説明

インフレーター

【課題】安定した作動性能を確保することができて、作動開始直後に、膨張用ガスの十分な吐出量を確保することができ、かつ、膨張用ガスの吐出時間を長く維持することが可能なインフレーターを提供すること。
【解決手段】インフレーター1は、ガス発生剤19,20を、燃焼室14内に充填させて、点火装置10の点火時に、ガス発生剤19,20を燃焼させて膨張用ガスを発生させる。第1ガス発生剤19と、第1ガス発生剤19より燃焼速度の遅い第2ガス発生剤20と、は、区画壁17により区画されて、燃焼室14内に充填される。区画壁17は、第1ガス発生剤19に点火する点火装置10の点火エリアとの間に、第1ガス発生剤19を介在させて、点火エリアから離れて配置され、第1ガス発生剤19の燃焼時の火炎により引火されて焼失し、第1ガス発生剤19の火炎を、略全面にわたって第2ガス発生剤20側に伝播させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグを膨張させるための膨張用ガスを発生させるインフレーターであり、詳しくは、燃焼速度を異ならせた2種類のガス発生剤を、燃焼室内に充填させて構成されて、点火装置の点火時に、ガス発生剤を燃焼させて、膨張用ガスを発生させる構成のインフレーターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃焼速度を異ならせたガス発生剤を燃焼室内に充填させて構成されるインフレーターとしては、燃焼室内を区画壁によって二室に分割しているものがあった(例えば、特許文献1参照)。このインフレーターでは、区画された二室に、それぞれ、燃焼速度の速い第1ガス発生剤と、第1ガス発生剤より燃焼速度の遅い第2ガス発生剤と、を充填させて、第1ガス発生剤に点火可能な点火装置を備えて構成されていた。
【0003】
また、従来のインフレーターでは、燃焼室内に、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とを混在させた状態で充填させた構成のものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−283942号公報(図3,4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1において、燃焼室内を区画壁により分割した二室に、それぞれ、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とを充填させた構成のインフレーターでは(図4参照)、区画壁の一部に開口を設けて、この開口から、第1ガス発生剤の燃焼時の火炎を伝播させて、第2ガス発生剤を燃焼させる構成であった。そのため、このインフレーターでは、最初に第2ガス発生剤の一部のみが燃焼することとなって、第2ガス発生剤全体が着火燃焼するまでの時間が長くかかり、インフレーターの作動開始直後(点火装置の作動当初)に、膨張用ガスの十分な吐出量を確保し難い場合があった。
【0006】
また、特許文献1において、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とを混在させた状態で、燃焼室内に充填させた構成のインフレーターでは(図3参照)、点火装置の作動時に、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とが同時に燃焼を開始することとなる。しかしながら、このような構成のインフレーターにおいて、第2ガス発生剤が、第1ガス発生剤の周囲を囲むような状態となれば、この第2ガス発生剤の燃焼が、第1ガス発生剤の迅速な燃焼を阻害する虞れがあって、インフレーターの作動開始直後に、第1ガス発生剤の燃焼による膨張用ガスの十分な吐出量を確保し難い場合があった。さらに、特許文献1のごとく、大きさを異ならせた第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とを燃焼室内で混在させる場合には、車両走行時の振動等によって、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との混在状態を、燃焼室内で均一に維持することが困難となり、インフレーター毎に、一定の作動性能を確保し難い場合もあった。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、安定した作動性能を確保することができて、作動開始直後に、膨張用ガスの十分な吐出量を確保することができ、かつ、膨張用ガスの吐出時間を長く維持することが可能なインフレーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインフレーターは、
燃焼室と、
燃焼室内に配置される点火装置と、
燃焼室内に充填されて、点火装置の点火により、膨張用ガスを発生させるように燃焼する第1ガス発生剤と、
点火装置の点火エリアとの間に第1ガス発生剤を介在させて、点火装置の点火エリアから離れた位置の燃焼室内に充填されるとともに、第1ガス発生剤より遅い燃焼速度として、第1ガス発生剤の火炎の伝播により、膨張用ガスを発生させるように燃焼する第2ガス発生剤と、
燃焼室内に充填された第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との混合を防止可能に、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とを区画するように配設されるとともに、第1ガス発生剤の燃焼時に引火されて焼失し、第1ガス発生剤の燃焼時に発生する火炎を、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との境界部位の略全面を経て、第2ガス発生剤側に伝播可能な区画壁と、
を備えて構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明のインフレーターでは、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とを区画する位置に配置される区画壁が、点火装置の点火エリアから離れた位置に配置されている。そのため、点火装置の作動時に、第2ガス発生剤が点火されることはなく、点火装置が作動すれば、まず、点火装置側の領域の第1ガス発生剤が、点火されて燃焼し、膨張用ガスを発生する。その後、第1ガス発生剤の燃焼時に発生する火炎が、区画壁を介して第2ガス発生剤側に、伝播され、第2ガス発生剤が点火されて燃焼し、膨張用ガスを発生することとなる。
【0010】
この時、本発明のインフレーターでは、点火装置側に充填される第1ガス発生剤が、燃焼速度を速く設定されていることから、点火装置が作動すれば、瞬時に燃焼することとなる。また、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とを区画している区画壁は、第1ガス発生剤の燃焼時に発生する火炎によって引火され、そして、燃えて焼失する。そのため、第1ガス発生剤の燃焼時に発生する火炎が、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との境界部位の略全面を経て、第2ガス発生剤側に伝播する。すなわち、第1ガス発生剤が燃焼すれば、発生する火炎が、瞬時に、区画壁の全面を介して第2ガス発生剤に伝播されて、第2ガス発生剤が、第1ガス発生剤の燃焼から大きく遅れることなく、区画壁と接している領域の略全面から、燃焼を開始させることとなる。
【0011】
換言すれば、本発明のインフレーターでは、点火装置の作動時に、まず、燃焼速度の速い第1ガス発生剤のみを燃焼させることができ、その後、第1ガス発生剤の燃焼によって生ずる火炎を、迅速に広い範囲で第2ガス発生剤に伝播させることができる。そのため、本発明のインフレーターでは、第1ガス発生剤の燃焼から大きく遅れることなく、多量の第2ガス発生剤を燃焼させることができて、点火装置の作動直後に、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との燃焼により、膨張用ガスの十分な吐出量を確保することができる。さらに、この第2ガス発生剤は、燃焼速度を、第1ガス発生剤より遅く設定していることから、本発明のインフレーターでは、第1ガス発生剤の燃焼完了後にも、その後の第2ガス発生剤の燃焼によって、膨張用ガスの吐出時間を長く維持することができる。
【0012】
また、本発明のインフレーターでは、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とが、区画壁によって、相互に混合されることなく、区画された状態を維持して燃焼室内に充填されている。そのため、本発明のインフレーターでは、安定した燃焼状態、すなわち、点火装置により、第1ガス発生剤が点火され、ついで、第1ガス発生剤の燃焼時の火炎により、第2ガス発生剤が点火される状態を、維持できることから、インフレーター毎の作動のばらつきを抑えて、安定した作動性能を確保することができる。
【0013】
さらに、本発明のインフレーターでは、区画壁が燃焼することから、燃焼しない板金等により区画壁を形成する場合に比べて、第1ガス発生剤や第2ガス発生剤が燃焼して発生する膨張用ガスを、冷却させず、逆に、昇温若しくは保温できるため、膨張用ガスの圧力低下を防止できる。
【0014】
したがって、本発明のインフレーターでは、安定した作動性能を確保することができて、作動開始直後に、膨張用ガスの十分な吐出量を確保することができ、かつ、膨張用ガスの吐出時間を長く維持することができる。
【0015】
なお、第1ガス発生剤の燃焼時の火炎によって区画壁が焼失する態様は、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との境界部位の全域において、奇麗に焼失する場合に限られること無く、第1ガス発生剤の燃焼時の火炎が、境界部位の略全域から、迅速に第2ガス発生剤に伝播して、第2ガス発生剤を燃焼させることができれば、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との境界部位の一部に、残渣や未燃焼部分が残るような焼失態様であってもよい。
【0016】
そして、本発明のインフレーターでは、第1ガス発生剤若しくは第2ガス発生剤の少なくとも一方を、燃焼可能なカバー材により覆って、燃焼室内に充填し、カバー材における第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との境界部位を、区画壁として、利用してもよい。このような構成では、錠剤等の形状からなる第1ガス発生剤や第2ガス発生剤を、カバー材に包ませて、一塊のブロックとして取り扱えることから、第1ガス発生剤や第2ガス発生剤の取り扱いが便利となり、簡便に、インフレーターを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態であるインフレーターの概略縦断面図である。
【図2】図1に示す実施形態のインフレーターと、比較例のインフレーターと、のタンク内圧試験の結果を示すグラフ図である。
【図3】図1に示す実施形態のインフレーターと、他の比較例のインフレーターと、のタンク内圧試験の結果を示すグラフ図である。
【図4】他の実施形態のインフレーターに使用する第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とをそれぞれカバー材によって包んだ状態を示す斜視図である。
【図5】図4に示したカバー材により包んだ第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とを充填したインフレーターの概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、外形形状を略円板状としたディスクタイプのものを例に採り説明するが、本発明を適用可能なインフレーターは、ディスクタイプのものに限られるものではなく、外形形状を略円柱状としたシリンダタイプのものに適用してもよい。
【0019】
実施形態のインフレーター1は、図1に示すように、略円柱状の本体部3と、本体部3内に配設される点火装置10と、本体部3と点火装置10とに囲まれた空間から構成される燃焼室14と、燃焼室14内に充填される第1ガス発生剤19及び第2ガス発生剤20と、から、構成されている。なお、実施形態では、本体部3の軸方向に沿った方向を上下方向とし、本体部3における天井壁部5側を上方とし、底壁部6側を下方として、説明をする。
【0020】
本体部3は、ステンレス鋼等の鋼板を用いて形成されるもので、略円筒状の周壁部4と、周壁部4における軸方向の両端側を塞ぐ略円形の天井壁部5及び底壁部6と、を有している。周壁部4における上下方向の中央よりやや下方側(底壁部6側)には、略円環状のフランジ部4aが、外周面から突設されている。また、周壁部4における天井壁部5側であって、フランジ部4aと天井壁部5との間の部位には、略円形に開口したガス吐出口4bが、周方向に沿った全域にわたって多数配設されている。これらのガス吐出口4bは、第1ガス発生剤19及び第2ガス発生剤20が燃焼して発生した膨張用ガスを外部へ吐出させる部位となる。本体部3の中央付近には、軸方向を本体部3の中心軸に沿わせた略円筒状のカバー部7が、形成されている。このカバー部7は、本体部3内において、天井壁部5と底壁部6とを連結して、点火装置10の外周側を略全面にわたって覆っている。カバー部7には、点火装置10の後述する伝火薬11の外周側を覆う天井壁部5側の部位に、連通孔7aが、開口している。連通孔7aは、伝火薬11の燃焼によって生じる火炎を、燃焼室14内に伝播させる開口であり、カバー部7の周方向に沿って複数個、形成されている。また、本体部3における周壁部4の内周側には、金網等からなる略円筒状のフィルタ8が、周壁部4の内周側を略全面にわたって覆うように、周壁部4に隣接して、配設されている。このフィルタ8は、第1ガス発生剤19及び第2ガス発生剤20が燃焼して発生する膨張用ガスに含まれる残渣を除去するとともに、この膨張用ガスを冷却するためのものである。
【0021】
点火装置10は、図1に示すように、本体部3の中央におけるカバー部7内に収納されるように、本体部3の中心軸に沿って配設されている。そして、点火装置10は、カバー部7内における天井壁部5側に充填される伝火薬11と、底壁部6側に保持されて伝火薬11を着火させるように作動可能なイニシエータ12と、を備えている。伝火薬11は、イニシエータ12の作動により着火されて燃焼し、火炎を発生させるものである。この伝火薬11の火炎は、カバー部7に形成される連通孔7aを介して、燃焼室14の後述する上側室15内に伝播することにより、上側室15内に充填された第1ガス発生剤19を着火させて燃焼させることとなる。
【0022】
燃焼室14は、図1に示すように、本体部3と点火装置10とに囲まれた空間、詳細に説明すれば、本体部3における天井壁部5、底壁部6、及び、カバー部7と、フィルタ8と、によって囲まれる空間から構成されている。この燃焼室14は、実施形態の場合、略ドーナッツ板状(略円環状の板状)の区画壁17によって、天井壁部5側の上側室15と、底壁部6側の下側室16と、の上下2室に区画されている。そして、実施形態のインフレーター1では、カバー部7に設けられた連通孔7aによって点火装置10側と連通される上側室15内に、第1ガス発生剤19が充填され、カバー部7によって点火装置10と区画されている下側室16内に、第2ガス発生剤20が充填されている。第1ガス発生剤19は、第2ガス発生剤20より、燃焼速度を速くし、第2ガス発生剤20は、第1ガス発生剤19より燃焼速度を遅くするように、設定されている。燃焼室14を上側室15と下側室16とに区画する区画壁17は、第1ガス発生剤19に点火する点火装置10の点火エリアから、離れた位置に、配設されて、そして、点火装置10の点火エリアとの間に、第1ガス発生剤19を介在させている。具体的には、実施形態の場合、区画壁17は、カバー部7の連通孔7aとの間に、第1ガス発生剤19を介在させ、かつ、カバー部7の連通孔7aから離れた位置に、配置されて、そして、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とを区画するように、燃焼室14を上側室15と下側室16とに区画している。すなわち、区画壁17は、点火装置10の作動時に、伝火薬11の燃焼して発生する火炎が、第2ガス発生剤20を直接着火することを、防止するように、配設されている。また、区画壁17は、第1ガス発生剤19の燃焼時に発生する火炎を、略全面にわたって、第2ガス発生剤20側に伝播可能な構成とされるものである。詳細には、区画壁17は、第1ガス発生剤19の燃焼時に発生する火炎により引火する金属膜から、構成されている。実施形態の場合、区画壁17は、本体部3と別体とされて、厚さ50μmのアルミニウム製の膜(アルミ箔)から形成されている。
【0023】
なお、区画壁17を構成するアルミニウム製の膜は、破損せず、かつ、焼失させる観点から、10μm〜250μmの範囲内に設定されるものを、使用することが好ましい。
【0024】
また、上側室15は、充填した第1ガス発生剤19を第2ガス発生剤20よりも先に燃焼させることから、先燃焼充填室とし、第2ガス発生剤20を充填した下側室16は、後燃焼充填室として説明してもよい。
【0025】
そして、実施形態のインフレーター1では、点火装置10の作動時に、伝火薬11が燃焼して発生する火炎により、第1ガス発生剤19が着火されて燃焼し、第1ガス発生剤19の燃焼時の火炎により、区画壁17が焼失されると同時に、第2ガス発生剤20が着火されて燃焼することとなる。
【0026】
第1ガス発生剤19及び第2ガス発生剤20は、所定の燃料を結合剤等とともに混合して、所定形状に成形されたものを使用しており、それぞれ、燃焼室14における上側室15内と下側室16内とに充填されている。第1ガス発生剤19及び第2ガス発生剤20は、通常のインフレーターにおいてガス発生剤として用いられている非アジ化系のガス発生剤を使用することができ、具体的には、グアニジン系、アミノテトラゾール系、トリアジン系、ヒドラジン系、トリアゾール系、アゾジカルボンアミド系、ビテトラゾール系等のものを使用することができる。
【0027】
そして、実施形態の場合、第1ガス発生剤19は、燃焼速度を速く設定され、第2ガス発生剤20は、第1ガス発生剤19と比較して燃焼速度を遅く設定されている。第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とは、異なる組成物から成形したり、あるいは、同一の組成物を、比表面積を異ならせるように外形形状を異ならせて成形することにより、燃焼速度を異ならせることができる。組成物の差異により第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との燃焼速度を異ならせる場合、単に、第1ガス発生剤19を、第2ガス発生剤20より燃焼速度の速い組成物から成形すればよい。また、比表面積は、各ガス発生剤の単位体積あたりの表面積であり、ガス発生剤において、比表面積が大きければ、燃焼時に酸素と接触する面積が大きくなることから、速く燃焼する(速く燃え尽きる)こととなる。そのため、比表面積の差異により第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との燃焼速度を異ならせる場合、第2ガス発生剤20の外形形状を、比表面積を第1ガス発生剤19の比表面積よりも小さくするように、成形すればよい。このような燃焼速度の設定は、組成物の変更若しくは外形形状の変更のどちらか一方により行なってもよく、両者を組み合わせて行なってもよい。例えば、第2ガス発生剤20を、第1ガス発生剤19より燃焼速度の遅い組成物から成形し、さらに、外形形状を、第1ガス発生剤19の外形形状と比較して、比表面積を小さくするように、成形すれば、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との燃焼速度を大きく異ならせることができる。
【0028】
具体的には、実施形態のインフレーター1では、第1ガス発生剤19として、グアニジン系の組成物から成形されて、外形形状を、直径2.0mmで長さ6.5mmの略円柱形状(比表面積は、2.31mm2/mm3程度)としたものが、使用されている。第2ガス発生剤20としては、アミノテトラゾール系の組成物から成形されて、外形形状を、直径10.0mmで厚さ3.2mmの略円板状(比表面積は、1.03mm2/mm3程度)としたものが、使用されている。
【0029】
なお、実施形態の場合、ガス発生剤の燃焼速度は、タンク内燃焼試験を基準としている。具体的には、ガス発生剤の燃焼速度は、重量を同一とした各ガス発生剤を単体で充填させたインフレーターを、それぞれ、所定容積の金属製のタンク内に固定して、作動させ、タンク内圧を測定した際の、タンク内圧のピーク値及びその到達時間により、判断している。このタンク内圧は、ガス発生剤の燃焼完了時に、ピーク値に到達するものであり、本発明では、このピーク値への到達時間が速いものを、燃焼速度が速いと規定している。
【0030】
実施形態のインフレーター1では、エアバッグ装置とともに車両に搭載された状態で、図示しないリード線を経て、制御装置からの作動信号が入力されると、点火装置10のイニシエータ12が、伝火薬11を燃焼させるように作動する。この伝火薬11の火炎が、カバー部7に形成される連通孔7aを介して燃焼室14内に伝播して、燃焼室14内に充填される第1ガス発生剤19及び第2ガス発生剤20を、順次、燃焼させることとなる。そして、第1ガス発生剤19及び第2ガス発生剤20が燃焼して形成される膨張用ガスが、ガス吐出口4bから、インフレーター1外へ流出して、エアバッグ装置のエアバッグを膨張させることとなる。
【0031】
そして、実施形態のインフレーター1では、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とを区画する位置に配置される区画壁17が、点火装置10の点火エリア(カバー部7の連通孔7a)から離れた位置に配置されている。そのため、点火装置10の作動時に、第2ガス発生剤20が点火されることはなく、点火装置10が作動すれば、まず、点火装置10側の領域に充填される第1ガス発生剤19が、点火されて燃焼し、膨張用ガスを発生することとなる。その後、第1ガス発生剤19の燃焼時に発生する火炎が、区画壁17を介して第2ガス発生剤20側に、伝播され、第2ガス発生剤20が点火されて燃焼し、膨張用ガスを発生することとなる。
【0032】
この時、実施形態のインフレーター1では、点火装置10側に充填される第1ガス発生剤19が、燃焼速度を速く設定されていることから、点火装置10が作動すれば、瞬時に燃焼することとなる。また、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とを区画している区画壁17は、第1ガス発生剤19の燃焼時に発生する火炎により、引火し、燃えて焼失する。すなわち、区画壁17は、焼失して、略全面にわたって、第1ガス発生剤19の火炎を、第2ガス発生剤20側に伝播可能な構成とされている。そのため、第1ガス発生剤19が燃焼すれば、発生する火炎が、瞬時に、区画壁17の全面を介して第2ガス発生剤20に伝播されて、第2ガス発生剤20が、区画壁17と接している領域の略全面にわたって、第1ガス発生剤19の燃焼開始から大きく遅れることなく、燃焼を開始することとなる。具体的には、実施形態のインフレーター1では、区画壁17は、第1ガス発生剤19の燃焼時に発生する火炎により燃焼するアルミニウム製の膜から構成されていることから、第1ガス発生剤19の燃焼時に焼失して、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とを接触させるような態様となる。その結果、第1ガス発生剤19の燃焼によって発生する火炎が、区画壁17の焼失した領域の全面にわたって、第2ガス発生剤20側に伝播されることとなる。
【0033】
以上のように、実施形態のインフレーター1では、点火装置10の作動時に、まず、燃焼速度の速い第1ガス発生剤19のみを燃焼させることができ、その後、第1ガス発生剤19の燃焼によって生ずる火炎を、迅速に広い範囲で第2ガス発生剤20に伝播させることができる。そのため、実施形態のインフレーター1では、第1ガス発生剤19の燃焼開始から大きく遅れることなく、多量の第2ガス発生剤20を燃焼させることができて、点火装置10の作動直後に、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との燃焼により、膨張用ガスの十分な吐出量を確保することができる。また、この第2ガス発生剤20は、燃焼速度を、第1ガス発生剤19より遅く設定されていることから、第1ガス発生剤19の燃焼完了後にも、その後の第2ガス発生剤20の燃焼によって、膨張用ガスの吐出時間を長く維持することができる。なお、点火装置10の作動直後の膨張用ガスの十分な吐出量の確保と、膨張用ガスの吐出時間の長時間維持と、を、バランスよく両立させることを考慮すれば、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との充填比率は、3:7〜7:3の範囲内に設定することが好ましい。
【0034】
さらに、実施形態のインフレーター1では、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とが、区画壁17によって、相互に混合されることなく、区画された状態を維持して燃焼室14内に充填されている。そのため、実施形態のインフレーター1では、安定した燃焼状態、すなわち、点火装置10により、第1ガス発生剤19が点火され、ついで、第1ガス発生剤19の燃焼時の火炎により、第2ガス発生剤20が点火される状態を維持できることから、インフレーター1毎の作動のばらつきを抑えて、安定した作動性能を確保することができる。
【0035】
さらに、実施形態のインフレーター1では、区画壁17が燃焼することから、燃焼しない板金等により区画壁を形成する場合に比べて、第1ガス発生剤19や第2ガス発生剤20が燃焼して発生する膨張用ガスを、冷却させず、逆に、昇温若しくは保温できるため、膨張用ガスの圧力低下を防止できる。ちなみに、区画壁に、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との混合を防止でき、かつ、第1ガス発生剤19の火炎を第2ガス発生剤20側に伝播できるような連通口を設けて、区画壁を焼失しない材料から形成することが考えられる。しかし、このような構成では、その区画壁は、燃焼せず、第1ガス発生剤19や第2ガス発生剤20の燃焼によって発生する膨張用ガスを冷却させ、膨張用ガスの圧力を低下させて、インフレーターの出力を低下させてしまうことから、好ましくない。
【0036】
したがって、実施形態のインフレーター1では、安定した作動性能を確保することができて、作動開始直後に、膨張用ガスの十分な吐出量を確保することができ、かつ、膨張用ガスの吐出時間を長く維持することができる。
【0037】
そのため、実施形態のインフレーター1をエアバッグ装置に使用した場合、エアバッグを、迅速に膨張させることができると同時に、膨張時の内圧を長時間保持することができる。
【0038】
なお、実施形態のインフレーター1では、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とを区画する区画壁17として、第1ガス発生剤19の燃焼時に発生する火炎によって焼失するアルミニウム膜から構成されるものを使用しているが、第1ガス発生剤19の燃焼時に焼失する区画壁の形成材料は、これに限られるものではなく、例えば、区画壁を、第1ガス発生剤19の燃焼時に燃焼可能なマグネシウム等の他の金属膜(金属箔)、熱可塑性樹脂、紙等から、構成してもよい。
【0039】
また、第1ガス発生剤19の燃焼時の火炎によって区画壁17が焼失する態様は、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との境界部位の全域において、奇麗に焼失する場合に限られること無く、第1ガス発生剤19の燃焼時の火炎が、境界部位の略全域から、迅速に第2ガス発生剤20に伝播して、第2ガス発生剤20を燃焼させることができれば、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との境界部位の一部に、残渣や未燃焼部分が残るような焼失態様であってもよい。
【0040】
さらに、実施形態のインフレーター1では、略ドーナッツ板状の区画壁17によって、燃焼室14を上側室15と下側室16とに区画し、上側室15内に第1ガス発生剤19を充填させ、下側室16内に第2ガス発生剤20を充填させている構成であるが、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とを区画する区画壁の形状は、これに限られるものではない。例えば、図4,5に示すインフレーター1Aの第1ガス発生剤19や第2ガス発生剤20のように構成してもよい。このインフレーター1Aでは、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とが、ともに、燃焼可能なカバー材27に包まれて、それぞれ、ブロック29,30に形成されて、ブロック29,30の状態で、燃焼室14内に充填されている。そして、カバー材27における第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との境界部位、すなわち、ブロック29におけるカバー材27の底壁部29bと、ブロック30におけるカバー材29の天井壁部30aとが、二枚重ねとして、区画壁17Aを構成している。このような構成では、錠剤等の形状からなる第1ガス発生剤19や第2ガス発生剤20を、カバー材27により包んで、一塊のブロック29,30として取り扱えることから、第1ガス発生剤19や第2ガス発生剤20の取り扱いが便利となり、簡便に、インフレーター1Aを製造することができる。
【0041】
なお、カバー材27としては、シート状のものを準備して、第1ガス発生剤19や第2ガス発生剤20をそのシートの上に載せて、折ったり、ラッピングしつつ、第1ガス発生剤19や第2ガス発生剤20を包んだり、あるいは、燃焼室14内に充填できる形のケース状のカバー材27を準備して、その中に、第1ガス発生剤19や第2ガス発生剤20を充填させて、それらの第1ガス発生剤19や第2ガス発生剤20を、ケース状のカバー材27により包ませたりして、カバー材27ごと、第1ガス発生剤19や第2ガス発生剤20を、燃焼室14内に充填すればよい。
【0042】
また、図例のインフレーター1Aでは、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とを、ともに、カバー材27によって包んだ場合を示したが、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とのどちらか一方だけを包んでもでもよい。
【0043】
さらに、カバー材27は、第1ガス発生剤19の燃焼時の火炎で引火して焼失する必要があるが、点火装置10と第1ガス発生剤19との間に介在されて、第1ガス発生剤19を包む場合には、点火装置10の伝火薬11の燃焼時の火炎でも、カバー材27が燃えて焼失することが必要となる。但し、カバー材27が伝火薬11の火炎では燃え難い場合には、図4の二点鎖線に示すように、伝火薬11の火炎が、第1ガス発生剤19に直接伝播できるように、カバー材27に開口27aを設けて対処すればよい。
【0044】
さらに、他の構成としては、区画壁を、内部に第2ガス発生剤を充填させた略箱形状あるいは略袋形状として、その区画壁を、第1ガス発生剤を充填させた燃焼室内に収納させる構成としてもよい。このような形状の区画壁を使用する場合、区画壁自体を、第1ガス発生剤を介在させて、点火装置の点火エリアから離すように、伝火薬の近傍、すなわち、カバー部の連通孔に接触させないように、燃焼室内に収納させる必要がある。そして、この点に留意すれば、上記の他、区画壁の配置位置や形状は任意に設定することができる。
【0045】
次に、実施形態のインフレーター1を使用した実施例1と、比較例としての複数のインフレーターと、について、それぞれ、作動時の出力を測定した結果を、図2のグラフに示す。実施例1のインフレーター1は、点火装置10側となる上側室15内に、グアニジン系の組成物から成形されて、直径2.0mmで長さ6.5mmの略円柱形状の第1ガス発生剤19(比表面積は、2.31mm2/mm3程度)を、22g充填させ、下側室16内に、アミノテトラゾール系の組成物から形成されて、直径10.0mmで厚さ3.2mmの略円板状の第2ガス発生剤20(比表面積は、1.03mm2/mm3程度)を、26g充填させた構成のものである(第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との充填比率は、重量比で略6:7)。この実施例1のインフレーター1において、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との間(上側室15と下側室16との間)は、第1ガス発生剤19の燃焼時の火炎により引火して焼失する厚さ50μmのアルミニウム製の膜からなる区画壁17により、区画されている。比較例1のインフレーターは、ガス発生剤として、実施例1に使用される第1ガス発生剤のみを、燃焼室内に48g充填させた構成のものである。比較例2のインフレーターは、ガス発生剤として、実施例1に使用される第2ガス発生剤のみを、燃焼室内に48g充填させた構成のものである。比較例3のインフレーターは、ガス発生剤として、第1ガス発生剤と同一の組成であるグアニジン系の組成物から成形されて、直径3.0mmで長さ6.5mmの略円柱形状のガス発生剤(以下「第3ガス発生剤」とする)(比表面積は、1.64mm2/mm3程度)のみを、燃焼室内に48g充填させた構成のものである。すなわち、実施例1及び比較例1〜3のインフレーターは、ガス発生剤の重量を同一として、それぞれ、48gのガス発生剤を、内部に充填させている。
【0046】
図2のグラフは、これらの実施例1及び比較例1〜3のインフレーターを、内容積60Lのステンレス鋼製のタンク内に、それぞれ、固定し、作動させて、タンク内圧の軌跡を測定したものである。図2では、各実施例1及び比較例1〜3のインフレーターにおける内圧ピーク値への到達地点を、「▼」で示している。これらの各実施例1及び比較例1〜3のグラフの内圧ピーク値への到達時間は、ガス発生剤の燃焼完了時を示すものであり、それぞれ、第1,第2,第3ガス発生剤を単体で充填させている比較例1〜3のインフレーターでは、比較例1が内圧ピーク値への到達時間が最も早く、比較例3が内圧ピーク値への到達時間がもっとも遅いことから、第1,第2,第3ガス発生剤において、第1ガス発生剤が最も燃焼速度が速く、第2ガス発生剤の燃焼速度を中間として、第3ガス発生剤が最も燃焼速度が遅いと推測できる。
【0047】
そして、実施例1のインフレーターと、比較例1及び2のインフレーターと、を比較してみれば、実施例1のインフレーターは、作動初期のタンク内圧曲線の立ち上がり(傾き)を、第1ガス発生剤のみを充填させた比較例1のインフレーターと略一致させるとともに、作動開始から所定時間経過後のグラフの曲線形状を、第2ガス発生剤のみを充填させた比較例2のインフレーターの描く曲線形状と略相似系として、滑らかな上昇曲線を描くとともに、内圧ピーク値への到達時間を、比較例2のインフレーターと略一致させている。すなわち、実施例1のインフレーターでは、点火装置の作動時に、まず、第1ガス発生剤が燃焼し、タンク内の圧力を上昇させることとなるが、その後、区画壁の焼失により、第1ガス発生剤の燃焼時に発生する火炎が、広い領域で迅速に、第2ガス発生剤側に伝播されて、第2ガス発生剤が、燃焼することとなる。そして、実施例1のインフレーターでは、タンク内圧力が、滑らかな上昇曲線を描いていることから、区画壁は、第1ガス発生剤が燃焼完了する前に、焼失して、広い領域で火炎が伝播され、多量の第2ガス発生剤が、燃焼を開始していると推測される。そして、実施例1のインフレーターでは、第1ガス発生剤の燃焼完了後に、燃焼速度の遅い第2ガス発生剤が燃焼し続けることとなって、内圧ピーク値までの到達時間は、燃焼速度の遅いガス発生剤のみを充填させた比較例2のインフレーターと略一致することとなり、膨張用ガスの吐出時間を長く維持することができる。
【0048】
その結果、実施例1のインフレーターでは、作動開始直後に、膨張用ガスの十分な吐出量を確保することができ、かつ、膨張用ガスの吐出時間を長く維持することができる。なお、比較例2のインフレーターは、そのタンク内圧曲線から見れば、実施例1のインフレーター1より、内圧値を急激に上昇させ、その後、その内圧値を長く維持できて、エアバッグ装置での使用時、エアバッグが、膨張初期から内圧を高くでき、かつ、膨張完了後にも、高い内圧を維持できて、エアバッグ装置に好適と推測される。しかし、実際には、比較例2のタンク内圧曲線のインフレーターでは、作動当初の内圧値の上昇が急激過ぎて、折り畳まれたエアバッグの展開膨張時に、エアバッグが破損する虞れが生じ、好ましくない。
【0049】
そして、このようなインフレーターの作動初期における内圧曲線の立ち上がり(作動初期の膨張用ガスの吐出量)や、内圧ピーク値までの到達時間は、第1ガス発生剤や第2ガス発生剤の種類、外形形状(比表面積)を適宜選択し、組み合わせることにより、適宜、変更することができる。実施例1のインフレーターでは、燃焼速度が速い(燃焼完了までの時間が短い)第1ガス発生剤と、燃焼完了までの時間が第1ガス発生剤と比較して長く(燃焼速度が遅く)、かつ、燃焼時において単位時間当たりの膨張用ガスの発生量が第1ガス発生剤と比較して多い第2ガス発生剤と、を、組み合わせて使用していることから、第1ガス発生剤の燃焼完了後にも、第2ガス発生剤の燃焼により、内圧をさらに上昇させつつ、高い内圧を長時間保持できているものと推測することができる。
【0050】
さらに、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との混合状態の差によって、インフレーターの作動時の出力が、どのように相違するかを測定した結果を、図3のグラフに示す。実施例1のインフレーター1は、上記のものと同様であり、比較例4,5は、インフレーター1と、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との充填方法だけが相違している。すなわち、比較例4は、区画壁を設けずに、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とを均一に混合して、燃焼室内に充填したものである。比較例5は、区画壁を設けること無く、相互の混合を極力抑えて、燃焼室内に先に充填した第2ガス発生剤20の上方に、第1ガス発生剤19を載せるようにしたものである。そして、図3のグラフは、これらの実施例1及び比較例4,5のインフレーターを、上記と同様に、内容積60Lのステンレス鋼製のタンク内に、それぞれ、固定し、作動させて、タンク内圧の軌跡を測定したものである。
【0051】
図3のグラフから解るように、比較例4のインフレーターでは、内圧値が急激に上昇し、その後、下降するため、エアバッグの破損を招く虞れが生じて、好ましくない。また、比較例5のインフレーターでは、作動初期時の内圧値が低く、エアバッグが近接乗員を拘束する際、エアバッグが十分な内圧を確保できず、好ましくない。なお、比較例5は、実施例1のインフレーター1の構造と近似して、相互の混合を極力抑えて、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とが燃焼室内に充填されている。しかし、比較例5のインフレーターは、区画壁が無いことから、形状を小さくした第1ガス発生剤19が、形状の大きなガス発生剤20の並んだ隙間に入り込んで隠れてしまい、実施例1と相違して、第1ガス発生剤19の初期段階で燃焼する量自体が少なくなり、作動初期時の内圧値が低くなっている、と推定される。
【0052】
そして、この図3のグラフから解るように、区画壁が無いインフレーターでは、車両への搭載時の姿勢、搭載部位の傾斜、車両走行時の振動等により、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20との混合形態が、ばらついて安定せず、比較例4と比較例5とのグラフ図の間の範囲で、ランダムに、ばらついた出力特性となってしまう。これに対し、実施例1のインフレーター1では、区画壁17が焼失するまで、第1ガス発生剤19と第2ガス発生剤20とを混合させることが無く、そして、第1ガス発生剤19の燃焼に伴って、区画室17が焼失すれば、迅速に第2ガス発生剤20を燃焼させることができ、安定した出力特性を確保できることが解る。
【0053】
なお、実施例1のインフレーターでは、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤との2種類のガス発生剤を、充填させているが、本発明のインフレーターは、2種類のガス発生剤に限らず、3種類以上のガス発生剤を、それぞれ、焼失可能な区画壁によって区画された領域に充填させる構成としてもよい。例えば、インフレーターとして、第2ガス発生剤よりさらに燃焼速度の遅い第3ガス発生剤を、第1ガス発生剤と第2ガス発生剤とに加えて、それぞれ、区画壁によって区画された領域に充填させる構成とする場合、内圧ピーク値までの到達時間を一層遅くすることができると推測できる。
【符号の説明】
【0054】
1,1A…インフレーター、
10…点火装置、
14…燃焼室、
17,17A…区画壁、
19…第1ガス発生剤、
20…第2ガス発生剤、
27…カバー材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室と、
該燃焼室内に配置される点火装置と、
前記燃焼室内に充填されて、前記点火装置の点火により、膨張用ガスを発生させるように燃焼する第1ガス発生剤と、
前記点火装置の点火エリアとの間に前記第1ガス発生剤を介在させて、前記点火装置の点火エリアから離れた位置の前記燃焼室内に充填されるとともに、前記第1ガス発生剤より遅い燃焼速度として、前記第1ガス発生剤の火炎の伝播により、膨張用ガスを発生させるように燃焼する第2ガス発生剤と、
前記燃焼室内に充填された前記第1ガス発生剤と前記第2ガス発生剤との混合を防止可能に、前記第1ガス発生剤と前記第2ガス発生剤とを区画するように配設されるとともに、前記第1ガス発生剤の燃焼時に引火されて焼失し、前記第1ガス発生剤の燃焼時に発生する火炎を、前記第1ガス発生剤と前記第2ガス発生剤との境界部位の略全面を経て、前記第2ガス発生剤側に伝播可能な区画壁と、
を備えて構成されていることを特徴とするインフレーター。
【請求項2】
前記第1ガス発生剤若しくは前記第2ガス発生剤の少なくとも一方が、燃焼可能なカバー材に包まれて、前記燃焼室内に充填され、
前記カバー材における前記第1ガス発生剤と前記第2ガス発生剤との境界部位が、前記区画壁を構成していることを特徴とする請求項1に記載のインフレーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−247817(P2010−247817A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21448(P2010−21448)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】