説明

インビトロ及びインビボでのcAMPの決定のための手段及び方法

本発明は、ただ一つのcAMP結合部位を有しているcAMP結合モエティ、及び少なくとも二つの検出可能標識(該二つの検出可能標識のうちの第一のものは該cAMP結合モエティのカルボキシ末端に位置し、かつ該二つの検出可能標識のうちの第二のものはアミノ末端に位置する)を含むキメラペプチドに関する。該本発明のキメラペプチドは、インビトロ及び/又はインビボでのcAMP濃度の直接決定において/のために特に有用である。さらに、該キメラタンパク質をコードする核酸分子、並びにそれを含むベクター及び宿主細胞も記載される。本発明は、本発明のキメラタンパク質を作製する方法、並びに本発明のキメラペプチドとのcAMPの結合又はアデニリルシクラーゼもしくはホスホジエステラーゼの生物学的及び/もしくは薬理学的機能を修飾することができる分子又は化合物の同定及びスクリーニングのための方法も提供する。さらに、試料中のcAMPの決定のための方法、及び生存している細胞又は組織におけるcAMPの検出のための方法が記載される。最後に、本発明の化合物を含むキットが開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ただ一つのcAMP結合部位を有しているcAMP結合モエティ、及び少なくとも二つの検出可能標識(該二つの検出可能標識のうちの第一のものは該cAMP結合モエティのカルボキシ末端に位置し、かつ該二つの検出可能標識のうちの第二のものはアミノ末端に位置する)を含むキメラペプチドに関する。本発明の該キメラペプチドは、インビトロ及び/又はインビボでの(一つ又は複数の)cAMP濃度の直接決定において/のために特に有用である。さらに、該キメラタンパク質をコードする核酸分子、並びにそれを含むベクター及び宿主細胞も記載される。本発明は、本発明のキメラタンパク質を作製する方法、並びに本発明のキメラペプチドとのcAMPの結合又はアデニリルシクラーゼもしくはホスホジエステラーゼの生物学的及び/もしくは薬理学的機能を修飾することができる分子又は化合物の同定及びスクリーニングのための方法も提供する。さらに、試料中のcAMPの決定のための方法、及び生存している細胞又は組織におけるcAMPの検出のための方法が記載される。最後に、本発明の化合物を含むキットが開示される。
【背景技術】
【0002】
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の大きなファミリーを介したシグナリングは、細胞内cAMPレベルの制御から遺伝子転写の刺激にまで及ぶ多くの細胞応答を引き起こし得る。この受容体ファミリーのメンバーは、それらが主に相互作用する特定のGタンパク質のサブタイプに依って異なるカテゴリーに分類されている。例えば、GSタンパク質と共役した受容体は、多くの細胞においてシクラーゼを刺激するであろうし、Gq/11共役型受容体は、ホスホリパーゼCの活性化を介して細胞内Ca2+を動員することができる。神経伝達物質、ホルモン、及び光のような多様な生理学的シグナルが、7回膜貫通ドメイン受容体ファミリーのメンバーにより検出される。これらのGタンパク質共役型受容体(GPCR)は、GDPに換わってGTPの結合を促進することによりGタンパク質を活性化する。活性化されたGタンパク質のGαサブユニット及びGβγサブユニットの両方が、アデニリルシクラーゼ、ホスホジエステラーゼ、又はイオンチャンネルのような下流の効果器を制御することができる。
【0003】
遺伝子破壊研究によって、Ca2+により刺激されるアデニリルシクラーゼ、AC1、及びAC8が、長期増強及び長期記憶形成(LTM)を含むいくつかの型のシナプス可塑性にとって重要であることが示されている。cAMP/Ca2+応答エレメント結合タンパク質/cAMP応答エレメント転写経路を通して制御される遺伝子のファミリーの増加した発現をLTMが支持するためには、これらの酵素が必要であると仮定されている。AC1及びAC8とは対照的に、AC3は、嗅覚シグナル伝達において必須の役割を果たす、Ca2+により阻害されるアデニリルシクラーゼである。匂い物質受容体のAC3との共役は、嗅覚シグナリングのための主要な二次メッセンジャーとして機能するcAMP過渡応答を刺激する。これらのcAMP過渡応答は、カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIによって媒介される、Ca2+によるAC3の阻害によって少なくとも一部分は引き起こされる。これらのアデニリルシクラーゼは、その独特の構造及び調節特性のため、記憶形成及び嗅覚を含む多数の生理学的過程のモジュレーションのための魅力的な薬物標的部位である(Hongbing Wang and Daniel R.Storm. カルモジュリンにより制御されるアデニリルシクラーゼ:中枢神経系におけるクロストーク及び可塑性(Calmodulin-Regulated Adenylyl Cyclases:Cross-Talk and Plasticity in the Central Nervous System)Mol.Pharmacol.Vol.63,Issue 3,463-468,March 2003;Miles D.HOUSLAY and David R.ADAMS. PKAにより媒介されるPDE4の活性化、ERKにより媒介されるリン酸化はPDE4を阻害する(PKA-mediated activation of PDE4,ERK mediated phosphorylation inhibits PDE4)Biochem.J.(2003)370(1-18);Donald H.Maurice,Daniel Palmer,Douglas G.Tilley,Heather A.Dunkerley,Stuart J.Netherton,Daniel R.Raymond,Hisham S.Elbatarny,and Sandra L.Jimmo. 環状ヌクレオチド・ホスホジエステラーゼの心血管系の細胞における活性、発現、及びターゲティング(Cyclic Nucleotide Phosphodiesterase Activity,Expression,and Targeting in Cells of the Cardiovascular System)Mol Pharmacol 64:533-546,2003)。
【0004】
環状AMPは、環状ヌクレオチド依存性イオンチャンネル、プロテインキナーゼA(PKA)、及びEPACを含むいくつかのタンパク質に情報を伝達する遍在性の細胞内二次メッセンジャーである。次に、これらの効果器は、Ca2+流入、興奮性、及び遺伝子発現のような種々の細胞機能を調節し、グリコーゲン分解及び脂肪分解のような細胞特異的な過程も調節する。cAMPレベル、アデニリルシクラーゼ、及びホスホジエステラーゼを調節することが既知の酵素は、詳細に研究されている(Hepler JR,Gilman AG. Gタンパク質(G proteins)Trends Biochem Sci.1992 Oct;17(10):383-7;Exton JH. ホルモン、神経伝達物質、及びその他のGタンパク質関連アゴニストによるホスホイノシチドの調節(Regulation of phosphoinositide phospholipases by hormones,neurotransmitters,and other agonists linked to G proteins)Annu Rev Pharmacol Toxicol.1996;36:481-509;Beavo JA,Brunton LL. 半世紀後に依然として発展中の環状ヌクレオチド研究(Cyclic nucleotide research--still expanding after half a century)Nat Rev Mol Cell Biol.2002 Sep;3(9):710-8;Ishikawa Y. 心臓アデニリルシクラーゼのアイソフォーム特異的調節(Isoform-targeted regulation of cardiac adenylyl cyclase)Cardiovasc.Pharmacol.2003;41:1-4)。
【0005】
カルシウムに加え、cAMPも、代謝、細胞の増殖及び遊走、免疫防御、又は心筋細胞の収縮のような生物学的過程に関して重要な役割を果たすことが既知の、多様なG共役型受容体の細胞内シグナルのための普遍的なメディエーター(二次メッセンジャー)と見なされている(McKnight GS,Cummings DE,Amieux PS,Sikorski MA,Brandon EP,Planas JV,Motamed K,Idzerda RL.Recent Prog Horm Res.1998;53:139-59;160-1;Prasad KN,Cole WC,Yan XD,Nahreini P,Kumar B,Hanson A,Prasad JE. cAMP経路の欠陥は分裂神経細胞における発癌を開始させ得る:概説(Defects in cAMP-pathway may initiate carcinogenesis in dividing nerve cells:A review)Apoptosis.2003 Dec;8(6):579-86;Torgersen KM,Vang T,Abrahamsen H,Yaqub S,Tasken K. プロテインキナーゼAにより媒介される免疫機能のモジュレーションの分子的メカニズム(Molecular mechanisms for protein kinase A-mediated modulation of immune function)Cell Signal.2002 Jan;14(1):1-9;Bailey CH,Bartsch D,Kandel ER 長期記憶保存の分子的定義に向けて(Toward a molecular definition of long-term memory storage)Proc Natl Acad Sci U S A.1996 Nov 26;93(24):13445-52;Wang H and Storm DR カルモジュリンにより調節されるアデニリルシクラーゼ:中枢神経系におけるクロストーク及び可塑性(Calmodulin-Regulated Adenylyl Cyclases:Cross-Talk and Plasticity in the Central Nervous System)Mol.Pharmacol.Vol.63,Issue 3,463-468,March 2003 Evans DB. cAMPのモジュレーション:正の変力作用のメカニズム(Modulation of cAMP:mechanism for positive inotropic action)J Cardiovasc Pharmacol.1986;8 Suppl 9:S22-9)。
【0006】
5年前までは、プロテインキナーゼA(PKA)がcAMPの唯一の効果器であると考えられていた。1998年に、PKAの調節サブユニットのドメインBと高度の相同性を示すcAMP結合ドメインを有するEPAC(cAMPにより直接活性化される交換因子(exchange factor directly activated by cAMP))のファミリーが発見された(de Rooij,J.,et al. EPACは環状AMPにより直接活性化されるRAP1グアニン・ヌクレオチド交換因子である(EPAC is a RAP1 guanine-nucleotide-exchange factor directly activated by cyclic AMP)Nature 396,474-477(1998))。過去数年間に、以前にはPKA依存性と見なされていたcAMPの効果の多くが、EPACの活性化に起因することが示され、そのことにより、このタンパク質は細胞内のもう一つの重要なcAMP標的として特徴付けられることとなった(Bos,J.L. EPAC:新たなcAMP標的及びcAMP研究における新たな進路(EPAC:a new cAMP target and new avenues in cAMP research)Nat.Rev.Molecule.Cell.Biol.4(9),733-738(2003))。2003年1月、EPAC2 cAMP結合ドメインの構造が発表された(Rehmann,H.et al. EPAC2のcAMP結合ドメイン構造及び調節(Structure and regulation of the cAMP binding domains of EPAC2)Nat.Struct.,Biol.10(1)26-32(2003))。結晶学的データから、α-ヘリックス-4と6:Bとの間の距離の変化を引き起こすと言われている、強力なcAMP依存性のコンフォメーション変化が示唆された。
【0007】
EPACタンパク質は、脳、副腎、腎臓、心臓、卵巣、甲状腺、脾臓、脊髄、肺、肝臓、及び膵臓を含む様々な組織において発現されている(Kawasaki H,Springett GM,Mochizuki N,Toki S,Nakaya M,Matsuda M,Housman DE,Graybiel AM. Rap1を直接活性化するcAMP結合タンパク質のファミリー(A family of cAMP-binding proteins that directly activate Rap1)Science.1998 Dec 18;282(5397):2275-9;Ueno H,Shibasaki T,Iwanaga T,Takahashi K,Yokoyama Y,Liu LM,Yokoi N,Ozaki N,Matsukura S,Yano H,Seino S. 遺伝子EPAC2の特徴決定:構造、染色体内局在、組織発現、及び肝臓特異的アイソフォームの同定(Characterization of the gene EPAC2:structure,chromosomal localization,tissue expression,and identification of the liver-specific isoform)Genomics.2001 Nov;78(1-2):91-8)。
【0008】
EPACは、例えば、いくつかの腫瘍細胞の細胞接着、B細胞及びリンパ球の遊走において重要な役割を果たすインテグリン・タンパク質を調節することが見出されている(Kinbara K.et al. Ras GTPaseは味方か敵か?(Ras GTPase intergrins friends or foes ?)Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.4(10),767-776(2003))。さらに、膵臓のβ-細胞におけるインスリンの分泌は、EPAC2及びリアノジン感受性チャンネルにより指図される(Ozaki N,Shibasaki T,Kashima Y,Miki T,Takahashi K,Ueno H,Sunaga Y,Yano H,Matsuura Y,Iwanaga T,Takai Y,Seino S. cAMP-GEFIIは調節されたエキソサイトーシスにおけるcAMPの直接の標的である(cAMP-GEFII is a direct target of cAMP in regulated exocytosis)Nat Cell Biol.2000 Nov;2(11):805-11;Kang G,Joseph JW,Chepurny OG,Monaco M,Wheeler MB,Bos JL,Schwede F,Genieser HG,Holz GG. 膵臓ベータ細胞におけるCa2+により誘導されるCa2+放出及びエキソサイトーシスの刺激としてのEpac選択的cAMPアナログ8-pCPT-2'-O-Me-cAMP(Epac-selective cAMP analog 8-pCPT-2'-O-Me-cAMP as a stimulus for Ca2+-induced Ca2+ release and exocytosis in pancreatic beta-cells)J Biol Chem.2003 Mar 7;278(10):8279-85)。さらに、EPACは、細胞の増殖にとって特に重要なERKカスケード(細胞外シグナルにより調節されるキナーゼ)を調節する(Fujita T,Meguro T,Fukuyama R,Nakamuta H,Koida M.細胞外調節キナーゼ及び骨細胞における細胞増殖に対する甲状腺ホルモン及び環状AMPの作用の新たなシグナリング経路。環状AMPによるモジュレーションのチェックポイント(New signaling pathway for parathyroid hormone and cyclic AMP action on extracellular-regulated kinase and cell proliferation in bone cells.Checkpoint of modulation by cyclic AMP)J Biol Chem.2002 Jun 21;277(25):22191-200;Lin SL,Johnson-Farley NN,Lubinsky DR,Cowen DS. Epacを利用することができるプロテインキナーゼA依存性経路による細胞外調節キナーゼの活性化とのニューロン5-HT7受容体の共役(Coupling of neuronal 5-HT7 receptors to activation of extracellular-regulated kinase through a protein kinase A-independent pathway that can utilize Epac)J Neurochem.2003 Dec;87(5):1076-85)。さらに、EPAC1は、有糸分裂において役割を果たしている可能性がある(Qiao J,Mei FC,Popov VL,Vergara LA,Cheng X. cAMPにより直接活性化される交換因子の細胞周期依存性の亜細胞局在(Cell cycle-dependent subcellular localization of exchange factor directly activated by cAMP)J Biol Chem.2002 Jul 19;277(29):26581-6)。最後に、腎細胞におけるカリウム・チャンネルの調節も、EPACの重要な機能である(Laroche-Joubert N,Marsy S,Michelet S,Imbert-Teboul M,Doucet A. ネイティブ腎細胞におけるcAMPによるERK及びH,K-ATPアーゼのプロテインキナーゼA依存性の活性化:Epac Iの役割(Protein kinase A-independent activation of ERK and H,K-ATPase by cAMP in native kidney cells:role of Epac I)J Biol Chem.2002 May 24;277(21):18598-604)。
【0009】
cAMP二次メッセンジャー系の重要性を考慮して、cAMPレベルを決定するためのインビトロのアプローチがいくつか開発されている。これらのアッセイのうちのいくつかは、cAMPの間接検出のための方法であるラジオ・イムノアッセイ(RIA)のような(抗cAMP)抗体に基づく技術である(Kariv II,Stevens ME,Behrens DL,Oldenburg KR. 7回膜貫通型受容体の活性化により媒介されるcAMP産生のハイスループット定量(High Throughput Quantitation of cAMP Production Mediated by Activation of Seven Transmembrane Domain Receptors)J Biomol Screen.1999;4(1):27-32.)。しかしながら、RIAは多くの時間を要し、高価な放射性材料を必要とする。さらに、RIAは、生存している細胞及び組織における使用には適用可能でない。高親和性抗cAMP抗体を用いた競合インビトロ・イムノアッセイも、cAMPの検出又は決定のために適用されている(Golla R, Seethala R. GPCR アゴニストのための均一酵素断片補完環状AMPスクリーニング(A homogeneous enzyme fragment complementation cyclic AMP screen for GPCR agonists)J Biomol Screen.2002 Dec;7(6):515-25;Gabriel D,Vernier M,Pfeifer MJ et al. 直接環状AMP測定のためのハイスループット・スクリーニング技術(High throughput Screening technologies for Direct cyclic AMP Measurments)ASSAY and Drug Development Technologies.2003,1(2):291-303;Sportsman JR,Daijo J,Gaudet EA. シグナル伝達発見における蛍光偏光アッセイ(Fluorescence polarization assays in signal transduction discovery)Comb Chem High Throughput Screen.2003 May;6(3):195-200)。この方法は、cAMPを含有している細胞溶解物への抗cAMP抗体の添加を含む。抗cAMP抗体のcAMPとの結合は、蛍光/化学発光化合物を活性化する酵素の活性化(例えば、cAMP-スクリーン(screen)(登録商標)アッセイ、ヒット・ハンター(Hit Hunter)(登録商標)酵素断片補完アッセイ(Enzyme Fragment Complementation Assay)、環状AMP EIAキット)、蛍光複合体の分解(アルファ・スクリーン(Alpha Screen)(登録商標)アッセイ)、又は蛍光標識されたトレーサーの蛍光偏光の変化(蛍光偏光(Fluorescent Polarization)cAMPアッセイ)を引き起こす(Golla R,Seethala R. GPCR アゴニストのための均一酵素断片補完環状AMPスクリーニング(A homogeneous enzyme fragment complementation cyclic AMP screen for GPCR agonists)J Biomol Screen.2002 Dec;7(6):515-25;Gabriel D,Vernier M,Pfeifer MJ et al. 直接環状AMP測定のためのハイスループット・スクリーニング技術(High throughput Screening technologies for Direct cyclic AMP Measurments)ASSAY and Drug Development Technologies.2003,1(2):291-303;Sportsman JR,Daijo J,Gaudet EA. シグナル伝達発見における蛍光偏光アッセイ(Fluorescence polarization assays in signal transduction discovery)Comb Chem High Throughput Screen.2003 May;6(3):195-200)。しかしながら、示されたように、上記の方法はインビトロでのcAMPの検出にのみ適している。
【0010】
インビボでcAMPをモニタリングすることを可能にする方法を確立することを試み、細菌cAMP受容体タンパク質又はPKAのようなcAMP結合タンパク質を活用した蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)に基づくテスト系を利用する、いくつかの限定されたアプローチが企てられた。これらの系は、細菌cAMP受容体タンパク質(インビトロ・ブリッジITアッセイ(in vitro Bridge IT Assay);http://www.biocompare.com/itemdetails.asp?List=2263,173277)又はプロテインキナーゼA(PKA)(Zaccolo et.al.,Nat.Cell.Biol.2000)と会合するDNA断片に挿入された蛍光タンパク質(シアン蛍光タンパク質(CFP)及び黄色蛍光タンパク質(YFP))間の蛍光共鳴エネルギー転移を使用する。
【0011】
しかしながら、現在のところ、生存している細胞においてcAMPのシグナル・カスケードの活性化を検出することができるのは上記のPKA法のみである。簡単に説明すると、該cAMPのセンサーは、PKAの触媒(C)サブユニットをGFPと、PKAの調節(R)サブユニットをGFPの青色バリアント(EBFP)と遺伝学的に連結することにより作製された。GFP及びEBFPは、FRETのための適当な対になるようなスペクトル特性を示す。FRET変化を測定することにより、単細胞におけるcAMP変化をモニタリングすることが可能であった。この新たな方法論は、cAMP/PKAシグナリングの時間的かつ組織分布的なマッピングに適しているが、このアプローチはいくつかの大きな欠点を示す。例えば、PKA法のために使用されるセンサーは、PKAの触媒サブユニットによる触媒作用を保有しており、従って、いくつかの細胞内過程に干渉する。例えば、アポトーシスの誘導が観察されている(Myklebust JH,Josefsen D,Blomhoff HK,Levy FO,Naderi S,Reed JC,Smeland EB. cAMPシグナリング経路の活性化はヒトB前駆細胞のアポトーシスを増加させ、Mcl-1発現のダウンレギュレーションと関連している(Activation of the cAMP signaling pathway increases apoptosis in human B-precursor cells and is associated with downregulation of Mcl-1 expression)J Cell Physiol.1999 Jul;180(1):71-80)。従って、多くの細胞が増加したPKA活性を許容することができず、PKAが過剰発現された場合には死滅することすらある。さらに、PKAの触媒活性が、cAMP濃度の急速な減少を引き起こす、PKAにより媒介される減感を開始させることは、当技術分野においてよく記載されている(Houslay MD,Adams DR. PDE4 cAMPホスホジエステラーゼ:シグナリングのクロストーク、減感、及び区画化を組織化するモジュラー酵素(PDE4 cAMP phosphodiesterases:modular enzymes that orchestrate signaling cross-talk,desensitization and compartmentalization)Biochem J.2003 Feb 15;370(Pt1):1-18;Conti M,Richter W,Mehats C,Livera G,Park JY,Jin C. 環状AMPシグナリングの重要な成分としての環状AMP特異的PDE4ホスホジエステラーゼ(Cyclic AMP-specific PDE4 phosphodiesterases as critical components of cyclic AMP signaling)J Biol Chem.2003 Feb 21;278(8):5493-6;Kohout TA,Lefkowitz RJ. 受容体減感中のGタンパク質共役型受容体キナーゼ及びアレスチンの調節(Regulation of G protein-coupled receptor kinases and arrestins during receptor desensitization)Mol Pharmacol.2003 Jan;63(1):9-18)。さらに、PKAセンサーは、個々に標識されなければならない二つの比較的大きなタンパク質からなる。cAMP濃度を定量するためには、該タンパク質が等しい濃度で発現されなければならない。最後に、PKAは、異なる親和性レベルを有する4個のcAMP結合部位を含有しており、cAMP結合が複雑な協力的な様式で起こる。従って、cAMPの協力的な結合のため、cAMPレベルの正確な定量化は複雑である。さらに、PKAセンサーを活性化するためには4個の結合部位全てにcAMPが結合しなければならず、このことは、シグナルの遅延を引き起こす。
【0012】
当技術分野において記載されているcAMPアッセイのこれらの短所のため、改良された感度、親和性、及び検出可能性のような特性を有し、かつインビトロ及びインビボでのリアルタイムの光学的なcAMP決定を可能にする、新世代のcAMPセンサーを提供するための手段及び方法が必要とされている。そのような測定は、先行技術によっては提供されていないし、又は利用可能となっていない。
【0013】
この技術的問題は、特許請求の範囲において特徴決定されるような態様の提供により解決される。
【発明の開示】
【0014】
従って、本発明は、ただ一つのcAMP結合部位を有しているcAMP結合モエティ、及び少なくとも二つの検出可能標識(該二つの検出可能標識のうちの第一のものは該cAMP結合モエティのカルボキシ末端に位置し、かつ該二つの検出可能標識のうちの第二のものはアミノ末端に位置する)を含むキメラペプチドに関する。「キメラペプチド」という用語は、本発明によると、本明細書に記載されるような単一のcAMP結合部位を有するcAMP結合モエティ及び二つの検出可能標識を含むタンパク質性の融合構築物に関する。本発明のキメラペプチド/構築物は、インビトロ及び/又はインビボでの(一つ又は複数の)cAMP濃度の直接決定において特に有用である。
【0015】
cAMP結合は、EPAC2のcAMP結合ドメインにおけるコンフォメーションの変化を誘導する(Rehmann,H.et al. EPAC2のcAMP結合ドメインの構造及び調節(Structure and regulation of the cAMP binding domains of EPAC2)Nat.Struct.Biol.10(1),26-32(2003)。この示唆に基づき、本発明者らは、改良された感度、親和性、及び検出可能性を有し、かつインビトロ及び/又はインビボでのリアルタイムの光学的なcAMP決定を可能にする、新世代のcAMPセンサーを作製するため、該cAMP結合モエティにおけるコンフォメーション変化が活用され得るか否かを調査した。この目的のため、cAMP結合ドメインにフルオロフォアを隣接させることにより、新規の単分子cAMPセンサーが作出された。cAMP結合時には、cAMP結合モエティのコンフォメーションの変化が、フルオロフォア間の蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、即ち、分子内FRETの変化を誘導するはずであると推測された。最初の実験系列においては、プロテインキナーゼA又はEPAC2のA及びB cAMP結合ドメインの両方が緑色蛍光タンパク質の二つのバリアント(EYFP及びECFP)の間にはさまれたキメラペプチドが分析された。しかしながら、該構築物は、cAMPシグナリングの活性化、又はcAMPの添加により、該構築物を発現している細胞におけるFRETの変化を生じることができなかった。驚くべきことに、そして先行技術の教示とは対照的に、C末端及びN末端に2個のフルオロフォアが隣接しているただ一つのcAMP結合モエティを含有しているキメラペプチドが、インビトロでの蛍光測定により測定されるように、cAMP経路の刺激又はcAMPの添加の後に、FRETの迅速な放散(loose)を示した。従って、cAMP感知配列の長さ及びフルオロフォアの位置を最適化した後、下記の実施例及び図面において示されるような、インビトロ及びインビボ両方の適用のための、いくつかの高感度のcAMPセンサータンパク質が作出された。(一つのcAMP結合部位を有する単一のcAMP結合ドメインのみを含む)本明細書に提供された融合構築物は、cAMPの受容体により媒介される応答の空間時間的パターン及び/又は調節パターンの決定において特に有用である、高感度のcAMPセンサーである。以下、特に図1に示されるように、該「単一のcAMP結合ドメイン」は、少なくとも二つの検出可能標識のうちの一つにより分割/分離されていてもよい;添付の配列番号:14、15、又は20等も参照のこと。本明細書に提供される構築物「単一ドメインセンサー」は、特に高い時間分解能を示す。本発明の構築物は、(単一のcAMP結合部位のみを含む)単一のcAMP結合ドメインに基づいており、速い活性化のスピードを明示し、従って、高い時間的かつ空間的な分解能でcAMPを測定するのに適している。以下に示されるように、本発明の構築物は、生存している細胞における細胞調節過程及びcAMPの生物学的機能の研究において有用である。本発明のキメラ構築物の特定の好ましい使用は、薬理学的研究及び/又は薬物スクリーニング・アプローチである。
【0016】
本明細書、特に、実施例及び図面において例示されるように、「ただ一つのcAMP結合部位を有するcAMP結合モエティ」とは、かなり小さく(およそ100〜200アミノ酸、好ましくは120〜200、最も好ましくは130〜180アミノ酸)、かつ(およそ10〜20アミノ酸残基、好ましくは12〜18アミノ酸残基、特に好ましくは13〜15アミノ酸残基を含む)ただ一つのcAMP結合部位を含むcAMP結合モエティに関する。本発明の構築物に含まれるcAMP結合モエティは、そこに含まれるcAMP結合部位の他に、限定された少量の付加的なアミノ酸残基のみを含むことも認識される。従って、約20アミノ酸残基、好ましくは40アミノ酸残、最も好ましくは約50アミノ酸残基の「cAMPモエティ」も、発明に従い、本明細書において提供されたキメラ構築物に含まれることが認識される。実施例に提供される例示的な構築物は、約130〜約180アミノ酸残基の「cAMP結合モエティ/ドメイン」を含む。最も重要なこととして、キメラ構築物は単一の「cAMP結合部位」を含んでいなければならない。例示的に、図14は、例示的な例の一つのcAMP結合部位を含む対応するcAMP結合ドメインを示す。
【0017】
従って、本発明のキメラペプチド/構築物において利用されるようなcAMP結合ドメインは、やはり当業者により容易に検出可能である、ただ一つのcAMP結合部位を含む。上で指摘されたように、好ましいcAMP結合部位は、10〜20アミノ酸、より好ましくは13〜15アミノ酸を含む。例示的な例はやはり図14に示される。下に詳述されるように、当業者は、(TBLASTNのような)コンピュータ・プログラムの使用、及び制限酵素消化分析結合アッセイ、競合アッセイ等のような生化学的/生物学的アッセイを含む、cAMP結合モエティ及び/又はcAMP結合部位の推定のための技術を利用し得る。
【0018】
特に、ヒトEPAC1、マウスEPAC2、又はマウスPKA調節IIサブユニットのcDNAのcAMP結合ドメインの特定の位置にフルオロフォア(GFPバリアント)が挿入された、ただ一つのcAMP結合部位を含有している新規の単分子cAMPセンサーが作出された。これらの新規のcAMPセンサータンパク質の活性化動力学を分析するため、Gsタンパク質と共役しており、アデニリルシクラーゼを介してcAMP産生を活性化するアデノシンA2B受容体を安定的に発現している細胞を、これらのセンサータンパク質をコードするプラスミドにより一過性トランスフェクトした(Volpini R,Costanzi S,Vittori S,Cristalli G,Klotz KN. A2Bアデノシン受容体の薬化学及び薬理学(Medicinal chemistry and pharmacology of A2B adenosine receptors)Curr Top Med Chem.2003;3(4):427-43)。トランスフェクションの後、より詳細に下に記載されるようにして、生存している単細胞においてFRETを測定した。細胞へのアデノシンの添加は、フルオロフォア間のFRETの減少をもたらし、このことは、cAMPにより誘導されたコンフォメーション変化がフルオロフォア間の距離の増加を引き起こしたことを意味している。
【0019】
GFPバリアントのようなフルオロフォアは、30オングストロームの直径を有する円柱状又は棒状の構造を示し、従って、比較的大きなタンパク質であることが既知である。従って、単一のcAMP結合モエティに二つのフルオロフォアを隣接させることによって、該cAMP結合モエティの表面が覆われ、それにより、cAMPとの相互作用が妨げられるであろうことが予想された。ここで、驚くべきことに、二つのGFPアナログ又はフルオロフォアの使用は、cAMP結合モエティを抑制しない又は改変させないことが見出された。予想外に、モエティは、依然として機能性であり、分子内運動がミリ秒範囲でモニタリングされ得るテスト系すら提供する。従って、驚くべきことに、一つのGFPバリアントのサイズ(30オングストロームの直径;Tsien,Annu.Rev.Biochem.1998.67:509-544)ですら、cAMP結合モエティを覆うことができるという事実にもかかわらず、二つのGFPバリアントと融合した該cAMP結合モエティが、依然としてcAMPと結合し得ることが見出された。従って、本明細書に記載されたようなキメラペプチドの調製が、インビトロ及びインビボでのcAMPの直接測定のための高速の、機能的な、信頼性のあるツールを提供することは予想され得なかった。
【0020】
上記の通り、本発明のキメラペプチド内に存在する検出可能標識は、検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を次に引き起こす、cAMP結合時の本発明のキメラペプチド内のコンフォメーション変化の検出を容易にする。従って、本発明のキメラペプチドは、インビトロで、例えば、細胞溶解物の中のcAMPレベルを直接決定するのに特に実行可能な単分子ツールを提供する。例えば、下により詳細に示されるように、上で定義されたようなキメラペプチドを細胞溶解物へと添加し、FRET又はBRET(生物発光共鳴エネルギー転移)を記録することより、蛍光放射の値を明確な濃度のcAMPで入手された標準曲線と比較することにより、該試料中のcAMP濃度を測定することができる。本発明は、生存している単細胞において、又は組織においても、cAMPをリアルタイムにモニタリングするための、一般に適用可能な蛍光に基づく技術も提供する。さらに、本発明は、下に示されるように、本発明のキメラペプチドとのcAMPの結合又はアデニリルシクラーゼもしくはホスホジエステラーゼの生物学的及び/又は薬理学的機能を修飾することができる分子又は化合物の同定及びスクリーニングのための方法を提供する。
【0021】
特に、本発明者らは、先行技術において記載されたcAMPアッセイ及び検出系の欠点を克服する、光学的なcAMP決定のためのキメラタンパク質を開発した。
【0022】
第一に、上述のように、本発明のキメラペプチドは、比較的短く、かつcAMP以外の分子に対する触媒作用又は(一つもしくは複数の)結合部位を含有していない。従って、そのタンパク質は、他のタンパク質の減感又はホスホリル化のような他の細胞内過程に干渉しない。実施例及び図面に例示されるように、本発明の構築物は、およそ100〜200アミノ酸残基を含み、かつ10〜20個、好ましくは13〜15個、最も好ましくは14個のアミノ酸残基を含むただ一つのcAMP結合部位を有しているcAMP結合ドメインを含む。
【0023】
第二に、PKA系(Zaccolo et al.(前記))とは対照的に、本発明のキメラタンパク質は、生存している細胞において容易に発現させられ得る単分子の系である。
【0024】
第三に、本発明のキメラペプチドは、インビトロ及び/又はインビボでのcAMPの直接決定を可能にする高い親和性を有するただ一つのcAMP結合部位を含有している。単一のcAMP結合部位のさらなる結果として、cAMP検出の動力学が、当技術分野において記載されている従来利用可能であったcAMP検出系よりもはるかに迅速である。以下の実施例において証明されるように、従来記載されていたPKAセンサー(Zaccolo et.al.,Nat.Cell.Biol.2000)のものと比較して、EPAC2の単一の結合ドメインに基づくcAMPセンサータンパク質の活性化動力学は、新規のEPAC2センサーがより迅速な活性化シグナルを示すことを明らかにしている。これは、本発明のキメラペプチドのただ一つの高親和性cAMP結合ドメインの存在、及び触媒作用(ホスホジエステラーゼ活性化を介した減感の誘導)の欠如のためである可能性が最も高い。それに対し、PKAは、4個の協力的に作用する結合部位を有しており、ホスホジエステラーゼ活性化特性を示す。
【0025】
第四に、本発明のキメラタンパク質は、放射性化合物を使用することなく、インビボ及びインビトロでのcAMPのリアルタイムの検出を可能にする。
【0026】
本明細書において使用されるような「共鳴エネルギー転移(RET)」とは、ドナー(第一の検出部分)からアクセプター分子(第二の検出部分)への励起エネルギーの非放射転移をさす。cAMP結合時のcAMP結合モエティのコンフォメーション変化は、検出部分間のRETの検出可能な変化を引き起こす。例えば、RETが増加した場合、アクセプターの放射ピークが増大し、ドナーの放射ピークが減少する。従って、アクセプターの放射強度とドナーの放射強度との比率が、検出部分間のRETの程度の指標となる。cAMP結合時の本発明のキメラペプチドのコンフォメーション変化は、検出部分間の距離の減少又は増加のいずれかをもたらし得る。
【0027】
本明細書において定義されるような「キメラ」という用語は、一つ、二つ、三つ、又はそれ以上の異なる種に由来し得る、二つ、三つ、又はそれ以上の異なる遺伝子に由来する配列を含有している分子に関する。
【0028】
本明細書において使用されるような「ペプチド」という用語は、ペプチド結合又は修飾されたペプチド結合、即ち、ペプチド・アイソスター(isosteres)により相互に接続されたアミノ酸から構成され得、20個の遺伝子にコードされたアミノ酸以外のアミノ酸を含有していてもよいポリペプチド又はタンパク質をさす。ポリペプチドは、翻訳後プロセシングのような天然の過程により、又は当技術分野において周知の化学的修飾技術により修飾され得る。そのような修飾は、基礎的な参考書及びより詳細な研究書にも、多量の研究文献にも十分に記載されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、及びアミノ末端又はカルボキシル末端を含むポリペプチド内の任意の場所でなされ得る。所定のポリペプチド内のいくつかの部位に、同じ程度又は変動する程度で、同じ型の修飾が存在してもよいことが認識されるであろう。また、所定のポリペプチドが、多くの型の修飾を含有していてもよい。ポリペプチドは、例えば、ユビキチン化の結果として、分岐していてもよいし、分岐を有する、又は分岐を有しない環状であってもよい。環状、分岐状、及び分岐状かつ環状のポリペプチドは、翻訳後の天然の過程に起因するかもしれないし、又は合成法により作成されるかもしれない。修飾には、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合性接着、ヘム・モエティの共有結合性接着、ヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体の共有結合性接着、脂質又は脂質誘導体の共有結合性接着、ホスファチジルイノシトールの共有結合性接着、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合性架橋の形成、システインの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、ガンマ−カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、PEG化、タンパク質分解的プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、アルギニル化のようなトランスファーRNAにより媒介されるタンパク質へのアミノ酸の付加、及びユビキチン化が含まれる(例えば、タンパク質構造及び分子特性(PROTEINS-STRUCTURE AND MOLECULAR PROPERTIES)、第2版、T.E.Creighton、W.H.Freeman and Company、New York(1993);タンパク質の翻訳後共有結合性修飾(POSTTRANSLATIONAL COVALENT MODIFICATION OF PROTEINS)B.C.Johnson編、Academic Press、New York、1〜12頁(1983);Seifter et al.,Meth Enzymol 182:626-646(1990);Rattan et al.,Ann NY Acad Sci 663:48-62(1992)を参照のこと)。
【0029】
本明細書において使用されるような「キメラペプチド」という用語は、より詳細に下に示されるような、ドメイン及び/又はリンカー配列の組み合わせられた機能を獲得する目的で、複数のタンパク質、タンパク質ドメイン、及び/又はリンカー配列を組み合わせた結果であるポリペプチド又はタンパク質の構築物をさす。これは、本明細書において使用されるような所望のキメラペプチドをコードする新たなポリヌクレオチド配列を作製するための、そのようなドメインをコードするヌクレオチド配列の分子クローニングにより達成され得る。又は、キメラペプチドの創作は、二つ以上のタンパク質を化学的に接続することにより達成され得る。
【0030】
特に、本明細書において定義されるような「キメラペプチド」という用語は、構造A−B−C(ここで、Aは第一の検出可能標識を表し、Bはただ一つのcAMP結合部位を有しているcAMP結合モエティを表し、かつCは第二の検出可能標識を表す)を含み得る。例えば、cAMP結合モエティは、(PKAのような)cAMP依存性プロテインキナーゼの調節サブユニット(R)、グアニン・ヌクレオチド交換因子(例えば、EPAC)、大腸菌由来の異化遺伝子活性化タンパク質、cAMP依存性イオンチャンネル、環状ヌクレオチド依存性チャンネル(例えば、HCN)、神経障害標的エステラーゼ(NTE)、又はタマホコリカビ類のcAMP受容体であり得る。好ましくは、cAMP依存性プロテインキナーゼはPKAであり、グアニン・ヌクレオチド交換因子はEPAC1又はEPAC2であり、環状ヌクレオチド依存性チャンネルはHCN2(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性K+チャンネル(hyperpolirization-activated,cyclic nucleotide-gated K+ channel))であり、異化遺伝子活性化タンパク質は大腸菌由来であり、cAMP依存性イオンチャンネルはヒト由来であり、神経障害標的エステラーゼ(NTE)はヒト由来であり、cAMP受容体はタマホコリカビ類由来である。PKAの場合、PKAIアルファAもしくはB;PKAIベータAもしくはB;PKAIIアルファAもしくはB;又はPKAIIベータAもしくはBの調節サブユニットが使用され得る。さらに好ましくは、PKA、EPAC1、又はEPAC2は、ヒト、マウス、又はラット起源のものである。
【0031】
本明細書において使用されるようなcAMP結合モエティ又はドメインとは、以下の図面に例証されるような、単一のcAMP結合部位(カセット)のみ、又は単一のcAMP結合部位(カセット)及びアルファヘリックスのような付加的な隣接配列のいずれかを含有しているcAMP結合ドメイン/モエティをさす。本明細書において使用されるようなcAMP結合モエティは、好ましくは、配列表の以下の配列に示されるアミノ酸配列に相当する:EPAC2(ドメインB)のアミノ酸残基281-445、もしくは好ましくは284-443(配列番号:3)、EPAC1のアミノ酸残基203-323、もしくは好ましくは157-316(配列番号:2)、PKAの調節IIベータ・サブユニットのアミノ酸残基274-416、もしくは好ましくは255-416、もしくは好ましくは264-416(配列番号:1)、環状依存性カリウム・チャンネル2のアミノ酸残基544-661(配列番号:4)、カタボライト遺伝子活性化タンパク質のアミノ酸残基12-98(配列番号:6)、神経障害標的エステラーゼのアミノ酸残基473-568(配列番号:7)、環状ヌクレオチド依存性カチオン・チャンネル4(CNG)のアミノ酸残基628-767(配列番号:5)、又は過分極活性化環状ヌクレオチド依存性K+チャンネル2のアミノ酸残基467-638、もしくは497-638、もしくは523-638、もしくは517-625(HCN2;配列番号:72)。
【0032】
本明細書において使用されるようなcAMP結合部位は、当業者によって容易に推定され得、好ましくは、EPAC2のアミノ酸残基403-417(NP 062662)、EPAC1のアミノ酸残基258-285、好ましくは268-281(O95398)、PKAの調節IIベータ・サブユニットのアミノ酸残基348-362(P12369)、環状依存性カリウム・チャンネル2のアミノ酸残基607-621(Q9UL51)、カタボライト遺伝子活性化タンパク質のアミノ酸残基71-86(AAN82570)、神経障害標的エステラーゼのアミノ酸残基649-663(AAH50553)、又はHCN2のアミノ酸残基580-593(NP_032252)に相当する。対応する好ましい本発明の構築物/キメラペプチドは、添付の図1又は図11に例示的な例として提供される。図1に示されるような構築物は、配列番号:8〜20にも提供される。(HCN2のcAMP結合モエティ/ドメインを含む例示的な例に関する)図11に提供されるような構築物は、コーディング配列(配列番号:66、68、及び70)並びに配列番号:67、69、及び71に示されるそれらの対応するアミノ酸配列によっても提供される。(マウス)HCN2ポリペプチドは配列番号:74に定義される。当業者は、本明細書に与えられた情報から(ただ一つのcAMP結合側を有している)cAMP結合ドメインを容易に推定することができる。従って、本発明の意味におけるcAMP結合ドメインは、(とりわけ配列番号:26によりコードされる配列番号:27に示されたような)EPAC1のアミノ酸ストレッチL219-F300;(とりわけ配列番号:28によりコードされる配列番号:29に示されたような)Epac2のアミノ酸ストレッチL354-F435;(とりわけ配列番号:30によりコードされる配列番号:31に示されたような)PKAのアミノ酸ストレッチI290-F379;又は(とりわけ配列番号:32によりコードされる配列番号:33に示されたような)HCN2のアミノ酸ストレッチL533-I636を含み得る。対応するcAMP結合モエティは、添付の図1及び14にもさらに例示される。さらに、添付の図1及び11にも概略的に例示された本発明に係るcAMP結合ドメインは、配列番号:8〜20のような本明細書に添付の配列、又は配列番号:39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、及び73に示されるようなアミノ酸配列にも含まれる。特に好ましい本発明のキメラ構築物は、cAMP結合モエティが以下からなる群より選択される構築物である:
(a)配列番号:1〜7及び74に示されるような(含まれるような)ポリペプチドのcAMP結合モエティ;
(b)配列番号:27、29、31、33、34、35、36、及び37のいずれかに示されるような、又はそれらに含まれるようなcAMP結合モエティ;
(c)配列番号:8〜20のいずれかに含まれるようなcAMP結合モエティ;
(d)配列番号:39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、及び73のいずれかに含まれるようなcAMP結合モエティ;並びに
(e)本明細書において定義されたようなcAMP結合モエティ又は(a)〜(d)のcAMP結合モエティと少なくとも70%、80%、90%、又は95%同一であるcAMP結合モエティ。
【0033】
本発明のキメラペプチドは、好ましくは、以下からなる群より選択される:
(a)配列番号:38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、70、及び72のいずれかに示されるような核酸分子によりコードされるようなキメラペプチド;
(b)配列番号:39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65(配列番号:73に相当)、67、69、71、及び73のいずれかに示されるようなアミノ酸配列を含むキメラペプチド;
(c)(a)又は(b)において定義されたようなポリペプチドと少なくとも70%同一であり、かつインビトロ及び/又はインビボでのcAMP濃度の直接決定のために使用され得るポリペプチドをコードする核酸分子によりコードされるキメラペプチド;並びに
(d)(a)及び(c)において定義されたようなDNA配列と縮重している核酸分子によりコードされるキメラペプチド。
【0034】
図1及び11に示されるような本発明の例示的な例証されたキメラペプチド/構築物は、添付の配列プロトコルにも示される。従って、配列番号:8は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E285-E443)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:9は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E292-E443)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:10は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸M304-E443)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:11は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸M310-E443)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:12は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E285-Q454)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:13は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E285-E460)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:16は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(膜アンカーも含む;アミノ酸E285-E443;配列番号:57も参照のこと)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:17は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC1に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E157-E316)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:18は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、PKA(RIIベータ)に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸M264-A416、HA;配列番号:63も参照のこと)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:19は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、PKA(RIIベータ)に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸M264-A403、HAなし;配列番号:59も参照のこと)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:39は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC1に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E157-E316)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:41は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E285-E443;配列番号:8も参照のこと)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:43は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E292-E443;配列番号:9も参照のこと)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:45は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E304-E443;配列番号:10も参照のこと)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:47は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸M310-E443;配列番号:11も参照のこと)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:49は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E285-Q454;配列番号:12も参照のこと)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:51は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、EPAC2に由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸E285-E460;配列番号:13も参照のこと)を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:61は、ただ一つのcAMP結合部位を含み、PKAに由来するcAMP結合モエティ(アミノ酸V255-A416及び赤血球凝集素抗原(HA))を含む本発明に係るキメラ構築物に関する。配列番号:14、15、20、53、55、65(73と同一)は、検出可能標識のうちの一つが、ただ一つのcAMP結合部位を有しているcAMP結合モエティ/ドメインのカルボキシ末端とアミノ末端との間に位置する、本発明に係る構築物である。該構築物は、カルボキシ末端にcAMP結合部位を含まないcAMP結合モエティ/ドメインのアミノ酸残基をさらに含む(図1も参照のこと)。従って、本発明のキメラ構築物は、少なくとも二つの検出可能標識のうちの一つが該cAMP結合ドメイン/モエティ内に介在している/挿入されている構築物も含む。非制限的な例は、配列番号:14、15、20、53、55、及び65(73と同一)に示される、前述の構築物である。従って、配列番号:14及び53は、E285-I388−(検出可能標識;EYFP)−G390-E443−(検出可能標識;ECFP)というフォーマットでただ一つのcAMP結合部位を有するEPAC2 cAMP結合ドメイン/モエティを含む構築物を記載する。配列番号:15及び55は、E285-I388−(検出可能標識;EYFP)−G390-E460−(検出可能標識;ECFP)というフォーマットでただ一つのcAMP結合部位を有するEPAC2 cAMP結合ドメイン/モエティを含む構築物を記載する。配列番号:20は、M264-I331−(検出可能標識;EYFP)−G333-E403−(検出可能標識;ECFP)というフォーマットでただ一つのcAMP結合部位を有するPKA cAMP結合ドメイン/モエティを含む構築物を記載する。配列番号:65及び73は、V255-I331−(検出可能標識;EYFP)−G333-E403−(検出可能標識;ECFP)というフォーマットでただ一つのcAMP結合部位を有するPKA cAMP結合ドメイン/モエティを含む構築物を記載する。
【0035】
前述の部分/カセットA、B、及びCの間の融合は、必ずしも直接的である必要はなく、リンカー配列によってなされてもよい。従って、キメラペプチドは、A-D-B-C、A-B-E-C、又はA-D-B-E-C(ここで、D及びEは、検出可能標識とcAMP結合モエティとの間に位置するリンカーを表す)という構造も有し得る。本明細書において使用されるような「リンカー」又は「リンカー配列」という用語は、本発明のキメラペプチドの構築において使用されるポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列をさす。リンカー領域の機能は、ヌクレオチド配列へのクローニング部位の導入、二つのタンパク質ドメイン間への可動性成分もしくは空間創作領域の導入、又は特異的な分子相互作用のためのアフィニティ・タグの創作を含み得る。なされた選択に起因するリンカー領域は、ポリペプチド又はヌクレオチドの配列の構築の間にキメラペプチドに導入され得る。本明細書において使用されるようなリンカーは、1、2、3、4、5、10、15、30、又は50アミノ酸残基長であり得、リンカー配列D及びEは、同じ長さを有していてもよいし、又は有していなくてもよい。好ましくは、短いリンカーは、1、2、3、4、又は5アミノ酸残基からなる。本明細書において使用されるようなキメラペプチドは、本発明のポリペプチドの特徴を改良するために操作されてもよい。例えば、宿主細胞らの精製の間の安定性及び持続性、又はその後の取り扱い及び保管を改良するために、付加的なアミノ酸、特に電荷を有するアミノ酸の領域が、キメラペプチドのN末端又はC末端に付加され得る。また、精製を容易にするためのペプチド・モエティがキメラペプチドに付加されてもよい。そのような領域は、ポリペプチドの最終調製より前に除去され得る。ポリペプチドの取り扱いを容易にするための「タグ」とも呼ばれるペプチド・モエティの付加は、当技術分野において周知のルーチンの技術である。本明細書において使用されるような「タグ」という用語は、タグを含有している本明細書において使用されるようなキメラペプチドの単離、精製、及び/又は検出を容易にするアミノ酸配列又はアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列をさす。多様なそのようなタグが、当業者に既知であり、本発明のキメラペプチド、方法、又は使用に適している。適当なタグには、HAペプチド、ポリヒスチジン・ペプチド、ビオチン/アビジン、flagタグ、又はその他の抗体エピトープ結合部位が含まれるが、これらに制限はされない。例えば、マーカー・アミノ酸配列は、とりわけ、市販されているpQEベクター(QIAGEN,Inc.,9259 Eton Avenue,Chatsworth,CA,91311)に提供されたタグのようなヘキサ−ヒスチジン・ペプチドであり得る。Gentz et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821-824(1989)に記載されているように、例えば、ヘキサ−ヒスチジンは、融合タンパク質の便利な精製を提供する。精製にとって有用なもう一つのペプチドタグ「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素タンパク質に由来するエピトープに相当する(Wilson et al.,Cell 37:767(1984)。又は、本発明のキメラペプチドは、免疫グロブリン(IgA、IgE、IgG、IgM)の定常ドメイン又はそれらの一部(CH1、CH2、CH3、又はそれらの任意の組み合わせ)と融合していてもよい。さらに、本明細書において使用されるようなキメラペプチドは、輸送シグナルに基づき、特定の細胞位置、即ち、細胞の特定のコンパートメントへとターゲティングされ得る。キメラペプチドは、細胞の細胞質において可溶性タンパク質として発現させられてもよいし、又は細胞膜、粗の膜調製物、リポソーム、並びにミセル、脂質単層、又は脂質二重層を含む人工膜のような、細胞の生物学的膜及び/又は人工膜へと挿入されてもよい。例えば、本明細書において定義されたようなキメラペプチドは、細胞膜、例えば、培養細胞の膜又は卵母細胞の膜に位置付けられ得る。キメラペプチドは、例えば、核位置配列、又はゴルジ装置、ミトコンドリア、小胞体、もしくは細胞骨格へとターゲティングする位置配列のようなシグナル配列又は位置シグナルを使用することにより、核、ミトコンドリア、小胞体、葉緑体等のような細胞の他の特定のコンパートメントへとターゲティングされてもよい。これらは、当技術分野において十分に記載されている。下に詳述されるように、本発明のキメラペプチドがトランスジェニック非ヒト動物において発現させられることも意図される。従って、該非ヒトトランスジェニック動物の細胞、組織、及び器官も、本発明のキメラペプチドを発現することができ、下に詳細に説明されるような薬物スクリーニングにおいて特に有用であり得る。
【0036】
本明細書において使用されるようなキメラペプチドは、当技術分野において既知の方法により組み換え的に作製され得る;とりわけ、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2001を参照のこと。さらに、本発明のキメラペプチドは、当技術分野において既知の技術を使用して化学的に合成されてもよい。
【0037】
本明細書において使用される全ての「及び/又は」という用語は、該用語により接続されたエレメントの「及び」、「又は」、全ての又は任意のその他の組み合わせの意味を含む。
【0038】
本明細書において使用されるような「膜」という用語は、天然に存在する膜にも人工膜にも関する。好ましくは、膜は脂質二重層からなる。上に指摘されたように、具体例は、細胞の原形質膜、小胞体、ミトコンドリア膜、ゴルジ小胞、リソソーム、ペルオキシソームのような細胞膜及び生体膜であるが、葉緑体又はその他の細胞小器官の膜並びに液胞のような植物細胞の細胞膜であってもよい。本発明のキメラペプチドが挿入される細胞膜又は生体膜は、動物細胞、最も好ましくは哺乳動物細胞の原形質膜であるが、カエル卵母細胞のような両生類細胞の原形質膜であってもよい。さらに、本明細書に記述されるように、粗の膜調製物又はリポソームのような膜調製物が、本発明のキメラペプチドが挿入される「膜」として認識される。
【0039】
本明細書において使用されるような「少なくとも二つの検出可能標識」という用語は、本発明のキメラペプチドが二つ、三つ、四つ、五つ、又はそれ以上の検出可能標識を含み得ることを意味するが、最も好ましいのは、二つの検出可能標識を含む構築物である。検出可能標識は、下に詳述され、特に、フルオロフォア及び生物発光物質を含み得る。しかしながら、添付の実施例の通り、最も好ましいのは、本発明のキメラペプチド一つに対し二つの検出可能標識である。
【0040】
本明細書において利用されるような「該標識は、に位置する」という用語は、標識がcAMP結合モエティのカルボキシ末端又はアミノ末端のいずれかに位置付けられることを意味する。既に示されたように、その融合は直接的であってもよいし、又は介在リンカーを介していてもよく、また、該少なくとも二つの検出可能標識のうちの少なくとも一つが、cAMP結合モエティ内に位置している(該cAMP結合モエティ内にインターカレートしている又は挿入されている)ことも、認識され、本明細書に示されている。対応する例は、とりわけ、配列番号:14(53も)、15(55も)、20、及び65(73も)に与えられ、図1に例示される。
【0041】
検出可能標識の挿入に関して、挿入は可変性であり得ることが、当業者には明白である。しかし、検出可能標識の挿入は、cAMP結合部位とのcAMPの結合に影響を与えることなく、cAMP結合モエティ内の天然に存在するアミノ酸の欠失/置換を引き起こし得ることに注意すべきである。
【0042】
本明細書において使用されるような「アミノ末端」又は「カルボキシ末端」という用語は、本発明のキメラペプチドのcAMP結合モエティの、又は(明示された場合には)本発明のキメラペプチドのアミノ末端及びカルボキシ末端をさす。
【0043】
本発明のキメラペプチドに導入される検出可能標識は、好ましくは、蛍光標識又は生物発光標識である。検出可能標識は、遺伝学的にコードされ操作された部位と特異的に結合する遺伝学的にコードされたフルオロフォア及び合成フルオロフォアも含む(フラッシュ(Flash)技術;とりわけ、Adams(2002),J.Am.Chem.Soc.124,6063-6076、又はGriffin(2000),Meth.Enzym.327,565-578を参照のこと)。
【0044】
本明細書に記述されるように、本発明の構築物は、インビトロ及び/又はインビボでのcAMP濃度の直接決定において特に有用である。従って、本発明のキメラペプチドの中に存在する検出部分/標識は、次に検出部分/検出可能標識により放射されるエネルギーの変化の指標となる、cAMP結合時の本発明のキメラペプチド内のコンフォメーション変化の検出を容易にする。従って、「cAMP濃度の直接決定」という用語は、本発明のキメラペプチドが、試料中のcAMPレベルを直接決定するために特に実行可能な単分子ツールを提供するという事実に関する。例えば、上で定義されたようなキメラペプチドを試料へと添加し、FRET又はBRETの測定及び/又は記録により、蛍光放射の値を明確な濃度のcAMPで入手された標準曲線と比較することにより、試料中のcAMP濃度を測定することができる。本発明において提供される「キメラ指示薬」は、例えば、cAMP、その生理学的役割、並びに空間時間的調節の研究に広範に適用され得る。
【0045】
本明細書において使用されるような「直接決定」という用語は、cAMPが本発明のキメラタンパク質のcAMP結合部位と直接結合し、次いで、それが検出可能なシグナルを生じることを示す。従って、先行技術とは対照的に、補助的なタンパク質、抗体、標識、トレーサー等のようなさらなるツールの必要なしに、インビボでcAMPを検出するか、又はインビトロでcAMP濃度を決定するために、ただ一つのタンパク質が必要とされる。これに関して、先行技術のcAMPセンサーは、二つのタンパク質間の/二つのタンパク質のcAMP依存性の相互作用に頼っていることに注意すべきである。
【0046】
本明細書において定義されるような試料は、例えば、細胞、細胞溶解物、粗の細胞抽出物、膜調製物、組織、又は生物学的液体であり得る。本明細書において使用されるような生物学的液体は、好ましくは、精液、リンパ液、血清、血漿、尿、滑液、又は髄液のような体液をさす。
【0047】
さらに、本発明のキメラペプチドは、生存している細胞又は組織におけるcAMPの量、分布、位置、又は変動を空間的かつ時間的にモニタリングするために使用され得る。例えば、細胞又は組織を本発明の核酸又はベクターによりトランスフェクト又は形質転換し、生存している細胞又は組織におけるFRET又はBRETを測定/記録することができる。
【0048】
本発明のキメラペプチドの一つの態様において、これらの検出標識は、分裂した蛍光タンパク質の部分である。好ましくは、分裂蛍光部分は、分裂緑色蛍光タンパク質(分裂GFP)である。本願の全体を通して使用されるような「緑色蛍光タンパク質」又は「GFP」という用語は、オワンクラゲ(Aequorea victoria)からPrasher(Gene 111(1992),229-233)により最初にクローニングされたGFP、及びGFP活性を示すそれらの変異体をさす。「GFP活性」という用語は、GFPの既知の特性、即ち、適当な光により励起された際の蛍光放射、三次構造への折り畳み及び発色団の形成を含む自己触媒的な成熟の能力、並びに蛍光及び自己触媒的な成熟を実施するための補助因子又は代謝エネルギー供給の非依存性をさす。これらの特性は、当技術分野において周知であり、例えば、Tsien(Ann.Rev.Biochem.67(1998),509-544)により概説されている。本発明の目的のため、特記しない限り、GFP変異体の任意の検出可能な放射波長が、本発明のキメラペプチドを適用するのに有用であり得る。先行技術において、改良された蛍光効率、並びに/又はシフトした励起及び/もしくは放射の波長の効果を有する、特定のアミノ酸残基が置換された多くのGFP変異体が記載されている(例えば、Heim,Methods Enzymol.302(1999),408-423;Heikal et al.,PNAS 97(2000),11996-12001を参照のこと)。特に、69位のグルタミンのメチオニンへの変異は、eYFPの固有pH及びハロゲン化物感受性を低下させ得る(Griesbeck et al.,J.Biol.Chem.(2001)276,29188-29194)。従って、eYFP又は実質的に同じ励起及び放射のスペクトルを有しているそれらの誘導体が、本発明の融合タンパク質の一つの検出部分として使用される場合、eYFP又はその誘導体は、この変異を示すことが好ましい。さらに、添付の実施例に示されるように、YFPも本発明に従い有用である。本発明を適用するのに有用なGFP変異体の例には、(増強された)黄色蛍光タンパク質((e)YFP)、(増強された)シアン蛍光タンパク質((e)CFP)、(増強された)青色蛍光タンパク質((e)BFP)、(増強された)緑色蛍光タンパク質((e)GFP)、DsRED、シトリン(Citrine)、及びサファイア(Sapphire)が含まれる。蛍光活性を示す限り、任意のGFP変異体又はGFPの機能性アナログが、本発明の範囲内で使用され得る。好ましくは、そのようなGFPバリアント/変異体は、野生型GFPをコードするヌクレオチド配列と、又は配列番号:23及び24に示される配列としてのバリアント/変異体をコードするポリヌクレオチドと、好ましくはストリンジェントな条件の下でハイブリダイズする核酸分子によりコードされる。配列番号:21及び22に示されるような配列としてのポリペプチド配列を示すこれらのGFPバリアント/変異体は、本発明において利用される最も好ましいGFPバリアント、即ち、増強されたシアン蛍光タンパク質(eCFP)及び黄色蛍光タンパク質(YFP)に関する。変異GFPをコードする好ましいハイブリダイジング・ヌクレオチド配列のための適当な好ましいハイブリダイゼーション条件及び配列同一性の値を、以下に記述する。
【0049】
これに関して、「ハイブリダイゼーション」という用語は、従来のハイブリダイゼーション条件の下でのハイブリダイゼーションを意味する。それらは、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(前記)に記載されたような低ストリンジェント、好ましくはストリンジェント(即ち、高ストリンジェント)のハイブリダイゼーション条件であり得る。特に好ましい態様において、「ハイブリダイゼーション」という用語は、50%ホルムアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%デキストラン硫酸、及び20μg/ml変性剪断サケ精子DNAを含む溶液における42℃における一夜のインキュベーション、それに続く約65℃における0.1×SSCでのフィルターの洗浄をさす「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の下でハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0050】
「分裂蛍光タンパク質」という用語は、アミノ酸配列が二つの部分へ分割されており、これらの部分の二次的な空間的な接続によって、分裂蛍光タンパク質が、適当な波長の光により励起された場合に蛍光を放射することができる三次元構造をとるようになるような蛍光タンパク質をさす。例えば、分裂蛍光タンパク質は、Baird(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96(1999),11241-11246)により記載されたような分裂GFPであることが企図される。当業者は、先行技術の教示に従って、本発明のキメラペプチドに融合させるため、GFPを二つの分裂GFP部分へと分割することが可能である。GFP以外のその蛍光タンパク質、例えば、後述のものが、本明細書に記載された分裂GFPと同様に二つの検出部分を構成するよう分裂し得ることが、さらに想像できる。
【0051】
本発明のもう一つの態様において、第一の検出標識がエネルギーを放射するタンパク質部分であり、かつ第二の検出部分が蛍光タンパク質標識であるか、又はその逆である。この態様に関して、第一の検出部分が本明細書において定義された他の部分に対してキメラペプチドのどの部分に位置しているか、即ち、該検出標識が、直接又は上に示されたようなリンカーを介して融合した本発明のキメラペプチドのcAMP結合モエティのN末端に位置するか又はC末端に位置するか、は重要でない。前記のように、検出標識のうちの一つが、本明細書に記載されるようなcAMP結合ドメイン/モエティの内部に置かれてもよい;例えば、図1に与えられた例、又はとりわけ配列番号:14、15、もしくは20に提供されたような配列を参照のこと。「エネルギーを放射するタンパク質部分」という用語は、(i)適当な形態のエネルギーを取り込み、かつ(ii)共鳴エネルギー転移(RET)により、このエネルギーの少なくとも一部を、蛍光タンパク質部分である第二の検出標識に伝達し、それにより、エネルギーを放射するようそれを励起することができる、放射エネルギーの放射が可能なタンパク質をさす。エネルギー取り込みの形態は、当業者にとって認識可能な任意のものであり得、例えば、化学反応(化学発光もしくは生物発光)又は放射線(蛍光もしくは燐光)の吸収を含み得る。
【0052】
「蛍光タンパク質部分」という用語は、蛍光を発することができる、即ち、ある波長の放射線、例えば、紫外光又は可視光からエネルギーを吸収し、かつこのエネルギー又はその一部を放射線により放射することができるタンパク質をさす(放射された放射線は、励起放射線より高い波長を有している)。上述のようなGFP、又は花虫綱(Anthozoa)の非生物発光生物に由来する蛍光タンパク質(WO00/34318、WO00/34319、WO00/34320、WO00/34321、WO00/34322、WO00/34323、WO00/34324、WO00/34325、WO00/34326、WO00/34526)、又はフォトバクテリウム・ホスホレウム(Photobacterium phosphoreum)に由来する蛍光タンパク質bmFP(Karatani,Photochem.Photobiol.71(2000),230)のような本発明に関して有用であるかもしれない蛍光タンパク質の例は、多数、文献に記載されている。しかしながら、蛍光タンパク質は、添付の実施例において利用されるようなYFP及びeCFPであることが好ましい。
【0053】
「共鳴エネルギー転移」(RET)という用語とは、上に示されたようなドナー(第一の検出部分)からアクセプター分子(第二の検出部分)への励起エネルギーの非放射転移をさす(Heyduk T. FRET/LRET によるタンパク質コンフォメーション変化の測定(Measuring protein conformational changes by FRET/LRET.) Curr Opin Biotechnol.2002 Aug;13(4):292-6.Review;Truong K,Ikura M. インビボでのタンパク質間相互作用及びタンパク質コンフォメーション変化を検出するためのFRETイメージング顕微鏡検の使用(The use of FRET imaging microscopy to detect protein-protein interactions and protein conformational changes in vivo.) Curr Opin Struct Biol.2001 Oct;11(5):573-8.Review;Issad T,Boute N,Boubekeur S,Lacasa D,Pernet K.インスリン・ピルを探している?BRET法を使用せよ!(Looking for an insulin pill? Use the BRET methodology!) Diabetes Metab.2003 Apr;29(2 Pt 1):111-7;Boute N,Jockers R,Issad T. ハイスループット・スクリーニングにおける蛍光エネルギー転移の使用 : BRET対FRET (The use of resonance energy transfer in high-throughput screening:BRET versus FRET.) Trends Pharmacol Sci.2002 Aug;23(8):351-4.Review)。
【0054】
さらに、FRET又はBRETは、以下の図面及び実施例に示されるようにして決定され得る。
【0055】
本発明のキメラペプチドの好ましい態様において、cAMP結合モエティのcAMP結合部位は高い親和性でcAMPと結合する。好ましくは、cAMP結合モエティのcAMP結合部位は、1nM〜50μMの範囲、より好ましくは1nM〜50μMの範囲、より好ましくは5nM〜40μMの範囲、より好ましくは100nM〜30μMの範囲、より好ましくは200nM〜20μMの範囲のKdでcAMPと結合する。実施例に示されるように、これに関して好ましい範囲は、例えば、5nM〜5μMであり、100nM〜25μMも好ましい。これに関して特に好ましい範囲は、100nM〜50μMである。図13に示されるように、最も具体的な好ましい範囲は、10nM〜50μMであり、最も具体的な好ましい範囲は10nM〜3μMである。
【0056】
本発明のキメラペプチドのもう一つの好ましい態様において、cAMP結合モエティは、cAMP依存性プロテインキナーゼの調節サブユニット(R)、グアニン・ヌクレオチド交換因子、異化遺伝子活性化タンパク質、cAMP依存性イオンチャンネル、環状ヌクレオチド依存性イオンチャンネル、神経障害標的エステラーゼ(NTE)、及びタマホコリカビ類のcAMP受容体からなる群より選択される。
【0057】
cAMP結合タンパク質のファミリーには、既知の機能を有するタンパク質をコードする10を超えるタンパク質配列、及び可能性のある環状ヌクレオチド結合部位のデータベース探索に由来するいくつかの配列が含まれる(Dremier S,Kopperud R,Doskeland SO,Dumont JE,Maenhaut C. 新たな環状AMP結合タンパク質の検索(Search for new cyclic AMP-binding proteins)FEBS Lett.2003 July 3;546(1):103-7)。EPAC1がクローニングされ特徴決定された1998年までは(de Rooij J,Zwartkruis FJ,Verheijen MH,Cool RH,Nijman SM,Wittinghofer A,Bos JL.Epac is a Rap1 guanine-nucleotide-exchange factor directly activated by cyclic AMP.Nature.1998 Dec 3;396(6710):474-7)、プロテインキナーゼA(PKA)が、細胞内の唯一のcAMP効果器として認められていた。現在知られている限り、いくつかのタンパク質、例えば、EPAC1及び2、環状ヌクレオチド依存性チャンネル(CNGC)、大腸菌のカタボライト遺伝子活性化タンパク質(CAP)、神経障害標的エステラーゼ(NTE)が、cAMPに結合し、細胞機能を調節する。可能性のあるcAMP結合活性を有するタンパク質をコードする多数の配列が同定されているが、それらの機能は不明なままである:マウス胚EST配列(AI595216)、KIAA0313ヒト配列(AB002311)、Im493605配列(Dremier S,Kopperud R,Doskeland SO,Dumont JE,Maenhaut C. 新たな環状AMP結合タンパク質の検索(Search for new cyclic AMP-binding proteins)FEBS Lett.2003 Jul 3;546(1):103-7))。当業者に明白であるように、これらの配列も、本発明のキメラペプチドの構築のために使用され得る。
【0058】
好ましくは、cAMP結合モエティは、PKA、EPAC1、EPAC2、大腸菌の異化遺伝子活性化タンパク質、HCN2(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性K+チャンネル2)のようなcAMP依存性イオンチャンネル、神経障害標的エステラーゼ(NTE)、及びタマホコリカビ類のcAMP受容体に由来する。PKA、EPAC1、又はEPAC2のcAMP結合モエティは、好ましくは、細菌、マウス、ラット、又はヒト起源のものである。
【0059】
本発明のキメラペプチドのもう一つの好ましい態様において、検出可能標識は、蛍光標識、生物発光標識、又はスピン標識(Jahnke W. NMR分光法によりタンパク質−リガンド相互作用を同定し特徴決定するためのツールとしてのスピン標識(Spin labels as a tool to identify and characterize protein-ligand interactions by NMR spectroscopy)Chembiochem.2002 Mar 1;3(2-3):167-73.Review)である。好ましくは、該蛍光標識は、GFP、YFP、CFP、BFP、シトリン、サファイア、及びdsRedからなる群より選択される。生物発光標識は、好ましくは、ウミシイタケ・ルシフェラーゼ又はホタル・ルシフェラーゼのようなルシフェラーゼである。
【0060】
前記のように、本発明のキメラペプチドの最も好ましい態様において、cAMP結合モエティは、以下の群より選択される。また、これらの構築物は、本明細書に提供される方法において特に有用であり、下記のキットに含まれ得る。好ましい構築物は、以下からなる群より選択されるcAMP結合モエティを含む:
(a)配列番号:1〜7及び74に示されるようなポリペプチドのcAMP結合モエティ;
(f)配列番号:27、29、31、33、34、35、36、及び37のいずれか1つに示されるような、又はそれらに含まれるようなcAMP結合モエティ;
(g)配列番号:8〜20のいずれか1つに含まれるようなcAMP結合モエティ;
(h)配列番号:39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、及び73のいずれかに含まれるようなcAMP結合モエティ;並びに
(i)請求項1〜8のいずれか一項において定義されたようなcAMP結合モエティ又は(a)〜(d)のcAMP結合モエティと少なくとも70%、80%、90%、又は95%同一であるcAMP結合モエティ。
【0061】
従って、特に好ましい本発明のキメラペプチドは、
(a)配列番号:38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、70、及び72のいずれかに示されるような核酸分子によりコードされるキメラペプチド;
(b)配列番号:39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、及び73のいずれかに示されるようなアミノ酸配列を含むキメラペプチド;
(c)(a)又は(b)において定義されたようなポリペプチドと少なくとも70%同一であり、かつインビトロ及び/又はインビボでのcAMP濃度の直接決定のために使用され得るポリペプチドをコードする核酸分子によりコードされるキメラペプチド;並びに
(d)(a)及び(c)において定義されたようなDNA配列と縮重している核酸分子によりコードされるキメラペプチド
より選択される。
【0062】
本発明は、上で定義されたキメラペプチドをコードする核酸分子にさらに関する。そのような核酸分子は、配列番号:38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、及び72に示されるようなDNA分子を含むが、これらに制限はされない。
【0063】
本明細書において使用されるような「核酸分子」という用語は、当技術分野において既知のDNA又はRNA又はそれら両方の組み合わせ又はそれらの任意の修飾を意味する(修飾の例に関しては、例えば、米国特許第5525711号、米国特許第4711955号、米国特許第5792608号、欧州特許第302175号を参照のこと)。そのような(一つ又は複数の)核酸分子は、一本鎖又は二本鎖、直鎖状又は環状であり、サイズ制限はない。本発明の核酸分子は、例えば、天然の起源から入手されてもよいし、又は合成的にもしくはPCRのような組換え技術により作製されてもよい。好ましい態様において、本発明の核酸分子は、DNA分子、特にゲノムDNAもしくはcDNA分子、又はRNA分子である。好ましくは、核酸分子は二本鎖DNAである。特定の本発明の核酸分子は、配列番号:8〜20に示されたポリペプチド配列、並びに配列番号:39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71及び73に示され、図1及び11に例示されたポリペプチド配列をコードする核酸分子である。
【0064】
それをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子は、組換え核酸分子、即ち、得られたキメラペプチドのように、予め接続されていない核酸分子又はそれらの一部を人工的に組み合わせるのに有用な技術により作製された核酸分子である。適当な技術は、例えば、Sambrook and Russell(2001),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,CSH Press and Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,Green Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.(1989)及びVilardaga(1995),Biotechniques 18,605-606に代表されるような先行技術より入手可能である。さらに、対応する技術は、添付の実施例に例示される。該技術は、特に、部位特異的変異誘発を含む。
【0065】
本発明のキメラペプチドの構築のため、配列番号:1〜7又は74に含まれるような、又は前掲のようなポリペプチド配列のcAMP結合モエティをコードするヌクレオチド配列と少なくとも70%、80%、90%、又は95%同一である、cAMP結合モエティをコードするポリヌクレオチド配列が使用され得る。本発明において記載された参照ヌクレオチド配列と少なくとも例えば95%「同一」のヌクレオチド配列を有している核酸とは、ヌクレオチド配列が、ポリペプチドをコードする参照ヌクレオチド配列の100ヌクレオチド当たり5個までの点変異を含み得ることを除き、核酸のヌクレオチド配列が参照配列と同一であることをさす。換言すると、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を有する核酸を入手するためには、参照配列内のヌクレオチドの最大5%が、欠失させられるか、もしくはもう一つのヌクレオチドと置換されてもよく、又は、参照配列内の全ヌクレオチドの最大5%の数のヌクレオチドが、参照配列へ挿入されてもよい。
【0066】
上で指摘されたように、当業者は、所定のアミノ酸配列又は所定のヌクレオチド配列から「cAMP結合モエティ/ドメイン」及び/又は「cAMP結合部位」を容易に推定することができる。対応する方法には、とりわけ、Dremier(2003)FEBS Letters 546,103-107;Rehmann(2003),Nat.Str.Biol.10,25-32、又はKawasaki(1998),Science 282,2275-2279に開示された方法が含まれる。従って、対応する方法には、単独のデータバンク検索、又は生物学的及び/もしくは生化学的アッセイ、例えば、制限酵素消化アッセイ(及びそれに続くインビボ及び/もしくはインビトロでの発現させられたタンパク質ストレッチ/断片のcAMPとの結合研究)、結合アッセイ、(例えば、標識されたcAMP、例えば放射性cAMPを用いた)競合アッセイ等と組み合わせられたデータバンク検索が含まれる。「cAMP結合部位」は、文献中、「PBC」又は「リン酸結合カセット」としても既知であることに注意すべきである。対応する「cAMP結合部位」は、類似の方法により推定され得、通常、アミノ酸残基の相当短いストレッチ(好ましくは、13〜15アミノ酸、主として14)を含み、通常「F」(フェニルアラニン)で始まり、「A」(アラニン)で終わる;図14又はRehmann(2003)(前記)も参照のこと。所定のアミノ酸配列の機能性部分の決定に関して好ましいコンピュータ・プログラムは、TBLASTNである;Dremier(2003)(前記)から既知であるようなアルゴリズムも参照のこと。
【0067】
「cAMP結合ドメイン/モエティ」及び/又は「cAMP結合部位」の決定と同様に、本発明において記載されたヌクレオチド配列又は又はアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、90%、又は95%同一の核酸分子及び/又はポリペプチドの同定も、既知のコンピュータ・プログラムを使用した従来の決定を含み得る。包括的配列アラインメントとも呼ばれる、クエリー配列(本発明の配列)と対象配列との間の最適な全体的なマッチを決定するための好ましい方法は、Brutlagら(Comp.App.Biosci.6:237-245(1990))のアルゴリズムに基づくFASTDBコンピュータ・プログラムを使用して決定され得る。配列アラインメントにおいて、クエリー配列及び対象配列は両方ともDNA配列である。RNA配列は、UをTに変換することにより比較され得る。該包括的配列アラインメントの結果は、同一率で表される。同一率を計算するためにDNA配列のFASTDBアラインメントにおいて使用される好ましいパラメータは、以下の通りである:マトリックス(Matrix)=ユニタリー(Unitary)、k-tuple=4、ミスマッチ・ペナルティ(Mismatch Penalty)=1、ジョイニング・ペナルティ(Joining Penalty)=30、ランダマイゼーショングループレングス(Randomization Group Length)=0、カットオフ・スコア(Cutoff Score)=1、ギャップペナルティ(Gap Penalty)=5、ギャップサイズペナルティ(Gap Size Penalty)0.05、ウィンドウサイズ(Window Size)=500又は対象ヌクレオチド配列の長さのいずれか短い方。
【0068】
上記の通り、本発明のキメラペプチドの生成のために、配列番号:1〜7又は74に示されたような、又は前掲のようなポリペプチドのcAMP結合モエティと少なくとも70%、80%、90%、又は95%同一であるcAMP結合モエティが使用され得る。特に好ましいのは、上に与えられたものであり、とりわけ、EPAC2のアミノ酸残基281-445(ドメインB)、EPAC1のアミノ酸残基203-323、PKAの調節IIベータ・サブユニットのアミノ酸残基274-416、環状依存性カリウム・チャンネル2のアミノ酸残基544-661、カタボライト遺伝子活性化タンパク質のアミノ酸残基12-98、神経障害標的エステラーゼのアミノ酸残基473-568、又は環状ヌクレオチド依存性カチオン・チャンネル4(CNG-4)のアミノ酸残基628-767を含む。
【0069】
本明細書において使用されるような「少なくとも70%」という用語は、70%又はそれ以上の配列同一率をさす。
【0070】
さらに、本発明は、上で定義されたような核酸分子を含むベクターに関する。
【0071】
本発明のベクターの好ましい態様において、該ベクターは発現ベクターである。
【0072】
本発明は、本発明の核酸分子又は発現カセットを含む、遺伝子工学において従来使用されているクローニング・ベクター及び発現ベクター、特に、プラスミド、コスミド、(アデノウイルス又はレトロウイルスのような)ウイルス、及びバクテリオファージにも関する。本発明の好ましい態様において、本発明のベクターは、真菌細胞、植物細胞、微生物(即ち、細菌、原生生物、酵母、藻類等)の細胞、又は動物細胞、特に哺乳動物細胞の形質転換に適している。好ましくは、そのようなベクターはヒト細胞の形質転換に適している。当業者に周知の方法が、組換えベクターを構築するために使用され得る;例えば、Sambrook and Russell(2001)(前記)に記載された技術を参照のこと。又は、ベクターは、本発明の核酸分子又は発現カセットが標的細胞への送達のため再構築され得るリポソームであってもよい。同様に、「ベクター」という用語は、ポリカチオン、カチオン・ペプチド等のような細胞への遺伝子導入を容易にすることが既知の化合物をさらに含む、そのような核酸分子又は発現カセットを含有している複合体をさす。本発明の核酸分子又は発現カセットに加え、ベクターは、適当な宿主細胞における適当な条件の下での該ベクターの選択を可能にするマーカー遺伝子のような遺伝子をさらに含有していてもよい。一般に、ベクターは、一つ以上の複製起点も含有している。有利には、ベクターに含有される核酸分子は、原核生物又は真核細胞における発現を可能にする、即ち、翻訳可能RNAの転写及び合成を保証する発現制御配列と機能的に連結される。
【0073】
一つの面において、原核生物又は真核細胞における本発明の核酸分子の発現は、本発明のキメラペプチドの産生を許容するため、興味深い。さらに、例えば、結合親和性又はエネルギー放射(例えば、RET)効率のような特性が修飾されているタンパク質の合成を引き起こすかもしれない、分子生物学における通常の方法(例えば、Sambrook and Russell(2001)(前記)を参照のこと)により、核酸分子へ異なる付加的な変異を挿入することが可能である。これに関して、コーディング配列の挿入もしくは欠失によりベクター内に存在する核酸分子を変異させること、又は対応するコドン三組みを交換することによりアミノ酸置換を導入することが可能である。例えば、原核細胞における遺伝子操作のため、本発明の核酸分子又はこれらの分子の一部が、DNA配列の組み換えにより、変異誘発又は配列修飾を許容するプラスミドへと導入され得る。標準的な方法(Sambrook and Russell(2001)(前記)参照)が、塩基交換の実施、又は天然もしくは合成の配列の付加を可能にする。同様に、真核細胞における発現のためには、pCDNA3のような対応する発現ベクターが利用され得る。DNA断片は、アダプタ及びリンカーを断片に適用することにより相互に接続され得る。さらに、適当な制限部位を提供するか、又は余分のDNAもしくは制限部位を除去する操作措置が使用され得る。挿入、欠失、又は置換が可能である場合には、インビトロ変異誘発、「プライマー修復」、制限、又はライゲーションが使用され得る。一般に、配列分析、制限分析、並びに生化学及び分子生物学のその他の方法が、分析法として実施される。本発明の核酸分子は、好ましくは、安定的な細胞系において発現される。安定的にトランスフェクトされた細胞系の選択のための手法は、当技術分野において既知である;とりわけ、Vilardaga(2001),JBC 276,33435-33443を参照のこと。好ましい宿主細胞は、CHO細胞、HEK293、Cos7、HeLa、PC12、もしくはNIH3T3細胞、又は初代心筋細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、もしくは胚性幹細胞のような初代細胞である。
【0074】
さらに、本発明は、上記の本発明の核酸分子、及び原核生物又は真核細胞における発現を可能にするそれと機能的に連結された制御配列を含む発現カセットに関する。適当な発現制御配列には、標的宿主生物又は宿主細胞において適用可能なプロモーターが含まれる。原核生物及び真核生物からの種々の宿主のためのそのようなプロモーターは、当業者に周知であり、文献に記載されている。例えば、そのようなプロモーターは、天然に存在する遺伝子から単離されてもよいし、又は合成もしくはキメラのプロモーターであってもよい。同様に、プロモーターは、標的ゲノムに既に存在するものであってもよく、例えば、相同的組み換えのような当技術分野において既知の適当な技術により核酸分子に連結されるであろう。発現制御配列及びそれらが由来し得る起源の具体例は、下記及び添付の実施例にさらに与えられる。本発明に係る発現カセットは、特に、ベクター又はゲノムDNAのような標的核酸分子へと容易に挿入されなければならない。この目的のため、発現カセットは、好ましくは、例えば、制限酵素認識部位又は例えばリコンビナーゼにより触媒されるような相同的組み換えのための標的配列のような、特定の配列位置からの除去及びそれらへの挿入を容易にするヌクレオチド配列を5'及び3'側に提供されている。
【0075】
本発明は、上に示されたようなベクター又は核酸分子により形質転換された宿主にも関する。
【0076】
本発明のもう一つの態様は、上記の本発明の核酸分子、発現カセット、又はベクターにより遺伝学的に操作された宿主細胞、特に、原核細胞又は真核細胞、及びそのような形質転換細胞の子孫であり、かつ本発明の核酸分子、発現カセット、又はベクターを含有している細胞、及びそれらを作製するための前述の方法により入手可能な細胞に関する。下で指摘されるように、本発明は、本発明のキメラペプチドをコードする核酸配列を含む非ヒト・トランスジェニック動物にも関する。好ましくは、宿主細胞は、細菌、真菌、昆虫、植物、又は動物の宿主細胞である。好ましい態様において、宿主細胞は、ゲノムに安定的に組み込まれた導入された核酸分子を含有するよう遺伝学的に操作される。より好ましくは、核酸分子は、本発明のキメラペプチドの産生を引き起こすよう発現させられ得る。異なる発現系の古典的概要は、例えば、Methods in Enzymology 153(1987),385-516、Bitterら(Methods in Enzymology 153(1987),516-544)、及びSawersら(Applied Microbiology and Biotechnology 46(1996),1-9)、Billman-Jacobe(Current Opinion in Biotechnology 7(1996),500-4)、Hockney(Trends in Biotechnology 12(1994),456-463)、Griffithsら(Methods in Molecular Biology 75(1997),427-440)に含有されている。酵母発現系の概要は、例えば、Hensingら(Antoine von Leuwenhoek 67(1995),261-279)、Bussineau(Developments in Biological Standardization 83(1994),13-19)、Gellissenら(Antoine van Leuwenhoek 62 (1992),79-93、Fleer(Current Opinion in Biotechnology 3(1992),486-496)、Vedvick(Current Opinion in Biotechnology 2(1991),742-745)、及びBuckholz(Bio/Technology 9(1991),1067-1072)により与えられている。特定の好ましい発現系には、Sf9細胞、大腸菌細胞、又はCHO細胞、HEK293、Cos7、HeLa、PC12、もしくはNIH3T3細胞のような哺乳動物細胞が含まれるが、これらに制限はされない。発現ベクターは、文献に広く記載されている。概して、それらは、選択マーカー遺伝子及び選択された宿主における複製を保証する複製起点のみならず、細菌又はウイルスのプロモーターも含有しており、そしてほとんどの場合、転写のための終結シグナルも含有している。プロモーターと終結シグナルとの間には、一般に、コーディング・ヌクレオチド配列の挿入を可能にする少なくとも一つの制限部位又はポリリンカーが存在する。遺伝子の構成性の発現を保証するプロモーター、及び遺伝子の発現の計画的な制御を許容する誘導可能プロモーターを使用することが可能である。これらの特性を保有している細菌及びウイルスのプロモーター配列は、文献に詳細に記載されている。微生物(例えば、大腸菌、S.セレビシエ(cerevisiae))における発現のための調節配列は、文献に十分に記載されている。下流配列の特に高度の発現を許容するプロモーターは、例えば、T7プロモーター(Studier et al.,Methods in Enzymology 185(1990),60-89)、lacUV5、trp、trp-lacUV5(DeBoer et al.,in Rodriguez and Chamberlin (Eds),Promoters,Structure and Function;Praeger,New York,(1982),462-481;DeBoer et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1983),21-25)、lp1、rac(Boros et al.,Gene 42(1986),97-100)である。好ましくは、誘導可能プロモーターが、タンパク質の合成のために使用される。これらのプロモーターは、しばしば、構成性プロモーターより高いタンパク質収率を引き起こす。最適量のタンパク質を入手するため、二段階法がしばしば使用される。まず、宿主細胞が、比較的高い細胞密度にまで最適条件下で培養される。第二工程では、使用されるプロモーターの型に依って転写が誘導される。これに関しては、乳糖又はIPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)により誘導され得るtacプロモーターが、特に適当である(deBoer et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80(1983),21-25)。哺乳動物細胞における適用に有用なSV40-ポリA部位又はtk-ポリA部位のような転写終結シグナルも、文献に記載されている。Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(Invitrogen;添付の実施例も参照のこと)、pSPORT1(GIBCO BRL)、又はpCI(Promega)のような適当な発現ベクターが、技術分野において既知である。本発明に係る核酸分子又はベクターによる宿主細胞の形質転換は、例えば、Sambrook and Russell(2001)(前記)に記載されたような標準的な方法により実施され得る。宿主細胞は、特に、pH値、温度、塩濃度、曝気、抗生物質、ビタミン、微量元素等に関する、使用される特定の宿主細胞の要件を満たす栄養培地において培養される。本発明に係るキメラペプチドは、硫酸アンモニウム又はエタノールによる沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィ、ホスホセルロース・クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、アフィニティ・クロマトグラフィ、ヒドロキシルアパタイト・クロマトグラフィ、及びレクチン・クロマトグラフィを含む方法により、組換え細胞培養物から回収され精製され得る。本発明のキメラペプチドが膜タンパク質として発現させられる場合、タンパク質はTritonX-100又はSDSのような界面活性剤を適用して精製され得る。タンパク質再折り畳み工程は、タンパク質の立体配置の完成において必要に応じて使用され得る。そのような精製されたキメラペプチドは、とりわけ、リポソーム、粗の膜調製物、又は脂質二重層のような人工生物学的膜へと再組立て及び/又は導入され得る。
【0077】
好ましくは、宿主は、哺乳動物細胞、両生類細胞、魚細胞、昆虫細胞、真菌細胞、植物細胞、もしくは細菌細胞、又はトランスジェニック非ヒト動物である。
【0078】
本発明は、非ヒト・トランスジェニック生物、即ち、少なくともその生物の細胞のサブセットにおいて、好ましくはゲノムに安定的に組み込まれた本発明のキメラペプチドをコードする核酸分子もしくは前記のような発現カセットもしくはベクターを含む多細胞生物、又は組織もしくは器官のようなその一部にさらに関する。最も好ましくは、そのような非ヒト・トランスジーンの起源は、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ラット、又はウマのような哺乳動物である。
【0079】
本発明のキメラペプチドを発現しているトランスジェニック動物は、薬理学的研究、本明細書に提供されるようなスクリーニング及び同定の方法において特に有用である。特にこれらの研究のため、該非ヒト・トランスジェニック動物の細胞のみならず、器官又は器官の一部も、特に有用であることに注意すべきである。本明細書に記載された非ヒト・トランスジェニック動物の、例えば、心臓、血管、筋肉、腺、骨、腎臓、もしくは肝臓、又は脳もしくは脳スライス培養物が、本明細書に提供されるスクリーニング及び同定の方法において利用されることが認識される。哺乳動物である非ヒト・トランスジェニック動物に加え、非ヒト・トランスジェニック生物は両生類、昆虫、真菌、又は植物であってもよいことも認識される。これに関して特定の好ましい非ヒト・トランスジェニック動物は、ショウジョウバエ(Drosphila)、線虫(C.elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus)、及びS.ポンベ(pombe)もしくはS.セレビシエ(cerevisiae)のような酵母、又はアスペルギルス(Aspergillus)種である。トランスジェニック植物には、コムギ、タバコ、パセリ、又はシロイヌナズナが含まれるが、これらに制限はされない。
【0080】
上述のように、特に添付の実施例において例示されるように、本明細書において定義されたキメラペプチドは、cAMPのキメラペプチドとの結合、又はアデニリルシクラーゼ及び/もしくはホスホジエステラーゼの生物学的及び/もしくは薬理学的作用を修飾することができる分子又は化合物のスクリーニング及び同定の方法において、特に有用である。実施例が示すように、Gsタンパク質共役型受容体のアゴニストとしてのアデノシンは、細胞におけるcAMPの上昇を誘導することができる。フォルスコリンのようなアデニリルシクラーゼの直接の活性化剤も、検出可能なFRETシグナルを生じる。
【0081】
より好ましくは、該哺乳動物細胞は、CHO細胞、HEK293、HeLa、Cos7、PC12、又はNIH3T3細胞、並びにニューロン培養物のような初代細胞培養物である。当業者には明白であるように、本発明のキメラペプチドを発現している初代細胞又はトランスジェニック動物も、該スクリーニング又は同定の方法のために利用され得る。
【0082】
本発明の宿主のもう一つの好ましい態様において、該両生類細胞は、卵母細胞、好ましくはアフリカツメガエル卵母細胞である。
【0083】
さらなる態様において、本発明は、上記の本発明の核酸分子、発現カセット、又はベクターにより細胞又は宿主を遺伝学的に操作することを含む、本発明のキメラペプチドを発現することができる細胞又は宿主を作製する方法に関する。
【0084】
さらに、本発明は、上述の宿主を培養/飼育することを含み、任意で、作製されたキメラペプチドを単離及び/又は精製することを含む、上で定義されたようなキメラペプチドを作製する方法に関する。
【0085】
さらに、本発明は、上記のようなそれらの作製のための方法により入手可能なキメラペプチドに関する。従って、本発明のさらなる態様は、キメラペプチドの発現を可能にする条件の下で上記宿主細胞を培養すること、及び宿主細胞又は宿主生物の膜から該キメラペプチドを回収することを含む、本発明のキメラペプチドを作製する方法に関する。キメラペプチドが宿主細胞の膜に局在している場合、タンパク質は界面活性剤処理によって培養細胞から回収され得る。
【0086】
さらに、本発明は、上で定義されたような又は記述された方法により入手可能なキメラペプチドを試料へ添加すること、及びFRET又はBRETを測定/記録すること、及び蛍光放射の値を、明確な濃度のcAMPで入手された標準曲線と比較することにより、試料中のcAMPの濃度を決定することを含む、試料中のcAMP濃度を決定するためのインビトロの方法に関する。
【0087】
上で既に説明されたように、本発明のキメラペプチドの中に存在する検出部分/標識は、FRET又はBRETによりモニタリングされ得る検出部分/検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を次に引き起こす、cAMP結合時の本発明のキメラペプチドのコンフォメーション変化の検出を容易にする。cAMP結合時のcAMP結合モエティのコンフォメーション変化は、検出部分/標識間のRETの検出可能な変化をもたらす。そのような変化は、例えば、適当な結合化合物、即ちcAMPの非存在下におけるcAMP結合モエティの放射スペクトルの、そのような化合物の存在下における同cAMP結合モエティとの比較から得られる。例えば、RETが増加した場合には、アクセプターの放射ピークが増加し、かつドナーの放射ピークが減少する。従って、アクセプターの放射強度とドナーの放射強度との比率が、検出部分間のRETの程度の指標となる。cAMP結合時のキメラペプチドのコンフォメーション変化は、検出部分間の距離の減少又は増加のいずれかをもたらし得る。従って、本発明のキメラペプチドは、試料中のcAMPレベルを直接決定するために特に実行可能な単分子ツールを提供する。例えば、上で定義されたようなキメラペプチドを試料に添加し、FRET又はBRETの測定及び/又は記録により、蛍光放射の値を明確な濃度のcAMPで入手された標準曲線と比較することにより、試料、例えば、細胞、細胞溶解物、粗の細胞抽出物、膜調製物、又は組織の中のcAMP濃度を測定することができる。インビトロでのcAMP測定の可能なアッセイを例証するため、細胞を、例えば、上記のようなCFP及びYFPを保持しているEPAC2に基づくキメラペプチドをコードしているプラスミドで一過性トランスフェクトすることができる。実施例に示されるように、トランスフェクションから24時間後に、細胞溶解物を調製し、異なるcAMP濃度の添加の後に放射スペクトルを得ることができる。475nmにおける強度の増加を伴う525nmにおける強度の減少は、CFPとYFPとの間のFRETシグナルの損失を表す。シグナル強度475nm/強度525nmとcAMP濃度との関係は、その後の異なる未知の試料中のcAMP濃度の正確な測定のため、飽和曲線にプロットされ得る。
【0088】
試料中のcAMP濃度の決定のために使用され得る別のインビトロ・アッセイにおいては、例えば、本発明のHisタグ化EPAC-cAMP FRETセンサーが、Sf9細胞又は大腸菌細胞において発現させられる。その後、タンパク質が適当な精製法により、例えば、ニッケル・カラムを使用することにより単離される。以下において、特定の濃度の本発明のキメラペプチドを含有している明確な容量の緩衝溶液が、明確な容量の試料に添加される。試料のFRETの変化が、例えば96穴リーダーのようなFRET検出に適している光度計の使用により検出される。同時に、明確な量のcAMPが添加された試料の一定分量を使用することにより、校正曲線がモニタリングされる。FRETを低下させる本発明のキメラペプチドとのcAMPの結合により引き起こされるFRETの変化が、モニタリングされる。
【0089】
上記の通り、本明細書において定義されるような試料は、例えば、細胞、細胞溶解物、粗の細胞抽出物、膜調製物、組織、又は生物学的液体であり得る。本明細書において使用されるような生物学的液体は、好ましくは、精液、リンパ液、血清、血漿、尿、滑液、又は髄液のような体液をさす。
【0090】
本発明のキメラペプチドを使用した上記のアッセイは、様々な利点を示す。例えば、該アッセイは、様々な起源に由来する試料に対して高感度である。蛍光は産業の標準に従い検出される。さらに、検出の速度が極めて高く、即ち、一般的なラジオ・イムノアッセイ(RIA)では>1時間であるのに対し、<10分である。さらに、上記のアッセイは、ATPと比較してcAMPに対して高い選択性を示すが、これは多くのRIAアッセイには当てはまらない。さらに、それは費用効果が高く、そしてFRETセンサーはSF9/大腸菌における発現により大規模に作製され得るが、これは抗体には当てはまらない。さらに、上記のアッセイは、HTSに適用可能である。最後に、フルオロフォアをルシフェラーゼに交換した場合、上記のアッセイはBRETに適応し得る。
【0091】
当業者には明白であるように、本発明のキメラペプチドは、化学的蛍光標識を使用することによってもインビトロで標識され得る。
【0092】
本発明は、本発明の核酸又はベクターにより細胞又は組織を形質転換すること、並びに生存している細胞もしくは組織、及び生存している(非ヒト)トランスジェニック動物においてFRET又はBRETを測定/記録することを含む、生存している細胞又は組織におけるcAMPの量、分布、位置、又は変動を空間的かつ時間的にモニタリングするための方法にも関する。
【0093】
本発明のキメラペプチドを使用することによりFRET変化を測定することにより、高い空間的かつ時間的な(即ち、ミリ秒時間)分解能で、単細胞におけるcAMP濃度変化をモニタリングすることが可能である。この新たな方法論は、cAMPシグナリングの時間的かつ組織分布的なマッピングに特徴的に適しており、この形質導入系の新たな局面を解明し、さらに、cAMP生化学の微細な詳細をインビボで描写する可能性を有している。
【0094】
さらに、本発明のキメラペプチドは、cAMPシグナリング経路が三次元の細胞マトリックス内で如何にして組織化され調節されているかを調査するため、その時間的動力学を分析するため、そして様々な細胞型において生理病理学的状態において遂行される適応/改変のメカニズムを描写するため、利用され得る。例えば、心筋細胞のような、cAMPが重大な役割を果たしている細胞型を分析することが可能である。新生児の心筋細胞において、β-アドレナリン受容体刺激が、ホスホジエステラーゼの活性により維持される、高いcAMPの局所的なミクロドメインを生じることが最近示された(Zaccolo M,Pozzan T. 刺激されたラット新生仔心筋細胞における高濃度のcAMPを含む不連続なミクロドメイン(Discrete microdomains with high concentration of cAMP in stimulated rat neonatal cardiac myocytes)Science.2002 Mar 1;295(5560):1711-5)。本発明のキメラペプチドは、cAMPの動力学、7回膜貫通型受容体、アデニリルシクラーゼ、又はホスホジエステラーゼの活性化の空間時間的動力学、及びそれらに関与する調節メカニズムに関する詳細な情報を得るため、そのような分析を拡張するために使用され得る。その後、cAMPシグナリングの可能性のある役割が示唆された病理学的条件が分析され得る。該疾患条件には、糖尿病、心肥大、心不全、又は高血圧が含まれるが、これらに制限はされない。さらに、既に上に示されたように、cAMPシグナリングが学習、記憶、及び免疫応答に関与していることがよく記載されている。さらに、cAMP経路が増殖制御において重大な役割を果たしていることは広く受け入れられるが、cAMPにより影響を受ける特定の分子的イベントをインビボで追跡することが困難であるために、cAMP依存性細胞周期調節の分子的な詳細は、未だ不十分にしか理解されていない。従って、本発明のキメラペプチドは、細胞周期制御及び細胞増殖におけるcAMPシグナリング経路の役割を研究するために、原核生物又は真核生物、好ましくは哺乳動物の細胞において、FRET/BRETに基づくcAMPのモニタリングのため使用され得る。例えば、本発明のキメラペプチドを発現する安定的な哺乳動物細胞系クローンを確立し、同期化された細胞の細胞周期の間のcAMP動力学をモニタリングすることによりcAMP変化を測定することができる。その後、同じ型の分析が、攪乱されていない単細胞に拡張され得る。本発明のキメラペプチドは、本発明のキメラペプチドを発現するトランスジェニック動物の組織、例えば器官における、cAMPの量、分布、位置、又は変動を空間的かつ時間的にモニタリングするためにも使用され得る。例えば、その器官の器官形成又は疾患の病原におけるcAMPシグナリングを研究するため、組織特異的プロモーターを使用することにより、トランスジェニック動物の特定の組織又は器官においてキメラペプチドが発現させられ得る。当然、これらは、本発明の態様を制限しない非制限的な例に過ぎない。従って、本発明のキメラペプチドは、ミリ秒時間分解能を有する、光度計を使用した、生存している細胞、組織、及びトランスジェニック動物における細胞内cAMP濃度の検出に特に適しているcAMPセンサーを提供する。該アッセイは、当技術分野において記載されているPKA-FRETアッセイ(Zaccolo et al.(前記))と比較して、様々な利点を示す。従来、生存している細胞における適用に適しているのは、PKA-FRETアッセイのみであった。PKA-FRETアッセイは、4個のcAMP分子の結合を介して活性化されるプロテインキナーゼAの二つのサブユニット間のFRETの検出に基づく。4個の結合部位全てが協力的に調節されるため、その結合メカニズムは極めて複雑である。従って、本発明者らは、分子内FRET系としてただ一つのcAMP結合部位を含有しているキメラペプチドを使用する。基本的に、上述の二つの型のアッセイの取り扱い及び適用には、本発明の方法の方が有利であるような相違が存在する。cAMP結合ドメイン以外のタンパク質の調節ドメインが欠失しているため、本発明のキメラペプチドは生物学的に不活性である。従って、本発明のセンサーは、問題を引き起こすことなく、例えば、細胞生物学又は細胞生理学に干渉することなく、全ての細胞において発現させられ得る。従って、安定的な細胞系及びトランスジェニック生物を作製することが可能である。さらに、当技術分野において記載されているPKA-FRET法とは対照的に、cAMPの産生に対する効果を有するフィードバック・メカニズムが、活動的に修飾されない。さらに、分子内FRET系における化学量論は、常に1:1である。対照的に、PKA-FRET系においては、フルオロフォアの化学量論が可変性であり、従って、調節され得ない。
【0095】
本発明は、以下の工程を含む、本発明のキメラペプチドとのcAMPの結合を活性化又は阻害することができる分子又は化合物を同定する方法にも関する:
(a)本発明の核酸又はベクターを細胞へトランスフェクトし、それにより本発明のキメラペプチドを発現させる工程;
(b)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と該細胞を接触させる工程;及び
(c)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物が、上で定義されたようなキメラペプチドに含まれる二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を引き起こすか否かを測定する工程。
【0096】
上述のように、および特に添付の実施例において例示されるように、本明細書において定義されたキメラペプチドは、本発明のキメラペプチドのcAMP結合部位とのcAMPの結合を修飾、即ち、活性化又は阻害することができる分子又は化合物のスクリーニング及び同定の方法において特に有用である。例えば、上に示されたような細胞が、本発明のキメラペプチドの発現をもたらす本発明の核酸又はベクターによりトランスフェクトされ得る。次の工程において、これらの細胞は、試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と接触させられる。試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物が、キメラペプチドに含まれる該二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を引き起こすか否かを測定することにより、本発明のキメラペプチドとのcAMPの結合を活性化又は阻害することができる分子又は化合物を同定することが可能である。実施例が示すように、本発明は、(FRET又はBRETにより測定可能な)エネルギーの変化をもたらすcAMP結合時のコンフォメーション変化に基づき、本発明のキメラペプチドに対して分子内RET分析が実施され得るという驚くべき所見に基づく。従って、本発明は、本発明のキメラペプチドとのcAMP結合の活性化(非活性化も)又は阻害が、高分解能で、かつ生理学的動力学内で観察され得る手段及び方法を初めて提供する。特に、生存している細胞における本発明のキメラペプチドのコンフォメーション変化/活性化又は阻害スイッチの高分解能アッセイが、提供される。従って、本発明は、本発明のキメラペプチドのアゴニスト、部分アゴニスト、逆アゴニスト、及びアンタゴニストのスクリーニング及び同定の特徴的な方法を提供する。本発明に関して、そして薬理学的科学に従い、「アゴニスト」という用語は、本発明のキメラペプチドとのcAMPの結合を活性化する分子又は化合物として限定される。アゴニストと同様の挙動を示すが、高濃度ですら、完全アゴニストと同じ最大の程度で、本発明のキメラペプチドとのcAMPの結合を活性化することはできない分子/化合物が、当技術分野において「部分アゴニスト」として定義される。「アンタゴニスト」という用語は、本発明のキメラペプチドとのcAMPの結合を阻害する分子/化合物に関する。
【0097】
本発明のキメラペプチドとのcAMP結合を活性化又は阻害することができる分子の同定及び/又は特徴決定は、とりわけ、本発明のキメラペプチドをコードする核酸分子により適切な宿主をトランスフェクトすることにより達成され得る。該宿主には、CHO細胞、HEK293、HeLa、Cos7、PC12、もしくはNIH3T3細胞、(初代)心筋細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、又は胚性幹細胞、(初代)培養神経細胞、筋細胞、又はカエル卵母細胞が含まれるが、これらに制限はされない。トランスフェクションは、一過性トランスフェクションの形態であり得る。又は、本発明のキメラペプチドを発現している安定的な細胞系が使用され得る。次いで、細胞が、試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と接触させられ、該(一つ又は複数の)分子又は化合物が、上で定義されたようなキメラペプチドに含まれる該二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を引き起こすか否かが測定される。添付の実施例が例示するように、特定の好ましい測定法にはFRET又はBRET測定が含まれる。
【0098】
本発明は、以下の工程を含む、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの生物学的/薬理学的機能を活性化、非活性化、又は不活化することができる分子又は化合物を同定する方法にさらに関する:
(a)アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼを発現している細胞へ本発明の核酸又はベクターをトランスフェクトする工程;
(b)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と該細胞を接触させる工程;及び
(c)該試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物が、上で定義されたようなキメラペプチドに含まれる該二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を引き起こすか否かを測定する工程。
【0099】
本明細書において定義されたキメラペプチドは、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの生物学的/薬理学的作用を修飾することができる分子又は化合物のスクリーニング及び同定の方法において特に有用である。簡単に説明すると、多数のGsタンパク質共役型受容体(例えば、アドレナリン作用性β1及びβ2、アデノシンA2、プロスタグランジンE2)とのリガンドの結合は、標的プロテインキナーゼA、EPAC、及び環状ヌクレオチド依存性チャンネルの活性化を通して様々な細胞過程を調節することができる遍在性の二次メッセンジャーであるcAMP生成酵素アデニリルシクラーゼを活性化する。cAMPの細胞内レベルは、シグナルの強さ及び空間的組織化を決定する特定のホスホジエステラーゼにより負の調節を受ける。cAMPシグナリングの病理学的な変化及び治療法により誘導された変化は、いくつかの慢性疾患又は副作用(心不全、気管支喘息、炎症性疾患、癌)をもたらし得る(Cooper DM. アデニリルシクラーゼ及びcAMPの調節及び組織化(Regulation and organization of adenylyl cyclases and cAMP)Biochem J.2003 Nov 1;375(Pt3):517-29;Conti M,Richter W,Mehats C,Livera G,Park JY,Jin C. 環状AMPシグナリングの重要成分としての環状AMP特異的PDE4ホスホジエステラーゼ(Cyclic AMP-specific PDE4 phosphodiesterases as critical components of cyclic AMP signaling)J Biol Chem.2003 Feb 21;278(8):5493-6)。
【0100】
実施例が示すように、本発明は、(FRET又はBRETにより測定可能な)エネルギーの変化をもたらすcAMP結合時のコンフォメーション変化に基づき、本発明のキメラペプチドに対して分子内RET分析が実施され得るという驚くべき所見に基づく。従って、本発明は、本発明のキメラペプチドの活性化(非活性化も)が、高分解能で、かつ生理学的動力学内で観察され得る手段及び方法を初めて提供する。特に、生存している細胞におけるアデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼ調節に関する高分解能アッセイが、提供される。
【0101】
本明細書に提供された方法に従い、本発明は、相互作用が、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの生物学的及び/又は薬理学的機能の活性化、部分的な活性化、阻害、又は部分的な阻害をもたらし得るような、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼを活性化、非活性化、又は不活化することができる化合物又は分子の同定、特徴決定、スクリーニングを提供する。従って、本発明は、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼのアゴニスト、部分アゴニスト、逆アゴニスト、及びアンタゴニストのスクリーニング及び同定の特徴的な方法を提供する。本発明に関して、そして薬理学的科学に従い、「アゴニスト」という用語は、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼと結合し、それらを活性化する分子又は化合物として限定され得る。アゴニストと同様の挙動を示すが、高濃度ですら、完全アゴニストと同じ最大の程度で、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼを活性化することはできない分子/化合物が、当技術分野において「部分アゴニスト」として定義される。「アンタゴニスト」という用語は、対応するアデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼと結合し、それらの活性を阻害する分子/化合物に関する。アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼが固有のアゴニスト非依存性の活性を示す場合、これらの逆アゴニストは特に重要であり、可視である。「アンタゴニスト」という用語は、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼと結合するが、該酵素の固有の活性を改変させない分子/化合物に関する。それらも、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの対応するリガンドの結合を防止することができ、また、それらは、アゴニスト又は部分アゴニストによるアデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの結合及び活性化を防止し得る。本発明によると、「アンタゴニスト」という用語は、アゴニスト性の効果を阻害しかつ/又は減少させることができる分子/物質を意味する。「アンタゴニスト」という用語には、とりわけ、Mutschler,"Arzneimittelwirkungen"(1986),Wissenschaftliche Verlagsgesellschaft mbH,Stuttgart,Germanyに記載されるような競合アンタゴニスト、非競合アンタゴニスト、機能的アンタゴニスト、及び化学的アンタゴニストが含まれる。本発明による「部分アンタゴニスト」という用語は、とりわけ、非競合メカニズムを通して、アゴニストの作用を不完全に阻止することができる分子/物質を意味する。本発明による「アゴニスト」という用語は、親和性及び固有活性を有している分子/物質を意味する。主として、該固有活性(α)は、該アゴニストにより誘発される効果(EA)及び所定の生物学的系において最大に入手され得る効果(Emax)の商に比例するものとして定義され:従って、固有活性は以下のように定義され得る。

最も高い相対固有活性は、EA/Emax=1から生じる。1という固有活性を有するアゴニストが完全アゴニストであり、>0かつ<1の固有活性を有する物質/分子が部分アゴニストである。部分アゴニストは二元的な効果を示す、即ち、それらはアゴニスト性の効果のみならずアンタゴニスト性の効果も含む。
【0102】
従って、当業者は、上記の方法のいずれかに従い同定及び/又は特徴決定された化合物/分子/物質のアゴニスト性及び/又はアンタゴニスト性の効果及び/又は特徴を解明するために、本発明の化合物及び方法を容易に利用することができる。
【0103】
キメラペプチドを活性化、非活性化、又は不活化することができる分子の同定及び/又は特徴決定は、とりわけ、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼを安定的に又は一過性に発現している適切な宿主を、本発明のキメラペプチドをコードする核酸分子によりトランスフェクトすることにより達成され得る。該宿主には、CHO細胞、HEK293、HeLa、Cos7、PC12、もしくはNIH3T3細胞、カエル卵母細胞、又は初代心筋細胞のような初代細胞、繊維芽細胞、筋細胞、内皮細胞、又は胚性幹細胞が含まれるが、これらに制限はされない。当然、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼをコードする核酸がトランスフェクトされた、キメラペプチドをコードする核酸分子により安定的にトランスフェクトされた細胞系を使用することも可能である。次いで、細胞が、試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と接触させられ、該(一つ又は複数の)分子又は化合物が、上で定義されたようなキメラペプチドに含まれる該二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を引き起こすか否かが測定される。上に示されたように、特定の好ましい測定法には、FRET又はBRET測定が含まれる。
【0104】
さらに、本発明は、以下の工程を含む、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの生物学的/薬理学的機能の活性化剤/アゴニスト、逆アゴニスト、又は阻害剤/アンタゴニストである分子又は化合物をスクリーニングする方法に関する:
(a)アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼを発現している細胞へ本発明の核酸又はのベクターをトランスフェクトする工程;
(b)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と該細胞を接触させる工程;
(c)上で定義されたようなキメラペプチドに含まれる該二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を測定及び/又は検出する工程;並びに
(d)該エネルギーの変化を、該(一つ又は複数の)候補分子/化合物の非存在下で測定されたような標準応答と比較する工程。
【0105】
本明細書において使用されるような「標準応答」という用語は、いわゆる参照化合物として使用されたアデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼのルーチンに使用されている活性化剤/阻害剤、又はGタンパク質共役型受容体のアゴニスト/部分アゴニスト/逆アゴニスト/アンタゴニストにより誘導されるシグナル、即ち、FRETの変化をさす。インビトロの測定に関して、本明細書において定義されるような「標準応答」とは、標準濃度又は参照濃度とも呼ばれる既知のcAMP濃度の添加により誘導されるシグナル、即ち、FRETの変化をさす。
【0106】
さらに、本発明は、以下の工程を含む、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの生物学的/薬理学的応答を誘発することができる分子又は化合物を同定する方法に関する:
(a)アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼを発現している細胞へ本発明の核酸又はベクターをトランスフェクトする工程;
(b)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と該細胞を接触させる工程;及び
(c)これらの分子/化合物な中から、本発明のキメラペプチドに含まれる該二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を誘発することができる分子/化合物を同定する工程。
【0107】
可能性のある候補分子又は候補分子混合物は、とりわけ、天然に存在している、かつ/又は合成的に、組換え的に、かつ/もしくは化学的に作製された、化学的又は生物学的な起源の物質、化合物、又は組成物であり得る。従って、候補分子は、とりわけ、本発明のキメラペプチド、アデニリルシクラーゼ、又はホスホジエステラーゼと結合し、かつ/又は相互作用する抗体、タンパク質、タンパク質断片、ペプチド、アミノ酸、及び/もしくはそれらの誘導体、又はイオンのようなその他の化合物であり得る。
【0108】
当業者は、本発明の方法が、薬理学的研究に、特に、薬物スクリーニングの領域において、重要な寄与を提示し得ることを直ちに認識するであろう。従って、文献に記載された薬物スクリーニングのための対応する技術は、参照により本明細書に組み入れられる。これには、例えば、Kyranos(Curr.Opin.Drug.Discov.Devel. 4(2001),719-728)、Pochapsky(Curr.Top.Med.Chem.1(2001),427-441)、及びBohets(Curr.Top.Med.Chem.1(2001),367-383)が含まれる。
【0109】
本発明の態様により、光学的検出が可能な、原則として任意の種類の細胞、膜、膜調製物、又はリポソームが、本発明の方法のため使用され得る。使用される細胞は、本発明のキメラペプチドを発現するよう形質転換され得る。従って、細胞は、例えば、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトの起源の、細菌、酵母、原生動物、又は培養細胞のような単細胞であり得る。ある種の適用に関しては、対応する健常細胞と比較して優先的に測定が実施されるよう、腫瘍細胞、又は病原体、例えばウイルスにより感染された細胞のような病原的に影響を受けた細胞を採取することが有用であるかもしれない。同様に、細胞は、組織、器官、又は生物、特に上で定義された非ヒト・トランスジェニック動物の一部であってもよい。
【0110】
候補化合物又は被験化合物は、原則として任意の起源から採取され得る。それらは、天然に存在する物質、修飾された天然に存在する物質、化学的に合成された物質、又はトランスジェニック生物により産生され、任意で、ある程度にまで精製され、かつ/又はさらに修飾された物質であり得る。実際、候補化合物は、スクリーニング法のためにルーチンに適用されるような化合物ライブラリーから採取され得る。「接触させる」という用語は、化合物が細胞表面で又は細胞取り込みにより細胞に対して有効になるよう、分析された細胞へ候補化合物/被験化合物を添加することをさす。典型的には、候補化合物又はそれを含有している溶液が、アッセイ混合物に添加され得る。本発明の方法の工程(a)、即ち「接触工程」は、該候補化合物又は複数の候補化合物を含有している試料をアッセイ混合物へ添加することによっても同様に達成され得る。そのような試料又は複数の化合物が関心対象の化合物を含有していることが本発明の方法により同定された場合には、最初の試料から化合物を単離すること、又は、例えば、それが複数の異なる化合物からなる場合、最初の試料をさらに細分し、一試料当たりの異なる物質の数を低下させ、最初の試料を細分したものを用いて方法を繰り返すことが可能である。試料の複雑さによって、本明細書に記載された工程は、好ましくは、本発明の方法によって同定された試料が有限の数又はただ一つの物質のみを含むようになるまで、数回実施され得る。好ましくは、該試料は、類似した化学的及び/又は物理的性質の物質を含み、最も好ましくは、該物質は同一である。工程(b)、即ち「測定又は同定の工程」は、融合タンパク質、即ち上に与えられたような本発明のキメラペプチドのエネルギー放射の変化の測定に関する説明に従って実施され得る。特に好ましいのは、単細胞のレベルで、好ましくは亜細胞レベルで、蛍光の分解を可能にする光学的測定技術である。適当な画像化技術は、Periasamy A.,Methods in Cellular Imaging,2001,Oxford University Press or in Fluorescence Imaging Spectroscopy and Microscopy,1996,edited by:X.F.Wang;Brian Herman,John Wiley and Sonsのような文献に記載されている。それらは、蛍光顕微鏡検、好ましくは共焦点顕微鏡検、例えば、CCDカメラ及び適当な画像分析ソフトウェアによるデジタル画像記録を含み得る。添付の実施例も、候補化合物を測定するための有用な環境を提供する。優先的には、工程(b)は、平行対照実験を実行することにより実施される。しかしながら、例えば、同じキメラペプチドを発現する対応する細胞は、候補化合物を接触させることなく、工程(a)及び(b)のような対応する条件の下で観察されてもよい。
【0111】
従って、可能性のある候補分子は、本発明のキメラペプチドを発現する上記のような細胞、又は本発明のキメラペプチドを含む膜パッチ、膜調製物と接触させられ、該候補分子が引き起こす任意の効果を解明するため、対応する応答(とりわけ、用量−応答、電流−応答、又は濃度応答)が測定される。該応答は、最も好ましくは、本明細書に提供される方法、特にFRET又はBRET技術により測定される。
【0112】
本発明の範囲内には、96穴、384穴、1536穴、(及びその他の)市販されているプレートを使用して実施される、いわゆるハイスループット・スクリーニング法及び当技術分野において既知の類似のアプローチ(Spencer,Biotechnol.Bioeng.61(1998),61-67;Oldenburg,Annu.Rep.Med.Chem.33(1998),301-311;Milligan,Trends Pharmacol.Sci.20(1999),118-124)を含む、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼと相互作用することができる分子の同定、特徴決定、及びスクリーニングのための方法も含まれる。本発明に従って利用されるさらなる方法には、(とりわけ、Pope,Drug Discovery Today 4(1999),350-362に記載されたような)ハイスループット・スクリーニングにおける同種蛍光読み取りが含まれるが、これに制限はされない。アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼと相互作用することができる分子の同定、特徴決定、及び/又はスクリーニングのための本発明の方法は、とりわけ、本発明のキメラペプチドを発現する本明細書において定義されるような宿主を利用することができる。細胞に基づくアッセイ、該アッセイのための装置、及び/又は測定は、当技術分野において周知であり、とりわけ、Gonzalez,Drug Discovery Today 4(1999),431-439又はRamm,Drug Discovery Today 4(1999),401-410に記載されている。
【0113】
本発明のスクリーニング法の好ましい態様において、該エネルギー変化は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)又は生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)の増加又は減少である。
【0114】
好ましい態様において、本明細書に提供される方法において測定される応答又はエネルギー変化は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)の増加又は減少に相当する。FRETにおいては、ドナー及びアクセプターの両方、即ち両方の検出部分が、蛍光タンパク質部分であり、FRETの測定のため、第一の検出部分による励起エネルギー放射のための適切なエネルギー、即ち放射線が、融合タンパク質に供給される。従って、第一の検出標識が蛍光タンパク質部分であるのは、本発明のキメラペプチドの好ましい態様である。FRETの効率は、二つの蛍光パートナー間の距離に依存する。FRETを記載する数式は以下の通りである:E=Ro6/(Ro6+r6)[式中、EはFRETの効率であり、rは蛍光パートナー間の実際の距離であり、かつRoはFRETが所定のFRETパートナー対に関して可能な最大FRET値の50%となるフェルスター(Foerster)距離である]。実験的に決定され得るRoは、蛍光パートナー間の相対的な配向(κ)、媒体の屈折率(n)、ドナーの放射とアクセプター・パートナーの励起との不可欠なオーバラップ(J(λ))、及び蛍光ドナー・パートナーの量子収量(QD)に依存する(Ro6=8.79×10-25[κ2n-4QDJ(λ)](cm6単位))。古典的なFRETに基づく適用において、配向因子κ2は、エネルギー転移以前の回転拡散によりランダム化するドナー及びアクセプターの値である2/3に等しいと仮定される(Lakovicz,Principles of Fluorescence spectroscopy,second edition,page 370)。従って、ランダム化された回転拡散において、比率の変化は、発色団間の距離の変化のみによると仮定される。垂直双極子の場合、κ2は0である。添付の実施例の通り、FRETシグナルの減少は、以下の方程式により決定され得る:r(t)=A×(1-e-t/τ)[式中、τは時間定数(s)であり、かつAはシグナルの大きさである]。τを計算する必要がある場合には、光退色によるアゴニスト依存性のFRETの変化が差し引かれた。アゴニスト、アンタゴニスト、部分アゴニスト、及び部分アンタゴニスト、並びに逆アゴニストの検出のためFRETを適用するため、当業者は、検出可能なFRET、及びその構造のコンフォメーション変化時の検出可能なFRETの変化を示す、本発明のキメラタンパク質にとって適当な(上で定義された)検出標識を選択することができる。好ましくは、最大FRET効率は、励起時に第一の検出標識により放出されたエネルギーの少なくとも5%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは80%である。さらに、二つの検出標識はスペクトルのオーバーラップを有している必要がある。ドナーの放射スペクトルとアクセプターの吸収スペクトルとのオーバーラップが大きいほど、Roの値は高い。より大きな吸光係数を有するアクセプターは、より高いRo値を引き起こす。対照的に、両検出部分の励起スペクトルのオーバーラップは、アクセプター発色団の同時励起が防止されるよう十分に小さくなければならない。同様に、両検出部分のスペクトルは、二つの放射シグナルの識別が依然として可能である程度にのみオーバーラップするべきである。
【0115】
添付の実施例において詳述されるように、特に好ましい態様において、第一の検出部分はシアン蛍光タンパク質(CFP)であり、かつ第二の検出部分は増強された黄色蛍光タンパク質(eYFP)である。CFP及びYFPはFRETの効率的な変化を示すため、本発明のキメラペプチドに特によく適していることが示されている。CFP及びeYFPは当技術分野において周知であり、対応するコーディング配列を含有している核酸分子は、例えば、クロンテック(Clontech)より市販されている。該核酸配列は、添付の配列番号:23及び24にも示され、対応するアミノ酸配列は、配列番号:21及び22にそれぞれ示される。
【0116】
本発明のさらなる好ましい態様において、本明細書に提供される方法は、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)の増加又は減少を含む応答又はエネルギー変化の検出に基づく。BRET技術は、当技術分野において極めてよく知られており、とりわけ、Angars,(2000)PNAS 97,3684-3689;Mercier (2002),JBC 277,44925-44931;Barcock,(2003),JBC 278,3378-3385、又はWO99/66324に記載されている。上で指摘されたように、好ましい生物発光タンパク質はウミシイタケ・ルシフェラーゼであるが、ホタル・ルシフェラーゼも利用され得る。第一の検出系としてウミシイタケ・ルシフェラーゼを含む本発明のキメラペプチドの中の好ましい蛍光タンパク質部分としては、増強された黄色蛍光タンパク質又は黄色蛍光タンパク質が利用され得る。
【0117】
最も好ましい態様において、本明細書に提供される方法によると、本発明のキメラペプチドは生物学的膜に位置し、それぞれ挿入される。最も好ましくは、該生物学的膜は、培養細胞の原形質膜であるか、又は本発明のキメラペプチドを発現している非ヒト・トランスジェニック動物の器官もしくは組織の(一つもしくは複数の)細胞の膜である。本発明の残りの及び/又は同定の方法のさらなる態様は、添付の実施例に与えられ例示される。本発明に関して、既に簡単に記述されたようないくつかの対照が利用され得ることに注意すべきである。例えば、ただ一つの検出可能標識を含むキメラペプチドが、対照として使用され得る。そのようなキメラペプチドは、放射されるエネルギーの変化又は測定され得る検出可能な応答を提供しないであろう。従って、被験分子もしくは被験化合物、又は単独でもしくは組み合わせてそのような分子もしくは化合物を含む試料が、コンフォメーション変化時の特徴的な応答を誘発することができる本発明のキメラペプチド、及び上で同定された検出可能標識のうちの一つのみを含み、従って対応するシグナルを誘発することができない、特に共鳴エネルギー転移を誘発することができないキメラペプチドに対する平行実験において試験され得る。本発明の方法に従い利用されるもう一つの対照タンパク質は、C末端に両方の検出可能標識を含むキメラペプチドである。
【0118】
本発明は、本発明のキメラペプチド、核酸分子、ベクター、宿主細胞、又は非ヒト・トランスジェニック動物の器官もしくは細胞を含む診断用組成物も提供する。そのような診断用組成物は、本発明の方法において特に有用である。
【0119】
本発明は、本発明のキメラペプチド、核酸分子、ベクター、もしくは宿主細胞、又は上で特徴付けられたような非ヒト・トランスジェニック動物の器官もしくは細胞を含むキットにも関する。
【0120】
本発明の方法に関して開示された態様は、必要な変更を加えて、本発明のキットに当てはまる。有利には、本発明のキットは、任意で、(一つ又は複数の)反応緩衝液、保管溶液、洗浄溶液、並びに/又は本明細書に記載されたような科学的アッセイ、薬理学的アッセイ、及び薬物スクリーニング・アッセイ等の実施のために必要とされる残りの試薬もしくは材料をさらに含む。さらに、本発明のキットの部材は、個々にバイアルもしくはボトルに包装されてもよいし、又は組み合わせられて容器もしくは多重容器単位に包装されてもよい。本発明のキットは、とりわけ、本明細書に記載されるようなcAMP濃度、cAMPの空間時間的分布を検出するための方法を実施するために有利に使用され得、かつ/又は本明細書において言及された多様な適用、例えば、cAMP結合を活性化もしくは阻害することができる化合物のスクリーニング試薬、及びアデニリルシクラーゼもしくはホスホジエステラーゼのような生物学的分子に影響を及ぼすことができる化合物のスクリーニング法において利用され得る。さらに、本発明のキットは、科学的、医学的、及び/又は診断的な目的にとって適当な検出の手段を含有しているかもしれない。キットの製造は、好ましくは、当業者に既知の標準的な手法に従う。本発明のキットは、好ましくは、本明細書に提供されるような検出アッセイにおいて有用である。
【0121】
同様に、本発明の化合物、特に、本発明のキメラペプチド、核酸分子、ベクター、宿主細胞、又は非ヒト・トランスジェニック動物の器官もしくは細胞を含むキットが提供される。本明細書に提供されるようなこれらのキットは、本発明の方法において、特に、インビボ及び/又はインビトロでのcAMP濃度の決定において、特に有用である。これらのキットも、本明細書に提供される方法と同様に、「ハイスループット」スクリーニングも含む薬学的スクリーニングにおいて有用である。本発明のキメラペプチド、核酸分子、ベクター、宿主細胞、又は非ヒト・トランスジェニック動物の器官もしくは細胞、キット、及び方法の技術的な利点は、機能性バイオセンサーとしての本発明のキメラ構築物/ペプチドの使用である。従って、本発明の化合物及び方法は、基礎的な科学的研究、好ましくは生物医学的及び/又は生化学的研究、並びに薬物スクリーニングにおいても有用である。本発明は、生存している細胞及び/又は生物においてcAMP濃度をモニタリングするために利用され得る特定の装置の使用も可能にする。これらの装置は、本発明のキメラペプチド/構築物の補助によるcAMPの測定において有用である。装置には、とりわけ、光源、フィルター系、光検出系、特に、放射検出器が含まれる。
【0122】
さらに、本発明は、インビボ/インビトロでのアデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの生物学的活性の(一つ又は複数の)修飾剤の検出のための、本発明のキメラペプチド、核酸分子、ベクター、もしくは宿主細胞、又は上で定義されたような非ヒト・トランスジェニック動物の器官もしくは細胞の使用に関する。
【0123】
本発明は、インビボ又はインビトロでの、本発明のキメラペプチドとのcAMPの結合、又はアデニリルシクラーゼもしくはホスホジエステラーゼの生物学的活性の修飾剤の検出のための、本発明のキメラペプチドもしくは核酸分子、ベクター、宿主細胞、又は非ヒト・トランスジェニック動物の器官もしくは細胞の使用にも関する。
【0124】
さらに、本発明は、本発明のキメラペプチド、アデニリルシクラーゼ、又はホスホジエステラーゼと相互作用することができる分子の同定、特徴決定、及び/又はスクリーニングのための本発明の方法の工程を含み、該同定、特徴決定、及び/又はスクリーニングされた分子の誘導体が作出される工程をさらに含む、薬学的組成物の作製の方法に関する。そのような誘導体は、とりわけ、ペプチドミメティック(peptidomimetics)により作出され得る。
【0125】
本発明は、本発明のキメラペプチド、アデニリルシクラーゼ、又はホスホジエステラーゼと相互作用することができる分子の同定、特徴決定、及び/又はスクリーニングのための本発明の方法の工程、並びに同定、特徴決定、スクリーニング、及び/又は誘導体化された分子を薬学的に許容される形態へと製剤化する工程を含む、薬学的組成物の作製の方法にさらに関する。
【0126】
以下の非制限的な実施例により本発明を例示する。
【0127】
実施例
実施例1:蛍光指示薬の構築及び発現
cAMP感知タンパク質をコードするDNA構築物を、鋳型としてヒトEPAC1、マウスEPAC2、又はマウスPKA調節IIサブユニットのcDNAを使用したPCRにより作出した。GFPバリアント(EYFP及びECFP)をpEYFP-Tub及びpECFPプラスミド(Clontech)から標準的なプライマーを用いて増幅した。哺乳動物細胞における一過性発現のため、cAMP結合ドメインの配列を、EYFP及びECFPのものと共に、pcDNA3ベクター(Invitrogen)へとクローニングした(構造の詳細に関しては図1を参照のこと)。EPAC構築物の原形質膜へのターゲティングのため、ミリストイル化及びパルミトイル化の部位をコードする付加的なN末端配列MBCINSKRKDを、オリゴヌクレオチド

を使用して挿入した。
【0128】
実施例2:細胞培養
アデノシンA2B受容体を安定的に発現しているCHO細胞、及びTSA-HEK293細胞を、それぞれDMEM/F12(37%、5%CO2)又はDMEM(37%、7%CO2)培地で維持し、画像化実験のための24mmカバーグラス又はキュベット蛍光測定のための90mmペトリ皿へ播種し、リン酸カルシウム法を使用して、各構築物について3μg又は30μgのDNAによりトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を24時間後に分析した。
【0129】
実施例3:FRET測定及び細胞画像化
蛍光顕微鏡検のため、接着細胞を有するカバーグラスを、室温で144mM NaCl、5mM KCl、1mM CaCl2、1mM MgCl2、20mM HEPES、pH=7.3を含有している緩衝液において実験チャンバーへ移し、油浸63×プラン−ネオフルオラン(Plan-Neofluoran)対物レンズ、二重放射測光システム(Till Photonics)、及び「クールスナップ・フォトメトリクス(CoolSNAP Photometrics)」CCDカメラを装備したツァイス・アキシオバート(Zeiss Axiovert)200倒立顕微鏡に置いた。試料を、ポリクロム(Polychrom)IV(Till Photonics)からの光により励起した。メタフルオア(MetaFluor)5.0r6ソフトウェア(Universal Imaging Corp.)を使用して、436±10nmにおける励起時の535±15nm及び480±20nmにおける放射比率として、FRETをモニタリングした。画像化データをメタモルフ(MetaMorph)5.0r6ソフトウェア(Universal Imaging Corp.)により分析し、CFPの535nmチャンネルへの溢流及びアクセプター光退色に関して補正し、補正された比率F535nm/F480nmを得た。アゴニストにより誘導されるFRETの変化を研究するため、細胞を、測定緩衝液及びアデノシン(Sigma)溶液で連続的に灌流した。
【0130】
実施例4:インビトロ蛍光測定
トランスフェクションから24時間後、TSA-HEK293細胞を冷PBSで洗浄し、プレートから剥離し、pH=7.3の5mMトリス、2mM EDTA緩衝液に再懸濁させた。氷上で40秒間ツラックス処理(turrax)し、80000prmで20分間遠心分離した後、上清の蛍光放射スペクトル(436nmで励起、放射範囲460〜550nm)を、様々なcAMP、cGMP、及びATP(Sigma)濃度の添加の前後に、発光分光計LS50B(Perkin Elmer)を用いて測定した。cAMP飽和曲線を、カレイダグラフ(KaleidaGraph)3.0.5ソフトウェア(Abelback)を使用してプロットし、100m0/m3+m0(m3=50、EC50平均)方程式へとフィッティングした。
【0131】
実施例5 cAMP濃度の測定
cAMPの測定は、cAMPにより調節されるタンパク質の単一のcAMP結合ドメインと直接融合した、二つのフルオロフォア(例えば、ECFP及びEYFP)の間のFRETに基づく光学的方法を使用して実施され得る。図1及び図11に示されるように、Epac1、Epac2、PKA調節サブユニット、又はHCN2イオンチャンネルから機能性センサーが構築され得る。これらのタンパク質は、cAMPの結合に関与している、いくつかの高度に保存されたアミノ酸を特徴とするcAMP結合配列を有している(図14、太字の残基)。該本発明の構築物を使用したcAMPのFRETに基づく測定は、生存している単細胞において(図5、図8、図12B)又はインビトロで(図6)可視化され得るFRETの損失をもたらすフルオロフォア間の距離の減少を引き起こすcAMP結合ドメインのコンフォメーション変化によって可能である。FRETの損失はYFP/CFP強度の比率の減少として測定され、cAMPのセンサーとの結合は、YFP強度を減少させ、それと同時にCFPを増加させ、比率YFP/CFPを減少させる。(一つのcAMP結合部位のみを含む)単一のcAMP結合ドメインに基づく構築物を使用して、cAMP濃度は、1nM〜100μM、特に200nM〜20μMという広い生理学的範囲で測定され得る;例えば、図13を参照のこと。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】GFPタグ化cAMP結合タンパク質の構築。実施例1に記載されたようにして、PKA又はEPACの1個又は2個の結合ドメインをコードする配列をPCRを使用して増幅し、EYFP及びECFPのものと融合させ、続いて、pcDNA3(哺乳動物発現)又はpVL1393(Sf9昆虫細胞発現)におけるサブクローニング及び発現を行った。各キメラタンパク質の相対的なFRETシグナルが示される。PKA及びEPAC2の両方のcAMP結合ドメイン又はEPAC2の低親和性ドメインAを含有しているキメラは不活性であり、単一の高親和性cAMP結合ドメインを有する構築物は強力な感知タンパク質を獲得した。
【図2】プロテインキナーゼA(PKA)調節サブユニット及びEPAC2のB cAMP結合ドメインの結晶構造。cAMP結合カセットは黄色で示される。機能性cAMP感知タンパク質を作製するため、隣接するアルファヘリックスの標識された位置にフルオロフォア(GFPバリアント)が挿入された。アゴニストの結合時には、Bドメインのコンフォメーションが変化し、それが、GFP間の距離の変化及びFRETシグナルを引き起こすと仮定される。
【図3】両方のcAMP結合ドメインを含有しているEPAC2の結晶構造。ドメインA(a.a.12-151)は、青色の印が付いた位置にGFPが挿入されたセンサータンパク質(EYFP-E29-K149-ECFP)が、生理学的に妥当な量のcAMPの存在下でそのコンフォメーションを変化させ、FRETシグナルを生じることを可能にしない極めて低い親和性でリガンドに結合する。しかしながら、高親和性ドメインBの異なる緑色の印が付いた位置は、リガンド結合時にFRETシグナルの激しい変化を示す、極めて高感度のcAMPセンサーを入手するのに適当である。
【図4】EPAC2の単一の結合ドメインを含有している様々なcAMPセンサータンパク質の活性化動力学。Gsタンパク質と共役し、アデニリルシクラーゼを介してcAMP産生を活性化するアデノシンA2B受容体を安定的に発現しているCHO細胞を、EPAC2のcAMP結合ドメインBの示された位置にGFPバリアントを保持している異なるセンサータンパク質をコードするプラスミドにより一過性トランスフェクトした。材料及び方法のセクションに記載されたように、トランスフェクションから24時間後、生存している単細胞においてFRETが測定され、アゴニスト(アデノシン)の影響がリアルタイムで査定された。細胞へのアデノシンの添加は、YFPとCFPとの間の距離の増加を引き起こす、cAMPにより誘導されたコンフォメーション変化を意味する、CFPとYFPとの間のFRETの減少をもたらした。タンパク質の構造によって、シグナルの振幅及びスピードは異なり、従って、最も顕著なシグナルを生じるアミノ酸位置を見出すセンサーを最適化することが可能であった。
【図5】A:従来記載されていたPKAセンサー(Zaccolo et al.,Nat.Cell.Biol.2000)のものと比較された、CHOA2B細胞におけるEPAC2(EYFP-E285-E443-ECFP)の単一の結合ドメインに基づくcAMPセンサータンパク質の活性化動力学。新規のEPAC2センサーは、4個の協力的に作用する結合部位を有し、ホスホジエステラーゼ活性化特性を保有しているPKAとは対照的に、ただ一つの高親和性cAMP結合ドメインの存在及び触媒活性(ホスホジエステラーゼ活性化を介した減感の誘導)の欠如によるのかもしれない、より迅速な活性化シグナルを示す。B.アゴニスト添加後の異なる時点におけるCHO細胞の細胞画像化写真。モニタリングされた比率の減少(赤色の損失)は、細胞内cAMP濃度の増加を表す。材料及び方法、並びに図3の説明に記載されたようにして、実験が実施された。
【図6】インビトロcAMP測定。A.TSA-HEK293細胞溶解物の蛍光放射スペクトル。細胞を、EPAC2に基づくセンサー(EYFP-E285-E443-ECFP)をコードするプラスミドにより一過性トランスフェクトした。材料及び方法に記載されたように、トランスフェクションから24時間後、細胞溶解物を調製し、異なるアゴニスト濃度の添加の後に放射スペクトルを得た。475nmにおける強度の増加を伴う525nmにおける強度の減少は、CFPとYFPとの間のFRETシグナルの損失を表す。B.シグナル強度475nm/強度525nmのcAMP濃度との関係が、その後の異なる未知の試料のcAMP濃度の正確な測定のため、飽和曲線へとプロットされ得た。
【図7】EPAC2(E285-E443)構築物に基づく原形質膜固定型cAMPセンサーの開発。A.cAMP感知タンパク質をコードする異なる構築物によりトランスフェクトされたCHOA2B細胞の蛍光顕微鏡写真。58315nm(YFP)及び48020nm(CFP)における蛍光放射が表される。図6Cに示されたLyn-キナーゼの短いN末端配列の導入は、共焦点顕微鏡検により明らかにされるような、原形質膜の特徴的な位置への蛍光センサータンパク質のターゲティングを引き起こす(図6B)。
【図8】A.EPAC2構築物(EYFP-E285-E443-ECFP)のものと比較された、CHOA2B細胞におけるEPAC1(EYFP-E157-E316-ECFP)及びPKA(EYFP-M264-A403-ECFP)の単一の結合ドメインに基づくcAMPセンサータンパク質の活性化動力学。EPAC1及びPKAの相同配列は、EPAC2結合ドメインと類似した動力学的特性を示し、従って、cAMP感知タンパク質を作製するために使用され得る。B.EPAC2結合ドメインの位置G390にEYPFを位置づけることにより、従来記載されていた変異体より大きな振幅を有するセンサータンパク質が獲得される。材料及び方法、並びに図3の説明に記載されたようにして、実験が実施された。
【図9】単細胞測光的FRET検出により決定されるように、PKA RIIサブユニットの二つのcAMP結合部位を含有している融合タンパク質(PKA構築物-1:EYFP-E103-RII-A+B-A416-HAtag-ECFP)を発現しているCHOA2B細胞においては、アゴニスト依存性のFRET変化が観察されなかった。
【図10】単細胞測光的FRET検出により決定されるように、PKA RIIサブユニットのただ一つのcAMP結合部位を含有している融合タンパク質(部位B;PKA構築物2、EYFP-M264-RII B-A416-HAtag-ECFP)を発現しているCHOA2B細胞においては、検出可能なアゴニスト依存性のFRET変化が観察された。
【図11】cAMPにより調節されるHCN2イオンチャンネルの単一の結合ドメインに基づくcAMPセンサーの構築。クローニングは、図1の説明に記載されたようにして実施された。アゴニスト刺激時のFRETの相対的な変化が示される。
【図12】マウスHCN2(A467-K638)に基づく構築物を使用したcAMPの測定。A. cAMPが結合しているHCN2の結合ドメインの結晶構造(Zagotta,Nature.2003;425:200-205)。青色で示されたGFP挿入の位置は機能的な構築物を獲得した(図11)。B.内因性ベータ2-アドレナリン受容体を介して10μMイソプロテレノールにより刺激された生存しているHEK293細胞におけるFRET測定。細胞はHCN2に基づく(A467-K638)センサーによりトランスフェクトされた。cAMP依存性のFRETの減少が証明される。
【図13】異なるcAMP結合ドメインに基づくセンサーの(図5の説明に記載されたように測定された)濃度−応答依存性。異なる構築物は、cAMPに対する異なる親和性を示し、従って、20nM〜100μMという生理学的に妥当な広範囲の濃度でのこの二次メッセンジャーの測定を可能にする。
【図14】Epac1、Epac2、PKAの調節IIβサブユニット、及びHCN2イオンチャンネルのcAMP結合アミノ酸配列の多重アラインメント。cAMP結合に関与するグリシン(G)及びアルギニン(R)を含む高度に保存された残基は、太字で示される。示されたように、「cAMP結合ドメイン」(本発明のセンサーのための最小の骨格、下線)は、cAMPとの相互作用に直接関与し、結合部位の構造を安定化する残基を含む配列の一部である。理論により拘束されるものではないが、これらは全て、Epac1、2、及びHCN2(β1の下)については保存されたL、又はPKAについてはIGTモチーフで始まるβ-シートを含んでおり、(Rehmann et al.Nat.Struct Biol.2003,10:26-32に記載されたように)ドメイン構造を安定化するために高度に保存されたL(括弧により示される)と相互作用することが示唆されている、高度に保存されたF残基を含むC末端α-Bヘリックスの一部を含んでいる。HCNの場合、残基I636はリガンド結合に関与しているため(Zagotta,Nature.2003;425:200-205)、cAMP結合ドメインはこの残基にまで拡張される。さらに、図14は、本発明によって定義されるようなcAMP結合部位を示す。これらは、イタリック体で示され(「FG」から「A」までの14のアミノ酸)、好ましくは、14個のアミノ酸を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含むキメラペプチド:
(a)ただ一つのcAMP結合部位を有しているcAMP結合モエティ;及び
(b)二つの検出可能標識のうちの第一のものが(a)のcAMP結合モエティのカルボキシ末端に位置し、かつ該二つの検出可能標識のうちの第二のものがアミノ末端に位置する、少なくとも二つの検出可能標識。
【請求項2】
cAMP結合モエティのcAMP結合部位が高い親和性でcAMPに結合する、請求項1記載のキメラペプチド。
【請求項3】
cAMP結合モエティのcAMP結合部位が1nM〜50μMの範囲のKdでcAMPと結合する、請求項1又は2記載のキメラペプチド。
【請求項4】
cAMP結合モエティが、cAMP依存性プロテインキナーゼの調節サブユニット(R)、グアニン・ヌクレオチド交換因子、異化遺伝子活性化タンパク質(catabolic gene activator protein)、cAMP依存性イオンチャンネル(cAMP gated ion channel)、神経障害標的エステラーゼ(NTE)、及びcAMP受容体からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか一項記載のキメラペプチド。
【請求項5】
cAMP結合モエティが、PKA、EPAC1、EPAC2、HCN2イオンチャンネル、大腸菌の異化遺伝子活性化タンパク質、cAMP依存性イオンチャンネル、神経障害標的エステラーゼ(NTE)、又はタマホコリカビ類(Dictyostelium)のcAMP受容体である、請求項1〜4のいずれか一項記載のキメラペプチド。
【請求項6】
PKA、EPAC1、EPAC2、又はHCN2イオンチャンネルが、ヒト、マウス、又はラット起源のものである、請求項1〜5のいずれか一項記載のキメラペプチド。
【請求項7】
検出可能標識が、蛍光標識又は生物発光標識である、請求項1〜6のいずれか一項記載のキメラペプチド。
【請求項8】
蛍光標識がGFP、YFP、CFP、BFP、シトリン(citrine)、サファイア(sapphire)、及びdsRedからなる群より選択されるか、又は生物発光標識が(ウミシイタケ・ルシフェラーゼ又はホタル・ルシフェラーゼのような)ルシフェラーゼである、請求項1〜7のいずれか一項記載のキメラペプチド。
【請求項9】
cAMP結合モエティが以下からなる群より選択される、請求項1〜8のいずれか一項記載のキメラペプチド:
(a)配列番号:1〜7及び74に示されるようなポリペプチドのcAMP結合モエティ;
(b)配列番号:27、29、31、33、34、35、36、及び37のいずれかに示されるような、又はそれらに含まれるようなcAMP結合モエティ;
(c)配列番号:8〜20のいずれかに含まれるようなcAMP結合モエティ;
(d)配列番号:39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、及び73のいずれかに含まれるようなcAMP結合モエティ;並びに
(e)請求項1〜8のいずれか一項において定義されたようなcAMP結合モエティ又は(a)〜(d)のcAMP結合モエティと少なくとも70%、80%、90%、又は95%同一であるcAMP結合モエティ。
【請求項10】
以下からなる群より選択される、請求項1〜9のいずれか一項記載のキメラペプチド:
(a)配列番号:38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、70、及び72のいずれかに示されるような核酸分子によりコードされるキメラペプチド;
(b)配列番号:39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、及び73のいずれかに示されるようなアミノ酸配列を含むキメラペプチド;
(c)(a)又は(b)において定義されたようなポリペプチドと少なくとも70%同一であり、かつインビトロ及び/又はインビボでのcAMP濃度の直接決定のために使用され得るポリペプチドをコードする核酸分子によりコードされるキメラペプチド;並びに
(d)(a)及び(c)において定義されたようなDNA配列と縮重している核酸分子によりコードされるキメラペプチド。
【請求項11】
インビトロ及び/又はインビボでのcAMP濃度の直接決定のための、請求項1〜10のいずれか一項記載のキメラペプチド。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載のキメラペプチドをコードする核酸分子。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか一項において定義されたような核酸分子を含むベクター。
【請求項14】
発現ベクターである、請求項13記載のベクター。
【請求項15】
請求項13もしくは14記載のベクターにより形質転換された、又は請求項9〜12のいずれか一項において定義されたような核酸分子によりトランスフェクトされた宿主。
【請求項16】
哺乳動物細胞、両生類細胞、魚細胞、昆虫細胞、真菌細胞、植物細胞、もしくは細菌細胞、又はトランスジェニック非ヒト動物である、請求項15記載の宿主。
【請求項17】
哺乳動物細胞がCHO細胞、HEK293、HeLa、Cos7、PC12、又はNIH3T3細胞である、請求項16記載の宿主。
【請求項18】
両生類細胞が卵母細胞、好ましくはアフリカツメガエル(xenopus)卵母細胞である、請求項16記載の宿主。
【請求項19】
請求項1〜12のいずれか一項において定義されたようなキメラペプチドを作製する方法であって、請求項15〜18のいずれか一項記載の宿主を培養/飼育する工程を含み、任意で、産生されたキメラペプチドを単離及び/又は精製する工程を含む方法。
【請求項20】
以下を含む、試料中のcAMPの濃度を決定する方法:
(a)請求項1〜12のいずれか一項記載の、もしくは請求項19記載の方法により入手可能なキメラペプチド、又は請求項15〜18のいずれか一項記載の宿主細胞を、試料へ添加する工程;及び
(b)FRET又はBRETを測定/記録し、蛍光放射の値を明確な濃度のcAMPで入手された標準曲線と比較することにより試料中のcAMP濃度を決定する工程。
【請求項21】
以下を含む、生存している細胞又は組織におけるcAMPの量/分布/位置/変動を空間的かつ時間的にモニタリングする方法:
(a)請求項9〜12のいずれか一項において定義されたような核酸、又は請求項13もしくは14記載のベクターにより、細胞又は組織を形質転換する工程;及び
(b)生存している細胞又は組織においてFRET又はBRETを測定/記録すること。
【請求項22】
以下の工程を含む、請求項1〜12のいずれか一項のキメラペプチドとのcAMPの結合を活性化又は阻害することができる分子又は化合物を同定する方法:
(a)請求項9〜12のいずれか一項において定義されたような核酸又は請求項13もしくは14記載のベクターを細胞へとトランスフェクトする工程;
(b)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と該細胞を接触させる工程;及び
(c)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物が、請求項1〜12のいずれか一項において定義されたようなキメラペプチドに含まれる該二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を引き起こすか否かを測定する工程。
【請求項23】
以下の工程を含む、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの(生物学的/薬理学的)機能を活性化、非活性化、又は不活化することができる分子又は化合物を同定する方法:
(a)請求項9〜12のいずれか一項において定義されたような核酸又は請求項13もしくは14記載のベクターを、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼを発現している細胞へとトランスフェクトする工程;
(b)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と該細胞を接触させる工程;及び
(c)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物が、請求項1〜9のいずれか一項において定義されたようなキメラペプチドに含まれる該二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を引き起こすか否かを測定する工程。
【請求項24】
以下の工程を含む、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの(生物学的/薬理学的)機能の活性化剤(アゴニスト)又は阻害剤(アンタゴニスト)である分子又は化合物をスクリーニングする方法:
(a)請求項9〜12のいずれか一項において定義されたような核酸又は請求項13もしくは14記載のベクターを、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼを発現している細胞へとトランスフェクトする工程;
(b)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と該細胞を接触させる工程;
(c)請求項1〜12のいずれか一項において定義されたようなキメラペプチドに含まれる該二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を測定及び/又は検出する工程;並びに
(d)該エネルギーの変化を、該(一つ又は複数の)候補分子/化合物の非存在下で測定されたような標準応答と比較する工程。
【請求項25】
以下の工程を含む、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの(生物学的/薬理学的)応答を誘発することができる分子又は化合物を同定する方法:
(a)請求項9〜12のいずれか一項において定義されたような核酸又は請求項13もしくは14記載のベクターを、アデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼを発現している細胞へとトランスフェクトする工程;
(b)試験される(一つ又は複数の)分子又は化合物と該細胞を接触させる工程;及び
(c)これらの分子/化合物の中から、請求項1〜12のいずれか一項において定義されたようなキメラペプチドに含まれる該二つの検出可能標識により放射されるエネルギーの変化を誘発することができる分子/化合物を同定する工程。
【請求項26】
エネルギー変化が蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)の増加又は減少である、請求項22〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
エネルギー変化が生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)の増加又は減少である、請求項22〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
請求項1〜12のいずれか一項記載のキメラペプチド、請求項9〜12のいずれか一項において定義されたような核酸分子、請求項13もしくは14記載のベクター、請求項15〜18のいずれか一項記載の宿主細胞、又は請求項16の非ヒト・トランスジェニック動物の器官もしくは細胞を含むキット。
【請求項29】
インビボ及び/又はインビトロでのアデニリルシクラーゼ又はホスホジエステラーゼの生物学的活性の(一つ又は複数の)修飾剤の検出のための、請求項1〜12のいずれか一項記載のキメラペプチド、請求項9〜12のいずれか一項において定義されたような核酸分子、請求項13もしくは14記載のベクター、請求項15〜18のいずれか一項記載の宿主細胞、又は請求項16記載の非ヒト・トランスジェニック動物の器官もしくは細胞の使用。
【請求項30】
生物学的アッセイ、薬理学的アッセイ、及び/又は薬物スクリーニング・アッセイにおいて使用するためのキットの調製のための、請求項1〜12のいずれか一項記載のキメラペプチド、請求項9〜12のいずれか一項において定義されたような核酸分子、請求項13もしくは14記載のベクター、請求項15〜18のいずれか一項記載の宿主細胞の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公表番号】特表2007−515160(P2007−515160A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540398(P2006−540398)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013449
【国際公開番号】WO2005/052186
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506180006)
【Fターム(参考)】