説明

インプリント装置、それを用いた物品の製造方法

【課題】型に対する樹脂の充填性や離型性に有用なガスを利用する場合でも、基板全体に施される処理の均一性で有利なインプリント装置を提供する。
【解決手段】インプリント装置1は、基板12上の未硬化樹脂15を型8により成形して硬化させて、基板12上に硬化した樹脂15のパターンを形成する。このインプリント装置1は、型8と未硬化樹脂15との押し付けに際し、型8の側から基板12上に向けてガスを供給し、かつ供給されたガスを型8の側で回収するガス供給機構4と、基板12を保持しつつ移動可能であり、かつ、保持された基板12の表面に合わせた表面高さで基板12を囲むように外側に配置される平板部22を有する基板保持部5と、基板保持部5に保持された基板12の外周側面と、平板部22の基板12に向かう内周側面との間に存在する間隙領域24に入り込んだガスを回収するガス回収機構25とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置、それを用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMSなどの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィー技術に加え、基板上の未硬化樹脂を型(モールド)で成形し、樹脂のパターンを基板上に形成する微細加工技術が注目を集めている。この技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。例えば、インプリント技術の1つとして、光硬化法がある。この光硬化法を採用したインプリント装置では、まず、基板(ウエハ)上のインプリント領域であるショット領域に紫外線硬化樹脂(インプリント材、光硬化性樹脂)を塗布する。次に、この樹脂(未硬化樹脂)を型により成形する。そして、紫外線を照射して樹脂を硬化させたうえで引き離すことにより、樹脂のパターンが基板上に形成される。
【0003】
上記技術を採用したインプリント装置では、型と基板上の樹脂とを押し付ける際に、型に形成されている微細な凹凸パターンに未硬化樹脂が好適に充填され、一方、型と硬化した樹脂とを引き離す際には、引き離し力が可能な限り低減されることが望ましい。これに対し、非特許文献1は、インプリント処理の際に、型とウエハ上の樹脂との間の隙間に特定のガス(ペンタフルオロプロパン)を供給することで、上記の充填性または離型性を向上させる方法を記載している。しかしながら、非特許文献1には、ウエハの端部の領域に対するインプリント処理が考慮されていない。例えば半導体デバイスの一連の製造工程では、インプリント装置により常に基板の端部から同一の距離の部分にまで樹脂パターンが形成されていないと、後の製造工程にて基板全体に対して均一な処理を施すことができない。この場合、結果的に基板全体でのデバイスの歩留まりの低下を引き起こす。これは、例えば露光装置を用いた製造工程でも同様である。ここで、特許文献1は、ウエハステージに載置されたウエハの外側に、ウエハの表面と同等の高さ(表面高さ)を有する同面板を配置した液浸露光装置を開示している。この液浸露光装置においても、ウエハの端部と同面板との間隙から気泡を巻き込むことに起因して、ウエハの端部と中央部とでのデバイスに差が生じ、ウエハ全体でのデバイスの歩留まりの低下を引き起こす。そこで、特許文献1に示す液浸露光装置では、上記の間隙に積極的に水を流して気泡の巻き込みを抑制することで、ウエハの端部でも均一なデバイスを形成し、歩留まりの低下を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008―218976号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hiroshi Hiroshima, “Release force reduction in UV nanoimprint by mold orientationcontrol and by gas environment”, JOURNAL OF VACUUM SCIENCE & TECHNOLOGY, Nov/Dec2009, B27(6), P. 2862-2865
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示す構成を、非特許文献1に示す方法を採用したインプリント装置にそのまま適用することは難しい。非特許文献1に示されたガスであるペンタフルオロプロパンは、常温、常圧で気体であるため、ウエハと、このウエハの外側に配置されている同面板との間隙では、この間隙に沿って伝達し、インプリント装置内のその他の空間に漏えいしてしまうからである。このペンタフルオロプロパンは、温暖化係数が高いため、漏えいすることは好ましくなく、その都度全量回収することが望まれる。ここで、充填性と離型性とが考慮されていれば、上記のようなインプリント装置にペンタフルオロプロパン以外のガスを採用することも考えられるが、採用可能なガスは、他のフッ素系のガスや樹脂の粘度を低下させる樹脂溶剤からなるガスなどである。このようなガスも、温暖化係数、インプリント装置内の環境維持、または可燃性ガスである場合の防爆対策などの観点から、全量回収することが望ましいのは同様である。
【0007】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、型に対する樹脂の充填性や離型性に有用なガスを利用する場合でも、基板全体に施される処理の均一性で有利なインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、基板上の未硬化樹脂を型により成形して硬化させて、基板上に硬化した樹脂のパターンを形成するインプリント装置であって、型と未硬化樹脂との押し付けに際し、型の側から基板上に向けてガスを供給し、かつ供給されたガスを型の側で回収するガス供給機構と、基板を保持しつつ移動可能であり、かつ、保持された基板の表面に合わせた表面高さで基板を囲むように外側に配置される平板部を有する基板保持部と、基板保持部に保持された基板の外周側面と、平板部の基板に向かう内周側面との間に存在する間隙領域に入り込んだガスを回収するガス回収機構と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、型に対する樹脂の充填性や離型性に有用なガスを利用する場合でも、基板全体に施される処理の均一性で有利なインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るインプリント装置の構成を示す図である。
【図2】ウエハステージ側から見たモールドの表面を示す図である。
【図3】ウエハステージ上の同面板の構成を示す図である。
【図4】ガス回収機構の回収管の他の構成例を示す図である。
【図5】ガス回収機構が間隙領域にあるガスを回収する状態を示す図である。
【図6】ガス回収機構が間隙領域にあるガスを回収する他の状態を示す図である。
【図7】従来のガス供給機構がガスの供給および回収する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0012】
まず、本発明の一実施形態に係るインプリント装置について説明する。図1は、本実施形態に係るインプリント装置1の構成を示す概略図である。このインプリント装置1は、物品としての半導体デバイスなどのデバイスの製造に使用され、被処理基板であるウエハ上(基板上)の未硬化樹脂をモールド(型)で成形し、ウエハ上に樹脂のパターンを形成する装置である。なお、ここでは光硬化法を採用したインプリント装置とする。また、以下の各図において、ウエハ上の樹脂に対して紫外線を照射する照明系の光軸に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取っている。インプリント装置1は、まず、光照射部2と、モールド保持機構3と、ガス供給機構4と、ウエハステージ5と、塗布部6と、制御部7とを備える。
【0013】
光照射部2は、インプリント処理の際に、モールド8に対して紫外線9を照射する。この光照射部2は、光源10と、この光源10から射出された紫外線9をインプリントに適切な光に調整するための光学素子11とから構成される。なお、本実施形態では光硬化法を採用するために光照射部2を設置しているが、例えば熱硬化法を採用する場合には、光照射部2に換えて、熱硬化性樹脂を硬化させるための熱源部を設置することとなる。
【0014】
モールド8は、外周形状が矩形であり、ウエハ12に対向する面に3次元状に形成されたパターン部(例えば、表面上に回路パターンなどの転写すべき微細な凹凸パターンを有する凸部)8aを含む。このモールド8の材質は、紫外線9を透過させることが可能な石英などである。また、モールド8は、以下のような変形を容易とするために、紫外線9が照射される面に、平面形状が円形で、かつ、ある程度の深さを有するキャビティ(凹部)が形成された形状としてもよい。
【0015】
モールド保持機構3は、まず、モールド8を保持するモールドチャック13と、このモールドチャック13を保持し、モールド8(モールドチャック13)を移動させるモールド駆動機構14とを有する。モールドチャック13は、モールド8における紫外線9の照射面の外周領域を真空吸着力や静電力により引き付けることでモールド8を保持し得る。例えば、モールドチャック13が真空吸着力によりモールド8を保持する場合には、モールドチャック13は、外部に設置された不図示の真空ポンプに接続され、この真空ポンプのON/OFFによりモールド8の脱着が切り替えられる。モールド駆動機構14は、モールド8とウエハ12上の樹脂15との押し付け、または引き離しを選択的に行うようにモールド8をZ軸方向に移動させる。このモールド駆動機構14に採用可能なアクチュエータとしては、例えばリニアモータまたはエアシリンダがある。また、モールド駆動機構14は、モールド8の高精度な位置決めに対応するために、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成されていてもよい。さらに、Z軸方向だけでなく、X軸方向やY軸方向、またはθ(Z軸周りの回転)方向の位置調整機能や、モールド8の傾きを補正するためのチルト機能などを有する構成もあり得る。なお、インプリント装置1における押し付けおよび引き離し動作は、上述のようにモールド8をZ軸方向に移動させることで実現してもよいが、ウエハステージ5をZ軸方向に移動させることで実現してもよく、または、その双方を相対的に移動させてもよい。
【0016】
また、モールドチャック13およびモールド駆動機構14は、光照射部2から射出された紫外線9がウエハ12に向けて照射されるように、中心部(内側)に開口領域16を有する。この開口領域16には、不図示であるが、開口領域16の一部とモールド8とで囲まれる空間を密閉空間とする光透過部材(例えばガラス板)が設置され、真空ポンプなどを含む圧力調整装置により空間内の圧力が調整される。この圧力調整装置は、例えば、押し付け動作に際し、前記空間内の圧力をその外部よりも高く設定することで、パターン部8aをウエハ12に向かい凸形に撓ませ、樹脂15に対してパターン部8aの中心部から接触させる。これにより、パターン部8aと樹脂15との間に気体(空気)が閉じ込められるのを抑え、パターン部8aの凹凸パターンに樹脂15を隅々まで充填させることができる。さらに、モールド保持機構3は、モールドチャック13におけるモールド8の保持側に、モールド8の側面に外力または変位を与えることによりモールド8(パターン部8a)の形状を補正する倍率補正機構17を有する。
【0017】
ガス供給機構4は、パターン部8aの凹凸パターンに樹脂15が充填される時間を短縮させたり、充填された樹脂15に気泡が残留することを防止させたりする充填性の観点から、押し付け動作時にモールド8とウエハ12との隙間にガスを供給する。また、ガス供給機構4は、引き離し力を可能な限り低減させる離型性の観点から、引き離し動作時にも同様にガスを供給する。図2は、ウエハステージ5側から見たモールド8の表面を示す概略平面図である。なお、この図2では、モールド8の位置に対応した後述するウエハステージ5上のウエハ12と同面板22とを点線で示している。ガス供給機構4は、まず、ウエハステージ5上に載置されたウエハ12側へガスを供給(放出)する複数の供給口18と、この供給口18から供給されたガスを回収する複数の回収口19とを有する。また、ガス供給機構4は、供給口18および回収口19にそれぞれ接続され、ガスの供給量を適宜調整しつつ、ガスの供給および回収を制御するガス制御部20を含む。供給口18(18a〜18d)は、図2に示すように、モールド8に形成されたパターン部8aの外周領域の四方に設置される。一方、回収口19(19a〜19d)は、図2に示すように、モールド8の四方側面に隣接して設置される。ここで、供給口18のガス放出面は、押し付け動作時にウエハ12上の樹脂15との接触を回避するために、モールド8のウエハ12に向かう側の面と同等の高さに設定される。また、ガス供給機構4が供給するガスとしては、上記の観点から、ペンタフルオロプロパンなどが望ましい。
【0018】
ウエハ12は、例えば、単結晶シリコン基板やSOI(Silicon on Insulator)基板であり、この被処理面には、モールド8に形成されたパターン部8aにより成形される紫外線硬化樹脂(以下「樹脂」という)15が塗布される。
【0019】
ウエハステージ(基板保持部)5は、ウエハ12を保持し、押し付け動作に際し、モールド8と樹脂15との位置合わせを実施する。このウエハステージ5は、ウエハ12を吸着力により保持するウエハチャック21と、ウエハ12の表面と同等の表面高さを有し、ウエハ12の外側(外周近傍)に配置される同面板22とを有する。さらに、ウエハステージ5は、ウエハチャック21を機械的手段により保持し、各軸方向に移動可能とするステージ駆動機構23を有する。図3は、ウエハステージ5上の同面板22の構成を示す概略図である。特に、図3(a)は、図2のA−A´断面線に対応したモールド8を含む断面図である。同面板(平板部)22は、ウエハ12上にて中心から離れた位置に存在するショット領域を処理対象としてインプリント処理を実施する際に、パターン部8とウエハ12との隙間空間にて供給ガスの充填を維持する。ここで、ウエハ12の外径は、その製造ロットによりバラツキがあり、このバラツキに対応するために、ウエハ12の外周側面に対向する同面板22の開口の内径は、通常のウエハ12の最大外径よりも大きい。したがって、ウエハ12の外周側面と同面板22の内周側面(開口側面)との間には、間隙領域24が存在する。そこで、インプリント装置1は、この間隙領域24に存在するガスを回収可能とするガス回収機構25を備える。図3(a)に示す例では、ガス回収機構25は、間隙領域24に吸引口が面するように、同面板22の内部に複数の回収管26を有する。図3(b)は、同面板22の内部に設置された複数の回収管26の配置を示す平面図である。この複数の回収管26は、図3(b)に示すように、ウエハ12が保持される中心位置から円周方向に向かうような放射状に配置される。これらの回収管26は、ガス回収機構25を構成するガス回収部27にそれぞれ独立して接続され、このガス回収部27は、それぞれの回収管26におけるガスを独立して回収する。なお、複数の回収管26が間隙領域24に向かう位置は、図3に示すような同面板22からとは限らず、例えば、図4に示すように、回収管26の吸引口をウエハチャック21側から間隙領域24に面する構成としてもよい。
【0020】
また、ステージ駆動機構23は、アクチュエータとして、例えばリニアモータを採用し得る。このステージ駆動機構23も、X軸およびY軸の各方向に対して、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成されていてもよい。さらに、Z軸方向の位置調整のための駆動系や、ウエハ12のθ方向の位置調整機能、またはウエハ12の傾きを補正するためのチルト機能などを有する構成もあり得る。また、ウエハステージ5は、不図示であるが、その表面上にモールド8をアライメントする際に利用する基準マークを有する。
【0021】
塗布部6は、モールド保持機構3の近傍に設置され、ウエハ12上に樹脂(未硬化樹脂)15を塗布する。ここで、この樹脂15は、紫外線9を受光することにより硬化する性質を有する光硬化性樹脂(インプリント材)であり、半導体デバイス製造工程などの各種条件により適宜選択される。また、塗布部6の吐出ノズル6aから吐出される樹脂15の量も、ウエハ12上に形成される樹脂15の所望の厚さや、形成されるパターンの密度などにより適宜決定される。
【0022】
制御部7は、インプリント装置1の各構成要素の動作および調整などを制御し得る。制御部7は、例えばコンピュータなどで構成され、インプリント装置1の各構成要素に回線を介して接続され、プログラムなどに従って各構成要素の制御を実行し得る。特に、本実施形態の制御部7は、少なくともガス供給機構4とガス回収機構25とを制御し得る。なお、制御部7は、インプリント装置1の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、インプリント装置1の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0023】
また、インプリント装置1は、不図示であるが、例えばウエハアライメントとして、ウエハ12上に形成されたアライメントマークと、モールド8に形成されたアライメントマークとのX軸およびY軸の各方向への位置ずれを計測するアライメント計測系を備える。制御部7は、このアライメント計測系の計測結果に基づいて押し付け位置(座標)を演算する。また、インプリント装置1は、ウエハステージ5を載置するベース定盤28と、モールド保持機構3を固定するブリッジ定盤29と、ベース定盤28から延設され、除振器30を介してブリッジ定盤29を支持するための支柱31とを備える。除振器30は、床面からブリッジ定盤29へ伝わる振動を除去する。さらに、インプリント装置1は、モールド8を装置外部からモールド保持機構3へ搬送する不図示のモールド搬送機構と、ウエハ12を装置外部からウエハステージ5へ搬送する基板搬送機構32とを備える。
【0024】
次に、インプリント装置1によるインプリント処理について説明する。まず、制御部7は、モールド搬送機構により、モールド8をモールドチャック13に搬送させ、搭載させる。次に、制御部7は、アライメント計測系により、ウエハステージ5上の基準マークとモールド8に形成されたアライメントマークとの間のX軸、Y軸、およびθの各方向のずれを計測させる。ここで、制御部7は、モールドアライメントとして、この計測結果に基づいて基準マークとモールド8に形成されたアライメントマークとの位置合わせを実施させる。次に、制御部7は、基板搬送機構32により、ウエハステージ5上のウエハチャック21にウエハ12を載置および固定させ、ウエハステージ5を塗布部6の塗布位置へ移動させる。次に、塗布部6は、塗布工程として、ウエハ12上の処理対象であるショット領域に樹脂15を塗布する。次に、制御部7は、そのショット領域がモールド8に形成されたパターン部8aの直下に位置するように、ウエハステージ5を移動させ、ウエハアライメントを実行させる。次に、制御部7は、モールド駆動機構14を駆動させ、ウエハ12上の樹脂15にモールド8を押し付ける(押型工程)。このとき、制御部7は、モールド保持機構3の内部に設置された不図示の荷重センサにより、押し付け完了の判断を実行する。この押し付けにより、樹脂15がパターン部8aの凹凸パターンに充填される。この状態で、制御部7は、硬化工程として、光照射部2にモールド8の上面から紫外線9を照射させ、モールド8を透過した紫外線9により樹脂15を硬化させる。そして、樹脂15が硬化した後、制御部7は、モールド駆動機構14を再駆動させ、モールド8を樹脂15から引き離す(離型工程)。これにより、ウエハ12上のショット領域の表面には、パターン部8aの凹凸パターンに倣った3次元形状の樹脂15のパターン(層)が成形される。このような一連のインプリント動作をウエハステージ5の駆動によりショット領域を変更しつつ複数回実施することで、1枚のウエハ12上に複数の樹脂15のパターンを成形することができる。
【0025】
ここで、上記の少なくとも押型工程における押し付け動作の直前に、制御部7は、ガス供給機構4により、モールド8とウエハ12との間の隙間にてガスの供給および回収を実施させる。ここで、ガスの供給に加えて回収も実施するのは、供給ガスとして採用するペンタフルオロプロパンは、温暖化係数が高いので外部への漏えいが好ましくなく、また、回収後に再精製し、再利用するためである。まず、本実施形態との比較として、従来のインプリント装置におけるモールドとウエハとの間の隙間でのガスの供給および回収について説明する。図7は、従来のガスの供給および回収の様子を示す概略図である。この図7では、便宜上、本実施形態に係るインプリント装置の各構成要素と同一構成のものには同一の符号を付す。まず、図7(a)は、ウエハ12の中央部に処理対象となるショット領域が存在する場合のガスの供給および回収の様子を示す断面図である。このとき、制御部7は、ステージ駆動機構23により、モールド8に対してウエハ12をX軸方向のマイナス側からプラス側に移動させつつ、ガス供給機構4により、供給口18aからガス100をウエハ12側に向けて供給させる。供給されたガス100は、移動中のウエハ12に引きずられる形でパターン部8aの表面付近を通過し、供給口18aにパターン部8aを基準として対向する回収口19cにて回収される。すなわち、この場合の供給されたガス100は、間隙領域24を通過しないため、この間隙領域24にて滞ることがなく、結果的にウエハ12付近からガス100が漏えいしづらい。
【0026】
一方、図7(b)は、ウエハ12の端部に処理対象となるショット領域が存在する場合のガスの供給および回収の様子を示す断面図である。このとき、制御部7は、図7(a)と同様の動作をウエハ12の端部付近で実施させると、間隙領域24の内部にガス100が入り込む。したがって、間隙領域24に入り込んだガス100は、円周形状に沿って伝わり、回収口19では回収が難しくなるため、結果的にウエハ12付近から漏えいする。そこで、本実施形態のインプリント装置1では、ガス回収機構25が間隙領域24に入り込んだガスを回収し、ウエハ12付近からの漏えいを抑止する。
【0027】
図5は、本実施形態のガス回収機構25により、ウエハ12の端部に位置するショット領域40に対してインプリント処理を実施する際の間隙領域24に存在するガスを回収する状態を示す概略平面図である。この図5では、ショット領域40の近傍に位置する同面板22内の複数の回収管26の一部を示し、かつ、この回収管26のうち回収(排気)を実施している回収管26aを黒塗りで示し、回収を実施していない回収管26bを白抜きで示す。ガス供給機構4がこのウエハ12の位置にてガスの供給を開始すると、上述のとおり、間隙領域24の内部にガスが入り込む。そこで、制御部7は、ガス回収機構25を動作させることで、回収管26から間隙領域24の内部に存在するガスを回収し、このガスが漏えいすることを抑えることができる。これに対して、ガス回収機構25が全ての回収管26により回収動作を実施してしまうと、ショット領域40の近傍に存在するガスまで回収することになり、充填性や離型性の向上という利点を得られない場合もある。そこで、本実施形態では、制御部7は、ガス回収機構25に対し、このようにウエハ12の端部にてガスの回収を実施させる場合には、図5に示すように、吸引口がショット領域40の近傍にある回収管26bでは回収動作をさせない。この場合、制御部7は、動作させない回収管26bを、例えば、間隙領域24に対向する位置にあるガス供給機構4の2つの供給口18b、18dの間に吸引口が存在するものと決定し得る。このように、インプリント装置1では、ガス供給機構4の動作中に合わせ、ガス回収機構25を上記のように動作させることで、モールド8に対する樹脂15の充填性や離型性を低下させることなく、供給されたガスの漏えいを抑えることができる。
【0028】
なお、ウエハ12の端部に位置するショット領域40に対してインプリント処理を実施する際の間隙領域24に存在するガスを回収する方法は、上記の方法に限定されない。例えば、図5に示した回収を実施する回収管26aの本数をさらに少なくすることも可能である。図6は、図5に対応し、回収を実施する回収管26aを減らした場合の状態を示す概略平面図である。まず、制御部7は、図5に示す状態と同様に、動作させない回収管26bを、間隙領域24に対向する位置にあるガス供給機構4の2つの供給口18b、18dの間に吸引口が存在するものと決定する。そして、制御部7は、図6(a)に示すように、その動作させない回収管26bの最も端に位置する2つの回収管26b、26bに隣設した2つの回収管26c、26dのみにて回収動作をさせ、それ以外の回収管26eでは全て回収動作をさせない。ここで、供給ガスとして採用するペンタフルオロプロパンは、回収される際には周辺の気体(空気)と混合した状態にあり、非常に希薄になっている。すなわち、このペンタフルオロプロパンを回収後、再精製して再度インプリント装置1で循環使用するためには、別途設置される精製装置の大型化を回避するように、ペンタフルオロプロパンが高濃度である状態で回収されることが望ましい。図6に示すような回収管26の動作制御によれば、このような高濃度のペンタフルオロプロパンの回収化が可能となる。なお、ショット領域が、例えば、ウエハ12の端部に位置するショット領域40から次のインプリント処理にて処理対象となるショット領域41(図6(b)参照)に移行する場合も考えられる。この場合、制御部7は、図6(b)に示すように、単に回収動作をさせる2つの回収管26c、26dをそれぞれショット領域41の位置に合わせて切り替えていくようなシーケンスを実行するのみで対応可能となる。
【0029】
このように、インプリント装置1では、ウエハステージ5上に同面板22を有することから、ウエハ12上のどの位置に処理対象となるショット領域が存在しても、均一なインプリント処理を実施することができる。このとき、ペンタフルオロプロパンなどのガスを使用しても、モールド8に対する樹脂15の充填性や離型性に関する優位性を失わず、間隙領域24からのガスの漏えいを抑えることができる。同時に、間隙領域24からガスを好適に回収することができるため、ガスの回収後に再精製し、再利用するのにも有利となり得る。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、モールド8に対する樹脂15の充填性や離型性に有用なガスを利用する場合でも、ウエハ12全体に施されるインプリント処理の均一性で有利なインプリント装置1を提供することができる。
【0031】
(物品の製造方法)
物品としてのデバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)の製造方法は、上述したインプリント装置を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板)にパターンを形成する工程を含む。さらに、該製造方法は、パターンを形成された基板をエッチングする工程を含み得る。なお、パターンドメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、該製造方法は、エッチングの代わりにパターンを形成された基板を加工する他の処理を含み得る。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0032】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 インプリント装置
4 ガス供給機構
5 ウエハステージ
8 モールド
12 ウエハ
15 樹脂
22 同面板
24 間隙領域
25 ガス回収機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の未硬化樹脂を型により成形して硬化させて、前記基板上に硬化した樹脂のパターンを形成するインプリント装置であって、
前記型と前記未硬化樹脂との押し付けに際し、前記型の側から前記基板上に向けてガスを供給し、かつ供給された前記ガスを前記型の側で回収するガス供給機構と、
前記基板を保持しつつ移動可能であり、かつ、保持された前記基板の表面に合わせた表面高さで前記基板を囲むように外側に配置される平板部を有する基板保持部と、
前記基板保持部に保持された前記基板の外周側面と、前記平板部の前記基板に向かう内周側面との間に存在する間隙領域に入り込んだ前記ガスを回収するガス回収機構と、
を有することを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記ガス回収機構は、前記間隙領域に面する前記平板部の前記内周側面、または前記基板が保持される側の外周側面の少なくとも一方の面に、前記ガスを吸引する複数の吸引口を有することを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記複数の吸引口は、それぞれ独立した回収管に接続され、
前記回収管は、前記平板部の内部に、前記基板が保持される中心位置から円周方向に向かうような放射状に配置されることを特徴とする請求項2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記ガス供給機構を構成する前記ガスを供給する複数の供給口は、前記型に形成されたパターン部の外周領域に隣設され、一方、前記ガス供給機構を構成する前記ガスを回収する複数の回収口は、前記型の外周側面に隣設されており、
前記ガス回収機構の動作を制御する制御部は、前記基板に対する前記パターン部の位置に応じて、前記回収管による回収動作を独立して制御することを特徴とする請求項3に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記パターン部が前記間隙領域に対向する位置に存在する場合には、前記ガスを回収する際に、前記間隙領域に対向する位置にある前記供給口の間に前記吸引口が存在する前記回収管では回収動作を行わせないことを特徴とする請求項4に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記回収動作を行わせない前記回収管の以外の前記回収管のうち、前記回収動作を行わせない前記回収管に最も近くに隣設した前記回収管でのみ回収動作を行わせることを特徴とする請求項5に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記ガスは、ペンタフルオロプロパンであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて基板上に樹脂のパターンを形成する工程と、
前記工程で前記パターンを形成された基板を加工する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−69732(P2013−69732A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205432(P2011−205432)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】