説明

インターロイキン12産生促進剤およびその製造法

【課題】
インターロイキン12産生促進剤およびその製造法の提供
【解決手段】(1)テトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属する乳酸菌の培養物、菌体または菌体成分を有効成分とするインターロイキン12産生促進剤。(2)前記の剤を含む、飲食品、医薬品または化粧品。(3)テトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属する乳酸菌を塩分0%〜25%好ましくは5%〜15%の乳酸菌用培地で培養し、得られた培養物、菌体または菌体成分を有効成分とすることを特徴とするインターロイキン12産生促進剤の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌に属するテトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属の菌体またはその処理物を含んでなるインターロイキン12産生促進剤およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の免疫系は、細菌、酵母、カビ、ウイルスなどの微生物による感染や、腫瘍に対する防御、アレルギーの発症に重要な役割を果たしており、その防御機構の中心はリンパ球とマクロファージである。リンパ球とマクロファージは抗原特異的、また、抗原非特異的に活性化され、異物を排除する能力を高める。リンパ球やマクロファージの活性化において、インターロイキン12は、NK細胞やT細胞に作用してインターフェロンγや腫瘍壊死因子αの産生を誘導し、マクロファージを活性化すること、NK細胞およびCD8+T細胞の細胞障害活性を増強すること、インターロイキン2と相乗的に作用して細胞障害性リンパ球を活性化するとともにリンホカイン活性化キラー細胞を誘導すること、細胞性免疫を補助するヘルパーT細胞(Th0)のTh1タイプへの分化や、そのバランス(Th1/Th2)の制御にも関与していることが知られている。このようにインターロイキン12は自然免疫ならびに細胞性免疫の強化による感染防御、抗腫瘍活性、また、アレルギー予防など免疫賦活活性増強において重要な役割を担っている。免疫賦活能を有するプロバイオティクス乳酸菌として市販されている乳酸菌には、ストレプトコッカス(Streptococcus )属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌等が挙げられる。これらの乳酸菌は乳製品(ヨーグルト、ヨーグルト飲料等)の発酵に用いられている。従来、乳酸菌を有効成分とする免疫賦活剤や抗アレルギー剤は公知である(特許文献1〜12参照。)。しかしながら、現在用いられている免疫賦活剤は、微生物感染、腫瘍等に対する生体の防御機構、アレルギー予防効果を高めるものであるが、有効性において必ずしも満足しうるものではない。
【0003】
【特許文献1】特開平6−80575号公報「経口免疫賦活剤」
【特許文献2】特開平9−227392号公報「抗腫瘍剤及びその製造法」
【特許文献3】特開平7−228536号公報「乳酸菌を用いた免疫賦活剤」
【特許文献4】特開平10−167972号公報「免疫賦活剤」
【特許文献5】特開平8−99887号公報「免疫賦活剤」
【特許文献6】特開平5−252900号公報「免疫賦活組成物」
【特許文献7】特開2003−113114号公報「免疫賦活素材」
【特許文献8】特開2004−26729号公報「抗アレルギー剤」
【特許文献9】特開2004−18469号公報「抗アレルギー剤」
【特許文献10】特開2000−95697号公報「抗アレルギー剤」
【特許文献11】特開平10−309178号公報「ビフィズス菌を有効成分とする抗アレルギー 剤および醗酵食品」
【特許文献12】特願平7−172949号公報「IgE抗体産生抑制剤および抗アレルギー 剤」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、乳酸菌を利用するインターロイキン12産生促進剤およびその製造法を提供することにある。Th1細胞応答を誘導して、Th2細胞応答を抑制することでTh1/Th2細胞のバランスを正常に戻すことが可能な、新規インターロイキン12産生促進剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
乳酸菌には乳原料に依存して生育するものだけでなく穀物、野菜や果実等植物素材を生育素材として発酵させるものが知られている。植物素材を生育素材にする乳酸菌発酵には、味噌や醤油のように蒸煮大豆、小麦を比較的高塩濃度の食塩とともに発酵させるものなどがあげられる。
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するためインターロイキン12産生促進剤に関する研究を重ねたところ、乳酸菌の1種であるテトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属の菌体がマクロファージのインターロイキン12の産生を促進する作用を有していることを明らかにした。すなわち、テトラジェノコッカス属の菌体は、腫瘍細胞傷害性を有するナチュラルキラー細胞を活性化するサイトカインであるインターロイキン12のマクロファージからの産生を高める結果、細菌、酵母、カビ、ウイルスなどの微生物による感染、腫瘍に対する防御能や、アレルギーの防御活性を特に高める。テトラジェノコッカス・ハロフィラKK221株菌体、ペディオコッカス・ペントサセウス TUA0122株菌体、ペディオコッカス・アシデラクテシィ TUA0124株菌体、ロイコノストック・メセントロイデス NISL7201株菌体、もしくは、ロイコノストック・メセントロイデス NISL7219株菌体は副作用がなく常用に適したインターロイキン12産生促進剤であり、またマクロファージによるインターロイキン12の産生を促進するので他の免疫賦活剤や抗アレルギー剤との併用も有効であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、(1)テトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属する乳酸菌の培養物、菌体または菌体成分を有効成分とするインターロイキン12産生促進剤、(2)テトラジェノコッカス・ハロフィラ、ペディオコッカス・ペントサセウス、ペディオコッカス・アシデラクテシィもしくはロイコノストック・メセントロイデスに属する乳酸菌の培養物、菌体または菌体成分を有効成分とするインターロイキン12産生促進剤、(3)乳酸菌がテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221株、ペディオコッカス・ペントサセウス TUA0122株、ペディオコッカス・アシデラクテシィ TUA0124株、ロイコノストック・メセントロイデス NISL7201株、もしくは、ロイコノストック・メセントロイデス NISL7219株である前記のインターロイキン12産生促進剤、(4)培養物が、トマト果汁、パイナップル果汁等の果汁飲料、豆乳飲料、または野菜飲料を含む培地でテトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属する乳酸菌を培養し得られたもの、もしくは添加したものである、前記のインターロイキン12産生促進剤、(5)前記の剤を含む、飲食品、医薬品または化粧品、(6)テトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属する乳酸菌を塩分0%〜25%好ましくは5%〜15%の乳酸菌用培地で培養し、得られた培養物、菌体または菌体成分を有効成分とするインターロイキン12産生促進剤の製造法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のインターロイキン12産生促進剤は、他の乳酸菌より、インターロイキン12の産生を促進する作用が高く医薬品、化粧品、食品の分野において有用である。
また、本発明のインターロイキン12産生促進剤は、有効成分の生産性が容易で且つ高く、また得られたインターロイキン12産生促進剤は人体に投与した場合安全性が高く且つ、単独または他の免疫賦活剤や抗アレルギー剤と併用して、ウイルス、バクテリア等による感染症、悪性腫瘍等の予防・治療、もしくはアレルギーの予防・治療に用いることができる。
【0009】
また、本発明の製造法は、上記インターロイキン12産生促進剤を効率的に得る方法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いられる菌は、テトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属し、マクロファージのインターロイキン12産生を促進する作用を有するものであればどのような菌でもよい。菌のマクロファージのインターロイキン12産生促進作用は、たとえばチオグリコレート刺激マウス腹腔滲出マクロファージを組織培養プレートで培養し、テトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属する菌を添加し一定期間培養して培地中のインターロイキン12濃度をエンザイムイムノアッセイで測定することにより容易に判定することができる。
【0011】
本発明のインターロイキン12産生促進剤は、テトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属し、インターロイキン12産生増強作用を有する菌を天然培地、合成培地、半合成培地などの培地に培養することにより得ることができる。培地としては、窒素源および炭素源を含有するものが用いられる。窒素源としてはたとえば、肉エキス、ペプトン、グルテン、カゼイン、酵母エキス、アミノ酸等であり、炭素源としては、たとえば、グルコース、キシロース、フラクトース、イノシトール、水アメ、麹汁、澱粉、バカス、フスマ、糖蜜、グリセリン等が用いられる。このほか、無機質として、たとえば硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、食塩、鉄、マンガン、モリブデン更に各種ビタミン類その他を添加することができる。
【0012】
培養温度は25〜40℃、好ましくは27〜35℃であり、培養時間は12〜120時間程度であり、通気振盪してもよい。培地のpHは5〜9、好ましくは6〜7である。培養終了後菌体を採取し蒸留水を加え、遠心分離などの手段により上清を除き、必要によりその操作を繰り返し、遠心分離や濾過等により菌体を採取する。採取された菌体は生菌のまま、またはたとえば過熱、紫外線照射、ホルマリン処理などにより不活性化して投与に適した剤形にすることもできる。分離された生菌体、死菌体はさらに摩砕や破砕処理をし、得られた処理物を必要により加熱滅菌、無菌濾過し、濾液を凍結乾燥して製品とすることもできる。菌体の処理物にはたとえば、上記摩砕物、破砕物、それらからの抽出液、凍結乾燥品が含まれる。また、本発明に用いられる乳酸菌の一種、テトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属する菌は、元々発酵食品である醤油の諸味や漬物から分離されたものであり、食品、たとえば果菜類、穀類から選択された少なくとも1種または、果菜類や穀類を発酵可能な形態に処理したもの、たとえば切断物、粉砕物、摩砕物、搾汁、搾汁濃縮物を本発明において用いられる菌により発酵させた菌を含む発酵物をそのまま用いることができ、これも本発明の好ましい態様の1つである。乳成分を添加しなくてもよく、乳酸菌を多量に含み味覚的にも極めて優れた発酵物を得ることができる。また、被発酵処理物が臭いのきつい果菜類や穀類を含んでいても、野菜類などの特有の不快臭や加熱による不快臭を顕著に低減できるとともに、風味を改善でき、極めて容易に食することができる発酵食品が得られる。しかも、サイレージと異なり発酵食品から分離された食習慣のある乳酸菌であるため、本発明の微生物は安全性も高い。
【0013】
上述の乳酸菌発酵物は、果菜類及び穀類から選択された少なくとも一種の処理物を前記乳酸菌により発酵させることにより得られる。前記果菜類には、種々の可食性植物、例えば、野菜類(例えば、ニンジン、トマト、ホウレン草、パセリ、シソ葉、大葉、芽キャベツ、小松菜、カボチャ、大根葉、ピーマン、ケール、カンショ葉、春菊、セリなどの緑黄色野菜類、セロリ、キャベツ、アスパラガス、キュウリ、スイカなどの他の野菜類)、リンゴ、バナナ、パパイヤ、アボガド、ミカン、グレープフルーツ、レモン、パイナップル、モモ、柿、イチゴ、ブドウ、メロン、ココナッツなどの果物類などが含まれる。穀類には、米、トウモロコシ、大豆、小麦、ライ麦、ふすま、ゴマなどが含まれる。これらの果菜類などは単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、必要に応じて、これらの果菜類などは、ジャガイモ、サツマイモなどのイモデンプン類と併用してもよい。好ましい果菜類には、トマトなどの緑黄色野菜類、バナナなどの果物類、米などの穀類などが含まれる。また、処理物としては、切断物、粉砕物、摩砕物、搾汁、搾汁濃縮物などが単独又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい処理物には、野菜汁、果汁などの搾汁や搾汁濃縮物などの搾汁類が含まれる。この搾汁類において、トマトを用いる場合、トマト汁の濃度はBrix2〜30程度の範囲から選択できる。また、50重量%以上のトマト処理物を含む処理物は、発酵飲料などの風味を改善する上で有用である。
【0014】
前記果菜類などの処理物は、通常、ブランチング処理及び/又は殺菌処理に供された後、前記乳酸菌による発酵に供される。ブランチング処理は、前記果菜類などやその処理物、特に果菜類やその切断物を加熱処理し、酵素活性を失活させることにより行うことができ、ブランチング処理の後、遠心分離やフィルタープレスなどの方法で搾汁し、ジュースを得る場合が多い。また、殺菌処理は、ブランチング処理された前記果菜類などやその処理物、特に搾汁類について行う場合が多い。なお、ブランチング処理および殺菌処理は、風味を損なわない範囲で選択でき、ブランチング処理は、慣用の方法、例えば、必要に応じてオートクレーブを用い、70〜100℃で短時間処理することにより行うことができる。殺菌処理は、慣用の方法、例えば、70〜125℃程度の温度又は高温短時間で加熱殺菌する方法、紫外線などの光線を照射する方法などが採用できる。前記微生物による発酵は、前記乳酸菌を搾汁類などの処理物に直接接種して行ってもよいが、通常、適当な培地や前記処理物を用いて馴化培養した前記乳酸菌をスターターとして搾汁類などの処理物に接種して行う場合が多い。発酵は、慣用の方法、例えば、処理物に対して0.5〜3重量%程度のスターターを接種し、25〜40℃(例えば、25〜38℃)、好ましくは27〜38℃(例えば、27〜35℃)程度で行うことができる。発酵時間は、果菜類などの処理物の種類などに応じて、例えば、数時間〜数日間程度の範囲から選択できる。本発明の好ましい態様には、トマトなどの緑黄色野菜、果物及び穀類のうちの少なくとも一種の処理物(特に野菜、穀物および果物のうち少なくとも一種から得られた搾汁類)を前記乳酸菌で発酵させ、乳酸菌発酵飲料(緑黄色野菜ジュース、果物ジュースなど)やその加工品(緑黄色野菜ゼリー,スプレット、豆乳ヨーグルトなど)として得る方法が含まれる。
【0015】
なお、発酵に際しては、必要に応じて、他の微生物、例えば、乳酸菌(ラクトバチルス・カゼイなど)やエンテロコッカス属微生物(エンテロコッカス・フェカーリスなど)、酵母などを併用してもよい。さらに、必要に応じて、前記処理物に、種々の添加剤、例えば、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、植物繊維、糖類、蜂蜜などの甘味料、香料、牛乳、脱脂粉乳などの乳成分、果汁などを添加して発酵させてもよく、得られた乳酸菌発酵物に前記添加剤を添加してもよい。このようにして、果菜類などの処理物を前記乳酸菌により発酵させると、得られる乳酸菌発酵物の風味を改善できる。この方法により得られた乳酸菌発酵物は、被発酵処理物が臭いのきつい果菜類や穀類を含んでいても、不快臭を顕著に低減できるとともに、加熱による不快臭も抑制できる。また、乳酸菌の発酵により適度な酸味を呈するとともに、官能的に優れた風味を有しており、極めて容易に食することができる。
【0016】
本発明のインターロイキン12産生促進剤は、自体公知の食品あるいは、食品成分、医薬担体または賦形剤と自体公知の方法で合して、免疫力を高める食品や医薬剤としても利用可能である。用いる食品あるいは、食品成分、医薬担体または賦形剤は特に限定するものではなく、当該インターロイキン12産生促進剤の具体的用途に応じて当業者が適宜選択できる。またインターロイキン12産生促進剤の形態も特に限定する物ではなく、具体的用途に応じて種々の固体や液体の形態とすることができる。本発明のインターロイキン12産生促進剤は、医薬として用いる場合、経口投与あるいは、非経口投与が考えられるが、一般的に請求項1に記載の有効成分のいずれか、あるいは組み合わせて用いることが可能であり、その投与量は、投与形態にもよるが、経口投与の場合有効成分として成人1日当たり40mg〜40gであり、静注の場合は0.1mg〜1gである。本発明のインターロイキン12産生促進剤を食品として用いる場合、調味料、畜肉加工品、水産加工品、農産加工品、ステープル、調味食品、調味済食品、デザート類、乳油製品、菓子、スナック菓子等の形態で提供することも可能である。本発明のインターロイキン12産生促進剤は、たとえば、ウイルス、バクテリア等の微生物による感染症、各種悪性腫瘍などの予防・治療やアレルギーの予防・治療に有効である。
【0017】
以下に試験例および実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【0018】
〔試験例1〕
本試験例では、乳酸菌培養培地であるMRS培地5mlに各種乳酸菌を接種し、30℃で24時間前培養を行った。その後、5mlのMRS培地にその前培養した培養液をスターターとして0.1重量%接種し、30℃にて72時間静地培養した。好塩性の乳酸菌については、食塩濃度が15%になるように食塩を添加して、培養を行った。培養終了後、100℃で10分間の殺菌を行った。乳酸菌菌体数については事前に予備実験を行い、菌による生育の違いについては菌体濁度と、プレートに培養液の一部をまき、コロニー数を把握しておいた。5000rpmで10分間遠心分離した。そして、上清を除き、菌体を集めた。さらに、集めた菌体ペーストを生理食塩水に良く分散し、5000rpmで10分遠心分離したのち、上清を除き、菌体を集めた。これを3回繰り返したのち、RPMI 1640培地に乳酸菌菌体がおおよそ1×108個/mlの濃度になるように分散させた。
【0019】
以上のように得た各種乳酸菌菌体を用いて、マウス腹腔滲出マクロファージのインターロイキン12産生反応に対する乳酸菌菌体の増強効果を検証した。チオグリコレート1mlを腹腔内に投与し、刺激したマウス(BALB/c、雄、7週齢)から無菌的に腹腔滲出マクロファージを調製した。腹腔滲出マクロファージ細胞浮遊液の細胞数を測定した後、細胞数を2×106/mlの濃度にRPMI 1640培地で調製し、96穴組織培養プレートに1穴当たり100μlを播種した。これにRPMI 1640培地(対照)あるいは乳酸菌菌体を1×108個/mlの濃度でRPMI 1640培地に溶解した液をそれぞれ1穴当たり100μl加え、37℃の5%炭酸ガス培養器内で1日間培養し、培養後の培養上清のインターロイキン12をエンザイムイムノアッセイで測定した。エンザイムイムノアッセイは、ラット抗マウスインターロイキン12抗体(Pharmingen 社製)を0.2M、pH6.0のリン酸緩衝液で2μg/mlに調製した溶液を、96穴組織培養プレート1穴当たり100μl加え、室温で一晩放置しラット抗マウスインターロイキン12抗体を各穴に付着させたプレートを用いて行った。培養上清を1穴当たり100μl加え室温で90分間放置し、培養上清のマウスインターロイキン12をプレートに付着したラット抗マウスインターロイキン12抗体と結合させた。洗浄後ラットビオチン化抗マウスインターロイキン12抗体(Pharmingen 社製)を加え、プレートに結合させたマウスインターロイキン12に結合させた。洗浄後ストレプトアビジンで標識したペルオキシダーゼ酵素(Vector 社製)を加え、ビオチンと結合させた。TMB基質溶液(Moss/コスモバイオ 社製)を1穴当たり100μl加え、室温で20分間反応させ、反応を0.5N塩酸で停止し、マイクロプレートリーダーで吸光度450nmを測定し、リコンビナントマウスインターロイキン12(Pharmingen 社製)で作成した標識曲線から、培養上清中のインターロイキン12の濃度を求めた。図1にその結果を示す。コントロールは市販のビフィズス菌菌体を用いた。
【0020】
図1から明らかなごとくテトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属の菌体はインターロイキン12の産生を大幅に上昇させた。
【0021】
〔試験例2〕
本試験例では、乳酸菌培養培地であるMRS培地5mlに試験例1で活性の高かったテトラジェノコッカス属の乳酸菌であるテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体を接種し、30℃で72時間前培養を行った。その後、各種の塩濃度(1.5%、5%、10%、15%NaCl)に調製した5mlのMRS培地にその前培養した培養液をスターターとして0.1重量%接種し、30℃にて72時間静地培養した。培養終了後、100℃で10分間の殺菌を行った。5000rpmで10分間遠心分離した。そして、上清を除き、菌体を集めた。さらに、集めた菌体ペーストを生理食塩水で良く分散し、5000rpmで10分遠心分離したのち、上清を除き、菌体を集めた。これを3回繰り返したのち、RPMI 1640培地に乳酸菌菌体が1×108個/mlの濃度になるように分散させた。
結果を図2に示す。図2から明らかなごとく低塩濃度(1.5%、5%、NaCl)で培養したテトラジェノコッカス属の菌体よりも高塩濃度(10%、15%NaCl)で培養したテトラジェノコッカス属の菌体ほど、インターロイキン12の産生を大幅に上昇させた。
【0022】
〔試験例3〕 マウスの遅延型過敏反応に及ぼすテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体経口投与の影響:
塩濃度15%NaClの濃度に調製したMRS培地50 mLに試験例1で活性の高かったテトラジェノコッカス属の乳酸菌であるテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体を接種し、30℃で72時間前培養を行った。その後、塩濃度15%NaClの濃度に調製した5LのMRS培地にその前培養した培養液をスターターとして1重量%接種し、30℃にて72時間静地培養した。培養終了後、100℃で10分間の殺菌を行った。5000rpmで10分間遠心分離した。そして、上清を除き、菌体を集めた。さらに、集めた菌体ペーストを生理食塩水で良く分散し、5000rpmで10分遠心分離したのち、上清を除き、菌体を集めた。これを3回繰り返したのち、RPMI 1640培地に乳酸菌菌体が1×10個/mlの濃度になるように分散させた。
【0023】
マウス(CBA/J雄 5週齢 日本チャールズリバー)に、上記で調製したテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体(1×10個/ml)をあらかじめ2週間の期間、100μl連続経口投与した後、マウス腹部を悌毛し、アセトン:エタノール=1:1溶液に溶解させた5%塩化ピクリル溶液100μlを塗布し、塩化ピクリル抗原に感作させた。3日後、マウス耳介に1%塩化ピクリル溶液10μlを塗布し、遅延型過敏反応を誘導させた。さらに1日後、マウス耳介の厚さを測定し、テトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体を経口投与したときの遅延型過敏反応増強効果に与える影響を調べた(n=6)。その結果を図3に示す。図3において、テトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体強制経口投与群は、生理食塩水に懸濁させたテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体1×10個を14日間連続強制経口投与した群、コントロール群は、生理食塩水を経口投与した群である。
テトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体を強制経口摂取させることによって、遅延型過敏反応は、コントロール群と比較して有意に(p<0.05)増加した。マウスに1×10個を含有する飼料を強制経口摂取させた際の体重の増加に異常は見られず、飼料の摂食量には大きな差はなかった。
結果を図3に示す。図3から明らかなごとくテトラジェノコッカス属の菌体は遅延型過敏反応の増強効果を示し、細胞性免疫の増強を示した。
【0024】
〔試験例4〕脾臓細胞からのIFN−γ産生に及ぼすテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体経口投与の影響(図4):
試験例3で用いた14日間テトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体を摂取させたマウスから脾臓を取り出し、脾臓懸濁細胞を調製した。脾臓懸濁細胞の調製は、マウスから無菌的に脾臓を取り出し、脾臓細胞浮遊液の細胞数を測定した後、細胞数を1×107/mlの濃度にRPMI 1640培地で調製し、96穴組織培養プレートに1穴当たり100μlを播種した。一方、抗原特異的な刺激には無処置のマウスからマウス脾臓細胞を調製し、TNBS試薬で処理し、抗原を提示させた細胞(TNP−APC(2×10個/ml))を用いた。このTNP−APC懸濁細胞液を1×108個/mlの濃度でRPMI 1640培地に溶解した液をそれぞれ1穴当たり100μlを上記の脾臓懸濁細胞液に加え、37℃の5%炭酸ガス培養器内で2日間培養し、培養後の培養上清のインターフェロンγをエンザイムイムノアッセイで測定した。エンザイムイムノアッセイは、ラット抗マウスインターフェロンγ抗体(Pharmingen 社製)を0.2M、pH6.0のリン酸緩衝液で2μg/mlに調製した溶液を、96穴組織培養プレート1穴当たり100μl加え、室温で一晩放置しラット抗マウスインターフェロンγ抗体を各穴に付着させたプレートを用いて行った。培養上清を1穴当たり100μl加え室温で90分間放置し、培養上清のマウスインターフェロンγプレートに付着したラット抗マウスインターフェロンγ抗体と結合させた。洗浄後ラットビオチン化抗マウスインターフェロンγ抗体(Pharmingen 社製)を加え、プレートに結合させたマウスインターフェロンγに結合させた。洗浄後ストレプトアビジンで標識したペルオキシダーゼ酵素(Vector 社製)を加え、ビオチンと結合させた。TMB基質溶液(Moss/コスモバイオ 社製)を1穴当たり100μl加え、室温で20分間反応させ、反応を0.5N塩酸で停止し、マイクロプレートリーダーで吸光度450nmを測定し、リコンビナントマウスインターフェロンγ(Pharmingen 社製)で作成した標識曲線から、培養上清中のインターフェロンγの濃度を求めた。図4にその結果を示す。
【0025】
テトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体摂取群マウスの脾臓由来の細胞は抗原特異的な刺激をおこなったときに、コントロール群のマウスの脾臓細胞と比較してインターフェロンγ産生が有意に(p<0.05)増加した。
【0026】
〔試験例5〕 抗原特異的IgE産生に及ぼすテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体経口投与の影響(図5):
BALB/c系5週齢の雄マウスを日本チャールズリバー社から購入し、飼料としてCE−2(日本クレア社製)を自由摂取させ飼育した。上記で調製したテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体(1×10個/ml)を試験期間中、1日1回100μl、胃ゾンデで連続経口投与した。一方、卵白アルブミン(以下、OVAと略す。シグマ社製)50μg及びアジュバントとして水酸化アルミニウム(和光純薬株式会社製)3mgを生理食塩水100μlに懸濁した。この懸濁液を、5週齢の上記マウス6匹のそれぞれに、感作開始日及び9日目、19日目に腹腔内投与し、感作を行った。
【0027】
このOVAで感作させたマウスの眼底静脈より、感作開始日及び10日目及び20日目に部分採血し、採取した血液より血清サンプルを得た。この血清サンプル中の、OVA特異的IgE抗体(以下、OVA−IgEと略す。)量を、下記の測定方法により測定した。
【0028】
血中OVA−IgEの測定はELISA法によって行った。96穴イムノプレート(コーニング社製)の各ウェルにOVA10μg/mlを含む生理食塩水溶液を100μl加えて、4℃で一晩インキュベートした。プレートをリン酸緩衝液(137mM NaCl, 2.7mM KCl, 8.1mM NaHPO及び1.5mM KHPOを含む。以下PBSと略す。)で3回洗浄した後、1%牛血清アルブミン(以下、BSAと略す。大日本製薬社製)含有PBSを200μl加えて、室温で2時間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。1%BSA含有PBSで1/50に希釈した血清サンプル100μlを各ウェルに加え、4℃で一晩反応させた。PBSで4回洗浄し、ビオチン化した抗IgE抗体を含む1%BSA含有PBS溶液を各ウェルに100μl加えて室温で2時間反応後、PBSで5回洗浄した洗浄後ストレプトアビジンで標識したペルオキシダーゼ酵素(Vector 社製)を加え、ビオチンと結合させた。TMB基質溶液(Moss/コスモバイオ 社製)を1穴当たり100μl加え、室温で20分間反応させ、反応を0.5N塩酸で停止し、マイクロプレートリーダーで吸光度450nmを測定し、血清中のOVA−IgEの濃度を求めた。図5にその結果を示す。
【0029】
また、OVA抗原による刺激を与えたときのマウス脾臓懸濁細胞のインターロイキン4産生反応についての検証を行った。上記OVA刺激を行ったマウスから無菌的に脾臓を調製し、脾臓細胞懸濁液の細胞数を測定した後、細胞数を1×10/mlの濃度にRPMI 1640培地で調製し、96穴組織培養プレートに1穴当たり100μlを播種した。これにOVAを10mg/mlの濃度でRPMI 1640培地に溶解した液をそれぞれ1穴当たり100μl加え、37℃の5%炭酸ガス培養器内で2日間培養し、培養後の培養上清のインターロイキン4をエンザイムイムノアッセイで測定した。エンザイムイムノアッセイは、ラット抗マウスインターロイキン4抗体(Pharmingen 社製)を0.2M、pH6.0のリン酸緩衝液で2μg/mlに調製した溶液を、96穴組織培養プレート1穴当たり100μl加え、室温で一晩放置しラット抗マウスインターロイキン4抗体を各穴に付着させたプレートを用いて行った。培養上清を1穴当たり100μl加え室温で90分間放置し、培養上清のマウスインターロイキン4をプレートに付着したラット抗マウスインターロイキン4抗体と結合させた。洗浄後ラットビオチン化抗マウスインターロイキン4抗体(Pharmingen 社製)を加え、プレートに結合させたマウスインターロイキン4に結合させた。洗浄後ストレプトアビジンで標識したペルオキシダーゼ酵素(Vector 社製)を加え、ビオチンと結合させた。TMB基質溶液(Moss/コスモバイオ 社製)を1穴当たり100μl加え、室温で20分間反応させ、反応を0.5N塩酸で停止し、マイクロプレートリーダーで吸光度450nmを測定し、リコンビナントマウスインターロイキン4(Pharmingen 社製)で作成した標識曲線から、培養上清中のインターロイキン4の濃度を求めた。図6にその結果を示す。
【実施例1】
【0030】
テトラジェノコッカス・ハロフィラKK221乾燥菌体の製造方法:
乳酸菌培養培地である、塩濃度15%に調整したMRS培地200mlにテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221をスターターとして0.1重量%接種し、30℃で24時間前培養を行った。その後、10LのMRS培地にその前培養した培養液をスターターとして1重量%接種し、32℃にて24時間静地培養した。培養後、5000rpmで35分間遠心分離した。そして、上清を除き、菌体を集めた。さらに、集めた菌体ペーストを生理食塩水に良く分散し、5000rpmで35分遠心分離したのち、上清を除き、菌体を集めた。これを3回繰り返したのち、蒸留水に分散した。そして100℃で10分間殺菌した。これを凍結乾燥し、乾燥菌体を得た。
【実施例2】
【0031】
トマト汁のテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221発酵物の製造方法:
KK221乾燥菌体の作成方法と同様の方法で6リットルの、塩濃度15%に調整したMRS培地で32℃、24時間培養したのち生理食塩水中に分散、遠心分離することにより集めた菌体ペーストをトマト汁300mlに添加し、30℃で24時間培養した。そして70℃で10分間殺菌し、トマト発酵液を得た。
【実施例3】
【0032】
パイナップル汁のテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221発酵物の製造方法:
KK221乾燥菌体の作成方法と同様の方法で6リットルの、塩濃度15%に調整したMRS培地で32℃、24時間培養したのち生理食塩水中に分散、遠心分離することにより集めた菌体ペーストをパイナップル汁300mlに添加し、30℃で24時間培養した。そして70℃で10分間殺菌し、パイナップル発酵液を得た。
【実施例4】
【0033】
豆乳のテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221発酵物の製造方法:
KK221乾燥菌体の作成方法と同様の方法で6リットルの、塩濃度15%に調整したMRS培地で32℃、24時間培養したのち生理食塩水中に分散、遠心分離することにより集めた菌体ペーストを豆乳300mlに添加し、30℃で24時間培養した。そして70℃で10分間殺菌し、豆乳発酵液を得た。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】試験例1:各種乳酸菌の培養上清中のインターロイキン12の濃度を示す。
【図2】試験例2:各種塩濃度で培養したテトラジェノコッカス属のインターロイキン12産生能を示す。
【図3】試験例3:テトラジェノコッカス属の乳酸菌の遅延型過敏反応の増強効果を示す。
【図4】試験例4:脾臓細胞からのIFN−γ産生に及ぼすテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体経口投与の影響を示す。
【図5】試験例5:抗原特異的IgE産生に及ぼすテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221菌体経口投与の影響を示す。
【図6】試験例5:OVA抗原による刺激を与えたときのマウス脾臓懸濁細胞のインターロイキン4産生反応を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属する乳酸菌の培養物、菌体または菌体成分を有効成分とするインターロイキン12産生促進剤。
【請求項2】
テトラジェノコッカス・ハロフィラ、ペディオコッカス・ペントサセウス、ペディオコッカス・アシデラクテシィもしくはロイコノストック・メセントロイデスに属する乳酸菌の培養物、菌体または菌体成分を有効成分とするインターロイキン12産生促進剤。
【請求項3】
乳酸菌がテトラジェノコッカス・ハロフィラKK221株、ペディオコッカス・ペントサセウス TUA0122株、ペディオコッカス・アシデラクテシィ TUA0124株、ロイコノストック・メセントロイデス NISL7201株、もしくは、ロイコノストック・メセントロイデス NISL7219株である、請求項1または2記載のインターロイキン12産生促進剤。
【請求項4】
培養物が、トマト果汁、パイナップル果汁等の果汁飲料、豆乳飲料、または野菜飲料を含む培地でテトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属する乳酸菌を培養し得られたもの、もしくは添加したものである、請求項1または2記載のインターロイキン12産生促進剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の剤を含む、飲食品、医薬品または化粧品。
【請求項6】
テトラジェノコッカス属、ペディオコッカス属もしくはロイコノストック属に属する乳酸菌を塩分0%〜25%好ましくは5%〜15%の乳酸菌用培地で培養し、得られた培養物、菌体または菌体成分を有効成分とすることを特徴とするインターロイキン12産生促進剤の製造法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−28047(P2006−28047A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206621(P2004−206621)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】