説明

ウイルスベクター

この発明は、機能性ICP34.5をコードする遺伝子を欠いたヘルペスウイルスであって、
(i)プロドラッグ変換酵素をコードする遺伝子、
(ii)細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする遺伝子、及び
(iii)免疫調節タンパク質をコードする遺伝子、
を2以上含む、ヘルペスウイルスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来知られた株と比較して抗腫瘍活性が改良されたヘルペスウイルス株に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、バイオテクノロジー及び薬の分野で、様々な用途に有用であることが何度となく示されている。いずれも、高率で細胞に入ることができるウイルスの独自の能力による。これが、ウイルス遺伝子の発現ならびに挿入された異種遺伝子の複製及び/又は発現が起こる。そのような用途で細胞侵入後、ウイルスは、細胞内でウイルスの遺伝子又は他の遺伝子の送達及び発現を行うことができる。このため、例えば遺伝子治療もしくはワクチンの開発に有用である可能性があり、又は例えば癌において、細胞溶解性の複製もしくは送達された遺伝子の作用による選択的な細胞の殺滅に有用である可能性がある。
【0003】
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、癌の崩壊性治療(oncolytic treatment)に有用であるということが示唆されている。しかし、癌の治療に有用なウイルスは、機能を無効にして病原性をもたないようにしておかなければならない。すなわち、非腫瘍細胞中では複製せず殺滅しないが、なお腫瘍細胞には入り、殺滅することができなければならない。治療効果を高める遺伝子の伝達をも含み得る、癌の崩壊性治療の目的のために、ウイルスの培養中又はin vivoで活発に分化している細胞中(例えば、腫瘍中)での複製は許容するが、正常な組織中での有効な複製を妨げる、HSVに対する多数の変異が同定されている。このような変異には、ICP34.5、ICP6及びチミジンキナーゼをコードする遺伝子の破壊が含まれる。これらのうち、ICP34.5が変異したウイルス、又は、ICP34.5と例えばICP6が共に変異したウイルスは、今までのところ、最も良好な安全特性を示してきた。神経毒因子ICP34.5のみを欠失したウイルスは、多くの腫瘍細胞種においてin vitroで複製し、人工的にマウスに導入した脳腫瘍中において選択的に複製するが、その一方で周囲の組織には寛容であることが示されている。また、臨床試験の初期段階において、ヒトに対して安全であることが示されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、in vivoでの腫瘍細胞の破壊について改良された能力をもつウイルスを提供する。本発明で提供されるウイルスは、ICP34.5をコードする遺伝子中に不活性化変異を含み、共同して治療効果を高める2つの遺伝子を送達することができる。上記ウイルスは、下記の2種以上の遺伝子を含む:
不活性又は活性が低いプロドラッグを活性型又はより活性の高い形態へと変換することができるプロドラッグ活性化酵素をコードする遺伝子。従って、ウイルスを用いた腫瘍の治療は、プロドラッグの投与を伴う。
【0005】
細胞を融合する(すなわち、シンシチウムの形成を引き起こす)ことができるタンパク質をコードする遺伝子。この遺伝子自体が、抗腫瘍効果を提供し、これは免疫応答の誘導によって媒介され得る。しかし、プロドラッグ活性剤と併用すると、この抗腫瘍効果が高まる。このような融合性遺伝子は、テナガザル白血病ウイルスもしくはヒト内在性レトロウイルスW、麻疹ウイルスに由来する融合性F及びHタンパク質または水疱性口内炎ウイルスGタンパク質に由来する糖タンパク質、といった改変型レトロウイルスエンベロープ糖タンパク質を含むが、細胞融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする他の遺伝子を使用してもよい。
【0006】
免疫調節タンパク質をコードする遺伝子。免疫調節タンパク質は、抗腫瘍免疫応答を促進する。このような遺伝子は、GM-CSF、TNFα、CD40L又は他のサイトカインもしくは共刺激性分子といった免疫モジュレータを含む。免疫調節タンパク質は、プロドラッグ活性化遺伝子及び/又は細胞と細胞との融合のみを引き起こすことができるタンパク質の作用効果を高める。従って、本発明のウイルスは、プロドラッグ活性化遺伝子及び免疫調節遺伝子をコードするが、細胞と細胞との融合を引き起こすタンパク質はコードしないウイルス、並びに細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質及び免疫調節遺伝子をコードするが、プロドラッグ変換遺伝子はコードしないウイルスを含む。
【0007】
従って、本発明は、腫瘍細胞の腫瘍退縮性破壊(oncolytic destruction)をすることができるウイルスを提供する。任意にプロドラッグと併用して患者に投与した場合、前記ウイルスの抗腫瘍特性は、活性化プロドラッグとウイルスゲノムから発現した融合性及び/又は免疫調節タンパク質との総合作用によって、又はウイルスゲノムから発現した融合性タンパク質と免疫調節タンパク質との総合作用によって高まる。
【0008】
従って、本発明は、
- 機能性ICP34.5をコードする遺伝子を欠いたヘルペスウイルスであって、
(i)プロドラッグ変換酵素をコードする遺伝子、
(ii)細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする遺伝子、及び
(iii)免疫調節タンパク質をコードする遺伝子、
を2以上含む、ヘルペスウイルスを提供する。
【0009】
好ましくは、前記ヘルペスウイルスは、機能性ICP34.5をコードする遺伝子を欠いたヘルペスウイルスであって、
(i)プロドラッグ変換酵素をコードする遺伝子、及び
(ii)細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする遺伝子、
を含む。
【0010】
本発明はまた、
- 療法によってヒト又は動物の体を治療する方法に使用するための本発明のヘルペ
スウイルス、
- 癌治療のための薬剤の製造における、本発明のヘルペスウイルスの使用、
- 活性成分として、本発明によるヘルペスウイルス及び製薬上許容可能な担体又は希釈剤を含む、医薬組成物、
- 腫瘍の治療を必要とする個体中において、当該個体に、本発明によるヘルペスウイルスの有効量を投与することによって腫瘍を治療する方法、
を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
A. ウイルス
本発明のヘルペスウイルスは、効率的に標的腫瘍細胞に感染することができる。ICP34.5をコードする遺伝子は、前記ウイルス中で不活性化している。ICP34.5の変異は、腫瘍退縮活性を選択的とする。ICP34.5遺伝子中の適切な変異については、Chou et al 1990 及び Maclean et al 1991に記載されているが、ICP34.5を非機能性にする任意の変異を使用してよい。このような不活性化が著しく腫瘍退縮効果を低下させる場合、又はこのような欠失がウイルスの腫瘍退縮特性もしくは他の望ましい特性を高める場合、ICP47、ICP6 及び/又はチミジンキナーゼをコードする遺伝子をさらに不活性化してよく、他の遺伝子も同様に不活性化してよい。ICP47をコードする遺伝子が変異している場合、隣接するUS11遺伝子が、HSV複製サイクル中で通常より早い時期に発現するといったように変異してよい。このような変異については、Liu et al 2003に記載されている。本発明のウイルスは、プロドラッグ活性化酵素、細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質及び免疫調節タンパク質を2以上さらにコードする。
【0012】
本明細書において、ヘルペスウイルス遺伝子について使用する用語は、HSV遺伝子について一般に使用されている。本発明のヘルペスウイルスが、非HSVヘルペスウイルス由来である場合、上述のHSV遺伝子の各々の機能的等価物は、不活性化している。HSV遺伝子と機能的に等価な非HSV遺伝子は、HSV遺伝子と同じ機能を果たし、HSV遺伝子とある程度の配列相同性を有する。上記機能的等価物は、少なくとも30%、例えば少なくとも40%又は少なくとも50%、HSV遺伝子と相同であればよい。相同性は、下記のとおりに測定することができる。
【0013】
上記の目的のために改変されるウイルス領域は、除去されていても(完全にもしくは部分的に)、非機能性とされていても、他の配列、特にプロドラッグ変換酵素をコードする遺伝子、細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする遺伝子、もしくは免疫調節タンパク質をコードする遺伝子によって置換されていてもよい。
【0014】
本発明のウイルスは、単純ヘルペスウイルスHSV株に由来してよい。前記HSV株は、 HSV1株もしくはHSV2 株、又はその誘導体でよく、好ましくはHSV1である。誘導体には、HSV1及びHSV2 株に由来するDNAを含有する種間組換体が含まれる。このような種間組換体は当技術分野で、例えばThompson et al 1998及びMeignier et al 1988に記載されている。誘導体は、好ましくはHSV1 ゲノム又はHSV2 ゲノムのいずれかと少なくとも70% 配列相同性を有し、さらに好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは90%もしくは95%配列相同性を有する。さらに好ましくは、誘導体はHSV1ゲノム又はHSV2ゲノムのいずれかと少なくとも70%配列同一性を有し、さらに好ましくは少なくとも80%の同一性、さらに好ましくは少なくとも90%、95%又は98%の同一性を有する。
【0015】
例えばUWGCG パッケージは、(例えば、初期設定に用いることができる)相同性の算出に用いることができるBESTFITプログラムを提供する(Devereux et al. (1984) Nucleic Acids Research 12, p387-395)。PILEUP及びBLASTアルゴリズムは、相同性又は整列配列の算出(通常、初期設定について)に用いることができる。例えば、Altschul (1993) J. Mol. Evol. 36:290-300; Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のとおりである。
【0016】
BLAST解析を行うためのソフトウェアは、National Centre for Biotechnology Information (を通じて公に利用可能である。このアルゴリズムは、第1に、データベース配列中の同じ長さの文字列と整列させた時に、幾つかの、正の値の閾値Tと一致する又は満たす検索配列中の長さWの短い文字列を同定し、高スコア配列ペア(HSP)を同定する。Tを、近接(neighbourhood)文字列スコア閾値と呼ぶ(Altschul et al., 1990)。これらの初期近接文字列のヒットは、これらを含むHSPを見出すための初期検索の種(シード)としての機能を果たす。上記文字列のヒットは、各々の配列に沿って、累積アラインメントスコアが増加し得る限り両方向に伸長される。各々の方向への文字列のヒットの伸長は、累積アラインメントスコアが最高値から量X減少した時、負のスコアの残基アラインメントの1以上の累積によって累積スコアがゼロ又はそれ以下になった時、又は両配列の末端に達した時に停止する。上記BLASTアルゴリズムパラメータW、T及びXはアラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTプログラムは、初期値として文字列の長さ(W)が11、BLOSUM62スコアリングマトリックス (Henikoff and Henikoff (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919を参照) アラインメント(B) が50、期待値(E)が10、M=5、N=4、及び両鎖の比較を用いる。
【0017】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計解析を行う。例えば、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5787を参照。BLASTアルゴリズムが提供する、類似性の1つの基準は、最小和確率(P(N))である。P(N)は、2つのヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の間の一致が偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、第1の配列と第2の配列とを比較した最小和確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、さらに好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、1つの配列は、もう1つの配列と類似していると見なされる。
【0018】
誘導体は、例えば、1、2又は3から10、25、50又は100の置換といったヌクレオチド置換によって改変したHSV1又はHSV2ゲノムの配列を有してもよい。前記HSV1もしくは HSV2ゲノムは、別に又はさらに、1以上の挿入及び/又は欠失及び/又はいずれか一端もしくは両端の伸長によって改変されてもよい。
【0019】
本発明のウイルス株は、「非実験室」株であってもよい。これらは、「臨床」株と称することもできる。当業者は、実験室株と非実験室株又は臨床株とを容易に識別することができる。ウイルス株が呈する可能性が高い特性についてのさらなる指針については、後述する。
【0020】
実験室株と非実験室株との主要な差異は、現在一般的に用いられている実験室株は、長期間、場合によっては長年、培養で維持されているという点にある。全ての実験室HSV株は、元々は感染した個体から単離されたものであり、臨床株に由来する。HSVのようなウイルスの培養は、連続継代として知られる技法を含む。ウイルスを増殖させ維持するためには、適当な細胞にウイルスを感染させ、ウイルスを細胞内で複製させて、その後回収する。その後新鮮な細胞に再度感染させる。このプロセスは、連続継代の1サイクルを構成する。各々のサイクルは、例えばHSVの場合数日を要することがある。上述のとおり、連続継代は、ウイルス株の特性に変化を引き起こし得る。すなわち、培地中での生育(例えば、急速複製)に有利な特性による選択が起こる。これは、例えばHSVの場合の軸索を通って伝わる能力又はヒト細胞に感染する能力の維持といったウイルス株の実用化に役立つ特性とは対照的である。
【0021】
現在使用されている実験室株としては、HSV-1株F、HSV-1株17+及びHSV-1株KOSがある。本発明に有用な非実験室株は通常、同等の改変をもつHSV-1株F、17+及びKOS株と比較して改良された腫瘍退縮活性を有する。
【0022】
非実験室株は、感染した個体から最近単離された株である。本発明の非実験室株は、最近単離された株であり、この株は、ICP34.5をコードする遺伝子が不活性化されて機能性ICP34.5タンパク質を発現できず、かつプロドラッグ活性化タンパク質をコードする遺伝子、細胞融合を引き起こすことができるタンパク質及び/又は免疫調節タンパク質をコードする遺伝子を含むように改変されている。本発明のウイルスは、必要な改変がなされるようにするため、培養中である程度の時間を費やすことになるが、培養に費やす時間は比較的短い。臨床分離株は、保存のため改変の前に凍結されていてもよく、又は改変がなされた後に凍結されていてもよい。本発明の株は、由来元の原臨床分離株がもつ望ましい特性を実質的に保持するような方法で調製される。
【0023】
本発明のウイルス株は、親ウイルス株がウイルスを産生するように変異している場合、該親ウイルス株に由来する。例えば、本発明のウイルスは、臨床分離株JS1に由来してよい。JS1由来ウイルスの親株は、JS1でもよいし、又はJS1から生じた別のHSV1株でもよい。従って、本発明のウイルスは、機能性ICP34.5をコードする遺伝子を欠き、プロドラッグ変換酵素をコードする遺伝子、細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする遺伝子及び免疫調節タンパク質をコードする遺伝子を2以上含むJS1ウイルスでもよい。さらにこのようなウイルスは、例えば本明細書において述べるような、任意の他の変異を含んでもよい。
【0024】
本発明のウイルスは、効率的に標的ヒト癌細胞に感染することができる。ウイルスが非実験室株又は臨床株である場合、そのウイルスは、HSV感染個体から最近単離され、その後、in vitro及び/又はin vivoにおける複製、腫瘍細胞及び/又は他の細胞への感染もしくは殺滅といった、HSV-1株F、KOS及び17+といった標準的な実験室株と比較して向上した望ましい能力で選別されたウイルスであるだろう。実験室ウイルス株と比較して改良された特性をもつ、本発明のウイルスは、その後工学的に操作され、機能性ICP34.5遺伝子を欠き、プロドラッグ活性化酵素の遺伝子、細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質の遺伝子及び免疫調節タンパク質をコードする遺伝子を2以上コードし、ここで当該遺伝子は適当なプロモーターの制御下に置かれる。ウイルス株は、宿主から非改変臨床親株を単離してからの培養が3年もしくはそれ以下であった場合、最近単離されたものである。さらに好ましくは、該株は、1年もしくはそれ以下培養され、例えば、9月もしくはそれ以下、6月もしくはそれ以下、3月もしくはそれ以下、2月もしくはそれ以下、1月もしくはそれ以下、2週間もしくはそれ以下、又は1週間もしくはそれ以下培養される。この定義で培養時間は、実際に培養に費やした時間を意味する。例えば、ウイルス株を保存のために凍結するのは常識である。明らかに、凍結又は同等の方法による保存は、培養による前記株の維持とは見なされない。従って、凍結又は他の保存に費やされた時間は、培養に費やした時間の上記定義には含まれない。培養に費やされた時間は通常、実際に連続継代を経るのに費やされた時間、すなわち、望ましくない特性による選択が起こり得る間の時間である。
【0025】
好ましくは、非実験室ウイルス株は、宿主から非改変臨床前駆体株を単離したときから1000もしくはそれ以下のサイクル又は連続継代を経ている。さらに好ましくは、前記ウイルス株は、500もしくはそれ以下、100もしくはそれ以下、90もしくはそれ以下、80もしくはそれ以下、70もしくはそれ以下、60もしくはそれ以下、50もしくはそれ以下、40もしくはそれ以下、30もしくはそれ以下、20 もしくはそれ以下、10 もしくはそれ以下、5もしくはそれ以下、4もしくはそれ以下、3もしくはそれ以下、2もしくは1の前記サイクルを経ている。
好ましくは、非実験室ウイルスは、標準的な統計的試験によって測定した場合、身近な用途に役立つ特定の機能を果たす同等の改変をもつ参照実験室株より高い能力を有する。腫瘍治療のための腫瘍退縮性ウイルスの場合、本発明の非実験室ウイルス株は、好ましくは、同等の改変をもつ参照実験室株と比べて、腫瘍細胞に感染しもしくは腫瘍細胞中で複製し、腫瘍細胞を殺滅し、又は組織中の細胞間で広がるためのより高い能力を有する。さらに好ましくは、該より高い能力は統計的に有意に高い能力である。例えば、本発明によれば、非実験室株は、評価された特性に関して、参照株の1.1倍、1.2倍、1.5倍、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍又は100倍までの能力を有する。好ましくは、該参照株はHSV-1株17+、HSV-1(F)及びHSV-1 KOSから選択される。
【0026】
本明細書に記載される統計的分析は、標準的試験、例えば、t-test、ANOVA、又はカイ二乗検定によって実行してよい。通常、統計的有意性は、p = 0.05 (5%)レベルまで測定され、さらに好ましくはp = 0.01p、p = 0.001、p = 0.0001、p = 0.000001まで測定される。
【0027】
本発明のウイルスは、腫瘍細胞に感染し、腫瘍細胞中で複製し、その後該腫瘍細胞を殺滅する。従って、これらのウイルスは複製能がある。好ましくは、ウイルスは、腫瘍細胞中で選択的複製能を有する。このことは、ウイルスが腫瘍細胞中で複製し、非腫瘍細胞中では複製しないこと、又はウイルスが、腫瘍細胞中では非腫瘍細胞中よりも効率よく複製することを意味する。例えば、該ウイルスが中枢神経系の腫瘍の治療に用いられる場合、ウイルスは、上記腫瘍細胞中で複製することができるが、周囲の神経細胞中では複製することができない。ウイルスが複製することができる細胞は、許容細胞である。選択的複製能の測定は、複製及び腫瘍細胞殺滅能力を測定する、本明細書に記載の試験によって実行することができ、また希望する場合は、本明細書に記載の統計的技法によって分析することができる。
【0028】
腫瘍細胞に関する前記ウイルス株の特性は、当技術分野において知られている任意の方法において測定することができる。例えば、腫瘍細胞に感染するウイルスの能力は、一定の割合の細胞、例えば50%又は80%の細胞の測定に必要とされるウイルスの投与量を測定することによって定量することができる。腫瘍細胞中で複製する能力は、実施例で実行されるような成長の測定、例えば6、12、24、36、48もしくは72時間又はそれ以上の期間にわたる、細胞中のウイルスの成長の測定によって測定することができる。
ウイルスの、腫瘍細胞を殺滅する能力は、目で大体定量することが可能であり、又は、所定の時間及び所定の細胞種に対して経時的に残る生細胞の数を数えることによってさらに正確に定量することができる。例えば、24、48もしくは72時間にわたって比較を行ってよく、任意の既知の腫瘍細胞種を用いてよい。特に、HT29大腸腺癌、LNCaP.FGC前立腺癌、MDA-MB-231乳腺癌、SK-MEL-28悪性黒色腫又は U-87 MG グリア芽星細胞腫細胞を用いることができる。これらの細胞種の任意の1種、又はこれらの細胞種の任意の組合せを使用することが可能であり、他の腫瘍細胞種を用いてもよい。この目的のために、腫瘍細胞種の標準的パネルを構築することが望ましいであろう。所定の時点で残存している生細胞の数を数えるために、トリパンブルー除外細胞(すなわち、生細胞)の数を数えることができる。蛍光活性化細胞分類(FACS)又はMTTアッセイによって定量を実行してもよい。腫瘍細胞殺滅能力は、in vivoで、例えば特定のウイルスによって生じた腫瘍体積の低減を測定することによって測定してもよい。
【0029】
本発明のウイルスの特性を決定するためには、一般的に、比較のため標準的な実験室参照株を用いることが望ましい。任意の適当な標準的実験室参照株を用いてよい。HSVの場合は、1もしくはそれ以上のHSV1 株 17+、HSV1 株F 又はHSV1 株KOSを用いることが好ましい。該参照株は、一般的には、評価された本発明の株と同等の改変を有する。従って、参照株は、一般的に、遺伝子欠失及び異種遺伝子挿入といった同等の改変を有する。本発明のウイルスの場合、ICP34.5をコードする遺伝子が非機能性とされており、該ICP34.5をコードする遺伝子は、参照株においてもまた非機能性とされている。参照株に加えられた改変は、本発明の株に加えられた改変と同一でよい。これによって、参照株中の遺伝子破壊は、本発明の株中の遺伝子破壊と正確に同じ位置となることを意味する。例えば、欠失は同じ大きさで同じ位置にある。同様に、これらの実施態様においては、異種遺伝子は同じ位置に挿入され、同じプロモーターで駆動される、等である。しかし、同一の改変がなされることは、必須ではない。重要なことは、参照遺伝子は機能的に同等の改変を有するということである。例えば、同じ遺伝子が非機能性とされ、及び/又は同じ異種遺伝子が挿入されている。
【0030】
B. 変異の方法
言及した様々な遺伝子は、当技術分野において周知な幾つかの技法によって機能的に不活性化することができる。例えば、前記遺伝子は、欠失、置換又は挿入によって機能的に不活性化されてよいが、好ましくは欠失による。欠失は、遺伝子の1もしくはそれ以上の部分又は全遺伝子を除去することでよい。例えば、1つのヌクレオチドのみの欠失がなされると、フレームシフトが起こる。しかし、好ましくは例えば、少なくとも25%、さらに好ましくは少なくとも50%の全コーディング配列及び非コーディング配列(或いは、絶対的には、少なくとも10ヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも100ヌクレオチド、最も好ましくは、少なくとも1000ヌクレオチド)といった、より大きい欠失がなされる。全ての遺伝子及び幾つかの隣接配列(フランキング配列)を除去することが特に好ましい。前記遺伝子の、2つ又はそれ以上のコピーがウイルスゲノム中に存在する場合、遺伝子の両方のコピーが機能的に不活性化されていることが好ましい。
【0031】
前記ヘルペスウイルスは、当業者に周知な相同組換方法で変異がなされる。例えば、HSVゲノムDNAは、相同HSV配列に隣接(フランキング)された変異配列を含むベクター、好ましくはプラスミドベクターと共にトランスフェクトされる。該変異配列は、欠失、挿入又は置換を含んでよく、これらの全ては通常の技法によって構築することができる。挿入としては選択マーカー遺伝子をを挙げることができる。例えば、lacZ又は緑色蛍光タンパク質(GFP)を、p-ガラクトシダーゼ活性又は蛍光による組換ウイルスのスクリーニングに用いることができる。
【0032】
C. 異種遺伝子及びプロモーター
本発明のウイルスは、プロドラッグ活性化酵素をコードする異種遺伝子、細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする異種遺伝子及び免疫調節タンパク質をコードする異種遺伝子を2以上有する。好ましくは、本発明のウイルスは、プロドラッグ活性化酵素をコードする異種遺伝子、並びに融合性タンパク質をコードする異種遺伝子及び免疫調節タンパク質をコードする異種遺伝子の1つ又は両方を含む。前記融合性タンパク質は、免疫調節タンパク質としても機能する。
【0033】
好ましくは、前記プロドラッグ活性化タンパク質は、シトシンデアミナーゼ酵素である。シトシンデアミナーゼ遺伝子は、不活性プロドラッグ5-フルオロシトシンを活性薬剤5-フルオロウラシルへと変換することができる。様々なシトシンデアミナーゼ遺伝子は、細菌起源の遺伝子及び酵母起源の遺伝子を始めとして入手可能である。第2の遺伝子、通常は第2酵素をコードする遺伝子を、シトシンデアミナーゼ遺伝子のプロドラッグ変換活性を高めるために用いてよい。例えば、第2遺伝子は、図2に記載のウイルスと同じように、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼをコードしてもよい。
【0034】
細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする任意の適当な融合性遺伝子を用いてよい。好ましくは、細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質は、テナガザル白血病ウイルス(GALV)又はヒト内在性レトロウイルスWに由来するエンベロープ糖タンパク質、麻疹ウイルスに由来する融合性FもしくはHタンパク質、及び水疱性口内炎ウイルスGタンパク質といった、改変されたレトロウイルスエンベロープ糖タンパク質から選択される。さらに好ましくは、細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質は、GALV融合性糖タンパク質である。
【0035】
上記免疫調節遺伝子は、免疫応答をモジュレートすることができるタンパク質をコードする任意の遺伝子でよい。免疫応答をモジュレートすることができるタンパク質は、GM-CSF、TNF-α、インターロイキン(例えばIL12)といったサイトカイン、RANTESもしくはマクロファージ炎症性タンパク質(例えばMIP-3)といったケモカイン、又はB7.1、B7.2、もしくはCD40Lといった別の免疫調節分子であってよい。細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質は、免疫応答をモジュレートすることもできることがある。例えば、GALVは免疫応答をモジュレートすることができる。
【0036】
従って本発明のウイルスは、in vivoにおける遺伝子の細胞への送達に用いてよく、そこで該遺伝子は発現する。
【0037】
プロドラッグ活性化遺伝子、細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする遺伝子、及び/又は免疫調節タンパク質をコードする遺伝子は、HSV株の、例えばHSV配列に隣接された前記遺伝子を有するプラスミドベクターとの相同組換といった任意の適当な技法によってウイルスゲノムに挿入してよい。該遺伝子は、例えばICP34.5をコードする遺伝子を置換するように上記HSVゲノムの同じ部位に挿入してもよいし、異なる部位に挿入してもよい。遺伝子は、別々のプロモーター、例えばCMVプロモーター及びRSVプロモーター、又は単一のプロモーターから発現してよい。遺伝子が単一のプロモーターから発現する場合、遺伝子は、内部リボソーム侵入部位(IRES)によって分離されてもよい。遺伝子は、翻訳融合として発現してもよく、この際融合タンパク質は、前記別々の遺伝子の両方の活性(即ち、プロドラッグ活性化及び細胞と細胞との融合、プロドラッグ活性化及び免疫調節活性、又は細胞と細胞との融合及び免疫調節活性)を保持し、また融合タンパク質は、発現後プロテアーゼによって、該融合タンパク質に対してin cis又はin transに切断される。好ましい実施形態においては、前記2つのタンパク質、又は前記3つのタンパク質のうち2つは、RSV及びCMVプロモーターからそれぞれ発現し、これらのプロモーターは互いに対して各々背合わせ方向に位置し、ICP34.5をコードする遺伝子を置換するようにHSVゲノムに挿入される。このようなウイルスは、図2に説明される。しかし、該遺伝子は、腫瘍退縮特性が保持される条件で、上記ウイルスゲノムの任意の位置に挿入されてよい。
【0038】
前記挿入遺伝子の転写配列は、好ましくは機能しうる形で制御配列に結合し、腫瘍細胞中で該遺伝子が発現することを可能にする。「機能しうる形で結合」という用語は、並列を指し、ここで上述の構成成分は、意図されたように機能することを可能にする関係にある。コーディング配列に「機能しうる形で結合」している制御配列は、この制御配列と両立し得る条件下でコーディング配列の発現が達成されるようにして連結される。
【0039】
制御配列は通常、プロモーターに機能しうる形で連結した遺伝子の発現を可能とするプロモーター及び転写終結シグナルを含む。前記プロモーターは、哺乳類中、好ましくはヒト腫瘍細胞中で機能するプロモーターから選択される。該プロモーターは、真核生物の遺伝子のプロモーター配列に由来してよい。例えば、上記プロモーターは、異種遺伝子の発現が起こる細胞のゲノム、好ましくは哺乳類の腫瘍細胞、さらに好ましくはヒト腫瘍細胞のゲノムに由来してよい。真核生物のプロモーターに関して、これらのプロモーターは普遍的に機能するプロモーター(β-アクチン、チューブリンのプロモーターといった)でも、或いは腫瘍特異的な方法で機能するプロモーターでもよい。これらは、特定の刺激に応答するプロモーター、例えばステロイドホルモン受容体に結合するプロモーターであってもよい。ウイルスプロモーターもまた使用してよい。 例としては、モロニーネズミ白血病ウイルスの長い末端反復配列(MMLV LTR)プロモーターもしくはラウス肉腫ウイルス(RSV)に由来する他のレトロウイルスプロモーター、ヒトもしくはマウスのサイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター、又はヘルペスウイルス遺伝子のプロモーター(例えば、潜伏関連転写物の発現を駆動するもの)が挙げられる。
プロドラッグ変換酵素をコードする遺伝子、細胞と細胞との融合を促進することができるタンパク質をコードする遺伝子及び/又は免疫調節遺伝子並びに制御配列を含む発現カセット及び他の適当な構築物は、当業者に知られた通常のクローニング技法を用いて作製することができる(例えば、Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning - A laboratory manual; Cold Spring Harbor Pressを参照)。
【0040】
プロモーターは誘導性であることが有利であり、腫瘍細胞の生存期間中、遺伝子の発現レベルを調節することができる。誘導性は、プロモーターを用いて得られる発現レベルが調節し得ることを意味する。例えば、本発明のウイルスは、強力なプロモーター(例えば、CMV IEプロモーター)の制御下で、tetリプレッサー/VP16転写アクチベータ融合タンパク質をコードする異種遺伝子をさらに含んでよく、プロドラッグ変換、細胞と細胞との融合もしくは免疫調節もしくは他の遺伝子は、既に報告されているtetリプレッサー/VP16転写アクチベータ融合タンパク質に応答するプロモーターの制御下に置かれてよい(Gossen and Bujard, 1992, Gossen et al, 1995)。従って、この例では、前記遺伝子の発現はテトラサイクリンの存否に依存する。
【0041】
本発明のウイルスは、複数の異種遺伝子をコードする。本発明のウイルスは、1もしくはそれ以上の付加的な遺伝子、例えば1、2から3、4もしくは5の付加的な遺伝子を含む。付加的な遺伝子は、プロドラッグ変換遺伝子、融合遺伝子及び/又は免疫調節遺伝子のさらなるコピーであってもよい。付加的な遺伝子は、1もしくはそれ以上の異なるプロドラッグ変換遺伝子、1もしくはそれ以上の異なる融合性遺伝子及び/又は1以上の異なる免疫調節遺伝子をコードしてもよい。付加的な遺伝子は、治療効果を高めることを目的とする他の遺伝子をコードしてもよい。
【0042】
特定のHSV株の、ウイルスゲノムの単一部位又は複数部位に、1より多くの遺伝子及び関連する制御配列を導入することができる。或いは、互いに反対方向を向いていて、離れている一組のプロモーター(同一又は異なるプロモーター)であって、各々1つの遺伝子の発現を駆動しているプロモーターを用いてもよい。
【0043】
D. 治療上の使用
ヒト又は動物の体を治療する方法に本発明のウイルスを用いることができる。特に、本発明のウイルスは癌の治療方法に用いることができる。好ましくは、本発明のウイルスは癌の腫瘍退縮治療に用いる。本発明のウイルスは、哺乳類、好ましくはヒトのいかなる固形腫瘍に対する治療上の処置に用いてもよい。例えば、本発明のウイルスを、前立腺癌、乳癌、肺癌、肝癌、腎細胞癌、子宮内膜癌、膀胱癌、大腸癌又は子宮頸部癌、腺癌、黒色腫、リンパ腫、神経膠腫、軟部組織肉腫及び骨肉腫といった肉腫、又は頭頸部癌をもつ被験者に投与してよい。
【0044】
E. 投与
本発明のウイルスは、治療を必要とする患者、好ましくはヒトの患者に用いてよい。治療を必要とする患者は、癌を患っている個体、好ましくは固形癌を患っている個体である。治療上の処置の目的は、患者の症状の改善である。通常、本発明のウイルスを用いた治療上の処置は、癌の症状を緩和する。本発明による、癌の治療方法は、癌を患っている患者に対する、治療上有効な量の本発明のウイルスの投与を含む。腫瘍を患っている個体に本発明の腫瘍退縮性ウイルスを投与することによって、通常腫瘍細胞が殺滅され、腫瘍の大きさが減少し及び/又は腫瘍から悪性細胞が広がることが妨げられる。
【0045】
投与療法の1つの方法は、前記ウイルスを製薬上許容可能な担体又は希釈剤と併用して医薬組成物を製造することを含む。適当な担体及び希釈剤は、等張食塩水、例えばリン酸緩衝生理食塩水を含む。
治療上の処置は、ウイルス組成物を標的組織に直接注射することによって実行してよい。該標的組織は、腫瘍、又は該腫瘍に供給を行う血管であってよい。投与されるウイルスの量は、HSVの場合、104から1010 pfuの範囲内であり、好ましくは105から108 pfuの範囲内、さらに好ましくは約106から109 pfuの範囲内である。通常は1から4 ml、例えば2から3 mlの、本質的にウイルス及び製薬上許容可能な適当な担体もしくは希釈剤からなる医薬組成物が、個々の腫瘍への直接注射に用いられる。しかし、幾つかの腫瘍退縮療法の用途については、腫瘍の種類、大きさ及び接種部位によって、10mlまでの大容量を用いてもよい。同様に、1ml未満の少容量を用いてもよい。
【0046】
記載された投与の経路及び用量は、指針とする目的で記載したにすぎない。なぜなら、当業者は最適な投与の経路及び用量を容易に決定することができると考えられるからである。該用量は、様々なパラメータ、特に腫瘍の位置、腫瘍の大きさ、治療を受ける患者の年齢、体重及び症状、並びに投与の経路によって決定してよい。好ましくは、ウイルスは、直接注射によって腫瘍に投与される。ウイルスは、全身投与又は腫瘍に供給を行う血管に対する注射によって投与されてもよい。投与の最適経路は、上記腫瘍の位置及び大きさに依存する。
【0047】
下記の実施例により、本発明を例証する。
【0048】
向上した腫瘍退縮性及び抗腫瘍ポテンシャルをもつICP34.5欠失HSVの作製を目的とした研究において、我々はHSV1株JS1からICP47及びICP34.5を欠失させ、プロドラッグ活性化遺伝子をコードする遺伝子(シトシンデアミナーゼ/ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ融合遺伝子)及び/又はGALV融合性糖タンパク質の遺伝子を挿入した。
【実施例1】
【0049】
ウイルス構築 (図1及び2参照)
使用したウイルスは、臨床又は「非実験室」HSV1株、JS1を基礎とした。ICP34.5及びICP47をJS1株から完全に欠失した。このウイルスについては、Lui et al 2003に記載されている。GALV env R-(Bateman et al 2000, Galanis et al 2001)及び/又はシトシンデアミナーゼ/ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ融合遺伝子(Fcy:Fur; Invitrogen)を、その後CMVプロモーター及びRSVプロモーター各々の制御下で、ICP34.5をコードする遺伝子の位置に挿入した。
【0050】
図1a-1hは、上記ウイルスの構築に用いたプラスミドの段階的構築を示す。
ステップ1 (図1a): Fcy::Fur 遺伝子を、NcoI及びNheIでpORF Fcy::Fur から切除し、HindIII及びXbaIによる消化の後pRCRSVに挿入した。
【0051】
ステップ2 (図1b): PRcRSV Fcy::Fur から切除したRSV プロモーター/Fcy::Fur/BGHpAカセットをICP34.5隣接領域(Lui et al 2003)の間に挿入し、p-34.5 Fcy::Furを生成した。
【0052】
ステップ3 (図1c): GALV env R-を統合プロウイルスを含む細胞からPCRによって増幅し、pcDNA3のNotI部位とEcoRI部位の間にクローン化してpcDNA3 kGALV env R-を生成した。
【0053】
ステップ 4 (図1d-1e): 不要な制限酵素部位を除去するための操作。
【0054】
ステップ 4 (図1g): CMV プロモーター/GALV R-/BGHpAカセットを、ICP34.5隣接領域にクローン化し、p-34.5 CMV GALV env R-を生成した。
【0055】
ステップ 5 (図1h): ICP34.5の位置へ挿入を行うことが可能であって、GALV env R- 及びFcy::Fur 遺伝子の両方を含むプラスミドを生成するために、RSV プロモーター/Fcy::Fur/pAカセットを、pRcRSV Fcy::Furから切除し、p-34.5 CMV GALV env R-に挿入してp-34.5 GALV FCYを生成した。
【0056】
プラスミドp-34.5 Fcy::Fur、p-34.5 CMV GALV env R-及びp-34.5 GALV FCYを相同的組換えによってウイルス株JS1/34.5-/47- CMV GFP (Lui et al 2003)に挿入し、ICP34.5を置換しているGFP配列を置換した。組換え型の、非GFP発現プラークを、3つのウイルス(JS1/34.5-/47-/Fcy::Fur, JS1/34.5-/47-/GALV及び JS1/34.5-/47-/Fcy::Fur)を生成しているプラークとして選択した。これらは、図2に示される。
【実施例2】
【0057】
GALV env R-発現ウイルスは細胞と細胞との融合を媒介する
GALVのみを発現しているウイルスは、(i) GALV タンパク質の発現を媒介として、in vitroでHT1080、Fadu及びU87MGを含むいくつかのヒト腫瘍細胞株の細胞と細胞との融合を引き起こし、(ii) マウスモデル(Fadu及びHT1080)において、GALV タンパク質を発現していない同等のウイルスと比較して増大した抗腫瘍活性をin vivoで提供する。
【0058】
細胞と細胞との融合は図3に示される。ラットRG2グリオーマ細胞はJS1/34.5-/47- 又はJS1/34.5-/47-/GALVのいずれかに感染され、プラークの形態に影響を与えることが観察された。GALV発現ウイルスは、大きく拡大したプラークを生成することを確認することができ、シンチウム(細胞と細胞との融合)効果の痕跡が容易に観察される。
【実施例3】
【0059】
Fcy::Fur発現ウイルスは、シトシンデアミナーゼ活性を示す
ウイルスを含むシトシンデアミナーゼ/ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ融合遺伝子は、in vitroで5-フルオロシトシンの5-フルオロウラシルへの変換を導き、5-フルオロウラシルが媒介する細胞殺滅が起こることが示された。これは図4に示されており、ここでHT1080細胞は5-フルオロシトシンの存在下又は不在下で3つのウイルスに感染された。その後、これらの細胞からの上清を熱処理して、該上清中に存在するウイルスを不活性化した。次に、これらの上清を用いて新たな細胞を覆った。5-フルオロシトシンが毒性5-フルオロウラシルに変換されていたとすると、これらの新たな細胞はその後死滅させられることとなる。図4から、原HT1080細胞への感染に用いたウイルスがFcy::Fur遺伝子を含んでいた場合、結果として生じた上清で覆った細胞が、Fcy::Fur遺伝子の生物学的活性を示しながら死滅させられたことが確認できる。
【実施例4】
【0060】
5-フルオロシトシンの発現と組み合わせたGALV env R- 及び Fcy::Fur発現の組合せは、いずれかの遺伝子を単独で使用した場合と比較して向上した抗腫瘍活性をin vivoで提供する
図5は、ラットの側腹に移植された縮小腫瘍に対する3つのウイルス(JS1/34.5-/47-/GALV、JS1/34.5/47-/Fcy::Fur 及びJSI/34.5-/47-/GALV/Fcy::Fur)及び「空ベクター」対照(JS1/34.5-/47-)の影響を示す。該ウイルスは、5-フルオロシトシンと併用して投与された。図5から、各々のウイルスが注射された腫瘍の縮小を引き起こしていることが見られる。しかし、GALV env R-又はFcy::Fur単独の送達が、空ベクター対照と比較して改良された腫瘍の縮小を生じさせる一方、GALV env R-及びFcy::Fur両方の併用による送達は、この場合に治癒した全ての腫瘍においてさらに改良された腫瘍縮小効果を生じさせる。従って、プロドラッグ活性化遺伝子及び融合性糖タンパク質の共送達は、腫瘍治療に関して、いずれか一方を単独で用いた場合と比較して改良を生じさせると結論づけることができる。
【0061】
寄託情報
HSV1株JS1は、仮受託番号01010209の下、2001年1月2日付にてEuropean Collection of Cell Cultures (ECACC)、CAMR、Sailsbury、Wiltshire SP4 0JG、United Kingdomに寄託された。
【0062】
(参考文献)
Chou et al. 1990, Science 250: 1262-1266
Maclean et al. 1991, J. Gen. Virol. 72: 631-639
Gossen M & Bujard H, 1992, PNAS 89: 5547-5551
Gossen M et al. 1995, Science 268: 1766-1769
Thompson et al. 1998, Virus Genes 1(3); 275-286
Meignier et al. 1988, Infect. Dis. 159; 602-614
Liu et al et al 2003, Gene Therapy 10; 292-303
Bateman et al 2000, Cancer Research 60; 1492-1497
Galanis et al 2001, Human Gene Therapy 12; 811-821
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1a】図1は、本発明のウイルスを構築するために用いられるプラスミドを表し、前記プラスミドの構築方法を示す。該プラスミドは、ICP34.5をコードする遺伝子に隣接(フランキング)するHSV1配列に隣接される、シトシンデアミナーゼ遺伝子もしくはテナガザル白血病(GALV)融合性糖タンパク質のいずれか、又は両方の遺伝子をコードする。前記プラスミドをHSV1遺伝子の相同組換に用いて、ICP34.5をコードする遺伝子を、シトシンデアミナーゼ遺伝子、GALV糖タンパク質遺伝子のいずれか又は両方の遺伝子と置換することができる。その後、これらのプラスミドを図2に示すウイルスの構築に用いた。
【0064】
図1aは、pORF Fcy:Fur (Invivogen)からpRcRSV (Invitrogen)へのFcy:Fur 遺伝子のサブクローニングを示す。Fcy:Fur 遺伝子を、制限酵素消化によって除去した(Nhe I及びNco I (T4 ポリメラーゼで平滑末端化した))。次に、この断片をXba I及びHind III で切断したpRcRSV(Invitrogen)(T4 ポリメラーゼで平滑末端化した)に連結した。
【図1b】図1bは、RSV Fcy:Fur pA カセットのpRcRSVからp-34.5への制限酵素消化(Pvu II, NruI)によるサブクローニングを示す。次に、この断片をNotI (T4 ポリメラーゼで平滑末端化した)で切断されたシャトルベクターp-34.5の中に連結した。p-34.5プラスミドは、pSP72 (Promega)に基づき、HSV-1 ICP34.5遺伝子(HSV-1 17+株 (123462-124958bp, 125713-126790bp)) Genbank X14112を基礎とする)の両側に2つの隣接(フランキング)領域を含む。
【図1c】図1cは、ウイルス産生細胞株(MLV 144, Rangan et al., 1979)からRT-PCRによって取得したテナガザル白血病ウイルス(Genbank NC_001885, 5552-7555bp)のトランケート型エンベロープ(env)を示す。該エンベロープ(GALV env R-)を、哺乳類の発現 ベクターpcDNA3 (Invitrogen)中にクローン化し(制限酵素消化Eco RI Not Iによる)、3つの該クローンについてシンチウム産生の評価を行った。
【図1d】図1dは、pcDNA3 GALV env R-中のNot-1部位のノックアウトを示す。 Not I を用いて消化し、T4 ポリメラーゼで平滑末端化し、続いて再連結する。
【図1e】図1eは、GALV env R-ウイルス(Genbank NC_001885, 5552-7555bp)のpcDNA3 (Invitrogen)からpGEM T Easyへの、PCR (Promega)によるサブクローニングを示す。
【図1f】図1fは、GALV env R-の、pGEM T Easy(Promega)からp-34.5への制限酵素消化 (NotI)によるサブクローニングを示す。p-34.5プラスミドは、pSP72 (Promega)に基づき、HSV-1 ICP 34.5遺伝子(HSV-1 17+株 (123462-124958bp, 125713-126790bp)) Genbank X14112を基礎とする)の両側に2つの隣接領域を含む。
【図1g】図1gは、ICP34.5隣接領域(HSV-1 17+株 (123462-124958bp, 125713-126790bp) Genbank X14112)を基礎とする)を含む最終的なシャトルベクターを示し、CMVプロモーターの下で、テナガザル白血病ウイルス(Genbank NC_001885, 5552-7555bp)のトランケート型エンベロープ(env)及びBGHポリA(Invitrogen)を発現する。
【図1h】図1hは、RSV Fcy:Fur pA カセットの、pRcRSVからp-34.5 GALV (**)への制限酵素消化 (Pvu II, NruI)によるサブクローニングを示す。次にこの断片を、Nru Iで切断されたシャトルベクターp-34.5 GALVに連結した。p-34.5プラスミドはpSP72 (Promega)に基づき、HSV-1 ICP 34.5 遺伝子(HSV-1 17+株 (123462-124958bp, 125713-126790bp)) Genbank X14112を基礎とする)の両側に2つの隣接領域を含み、CMVプロモーターの下で、テナガザル白血病ウイルス(Genbank NC_001885, 5552-7555bp)のトランケート型エンベロープ(env)及びBGHポリA(Invitrogen)を発現する。
【図2】図2は、本研究において用いたウイルスベクターの略図である。他の意味では健康なボランティア(Liu et al 2003)のヘルペスからスワブを採取することによりHSV-1株JS1を単離した。JS1/34.5- /47-は2つの欠失を有する。第1の欠失は、ICP34.5遺伝子 (HSV-1 株 17+の配列を基礎としてヌクレオチド124948-125713)のコーディング領域の除去を含む。第2の欠失は、ICP47 (HSV-1 株 17+の配列を基礎としてヌクレオチド145570-145290) (Liu et al 2003)の280bpの欠失を含む。JS1/34.5-/GALVenv R-/47- は、CMVプロモーターの下で、テナガザル白血病ウイルスのレトロウイルスエンベロープ - すなわち、R-ペプチド (Genbank NC_001885, 5552-7555bp) (Bateman et al 2000, Galanis et al 2001)を発現する。JS1/34.5-/RSV/Fcy:Fur/47-は、RSVプロモーターの下で、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(Invivogen)に融合しているプロドラッグアクチベータ酵母シトシンデアミナーゼ酵素を発現する。JS1/34.5-/GALV/env R-/ Fcy:Fur/47-は、融合性レトロウイルスエンベロープとプロドラッグアクチベータ酵素との両方を結合する。
【図3】図3は、GALV env R-による腫瘍細胞の融合を示す。プラークは、ラットRG2細胞の感染及びクリスタル・バイオレット染色後のJS1/34.5-/47- (A) 及び JS1/34.5-/47-/GALV (B) を示す。
【図4】図4は、5-フルオロシトシン(5-FC)の存在下又は不在下における、対照ウイルスJS1/34.5-/47-、JS1/34.5-/47-/Fcy:Fur又はJS1/34.5-/47-/GALV/Fcy:Fur感染48時間後のHT1080 細胞から得た上清の影響を示す。その後これらの上清を加熱不活性化し、新鮮なHT1080 細胞に加えて72 時間経過させた。2つの、下右側パネルは、ほとんど完全な細胞死を示し、Fcy:Fur含有ウイルスによって5-フルオロシトシンが5-フルオロウラシルに変換されたことを表す。
【図5】図5は、JS1/34.5-/47-、JS1/34.5-/47-/GALV、JS1/34.5-/47-/Fcy:Furウイルスの、ラットに移植された収縮性腫瘍に対する影響を示す。ラット9L腫瘍細胞をFischerラットの側腹部に移植し、腫瘍の直径が約4-5mmになるまで発達させた。その後、5匹のラットのグループの腫瘍内に、50μl、1x10esp8 pfu/mlの指示ウイルスを7、10、13、17及び20日目に注射した。500mg/kgの5-フルオロシトシンを腹腔内経路で9、11、12、14、16、18、19、21、23、24、25、26日目に投与し、腫瘍の直径を測定した。エラーバーは、標準偏差を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性ICP34.5をコードする遺伝子を欠いたヘルペスウイルスであって、該ヘルペ
スウイルスが、2以上の
(i)プロドラッグ変換酵素をコードする遺伝子、
(ii)細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする遺伝子、及び
(iii)免疫調節タンパク質をコードする遺伝子、
を含む、ヘルペスウイルス。
【請求項2】
請求項1に記載のヘルペスウイルスであって、該ヘルペスウイルスが、
(i)プロドラッグ変換酵素をコードする遺伝子、及び
(ii)細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする遺伝子、
を含む、前記ヘルペスウイルス。
【請求項3】
前記プロドラッグ変換酵素がシトシンデアミナーゼである、請求項1又は2に記載のウイルス。
【請求項4】
前記細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質がテナガザル白血病融合性糖タンパク質である、前記請求項のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項5】
請求項1に記載のヘルペスウイルスであって、該ヘルペスウイルスが、
(i)免疫調節タンパク質をコードする遺伝子、及び
(ii)細胞と細胞との融合を引き起こすことができるタンパク質をコードする遺伝子、
を含む、前記ヘルペスウイルス。
【請求項6】
請求項1に記載のヘルペスウイルスであって、該ヘルペスウイルスが、
(i)プロドラッグ変換酵素をコードする遺伝子、及び
(ii)免疫調節タンパク質をコードする遺伝子、
を含む、前記ヘルペスウイルス。
【請求項7】
前記免疫調節タンパク質が、GM-CSF、 TNFα又はCD40Lである、請求項5又は6に記載のウイルス。
【請求項8】
前記ウイルスの抗腫瘍治療効果を高めることができる、さらなる遺伝子を1以上含む、前記請求項のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項9】
ICP47をコードする機能性遺伝子をさらに欠いた、前記請求項のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項10】
ICP6、糖タンパク質H及び/又はチミジンキナーゼをコードする機能性遺伝子をさらに欠いた、前記請求項のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項11】
樹状細胞機能を抑制することができる機能性タンパク質をコードする遺伝子をさらに欠いた、前記請求項のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項12】
樹状細胞機能を抑制することができる機能性タンパク質をコードする前記遺伝子がUL43又はvhsである、請求項11に記載のウイルス。
【請求項13】
単純ヘルペスウイルス1又は2の株である、前記請求項のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項14】
非実験室ウイルス株である、前記請求項のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項15】
European collection of cell cultures (ECAAC) に仮受託番号 01010209で寄託されたHSV1 JSIに由来する、前記請求項のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項16】
療法によりヒト又は動物の体を治療する方法に使用する、前記請求項のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項17】
癌の治療を目的とした薬剤の製造における、前記請求項のいずれか1項に記載のウイルスの使用。
【請求項18】
前記薬剤が直接腫瘍内接種用である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
有効成分として請求項1から15のいずれか1項に記載のウイルス及び製薬上許容可能な担体もしくは希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項20】
腫瘍の治療を必要とする個体中において、該個体に請求項1から15のいずれか1項に記載のウイルスの有効量を投与することによって腫瘍を治療する方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図1f】
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【図1g】
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【図1h】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−528484(P2006−528484A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520905(P2006−520905)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003217
【国際公開番号】WO2005/011715
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(500354883)バイオヴェックス リミテッド (3)
【Fターム(参考)】