説明

インピーダンス調整シート及びシールド付き配線部材

【課題】柔軟で可撓性に優れ、低誘電率化を図ることができ、しかも、信号線の様々なピッチ間隔にも容易に適応可能で曲げ応力にも強く、配線部材に使用することによって不要輻射をシールドすると共に特性インピーダンスを調整することのできるインピーダンス調整シートを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂の布状体31によって形成された絶縁体層の一方の面に導電材料からなるシールド層32が設けられると共に、他方の面に粘着剤層33が設けられてなり、前記粘着剤層33によって配線部材の片面又は両面に貼着して該配線部材を被覆することによって特性インピーダンスを調整すると共に不要輻射をシールドする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインピーダンス調整シート及びシールド付き配線部材に関し、詳しくは、特性インピーダンスを調整すると同時に不要輻射をシールドする柔軟で可撓性に優れるインピーダンス調整シート及びこれを使用したシールド付き配線部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル電化製品や電子デバイスの高速化に伴い、これに使用されるケーブルにも、高速インターフェースに対応した高周波の高速信号の伝送が求められるようになってきている。このようなケーブルは、機器筐体内の狭小空間で折り曲げられて組み込まれることが多いため、一般に、信号線を一列に並列させることによって屈曲性に優れる構造のフレキシブルフラットケーブル(以下、FFCという。)が多用されている。FFCは、信号が高速化されるにつれて特性インピーダンス、静電容量の均一性が求められるようになってきており、特に、接続されるデジタル電化製品や電子デバイスと整合するインピーダンス、静電容量に容易に調整することができ、かつ、不要輻射をシールドすることができる柔軟で可撓性に優れるFFCが求められている。
【0003】
ケーブルの信号伝送速度を速くするには、静電容量を小さくする必要がある。静電容量は導体間の距離に反比例し、導体の面積に比例するので、一般に静電容量を小さくするには、導体間の距離を大きくするか、導体の面積を小さくすればよい。
【0004】
特許文献1には、開口金属箔層の開口率を調整することにより、信号線との対向面積を変化させて特性インピーダンスや静電容量を所望の値に調整することが記載されている。開口金属箔層の開口率の調整(開口率を大きくすること)によって、開口金属箔層の面積が変わる(小さくなる)ので信号線との間の絶縁体層の厚みを変えなくても、静電容量を調整(小さく)することができる。特性インピーダンスは静電容量と相関するので、静電容量を調整することで特性インピーダンスを調整することができる。
【0005】
しかし、高速伝送を可能とするべく静電容量を小さくする程、開口金属箔層の開口率を大きくしなくてはならないため、不要輻射を抑制することが困難となり、不要輻射を抑制するために別途の非開口金属箔からなるシールド層を設けなくてはならない。その結果、金属箔層の積層数が増加することにより、製造工数が増加するばかりでなく、得られるケーブルは剛直化してしまい、柔軟性、可撓性に欠ける問題がある。
【0006】
特許文献2には、シールド層を短冊状(櫛歯状)に形成し、これを信号回路と直交する方向となるように配置することにより、信号回路とシールド層間の静電容量を小さくすると共に、曲げ応力により受けるストレスを小さくすることが記載されている。
【0007】
この場合も、短冊形状を適宜調整することで静電容量の調整が可能となるが、シールド層を複雑な短冊状に形成しなくてはならないため、製造が煩雑となる問題がある。しかも、ケーブルに曲げ応力が加わった場合、ケーブルの長さ方向に沿う短冊形状の間の細幅部分に曲げ応力が集中する構造であるため、機械的強度に難点があり、繰り返し曲げ応力が掛った場合にシールド層が破壊されてしまうおそれがある。
【0008】
更に、短冊状のシールド層は部分的に開口した構造であるため、高速伝送を可能とするべく静電容量を小さくする程、短冊間の間隔を大きくしなくてはならず、結局、特許文献1と同様、不要輻射を抑制するために別途の金属箔層を積層しなくてはならず、剛直化する問題がある。
【0009】
特許文献3には、基材フィルム上にマイクロバルーンによる発泡層、接着性の非発泡層を順次形成し、非発泡層の側を向かい合わせ、複数の平角導体を所定ピッチで並べたものをサンドイッチ状にラミネートし、これにシールドテープを巻き付けることによって、静電容量が安定したフラットケーブルとすることが記載されている。
【0010】
静電容量は絶縁体の誘電率に比例するため、絶縁体である発泡層中の低誘電率の気泡(空気)によって静電容量を小さくでき、しかも、気泡の存在によって柔軟なケーブルとすることができると考えられるが、発泡層は機械的強度に劣るため繰り返し曲げ応力が掛かるとシワが発生し易く、やがて破壊されてしまうという問題がある。特に発泡層の誘電率を下げるために気泡含有率や発泡倍率を大きくする程、機械的強度は低下してしまう。
【0011】
一方、機械的強度を低下させないようにするため、気泡含有率を抑える代わりに発泡層を厚くして静電容量を小さくしようとすると、発泡層は厚みが増すと柔軟性に劣るようになるために剛直化する傾向となり、柔軟で可撓性に優れ、曲げ応力にも強いケーブルを得ようとする観点からすると必ずしも満足のいくものではなかった。
【0012】
特許文献4には、プラスチックフィルムの表面又は表裏両面にエンボス加工することによって誘電率調整用の凹凸部を形成した中間介在層を、FFCの絶縁層の表面又は裏面に配置することが記載されている。中間介在層は凹凸部によって柔軟性を有し、しかも低誘電率化を達成することができるとしている。
【0013】
これによれば、発泡層を使用せずに柔軟性を付与できるため特許文献3に見られる問題は解消できると考えられたが、凹部はプラスチックフィルムをエンボスロールで圧縮することによって形成されるため、局部的に密度が上がることによって硬くなってしまい、期待する程の柔軟性は得られなかった。特に、高速伝送を実現するために凹部を深くして誘電率を下げようとする程、凹部をより圧縮して形成しなくてはならず、ケーブルが一層剛直化してしまう問題があった。
【0014】
また、誘電率を均一にするために凹凸部はFFCの信号線のピッチ間隔に合わせて存在させることが望まれるが、FFCの種類(信号線のピッチ間隔)毎にそれぞれ適合したピッチの凹部を形成するためのエンボスロールを用意しなくてはならず、FFCの様々な種類に対する製造上の適応性の面で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−24824号公報
【特許文献2】特開平5−235495号公報
【特許文献3】特開平8−212834号公報
【特許文献4】特開2010−129475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者は、上述した従来技術の問題点に鑑み鋭意検討した結果、柔軟で可撓性に優れ、低誘電率化を図ることができ、しかも、信号線の様々なピッチ間隔にも容易に適応可能で曲げ応力にも強い新たな絶縁体層構造を見出し、本発明に至ったものである。
【0017】
すなわち、本発明は、柔軟で可撓性に優れ、低誘電率化を図ることができ、しかも、信号線の様々なピッチ間隔にも容易に適応可能で曲げ応力にも強く、配線部材に使用することによって不要輻射をシールドすると共に特性インピーダンスを調整することのできるインピーダンス調整シートを提供することを課題とする。
【0018】
また、本発明は、不要輻射をシールドすることができると共に、柔軟で可撓性に優れ、低誘電率化を図ることができ、しかも、信号線の様々なピッチ間隔にも容易に適応可能で曲げ応力にも強い構造を有する特性インピーダンスが調整されたシールド付き配線部材を提供することを課題とする。
【0019】
更に本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0021】
(請求項1)
熱可塑性樹脂の布状体によって形成された絶縁体層の一方の面に導電材料からなるシールド層が設けられると共に、他方の面に粘着剤層が設けられてなり、前記粘着剤層によって配線部材の片面又は両面に貼着して該配線部材を被覆することによって特性インピーダンスを調整すると共に不要輻射をシールドすることを特徴とするインピーダンス調整シート。
【0022】
(請求項2)
前記布状体は、熱可塑性樹脂を一軸延伸して得られた線条体によって形成された織布又は交差結合布からなることを特徴とする請求項1記載のインピーダンス調整シート。
【0023】
(請求項3)
信号線が並列配置された配線部材本体と、
熱可塑性樹脂の布状体によって形成された絶縁体層の一方の面に導電材料からなるシールド層が設けられると共に、他方の面に粘着剤層が設けられてなるインピーダンス調整シートとからなり、
前記配線部材本体の片面又は両面に、前記インピーダンス調整シートが貼着されて被覆されることによって該配線部材本体の特性インピーダンスが調整されると共に不要輻射がシールドされてなることを特徴とするシールド付き配線部材。
【0024】
(請求項4)
前記布状体は、熱可塑性樹脂を一軸延伸して得られた線条体によって形成された織布又は交差結合布からなることを特徴とする請求項3記載のシールド付き配線部材。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、柔軟で可撓性に優れ、低誘電率化を図ることができ、しかも、信号線の様々なピッチ間隔にも容易に適応可能で曲げ応力にも強く、配線部材に使用することによって不要輻射をシールドすると共に特性インピーダンスを調整することのできるインピーダンス調整シートを提供することができる。
【0026】
また、本発明によれば、不要輻射をシールドすることができると共に、柔軟で可撓性に優れ、低誘電率化を図ることができ、しかも、信号線の様々なピッチ間隔にも容易に適応可能で曲げ応力にも強い構造を有する特性インピーダンスが調整されたシールド付き配線部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るインピーダンス調整シートを積層してなるシールド付きFFCの斜視図
【図2】シールド付きFFCを一部破断して示す平面図
【図3】(a)織布によって形成された布状体の断面図、(b)交差結合布によって形成された布状体の断面図
【図4】布状体の部分平面図
【図5】シールド付きFFCの別の態様を一部破断して示す平面図
【図6】(a)は単層からなる線条体の断面図、(b)は基層の片面に接合層を有する線条体の断面図、(c)は基層の両面に接合層を有する線条体の断面図
【図7】(a)はFFC本体の両面にインピーダンス調整シートを積層したシールド付きFFCの断面図、(b)はFFC本体の周囲にインピーダンス調整シートを巻き付け被覆して積層したシールド付きFFCの断面図
【図8】(a)(b)はインピーダンス調整シートのシールド層の接地態様を示す断面図
【図9】シールド付きFFCの柔軟性と信号伝送速度との関係を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係るインピーダンス調整シートは、熱可塑性樹脂の布状体によって形成された絶縁体層の一方の面に導電材料からなるシールド層が設けられると共に、他方の面に粘着剤層が設けられてなり、粘着剤層によって配線部材の片面又は両面に貼着して該配線部材を被覆することによって特性インピーダンスを調整すると共に不要輻射をシールドするものである。
【0029】
布状体は柔軟性、可撓性に優れ、更に詳細は後述するが、同じ素材、同じ厚みの樹脂シートに比べて低誘電率化を図ることができる。また、発泡層のように気泡を含有させる必要がないため、繰り返し曲げ応力が掛かっても破壊され難く、機械的強度にも優れていると共に、使用する線条体の幅、打込み数、ピッチ等を適宜調整することによって特性の微調整が可能である。
【0030】
従って、絶縁体層として布状体を使用し、この絶縁体層の一方の面に導電材料からなるシールド層を設けることで、柔軟で可撓性に優れ、低誘電率で、信号線の様々なピッチ間隔にも容易に適応可能で曲げ応力にも強いインピーダンス調整シートとすることができる。
【0031】
静電容量(特性インピーダンス)の調整は、絶縁体層となる布状体の厚みの調整によって行うことができるが、上述の通り、布状体は柔軟性、可撓性を有するため、静電容量を小さくするために厚みを厚く形成しても十分な柔軟性、可撓性を維持することが可能である。
【0032】
本発明において布状体は、熱可塑性樹脂を一軸延伸して得られた線条体によって形成された織布又は交差結合布からなることが好ましい。一軸延伸されることによって機械的強度により優れた布状体とすることができると共に、線条体の幅や打込み本数を調整することで、柔軟で可撓性を有する所望の布状体を容易に形成することができる。
【0033】
本発明に係るシールド付き配線部材は、信号線が並列配置された配線部材本体と、上記のインピーダンス調整シートとからなり、配線部材本体の片面又は両面に、インピーダンス調整シートが貼着されて被覆されることによって該配線部材本体の特性インピーダンスが調整されると共に不要輻射がシールドされてなる。
【0034】
本発明における配線部材とは、信号線が並列配置され、該信号線によって電気信号を伝送するものであればよいが、特に平坦で柔軟性を有するものが好適である。このような配線部材としては、FFCの他、FPC(フレキシブルプリント回路)等であってもよく、特性インピーダンスや静電容量を調整し、不要輻射をシールド(遮蔽)する必要がある配線部材であれば本発明を適用できる。
【0035】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面を用いて説明する。
【0036】
図1は、本発明に係るインピーダンス調整シートを積層してなるシールド付き配線部材の一例を示す斜視図であり、端部を断面で示している。図2は、同シールド付き配線部材の平面図であり、一部破断して示している。なお、ここでは配線部材としてFFCを例示している。
【0037】
シールド付きFFC1は、FFC本体2と、このFFC本体2の上面側に積層されたインピーダンス調整シート3とを有している。
【0038】
FFC本体2は、多数の信号線(グランド線を含む。)21が所定ピッチで並列配置され、これら信号線21が絶縁樹脂層22で被覆されることによって、平坦で柔軟なケーブルとされている。
【0039】
インピーダンス調整シート3は、絶縁体層が熱可塑性樹脂製の布状体31によって形成され、この布状体31の一方の面に導電材料からなるシールド層32が設けられると共に、布状体31の他方の面に粘着剤層33が設けられている。更に、シールド層32の表面には、シールド層32を絶縁、保護するための表面層34が設けられている。そして、粘着剤層33がFFC本体2の上面に対して接するように積層され、該粘着剤層33によってFFC本体2に貼着されることによってシールド付きFFC1が構成される。
【0040】
本発明におけるインピーダンス調整シート3において、布状体31は、熱可塑性樹脂からなる線条体によって形成される。特に、図3(a)に示すように、一軸延伸された熱可塑性樹脂の線条体31a、31bをそれぞれ経糸、緯糸として用いて織布としたもの、あるいは、図3(b)に示すように、多数並設した熱可塑性樹脂の線条体31aの上に、該線条体31aと直交するように多数の熱可塑性樹脂の線条体31bを並設して、その交点を接合することによって交差結合布(ソフ)としたものが好ましい。
【0041】
線条体31a、31bとしては、モノフィラメント、フラットヤーン、スプリットヤーン、短繊維、長繊維等とすることができるが、中でもフラットヤーンが好ましい。
【0042】
本発明において、インピーダンス調整シート3の絶縁体層としてこのような布状体31を使用することによって低誘電率化を図ることができるのは、以下の理由によるものと考えられる。
【0043】
図4は、線条体31a、31bをそれぞれ経糸、緯糸として織成された織布からなる布状体31の部分平面図を示しているが、同図及び図3に示すように、経糸となる線条体31a相互間、緯糸となる線条体31b相互間、及び、経糸となる線条体31aと緯糸となる線条体31bとの間に、僅かながらも空隙Sが形成される。布状体31は、このような空隙Sを有すると共に、線条体同士が重なり合う部分と隣接する線条体間に他の線条体が通過する部分とが分布して全体として表面が凹凸形状となるが故に、同じ厚み(線条体31aと31bとの合計厚み)の樹脂シートに比べて柔軟性、可撓性に優れる効果を発揮するものであるが、布状体31全体として見た場合、この空隙Sが規則正しく均一に分布することにより、部分的に線条体31a、31bがない部位が存在することになる。これは図3(b)に示す交差結合布からなる布状体31の場合にも同様のことがいえる。
【0044】
このため、布状体31からなる絶縁体層中には、熱可塑性樹脂の線条体31a、31bからなる領域と、この線条体31a、31bが存在しない空隙Sの領域とが規則正しく混在することになり、この空隙S中に空気が存在すること、又は、空隙Sには線条体31a、31bを構成する樹脂が存在しないことが、布状体31全体としての絶縁体層の誘電率を低くすることに寄与しているものと考えられる。その結果、線条体31a、31bを使用した布状体31は、線条体31a、31bと同じ熱可塑性樹脂を使用して平坦な樹脂シートの形態としただけの絶縁体層に比べて低誘電率化を図ることができる。
【0045】
これにより、このインピーダンス調整シート3を積層してなるシールド付きFFC1は、より柔軟でより低静電容量とすることができるので、図9に示すように、絶縁体層が非布状体であるFFC(破線)に比べると、柔軟性を同一とした場合、信号伝送速度をより高速化でき、信号伝送速度を同一とした場合、より柔軟性を有するFFCとすることができる。
【0046】
しかも、熱可塑性樹脂の布状体31は曲げ応力に強く、繰り返し曲げ応力が掛かっても柔軟に追従することができ、従来の発泡層からなる絶縁体層と比べても耐久性に優れたものとすることができる。
【0047】
シールド付きFFC1の静電容量を調整するには、インピーダンス調整シート3の布状体31の厚みを調整することによって行うことができるが、布状体31の厚みは、使用される線条体31a、31bの厚みを適宜調整することによって容易に調整することができる。布状体31とすることで、表面が凹凸形状となるため、厳密には凹部分と凸部分とで厚みが相違し、静電容量が僅かに変化すると考えられるが、凹凸形状は布状体31の全体に亘って規則正しく均一に分布するため、シールド付きFFC1全体としての静電容量はほぼ均一化できる。
【0048】
また、布状体31は線条体31a、31bの幅やピッチ(打込み本数)を適宜調整することで、空隙Sの大きさやピッチを容易に調整することができる。特に、空隙Sの大きさやピッチは、布状体31の柔軟性、可撓性に大きく影響を与えるものであり、例えば、線条体31a、31b自体の厚みが厚くなることによって、もしくは線条体31a、31bの樹脂そのものが比較的柔軟性に劣ることによって、柔軟性、可撓性が低下するような場合に、空隙Sの大きさやピッチを適宜調整することで、所望の柔軟性、可撓性を維持することができる。
【0049】
具体的な空隙Sの大きさは、要求される誘電率、静電容量、柔軟性等によって適宜微調整されるが、15μm×15μm〜2000μm×2000μmとされる。また、インピーダンス調整シート3全体での空隙Sの割合、すなわち下記式によって算出される空隙率は、0.1〜80%、好ましくは1〜75%、更に好ましくは3〜50%とされる。空隙Sの大きさ及び空隙率は、いずれも上記範囲よりも小さくなると、空隙Sや空隙率の調整だけでは十分に静電容量を下げることが困難となり、上記範囲よりも大きくなると機械的強度が不十分となってくる。
【数1】



【0050】
空隙Sの大きさによって調整される布状体31の誘電率は微小なものであるが、換言すれば、空隙Sの大きさやピッチを適宜に調整することによって、布状体31の誘電率を大きく変えることなく、その柔軟性、可撓性を適宜調整することができるということができる。
【0051】
図2は、布状体31の経糸又は緯糸の一方を信号線21の長さ方向に沿わせ、他方を信号線21の長さ方向と直交するようにFFC本体2上に積層した態様を示しているが、線条体31a、31bの幅やピッチを、例えば信号線21の幅やピッチと一致させることによって、線条体31a、31bの交差部と空隙Sとを、各信号線21で均一に分布させるように調整された布状体31とすることが容易である。従って、このインピーダンス調整シート3によれば、空隙SをFFC本体2の信号線21の幅やピッチに合わせて配置する場合でも、信号線21の幅やピッチ間隔の異なる様々な種類のFFC本体2にも容易に適応可能である。
【0052】
なお、インピーダンス調整シート3における布状体31は、図2に示した態様に限らず、図5に示すように、線条体31a、31bがFFC本体2の信号線21の長さ方向に対して斜めとなるように配置される態様としてもよい。
【0053】
布状体31に使用される熱可塑性樹脂の線条体31a、31bとしては、図6(a)に示すように、結晶性樹脂の単層であってもよく、また、図6(b)に示すように、基層310の片面に低融点の接合層311が積層されたものであってもよく、また、図6(c)に示すように、基層310の両面に低融点の接合層311を積層したものであってもよい。
【0054】
熱可塑性樹脂の線条体31a、31bにおける単層体、あるいは積層体の基層310を構成する合成樹脂としては、延伸効果の大きい樹脂、一般には結晶性樹脂が用いられ、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド等を用いることができる。
【0055】
中でも誘電率が低くて加工性、経済性が良好なポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のポリオレフィンが好ましい。特に、ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレンが最も好ましい。
【0056】
高密度ポリエチレンとしては、密度が0.930〜0.970g/cm、好ましくは0.940〜0.960g/cm、MFRが0.2〜10.0g/10分、好ましくは0.3〜3.0g/10分のものが好ましい。
【0057】
接合層311は、線条体31a、31bによって布状体とされた後、線条体31a、31b間を接合するもので、基層310を構成する合成樹脂より融点が低く熱融着性の優れた合成樹脂が用いられる。
【0058】
具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66のポリアミド等を用いることができ、基層310より低融点の合成樹脂が選択される。
【0059】
基層310あるいは接合層311として用いられる合成樹脂には、目的に応じて各種の添加剤を添加することができる。
【0060】
具体的には、有機リン系、チオエーテル系等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系等の光安定剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系等の紫外線吸収剤;帯電防止剤;ビスアミド系、ワックス系、有機金属塩系等の分散剤;アミド系、有機金属塩系等の滑剤;含臭素有機系、リン酸系、三酸化アンチモン等の難燃剤;有機顔料;無機顔料;無機充填剤、有機充填剤;金属イオン系などの無機、有機抗菌剤等が挙げられる。
【0061】
これら添加剤は、適宜組み合わせて、基層310や接合層311の材料組成物を製造するいずれかの工程で配合される。添加剤の配合は、従来の公知の二軸スクリュー押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロール等の混練装置を用いて所定割合に混合して、これを溶融混練して調製してもよいし、高濃度のいわゆるマスターバッチを作製し、これを希釈して使用するようにしてもよい。
【0062】
線条体31a、31bとして基層310と接合層311の積層体が使用される場合、成形材料となる積層フィルムを成形する手段としては、予め基層310となるフィルムと接合層311となるフィルムを形成してドライラミネート法や熱ラミネート法を用いて複層化する手段や、基層310となるフィルムの表面に接合層311となる合成樹脂をコーティングする方法、予め形成した基層310となるフィルムに接合層311を押出ラミネートする方法、あるいは、多層共押出法によって積層フィルムとして押出成形するなどの公知の手段から適宜選択して用いることができる。中でも、成形の容易さやコスト面、並びに、製品の各層間の接着性の点では、多層共押出法によって基層310と接合層311の積層体を一段で得る方法が好ましい。
【0063】
また、延伸して線条体31a、31bとする手段としては、単層の場合は公知の方法で行うことができ、積層体の場合は、基層310となるフィルムを一軸方向に延伸した後、接合層311となる合成樹脂を積層し、これをテープ状にスリットしてもよく、あるいは、基層310と接合層311が積層された積層フィルムをスリットする前、又は、スリットした後、一軸方向に延伸することによって得ることもできる。延伸倍率は通常3〜10倍程度とされる。
【0064】
こうして得られた一軸延伸フラットヤーンは、縦方向に小さな切れ目を入れてスプリットヤーンとすることもできる。また、線条体31a、31bとしては、一軸延伸されたモノフィラメントを使用することもできる。
【0065】
線条体31a、31bは、図3(a)に示すように、平織、綾織等の織布とし、また、図3(b)に示すように、多数の線条体31aを一方向に並設し、その上に直交する方向に多数の線条体31bを並設して、その交点を接合した交差結合布(ソフ)とすることによって布状体31とされる。
【0066】
布状体31は、必要に応じて線条体31a、31bの交点が接合される。線条体31a、31bの交点を接合する方法としては、ホットメルト型接着剤で接着することができ、また、線条体31a、31bが、図6(b)(c)に示す接合層311を有するときは、熱ロールを用いて熱圧着して接合層311を溶融させて融着させることにより接合することができる。
【0067】
線条体31a、31bの太さや幅は何らの制限はなく、目的に応じて、すなわち積層対象のFFC本体2の信号線21の幅やピッチ、シールド付きFFC1に要求される静電容量(特性インピーダンス)、柔軟性や可撓性の程度等に応じて任意に設定することができるが、一般には50〜10000dt(デシテックス)、糸幅が0.3〜10mmの範囲とすることが好ましい。
【0068】
インピーダンス調整シート3の布状体31には、図3に示すように、熱可塑性樹脂層31cを更に積層することもできる。図3は布状体31の両面に熱可塑性樹脂層31cをそれぞれ積層しているが、片面のみであってもよい。熱可塑性樹脂層31cを積層することによって、線条体31a、31bの目ずれ防止をより確実にすることができる。
【0069】
なお、布状体31の両面に熱可塑性樹脂層31cを積層する場合であっても、線条体31a、31b間には空隙Sは残存し、この空隙Sは線条体31a、31bが存在しない部位となるため、上述した空隙Sの機能が完全に失われてしまうことはない。
【0070】
この熱可塑性樹脂層31cとして使用される材料としては、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド等を用いることができ、中でもポリオレフィンが好ましく、ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1等の単独重合体、あるいはこれらを主成分とする共重合体を用いることができる。
【0071】
特にメタロセン触媒を用いて重合されたポリオレフィン、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体を使用することが好ましい。
【0072】
布状体31と熱可塑性樹脂層31cとの貼り合わせは自体公知の手段によって行なうことができ、布状体31の上に熱可塑性樹脂層31cを重ねて熱ロールを用いて熱圧着する方法、布状体31の上に熱可塑性樹脂層31cとなる樹脂をフィルム状に押出して押出しラミネートする方法、熱可塑性樹脂層31cをホットメルト剤等の接着剤によって布状体31に接着することによって行なうこともできる。
【0073】
熱可塑性樹脂層31cの厚さは目的に応じて任意に選択し得るが、一般には、各層が10〜100μmであることが好ましく、15〜40μmであることが更に好ましい。
【0074】
布状体31の厚みは、シールド付きFFC1を構成した際の静電容量(特性インピーダンス)を規定するためのファクターとなり、所望の値とするために適宜調整されるものであって、何ら限定されるものではないが、10μm〜1000μmとすることができる。この範囲であれば、同等の厚みの樹脂シートとするよりも柔軟で可撓性に優れ、インピーダンス調整シートとして好適に使用できる。熱可塑性樹脂層31cを設けた場合、布状体31の厚みには、この熱可塑性樹脂層31cの厚みも含む。
【0075】
布状体31は、上記厚みの下限値よりも薄くなると、静電容量が大きくなって高速伝送用途には適さなくなり、上記厚みの上限値を超えるようになると、空隙Sの大きさや空隙率を調整してもインピーダンス調整シート3が剛直化する傾向が出始める。より好ましくは50μm〜300μmとすることである。
【0076】
インピーダンス調整シート3において、シールド層32は、従来のように静電容量を調整するための開口部を形成する必要はなく、表面平坦な導電材料からなる層状体を使用することによって不要輻射のシールド(遮蔽)機能を担うものである。このような導電材料には、不要輻射をシールド可能な導電材料であれば特に問わないが、例えば銅、銀、ニッケル、アルミニウム、ステンレス等の金属;導電性酸化亜鉛、導電性酸化インジウム、導電性酸化チタン、導電性酸化スズ等の金属酸化物;アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ等の導電性カーボン;ポリピロール、ポリアニリン等の導電性ポリマー等の1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、銅、銀、アルミニウムが導電性、可撓性に優れるために好ましい。
【0077】
シールド層32は、導電材料によって薄膜状に形成されたものを、図示しない粘着剤層を介して布状体31に貼着することができる。その他、蒸着やスパッタリングによって布状体31の一方の面に導電材料からなる薄膜を被覆形成することによって設けるようにしてもよい。
【0078】
シールド層32の厚みは、0.1μm〜2,000μmとすることができる。下限値よりも薄くなると、不要輻射のシールド及び静電容量の調整が困難になり、上限値を超えると、オーバースペックとなり、剛直化の原因となる。より好ましくは0.4μm〜200μmとすることである。
【0079】
粘着剤層33は、布状体31の他方の面(シールド層32と反対側の面)に積層されている。この粘着剤層33に用いられる粘着剤は、常温でタック性を有するものであり、接着剤のように硬化処理によって硬化されることで接着機能を発揮するものとは異なる。
【0080】
粘着剤層33に用いられる粘着剤は、測定面が円錐・円盤型の動的粘弾性測定装置を用い、温度23℃、周波数1Hzの条件で測定した貯蔵弾性率が、好ましくは、10Pa以上、10Pa以下、より好ましくは、10Pa以上、10Pa以下の範囲である。上記の範囲内であれば、粘着性が過少となることなく、粘着力と凝集力との適切なバランスが維持されるので、FFC本体2に貼着されるインピーダンス調整シート3として好ましい。
【0081】
粘着剤層33に用いられる粘着剤のガラス転移温度は、好ましくは、−20℃以下、より好ましくは−30℃以下である。この値以下のガラス転移温度であれば、優れた粘着性を有しており、FFC本体2への粘着が容易となるため、FFC本体2に貼着されるインピーダンス調整シート3として好ましい。
【0082】
また、粘着剤層33に用いられる粘着剤の重量平均分子量は、好ましくは、50,000以上、より好ましくは、150,000〜1,500,000、最も好ましくは、200,000〜1,000,000の範囲である。この下限値以上であれば、得られた粘着剤層33の粘着力及び凝集力が良好なバランスを有しているので、インピーダンス調整シート3として好ましく、上限値以下であれば、粘着剤層33を形成時の粘着剤溶液の塗工に際して、固形分をあまり低下させなくても好適な塗工粘度が得られるので、比較的短時間で乾燥させて粘着剤層33を形成させることができ、揮散する有機溶媒量も抑えることができるので、インピーダンス調整シート3として、経済的にも環境衛生的にも好ましい。
【0083】
すなわち、インピーダンス調整シート3は、粘着剤層33によって、積層対象であるFFC本体2のような配線部材に対して粘着するものであって、硬化されるものではないため、配線部材がFFC本体2のようにフレキシブルな場合であっても、その柔軟性を損なうことがない。
【0084】
粘着剤層33に用いられる具体的な粘着剤としては、例えばアクリル樹脂系粘着剤、天然ゴムや合成ゴム等のゴム系粘着剤、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体やスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体並びにこれらの水素添加物等のブロック共重合体系粘着剤、エチレン-酢酸ビニル共重合体系粘着剤、ポリビニルエーテル樹脂系粘着剤、シリコン樹脂系粘着剤等が挙げられ、中でも耐久性や耐候性に優れ、取り扱い時の汚れも少ないアクリル樹脂系粘着剤が好適に用いられる。これらの粘着剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0085】
アクリル樹脂系粘着剤としては、例えばカルボキシル基含有単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を重合させて得られるアクリル系ポリマーが用いられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体のアルキル基の炭素数は4〜12程度が望ましく、具体的には、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。カルボキシル基含有単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等のモノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸等のジカルボン酸やこれらのモノエステル等が挙げられる。
【0086】
アクリル樹脂系粘着剤の重合方法は、特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合など公知の方法を採用できるが、耐久性に優れている溶液重合の採用が好ましい。
【0087】
また、これらの粘着剤の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、溶剤型粘着剤、エマルジョン型粘着剤、ホットメルト型粘着剤、反応型粘着剤、光重合可能なモノマー型粘着剤等のいずれの形態であってもよい。塗工手段や乾燥方法に制限はなく、公知の手法を採用できる。
【0088】
粘着剤層33は、凝集力を向上させるため、多価イソシアネート化合物、多価エポキシ化合物、アミノ系樹脂、多価金属キレート系化合物等の架橋剤により、架橋させることが好ましい。これら架橋剤のうち、粘着剤層形成に際して用いる粘着剤のポットライフの長さや架橋速度の早さ等の理由から、多価イソシアネート化合物の使用が好ましい。
【0089】
また、これらの粘着剤には、本発明の課題乃至目的を阻害しない範囲、特に柔軟性を損なわない範囲で、必要に応じて、粘着性付与剤、カップリング剤、充填剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤(老化防止剤)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、消泡剤、難燃剤、帯電防止剤(銅粉末、ニッケル粉末等の金属粉、カーボン等の導電性フィラーを除く)等の各種添加剤の1種もしくは2種以上が添加されていてもよい。
【0090】
但し、本発明において粘着剤層32には導電性は不要である。従って、粘着剤層33中に銅粉末、ニッケル粉末等の金属粉、カーボン等の導電性フィラーを添加することはない。これらは柔軟性を損なう原因となる。
【0091】
粘着剤層33の形成方法は、粘着剤を塗布する等の従来公知の方法を適宜採用することができる。また、粘着剤層33の厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは、1μm〜0.5mm、より好ましくは、10〜200μmである。粘着剤層33の厚みが1μm未満であると、FFC本体2等の配線部材に対する粘着性や凹凸追従性が不十分となり、インピーダンス調整シート3としての柔軟性を維持する上で好ましくなく、逆に厚みが0.5mmを超えると、粘着力はもはやそれ以上向上しないにもかかわらずコスト高となる。
【0092】
インピーダンス調整シート3における表面層34は、シールド層32の保護及び絶縁を図るための層である。表面層34の材料としては、インピーダンス調整シート3の柔軟性、可撓性を損なわない限り、特に限定されるものではないが、例えばセロファン、セルロイド、合成紙、アート紙、再帰反射シート、熱可塑性樹脂等を用いることができる。
【0093】
中でも熱可塑性樹脂が好ましく、高圧法低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のエチレン系重合体、あるいは、ポリプロピレン、プロピレンを主成分とするプロピレン−α−オレフィン共重合体等のプロピレン系重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0094】
表面層34の厚みは、0.5μm〜300μmとすることができる。下限値よりも薄くなると、シールド層32の保護機能が低下し、上限値を超えると、オーバースペックとなり、剛直化の原因となる。より好ましくは5μm〜100μmとすることである。
【0095】
表面層34の積層方法としては適宜公知の方法によってシールド層32の表面に積層することができる。
【0096】
以上のように構成されたインピーダンス調整シート3は、配線部材に対して積層されるまで、図示しないが、粘着剤層33の表面に剥離シートが設けられることによって粘着面が保護される。そして、このインピーダンス調整シート3が、剥離シートを剥離することによって、特性インピーダンスの調整及び不要輻射のシールド対象となるFFC本体2の表面に、粘着剤層33が接するように載置され、該粘着剤層33によって貼着されることにより、シールド付きFFC1が得られる。
【0097】
図1に示すシールド付きFFC1は、FFC本体2の片面のみにインピーダンス調整シート3を貼着して積層するようにしたが、図7(a)に示すように、インピーダンス調整シート3をFFC本体2の両面に貼着して積層してもよい。また、図7(b)に示すように、インピーダンス調整シート3をFFC本体2の周囲に巻き付けて被覆するように積層してもよい。
【0098】
インピーダンス調整シート3を積層したシールド付きFFC1は、図8(a)に示すように、インピーダンス調整シート3の端部において、一端がFFC本体2のグランド線21aと導通する導通線21bの他端側を折り曲げて布状体31とシールド層32との間で挟着することによって、シールド層32とグランド線21aとを導通させる。これにより、インピーダンス調整シート3のシールド層32は、導通線21bを介してFFC本体2の信号線21のグランド線21aと電気的に接続されて接地電位に保たれ、シールド層32と信号線21との間のキャパシタンスによって特性インピーダンスが規定される。導通線21bは、グランド線21a自体を折り曲げることによって形成してもよい。
【0099】
また、図8(b)に示すように、インピーダンス調整シート3の端部において、表面層34の一部を除去することによってシールド層32が露出する露出部32aを形成しておき、この露出部32aにおいて、シールド付きFFC1が接続される図示しないコネクタ側のグランド線又はグランド電極と導通させることよって、インピーダンス調整シート3のシールド層32を接地電位に保つようにしてもよい。
【実施例】
【0100】
以下、実施例によって本発明の効果を例証する。
【0101】
(実施例1)
糸幅1.2mm、繊度300dtの高密度ポリエチレンのフラットヤーンを経糸及び緯糸として、25.4mm当たり14本の割合で平織した厚さ50μmの高密度ポリエチレンのフラットヤーン織布を得た。
【0102】
得られた織布の両面に、低密度ポリエチレンを押出しラミネートし、両面に低密度ポリエチレン層(熱可塑性樹脂層)が積層されたポリエチレン布状体(絶縁体層)を得た。得られたポリエチレン布状体の総厚みは90μmであった。
【0103】
このポリエチレン布状体の低密度ポリエチレン層表面にコロナ放電処理を行ってぬれ張力を440μN/cmとした。
【0104】
次いで、低密度ポリエチレン層の一方の面にポリウレタン系接着剤を介して9μmのアルミ箔を接合してアルミ箔層(シールド層)を有する積層体を得た。
【0105】
次に、剥離シートの剥離処理面に、アクリル系粘着剤組成物「コーポニールNK−631(日本合成化学社製)/コローネートL(日本ポリウレタン工業社製)=100重量部/1重量部の混合物」溶液を塗布厚み(固形分基準)20μmとなるように塗布した。100℃で1分間循環式乾燥機にて乾燥した後、基材シートとして上記積層体を貼り合わせ、23℃、65%RHの条件で7日間架橋させてインピーダンス調整シートを得た。
【0106】
得られたインピーダンス調整シートを25芯のFFC「スミカードSML2CD−25BD(住友電工社製)」に貼り付け、アルミ箔層をグランド線と接続し、配線部材を得た。
【0107】
得られた配線部材の特性インピーダンスは100Ωであった。
【0108】
(実施例2)
実施例1において25.4mm当たり16本の割合で平織した厚さ50μmの高密度ポリエチレンのフラットヤーン織布を使用した以外は実施例1と同様にしてインピーダンス調整シートを得た。得られたインピーダンス調整シートを実施例1同様にしてFFCに貼り付けて配線部材を得た。
【0109】
得られた配線部材の特性インピーダンスは100Ωであった。
【0110】
(実施例3)
実施例1において糸幅1.2mm、繊度310dtのポリプロピレンのフラットヤーンを経糸及び緯糸として使用したフラットヤーン織布を使用し、この織布の両面にポリプロピレンを押出しラミネートしてポリプロピレン布状体(総厚み90μm)とした以外は実施例1と同様にしてインピーダンス調整シートを得た。得られたインピーダンス調整シートを実施例1同様にしてFFCに貼り付けて配線部材を得た。
【0111】
得られた配線部材の特性インピーダンスは100Ωであった。
【0112】
(比較例1)
実施例1においてポリエチレン布状体を用いる代わりにポリエチレンシート(厚み90μm)を用いた以外は実施例1と同様にしてインピーダンス調整シートを得た。得られたインピーダンス調整シートを実施例1同様にしてFFCに貼り付けて配線部材を得た。
【0113】
得られた配線部材の特性インピーダンスは50Ωであった。
【0114】
(比較例2)
実施例1においてポリエチレン布状体を用いる代わりに、マイクロバルーン「アドバンセルEMH201(積水化学製)」を混合したポリエチレン発泡体シート(発泡倍率1.1倍、厚み90μm)を用いた以外は実施例1と同様にしてインピーダンス調整シートを得た。得られたインピーダンス調整シートを実施例1同様にしてFFCに貼り付けて配線部材を得た。
【0115】
得られた配線部材の特性インピーダンスは100Ωであった。
【0116】
<測定、評価方法>
実施例1〜3及び比較例1、2について、空隙率、粘着力、シールド特性、屈曲試験について評価した。その結果を表1に示す。
【0117】
1.空隙率
下記式にて空隙率を算出した。
【数2】



【0118】
2.粘着力
JIS−Z0237に準拠した。
【0119】
3.シールド特性
銅パイプ法に順次、1GHzにて測定した。
【0120】
4.屈曲試験
JIS−P8115に準拠し、10000回屈曲後の表面の状態を見てシワ、クラックの形状を観察し、以下の基準に従って評価した。
○:表面にシワやクラックが無い。
△:表面にシワが僅かあり、クラックは無い。
×:表面にシワがはっきり判り、クラックが発生している。
【表1】



【0121】
実施例1、2と比較例1との比較から判るように、絶縁体層として同じ厚みのポリエチレンを使用しても、布状体によって形成した実施例1、2は特性インピーダンスが100Ωであり、比較例1が50Ωとなった。これは実施例1、2では絶縁体層を布状体構造としたことによって、シート状とした比較例1に比べて配線部材の静電容量が低下したことによるものである。
【0122】
しかも、実施例1、2は布状体であるために柔軟性、可撓性に優れ、屈曲試験では表面にシワやクラックの発生は見られなかったが、比較例1では剛直となってシワ、クラックが発生した。また、一般に絶縁体層、静電容量及び特性インピーダンスの関係は、絶縁体層を厚くして静電容量を小さくすると特性インピーダンスは大きくなる関係にあるため、比較例1のようにポリエチレンシートからなる絶縁体層を使用して実施例1、2と同様の100Ωにするには、絶縁体層をより厚く形成しなくてはならなくなり、より剛直化に向ってしまう。
【0123】
更に、絶縁体層として同じ厚みの発泡樹脂層を使用した比較例2においても、屈曲試験では表面にシワやクラックの発生が見られた。
【0124】
従って、本発明のように絶縁体層として熱可塑性樹脂の布状体を使用することにより、柔軟で可撓性に優れ、曲げ応力にも強く、低誘電率化を図ることができるインピーダンス調整シート、及び、このインピーダンス調整シートによりインピーダンスが調整されたシールド付き配線部材を提供することができた。
【0125】
また、実施例3のように絶縁体層としてポリプロピレン布状体を使用しても、実施例1、2と同等の性能が得られた。
【符号の説明】
【0126】
1:シールド付きFFC
2:FFC本体
21:信号線
21a:グランド線
21b:導通線
22:絶縁樹脂層
3:インピーダンス調整シート
31:布状体
31a、31b:線条体
31c:熱可塑性樹脂層
310:基層
311:接合層
32:シールド層
33:粘着剤層
34:表面層
S:空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の布状体によって形成された絶縁体層の一方の面に導電材料からなるシールド層が設けられると共に、他方の面に粘着剤層が設けられてなり、前記粘着剤層によって配線部材の片面又は両面に貼着して該配線部材を被覆することによって特性インピーダンスを調整すると共に不要輻射をシールドすることを特徴とするインピーダンス調整シート。
【請求項2】
前記布状体は、熱可塑性樹脂を一軸延伸して得られた線条体によって形成された織布又は交差結合布からなることを特徴とする請求項1記載のインピーダンス調整シート。
【請求項3】
信号線が並列配置された配線部材本体と、
熱可塑性樹脂の布状体によって形成された絶縁体層の一方の面に導電材料からなるシールド層が設けられると共に、他方の面に粘着剤層が設けられてなるインピーダンス調整シートとからなり、
前記配線部材本体の片面又は両面に、前記インピーダンス調整シートが貼着されて被覆されることによって該配線部材本体の特性インピーダンスが調整されると共に不要輻射がシールドされてなることを特徴とするシールド付き配線部材。
【請求項4】
前記布状体は、熱可塑性樹脂を一軸延伸して得られた線条体によって形成された織布又は交差結合布からなることを特徴とする請求項3記載のシールド付き配線部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−8934(P2013−8934A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142383(P2011−142383)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】