説明

インプラントの親水化および骨親和化表面の再生方法

【課題】 インプラントの経時変化表面の検査方法と、インプラントの親水化および骨親和化表面の再生方法および再生キットとを提供すること。
【課題を解決するための手段】 本発明は、インプラントの表面の疎水性および骨親和性の低下を計測する工程と、インプラントの表面が疎水化および骨親和化の低下を示すとき、経時変化表面を指摘する工程と、疎水化および骨親和化の低下を有する表面を実質的に破壊する工程と、インプラントから疎水化および骨親和化の低下を有する表面を除去し、または、表面の物理化学的性質を変える工程とを含む方法を提供し、さらに、経時変化したインプラントを検査し、前記インプラント上に、親水化および骨親和化した表面を再生するキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、医療用として用いられる親水化および骨親和化の金属製インプラントの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腿顎骨折および脊椎融合などの骨格の欠陥または外傷の再生は、一般的に行われている処置である。例えば、米国で行われる股関節部のプロテーゼ移植および脊椎融合手術の件数は、それぞれ、年間500,000件および250,000件を超える。一方で、米国内の約7400万人すなわち米国内の成人人口の約30%は、喪失した奥歯の少なくとも4分の1を修復する必要がある。
【0003】
チタンなどの一部の金属材料は、生体親和性物質であることが証明されている。これらを喪失歯の代替物としたり、疾患を有する骨、折れた骨、移植した骨などの治療に用いたりすることは、標準的な治療方法である。チタン製インプラントなどの歯科インプラントを用いて喪失歯の再生治療を行うことは、口腔の健康に重大な影響を及ぼしており、従来の着脱可能な人工歯による治療法と比較すると、咀嚼機能(Carlsson GE, Lindquist LW, Int. J. Prosthodont 7(5):448-53 (1994); Geertman MEら, Community Dent Oral Epidemiol 24(l):79-84 (1996); Pera Pら, J Oral Rehabil 25(6):462-7 (1998); van Kampen FMら, J Dent Res 83(9):708-l 1 (2004))、発話能力(Heydecke Gら, J Dent Res 83(3):236-40 (2004))、日々の動作、生活の質(Melas F ら, Int J Oral Maxillofac Implants 16(5):700-12 (2001))を向上させている。癌や負傷に起因する顔面欠陥の治療では、プロテーゼを保持するために、骨内インプラントが必須である(Roumanas ED ら, Lit J Prosthodont 15(4): 325-32 (2002))。しかし、これらの分野においてインプラント治療を施すことは、依然として制限されている。それは、解剖学上、ホスト骨(van Steenberghe Dら, Clin Oral Implants Res 13(6):617-22 (2002))の質、糖尿病(Nevins ML, Int J Oral Maxillofac Implants 13(5):620-9 (1998); Takeshita F ら, J Periodontal 69(3):314-20 (1998))を含む全身機能、骨粗鬆症(Ozawa S ら, Bone 30(1): 137-43 (2002))、経時変化(Takeshita F ら, J Biomed Mater Res 34(l):l-8 (1997))などを含む様々なリスク要因が存在するからである。さらに重要なことは、チタン製インプラントが周囲の骨と一体化するまで長い(およそ4〜10ヶ月)治療期間が必要なので、この有益な治療の適用を制限していることである。例えば、米国における歯科インプラント治療は、潜在患者の2%にしか浸透していない。
【0004】
整形外科の分野において、大腿顎骨折や脊椎融合などの再生は、広く知られた問題の一つである。例えば、年間250,000件を超える米国内で脊椎融合手術を受ける患者のうち、約30%以上は失敗に終わり、硬質な骨ばった結合を得ることができない。これらの部位の骨折には、その性質および場所から、より良い治療を施すための骨の固定装置(キャストやスプリントなど)を使用することができない。
【0005】
チタン製インプラントの必要性が高まる一方で、成功しなかったインプラント移植の正確な割合は、例えば整形外科の分野において5〜40%に及ぶこと、特に歯科の分野において、インプラントの適用に制限があること、インプラントの治療期間が長いことは、当面の課題である。その上にインプラント移植は、骨粗鬆症および代謝の老化など、しばしば骨の再生能力に障害をもたらすので、骨とチタンとを一体化させるという生物学上の要求に答えることが困難である。(例えば、Ozawa, S. ら,Bone 30, 137-43 (2002); Zhang, H., ら,; J Orthop Res 22, 30-8 (2004); Takeshita, F., ら, J Biomed Mater Res 34, 1-8 (1997); and Yamazaki, M. ら, Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 87, 411-8 (1999) 参照)
【0006】
新たに準備したチタンの表面は親水化していることが知られているが、一方で、空気やその他の液体に長期間暴露されたチタンの表面は、疎水化していることが知られている。これは、チタンの表面に炭素や炭化水素の不純物が吸着し、水和性表面を変化させていると推測できる。前記不純物は、空気およびメタノールやアセトンなどの様々な清浄化溶液から吸収されて、前記チタンの表面に吸着する。しかし、良いインプラントには必須の骨伝導能力と、インプラントの親水性の変化との関連性は未知であり、前記骨伝導能力は親水性が失われると減衰している可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記より、インプラントの経時変化を検査する必要がある。また、金属製インプラントの親水化および骨親和化表面の再生方法も必要である。以下に示す実施形態は、上記問題および必要性について述べる。
【0008】
本発明は、インプラント表面の疎水性および骨伝導能力(骨親和性)の低下により特徴づけられるインプラント(金属製インプラントなど)の経時変化の検査方法と、インプラントの親水化および骨親和化表面の再生方法とを提供する。疎水性および/または骨親和性が低下した表面(経時変化したインプラント)と比較して、親水化および/または骨親和化表面は、生体組織と一体化する(骨伝導)能力が高い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の方法は、インプラント表面の疎水性および骨親和性の低下を計測し、疎水化および骨親和化の低下した表面を示すとき、経時変化表面を指摘することを含む。本発明はさらに、疎水化および骨親和化が低下した表面を有する経時変化したインプラント表面の親水性および骨親和性の再生方法を提供する。前記方法は、疎水化および骨親和化が低下した表面を実質的に破壊し、インプラントから疎水化および骨親和化が低下した表面を除去する、または、表面の物理化学的な性質を変化させることを含む。
【0010】
経時変化したインプラントを検査するキットおよびインプラント表面の親水化および骨親和化を再生するキットをも提供する。
【0011】
図1Aは、サンドブラスト処理後すぐの新しいチタン製表面と、サンドブラスト処理後2週間経過したチタン製表面と、機械加工したチタン製表面との比較図。
図1Bは、酸エッチングしたチタン製表面の親水性の経時減衰を示す図。
図1Cは、機械加工したチタン製表面の親水性の経時減衰を示す図。
図2Aは、サンドブラスト処理後、新たに準備したチタン製表面と、サンドブラスト処理後、経時変化した表面の上における、造骨細胞の細胞増殖を示した図。
図2Bは、酸エッチングした後、新たに準備したチタン製表面と、酸エッチングした後、経時変化した表面の上における、造骨細胞の細胞増殖を示した図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、インプラントの表面の疎水性および低下した骨伝導能力(骨親和性)によって特徴づけられる経時変化したインプラント(金属製インプラントなど)の検査方法と、インプラントの親水化および骨親和化表面の再生方法とを提供する。疎水性インプラント(経時変化したインプラント)と比較して、親水性表面を有するインプラントは、生体組織と一体化する能力(骨伝導性)が高い(速くて、強い)。
【0013】
本発明は、インプラントの表面の疎水性および骨親和性の低下を計測する工程と、インプラントの表面が疎水化および骨親和化の低下を示すとき、経時変化表面を指摘する工程を含む。本発明はまた、経時変化したインプラントの表面であって、疎水化および骨親和化の低下を有する表面を、親水性および骨親和性に再生する方法を提供する。前記方法は、疎水化および骨親和化の低下を有する表面を実質的に破壊する工程と、インプラントから疎水化および骨親和化の低下を有する表面を除去し、または、表面の物理化学的性質を変える工程とを含む。
【0014】
本発明はまた、経時変化したインプラントを検査し、前記インプラント上に、親水化および骨親和化した表面を再生するキットを提供する。前記キットは、自立型キットまたはインプラントと同梱されていても良い。
【0015】
本発明の「親水性」は、物質の性質を表し、インプラントの表面における親水性の度合いを規定する。疎水性と親水性とは相対語である。一般的に、表面の疎水性および親水性は、ヒルデブラント溶解パラメーターδを用いて測定する。「ヒルデブラント溶解パラメーター」は、物質の凝集エネルギー密度を示すパラメーターを指す。パラメーターδは、下記のように定義される。
δ=(ΔE/V)1/2
ここで、δは溶解パラメーター(cal/cm1/2で、
ΔEは、蒸発エネルギー(cal/mole)で、
Vは、モル体積(cm/mole)である。
【0016】
「生体組織と一体化する能力」とは、医療用インプラントが骨伝導作用により、生体の組織と一体化する能力を指す。インプラントの「生体組織と一体化する能力」は、一般的に、いくつかの要素により計測できる。その一つは、インプラントの表面の水和性であって、前記水和性は、インプラント表面の親水性/親油性(疎水性)または好血性を示す。親水性と親油性とは相対語で、水の接触角(Oshida Yら, J Master Science 3:306-312(1992))および水の広がった面積(岐阜高専オンラインテキストhttp://www.gifu-nct.ac.jp/elec/tokoro/fft/contact-angle.html)などにより計測できる。本発明のある目的として、本発明のインプラントの表面と、制御されたインプラントの表面との接触角または水の広がった面積を比較することで、親水性/親油性を計測することができる。本願に係る方法で処理されていないインプラントの表面と比較して、本願に係る方法で処理された医療用インプラントの表面は、接触角が実質的に小さい、または、水の広がり面積が実質的に広い。
【0017】
親水性および親油性表面に関する検査
ある態様において、本発明は、インプラントの経時変化を検査する方法を提供する。前記検査方法は(1)インプラントの親水性/骨親和性表面を計測する工程と、(2)インプラントが疎水化および骨親和化の低下した表面を示すときに経時表面変化を指摘する工程とを含む。
【0018】
ある実施形態では、水による表面の水和性によって、親水性を計測することができる。水和性は、上記で述べたように、表面上の水滴の接触角により計測することができる。接触角が計測されるところにおいて、角度が約30度より小さいまたは30度より大きいときには、各々、親水化または疎水化表面とみなされる。
【0019】
ある実施形態では、水和性は、接触角計測器、動的親水性テストおよび/または種々のイメージ分析に基づいた水和性の評価により計測することができる。さらに、インプラントの表面に含有されている炭素および炭化水素の含有量を計測することにより、親水性の程度を予測することができる。たとえば、炭素含有量が多いほど、疎水化が進行する。表面成分の量および種類は、X腺光電子分光法(XPS)により求めることができる。インプラントの表面に存在する反応性に富んだ酸素群または遊離基の量および種類は、電子スピン共鳴分光器により計測することができ、それらは、親水化の程度を評価するために用いても良い。水和性を計測する他の手段としては、インプラントが製造されてからの期間を計算し、親水性の基準となる回帰曲線に基づいて、親水性の程度を推測する方法がある。例えば、親水性とインプラントが製造されてからの期間とは、打ち消しあうように相関するので、基準となる回帰曲線を作成することができる。
【0020】
ある実施形態において、インプラントの骨親和性は、様々な方法および体外検査で培養を用いる評価制度であって、特に、骨芽細胞またはその他の骨形成細胞の細胞反応と細胞挙動とを含む評価制度により、計測することができる。前記評価は、細胞付着、細胞増殖率、細胞分化率、遺伝子発現率および遺伝子発現量、無機化率、表面への蛋白質付着/吸着、または、それらの組み合わせの評価の何れであっても良い。骨親和性もまた、様々な方法および生体内における評価制度であって、生体組織内のインプラント固定源の測定、骨形成の組織形態計測、骨形成のX線検査、または、それらの組み合わせを含む生体内の評価システムにより計測されても良い。
【0021】
ある実施形態においては、インプラントの骨親和性は、インプラントが製造されてからの期間と、イプラントの骨伝導能力との相関を示す曲線を用いて推測することができる。例えば、インプラントの骨伝導能力と、インプラントが製造されてからの期間とは、打ち消しあうように相関するので、いくつかの時点のデータに基づいて基準となる回帰曲線を作成することができ、それにより、時間経過によらず、どのようなインプラントであっても、その骨伝導能力を推測できる。
【0022】
ある実施形態において、本発明は、インプラントの時間経過の程度を検査するキットを提供する。前記キットは、検査剤と計測装置とを含む。前期検査剤は、好ましくは、水または生体不活性溶液であって、塩水、アルコール、グリセロールなどである。前記計測装置は、角度を計測するあらゆる装置であって、例えばイメージ解析に基づいた方法で、液滴の広がった面積の寸法計測または液滴の色または図面の鮮明度および明瞭度の評価など、接触角計測器、または、動的親水性テストなどがついていても良い。さらに、インプラントに表面吸着した炭素と反応する化学的指示薬の使用が、検査手段であっても良い。
【0023】
ある実施形態において、前記キットと前記インプラントとが、同梱されていても良く、別梱包されていても良い。
【0024】
親水化および骨親和化表面の再生方法
他の態様では、本発明は、インプラントの親水化および骨親和化表面の再生方法を提供する。前記方法は、インプラントを提供し、前記インプラントの表面を物理的工程、化学的工程、物理化学的工程、またはそれらの組み合わせにより処理する過程を含む。前記物理的工程は、サンドブラスト、機械加工、旋盤加工または鑢かけなどでもよい。前記サンドブラストは、限定されないが、酸化チタンや酸化アルミニウムなどの種々の粒子の吹き付けによる。前記化学的工程は、酸や塩基などのエッチング剤を含む溶剤によりインプラントをエッチングする工程と、インプラントを水洗して前記エッチング剤を除去する工程とを含む。前記物理化学的工程は、高エネルギーを持つ光でインプラントを処理して、炭素や炭化水素などの表面の不純物を溶かして除去する方法を含み、この方法は結果的に親水化および骨親和化表面を作り出す。
【0025】
ある実施形態では、本発明は、インプラントの親水化および骨親和化表面を再生するキットを提供する。前記キットは、経時変化した表面層をインプラントから除去する、または、経時変化したインプラント表面層を破壊することにより、親水化および骨親和化表面を再生することのできる装置を含む。ある実施形態では、前記装置は、粗面を有する部位を含む機械的装置である。前記粗面は、経時変化したインプラントの表面層を破壊し、インプラントから経時変化した表面を除去することもできる。ある実施形態において、前記装置は、サンドブラスト、鑢、旋盤であっても良い。
【0026】
ある実施形態において、インプラントの親水化および骨親和化表面を再生するキットは、エッチング剤を含む。前記エッチング剤は、経時変化した表面層をインプラントから除去したり、インプラントの経時変化した表面層を破壊したりするので、インプラントに親水化および骨親和化表面を再生することができる。他の実施形態では、前記エッチング剤は、酸または塩基であっても良い。前記エッチング剤のいくつかの典型的な例は、これらに限定されないが、クエン酸、燐酸、硫酸、塩酸、硝酸、ふっ酸およびそれらの組み合わせがなどである。
【0027】
ある実施形態では、親水化および骨親和化表面を再生するキットは紫外線などの高エネルギーを持つ光による処理を含んでおり、光化学触媒機能により、インプラント表面から表面不純物を除去する。
【0028】
ある実施形態では、キットがインプラントと共に提供されていても良く、または、別に包装されていても良い。
【0029】
インプラント
本発明の医療用インプラントは、現在医療で役立っているインプラントまたは将来導入されるインプラントの何れをも含む。インプラントは、金属製であっても、非金属性であっても良い。ある実施形態では、インプラントは金属製インプラントであっても良い。ある実施形態では、インプラントは非金属性であっても良い。前記非金属性インプラントの例としては、限定されないが、骨セメント製インプラント、メタクリル酸メチルやポリ乳酸などのポリマーを主材料としたインプラント、生体ガラス、セラミック、ジルコニウム製インプラントなどが含まれる。ある実施形態では、前記非金属性インプラントは、燐酸カルシウムやポリマー製インプラントなどを含む。有用なポリマー製インプラントは、何れの生体親和性インプラントであっても良くて、例えば、ポリマーまたはポリマー物質を含む生分解性ポリマーのインプラントなどである。代表的なセラミック製インプラントは、生体ガラスや二酸化ケイ素製のインプラントなどを含む。燐酸カルシウム製インプラントは、ヒドロキシアパタイト、燐酸三カルシウム(TCP)などを含む。代表的なポリマーは、ポリ乳酸とグリコール酸との共重合体(PLGA)、ポリメタクリル酸塩やポリアクリレートなどのポリアクリレート類、ポリ乳酸(PLA)、またはそれらの組み合わせを含む。ある実施形態において、本願で述べたインプラントから、上記物質の何れを除外しても良い。
【0030】
有用な金属製インプラントは、チタン製インプラントおよび非チタン製インプラントを含む。チタン製インプラントは、チタンまたはチタンを含む合金からなる歯や骨の代替物を含む。チタン製の骨の代替物は、ひじ継手、股関節用プロテーゼ、大腿顎骨の代替物、背骨の代替物および修復物、顎部の骨の代替物および修復物、顎骨の修復物、固定物、増強物、移植した骨の固定物、他の肢用プロテーゼなどを含む。チタンを含まない金属製インプラントは、金、プラチナ、タンタル、ニオブ、ニッケル、鉄、クロム、コバルト、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、パラジウム、それらの合金であってステンレス鋼など、または、それらの組み合わせからなる歯や骨のインプラントを含む。ある合金製インプラントは、限定されないが、チタン合金製インプラント、クロム-コバルト合金製インプラント、プラチナ合金製インプラント、ニッケル合金製インプラント、ステンレス鋼製インプラント、金合金製インプラント、アルミナ合金製インプラントを含む。
【0031】
本発明の医療用インプラントは、多孔性インプラントまたは非多孔性インプラントであっても良い。多孔性インプラントは、概して、組織との一体化が容易である一方、非多孔性インプラントはより強固な装置を有している。
【0032】
医療分野における利用
本発明の医療用インプラントは、哺乳類の被験者に前記医療用インプラントを移植することにより、歯または骨に関する医学的コンディションの徴候を、治療、予防、改良、差し替えまたは低減するために用いても良い。前記哺乳類の被験者は人間および犬、猫、馬、雌牛、雄牛または猿などの家畜動物であっても良い。
【0033】
本発明に係るインプラントを用いて治療または予防できる代表的な医学的条件は、これらに限定されないが、喪失歯、骨に関わる治療を必要とする状態であって、例えば、大腿頸骨折、歯科矯正固定のために必要な喪失歯など、あるいは、骨に関わる治療を必要とする状態であって、例えば、大腿顎骨折、頸骨折、手首の骨折、背骨の骨折/異常、脊椎の椎間板の異常など、あるいは、膝関節炎などの関節の断裂または変性、あるいは、癌、負傷、体系的な代謝、感染、老化またはそれらの組み合わせなどの異常や体調に起因する骨および他の生体組織の欠損または劣性を含む。
【0034】
本発明の実施形態は、以下の実施例と共に説明する。全てのパラメーターとデータとは、本発明の実施形態の範囲を不当に限定するものでは無い。
【0035】
実施例
チタンの骨伝導能力の経時減衰、チタンの経時検査およびチタン製インプラントの品質管理
【0036】
材料と方法
チタン製のサンプル
市販の純チタン(等級2)からなる円盤(直径20mm、厚さ1.5mm)を用いた。前記円盤の表面は、轆轤装置と、距離1cm、圧力3kg/mの下で50μmの酸化アルミニウム粒子による吹き付けと、HSOを用いた酸性エッチングとにより新たに準備した。
【0037】
疎水性検査
10μlの蒸留水を、物理的な接触無しで、静かにチタン表面の上に置き、ただちにデジタル写真を撮った。上面から見た水滴の面積として、広がった面積をデジタル分析器(Image Pro Plus, Media Cybernetics, Silver Spring, MD)により計測した。接触角θは、下記式により計算した。
式:θ=2tan−1(2h/d)
ここで、hおよびdは、側面から見た(Ohida, Y. ら, J Master Science 3, 306-312 (1992))水滴の高さおよび直径である。
【0038】
骨芽細胞の細胞培養
生後8週間の雄のSDラットの大腿骨から採取された骨髄細胞を、α変性されたイーグルの培地であって、15%の牛胎児血清と、50mg/mlのアスコルビン酸と、10−8Mのデキサメタゾンと、10mMのNa-β-グリセロリン酸エステルと、10000units/mlのペニシリンGナトリウム、10000mg/mlの硫酸ストレプトマイシン、25mg/mlのアムホテリシンBを含む抗生物質作用および抗真菌性を示す溶液とによって補足された培地に配置する。前記細胞は、95%の空気と5%の二酸化炭素からなる加湿された外気の中で培養した。80%の細胞密度に達したら、前記細胞を0.25%のトリプシン-1mM EDTA-4Naを用いて剥離し、機械加工されたチタンまたは酸エッチングされたチタン製の円盤上に、密度5×10cells/cmで接種する。前記培養用培地は、3日毎に新しいものと取り替えた。
【0039】
増殖検査
細胞増殖を調べるために、骨芽細胞を、ポリスチレン培養皿の上に置かれたチタン製円盤上で培養した。新たに準備した円盤と、準備をしてから各々異なる期間が経過した複数の円盤とを用いた。細胞は、PBSで2度、静かにすすぎ、300μl、0.25%のトリプシン-1mM EDTA-4Na中の0.1%のコラゲナーゼにより、15分間、37℃で処理した。分離した細胞の数を数えるために血球計算器を用いた。
【0040】
統計分析
分散分析(ANOVA)
新たに準備したチタン製の表面と、時間経過した表面との、水和性および細胞増殖の変動性の違いを調べるために、分散分析(ANOVA)を用いた;<0.05を統計的に重要とみなした。
【0041】
結果
新たなチタン製表面における超親水性と、その経時減衰
機械加工された表面にサンドブラスト処理をしたら、水和性が、疎水性から親水性へ変化した(図1A)。機械加工された表面にサンドブラスト処理後、10μlの水滴が広がった面積は13倍になった。サンドブラスト処理前の水の接触角は69.9度であったが、サンドブラスト処理後は2度まで急激に下がり、超親水性が生成されたことを示した。生成された超親水性領域は、その2週間後に、水滴が広がった面積に関する限り、50%まで減少した。前記接触角は、結果的に、時間経過と共に増加した。
【0042】
新たに酸エッチングされた表面および機械加工された表面もまた、超親水性領域を示したが、時間経過と共に消失した(図1BおよびC)。双方の表面は共に、4週間後には、初期段階で示した親水性領域が、疎水性へと変化した。
【0043】
経時変化チタンの上において、骨芽細胞の細胞増殖を低減する。
新たに準備したチタン製の表面は、異なる処理をした表面であっても、細胞増殖率が最も高かった。異なる処理をした表面であっても、細胞増殖は、時間経過と共に急激に減少した(P<0.0001)(図2Aおよび2B)。前記増殖は新たに準備した表面と比較すると、4週間経過した表面では約50%まで低減した。
【0044】
以上、本願特有の実施形態を示し、説明をしたが、広い概念において、本発明から逸脱することなく変更及び修正が可能であることは、本発明が属する技術分野で通常の知識を持つ者により、明確である。したがって、特許請求の範囲の追加はその範囲内で包含され、全ての変更や修正は、偽りの無い精神のもと、本発明の技術思想及び特許請求の範囲内でなされる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1A】図1Aは、サンドブラスト処理後すぐの新しいチタン製表面と、サンドブラスト処理後2週間経過したチタン製表面と、機械加工したチタン製表面との比較図。
【図1B】図1Bは、酸エッチングしたチタン製表面の親水性の経時減衰を示す図。
【図1C】図1Cは、機械加工したチタン製表面の親水性の経時減衰を示す図。
【図2A】図2Aは、サンドブラスト処理後、新たに準備したチタン製表面と、サンドブラスト処理後、経時変化した表面の上における、造骨細胞の細胞増殖を示した図。
【図2B】図2Bは、酸エッチングした後、新たに準備したチタン製表面と、酸エッチングした後、経時変化した表面の上における、造骨細胞の細胞増殖を示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラントの経時変化表面の検査方法において、
(1)インプラントの表面の疎水性および/または骨親和性の低下を計測する工程と、
(2)インプラントの表面が疎水化および/または骨親和化の低下を示すときに経時変化表面を指摘する工程とを含む検査方法。
【請求項2】
インプラントの表面の接触角が約30度を超えると、前記インプラントの表面が疎水化および/または骨親和化の低下とする、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記インプラントが金属製インプラントである、請求項1に記載の検査方法。
【請求項4】
前記インプラントがチタン製インプラントである、請求項1に記載の検査方法。
【請求項5】
前記金属製インプラントが、チタン、金、プラチナ、タンタル、ニオブ、ニッケル、鉄、クロム、コバルト、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、パラジウム、または、それらの合金からなる、請求項3に記載の検査方法。
【請求項6】
前記インプラントが非金属製インプラントであることを特徴とする、請求項1に記載の検査方法。
【請求項7】
前記骨親和性は、生体外または生体内検査により分析し、
前記生体外検査は、細胞付着、細胞増殖率、細胞分化率、遺伝子発現率および遺伝子発現量、無機化率、表面への蛋白質付着/吸着、または、それらの組み合わせを評価することにより、細胞反応および細胞挙動を評価することから選択し、
前記生体内検査は、生体組織内におけるインプラント固定源の測定、骨形成の組織形態計測、骨形成のX線検査、または、それらの組み合わせから選択する請求項1に記載の検査方法。
【請求項8】
前記細胞が、骨芽細胞または骨形成細胞である、請求項7に記載の検査方法。
【請求項9】
インプラントの疎水性を検査できるキットであって、前記インプラントの接触角を計測する装置を含むキット。
【請求項10】
インプラントと同梱されてなる、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記インプラントが金属製インプラントまたは非金属製インプラントである、請求項9に記載のキット。
【請求項12】
前記金属製インプラントが、チタン、金、プラチナ、タンタル、ニオブ、ニッケル、鉄、クロム、コバルト、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、パラジウム、または、それらの合金からなる、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
疎水性または非骨親和性を有するインプラントの表面を、親水化または骨親和化表面に再生する方法であって、疎水化または非骨親和化表面を破壊または除去することからなる再生方法。
【請求項14】
物理的工程または化学的工程により、前記疎水化または非骨親和化表面を実質的に破壊または除去する、請求項13に記載の再生方法。
【請求項15】
前記物理的工程は、サンドブラスト、機械加工、または、粒子の吹き付けである、請求項14に記載の再生方法。
【請求項16】
前記化学的工程は、エッチング剤によるエッチングである、請求項14に記載の再生方法。
【請求項17】
紫外線照射をさらに含む、請求項14に記載の再生方法。
【請求項18】
エッチング用物質が酸または塩基であることを特徴とする、請求項16に記載の再生方法。
【請求項19】
前記インプラントが金属製インプラントである、請求項13に記載の再生方法。
【請求項20】
前記インプラントがチタン製インプラントである、請求項13に記載の再生方法。
【請求項21】
前記金属製インプラントが、チタン、金、プラチナ、タンタル、ニオブ、ニッケル、鉄、クロム、コバルト、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、パラジウム、または、それらの合金からなる、請求項19に記載の再生方法。
【請求項22】
前記インプラントは非金属製インプラントであることを特徴とする、請求項13に記載の再生方法。
【請求項23】
インプラントに親水化表面を再生できるキットであって、前記インプラントの疎水化表面を実質的に破壊または除去できる装置または薬剤からなるキット。
【請求項24】
前記装置が粗面を有する、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
前記装置はサンドペーパーまたはヤスリである、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
エッチング剤を含む、請求項23に記載のキット。
【請求項27】
前記エッチング剤が酸または塩基である、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
インプラントと同梱されてなる、請求項23に記載のキット。
【請求項29】
前記インプラントが金属製または非金属性である、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
前記金属製インプラントが、チタン、金、プラチナ、タンタル、ニオブ、ニッケル、鉄、クロム、コバルト、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、パラジウム、または、それらの合金からなる、請求項29に記載のキット。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate


【公表番号】特表2009−508631(P2009−508631A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532228(P2008−532228)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/031964
【国際公開番号】WO2007/035217
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(508085729)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (6)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【住所又は居所原語表記】1111 Franklin Street, 12th Floor, Oakland, CA, 94607−5200, US
【Fターム(参考)】