説明

インダクタ及びその製造方法

【課題】インダクタンスの低下を抑制しつつ絶縁性を向上できるインダクタを提供する。
【解決手段】硬化性の絶縁材で強磁性金属粒子6の表面がコーティングされた強磁性金属粉末の加圧成形体からなるコア内にコイルを埋設したインダクタを前提とする。強磁性金属粒子6の表面をコーティングした絶縁層を、夫々硬化処理された絶縁材からなる複数層の絶縁被膜5a〜5cで形成する。夫々硬化処理された各絶縁被膜5a〜5cによって強固な絶縁層5を得て、絶縁性を向上し、それによりインダクタンスの低下を抑制できるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流や高周波でも好適に使用できるチョークコイルや他のコイル部品として用いられるインダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁材がコーティングされた強磁性金属粒子からなる強磁性金属粉末中にコイルを埋めた状態で、強磁性金属粉末をプレス成形により加圧して圧縮成形することで、加圧成形されたコア内にコイルを一体に埋設してなるインダクタが知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1のインダクタでは、強磁性金属粉末と絶縁材粉末とを混合した後、空気中において100〜300℃程度で20〜60分程度乾燥させることにより、強磁性金属粒子の表面が絶縁材でコーティングされた強磁性金属粉末を得ている。強磁性金属粉末に対する絶縁材粉末の混合量は1〜30体積%(wt%)である。絶縁材に樹脂絶縁材を用いる場合には、この樹脂絶縁材からなる絶縁層(絶縁被膜)は、前記乾燥の際に硬化される。この硬化は特許文献1のインダクタでは1回のみである。又、コイルが一体に埋設されたコア(コイル入りコア)には、樹脂絶縁材からなる絶縁層を熱硬化させてコアの機械的強度を向上するための熱処理が前記加圧成形後に施される。
【特許文献1】特開2001−267160号公報〔請求項1、段落0002、0047〜0050、0059〜0067、0080〜0082、0085〜0087、図1(A)−(D)、図5(A)−(I)〕
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、パーソナルコンピュータやコンピュータゲーム機などの電子機器に、チョークコイルとして使用されるインダクタは、大電流でも好適に使用可能とする要求が強い。こうした用途には、強磁性金属粒子からなり飽和磁束密度が高い強磁性体粉末を原料としてコアを形成することが適している。
【0005】
ところで、強磁性金属粉末は一般的に絶縁性が低いことが知られている。そこで、特許文献1のように強磁性金属粒子の表面を絶縁層でコーティングすることにより、この絶縁層でコアの電気抵抗を高めて渦電流損失を抑制できる。
【0006】
しかし、特許文献1の技術はインダクタの絶縁性を高めるには適していない。すなわち、強磁性金属粉末と絶縁材粉末との混合により強磁性金属粒子の表面には1層だけ絶縁層が形成されるが、この絶縁層の厚みは0.3〜1.0μm程度であり、その強度は厚みに相応している。
【0007】
又、混合された強磁性金属粉末はその金属粒子同士が結着して塊状となるため、これを解砕、つまり混合粉末に機械的な外力を加えて約500μm程度のコア成形粉末としている。このため、解砕の際に加えられる外力により絶縁層が部分的に破壊される。更に、次工程でのプレス成形の際に加えられるプレス圧力によっても、前記絶縁層は部分的に破壊される。その上、この後の熱処理工程では、絶縁層の軟化が起こるので、その際に強磁性金属粒子の応力が緩和されることを原因としても絶縁層が部分的に破壊される。
【0008】
こうした絶縁層の破壊により強磁性金属粒子間の絶縁性能は低下する。そのため、特許文献1に記載のインダクタの絶縁性は低く、その改善が求められている。
【0009】
又、特許文献1の技術で、絶縁材の使用量を増やして、強磁性金属粒子の表面をコーティングする絶縁層の厚くすれば、チョークコイル等インダクタの絶縁性を高めることが可能である。しかし、絶縁材の使用量を増やすほどインダクタのインダクタンス及び透磁率は低下するので、こうした対策は好ましくない。
【0010】
本発明の目的は、インダクタンスの低下を抑制しつつ絶縁性を向上できるインダクタ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のインダクタは、硬化性の絶縁材で強磁性金属粒子の表面がコーティングされた強磁性金属粉末の加圧成形体からなるコア内にコイルを埋設したインダクタを前提とする。そして、前記目的を達成するために、請求項1の発明は、強磁性金属粒子の表面をコーティングした絶縁層を、硬化処理された絶縁材からなる複数層の絶縁被膜で形成している。
【0012】
この発明の好ましい形態では、前記コイルの径方向に位置するコア側面間の絶縁抵抗を1.0MΩ以上とできる。又、この発明の好ましい形態では、前記絶縁層の各部の厚みが0.6μm以上であるとよい。
【0013】
本発明のインダクタは、強磁性金属粒子がその表面をコーティングした複数層の絶縁被膜を有し、これらの被膜の夫々が硬化処理されているので、絶縁被膜が単層のものに比較して強磁性金属粒子表面の絶縁層(これは複数層の絶縁被膜からなる。)が強固でかつ外力に対して安定化する。これにより、絶縁被膜の耐圧性及び耐熱性が向上されて、絶縁被膜の形成後の解砕の際に加えられる外力、及びプレス成形の際に加えられるプレス圧力などの破損要因による絶縁層の破損が抑制される。したがって、強磁性金属粒子の絶縁性が向上されるとともに、この高い絶縁性を得るのに必要な絶縁材粉末の混合量が少量でよいことに伴いインダクタンスの低下を抑制できる。
【0014】
又、前記目的を達成するために、本発明のインダクタの製造方法は、強磁性金属粉末に硬化性の絶縁材粉末を混合してなる混合粉末を加熱して、前記混合により前記金属粉末の粒子の表面にコーティングされた前記絶縁材の被膜を硬化させる処理を複数回繰返してコア成形粉末を得る成形粉末形成工程と、成形型内にコイルを配置するとともにこのコイルが埋まるように前記コア成形粉末を前記成形型内に充填してから、この充填されたコア成形粉末を加圧して圧縮成形するプレス成形工程と、成形されたコイル入り圧粉コアを熱処理する熱処理工程と、を具備している。
【0015】
この発明方法では、成形粉末形成工程で、強磁性金属粉末と絶縁材粉末との混合粉末を加熱して、強磁性金属粒子表面の絶縁被膜を硬化させる処理を複数回実行するので、絶縁被膜が単層のものに比較して強磁性金属粒子表面の絶縁層(これは複数層の絶縁被膜からなる。)が強固でかつ外力及び熱に対して安定化する。このため、次のプレス成形工程に先立つ解砕時に混合粉末に加えられる外力、プレス成形工程で加えられるプレス圧、及びプレス成形工程後の熱処理工程で加えられる熱による絶縁層の軟化に拘わらず、絶縁層の破損が抑制される。したがって、絶縁性が向上されるとともに、この高い絶縁性を得るのに必要な絶縁材粉末の混合量が少量でよいことに伴いインダクタンスの低下が抑制されたインダクタを製造できる。
【0016】
又、本発明方法の好ましい形態では、前記成形粉末形成工程での前記強磁性金属粉末に対する前記絶縁材粉末のトータル混合量を1.0〜4.0wt%とするとよい。この発明では、強磁性金属粉末に対する絶縁材粉末のトータル混合量を1.0以上としたので、熱処理工程によって絶縁層がバインダーとして機能する際の強磁性金属粒子同士の接着性の低下が抑制されて、熱処理され後にコアにクラックが入ることを防止できる。又、強磁性金属粉末に対する絶縁材粉末のトータル混合量を4.0wt%以下としたので、熱処理工程でのコアが所定寸法以上に膨張して硬化することを防止できる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明した本発明によれば、硬化処理された複数層の絶縁被膜からなる絶縁層を強磁性金属粒子の表面に設けることによって、インダクタンスの低下を抑制しつつ絶縁性を向上できるインダクタ及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1及び図2を参照して本発明の一実施形態を説明する。
【0019】
この一実施形態に係るインダクタは大電流が流れるチョークコイル1として使用されるもので、電子機器例えばテレビゲーム機などのコンピュータゲーム機やパーソナルコンピュータに搭載して好適に使用できる。このチョークコイル1は、図1(A)(B)(C)に示すように各面が互に直角に連続する六面体状をなして一体成形されたコア2と、このコア2に両端部を除いて埋設されたコイル3とを備えている。
【0020】
コイル3には、導電性金属線、例えば銅線、好ましくは図1に例示するように断面が長方形の平角銅線を好適に使用できる。コイル3は図示しないが外周を絶縁層で被覆されている。コイル3の両端部はコア2の互に平行な2つの側面の高さ方向中間部から外に突出している。これらの両端部は、コア2の前記側面に沿って折り曲げられるとともに、コア2の裏面に沿って折り曲げられている。コア2の裏面に沿ったコイル3の両端部は端子3aとして使用される。これらの端子3aの絶縁層は除去されている。端子3aは図示しない電子機器のプリント配線基板のプリント配線にリフロー半田付けされる。したがって、チョークコイル1は表面実装部品としてプリント基板に実装できる。
【0021】
このチョークコイル1のコア2は図示しない加圧成形装置であるプレス機械の金型(成形型)を用いて加圧成形された圧粉体(加圧成形体)である。コイル3は、コア2の成形前に金型内に位置決めして配置され、コア2の加圧成形に伴って一体にコア2内に埋設されたものである。したがって、このチョークコイル1は一体成形型コイル部品と称することができる。
【0022】
コア2は、強磁性金属粉末からなるが、これを主成分としたものであってもよい。強磁性金属粉末は、図2(B)(C)又は図3(A)(B)に例示したように表面を被覆した絶縁層5を有した強磁性金属粒子6の集まりである。なお、図2(C)及び図3(B)はプレス成形を経て変形された強磁性金属粒子6を示している。
【0023】
絶縁層5は、強磁性金属粒子の表面をコーティングした複数層の絶縁被膜からなり、各絶縁被膜は例えば熱によって夫々硬化処理されている。図2(B)(C)は二層の絶縁被膜5a,5bで絶縁層5が形成された例を示し、図3(A)(B)は三層の絶縁被膜5a〜5cで絶縁層5が形成された例を示している。なお、図2(B)(C)及び図3(A)(B)中符号7は、隣接した絶縁被膜5a,5b間及び5b,5c間の境界を示している。この絶縁層5の厚みは最薄部でも0.6μm以上確保されている。
【0024】
絶縁層5には、硬化性の絶縁材、好ましくはバインダーとしても機能する熱硬化性の無機材料又は有機材料を用いることができる。有機材料として、熱硬化性樹脂例えば水ガラス、シリコン樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができ、その内の少なくとも1種を選択してできる。
【0025】
強磁性金属粒子6からなる強磁性金属粉末には、粉体硬度が低く、飽和磁束密度が高く、低ロス特性であるという特長を有した鉄系金属粒子を用いることができる。この種の材料として、例えばFe粉末、パーマロイ粉末、カルボニル鉄粉末、センダスト粉末などを挙げることができ、その内の少なくとも1種を選択してできる。
【0026】
前記チョークコイル1は、成形粉末形成工程と、プレス成形工程と、熱処理工程とを経て製造される。
【0027】
成形粉末工程では、強磁性金属粉末と熱硬化性の絶縁材粉末とを混合した後、この混合粉末を加熱することを複数回繰返してコア成形粉末を得る。強磁性金属粉末と硬化性の絶縁材粉末とが混合されることで、強磁性金属粒子6の表面に絶縁材がコーティングされて絶縁被膜が形成される。この混合粉末が加熱されることにより絶縁被膜が硬化される。
【0028】
この絶縁被膜5aの硬化は、混合粉末を所定時間(20〜60分)の間所定温度(100〜300℃)の加熱雰囲気中に置くことでなされる。この場合、プロペラ式の攪拌機を用いて大気中雰囲気で混合される強磁性金属粉末と絶縁材粉末とを所定温度で所定時間攪拌することにより、絶縁被膜5aを硬化させることができる。又は、すでに混合して得た混合粉末を収めた耐熱性の容器を、高温槽を用いて大気中雰囲気で所定温度で所定時間加熱することより、絶縁被膜5aを硬化させることができる。
【0029】
図2(A)に一層の絶縁被膜5aが強磁性金属粒子6の表面に形成された状態を示す。この絶縁被膜5aの厚みは0.3〜1.0μmである。
【0030】
前者のように攪拌機を用いて絶縁被膜を熱硬化させると、混合粉末は1〜5mm程度の塊及びそれ以下の大きさとなる。又、後者のように高温槽を用いて絶縁被覆を熱硬化させると、混合粉末は略一塊の状態となる。このため、先に絶縁被膜が硬化処理された混合粉末塊は、2回目以降の絶縁被膜の形成に先立って解砕される。この解砕は、硬化処理された混合粉末塊を乳鉢などの解砕装置を用いて実施される。それにより、混合粉末塊は、粒径が約500μmの粉末状となる。
【0031】
したがって、2回目以降の絶縁被膜の形成は、前記解砕により得た粉末(言い換えれば硬化処理された絶縁被膜5aでコーティングされた強磁性金属粒子からなる強磁性金属粉末)と熱硬化性の絶縁材粉末とを混合した後、この混合粉末を加熱することでなされる。この場合の混合とそれに伴う加熱及び解砕は1回目と同じである。図2(B)に二層の絶縁被膜5a、5bからなる絶縁層5が強磁性金属粒子6の表面に形成された状態を示す。又、図3(A)に三層の絶縁被膜5a〜5cからなる絶縁層5が強磁性金属粒子6の表面に形成された状態を示す。絶縁被膜5b、5cの夫々の厚みは一層の絶縁被膜5aと同様に0.3〜1.0μmである。したがって、理論的には二層の絶縁被膜5a、5bで0.6〜2.0μmの絶縁層5の厚みを得られる。又、三層の絶縁被膜5a〜5cで0.9〜3.0μmの絶縁層5の厚みを得られるので、絶縁層5の厚みは最薄部でも略0.6μm以上を確保できる。このように絶縁層5を硬化処理された絶縁被膜を積層した構成としたことにより、相対的に内側の絶縁被膜が解砕やプレス圧力等によって部分的に損傷を受けることがあっても、相対的に外側の絶縁被膜によって前記部分的な損傷箇所を修復しつつ、絶縁層5の厚みを既述のように確保できるので、絶縁層5を強固にできる。
【0032】
以上の硬化処理の繰り返しにおいて、混合される絶縁材粉末の量は各回同じであることが好ましいが同じでなくても良い。又、絶縁層5をなす絶縁材粉末の強磁性金属粉末に対するトータル混合量は、1.0〜4.0wtであることが好ましい。トータル混合量を1.0wt以上とすることは、コア2にクラックなどを生じる可能性が高くなることを防止する上で有効である。これに対して、トータル混合量を1.0wt未満とした場合には、後述の熱処理工程での加熱に伴う絶縁層5によるバインダーとしての機能が十分に発揮されず、強磁性金属粒子同士の接着性が不十分となる。又、トータル混合量を4.0wtとすることは、後述の熱処理工程での加熱に伴うコア2の硬化時に所定寸法以上にコア2が膨張することを防止する上で有効である。これに対して、トータル混合量が4.0wtを超える場合には、後述の熱処理工程でコア2が硬化する際に、このコア2が所定寸法以上に膨張し易くなる。
【0033】
なお、以上成形粉末形成工程では、既述のように強磁性金属粉末と熱硬化性の絶縁材粉末とを混合し熱硬化処理した後、成形性を確保するための有機材料をさらに混合してもよい。
【0034】
以上説明した成形粉末形成工程では、所定回数の硬化処理後に、既述の解砕処理を施して、最終的に粒径が約500μmの粉末状からなるコア成形粉末を形成する。
【0035】
次のプレス成形工程では、図示しないプレス装置の金型(成形型)内にコイル3を配置するとともに、このコイル3が埋まるように前記成形粉末形成工程で得たコア成形粉末を成形型内に充填してから、この充填されたコア成形粉末を加圧して圧縮成形する。これにより、コイル入り圧粉コアを成形できる。なお、このプレス成形工程での金型へのコア成形粉末の充填と加圧は、一回で実施することに限らず、2回に分けても良い。つまり、金型へのコア成形粉末を所定量充填してから、このコア成形粉末を加圧し圧縮成形して下部コアを形成し、この金型内の下部コア上にコイル3を載せた後に、金型内に更に所定量のコア成形粉末を充填し、次にこのコア成形粉末とともに下部コアを加圧することによって上部コアを成形し、これら上下コア間にコイル3を埋め込むことも可能である。
【0036】
次の熱処理工程では、プレス成形工程で成形されたコイル入りコアを熱処理する。この工程は、所定時間(20〜60分)の間所定温度(100〜300℃)の加熱雰囲気中にコイル入りコアを置くことでなされる。
【0037】
以上の手順で製造されたチョークコイル1では、少量の絶縁材粉末の使用でありながら、インダクタンスの低下を抑制しつつコイル3の径方向に位置するコア側面間の絶縁抵抗が1.0MΩ以上と高い絶縁性を確保できる(図4、図6、図7参照)。このことは以下の実施例1〜実施例3で確認できた。
【0038】
絶縁抵抗の測定は、例えば図示しない絶縁抵抗計が有した一対のピンプローブを、図1(B)中コア側面2a,2bの縦横各中央となる位置に当てて(押し当て方向と位置を矢印で示す。)測定した。ピンプローブ間距離は10mm、使用したピンプローブの先端の面積は2.54mmである。又、インダクタンスの測定は、LCRメーターを用いてコイル3の両方の端子3a間で測定した。
【0039】
(実施例1)
強磁性金属粉末にパーマロイ粉末を用いて、これにエポキシ樹脂からなる絶縁材粉末を、0.25wt%、0.5wt%、1.0wt%、1.5wt%、2.0wt%、2.5wt%混ぜた6種類の混合粉末を得て、これらの混合粉末を150℃で1時間硬化処理した。次に、この1回目の硬化処理がされた粉末を解砕してなる混合粉末に、さらにエポキシ樹脂からなる絶縁材粉末を、0.25wt%、0.5wt%、1.0wt%、1.5wt%、2.0wt%、2.5wt%混ぜた6種類の混合粉末を得て、これらの混合粉末を150℃で1時間硬化処理し、こうして2回目の硬化処理がされた粉末を解砕して、6種類のコア成形粉末を形成した。したがって、前記1回目と2回目の硬化処理が施された6種類のコア成形粉末の夫々に対する絶縁材粉末のトータル混合量は、0.5wt%、1.0wt%、2.0wt%、3.0wt%、4.0wt%、5.0wt%である。
【0040】
次に、プレス機械を用いて前記6種類のコア成形粉末毎のコイル入り圧粉コアを成形した。詳しくは、プレス機械は、図1(A)中の幅w及び奥行きdが夫々10mm、高さhが4mmのコア2を加圧成形できる金型(成形型)を備えるものであって、この金型内に巻数が3.5ターンの平角ワイヤー銅線からなるコイル3をセットするとともに、コア成形粉末を充填して、所定のプレス圧例えば3ton/cmでコイル入り圧粉コアを成形した。なお、6種類のコア成形粉末の成形は、各絶縁材粉末のトータル混合量に応じて充填率を合わせる条件で実施した。このプレス成形後、成形されたコイル入り圧粉コアの夫々に対して最後の硬化処理を例えば150℃で1時間の硬化処理を行った。
【0041】
次に、以上の手順で製造された6種類の本発明サンプルの夫々について、電圧を25V印加した条件で、図1(B)中コア側面2a,2b間の絶縁抵抗と、コイル3の両方の端子3a間のインダクタンスとを夫々測定した。
【0042】
又、比較のためのサンプルを以下の手順で製造した。まず、強磁性金属粉末にパーマロイ粉末を用いて、これにエポキシ樹脂からなる絶縁材粉末を、0.5wt%、1.0wt%、2.0wt%、3.0wt%、4.0wt%、5.0wt%混ぜた6種類の混合粉末を得た。そして、この混合粉末に対する加熱処理を行わずに、次に前記プレス機械を用いて3ton/cmのプレス圧でコイル入り圧粉コアを得た後に、これらのコアを150℃で1時間硬化処理した。
【0043】
この比較サンプルと、前記のように混合粉末を得る段階で2回熱硬化処理された本発明サンプルとについて、絶縁材粉末の混合量と測定された絶縁抵抗との関係を図4に示すとともに、絶縁材粉末の混合量と測定されたインダクタンスとの関係を図5に示す。なお、図4中縦軸の絶縁抵抗の値の対数目盛りである。
【0044】
図4により、絶縁材粉末の混合量が同じであっても本発明サンプルの方が比較サンプルよりも高い絶縁抵抗を得られ、同じ絶縁抵抗であれば、絶縁材粉末の混合量が少なくてよいことが明らかとなった。ちなみに、絶縁抵抗が約0.5MΩでは、本発明での絶縁材混合量が0.5wt%であるのに対して比較例での絶縁材粉末の混合量は約2.7wtパーセントであり、絶縁材粉末の混合量を約2.2wt%削減できた。絶縁抵抗が約1.3MΩでは、本発明での絶縁材粉末の混合量が2.0wt%であるのに対して比較例での絶縁材粉末の混合量は約3.9wtパーセントであり、絶縁材粉末の混合量を約1.9wt%削減できた。絶縁抵抗が約11MΩでは、本発明での絶縁材粉末の混合量が3.5wt%であるのに対して比較例での絶縁材粉末の混合量は約5.0wtパーセントであり、絶縁材粉末の混合量を約1.5wt%削減できた。
【0045】
図5により、本発明サンプルでも比較サンプルでもインダクタンスは、絶縁材粉末の混合量が少ないほど高く、絶縁材粉末の混合量が多いほど低くなることが分かった。
【0046】
以上のように同じ絶縁抵抗であれば、絶縁材混合量が本発明サンプルの方が比較サンプルより少量で済むことから、図5の結果により本発明サンプルの方が高いインダクタンスを得られる。すなわち、パーマロイ粉末にエポキシ樹脂の粉末を混ぜて混合粉末を形成する際、エポキシ樹脂を混ぜるたびに、このエポキシ樹脂からなる絶縁被膜を熱硬化処理して得たコア成形粉末を用いて製造されたチョークコイルの絶縁性及びインピーダンスは、少量のエポキシ樹脂の使用で夫々向上することができた。
【0047】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で第1〜第5の本発明サンプルを製造して、その夫々について絶縁抵抗とインダクタンスを測定した。この場合第1の本発明サンプルの絶縁層は図2(A)に示すように熱硬化処理された一層の絶縁被膜のみからなる。第2の本発明サンプルの絶縁層は図2(B)(C)に示すように夫々熱硬化処理された二層の絶縁被膜からなる。第3の本発明サンプルの絶縁層は図3(A)(B)に示すように夫々熱硬化処理された三層の絶縁被膜からなる。第4の本発明サンプルの絶縁層は夫々熱硬化処理された四層の絶縁被膜からなる。第5の本発明サンプルの絶縁層は夫々熱硬化処理された互層の絶縁被膜からなる。
【0048】
この測定結果を図6に示す。なお、図6中縦軸の絶縁抵抗の値の対数目盛りである。
【0049】
図6によれば、硬化回数が増えてもインダクタンスにさほど大きな変化は見られず、又、硬化回数が増えるほど絶縁抵抗は高くなる傾向があり、特に、硬化回数が1回であるサンプルに対して硬化回数が2回以上のサンプルでは、絶縁抵抗が格段に高くなることが分かった。なお、以上の硬化回数に対するインダクタンス及び絶縁抵抗は、硬化回数が5回を超えて増えても同様である。そして、硬化回数が1回のサンプルの絶縁抵抗は、大電流や高周波が流れるチョークコイルとしては実用に適さないレベルであり、硬化回数が2回〜5回の本発明サンプルの絶縁抵抗は、大電流や高周波が流れるチョークコイルとしては実用に適するレベルであった。したがって、図6に示した測定結果から硬化回数は、2回以上、言い換えれば、強磁性金属粒子をコーティングした絶縁層が夫々硬化処理された2層以上の絶縁被膜からなるからなるコア成形粉末を用いると良いことが分かった。
【0050】
(実施例3)
強磁性金属粉末にカルボニル鉄粉末を用いて、これにフェノール樹脂からなる絶縁材粉末を、0.25wt%、0.5wt%、1.0wt%、1.5wt%、2.0wt%、2.5wt%混ぜた6種類の混合粉末を得て、これらの混合粉末を120℃で1時間硬化処理した。次に、この1回目の硬化処理がされた粉末を解砕してなる混合粉末に、さらにフェノール樹脂からなる絶縁材粉末を、0.25wt%、0.5wt%、1.0wt%、1.5wt%、2.0wt%、2.5wt%混ぜた6種類の混合粉末を得て、これらの混合粉末を120℃で1時間硬化処理し、こうして2回目の硬化処理がされた粉末を解砕して、6種類のコア成形粉末を形成した。したがって、前記1回目と2回目の硬化処理が施された6種類のコア成形粉末の夫々に対する絶縁材粉末のトータル量は、0.5wt%、1.0wt%、2.0wt%、3.0wt%、4.0wt%、5.0wt%である。
【0051】
次に、実施例1で説明したプレス機械を用い、その金型内に巻数が3.5ターンの平角ワイヤー銅線からなるコイル3をセットして、実施例1と同様に6種類のコア成形粉末毎のコイル入り圧粉コアを成形した。このプレス成形においても、各絶縁材粉末のトータル混合量に応じて充填率を合わせる条件で実施した。この後、プレス成形後、成形されたコイル入り圧粉コアの夫々に対して最後の硬化処理を例えば120℃で1時間の硬化処理を行った。
【0052】
そして、以上の手順で製造された6種類の本発明サンプルの夫々について、実施例1と同様に絶縁抵抗とインダクタンスとを測定した。
【0053】
又、比較のためのサンプルを以下の手順で製造した。まず、強磁性金属粉末にカルボニル鉄粉末を用いて、これにフェノール樹脂からなる絶縁材粉末を、0.5wt%、1.0wt%、2.0wt%、3.0wt%、4.0wt%、5.0wt%混ぜた6種類の混合粉末を得た。そして、この混合粉末に対する加熱処理を行わずに、次に、前記プレス機械を用いて3ton/cmのプレス圧でコイル入り圧粉コアを得た後に、これらのコアを更に120℃で1時間硬化処理した。
【0054】
この比較サンプルと、前記のように混合粉末を得る段階で2回熱硬化処理された本発明サンプルとについて、絶縁材粉末の混合量と測定された絶縁抵抗との関係を図7に示すとともに、絶縁材粉末の混合量と測定されたインダクタンスとの関係を図8に示す。なお、図7中縦軸の絶縁抵抗の値の対数目盛りである。
【0055】
これら図7と図8により、実施例1と同様に結果が得られた。つまり、カルボニル鉄粉末にフェノール樹脂の粉末を混ぜて混合粉末を形成する際、フェノール樹脂を混ぜるたびに、このフェノール樹脂からなる絶縁被膜を熱硬化処理して得たコア成形粉末を用いて製造されたチョークコイルの絶縁性及びインピーダンスは、少量のフェノール樹脂の使用で夫々向上することができた。
【0056】
なお、本発明は、コイルと端子とが別々であって、これらが溶接などで接続されている構成のチョークコイルなどのインダクタにも適用できるとともに、コイルが平角銅線ではなく断面円形の導電性金属線である場合に、これを単層巻きではなく複層巻きとした構成のチョークコイルなどのインダクタにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(A)は本発明の一実施形態に係るチョークコイルを例示する斜視図。(B)は図1(A)のチョークコイルを示す平面図。(C)は図1(A)のチョークコイルを示す断面図。
【図2】(A)は図1のチョークコイルのコアをなす強磁性金属粉末の粒子に一層の絶縁層が形成された状態を模式的に示す断面図。(B)は図1のチョークコイルのコアをなす強磁性金属粉末の粒子に二層の絶縁層が形成された状態を模式的に示す断面図。(C)は図2(B)の金属粒子がプレス成形によって変形した状態を模式的に示す断面図。
【図3】(A)は図1のチョークコイルのコアをなす強磁性金属粉末の粒子に三層の絶縁層が形成された状態を模式的に示す断面図。(B)は図3(A)の金属粒子がプレス成形によって変形した状態を模式的に示す断面図。
【図4】コアがパーマロイ粉末とエポキシ樹脂の混合粉末で成形された本発明に係るチョークコイルとその比較例の絶縁抵抗とエポキシ樹脂混合量との関係を示すグラフ。
【図5】コアがパーマロイ粉末とエポキシ樹脂の混合粉末で成形された本発明に係るチョークコイルとその比較例のインダクタンスとエポキシ樹脂混合量との関係を示すグラフ。
【図6】コアがパーマロイ粉末とエポキシ樹脂の混合粉末で成形された本発明に係るチョークコイルの絶縁抵抗とインダクタンスとの関係を示すグラフ。
【図7】コアがカルボニル鉄粉末とフェノール樹脂の混合粉末で成形された本発明に係るチョークコイルとその比較例の絶縁抵抗とフェノール樹脂混合量との関係を示すグラフ。
【図8】コアがパーマロイ粉末とエポキシ樹脂の混合粉末で成形された本発明に係るチョークコイルとその比較例のインダクタンスとフェノール樹脂混合量との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0058】
1…チョークコイル(インダクタ)、2…コア、3…コイル、5…絶縁層、5a〜5c…絶縁被膜、6…強磁性金属粒子、7…絶縁被膜間の境界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性の絶縁材で強磁性金属粒子の表面がコーティングされた強磁性金属粉末の加圧成形体からなるコア内にコイルを埋設したインダクタにおいて、前記強磁性金属粒子の表面をコーティングした絶縁層を、夫々硬化処理された前記絶縁材からなる複数層の絶縁被膜で形成したインダクタ。
【請求項2】
前記コイルの径方向に位置するコア側面間の絶縁抵抗が1.0MΩ以上である請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記絶縁層の各部の厚みが0.6μm以上である請求項1又は2に記載のインダクタ。
【請求項4】
強磁性金属粉末に熱硬化性の絶縁材粉末を混合してなる混合粉末を加熱して、前記混合により前記金属粉末の粒子の表面にコーティングされた前記絶縁材の被膜を硬化させる処理を複数回繰返してコア成形粉末を得る成形粉末形成工程と、
成形型内にコイルを配置するとともにこのコイルが埋まるように前記コア成形粉末を前記成形型内に充填してから、この充填されたコア成形粉末を加圧して圧縮成形するプレス成形工程と、
成形されたコイル入り圧粉コアを熱処理する熱処理工程と、
を具備したインダクタの製造方法。
【請求項5】
前記成形粉末形成工程での前記強磁性金属粉末に対する前記絶縁材粉末のトータル混合量を1.0〜4.0wt%とした請求項4に記載のインダクタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−228824(P2006−228824A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38111(P2005−38111)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(592074441)東京コイルエンジニアリング株式会社 (62)
【Fターム(参考)】