説明

インフルエンザ菌NAD依存性DNAリガーゼの結晶構造およびその使用

本発明は、LigAの結晶、ならびにLigAの阻害薬およびアロステリックモジュレーターをスクリーニング、同定および設計するためのコンピューター支援法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、グラム陰性菌由来のDNAリガーゼ(LigA)の結晶、ならびにLigAの阻害薬およびモジュレーターをスクリーニング、同定および設計するためのコンピューター支援法に関する。
【0002】
背景
DNAリガーゼは、二本鎖DNAの隣接する3'-OHと5'-リン酸末端間の一本鎖破断部におけるホスホジエステル結合の形成を触媒する(Lehman 1974. Science 186: 790-797)。この活性は、岡崎フラグメントが関与するDNA複製に際して必須の役割を果たす。DNAリガーゼは、損傷を受けたDNAの修復および組換えに際しても役割をもつ(Wilkinson 2001. Molecular Microbiology 40: 1241-1248)。大腸菌(Escherichia coli)のDNAリガーゼ遺伝子(ligA)における条件致死変異について記載した初期の報文は、この酵素が必須であることを支持する(Dermody et al. 1979. Journal of Bacteriology 139: 701-704)。これに続いて、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、枯草菌(Bacillus subtilis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のDNAリガーゼの温度感受性変異体またはノックアウト変異体が単離および特性解明された(Park et al. 1989. Journal of Bacteriology 171: 2173-2180;Kaczmarek et al. 2001. Journal of Bacteriology 183: 3016-3024;Petit and Ehrlich. 2000. Nucleic Acids Research 28: 4642-4648)。すべての種において、DNAリガーゼは必須であることが示された。
【0003】
DNAリガーゼファミリーはおおまかに2クラスに分類できる:アデニル化のためにATPを必要とするもの(真核細胞、ウイルスおよびバクテリオファージ)、およびアデニル化のためにNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を必要とするもの:これには既知のすべての細菌性DNAリガーゼが含まれる(Wilkinson 2001, 前掲)。真核細胞、バクテリオファージおよびウイルスのDNAリガーゼは、この酵素の中央補因子結合コア内にある保存KXDGモチーフ以外は、原核細胞由来のDNAとはほとんど配列相同性を示さない。アミノ酸配列比較により、NAD+依存性リガーゼはATP依存性DNAリガーゼと系統発生的に無関係であることが明らかに示される。細菌と高等生物の間に明らかに類似性がないことは、細菌性DNAリガーゼが新規な選択的抗菌薬の好適な標的となりうることを示唆する。
【0004】
T7ファージ由来のATP依存性DNAリガーゼ(Subramanya et al. 1996. Cell 85: 607-615)、バシラス・ステアロサーモフィラス(B. stearothermophilus)DNAリガーゼのN-末端アデニル化ドメイン(Singleton et al. 1999. Structure 7: 35-42)、およびAMPが共有結合した全長テルムス-フィリホルミス(Thermus filiformis)DNAリガーゼ(Lee et al. 2000. EMBO Journal 19: 1119-1129)について、X線結晶構造が報告された。これらの構造の比較により、アデニル化ドメインのコアフォールドおよび鍵ヌクレオチド結合残基は両クラスのDNAリガーゼ間で保存されているが、このモチーフの外側に補因子特異性を説明する配列相異があるはずであることが明らかになった。
【0005】
概要
本明細書には、NAD+およびAMP(アデニン一リン酸)と複合体形成したインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)由来LigAアデニル化ドメインの三次元構造;アデニル化ドメインを結合する化合物または物質(LigAの活性を部分的または完全に阻害するリガンド、薬物または阻害薬、LigAを結合するタンパク質および有機低分子を含む)を同定および/または設計する方法;LigAアデニル化ドメインを結晶化する方法;ならびにLigAアデニル化ドメインを結合する物質を同定、スクリーニングおよび/または設計するためのコンピューター支援法を開示する。
【0006】
詳細な記述
本発明は、インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインの結晶化、ならびにインフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインとAMPおよびNAD+との複合体の結晶構造(三次元構造)の決定に基づく。
【0007】
さらに本発明は、LigAタンパク質上の生理的NAD+結合部位の同定に基づく。NAD+結合部位は、N-末端サブドメイン1a付近に存在する。
【0008】
LigAポリペプチド、結晶および空間群
本発明は、適正な三次元配向でフォールディングした際に結合部位として機能するLigAアデニル化ドメインの単離ポリペプチドまたはLigAアデニル化ドメインポリペプチドの一部に関する情報を提供する。本明細書中でタンパク質またはポリペプチドに関して用いる用語”単離した”は、その起源もしくは操作に基づいて、自然状態から分離された、または他の形で自然状態にはないタンパク質、ポリペプチドまたはその一部を意味する。”単離した”は、さらに、(i)化学合成された;(ii)宿主細胞において発現し、随伴および混入するタンパク質から分離精製された;または(iii)随伴および混入するタンパク質から分離精製された、タンパク質またはポリペプチドを意味する。この用語は一般に、自然界でそれと共に存在する他のタンパク質および核酸から分離精製されたタンパク質またはポリペプチドを意味する。本発明のある態様においてポリペプチドは、その精製に用いられる抗体またはゲルマトリックス(たとえばポリアクリルアミド)などの物質からも分離される。
【0009】
単離されたポリペプチド配列はそれぞれ、LigAアデニル化ドメインの天然配列、またはSEQ ID NO:1で表わされるアミノ酸配列に対して少なくとも35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%相同である配列であってよい。本発明において”アミノ酸相同性”は、一次アミノ酸配列の同一性の尺度である。相同性を解明するためには、必要ならばギャップを導入して最大%の相同性を達成した後、最大%の相同性(対合)が得られるように対象配列をアラインさせる。N-またはC-末端延長配列は相同性に影響を及ぼすと解釈すべきでない。”同一性”自体は当技術分野で認識されている意味をもち、公表された手法を用いて計算できる。2つの配列間の同一性を判定するためのコンピュータープログラム法には、たとえばDNAStar(登録商標)ソフトウェア(DNAStar Inc.、ワイオミング州マディソン);GCG(登録商標)プログラムパッケージ(Devereux et al., 1984, Nucl. Acids Res., 12:387);BLASTP、BLASTN、FASTA(Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol.,215:403)が含まれる。本明細書中で定める相同性(同一性または類似性)は、コンピュータープログラムBLAST 2 Sequences((Tatusova and Madden, 1999, FEMS Microbiol. Lett. 174:247-250;NCBIから入手できる)により、アラインした配列の全長にわたって同一性および/または類似性%が計算されるように、かつ基準配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸の総数の最高約90%の相同性ギャップが許容されるように、すべてのパラメーターについてデフォルト設定を用いて決定される。
【0010】
単離したLigAアデニル化ドメインは、LigAアデニル化ドメインのバリアントであってもよい。一例において、バリアントは1以上のアミノ酸置換によりSEQ ID NO:1に開示する配列と異なるアミノ酸配列をもつことができる。アミノ酸の欠失および/または付加を含む態様も含まれる。バリアントは、置換アミノ酸が交換したアミノ酸残基のものと類似の構造特性または化学的特性をもつ場合、保存的変化(アミノ酸類似性)をもつ可能性がある(たとえばイソロイシンによるロイシンの置換)。生物活性または薬理活性を損なうことなく、どのアミノ酸残基を何個、置換、挿入または欠失できるかを決定する際の指針は、本明細書の開示からみて妥当な程度に推察でき、さらに当技術分野で周知のコンピュータープログラム、たとえばDNAStar(登録商標)ソフトウェアを用いて見いだすことができる。
【0011】
アミノ酸置換は、天然分子の生物活性および/または薬理活性が保持される限り、たとえば残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性に基づいて行うことができる。
【0012】
置換例を下記の表1に示す:
【0013】
【表1】

【0014】
本発明には、LigAアデニル化ドメインの結晶も含まれる。1態様において、結晶はAMPおよびNAD+と複合体形成したLigAアデニル化ドメインである。LigAアデニル化ドメインは、インフルエンザ菌を含めたグラム陰性菌または陽性菌のいずれかに由来するものであってよい。特にLigAアデニル化ドメインはヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、大腸菌および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を含めたグラム陰性菌を含む細菌に由来するものであってよい。
【0015】
他の態様において本発明は、NAD+およびAMPと複合体形成し、図1に示す原子座標を特徴とする、結晶化インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインを含む。本発明において、結晶は約1.7Åまで回折することができる。
【0016】
結晶化複合体の一例は、正方晶空間群P43212に属し、a = b = (70.23 +/- 0.7)Å、c = (161.28 +/- 0.3)Åおよびα=β=γ= (90.00)oの格子パラメーターをもつことを特徴とする。
【0017】
結晶の調製方法は当技術分野で既知である。一例においては、適切な緩衝液、たとえば50mM Tris-HCl pH8.5中に、適切な純度、たとえば>95%のインフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインを含有する第1溶液を調製し;適切な沈殿剤、たとえばプロピレングリコール塩を含有する第2溶液を調製し;第1溶液と第2溶液を混和することにより組合わせを調製し;そしてこの組合わせからLigAアデニル化ドメインが過飽和状態になるような結晶化法により液滴を形成し、これによりLigAアデニル化ドメインの結晶を生成させる方法で、前記の結晶化複合体を調製できる。
【0018】
LigAの結晶構造および作用様式
DNAリガーゼは、二本鎖DNAの隣接する3'-OHと5'-リン酸末端間の一本鎖破断部におけるホスホジエステル結合の形成を触媒する。細菌におけるDNA連結反応の第1段階では、保存KXDGモチーフ中のリシン(K)のε-NH2基がNAD+基質によりアデニル化される必要がある。この第1段階で、AMPが酵素に共有結合したアデニル化酵素中間体が形成され、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が遊離する。この反応の第2段階では、アデニル酸部分がリシン残基からDNAニックにある末端5'-リン酸へ転移する。次いでこの5'-リン酸と隣接3'-ヒドロキシルの間にホスホジエステル結合が形成されて、閉じたDNA鎖が生成する。
【0019】
インフルエンザ菌LigAは、4つの別個のドメインからなる:N-末端アデニル化ドメイン1、オリゴマー結合ドメイン2、ジンクフィンガーおよびヘリックス-ヘアピン-ヘリックスモチーフを含むドメイン3、ならびにC-末端BRCA1-様ドメイン4。本明細書に報告する構造は、N-末端アデニル化ドメイン(ドメイン1)を含む。インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメイン結晶の不斉単位は、このポリペプチド鎖の1個のモノマーからなる。インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインの各分子は、両側をα-ヘリックスがフランキングした2つの平行βシートにより形成される2つのサブドメイン、すなわちヘリックス-ターン-ヘリックスサブドメイン1a(残基1〜58)および”アデニル化”サブドメイン1b(残基59〜324)からなる。AMPはサブドメイン1bに共有結合する。
【0020】
結合部位
用語「結合部位」は、LigAアデニル化ドメインに結合する分子との相互作用に関係する、LigAアデニル化ドメインの特異的な領域(または原子)を表わす。結合部位は、たとえば保存された構造要素もしくは保存された幾つかの構造要素の組合わせ、基質結合部位、補因子結合部位、アクチベーター結合部位、インヒビター結合部位、アロステリック結合部位、または分子間界面であってよい。
【0021】
基質結合部位には、基質、たとえばAMPと相互作用する、LigAアデニル化ドメインの特異的な領域(または原子)が含まれる。基質結合部位は、フォールディングしたポリペプチド内の1個以上のアミノ酸残基の三次元配置を含むか、またはそれにより規定することができる。基質は天然化合物または人工化合物であってよい。本発明の1態様において、インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインに関する基質結合部位は、SEQ ID NO:1のアミノ酸残基Ser81、Leu82、Glu114、Lys116、Gly119、Arg137、Tyr226およびVal289を含む。本発明の他の態様において、インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインに関する基質結合部位は、SEQ ID NO:1のアミノ酸残基Tyr18、Glu19、Tyr22、Val30、Pro31、Asp32、His23、Tyr35、Asp36、Phe39、His40、Lys43、Thr59およびArg154を含む。
【0022】
インヒビター結合部位には、LigA活性を阻止する作用をもつインヒビター(阻害薬)と相互作用するLigAアデニル化ドメインの特異的領域(または原子)が含まれる。インヒビター結合部位は、フォールディングしたポリペプチド内の1個以上のアミノ酸残基の三次元配置を含むか、またはそれにより規定することができる。本発明において、インヒビター(阻害薬)はLigA活性を競合その他の様式で阻止できる化合物であってよく、たとえばその化合物はLigA上の基質結合部位に結合することができる。
【0023】
機械可読データ蓄積媒体
LigAアデニル化ドメインの結晶構造を規定する原子座標のリストは、電子的に、たとえば機械可読蓄積媒体、たとえばディスクに蓄積でき、したがってコンピューターによりそれらの座標にアクセスし、操作することができる。たとえば三次元視覚化ソフトウェアを用いて、原子座標が表わす構造をコンピューターグラフィックスクリーン上に描き、候補阻害薬との仮説相互作用を調べることができる。こうして本発明の原子座標は、新規抗菌薬の候補である新規阻害薬を設計するための有用なツールとなる。
【0024】
LigA結合薬を同定するコンピューター支援法
本発明は、潜在LigA結合薬、たとえば調節薬、特にLigA活性の潜在阻害薬を同定するための、コンピューター支援法を含む。
【0025】
一組の原子座標、たとえば図1に列記したものを、図1に示すものと全く異なる一組の原子座標が類似または同一の形状を規定し、したがって本発明を表わすように、数学的に、たとえば回転(rotation)または平行移動(translation)により操作できることは、当業者には理解されるであろう。
【0026】
本明細書に記載するLigAアデニル化ドメインの結晶構造および結合部位は、LigAを阻害し、したがって抗菌薬として作用しうる物質、特に選択的阻害薬を設計するのに有用である。関連態様において、本発明はLigA活性を阻害する物質の構造ベースの薬物設計方法を含む。
【0027】
より具体的には、本発明によるLigA阻害化合物の設計は、一般に2つの要件の考慮を含む。第1に、その化合物は共有結合および/または非共有結合相互作用により物理的および構造的にLigAアデニル化ドメインと結合できなければならない。LigAとそれの基質、アロステリックエフェクターまたはインヒビター(阻害薬)の結合に重要な非共有結合による分子相互作用には、水素結合、ファン-デル-ワールス相互作用および疎水性相互作用が含まれる。
【0028】
第2に、その化合物はそれがLigAアデニル化ドメインと結合しうるコンホメーションをとることができなければならない。その化合物のある部分はこのLigAとの結合に直接には関与しないであろうが、それらの部分もなお分子の全体的コンホメーションに影響を及ぼす可能性がある。これは、力価に対して著しい影響をもつ可能性がある。そのようなコンホメーション要件には、結合部位(たとえばLigAの基質結合部位、補因子結合部位、分子間界面、またはLigAと直接相互作用する幾つかの化学単位を含む化合物の官能基間スペーシング)の全部または一部との関連における化学単位または化合物の全体的な三次元構造および配向が含まれる。
【0029】
ある化合物がLigAに及ぼす潜在阻害作用は、それを合成および試験する前にコンピューターモデリング法を用いて推定できる。その化合物の理論構造により、それとLigAアデニル化ドメインの相互作用および結合が不十分であることが示唆された場合、その化合物の合成および試験を回避する。しかし、コンピューターモデリングが強い相互作用を指示した場合、次いでその分子を合成し、それがLigAに結合する能力を適切なアッセイ法で試験することができる。こうして無効な化合物の合成を避けることができる。
【0030】
本発明の1態様は、候補阻害薬との比較のために、既知のLigA結合物質、たとえばAMPまたはNAD+を用いて既知物質の適合度を判定するコンピューター支援法に関する。
具体的態様においては、LigA結合物質である物質を同定するコンピューター支援法は、下記の段階を含む:(1)コンピューターモデリングアプリケーションに、LigA上の結合部位を結合する既知物質(たとえば基質結合部位を結合するLigA基質)の原子座標を供給し;(2)コンピューターモデリングアプリケーションに、図1に示すLigAアデニル化ドメインの原子座標、または列記したアミノ酸配列の保存された主鎖原子に関して図1の原子座標から1.0Åを超えない二乗平均平方根偏差(root mean square deviation)または1.5Åを超えない2乗平均平方根偏差をもつ原子座標を供給し;(3)LigA上の結合部位を結合する物質の適合度を定量し;(4)コンピューターモデリングアプリケーションに、LigA上の結合部位を結合するかを判定するために評価すべき物質の原子座標を供給し;(5)適合関数を用いて結合部位における被験物質の適合度を定量し;(6)既知物質に関する適合度計算値を被験物質のものと比較し;そして(7)既知物質の適合度より良好な、またはほぼ同等の適合度をもつ被験物質を選択する。たとえば、前記方法に用いる既知の結合物質の原子座標は、図1に挙げた原子座標により規定される、本発明のLigAアデニル化ドメイン上に存在する基質結合部位に結合したNAD+分子のものであってよい。LigAアデニル化ドメイン上の結合部位に対するNAD+分子の適合度は、NAD+が結合部位に結合した際のNAD+分子およびLigAアデニル化ドメイン分子両方の、溶剤から離れた表面積(埋没表面)を、たとえばAreaimol(CCP4, 1994、前掲)のプログラムを用いて計算することにより定量できる。これら2つの数値の比により、LigA上の結合部位に対するNAD+の表面または形状の相補性が推定される。次いで、たとえば、NAD+が結合することが観察されたLigAアデニル化ドメイン上の結合部位内へ被験物質をドッキングさせ、そして被験物質が結合した際の被験物質およびLigAアデニル化ドメイン分子両方の、溶剤から離れた表面積を比較する計算を再び行うことにより、LigAアデニル化ドメイン上のNAD+と同一または類似の結合部位に結合しうる被験物質の適合度を、前記の適合度と比較することができる。埋没表面積比がより1に近いほど、より良好な適合度を指示する可能性がある。
【0031】
本発明により可能になった他の方法は、LigAアデニル化ドメイン上の結合部位に全体または一部が結合しうる化学単位または化合物について、低分子データベースをコンピューターによりスクリーニングするものである。このスクリーニングにおいて、結合部位に対するそのような単位または化合物の適合の性質は、形状相補性により((DesJarlais et al., 1988, J. Med. Chem. 31:722-729)または推定相互作用エネルギーにより(Meng et al., 1992, J. Comp. Chem., 13:505-524)判断できる。
【0032】
化学単位または化合物がLigAアデニル化ドメインと結合する能力、より具体的にはLigAアデニル化ドメイン上の個々の結合部位と結合する能力をスクリーニングする方法は、当技術分野で既知である。そのような方法には、ドッキングとして知られる方法におけるコンピューターの使用を含めることができる。ドッキングは、QuantaおよびSybylなどのソフトウェアの使用、続いてCHARMMおよびAMBERなどのソフトウェアを用いる基準分子力学力場についてのエネルギー最小化および分子動態により達成できる。
【0033】
特殊なコンピュータープログラムも、フラグメントまたは化学単位の選択方法を支援できる。これらには、下記のものが含まれる:
1. GRID (Goodford, 1985, J. Med. Chem.,28:849-857)。GRIDは、オックスフォード大学(英国オックスフォード)から入手できる;
2. MCSS (1991, Miranker and Karplus, Proteins: Structure, Function and Genetics, 11:29-34)。MCSSは、Molecular Simulations(マサチュセッツ州バーリントン)から入手できる;
3. AUTODOCK (Goodsell and Olsen, 1990, Proteins: Structure, Function and Genetics, 8:195-202)。AUTODOCKは、Scripps Research Institute(カリフォルニア州ラ・ホーヤ)から入手できる;および
4. DOCK (Kuntz et al., 1982, J. Mol. Biol., 161:269-288)。DOCKは、カリフォルニア大学(カリフォルニア州サンフランシスコ)から入手できる。
【0034】
低分子化合物に関する他の市販コンピューターデータベースには、Cambridge Structural DatabaseおよびFine Chemical Database (Rusinko, 1993, Chem. Des. Auto. News, 8:44-47)が含まれる。
【0035】
適切な化学単位またはフラグメントが選択されると、それらを組み立てて単一の化合物または阻害薬にすることができる。組立ては、コンピュータースクリーンに表示された三次元画像上でそれらのフラグメント相互の関係を、LigAアデニル化ドメインの構造/原子座標と関連づけて視覚検査することにより行うことができる。これに続いて、QuantaまたはSybylなどのソフトウェアを用いて手動でモデル構築を行う。
【0036】
個々の化学単位またはフラグメントを連結する際に当業者を援助するのに有用なプログラムには、下記のものが含まれる:
1. CAVEAT (Bartlett et al., 1989, 化学的および生物学的問題における分子認識、特別発表, Royal Chem. Soc., 78:182-196)。CAVEATは、カリフォルニア大学(カリフォルニア州バークレー)から入手できる;
2. 三次元データベース、たとえばMACCS-3D (MDL Information Systems、カリフォルニア州サン・レアンドロ)。この領域は、Martin, 1992, Med. Chem., 35:2145-2154に概説されている;および
3. HOOK (Molecular Simulationsから入手できる;マサチュセッツ州バーリントン)。
【0037】
前記のように一度に1個のフラグメントまたは化学単位で段階的にLigA阻害薬の構築を行う代わりに、空の活性部位または所望により既知阻害薬(1以上)のある部分(1以上)を含むものを用いて、阻害化合物または他のタイプの結合化合物を全体として、または”デノボ”設計することができる。これらの方法には、下記のものが含まれる:
1. LUDI (Bohm, J. Comp. Aid. Molec. Design 6:61-78, 1992)。LUDIは、Biosym Technologies(カリフォルニア州サンディエゴ)から入手できる;および
2. LEGEND (Nishibata and Itai, Tetrahedron,47:8985, 1991)。LEGENDは、Molecular Simulations(マサチュセッツ州バーリントン)から入手できる;
3. LeapFrog (Tripos Associatesから入手できる;ミズーリ州セントルイス)。
【0038】
候補阻害薬とLigAアデニル化ドメインの活性との相互作用能を評価し、候補阻害薬を必要に応じて構造修飾し、修飾した候補阻害薬について一組の原子座標を作成する。修飾した候補阻害薬をコンピューター支援法により、また所望によりインビトロおよび/またはインビボ試験によりさらに評価し、必要ならばさらに修飾して、増強された特性(たとえば、出発時の候補化合物より高い阻害活性)をもつ修飾した候補阻害薬を作成する。
【0039】
多様な常法を用いて、前記の各評価、および候補化合物がLigAを阻害する能力についてのスクリーニングに必要な評価を行うことができる。一般にこれらの方法は、特定部分の位置および結合近接度、結合した阻害薬の占有空間、阻害薬とタンパク質の相補性接触表面の量、特定化合物の結合による変形エネルギー、ならびに水素結合強度および/または静電相互作用エネルギーのある程度の推定を伴う。前記の評価に有用な方法の例には下記のものが含まれる:量子力学、分子力学、分子動態、モンテ・カルロサンプリング(Monte Carlo sampling)、系統的検索および距離計測法(Marshall, Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol., 27:193, 1987)。これらの方法を実施する際に使用するための具体的なコンピューターソフトウェアが開発されている。これらの用途のために設計されたプログラムの例には、下記のものが含まれる:Gaussian 92 [M.J. Frisch, Gaussian, Inc.、ペンシルベニア州ピッツバーグ、版権1993年]; AMBER [P.A. Kollman、カリフォルニア大学、サンフランシスコ、版権1993年]; QUANTA/CHARMM [Molecular Simulations, Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ、版権1992年]。Xの阻害薬をスクリーニングするために、他の分子モデリング法も使用できる。たとえばCohen et al., 1990, J. Med. Chem., 33:883-894; Navia & Murcko, 1992, Curr. Opin. Struct. Biol., 2:202-210を参照。本明細書に記載するモデル構築法およびコンピューター評価システムは本発明を限定するものではなく、それらの適時実施についてすべて図1に示したLigAアデニル化ドメインの原子座標の利用能に依存する。
【0040】
他のハードウェアシステムおよびソフトウェアパッケージが当業者に知られており、利用できるのは明らかであろう。
たとえばこれらのコンピューター評価システムを用いて、多数の化合物を迅速かつ容易に評価でき、経費および時間のかかる生化学試験を避けることができる。さらに、多数の化合物を実際に合成する必要性が効果的に除かれる。
【0041】
他の態様において本発明は、LigAの候補調節薬を化学合成、酵素合成または他の合成法により製造することに関する。本明細書の記載に従って同定または設計した候補調節薬は、当業者に既知の方法で製造できる。
【0042】
インビトロおよびインビボ結合分析
本発明方法は、本明細書に記載する結晶構造および新規な結合部位を用いてLigAの阻害薬を同定する方法を含む。本発明に含まれる阻害薬には、LigAの全体または結合部位に結合しうるいずれかの阻害薬が含まれ、それらは競合阻害薬または非競合阻害薬であってよい。生物活性が同定およびスクリーニングされると、これらの阻害薬は細菌の増殖および拡散を遮断する治療または予防に使用できる。
【0043】
1つの設計方法は、本発明のLigAを多様な化学単位からなる分子で探査して、候補LigA結合物質とLigAの相互作用に最適な部位を決定するものである。たとえば溶剤で浸漬した結晶から収集した高分解能X線回折データにより、各タイプの分子が結合する位置を判定できる。本明細書中で用いる用語”浸漬した”は、当該化合物、たとえば有機溶剤、阻害薬、基質またはアロステリックモジュレーターを含有する溶液に、結晶を移すプロセスを表わす。次いでこれらの部位に緊密に結合する低分子を設計、合成し、それらのLigA阻害活性を試験することができる(Bugg et al., 1993, Scientific American, Dec:92-98; West et al., 1995, TIPS, 16:67-74)。
【0044】
本発明のLigAを用いて結合を確認し、たとえば本明細書に記載するいずれかのコンピューターモデリング法、インビトロ結合アッセイ、またはハイスループットスクリーニングにより同定した物質の結合様式に関する情報を得ることができる。たとえば提示された結合物質の存在下で生長させたLigA結晶から収集した高分解能回折データを、図1に列記したLigA原子座標と組み合わせ、後記の分子置換法を用いて、LigAと提示された結合物質の複合体の構造を求めることができる。あるいは、図1に挙げたLigAアデニル化ドメイン分子の原子座標を実験的X線回折データと直接組み合わせて用いて差分フーリエ電子密度マップ(difference Fourier electron density map)を作成し、これからその物質の結合を同定することができる。あるいは、LigAアデニル化ドメインの既存の結晶を、提示された結合物質を含有する溶液に移し、その物質が結晶格子全体に拡散してLigA上の結合部位に結合しうるのに十分な時間をおいてもよい。次いで、これらの結晶からX線回折データを収集し、前記に従ってこれらを用いて、LigAに対するその物質の結合の性質を判定することができる。これらの方法により、LigAアデニル化ドメインに対するその物質の結合を確認し、さらにLigAアデニル化ドメインとその結合物質の相互作用の性質を解明することができ、こうして後続段階での結合物質の最適化が可能となる。
【0045】
本発明のLigAアデニル化ドメインのデータを、たとえばNMR分光実験からのデータと組み合わせて用いて、前記のいずれかのコンピューターモデリング法、または他のいずれかの方法、たとえばインビトロ結合アッセイもしくはハイスループットスクリーニングにより同定した物質の結合を確認することもできる。たとえば、結合物質の存在下および不存在下で分析したLigA試料についてのNMR化学シフトの変化を測定することにより、LigAに対するその物質の結合親和性(KD)を判定できる。さらに、化学シフトの変化をもたらす残基を本発明のLigAの構造上へマッピングすることにより、当該物質に対する結合部位を同定できる。
【0046】
本明細書に記載する方法により阻害薬が同定されると、LigAを結合および阻害する生物活性についてその阻害薬を標準法により試験することができる。たとえば、阻害薬をスクリーニングするための一般的な方式による結合アッセイに、LigAを使用できる。使用するのに適切なアッセイ法には、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)または蛍光消光アッセイが含まれるが、これらに限定されない。他のアッセイ方式、たとえば生成物の形成を分光測光法により検出できる連携アッセイ法を使用できる:これらのアッセイ方式は本発明を限定するものではない。
【0047】
本発明は、被験結合物質のインビボLigA活性分析をも含む。
【0048】
相同体モデリング
ある態様において本発明は、図1に記載するインフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインの原子座標を用いて、インフルエンザ菌LigAのタンパク質相同体またはバリアントの三次元原子座標を作成するための、下記を含む方法に関する:
a.インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインに相同な1以上のポリペプチド配列を同定し;
b.これらの配列をSEQ ID NO:1のアミノ酸配列をもつポリペプチドを含むインフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインの配列とアラインし;
c.相同配列(1以上)とインフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインとの間の構造保存領域および構造可変領域を同定し;
d.インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインの原子座標、たとえば図1に挙げたものを用いて、インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインのものから構造保存されている相同配列(1以上)の残基について三次元原子座標を作成し;
e.相同配列(1以上)の構造可変領域におけるヘリックス、鎖、ループおよび/またはターンのコンホメーションを作成し;
f.相同配列(1以上)について側鎖コンホメーションを構築し;そして
g.保存残基、ループおよび側鎖コンホメーションの三次元原子座標を組み合わせて、それらの相同配列(1以上)の完全または部分三次元原子座標を作成する。
【0049】
こうして、本明細書に記載するLigAアデニル化ドメイン構造により、実験による構造情報を容易に得ることができない相同タンパク質の構造をモデリングすることができる。
【0050】
分子置換
LigAアデニル化ドメインは1以上の形態で結晶化する可能性がある。したがって本明細書に記載するLigAアデニル化ドメインの原子座標は、他の結晶形態のLigAアデニル化ドメイン、または他の結晶形態のLigAアデニル化ドメインの結合ドメインの構造を解決するために、特に有用である。本発明のLigAアデニル化ドメインの一部は、活性部位(基質結合部位)として機能する。それらを用いて、LigAアデニル化ドメイン変異体、LigAアデニル化ドメイン複合体、LigAアデニル化ドメインアイソザイム、またはLigAアデニル化ドメインに対して有意のアミノ酸配列相同性もしくは構造相同性をもつ他のタンパク質の結晶形態を解明することもできる。1態様において、有意のアミノ酸配列同一性には、LigAアデニル化ドメインのいずれかの機能ドメインに対する少なくとも35%、45%、50%、54%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一性が含まれる。たとえばグラム陰性菌である大腸菌、ヘリコバクター・ピロリおよび緑膿菌のLigAについてのアミノ酸配列同一性は、それぞれ61%、37%および55%であり、配列類似性はそれぞれ約76%、59%および68%である。さらに、陽性菌ストレプトコッカス属菌(Streptococcus)およびスタフィロコッカス属菌(Staphylococcus)のLigAについてのアミノ酸配列同一性は約40%、配列類似性は約60%である。構造相同性の一例は、類似の機能性フォールド分類をもつ他のメンバーであろう。そのようなメンバーは、scop (参照:http://scop.berkeley.edu/)を用いて同定できる。
【0051】
この目的に使用できる1方法は、分子置換である。この方法では、未知の結晶構造を、それがインフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインの他の結晶形態であっても、LigAアデニル化ドメインに対して有意のアミノ酸配列相同性性をもつ他のいずれかのタンパク質の結晶であっても、本発明のLigAアデニル化ドメイン原子座標を用いて判定できる。この方法により、未知結晶の精確な構造形態を、最初からそのような情報を測定する試みより迅速かつ効率的に得ることができる。
【0052】
分子置換の各段階を実施するために使用できるプログラムの例には、MOLREP (Vagin and Teplyakov, 1997, J. Appl. Cryst., 30:1022-1025)、AMoRe (Navaza, 2001, Acta Cryst., D57(10):1367-1372)、Beast (Read, 2001, Acta Cryst., D57(10):1373-1382)、GLRF (Tong & Rossmann, 1990, Acta Cryst., A46:783-792)、COMO (Jogl et al., 2001, Acta Cryst., D57(8):1127-1134)、EPMR (Kissinger et al., 1999, Acta Cryst., D55(2):484-491)が含まれる。MOLREP、AMoReおよびBeastソフトウェアは、CCP4ソフトウェアパッケージ(CCP4, Acta Cryst., D50:760-763, 1994)の一部として配布されている。一例として、MOLREPは2段階法で分子置換の解を見いだす統合分子置換プログラムである:(1)モデルの配向を同定するための回転関数(rotation function)(RF)検索、ならびに(2)配向したモデルの位置を同定するための相互平行移動関数(cross translation function)(TF)およびパッキング関数(PF)検索。平行移動関数は、回転関数の幾つかのピークを、各ピークに関する相関係数を計算して結果をソーティングすることにより検査する。パッキング関数は、オーバーラップ対称に相当する不適正解を除去するために重要である。MOLREPは、不斉単位当たり任意の分子数を検索するように設定でき、追加分子を加えても解のそれ以上の改善が得られない場合は自動的に停止するであろう。
【0053】
他の観点において本発明は、前記のソフトウェアプログラムまたはそれらに相当する当業者に既存のプログラム、ならびに本明細書および図1に列記した原子座標を用いて、未知構造の分子または分子複合体についての情報を得るための、分子置換を伴う方法を提供する。
【0054】
本発明の実施
本発明の実施には、別途指示しない限り、当業者が容易に実施できる細胞生物学、分子生物学、微生物学および組換えDNA操作、X線結晶学、NMR分光分析、ならびに分子モデリングの一般的な技術を使用する。そのような技術は文献に十分に説明されている。たとえば下記を参照:Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, 編者Sambrook, Fritsch and Maniatis (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989); DNA Cloning, Vol. IおよびII (D. N. Glover編, 1985); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait編, 1984); Mullis et al., U.S.P. No.: 4,683,195; Nucleic Acid Hybridization (B. D. Hames & S. J. Higgins編, 1984); Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins編, 1984); B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984); 論文, Methods In Enzymology (Academic Press, Inc.、ニューヨーク); Methods In Enzymology, Vol. 154および155 (Wu et al.編), Crystallography made crystal clear: a guide for users of macromolecular models (Gale Rhodes, 第2版、サンディエゴ: Academic Press, 2000)。
【0055】
均等物
本発明において本発明の範囲および精神から逸脱することなく多様な改変および変更をなしうることは、当業者に自明であろう。本発明の他の態様は、本明細書に開示する詳細な記載および実施を考慮すれば当業者に自明であろう。詳細な記載および例は例示にすぎず、本発明の真の範囲および精神は特許請求の範囲により示されるものとする。
【0056】
本発明をさらに下記の実施例により説明する。これらは本発明の幾つかの態様を詳細に説明する。これらの実施例は本発明を限定するものではなく、そのように解釈すべきでない。
【0057】
実施例
インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインのクローニング
インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインDNAを、配列決定されたRd株KW20からクローニングした(Fleischmann et al. 1995. Science 269:496)。クローニングは、インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインに対応するタンパク質コード配列をPCR増幅するために特別に設計されたプライマー[HI1100-F (5')およびHI1100-R (3')]を用いて達成された。開始コドン(ATG)を含むNdeI制限エンドヌクレアーゼ(RE)部位を5'側プライマー(HI1100-F)内へ工学的に導入し、EcoRI RE部位および終止コドン(TAG)を3'側プライマー(HI1100-R)内へ工学的に導入した。開始コドンの配置は、配列決定された他のLigA遺伝子とのアラインメントに基づいた。上記インフルエンザ菌ligA遺伝子(HI1100)は、本発明の開始コドンに対して5'側に27個の追加ヌクレオチドを含有するので、これは重要である。インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインのC-末端における終止コドンの配置は、先に公表されたバシラス・ステアロサーモフィラス(B. stearothermophilus)(Timson and Wigley. 1999. J. Mol. Biol. 285:73)および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(Kaczmarek et al. 2001. J. Bacteriol. 183:3016)の機能性アデニル化ドメイン由来の配列のアラインメントに基づいた。高度に保存された疎水性残基(ロイシン#324)がインフルエンザ菌ligAアデニル化ドメインの最終アミノ酸になるように選択した。
【0058】
PCR増幅に用いた2つのプライマーは、下記のものであった:
【0059】
【化1】

【0060】
インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメイン配列をPCR増幅した後、得られたDNAをConcert Rapidゲル抽出システム(Marligen Bioscience Inc.)によりゲル精製し、pGEM-T(Promega)内へクローニングした。陽性DNAクローンを、精確なDNA配列同一性を確認するためのDNA配列決定用に選択した。pSM156中におけるこのDNA挿入配列は、上記インフルエンザ菌LigA(HI1100)のアミノ酸10〜333と100%同一であるアミノ酸324個のポリペプチドをコードした。
【0061】
インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインの発現
インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメイン挿入配列を発現ベクターpET30a(Novagen, EMD Biosciences, Inc.)のNdeI部位とEcoRI RE部位の間にサブクローニングして、pSM158を作製した。pSM158中の挿入配列および接合部のDNAを配列決定して、その同一性を確認した。pSM158を、過剰発現のために大腸菌BL21(DE3)細胞に形質転換した。30℃で100 mLの培養において発現を行わせた。増殖培養の細胞密度がOD600 0.35〜0.5に達した時点で、1 mMのイソプロピルチオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)の添加によりタンパク質発現を誘導した。さらに2時間増殖させた後、細胞を遠心分離により採集し、4℃に冷却した。誘導細胞はSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して36,000ダルトンの見掛け分子質量をもつタンパク質を発現した。これはインフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインに予想されたサイズと一致する。インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインクローンを含む大腸菌BL21(DE3)細胞におけるタンパク質発現を、前記の条件に従って1 Lの培養6回に規模拡大した。細胞ペーストを遠心分離により採集し、使用時まで-20℃に保存した。
【0062】
ligAのヌクレオチド配列:
【0063】
【化2】

【0064】
LigAアデニル化ドメインのアミノ酸配列:
【0065】
【化3】

【0066】
インフルエンザ菌DNAリガーゼアデニル化ドメインの精製および特性解明
凍結細胞ペーストを、60 mlの細胞溶解用緩衝液[25 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 5 mM DTT, 10%グリセロール, 1 mM PMSF, プロテアーゼ阻害薬カクテル錠1個(Roche Molecular Biochemical)]に懸濁した。細胞を18,000 psiで作動するフレンチプレスに2回通すことにより破壊し、粗抽出液を25,000 rpm(45Tiローター、Beckman)で4℃において30分間遠心分離した。上清を流速1.5 ml/分で、20 mlのQ-Sepharose HP (HR16/10)カラム(Pharmacia)に装填した;カラムは緩衝液A(25 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 5 mM DTT, 10%グリセロール)で予め平衡化された。次いでカラムを緩衝液Aで洗浄し、タンパク質を緩衝液A中0〜1 MのNaClの直線勾配により溶離した。リガーゼ含有画分をプールし、25 mM Tris/HCl、pH 8.0、2 mM EDTA、5 mM DTT、10%グリセロール中の3 M (NH4)2SO4を最終濃度1 Mとなるように添加した。試料を流速1.5 ml/分で、20 mlのPhenyl Sepharos HP (HR16/10)カラム(Pharmacia)に付与した;カラムは緩衝液B[25 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 5 mM DTT, 10%グリセロール, 1M (NH4)2SO4]で予め平衡化された。カラムを緩衝液Bで洗浄し、タンパク質を緩衝液A中1〜0 Mの(NH4)2SO4の直線勾配により溶離した。リガーゼ含有画分をプールし、固体(NH4)2SO4 (0.4 g/ml)を添加して、すべてのタンパク質を沈殿させ、氷上で1時間混合した。試料を25,000 rpmで4℃において30分間遠心分離し(45Tiローター、Beckman)、次いでペレットを10 mlの緩衝液Aに溶解した。10 mlの試料を流速1.5 ml/分で320 mlのSephacryl S-100 (HR 26/60)(Pharmacia)に付与した;カラムは緩衝液C(25 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 5 mM DTT, 10%グリセロール, 150 mM NaCl)で予め平衡化された。リガーゼ含有画分をプールし、1 Lの貯蔵用緩衝液(10 mM Tris-HCl, pH 8.0, 0.1 mM EDTA, 100 mM KCl, 2 mM DTT, 20%グリセロール)に対して透析した。タンパク質をSDS-PAGE分析および分析用LC-MSにより特性解明した。測定したタンパク質の質量は、リガーゼがアデニル化されており、DNA配列から推定した部分的リガーゼのN-末端メチオニンは存在しないことを示した[予想MW = 36801.5ダルトン、実測値 = 36800.0ダルトン]。このタンパク質を-80℃に保存した。
【0067】
インフルエンザ菌DNAリガーゼ(LigA)アデニル化ドメインの結晶化
精製したインフルエンザ菌LigAアデニル化ドメイン(Lys116においてアデニル化)を、1mM Tris-HCl pH 7.5中における約40 mg/mlのタンパク質濃度で290Kの温度において、希マトリックス結晶化スクリーニング(sparse matrix crystallization screening)した。
【0068】
懸滴法を用いる蒸気拡散(たとえば”Protein Crystallization”, Terese M. Bergfors (編者), International University Line, pp 7-15, 1999を参照)により、図1の原子座標をもつ結晶を得た。精製したインフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインは、貯蔵用緩衝液(10 mM Tris-HCl, pH 8.0, 0.1 mM EDTA, 100 mM KCl, 2 mM DTT, 20%グリセロール)中36 mg/ml の濃度で193Kに保存されていた。約4.0 mgのタンパク質を含有する1部分を貯蔵から融解し、1mM Tris-HCl pH7.5中で十分に洗浄した。最終タンパク質濃度を40 mg/mlに調整した。約25〜約50 mg/mlの最終タンパク質濃度を用いて同様に結晶を得たが、より高濃度および低濃度では結晶サイズがはるかに小さかった。溜め溶液は一般に16% (w/v)のポリエチレングリコール(PEG)3500および350 mMの酒石酸カリウムナトリウムを含有していた。溜め溶液中のPEG3500の濃度は約14% (w/v)から約30% (w/v)まで変更でき、タンパク質溶液中のタンパク質濃度、または懸滴法における溜め溶液に対するタンパク質溶液の比をこれに応じて調整することにより、結晶が得られた。同様に溜め溶液中の酒石酸カリウムナトリウム濃度を約200mMから約400mMまで変更でき、約300〜約350mM濃度で最適結果が得られた。
【0069】
2μlのタンパク質溶液を2μlの溜め溶液と混合し、この液滴を500μlの溜め溶液上に懸垂することにより、懸滴を設置した。最高200×200×100ミクロンの寸法の結晶が290Kの温度で3〜4日以内に生長するのが観察された。懸滴のサイズ、および溜め溶液に対するタンパク質の比も変更することができる。
【0070】
凍結保護剤溶液を含有する液滴中で結晶を平衡化した後、移動およびデータ収集のために液体窒素中でフラッシュ凍結した。選択した結晶を下記の方法で凍結保護剤溶液により処理した。5、10、15および20 % (v/v)のグリセロールを補充した、選択した液滴に対応する溜め溶液を含有する原液を調製した。次いで20ミクロンのナイロン製結晶マウンティング用ループ(Hampton Research、米国カリフォルニア州)内に、各濃度から試料を採取し、透明なガラス様凍結物を得るために液体窒素中でフラッシュ冷却することにより試験した。各グリセロール濃度の公称液滴体積5μlを、シリコーン処理したカバーガラス上にスポットした。結晶マウンティング用ループを用いて目的結晶を各液滴からすくい取り、最低濃度のグリセロール(5%)を含む凍結保護剤液滴へ丁寧に移した。結晶を2分間平衡化させた後、それらを次の高さのグリセロール濃度へ移した。最高濃度の凍結保護剤中で平衡化した後、結晶マウンティング用ループを用いて結晶を液滴から取り出し、液体窒素中でフラッシュ凍結した。これらの結晶をデータ収集のためにシンクロトロン放射線源に載せた。
【0071】
X線回折データ収集
ESRFシンクロトロン放射線源を用いてGrenoble Crystalsで約1.7Åまで回折した結晶は、正方晶空間群P43212に属し、a = b = (70.23 +/- 0.7)Å、c = (161.28 +/- 0.3)Åおよびα=β=γ= (90.00)の格子パラメーターをもっていた。この結晶形は図1の原子座標に含まれる。完全な一組のデータをESRFで解像度1.7Åまで収集した。
【0072】
分子置換法を用いた位相計算
結晶単位格子寸法の分析により、結晶学的不斉単位は1分子のLigAアデニル化ドメインを含む可能性があることが示された。構造に関する位相問題を、プログラムAmoRe (Navaza, 1994)を用いた分子置換により解いた。インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインの配列を、これまでに決定されたバシラス・ステアロサーモフィラス由来の同分子(pdb ID#: 1B04)の構造上に置くことにより、検索モデルを作成した。4Åまでのデータのみを初期相互回転関数検索に用い、続いて最良の相互関数解(best cross function solution)について平行移動関数検索を行った。すべての解のうち最高相関係数60%および最低R-因子42.1%が、このモデルの明らかに適正な平行移動関数解を示した。LigAアデニル化ドメインの単位格子の分子の配向および位置をさらに詳細化するために、解像範囲4〜34.9ÅにおいてCNX(Accelrys)の剛体詳細化法(rigid body refinment technique)を用いて初期詳細化を行った。30サイクルの詳細化の後、R-因子は39.3 %に低下し、このモデル付近に明瞭な連結密度がみられた。これらの結果は、Amoreから得られたモデルが実際に適正な解であることを示した。
【0073】
インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメイン結晶構造のモデル構築および詳細化
プログラムCNX(Accelrys)を用い、粗解答および全異方性B-因子補正を適用して、このモデルの詳細化を続けた。ねじれ角力学による模倣アニーリングの反復ラウンド(開始温度2500 K)、続いて50サイクルのエネルギー最小化、最後に20サイクルの個別等方性B-因子詳細化を行った。次いでプログラムOを用いて、1ラウンドの反復モデル構築を行った。差分フーリエ(Fo-Fc)電子密度マップにおいて、共有結合したアデニル部分と一致する有意のピークが保存Lys116近くに(それと関連した電子密度で)みられた。差分フーリエ電子密度マップにおいて、いずれのタンパク質側鎖にも属さない他の有意の密度がN末端ドメイン1aにみられた。この密度は結合したヌクレオチドから生じると解釈された。詳細化の後段階で、この領域の電子密度はそれを確実にNAD+分子に帰属させるのに十分なほど明瞭になった。アデノシンおよびNAD+部分をこの時点でモデルに含め、続いてさらに1ラウンドの反復再構築を行って、R-値0.27およびR無し値0.28をもつモデルを得た。CNXにおいて水ピックオプション(water-pick option)を用いて水分子を含め、続いて2ラウンドの詳細化を行い、これによりR-値0.21およびR無し値0.23の最終モデルを得た。
【0074】
R-値は実測データとモデルから計算した合成データとの相違を記述する。R無し値はこれと同じであるが、詳細化の最初に除かれた、データの過剰適応を避けるための不偏参照として用いられる試験組の反射(通常は合計の5%)から計算されたものである。R-値は解像度依存性であるが、一般に0.25以下でなければならず、R無しは一般に5%を超えてはならない。
【0075】
最終モデルは、324アミノ酸の1ポリペプチド鎖、1分子のアデノシン(Lys116に共有結合)、1分子のNAD+、および263個の秩序水分子からなる。最終モデルの統計値を表4に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
図1は、アデノシンおよびNAD+と複合体形成したインフルエンザ菌由来のLigAアデニル化ドメイン結晶構造の三次元原子座標のリストである。この図中、原子リストの前に表題CRYST1があり、これに続いて結晶単位格子の3つの次元がある。次の3つの数値は原子座標を直交Å座標から単位格子の部分座標に換算する行列を規定する。ATOM(原子)と表示した各列は(任意)原子番号、各アミノ酸主鎖に与えた表示、各原子タイプ、アミノ酸残基タイプ、タンパク質鎖の表示、およびアミノ酸残基番号を示す。列の最初の3つの数値は、その原子の直交X、Y、Z座標を示す。次の数値は占有数であり、その原子が1より多い位置でみられた場合は1.0未満である(アミノ酸は1より多い配向でみられる可能性がある)。最後の数値は、その原子の熱振幅に関する温度係数である。リストの最後に、モデルに含まれる結合リガンド(NAD+およびAMP)および秩序水分子(HOH)を示す一連のデータがある。
【0078】
インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインの結合部位の決定
アデニル化された活性部位
共有結合したAMPの結合ポケットはアデニル化ドメインの2つのβシート間にある。この結合部位は活性部位にある多数の残基により安定化され、それらは主に、このクラスのヌクレオチジルトランスフェラーゼスーパーファミリー(これにはDNAリガーゼ、RNAリガーゼ、および真核細胞mRNAキャッピング酵素が含まれる)の特徴である5つの保存モチーフ(I、III、IIIa、IVおよびV)からなる。この結合部位を内張りする残基のうち、最も重要な触媒残基はLys116である。反応の第1段階で、NAD+のAMP部分がこのLysに共有結合する。AMPのα-リン酸基とLys116の側鎖ε-Nの間の明瞭な連結密度は、AMPが実際に結晶構造中のこのタンパク質に共有結合していることを示す。
【0079】
結合AMPの共有結合α-リン酸基は、Arg 201側鎖との静電相互作用によりさらに安定化される。Arg137の側鎖グアニジウム基は、それの1つの窒素が環酸素に対して水素結合距離内にある状態で、リボース環上に積み重なる。リボースのヒドロキシル基は、Ser81およびLeu82の主鎖カルボニルと相互作用する。一方ではアデニン環がTyr226の側鎖に積み重なり、他方ではアデニン環にVal289、Lue82およびLys116の側鎖が積み重なる。アデニン結合ポケットを内張りする他の残基には、Lue117、Lys291、Glu114、およびMet79が含まれる。アデニン環のアミノ基は、Glu114の側鎖カルボニル基およびPro115の主鎖カルボニル基によって安定化される。Lys116とGlu114は、AMP結合ポケットの底部においてイオン対を形成する。上記の相互作用のほかに、隣接分子からのC-末端Leu324も、この結晶構造におけるアデニンポケットの小部分を形成する。共有結合AMPのアデノシンヌクレオシドは、antiコンホメーションにある。これは、このスーパーファミリーの他のメンバーのsynコンホメーション、すなわちATP依存性T7 LigAの結晶構造におけるアデノシンおよび真核細胞mRNA-キャッピング酵素の結晶構造におけるグアノシンのものと対照的である。
【0080】
結合したAMP分子から半径5Å以内にある残基には、SEQ ID NO:1のSer81、Lue82、Glu114、Lys116、Gly119、Arg137、Tyr226およびVal289が含まれる。これらの残基はすべて、大部分の細菌性DNA-LigAアデニル化ドメインにわたって良好に保存されている。したがって、インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインのアデニル化されたAMP結合部位は、最小限でSEQ ID NO:1の残基Ser81、Lue82、Glu114、Lys116、Gly119、Arg137、Tyr226およびVal289からなり、あるいはプローブ半径8Åを用いて誘導したさらに拡大した定義では、残基Met79、Leu80、Ser81、Leu82、Asp83、Asn84、Glu114、Pro115、Lys116、Leu117、Asp118、Gly119、Leu120、Ala121、Arg137、Gly138、Gly140、Arg172、Gly173、Glu174、Arg201、Ala225、Tyr226、Gly227、Asp286、Thr288、Val289、Lys291、Ala311およびAla313を含む。
【0081】
NAD+結合部位
構造情報に基づけば、NAD+結合部位はサブドメイン1aと1bの間にある。ニコチンアミド環部分は深部ポケットに埋め込まれ、一方、この分子の残りの部分はより多く溶剤に曝露され、サブドメイン1aからの残基が相互作用の大部分を提供する。NAD+の電子密度は、グリコシド結合のsynコンホメーションと一致する。アデニン環は、酵素表面においてLys43、His40、Thr59、Phe39、Val62およびArg61の側鎖、ならびにThr59、Gln60、Arg61およびVal62の主鎖相互作用により形成されるポケット内に結合する。直接水素結合がアデニンのN3位の窒素原子とHis40の側鎖窒素原子との間、およびN1位の窒素原子とThr59の側鎖との間に形成される。サブドメイン1aヘリックスのひとつからのPhe39の芳香族環がアデニン環に積み重なり、このコンホメーションを安定化する。アデノシンリボースの3' OH基は、His40の側鎖Nに対して水素結合距離内にある。このリボースの2' OH付近にHis40が存在することにより、NAD(H)内のアデノシルリボースに結合した余分なリン酸の立体反発を仲介する能力に基づいて、NAD(H)よりNAD(H)の結合に対するこの酵素の特異性が説明される。
【0082】
NADHのピロリン酸部分は、サブドメイン1bからのプラスに荷電したArg154と相互作用し、水分子により仲介されてHis23およびTyr35の側鎖と水素結合接触する。ニコチンアミドリボースのヒドロキシル基はAsp36およびAsp32の側鎖ヒドロキシル基と相互作用し、一方、環酸素はTyr22のヒドロキシル基に対して水素結合距離内にある。ニコチンアミド環は深部ポケットに位置し、Tyr22とTyr53の側鎖環の間に積み重なる。さらにニコチンアミドポケットは、Tyr118、Glu19、His23、Pro28、Val30の側鎖、ならびにSer29、Asp32およびGlu19の主鎖により囲まれている。ニコチンアミドのアミド基は、Val30の主鎖カルボニル基およびAsp32の側鎖カルボニル基に対して水素結合距離内にある。変異分析により、残基His23、Tyr35、Tyr22、Asp32およびAsp36におけるアラニン置換はNAD+からのアデニルの移動を著しくまたは完全に妨害し、先に形成されたアデニル化DNAの連結には影響を及ぼさないことが証明される(JBC, 277, 9695-9700)。これらの結果はさらに、この結晶構造中にみられる結合部位が実際にLigA上のNAD+に対する生理的結合ポケットであることを支持する証拠を提供する。
【0083】
結合したNAD+分子から半径5Å以内にある残基には、SEQ ID NO:1のTyr18、Glu19、Tyr22、Val30、Pro31、Asp32、Tyr35、Asp36、Phe39、His40、Lys43、Thr59およびArg154が含まれる。これらの残基は大部分が、10種類の細菌性LigA間で完全に保存されている。したがって、インフルエンザ菌LigAアデニル化ドメインのNAD+結合部位は、最小限で、あるいはプローブ半径8Åを用いて誘導したさらに拡大した定義では、SEQ ID NO:1のLeu15、Tyr18、Glu19、Glu21、Tyr22、His23、Pro28、Ser29、Val30、Pro31、Asp32、Ser33、Glu34、Tyr35、Asp36、Phe39、His40、Leu42、Lys43、Pro58、Thr59、Gln60、Arg61、Val62、Arg154、Ser217およびLys218を含む。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】AMPおよびNAD+と複合体形成したインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)由来LigAの結晶構造の三次元原子座標を示す。
【図2】リガンドAMPおよびNAD+が結合したLigAのリボン図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラム陰性菌由来のLigAの結晶。
【請求項2】
基質と複合体形成したグラム陰性菌由来のLigAの結晶。
【請求項3】
基質がAMPである、請求項2の結晶。
【請求項4】
さらにLigAの基質と複合体形成した、請求項2の結晶。
【請求項5】
基質がNAD+である、請求項4の結晶。
【請求項6】
基質と複合体形成したグラム陰性菌由来のLigAの結晶。
【請求項7】
基質がNAD+である、請求項6の結晶。
【請求項8】
LigAがインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)に由来する、請求項1〜7のいずれか1項の結晶。
【請求項9】
基質がSEQ ID NO:1のアミノ酸残基Ser81、Lue82、Glu114、Lys116、Gly119、Arg137、Tyr226およびVal289を含む結合部位において結合している、請求項2の結晶。
【請求項10】
基質がSEQ ID NO:1のアミノ酸残基Tyr18、Glu19、Tyr22、Val30、Pro31、Asp32、His23、Tyr35、Asp36、Phe39、His40、Lys43、Thr59およびArg154を含む結合部位において結合している、請求項2の結晶。
【請求項11】
LigAに結合する分子を同定する方法であって、
a)LigAの原子座標に三次元分子モデリングアルゴリズムを適用し;
b)蓄積した一組の候補化合物の原子座標を、LigAの原子座標に対比して電子スクリーニングして、LigAに結合する化合物を同定する
ことを含む方法。
【請求項12】
原子座標がLigAの分子界面のものである、請求項11の方法。
【請求項13】
原子座標が図1に示されるものである、請求項11の方法。
【請求項14】
LigAの基質モジュレーターである物質を同定するための、下記を含むコンピューター支援法:
(a)コンピューターモデリングアプリケーションに、LigA結晶の基質結合部位の一組の原子座標を提供し;
(b)コンピューターモデリングアプリケーションに、LigAの基質結合部位を結合するかを判定するために評価すべき物質の一組の原子座標を供給し;
(c)それら二組の原子座標を比較し;そして
(d)その物質がLigAに結合すると予想されるかを判定し、その際、その物質がLigAの基質結合部位を結合すると予想される場合はその物質はLigAの基質モジュレーターである。
【請求項15】
LigAの基質結合部位の一組の原子座標が図1に示されるものである、請求項14のコンピューター支援法。
【請求項16】
LigAの基質モジュレーターである物質を同定するための、下記を含むコンピューター支援法:
(a)コンピューターモデリングアプリケーションに、LigA結晶の基質結合部位の一組の原子座標を提供し;
(b)コンピューターモデリングアプリケーションに、LigA結晶の基質結合部位を結合するかを判定するために評価すべき物質の一組の原子座標を供給し;
(c)それら二組の原子座標を比較し;そして
(d)その物質がLigAに結合すると予想されるかを判定し、その際、その物質がLigAの基質結合部位を結合すると予想される場合はその物質はLigAの基質モジュレーターである。
【請求項17】
基質結合部位の一組の原子座標が図1に示されるものである、請求項16のコンピューター支援法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−508896(P2008−508896A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525346(P2007−525346)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003125
【国際公開番号】WO2006/016146
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】