説明

インモールド成形品、インモールド成形用フィルム、およびインモールド成形品の製造方法

【課題】深絞り形状であっても、転写フィルムの内側にある下地(成形された射出成型樹脂の表面)がクラックの間から見える外観不良の防止を図ることができるインモールド成形品を提供する。
【解決手段】本発明にかかるインモールド成形品は、表面に転写フィルム203を有するインモールド成形品において、前記転写フィルム203の着色層105に含有される複数の無機フィラー12を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に転写フィルムを有するインモールド成形品、インモールド成形用フィルム、およびインモールド成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は従来のインモールド成形用フィルムの層構成を示している。インモールド成形用フィルムは連続フィルムであり、大きく分けて、成形品に転写されないキャリアフィルム202と、成形品に転写される転写フィルム203で構成される。図11に示すインモールド成形用フィルムは、例えば色、絵柄、模様等の所定の意匠を表現する着色層105を有しており、成形品の表面を加飾する目的で使用される。このように成形品の表面に所定の意匠を装飾するために用いられるインモールド成形用フィルムは、加飾フィルムと呼ばれる。
【0003】
インモールド成形は、金型内で転写フィルムと射出成形樹脂とを一体成形して、表面に転写フィルムを有する成形品を製造する工法であり、例えば、成形品の表面を様々な絵柄で装飾するのに用いられる。具体的には、インモールド成形では、転写フィルムがキャリアフィルムによって金型内へ搬送されて、その金型に取り付けられた後、金型内の転写フィルムへ向けて、溶融した射出成形樹脂が射出される。
【0004】
加飾フィルムには、溶融した射出成形樹脂からの伝熱や溶融した射出成形樹脂の射出圧力等に起因するインキ流れやインキ飛び等の射出成形時に起こる不良を防止する目的で、着色層を形成するインキに、耐熱性が高く、塗膜硬度が硬い2液硬化性のインキ(熱可塑性樹脂に硬化剤を添加して調製したもの)を使用しているものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
図11に示す加飾フィルム201を更に詳細に説明する。キャリアフィルム202は、加飾フィルム201(転写フィルム203)を連続的に金型内へ供給する役割を果たすPETフィルムやアクリルフィルム等からなるベースフィルム101と、ベースフィルム101から転写フィルム203を剥離させるための剥離層102とで構成される。成形品の表面に転写される転写フィルム203は、保護層またはハードコート層103と、アンカー層104と、着色層105と、隠蔽層106と、接着層107とで構成される。保護層またはハードコート層103は、インモールド成形品の最表面で傷、ゴミ等から転写フィルム203を守る役割を果たす。アンカー層104は、保護層またはハードコート層103と着色層105とを繋ぐ役割を果たす。着色層105は、成形品の表面に色、絵柄、模様等の意匠を付与する役割を果たす。隠蔽層106は、着色層105の色彩を際立たせる役割を果たす。接着層107は、射出成形樹脂に転写フィルム203を接着させる役割を果たす。以上のように加飾フィルム201は複数層で構成される。
【0006】
続いて、インモールド成形品の製造プロセスについて、図12を用いて説明する。図12は、加飾フィルムを用いて、表面が加飾されたインモールド成形品を製造するプロセスを示している。
【0007】
まず、工程S1において、着色層が表現する色、絵柄、模様等の所定の意匠が、固定型1と可動型2との間の所定の位置に配置されるように、箔送り装置3により加飾フィルム201を送る。このとき、加飾フィルム201はベースフィルム101が可動型2を向き、接着層107が固定型1を向くように送られる。
【0008】
固定型1と可動型2との間に加飾フィルム201が配置された後、工程S2において、可動型2のキャビティ面に開口されている吸引穴4から加飾フィルム201を吸引して、可動型2のキャビティ面に加飾フィルム201を装着する。これにより、キャビティ面が加飾フィルム201で賦形される。また、このとき、環状の箔押さえ部材5により加飾フィルム201を固定して、加飾フィルム201を位置決めする。
【0009】
その後、工程S3において、可動型2を動かして、固定型1と可動型2を型締めする。この際、箔押さえ部材5は、固定型1に形成されている収納凹部6に収納される。
【0010】
次に、工程S4において、固定型1のゲート7より加飾フィルム201の接着層に向けて溶融した射出成形樹脂8を射出し、固定型1と可動型2を型締めすることによって形成されたキャビティ内に、溶融した射出成形樹脂8を注入する。これにより、溶融した射出成形樹脂8がキャビティ内に充填される。
【0011】
溶融した射出成形樹脂8の充填完了後、工程S5において、溶融した射出成形樹脂8を所定の温度まで冷却して固化させる。
【0012】
その後、工程S6において、可動型2を動かして、固定型1と可動型2を型開きする。この際、固化した(成形された)射出成形樹脂8の表面に接着している転写フィルム203がキャリアフィルム202から剥がれる。これにより、表面に転写フィルム203のみが転写されたインモールド成形品9を得ることができる。得られたインモールド成形品9は、転写フィルム203の保護層またはハードコート層で覆われた状態となる。
【0013】
次に、工程S7において、固定型1から突き出しピン10を押し出して、インモールド成形品9を取り出す。
【0014】
インモールド成形品9の取り出し完了後、工程S8において、次の成形に備えて、可動型2の吸引穴4からの吸引による加飾フィルム201(キャリアフィルム202)のキャビティ面への吸着を止め、箔送り装置3により加飾フィルム201を送る。これにより、着色層に施された次の成形に使用する色、絵柄、模様等の所定の意匠が、固定型1と可動型2との間の所定の位置に配置される。
【0015】
以上説明した動作を繰り返して、インモールド成形品9を連続して製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許4052647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上のように、インキ流れやインキ飛び等の射出成形時に起こる不良を防止する目的で、耐熱性が高く、塗膜硬度が硬い2液硬化性のインキを使用した加飾フィルムが提案されている。
【0018】
しかしながら、成形品が深絞り形状の場合、2液硬化性、熱硬化性等の硬化性のインキを用いると、そのような硬化性のインキは、熱可塑性のインキに比べて伸縮性が劣るので、インモールド成形品の製造中に、着色層105内で発生したマイクロクラック(外観上判断することができない程に超微細なクラック)が、外観上確認できるクラックに伸展して、さらに、着色層105を貫通する大きなクラックにまで拡大するという問題が起こる。マイクロクラックの発生と成長は、インモールド成形品の製造プロセスにおける様々な場面で起こる可能性があるが、可能性が特に高い工程は、溶融した射出成形樹脂8がキャビティ内に充填される工程S4である。また、マイクロクラックの発生と成長が起こる可能性が特に高い箇所は、成形品のコーナー部に対応する箇所である。
【0019】
図13(a)は、図12の工程S4を抜き出して示す工程別断面図、図13(b)は図13(a)における部分Aの拡大断面図である。部分Aは、成形品のコーナー部に対応する箇所である。また、図13(c)は、図13(b)における部分Bの拡大断面図であり、成形品のコーナー部に対応する箇所を更に拡大して示している。
【0020】
図13(a)に示す工程S4において、溶融した射出成形樹脂8が金型のキャビティ内に充填されるときには、射出成形樹脂8の射出圧力(注入圧力)が加飾フィルム201に加わって、それによる引張り応力が加飾フィルム201に発生する。射出成形樹脂8の射出圧力は、成形品のコーナー部に対応する箇所において最も大きくなるので、射出成形樹脂8の射出圧力に起因する引張り応力も、成形品のコーナー部に対応する箇所において最も集中する。図13(b)に、成形品のコーナー部に対応する箇所において射出成形樹脂8から加飾フィルム201に加わる応力を矢印301で示す。また、図13(b)に、成形品のコーナー部に対応する箇所において着色層105に発生する引張り応力を矢印302で示す。また、成形品が深絞り形状の場合、可動型2のキャビティ面に開口されている吸引穴4から加飾フィルム201を吸引しても、成形品のコーナー部に対応する箇所では、可動型2のキャビティ面に加飾フィルム201が密着せず、そこでは、可動型2のキャビティ面と加飾フィルム201との間に隙間が空いている。そのため、成形品のコーナー部に対応する箇所において射出成形樹脂8から加飾フィルム201へ大きな射出圧力301が加わり、そこにおいて射出成形樹脂8の射出圧力301による大きな引張り応力302が加飾フィルム201に発生することと、成形品のコーナー部に対応する箇所において可動型2のキャビティ面と加飾フィルム201との間に隙間が空いていることが相俟って、成形品が深絞り形状の場合には、溶融した射出成形樹脂8の射出時に、成形品のコーナー部に対応する箇所において、加飾フィルム201に大きな伸びが起こる。したがって、そこにおいて加飾フィルム201に大きな負荷がかかる。また、加飾フィルム201は、成形品のコーナー部に対応する箇所において最も薄くなる。
【0021】
以上のように、成形品が深絞り形状の場合、射出成形樹脂8の射出時に、成形品のコーナー部に対応する箇所において、加飾フィルム201に大きな負荷がかかる。そのため、熱可塑性のインキに比べて伸縮性が劣る2液硬化性、熱硬化性等の硬化性のインキを用いると、成形品のコーナー部に対応する箇所において加飾フィルム201にかかる大きな負荷に着色層105を形成するインキが耐えきれず、着色層105内にマイクロクラックが発生し、そのマイクロクラックが伸展(成長)して、図13(b)に示すように、着色層105内に、外観上確認できるクラック11が発生する。このクラック11は、成形品のコーナー部に対応する箇所において加飾フィルム201が最も薄くなっているため、図13(c)に示すように、着色層105を起点に他の層まで拡大(成長)し易い。その結果、インモールド成形品9は、着色層105よりも内側にある下地(固化した射出成形樹脂8の表面)がクラック11を通じて視認される外観不良品となる。
【0022】
以上のように、成形品が深絞り形状の場合、2液硬化性、熱硬化性等の硬化性のインキを用いると、成形品のコーナー部に大きなクラック11が発生して、着色層105よりも内側にある下地がクラック11を通じて視認できる外観不良が起こる。そのため、2液硬化性、熱硬化性等の硬化性のインキは、浅絞り形状の成形品にのみ用いて、深絞り形状の成形品には使用しないか、または、成形品のコーナー部に対してのみ、溶融している射出成形樹脂の熱で軟化して伸び易くなる熱可塑性のインキを使用している。成形品のコーナー部に対してのみ熱可塑性のインキを用いる場合、着色層を形成する工程が複雑になり、その工程数が増えるため、コスト高や歩留まり低下等の問題が起こる。
【0023】
本発明は、深絞り形状でも、転写フィルムの内側にある下地(成形された射出成形樹脂の表面)がクラックを通じて視認される外観不良の無いインモールド成形品を提供することを目的とする。
【0024】
また、本発明は、成形品が深絞り形状でも、射出成形時に転写フィルムの着色層内に発生したマイクロクラックが成長し難いインモールド成形用フィルムを提供することを目的とする。
【0025】
また、本発明は、成形品が深絞り形状でも、射出成形時に転写フィルムの着色層内に発生したマイクロクラックが成長し難いインモールド成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するために、本発明のインモールド成形品の一つの側面は、表面に転写フィルムを有するインモールド成形品において、前記転写フィルムの着色層に含有される複数の無機フィラーを備えることを特徴とする。
【0027】
また、本発明のインモールド成形品の他の側面は、前記転写フィルムの着色層において、前記無機フィラー間にマイクロクラックが発生していることである。
【0028】
また、本発明のインモールド成形品の他の側面は、前記無機フィラーの表面と前記無機フィラーを包む前記転写フィルムの着色層を形成しているインキとの界面から前記マイクロクラックが発生していることである。
【0029】
また、本発明のインモールド成形品の他の側面は、前記無機フィラーの平均粒子径が、前記転写フィルムの着色層の最も薄い箇所の膜厚以下の大きさであることである。
【0030】
また、本発明のインモールド成形品の他の側面は、前記転写フィルムの着色層を形成しているインキに、硬化性のインキが用いられていることである。
【0031】
また、本発明のインモールド成形品の他の側面は、前記無機フィラーの形状が、麟片状(鱗片状)または偏平板状、あるいは、棒状であることである。
【0032】
また、本発明のインモールド成形品の他の側面は、前記転写フィルムの着色層における接着層側の面、および接着層の表面が、凹凸状態となっていることである。
【0033】
また、上記目的を達成するために、本発明のインモールド成形用フィルムの一つの側面は、キャリアフィルム上に転写フィルムが設けられたインモールド成形用フィルムにおいて、前記転写フィルムの着色層に含有される複数の無機フィラーを備えることを特徴とする。
【0034】
また、本発明のインモールド成形用フィルムの他の側面は、前記無機フィラーの平均粒子径が、前記転写フィルムの着色層の最も薄い箇所の膜厚以下の大きさであることである。
【0035】
また、本発明のインモールド成形用フィルムの他の側面は、前記転写フィルムの着色層を形成しているインキに、硬化性のインキが用いられていることである。
【0036】
また、本発明のインモールド成形用フィルムの他の側面は、前記無機フィラーの形状が、麟片状(鱗片状)または偏平板状、あるいは、棒状であることである。
【0037】
また、本発明のインモールド成形用フィルムの他の側面は、前記転写フィルムの着色層における接着層側の面、および接着層の表面が、凹凸状態となっていることである。
【0038】
また、本発明のインモールド成形用フィルムの他の側面は、前記転写フィルムが、保護層またはハードコート層、アンカー層、着色層、隠蔽層、接着層の順に構成され、前記キャリアフィルムが、ベースフィルム、剥離層の順に構成されていることである。
【0039】
また、上記目的を達成するために、本発明のインモールド成形品の製造方法の一つの側面は、第1金型と第2金型の間に、転写フィルムの着色層に複数の無機フィラーが含有されているインモールド成形用フィルムを配置し、前記第1金型と前記第2金型を型締めし、前記第1金型と前記第2金型を型締めして形成したキャビティに樹脂を流し込み、前記キャビティに流し込まれた前記樹脂を冷却し、前記第1金型と前記第2金型を型開きして、前記インモールド成形用フィルムのキャリアフィルムから転写フィルムを剥がし、表面に前記転写フィルムを有するインモールド成形品を取り出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明のインモールド成形品によれば、深絞り形状でも、転写フィルムの内側にある下地(成形された射出成形樹脂の表面)がクラックを通じて視認される外観不良が起こり難い。より詳しくは、射出成形時に転写フィルムの着色層内に発生したマイクロクラックの成長が、着色層に含有されている無機フィラーによって止められるので、下地となる射出成形樹脂の表面まで到達するクラックが発生し難くなる。その結果、転写フィルムの内側にある下地がクラックを通じて視認される外観不良の発生を抑制できる。
【0041】
また、本発明のインモールド成形用フィルムによれば、転写フィルムの着色層に無機フィラーが含有されているので、成形品が深絞り形状でも、射出成形時に転写フィルムの着色層内に発生したマイクロクラックの成長が無機フィラーによって止められて、マイクロクラックは成長し難くなる。
【0042】
また、本発明のインモールド成形品の製造方法によれば、使用するインモールド成形用フィルムの転写フィルムの着色層内に無機フィラーが含有されているので、成形品が深絞り形状でも、射出成形時に転写フィルムの着色層内に発生したマイクロクラックの成長が無機フィラーによって止められて、マイクロクラックは成長し難くなる。
【0043】
また、本発明のインモールド成形品、インモールド成形用フィルム、およびインモールド成形品の製造方法によれば、上記したように、射出成形時に転写フィルムの着色層内に発生したマイクロクラックの成長を、着色層に含有されている無機フィラーによって止めることができるので、着色層を形成するインキとして、熱可塑性のインキに比べて伸縮性が劣るために射出成形時にクラックが発生し易い2液硬化性、熱硬化性等の硬化性のインキを用いることが可能となる。
【0044】
以上のように、本発明によれば、成形品が深絞り形状の場合に、加飾フィルムの着色層を硬化性のインキで形成しても、着色層内に発生したマイクロクラックの成長を無機フィラーによって止めることができ、外観不良の発生を抑制できる。よって、成形品が深絞り形状であっても、着色層を硬化性のインキで形成することが可能となる。その結果、着色層を形成するのに複雑な工程を必要とせず、その工程数を増やさずに済む。また、着色層を形成するのに耐熱性が高く塗膜硬度も硬い硬化性のインキを使用できるため、熱可塑性のインキで起こりやすいインキ流れやインキ飛び等も防止できる。したがって、外観品位の良好なインモールド成形品を低コストで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1におけるインモールド成形用の加飾フィルムの層構成を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1におけるインモールド成形品の製造工程の一部を示す工程別断面図
【図3】本発明の実施の形態1におけるインモールド成形品の拡大断面図
【図4】本発明の実施の形態1におけるインモールド成形品の拡大断面図
【図5】本発明の実施の形態2におけるインモールド成形品の製造工程の一部を示す工程別断面図
【図6】本発明の実施の形態2におけるインモールド成形品の製造工程の一部を拡大して示す図
【図7】本発明の実施の形態2における無機フィラーの他例を示す斜視図
【図8】本発明の実施の形態3におけるインモールド成形用の加飾フィルムの層構成を示す断面図
【図9】本発明の実施の形態3におけるインモールド成形品の製造工程の一部を示す工程別断面図
【図10】本発明の実施の形態3におけるインモールド成形品の製造工程の一部を示す工程別断面図
【図11】従来のインモールド成形用の加飾フィルムの層構成を示す断面図
【図12】従来のインモールド成形品の製造工程を示す工程別断面図
【図13】従来のインモールド成形品の製造工程の一部を示す工程別断面図
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する場合もある。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示されている。図示された各構成要素の厚み、長さ、個数等は図面作成の都合上から、実際とは異なる。
【0047】
また、本発明は、以下の各実施の形態で説明する加飾フィルムに限定されて適用されるものではない。本発明は、以下で説明する加飾フィルムとは層構成が異なる加飾フィルムにも適用できる。
【0048】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるインモールド成形用の加飾フィルムの層構成を示している。図1において図11〜図13に示す要素に対応する要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0049】
図1に示す加飾フィルム204は、キャリアフィルム202と転写フィルム203で構成された連続フィルムである。
【0050】
キャリアフィルム202は、ベースフィルム101と剥離層102で構成される。ベースフィルム101の膜厚は、一般的には、20μm〜100μmの間から選択される。この実施の形態1では、50μmの膜厚を有するベースフィルム101を使用した。剥離層102は、乾燥後に平均膜厚が3μm程度となるようにベースフィルム101上に形成した。
【0051】
転写フィルム203は、一般的に、2μ〜50μmの膜厚を有するように構成される。この実施の形態1では、乾燥後の膜厚の最も厚い箇所が25μm程度となるように転写フィルム203を構成した。詳しくは、転写フィルム203を構成する各層の乾燥後の平均膜厚が、保護層またはハードコート層103については5μm、アンカー層104については3μm、着色層105については10μm、隠蔽層106について5μm、接着層107については2μmとなるように、転写フィルム203の各層を形成した。保護層またはハードコート層103には、UVアフターキュアタイプを使用した。
【0052】
この実施の形態1における加飾フィルム204では、転写フィルム203の着色層105内に無機フィラー12が分散されている。
【0053】
着色層105内に加える無機フィラー12には、基本的には、射出成形前の着色層105の最も薄い箇所の膜厚以下の大きさの平均粒子径(カタログ値)を有するものを使用する。
【0054】
無機フィラー12は、その形状にもよるが、着色層105内で十分に分散できる、平均粒子径の小さいものがより効果的である。これは、着色層105内で無機フィラー12を十分に分散できないと、成形品のコーナー部に対応する箇所等の外観上確認できるクラックが生じ易いに箇所に、マイクロクラックの成長を防止して外観不良の発生を抑えるのに必要な量の無機フィラー12が存在できないおそれがあるためである。また、後述するが、無機フィラー12が着色層105内で十分に分散すると、転写フィルム203が薄くなる成形品のコーナー部等での色透けを防止できる。無機フィラー12の着色層105内での分散性を考慮すると、例えば、乾燥後の着色層105の平均膜厚が10μmの場合、球状の無機フィラー12であれば平均粒子径が0.2μm〜2μmの範囲のものが好ましい。但し、射出成形時に着色層105内で発生するマイクロクラックの成長を抑えることができれば、無機フィラー12の平均粒子径は特に限定されるものではない。
【0055】
無機フィラー12の種類は、半透明でインキの色に対して影響の少ないシリカ、タルク等が有効であるが、射出成形時に着色層105内で発生するマイクロクラックの成長を防止して外観不良の発生を抑えることができるものであればよく、特に限定されるものではない。
【0056】
また、無機フィラー12の製造方法も、射出成形時に着色層105内で発生するマイクロクラックの成長を防止して外観不良の発生を抑えることができる無機フィラー12を製造できる方法であればよく、特に限定されるものではない。例えばシリカを例にすると、加工方法の違いによって、シリカにも球状シリカやコロイダルシリカ、粉砕シリカ、多孔質シリカ等の種類があるが、シリカの加工方法は、射出成形時に着色層105内で発生するマイクロクラックの成長を防止して外観不良の発生を抑えることができるシリカを製造できる方法であればよく、特に限定されるものではない。
【0057】
この実施の形態1では、無機フィラー12として平均粒子径が0.2μmの球状シリカをインキに分散させて、乾燥後の平均膜厚が10μm、最も薄い箇所の膜厚が9μm程度となる着色層105を形成した。着色層105を形成するインキには、ウレタンタイプの2液硬化性のインキ(熱可塑性樹脂に、ウレタンタイプの硬化剤を添加して調製したもの)を使用した。詳しくは、無機フィラー12を重量比でインキ100重量部に対して5重量部の割合でインキに分散させた後、スクリーン印刷およびその後工程の乾燥工程により、少なくとも所定の意匠を保てる程度の硬度を有する未硬化状態の着色層105を形成した。
【0058】
無機フィラー12の添加量は、射出成形時に着色層105内で発生するマイクロクラックの成長を防止して外観不良の発生を抑えることができれば、特に限定されるものではないが、同じ添加量でも、インキの種類と無機フィラー12の平均粒子径の大きさによってインキの粘性が変わることを考慮して選択する。高粘性のインキは印刷または塗工時の取り扱いが難しくなるためである。一般的には、無機フィラー12の添加量が多くなれば、インキが高粘性になる傾向がある。無機フィラー12として、平均粒子径が0.2μmの球状シリカを用いた場合は、インキ100重量部に対して0.5重量部〜30重量部の添加量で球状シリカをインキに分散させるのが粘性の点で好ましいことがわかった。なお、粘度調整の観点から平均粒子径が異なる無機フィラー12を分散させてもよい。
【0059】
インキは、基本的に、2液の重合反応により硬化する2液硬化性、熱により硬化する熱硬化性、紫外線により硬化するUV硬化性、電子線により硬化するEB硬化性等の架橋構造を取る硬化性のインキであればよく、特に限定されるものではない。
【0060】
インキの主材料の樹脂についても特に限定されるものではなく、着色層105に隣接する層に使用される材料との相性に合わせて、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂などの中から選定すればよい。
【0061】
無機フィラー12を分散させたインキを用いて着色層105を形成する方法についても特に限定されるものではなく、着色層または着色層以外の層を形成する一般的な方法と同様に、スクリーン印刷機、グラビア印刷機、インクジェット印刷機、コーターなどを用いて形成することができる。なお、着色層を形成する方法の違いによってインキの粘性の好適な範囲が異なるので、着色層を形成する方法に合わせて、インキの種類や無機フィラー12の添加量等を選定して、インキの粘度調整を行うのがよい。
【0062】
以上説明した加飾フィルム204を用いてインモールド成形品を製造するプロセスは、図12に示すインモールド成形品の製造プロセスと同様であり、第1金型または第2金型の一例である固定型1と、第2金型または第1金型の一例である可動型2との間に配置するインモールド成形用フィルムに、図11に示す加飾フィルム201に代えて、図1に示す加飾フィルム204を用いる点のみが異なるので、その説明は省略する。
【0063】
続いて、着色層105内に無機フィラー12が分散されていることにより、着色層105内で発生したマイクロクラックが成長(伸展)しないことについて、図2を用いて説明する。図2(a)は、溶融した射出成形樹脂8を金型のキャビティ内に充填する工程の工程別断面図、図2(b)は図2(a)における部分Aの拡大断面図である。部分Aは、成形品のコーナー部に対応する箇所である。また、図2(c)は、図2(b)における部分Bの拡大断面図であり、成形品のコーナー部に対応する箇所を更に拡大して示している。図2において図1、図11〜図13に示す要素に対応する要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0064】
図2(b)に示すように、溶融した射出成形樹脂8が金型のキャビティ内に充填されるときには、射出成形樹脂8の射出圧力(注入圧力)301が加飾フィルム204に加わって、それによる引張り応力302が加飾フィルム204に発生する。射出成形樹脂8の射出圧力は、成形品のコーナー部に対応する箇所において最も大きくなるので、射出成形樹脂8の射出圧力に起因する引張り応力も、成形品のコーナー部に対応する箇所において最も集中する。また、成形品が深絞り形状の場合、溶融した射出成形樹脂8が金型のキャビティ内に注入されるよりも前の段階では、成形品のコーナー部に対応する箇所において、可動型2のキャビティ面に加飾フィルム204が密着しておらず、そこでは、可動型2のキャビティ面と加飾フィルム204との間に隙間が空いている。そのため、成形品のコーナー部に対応する箇所において射出成形樹脂8から加飾フィルム204へ大きな射出圧力301が加わり、そこにおいて射出成形樹脂8の射出圧力301による大きな引張り応力302が加飾フィルム204に発生することと、成形品のコーナー部に対応する箇所において可動型2のキャビティ面と加飾フィルム204との間に隙間が空いていることが相俟って、成形品が深絞り形状の場合には、溶融した射出成形樹脂8の射出時に、成形品のコーナー部に対応する箇所において、加飾フィルム204に大きな伸びが起こる。したがって、そこにおいて加飾フィルム204に大きな負荷がかかる。また、加飾フィルム204は、成形品のコーナー部に対応する箇所において最も薄くなる。
【0065】
以上のように、成形品が深絞り形状の場合、射出成形樹脂8の射出時に、成形品のコーナー部に対応する箇所において、加飾フィルム204に大きな負荷がかかる。そのため、熱可塑性のインキに比べて伸縮性が劣る2液硬化性、熱硬化性等の硬化性のインキを用いると、成形品のコーナー部に対応する箇所において加飾フィルム204にかかる大きな負荷に着色層105を形成するインキが耐えきれず、図2(c)に示すように、着色層105内にマイクロクラック13が発生する。なお、マクロクラックは外観上判断できないものであり、図2(c)のマイクロクラック13は概念的に示したものである。これは、他の図に示されたマイクロクラックについても同様である。
【0066】
しかし、この実施の形態1の加飾フィルム204では、乾燥後の平均膜厚が10μmの着色層105の内部に平均粒子径が0.2μmの球状の無機フィラー12が分散されている。そのため、マイクロクラック13が発生しても、そのマイクロクラック13の成長は、図2(c)に示すように、最大でも無機フィラー12間で止まり、それ以上は伸展(成長)しない。マイクロクラック13は、無機フィラー12と着色層105との界面を起点に発生する。したがって、射出成形後の着色層105において最も薄くなる箇所である成形品コーナー部での着色層105の膜厚は約5μmであったが、このように平均膜厚よりも薄くなっている成形品のコーナー部においても、着色層105を貫通するクラックは発生しない。
【0067】
なお、インモールド成形品の製造プロセスにおいては、そのプロセスの条件によって、上記した射出成形樹脂8の充填工程以外の他の工程(例えば、射出成形樹脂8を冷却する工程等)でも着色層105内にマイクロクラック13が発生する可能性があるが、いずれの工程でマイクロクラック13が発生しても、そのマイクロクラック13の成長は無機フィラー12によって止められるので、マイクロクラック13が、着色層105を貫通するクラックへと拡大(成長)することはない。
【0068】
以上説明したように、成形品の形状が深絞りの場合、熱可塑性のインキに比べて伸縮性が劣る2液硬化性、熱硬化性等の硬化性のインキを用いると、インモールド成形品の製造プロセスにおいてマイクロクラック13が発生するが、マイクロクラック13が発生しても、その成長は無機フィラー12によって止められるので、着色層105を貫通するクラックは発生しない。
【0069】
したがって、図3に示すように、金型内から取り出したインモールド成形品9のコーナー部を保護層またはハードコート層103側から目14で目視確認しても、着色層105を貫通するクラックが発生していないため、下地(成形された射出成形樹脂8の表面)がクラックを通じて視認されることはない。よって、この実施の形態1によれば、深絞り形状でもコーナー部で下地(成形された射出成形樹脂8の表面)が視認されることのない外観品位の良好なインモールド成形品9を得ることができる。
【0070】
続いて、着色層105内に無機フィラー12が分散されていることにより、下地の色透けを抑制できることについて、図4を用いて説明する。図4(a)は図11に示した従来の加飾フィルム201を使用したインモールド成形品9の拡大断面図、図4(b)は図1に示した加飾フィルム204を使用したインモールド成形品9の拡大断面図である。図4において図1〜図3、図11〜図13に示す要素に対応する要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0071】
深絞り成形品のコーナー部においては加飾フィルムが引き伸ばされることで着色層が薄膜化するが、この実施の形態1における加飾フィルム204を使用した場合、着色層105を貫通するクラックが発生しないため、下地(固化した射出成型樹脂8の表面)がクラックを通じて視認されることはなく、所望の意匠を実現できる。
【0072】
さらに、無機フィラー12を着色層105内へ分散させることで、図4(b)に示すように、着色層105が薄膜化しても、保護層もしくはハードコート層103側から入射した光15を着色層105内の無機フィラー12が散乱させるため、光15は下地まで透過し難い。一方、図11に示す従来の加飾フィルム201を使用した場合は、着色層105が薄膜化すると、図4(a)に示すように、保護層もしくはハードコート層103側から入射した光15が下地まで容易に透過するため、下地が透けて見えるおそれがある。したがって、この実施の形態1における加飾フィルム204を使用することで、成形品のコーナー部での下地の色透けを抑制できる。
【0073】
なお、この実施の形態1では、1層で構成された着色層105を例に説明したが、成形品の表面を加飾する絵柄や模様などの意匠によっては、着色層を複数の層で構成することがある。その場合、例えば着色層を3層で構成するときには、3層とも無機フィラー12を分散させてもよいし、3層のうち最もクラックの入り易い1層もしくは2層にだけ無機フィラー12を分散させ、残りの層には無機フィラー12を分散させないようにしてもよい。これは、以下で詳述する実施の形態2および3においても同様である。
【0074】
(実施の形態2)
前述した実施の形態1におけるインモールド成形品が問題になることは基本的にない。但し、成形品の深絞り形状が大きく(深さが深く)、成形品のコーナー部で着色層105がより引き伸ばされて薄膜化し易い場合には、この実施の形態2のほうが、より外観品位のよいインモールド成形品を得ることが可能となる。
【0075】
この実施の形態2は、着色層105内に分散させる無機フィラー12の形状が、前述した実施の形態1と異なる。具体的には、加飾フィルム204の着色層105へ分散させる無機フィラー12の形状として、麟片形状(鱗片形状)もしくは偏平板形状を選択している。以下、この実施の形態2について、前述した実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
【0076】
図5(a)は、溶融した射出成形樹脂8を金型のキャビティ内に充填する工程の工程別断面図、図5(b)は図5(a)における部分Aの拡大断面図である。部分Aは、成形品のコーナー部に対応する箇所である。また、図5(c)は、この実施の形態2における無機フィラー12を示す斜視図である。また、図6の右図は図5(b)における部分Bの拡大断面図であり、図6の左図は図5(b)における部分Cの拡大断面図である。部分Bの拡大断面図は、成形品のコーナー部に対応する箇所を更に拡大して示している。部分Cの拡大断面図は、成形品のコーナー部に対応する箇所から離れている箇所を更に拡大して示している。図5および図6において図1〜図4、図11〜図13に示す要素に対応する要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0077】
この実施の形態2では、先に述べたように、加飾フィルム204の着色層105に加える無機フィラー12として、麟片形状(鱗片形状)もしくは偏平板形状の無機フィラー12を使用している。以下、麟片形状(鱗片形状)もしくは偏平板形状の無機フィラー12を、麟片状無機フィラー12aと称す。このような麟片状無機フィラー12aを使用することで、着色層105を貫通するクラックがより発生し難くなる。さらに、インモールド成形品の色透けもより起こり難くなる。
【0078】
麟片状無機フィラー12aの寸法は、例えば、乾燥後の平均膜厚が15μmの着色層105内に分散させる場合には、その平均粒子径(カタログ値)は、着色層105の平均膜厚の半分以下となる1μm〜7μmの範囲から選択し、その短軸と長軸の比(アスペクト比)は0.9〜0.3の範囲から選択し、その厚みは平均粒子径の半分以下となる0.1μm〜3.5μmの範囲から選択するのが望ましい。なお、麟片状無機フィラー12aの場合、長軸(アスペクト比の長い方)がその平均粒子径となる。この実施の形態2では、図5(c)に示すように、平均粒子径(長軸)が7μm、短軸が3μm、厚みが1μmの麟片状無機フィラー12aを使用した。但し、麟片状無機フィラー12aの寸法は、特に限定されるものではなく、着色層105を貫通するクラックが発生し難くなる寸法であればよい。
【0079】
麟片上無機フィラー12aの添加量は、着色層105を貫通するクラックが発生し難くなる限り、特に限定されるものではないが、着色層105を形成するインキの粘性等を考慮して選定する。この実施の形態2では、インキ100重量部に対して10重量部〜30重量部の添加量で麟片上無機フィラー12aをインキに分散させた。
【0080】
既に述べたように、深絞り形状のインモールド成形品の製造工程では、溶融した射出成形樹脂8を金型のキャビティ内に充填させる工程において、図5(b)に示すように、射出成形樹脂8から加飾フィルム204へ加わる応力301が、成形品のコーナー部に対応する箇所で最も集中し、その応力301により、着色層105を伸ばす応力302が発生する。また、成形品が深絞り形状の場合、成形品のコーナー部に対応する箇所では、可動型2のキャビティ面と加飾フィルム204との間に隙間が空いている。これらのため、図6に示すように、成形品のコーナー部に対応する箇所において着色層105は引き伸ばされて薄膜化する。
【0081】
このように着色層105が薄膜化する過程で、麟片状無機フィラー12aは、図6の部分Bの拡大断面図に示すように、着色層105が伸ばされるのに合わせて、着色層105が伸びる方向にその長軸方向が沿うように配向される。このように麟片状無機フィラー12aが配向されることで、麟片状無機フィラー12a間の距離が縮まる上、麟片状無機フィラー12aが配向される過程で麟片状無機フィラー12a間に発生したマイクロクラック13の、着色層105の膜厚方向への成長が止まりやすくなる。つまり、転写フィルム203の膜厚が最も薄くなる箇所において、麟片状無機フィラー12aの長軸が転写フィルム203の伸びる方向に揃うので、転写フィルム203の膜厚方向へのマイクロクラック13の成長を麟片状無機フィラー12aによって防止しやすくなる。また、この麟片状無機フィラー12aの配向により、保護層もしくはハードコート層103側から入射した光の下地(成形された射出成形樹脂8の表面)への透過も起こり難くなる。したがって、深絞り形状が大きいインモールド成形品のコーナー部における下地の色透け防止にも有効となる。
【0082】
なお、着色層105に加える無機フィラー12として麟片状無機フィラー12aを選択した場合について説明したが、図7に示すような棒状の無機フィラー12を選択してもよい。以下、棒状の無機フィラー12を棒状無機フィラー12bと称す。棒状無機フィラー12bを使用した場合も、麟片状無機フィラー12aを使用した場合と同様に、着色層105を貫通するクラックがより発生し難くなり、インモールド成形品の色透けもより起こり難くなる。
【0083】
棒状無機フィラー12bの寸法も、特に限定されるものではなく、着色層105を貫通するクラックが発生し難くなる寸法であればよい。例えば、乾燥後の平均膜厚が15μmの着色層105内に分散させる場合には、短軸aが9μmで長軸bが35μm(アスペクト比は4)の棒状無機フィラー12bや、短軸aが3.5μmで長軸bが20μm(アスペクト比は6)の棒状無機フィラー12b等を使用することができる。なお、棒状無機フィラー12bの場合も、長軸(アスペクト比の長い方)がその平均粒子径となる。
【0084】
棒状無機フィラー12bの添加量も、着色層105を貫通するクラックが発生し難くなる限り、特に限定されるものではない。例えば、乾燥後の平均膜厚が15μmの着色層105内に分散させる場合、着色層105を形成するインキの粘性等を考慮すると、棒状無機フィラー12bは、インキ100重量部に対して10重量部〜30重量部の添加量でインキに分散させるのが粘性の点で好ましい。
【0085】
(実施の形態3)
図8は、本発明の実施の形態3におけるインモールド成形用の加飾フィルムの層構成を示している。図8において図1〜図7、図11〜図13に示す要素に対応する要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0086】
この実施の形態3は、図8に示すように、着色層105と隠蔽層106との界面、隠蔽層106と接着層107との界面、および接着層107の表面が凹凸状態である点で、前述した実施の形態1と異なる。このように、着色層105と隠蔽層106との界面、および隠蔽層106と接着層107との界面を凹凸状態にすることで、着色層105と隠蔽層106の層間剥離、および隠蔽層106と接着層107の層間剥離が起こり難くなる。また、接着層107の表面を凹凸状態にすることで、射出成形時に、溶融した射出成形樹脂8から加飾フィルム204へ熱がよく伝わり、大きなクラックが発生し難くなる。
【0087】
なお、図8には、前述した実施の形態1と同様に球状の無機フィラー12を示しているが、無機フィラー12の形状は特に限定されるものではない。例えば、実施の形態2で説明した麟片状無機フィラー12aや棒状無機フィラー12b等を用いることもできる。
【0088】
以下、この実施の形態3について、前述した実施の形態1および2と異なる点を中心に説明する。図8に示すように、着色層105と隠蔽層106の界面、すなわち着色層105の表面(接着層107側の面)を凹凸状態にするには、無機フィラー12の平均粒子径(カタログ値)に合わせて、無機フィラー12の添加量を調整すればよい。例えば、実施の形態1と同様に乾燥後の平均膜厚が10μmとなる着色層105を形成する場合には、その形状に拘らず、平均粒子径(カタログ値)が0.2μm〜2μmの範囲の無機フィラー12を、重量比でインキ100重量部に対して10重量部〜30重量部の範囲でインキに添加すると、印刷または塗工後の着色層105の表面粗さが大きくなり、凹凸状態がより顕著になった。
【0089】
一例を紹介すると、例えば平均粒子径が0.2μmの無機フィラー12を、重量比でインキ100重量部に対して10重量部でインキに分散させた場合、着色層105の表面粗さは、無機フィラー12を分散させない場合の平均粗さRaが0.016であるの対して、平均粗さRa0.13となり、無機フィラー12を分散させない場合よりも8倍程粗くなり、凹凸状態が顕著となった。このように、無機フィラー12を分散させない場合よりも着色層105の表面の平均粗さを8倍程度粗くすることは、着色層105と隠蔽層106の層間剥離、および隠蔽層106と接着層107の層間剥離の防止や、射出成形時における溶融した射出成形樹脂8からの伝熱性の向上の点で、より有効である。また、平均粒子径が0.2μmよりも大きい無機フィラー12を使用する場合でも、無機フィラー12を分散させない場合と比較して着色層105の表面の平均粗さが8倍以上粗くなるよう無機フィラー12の添加量を調整すれば、着色層105と隠蔽層106の層間剥離、および隠蔽層106と接着層107の層間剥離の防止や、射出成形時における溶融した射出成形樹脂8からの伝熱性の向上の点で、平均粒子径が0.2μmの場合と同様の効果を得られた。
【0090】
なお、上記した無機フィラー12の平均粒子径と添加量の数値は一例であって、無機フィラー12の平均粒子径と添加量は、着色層105と隠蔽層106との界面、隠蔽層106と接着層107との界面、および接着層107の表面を凹凸状態にできる限り、特に限定されるものではない。
【0091】
着色層105を形成した後、凹凸状態の着色層105の表面に隠蔽層106を印刷または塗工により形成すると、着色層105の凹凸状態の影響を受けて、隠蔽層106の表面も平滑化され難い。つまり、隠蔽層106の表面も凹凸状態となる。同様に、凹凸状態の隠蔽層106の表面に接着層107を印刷または塗工により形成すると、隠蔽層106の凹凸状態の影響を受けて、接着層107の表面も平滑化され難い。つまり、接着層107の表面も凹凸状態となる。
【0092】
特に、隠蔽層106の乾燥後の平均膜厚が5μm以下となる場合は、隠蔽層106の表面も着色層105と同程度の表面粗さの凹凸状態となる。また、隠蔽層106の乾燥後の平均膜厚を5μm以下にし、かつ、接着層107の乾燥後の平均膜厚も5μm以下にした場合は、接着層107の表面も着色層105と同程度の表面粗さの凹凸状態となる。
【0093】
凹凸状態の着色層105の表面に隠蔽層106を形成する際には、隠蔽層106を形成する樹脂が着色層105の凹凸部の凹部に入り込み、また、それにより着色層105と隠蔽層106との界面の面積が大きくなるので、着色層105と隠蔽層106の密着性が向上し、着色層105と隠蔽層106の層間剥離が起こりにくい状態となる。
【0094】
同様に、凹凸状態の隠蔽層106の表面に接着層107を形成する際には、接着層107を形成する樹脂が隠蔽層106の凹凸部の凹部に入り込み、また、それにより隠蔽層106と接着層107との界面の面積が大きくなるので、隠蔽層106と接着層107の密着性が向上し、隠蔽層106と接着層107の層間剥離が起こりにくい状態となる。
【0095】
以上説明した加飾フィルム204を用いたインモールド成形品の製造プロセスは、図12に示す製造プロセスと同様であり、第1金型または第2金型の一例である固定型1と、第2金型または第1金型の一例である可動型2との間に配置するインモールド成形用フィルムに、図8に示す加飾フィルム204を用いている点のみが異なるので、その説明は省略する。
【0096】
続いて、図8に示す加飾フィルム204を用いてインモールド成形品を製造することにより、射出成形時に、溶融した射出成形樹脂8から加飾フィルム204への伝熱性が高まることについて、図9を用いて説明する。図9(a)は、溶融した射出成形樹脂8を金型のキャビティ内に充填する工程の工程別断面図、図9(b)は図9(a)における部分Aの拡大断面図である。部分Aは、成形品のコーナー部に対応する箇所である。図9において図1〜図8、図11〜図13に示す要素に対応する要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0097】
図9(a)に示すように、溶融した射出成形樹脂8が金型内へ注入される工程では、図9(b)に示すように、加飾フィルム204の接着層107の表面が凹凸状態で粗くなっているため、溶融した射出成形樹脂8が接着層107の凹凸部の凹部に入り込み、接着層107と射出成形樹脂8との界面の面積が大きくなる。そのため、溶融した射出成形樹脂8の熱が加飾フィルム204によく伝わり、その溶融した射出成形樹脂8からの熱によって、加飾フィルム204が温まって伸びやすくなる。図9(b)に、溶融した射出成形樹脂8から加飾フィルム204へ伝わる熱を矢印303で示す。
【0098】
このように溶融した射出成形樹脂8からの熱によって加飾フィルム204が伸びやすくなると、金型のキャビティ面と加飾フィルム204との間に隙間が発生している金型のキャビティのコーナー部(成形品のコーナー部に対応する箇所)で、加飾フィルム204が、金型のキャビティ面の形状に沿い易くなる。これにより、成形品のコーナー部に対応する箇所で加飾フィルム204にかかる負荷が軽減されるので、着色層105を貫通するクラックがより発生し難くなる。
【0099】
さらに、溶融した射出成形樹脂8からの伝熱効率が高まるので、着色層105を形成する2液硬化性、熱硬化性等の硬化性のインキの架橋反応がより促進される。したがって、着色層105が完全硬化し易くなる。
【0100】
また、溶融した射出成形樹脂8が接着層107の凹凸部の凹部に入り込み、また、それにより射出成型樹脂8と接着層107の界面の面積が大きくなるので、射出成型樹脂8と接着層107の密着性が向上し、射出成型樹脂8と接着層107との剥離が起こりにくい状態となる。
【0101】
また、接着層107の表面を粗い凹凸状態にすることによって、加飾フィルム204が伸びる箇所が分散する。以下、この点について図10を用いて説明する。図10(a)は、溶融した射出成形樹脂8を金型のキャビティ内に充填する工程の工程別断面図、図10(b)は図10(a)における部分Aの拡大断面図である。部分Aは、成形品のコーナー部に対応する箇所である。図10において図1〜図9、図11〜図13に示す要素に対応する要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0102】
この実施の形態3では、接着層107の表面が凹凸状態であるので、図10(b)に示すように、射出成形樹脂8から加飾フィルム204へ加わる応力301が一点に集中し難く、分散される。そのため、射出成形樹脂8から加飾フィルム204へ加わる応力301は、成形品のコーナー部に対応する箇所に集中しないので、加飾フィルム204が伸びる箇所は分散される。その結果、着色層105を貫通するクラックがより発生し難くなる。これに対して、加飾フィルムの表面が平坦な場合、成形品のコーナー部に対応する箇所に加飾フィルムの伸びが集中するため、そこにおいて、着色層105を貫通するクラックが発生しやすい。
【0103】
また、一般的にフィルムは薄い箇所で伸ばされ易い。この実施の形態3では、接着層107の表面が粗い凹凸状態であるので、加飾フィルム204は、接着層107の表面の凹部に対応する箇所において伸ばされ易い。したがって、この実施の形態3における加飾フィルム204は伸びる箇所が複数個所に分散されるので、着色層105を貫通するクラックがより発生し難くなる。
【0104】
さらに、この実施の形態3では、加飾フィルム204が伸びる箇所が分散されるので、射出成型樹脂8の射出後における加飾フィルム204の最も薄い箇所の膜厚を、伸びる箇所が1箇所に集中する場合よりも厚くできる。したがって、この実施の形態3における加飾フィルム204は、色透けを効果的に防止できる。
【0105】
なお、この実施の形態3では、1層で構成された着色層105を例に説明したが、成形品の表面を加飾する絵柄や模様などの意匠によっては、着色層を複数の層で構成することがある。その場合は、着色層の全ての層に無機フィラー12を含有させてもよいし、隠蔽層と着色層の界面、接着層と隠蔽層の界面、および接着層の表面を凹凸状態にできるのであれば、着色層の一部の層にのみ無機フィラー12を含有させてもよい。
【0106】
以上説明したように、各実施の形態1〜3によれば、射出成形時に転写フィルム203の着色層105内で発生したマイクロクラック13の成長を無機フィラー12によって防止して、下地(成形された射出成形樹脂8の表面)がクラックを通じて視認される外観不良の発生を抑えることができる。なお、各実施の形態1〜3は適宜組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明にかかるインモールド成形品、インモールド成形用フィルム、およびインモールド成形品の製造方法は、成形品が深絞り形状の場合に、耐熱性が高く、塗膜硬度も硬い硬化性のインキを着色層に使用しても、クラックが着色層を貫通し難くすることができるので、着色層を形成するのに複雑な工程を必要とせず、工程数の増加を抑制できる。また、着色層に耐熱性が高く、塗膜硬度も硬い硬化性のインキを使用できるため、インキ流れやインキ飛び等も防止できる。したがって、テレビやオーディオなどのAV機器や携帯電話等の外装の成形品に適用できる。
【符号の説明】
【0108】
1 固定型
2 可動型
3 箔送り装置
4 吸引穴
5 箔押さえ部材
6 収納凹部
7 ゲート
8 射出成形樹脂
9 インモールド成形品
10 突き出しピン
11 クラック
12 無機フィラー
12a 麟片状無機フィラー
12b 棒状無機フィラー
13 マイクロクラック
14 目
15 光
101 ベースフィルム
102 剥離層
103 保護層またはハードコート層
104 アンカー層
105 着色層
106 隠蔽層
107 接着層
201 加飾フィルム
202 キャリアフィルム
203 転写フィルム
204 加飾フィルム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に転写フィルムを有するインモールド成形品において、前記転写フィルムの着色層に含有される複数の無機フィラーを備えることを特徴とするインモールド成形品。
【請求項2】
前記転写フィルムの着色層において、前記無機フィラー間にマイクロクラックが発生していることを特徴とする請求項1記載のインモールド成形品。
【請求項3】
前記マイクロクラックが、前記無機フィラーの表面と前記無機フィラーを包む前記転写フィルムの着色層を形成しているインキとの界面から発生していることを特徴とする請求項2記載のインモールド成形品。
【請求項4】
前記無機フィラーの平均粒子径が、前記転写フィルムの着色層の最も薄い箇所の膜厚以下の大きさであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインモールド成形品。
【請求項5】
前記転写フィルムの着色層を形成しているインキに、硬化性のインキが用いられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインモールド成形品。
【請求項6】
前記無機フィラーの形状が、麟片状または偏平板状、あるいは、棒状であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインモールド成形品。
【請求項7】
前記転写フィルムの着色層における接着層側の面、および接着層の表面が、凹凸状態となっていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインモールド成形品。
【請求項8】
キャリアフィルム上に転写フィルムが設けられたインモールド成形用フィルムにおいて、前記転写フィルムの着色層に含有される複数の無機フィラーを備えることを特徴とするインモールド成形用フィルム。
【請求項9】
前記無機フィラーの平均粒子径が、前記転写フィルムの着色層の最も薄い箇所の膜厚以下の大きさであることを特徴とする請求項8記載のインモールド成形用フィルム。
【請求項10】
前記転写フィルムの着色層を形成しているインキに、硬化性のインキが用いられていることを特徴とする請求項8もしくは9のいずれかに記載のインモールド成形用フィルム。
【請求項11】
前記無機フィラーの形状が、麟片状または偏平板状、あるいは、棒状であることを特徴とする請求項8ないし10のいずれかに記載のインモールド成形用フィルム。
【請求項12】
前記転写フィルムの着色層における接着層側の面、および接着層の表面が、凹凸状態となっていることを特徴とする請求項8ないし11のいずれかに記載のインモールド成形用フィルム。
【請求項13】
前記転写フィルムが、保護層またはハードコート層、アンカー層、着色層、隠蔽層、接着層の順に構成され、
前記キャリアフィルムが、ベースフィルム、剥離層の順に構成されている
ことを特徴とする請求項8ないし12のいずれかに記載のインモールド成形用フィルム。
【請求項14】
第1金型と第2金型の間に、請求項8ないし13のいずれかに記載のインモールド成形用フィルムを配置し、
前記第1金型と前記第2金型を型締めし、
前記第1金型と前記第2金型を型締めして形成したキャビティに樹脂を流し込み、
前記キャビティに流し込まれた前記樹脂を冷却し、
前記第1金型と前記第2金型を型開きして、前記インモールド成形用フィルムのキャリアフィルムから転写フィルムを剥がし、
表面に前記転写フィルムを有するインモールド成形品を取り出す
ことを特徴とするインモールド成形品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−206501(P2012−206501A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−851(P2012−851)
【出願日】平成24年1月6日(2012.1.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】