説明

インテリジェント・モジュール

【課題】基本的構成要素からなる共通部と顧客仕様に応じたカスタマイズ部とを分離し、汎用性、量産性を高めてコストの低減を可能にしたインテリジェント・モジュールを提供する。
【解決手段】スイッチング素子モジュールと、スイッチング素子を駆動する駆動回路と、制御演算回路と、通信回路と、基盤用電源回路と、を少なくとも有するインテリジェント・モジュールにおいて、駆動回路、制御演算回路及び通信回路を含む回路部品121,131が実装されたプリント基板120,130とスイッチング素子モジュール110とが一体的に形成された共通部100Aと、この共通部100Aと分離され、かつ、顧客仕様に応じて基盤用電源回路を含む回路部品211がプリント基板210に実装されたカスタマイズ部200と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車等の車両駆動用モータを制御する半導体スイッチング素子からなる電力変換回路、前記スイッチング素子を駆動する駆動回路、この駆動回路を制御する制御演算回路等を一体化してなるインテリジェント・モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のインテリジェント・モジュール(インテリジェント・パワー・モジュール:IPMともいう)としては、例えば、特許文献1,2に記載されたものが知られている。
すなわち、特許文献1には、プリント基板上に、三相インバータを構成するIGBTと、その駆動回路、シャント抵抗、保護回路、コネクタ等を一体的に組み込んだモータ駆動インバータ用IPMが記載されている。
また、特許文献2には、電力変換回路が実装される放熱板と、電力変換回路の上方に配置されて駆動回路、基盤用電源回路(制御電源回路)、通信回路、温度検出回路、電流・電圧検出回路、I/O(入力/出力)回路、コネクタ等が実装される電気回路基板とを、外囲ケースに一体的に収納してなるパワーモジュールが記載されている。
【0003】
更に、特許文献3には、インバータ用のパワー半導体素子等が実装された第1の基板と、マイクロコンピュータ、基盤用電源回路、通信回路、温度検出器、電流・電圧検出器等が実装された第2の基板とによってパワーモジュールを構成すると共に、このパワーモジュールと分離して、信号接続端子及び入出力インターフェース部を備えたI/Oブロック部を構成し、前記通信回路とI/Oブロック部との間で各種指令や検出値をシリアル通信するようにしたインバータ制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−9509号公報(段落[0003],[0004]、図7等)
【特許文献2】特開2009−219274号公報(段落[0037]〜[0041]、図8〜図10等)
【特許文献3】特許第3332810号公報(請求項1,3,4、段落[0012]〜[0018], [0051]〜[0058]、図1〜図4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3から明らかなように、従来のインテリジェント・モジュールでは、電力変換回路、駆動回路、基盤用電源回路、制御演算回路、保護回路、通信回路、温度検出回路、I/O回路、コネクタ等を単一または複数のプリント基板上に実装してその全体を一体化するものが一般的である。
しかし、顧客によっては、基盤用電源回路をモジュールとは別の基板上に実装する場合や、基盤用電源回路の冷却方式が異なったりこの電源回路を他の電力変換回路用の電源として共用する場合があり、更に、インテリジェント・モジュールに接続されるI/O回路の種類や数も一様ではないため、基盤用電源回路、I/O回路、コネクタ等をモジュール内に標準的に組み込むことが困難である。
従って、インテリジェント・モジュールの構成は顧客ごとの要求仕様に応じて異ならざるを得ず、結果として、インテリジェント・モジュールの量産性に乏しくコスト高になるという問題があった。
【0006】
なお、特許文献3に係る従来技術によれば、複数種類のI/Oブロック部に対応可能なパワーモジュールを構成することができ、また、パワーモジュールとI/Oブロック部との間でシリアル通信を行うことで配線を簡略化できる等の利点がある。しかしながら、この従来技術では、基盤用電源回路やコネクタ等がパワーモジュールに実装されているので、これらの仕様が顧客によって異なる場合にはパワーモジュールの構成も異なってしまい、量産性やコストの問題は未解決のままである。
【0007】
そこで、本発明の解決課題は、インテリジェント・モジュールを、多数の顧客に共通する基本的構成要素からなる共通部と顧客仕様に応じたカスタマイズ部とに分離して構成することにより、汎用性、量産性を高め、コストの低減を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電力変換回路を構成する半導体スイッチング素子からなるスイッチング素子モジュールと、前記スイッチング素子を駆動するための駆動回路と、前記駆動回路を制御するための制御演算回路と、通信回路と、基盤用電源回路と、を少なくとも有するインテリジェント・モジュールにおいて、
前記駆動回路、前記制御演算回路及び前記通信回路を含む回路部品が実装された単一または複数のプリント基板と、前記スイッチング素子モジュールと、が一体的に形成された共通部と、
前記共通部と分離され、かつ、顧客仕様に応じて前記基盤用電源回路を含む回路部品がプリント基板に実装されたカスタマイズ部と、を備えたものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載したインテリジェント・モジュールにおいて、前記共通部を、絶縁性樹脂にて一体的にモールドしたものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載したインテリジェント・モジュールにおいて、前記共通部と前記カスタマイズ部との間の信号の授受を、シリアル通信にて行うものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載したインテリジェント・モジュールにおいて、 前記カスタマイズ部は、複数の入出力端子を備えた入出力回路を備え、前記共通部に備えられたCPUと、前記カスタマイズ部に備えられた複数の入出力端子との間の信号の授受を、前記CPUと前記入出力回路との間のシリアル通信にて行うものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、多数の顧客に共通して使用可能な駆動回路、制御演算回路及び通信回路を含む回路部品が実装されたプリント基板と、電力変換回路としてのスイッチング素子モジュールと、を一体化して共通部を構成する一方で、顧客仕様に応じて回路構成や配置が異なる可能性のある基盤用電源回路等を含む回路部品をカスタマイズ部として前記共通部と分離することにより、共通部の量産によるコストの低減が可能である。
請求項2に係る発明によれば、両者の電位差が大きいスイッチング素子モジュール及びプリント基板を、近接して配置することができ、共通部の小型化、薄型化が可能になる。
請求項3または請求項4に係る発明によれば、共通部内の制御演算回路を構成するCPU等の入出力ピン端子数を少なくすることが可能なため、安価かつ小型の回路部品を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態を示す概略的な構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態を示す概略的な構成図である。
【図3】各実施形態における共通部とカスタマイズ部との接続状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るインテリジェント・モジュールの概略的な構成図である。図1において、本実施形態に係るインテリジェント・モジュールは、共通部100Aと、カスタマイズ部200と、これら両者を接続する基盤用電源線301及び信号線302とから構成されている。
【0015】
共通部100Aは、インバータ等の電力変換回路を構成するIGBT等の半導体スイッチング素子からなるスイッチング素子モジュール110と、回路部品121,121,……が実装された第1プリント基板120と、同じく回路部品131,131,……が実装された第2プリント基板130と、を備えており、これらのスイッチング素子モジュール110、第1プリント基板120及び回路部品121、並びに、第2プリント基板130及び回路部品131は、絶縁性樹脂(図示せず)にて一体的にモールドされている。
なお、スイッチング素子モジュール110には、スイッチング素子を水冷または空冷するための流体用配管等を取り付けてもよい。
【0016】
第1プリント基板120に実装される回路部品121は、例えば、スイッチング素子モジュール110内のスイッチング素子をオンオフさせるための駆動回路(ゲートドライブユニット)、スイッチング素子等を過熱や過電流・過電圧から保護するための保護回路、温度・電流・電圧検出回路(各種センサ類)及びそのインターフェース回路等を構成する部品である。また、第2プリント基板130に実装される回路部品131は、例えば、前記駆動回路や保護回路、後述する通信回路に対する制御動作を実行するCPU等の制御演算回路、外部との間で各種の制御指令や温度・電流・電圧等の検出値を送受信するための通信回路及びそのインターフェース回路等を構成する部品である。
【0017】
一方、カスタマイズ部200は、回路部品211,211,……が実装されたプリント基板210を備えている。ここで、前記回路部品211は、このインテリジェント・モジュールの各部に制御電源を供給するための基盤用電源回路(制御電源回路)、各種の入出力機器(電力変換回路により駆動される負荷(モータ)の速度検出器や表示器、警報器等)を動作させるためのI/O(入出力)回路、インターフェース回路、負荷及び入出力機器を接続するためのコネクタ等を構成する部品である。
【0018】
カスタマイズ部200に設けられる基盤用電源回路は、顧客側にて供給されるバッテリー等の直流電源から所定の大きさの制御電源電圧を生成する回路である。また、この基盤用電源回路を始めとして、I/O回路、インターフェース回路、コネクタ等の回路部品211は、その種類や数、定格、回路構成、配置等が、顧客仕様に応じて任意に設計可能となっている。
なお、スイッチング素子モジュール110(電力変換回路)に供給される主電源や、電力変換回路の主回路コンデンサ(平滑コンデンサ)、リレー等の開閉器及び負荷も、顧客側にて接続されるようになっている。
また、図1では、スイッチング素子モジュール110、第1プリント基板120、第2プリント基板130の間の配線や支持部材等の図示を省略してある。
【0019】
次に、図2は本発明の第2実施形態を示す概略的な構成図であり、この実施形態は、第1実施形態における第1プリント基板120、第2プリント基板130を1枚のプリント基板140に集約し、このプリント基板140に前記回路部品121,131に相当する回路部品を実装すると共に、スイッチング素子モジュール110と相まって共通部100Bを構成した例である。なお、カスタマイズ部200の構成は第1実施形態と同一である。
ここでも、スイッチング素子モジュール110とプリント基板140との間の配線や支持部材の図示を省略してあり、スイッチング素子モジュール110、プリント基板140及び回路部品141は、絶縁性樹脂(図示せず)にて一体的にモールドされている。
この実施形態によれば、プリント基板140ひいては共通部100Bの平面積が第1実施形態よりも大きくなる可能性があるが、プリント基板の数が少ないため共通部100Bの薄型化を図ることができる。
【0020】
次に、図3は、各実施形態における共通部とカスタマイズ部との接続状態を示す図である。
例えば、多数の入出力機器を使用する顧客にとっては、多数の入出力ピン端子を有するI/O回路をカスタマイズ部に実装する必要がある。この場合、共通部に実装されるCPU等の制御演算回路として、上記I/O回路のピン端子数に応じた数の入出力ピン端子を有する部品を使用すると、制御演算回路ひいては共通部の大型化やコストの上昇を招く恐れがある。
【0021】
そこで本発明では、図3に示すように、例えば共通部100A(100B)内のプリント基板130(140)に実装された回路部品131(141)が制御演算回路を構成するCPU等であり、カスタマイズ部200のプリント基板210に実装された回路部品211がI/O回路用のIC等である場合、両部品間を一対の信号線302により接続して相互間の信号授受をシリアル通信にて行うようにした。なお、図3では、図1,図2における基盤用電源線301の図示を省略してある。
このようにすれば、CPU等からなる回路部品131(141)としてピン端子数の少ない部品を使用することができ、共通部100A(100B)の小型化やコストの低減が可能になる。
【0022】
また、前述したように、各実施形態では、共通部100A,100Bを絶縁性樹脂にて一体的にモールドしてある。この種のインテリジェント・モジュールでは、スイッチング素子モジュール110とプリント基板120,130,140との間に数100[V]の電位差が存在することがあり、いわゆる空気絶縁では、両者間の距離を5〜6[m]確保しなければならなくなる。これに対し、共通部100A,100Bを絶縁性樹脂にて一体的にモールドしてスイッチング素子モジュール110とプリント基板120,130,140との間を樹脂封止することにより、絶縁距離を短縮して各部材を近接して配置することができ、共通部100A,100Bひいてはインテリジェント・モジュール全体の小型化、薄型化が可能である。
【符号の説明】
【0023】
100A,100B:共通部
110:スイッチング素子モジュール
120,130,140,210:プリント基板
121,131,141,211:回路部品
200:カスタマイズ部
301:基盤用電源線
302:信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換回路を構成する半導体スイッチング素子からなるスイッチング素子モジュールと、前記スイッチング素子を駆動するための駆動回路と、前記駆動回路を制御するための制御演算回路と、通信回路と、基盤用電源回路と、を少なくとも有するインテリジェント・モジュールにおいて、
前記駆動回路、前記制御演算回路及び前記通信回路を含む回路部品が実装された単一または複数のプリント基板と、前記スイッチング素子モジュールと、が一体的に形成された共通部と、
前記共通部と分離され、かつ、顧客仕様に応じて前記基盤用電源回路を含む回路部品がプリント基板に実装されたカスタマイズ部と、
を備えたことを特徴とするインテリジェント・モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載したインテリジェント・モジュールにおいて、
前記共通部を、絶縁性樹脂にて一体的にモールドしたことを特徴とするインテリジェント・モジュール。
【請求項3】
請求項1または2に記載したインテリジェント・モジュールにおいて、
前記共通部と前記カスタマイズ部との間の信号の授受を、シリアル通信にて行うことを特徴とするインテリジェント・モジュール。
【請求項4】
請求項3に記載したインテリジェント・モジュールにおいて、
前記カスタマイズ部は、複数の入出力端子を備えた入出力回路を備え、
前記共通部に備えられたCPUと、前記カスタマイズ部に備えられた複数の入出力端子との間の信号の授受を、前記CPUと前記入出力回路との間のシリアル通信にて行うことを特徴とするインテリジェント・モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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