説明

インプリントにおける離型方法

【課題】モールドに、別途、離型層を設けることなく所定のパターンを転写した被成形物を良好に離型する。
【解決手段】モールド30に形成された所望のパターンを被成形材料に転写することで被成形物を成形するインプリントでの被成形物からモールド30を引き離す離型方法において、被成形物とモールド30との離型力を低減させるように、前記被成形物を収縮させる収縮工程と、収縮工程後、被成形物からモールド30を引き離す離型工程とを備えることで実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドに形成された所望のパターンを被成形材料に転写するインプリントに関し、詳しくは、転写後の離型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクといった磁気ディスクなどの記録媒体へ記録する情報の高密度化への要求の高まりに対して、従来の磁気記録媒体では対応できなくなってきている。このような記録情報への高密度化に対応するためにパターンドメディアと呼ばれる磁気記録媒体が考案されている。このパターンドメディアは、記録領域を磁気的あるいは物理的に孤立させた記録媒体であり、記録密度の向上が期待されている。
【0003】
このパターンドメディアは、モールドに形成された所望のパターンを被成形材料に転写するインプリント技術を利用したインプリント装置を用いて複製し量産することができる。特に、パターンドメディアの場合、ナノメートルオーダーの転写にも対応したナノインプリント技術を利用したインプリント装置を用いることになる。
【0004】
なお、このインプリント技術は大きく分けて2種類あり、熱インプリントと光インプリントとがある。
【0005】
熱インプリントは、微細な凹凸パターンが形成されたモールドを被成形材料である熱可塑性樹脂に加熱しながら押し付け、その後で被成形材料を冷却・離型し、微細パターンを転写する方法である。
【0006】
また、光インプリントは、微細な凹凸パターンが形成されたモールドを被成形材料である光硬化性樹脂に押し付けて紫外光を照射し硬化させ、その後で被成形材料を離型し、微細パターンを転写する方法である。
【0007】
インプリント装置における量産では、元型となるマスターモールドを用いることになるが、実際には、このマスターモールドを同じくインプリント装置にて被成形材料に転写することで複製した複数のワーキングレプリカと呼ばれるコピーモールドを量産ラインごとに用いることになる。つまり、コピーモールドは、元型であるマスターモールドの代替モールドとして使用されるため極めて高い精度での形成が求められることになる。
【0008】
しかしながら、被成形材料にモールドの微細な凹凸パターンを転写した後に、硬化した被成形物からモールドを離型する離型プロセスを実行する場合、離型に際してある程度の高い離型力を必要とすることから、転写成形された凹凸パターンに欠陥を発生したり、離型がうまくいかなかったり様々な問題を引き起こしてしまう。特に、ナノメートルオーダーの転写に対応したナノインプリント技術においては、このような問題が顕著となってしまう可能性が高い。
【0009】
また、このような離型プロセスに問題が発生するとスループットの低下を招来することなどから、コストの増大、ひいては量産化に向けての障壁となるため、離型プロセスは、インプリントにおいて非常に重要なプロセスの一つとなっている。
【0010】
そこで、例えば、特許文献1では、転写パターンが形成されたテンプレートに離型剤を成膜することで、基板上に形成された塗布膜に転写パターンを転写した後の離型を容易にする技術が開示されている。
【0011】
また、モールドまたは基板を物理的に変形させることにより、モールドと転写パターンを転写した被加工物との密着度を低減させて離型を容易にする手法も公知となっている。例えば、特許文献2では、基板を撓ませることにより、モールドと樹脂との剥離を容易にする機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011−5696号公報
【特許文献2】特開2007−83626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述したような、被成形材料にモールドの凹凸パターンを転写した後に、硬化させた被成形物からモールドを離型する離型プロセスにおいて、例えば、特許文献1で開示されているような離型剤を用いた場合、離型剤が必ず物理的な膜厚を有することから、次世代の半導体やパターンドメディアなどの超微細パターンを扱う技術領域においては、この膜厚が無視できないものとなるため、転写パターンにサイズ的な制限を与えてしまうといった問題がある。
【0014】
また、例えば、特許文献2で開示されているように基板を撓ませるなどといった、モールドまたは基板を物理的に変形させることにより離型を実行する場合、転写パターンが微細、大面積になればなるほど、転写パターンの崩れなど悪影響が発生してしまう可能性が高い。具体的には、今後の技術的な発展方向である転写パターンの超微細化、高効率で転写を行う転写パターンの一括大面積化に対応することが極めて困難となる虞がある。
【0015】
特に、転写パターンを一括大面積化した場合、必要となる離型力が非常に高くなるため、転写パターンの劣化、スループットの低下、インプリント装置への直接的なダメージなど様々な問題を引き起こしてしまうといった問題がある。
【0016】
そこで、本発明は、上述した問題を解決するために案出されたものであり、モールドに、別途、離型層を設けることなく所定のパターンを転写した被成形物を良好に離型することを可能とする離型方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様は、
モールドに形成された所望のパターンを被成形材料に転写することで被成形物を成形するインプリントにおいて被成形物からモールドを引き離す離型方法であって、
前記被成形物とモールドとの離型力を低減させるように、前記被成形物を収縮させる収縮工程と、
前記収縮工程後、前記被成形物からモールドを引き離す離型工程とを備えること
を特徴とするインプリントにおける離型方法である。
【0018】
本発明の第2の態様は、
前記被成形材料が光硬化性樹脂であって、前記インプリントを光インプリントとした場合、
前記収縮工程は、被成形物とモールドとの離型力を低減させるように、被成形材料に照射する光の照射時間と前記被成形物を収縮させる割合とを決定すること
を特徴とする上記第1の態様に記載のインプリントにおける離型方法である。
【0019】
本発明の第3の態様は、
前記被成形材料が熱可塑性樹脂であって、前記インプリントを熱インプリントとした場合、
前記収縮工程は、被成形物とモールドとの離型力を低減させるように、あらかじめ被成形材料の熱膨張率を高くすることで、前記被成形物を収縮させる割合を決定すること
を特徴とする上記第1の態様に記載のインプリントにおける離型方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、モールドに、別途、離型層を設けることなく所定のパターンを転写した被成形物を良好に離型することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】モールドに対して被成形物を収縮させて離型させる概念について説明するための図である。
【図2】モールドを用いて、光インプリントによりコピーモールドを作製する工程について説明するための図である。
【図3】離型に最適なレジスト層の収縮率について検証するため、紫外光を照射した際の露光時間(紫外光照射時間)とレジスト層の膜厚の変化の様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明をする。
【0023】
本発明者は、インプリントにおいて、モールドに形成された微細な凹凸パターンを被成形材料に転写した後、硬化させることで成形された被成形物を離型する際、その硬化過程
もしくは何らかの刺激により被成形物を収縮させることで、モールドに、別途、離型層を形成することなく容易な離型が可能であるという知見を得た。
【0024】
上述したように、微細な凹凸パターンを転写後の被成形物の収縮が可能となれば、図1(a)に示すようにモールド30の微細な凹凸パターンを被成形物であるレジスト層4に転写した後、図1(b)に示すようにモールド30と被成形物であるレジスト層4との間に僅かな間隙ができることになる。これにより被成形物とモールド30との間に働く圧力が低下することとなる。したがって、別途、モールド30に離型層を設けることなく被成形物からモールド30を引き離すのに必要となる離型力を大幅に低減させることができるため容易な離型が可能となる。
【0025】
なお、この概念は、熱インプリントにも光インプリントにも用いることができ、さらにはナノインプリント技術にも応用することができる。特に、インプリント技術を用いて作製されるパターンドメディアに本実施の形態を好適に応用することができる。
【0026】
<光インプリントの場合>
まず、光インプリントの場合について説明をする。
(元型モールドの準備)
モールド30であるが、図1に示すように、コピーモールドに転写されるパターンの元型となるモールド30を用意する。このモールド30は、インプリントモールドとして使用できるものならばよいが、透光性を有するもの(例えば石英、サファイア)であればモールド30上から後述する露光を行うことができるため好ましい。
【0027】
コピーモールド用基板が透光性を有するならば、コピーモールド用基板側から露光を行うことができる。その場合、モールド30の材料としては、透光性を有さないもの(例えばシリコンウエハ、ニッケル)であっても使用することができる。本実施の形態においては、所定のパターンに対応する溝が設けられた石英基板を用いた場合について説明する。
【0028】
なお、この石英基板上に設けられる所定のパターンはミクロンオーダーであってもよいが、近年の電子機器の性能という観点からはナノオーダーであってもよいし、インプリントモールドなどにより作製される最終製品の性能を考えると、その方が好ましい。
【0029】
また、モールド30に形成される所定のパターンは、上述したように本願発明の主旨である容易な離型性を実現するために被成形物を収縮させる観点から、あらかじめ、その収縮率を考慮したパターン形状を算出し、それに適合するように形成することになる。収縮率は、体積という観点から考慮した場合、縦、横、高さ、それぞれの収縮率が異なることが推定されるため、それぞれにおける収縮率を検討し最終的に要求される形状のパターンとなるような収縮率を算出する必要がある。
【0030】
また、モールド30に設けられる所定のパターンがインプリントにより転写されると、コピーモールドにはこの所定のパターンとは逆のパターンが形成される。そのため、コピーモールドのパターンを最終的に得たいパターンとするならば、モールド30にはそのパターンとは逆のパターンを形成しておいてもよい。また、仮のコピーモールドにパターンを転写した後、この仮のコピーモールドのパターンを、別のコピーモールドに転写することにより、モールド30と同一のパターンを得てもよい。
【0031】
以下、このモールド30を用いて、光インプリントによりコピーモールドを作製する工程について、図2を用いて述べる。
【0032】
(コピーモールド製造用基板の準備)
まず図2(a)に示すように、コピーモールド20のための基板1を用意する。
この基板1は、コピーモールド20として用いることができるのならば良く、先に述べたモールド30と同様の材質でも構わない。また、モールド30と同材質であってもよい。なお、光インプリントを行う場合は被転写材への光照射の観点から透光性基板であることが好ましい。この透光性のある基板1としては、石英基板などのガラス基板が挙げられる。なお、モールド30が透光性を有するのならば、Si基板などの非透光性基板であっても構わない。
【0033】
また、基板1の形状についてであるが、円盤形状であるのが好ましい。レジストを塗布する際、円盤形状の基板1を回転させながらレジストを均一に塗布することができるためである。なお、円盤形状以外であっても良く、矩形、多角形、半円形状であってもよい。本実施の形態においては、円盤形状の石英からなる基板1を用いて説明する。
【0034】
(ハードマスク層の形成)
次に、図2(b)に示すように、前記基板1をスパッタリング装置に導入する。そして本実施の形態においては、クロムターゲットをアルゴンと窒素の混合ガスでスパッタリングして窒化クロム層3を成膜し、微細パターンを有するハードマスク層とするのが好ましい。
【0035】
また、導電性を確保するため導電層を形成しても良い。導電層の材料は、公知の導電層として用いられているものであればよい。一例を挙げれば、Taを主成分とする化合物が挙げられる。この場合、TaHf、TaZr、TaHfZrなどのTa化合物やその合金が好適である。一方、ハフニウム(Hf)とジルコニウム(Zr)の少なくとも一方の元素又はその化合物(例えばHfZrなど)を選択することもでき、さらにこれらの材料をベース材料として、例えばB、Ge、Nb、Si、C、N等の副材料を加えた材料を選択することもできる。さらに導電層は、ハードマスク層(本実施の形態では窒化クロム層3)の上層、下層のどちらに形成しても良い。
また、このような導電層以外にも酸化防止層を形成するようにしても良い。
【0036】
なお、ハードマスク層の材料としては、成膜の際のスパッタリングにおいて酸素を用いなくて済む点からも上述したように窒化クロム(CrN)が好ましいが、それ以外でもハードマスク層として使用できる化合物であればよい。例えばモリブデン化合物、酸化クロム(CrO)、SiC、アモルファスカーボン、Alを用いてもよい。本実施の形態においては、窒化クロム(CrN)からなるハードマスク層について説明する。
【0037】
こうして図2(b)に示すように、窒化クロム層3をハードマスク層として、基板1上に形成する。
【0038】
なお、本実施の形態における「ハードマスク層」は、単一または複数の層からなり、パターンに対応する溝が形成される予定の部分を保護することができ、基板上への溝のエッチングのマスクに用いられる層状のもののことを指すものとする。
このように、基板上にハードマスク層を設けたものを、本実施の形態においてはマスクブランクスという。
【0039】
(レジスト層の形成)
マスクブランクスにおけるハードマスク層である窒化クロム層3に対して適宜洗浄・ベーク処理を行った後、図2(c)に示すように、前記マスクブランクスにおけるハードマスク層である窒化クロム層3に対して光インプリント用のレジストを塗布してレジスト層4を形成し、本実施の形態におけるコピーモールド20の製造に用いられるレジスト付きマスクブランクスを作製する。ここで、レジストは、被成形材料に相当し、レジスト層4は被成形物に相当する。
【0040】
光インプリント用のレジストとしては、光硬化性樹脂とりわけ紫外線硬化性樹脂が挙げられるが、光硬化性樹脂の内、後で行われるエッチング工程に適するものであればよい。
【0041】
また、このレジストは、モールド30から離型する際に被成形物であるレジスト層4が収縮して、モールド30との間に間隙が設けられることにより離型力を低減できるような組成であることが望ましい。例えば、光、マイクロ波等の電磁波の照射、電子線などの電離放射線の照射といった刺激によりレジスト層4の収縮が促されるような組成が考えられる。また、レジスト層4は単一の組成であることに限定されず、硬化・収縮を促すための重合開始剤等との混合物でもよいし、ナノインプリントに必要な諸特性(粘性・揮発性・ヤング率・密着性など)を満たすために複数の組成による混合物でもよい。このような被成形材料については、発明者によって鋭意検討中である。
【0042】
また、この時のレジスト層4の厚さは、各種エッチングが完了するまでマスクとなる部
分のレジストが残存する程度の厚さであることが好ましい。
【0043】
なお、レジスト層4を設ける前に、ハードマスク層である窒化クロム層3上に先に密着層を設けてもよい。密着層を設けることにより、インプリントやエッチングの最中にレジスト層4が剥離することを防止することができる。
【0044】
(レジスト層への元型モールドの載置)
このレジスト層4に対して適宜ベーク処理を行った後、図2(d)に示すように、このレジスト層4の上に、微細パターンが形成されたモールド30を配置する。この時、レジスト層4が液状であるならば、モールド30を載置するだけでよい。また、レジスト層4が固体形状の場合は、モールド30をレジスト層4に対して押圧して微細パターンを転写できる程度に軟らかいレジスト層4であればよい。
【0045】
(露光によるパターン転写)
その後、紫外光照射装置を用いて、前記レジスト層4に対してモールド30の微細パターンを転写する。このとき紫外光の露光はモールド30側から行うのが通常であるが、マスクブランクスの基板1が透光性基板である場合は、基板1側から行ってもよい。
【0046】
このときの露光時間は、モールド30から離型する際に被成形物であるレジスト層4が収縮して、モールド30との間に間隙が設けられることにより離型力を低減できるような露光時間とする。被成形物であるレジスト層4の収縮は、露光時間に依存しているため、レジストを硬化させるのに必要な露光時間よりも延長させて収縮を促すようにする。
【0047】
具体的には、収縮する割合である収縮率は、モールド30との間に適度な間隙を形成しつつ、転写パターンの位置精度や大きさにバラツキを生じさせない程度とすることが望ましい。したがって、上述したような弊害を加味しつつ、被成形物であるレジスト層4とモールド30との離型力を低減させるように、被成形材料に照射する光の照射時間と被成形物を収縮させる割合とを決定することになる。
【0048】
なおこの際、モールド30とマスクブランクスとの間の位置ずれによる転写不良を防止するため、アライメントマーク用の溝を基板上に設ける準備を行ってもよい。
【0049】
(レジスト層における残膜層の除去)
微細パターン転写後、図2(e)に示すように、モールド30をレジスト付きマスクブランクスから離型する。このとき、レジスト層4は、モールド30の微細な凹凸パターンに対して所定の間隙を設けて収縮しているため、離型力が大幅に低下している。したがって、被成形物であるレジスト層4からモールド30を良好かつ容易に離型することができる。
【0050】
離型後、窒化クロム層3上にあるレジストの残膜層を、酸素、オゾン等のガスのプラズマを用いたアッシングにより除去する。こうして、図2(f)に示すように、所望の微細パターンに対応するレジストパターンを形成する。なお、レジストパターンが形成されなかった部分において、基板1上に溝が形成されることになる。
【0051】
(第1のエッチング)
次に、基板上にレジストパターンが形成された基板1を、ドライエッチング装置に導入する。そして、酸素ガスを実質的に含まない雰囲気下で塩素系ガスを含むガスによる第1のエッチングを行う。このとき、還元性ガスと共に上記のガスによるエッチングを行うと、ハードマスク層の酸化防止という観点からも好ましい。
【0052】
なお、「実質的に酸素ガスを含まない雰囲気下」とは「エッチングの際に酸素ガスが流入したとしても、異方性エッチングを行うことができる程度の流入量である雰囲気下」であることを指すものであり、好ましくは酸素ガスの流入量を流入ガス全体の5%以下とした場合の雰囲気である。
【0053】
このエッチングにより、図2(g)に示すように、微細パターンを有するハードマスク層(窒化クロム層3)を形成する。なお、この時のエッチング終点は、反射光学式の終点検出器を用いることで判別する。
【0054】
(第2のエッチング)
続いて、第1のエッチングで用いられたガスを真空排気した後、同じドライエッチング装置内で、フッ素系ガスを用いた第2のエッチングを、基板1に対して行う。この際、前記ハードマスク層である窒化クロム層3をマスクとして基板1をエッチング加工し、図2(h)に示すように、微細パターンに対応した溝を基板1に施す。その前後において、アルカリ溶液や酸溶液にてレジストを除去する。
【0055】
ここで用いられるフッ素系ガスとしては、C(例えば、CF、C、C)、CHF3、これらの混合ガス又はこれらに添加ガスとして希ガス(He、Ar、Xeなど)を含むもの等が挙げられる。
【0056】
こうして図2(h)に示すように、微細パターンに対応する溝加工が基板1に施され、微細パターンを有するハードマスク層である窒化クロム層3が基板1の溝以外の部分上に形成される。こうして残存ハードマスク層除去前モールド10を作製する。
【0057】
(ハードマスク層の除去)
このように作製された残存ハードマスク層除去前モールド10に対し、第1のエッチングと同様の手法で、引き続いて残存ハードマスク層除去前モールド10上に残存するハードマスク層である窒化クロム層3をドライエッチングにて除去する工程が行われ、それによりインプリントモールドであるコピーモールド20が作製される(図2(i))。
【0058】
なお、いずれかのエッチングのみをウェットエッチングとし、他のエッチングにおいてはドライエッチングを行ってもよいし、全てのエッチングにおいてウェットエッチングまたはドライエッチングを行ってもよい。また、パターンサイズがミクロンオーダーである場合など、ミクロンオーダー段階ではウェットエッチングを行い、ナノオーダー段階ではドライエッチングを行うというように、パターンサイズに応じてウェットエッチングを導入しても良い。
【0059】
なお、本実施の形態においては、第1〜第2のエッチングを行ったが、マスクブランクスの構成物質に応じて、別途エッチングを第1〜第2のエッチングの間に追加しても良い。
【0060】
(コピーモールドの完成)
以上の工程を経て、前記溝形成部分以外の部分のハードマスク層である窒化クロム層3を除去した後、必要があれば基板1の洗浄等を行う。このようにして、図2(i)に示すようなコピーモールド20を完成させる。
【0061】
<熱インプリントの場合>
続いて、熱インプリントの場合について説明する。なお、以下の説明において特筆しない部分については、光インプリントの場合と同様である。
【0062】
まず、熱インプリント用マスターモールドに対するコピーモールド20製造に用いられる基板についてであるが、ハードマスク層に対するドライエッチングに用いられる塩素ガスに耐性があるSiC基板、SiO基板などが挙げられる。
【0063】
なお、熱インプリントを行う場合の基板1について、塩素系ガスに対して耐性を有する基板であるSiO基板以外にも、以下のような工夫を施すことにより塩素系ガスへの耐性が比較的弱いシリコンウエハを使用することもできる。すなわち、シリコンウエハ上にまずはSiO層を設ける。このSiO層の上にハードマスク層を設けることにより、ハードマスク層が塩素ガスで除去されたとしても、SiO層がシリコンウエハを塩素ガスから保護することになる。そして、バッファードフッ酸すなわちフッ化アンモニウム及びフッ酸からなる混酸により、SiO層を除去する。こうすることにより、熱インプリント用モールドを作製するために、シリコンウエハを使用することもできる。また、シリコンウエハ上に加工層としてSiO層を設けたものを基板として使用することもできる。このときには加工層であるSiO層に溝を設けることになるため、シリコンウエハを用いる場合に比べてSiO層を厚くすることが好ましい。
本実施の形態においては、円盤形状のSiC基板を用いて説明する。
【0064】
本実施の形態においては、ハードマスク層として窒化クロム層3を基板1上に成膜する。
【0065】
次に、前記マスクブランクスにおけるハードマスク層である窒化クロム層3に対して熱インプリント用のレジストを塗布し、レジスト層4を形成して本実施の形態におけるコピーモールド20の製造に用いられるレジスト付きマスクブランクスを作製する。
【0066】
熱インプリント用のレジストとしては冷却すると硬化する樹脂が挙げられるが、この樹脂の内、後で行われるエッチング工程に適するものであればよい。なお、この樹脂は、元型となるモールドを押圧したときに転写すべき微細パターンが形成される程度の軟らかさを有することが好ましい。元型となるモールドをレジスト上に押圧したとき、モールド30の微細パターンに合わせてレジストが容易に変形し、後の冷却処理にて微細パターンを精度良く転写することができるためである。
【0067】
また、塗布する熱インプリント用のレジストは、熱膨張率が高いことが望ましい。レジストの熱膨張率を高くするための具体的な手法としては、当該レジストの分子間力を弱くするために、平均分子量を小さくしたり、電子の偏りや水素結合に寄与する官能基を含まないようにしたりすることが挙げられる。また、レジスト分子の自由体積を大きくするために、分子の回転・振動を阻害するような二重結合や三重結合を含まず、直鎖状構造であり四面体構造のような剛直な構造をとらないようにすることが挙げられる。
【0068】
これにより、被成形材料であるレジストに所望のパターンが形成されたモールドを加熱しながら押し付け、冷却により硬化させた場合、モールド30から離型する際に被成形物であるレジスト層4が収縮して、モールド30との間に間隙が設けられることにより離型力を低減できる。
【0069】
具体的には、レジスト層4の収縮量は、モールド30との間に適度な間隙を形成しつつ、転写パターンの位置精度や大きさにばらつきを生じさせない程度とすることが望ましい。したがって、上述したような弊害を加味しつつ、被成形物であるレジスト層4とモールド30との離型力を低減させるように、あらかじめ被成形材料の熱膨張率を設計することで、被成形物の収縮量を決定することになる。
【0070】
このように、上述した手法によって、被成形物の熱膨張率を変えることで、転写パターンの位置精度や大きさがばらつくといった弊害を生じさせることなく良好に離型力を低減させるようにできる。また、冷却する温度幅を適切に設定することで、同様に弊害を生じさせることなく良好に離型力を低減させるようにすることもできる。
【0071】
その後、冷却処理装置を用いて、前記レジスト層4に対してモールド30の微細パターンを転写する。微細パターン転写後、モールド30をレジスト付きマスクブランクスから離型する。このとき、レジスト層4は、モールド30の微細な凹凸パターンに対して所定の間隙を設けて収縮しているため、離型力が大幅に低下している。したがって、被成形物であるレジスト層4からモールド30を良好かつ容易に離型することができる。
【0072】
微細パターン転写後、ハードマスク層である窒化クロム層3上にあるレジストの残膜層をアッシングにより除去した後、上述した工程により、インプリント用マスターモールドに対するコピーモールド20を完成させる。
【0073】
<本発明の実施の形態の効果>
以上のような本実施の形態においては、以下の効果を得ることができる。本発明によれば、従来においてモールド30に離型剤を塗布するなどして離型層を設けていたが、被成形物の収縮による離型力の低下という画期的な着想により、インプリント、ナノインプリントにおけるスループットを大幅に向上させることができる。
【0074】
また、モールドを複数回使用したとしても離型には全く影響を及ぼすことがないため、モールドの再生処理といった煩雑な処理から完全に解放され、インプリント、ナノインプリントの工程管理においても非常に効果的となる。
【0075】
また、本発明においては、光インプリントでは光照射による硬化過程、熱インプリントにおいては冷却による硬化過程において、レジスト層4の収縮を実現するようにしているが、本発明は、これに限定されるものではなく、このような硬化過程とは別にレジスト層4を収縮させる工程を設けるようにしてもよい。具体的には、発明者により鋭意検討中であるが、一例を挙げるとすればレジスト層4に熱硬化性樹脂を用いることが考えられる。パターン転写前は液状とし、パターン転写後は加熱により硬化させ、それに伴い収縮させることにより上記の効果を得ることが考えられる。
【0076】
また、マイクロ波等の電磁波や電子線等の電離放射線により硬化する樹脂を用いることで硬化収縮工程を設け、上記の効果を得ることも考えられる。さらには、光インプリントにおいて、冷却工程を設け、冷却収縮を行うことで上記の効果を得るようにしても良い。
【0077】
以上、本発明に係る実施の形態を挙げたが、上記の開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。本発明の範囲は、上記の例示的な実施形態に限定されるものではない。本明細書中に明示的に記載されている又は示唆されているか否かに関わらず、当業者であれば、本明細書の開示内容に基づいて本発明の実施形態に種々の改変を加えて実施し得る。
【実施例】
【0078】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろんこの発明は、以下の実
施例に限定されるものではない。
【0079】
<実施例>
本実施例においては、深さ30nm、ライン15nmかつスペース10nmのハーフピッチ25nm周期構造のラインアンドスペースパターンが設けられている石英基板からなるモールド30を用いて光ナノインプリントを実行した。
【0080】
このようなモールド30を用いて、Siからなる円盤状の基板に光硬化性樹脂を塗布した。そして、紫外光を照射して硬化させたレジスト層4の膜厚(深さ)と、紫外光の露光時間との関係を検証した。膜厚は、光学式分光膜厚計によって測定した。
【0081】
図3に、露光時間と膜厚との関係を示す。なお、図3では、横軸に紫外光(UV:Ultraviolet)照射時間[sec]、つまり紫外光の露光時間をとり、縦軸に紫外光照射時間に対するレジスト層4の膜厚方向の収縮率を示した減膜率[%]をとることで、露光時間に応じて膜厚が変化する様子を示している。図3に示すように、硬化することにより形成されたレジスト層4の膜厚は、露光時間の経過とともに減膜率が向上しているのが分かる。
【0082】
<評価>
これにより、モールド30との間に適度な間隙を形成することで離型力を低下させ、転写パターンの位置精度や大きさにばらつきを生じさせない程度とするようにレジスト層4を収縮させる露光時間を15秒程度(減膜率17.5%程度)と推定することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 基板
3 窒化クロム層
4 レジスト層
10 残存ハードマスク層除去前モールド
20 コピーモールド
30 モールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドに形成された所望のパターンを被成形材料に転写することで被成形物を成形するインプリントにおいて被成形物からモールドを引き離す離型方法であって、
前記被成形物とモールドとの離型力を低減させるように、前記被成形物を収縮させる収縮工程と、
前記収縮工程後、前記被成形物からモールドを引き離す離型工程とを備えること
を特徴とするインプリントにおける離型方法。
【請求項2】
前記被成形材料が光硬化性樹脂であって、前記インプリントを光インプリントとした場合、
前記収縮工程は、被成形物とモールドとの離型力を低減させるように、被成形材料に照射する光の照射時間と前記被成形物を収縮させる割合とを決定すること
を特徴とする請求項1記載のインプリントにおける離型方法。
【請求項3】
前記被成形材料が熱可塑性樹脂であって、前記インプリントを熱インプリントとした場合、
前記収縮工程は、被成形物とモールドとの離型力を低減させるように、あらかじめ被成形材料の熱膨張率を高くすることで、前記被成形物を収縮させる割合を決定すること
を特徴とする請求項1記載のインプリントにおける離型方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−236371(P2012−236371A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107753(P2011−107753)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】