説明

ウィスカーが抑制されたCu−Zn合金耐熱Snめっき条

【課題】ウィスカー発生が抑制された、Cu−Zn合金のCu/Ni二層下地リフローSnめっき条を提供すること。
【解決手段】平均濃度で15〜40質量%のZnを含有する銅合金を母材として、表面から母材にかけてSn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層でめっき皮膜が構成されるSnめっき条において、該Sn相の表層のZn濃度を0.1〜5.0質量%に調整する。母材は、更にSn、Ag、Pb、Fe、Ni、Mn、Si、Al及びTiから選ばれた任意成分を合計で0.005〜3.0質量%の範囲で含有することができる。又、母材は15〜40質量%のZn、8〜20質量%のNi、0〜0.5質量%のMnを含有し残部がCu及び不可避的不純物より構成される銅基合金でもよく、更に上記任意成分を合計で0.005〜10質量%含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィスカーの発生が抑制されたCu−Zn合金の耐熱Snめっき条に関する。
【背景技術】
【0002】
Cu−Zn系合金は、りん青銅、ベリリウム銅、コルソン合金等と比較するとばね性が劣るものの廉価なため、コネクタ、端子、リレー、スイッチ等の電気接点材料として広く使用されている。Cu−Zn系合金として代表的なものは黄銅であり、C2600、C2680等の合金がJIS H3100に規定されている。Cu−Zn系合金を電気接点材料に用いる場合、低い接触抵抗を安定して得るためにSnめっきを施すことが多い。そして、Cu−Zn系合金のSnめっき条は、Snの優れた半田濡れ性、耐食性、電気接続性を生かし、自動車電装用ワイヤーハーネスの端子、印刷回路基板(PCB)の端子、民生用のコネクタ接点等の電気・電子部品に大量に使われている。
【0003】
上記Cu−Zn系合金のSnめっき条は、脱脂及び酸洗の後、電気めっき法により下地めっき層を形成し、次に電気めっき法によりSnめっき層を形成し、最後にリフロー処理を施しSnめっき層を溶融させる工程で製造される。
Cu−Zn系合金のSnめっきでは、通常Snめっきに先立ち下地めっきを施す。これは下地めっきを施さない場合、リフロー処理の際に母材中のZnがSnめっき表面にZn濃化層を形成し、半田濡れ性が低下するためである。即ち、下地めっきは母材のZnのSnめっき表面への拡散を抑制する下地層を得るために行われる。
Snめっきの耐熱性を求める場合、Cu−Zn系合金の下地めっきとして、Cu/Ni二層下地めっきを施す。上記Cu/Ni二層下地めっきとは、Ni下地めっき、Cu下地めっき、Snめっきの順に電気めっきを行った後にリフロー処理を施しためっきであり、リフロー後のめっき皮膜層の構成は表面からSn相、Cu−Sn相、Ni相、母材となる。この技術の詳細は特許文献1〜3等に開示されている。
【0004】
Snめっき材を常温に放置すると、Snめっき表面からSnの単結晶が成長することが知られている。このSnの単結晶は、ウィスカーと呼ばれるものであり、電子部品の短絡を引き起こすことがある。ウィスカーは、電着時に生ずるSnめっき皮膜の内部応力が原因で発生する。したがって、リフロー処理でSnを溶融させ皮膜の内部応力を除去することは、ウィスカーの発生を抑制する手段として有効である。Cu−Zn合金のCu/Ni二層下地耐熱Snめっきは、その製造工程でリフローを行うため、耐ウィスカー性が良好とされてきた。
【0005】
【特許文献1】特開平6−196349号公報
【特許文献2】特開2003−293187号公報
【特許文献3】特開2004−68026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、端子等の電気接点部では、局部的に非常に大きな内部応力が加わるため、耐ウィスカー性が良好とされてきたリフローSnめっき条であっても、微小なウィスカーが発生することがある。近年、コネクタの多極化等により端子間の間隔が狭くなっており、従来は問題にならなかったような微小なウィスカーでも回路の短絡を引き起こす危険性が生じてきた。その結果、耐ウィスカー性が良好とされてきたCu−Zn合金のCu/Ni二層下地耐熱Snめっきに対しても、耐ウィスカー性のさらなる改善が求められるようになった。
本発明の目的は、ウィスカー発生が抑制された、Cu−Zn合金のCu/Ni二層下地リフローSnめっき条を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、Cu−Zn合金のCu/Ni二層下地リフローSnめっき条に対し、ウィスカー発生を抑制する方策を鋭意研究し、Snめっき表面にZnを濃化させるとウィスカーが抑制されることを知見した。しかし、上述したように、Snめっき表面にZnが濃化すると、半田濡れ性が低下する。そこで、本発明者は、ウィスカーの抑制と良好な半田濡れ性が両立するZn濃化状態を探索し、これを見出すことに成功した。同時に、この適度なZn濃化状態を得るための製造条件として、母材表面の性状、Cu下地めっき厚、Ni下地めっき厚、Snめっき厚、リフロー処理での加熱条件を明らかにすることができた。
【0008】
本発明は、この発見に基づき成されたものであり、以下の通りである。
(1)平均濃度で15〜40質量%のZnを含有する銅合金を母材として、表面から母材にかけてSn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層でめっき皮膜が構成され、該Sn相の表層のZn濃度が0.1〜5.0質量%であることを特徴とする、ウィスカー発生が抑制されたCu−Zn合金Snめっき条。
(2)15〜40質量%のZnを含有し残部がCu及び不可避的不純物より構成される銅基合金を母材とすることを特徴とする(1)のCu−Zn合金Snめっき条。
(3)母材が更にSn、Ag、Pb、Fe、Ni、Mn、Si、Al及びTiの群から選ばれた少なくとも一種の元素を合計で0.005〜10質量%含有することを特徴とする(2)のCu−Zn合金Snめっき条。
(4)15〜40質量%のZn、8〜20質量%のNi、0〜0.5質量%のMnを含有し残部がCu及び不可避的不純物より構成される銅基合金を母材とすることを特徴とする(1)のCu−Zn合金Snめっき条。
(5)母材が更にSn、Ag、Pb、Fe、Si、Al及びTiの群から選ばれた少なくとも一種の元素を合計で0.005〜10質量%含有することを特徴とする(4)のCu−Zn合金Snめっき条。
(6)平均濃度で15〜40質量%のZnを含有する銅合金に対し、以下の工程を順次行うことを特徴とする、ウィスカー発生が抑制されたSnめっき条の製造方法:
a.表面研磨により、母材の表層から0.1μmの位置におけるZn濃度を、10〜40質量%の範囲に調整する工程、
b.厚み0.1μm以上のNiめっきを施した後、厚み0.1μm以上のCuめっきを施す工程(ただし、Niめっきの厚さとCuめっきの厚さの合計を0.3〜1.0μmとする)、
c.厚み0.3〜1.0μmのSnめっきを施す工程、及び
d.次の三式で規定される加熱時間t(秒)及び加熱温度T(℃)で、リフロー処理を施す工程。
5≦t≦23、
350≦T≦600、及び
500≦(T+14t)≦670
なお、Cu−Zn系合金のSnめっきは、部品へのプレス加工の前に行う場合(前めっき)とプレス加工後に行う場合(後めっき)があるが、両場合とも、本発明の効果は得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウィスカー発生が抑制された、Cu−Zn合金のCu/Ni二層下地リフローSnめっき条を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について、以下詳細に説明する。
(1)母材の成分
本発明は15〜40質量%のZnを含有する銅合金を対象とするものであり、Znがこの範囲から外れる銅合金に対しては、発明の作用効果が発現しない。
15〜40質量%のZnを含有する銅合金として黄銅がある。JIS−H3100ではC2600、C2680、C2720等の黄銅が規定されている。本発明の作用効果が発現する合金として黄銅が挙げられる。
15〜40質量%のZnを含有する黄銅以外の銅合金として洋白がある。洋白はZn以外にNiを含有し、少量のMnも含有する。JIS−H3110及びJIS−H3130ではC7521、C7541、C7701等の洋白が規定されている。本発明の作用効果が発現する合金として洋白も挙げられる。
更に、本発明のNiとMnを含有しない銅合金母材は、合金の強度、耐熱性、耐応力緩和性等を改善する目的で、更に、Sn、Ag、Pb、Fe、Ni、Mn、Si、Al及びTiの群から選ばれた少なくとも一種の元素を合計で0.005〜10質量%含有できる。又、本発明のNiとMnを含有する銅合金母材も同様に、Sn、Ag、Pb、Fe、Si、Al及びTiの群から選ばれた少なくとも一種の元素を合計で0.005〜10質量%含有できる。上記濃度範囲であれば本発明の効果は得られる。一方、0.005質量%未満では添加元素の効果が発現せず、10質量%を超えると導電率の低下や製造性が生じる。好ましくは0.05〜5質量%である。
【0011】
(2)めっきの構造
本発明のSnめっきの基本的な構造は、従来のCu/Ni二層下地リフローSnめっきと同様、表面から母材にかけてSn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層で構成される。本発明の特徴は、Sn相の表層に適度な濃度のZnを濃化させることにある。
Snめっき層に局部的な応力が負荷されると、めっき表面にウィスカーが発生する。Snめっき表層のZnには、このウィスカーを抑制する作用がある。これは、ZnがSnめっき層の局部的に応力の高い場所に移動し凝集することで、応力を緩和するためと推測される。
【0012】
ZnのSnめっき層表面への濃化は、リフロー処理での加熱において母材に含まれるZnが拡散することによって生ずる。Cu/Ni二層下地の場合Snめっき表層のZn濃度が0.1質量%以上になると、ウィスカー発生を抑制する効果が発現した。ここで、Snめっき表層のZn濃度は、GDS(グロー放電発光分析)により分析した、表面から深さ方向に0.01μmの位置におけるZn濃度と定義する。上記臨界Zn濃度0.1質量%は、20〜40質量%のZnを含有する銅合金のCu下地めっきにおいて確認された臨界Zn濃度である3質量%(特願2004−358897号明細書)と比較すると、かなり低いものであった。
Cu/Ni二層下地リフローSnめっきは、その良好な耐熱性により、高温環境下で使用されることが多い。したがって、リフロー上がりの状態で良好な半田濡れ性を示すだけでなく、リフロー後に高温環境下に長時間保持しても半田濡れ性が劣化しないこと(以下、耐熱半田濡れ性と称す)が求められる。Snめっき表層のZn濃度が5.0質量%を超えると、耐熱半田濡れ性が劣化した。
以上より、Snめっき表層のZn濃度を0.1〜5.0質量%とする。より好ましいSnめっき表層のZn濃度は0.3〜3.0質量%であり、ウィスカー抑制効果と良好な耐熱半田濡れ性が、より安定して得られる。
なお、本発明の効果は、Sn相表面のZnを上記範囲に濃化させれば発揮されるので、リフロー後のSn相、Sn−Cu合金相、Ni相の厚みは、特に限定されない。
【0013】
(3)製造方法
上記めっき構造は、めっき母材表層のZn濃度、Ni下地めっきの厚み、Cu下地めっきの厚み、Snめっきの厚み及びリフロー条件の5つを適正範囲に調整することにより得られる。
a.めっき母材表層のZn濃度
Cu−Zn系合金をめっき母材としSnめっきした材料では、加熱によりめっき母材中のZnがSnめっき層へ拡散する。後述するリフロー条件で加熱した場合、めっき母材表層のZn濃度が10質量%未満であると、Snめっき表層のZn濃度を0.1質量%以上に調整することが困難になり、母材表層のZn濃度が40質量%を超えると、Snめっき表層のZn濃度を5質量%以下に調整することが困難になる。そこで、めっき母材に用いるCu−Zn合金の表層のZn濃度を10〜40質量%、好ましくは15〜30質量%に調整する。ここで、めっき母材表層のZn濃度は、GDSにより分析した、表層から0.1μmの位置におけるZn濃度と定義する。
一方、めっき母材であるCu−Zn系合金は、溶解・鋳造で製造したインゴットを必要に応じて熱間圧延した後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して条に加工される。Cu−Zn系合金の焼鈍では、脱Zn現象が生じることが知られている。脱Zn現象とは、焼鈍においてCu−Zn系合金が高温に熱せられた際に、Znが酸化して気相中に逃散しCu−Zn系合金表面のZn濃度が低下する現象である。したがって、Cu−Zn系合金表面のZn濃度を上記範囲に調整するためには、焼鈍で生じた脱Zn層を除去することが必要である。この除去方法としては、回転式バフを用いる機械研磨、腐食液を用いる化学研磨等がある。
【0014】
本発明では、Snめっきに供される直前のCu−Zn系合金表面のZn濃度を、上記範囲に調整することが肝要であり、そのための手段や工程順序は特に限定されない。例えば、コネクタ用のCu−Zn系合金は、焼鈍後に冷間圧延を施した調質状態でSnめっきに供されることが多いが、この場合、脱Zn層除去の研磨は、冷間圧延前(焼鈍直後)に行っても良いし、冷間圧延後(めっき直前)に行っても良い。
【0015】
b.Ni下地めっき厚及びCu下地めっき厚
本発明のリフロー後のめっき層は、表面側よりSn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層で構成される。Ni相は母材成分(Cu、Zn及び合金元素)のSn−Cu合金相中への拡散を抑制する。Sn−Cu合金相は、NiのSn相中への拡散を抑制する。このような拡散バリヤとしてのNi相とSn−Cu合金相の作用により、Cu/Ni二層下地材はCu下地材やNi下地材と比較し良好な耐熱性を示す。
所望の耐熱性を得るために、電着時のNiめっきの厚さを0.1μm以上とする。Niめっきが0.1μm未満になると、母材成分のCu−Sn合金相中への拡散を抑制できない。また、電着時のCuめっきの厚さを0.1μm以上とする。Cuめっきが0.1μm未満になると充分な厚みのSn−Cu合金相が形成されず、NiのSn中への拡散を抑制できない。なお、電着時のNiめっき又はCuめっきの厚さの上限は、下記電着時のCuめっきの厚みと電着時のNiめっきの厚みの合計により規定される。
次に、リフロー上がりのSnめっき表層のZn濃度を0.1〜5.0質量%に調整するために、電着時のCuめっきの厚みと電着時のNiめっきの厚みとの合計(以下、合計厚みとする)を0.3〜1.0μmに規定する。合計厚みが0.3μm未満になると、後述するリフロー条件で加熱した際に、母材のZnがSn相中に過度に拡散し、Snめっき表層のZn濃度が5.0質量%を超える。合計厚みが1.0μmを超えると、後述するリフロー条件で加熱した際に母材中のZnがSn相中に充分に拡散せず、Snめっき表層のZn濃度が0.1質量%未満になる。
より好ましい厚みは、Cuめっき厚みが0.2μm以上、Niめっきが0.2μm以上、合計厚みが0.4〜0.7μmであり、その範囲内であると所望の耐熱性及びSnめっき表層のZn濃度がより安定して得られる。
【0016】
c.Snめっき厚
Snめっきの厚みが0.3μm未満では、後述するリフロー条件で加熱した場合、Snめっき表層のZn濃度が5.0質量%を超える。Snめっきの厚みが1.0μmを超えると、後述するリフロー条件で加熱した場合、Snめっき表層のZn濃度が0.1質量%に満たない。したがって、Snめっきの厚みは0.3〜1.0μmとする。より好ましいSnめっきの厚みは0.6〜0.8μmである。
【0017】
d.リフロー条件
Snめっき表層のZn濃度が本発明の範囲となるリフロー条件を以下に示す。加熱時間が5秒未満では、Snめっき層へのZnの拡散が充分でなく、Snめっき表面のZn濃度が0.1質量%に満たない。加熱時間が23秒を超えると、Znの拡散が著しくなるため、Snめっき表面のZn濃度が5.0質量%を超える。したがって、リフロー処理での加熱時間は5〜23秒とする(5≦t≦23、但し、tは加熱時間を表し、単位は秒である)。好ましくは加熱時間は5〜15秒である。
また、加熱温度が350℃未満では、母材からSnめっき層へのZnの拡散が充分でなく、Snめっき表層のZn濃度が0.1質量%に満たない。加熱温度が600℃を超えると、Znの拡散が著しくなるため、Snめっき表層のZn濃度が5.0質量%を超えるばかりでなく、めっき母材が再結晶し軟化するため、コネクタ等の用途として必要な機械的強度が得られない。したがって、リフロー処理での加熱温度は350〜600℃とする。(350≦T≦600、但し、Tは加熱温度を表し、単位は℃である)。好ましくは加熱温度は400〜550℃である。
更に、Snめっき層へのZnの拡散は温度と時間の両因子の関係によって決定される。そこで、この関係を次式で規定する。
500≦(T+14t)≦670
(T+14t)が500未満であるとSnめっき表層のZn濃度が0.1質量%未満となり、ウィスカーが発生する。一方、670を超えるとSnめっき表層のZn濃度が5.0質量%を超え耐熱半田濡れ性が劣化する。(T+14t)は好ましくは550〜650である。
【0018】
本発明のリフロー処理条件(温度と時間)を表した図1において、リフロー処理条件は斜線の範囲で示される。ここで、Tは加熱温度(℃)、tは加熱時間(秒)を表す。
母材表面のGDS分析データの一例として、図2に後述する発明例3及び比較例30で使用した母材表面のGDSチャートを示す。評価点は表面から0.1μmの深さである。分析条件は以下の通りである。
・試料の前処理:アセトン中で超音波脱脂。
・装置:JOBIN YBON社製 JY5000RF-PSS型。
・Current Method Program:CNBinteel-12aa-0。
・Mode:Constant Electric Power=40W。
・Ar-Presser:775Pa。
・Current Value:40mA(700V)。
・Flush Time:20sec。
・Preburn Time:2sec。
・Determination Time:Analysis Time=30sec、Sampling Time=0.020sec/point。
【実施例】
【0019】
表1に示されるCu−Zn系合金(厚さ0.2mm)を試料として用いた。表1には母材の組成として、母材の平均Zn濃度を示してある。また、母材表層のZn濃度として、GDS(グロー放電発光分光分析装置)で分析した表面から深さ方向に0.1μmの位置でのZn濃度(質量%)を示してある。
表層Zn濃度は焼鈍条件と研磨条件により調整している。表2は、表1の比較例30、発明例1、2、3、23及び比較例31の製造条件を示したものである。厚さ0.25mmにおいて種々の条件で再結晶焼鈍を行った後、20質量%H2SO4−1質量%H22水溶液を用いて表面を化学研磨し、その後0.2mmまで冷間圧延している。表2より次のことがわかる。
(1)燃焼ガス中(弱酸化性雰囲気)で焼鈍する場合、CO濃度を高くしO2濃度を低くすると、表層Zn濃度が高くなる。また、研磨量を増やすと、表層Zn濃度が高くなる。
(2)低温長時間焼鈍で得られる表層Zn濃度は、高温短時間焼鈍で得られる表層Zn濃度より高い。
(3)低露点に調整した水素中(強還元性雰囲気)で焼鈍すると、Znの酸化(気相中への逃散)が生じないため、表層Zn濃度が増加する。
【0020】
表1の各試料につき、次の工程でめっきを行った。
(工程1)アルカリ水溶液中で試料をカソードとして次の条件で電解脱脂を行った。
電流密度:3A/dm2。脱脂剤:ユケン工業(株)製商標「パクナP105」。脱脂剤濃度:40g/L。温度:50℃。時間30秒。電流密度:3A/dm2
(工程2)10質量%硫酸水溶液を用いて酸洗した。
(工程3)次の条件でNi下地めっきを施した。
・めっき浴組成:硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸30g/L。
・めっき浴温度:50℃。
・電流密度:5A/dm2
・Niめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程4)次の条件でCu下地めっきを施した。
・めっき浴組成:硫酸銅200g/L、硫酸60g/L。
・めっき浴温度:25℃。
・電流密度:5A/dm2
・Cuめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程5)次の条件でSnめっきを施した。
・めっき浴組成:酸化第1錫41g/L、フェノールスルホン酸268g/L、界面活性剤5g/L。
・めっき浴温度:50℃。
・電流密度:9A/dm2
・Snめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程6)リフロー処理として、雰囲気ガスを窒素(酸素1vol%以下)に調整した加熱炉中に試料を挿入して加熱し、加熱後水冷した。加熱炉の温度(リフロー温度)及び加熱炉への挿入時間(リフロー時間)は表1に示した。
【0021】
リフロー後の各試料について、Snめっき表層のZn濃度を、GDSを用い上記条件で分析した。Snめっき表層のGDS分析データの一例として、図3に発明例8及び比較例33のチャートを示す。めっき表面から深さ0.01μmを評価点とし、その位置でのZn濃度をチャートより読み取り表1に記した。
【0022】
各試料について、ウィスカーの長さ及び半田濡れ性を、次の方法で評価した。
(1)ウィスカー長さ
試料表面に、直径が0.7mmの球状の圧子(ステンレス製)を150gの荷重で負荷したまま室温で7日間放置し、めっき表面の圧子接点部にウィスカーを発生させた。発生したウィスカーを電子顕微鏡で観察し、各試料で最も長く成長したウィスカーの長さが、10μm以下に収まった場合を○と評価し、10μmを超えた場合を×と評価した。
(2)耐熱半田濡れ性
高温で保持した後の試料に対し、鉛フリー半田との濡れ性を評価した。具体的には、試料をアセトンで脱脂後、大気中、145℃で500時間加熱した。加熱後の試料に、フラックスとして25質量%ロジン−75質量%エタノールを塗布後、260℃のSn−3.0質量%Ag−0.5質量%Cu半田浴に10秒間浸漬した。浸漬部の表面積は10mm×10mmとし、半田浴から引き上げ後、半田が付着した部分の面積率を測定した。半田の付着面積率が80%以上の場合を○と評価し、付着面積率が80%未満の場合を×と評価した。
発明例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
本発明例1〜29は、いずれもSnめっき表層のZn濃度が本発明の範囲内であるため、ウィスカーの長さが10μm以下であり、また鉛フリー半田に対して良好な耐熱半田濡れ性を示した。
比較例30は母材表面のZn濃度が10質量%を下回ったため、母材組成と製造条件が同様の発明例1〜3に対し、Snめっき表層のZn濃度が低下して0.1質量%未満となり、10μmを超えるウィスカーが発生した。また、比較例31は母材表面のZn濃度が40質量%を超えたため、母材組成と製造条件が同様の発明例23に対し、Snめっき表層のZn濃度が上昇して5.0質量%を超え、耐熱半田濡れ性が劣化した。
【0026】
発明例4〜9及び比較例32〜35は、同様の組成の母材について、Ni及びCu下地めっきの厚さを変え、その他の製造条件は合わせたものである。NiめっきとCuめっきの合計の厚みが大きくなると、Snめっき表層のZn濃度が低下する傾向が認められる。NiめっきとCuめっきの合計の厚みが0.3μmを下回った比較例32では、Snめっき表層のZn濃度が5.0質量%を超え耐熱半田濡れ性が劣化した。また、合計の厚みが1.0μmを超えた比較例33では、Snめっき表層のZn濃度が0.1質量%未満となり、10μmを超えるウィスカーが発生した。比較例34及び35は、それぞれNi及びCuが0.1μmを下回ったため、Cu/Ni二層下地リフローSnめっきの特徴である良好な耐熱性が失われ、耐熱半田濡れ性が劣化した。
【0027】
発明例10〜16及び比較例36〜37は、同様の組成の母材について、Snめっき厚を変え、その他の製造条件は合わせたものである。Snめっき厚が大きくなると、Snめっき表層のZn濃度が低下する傾向が認められる。Snめっき厚が0.3μmを下回った比較例36では、Snめっき表層のZn濃度が5.0質量%を超え耐熱半田濡れ性が劣化した。また、Snめっき厚が1.0μmを超えた比較例37では、Snめっき表層のZn濃度が0.1質量%未満となり、10μmを超えるウィスカーが発生した。
【0028】
発明例17〜22及び比較例38〜43は、同様の組成の母材について、リフロー条件を変え、その他の製造条件は合わせたものである。(T+14t)が670を超えた比較例38〜40では、Snめっき表層のZn濃度が5.0質量%を超え耐熱半田濡れ性が劣化した。(T+14t)が500を下回った比較例41では、Snめっき表層のZn濃度が0.1質量%未満となり、10μmを超えるウィスカーが発生した。時間が5秒未満の比較例42及び温度が350℃未満の比較例43では、Snめっき表層のZn濃度が0.1質量%未満となり、10μmを超えるウィスカーが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のリフロー処理条件(温度と時間)を表した図である。
【図2】発明例3及び比較例30の母材表層のZn濃度を示すチャートである。
【図3】発明例8及び比較例33のSnめっき表層のZn濃度を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均濃度で15〜40質量%のZnを含有する銅合金を母材として、表面から母材にかけてSn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層でめっき皮膜が構成され、該Sn相の表層のZn濃度が0.1〜5.0質量%であることを特徴とする、ウィスカー発生が抑制されたCu−Zn合金Snめっき条。
【請求項2】
15〜40質量%のZnを含有し残部がCu及び不可避的不純物より構成される銅基合金を母材とすることを特徴とする請求項1のCu−Zn合金Snめっき条。
【請求項3】
母材が更にSn、Ag、Pb、Fe、Ni、Mn、Si、Al及びTiの群から選ばれた少なくとも一種の元素を合計で0.005〜10質量%含有することを特徴とする請求項2のCu−Zn合金Snめっき条。
【請求項4】
15〜40質量%のZn、8〜20質量%のNi、0〜0.5質量%のMnを含有し残部がCu及び不可避的不純物より構成される銅基合金を母材とすることを特徴とする請求項1のCu−Zn合金Snめっき条。
【請求項5】
母材が更にSn、Ag、Pb、Fe、Si、Al及びTiの群から選ばれた少なくとも一種の元素を合計で0.005〜10質量%含有することを特徴とする請求項4のCu−Zn合金Snめっき条。
【請求項6】
平均濃度で15〜40質量%のZnを含有する銅合金に対し、以下の工程を順次行うことを特徴とする、ウィスカー発生が抑制されたSnめっき条の製造方法:
a.表面研磨により、母材の表層から0.1μmの位置におけるZn濃度を、10〜40質量%の範囲に調整する工程、
b.厚み0.1μm以上のNiめっきを施した後、厚み0.1μm以上のCuめっきを施す工程(ただし、Niめっきの厚さとCuめっきの厚さの合計を0.3〜1.0μmとする)、
c.厚み0.3〜1.0μmのSnめっきを施す工程、及び
d.次の三式で規定される加熱時間t(秒)及び加熱温度T(℃)で、リフロー処理を施す工程。
5≦t≦23、
350≦T≦600、及び
500≦(T+14t)≦670

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−291457(P2007−291457A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121836(P2006−121836)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】