説明

インピーダンス測定方法および装置

【課題】インピーダンス測定回路を簡単でかつ雑音が生じにくい構成とし、高精度の測定が行えるようにする。
【解決手段】信号源から伝送線路を通じて測定用信号の進行波を被測定物に入射させる(ステップS1)。進行波の電流を検出する(ステップS2)。進行波の電圧と、被測定物からの反射波の電圧との合成電圧を検出する(ステップS3)。ステップS2で得られた進行波の電流値I、およびステップS3で得られた合成電圧値Vを用いて、被測定物のインピーダンスZを決定する(ステップS4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンスを測定するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインピーダンス測定法の1つとして反射法がある。従来の反射法によれば、例えば、図7に示すように、方向性結合器15で伝送線路上の入力波と反射波が分離され、それぞれについて、電圧、位相計13、14で、入力波と反射波とに比例する電圧が測定され、入力波と反射波の電圧の比、すなわち、電圧反射係数ΓL=b/aが測定される。なお、図中、11は信号源、12は信号源の内部抵抗である。
【0003】
そして、電圧反射係数ΓLは、同軸ケーブル16の特性インピーダンスZ0と被測定物10のインピーダンスZLを用いて、次式のように表わされる。
ΓL=(ZL−Z0)/(ZL+Z0)
この式を変形すると、
ZL=Z0(1+ΓL)/(1−ΓL)
が得られ、被測定物10のインピーダンスZLが、電圧反射係数ΓLと同軸ケーブル16の特性インピーダンスZ0とから計算される(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、ΓLを求めるには、入力波と反射波との電圧の振幅比および位相差を求めなければならない。
2つの信号の位相差を測定する手段として、例えば、乗算器型の位相比較器が知られている。乗算器型の位相比較器は、回路構成が簡単で、雑音が少ないという特徴を有しており、コスト面、性能面で優れている。
【0005】
この、乗算器型の位相比較器の原理は2つの信号の内積をとることである。今、位相差がφである2つの信号をsin(ωt)とsin(ωt+φ)として、2つの信号の内積を計算すると、次のようになる。
【数1】

この式において、φの範囲を0〜πに限れば、cosφは1対1の関数となるので、その値からφを求めることができる。しかし、φの範囲を0〜2πに広げると、cosφは一般に2つの異なるφ(φと2π−φ)に対して同じ値をとる。すなわち、cosφの値からφを一義的に求めることはできない。
【0006】
一方、上記従来の反射法では、電圧反射係数ΓLは、複素平面上において原点を中心とする半径1の円内にあり、位相差が0〜2πの範囲内の値をとる。すなわち、この従来法によってインピーダンスを求める場合、乗算器型の位相比較器を用いることができず、その代わりに、0〜2πまでの位相差を検出するために、例えば、位相周波数比較器(PFD、Phase Frequency Detector)が用いられていた。PFDの原理は、フリップ・フロップ2個とNAND回路を用いた簡単なものであるが、ゲート回路の遅延時間に起因する不感帯(デッド・ゾーン)が存在するために、位相差が0付近での検出精度は良くない。特に、高周波の位相を比較するためには、不感帯を狭くするために、周波数変換を行い、ゲート回路の遅延時間が目立たないように周波数を落とした後に、位相を比較する必要がある。そして、周波数を落とすためには、周波数が既知の基準信号との乗算の後、ローパス・フィルタに通す必要があり、基準信号発生器、乗算器、ローパス・フィルタ等の、PFD以外に大掛かりな回路が必要となり、インピーダンス測定装置の回路構成が複雑化し、それに伴って雑音も生じやすく、測定精度に悪影響を及ぼすという問題を生じていた。
【0007】
【特許文献1】特開平7−104016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、インピーダンス測定回路を簡単でかつ雑音が生じにくい構成とし、高精度の測定が行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、第1発明は、
(a)信号源から伝送線路を通じて測定用信号の進行波を被測定物に入射させるステップと、
(b)前記進行波の電流を検出するステップと、
(c)前記進行波の電圧と、前記被測定物からの反射波の電圧との合成電圧を検出するステップと、
(d)前記ステップ(b)で得られた前記進行波の電流値I、および前記ステップ(c)で得られた合成電圧値Vを用いて、
【数2】

ここで、
【数3】

であり、Zは前記伝送線路の特性インピーダンスである、
に従って決定した値Zを、前記被測定物のインピーダンスの測定値とするステップと、を有することを特徴とするインピーダンス測定方法を構成したものである。
【0010】
上記(1)式の証明は次のとおりである。
今、進行波の電圧をV、反射波の電圧をVとすると、
【数4】

が成立する。
【0011】
反射係数をΓとすると、V=ΓVだから、(3)式から、
【数5】

が得られる。
一方、伝送線路の特性インピーダンスをZとすると、
【数6】

【数7】

が成立するので、
【0012】
【数8】

となる。これをZについて解けば、上記(1)式が得られる。
【0013】
また、前記ステップ(d)において、Sを求めるためには、電圧信号と進行波の電流信号の振幅比A=V/Iと位相差θを求める必要がある。今、(1)式においてインピーダンスZの実部を整理すると次のようになる。
【数9】

【0014】
したがって、インピーダンスZの実部が正であれば、
【数10】

が成立する。ここで、特性インピーダンスZの実部も正であると仮定していることに留意されたい(この仮定は、通常、満足される)。
【0015】
(9)式から、Sは、図6に示すように、複素平面上において、中心が
【数11】

で、半径が、
【数12】

の円内にある。この円は、原点を通ることから、位相差θは±π/2の範囲内にある。したがって、例えば、公知の簡単な回路を用いて電圧信号の位相差をπ/2だけ進ませておけば、位相差θは0〜πの範囲内の値をとり、それによって、回路構成が簡単で、雑音が少ない乗算器型の位相比較器を用いて位相差θの測定が行える。そして、この測定値からπ/2を引き算することによって、位相差θの値を求めることができる。
【0016】
上記課題を解決するため、また、第2発明は、信号源と、前記信号源および前記被測定物を接続する伝送線路と、前記伝送線路に第1の線路結合器を介して分岐接続され、前記信号源から前記被測定物に入射する進行波の電流を検出する進行波電流検出部と、前記伝送線路に第2の線路結合器を介して分岐接続され、前記進行波の電圧と、前記被測定物からの反射波の電圧との合成電圧を検出する電圧検出部と、前記進行波電流検出部によって検出された進行波電流値I、および前記電圧検出部によって検出された電圧値Vを用いて、
【数13】

ここで、
【数14】

であり、Zは前記伝送線路の特性インピーダンスである、
に従って決定したZを、前記被測定物のインピーダンスの測定値として出力するインピーダンス計算部と、を備えたことを特徴とするインピーダンス測定装置を構成したものである。
【0017】
第2発明の構成において、前記第1の線路結合器は方向性結合器からなっていることが好ましい。
【0018】
上記課題を解決するため、また、第3発明は、信号源と、前記信号源および被測定物を接続する伝送線路と、前記伝送線路の途中に接続された方向性結合器と、前記方向性結合器に接続され、前記信号源から前記被測定物に入射する進行波の電流を検出する進行波電流検出部と、前記方向性結合器に接続され、前記進行波の電圧と、前記被測定物からの反射波の電圧との合成電圧を検出する電圧検出部と、前記進行波電流検出部によって検出された進行波電流値I、および前記電圧検出部によって検出された電圧値Vを用いて、
【数15】

ここで、
【数16】

であり、Zは前記伝送線路の特性インピーダンスである、
に従って決定したZを、前記被測定物のインピーダンスの測定値として出力するインピーダンス計算部と、を備えたことを特徴とするインピーダンス測定装置を構成したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、進行波の電流と、進行波および反射波の合成電圧との比を用いてインピーダンスを測定するようにしたので、測定回路の構成を非常に簡単にし、かつ雑音が生じにくくすることができ、それによって高精度の測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例について説明する。図1は、本発明の1実施例によるインピーダンス測定方法の構成を示すフロー図である。
図1を参照して、本発明によれば、まず、信号源から伝送線路を通じて測定用信号の進行波が被測定物に入射せしめられる(図1のステップS1)。次に、進行波の電流が検出され(図1のステップS2)、進行波の電圧と、被測定物からの反射波の電圧との合成電圧が検出される(図1のステップS3)。
【0021】
そして、ステップS2で得られた進行波の電流値Iと、ステップS3で得られた合成電圧値Vとを用いて、
【数17】

ここで、
【数18】

であり、Zは前記伝送線路の特性インピーダンスである、
に従って決定した値Zが、被測定物のインピーダンスの測定値とされる(図1のステップS4)。
【0022】
ステップS4において、Sを求めるためには、電圧信号と進行波の電流信号の振幅比A=V/Iと位相差θを求める必要がある。このとき、(1)式においてインピーダンスZの実部を整理すると次のようになる。
【数19】

したがって、インピーダンスZの実部が正であれば、
【数20】

が成立する。ここで、特性インピーダンスZの実部も正であると仮定していることに留意されたい(この仮定は、通常、満足される)。
【0023】
(9)式から、Sは、図4に示すように、複素平面上において、中心が
【数21】

で、半径が、
【数22】

の円内にあることがわかる。
【0024】
したがって、Sの絶対値(振幅比A)は、
【数23】

以下の有限値となる。すなわち、測定に適する範囲を特に限定することなく、高精度で振幅比Aを測定することができる。また、この円は、原点を通ることから、位相差θは±π/2の範囲内にある。したがって、例えば、公知の簡単な回路を用いて電圧信号の位相差をπ/2だけ進ませておけば、位相差θは0〜πの範囲内の値をとり、それによって、回路構成が簡単で、雑音が少ない乗算器型の位相比較器を用いて位相差θの測定が行える。そして、この測定値からπ/2を引き算することによって、位相差θの値を求めることができる。
【0025】
図2は、本発明の1実施例によるインピーダンス測定装置のブロック図である。図2に示すように、本発明によれば、測定用信号を出力する信号源1と、信号源1および被測定物7を接続する伝送線路2が備えられる。
【0026】
伝送線路2には、進行波電流検出部4が、第1の線路結合器3を介して分岐接続され、信号源1から被測定物8に入射する測定用信号の進行波の電流を検出する。また、伝送線路2には、電圧検出部6が、第2の線路結合器5を介して分岐接続され、進行波の電圧と、被測定物8からの反射波の電圧との合成電圧を検出する。
【0027】
図4には、第1の線路結合器3の回路図の1例を示した。図4の例では、第1の線路結合器は方向性結合器からなっている。図4において、2は伝送線路であり、3aはトロイダルコアであり、3bはコイルである。このコイル3bには、抵抗3cが並列接続される(点aおよび点b)。また、伝送線路2から分岐し、接地された分岐線路に、2個のコンデンサ3d、3eが直列に配置され、2個のコンデンサ3d、3e間の点cと、点bとが接続される。
【0028】
この回路において、進行波の電流および電圧をそれぞれI、V、反射波の電流および電圧をI、Vとすると、c点の電圧Vは、伝送線路2の電圧V+Vをコンデンサ3d、3eで分圧したものであるから、
=α(V+V
と表される。ここで、αは、分圧に用いる2個のコンデンサ3d、3eの容量によって決まる定数である。
【0029】
一方、ab間には、カレント・トランスにより伝送線路2上の電流I−Iに比例した起電力Vabが発生する(反射波の電流は、向きが逆であるので−の符号を付した)。すなわち、
ab=β(I−I
となる。ここで、βは用いるコア材の比透磁率やコイルの巻き数によって決まる定数である。
したがって、a点の電圧Vは、次のように表される。
=V+Vab=α(V+V)+β(I−I
=(αV+βI)+(αV−βI
【0030】
そこで、コンデンサの容量を調節する等して、
αV−βI=0
となるようにしておけば、
=αV+βI=(αZ+β)I
となって、a点において、進行波の成分だけを取り出すことができる。
【0031】
図5には、第2の線路結合器の回路図の1例を示した。図5において、2は伝送線路であり、伝送線路2から分岐し、接地された分岐線路に、2個のコンデンサ5a、5bが直列に配置される。そして、2個のコンデンサ5a、5bの中間から電圧Vが取り出されるようになっている。
【0032】
進行波電流検出部4によって検出された進行波電流値I、および電圧検出部6によって検出された電圧値Vはインピーダンス計算部7に入力され、インピーダンス計算部7は、
【数24】

ここで、
【数25】

であり、Zは伝送線路2の特性インピーダンスである、
に従って決定したZを、被測定物8のインピーダンスの測定値として出力する。
【0033】
図3は、本発明の別の実施例によるインピーダンス測定装置のブロック図である。この実施例は、図2に示した実施例と、進行波電流検出部4および電圧検出部6の伝送線路2に対する分岐接続の構成が異なっているだけである。したがって、図3中、図2に示したものと同一の構成要素には同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0034】
図3の実施例では、進行波電流検出部4および電圧検出部6が、単一の方向性結合器9を介して伝送線路2に分岐接続される。この場合、方向性結合器9の構成は、図4に示したものと基本的に同じであり、進行波電流は、図4の場合と同様にして検出される。一方、電圧は、図4の点cから取り出されるようになっている。
この実施例は、100MHz以下の周波数領域で測定を行う場合であって、カレント・トランスを測定に用いることができる場合に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の1実施例によるインピーダンス測定方法のフロー図である。
【図2】本発明の1実施例によるインピーダンス測定装置のブロック図である。
【図3】本発明の別の実施例によるインピーダンス測定装置のブロック図である。
【図4】図2に示した装置の第1の線路結合器の1例を示す回路図である。
【図5】図2に示した装置の第2の線路結合器の1例を示す回路図である。
【図6】S=V/Iの範囲を示すグラフである。
【図7】従来の反射法によるインピーダンス測定原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0036】
1 信号源
2 伝送線路
3 第1の線路結合器
4 第2の線路結合器
5 進行波電流検出部
6 電圧検出部
7 インピーダンス計算部
8 被測定物
9 方向性結合器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)信号源から伝送線路を通じて測定用信号の進行波を被測定物に入射させるステップと、
(b)前記進行波の電流を検出するステップと、
(c)前記進行波の電圧と、前記被測定物からの反射波の電圧との合成電圧を検出するステップと、
(d)前記ステップ(b)で得られた前記進行波の電流値I、および前記ステップ(c)で得られた合成電圧値Vを用いて、
【数1】

ここで、
【数2】

であり、Zは前記伝送線路の特性インピーダンスである、
に従って決定した値Zを、前記被測定物のインピーダンスの測定値とするステップと、を有することを特徴とするインピーダンス測定方法。
【請求項2】
信号源と、
前記信号源および被測定物を接続する伝送線路と、
前記伝送線路に第1の線路結合器を介して分岐接続され、前記信号源から前記被測定物に入射する進行波の電流を検出する進行波電流検出部と、
前記伝送線路に第2の線路結合器を介して分岐接続され、前記進行波の電圧と、前記被測定物からの反射波の電圧との合成電圧を検出する電圧検出部と、
前記進行波電流検出部によって検出された進行波電流値I、および前記電圧検出部によって検出された電圧値Vを用いて、
【数3】

ここで、
【数4】

であり、Zは前記伝送線路の特性インピーダンスである、
に従って決定したZを、前記被測定物のインピーダンスの測定値として出力するインピーダンス計算部と、を備えたことを特徴とするインピーダンス測定装置。
【請求項3】
前記第1の線路結合器は方向性結合器からなっていることを特徴とする請求項2に記載のインピーダンス測定装置。
【請求項4】
信号源と、
前記信号源および被測定物を接続する伝送線路と、
前記伝送線路の途中に接続された方向性結合器と、
前記方向性結合器に接続され、前記信号源から前記被測定物に入射する進行波の電流を検出する進行波電流検出部と、
前記方向性結合器に接続され、前記進行波の電圧と、前記被測定物からの反射波の電圧との合成電圧を検出する電圧検出部と、
前記進行波電流検出部によって検出された進行波電流値I、および前記電圧検出部によって検出された電圧値Vを用いて、
【数5】

ここで、
【数6】

であり、Zは前記伝送線路の特性インピーダンスである、
に従って決定したZを、前記被測定物のインピーダンスの測定値として出力するインピーダンス計算部と、を備えたことを特徴とするインピーダンス測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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