インフルエンザワクチン
【課題】天然のノイラミニダーゼに対応する抗原特性をもち、正確な作法で折り畳まれる組換えインフルエンザノイラミニダーゼを提供すること。
【解決手段】ノイラミニダーゼ発現ベクターベクターで形質転換された宿主細胞、またはノイラミニダーゼ発現ベクターで形質転換されたウイルスに感染させた宿主細胞を適当な培養培地中で培養し(ここで、発現ベクターには、膜アンカーをコードする領域を欠損しているインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域の少なくとも一部、またはその修飾バージョンが含まれ、該コード領域に先立ち、シグナル配列が相内で連結している);該発現産物ノイラミニダーゼを培養培地から単離することによって得られる組換えノイラミニダーゼならびに該組換えノイラミニダーゼを適用したワクチンおよびその製造方法ならびに精製方法を提供する。
【解決手段】ノイラミニダーゼ発現ベクターベクターで形質転換された宿主細胞、またはノイラミニダーゼ発現ベクターで形質転換されたウイルスに感染させた宿主細胞を適当な培養培地中で培養し(ここで、発現ベクターには、膜アンカーをコードする領域を欠損しているインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域の少なくとも一部、またはその修飾バージョンが含まれ、該コード領域に先立ち、シグナル配列が相内で連結している);該発現産物ノイラミニダーゼを培養培地から単離することによって得られる組換えノイラミニダーゼならびに該組換えノイラミニダーゼを適用したワクチンおよびその製造方法ならびに精製方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えインフルエンザノイラミニダーゼ、組換えノイラミニダーゼを宿主細胞中で発現しうる発現ベクター、組換えノイラミニダーゼの産生および精製方法、インフルエンザに対するワクチンおよび本発明の組換えノイラミニダーゼの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザA型およびB型ウイルスによる流行性感冒(インフルエンザ)は、感染者に相当な被害を与え、社会生活および経済生活に大きな影響を及ぼす。インフルエンザは高齢者および慢性疾患の患者において死亡率が高い。1940年代における流行の際に、鶏卵中で培養されたウイルス物質に基づく不活性ワクチンがインフルエンザ感染に対して明らかに効果があることがわかり、その結果、危険率の高い集団の死亡率が大きく低下した。
インフルエンザウイルスは、その2つの表面抗原、すなわち血球凝集素ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)において有意な抗原変異(いわゆる「抗原ドリフト」)を起こすため、咽喉管に生存するウイルスのなかでもユニークである。
その上、特にインフルエンザA型ウイルスは、「抗原シフト」という現象によって効果のある免疫を回避することができる。ヒトのウイルスにおいてこのような現象が出現するのは、インフルエンザ遺伝子の動物保菌者由来のNA遺伝子に起因するものである。かくして、1957年に、それまで流行していたNA1型のウイルスは新しいNA2型のウイルスと置き換えられた。1977年以来、NA1型のウイルスがヒト集団に再び戻って来ている。したがって、本発明ワクチンは好ましくはNA1およびNA2型ウイルスの両方に対応しうるものを目指さねばならない。
NAはグリコシル基の末端シアル酸残基の除去に触媒作用を及ぼし、それによってHAの可能な受容体が破壊される(ゴッチャルク,1957;バーネットおよびストーン,1947)。ウイルスの集合の阻止および細胞間におけるウイルスの充分な拡散においてNAが本質的に関与していると考えられる(コールマンおよびワード,1985)。
それぞれのNA分子(Mr=240,000)は、ジスルフィド架橋に結合し、非共有結合によって共に交互に保持しあう2組のダイマーで築き上げられた4個の同一のポリペプチド鎖からなるキノコ様構造をしている(ブッチャーおよびキルボーン,1972;レイバーおよびバレンタイン,1969;バルゲーゼら,1983;ワードら,1983)。HAとは異なって、NAは、非スプライス、NA末端、親油性配列、いわゆる膜アンカーによって脂質膜につながれている(フィールズら,1983;ブロックら,1982)。構造全体のうち最も大きな部分が膜の上に突き出ており、そこで伸長した「柄」領域の頂部に位置する末端・箱形状の「頭部」領域を形成する(リグレイら,1973)。該頭部の内側に、各モノマーはそれ自身の触媒部位をもち、少なくとも4個のNA結合グリコシル基が含まれる(コールマンら,1983;ワードら,1982)。O−グリコシル化の存在は、現在のところまだ説明されていない。
外部に局在しているために、HAおよびNA抗原は、宿主の免疫系にとって最も重要なウイルス標的構造となっている。HAに特異的に結合する抗体はウイルスの感染性を中和すると考えられ、それはおそらく早期段階の感染を遮断することによるものであろう(ハースト,1942;キダら,1983)。NA特異的抗体は通常、標的細胞の初期感染を阻止するのではなく(ジャヒエルおよびキルボーン,1966;キルボーンら,1968;ヨハンセンら,1988)、ウイルスの拡散を阻止する。さらに、競合メカニズムにより、より頻繁に発生するHA抗原のために、NAに対する免疫応答が部分的に抑制されるように思われる(ヨハンセンら,1987;キルボーン,1976)。実際のところ、NA免疫の効果は、ほとんどが中和性のHA抗体によって覆い隠されている。このために、ワクチン設計者たちの注意は、長い期間にわたってもっぱらHAに焦点を向けられている。
しかし、多くの実験的観察結果から、インフルエンザに対する防御免疫の構築において、NAが実際に重要なパートを演じることが可能であることが示されている(シュルマンら,1968;ヨハンセンおよびキルボーン,1990;ヨハンセンら,1993)。NAの免疫原能力に向けた基礎的な研究には、十分な量の非常に純粋な抗原を、正確な三次元コンホメーションで利用できることが必要である。現在のところ、NAはウイルスのエンベロープを界面活性剤で処理すること(ギャラガーら,1984;キルボーンら,1968)またはプロナーゼを用いることが多いが、タンパク質頭部のタンパク質分解切断(セトら,1966;ロットら,1974)によって製造され、次いで精製されている。ある程度までは利用可能であるけれども、これらの方法には収率および純度に関して無視できない限界がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、天然のノイラミニダーゼに対応する抗原特性をもち、正確な作法で折り畳まれる組換えインフルエンザノイラミニダーゼを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような実質的単離体である組換えノイラミニダーゼを、本発明にしたがって、
a)ノイラミニダーゼ発現ベクターで形質転換された宿主細胞、またはノイラミニダーゼ発現ベクターで形質転換されたウイルスに感染させた宿主細胞を適当な培養培地中で培養し(ここで、発現ベクターには、膜アンカーをコードする領域を欠損しているインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域の少なくとも一部、またはその修飾バージョンが含まれ、該コード領域に先立ち、シグナル配列が相内で連結している);次いで
b)培養培地から発現産物ノイラミニダーゼを単離することによって得ることができる。
培養培地に分泌される本発明の組換えノイラミニダーゼは、たとえば基礎的研究に用いることができ、そこでは、ワクチン中でのNAの役割を決定するために、NAの単独のワクチン接種が行われる。しかし実際問題として、ワクチンによる防御の度合(感染に対して効果的に防御される接種集団のパーセンテージ)および防御の持続性(後期流行性株に対する防御)を増強するために、組換えNAをHAと組み合わせて使用することはまだないであろう。
【0005】
さらに詳しくは、本発明は、宿主細胞を適当な培養培地中で培養し、培養培地から発現産物であるノイラミニダーゼを単離することによって得られる組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼを提供する。これには実際問題として、たとえば、pAc2IVAsからの組換え発現モジュールを、野生型バキュロウイルスまたはその誘導体に乗り換えさせる操作が必然的に伴う。次いで宿主細胞をこの組換えバキュロウイルスに感染させる。
組換えインフルエンザノイラミニダーゼの産生に用いる宿主細胞は、昆虫などの下等真核生物由来のもの、たとえば昆虫細胞系sf9が好ましいが、サッカロミセスまたはピチアなどの酵母細胞も使用しうる。
【0006】
さらに本発明は、複製起点、膜アンカーをコードする領域を欠損したインフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域の少なくとも一部、またはその修飾バージョン、コード領域の5'に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列、シグナル配列の5'に位置するプロモーターおよびコード領域の3'に位置する転写ターミネーターを含む、分泌可能なインフルエンザノイラミニダーゼを発現するための2種のベクターに関する。さらに詳しくは、本発明は、複製起点、膜アンカーをコードする領域を欠損したウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域、またはその修飾バージョンを含む、分泌可能なインフルエンザNA2ノイラミニダーゼを発現するためのベクターを提供する。
【0007】
昆虫細胞中で発現するには、このようなベクターを野生型バキュロウイルスまたはその誘導体とともに細胞中に入れる。組換えバキュロウイルスは、二重相同的組換えによって得られ、ここではベクターの発現モジュールがウイルスのゲノムに導入される。プラーク精製後、組換えバキュロウイルスのストックが得られ、続いて、それを用いてsf9細胞などを感染させることができる。
【0008】
シグナル配列は、インフルエンザNA2ウイルス「A/ビクトリア/3/75」の血球凝集素遺伝子由来のものであるのが好ましい。本発明は、ベクターpAc2IVNAs(ベルギー、ベー−9000ゲント、カー・エ・レーデガンクストラート35番、ラボラトリウム・ボーア・モレキュライル・ビーオロジー−プラシスデンコレクチエ(LMBP)に1994年1月3日に提出され、寄託番号はLMBP2976である)を用いて、二重相同的組換え手段によって、たとえばバキュロウイルスなどのウイルスを形質転換するのが好ましい。ここでは、転写制御シグナル、シグナル配列およびコード領域からなるベクターの発現モジュールを、ウイルスのゲノムに組み入れる。
【0009】
本発明の他の具体例においては、本発明にしたがって第2のベクターを使用する。このベクターは酵母中で使用されることを企図されており、たとえば複製起点、ノイラミニダーゼの膜アンカーおよび柄部分をそれぞれコードする領域を欠損しているウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域、またはその修飾バージョン、コード領域の5'に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列、シグナル配列の5'に位置するプロモーターおよびコード領域の3'に位置する転写ターミネーターを含む。
【0010】
プロモーターおよびターミネーター配列は相同的であり、メチロフィック酵母ピチア・パストリス由来であることが好ましく、アルコールオキシダーゼI遺伝子配列などが該当する。シグナル配列はたとえば、サッカロミセス・セレビシアエのプレプロ接合因子αの分泌シグナルである。
【0011】
このベクターpPP1IVVAflsはベルギー、ベー−9000ゲント、カー・エ・レーデガンクストラート35番、ラボラトリウム・ボーア・モレキュライル・ビーオロジー−プラシスデンコレクチエ(LMBP)に1995年1月3日に提出され、寄託番号はLMBP3223である。
【0012】
本発明の組換えノイラミニダーゼは、インフルエンザウイルス、特にNA2型のインフルエンザウイルスに対する防御免疫を産生することが可能であることが見いだされている。したがって、本発明はまた、組換えノイラミニダーゼを含むインフルエンザに対するワクチンに関する。
【0013】
さらにまた本発明は、組換えノイラミニダーゼの製造方法および精製方法に関する。
【0014】
本明細書および請求の範囲において語句「NAs」は、分泌可能な(組換え)ノイラミニダーゼを意味する。「pNA」は、プロナーゼで処理された天然のノイラミニダーゼを意味する。「NA」はノイラミニダーゼを意味する。
【0015】
次に述べる実施例において本発明をさらに詳しく説明するが、この実施例は説明の手段としてのみ意図されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0016】
実施例1
組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼの発現、精製および特性付け
材料および方法
1.分泌されるノイラミニダーゼをコードする遺伝子の構築およびそのバキュロウイルス発現系への組込み
a.プラスミド プラスミドpV6/21は、1コピーのA/ビクトリア/3/75(H3N2)インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ遺伝子を含むpBR322の誘導体である(ヴァン・ロムプイら,1982)。pSV51およびpSV23mとpSV24mの両方は、それぞれ後期および初期SV40置換ベクターであり、他の文献に記載されている(ヒュイルブレックら,1988)。pSRS−8は、A/ビクトリア/3/75(H3N2)の血球凝集素(HA)遺伝子の出発配列を含むpPLa2311に基づくプラスミドである(ヒュイルブレックら,1988)。バキュロウイルストランスファーベクターpVL941が、ラッコウおよびサマーズによって設計された(1989)。
【0017】
b.HAシグナルペプチド配列のサブクローニング(pIV−プレHA) 1830bpのpSRS−8のBstNIフラグメントをクレノウ酵素で満たした。PvuIIリンカー(GCAGCTGC)を続いて配列した。得られるフラグメントおよびpBR322をPvuIおよびPvuIIで切断し、それぞれ731bpおよび1699bpのフラグメントを単離した。これらの2つのフラグメントを連結して、G-16(ATG=+1,+2,+3)で出発するHA遺伝子の5'非翻訳領域、次いで完全なHAシグナルペプチド配列および成熟HAの最初の2,3個のコドンを含むpIVプレHAを作成した。
【0018】
c.分泌されうるNAをコードするキメラ配列:pATIVNAsの構築 pV6/21をPvuIで開環し、Bal31エキソヌクレアーゼで処理した。この混合物にHindIIIリンカーを連結し、次いでHindIIIで切断した。約1500bpのNAフラグメントを選択し、pSV23mの非反復HindIII制限部位でクローニングした(pSV23mIVNA)。左回りのインサートをもつプラスミドをFnudIIおよびSalIで続いて切断し、膜アンカー配列の欠損したNA遺伝子を含む1291bpフラグメントを回収した。pIVプレHAをPstIおよびPvuIIとともにインキュベートし、HAシグナル配列をもつ861bpのフラグメントを保存した。PvuII/PstIブラント末端の連結によって、最終的に両方のフラグメントを結合し、pAT153の2253bp−SalI/PstIフラグメントに挿入し、pATIVNAsを得た。このプラスミドは、成熟HAの最初の2,3個のアミノ酸を含むHAのシグナルペプチド、すぐに続いてシグナルペプチド/膜アンカーを欠損したNA配列および「柄」をコードする領域の一部をコードする配列を有している。HAおよびNAフラグメントの連結によって、成熟HAの5位に対応する単一のアミノ酸が置換された(GlyからAlaへ)。ミン・ジョウら(1988)およびバン・ロムプイら(1982)の文献に記載の情報に基づき、NAs中の連結部位に隣接する予測されたDNAおよびアミノ酸配列を図2に示す。
【0019】
d.バキュロウイルストランスファーベクターへのNAsの組込み
pATIVNAsの1368bp−XbaI/SalIフラグメントを、pSV51の5562bp−SalI/EcoRIフラグメントおよびpSV24mの624bp−EcoRI/XbaIフラグメントに連結した。NAs遺伝子を含む1647bp−BamHIフラグメントの1コピーおよびSV40ポリ(A)部位を、ポリヘドリンプロモーターに対する正確な方向を考慮しながらpVL941の非反復制限部位へ続いて挿入し、pAc2IVNAsを得た。この構築物はSf9細胞の同時トランスフェクション後の野生型AcNPVのDNAとの相同的組換えを可能にする。組換えウイルスの子孫は、サマーズおよびスミス(1987)に記載されている連続的プラーク精製操作によって単離した。
【0020】
2.昆虫細胞培養−NAsの産生
ルーチン培養のために、昆虫細胞Sf9を、10%ウシ胎児血清および50μg/mlのゲンタマイシンを含むTC100培地中で集密的細胞単層として維持した。組換えバキュロウイルスに感染させるために、850cm2の回転ビン内に培養物を移し、25rpmで回転して懸濁液200ml中で成長させた。次いで、対数増殖期の終わりに、懸濁細胞(2x106細胞/ml)を組換えバキュロウイルスに1.0モイ(moi:感染多重度)で感染させた。2時間後、感染細胞を新鮮な血清フリーのTC100培地に移し、懸濁液をさらに48時間インキュベートした。下記のとおり、NAsを培地から精製した。
【0021】
3.インフルエンザX−47ウイルスの成長
A/ビクトリア/3/75の天然のNAの製造源として、インフルエンザ株X−47をプロナーゼで処理した後に用いた。X−47ウイルスは、11日齢の胚の入ったニワトリの卵の卵黄嚢空隙中で培養した。25.5℃で2日間インキュベートした後、卵を4℃で一夜冷却し、次の処理に用いるため卵黄嚢液を採集した。
【0022】
4.緩衝液系
通例、次の緩衝液を用いた:緩衝液A:20mM ジエタノールアミン/HCl,pH8.5;
緩衝液B:50mM NaAc,pH5.5;
緩衝液C:10mM NaP,pH7.4,150mMNaCl;
緩衝液Aおよび緩衝液Cは、さらに4%ブタノール(他に特別に指示がない限り)および2mM CaCl2を含む。
【0023】
5.NAsの精製
a.硫酸アンモニウム分画
植え付け(上記参照)後、Sf9懸濁培養物(通例、約1リットル)を採集し、4000xgで15分間遠心分離を行って細胞レムナントを沈降させた。すべての処理は4℃で行った。最初の精製段階においては、溶液に5mM NAN3を加える。透明になった粗培地をpH7.5にて硫酸アンモニウム分画に付した。20%から60%の(NH4)2SO4で沈殿した物質を遠心分離(10000xg,60分)によって集め、緩衝液A(ブタノールなし)+20mM NaClに、出発体積の1/10の量にて溶解した。再溶解した沈殿物を同緩衝液50体積に対して24時間透析(mwco「モレキュラー・ウエイト・カット−オフ」)した。ここでは、緩衝液を3回連続的に交換した。20000xgで15分間遠心分離して不溶成分を除去した。
【0024】
b.セファロースQ−アニオン交換クロマトグラフィー
透析した溶液に先ず4%ブタノールを加え、続いて緩衝液A+20mM NaClを流速25ml/時間で通して平衡化したセファロースQ−カラム(2.5cmx10cm)に流した。同緩衝液でカラムを洗浄した後、洗浄緩衝液から250mMまでのNaClの直線濃度勾配で溶離を行った(250ml,25ml/時間)。NAsを含む各2.5mlのフラクションを酵素活性およびELISAレベルを測定することによって同定した。NA活性は単一ピークとしてカラムから溶出した。
【0025】
c.N−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロースアフィニティークロマトグラフィー
(非組換え)インフルエンザNAおよびバクテリアNA酵素の精製のためのこのアフィニティーマトリックスの使用が文献に記載されている(カトルカサスおよびイリアーノ,1971;ブッチャー,1977)。アフィニティーマトリックスの正確な分画は、初めに推奨された緩衝液条件を適用した場合にのみ達成された。セファロースQによる分離後に活性画分を集め、等量の200mM NaAc,pH5.5を加えた。続いて、該活性画分を、緩衝液Bと100mM NaClで平衡化したN−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロースカラム(1.5x5cm)に通した。続いて、平衡化緩衝液でカラムを洗浄し、緩衝液Bで脱塩した。次いで、緩衝液Aで第2の洗浄段階を行った。最後に、1M NaClを加えた緩衝液Aを用い、流速10ml/時間でNAsを溶出した(2mlの画分を集めた)。
【0026】
d.スーパーデックス200ゲル濾過クロマトグラフィー
Centriprep(登録商標)濃縮機(アミコン;mwco:30kd)を用いてアフィニティーカラムの溶出物を2.0mlに濃縮した。次いで、濃縮物を体積1.0mlのサンプル画分にて、緩衝液Cおよび4%ブタノールで平衡化したスーパーデックス200ゲル濾過カラム(1.5cmx60cm)を用いるクロマトグラフィーに付した。流速10ml/時間にてカラムを平衡化緩衝液で溶離し、1.0mlの画分を集めた。長期貯蔵するために、−20℃で関連画分を集め、前述のように濃縮し、続いて最終濃度が50%になるまでグリセロールを加えた。
【0027】
精製タンパク質の分子量を評価するために、ウマの脾臓から得たアポフェリチン(443kd)、サツマイモから得たβ−アミラーゼ(200kd)、酵母から得たアルコール脱水素酵素(150kd)、ウシ血清アルブミン(67kd)および炭酸デヒドラーゼ(29kd)でゲル濾過カラムを測定した(すべてシグマ・ケミカル・コーポレイションから入手)。
【0028】
6.pNAの製造および精製
a.プロナーゼ処理
X−47に感染した鶏卵の卵黄嚢液をまず低速(1000xg,10分)で遠心分離して透明化し、次いで13000xgで16時間遠心分離してウイルスを沈降させた。ウイルス沈降物を100感染卵等価物当たり10mlの緩衝液Cに再懸濁し、ウイルスをこれ以上精製をすることなく、2mg/mlまでのプロナーゼを加えた。軽く振とうしながら、混合物を20℃で16時間インキュベートした。続いて、残りのウイルスコアおよび不溶のプロナーゼ成分を4℃にて超遠心分離(100000xg,1時間)によって除去した。次いで、放出されたNA頭部を含上清をカラムクロマトグラフィーにて精製した。
【0029】
b.セファロースS−カチオン交換クロマトグラフィー
クロマトグラフィー操作は、4℃にて行った。粗pNAサンプルを5倍に希釈し、50mM NaAC,pH5.5、2mM CaCl2および1%ブタノールを加えた。次いで、溶液を緩衝液B+1%ブタノールおよび50mM NaClで平衡化したセファロースSカラム(1.5cmx10cm)に流す。同じ緩衝液から500mM NaClまで直線勾配を用いて結合した物質を溶離した。ピークの酵素活性を示す画分を集め、Centriprep(登録商標)濃縮機(アミコン;mwco:30kd)を用いて2.0mlに濃縮した。
【0030】
d.スーパーデックス200ゲル濾過クロマトグラフィー
NAsの場合と同様にしてスーパーデックス200ゲル濾過を行った(ブタノール濃度が1%である以外)。純pNAを50%グリセロール中に−20℃で貯蔵した。
【0031】
7.NA酵素アッセイ
ポティアら(1979)の方法に基づいて、NAの触媒活性のアッセイを行った。簡単に述べると、100μlの反応体積にて、基質として1mMの2'−(4−メチルウンベリフェリル)−α−D−N−アセチルノイラミン酸の存在下、−200mM NaAC,pH6.5、2mM CaCl2および1%ブタノールを用いて酵素試験を行った。37℃で30〜60分間インキュベートした後、0.5mlの133mMグリシン、83mMのNaHCO3、60mM NaCl,pH10.7を加えて反応を停止した。365nmの吸光度を測定することによって、遊離の4−メチルウンベリフェロンを測定した。1ユニットは、1分間に1モルの4−メチルウンベリフェロンを放出する酵素量として定義した。
【0032】
8.免疫学的技術
a.ポリクローナル抗pNAIgGの製造
精製pNAに対するポリクローナル抗血清をニュージーランド系の3カ月齢のウサギで作製した。一次免疫感作は、それぞれ投与量当たり50μgのpNAと75%のフロイントアジュバントを含む500μlを四肢に筋肉内投与して行った。6週間後、動物は2つの対応する二次免疫注射を後肢に受けた。IgG画分を製造するために、タンパク質Aセファロース(ファルマシアLKB)に吸着させることによって集めた血清を精製した。
【0033】
b.ELISA
マイクロタイタープレートにウサギの抗pNAIgGを塗布した。試験するサンプルを0.1%ウシ血清アルブミンを含むPBSで希釈した。ウサギのビオチン化抗pNAIgG、次いでストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ複合体(ベーリンガー)を用いて結合した抗原を検出した。該プレートをp−ニトロフェニルホスフェート(シグマ・ケミカル・コーポレイション)とともにインキュベートして酵素反応を促進した。マイクロタイタープレートリーダーで405nmにおける吸光度を測定した。
【0034】
9.分析方法
レムリ法(1970)に従い、10%分離ゲル上でSDS/PAGEを行った(他に特記したもの以外は)。他に特記したもの以外は、β−メルカプトエタノールの存在下に全サンプルを変性した。10%ゲル中で、マーカータンパク質として、ホスホリラーゼb(94kd)、ウシ血清アルブミン(67kd)、卵白アルブミン(43kd)、炭酸脱水素酵素(29kd)およびトリプシンインヒビター(20.1kd、常に可視ではない)(ファルマシア)を用いた。勾配ゲルに次の質量標準を展開した:ミオシン(22kd)、β−ガラクトシダーゼ(116kd)、ホスホリラーゼb、ウシ血清アルブミンおよび卵白アルブミン(バイオラド)。モリシー(1981)に記載の方法の変更法によってゲル上で銀着色を行った。ブラッドフォード(1976)の方法により、ニワトリの卵白アルブミンを標準としてタンパク質濃度を定量した。
【0035】
10.架橋分析
10mM Hepes中の1.0M溶液(pH7)として、架橋分子BS3を新たに調製した。濃度0.5mMのBS3を、反応量30μlにて加え、タンパク質を架橋した。室温にて1時間インキュベートした。続いて、5μlの1.0Mトリス(pH8.0)を加えて反応を停止した。ポリペプチドのパターンをSDS/PAGEで分析した。
【0036】
11.糖質分析
タンパク質サンプル(0.1μg〜1μg)を500mMトリス/HCl(pH8.0)、5%SDS、50mMβ−メルカプトエタノール中で煮沸して変性した。最終SDS濃度の少なくとも7倍過剰となるように2.5%のNA−オクチルグルコシドを加えた後、NA−グリカナーゼを加え(約0.5ユニット;製造者によるユニット)、反応混合物を37℃で16時間インキュベートした。消化パターンをSDS/PAGEで分析した。
【0037】
結果
1.pNAの精製
ここに記載した実験においては、合計186個の感染卵を処理した。異なる精製段階とその結果を表1にまとめた。卵黄嚢液およびウイルスの沈積物を収穫し、プロナーゼを濃度2mg/mlで加え、混合物を20℃で16時間インキュベートした。超遠心分離後、上清におよそ60%のNA活性が見られた。この条件下では、活性の損失の主たる原因は、ウイルス粒子のNA頭部の除去が不完全なことであることがわかった。プロナーゼ濃度を高くすること、インキュベーション時間を長くすること、またはインキュベーション温度を上げることは、NAが徐々に失活するのが促進されるため、これらによって収量が増加することはなかった(データは示さず)。続いて、粗pNA物質を希釈し、pH5.5にした。次いで、セファロースS−カチオン交換を行った。pNAを最大収量で得るために、すべての溶液に1%ブタノールを加えた。ほとんどのタンパク質は、セファロースSカラムにしっかりとは固定されず、勾配溶離において、NaClが400mMの時点において、ひとつのピークが記録されただけであった(示さず)。SDS/PAGEにおいてコンタミネーションバンドが観察されなかったので、この物質は、実質的に純粋なNAであった(図3A、レーン3)。さらに、銀着色では、セファロースSプールとセファデックス200ゲル濾過工程の間に少しも差異がなかった(図3A、レーン3と4を比較せよ)。最後のカラムでは、画分60において分子量210kdに対応する単一の鈴形状のピークが得られた(示さず)。連続精製工程を図3Aに示す。
【0038】
SDS/PAGEでは、それぞれ約54kdと約52kdに対応する2本のバンドとしてpNAを実際に目視することができた。ここで後者は、銀着色の相対的強度から判るように、最も頻繁に現れるものであった。おそらく、この2つは、柄領域の異なる2カ所の部位でプロナーゼによる好適な切断を受けたことから誘導されたものである。化学製剤BS3との架橋から、pNAが真正の四量体タンパク質として回収されることが確認された(図3B)。
【0039】
2.NAsの構築および発現
インフルエンザNA2株「A/ビクトリア/3/75」のNA遺伝子を、そのNA末端膜アンカーから分離し、代わりにシグナルペプチドスプライシング部位を含むA/ビクトリア/3/75HA遺伝子の5'配列に結合した。これによって、分泌可能で可溶性産物の合成が可能になった。得られるキメラ遺伝子は、成熟HAの最初の4個の末端アミノ酸のコドンを含むHAシグナル配列、すぐに続いて膜通過部分(アンカー)および柄領域の一部(アミノ酸1〜45)を欠損したNA配列からなる。両方のDNA配列は、同じ読み取り枠内にあり、余分のアミノ酸は導入されなかった。連結の結果として、成熟HAタンパク質の5位に対応するただひとつのアミノ酸置換が行われた(図2)。pVL941を移入ベクターとして用いて、このキメラ配列の1個のコピーをAcNPVバキュロウイルスのポリヘドリンプロモーターの後に組み込んだ。Sf9昆虫細胞の植え付け後、可溶性タンパク質が実際に産生されたことを示すNA活性を培地中で迅速に検出した。感染後およそ48時間で培地中のNAs活性がプラトーレベルに達したことを図4に見ることができる。さらにインキュベーションを行うと、おそらく細胞溶解が拡大する結果と考えられるが、総タンパク質濃度が劇的に低下しはじめるので、よい結果を生まなかった。親Sf9単層と広範囲の懸濁培養物間の中間の運搬が最小に制限される場合に、発現が最も盛んであるらしいことが見出された(データ示さず)。種々の精製実験に基づき、NAsは6〜8mg/lで変化する濃度および適度に低い産生能力で発現されるが、なおしかし、他の分泌される複合体糖タンパク質について報告された収量(ジャービスら,1990)と比較可能なレベルであることを決定した。
【0040】
3.NAsの精製
TC100培地を、可溶性タンパク質内容物の特異的酵素活性がピークに達する感染の48時間後に収穫した(図4)。NAs精製の種々の工程を表1にまとめた。粗培地に対し、20%〜60%飽和硫酸アンモニウム沈殿法を行うと、適度に2倍の濃度の増加が得られ、物質の濃縮を行うことができた。大規模な透析および不溶生成物の除去を行った後、4%ブタノールを加えた。ブタノールを添加することが、NAsの収量の増加に非常に有利な影響があり、特にタンパク質濃度が低い場合に効果的であることが見出された。培地の疎水性の程度を限定することが、不溶性凝集物の形成を避けるのに必要であることも考慮しうることである。続いて、溶液をセファロースQ−アニオン交換クロマトグラフィーによって分画した(図5)。塩勾配の開始時に適度に対称的なピークでNA活性が溶出した。ELISA試験より、残りの画分にはNA関連物質が含まれないことがわかった。この時点で、出発時のタンパク質の量のおよそ97.5%が除去され、ほぼ20の要因によって特異的活性が増加した。次いで、N−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロースカラムに通すために、溶液のpHを5.5まで下げた。初期の実験から、NA置換オキサム酸が、インフルエンザNAの強い可逆的インヒビターであることが知られている(エドモンド,1966)。インフルエンザウイルスまたはバクテリアのノイラミニダーゼに対する選択的吸収体としてN−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロースを使用することは、最初にカトルカサスおよびイリアーノ(1971)によって、後にブッチャー(1977)によって証明された。最初の操作にしたがって、高pHの緩衝液(100mM NaHCO3,pH9.1)でノイラミニダーゼを溶離した。しかし、我々の実験では、これらの条件では、NAsの溶出は不完全で、遅い結果しか得られなかった。しかし、pHを高め、かつ塩濃度を高めることによって、効果的な放出が達成できた。溶出に先立って、低濃度の塩の存在下、pH8.5で追加の洗浄工程を行うことによって、多量の非特異的に結合したタンパク質をカラムから除去した。緩衝剤としてNaHCO3よりもジエタノールアミンの方を選ぶことによって、沈殿することなく2mM CaCl2を吸収することが可能になった。NA活性の保持力が、Ca++イオンに幾分左右されることが繰り返し報告されている(チョンら,1966;ヂモック,1971)。このことが本実験に相当するかどうかは詳細に調査しなかった。
【0041】
痕跡量の残留混濁物を除去するために、溶出液を限外濾過によって濃縮し、スーパーデックス200ゲル濾過に付す(図6)。A280測定では、それぞれ約200kd、約130kdおよび約54kdにおいて溶出した吸光度の異なる3つのピークが生じた。ELISA法によって測定された溶出液の免疫反応性パターンは、記録された3つの各ピークのA280プロフィールを正確に表現していることがわかったが、これはすべての物質がNAs特異的であることを示唆している。
【0042】
ピーク画分のSDS/PAGE分析では、分子量の僅かな減少および画分数の増加が認められたが、予測した領域である約55kdに強いバンドが現れた。(図7)。BS3を用いた架橋分析によって220kdピークは四量体のNAsであると同定された。一方、分子サイズが小さい方の2つのピークは、それぞれ二量体および単量体のNAsであることがわかった。ただし、ここで後者の形体は定量的重要性に限定される(図7B)。球形体をもつと考えられる四量体や単量体NAsとは異なり、二量体NAsは、その棒様の構造のために、その現実の分子量よりも僅かに上で溶出すると考えられる。より注目すべき事は、完全に組み立てられた四量体構造のNAsしか触媒活性を示さないことであった。四量体形状は、酵素活性に必須とされる色々な局在的コンホメーション変化を引き出すことが可能である。精製過程の工程表を表2に示す。
【0043】
4.NAsの特性
NAsをβ−メルカプトエタノールの存在下にSDSと煮沸して変性すると、NAsは完全解離して分子量約55kdの単量体鎖になった。SDS/PAGEゲルの銀着色により四量体および二量体NAsは、均質に精製されることがわかった。単量体NAsについては、痕跡量の混濁物が目視されるので、僅かに質の低いものであった。還元剤のない条件下で変性を行うと、四量体および二量体NAsは、約110kdの二量体鎖として移動した(示さず)。これらの結果から、NAs二量体はジスルフィド架橋により内部で結合しており、さらに非共有結合的相互作用を介して会合することができ、それによって、天然のNAの構造に対応する四量体タンパク質が形成されることが示された。
【0044】
昆虫細胞が、哺乳類および他の高等細胞のNAグリコシル化パターンとは幾らか異なるパターンを生み出すことが繰り返し報告されている(ヒシアおよびロビンス,1984;バターおよびヒュー,1981;バターら,1981;クロダら,1990)。したがって、組換えNAsと会合したNA結合糖質の量が、天然のpNAと比較して調査された。代表的なタンパク質サンプルをNAグリカナーゼ酵素で処理し、続いてSDS/PAGE法で分析した(図9)。バンドが相対的に置き換わっていることから、NAsと会合したNA結合糖質の合計量は、天然の分子と比べて僅かに少ないと結論付けることができる(図9Aと図9Bを比較せよ);この系で発現する他の糖タンパク質に対して行われた結果と一致する知見である(クロダら,1986;ドミンゴおよびトロウブリッジ,1988;ヴァン・ドルネン・リッテルら,1991)。変性、酵素的脱グリコシルNAs体が、そのオリジナルのオリゴマー構造にかかわらず、同じ電気泳動的挙動で移動することも確立され、このことから、一次NAsが一様な鎖長のポリペプチドとして合成されたことが確認される(図9B、レーン3,5および9を比較せよ)。NAグリカナーゼで処理されたポリペプチド鎖の分子量は、47.5kdと見積もられ、これは予測されるアミノ酸配列から計算された理論的分子量47,717dに一致する。十分興味深いことに、グリコシル化二量体および単量体NAsと一致するバンドはゲル内で、グリコシル化四量体NAsから誘導されたバンドよりもやや急速に移動するので、NAグリコシル化の度合は、四量体を形成する能力と関係しているように思われた(図9B、レーン2に対してレーン4および6;図7Aも参照せよ)。NA結合糖質、さらに詳しくはAsn200に結合するオリゴ糖質鎖が、隣接するサブユニットとの相互作用に介入することによって四量体構造の安定化に一部役割を担うことができるということが示唆されている(バルゲーゼら,1983;バルゲーゼおよびコールマン,1991)。
【0045】
四量体タンパク質のみがNAsの触媒特性を有した。単離された四量体NAsは、ほとんど精製pNAと同一の特異的活性レベルを呈した(表1および表2)。
【0046】
各単量体は触媒部位を有しているが、低次構造のNAs体が酵素活性をもたないという知見は、おそらくインフルエンザNAの機能性における四次相互作用にとっての重大な役割を反映している。
【0047】
NAsの抗原特性を確かめるために、等しい濃度のタンパク質サンプルを作り、続いて2倍希釈し、ポリクローナル抗pNAIgGに基づくサンドイッチELISAで試験した(図10)。四量体NAsでは、pNAの参考グラフと同様の滴定曲線が得られたが、これは、両方が同一かまたは非常によく似た抗原特性をもつことを示している。抗原性に小さなシフトが認められるけれども、論証できるような酵素活性がないにもかかわらず、二量体および単量体NAsの抗原活性は実質的にそのまま残っていた。抗原性におけるこの小さな差異は、抗原活性/A280比が僅かに上回っている四量体ピークのゲル濾過プロフィールから同様に明らかであった(図6)。天然の四量体構造に対して産生された多数の抗体分子は、不完全に組み立てられたNAsに効率的に結合すること、たとえば隣接するサブユニット間の接触領域を認識することが不可能であったということも有り得る。四量体フォーメーションによって誘発される局部的な変化もまた、多数の微細な抗原差異を引き起こす。
【0048】
論考
本発明の主たる目的は、分泌され、正確に折り畳まれたタンパク質としてのインフルエンザノイラミニダーゼの合成、およびワクチン用剤として使用しうる均質な生成物を得るための精製操作の決定であった。NA2インフルエンザウイルス株A/ビクトリア/3/75のNA遺伝子から、シグナル配列(膜アンカー機能)を有する元のNA末端領域が、インフルエンザHA遺伝子の5’配列の一部と置き換えられたキメラ遺伝子を構築した。続いて、HAから誘導された切断可能なシグナルペプチドにより実質的に分泌可能なNA(NAs)をコードする、得られる構築物を、強力なポリヘドリンプロモーターの転写調節下にバキュロウイルス発現ベクターに組み込んだ。宿主昆虫細胞Sf9の感染後、培養培地中にNAsが分泌された。精製結果に基づいて、6〜8mg/lの範囲で発現のレベルを評価した。バキュロウイルスに感染している間に、分泌による宿主細胞のタンパク質切断能力が劇的に減少することが論証された(ジャービスおよびサマーズ,1989)。それにもかかわらず、記載された産生系は実験室スケールの予防接種の研究に適用可能であり、相当なスケールアップにも好適である。
【0049】
NAsの精製は、第1の硫酸アンモニウム分画段階、それに続く3種のクロマトグラフィー段階を含む実質的に4段階の操作からなった。酵素活性の獲得については、精製タンパク質としておよそ25%のNAsが回収されることを評価した。ゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより、NAsを予分別して、架橋分析によりそれぞれ四量体、二量体および単量体NAs(ここで後者はほんの少量しか存在しない)として同定される分子サイズの異なる3つの集団に分けた。主要な2つの形体、四量体および二量体NAsは、約等量で得られ、SDS/PAGEおよび銀着色で審査したところ均質であった。
【0050】
NAsの酵素および免疫特性を評価するために、比較対称タンパク質として天然のNAを単離することが必要であった。X−47ウイルスのA/ビクトリア/3/75NAの頭部をプロナーゼ処理により切断し、次いでカチオン交換およびゲル濾過クロマトグラフィーにより精製した。架橋後、pNAが完全な膜結合NAの四量体構造を保持していることを確認した。
【0051】
NAsの触媒特性は、四量体タンパク質のみが酵素活性を呈するという非常に変わったものであった。四量体NAsは、ほどんどpNAに相当する特異的活性を有した。二量体および単量体NAsが変性タンパク質であるという理由で単純に不活性であったというのは可能性が低いことである。なぜなら、精製操作中これらの形体もまた、基質結合部位に基づくアフィニティークロマトグラフィーによってしっかりと補足されたからである。これは、酵素の触媒部位は機能的に完全にちがいないが、次に続く触媒への移行が明らかにできないことを示唆している。
【0052】
NAグリカナーゼ処理により、概してNAsの糖質含量がpNAの糖質含量と比べて僅かに低いこと示されたが、これはこの系で発現する他の糖タンパク質においても認められることであった(クロダら,1986;ドミンゴおよびトロウブリッジ,1988;バン・ドルネン・リッテルら,1991)。ハイポグリコシル化は、二量体および単量体NAsにおいて明らかに、より顕著であった。X線回折分析による構造の研究から、Asn200に結合した糖質鎖が隣接するサブユニットの接触をより接近したものにすることが示されたが、これは、その鎖が、四量体構造を強化するためのさらなる相互作用を提供したことを示唆している(バルゲーゼら,1983;バルゲーゼおよびコールマン,1991)。
【0053】
精製pNAに対して産生されたポリクローナルIgGとの四量体NAsの反応性は実質的に完全であったが、これは、両方のタンパク質が非常に類似した抗原特性をもつことを示している。二量体および単量体NAsの場合に抗原性の小さいシフトを認めることは可能であった。これまでに述べてきたことから、四量体構造のインフルエンザNAのみに結合するモノクローナル抗体を単離することが可能であると推論することができた。このような抗体は、おそらく隣接するサブユニットから誘導された表面の抗原決定基との相互作用に入るか、あるいは別の考え方として、四量体形成中のコンホメーション再構成後に形成されたエピトープを認識する。さらに、糖質組成における差異もまた抗原特性を変更する。
【0054】
実施例2
ピチア・パストリスによる組換えノイラミニダーゼの分泌
序論
昆虫細胞に加えて、酵母が組換えインフルエンザノイラミニダーゼ産生用の宿主細胞として使用しうるかどうかを判定するために、ノイラミニダーゼの酵素的「帽子」部位を含む発現ベクターを構築した。
【0055】
材料および方法
1.ベクターおよび宿主
ピチア・パストリスのプラスミドpPIC9(インビトロゲン製)を用いて発現カセットを構築した。このプラスミドは、ピチア・パストリスの誘導可能なアスコールオキシダーゼI(AOXI)遺伝子の複製起点、アンピシリン耐性遺伝子、プロモーターおよびターミネーター領域、サッカロミセス・セレビシアエのα因子のプレプロ分泌シグナル、ならびにピチア・パストリスのHIS4マーカーを含む。宿主としては、メチロトロフィックな酵母菌ピチア・パストリス(インビトロゲン)を用いた。
【0056】
2.発現カセットの構築
部位特異的突然変異誘発法によって、A/ビクトリア/3/75のノイラミニダーゼ遺伝子のcDNA配列にStuI制限部位を導入した。制限部位の位置はPro79とした。この制限部位を用いて、酵素的活性中心を含むノイラミニダーゼ遺伝子の免疫原性「帽子配列」を、StuI/HindIII断片として単離し、ピチア・パストリスのプラスミドpPIC9のSnaBI制限部位にクローニングすることができた。図15はpPIC9プラスミドの模式図を示す。図16はプレプロシグナル配列と組換えノイラミニダーゼの融合領域である。プロペプチドは外来性のKEX2プロテアーゼによって後期ゴルジ体内で切断される。(Glu−Ala)2ジペプチドはSTE13型のジペプチジルアミノペプチドによって除去される。外側のチロシン残基は切断されず、組換えノイラミニダーゼ上でN末端に残るが、これは不必要である。
【0057】
SalI切断法によってHIS4選択マーカーの位置で得れらるプラスミドを直線化し、続いてポリエチレングリコールの存在下にピチア・パストリスのGTS115(his4)原形質体に形質転換した。形質転換体から単離されたDNAをサザン分析に付した。この分析により、内部(しかし欠失あり)his4座の位置に相同的組換えを介して組み込まれた発現ベクターが示された。大部分の形質転換体は1〜2コピーのプラスミドを有しているが、高度分泌能力をもつ形質転換体は、タンデム構造で宿主ゲノムに全体を組み込まれた複数コピーのプラスミドを持つことがわかった。該コピーの数は形質転換体当たり25に達していた。
【0058】
3.ノイラミニダーゼの発現
最小グリセロール緩衝培地(pH6.0)中で形質転換体を予備成長させ、48時間後に、0.5%メタノールを含む最小緩衝培地に移した。この結果、アルコールオキシダーゼIプロモーターが誘導され、ノイラミニダーゼの「帽子」が発現した。公知のノーザン分析法を用いて、細胞中のノイラミニダーゼのmRNA量を評価した。この結果、非常に効果的に誘導がなされたことがわかった。
【0059】
細胞上清のウエスタン分析から、分子量約70kDaの組換えノイラミニダーゼが分泌されたことがわかった(図17参照)。
【0060】
PNGアーゼFを用いて分泌産物を脱グリコシル化した。これによって、予測された43kDaという大きさの「コア」産物が産生された。コピー数に応じて培地中の組換えノイラミニダーゼの収量が1〜1.5mg/リットルの間で変動することがわかった。
【0061】
実施例3
材料および方法
1.実験動物
免疫感作開始時に8週齢の雌性同系繁殖系Balb/cマウス(SCK Mol、ベルギー)を用いた。受動免疫感作実験において、被検マウスは12週齢であった。1ケージ(410cm2)あたり3匹のグループに分け、食餌と水を任意に与えた。
【0062】
2.ウイルス
インフルエンザ株は、A.ダグラス博士およびJ.スケール博士から入手した(MCR・ラボラトリーズ、ミル・ヒル、ロンドン)。実験用ウイルスX−31およびX−47はH3N2抗原組成物を含み、該組成物は、A/PR/8/34(H1N1)を遺伝子的に再編成することにより、それぞれA/アイチ/2/68(H3N2)およびA/ビクトリア/3/75(H3N2)として誘導される。両方のウイルスのストックを、マウスが死亡する程度に肺を通して何回も注入することによって順応させた。
【0063】
3.組換え分泌可能NA(NAs)
インフルエンザNA A/ビクトリア/3/75(H3N2)を、実施例1で記載したバキュロウイルス昆虫細胞発現系で産生された精製組換えタンパク質として投与した。ここで記載する免疫感作実験で使用する精製NAs票品には、リン酸緩衝塩溶液として四量体と二量体分子の混合物が含まれていた。
【0064】
4.アジュバント
我々自身の実験室で行った組換えインフルエンザHAの免疫感作研究に基づいて、適当なアジュバントを選んだ。Ribiアジュバント(モノホスホリル脂質A(MPLA)、トレハロース−6,6−ジミコレート(TDM)、スクアレンおよびTween80を含む)とサルモネラ・チフィムリウムMPLAの入ったビンを製造者の指示書(Ribiイムノケム・リサーチ)にしたがって満たした。ムラミル・ジペプチド(MDP)はシグマ・ケミカル・コーポレイションから購入した。
【0065】
5.免疫感作プロトコル
1μgのNAsを200μlの用量で3回、3週間間隔で皮下注射にてマウスに投与した。最初の免疫感作では、通常マウスに用いるRibi用量の半分量中(25μgのMPLA、25μgのTDM、2μlのスクアレンおよび0.1%のTween80に相当)に、NAsを乳剤化した。25μgのMPLAと25μgのMDPをNAsに加えてブースター注射を行った。対照動物にはアジュバントのPBS溶液を投与した。
【0066】
6.受動免疫感作
3回目の免疫感作後3週間目に、心臓穿刺によってドナーマウスから採血し、同様に処理されたマウスの血清標品を集めた。被検マウスに400μlの免疫または対照血清を1回投与の腹腔内注射を行った。
【0067】
7.インフルエンザチャレンジ
ブースター注射後3週間目または受動免疫感作後1日目、軽度にエーテル麻酔したマウスに、20LD50の即位的ウイルスを鼻孔内接種した。次いで、接種後10日間の直腸の温度と体重を測定することによって、感染の進行の程度を追跡した。
【0068】
8.血清学的方法
ワクチン接種開始前1日(免疫前血清)および各免疫感作後2週間目の血液サンプルを尾部動脈から採血した。ELISA法により、NA特異的抗体について個々の血清サンプルを試験した。マイクロタイタープレート(Nunc Maxisorp)に精製NAsを塗布し(50ng/ウエル)、血清を5倍に希釈した。アルカリホスファターゼ(シグマ・ケミカル・コーポレイション)と複合したウサギの抗(マウスIgG)抗体を加え、次いでp−ニトロフェノール基質溶液(シグマ・ケミカル・コーポレイション)をプレートに加えてインキュベートすることによって特異的抗体の結合を定量した。マイクロタイタープレートリーダーにて405nmにおけるOD値を測定した。対照ウエル(免疫前血清で処理)よりも0.5高い吸光度が得られるlog5血清希釈の逆数としてNA抗体の力価を表した。
【0069】
結果
1.実験設計
上記免疫感作プロトコルに従い、1グループ12匹のマウスのグループ3つに、NAsのワクチン接種を行った。同数の対照マウスを平行してPBSで処理した。続いて、ワクチン接種マウスと対照マウスからなる対のグループをマウス順応X−47またはX−31にチャレンジさせた。一方、該対グループを受動免疫感作実験の血清ドナーとした。
【0070】
2.血清応答
各ケージから1匹ずつ取り出した、12匹のワクチン接種動物と12匹の対照動物からランダムに選択した血清で行うELISAによってNAsに対する抗体応答を追跡した。マウスにおいてNAs免疫感作を行うと、血清中のNAs抗体が著しく増加した。最初のブースター注射は、およそlog5量の3倍のNAs抗体を増加したが、第2のブースター注射ではNAs抗体の力価がさらにまた約5倍の増加を示した。対照マウスにおいては、アジュバントの1回投与では、NAsと反応する特異的抗体の有意な産生はなされなかった。
【0071】
3.NAsによるホモ変異防御
ワクチン接種後3週間目のワクチン接種マウスと対照マウスに対し、20 LD50量のホモNA変異ウイルスX−47を投与することにより、免疫を検定した(図12)。体温の低下および体重の減少が測定されたことからわかるように、すべての対照マウスは重篤な罹患状態に陥った。感染後4日目に、最初の死亡マウスが現れ、すべての対照マウスはウイルス接種後9日以内にすべて死亡した。
反対に、NAsワクチン接種マウスにおける臨床パラメーターは、一時的かつ小さく低下しただけであった。すべてのワクチンマウスは感染から助かった。
第3の免疫感作を行わない場合、同レベルの防御免疫が達成されうるのかどうかという点についても調べた(NAsおよび/またはアジュバントの用量を増加することによって補償されるという可能性があると考えられる)。これらの試験は実質的に同一の実験計画に沿って行った。この作法で免疫感作したマウスは一般に良好な耐性を呈したが、少数の個体は重篤な罹患状態に陥った。また、生存率が80%以下になることは殆ど無かったが、ワクチン接種マウスにおいて死亡するものも時折あらわれた。しかし、3回の免疫感作によって達成された防御免疫のレベルは、全般にわたって優れたものであることがわかった。
【0072】
4.NAsによるヘテロ変異防御
7年抗原ドリフトによってA/ビクトリア/3/75から誘導されたNAsから分離されるNAを含むヘテロ−NA−変異ウイルスX−31の20 LD50量を、ワクチン接種マウスおよび対照マウスの別のグループに感染させて免疫性を試験した(図13)。X−47免疫感作実験においても観察されたように、臨床結果は劇的なものであった。対照動物は感染後5日目で既に死亡するものがあらわれ始めた。死亡率は8日目に最大値に到達し、その後生存したのは1匹だけであった。NAsで免疫感作したマウスは、通常は致命的なヘテロ変異ウイルスに感染したにもかかわらず、100%の生存率を示した。ホモ変異免疫実験の場合と同様に、ワクチン接種マウスは体温を適度に正常レベルで維持することができた。体重の損失は、ホモ変異の場合と比べて幾らかは顕著であったが、すべてのマウスが6日目以降回復を始めた。
【0073】
5.防御免疫はNAs免疫血清の受動伝達によって獲得することができる
受動免疫感作による動物防御が、誘発される防御免疫に対して主に応答可能である体液性防御メカニズムであるかどうかを決定するために、該動物防御を試験した。この目的のために、標準的操作にしたがってドナーマウスを免疫感作した。該ドナー動物から採血して、1個体あたり平均約400μlの血清を得た。対照血清と免疫血清をそれぞれ集めた後、400μlの血清を被検マウスに腹腔内注射にて1回で投与した。適合させたX−47ウイルスの20 LD50量にチャレンジさせる前に、抗体分子がマウス内で満遍なく拡散しうるように24時間の間隔をあける。対照血清を接種された動物は、すぐに急性の低体温症になり、体重が激しく減少し、最終的に死亡に至ったが、NAs免疫血清を投与されたマウスは、能動的に免疫感作された動物と実質的に同程度に防御された(図14)。
したがって、NA抗体を予め循環させておくことにより完全な防御が得られるという結論を下すことができる。
【0074】
論考
インフルエンザに対する免疫は、長い間ほとんどHA抗体の機能についてのみ研究されていたが、免疫に寄与するNAの重要性は実質的に無視されてきた。この状況は、HAを結合しうる抗体のみがウイルスを直接中和する能力をもつという観察結果に一部由来するものであった(ハースト,1942;デイブンポートら,1964;キダら,1983)が、NAに対する抗体が、広範囲の濃度において一次感染を防御しうることはわかっていなかった(ジャヒエルおよびキルボーン,1966;キルボーンら,1968;ヨハンソン,1989)。この寛容はおそらく、インフルエンザウイルスのライフサイクルの後期部分で、新たに形成されたウイルスが感染細胞の表面で凝集するのを妨げるように働くNAsを反映している(コールマンおよびウォード,1985;ブラウンおよびレイバー,1968)。HAとは逆に、NAはインフルエンザウイルスのエンベロープの成分のうちで少ないほうの成分であり、NA抗体の非中和効果に寄与しうるという事実がさらに発見された(シュルマンら,1968)。この存在モル比率の相違が、同様に個々の抗原に対する相対的抗体応答に影響を及ぼす。全インフルエンザウイルスと連続的に対決するために、NAと比べてHAが相対的に過剰に提供されることが繰り返されると、おそらくNa特異的T細胞の援助が覚醒される結果として、NA抗体の産生を抑制することができた(キルボーン,1976;ヨハンソンら,1987;キルボーンら,1987;ヨハンソンら,1987)。
【0075】
したがって、防御NA免疫を研究するために、HA抗体を中和することに対する妨害が排除され、HA抗原およびNA抗原の競合を介したNA免疫応答の阻害が回避されるというシステムを発展させることが必要である。古典的アプローチは、天然のNA成分の単離に基づいて行われる(シュルマンら,1968;ヨハンソンおよびキルボーン,1990;ギャラガーら,1984)かまたは別の場合では限定されたシリーズのインフルエンザ株と血清学的に異なるHAおよびNA抗原との組み合わせ投与に基づいて行われる(ロットら,1974;キルボーン,1976)かのいずれかであった。しかし、本明細書に記載した結果は、精製、組換えNAタンパク質を用いる防御免疫感作を直接に説明するものである。A/ビクトリア/3/75(H3N2)ウイルスのNA遺伝子は、膜アンカーをコードする領域がインフルエンザ血球凝集素遺伝子のシグナル配列と置換されることによって分泌可能なタンパク質(NAs)をコードする遺伝子に形質転換された(実施例1を参照)。
【0076】
NA抗体がウイルス粒子の放出および拡散を阻害することによりウイルス成長の収率を効果的に抑制することができるというインビトロ技術がすでに確立されている(ジャヒエルおよびキルボーン,1968;キルボーンら,1968)。
【0077】
肺におけるウイルス力価の低下および肺機能障害の進行の抑制を測定することにより、NAで免疫感作された動物から、同様の結論が引き出された(11,12,13)。肺でのウイルス複製におけるNA免疫の効果に大きな注意が向けられていたけれども、純粋なNAタンパク質による免疫感作が、臨床疾患の症候を予防しうるか、または潜在的に致命的なインフルエンザに感染した後の生存チャンスを改良しうるかどうかは疑わしかった。この疑問に対する満足のいく答えはまだ得られていなかった。しかし、本明細書で示す結果は、通常致命的なインフルエンザ感染に対する完全防御が、純粋な組換えNAsで免疫感作することによって達成されうることをを明確に説明しており、ここでは、既往の抗HA免疫メカニズムまたは保存された内部ウイルスタンパク質の抗原に対する細胞性記憶免疫効果は排除される。
【0078】
本明細書で説明した実験においては、3週間の間隔をおいて、1μgのNAsを3回投与してマウスの免疫感作を行った。ワクチン接種した動物は全部インフルエンザウイルスの致命的感染から生還することができた(ここでウイルスはホモまたはヘテロ変異NAを発現した)。感染ウイルスの投与量が多くても、非常に驚くべきことに、体温および体重の変化によって示されるように、免疫感作した動物は臨床疾患の症候を示さないままであった。NAsとともに投与されるアジュバントがすべて低い反応原特性を有することに注意することが重要であり、そのために、ここで述べた免疫感作操作がヒトのワクチン接種に直接適用しうるのである。さらに、本発明ワクチンは、他の哺乳動物および鳥類に適用可能である。
【0079】
無垢の被検マウスにNAsで免疫感作したマウスの血清を受動伝達しても、同レベルの防御が得られたが、このことはNAs免疫感作の防御効果が、NA抗体の循環に基づいて説明できることを示している。
【0080】
ここに記載したヘテロ変異防御に関し、ワクチンA/ビクトリア/3/75のNA抗原と変異感染ウイルスX−31に存在するA/アイチ/2/68のNAの間の構造的関係を考慮することが重要である。残念なことに、A/アイチ/2/68(H3N2)のNAに関しては、適用できる配列データはないが、アイチ株と同年に単離されたA/NT/60/68(H3N2)(ベントレーおよびブロウニー,1982)のNA配列と比較することはできる。両方のNA変異体の頭部領域を綿密に調査すると、28位にアミノ酸の置換が発見される(その点で、主要部は分子の表面にある)。
【0081】
本発明ワクチンは、さらになお移転したドリフト変異体に対する防御をも提供しうる可能性がある。さらに、NAの遺伝子修飾によって遺伝子の変化をその抗原構造にアレンジしうることが考えられる。このことから、たとえば異なるバージョンのNAの「カクテル」を製造することが可能になり、したがって、異なるインフルエンザ株に対する広範な防御が獲得できる。
【0082】
【表1】
この表は、代表的な精製実験を示す(詳細は本文参照)。スーパーデックス200ゲル濾過後の液量は、2行程のクロマトグラフィーによる精製物を合わせたものである。
【0083】
【表2】
この表は、代表的な精製実験を示す(詳細は本文参照)。スーパーデックス200ゲル濾過後の特定の液量は、2行程のクロマトグラフィーからのNAs画分を合わせたものである。
【0084】
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【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】分泌可能なNA遺伝子の構築およびバキュロウイルス運搬ベクターへのその組込みのための方策を示す。関連する制限部位のみを示す。一本線は細菌プラスミド配列を示すが、濃い部分はHA特異的(ベタ塗り)またはNA特異的(点付き)配列を示す。HAシグナル配列をシングルハッチングで示す。NAシグナル配列/膜アンカー配列をダブルハッチングで示す。
【図2】正のcDNA鎖のヌクレオチド配列およびHAシグナルペプチドとそのNA膜アンカーを除去されたNAの間の連結部位のフランキング領域のアミノ酸配列を示す。図2Aは非切断HA、詳しくはAla16とGln17間のシグナルペプチダーゼ制限部位(垂直破線)を含む非切断HAを示す。NAsの分泌に用いるNA末端セグメントを矢印で示す。図2BはNAの「柄」領域を示す。NAsの構築に必要とされる先端切断配列を矢印で示す。図2CはAおよびBからNAs配列がどのように構築されるかを示す。ここに詳細に示されるのは、HA特異的配列およびNA特異的配列間の融合領域である。NAsはおそらく成熟HAの4個のNA末端アミノ酸で開始し、突然変異コドン(点線の下線)がそれに続く。
【図3】精製pNAのSDS/PAGE分析を示す。図3Aは精製段階の異なるpNAから得られるタンパク質サンプルの分析結果である。レーン1はマーカータンパク質を示す;レーン2は粗pNAを示す(1μg;pNAバンドは検出可能レベル以下である);レーン3はセファロースSによる精製物を示す(1μg);レーン4はスーパーデックス200による精製物を示す(1μg)。図3Bに示すのは、BS3法により架橋した1μgのpNAの5.0%〜7.5%の勾配ゲルである。レーン1はマーカータンパク質を示す;レーン2は架橋後のpNAを示す。余分のバンドが約105kd(二量体)、約160kd(三量体)および約210kd(四量体)に現れている。
【図4】Sf9細胞に組換えバキュロウイルスを植え付けた後の、酵素活性レベル(○)および総タンパク質濃度(◇)から誘導される、培養培地中に検出される特異的活性(□)の時間経過にともなう変化を示す。
【図5】セファロースQによるアニオン交換クロマトグラフィーを示す。(20〜60)%の(NH4)2SO4沈殿を溶解し、透析した後、溶液(97.5mgタンパク質、117,000U)をセファロースQカラムに通した。出発緩衝液にNaClを添加して濃度250mMへ向かうNaClの直線勾配(点線)による溶離を行う前に、非結合物質を洗い流した。溶出液のタンパク質濃度をA280(−)を測定して追跡した。2.5mlの画分を集め、酵素活性(○)およびELISAにおいて抗原性活性(△)を試験した。
【図6】スーパーデックス200によるNAsのゲル濾過を示す。N−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロース分離後の溶離液(2.63mgのタンパク質、49,100U)を2.0mlまで濃縮し、続いてサンプル量1.0mlの画分にて流速10ml/時間のスーパーデックス200カラムのクロマトグラフィーに付した。A280を継続的に追跡した(−)。個々の画分(1.0ml)を酵素活性(○)および抗原性活性(△)を試験した。矢印は較正タンパク質の溶出液量を示す(本文参照):443kd(1)、200kd(2)、150kd(3)、67kd(4)および29kd(5)。
【図7】精製NAsのSDS/PAGE分析を示す。各レーンはスーパーデックス200ゲル濾過の特定の画分番号に対応する。図7Aは10μlのサンプルを変性(β−メルカプトエタノール添加)した後のSDS/PAGEパターンを示す。レーンAおよびBはマーカータンパク質を示す。図7Bでは、タンパク質サンプルをBS3で架橋し、続いてSDSが存在するけれども非還元的な条件下で、5.0%〜7.5%の勾配ゲルの電気泳動によって分離した。画分57〜68は、10μlのサンプル液量;画分70〜77は25μlのサンプル液量である。四量体のNAsは約220kd(四量体)および約110kd(二量体)でバンドを形成する。二量体および単量体NAsは、それぞれ約110kdおよび約55kdのバンドとして現れる。
【図8】精製段階の異なるNAsからのタンパク質サンプルのSDS/PAGEの結果を示す。レーン1はマーカータンパク質;レーン2は粗培地(5μg);レーン3は(20〜60)%(NH4)2SO4沈殿(5μg);レーン4はセファロースQ精製物(2.5μg);レーン5はN−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロース分離後の精製物(1μg);レーン6はスーパーデックス200ゲル濾過後の四量体および二量体NAs画分(1μg)を示す。
【図9】NA−グルカナーゼ切断およびSDS/PAGEから評価される、pNAとNAsに結合した糖質含量の比較分析を示す。酵素NA−グルカナーゼは35kdのバンドとして現れる。図9Aでは、レーン1はマーカータンパク質;レーン2は非切断pNA(1μg);レーン3はNA−グルカナーゼ処理したpNA(1μg)を示す。図9Bでは、レーン1および8はマーカータンパク質;レーン2は非切断四量体NAs;レーン3はNA−グルカナーゼ処理した四量体NAs;レーン4は非切断二量体NAs;レーン5はNA−グルカナーゼ処理した二量体NAs;レーン6は非切断単量体NAs;レーン7はNA−グルカナーゼ処理した単量体NAsを示す。
【図10】NAsとpNA間の抗原的な近同一性を説明する。pNAとNAsのサンプルを等しいタンパク質濃度とし、続いてELISAにおいて2倍に希釈した。図は特異的抗原に対して測定されたS字型の抗原性カーブを示す。pNAは○;四量体NAsは◇;二量体NAsは□;および単量体NAsは△で示される。
【図11】NAsに対する抗体応答を説明する。各免疫感作後14日目に(矢印で表示)、マウスから血液サンプルを採血し、NAs抗体の存在をELISAにて測定した(実験詳細については本文参照)。ベタ塗りバーおよびハッチングバーは、それぞれワクチン接種および対照動物の平均血清力価(±S.D)を表す。
【図12】ホモ変異体防御を示す。ワクチン接種マウス[Aでは点線;BおよびCでは黒三角]および対照マウス[Aでは−;BおよびCでは黒丸]を20 LD50のホモ変異,マウス順応X−47ウイルスにチャレンジさせた。生存率(A)を記録し、直腸温度(B)および体重(C)を測定することによって感染の進行を追跡した(実験詳細については本文参照)。データ点は平均値±S.Dで得る。
【図13】ヘテロ変異体防御を示す。ワクチン接種マウス[Aでは点線;BおよびCでは黒三角]および対照マウス[Aでは−;BおよびCでは黒丸]を20 LD50のヘテロ変異,マウス順応X−31ウイルスにチャレンジさせた。生存率(A)を記録し、直腸温度(B)および体重(C)を測定することによって感染の進行を追跡した(実験詳細については本文参照)。データ点は平均値±S.Dで得る。
【図14】受動免疫感作による防御を示す。NAs免疫血清[Aでは点線;BおよびCでは黒三角]および対照血清[Aでは−;BおよびCでは黒丸]の腹腔内注射によってマウスのグループを受動的に免疫感作した。24時間後に、マウスは20 LD50のマウス順応X−47ウイルスへのチャレンジを受けた(実験詳細は本文を参照)。生存率、直腸温度および体重をそれぞれA、BおよびCに示す。データ点は平均値±S.Dで得る。
【図15】AOXIプロモーターおよびターミネーター配列に加えて、ピチア・パストリスのHIS4マーカーおよびサッカロミセス・セレビシアエのα因子遺伝子のプレプロ分泌シグナルを含むプラスミドpPIC9の模式図を示す。多重クローニング部位は分泌シグナルの後に位置する。
【図16】プレプロ分泌シグナルとノイラミニダーゼの組換え「帽子」部分の間の融合領域である。「KEX2」は、後期ゴルジ体において外来性KEX−2プロテアーゼによってプロペプチドが切断される位置を示す。(Glu−Ala)2ジペプチドはSTE13型のジペプチジルアミノペプチダーゼによって除去される。チロシン残基はノイラミニダーゼ由来ではないが、除去されない。次のプロリンはX−47ノイラミニダーゼの79位に一致する。
【図17】個々の形質転換体の5個の培地サンプルについての12.5%ポリアクリルアミドゲルのウエスタンブロットである。レーン1は非形質転換体のピチア・パストリス株の培地サンプルを含む。TCAで沈殿した培養培地1ml中のタンパク質マテリアルをレーン毎に展開した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えインフルエンザノイラミニダーゼ、組換えノイラミニダーゼを宿主細胞中で発現しうる発現ベクター、組換えノイラミニダーゼの産生および精製方法、インフルエンザに対するワクチンおよび本発明の組換えノイラミニダーゼの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザA型およびB型ウイルスによる流行性感冒(インフルエンザ)は、感染者に相当な被害を与え、社会生活および経済生活に大きな影響を及ぼす。インフルエンザは高齢者および慢性疾患の患者において死亡率が高い。1940年代における流行の際に、鶏卵中で培養されたウイルス物質に基づく不活性ワクチンがインフルエンザ感染に対して明らかに効果があることがわかり、その結果、危険率の高い集団の死亡率が大きく低下した。
インフルエンザウイルスは、その2つの表面抗原、すなわち血球凝集素ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)において有意な抗原変異(いわゆる「抗原ドリフト」)を起こすため、咽喉管に生存するウイルスのなかでもユニークである。
その上、特にインフルエンザA型ウイルスは、「抗原シフト」という現象によって効果のある免疫を回避することができる。ヒトのウイルスにおいてこのような現象が出現するのは、インフルエンザ遺伝子の動物保菌者由来のNA遺伝子に起因するものである。かくして、1957年に、それまで流行していたNA1型のウイルスは新しいNA2型のウイルスと置き換えられた。1977年以来、NA1型のウイルスがヒト集団に再び戻って来ている。したがって、本発明ワクチンは好ましくはNA1およびNA2型ウイルスの両方に対応しうるものを目指さねばならない。
NAはグリコシル基の末端シアル酸残基の除去に触媒作用を及ぼし、それによってHAの可能な受容体が破壊される(ゴッチャルク,1957;バーネットおよびストーン,1947)。ウイルスの集合の阻止および細胞間におけるウイルスの充分な拡散においてNAが本質的に関与していると考えられる(コールマンおよびワード,1985)。
それぞれのNA分子(Mr=240,000)は、ジスルフィド架橋に結合し、非共有結合によって共に交互に保持しあう2組のダイマーで築き上げられた4個の同一のポリペプチド鎖からなるキノコ様構造をしている(ブッチャーおよびキルボーン,1972;レイバーおよびバレンタイン,1969;バルゲーゼら,1983;ワードら,1983)。HAとは異なって、NAは、非スプライス、NA末端、親油性配列、いわゆる膜アンカーによって脂質膜につながれている(フィールズら,1983;ブロックら,1982)。構造全体のうち最も大きな部分が膜の上に突き出ており、そこで伸長した「柄」領域の頂部に位置する末端・箱形状の「頭部」領域を形成する(リグレイら,1973)。該頭部の内側に、各モノマーはそれ自身の触媒部位をもち、少なくとも4個のNA結合グリコシル基が含まれる(コールマンら,1983;ワードら,1982)。O−グリコシル化の存在は、現在のところまだ説明されていない。
外部に局在しているために、HAおよびNA抗原は、宿主の免疫系にとって最も重要なウイルス標的構造となっている。HAに特異的に結合する抗体はウイルスの感染性を中和すると考えられ、それはおそらく早期段階の感染を遮断することによるものであろう(ハースト,1942;キダら,1983)。NA特異的抗体は通常、標的細胞の初期感染を阻止するのではなく(ジャヒエルおよびキルボーン,1966;キルボーンら,1968;ヨハンセンら,1988)、ウイルスの拡散を阻止する。さらに、競合メカニズムにより、より頻繁に発生するHA抗原のために、NAに対する免疫応答が部分的に抑制されるように思われる(ヨハンセンら,1987;キルボーン,1976)。実際のところ、NA免疫の効果は、ほとんどが中和性のHA抗体によって覆い隠されている。このために、ワクチン設計者たちの注意は、長い期間にわたってもっぱらHAに焦点を向けられている。
しかし、多くの実験的観察結果から、インフルエンザに対する防御免疫の構築において、NAが実際に重要なパートを演じることが可能であることが示されている(シュルマンら,1968;ヨハンセンおよびキルボーン,1990;ヨハンセンら,1993)。NAの免疫原能力に向けた基礎的な研究には、十分な量の非常に純粋な抗原を、正確な三次元コンホメーションで利用できることが必要である。現在のところ、NAはウイルスのエンベロープを界面活性剤で処理すること(ギャラガーら,1984;キルボーンら,1968)またはプロナーゼを用いることが多いが、タンパク質頭部のタンパク質分解切断(セトら,1966;ロットら,1974)によって製造され、次いで精製されている。ある程度までは利用可能であるけれども、これらの方法には収率および純度に関して無視できない限界がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、天然のノイラミニダーゼに対応する抗原特性をもち、正確な作法で折り畳まれる組換えインフルエンザノイラミニダーゼを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような実質的単離体である組換えノイラミニダーゼを、本発明にしたがって、
a)ノイラミニダーゼ発現ベクターで形質転換された宿主細胞、またはノイラミニダーゼ発現ベクターで形質転換されたウイルスに感染させた宿主細胞を適当な培養培地中で培養し(ここで、発現ベクターには、膜アンカーをコードする領域を欠損しているインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域の少なくとも一部、またはその修飾バージョンが含まれ、該コード領域に先立ち、シグナル配列が相内で連結している);次いで
b)培養培地から発現産物ノイラミニダーゼを単離することによって得ることができる。
培養培地に分泌される本発明の組換えノイラミニダーゼは、たとえば基礎的研究に用いることができ、そこでは、ワクチン中でのNAの役割を決定するために、NAの単独のワクチン接種が行われる。しかし実際問題として、ワクチンによる防御の度合(感染に対して効果的に防御される接種集団のパーセンテージ)および防御の持続性(後期流行性株に対する防御)を増強するために、組換えNAをHAと組み合わせて使用することはまだないであろう。
【0005】
さらに詳しくは、本発明は、宿主細胞を適当な培養培地中で培養し、培養培地から発現産物であるノイラミニダーゼを単離することによって得られる組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼを提供する。これには実際問題として、たとえば、pAc2IVAsからの組換え発現モジュールを、野生型バキュロウイルスまたはその誘導体に乗り換えさせる操作が必然的に伴う。次いで宿主細胞をこの組換えバキュロウイルスに感染させる。
組換えインフルエンザノイラミニダーゼの産生に用いる宿主細胞は、昆虫などの下等真核生物由来のもの、たとえば昆虫細胞系sf9が好ましいが、サッカロミセスまたはピチアなどの酵母細胞も使用しうる。
【0006】
さらに本発明は、複製起点、膜アンカーをコードする領域を欠損したインフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域の少なくとも一部、またはその修飾バージョン、コード領域の5'に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列、シグナル配列の5'に位置するプロモーターおよびコード領域の3'に位置する転写ターミネーターを含む、分泌可能なインフルエンザノイラミニダーゼを発現するための2種のベクターに関する。さらに詳しくは、本発明は、複製起点、膜アンカーをコードする領域を欠損したウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域、またはその修飾バージョンを含む、分泌可能なインフルエンザNA2ノイラミニダーゼを発現するためのベクターを提供する。
【0007】
昆虫細胞中で発現するには、このようなベクターを野生型バキュロウイルスまたはその誘導体とともに細胞中に入れる。組換えバキュロウイルスは、二重相同的組換えによって得られ、ここではベクターの発現モジュールがウイルスのゲノムに導入される。プラーク精製後、組換えバキュロウイルスのストックが得られ、続いて、それを用いてsf9細胞などを感染させることができる。
【0008】
シグナル配列は、インフルエンザNA2ウイルス「A/ビクトリア/3/75」の血球凝集素遺伝子由来のものであるのが好ましい。本発明は、ベクターpAc2IVNAs(ベルギー、ベー−9000ゲント、カー・エ・レーデガンクストラート35番、ラボラトリウム・ボーア・モレキュライル・ビーオロジー−プラシスデンコレクチエ(LMBP)に1994年1月3日に提出され、寄託番号はLMBP2976である)を用いて、二重相同的組換え手段によって、たとえばバキュロウイルスなどのウイルスを形質転換するのが好ましい。ここでは、転写制御シグナル、シグナル配列およびコード領域からなるベクターの発現モジュールを、ウイルスのゲノムに組み入れる。
【0009】
本発明の他の具体例においては、本発明にしたがって第2のベクターを使用する。このベクターは酵母中で使用されることを企図されており、たとえば複製起点、ノイラミニダーゼの膜アンカーおよび柄部分をそれぞれコードする領域を欠損しているウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域、またはその修飾バージョン、コード領域の5'に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列、シグナル配列の5'に位置するプロモーターおよびコード領域の3'に位置する転写ターミネーターを含む。
【0010】
プロモーターおよびターミネーター配列は相同的であり、メチロフィック酵母ピチア・パストリス由来であることが好ましく、アルコールオキシダーゼI遺伝子配列などが該当する。シグナル配列はたとえば、サッカロミセス・セレビシアエのプレプロ接合因子αの分泌シグナルである。
【0011】
このベクターpPP1IVVAflsはベルギー、ベー−9000ゲント、カー・エ・レーデガンクストラート35番、ラボラトリウム・ボーア・モレキュライル・ビーオロジー−プラシスデンコレクチエ(LMBP)に1995年1月3日に提出され、寄託番号はLMBP3223である。
【0012】
本発明の組換えノイラミニダーゼは、インフルエンザウイルス、特にNA2型のインフルエンザウイルスに対する防御免疫を産生することが可能であることが見いだされている。したがって、本発明はまた、組換えノイラミニダーゼを含むインフルエンザに対するワクチンに関する。
【0013】
さらにまた本発明は、組換えノイラミニダーゼの製造方法および精製方法に関する。
【0014】
本明細書および請求の範囲において語句「NAs」は、分泌可能な(組換え)ノイラミニダーゼを意味する。「pNA」は、プロナーゼで処理された天然のノイラミニダーゼを意味する。「NA」はノイラミニダーゼを意味する。
【0015】
次に述べる実施例において本発明をさらに詳しく説明するが、この実施例は説明の手段としてのみ意図されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0016】
実施例1
組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼの発現、精製および特性付け
材料および方法
1.分泌されるノイラミニダーゼをコードする遺伝子の構築およびそのバキュロウイルス発現系への組込み
a.プラスミド プラスミドpV6/21は、1コピーのA/ビクトリア/3/75(H3N2)インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ遺伝子を含むpBR322の誘導体である(ヴァン・ロムプイら,1982)。pSV51およびpSV23mとpSV24mの両方は、それぞれ後期および初期SV40置換ベクターであり、他の文献に記載されている(ヒュイルブレックら,1988)。pSRS−8は、A/ビクトリア/3/75(H3N2)の血球凝集素(HA)遺伝子の出発配列を含むpPLa2311に基づくプラスミドである(ヒュイルブレックら,1988)。バキュロウイルストランスファーベクターpVL941が、ラッコウおよびサマーズによって設計された(1989)。
【0017】
b.HAシグナルペプチド配列のサブクローニング(pIV−プレHA) 1830bpのpSRS−8のBstNIフラグメントをクレノウ酵素で満たした。PvuIIリンカー(GCAGCTGC)を続いて配列した。得られるフラグメントおよびpBR322をPvuIおよびPvuIIで切断し、それぞれ731bpおよび1699bpのフラグメントを単離した。これらの2つのフラグメントを連結して、G-16(ATG=+1,+2,+3)で出発するHA遺伝子の5'非翻訳領域、次いで完全なHAシグナルペプチド配列および成熟HAの最初の2,3個のコドンを含むpIVプレHAを作成した。
【0018】
c.分泌されうるNAをコードするキメラ配列:pATIVNAsの構築 pV6/21をPvuIで開環し、Bal31エキソヌクレアーゼで処理した。この混合物にHindIIIリンカーを連結し、次いでHindIIIで切断した。約1500bpのNAフラグメントを選択し、pSV23mの非反復HindIII制限部位でクローニングした(pSV23mIVNA)。左回りのインサートをもつプラスミドをFnudIIおよびSalIで続いて切断し、膜アンカー配列の欠損したNA遺伝子を含む1291bpフラグメントを回収した。pIVプレHAをPstIおよびPvuIIとともにインキュベートし、HAシグナル配列をもつ861bpのフラグメントを保存した。PvuII/PstIブラント末端の連結によって、最終的に両方のフラグメントを結合し、pAT153の2253bp−SalI/PstIフラグメントに挿入し、pATIVNAsを得た。このプラスミドは、成熟HAの最初の2,3個のアミノ酸を含むHAのシグナルペプチド、すぐに続いてシグナルペプチド/膜アンカーを欠損したNA配列および「柄」をコードする領域の一部をコードする配列を有している。HAおよびNAフラグメントの連結によって、成熟HAの5位に対応する単一のアミノ酸が置換された(GlyからAlaへ)。ミン・ジョウら(1988)およびバン・ロムプイら(1982)の文献に記載の情報に基づき、NAs中の連結部位に隣接する予測されたDNAおよびアミノ酸配列を図2に示す。
【0019】
d.バキュロウイルストランスファーベクターへのNAsの組込み
pATIVNAsの1368bp−XbaI/SalIフラグメントを、pSV51の5562bp−SalI/EcoRIフラグメントおよびpSV24mの624bp−EcoRI/XbaIフラグメントに連結した。NAs遺伝子を含む1647bp−BamHIフラグメントの1コピーおよびSV40ポリ(A)部位を、ポリヘドリンプロモーターに対する正確な方向を考慮しながらpVL941の非反復制限部位へ続いて挿入し、pAc2IVNAsを得た。この構築物はSf9細胞の同時トランスフェクション後の野生型AcNPVのDNAとの相同的組換えを可能にする。組換えウイルスの子孫は、サマーズおよびスミス(1987)に記載されている連続的プラーク精製操作によって単離した。
【0020】
2.昆虫細胞培養−NAsの産生
ルーチン培養のために、昆虫細胞Sf9を、10%ウシ胎児血清および50μg/mlのゲンタマイシンを含むTC100培地中で集密的細胞単層として維持した。組換えバキュロウイルスに感染させるために、850cm2の回転ビン内に培養物を移し、25rpmで回転して懸濁液200ml中で成長させた。次いで、対数増殖期の終わりに、懸濁細胞(2x106細胞/ml)を組換えバキュロウイルスに1.0モイ(moi:感染多重度)で感染させた。2時間後、感染細胞を新鮮な血清フリーのTC100培地に移し、懸濁液をさらに48時間インキュベートした。下記のとおり、NAsを培地から精製した。
【0021】
3.インフルエンザX−47ウイルスの成長
A/ビクトリア/3/75の天然のNAの製造源として、インフルエンザ株X−47をプロナーゼで処理した後に用いた。X−47ウイルスは、11日齢の胚の入ったニワトリの卵の卵黄嚢空隙中で培養した。25.5℃で2日間インキュベートした後、卵を4℃で一夜冷却し、次の処理に用いるため卵黄嚢液を採集した。
【0022】
4.緩衝液系
通例、次の緩衝液を用いた:緩衝液A:20mM ジエタノールアミン/HCl,pH8.5;
緩衝液B:50mM NaAc,pH5.5;
緩衝液C:10mM NaP,pH7.4,150mMNaCl;
緩衝液Aおよび緩衝液Cは、さらに4%ブタノール(他に特別に指示がない限り)および2mM CaCl2を含む。
【0023】
5.NAsの精製
a.硫酸アンモニウム分画
植え付け(上記参照)後、Sf9懸濁培養物(通例、約1リットル)を採集し、4000xgで15分間遠心分離を行って細胞レムナントを沈降させた。すべての処理は4℃で行った。最初の精製段階においては、溶液に5mM NAN3を加える。透明になった粗培地をpH7.5にて硫酸アンモニウム分画に付した。20%から60%の(NH4)2SO4で沈殿した物質を遠心分離(10000xg,60分)によって集め、緩衝液A(ブタノールなし)+20mM NaClに、出発体積の1/10の量にて溶解した。再溶解した沈殿物を同緩衝液50体積に対して24時間透析(mwco「モレキュラー・ウエイト・カット−オフ」)した。ここでは、緩衝液を3回連続的に交換した。20000xgで15分間遠心分離して不溶成分を除去した。
【0024】
b.セファロースQ−アニオン交換クロマトグラフィー
透析した溶液に先ず4%ブタノールを加え、続いて緩衝液A+20mM NaClを流速25ml/時間で通して平衡化したセファロースQ−カラム(2.5cmx10cm)に流した。同緩衝液でカラムを洗浄した後、洗浄緩衝液から250mMまでのNaClの直線濃度勾配で溶離を行った(250ml,25ml/時間)。NAsを含む各2.5mlのフラクションを酵素活性およびELISAレベルを測定することによって同定した。NA活性は単一ピークとしてカラムから溶出した。
【0025】
c.N−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロースアフィニティークロマトグラフィー
(非組換え)インフルエンザNAおよびバクテリアNA酵素の精製のためのこのアフィニティーマトリックスの使用が文献に記載されている(カトルカサスおよびイリアーノ,1971;ブッチャー,1977)。アフィニティーマトリックスの正確な分画は、初めに推奨された緩衝液条件を適用した場合にのみ達成された。セファロースQによる分離後に活性画分を集め、等量の200mM NaAc,pH5.5を加えた。続いて、該活性画分を、緩衝液Bと100mM NaClで平衡化したN−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロースカラム(1.5x5cm)に通した。続いて、平衡化緩衝液でカラムを洗浄し、緩衝液Bで脱塩した。次いで、緩衝液Aで第2の洗浄段階を行った。最後に、1M NaClを加えた緩衝液Aを用い、流速10ml/時間でNAsを溶出した(2mlの画分を集めた)。
【0026】
d.スーパーデックス200ゲル濾過クロマトグラフィー
Centriprep(登録商標)濃縮機(アミコン;mwco:30kd)を用いてアフィニティーカラムの溶出物を2.0mlに濃縮した。次いで、濃縮物を体積1.0mlのサンプル画分にて、緩衝液Cおよび4%ブタノールで平衡化したスーパーデックス200ゲル濾過カラム(1.5cmx60cm)を用いるクロマトグラフィーに付した。流速10ml/時間にてカラムを平衡化緩衝液で溶離し、1.0mlの画分を集めた。長期貯蔵するために、−20℃で関連画分を集め、前述のように濃縮し、続いて最終濃度が50%になるまでグリセロールを加えた。
【0027】
精製タンパク質の分子量を評価するために、ウマの脾臓から得たアポフェリチン(443kd)、サツマイモから得たβ−アミラーゼ(200kd)、酵母から得たアルコール脱水素酵素(150kd)、ウシ血清アルブミン(67kd)および炭酸デヒドラーゼ(29kd)でゲル濾過カラムを測定した(すべてシグマ・ケミカル・コーポレイションから入手)。
【0028】
6.pNAの製造および精製
a.プロナーゼ処理
X−47に感染した鶏卵の卵黄嚢液をまず低速(1000xg,10分)で遠心分離して透明化し、次いで13000xgで16時間遠心分離してウイルスを沈降させた。ウイルス沈降物を100感染卵等価物当たり10mlの緩衝液Cに再懸濁し、ウイルスをこれ以上精製をすることなく、2mg/mlまでのプロナーゼを加えた。軽く振とうしながら、混合物を20℃で16時間インキュベートした。続いて、残りのウイルスコアおよび不溶のプロナーゼ成分を4℃にて超遠心分離(100000xg,1時間)によって除去した。次いで、放出されたNA頭部を含上清をカラムクロマトグラフィーにて精製した。
【0029】
b.セファロースS−カチオン交換クロマトグラフィー
クロマトグラフィー操作は、4℃にて行った。粗pNAサンプルを5倍に希釈し、50mM NaAC,pH5.5、2mM CaCl2および1%ブタノールを加えた。次いで、溶液を緩衝液B+1%ブタノールおよび50mM NaClで平衡化したセファロースSカラム(1.5cmx10cm)に流す。同じ緩衝液から500mM NaClまで直線勾配を用いて結合した物質を溶離した。ピークの酵素活性を示す画分を集め、Centriprep(登録商標)濃縮機(アミコン;mwco:30kd)を用いて2.0mlに濃縮した。
【0030】
d.スーパーデックス200ゲル濾過クロマトグラフィー
NAsの場合と同様にしてスーパーデックス200ゲル濾過を行った(ブタノール濃度が1%である以外)。純pNAを50%グリセロール中に−20℃で貯蔵した。
【0031】
7.NA酵素アッセイ
ポティアら(1979)の方法に基づいて、NAの触媒活性のアッセイを行った。簡単に述べると、100μlの反応体積にて、基質として1mMの2'−(4−メチルウンベリフェリル)−α−D−N−アセチルノイラミン酸の存在下、−200mM NaAC,pH6.5、2mM CaCl2および1%ブタノールを用いて酵素試験を行った。37℃で30〜60分間インキュベートした後、0.5mlの133mMグリシン、83mMのNaHCO3、60mM NaCl,pH10.7を加えて反応を停止した。365nmの吸光度を測定することによって、遊離の4−メチルウンベリフェロンを測定した。1ユニットは、1分間に1モルの4−メチルウンベリフェロンを放出する酵素量として定義した。
【0032】
8.免疫学的技術
a.ポリクローナル抗pNAIgGの製造
精製pNAに対するポリクローナル抗血清をニュージーランド系の3カ月齢のウサギで作製した。一次免疫感作は、それぞれ投与量当たり50μgのpNAと75%のフロイントアジュバントを含む500μlを四肢に筋肉内投与して行った。6週間後、動物は2つの対応する二次免疫注射を後肢に受けた。IgG画分を製造するために、タンパク質Aセファロース(ファルマシアLKB)に吸着させることによって集めた血清を精製した。
【0033】
b.ELISA
マイクロタイタープレートにウサギの抗pNAIgGを塗布した。試験するサンプルを0.1%ウシ血清アルブミンを含むPBSで希釈した。ウサギのビオチン化抗pNAIgG、次いでストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ複合体(ベーリンガー)を用いて結合した抗原を検出した。該プレートをp−ニトロフェニルホスフェート(シグマ・ケミカル・コーポレイション)とともにインキュベートして酵素反応を促進した。マイクロタイタープレートリーダーで405nmにおける吸光度を測定した。
【0034】
9.分析方法
レムリ法(1970)に従い、10%分離ゲル上でSDS/PAGEを行った(他に特記したもの以外は)。他に特記したもの以外は、β−メルカプトエタノールの存在下に全サンプルを変性した。10%ゲル中で、マーカータンパク質として、ホスホリラーゼb(94kd)、ウシ血清アルブミン(67kd)、卵白アルブミン(43kd)、炭酸脱水素酵素(29kd)およびトリプシンインヒビター(20.1kd、常に可視ではない)(ファルマシア)を用いた。勾配ゲルに次の質量標準を展開した:ミオシン(22kd)、β−ガラクトシダーゼ(116kd)、ホスホリラーゼb、ウシ血清アルブミンおよび卵白アルブミン(バイオラド)。モリシー(1981)に記載の方法の変更法によってゲル上で銀着色を行った。ブラッドフォード(1976)の方法により、ニワトリの卵白アルブミンを標準としてタンパク質濃度を定量した。
【0035】
10.架橋分析
10mM Hepes中の1.0M溶液(pH7)として、架橋分子BS3を新たに調製した。濃度0.5mMのBS3を、反応量30μlにて加え、タンパク質を架橋した。室温にて1時間インキュベートした。続いて、5μlの1.0Mトリス(pH8.0)を加えて反応を停止した。ポリペプチドのパターンをSDS/PAGEで分析した。
【0036】
11.糖質分析
タンパク質サンプル(0.1μg〜1μg)を500mMトリス/HCl(pH8.0)、5%SDS、50mMβ−メルカプトエタノール中で煮沸して変性した。最終SDS濃度の少なくとも7倍過剰となるように2.5%のNA−オクチルグルコシドを加えた後、NA−グリカナーゼを加え(約0.5ユニット;製造者によるユニット)、反応混合物を37℃で16時間インキュベートした。消化パターンをSDS/PAGEで分析した。
【0037】
結果
1.pNAの精製
ここに記載した実験においては、合計186個の感染卵を処理した。異なる精製段階とその結果を表1にまとめた。卵黄嚢液およびウイルスの沈積物を収穫し、プロナーゼを濃度2mg/mlで加え、混合物を20℃で16時間インキュベートした。超遠心分離後、上清におよそ60%のNA活性が見られた。この条件下では、活性の損失の主たる原因は、ウイルス粒子のNA頭部の除去が不完全なことであることがわかった。プロナーゼ濃度を高くすること、インキュベーション時間を長くすること、またはインキュベーション温度を上げることは、NAが徐々に失活するのが促進されるため、これらによって収量が増加することはなかった(データは示さず)。続いて、粗pNA物質を希釈し、pH5.5にした。次いで、セファロースS−カチオン交換を行った。pNAを最大収量で得るために、すべての溶液に1%ブタノールを加えた。ほとんどのタンパク質は、セファロースSカラムにしっかりとは固定されず、勾配溶離において、NaClが400mMの時点において、ひとつのピークが記録されただけであった(示さず)。SDS/PAGEにおいてコンタミネーションバンドが観察されなかったので、この物質は、実質的に純粋なNAであった(図3A、レーン3)。さらに、銀着色では、セファロースSプールとセファデックス200ゲル濾過工程の間に少しも差異がなかった(図3A、レーン3と4を比較せよ)。最後のカラムでは、画分60において分子量210kdに対応する単一の鈴形状のピークが得られた(示さず)。連続精製工程を図3Aに示す。
【0038】
SDS/PAGEでは、それぞれ約54kdと約52kdに対応する2本のバンドとしてpNAを実際に目視することができた。ここで後者は、銀着色の相対的強度から判るように、最も頻繁に現れるものであった。おそらく、この2つは、柄領域の異なる2カ所の部位でプロナーゼによる好適な切断を受けたことから誘導されたものである。化学製剤BS3との架橋から、pNAが真正の四量体タンパク質として回収されることが確認された(図3B)。
【0039】
2.NAsの構築および発現
インフルエンザNA2株「A/ビクトリア/3/75」のNA遺伝子を、そのNA末端膜アンカーから分離し、代わりにシグナルペプチドスプライシング部位を含むA/ビクトリア/3/75HA遺伝子の5'配列に結合した。これによって、分泌可能で可溶性産物の合成が可能になった。得られるキメラ遺伝子は、成熟HAの最初の4個の末端アミノ酸のコドンを含むHAシグナル配列、すぐに続いて膜通過部分(アンカー)および柄領域の一部(アミノ酸1〜45)を欠損したNA配列からなる。両方のDNA配列は、同じ読み取り枠内にあり、余分のアミノ酸は導入されなかった。連結の結果として、成熟HAタンパク質の5位に対応するただひとつのアミノ酸置換が行われた(図2)。pVL941を移入ベクターとして用いて、このキメラ配列の1個のコピーをAcNPVバキュロウイルスのポリヘドリンプロモーターの後に組み込んだ。Sf9昆虫細胞の植え付け後、可溶性タンパク質が実際に産生されたことを示すNA活性を培地中で迅速に検出した。感染後およそ48時間で培地中のNAs活性がプラトーレベルに達したことを図4に見ることができる。さらにインキュベーションを行うと、おそらく細胞溶解が拡大する結果と考えられるが、総タンパク質濃度が劇的に低下しはじめるので、よい結果を生まなかった。親Sf9単層と広範囲の懸濁培養物間の中間の運搬が最小に制限される場合に、発現が最も盛んであるらしいことが見出された(データ示さず)。種々の精製実験に基づき、NAsは6〜8mg/lで変化する濃度および適度に低い産生能力で発現されるが、なおしかし、他の分泌される複合体糖タンパク質について報告された収量(ジャービスら,1990)と比較可能なレベルであることを決定した。
【0040】
3.NAsの精製
TC100培地を、可溶性タンパク質内容物の特異的酵素活性がピークに達する感染の48時間後に収穫した(図4)。NAs精製の種々の工程を表1にまとめた。粗培地に対し、20%〜60%飽和硫酸アンモニウム沈殿法を行うと、適度に2倍の濃度の増加が得られ、物質の濃縮を行うことができた。大規模な透析および不溶生成物の除去を行った後、4%ブタノールを加えた。ブタノールを添加することが、NAsの収量の増加に非常に有利な影響があり、特にタンパク質濃度が低い場合に効果的であることが見出された。培地の疎水性の程度を限定することが、不溶性凝集物の形成を避けるのに必要であることも考慮しうることである。続いて、溶液をセファロースQ−アニオン交換クロマトグラフィーによって分画した(図5)。塩勾配の開始時に適度に対称的なピークでNA活性が溶出した。ELISA試験より、残りの画分にはNA関連物質が含まれないことがわかった。この時点で、出発時のタンパク質の量のおよそ97.5%が除去され、ほぼ20の要因によって特異的活性が増加した。次いで、N−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロースカラムに通すために、溶液のpHを5.5まで下げた。初期の実験から、NA置換オキサム酸が、インフルエンザNAの強い可逆的インヒビターであることが知られている(エドモンド,1966)。インフルエンザウイルスまたはバクテリアのノイラミニダーゼに対する選択的吸収体としてN−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロースを使用することは、最初にカトルカサスおよびイリアーノ(1971)によって、後にブッチャー(1977)によって証明された。最初の操作にしたがって、高pHの緩衝液(100mM NaHCO3,pH9.1)でノイラミニダーゼを溶離した。しかし、我々の実験では、これらの条件では、NAsの溶出は不完全で、遅い結果しか得られなかった。しかし、pHを高め、かつ塩濃度を高めることによって、効果的な放出が達成できた。溶出に先立って、低濃度の塩の存在下、pH8.5で追加の洗浄工程を行うことによって、多量の非特異的に結合したタンパク質をカラムから除去した。緩衝剤としてNaHCO3よりもジエタノールアミンの方を選ぶことによって、沈殿することなく2mM CaCl2を吸収することが可能になった。NA活性の保持力が、Ca++イオンに幾分左右されることが繰り返し報告されている(チョンら,1966;ヂモック,1971)。このことが本実験に相当するかどうかは詳細に調査しなかった。
【0041】
痕跡量の残留混濁物を除去するために、溶出液を限外濾過によって濃縮し、スーパーデックス200ゲル濾過に付す(図6)。A280測定では、それぞれ約200kd、約130kdおよび約54kdにおいて溶出した吸光度の異なる3つのピークが生じた。ELISA法によって測定された溶出液の免疫反応性パターンは、記録された3つの各ピークのA280プロフィールを正確に表現していることがわかったが、これはすべての物質がNAs特異的であることを示唆している。
【0042】
ピーク画分のSDS/PAGE分析では、分子量の僅かな減少および画分数の増加が認められたが、予測した領域である約55kdに強いバンドが現れた。(図7)。BS3を用いた架橋分析によって220kdピークは四量体のNAsであると同定された。一方、分子サイズが小さい方の2つのピークは、それぞれ二量体および単量体のNAsであることがわかった。ただし、ここで後者の形体は定量的重要性に限定される(図7B)。球形体をもつと考えられる四量体や単量体NAsとは異なり、二量体NAsは、その棒様の構造のために、その現実の分子量よりも僅かに上で溶出すると考えられる。より注目すべき事は、完全に組み立てられた四量体構造のNAsしか触媒活性を示さないことであった。四量体形状は、酵素活性に必須とされる色々な局在的コンホメーション変化を引き出すことが可能である。精製過程の工程表を表2に示す。
【0043】
4.NAsの特性
NAsをβ−メルカプトエタノールの存在下にSDSと煮沸して変性すると、NAsは完全解離して分子量約55kdの単量体鎖になった。SDS/PAGEゲルの銀着色により四量体および二量体NAsは、均質に精製されることがわかった。単量体NAsについては、痕跡量の混濁物が目視されるので、僅かに質の低いものであった。還元剤のない条件下で変性を行うと、四量体および二量体NAsは、約110kdの二量体鎖として移動した(示さず)。これらの結果から、NAs二量体はジスルフィド架橋により内部で結合しており、さらに非共有結合的相互作用を介して会合することができ、それによって、天然のNAの構造に対応する四量体タンパク質が形成されることが示された。
【0044】
昆虫細胞が、哺乳類および他の高等細胞のNAグリコシル化パターンとは幾らか異なるパターンを生み出すことが繰り返し報告されている(ヒシアおよびロビンス,1984;バターおよびヒュー,1981;バターら,1981;クロダら,1990)。したがって、組換えNAsと会合したNA結合糖質の量が、天然のpNAと比較して調査された。代表的なタンパク質サンプルをNAグリカナーゼ酵素で処理し、続いてSDS/PAGE法で分析した(図9)。バンドが相対的に置き換わっていることから、NAsと会合したNA結合糖質の合計量は、天然の分子と比べて僅かに少ないと結論付けることができる(図9Aと図9Bを比較せよ);この系で発現する他の糖タンパク質に対して行われた結果と一致する知見である(クロダら,1986;ドミンゴおよびトロウブリッジ,1988;ヴァン・ドルネン・リッテルら,1991)。変性、酵素的脱グリコシルNAs体が、そのオリジナルのオリゴマー構造にかかわらず、同じ電気泳動的挙動で移動することも確立され、このことから、一次NAsが一様な鎖長のポリペプチドとして合成されたことが確認される(図9B、レーン3,5および9を比較せよ)。NAグリカナーゼで処理されたポリペプチド鎖の分子量は、47.5kdと見積もられ、これは予測されるアミノ酸配列から計算された理論的分子量47,717dに一致する。十分興味深いことに、グリコシル化二量体および単量体NAsと一致するバンドはゲル内で、グリコシル化四量体NAsから誘導されたバンドよりもやや急速に移動するので、NAグリコシル化の度合は、四量体を形成する能力と関係しているように思われた(図9B、レーン2に対してレーン4および6;図7Aも参照せよ)。NA結合糖質、さらに詳しくはAsn200に結合するオリゴ糖質鎖が、隣接するサブユニットとの相互作用に介入することによって四量体構造の安定化に一部役割を担うことができるということが示唆されている(バルゲーゼら,1983;バルゲーゼおよびコールマン,1991)。
【0045】
四量体タンパク質のみがNAsの触媒特性を有した。単離された四量体NAsは、ほとんど精製pNAと同一の特異的活性レベルを呈した(表1および表2)。
【0046】
各単量体は触媒部位を有しているが、低次構造のNAs体が酵素活性をもたないという知見は、おそらくインフルエンザNAの機能性における四次相互作用にとっての重大な役割を反映している。
【0047】
NAsの抗原特性を確かめるために、等しい濃度のタンパク質サンプルを作り、続いて2倍希釈し、ポリクローナル抗pNAIgGに基づくサンドイッチELISAで試験した(図10)。四量体NAsでは、pNAの参考グラフと同様の滴定曲線が得られたが、これは、両方が同一かまたは非常によく似た抗原特性をもつことを示している。抗原性に小さなシフトが認められるけれども、論証できるような酵素活性がないにもかかわらず、二量体および単量体NAsの抗原活性は実質的にそのまま残っていた。抗原性におけるこの小さな差異は、抗原活性/A280比が僅かに上回っている四量体ピークのゲル濾過プロフィールから同様に明らかであった(図6)。天然の四量体構造に対して産生された多数の抗体分子は、不完全に組み立てられたNAsに効率的に結合すること、たとえば隣接するサブユニット間の接触領域を認識することが不可能であったということも有り得る。四量体フォーメーションによって誘発される局部的な変化もまた、多数の微細な抗原差異を引き起こす。
【0048】
論考
本発明の主たる目的は、分泌され、正確に折り畳まれたタンパク質としてのインフルエンザノイラミニダーゼの合成、およびワクチン用剤として使用しうる均質な生成物を得るための精製操作の決定であった。NA2インフルエンザウイルス株A/ビクトリア/3/75のNA遺伝子から、シグナル配列(膜アンカー機能)を有する元のNA末端領域が、インフルエンザHA遺伝子の5’配列の一部と置き換えられたキメラ遺伝子を構築した。続いて、HAから誘導された切断可能なシグナルペプチドにより実質的に分泌可能なNA(NAs)をコードする、得られる構築物を、強力なポリヘドリンプロモーターの転写調節下にバキュロウイルス発現ベクターに組み込んだ。宿主昆虫細胞Sf9の感染後、培養培地中にNAsが分泌された。精製結果に基づいて、6〜8mg/lの範囲で発現のレベルを評価した。バキュロウイルスに感染している間に、分泌による宿主細胞のタンパク質切断能力が劇的に減少することが論証された(ジャービスおよびサマーズ,1989)。それにもかかわらず、記載された産生系は実験室スケールの予防接種の研究に適用可能であり、相当なスケールアップにも好適である。
【0049】
NAsの精製は、第1の硫酸アンモニウム分画段階、それに続く3種のクロマトグラフィー段階を含む実質的に4段階の操作からなった。酵素活性の獲得については、精製タンパク質としておよそ25%のNAsが回収されることを評価した。ゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより、NAsを予分別して、架橋分析によりそれぞれ四量体、二量体および単量体NAs(ここで後者はほんの少量しか存在しない)として同定される分子サイズの異なる3つの集団に分けた。主要な2つの形体、四量体および二量体NAsは、約等量で得られ、SDS/PAGEおよび銀着色で審査したところ均質であった。
【0050】
NAsの酵素および免疫特性を評価するために、比較対称タンパク質として天然のNAを単離することが必要であった。X−47ウイルスのA/ビクトリア/3/75NAの頭部をプロナーゼ処理により切断し、次いでカチオン交換およびゲル濾過クロマトグラフィーにより精製した。架橋後、pNAが完全な膜結合NAの四量体構造を保持していることを確認した。
【0051】
NAsの触媒特性は、四量体タンパク質のみが酵素活性を呈するという非常に変わったものであった。四量体NAsは、ほどんどpNAに相当する特異的活性を有した。二量体および単量体NAsが変性タンパク質であるという理由で単純に不活性であったというのは可能性が低いことである。なぜなら、精製操作中これらの形体もまた、基質結合部位に基づくアフィニティークロマトグラフィーによってしっかりと補足されたからである。これは、酵素の触媒部位は機能的に完全にちがいないが、次に続く触媒への移行が明らかにできないことを示唆している。
【0052】
NAグリカナーゼ処理により、概してNAsの糖質含量がpNAの糖質含量と比べて僅かに低いこと示されたが、これはこの系で発現する他の糖タンパク質においても認められることであった(クロダら,1986;ドミンゴおよびトロウブリッジ,1988;バン・ドルネン・リッテルら,1991)。ハイポグリコシル化は、二量体および単量体NAsにおいて明らかに、より顕著であった。X線回折分析による構造の研究から、Asn200に結合した糖質鎖が隣接するサブユニットの接触をより接近したものにすることが示されたが、これは、その鎖が、四量体構造を強化するためのさらなる相互作用を提供したことを示唆している(バルゲーゼら,1983;バルゲーゼおよびコールマン,1991)。
【0053】
精製pNAに対して産生されたポリクローナルIgGとの四量体NAsの反応性は実質的に完全であったが、これは、両方のタンパク質が非常に類似した抗原特性をもつことを示している。二量体および単量体NAsの場合に抗原性の小さいシフトを認めることは可能であった。これまでに述べてきたことから、四量体構造のインフルエンザNAのみに結合するモノクローナル抗体を単離することが可能であると推論することができた。このような抗体は、おそらく隣接するサブユニットから誘導された表面の抗原決定基との相互作用に入るか、あるいは別の考え方として、四量体形成中のコンホメーション再構成後に形成されたエピトープを認識する。さらに、糖質組成における差異もまた抗原特性を変更する。
【0054】
実施例2
ピチア・パストリスによる組換えノイラミニダーゼの分泌
序論
昆虫細胞に加えて、酵母が組換えインフルエンザノイラミニダーゼ産生用の宿主細胞として使用しうるかどうかを判定するために、ノイラミニダーゼの酵素的「帽子」部位を含む発現ベクターを構築した。
【0055】
材料および方法
1.ベクターおよび宿主
ピチア・パストリスのプラスミドpPIC9(インビトロゲン製)を用いて発現カセットを構築した。このプラスミドは、ピチア・パストリスの誘導可能なアスコールオキシダーゼI(AOXI)遺伝子の複製起点、アンピシリン耐性遺伝子、プロモーターおよびターミネーター領域、サッカロミセス・セレビシアエのα因子のプレプロ分泌シグナル、ならびにピチア・パストリスのHIS4マーカーを含む。宿主としては、メチロトロフィックな酵母菌ピチア・パストリス(インビトロゲン)を用いた。
【0056】
2.発現カセットの構築
部位特異的突然変異誘発法によって、A/ビクトリア/3/75のノイラミニダーゼ遺伝子のcDNA配列にStuI制限部位を導入した。制限部位の位置はPro79とした。この制限部位を用いて、酵素的活性中心を含むノイラミニダーゼ遺伝子の免疫原性「帽子配列」を、StuI/HindIII断片として単離し、ピチア・パストリスのプラスミドpPIC9のSnaBI制限部位にクローニングすることができた。図15はpPIC9プラスミドの模式図を示す。図16はプレプロシグナル配列と組換えノイラミニダーゼの融合領域である。プロペプチドは外来性のKEX2プロテアーゼによって後期ゴルジ体内で切断される。(Glu−Ala)2ジペプチドはSTE13型のジペプチジルアミノペプチドによって除去される。外側のチロシン残基は切断されず、組換えノイラミニダーゼ上でN末端に残るが、これは不必要である。
【0057】
SalI切断法によってHIS4選択マーカーの位置で得れらるプラスミドを直線化し、続いてポリエチレングリコールの存在下にピチア・パストリスのGTS115(his4)原形質体に形質転換した。形質転換体から単離されたDNAをサザン分析に付した。この分析により、内部(しかし欠失あり)his4座の位置に相同的組換えを介して組み込まれた発現ベクターが示された。大部分の形質転換体は1〜2コピーのプラスミドを有しているが、高度分泌能力をもつ形質転換体は、タンデム構造で宿主ゲノムに全体を組み込まれた複数コピーのプラスミドを持つことがわかった。該コピーの数は形質転換体当たり25に達していた。
【0058】
3.ノイラミニダーゼの発現
最小グリセロール緩衝培地(pH6.0)中で形質転換体を予備成長させ、48時間後に、0.5%メタノールを含む最小緩衝培地に移した。この結果、アルコールオキシダーゼIプロモーターが誘導され、ノイラミニダーゼの「帽子」が発現した。公知のノーザン分析法を用いて、細胞中のノイラミニダーゼのmRNA量を評価した。この結果、非常に効果的に誘導がなされたことがわかった。
【0059】
細胞上清のウエスタン分析から、分子量約70kDaの組換えノイラミニダーゼが分泌されたことがわかった(図17参照)。
【0060】
PNGアーゼFを用いて分泌産物を脱グリコシル化した。これによって、予測された43kDaという大きさの「コア」産物が産生された。コピー数に応じて培地中の組換えノイラミニダーゼの収量が1〜1.5mg/リットルの間で変動することがわかった。
【0061】
実施例3
材料および方法
1.実験動物
免疫感作開始時に8週齢の雌性同系繁殖系Balb/cマウス(SCK Mol、ベルギー)を用いた。受動免疫感作実験において、被検マウスは12週齢であった。1ケージ(410cm2)あたり3匹のグループに分け、食餌と水を任意に与えた。
【0062】
2.ウイルス
インフルエンザ株は、A.ダグラス博士およびJ.スケール博士から入手した(MCR・ラボラトリーズ、ミル・ヒル、ロンドン)。実験用ウイルスX−31およびX−47はH3N2抗原組成物を含み、該組成物は、A/PR/8/34(H1N1)を遺伝子的に再編成することにより、それぞれA/アイチ/2/68(H3N2)およびA/ビクトリア/3/75(H3N2)として誘導される。両方のウイルスのストックを、マウスが死亡する程度に肺を通して何回も注入することによって順応させた。
【0063】
3.組換え分泌可能NA(NAs)
インフルエンザNA A/ビクトリア/3/75(H3N2)を、実施例1で記載したバキュロウイルス昆虫細胞発現系で産生された精製組換えタンパク質として投与した。ここで記載する免疫感作実験で使用する精製NAs票品には、リン酸緩衝塩溶液として四量体と二量体分子の混合物が含まれていた。
【0064】
4.アジュバント
我々自身の実験室で行った組換えインフルエンザHAの免疫感作研究に基づいて、適当なアジュバントを選んだ。Ribiアジュバント(モノホスホリル脂質A(MPLA)、トレハロース−6,6−ジミコレート(TDM)、スクアレンおよびTween80を含む)とサルモネラ・チフィムリウムMPLAの入ったビンを製造者の指示書(Ribiイムノケム・リサーチ)にしたがって満たした。ムラミル・ジペプチド(MDP)はシグマ・ケミカル・コーポレイションから購入した。
【0065】
5.免疫感作プロトコル
1μgのNAsを200μlの用量で3回、3週間間隔で皮下注射にてマウスに投与した。最初の免疫感作では、通常マウスに用いるRibi用量の半分量中(25μgのMPLA、25μgのTDM、2μlのスクアレンおよび0.1%のTween80に相当)に、NAsを乳剤化した。25μgのMPLAと25μgのMDPをNAsに加えてブースター注射を行った。対照動物にはアジュバントのPBS溶液を投与した。
【0066】
6.受動免疫感作
3回目の免疫感作後3週間目に、心臓穿刺によってドナーマウスから採血し、同様に処理されたマウスの血清標品を集めた。被検マウスに400μlの免疫または対照血清を1回投与の腹腔内注射を行った。
【0067】
7.インフルエンザチャレンジ
ブースター注射後3週間目または受動免疫感作後1日目、軽度にエーテル麻酔したマウスに、20LD50の即位的ウイルスを鼻孔内接種した。次いで、接種後10日間の直腸の温度と体重を測定することによって、感染の進行の程度を追跡した。
【0068】
8.血清学的方法
ワクチン接種開始前1日(免疫前血清)および各免疫感作後2週間目の血液サンプルを尾部動脈から採血した。ELISA法により、NA特異的抗体について個々の血清サンプルを試験した。マイクロタイタープレート(Nunc Maxisorp)に精製NAsを塗布し(50ng/ウエル)、血清を5倍に希釈した。アルカリホスファターゼ(シグマ・ケミカル・コーポレイション)と複合したウサギの抗(マウスIgG)抗体を加え、次いでp−ニトロフェノール基質溶液(シグマ・ケミカル・コーポレイション)をプレートに加えてインキュベートすることによって特異的抗体の結合を定量した。マイクロタイタープレートリーダーにて405nmにおけるOD値を測定した。対照ウエル(免疫前血清で処理)よりも0.5高い吸光度が得られるlog5血清希釈の逆数としてNA抗体の力価を表した。
【0069】
結果
1.実験設計
上記免疫感作プロトコルに従い、1グループ12匹のマウスのグループ3つに、NAsのワクチン接種を行った。同数の対照マウスを平行してPBSで処理した。続いて、ワクチン接種マウスと対照マウスからなる対のグループをマウス順応X−47またはX−31にチャレンジさせた。一方、該対グループを受動免疫感作実験の血清ドナーとした。
【0070】
2.血清応答
各ケージから1匹ずつ取り出した、12匹のワクチン接種動物と12匹の対照動物からランダムに選択した血清で行うELISAによってNAsに対する抗体応答を追跡した。マウスにおいてNAs免疫感作を行うと、血清中のNAs抗体が著しく増加した。最初のブースター注射は、およそlog5量の3倍のNAs抗体を増加したが、第2のブースター注射ではNAs抗体の力価がさらにまた約5倍の増加を示した。対照マウスにおいては、アジュバントの1回投与では、NAsと反応する特異的抗体の有意な産生はなされなかった。
【0071】
3.NAsによるホモ変異防御
ワクチン接種後3週間目のワクチン接種マウスと対照マウスに対し、20 LD50量のホモNA変異ウイルスX−47を投与することにより、免疫を検定した(図12)。体温の低下および体重の減少が測定されたことからわかるように、すべての対照マウスは重篤な罹患状態に陥った。感染後4日目に、最初の死亡マウスが現れ、すべての対照マウスはウイルス接種後9日以内にすべて死亡した。
反対に、NAsワクチン接種マウスにおける臨床パラメーターは、一時的かつ小さく低下しただけであった。すべてのワクチンマウスは感染から助かった。
第3の免疫感作を行わない場合、同レベルの防御免疫が達成されうるのかどうかという点についても調べた(NAsおよび/またはアジュバントの用量を増加することによって補償されるという可能性があると考えられる)。これらの試験は実質的に同一の実験計画に沿って行った。この作法で免疫感作したマウスは一般に良好な耐性を呈したが、少数の個体は重篤な罹患状態に陥った。また、生存率が80%以下になることは殆ど無かったが、ワクチン接種マウスにおいて死亡するものも時折あらわれた。しかし、3回の免疫感作によって達成された防御免疫のレベルは、全般にわたって優れたものであることがわかった。
【0072】
4.NAsによるヘテロ変異防御
7年抗原ドリフトによってA/ビクトリア/3/75から誘導されたNAsから分離されるNAを含むヘテロ−NA−変異ウイルスX−31の20 LD50量を、ワクチン接種マウスおよび対照マウスの別のグループに感染させて免疫性を試験した(図13)。X−47免疫感作実験においても観察されたように、臨床結果は劇的なものであった。対照動物は感染後5日目で既に死亡するものがあらわれ始めた。死亡率は8日目に最大値に到達し、その後生存したのは1匹だけであった。NAsで免疫感作したマウスは、通常は致命的なヘテロ変異ウイルスに感染したにもかかわらず、100%の生存率を示した。ホモ変異免疫実験の場合と同様に、ワクチン接種マウスは体温を適度に正常レベルで維持することができた。体重の損失は、ホモ変異の場合と比べて幾らかは顕著であったが、すべてのマウスが6日目以降回復を始めた。
【0073】
5.防御免疫はNAs免疫血清の受動伝達によって獲得することができる
受動免疫感作による動物防御が、誘発される防御免疫に対して主に応答可能である体液性防御メカニズムであるかどうかを決定するために、該動物防御を試験した。この目的のために、標準的操作にしたがってドナーマウスを免疫感作した。該ドナー動物から採血して、1個体あたり平均約400μlの血清を得た。対照血清と免疫血清をそれぞれ集めた後、400μlの血清を被検マウスに腹腔内注射にて1回で投与した。適合させたX−47ウイルスの20 LD50量にチャレンジさせる前に、抗体分子がマウス内で満遍なく拡散しうるように24時間の間隔をあける。対照血清を接種された動物は、すぐに急性の低体温症になり、体重が激しく減少し、最終的に死亡に至ったが、NAs免疫血清を投与されたマウスは、能動的に免疫感作された動物と実質的に同程度に防御された(図14)。
したがって、NA抗体を予め循環させておくことにより完全な防御が得られるという結論を下すことができる。
【0074】
論考
インフルエンザに対する免疫は、長い間ほとんどHA抗体の機能についてのみ研究されていたが、免疫に寄与するNAの重要性は実質的に無視されてきた。この状況は、HAを結合しうる抗体のみがウイルスを直接中和する能力をもつという観察結果に一部由来するものであった(ハースト,1942;デイブンポートら,1964;キダら,1983)が、NAに対する抗体が、広範囲の濃度において一次感染を防御しうることはわかっていなかった(ジャヒエルおよびキルボーン,1966;キルボーンら,1968;ヨハンソン,1989)。この寛容はおそらく、インフルエンザウイルスのライフサイクルの後期部分で、新たに形成されたウイルスが感染細胞の表面で凝集するのを妨げるように働くNAsを反映している(コールマンおよびウォード,1985;ブラウンおよびレイバー,1968)。HAとは逆に、NAはインフルエンザウイルスのエンベロープの成分のうちで少ないほうの成分であり、NA抗体の非中和効果に寄与しうるという事実がさらに発見された(シュルマンら,1968)。この存在モル比率の相違が、同様に個々の抗原に対する相対的抗体応答に影響を及ぼす。全インフルエンザウイルスと連続的に対決するために、NAと比べてHAが相対的に過剰に提供されることが繰り返されると、おそらくNa特異的T細胞の援助が覚醒される結果として、NA抗体の産生を抑制することができた(キルボーン,1976;ヨハンソンら,1987;キルボーンら,1987;ヨハンソンら,1987)。
【0075】
したがって、防御NA免疫を研究するために、HA抗体を中和することに対する妨害が排除され、HA抗原およびNA抗原の競合を介したNA免疫応答の阻害が回避されるというシステムを発展させることが必要である。古典的アプローチは、天然のNA成分の単離に基づいて行われる(シュルマンら,1968;ヨハンソンおよびキルボーン,1990;ギャラガーら,1984)かまたは別の場合では限定されたシリーズのインフルエンザ株と血清学的に異なるHAおよびNA抗原との組み合わせ投与に基づいて行われる(ロットら,1974;キルボーン,1976)かのいずれかであった。しかし、本明細書に記載した結果は、精製、組換えNAタンパク質を用いる防御免疫感作を直接に説明するものである。A/ビクトリア/3/75(H3N2)ウイルスのNA遺伝子は、膜アンカーをコードする領域がインフルエンザ血球凝集素遺伝子のシグナル配列と置換されることによって分泌可能なタンパク質(NAs)をコードする遺伝子に形質転換された(実施例1を参照)。
【0076】
NA抗体がウイルス粒子の放出および拡散を阻害することによりウイルス成長の収率を効果的に抑制することができるというインビトロ技術がすでに確立されている(ジャヒエルおよびキルボーン,1968;キルボーンら,1968)。
【0077】
肺におけるウイルス力価の低下および肺機能障害の進行の抑制を測定することにより、NAで免疫感作された動物から、同様の結論が引き出された(11,12,13)。肺でのウイルス複製におけるNA免疫の効果に大きな注意が向けられていたけれども、純粋なNAタンパク質による免疫感作が、臨床疾患の症候を予防しうるか、または潜在的に致命的なインフルエンザに感染した後の生存チャンスを改良しうるかどうかは疑わしかった。この疑問に対する満足のいく答えはまだ得られていなかった。しかし、本明細書で示す結果は、通常致命的なインフルエンザ感染に対する完全防御が、純粋な組換えNAsで免疫感作することによって達成されうることをを明確に説明しており、ここでは、既往の抗HA免疫メカニズムまたは保存された内部ウイルスタンパク質の抗原に対する細胞性記憶免疫効果は排除される。
【0078】
本明細書で説明した実験においては、3週間の間隔をおいて、1μgのNAsを3回投与してマウスの免疫感作を行った。ワクチン接種した動物は全部インフルエンザウイルスの致命的感染から生還することができた(ここでウイルスはホモまたはヘテロ変異NAを発現した)。感染ウイルスの投与量が多くても、非常に驚くべきことに、体温および体重の変化によって示されるように、免疫感作した動物は臨床疾患の症候を示さないままであった。NAsとともに投与されるアジュバントがすべて低い反応原特性を有することに注意することが重要であり、そのために、ここで述べた免疫感作操作がヒトのワクチン接種に直接適用しうるのである。さらに、本発明ワクチンは、他の哺乳動物および鳥類に適用可能である。
【0079】
無垢の被検マウスにNAsで免疫感作したマウスの血清を受動伝達しても、同レベルの防御が得られたが、このことはNAs免疫感作の防御効果が、NA抗体の循環に基づいて説明できることを示している。
【0080】
ここに記載したヘテロ変異防御に関し、ワクチンA/ビクトリア/3/75のNA抗原と変異感染ウイルスX−31に存在するA/アイチ/2/68のNAの間の構造的関係を考慮することが重要である。残念なことに、A/アイチ/2/68(H3N2)のNAに関しては、適用できる配列データはないが、アイチ株と同年に単離されたA/NT/60/68(H3N2)(ベントレーおよびブロウニー,1982)のNA配列と比較することはできる。両方のNA変異体の頭部領域を綿密に調査すると、28位にアミノ酸の置換が発見される(その点で、主要部は分子の表面にある)。
【0081】
本発明ワクチンは、さらになお移転したドリフト変異体に対する防御をも提供しうる可能性がある。さらに、NAの遺伝子修飾によって遺伝子の変化をその抗原構造にアレンジしうることが考えられる。このことから、たとえば異なるバージョンのNAの「カクテル」を製造することが可能になり、したがって、異なるインフルエンザ株に対する広範な防御が獲得できる。
【0082】
【表1】
この表は、代表的な精製実験を示す(詳細は本文参照)。スーパーデックス200ゲル濾過後の液量は、2行程のクロマトグラフィーによる精製物を合わせたものである。
【0083】
【表2】
この表は、代表的な精製実験を示す(詳細は本文参照)。スーパーデックス200ゲル濾過後の特定の液量は、2行程のクロマトグラフィーからのNAs画分を合わせたものである。
【0084】
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【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】分泌可能なNA遺伝子の構築およびバキュロウイルス運搬ベクターへのその組込みのための方策を示す。関連する制限部位のみを示す。一本線は細菌プラスミド配列を示すが、濃い部分はHA特異的(ベタ塗り)またはNA特異的(点付き)配列を示す。HAシグナル配列をシングルハッチングで示す。NAシグナル配列/膜アンカー配列をダブルハッチングで示す。
【図2】正のcDNA鎖のヌクレオチド配列およびHAシグナルペプチドとそのNA膜アンカーを除去されたNAの間の連結部位のフランキング領域のアミノ酸配列を示す。図2Aは非切断HA、詳しくはAla16とGln17間のシグナルペプチダーゼ制限部位(垂直破線)を含む非切断HAを示す。NAsの分泌に用いるNA末端セグメントを矢印で示す。図2BはNAの「柄」領域を示す。NAsの構築に必要とされる先端切断配列を矢印で示す。図2CはAおよびBからNAs配列がどのように構築されるかを示す。ここに詳細に示されるのは、HA特異的配列およびNA特異的配列間の融合領域である。NAsはおそらく成熟HAの4個のNA末端アミノ酸で開始し、突然変異コドン(点線の下線)がそれに続く。
【図3】精製pNAのSDS/PAGE分析を示す。図3Aは精製段階の異なるpNAから得られるタンパク質サンプルの分析結果である。レーン1はマーカータンパク質を示す;レーン2は粗pNAを示す(1μg;pNAバンドは検出可能レベル以下である);レーン3はセファロースSによる精製物を示す(1μg);レーン4はスーパーデックス200による精製物を示す(1μg)。図3Bに示すのは、BS3法により架橋した1μgのpNAの5.0%〜7.5%の勾配ゲルである。レーン1はマーカータンパク質を示す;レーン2は架橋後のpNAを示す。余分のバンドが約105kd(二量体)、約160kd(三量体)および約210kd(四量体)に現れている。
【図4】Sf9細胞に組換えバキュロウイルスを植え付けた後の、酵素活性レベル(○)および総タンパク質濃度(◇)から誘導される、培養培地中に検出される特異的活性(□)の時間経過にともなう変化を示す。
【図5】セファロースQによるアニオン交換クロマトグラフィーを示す。(20〜60)%の(NH4)2SO4沈殿を溶解し、透析した後、溶液(97.5mgタンパク質、117,000U)をセファロースQカラムに通した。出発緩衝液にNaClを添加して濃度250mMへ向かうNaClの直線勾配(点線)による溶離を行う前に、非結合物質を洗い流した。溶出液のタンパク質濃度をA280(−)を測定して追跡した。2.5mlの画分を集め、酵素活性(○)およびELISAにおいて抗原性活性(△)を試験した。
【図6】スーパーデックス200によるNAsのゲル濾過を示す。N−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロース分離後の溶離液(2.63mgのタンパク質、49,100U)を2.0mlまで濃縮し、続いてサンプル量1.0mlの画分にて流速10ml/時間のスーパーデックス200カラムのクロマトグラフィーに付した。A280を継続的に追跡した(−)。個々の画分(1.0ml)を酵素活性(○)および抗原性活性(△)を試験した。矢印は較正タンパク質の溶出液量を示す(本文参照):443kd(1)、200kd(2)、150kd(3)、67kd(4)および29kd(5)。
【図7】精製NAsのSDS/PAGE分析を示す。各レーンはスーパーデックス200ゲル濾過の特定の画分番号に対応する。図7Aは10μlのサンプルを変性(β−メルカプトエタノール添加)した後のSDS/PAGEパターンを示す。レーンAおよびBはマーカータンパク質を示す。図7Bでは、タンパク質サンプルをBS3で架橋し、続いてSDSが存在するけれども非還元的な条件下で、5.0%〜7.5%の勾配ゲルの電気泳動によって分離した。画分57〜68は、10μlのサンプル液量;画分70〜77は25μlのサンプル液量である。四量体のNAsは約220kd(四量体)および約110kd(二量体)でバンドを形成する。二量体および単量体NAsは、それぞれ約110kdおよび約55kdのバンドとして現れる。
【図8】精製段階の異なるNAsからのタンパク質サンプルのSDS/PAGEの結果を示す。レーン1はマーカータンパク質;レーン2は粗培地(5μg);レーン3は(20〜60)%(NH4)2SO4沈殿(5μg);レーン4はセファロースQ精製物(2.5μg);レーン5はN−(p−アミノフェニル)オキサム酸アガロース分離後の精製物(1μg);レーン6はスーパーデックス200ゲル濾過後の四量体および二量体NAs画分(1μg)を示す。
【図9】NA−グルカナーゼ切断およびSDS/PAGEから評価される、pNAとNAsに結合した糖質含量の比較分析を示す。酵素NA−グルカナーゼは35kdのバンドとして現れる。図9Aでは、レーン1はマーカータンパク質;レーン2は非切断pNA(1μg);レーン3はNA−グルカナーゼ処理したpNA(1μg)を示す。図9Bでは、レーン1および8はマーカータンパク質;レーン2は非切断四量体NAs;レーン3はNA−グルカナーゼ処理した四量体NAs;レーン4は非切断二量体NAs;レーン5はNA−グルカナーゼ処理した二量体NAs;レーン6は非切断単量体NAs;レーン7はNA−グルカナーゼ処理した単量体NAsを示す。
【図10】NAsとpNA間の抗原的な近同一性を説明する。pNAとNAsのサンプルを等しいタンパク質濃度とし、続いてELISAにおいて2倍に希釈した。図は特異的抗原に対して測定されたS字型の抗原性カーブを示す。pNAは○;四量体NAsは◇;二量体NAsは□;および単量体NAsは△で示される。
【図11】NAsに対する抗体応答を説明する。各免疫感作後14日目に(矢印で表示)、マウスから血液サンプルを採血し、NAs抗体の存在をELISAにて測定した(実験詳細については本文参照)。ベタ塗りバーおよびハッチングバーは、それぞれワクチン接種および対照動物の平均血清力価(±S.D)を表す。
【図12】ホモ変異体防御を示す。ワクチン接種マウス[Aでは点線;BおよびCでは黒三角]および対照マウス[Aでは−;BおよびCでは黒丸]を20 LD50のホモ変異,マウス順応X−47ウイルスにチャレンジさせた。生存率(A)を記録し、直腸温度(B)および体重(C)を測定することによって感染の進行を追跡した(実験詳細については本文参照)。データ点は平均値±S.Dで得る。
【図13】ヘテロ変異体防御を示す。ワクチン接種マウス[Aでは点線;BおよびCでは黒三角]および対照マウス[Aでは−;BおよびCでは黒丸]を20 LD50のヘテロ変異,マウス順応X−31ウイルスにチャレンジさせた。生存率(A)を記録し、直腸温度(B)および体重(C)を測定することによって感染の進行を追跡した(実験詳細については本文参照)。データ点は平均値±S.Dで得る。
【図14】受動免疫感作による防御を示す。NAs免疫血清[Aでは点線;BおよびCでは黒三角]および対照血清[Aでは−;BおよびCでは黒丸]の腹腔内注射によってマウスのグループを受動的に免疫感作した。24時間後に、マウスは20 LD50のマウス順応X−47ウイルスへのチャレンジを受けた(実験詳細は本文を参照)。生存率、直腸温度および体重をそれぞれA、BおよびCに示す。データ点は平均値±S.Dで得る。
【図15】AOXIプロモーターおよびターミネーター配列に加えて、ピチア・パストリスのHIS4マーカーおよびサッカロミセス・セレビシアエのα因子遺伝子のプレプロ分泌シグナルを含むプラスミドpPIC9の模式図を示す。多重クローニング部位は分泌シグナルの後に位置する。
【図16】プレプロ分泌シグナルとノイラミニダーゼの組換え「帽子」部分の間の融合領域である。「KEX2」は、後期ゴルジ体において外来性KEX−2プロテアーゼによってプロペプチドが切断される位置を示す。(Glu−Ala)2ジペプチドはSTE13型のジペプチジルアミノペプチダーゼによって除去される。チロシン残基はノイラミニダーゼ由来ではないが、除去されない。次のプロリンはX−47ノイラミニダーゼの79位に一致する。
【図17】個々の形質転換体の5個の培地サンプルについての12.5%ポリアクリルアミドゲルのウエスタンブロットである。レーン1は非形質転換体のピチア・パストリス株の培地サンプルを含む。TCAで沈殿した培養培地1ml中のタンパク質マテリアルをレーン毎に展開した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ノイラミニダーゼ発現ベクターで形質転換された宿主細胞、またはノイラミニダーゼ発現ベクターで形質転換されたウイルスに感染させた宿主細胞を適当な培養培地中で培養し(ここで、発現ベクターには、膜アンカーをコードする領域を欠損しているインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうる機能的フラグメントをコードする、少なくとも一部のコード領域、またはそのフラグメントが含まれ、該コード領域に先立ち、シグナル配列が相内で連結している);次いで
b)培養培地から発現産物ノイラミニダーゼを単離する
ことによって得られる実質的単離体である組換えノイラミニダーゼ。
【請求項2】
組換え発現ベクターpAc2IVNAs(LMBP2976)を用いてウイルスのゲノムの2重相同的組換えを行なってウイルスを形質転換し、該ウイルスに感染させた宿主細胞を適当な培養培地中で培養し、次いで培養培地から発現産物ノイラミニダーゼを単離することによって得られる、実質的単離体である組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ。
【請求項3】
組換え発現ベクターpPP1IVNAfls(LMBP3223)をトランスフェクトさせた宿主細胞を適当な培養培地中で培養することによって得られる、組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ。
【請求項4】
さらに、培養培地から発現産物ノイラミニダーゼを単離することを含む請求項3に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項5】
宿主細胞が下等真核生物由来であることを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項6】
宿主細胞が昆虫細胞であることを特徴とする請求項1、2または5に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項7】
昆虫細胞がsf9昆虫細胞であることを特徴とする請求項6に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項8】
宿主細胞が酵母細胞であることを特徴とする請求項1、3、4または5に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項9】
インフルエンザワクチン用の請求項1〜8に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項10】
NA2型インフルエンザワクチン用の請求項2〜8のいずれかに記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項11】
a)膜アンカーをコードする領域を欠損しているインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうる機能的フラグメントをコードする、少なくとも一部のコード領域、またはそのフラグメント;
b)コード領域の5’に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列;
c)シグナル配列の5’に位置するプロモーター;および
d)コード領域の3’に位置する転写ターミネーター
を含む、分泌可能なインフルエンザノイラミニダーゼを発現するベクター。
【請求項12】
a)膜アンカーをコードする領域を欠損しているウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザNA2のノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうるコード領域、またはそのフラグメント;
b)コード領域の5’に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列;
c)シグナル配列の5’に位置するプロモーター;および
d)コード領域の3’に位置する転写ターミネーター
を含む、分泌可能なインフルエンザNA2ノイラミニダーゼを発現するベクター。
【請求項13】
シグナル配列がインフルエンザNA2ウイルス「A/ビクトリア/3/75」(H3N2)の血球凝集素遺伝子由来であることを特徴とする請求項11または12に記載のベクター。
【請求項14】
プロモーターがポリヘドリンプロモーターであることを特徴とする請求項11、12または13に記載のベクター。
【請求項15】
転写ターミネーターがSV40および/またはポリヘドリン遺伝子由来であることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載のベクター。
【請求項16】
寄託番号がLNBP2976であるベクターpAc2IVNAs。
【請求項17】
a)ノイラミニダーゼの膜アンカーおよび少なくとも一部の柄部分をそれぞれコードする領域を欠損しているインフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうる領域をコードする機能的フラグメントをコードする領域、またはそのフラグメント;
b)コード領域の5’に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列;
c)シグナル配列の5’に位置するプロモーター;および
d)コード領域の3’に位置する転写ターミネーター
を含む、酵母中で分泌可能なインフルエンザノイラミニダーゼを発現するベクター。
【請求項18】
a)ノイラミニダーゼの膜アンカーおよび少なくとも一部の柄部分をそれぞれコードする領域を欠損しているウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザノイラミダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうる領域をコードする機能的フラグメントをコードする領域、またはそのフラグメント;
b)コード領域の5’に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列;
c)シグナル配列の5’に位置するプロモーター;および
d)コード領域の3’に位置する転写ターミネーター
を含む、酵母中で分泌可能なインフルエンザNA2ノイラミニダーゼを発現するベクター。
【請求項19】
シグナル配列がサッカロミセス・セレビシアエのα因子のプレプロシグナル配列であることを特徴とする請求項17または18に記載のベクター。
【請求項20】
プロモーターがピチア・パストリスのアルコールオキシダーゼIプロモーターであることを特徴とする請求項17、18または19に記載のベクター。
【請求項21】
転写ターミネーターがピチア・パストリスのアルコールオキシダーゼI遺伝子由来であることを特徴とする請求項17〜20のいずれかに記載のベクター。
【請求項22】
寄託番号がLMBP3223であるベクターpPP1IVNAfls。
【請求項23】
請求項1に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼを含むワクチン。
【請求項24】
請求項2〜10に記載の組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼを含むワクチン。
【請求項25】
a)適当なプロモーターおよびターミネーター配列の調節下に、シグナル配列および、該シグナル配列に相内で連結するインフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうるコード領域(該コード領域は、ノイラミニダーゼの膜アンカーをコードする領域および柄部分をコードする領域を欠損している)またはそのフラグメントを含む発現ベクターを構築し;
b)得られた該発現ベクターで宿主細胞を形質転換し;
c)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該形質転換宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
d)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項26】
a)適当なプロモーターおよびターミネーター配列の調節下に、シグナル配列および、該シグナル配列に相内で連結するインフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうるコード領域(該コード領域は、ノイラミニダーゼの膜アンカーをコードする領域を欠損している)またはそのフラグメントを含む発現ベクターを構築し;
b)得られた該発現ベクターで宿主細胞を形質転換し;
c)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該形質転換宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
d)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項27】
a)適当な転写プロモーターおよびターミネーター配列の調節下に、シグナル配列および、該シグナル配列に相内で連結するインフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域(該コード領域は、膜アンカーをコードする領域を欠損している)または免疫感作において防御免疫を引き起こしうるそのフラグメントからなる発現モジュールを含む発現ベクターを構築し;
b)ウイルスのゲノムに該ベクターの発現モジュールを二重相同的組換え手段によって持ち込み;
c)得られた該形質転換ウイルスに宿主細胞を感染させ;
d)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該感染宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
e)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項28】
a)適当な転写プロモーターおよびターミネーター配列の調節下に、シグナル配列および、該シグナル配列に相内で連結するウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうるコード領域(該コード領域は、膜アンカーをコードする領域を欠損している)またはそのフラグメントからなる発現モジュールを含む発現ベクターを構築し;
b)組換えバキュロウイルスを得るために、野生型バキュロウイルスまたはそれから誘導されたバキュロウイルスのゲノムに該ベクターの発現モジュールを二重相同的組換え手段によって持ち込み;
c)該組換えバキュロウイルスに宿主細胞を感染させ;
d)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該感染宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
e)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項29】
a)二重相同的組換え手段によって、寄託番号LMBP2976であるベクターpAc2IVNAsの発現モジュールでバキュロウイルスを形質転換し;
b)該組換えバキュロウイルスに宿主細胞を感染させ;
c)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該感染宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
d)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項30】
a)適当な転写プロモーターおよびターミネーター配列の調節下に、シグナル配列および、該シグナル配列に相内で連結するウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうるコード領域(該コード領域は、ノイラミニダーゼの膜アンカーをコードする領域および柄部分をコードする領域を欠損している)またはそのフラグメントからなる発現モジュールを含む発現ベクターを構築し;
b)得られた該組換えベクターで宿主細胞を形質転換し;
c)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該形質転換宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
d)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項31】
a)寄託番号LMBP3223であるベクターpPP1IVNAflsでピチア・パストリスを形質転換し;
b)該ベクターで宿主細胞を形質転換し;
c)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該形質転換宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
d)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項1】
a)ノイラミニダーゼ発現ベクターで形質転換された宿主細胞、またはノイラミニダーゼ発現ベクターで形質転換されたウイルスに感染させた宿主細胞を適当な培養培地中で培養し(ここで、発現ベクターには、膜アンカーをコードする領域を欠損しているインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうる機能的フラグメントをコードする、少なくとも一部のコード領域、またはそのフラグメントが含まれ、該コード領域に先立ち、シグナル配列が相内で連結している);次いで
b)培養培地から発現産物ノイラミニダーゼを単離する
ことによって得られる実質的単離体である組換えノイラミニダーゼ。
【請求項2】
組換え発現ベクターpAc2IVNAs(LMBP2976)を用いてウイルスのゲノムの2重相同的組換えを行なってウイルスを形質転換し、該ウイルスに感染させた宿主細胞を適当な培養培地中で培養し、次いで培養培地から発現産物ノイラミニダーゼを単離することによって得られる、実質的単離体である組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ。
【請求項3】
組換え発現ベクターpPP1IVNAfls(LMBP3223)をトランスフェクトさせた宿主細胞を適当な培養培地中で培養することによって得られる、組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ。
【請求項4】
さらに、培養培地から発現産物ノイラミニダーゼを単離することを含む請求項3に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項5】
宿主細胞が下等真核生物由来であることを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項6】
宿主細胞が昆虫細胞であることを特徴とする請求項1、2または5に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項7】
昆虫細胞がsf9昆虫細胞であることを特徴とする請求項6に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項8】
宿主細胞が酵母細胞であることを特徴とする請求項1、3、4または5に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項9】
インフルエンザワクチン用の請求項1〜8に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項10】
NA2型インフルエンザワクチン用の請求項2〜8のいずれかに記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼ。
【請求項11】
a)膜アンカーをコードする領域を欠損しているインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうる機能的フラグメントをコードする、少なくとも一部のコード領域、またはそのフラグメント;
b)コード領域の5’に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列;
c)シグナル配列の5’に位置するプロモーター;および
d)コード領域の3’に位置する転写ターミネーター
を含む、分泌可能なインフルエンザノイラミニダーゼを発現するベクター。
【請求項12】
a)膜アンカーをコードする領域を欠損しているウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザNA2のノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうるコード領域、またはそのフラグメント;
b)コード領域の5’に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列;
c)シグナル配列の5’に位置するプロモーター;および
d)コード領域の3’に位置する転写ターミネーター
を含む、分泌可能なインフルエンザNA2ノイラミニダーゼを発現するベクター。
【請求項13】
シグナル配列がインフルエンザNA2ウイルス「A/ビクトリア/3/75」(H3N2)の血球凝集素遺伝子由来であることを特徴とする請求項11または12に記載のベクター。
【請求項14】
プロモーターがポリヘドリンプロモーターであることを特徴とする請求項11、12または13に記載のベクター。
【請求項15】
転写ターミネーターがSV40および/またはポリヘドリン遺伝子由来であることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載のベクター。
【請求項16】
寄託番号がLNBP2976であるベクターpAc2IVNAs。
【請求項17】
a)ノイラミニダーゼの膜アンカーおよび少なくとも一部の柄部分をそれぞれコードする領域を欠損しているインフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうる領域をコードする機能的フラグメントをコードする領域、またはそのフラグメント;
b)コード領域の5’に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列;
c)シグナル配列の5’に位置するプロモーター;および
d)コード領域の3’に位置する転写ターミネーター
を含む、酵母中で分泌可能なインフルエンザノイラミニダーゼを発現するベクター。
【請求項18】
a)ノイラミニダーゼの膜アンカーおよび少なくとも一部の柄部分をそれぞれコードする領域を欠損しているウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザノイラミダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうる領域をコードする機能的フラグメントをコードする領域、またはそのフラグメント;
b)コード領域の5’に位置し、相内でコード領域に連結されたシグナル配列;
c)シグナル配列の5’に位置するプロモーター;および
d)コード領域の3’に位置する転写ターミネーター
を含む、酵母中で分泌可能なインフルエンザNA2ノイラミニダーゼを発現するベクター。
【請求項19】
シグナル配列がサッカロミセス・セレビシアエのα因子のプレプロシグナル配列であることを特徴とする請求項17または18に記載のベクター。
【請求項20】
プロモーターがピチア・パストリスのアルコールオキシダーゼIプロモーターであることを特徴とする請求項17、18または19に記載のベクター。
【請求項21】
転写ターミネーターがピチア・パストリスのアルコールオキシダーゼI遺伝子由来であることを特徴とする請求項17〜20のいずれかに記載のベクター。
【請求項22】
寄託番号がLMBP3223であるベクターpPP1IVNAfls。
【請求項23】
請求項1に記載の組換えインフルエンザノイラミニダーゼを含むワクチン。
【請求項24】
請求項2〜10に記載の組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼを含むワクチン。
【請求項25】
a)適当なプロモーターおよびターミネーター配列の調節下に、シグナル配列および、該シグナル配列に相内で連結するインフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうるコード領域(該コード領域は、ノイラミニダーゼの膜アンカーをコードする領域および柄部分をコードする領域を欠損している)またはそのフラグメントを含む発現ベクターを構築し;
b)得られた該発現ベクターで宿主細胞を形質転換し;
c)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該形質転換宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
d)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項26】
a)適当なプロモーターおよびターミネーター配列の調節下に、シグナル配列および、該シグナル配列に相内で連結するインフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうるコード領域(該コード領域は、ノイラミニダーゼの膜アンカーをコードする領域を欠損している)またはそのフラグメントを含む発現ベクターを構築し;
b)得られた該発現ベクターで宿主細胞を形質転換し;
c)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該形質転換宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
d)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項27】
a)適当な転写プロモーターおよびターミネーター配列の調節下に、シグナル配列および、該シグナル配列に相内で連結するインフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子のコード領域(該コード領域は、膜アンカーをコードする領域を欠損している)または免疫感作において防御免疫を引き起こしうるそのフラグメントからなる発現モジュールを含む発現ベクターを構築し;
b)ウイルスのゲノムに該ベクターの発現モジュールを二重相同的組換え手段によって持ち込み;
c)得られた該形質転換ウイルスに宿主細胞を感染させ;
d)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該感染宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
e)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項28】
a)適当な転写プロモーターおよびターミネーター配列の調節下に、シグナル配列および、該シグナル配列に相内で連結するウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうるコード領域(該コード領域は、膜アンカーをコードする領域を欠損している)またはそのフラグメントからなる発現モジュールを含む発現ベクターを構築し;
b)組換えバキュロウイルスを得るために、野生型バキュロウイルスまたはそれから誘導されたバキュロウイルスのゲノムに該ベクターの発現モジュールを二重相同的組換え手段によって持ち込み;
c)該組換えバキュロウイルスに宿主細胞を感染させ;
d)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該感染宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
e)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項29】
a)二重相同的組換え手段によって、寄託番号LMBP2976であるベクターpAc2IVNAsの発現モジュールでバキュロウイルスを形質転換し;
b)該組換えバキュロウイルスに宿主細胞を感染させ;
c)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該感染宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
d)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項30】
a)適当な転写プロモーターおよびターミネーター配列の調節下に、シグナル配列および、該シグナル配列に相内で連結するウイルス株「A/ビクトリア/3/75」のインフルエンザNA2ノイラミニダーゼ遺伝子の免疫感作において防御免疫を引き起こしうるコード領域(該コード領域は、ノイラミニダーゼの膜アンカーをコードする領域および柄部分をコードする領域を欠損している)またはそのフラグメントからなる発現モジュールを含む発現ベクターを構築し;
b)得られた該組換えベクターで宿主細胞を形質転換し;
c)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該形質転換宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
d)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼの製造方法。
【請求項31】
a)寄託番号LMBP3223であるベクターpPP1IVNAflsでピチア・パストリスを形質転換し;
b)該ベクターで宿主細胞を形質転換し;
c)組換えノイラミニダーゼの発現を可能にする条件下で、該形質転換宿主細胞を培養培地中で培養し;次いで
d)組換えノイラミニダーゼを培養培地から単離する;
工程を特徴とする組換えインフルエンザNA2ノイラミニダーゼの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−193527(P2006−193527A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27285(P2006−27285)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【分割の表示】特願平7−518230の分割
【原出願日】平成7年1月6日(1995.1.6)
【出願人】(500285934)フラームス・インテルウニフェルジテール・インスティテュート・フォール・ビオテヒノロジー (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【分割の表示】特願平7−518230の分割
【原出願日】平成7年1月6日(1995.1.6)
【出願人】(500285934)フラームス・インテルウニフェルジテール・インスティテュート・フォール・ビオテヒノロジー (2)
【Fターム(参考)】
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