン産生調節剤を有効成分とする、医薬組成物にもある。
【0018】
また、本願発明は、上記のインターロイキン産生調節剤を有効成分とする、自己免疫疾患又は消化管疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物にもある。
【0019】
好ましい態様において、自己免疫疾患がインスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)、又は慢性関節リウマチである。
【0020】
好ましい態様において、消化管疾患が消化性大腸炎、クローン病、難治性炎症性腸疾患又は過敏性腸症候群である。
【0021】
また、本願発明は、上記のインターロイキン産生調節剤を含む飲食品にもある。
【0022】
また、本願発明は、上記のインターロイキン産生調節剤を含む、自己免疫疾患又は消化管疾患の予防及び/又は治療用の飲食品にもある。
【0023】
好ましい態様において、自己免疫疾患がインスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)、又は慢性関節リウマチである。
【0024】
好ましい態様において、消化管疾患が消化性大腸炎、クローン病、難治性炎症性腸疾患又は過敏性腸症候群である。
【0025】
好ましい態様において、飲食品が、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、栄養機能食品、特定保健用食品、又は条件付き特定保健用食品である。
【0026】
また、本願発明は、上記のインターロイキン調節剤を含む、飼料にもある。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、炎症を主たる症状とする消化管疾患及び自己免疫疾患に対する予防、治療、及び再発防止のために使用可能な、インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを、同時に有するインターロイキン産生調節剤を製造することができる。そして、このインターロイキン産生調節剤、及びこのインターロイキン産生調節剤を有効成分とする医薬組成物、このインターロイキン産生調節剤を含む飲食品を提供することができる。
【0028】
そして、本発明のインターロイキン産生調節剤は、炎症を主たる症状とする消化管疾患及び自己免疫疾患、すなわち、インスリン依存性糖尿病や慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患や、過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患の予防・治療、及び再発防止に有用である。
【0029】
さらに、本発明によるインターロイキン産生調節剤、医薬組成物、飲食品は、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体、すなわちいわゆる乳酸菌を出発原料にしている。そして、この乳酸菌は、ヨーグルト等を通じて、歴史的な年月の間、ヒトの飲食に使用されていたために、ヒトに対する安全性が極めて高い水準で担保されている。すなわち、本発明によるインターロイキン産生調節剤、医薬組成物及び飲食品は、安全性が極めて高く、長期の投与又は摂取にも不安がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0031】
本発明のインターロイキン産生調節剤、医薬組成物及び飲食品は、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物を有効成分として含有するものである。ここで、「ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物を有効成分として含有する」とは、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物を、目的とする効果(インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを同時に有するインターロイキン産生調節能)を得ることができる有効量を含有することを意味する。
【0032】
すなわち、本発明において、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物を有効量含むインターロイキン産生調節剤、医薬組成物又は飲食品であれば、インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用を有することを特徴とするインターロイキン産生調節能が享受される。
【0033】
本発明において用いられるラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌株としては、特に制約はなく、これまで、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属又はストレプトコッカス属に属するものとして、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)、ジャパン・コレクション・オブ・ミクロオーガニズム(JCM)、ノースイースト・テキサス・コミュニティ・カレッジ(NTCC)、ドイッチェ・サムラング・ミクロオーガニズメン・ウント・ゼルクルトウーレン(DSM)等の公的な微生物保存機関に寄託されている公的機関寄託株であってもよく、上述したような公知の方法により自然界(たとえばヒトの糞便等)から分離した分離株であってもよい。公的機関寄託株としては、たとえば、P−17216株、ATCC9625株、ATCC11842株、ATCC53103株、ATCC23272株、JCM1149株等が挙げられる。
【0034】
なお、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属又はストレプトコッカス属に属する乳酸菌の供給源としては、これら微生物を含有する物として、菌体懸濁液、菌体培養物(菌体、培養上清液、培地成分を含む)、菌体培養物から固形分を除去した菌体培養液、及び菌体懸濁液、菌体培養物の凍結乾燥物、並びに乳酸菌含有飲料、酸乳、ヨーグルト等乳酸菌で発酵した飲食品からなる発酵乳等を使用することが可能であって、これらを用いて乳酸菌を単離しても良く、乳酸菌を含有する物の状態で使用することもできる。
【0035】
また、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌としては、単一の菌株である必要はなく、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された乳酸菌の複数の株を組み合わせて使用することも可能である。さらに、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌としては、生菌体、湿潤菌、乾燥菌、死菌体等が適宜使用することが可能である。
【0036】
本発明のインターロイキン産生調節剤の有効成分は、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物である。本発明のインターロイキン産生調節剤の製造方法に含まれる、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体を破砕する工程は、好ましくは物理的破砕によって行われる。物理的な破砕は、新たな成分の添加等を伴うことがないために、安全性や安心感を損なうことなく、特に有利である。具体的な破砕手段としては、フレンチプレスや細胞破砕機(フナコシ社製Fast Prep FP120など)を用いて物理的に破砕することが例示される。好ましくは超音波破砕機(例えば、BRANSON SONIFIER 450)を用いて、出力約35W(試料懸濁溶液が約4mlの場合)で少なくとも5分間以上(好ましくは10分間以上、さらに好ましくは15分間以上、通常は60分間以下)の超音波破砕処理で物理的破砕を行うことができる。単位体積あたりにこれと同等のエネルギーを付与する超音波処理を行うことによっても好ましい実施が可能である。例えば、試料溶液1mlあたり、一般に2600ジュール(J)以上、好ましくは5200ジュール以上、さらに好ましくは7800ジュール以上、通常は31500ジュール以下を付与する処理によって、好ましい実施が可能である。超音波処理に使用される超音波の周波数は、一般に10〜50kHzの範囲、好ましくは15〜40kHzの範囲、特に好ましくは15〜30kHzの範囲にある。このような超音波処理には上述のBRANSON SONIFIERの他に、例えばTITEC VP−5S、VP−15S及びVP−30S、あるいはMISONIX ASTRASON S3000及びXL2020等を使用することができる。超音波破砕機の出力が大きいほど、より短時間での処理で十分な破砕が可能となる傾向にある。このような超音波処理、又はこれに相当する物理的破砕方法によって、乳酸菌の菌体を破砕する工程を行うことが可能である。
【0037】
本発明のインターロイキン産生調節剤、医薬組成物又は飲食品における有効成分であるラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物は、天然物であって、摂取した場合の安全性が高く、食品中に含有され、日常的に摂取されているもので、毒性を示さず、長期間連続的に摂取しても副作用が殆ど認められない。従って、経口等の投与方法により適宜使用することが可能であり、公知の方法により、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、顆粒剤、散剤等に加工することも可能である。また、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物を有効成分として食品中に含有させることもでき、自己免疫疾患又は消化管疾患の予防及び/又は治療の一態様として、自己免疫疾患又は消化管疾患の予防及び/又は治療効果を有する機能性食品に加工することも可能である。
【0038】
本発明のインターロイキン産生調節剤、医薬組成物又は飲食品の有効成分である、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物の投与量は、剤型、症状、年齢、体重等によって異なるが、腸疾患の予防及び/又は治療を効果的に発揮させるためには、0.1μg〜0.5g/kg体重/日の割合で経口投与、好ましくは1μg〜0.2g/kg体重/日、特に10μg〜50mg/kg体重/日の割合で投与することが好ましい。
【0039】
本発明による医薬組成物としては、例えば、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物を薬学的に許容され得る賦形剤等の任意の添加剤を用いて製剤化することにより製造できる。製剤化する場合、製剤中のラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物の含有量は、通常0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜10質量%である。製剤化にあたっては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。
【0040】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α−デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられ、結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マグロゴール等が挙げられ、崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられ、滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸類塩;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられ、安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられ、矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられ、注射剤用溶剤としては、例えば、水、エタノール、グリセリン等が挙げられる。
【0041】
本発明の医薬組成物の投与経路としては、例えば、経口投与、経腸投与等の非経口投与が挙げられ、本発明の医薬組成物の投与剤型としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等が挙げられる。また、本発明の医薬組成物は、飲食品や飼料等に配合して投与することもできる。
【0042】
本発明の飲食品は、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物を有効成分として含有する自己免疫疾患又は消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品を意味するものであって、日常的に摂取が可能な飲食品を例示することができる。
【0043】
例えば、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物に、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類等を配合することにより製造できる。飲食品の形態としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物、パン;経腸栄養食;機能性食品等が挙げられる。
【0044】
本発明の医薬組成物及び飲食品は、それのみで使用してもよいが、その他の自己免疫疾患又は消化管疾患に効果を有する医薬組成物、又は飲食品と併用してもよい。併用によって、自己免疫疾患又は消化管疾患の予防及び/又は治療の効果を高めることができる。併用する医薬組成物、又は飲食品は、本発明の医薬組成物又は飲食品中に有効成分として含有させてもよいし、本発明の医薬組成物又は飲食品中には含有させずに別個の薬剤、飲食品等として組み合わせて商品化してもよい。
【0045】
本発明の飲食品における用途としては、自己免疫疾患又は消化管疾患の予防及び/又は治療の効果を利用するような種々の用途をとることが可能である。
【0046】
本発明の飲食品は、自己免疫疾患又は消化管疾患を改善するためとの用途が表示された飲食品、例えば「自己免疫疾患又は消化管疾患改善用と表示された、自己免疫疾患又は消化管疾患改善効果を有する飲食品」、「自己免疫疾患又は消化管疾患改善用と表示された、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物を含有する飲食品」、あるいは「自己免疫疾患又は消化管疾患予防用と表示された、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物を含有する飲食品」等として販売することが好ましい。
【0047】
なお、以上のような表示を行うために使用する文言は、「自己免疫疾患又は消化管疾患改善用」あるいは「自己免疫疾患又は消化管疾患予防用」という文言のみに限られるわけではなく、それ以外の文言であっても、自己免疫疾患又は消化管疾患を予防又は治療効果を表す文言であれば、本発明の範囲に包含されることはいうまでもない。そのような文言としては、例えば、需要者に対して、自己免疫疾患又は消化管疾患の予防効果及び/又は改善効果を認識させるような種々の用途に基づく表示も可能である。
【0048】
前記「表示」の行為(表示行為)には、需要者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、上記用途を想起・類推させうるような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、すべて本発明の「表示」の行為に該当する。しかしながら、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により表示することが好ましい。具体的には、本発明の飲食品に係る商品又は商品の包装に上記用途を記載する行為を表示行為として挙げることができ、さらに商品又は商品の包装に上記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為、等を例示できる。
【0049】
一方、表示される内容(表示内容)としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示)であることが好ましく、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0050】
また、例えば、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、医薬用部外品等としての表示を例示することができる。特に、厚生労働省によって認可される表示、例えば、特定保健用食品制度、これに類似する制度にて認可される表示を例示できる。後者の例としては、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク低減表示等を例示することができ、詳細にいえば、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)、及びこれに類する表示が、典型的な例として列挙することが可能である。
【0051】
本発明の医薬組成物又は飲食品は、生体内において、抗炎症サイトカインであるインターロイキン−10(IL−10)の産生を維持又は促進、好ましくは促進し、かつ炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン−12(IL−12)の産生を維持又は抑制、好ましくは抑制するために使用可能であることから、これらインターロイキンが関与するインスリン依存性糖尿病や慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患や、過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患の予防・治療、及び再発防止に好適に使用することができる。
【0052】
なお、本発明において、インターロイキン産生調節能を示す指標としては、インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを同時に評価した指標が例示されるが、具体的には、インターロイキン−10/インターロイキン−12の量比(IL−10/IL−12比)で表すことが可能である。インターロイキン−10/インターロイキン−12の量比(IL−10/IL−12比)の算出方法としては、PNAS、第102巻、第29号、2005年、第10321〜10326頁に記載の方法が例示される。
【0053】
すなわち、インターロイキン−10が産生が維持又は促進され、かつインターロイキン−12の産生が維持又は抑制されれば、インターロイキン−10/インターロイキン−12の量比は相対的に高値を示す(但し、両方の産生を同時に維持するのみの場合は除く)。ここで、インターロイキン−10又はインターロイキン−12の産生量は、ELISA法等の免疫学的な方法の他、公知の蛋白質濃度測定法により測定することが可能である。
【0054】
本発明の医薬組成物又は飲食品においては、前記インターロイキン−10/インターロイキン−12の量比(IL−10/IL−12比)は、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上が特に好ましい。この値の量比で、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体の破砕物量を本発明の医薬組成物又は飲食品に含有させることによって、インスリン依存性糖尿病や慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患や、過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患の予防・治療、及び再発防止に好適に使用することが可能である。
【0055】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
[ラクトバチルス・デルブリュッキイ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)ATCC11842株破砕物含有タブレットの製造]
ラクトバチルス・デルブリュッキイ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)ATCC11842株破砕物150g、ラクチュロース粉末(森永乳業社製)100g、マルツデキストリン(松谷化学工業社製)635g、脱脂粉乳(森永乳業社製)85g、ステビア甘味料(三栄源エフ・エフ・アイ社製)1g、ヨーグルト・フレーバー(三栄源エフ・エフ・アイ社製)5g、グリセリン脂肪酸エステル製剤(理研ビタミン社製)24gの各粉末を添加して均一に混合し、打錠機(畑鉄鋼所社製)を使用して、錠剤1錠当り0.5gとし、12錠/分打錠速度、9.8KPaの圧力で前記混合粉末を連続的に打錠し、炎症性腸疾患及び過敏性腸症候群の症状緩和剤及び/又は治療剤であるラクトバチルス・デルブリュッキイ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)ATCC11842株破砕物を含有するタブレット1800錠(約900g)を製造した。
【実施例2】
【0057】
ホエー蛋白加水分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、および少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解して水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解して油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更に、ホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、およびラクトバチルス・デルブリュッキイ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)ATCC11842株破砕物60gを添加し、均一に混合して、インスリン依存性糖尿病の予防及び/又は症状を緩和する効果を有するラクトバチルス・デルブリュッキイ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)ATCC11842株破砕物を含有する経腸栄養食粉末約56kgを製造した。
【0058】
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
[本発明の試験例で用いた乳酸菌]
本発明の試験例で用いた乳酸菌の菌株の属種、寄託機関、番号、本明細書中での識別名を表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
[本発明の試験方法]
(未破砕菌体試料の調製)
乳酸菌の各菌株をMRS(de Man Rogasa Sharpe)培地(Difco)で16時間培養した物を、PBS(phosphate-buffer saline)で2回洗浄し、さらに蒸留水で2回洗浄した後に蒸留水で懸濁し、凍結乾燥を行った。凍結乾燥したものをPBSで懸濁し、100℃30分間の加熱処理を行い、未破砕菌体試料とした。
【0061】
(完全破砕菌体試料の調製)
表1に示した乳酸菌の各菌株をMRS(de Man Rogasa Sharpe)培地(Difco)で16時間培養した物を、PBS(phosphate-buffer saline)で2回洗浄し、さらに蒸留水で2回洗浄した後に蒸留水で懸濁し、約4mlの試料を超音波破砕機(BRANSON SONFIER 450)にて60分間(output control 4、出力約35W相当、周波数20kHz、constant)の超音波処理を氷上で行った。これらの試料を800 x g 30分で遠心し、未破砕の菌体を除去した。得られた試料は、未破砕の菌体が残っていないことを検鏡にて確認し、凍結乾燥を行った。凍結乾燥したものをPBSで懸濁し、100℃30分間の加熱処理を行い、完全破砕菌体試料とした。
【0062】
(破砕菌体試料の調製)
L. bulgalicus ATCC11842株をMRS(de Man Rogasa Sharpe)培地(Difco)で16時間培養した物を、PBS(phosphate-buffer saline)で2回洗浄した後にPBSで懸濁し、超音波破砕機(BRANSON SONFIER 450)にて0,5,15,30,60分間(output control 4、出力約35W相当、周波数20kHz、constant)の超音波処理を、体積約4mlとした懸濁溶液に対して氷上で行い,100℃30分間の加熱処理を行った。
【0063】
(脾細胞の調製)
実験動物には6週齢のオスBALB/cマウス(チャールズリバー)を用い、7-9週齢時に解剖し脾臓を採取した。採取した脾臓より脾細胞を採取し、赤血球溶血液(0.144M 塩化アンモニウム、17mM トリスアミノメタン、pH7.65)にて3分間処理し、赤血球を除去したものを調製した。
【0064】
(実験条件)
「(脾細胞の調製)」の方法で調製した脾細胞を、RPMI1640(SIGMA)に10% FCS(Gibco)、100IU/ml ペニシリン、0.1mg/ml ストレプトマイシンを加えた培地で、2 x 10 cells/mlになるように懸濁し、この細胞浮遊液を0.5mlと菌体試料を終濃度1μg/ml、10μg/mlで混合し、48穴のマイクロプレート(FALCON)にて37℃、5% CO存在下で培養した。2日後に培養上清を回収し、培養上清中のサイトカインを測定した。
【0065】
(サイトカインの測定)
IL-10濃度はDuo Set(R&D systems)を用いてELISA法により測定した。IL-12p70濃度は、Quantikine(R&D systems)を用いてELISA法により測定した。
【0066】
[試験例1:完全破砕菌体試料と未破砕菌体試料のIL-12・IL-10産生誘導能の比較]
各株の未破砕菌体試料または完全破砕菌体試料によるマウス脾細胞から誘導されるサイトカイン産生量を図1(IL-12p70)と図2(IL-10)に示す。
【0067】
図1は、本発明の試験例1において、未破砕菌体試料または完全破砕菌体試料の添加によってマウス脾細胞から誘導されるIL-12p70の産生量を示した図である。3回の実験の平均値と標準偏差を示している。図中*は未破砕菌体試料が完全破砕試料とt検定で比較して、危険率5%以下で有意差が認められる点を示している。
【0068】
この結果、試験に用いた全ての株で、完全破砕菌体試料は未破砕菌体試料と比べて、誘導するIL-12p70産生量が有意(t検定、危険率5%以下)に減少する添加濃度が認められ、完全破砕菌体は未破砕菌体試料と比べてIL-12産生誘導能が低いことが示された。
【0069】
図2は、本発明の試験例1において、未破砕菌体試料または完全破砕菌体試料の添加によってマウス脾細胞から誘導されるIL-10の産生量を示した図である。3回の実験の平均値と標準偏差を示している。図中*は未破砕菌体試料または完全破砕試料を添加していないコントロールとt検定で比較して、危険率5%以下で有意差が認められる点を示している。
【0070】
この結果、試験に用いた全ての株で、未破砕菌体試料および完全破砕菌体試料の添加によってIL-10の産生量が試料を添加していないコントロールと比べて有意に(t検定、危険率5%以下)増加しており、未破砕菌体試料および完全破砕菌体試料はともにIL-10産生誘導能を有することが示された。
【0071】
試料添加濃度10μg/mlにおける未破砕菌体試料と完全破砕菌体試料のIL-10産生量とIL-12p70産生量の比(IL-10/IL-12比)を表2に示す。IL-12p70濃度が検出限界以下(2.5pg/ml以下)のものについては、検出限界値を使用して計算した。いずれの株でもIL-10/IL-12比が完全破砕菌体試料で大きく増加した。
【0072】
【表2】

【0073】
乳酸菌では、完全破砕菌体試料は未破砕菌体試料よりIL-12産生誘導能が低く、完全破砕菌体試料および未破砕菌体試料はともにIL-10産生誘導能を有していた。この結果から、乳酸菌を物理的に破砕することで、IL-10産生誘導能を維持したままIL-12産生誘導能を低減させられることが示された。また、完全破砕菌体のIL-10/IL-12比は未破砕菌体と比べて大きく増加し、菌体を破砕することでIL-10/IL-12比が著しく改善されることが示された。
【0074】
[試験例2:菌体破砕時間の検討]
各破砕時間の破砕菌体試料(添加濃度10μg/ml)によるマウス脾細胞から誘導されるサイトカイン産生量を図3(L. bulgalicus ATCC11842株)に示す。
【0075】
図3は、本発明の試験例2において、L. bulgalicus ATCC11842株を図中に示した時間の超音波破砕処理した破砕菌体試料の添加によってマウス脾細胞から誘導されるIL-12p70とIL-10の産生量、及びIL-10/IL-12比(「pg/ml」/「pg/ml」)を示した図である。3回の実験の平均値と標準偏差を示している。IL-12p70産生量を示した図中、*は破砕時間0分の未破砕菌体試料とt検定で比較して、危険率0.05以下で有意差が認められる点を示している。IL-10産生量を示した図中、*は試料を添加していないコントロール(検出限界以下)とt検定で比較して、危険率5%以下で有意差が認められる点を示している。
【0076】
この結果、破砕時間が5分間以降の試料で有意(危険率5%以下)にIL-12産生が減少し,破砕時間が長くなるほどIL-12産生は減少し、破砕時間が15分間以降となるとIL-12産生は極めて低減し、30分間以降の試料ではほぼIL-12の産生が消失した。これに対してIL-10産生量は、試料を添加していないコントロールと比べて、いずれの破砕時間においても有意に高い値を示した。IL-10産生量は、最初の5分間の破砕でわずかに増大し、その後は破砕時間の増加とともにわずかな減少傾向は見られるが、基本的には破砕時間によらずIL-10産生誘導能を維持していた。
【0077】
以上の結果から、乳酸菌の菌体を超音波破砕機(BRANSON SONIFIER 450)を用いて少なくとも5分間以上超音波破砕処理することで、IL-12産生誘導能を低減できることが示された。また、図3のIL−10/IL−12比を示した図に示されるとおり、乳酸菌の菌体のIL-12産生誘導能をほとんど消失させるとともに、高いIL−10/IL−12比を得るためには、少なくとも5分間以上、好ましくは15分間以上、通常は60分間以下で超音波破砕処理することが望ましいことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、未破砕菌体試料または完全破砕菌体試料によって誘導されるIL-12p70の産生量を、各株について示した図である。
【図2】図2は、未破砕菌体試料または完全破砕菌体試料によって誘導されるIL-10の産生量を、各株について示した図である。
【図3】図3は、各時間で超音波破砕処理した破砕菌体試料によって誘導されるIL-12p70とIL-10の産生量、及びIL-10/IL-12比を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを有するインターロイキン産生調節剤を、
ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌の菌体を破砕する工程、
を含む方法によって、製造する方法。
【請求項2】
インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用によって促進的に産生されるインターロイキン−10の産生量と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用によって抑制的に産生されるインターロイキン−12の産生量との比の値(インターロイキン−10/インターロイキン−12)が、10以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌の菌体を破砕する工程が、物理的破砕によって行われる、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
乳酸菌の菌体を破砕する工程が、超音波破砕によって行われる、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する乳酸菌からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌が、
ラクトバチルス・デルブリュッキイ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトコッカス・ラクティス・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、及びストレプトコッカス・サリバリウス・サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)からなる群より選択された1種類以上の乳酸菌である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって得られる、
インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用とを有するインターロイキン産生調節剤。
【請求項7】
インターロイキン−10の産生の維持又は促進作用によって促進的に産生されるインターロイキン−10の産生量と、インターロイキン−12の産生の維持又は抑制作用によって抑制的に産生されるインターロイキン−12の産生量との比の値(インターロイキン−10/インターロイキン−12)が、10以上である、請求項6に記載のインターロイキン産生調節剤。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のインターロイキン産生調節剤を有効成分とする、医薬組成物。
【請求項9】
請求項6又は請求項7に記載のインターロイキン産生調節剤を有効成分とする、自己免疫疾患又は消化管疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物。
【請求項10】
自己免疫疾患がインスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)、又は慢性関節リウマチである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
消化管疾患が消化性大腸炎、クローン病、難治性炎症性腸疾患又は過敏性腸症候群である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項6又は請求項7に記載のインターロイキン産生調節剤を含む、飲食品。
【請求項13】
請求項6又は請求項7に記載のインターロイキン産生調節剤を含む、自己免疫疾患又は消化管疾患の予防及び/又は治療用の飲食品。
【請求項14】
自己免疫疾患がインスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)、又は慢性関節リウマチである、請求項13に記載の飲食品。
【請求項15】
消化管疾患が消化性大腸炎、クローン病、難治性炎症性腸疾患又は過敏性腸症候群である、請求項13に記載の飲食品。
【請求項16】
飲食品が、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、栄養機能食品、特定保健用食品、又は条件付き特定保健用食品である、請求項12〜15のいずれかに記載の飲食品。
【請求項17】
請求項6又は請求項7に記載のインターロイキン調節剤を含む、飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−269737(P2007−269737A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99956(P2006−99956)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】