説明

インプリント方法およびインプリント装置

【課題】高精細なインプリント転写が安定して行えるインプリント方法とインプリント装置とを提供する。
【解決手段】供給工程にて、モールド1の凹凸構造領域1Aを有する面1aと、充填用基材11との少なくとも一方に樹脂材料5を供給し、充填工程にて、モールド1の面1aと充填用基材11との間に樹脂材料5を充填し、離間工程にて、モールド1側に樹脂材料5が残るように充填用基材11とモールド1とを引き離し、押し当て工程にて、インプリント用の基板7を樹脂材料5に接触させ、離型工程にて、樹脂材料5からモールド1を引き離すように構成し、モールド1に対する樹脂材料5の接触角θmと、充填用基材11に対する樹脂材料5の接触角θjと、インプリント用の基板7に対する樹脂材料5の接触角θkとの間に、θk<θm<θjの関係が成立するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に所望のパターン(線、模様等の図形)を転写形成するインプリント方法とインプリント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術として、インプリント方法に注目が集まっている。このインプリント方法は、基材の表面に微細な凹凸構造を形成した型部材(モールド)を用い、凹凸構造を被加工物に転写することで微細構造を等倍転写するパターン形成技術である。
上記のインプリント方法として、例えば、光インプリント方法が知られている。この光インプリント方法では、例えば、基板表面に被加工物として光硬化性の樹脂層を配設し、この樹脂層に所望の凹凸構造を有するモールドを押し当てる。そして、この状態でモールド側から樹脂層に光を照射して硬化させ、その後、モールドを樹脂層から引き離すことにより、モールドが有する凹凸が反転した凹凸構造(凹凸パターン)を被加工物である樹脂層に形成することができる(特許文献1)。
このようにインプリント方法では、基板表面への被加工物である樹脂材料の供給工程、モールドの凹凸構造への樹脂の充填工程、樹脂層の硬化工程、モールドと樹脂層との離型工程とがあり、この中でスループットの点から充填工程の時間短縮が重要な課題となっている。すなわち、モールドに対する濡れ性の良い樹脂は、モールドの凹凸構造内部への充填が容易で充填工程の時間短縮が可能であるが、離型工程において、硬化した樹脂層がモールドに付着し易いという問題がある。逆に、モールドに対する濡れ性が悪い樹脂を使用することにより、離型工程において、硬化した樹脂層がモールドに付着するのを防止することができるが、モールドの凹凸構造内部への充填において空気(バブル)が入り込み易く、充填に要する時間を長くする必要があり、スループットの低下を来すことになる。
【0003】
このため、モールドの凹凸構造内部への樹脂の充填に要する時間が短く、かつ、空気が入り込むことを防止するインプリント方法が提案されている。例えば、樹脂をインクジェット方式で微小液滴としてモールド側に供給し、硬化して樹脂膜とした後、接着層を介して樹脂基板に接着し、モールドから樹脂膜を離型する方法(特許文献2)、セットテーブルに載置したワークの下面の中央から周縁方向へ順次エアを送入し、ワークをモールドに押し付けるとともに、ワーク上の樹脂を広げることにより充填する方法(特許文献3)、モールドと基板側にそれぞれ樹脂を塗布しておき、それらをインプリント時に一体化して硬化し、その後、モールドを離型する方法(特許文献4)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−539604号公報
【特許文献2】特開2007−230166号公報
【特許文献3】特開2007−305895号公報
【特許文献4】特開2009−208409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載のインプリント方法では、樹脂液滴の滴下ポイント数が少ないと従来と同様に空気の入り込みが生じ易く、これを防止するためには、充填に要する時間を長くする必要があり、樹脂液滴の滴下ポイント数を多くすれば、モールドへの充填が容易となるが、樹脂液滴の供給に時間を要し、いずれにしても、スループットの低下を阻止することができない。また、接着層を介して樹脂基板に接着するので、モールドからの離型に際して樹脂膜がモールドに付着することが防止できるが、樹脂基板上の樹脂膜が厚くなり、残膜(形成されたパターンの凹部に残る樹脂)の厚みが大きくなり易く、残膜を除去する間にパターン寸法の変動を起こすリスクが増え、リソグラフィーへの利用に支障を来すという問題もある。
【0006】
また、特許文献3に記載のインプリント方法では、セットテーブルの駆動、エアを送入するタイミング等の制御が極めて煩雑であるとともに、高い機械精度が要求され、また、モールドへの充填の容易性(モールドへの親和性)が大きい程、モールドからの離型に際して硬化した樹脂がモールドに付着し易くなるという問題がある。
また、特許文献4に記載のインプリント方法では、基板上に形成される樹脂パターンが厚くなり、残膜(形成されたパターンの凹部に残る樹脂)の厚みが大きくなり易く、残膜を除去する間にパターン寸法の変動を起こすリスクが増え、リソグラフィーへの利用に支障を来すという問題がある。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、高精細なインプリント転写が安定して行えるインプリント方法とインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明のインプリント方法は、モールドの凹凸構造領域を有する面と、充填用基材との少なくとも一方に樹脂材料を供給する供給工程と、前記モールドの凹凸構造領域を有する面と前記充填用基材との間に前記樹脂材料を充填する充填工程と、前記充填用基材と前記モールドを引き離して、前記モールド側に前記樹脂材料を残す離間工程と、インプリント用の基板と前記樹脂材料とを接触させる押し当て工程と、前記樹脂材料から前記モールドを引き離す離型工程と、を有し、前記モールドに対する前記樹脂材料の接触角θmと、前記充填用基材に対する前記樹脂材料の接触角θjと、前記インプリント用の基板に対する前記樹脂材料の接触角θkとの間に、θk<θm<θjの関係が成立するような構成とした。
【0008】
本発明の他の態様として、接触角θjと接触角θmとの差が30°以上であり、接触角θmと接触角θkとの差が30°以上であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記供給工程では、前記モールドに樹脂材料を滴下し、前記充填工程では、前記モールドと前記充填用基材とを接近させるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記充填用基材として、少なくとも1つの供給用孔部を前記モールドと対向する面に備えるものを使用し、該供給用孔部から前記樹脂材料を前記モールドと前記充填用基材の間に供給するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記充填用基材として、前記モールドと対向する面に溝部を備えるものを使用し、該溝部の毛管現象を利用して前記樹脂材料を前記モールドと前記充填用基材の間に充填するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記充填用基材として、複数の吸引孔を前記モールドと対向する面の周縁部に備えるものを使用し、該吸引孔から吸引しながら前記樹脂材料を前記モールドと前記充填用基材の間に充填するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記吸引孔から前記樹脂材料の余剰分を吸引して回収するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記離間工程では、前記樹脂材料を未硬化状態あるいは不完全な硬化状態として、前記充填用基材と前記モールドとを引き離すような構成とした。
【0009】
本発明のインプリント装置は、モールドを保持するためのモールド保持装置と、インプリント用の基板を保持するための基板保持装置と、充填用基材を保持するための充填用基材保持装置と、を備え、該充填用基材保持装置は、保持する充填用基材を前記モールド保持装置に保持されているモールドに対して離接可能であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記モールド保持装置に保持されたモールドの凹凸構造領域を有する面と、前記充填用基材保持装置に保持された充填用基材との少なくとも一方に樹脂材料を供給するための供給機構と、前記モールドの凹凸構造領域を有する面と前記充填用基材との間に前記樹脂材料の充填するための充填機構と、モールド保持装置に保持され樹脂材料が充填されているモールドを、基板保持装置に保持されたインプリント用の基板の所望のインプリント部位に位置させる位置決め機構と、前記モールド保持装置と前記基板保持装置とを離接可能とする転写機構と、を備えるような構成とした。
【0010】
本発明の他の態様として、前記基板保持装置は、前記インプリント用の基板を保持する保持面内の直交する2軸方向に移動可能であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記供給機構は、前記モールドの凹凸構造領域を有する面に樹脂材料を供給するための手段を有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記供給機構は、前記充填用基材保持装置に保持された充填用基材の供給用孔部に樹脂材料を供給するための手段を有するような構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインプリント方法では、モールドに対する樹脂材料の接触角θmに対して、θm<θjとの関係が成立する樹脂材料の接触角θjを具備する充填用基材を用いて、モールドと充填用基材との間に樹脂材料を充填するので、樹脂材料はモールドの凹凸構造領域の凹部に充填され易く、空気(バブル)が入り込むことが防止され、かつ、充填用基材をモールドから引き離す際に、モールド側に樹脂材料を確実に残すことができ、また、モールドに対する樹脂材料の接触角θmは、インプリント用の基板に対する樹脂材料の接触角θkとの間に、θk<θmの関係が成立するので、モールドを引き離す際に、樹脂材料はインプリント用の基板に確実に転写され、これにより、高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。
【0012】
本発明のインプリント装置は、充填用基材保持装置によって充填用基材とモールドとが離接可能であるため、モールドと充填用基材との間で樹脂材料を挟み込み、空気(バブル)が入り込むことを抑制しながらモールドの凹凸構造領域の凹部に樹脂材料を充填することができ、樹脂材料の接触角がθmであるモールドと、この接触角θmに対してθm<θjとの関係が成立する樹脂材料の接触角θjを具備する充填用基材を、それぞれモールド保持部と充填用基材保持部に保持し、モールドに対する樹脂材料の接触角θmに対してθk<θmの関係が成立する樹脂材料の接触角θkを具備するインプリント用の基板を基板保持部に保持することにより、本発明のインプリント方法を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のインプリント方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】本発明のインプリント方法に使用する充填用基材の他の例を説明するための図である。
【図3】本発明のインプリント方法に使用する充填用基材の他の例を説明するための図である。
【図4】本発明のインプリント方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図5】本発明のインプリント方法に使用する充填用基材の他の例を説明するための図である。
【図6】本発明のインプリント方法に使用する充填用基材の他の例を説明するための図である。
【図7】本発明のインプリント装置の一実施形態を示す平面図である。
【図8】図7に示されるインプリント装置のY軸方向からの側面図である。
【図9】図7に示されるインプリント装置のX軸方向からの側面図である。
【図10】図8に示されるインプリント装置において鎖線で囲まれた部位Iの拡大図である。
【図11】図9に示されるインプリント装置において鎖線で囲まれた部位IIの拡大図である。
【図12】図8に示されるインプリント装置において鎖線で囲まれた部位IIIの拡大図である。
【図13】本発明のインプリント装置の他の実施形態を説明するための図11対応の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
<インプリント方法>
図1は、本発明のインプリント方法の一実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、供給工程において、モールド1の凹凸構造領域A1を有する面1aに樹脂材料5を供給する(図1(A))。モールド1の面1aは、凹部2を有する凹凸構造領域A1と、凹凸構造が形成されていない非凹凸構造領域A2からなっている。モールド1の面1aへ樹脂材料5を供給する手段としては、ディスペンサやインクジェット等を挙げることができる。また、図示例では、樹脂材料5の液滴が複数個示されているが、樹脂材料5の液滴の数、滴下位置は適宜設定することができる。
モールド1の面1aに対する樹脂材料5の接触角θmは、後工程で使用する充填用基材11に対する樹脂材料5の接触角θj、インプリント用の基板7に対する樹脂材料5の触角θkとの間に、θk<θm<θjの関係が成立するものであり、好ましくは接触角θjと接触角θmとの差は30°以上であり、接触角θmと接触角θkとの差も30°以上である。このような接触角θmは、凹凸構造領域A1の凹部2への充填性を考慮して、例えば、30°〜70°、好ましくは40°〜65°の範囲とすることができる。尚、本発明では、樹脂材料の接触角は、温度25℃、湿度30%、大気圧下でマイクロシリンジから対象物に樹脂材料を滴下して20秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定した値とする。
【0015】
このようなモールド1の材質は適宜選択することができるが、樹脂材料5が光硬化性である場合には、樹脂材料5を硬化させるための照射光が透過可能な透明基材を用いて形成することができ、例えば、石英ガラス、珪酸系ガラス、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、アクリルガラス等、あるいは、これらの任意の積層材を用いることができる。また、モールド1は、面1aに対する樹脂材料5の接触角θmを所望の範囲に調整するための離型剤層を備えていてもよい。モールド1の厚みは凹凸構造の形状、基材の強度、取り扱い適性等を考慮して設定することができ、例えば、300μm〜10mm程度の範囲で適宜設定することができる。また、モールド1は、凹凸構造領域A1が非凹凸構造領域A2に対して凸構造となっている、いわゆるメサ構造であってもよい。
尚、供給工程において、モールド1と対向する充填用基材11の面11aに樹脂材料5を供給してもよく、また、モールド1と充填用基材11の双方に樹脂材料5を供給してもよい。
【0016】
次に、充填工程において、充填用基材11の面11aをモールド1の凹凸構造領域1Aを有する面1aに対向させ、モールド1と充填用基材11とを接近させ、モールド1の面1aと充填用基材11の面11aとの間に樹脂材料5を充填する(図1(B))。充填用基材11は、その面11aに対する樹脂材料5の接触角θjが、上記のように、モールド1の面1aに対する樹脂材料5の接触角θmとの間に、θm<θjの関係が成立するものである。この接触角θjは、モールド1の凹部2への充填性を考慮して、例えば、40°以上、好ましくは60°以上の範囲とすることができる。
このような充填用基材11は、例えば、石英やシリコン基板等の剛性を有する材質からなるものであってよく、モールド1に対向する面11aの形状は平坦面とすることができる。また、面11aの形状を凸状の曲面として、樹脂材料5の充填、広がりを促進してもよい。また、充填用基材11を、例えば、フッ素樹脂等の可撓性を有する材質からなるものとし、モールド1方向へ凸状となるように変形させて、樹脂材料5の充填、広がりを促進してもよい。このような充填用基材11は、面11aに対する樹脂材料5の接触角θjを所望の範囲に調整するための離型剤層を備えていてもよい。
【0017】
次に、離間工程において、充填用基材11とモールド1を引き離す(図1(C))。モールド1の面1aに対する樹脂材料5の接触角θmと、充填用基材11の面11aに対する樹脂材料5の接触角θjとの間には、θm<θjの関係が成立するので、充填用基材11とモールド1の引き離しでは、樹脂材料5は未硬化状態でモールド1に残ることになる。また、接触角θjと接触角θmとの差を30°以上とすることにより、モールド1に樹脂材料5が残るようした充填用基材11とモールド1の引き離しが更に確実なものとなる。
尚、本発明では、離間工程で充填用基材11とモールド1を引き離す前に、樹脂材料5を不完全な硬化状態としてもよい。この場合の不完全な硬化状態は、後工程において樹脂材料5にインプリント用の基板を接触させ硬化させた際に、硬化した樹脂材料がインプリント用の基板に固着可能な範囲での硬化状態とする。
【0018】
次いで、押し当て工程において、インプリント用の基板7と樹脂材料5とを接触させる(図1(D))。インプリント用の基板7は、例えば、石英やソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス、シリコンやガリウム砒素、窒化ガリウム等の半導体、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂基板、金属基板、あるいは、これらの材料の任意の組み合わせからなる複合材料基板であってよい。また、例えば、半導体やディスプレイ等に用いられる微細配線や、フォトニック結晶構造、光導波路、ホログラフィのような光学的構造等の所望のパターン構造物が形成されたものであってもよい。このような基板7の面7aに対する樹脂材料5の接触角θkは、上記のように、モールド1の面1aに対する樹脂材料5の接触角θmとの間に、θk<θmの関係が成立するものである。
【0019】
次に、離型工程において、樹脂材料5を硬化させ、この樹脂材料5からモールド1を引き離すことにより、モールド1が有する凹凸構造が反転した凹凸構造が形成された樹脂層5′がインプリント用の基板7に転写される(図1(E))。モールド1の面1aに対する樹脂材料5の接触角θmと、インプリント用の基板7の面7aに対する樹脂材料5の接触角θkとの間には、θk<θmの関係が成立するので、モールド1の引き離しでは、硬化した樹脂材料5(樹脂層5′)は基板7に確実に転写保持される。また、接触角θmと接触角θkとの差を30°以上とすることにより、基板7に樹脂層5′を転写保持させることが更に確実なものとなる。樹脂材料5の硬化は、樹脂材料が光硬化性の場合には、モールド1側から光を照射することにより行い、樹脂材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、樹脂材料が熱可塑性の場合には、可塑状態の樹脂材料の温度を低下させることにより行うことができる。
【0020】
また、上述の実施形態では、充填用基材11として複数の吸引孔を備えるものを使用することができる。図2は、このような充填用基材11を使用する状態を示す図1(B)に対応した図面であり、モールド1の面1aと対向する充填用基材11の面11aの周縁部に複数の吸引孔13が設けられている。このような吸引孔13から図示しない吸引装置を用いて吸引を行うことにより、モールド1の面1aと充填用基材11の面11aとの間に充填されるとともにモールド1の周囲にはみ出す樹脂材料5の余剰分を、吸引することができる。これにより、不要部位への樹脂材料5の付着を防止したり、回収した樹脂材料5の再利用を図ることができる。このような吸引孔13の形状、大きさ、数、配設位置は適宜設定することができ、例えば、断面が円形の貫通孔とし、開口直径を100〜1000μmの範囲とすることができる。
また、充填用基材11は、溝部を面11aに備えていてもよい。この溝部は、毛管現象により樹脂材料5の充填、広がりを促進することを目的としたものであり、溝部の深さと幅は、毛管現象が発揮され、かつ、離間工程にて充填用基材11を剥離した後の樹脂材料5の表面に溝部の形状が残らないように、樹脂材料5の粘度、充填用基材11の面11aに対する接触角θj等を考慮して設定することができる。例えば、溝部の深さは1〜100μm、溝部の幅は、1〜100μmの範囲で設定することができる。図3は、このような溝部14と、上記の吸引孔13を備えた充填用基材11の面11aを示す図であり、図示例では、溝部14は充填用基材11の中心から放射状に複数設けられており、各溝部間に位置するように、面11aの周縁部に複数の吸引孔13が設けられている。尚、吸引孔13、溝部14の形状、数、配設位置は図示例に限定されるものではない。
【0021】
図4は、本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、まず、充填用基材21の面21aをモールド1の凹凸構造領域A1を有する面1aに所望の間隙を介して対向させる(図4(A))。その後、充填用基材21の供給用孔部22から樹脂材料5を供給する。そして、モールド1の面1aと充填用基材21の面21aとの間に樹脂材料5を充填する(図4(B))。
モールド1は、上記の実施形態におけるモールド1と同様であり、モールド1の面1aに対する樹脂材料5の接触角θmは、使用する充填用基材21に対する樹脂材料5の接触角θj、インプリント用の基板7に対する樹脂材料5の接触角θkとの間に、θk<θm<θjの関係が成立するものであり、好ましくは接触角θjと接触角θmとの差が30°以上となり、接触角θmと接触角θkとの差が30°以上となるものである。このような接触角θmは、凹凸構造領域A1の凹部2への充填性を考慮して、例えば、30°〜70°、好ましくは40°〜65°の範囲とすることができる。
【0022】
充填用基材21は、モールド1と対向する面21aに供給用孔部22の一方の開口端が位置し、供給用孔部22の他方の開口端には樹脂材料供給装置(図示せず)が移送パイプ等を介して接続されている。供給用孔部22の位置、数は、モールド1の面1aと充填用基材21の面21aとの間への樹脂材料5の充填性を考慮して適宜設定するこができ、例えば、充填用基材21の面21aの略中央部に1個の供給用孔部22を設けることができる。また、充填用基材21は、その面21aに対する樹脂材料5の接触角θjが、上記のように、モールド1の面1aに対する樹脂材料5の接触角θmとの間に、θm<θjの関係が成立するものである。この接触角θjは、モールド1の凹部2への充填性を考慮して、例えば、40°以上、好ましくは60°以上の範囲とすることができる。
このような充填用基材21は、例えば、石英やシリコン基板等の剛性を有する材質からなるものであってよく、モールド1に対向する面21aの形状は平坦面とすることができる。また、面21aの形状を凸状の曲面として、樹脂材料5の充填、広がりを促進してもよい。また、充填用基材21は、面21aに対する樹脂材料5の接触角θjを所望の範囲に調整するための離型剤層を備えていてもよい。
【0023】
上記のモールド1の面1aと充填用基材21の面21aとの間への樹脂材料5の充填工程では、充填用基材21の面21aとモールド1の面1aとの間隙を、予め設定した間隙に維持し、充填用基材21の供給用孔部22から樹脂材料5を供給することにより行うことができる。また、樹脂材料5を充填する前の充填用基材21の面21aとモールド1の面1aとの間隙を、予め設定した間隙よりも大きくしておき、充填用基材21の供給用孔部22から樹脂材料5を供給しながら、あるいは、モールド1の面1aと充填用基材21の面21aとの間に樹脂材料5を充填した後に、予め設定した間隙となるようにモールド1と充填用基材21とを接近させてもよい。
【0024】
次に、離間工程において、充填用基材21とモールド1を引き離す(図4(C))。モールド1の面1aに対する樹脂材料5の接触角θmと、充填用基材21の面21aに対する樹脂材料5の接触角θjとの間には、θm<θjの関係が成立するので、充填用基材21とモールド1の引き離しに際し、樹脂材料5は未硬化状態でモールド1に残ることになる。また、接触角θjと接触角θmとの差を30°以上とすることにより、モールド1に樹脂材料5が残るように充填用基材21とモールド1を引き離すことが、更に確実なものとなる。
尚、本発明では、離間工程で充填用基材11とモールド1を引き離す前に、樹脂材料5を不完全な硬化状態としてもよい。この場合の不完全な硬化状態は、後工程において樹脂材料5にインプリント用の基板を接触させ硬化させた際に、硬化した樹脂材料がインプリント用の基板に固着可能な範囲での硬化状態とする。
【0025】
次いで、上述の実施形態と同様に、押し当て工程にて、インプリント用の基板7と樹脂材料5とを接触させ(図4(D))、その後、離型工程にて、樹脂材料5を硬化させ、この樹脂材料5からモールド1を引き離すことにより、モールド1が有する凹凸構造が反転した凹凸構造が形成された樹脂層5′がインプリント用の基板7に転写される(図4(E))。
また、上述の実施形態では、充填用基材21として複数の吸引孔を備えるものを使用することができる。図5は、このような充填用基材21を使用する状態を示す図4(B)に対応した図面であり、モールド1の面1aと対向する充填用基材21の面21aの周縁部に複数の吸引孔23が設けられている。このような吸引孔23から図示しない吸引装置を用いて吸引を行うことにより、充填用基材21の供給用孔部22から供給されてモールド1の面1aと充填用基材21の面21aとの間に充填されるとともにモールド1の周囲にはみ出す樹脂材料5の余剰分を、吸引除去することができる。これにより、不要部位への樹脂材料5の付着を防止したり、回収した樹脂材料5の再利用を図ることができる。このような吸引孔23の形状、大きさ、数、配設位置は適宜設定することができ、例えば、断面が円形の貫通孔とし、開口直径を100〜1000μmの範囲とすることができる。
【0026】
また、充填用基材21は、溝部を面21aに備えていてもよい。この溝部は、毛管現象により樹脂材料5の充填、広がりを促進することを目的としたものであり、溝部の深さと幅は、毛管現象が発揮され、かつ、離間工程にて充填用基材21を剥離した後の樹脂材料5の表面に溝部の形状が残らないように、樹脂材料5の粘度、充填用基材21の面21aに対する接触角θj等を考慮して設定することができる。例えば、溝部の深さは1〜100μm、溝部の幅は、1〜100μmの範囲で設定することができる。図6は、このような溝部24と、上記の吸引孔23を備えた充填用基材21の面21aを示す図であり、図示例では、充填用基材21の中央に位置する供給用孔部22から放射状に溝部24が複数設けられており、各溝部間に位置するように、面21aの周縁部に複数の吸引孔23が設けられている。尚、吸引孔23、溝部24の形状、数、配設位置は図示例に限定されるものではない。
【0027】
このような本発明では、モールド1に対する樹脂材料5の接触角θmに対して、θm<θjとの関係が成立する樹脂材料5の接触角θjを具備する充填用基材11,21を用いて、モールド1と充填用基材11,21との間に樹脂材料5を充填するので、樹脂材料5はモールド1の凹凸構造領域1Aの凹部2に充填され易く、空気(バブル)が入り込むことが防止される。また、充填用基材11,21をモールド1から引き離す際に、モールド1側に樹脂材料5を確実に残すことができる。さらに、モールド1の接触角θmと、インプリント用の基板7の接触角θkとの間に、θk<θmの関係が成立するので、モールド1を引き離す際に、硬化された樹脂材料(樹脂層5′)はインプリント用の基板7に確実に転写される。これにより、高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。
上述のインプリント方法の実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0028】
<インプリント装置>
本発明のインプリント装置は、モールドを保持するためのモールド保持装置と、インプリント用の基板を保持するための基板保持装置と、充填用基材を保持するための充填用基材保持装置と、を備えている。そして、充填用基材保持装置は、保持する充填用基材をモールド保持装置に保持されているモールドに対して離接可能とされている。
図7は、このような本発明のインプリント装置の一実施形態を示す平面図であり、図8は図7のY軸方向からの側面図であり、図9は図7のX軸方向からの側面図である。また、図10は図8において鎖線で囲まれた部位Iの拡大図であり、図11は図9において鎖線で囲まれた部位IIの拡大図であり、図12は図8において鎖線で囲まれた部位IIIの拡大図である。尚、図7〜図12では、インプリント装置を、図1で説明した本発明のインプリント方法を実施するためのモールド1、インプリント用の基板7、充填用基材11を使用した例として示している。
【0029】
図7〜図12において、インプリント装置51は、基板保持装置52と、この基板保持装置52の周囲に複数配置された充填用基材保持装置55(図示例では基板保持装置52の三方に配置された3個の充填用基材保持装置55A,55B,55C)と、駆動アーム75(図示例では各充填用基材保持装置55A,55B,55Cに対応して配設されている3本の駆動アーム75)に着脱可能に配置されたモールド保持装置58を備えている。
インプリント装置51を構成する基板保持装置52は、インプリント用の基板7を保持するための保持部材53を有している。この保持部材53は、例えば、吸引による保持機構、機械挟持による保持機構等により基板7を保持可能とされている。また、基板保持装置52は、図示しない駆動装置により、基板7を保持する保持部材53の面内の直交する2軸方向(図7に示すX軸方向とY軸方向)に移動可能とされている。
インプリント装置51を構成する充填用基材保持装置55は、充填用基材11を保持するための保持部材56を有している。この保持部材56は、例えば、吸引による保持機構、機械挟持による保持機構等により充填用基材11を保持可能とされている。また、充填用基材保持装置55は、図示しない駆動装置により、基板保持装置52の保持部材53の保持面に垂直な方向(図8および図9に示すZ軸方向)に移動可能とされている。
【0030】
インプリント装置51を構成するモールド保持装置58は、凹凸構造領域を有する面1aが上方を向くようにモールド1を保持するものである。このモールド保持装置58は、図示例では機械的チャック59を有し、モールド1を挟持して保持するものであるが、これに限定されるものではない。
モールド保持装置58が着脱可能に配設されている駆動アーム75は、各充填用基材保持装置55A,55B,55Cの下方に配設されており、基板保持装置52と各充填用基材保持装置55A,55B,55Cとを結ぶ経路上でモールド保持装置58を往復移動可能とするものである。また、駆動アーム75のモールド保持装置58が着脱可能に配設されている部位には、貫通開口部76(図12参照)が設けられている。この貫通開口部76は、駆動アーム75が駆動してモールド保持装置58が後述する昇降装置92の上方に位置したときに、昇降装置92の昇降部材94を挿入するための開口部である。そして、モールド保持装置58の底面は、貫通開口部76よりも大きく、駆動アーム75にモールド保持装置58が載置されているときは、モールド保持装置58によって貫通開口部76が閉塞されている。尚、駆動アーム75上でモールド保持装置58が不要な位置ズレを生じないように、例えば、モールド保持装置58の底面の周縁部位と、これに当接する駆動アーム75の貫通開口部76の近傍部位には、着脱可能に係合する凹部と凸部、あるいは、チャック機構等が設けられていてもよい。
【0031】
また、本発明のインプリント装置51は、供給機構61を有している。この供給機構61は、モールド保持装置58に保持されたモールド1の凹凸構造領域1Aを有する1a面に樹脂材料を供給するものである。図示例では、供給機構61はインクジェット装置62を備えている。そして、図7および図8に示されるように、駆動アーム75がモールド保持装置58を供給機構61の下方に位置させたときに、インクジェット装置62から樹脂材料5をモールド1上に供給する(図10参照)。また、インプリント装置51の供給機構61は、充填用基材保持装置55に保持された充填用基材11に樹脂材料を供給するものであってもよい。この場合、供給機構61は、図8に二点鎖線で示すように、上下移動可能なインクジェット装置62を充填用基材保持装置55の下方に備えるものとすることができる。そして、図8に示されるように、充填用基材保持装置55Aの下方よりも外側に駆動アーム75が位置したときに、インクジェット装置62が上方に移動して、充填用基材保持装置55Aに保持されている充填用基材11に樹脂材料を供給し、その後、駆動アーム75の駆動を妨げないように、下方の待機位置に戻る。このような供給機構61は、インクジェット装置62に代えて、ディスペンサ装置等を備えるものであってもよい。尚、本発明では、供給機構61がモールド1と充填用基材11の双方に樹脂材料を供給するものであってもよい。
【0032】
また、インプリント装置51は、充填機構71を有している。この充填機構71は、モールド1の凹凸構造領域1Aを有する1a面と充填用基材11との間に樹脂材料5を充填し、その後、充填用基材11とモールド1を引き離すものであり、図示例では、充填機構71として充填用基材保持装置55が機能する。すなわち、図9および図11に示されるように、駆動アーム75がモールド保持装置58を充填用基材保持装置55Bの下方に位置させたときに、充填用基材保持装置55Bは、図示しない駆動装置によりZ軸方向(図9および図11参照)に降下し、所定の間隙を設けるようにモールド1に接近する。これにより、モールド1に供給された樹脂材料は、モールド1の面1aと充填用基材11の面11aとの間に充填される(図11参照)。その後、充填用基材保持装置55Bは、図示しない駆動装置によりZ軸方向(図9および図11参照)に上昇し、充填用基材11はモールド1から引き離され、樹脂材料5はモールド1に残る。尚、駆動アーム75をその軸方向を維持したまま、Z軸方向(図9および図11参照)に上下移動可能とし、保持したモールド保持装置85を充填用基材保持装置55方向に上昇させて、モールド1を充填用基材11の面11aに接近させてもよい。
【0033】
また、インプリント装置51は、位置決め機構81を有している。この位置決め機構81は、モールド保持装置58に保持され樹脂材料5が充填されているモールド1を、基板保持装置52に保持されたインプリント用の基板7の所望のインプリント部位に位置させるものである。図示例では、位置決め機構81として基板保持装置52が機能する。すなわち、図8および図12に示されるように、駆動アーム75がモールド保持装置58を基板保持装置52の下方であり、かつ、後述する転写機構91の上方に位置させたときに、基板保持装置52は、図示しない駆動装置により、基板7を保持する保持部材53の面内の直交する2軸方向(図7に示すX軸方向とY軸方向)に移動し、モールド1に対してインプリント用の基板7の所望のインプリント部位を位置させることができる。モールド1と基板7との位置決めは、モールド1(後述する転写機構91)のXY座標位置に対する基板保持装置52のインプリント部位毎のXY座標位置との整合を用いる方法、モールド1の位置合わせマークと基板7のインプリント部位毎の位置合わせマークとを合わせる方法等により行うことができる。
【0034】
さらに、インプリント装置51は、転写機構91を有している。この転写機構91は、モールド保持装置58と基板保持装置52とを離接可能とするものである。図示例では、転写機構91として昇降装置92が機能し、昇降装置92は、駆動装置93により昇降部材94をZ軸方向(図8および図12参照)に昇降可能としたものである。すなわち、上述の位置決め機構81によりモールド1をインプリント用の基板7の所望のインプリント部位に位置させた後、昇降装置92の昇降部材94が上昇し、その先端面94aは駆動アーム75の貫通開口部76に挿入され、その後、駆動アーム75に着脱可能に配置されているモールド保持装置58の底面に当接する。昇降装置92の昇降部材94は、さらに上昇し、これにより、モールド保持装置58は駆動アーム75から離間して基板保持装置52に接近する。そして、モールド保持装置58に保持されているモールド1に充填された樹脂材料5がインプリント用の基板7に接触する状態で、昇降装置92は昇降部材94を停止する。モールド保持装置58が昇降部材94の先端面94a上で位置ズレを生じないように、例えば、モールド保持装置58の底面と昇降部材94の先端面94aには、着脱可能なように凹部と凸部、あるいは、チャック機構等が設けられていてもよい。
このようにして樹脂材料5がインプリント用の基板7に接触した状態で、樹脂材料5を硬化させる。その後、昇降装置92の昇降部材94を降下させ、硬化した樹脂材料5からモールド1を引き離し、さらに昇降部材94を降下させてモールド保持装置58を駆動アーム75の所定位置に配置し、駆動アーム75の貫通開口部76から昇降部材94を引き出すことにより、インプリント用の基板7への転写が終了する。
【0035】
このようなインプリント装置51では、本発明のインプリント方法を実施するためのモールド、インプリント用の基板、充填用基材を使用(樹脂材料5の接触角がθmであるモールドと、この接触角θmに対してθm<θjとの関係が成立する樹脂材料5の接触角θjを具備する充填用基材を、それぞれモールド保持部58と充填用基材保持部55に保持し、モールドに対する樹脂材料5の接触角θmに対してθk<θmの関係が成立する樹脂材料5の接触角θkを具備するインプリント用の基板を基板保持部52に保持)することにより、高い機械精度を要求されることなく高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。また、基板保持装置52の三方に配置された3個の充填用基材保持装置55A,55B,55Cに対応した供給機構61および充填機構71を、例えば、55A→55B→55Cの順に時間差を設けて循環作動させることにより、基板7へのインプリント転写を高い効率で行うことができる。
【0036】
本発明のインプリント装置51では、図4で説明した本発明のインプリント方法を実施するための充填用基材21を使用することもできる。図13は、このようなインプリント装置の充填用基材保持装置55を説明するための図であり、図11に対応したものである。この場合、充填用基材保持装置55を構成する保持部材56は、充填用基材21が有する供給用口部22に接続可能な供給流路57aを備えたものであり、この供給流路57aには移送パイプ57bを介して樹脂材料の供給装置(図示せず)が接続されている。
そして、このようなインプリント装置では、充填用基材保持装置55が充填機構71として機能するとともに供給機構61としても機能する。すなわち、図13に示されるように、駆動アーム75がモールド保持装置58を充填用基材保持装置55(55B)の下方に位置させたときに、充填用基材保持装置55Bは、図示しない駆動装置によりZ軸方向に降下し、所定の間隙を設けるようにモールド1に接近する。次いで、図示しない供給装置から移送パイプ57b、供給流路57a、および、充填用基材21の供給用口部22を介して樹脂が供給され、供給された樹脂材料は、モールド1の面1aと充填用基材21の面21aとの間に充填される。その後、充填用基材保持装置55(55B)は、図示しない駆動装置によりZ軸方向に上昇し、充填用基材21はモールド1から引き離され、樹脂材料5はモールド1に残る。尚、駆動アーム75をその軸方向を維持したまま、Z軸方向に上下移動可能とし、駆動アーム75に保持したモールド保持装置85を充填用基材保持装置55(55B)方向に上昇させて、モールド1を充填用基材21の面21aに接近させてもよい。
【0037】
上述のインプリント装置の実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、基板保持装置52に対する充填用基材保持装置の配設位置、配設数は図示例に限定されるものではない。
また、基板保持装置52を固定とし、駆動アーム75と昇降装置92をXY方向に移動可能とすることにより、駆動アーム75と昇降装置92が位置決め機構81として機能するようにしてもよい。また、インプリント用の基板へのインプリントが、1枚の基板に1回のインプリントである場合には、予め基板保持装置52と駆動アーム75および昇降装置92との位置を設定しておき、位置決め機構81を備えないものであってもよい。
【実施例】
【0038】
次に、より具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
まず、厚み6.35mmの石英ガラスを用いてモールドを作製した。このモールドは、大きさが25mm×25mmであり、深さ100nm、ライン/スペースが50nm/50nmの凹凸構造のパターンを備えるものであった。
次に、モールドの凹凸構造のパターンを備える面に離型剤(関東化学(株)製 HMDS)を塗布して、離型剤層を形成した。このように離型剤層を形成したモールドに対する後述の樹脂材料の接触角θmは60°であった。尚、接触角の測定は、温度25℃、湿度30%、大気圧下でマイクロシリンジから対象物に樹脂材料を滴下して20秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定した。
【0039】
(供給工程)
上記のように作製したモールドの凹凸構造のパターンを備える面に、1滴の滴下量が5pLとなるように下記組成の光硬化性の樹脂材料を500列×500列(計250000箇所)に50μmピッチで滴下した。この樹脂材料の滴下はインクジェット装置を用いて行った。
(光硬化性樹脂材料の組成)
・イソボルニルアクリレート … 38重量%
・エチレングリコールジアクリレート … 20重量%
・ブチルアクリレート … 38重量%
・2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン
… 2重量%
・2−ペルフルオロデシルエチルアクリレート … 1重量%
・メチルペルフルオロオクタノレート … 1重量%
【0040】
(充填工程)
充填用基材として、厚み1mmの石英板を準備し、一方の面に離型剤(ダイキン工業(株)製 オプツールDSX)を塗布して、離型剤層を形成した。この充填用基材の離型剤層を有する面に対する樹脂材料の接触角θjを上記と同様に測定した結果、100°であり、上記の接触角θmよりも30°以上大きいものであった。
上記のように樹脂材料を供給したモールドに、充填用基材の離型剤層を形成した面を接近させた。ここでは、モールドの非凹凸構造領域(凹凸構造が形成されていない部位)での充填用基材との間隙を0.05μmとした。
【0041】
(離間工程)
次いで、その後、充填用基材とモールドを引き離し、モールド側に樹脂材料を残した。
【0042】
(押し当て工程)
インプリント用の基板として、厚み0.8mmのシリコン基板を準備した。この基板に対する樹脂材料の接触角θkを上記と同様に測定した結果、20°であり、上記の接触角θmよりも30°以上小さいものであった。
上記のインプリント用の基板をモールドに接近させ、モールドに充填された樹脂材料に押し当てた。
【0043】
(離型工程)
モールドに充填された樹脂材料と基板を上記のように接触させた状態で、インプリント装置の照明光学系から平行光(ピーク波長が365nmの紫外線)をモールド側に100mJ/cm2の条件で照射した。これにより、光硬化性の樹脂材料を硬化させて樹脂層とした。その後、硬化した樹脂層からモールドを引き離してインプリント転写を完了した。
【0044】
このようにして形成されたサンプルについて、欠陥率を下記のように測定し、その結果を下記の表1に示した。
(欠陥率の測定)
形成されたパターン領域内を光学顕微鏡で5箇所観察し、一つの観察箇所(1.0mm×1.0mm)内で、樹脂層の剥がれや、パターン欠損が確認できた面積の割合を測定した。したがって、この欠陥率が大きい程、欠陥が多いことを意味し、本発明では、欠陥率が0.1未満を実用レベルと判定する。
【0045】
[実施例2]
離型剤(関東化学(株)製 HMDS)を希釈し塗布して、モールドに対する樹脂材料の接触角θmを40°とし、また、離型剤(関東化学(株)製 HMDS)を塗布して、充填用基材に対する樹脂材料の接触角θjを60°とした他は、実施例1と同様にして、インプリント転写を行った。
このようにして形成されたサンプルについて、実施例1と同様に欠陥率を測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0046】
[実施例3]
離型剤(関東化学(株)製 HMDS)を希釈し塗布した後、SPM洗浄を実施して、モールドに対する樹脂材料の接触角θmを30°とし、また、離型剤(関東化学(株)製 HMDS)を希釈し塗布して、充填用基材に対する樹脂材料の接触角θjを40°とした他は、実施例1と同様にして、インプリント転写を行った。
このようにして形成されたサンプルについて、実施例1と同様に欠陥率を測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0047】
[比較例1]
実施例1と同様にモールドに樹脂材料を供給した後、実施例1の充填工程と離間工程を行わず、実施例1の押し当て工程と離型工程を行って、インプリント転写を完了した。
このようにして形成されたサンプルについて、実施例1と同様に欠陥率を測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0048】
[比較例2]
充填用基材に離型剤層を形成せず、樹脂材料の接触角θjが30°である充填用基材を使用した他は、実施例1と同様にして、インプリント転写を行った。
このようにして形成されたサンプルについて、実施例1と同様に欠陥率を測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0049】
[比較例3]
モールドに離型剤層を形成せず、樹脂材料の接触角θmが15°であるモールドを使用した他は、実施例1と同様にして、インプリント転写を行った。
このようにして形成されたサンプルについて、実施例1と同様に欠陥率を測定し、その結果を下記の表1に示した。
【表1】

【0050】
表1に示されるように、実施例1〜3におけるインプリント方法では、欠陥率が低く、良好なインプリント転写が行われたことが確認された。
これに対して、比較例1におけるインプリント方法では、モールドへの樹脂材料の充填における空気(バブル)の入り込みが原因と思われる欠陥がみられ、実用レベルを満足していないことが確認された。
また、比較例2におけるインプリント方法では、充填工程後の離間工程において、樹脂材料の一部が充填用基材に取られることが原因と思われる欠陥がみられ、実用レベルを満足していないことが確認された。
また、比較例3におけるインプリント方法では、離型工程において、樹脂層の一部がモールドに取られることが原因と思われる欠陥がみられ、実用レベルを満足していないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
ナノインプリント技術を用いた微細加工に利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…モールド
2…凹部
5…樹脂材料
7…インプリント用の基板
11,21…充填用基材
22…供給孔
13,23…吸引孔
14,24…溝部
51…インプリント装置
52…モールド保持装置
55…充填用基材保持装置
58…基板保持装置
61…供給機構
71…充填機構
81…位置決め機構
91…転写機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドの凹凸構造領域を有する面と、充填用基材との少なくとも一方に樹脂材料を供給する供給工程と、
前記モールドの凹凸構造領域を有する面と前記充填用基材との間に前記樹脂材料を充填する充填工程と、
前記充填用基材と前記モールドを引き離して、前記モールド側に前記樹脂材料を残す離間工程と、
インプリント用の基板と前記樹脂材料とを接触させる押し当て工程と、
前記樹脂材料から前記モールドを引き離す離型工程と、を有し、
前記モールドに対する前記樹脂材料の接触角θmと、前記充填用基材に対する前記樹脂材料の接触角θjと、前記インプリント用の基板に対する前記樹脂材料の接触角θkとの間に、θk<θm<θjの関係が成立することを特徴とするインプリント方法。
【請求項2】
接触角θjと接触角θmとの差が30°以上であり、接触角θmと接触角θkとの差が30°以上であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント方法。
【請求項3】
前記供給工程では、前記モールドに樹脂材料を滴下し、前記充填工程では、前記モールドと前記充填用基材とを接近させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインプリント方法。
【請求項4】
前記充填用基材として、少なくとも1つの供給用孔部を前記モールドと対向する面に備えるものを使用し、該供給用孔部から前記樹脂材料を前記モールドと前記充填用基材の間に供給することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインプリント方法。
【請求項5】
前記充填用基材として、前記モールドと対向する面に溝部を備えるものを使用し、該溝部の毛管現象を利用して前記樹脂材料を前記モールドと前記充填用基材の間に充填することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のインプリント方法。
【請求項6】
前記充填用基材として、複数の吸引孔を前記モールドと対向する面の周縁部に備えるものを使用し、該吸引孔から吸引しながら前記樹脂材料を前記モールドと前記充填用基材の間に充填することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のインプリント方法。
【請求項7】
前記吸引孔から前記樹脂材料の余剰分を吸引して回収することを特徴とする請求項6に記載のインプリント方法。
【請求項8】
前記離間工程では、前記樹脂材料を未硬化状態あるいは不完全な硬化状態として、前記充填用基材と前記モールドとを引き離すことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のインプリント方法。
【請求項9】
モールドを保持するためのモールド保持装置と、インプリント用の基板を保持するための基板保持装置と、充填用基材を保持するための充填用基材保持装置と、を備え、該充填用基材保持装置は、保持する充填用基材を前記モールド保持装置に保持されているモールドに対して離接可能であることを特徴とするインプリント装置。
【請求項10】
前記モールド保持装置に保持されたモールドの凹凸構造領域を有する面と、前記充填用基材保持装置に保持された充填用基材との少なくとも一方に樹脂材料を供給するための供給機構と、
前記モールドの凹凸構造領域を有する面と前記充填用基材との間に前記樹脂材料の充填するための充填機構と、
モールド保持装置に保持され樹脂材料が充填されているモールドを、基板保持装置に保持されたインプリント用の基板の所望のインプリント部位に位置させる位置決め機構と、
前記モールド保持装置と前記基板保持装置とを離接可能とする転写機構と、を備えることを特徴とする請求項9に記載のインプリント装置。
【請求項11】
前記基板保持装置は、前記インプリント用の基板を保持する保持面内の直交する2軸方向に移動可能であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載のインプリント装置。
【請求項12】
前記供給機構は、前記モールドの凹凸構造領域を有する面に樹脂材料を供給するための手段を有することを特徴とする請求項10または請求項11に記載のインプリント装置。
【請求項13】
前記供給機構は、前記充填用基材保持装置に保持された充填用基材の供給用孔部に樹脂材料を供給するための手段を有することを特徴とする請求項10または請求項11に記載のインプリント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−121213(P2012−121213A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273235(P2010−273235)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】