説明

インドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物からなる電極活物質及びその製造方法

【課題】プロトンを電荷キャリアとする二次電池又はキャパシタにおいて、高いサイクル特性を有する電極活物質及びその製造方法を提供する。
【解決手段】キャリアとしてプロトンを用いる二次電池又はキャパシタ用電極活物質の化合物が一般式(1)で示されるインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物。一般式(1)中、Aはジカルボン酸残基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池又はキャパシタ等の電気化学セルに使用される電極活物質及びその製造方法に関し、より詳しくは、電極活物質にインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物あるいはその酸化物(脱水素化物)を用いた電極活物質、二次電池又はキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロエレクトロニクスの進歩により蓄電デバイスの需要が高まっている。蓄電デバイスは、より小型であって、かつ、長寿命で容量が大きいことが要求されている。かかる蓄電デバイスとして注目されているのがリチウム二次電池と、電気二重層キャパシタに代表される高容量キャパシタである。一般に、リチウム二次電池は、容量は大きいが、大電流放電を繰り返し行なうと特性劣化が大きくなるため、充放電サイクル寿命は良好とはいえない。
【0003】
一方、電気二重層キャパシタは活性炭電極と電解液との界面に生じる電気二重層を誘電体として使用するデバイスである。すなわち、イオンの物理的吸脱着を利用し、化学種の電子移動反応を伴わないため、高速充放電が可能であり、かつ、充放電サイクルによる劣化がほとんど生じないため長寿命である。しかし、イオンの物理的吸脱着を利用するため、エネルギー密度が小さいという問題点を有する。
【0004】
このような状況の中で、リチウムイオン電池等の欠点である高速電流特性等を改良する目的で、特許文献1〜3や非特許文献1には安全性、信頼性、電流特性に優れ、長寿命で高容量のプロトンを電荷キャリアとする二次電池が提案されている。
【0005】
これら信頼性、電流特性に優れるプロトンを電荷キャリアとする高容量の二次電池に使用される電極活物質としては、ポリアニリン系、ポリピリジン系、ポリピリミジン系、スルホン酸側鎖系、ヒドロキノン系高分子、マンガン酸化物、インドール系高分子などが開示されている(特許文献4〜6)。これらの化合物はプロトンの挿入/放出を容易に行えるため、安全性、急速充放電特性に優れた二次電池を得ることができるが、電池のエネルギー密度が従来の電池に対して劣っており、エネルギー密度向上が望まれている。また、寿命に関して具体的な開示は見られないため、その効果は不明だが、従来の電池に対して長寿命化が切望されている。更に、特許文献7、8にはポリアミド/イミド樹脂を使用した電池デバイスが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−289764号公報
【特許文献2】特開昭61−193367号公報
【特許文献3】特開昭61−214371号公報
【特許文献4】特開平2−220373号公報
【特許文献5】特開平10−289617号公報
【特許文献6】特開2003−142098号公報
【特許文献7】特開平11−224671号公報
【特許文献8】特開2006−253450号公報
【非特許文献1】Bull. Chem. Soc. Jpn., 57, p2254(1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、二次電池あるいはキャパシタ等の電気化学セルの長寿命化と高エネルギー密度化を可能とするため、高いサイクル特性と優れた電極容量密度を有する新しい電極活物質の開発が切望されている。
本発明の目的は、プロトンを電荷キャリアとする二次電池又はキャパシタ等の電気化学セルにおいて、高いサイクル特性と優れた電極容量密度を有する電極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術が抱えている上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、インドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物が、プロトンを電荷キャリア媒体とする二次電池あるいはキャパシタの電極活物質として、高いサイクル特性を有していることから有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第一は、二次電池あるいはキャパシタの電極反応に関与する電極活物質であって、電極反応前又は後における化合物が、下記一般式(1)で表わされるインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物である電極活物質に関する。
【化1】

(ただし、R1は独立に、水素又は1価の置換基を示し、Aはジカルボン酸からカルボキシ基をとって生ずる2価の基を示し、nは繰返し数であり2〜1000の数を示す。)
【0010】
本発明の第二は、下記一般式(2)で表わされるアミノインドロ[3,2−b]カルバゾール化合物と、ジカルボン酸、ジカルボン酸ハライド、ジカルボン酸エステル及びジカルボン酸無水物から選ばれるジカルボン酸類と反応させることを特徴とする上記のインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物からなる電極活物質の製造方法である。
【化2】

(ただし、R1は一般式(1)と同じ意味を有する。)
【0011】
上記ジカルボン酸類としては、下記一般式(3)又は(4)で表わされるジカルボン酸又はその誘導体が好ましい。
ROC-A-COR (3)
A(CO)2O (4)
ここで、Aは一般式(1)と同じ意味を有する。また、Rはヒドロキシ、ハロゲン又は炭素数1〜6の低級アルコキシを示す。ハロゲンとしては、塩素が好ましい。
【0012】
まず、本発明で電極活物質として使用するインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物の詳細について説明する。この電極活物質は、二次電池あるいはキャパシタの電極反応に関与して、その電極反応前又は電極反応後における反応生成物がインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミドであればよい。
【0013】
本発明で使用するインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミドは、上記一般式(1)で示される化合物である。
【0014】
一般式(1)において、R1はそれぞれ独立に、水素又は1価の置換基である。1価の置換基である場合、好ましい置換基としては、ハロゲン、炭素数1〜6の低級アルキル、ヒドロキシ、炭素数1〜6の低級アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アミド、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアリール基が挙げられる。Aはジカルボン酸からカルボキシ基をとって生ずる2価の基を示す。好ましい2価の基としては、炭素数1〜10の2価の脂肪族炭化水素基、環状脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の2価の芳香族炭化水素基が挙げられる。nは2以上の数を示す。
【0015】
ここで、低級アルキルは、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状あるいは環状のアルキル基である。低級アルコキシとは、上記低級アルキルを有するアルコキシである。また、置換のアミノ基とは、アミノ基の2つの水素の1又は2がそれぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状あるいは環状の脂肪族炭化水素あるいは環数が1〜3の炭素環式芳香族基で置換されたアミノ基である。
【0016】
置換又は無置換のアリール基とは、置換基を有するかあるいは有しない環数が1〜3からなる炭素環式芳香族基を表し、好ましくはフェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリルである。また、窒素、硫黄、酸素等の原子を1〜2個含む環数が1〜3からなる複素環式芳香族基でも良く、フリル、ベンゾフリル、チエニル、ベンゾチエニル、キノリルが好ましい。また、ここでいう置換基としては、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、置換若しくは無置換のアミノ基のいずれかを示す。
【0017】
1がハロゲンである場合、具体的にはフルオロ、クロロ、ブロモ又はヨードが挙げられる。低級アルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルなどが挙げられる。また、低級アルコキシとしては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシなどが挙げられる。置換若しくは無置換のアミノ基とは、具体的にはアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、プロピルアミノ、アセチルアミノ、フェニルアミノ、ジフェニルアミノ、ナフチルアミノなどが挙げられる。
【0018】
置換若しくは無置換のアリール基とは、具体的には、フェニル、2−メチルフェニル、3−メチルフェニル、4−メチルフェニル、4−エチルフェニル、4−ビニルフェニル、4−エチニルフェニル、2−メトキシフェニル、3−メトキシフェニル、4−メトキシフェニル、2−ニトロフェニル、3−ニトロフェニル、4−ニトロフェニル、2−フルオロフェニル、3−フルオロフェニル、4−フルオロフェニル、2−クロロフェニル、3−クロロフェニル、4−クロロフェニル、2−ブロモフェニル、3−ブロモフェニル、4−ブロモフェニル、4−(メチルアミノ)フェニル、4−(エチルアミノ)フェニル、4−(ジメチルアミノ)フェニル、4−(ジエチルアミノ)フェニル、4−(ホルミルアミノ)フェニル、4−(アセチルアミノ)フェニル、4−(n−プロパノイルアミノ)フェニル、4−(イソプロパノイルアミノ)フェニル、4−(n−ブチリルアミノ)フェニル、4−(sec−ブチリルアミノ)フェニル、4−(ピバロイルアミノ)フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、アントリル、フェナンスリル、2−フリル、3−フリル、ベンゾフリル、チエニル、2−ベンゾチエニル、3−ベンゾチエニル、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、2−キノリル、3−キノリルなどが挙げられる。
【0019】
上記一般式(1)において、Aは炭素数1〜12の2価の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは無置換の2価の芳香族基であることが好ましい。2価の脂肪族炭化水素基としては、二重結合を有してもよい分岐又は直鎖又は環状の炭素数1〜12の2価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。二重結合の数は0又は1であることが好ましい。置換若しくは無置換の2価の芳香族基としては、環数が1〜3からなる炭素環式芳香族基が好ましく、例えばベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンから2つの水素を取って生じる2価の芳香族基がある。また、窒素、硫黄、酸素等の原子を1〜2個含む環数が1〜3からなる複素環式芳香族基でも良い。置換基としては、置換アリール基について説明したと同様な置換基が挙げられる。好ましくは、フェニレン基、低級アルキル置換フェニレン基、ナフチレン基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0020】
次に、本発明の製造方法で使用するアミノインドロ[3,2−b]カルバゾール化合物の合成方法について説明する。まず、中間体のニトロ基を有するインドロカルバゾール化合物は、例えば、EP908787号公報、Tetrahedron, vol51, No43, pp11801-11808(1995)又はTetrahedron, vol55, No43, pp12577-12594(1999)に記載されている方法あるいはそれを応用して合成することができる。
【0021】
具体的には、下式(5)に示される方法で合成することができる。
【化3】

【0022】
ニトロ基からアミノ基への変換は一般的に知られている還元方法が利用できる。例えば、LiAlH4などの金属水酸化物による還元や、酸性条件化で亜鉛やスズを用いて処理する方法、接触還元法として白金、ラネーニッケル、白金黒(Pt−C)、パラジウム−炭素(Pd−C)、ルテニウム錯体などを触媒とした水素化が利用でき、より好ましくは、パラジウム−炭素(Pd−C)を使用した接触還元法である。
【0023】
次に、本発明のインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物の合成方法について説明する。インドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物は、アミノインドロ[3,2−b]カルバゾール化合物を用い、一般的なアミド化に使用する条件で合成でき、例えば、Org.Synth., I, 82(1941)、J.Org.Chem.,34,2766(1969)などに記載されている方法あるいはそれを応用して合成することができる。
【0024】
具体的には、下式(6)に示される方法で合成することができる。
【化4】

【0025】
すなわち、アミノインドロ[3,2−b]カルバゾール化合物と、一般式(3)及び(4)で表されるジカルボン酸類のいずれかとを反応させることでインドロカルバゾールポリアミド化合物を合成する。ここで、ジカルボン酸類としては、ジカルボン酸ハライド、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物又はジカルボン酸エステルがある。
【0026】
一般式(3)及び(4)において、R1及びAは、一般式(1)におけるR1及びAと同じ意味を有する。なお、一般式(3)中のRはヒドロキシ、ハロゲン又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基を示す。
【0027】
アミノインドロ[3,2−b]カルバゾール化合物とジ酸クロライドから合成する場合、反応を促進させるために好ましい別成分を添加しても良い。例えば、適当な塩基を混入することにより反応は促進される。例えば混合する塩基は、トリエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどの3級アミンである。また、必要に応じてこれらを任意の比率で混合した塩基を使用することもできる。
【0028】
アミノインドロ[3,2−b]カルバゾール化合物とジカルボン酸から合成する場合、反応を促進させるために好ましい別成分を添加しても良い。例えば、適当な縮合剤を混入することにより合成できる。使用する縮合剤としては、通常の有機反応で使用する縮合剤であれば特に制約はなく、N,N−ジシクロヘキシルカルボシイミド、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、o−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートやこれらの塩酸塩、又は亜リン酸トリフェニル、四塩化珪素、四塩化チタンなどの使用が好ましい。
【0029】
アミノインドロ[3,2−b]カルバゾール化合物とジカルボン酸エステルから合成する場合、反応を促進させるために高圧下、高濃度下又は高温下で実施しても良く、更に好ましい別成分を添加しても良い。例えば、塩化アルミニウム、ナトリウムメトキシドなどの使用が好ましい。
反応温度としては、0℃から200℃の範囲が好ましく、より好ましくは20℃から150℃である。反応時間は通常10分から24時間の範囲が好ましく、より好ましくは1時間から20時間である。
【0030】
重合反応に付すことによって得られるインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物の分子量としては1000〜1000000の範囲が好ましい。所望の分子量とするためには、アミノインドロ[3,2−b]カルバゾール化合物とジカルボン酸類のモル比を制御する。モル比が1.0に近いほど分子量は上がる。
【0031】
二次電池又はキャパシタを作成する場合の電気化学セルの一実施形態の断面構造を示す図1により本発明を説明する。
集電体1及び6上にそれぞれ形成された正極材料層2及び負極材料層4がセパレータ3を挟んで対向配置され、セパレータ3を介して正極材料層2及び負極材料層4が積層された積層体の両側面には絶縁ゴム等からなるガスケット5が設けられている。正極材料層2(正電極)及び負極材料層4(負電極)にはプロトンを含有する電解液を含浸させている。本発明のインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物は、正極材料層2(正電極)あるいは負極材料層4(負電極)に含まれる電極活物質として使用する。
【0032】
正極材料層2(正電極)あるいは負極材料層4(負電極)には、導電性を確保するために必要に応じて導電補助材を添加することができる。導電補助材としては、結晶性カーボン、カーボンブラック、グラファイト等の導電材料が挙げられる。また、電極の成形性を維持したり、これらの材料を集電体上に固定するために、必要に応じてバインダーを添加してもよい。
【0033】
電極の構成材料の混合比は所望の特性が得られる限り任意であるが、単位質量又は単位容量当たりの効率を考慮すると、インドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物が30〜95質量%、導電補助材が5〜50質量%、バインダーが0〜20質量%の範囲が望ましい。
【0034】
電極の作成方法は所望の特性が得られる限り任意であるが、所望の割合で混合されたインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物、導電補助剤、バインダーを混練し、その混合物を圧縮成形することで得られる。この際、成形性を向上させるために適当量の溶剤を混合しても良い。また、所望の割合で混合されたインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物、導電補助剤、バインダーに適当量の溶剤を加えて混練することでペーストとし、そのペーストを集電体上に塗布し、乾燥させることで成型することもできる。使用する溶剤は特に制限はないが、ジメチルホルムアミド、エチレンカーボナート、プロピレンカーボナート、ジメチルカーボナートなどが好ましい。また、諸特性の向上のため、混練の際に、塩あるいは界面活性剤を添加してもよい。なお、必要により他の電極活物質を配合してもよい。
【0035】
電解液としては、インドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物の電荷キャリアとしてプロトンが用いられるため、プロトンを含有する水溶液又は非水溶液を用いることが好ましい。また、電解液のプロトン濃度は10-3mol/L〜18mol/Lであることが好ましい。また、電解液には、電気伝導性を向上させるため、あるいは諸特性の向上のため、塩あるいは界面活性剤を添加してもよい。
【0036】
セパレータとしては、電気的絶縁性を持ち、イオン導電性を有する或いは付与し得るものであればよく、例えばポリエチレンやフッ素樹脂等の多孔質フィルムが挙げられ、電解液を含浸させて用いられる。あるいは、このようなセパレータに代えて、ゲル電解質や固体電解質などの電解質を電極間に介在させてもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば高いサイクル特性と優れた電極容量密度を有する電極活物質及びそれを使用した二次電池あるいはキャパシタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
インドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミドを二次電池あるいはキャパシタのような電気化学セルにおいて使用する場合、下式(7)のようなメカニズムにより2つの電子の授受が行われると推定される。このメカニズムにおける電子の授受をより円滑に行うことで、電子を授受する活物質の割合が多くなり、その結果、エネルギー密度に優れた電極活物質となる。
【化5】

【0039】
式(7)に示される電子の授受を繰り返す間に電極活物質が溶出又は、電極表面から電極活物質が剥離することによりサイクル特性が劣化する。この溶出、剥離を電極活物質のポリアミド化により抑制することで、電極表面上に残存する電極活物質の割合が多くなり、その結果、高いサイクル特性をもつ電極活物質が得られる。
【実施例】
【0040】
次に、合成例、実施例によって更に詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例の記載に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
合成した化合物の分析データについては特にことわらない限り、1H−NMRは日本電子(株)製JNM−LA400(400MHz)を使用した。マススペクトルは日本電子(株)製JMS−AX505HAを使用した。
【0041】
合成例1
6,12−ビス‐(4―ニトロフェニル)―1,7―2H―インドロ[3,2-b]カルバゾールの合成
1Lの4つ口フラスコに、インドール5.85g(0.05mol)と4−ニトロベンズアルデヒド7.56g(0.05mol)、p−トルエンスルホン酸14.8g(0.075mol)、トルエン500gを室温下で順次装入・撹拌し、オイルバスにて槽内温度を105℃まで昇温加熱、1時間反応させた。原料消失後、槽内温度70℃まで冷却し、70℃になった時点で吸引ろ過した。ろ液を減圧留去し、得られた残渣を酢酸エチル400gに溶解し、この溶液を蒸留水400gで洗浄した。酢酸エチル層を減圧乾固し、得られた残渣をメタノール100gで洗浄し、40℃で減圧乾燥し表記化合物0.70gを得た。
1H−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):10.79(2H,brs)、8.8.57(4H,d,J=8Hz)、8.02(4H,d,J=8Hz)、7.40(2H,d,J=8Hz)、7.30(2H,t,J=8Hz)、7.13(2H,d,J=8Hz)、6.88(2H,t,J=8Hz)
FD−MS(M/z):498(M+)
【0042】
合成例2
6,12−ビス−(4−アミノフェニル)―1,7―2H―インドロ[3,2-b]カルバゾールの合成
100mlのフラスコに6,12−ビス−(4―ニトロフェニル)―1,7―2H―インドロ[3,2-b]カルバゾール3.07g(0.06mol)とPd/c1.20g、N,N−ジメチルホルムアミド55gを室温下で順次装入・撹拌し、系内を水素で置換し、3日間反応させた。原料消失後、反応混合物を吸引ろ過した。ろ液にメタノール300g加えて2時間攪拌後、吸引ろ過した。得られた固体をメタノール50gで洗浄し、80℃で減圧乾燥し表記化合物2.15gを得た。
1H−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):10.39(2H,brs)、7.42(4H,d,J=8Hz)、7.30(6H,d,J=8Hz)、7.21(2H,d,J=8Hz)、6.87(2H,d,J=8Hz)、6.81(2H,t,J=8Hz)、5.33(2H,bs)
FD−MS(M/z):438(M+)
【0043】
実施例1
インドロ[3,2−b]カルバゾールポリアミドの合成(A=Ph)
100mlの3つ口フラスコに6,12−ビス−(4―アミノフェニル)―1,7―2H―インドロ[3,2-b]カルバゾール1.01g(0.02mol)とトリエチルアミン0.66g(0.07mol)、トリエチルアミン塩酸塩0.64g(0.04mol)、1,2−ジメトキシエタン30gを30℃で順次装入・撹拌した。30℃で攪拌しながら、テレフタロイルジクロリド0.47g(0.02mol)と1,2−ジメトキシエタン11gの混合液を滴下した。30℃で5時間反応させた。原料消失後、反応混合物を吸引ろ過した。残渣を水380g、メタノール70gで洗浄し、一昼夜、減圧乾燥した。表記化合物1.20gを得た。得られた重合体の赤外線吸収スペクトル(KBr法、cm-1)を図3に示す。特性吸収は以下の通り。3283w、3032w、1655s、1593m、1522s、1459m、1311s、1248m、1215m、745m。
【0044】
実施例2
インドロ[3,2−b]カルバゾールポリアミドの合成(A:CH2−CH2)
窒素雰囲気下において、50mlの3つ口フラスコに6,12−ビス−(4―アミノフェニル)―1,7―2H―インドロ[3,2-b]カルバゾール226mg(0.515mmol)と4−ジメチルアミノピリジン127mg(1.04mmol)、無水テトラヒドロフラン5.1gを入れ、氷浴中で攪拌しながら、コハク酸クロリド79mg(0.51mmol)と無水テトラヒドロフラン1.7gの混合液を滴下した。室温で16時間撹拌した後、水1mLとトルエン20mLを加えた。内容物を吸引ろ過し、残渣を順にトルエン、水で洗浄した後に減圧乾燥して、表記化合物209mgを得た。
【0045】
実施例3
インドロ[3,2−b]カルバゾールポリアミドの合成(A:CH=CH)
窒素雰囲気下において、50mlの3つ口フラスコに6,12−ビス−(4―アミノフェニル)―1,7―2H―インドロ[3,2-b]カルバゾール302mg(0.688mmol)と4−ジメチルアミノピリジン168mg(1.38mmol)、無水テトラヒドロフラン8.5gを入れ、氷浴中で攪拌しながら、フマル酸クロリド104mg(0.68mmol)と無水テトラヒドロフラン1.7gの混合液を滴下した。室温で16時間撹拌した後、水1mLとトルエン20mLを加えた。内容物を吸引ろ過し、残渣を順にトルエン、水で洗浄した後に減圧乾燥して、表記化合物329mgを得た。
【0046】
実施例4
電極活物質に実施例1で得た下記化合物(8)のインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミドを用い、以下の手順により電極を作製した。
【化6】

【0047】
電極の作製手順は次の通りである。インドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミドと導電補助剤としての気相成長炭素繊維(VGCF)を重量比70:30で混合したものに、適当量の溶媒を添加し、混錬することでペースト状とした。このペーストを一定の面積のカーボンシートに塗布し、一昼夜、減圧乾燥した。
【0048】
このように作成した電極を用いて、サイクロックボルタンメトリー(CV)法により、評価を行った。なお、以下の記述においては二次電池の電極材料に適用した場合について説明しているが、容量や充放電速度等を適宜設定することにより電気二重層キャパシタなどの他の電気化学セルとして好適な構成にすることもできる。
CV測定は、北斗電工社製HZ−3000を使用した。3極式のガラス製セルを用い、作用極をサンプル極とし、対極にPt、参照極にAg/AgCl電極、電解液として20〜40wt%の硫酸水溶液を使用した。200〜1200mVの範囲について掃引速度20mV/secにて掃引し、得られたCV曲線から、活物質1g当りのの電極容量(実効容量)を算出し、サイクル試験を実施した。
【0049】
実施例4における電極容量(最大値)は219C/gを示し、酸化電位は、約1095mV vs.Ag/AgClであった。また、サイクル試験の結果、30サイクル後で最大容量の70%の容量を保持していたことから、サイクル性に優れる活物質であることが確認できた。サイクル試験結果を図2に示す。図2(CV評価)より、インドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物は、良好なサイクル特性を有するため電極活物質の新規骨格として有用である。なお、図2中、合成例2はモノマー(アミン体)について同様のCVサイクル試験を行った比較例である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】電気化学セルの断面構造を示す図
【図2】実施例4のサイクル試験結果を示すグラフ
【図3】実施例1で得た重合体の赤外線吸収スペクトル
【符号の説明】
【0051】
1:集電体、2:正極材料層、3:セパレータ、4:負極材料層、5:ガスケット、6:集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池又はキャパシタの電極反応に関与する電極活物質であって、電極反応前又は後における化合物が、下記一般式(1)で表わされるインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物からなることを特徴とする電極活物質。
【化1】

(ただし、R1は独立に、水素又は1価の置換基を示し、Aはジカルボン酸からカルボキシ基をとって生ずる2価の基を示し、nは繰返し数であり2〜1000の数を示す。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表わされるアミノインドロ[3,2−b]カルバゾール化合物と、ジカルボン酸、ジカルボン酸ハライド、ジカルボン酸エステル及びジカルボン酸無水物から選ばれるジカルボン酸類と反応させることを特徴とする請求項1記載のインドロ[3,2−b]カルバゾール型ポリアミド化合物からなる電極活物質の製造方法。
【化2】

(ただし、R1は一般式(1)と同じ意味を有する。)
【請求項3】
請求項1記載の電極活物質を含む電気化学セル。
【請求項4】
二次電池あるいはキャパシタである請求項3記載の電気化学セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−251394(P2008−251394A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92687(P2007−92687)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】