説明

ウイルス感染の免疫療法

本発明は、対象のウイルス感染を治療しまたは予防する方法に関する。詳細には、自己輸血の後、C型肝炎ウイルス(HCV)陽性患者において細胞免疫応答を開始させるための、成熟しかつHCV抗原が生体外で投入された自己樹状細胞の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象のウイルス感染を治療しまたは予防する方法に関する。詳細には、自己輸血の後、C型肝炎ウイルス(HCV)陽性患者において細胞免疫応答を開始させるための成熟しておりかつHCV抗原が生体外で投入された自己樹状細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
樹状細胞(DC)は、免疫学的カスケードを開始するプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)の最も重要なものであり(Hart, 1997)、またMHCクラスIおよびIIの経路を経てペプチドエピトープの提示が可能になるように外因性抗原を内在化することができるので、プライムヘルパー(Th)-およびキラー-T細胞(CTL)に分化する(Cella他、1997参照)。細胞表面への輸出の後、MHC分子-エピトープの複合体がT細胞に提示されて、活性化する。活性化CD4+Th細胞は、シグナルをDCに送達して、未処理のCD8+T細胞をより効率的に活性化することができ(T細胞受容体およびいくつかの同時刺激細胞表面分子をすることによって、またIL-12を含めたサイトカインを分泌することによって)(Bennett, 1998; Ridge, 1998)、また、引き続き病原体に直面したときに、その病原体を除去する能力をもたらす記憶細胞状態を想定するCD8+T細胞の能力を改善する(Kaech, 2003)。活性化ヘルパー細胞は、B細胞と直接相互に作用して、分泌される抗体アイソタイプの分化、増殖、および成型を制御するシグナルを供給することができる。
【0003】
DCは、骨髄、末梢血単球、またはリンパ前駆体から得られ、未成熟または成熟DCを生体外で培養する方法が開発されている(Cella他、1997)。未成熟DCは、抗原提示に関して高い能力を有するがT細胞刺激能力は低く、一方、成熟DCは、抗原提示能力は低いがT細胞刺激能力は高い。多数の生体外培養DCを利用することができるので、腫瘍抗原によるDCの生体外初回刺激が可能になり、その後、初回刺激を受けたDCのマウスへの養子移入がなされ、その結果、腫瘍投与後のマウスの生存を増加させる特定のCTL応答が誘発する(YoungおよびInaba, 1996参照)。メラノーマ、前立腺癌、または腎臓癌に罹っている患者への成熟単球(Mo)-DCの養子移入は、様々な器官で転移の退行をもたらすことが報告され、DC免疫療法が安全であることが証明された(Nestle他、1998)。最近のDC免疫療法試験の包括的な見直しは、これまでのところ、いくつかの癌のタイプで、著しい臨床的有効度が示されている(Nestle他、2001)。またヒトDCは、生きておりまたは熱不活性化したインフルエンザウイルスで首尾良く初回刺激を受け、これらの細胞は、活性化DCおよびIL-12への未処理のT細胞の同時曝露によって高められた強力なプライマリーCD8+CTL応答を、生体外で発生させることができた(Bhardwaj他、1996参照)。しかし、投与実験は報告されなかった。ウイルス特異的CTLは、単純ヘルペスウイルス、モロニーマウス白血病ウイルス、および仙台ウイルスによるDCの生体外初回刺激の後、マウスでも発生した(Hart, 1997参照)。
【特許文献1】WO04/014956
【特許文献2】WO04/014957
【非特許文献1】Winzler他、J.Exp Med. 185, 317(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
C型肝炎ウイルス
HCVは、主なヒト病原体であり、感染した人々の80%程度はウイルスを除去することができず、しばしば慢性肝臓疾患をもたらす持続感染を発症する(Shindo他、1992)。全世界に、約2.5〜5億人のHCVキャリアがいると推定されている(Clarke, 1997)。この大きなキャリア群は、重症の肝臓疾患を発症し易く、ウイルス伝染のためのレザバーである。HCVは、現在のところ、西欧世界では肝臓移植を必要とする末期肝臓疾患の主な原因である(Fishman他、1996; Kerridge他、1996)。
【0005】
HCVの分子生物学の態様は明確であり、HCVは現在、フラビウイルス科(Flaviviridae)内の独立した属として分類される。しかしHCVは、生体外で容易に培養することができず、感染した個体のウイルス血症のレベルは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)による検出が必要になるほど非常に低いので、古典的なウイルス研究は不可能ではないとしても非現実的である。それにもかかわらず、電子顕微鏡法では、HCV感染した個体の血漿から濃縮されたウイルスは、ウイルスゲノムを含有する33nmコア粒子(Kaito他、1994)が顕わになるように界面活性剤で除去することができる糖タンパク質エンベロープを有する50〜60nm粒子であることが確認された。これは、5'および3'末端の非翻訳領域によって挟まれた1つの長いオープンリーディングフレーム(ORF)を含有する、9.5kb程度の1本鎖ポジティブセンスRNA分子である。このORFからの翻訳の結果、翻訳と同時にまた翻訳後に構造的な(S)即ちコアおよびエンベロープのタンパク質および非構造(NS)タンパク質に切断されると考えられる、ポリタンパク質が合成される。最近、新たに同定されたHCVタンパク質、Fタンパク質は、コア遺伝子領域内のフレームシフトの結果として発現することが確認された(Xu他、2001; Varaklioti他、2002)。患者はこのタンパク質に対する抗体を作製するが、タンパク質の機能およびその免疫応答に及ぼす全体的な影響は、わかっていない。
【0006】
HCV感染の診断は、現在のところ、ELISAによる組換えウイルスタンパク質に対する抗体検出によって、行われている。しかし、回復期の明らかな指標が無いので、抗HCV抗体の検出は、急性感染および持続感染または回復期を識別することができない。それにもかかわらず、抗HCV抗体陽性の個体の80%以上がウイルス血症であると推定されており、それ以来、多くの実験室により確認されているある研究では、これら個体のうちかなりの割合の個体は、エンベロープタンパク質E1およびE2への循環抗体を有することが示された(Chien他、1993)。一般に、ウイルスエンベロープタンパク質に対する抗体の出現は、回復期の指標としてしばしば認識される。しかし、超可変領域(HVR1)を含有するE2のアミノ末端に対する同種抗体は、生体内で中和されるが(Farci他、1994)、HVR1内の変異は抗体エスケープ変異体をもたらすと考えられる。
【0007】
これらの変異体がHCV持続の原因または影響を示すか否か、依然として明らかでないが、これは体液性免疫応答がウイルス感染を予防するのに重要であるのに対し、細胞性免疫応答(特に細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答)はウイルス感染のクリアランスを確実にするのに必要であることが十分認識されているからである(Oldstone, 1997)。それにもかかわらず、急性感染中の抗HVRI抗体の素早い出現は、自己限定HCV感染に関連している(Zibert他、1997)。これは、B細胞活性化に必要な急性感染中の有効なTh細胞応答の結果と考えられ(Doherty他、1992); 現在では、急性感染中の強力なCD4+T細胞応答がHCVの除去および回復に相関することを示す、強力なデータがある(Diepolder他、1995; Diepolder他、1997; Missale他、1996; Lamonaca他、1999)。これらの研究は、回復が、コアNS3およびNS4を含むいくつかのHCVタンパク質に対するより頻繁なかつ強力なCD4+Th細胞増殖に関連することを示した。つい最近では、急性HCV感染からの回復が、広範な複数抗原特異的CTL応答の発生に結び付けられていた(Cooper他、1999; Gruner他、2000; Lechner他、2000)。これらの研究は、NS3とNS4とに対するCD8+T細胞応答とCD4+T細胞応答との相関についても強調した。急性HCV感染のクリアランスに重要と認識されたエピトープを、全てのウイルスタンパク質上に分布させ、少なくとも17の異なるHLAクラス1対立遺伝子によって認識された>40CTLエピトープが、現在では同定されている(RehermannおよびChisari, 2000; Wong他、2001)。したがって最近の証拠内容は、HCV感染からの回復の主な要因として、細胞性免疫応答を強力に支持している(概要に関しては、Houghton, 2000; Orland, 2001)。回復において細胞性免疫応答が主な役割を果たすことを主張するデータは、無γグロブリン血症患者がHCV感染から回復できることを示す独立のデータによって裏付けられる(Bjoro他、1994; Christie他、1997; Adams他、1997)。さらに、その他の報告は、家族内または職業性被曝によりHCVに絶えず曝露されたと考えられるHCV血清陰性個体での、CTL応答を含めた細胞性免疫応答について述べていた(Bronowicki他、1997; koziel他、1997; Scognamiglio他、1999)。さらに、約20年前に単一感染源から感染したがその感染が無くなった女性に関する最近の研究では、細胞性免疫記憶および残留抗体の無い状態が、過去のHCV感染を示すことを示唆していた(Takaki他、2000)。
【0008】
さらに、特異的HLAクラスIIハプロタイプの個体は、持続的なHCV感染に対してより抵抗力があることを示すデータがある(概要に関してはDonaldson, 1999参照)。これらのデータの1つの解釈は、持続感染を発症する患者が、ウイルス抗原をMHCクラスIIの制限的手法で効果的に提示することができず、その結果、無効のCD4+T細胞応答が発生して、未処理のCD8+T細胞の不適切な初回刺激および増殖がもたらされるというものである(Doherty他、1992; Deliyannis他、2002)。それにもかかわらず、一連のHCV SおよびNSタンパク質に特異的な肝臓および末梢血単核細胞(PBMC)からのCTLは、形質導入されたBリンパ芽球腫細胞系(LCL)を標的として使用してHCVキャリアから検出されており(Koziel, 1997参照)、ある研究(Liaw他、1995)では、PBMC由来CTLが、自己HCV感染肝細胞を認識し死滅させることが示された。これは、HCV感染肝細胞が、MHCクラスI制限的手法でHCV抗原を処理しかつ提示し、したがってCTL応答に関する標的を提示することを証明する(少なくとも一部の患者において)、重要な発見である。皮肉にも、CTL応答は、HCVキャリア内の関連の肝炎に寄与する可能性があるが、それは、肝内HCV RNAレベルと肝損傷との間に直接相関が無く、ウイルスは、それ自体が細胞変性のものではない(McGuinness 他、1996)ことを示唆するからである。その他の研究者は、同様の結論を導き出した。
【0009】
CTL活性が低レベルのウイルス血症に相関する(Hiroishi他、1997; Rehermann他、1996; Nelson他、1997)ことを示したいくつかの研究は、ウイルス負荷を低下させるのに十分強力でありかつ肝炎を引き起こすがウイルス感染細胞を完全に無くすには弱すぎる、CTL応答の推定される不完全性と一致している。HCVの持続は、1/105〜106と推定されているHCV特異的CTLの頻度を反映する可能性がある(Cerny他、1995)。これは、CTLのクローン増殖がHCV感染個体では発生しないこと、持続感染を発症する個体でのCD4+Th細胞応答の欠如と一致した可能性を示唆している。HCV特異的CTLが肝臓内に隔離され、PBMC内のCTLの頻度測定が誤っているという可能性もある。
【0010】
HCVキャリアにおけるDC機能
いくつかの報告は、HCVキャリアにおいてDC機能が損なわれる可能性があることを示唆している。その第1は、HCV陽性患者からの単球由来DC(Mo-DC)が、正常なヒトボランティアからのDCに比べて混合リンパ球反応(MLR)で低い活性を示すが(Kanto他、1999)、患者からのDCは、抗原特異的自己T細胞刺激に対して依然として効力を維持することを示していた。IL-12およびインターフェロン-γの低レベルの発現は、MLRの障害の原因であり、これは自然HVC感染で、適切なTh1型CD4+T細胞の誘導を阻害する可能性があることを示唆した。同様の報告では(Bain他(2001))、HCVキャリアからのMo-DCは、正常な表現型および形態と、抗原を取り込む通常の能力とを示したが、前述の報告と一致して、MLRでの同種刺激能に欠陥があることも報告された(Kanto他、1999)。この欠陥は、もはやウイルス血症ではなくインターフェロン治療に対して持続的な応答を示すHCV患者からのDCでは、検出されなかった。つい最近の報告(Auffermann-Gretzinger他、2001)も、持続的応答者からではなくHCVキャリアからのDCのMLRでの同種刺激能の欠陥を報告した。追加の証拠では、この欠陥が、おそらくは未成熟DCがTNF-aに応答して生体外で成熟できないという無能さに関係することが示唆されることを示していた。HCVは、生体内でDC集団に感染する可能性があるので(Bain他、2001)、これらの欠陥はこの現象の結果と考えられる。確かに、組換えアデノウイルスによる細胞の感染後、正常な個体から得られたDCでのHCVコアおよびE1タンパク質の発現は、DCの同種刺激能に欠陥をもたらした(Sarobe他、2002)。さらに、コア/E1-発現DCは、アデノウイルス対照に感染したDCとは異なって、自己T細胞を完全に活性化することができなかった。しかし、「感染患者からのほとんどのDCは、その免疫刺激能を保持する」ことがわかり、また、「慢性C型肝炎に罹っている患者には少数のHCV感染DCがあり、非感染DCによって大多数の抗原に対する正常なT細胞反応の誘発を可能にする」ことが示唆された。実際に、出願人は、HLAクラスII分子およびCD86のアップレギュレーションによって測定されるように、リポペプチドが
HCV陽性患者からのDCを活性化できることを示した。
【0011】
エピトープ配列は、次期免疫応答の特異性を決定するので、ワクチン設計の基礎として多大な関心を集めている(概要に関してはSette & Fikes, 2003参照)。同時投与されたアジュバントが存在しない状態でのペプチドの不十分な免疫原性、およびヒトに適切なアジュバント系の不足は、実現可能なエピトープベースのワクチンの開発を制限してきた。
【0012】
「危険シグナル」の概念(Medzhitov & Janeway, 2002; Janeway, 1989)は、全抗原の関係から離れて投与したときのエピトープの不十分な免疫原性を説明するのにいくらか助けになり、エピトープは、現在ではより強力なアジュバントの極めて重要な性質であることが理解されている、DC成熟および炎症サイトカイン放出に適したシグナルをもたらす能力に欠けている。近年、多くのアジュバントが、1つまたは複数のToll様受容体(TLR; 概要に関しては(Beg, 2002; Marciani, 2003)参照)の結合によってDCに危険シグナルを供給することがわかってきた。一部の脂質構造が強力なアジュバント体であるという発見は、可能性あるワクチンとしてのリポペプチドの開発を推し進めてきた(概要に関しては(BenMohamed, 2002)参照)。さらに、DCの表面に存在するTLRのいくつかは、特定の脂質構造を特異的に認識し(Takeuchi, 2001)、これらの受容体に結合されたリガンドがDCに輸送される(Schjetne, 2003)。
【0013】
HCV機能におけるDC免疫療法の可能性
組換えIFN-a2bまたはa2a、ペグ(pegylated)IFN-a2bまたはa2a、あるいはペグ組換えIFN-aおよびリバビリンの併用は、HCV感染の治療に関して唯一認可された薬剤である。患者全体の約55%は、ウイルス根絶による治療を首尾良く受けたが、治療された患者のかなりの割合、特に遺伝子型1を有する者は、これらの薬物に応答しない。インターフェロンは、ウイルス感染に応答して身体により産生される天然の物質であるが、HCVは、感染中のインターフェロンの影響を克服するための手段を開発した可能性がある。現在のところ、利用可能な代替の抗ウイルス薬は無く、ペグインターフェロンおよびリバビリンによる治療にはかなりの副作用があり、費用がかかる。オーストラリア内の200,000人のキャリアのうち、わずか約10,000人しか治療を受けていない。この疾患の影響を低減させるために、代替の治療戦略が求められている。
【0014】
出願人は、以前、Tヘルパー(Th)エピトープと、CD8+T細胞により認識される細胞傷害性Tリンパ(CTL)エピトープと、TLR2標的、DC成熟、および細胞傷害性T細胞応答の誘発をもたらす脂質部分S-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)-プロピル]-システイン(Pam2Cys)とからなる合成自己アジュバントワクチン構成体を生成した。これらの構成体は、特許WO04/014956およびWO04/014957に既に記述されており、その開示全体は、参照により本明細書に組み込まれると見なす。脂質化は、アジュバントの必要性を取り除き、したがってワクチンは、効果を狙って鼻内投与することもできる。合成ワクチンで脂質が結合する位置は、その免疫原性だけではなくその溶解性にも影響を及ぼす。さらに、Thエピトープおよび脂質の存在は、長期にわたり復活することができるエフェクター細胞の集団の誘導に相関することがわかった(Deliyannis他、2002)。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の態様では、本発明は、
(a)対象から血液を収集するステップと、
(b)血液から樹状細胞を単離するステップと、
(c)単離した樹状細胞を、TヘルパーおよびウイルスCTLエピトープ、および/または抗体エピトープを含むリポペプチドに曝すステップと、
(d)樹状細胞を対象に再導入するステップと
を含む、対象のウイルス感染を治療するための治療方法を提供する。
【0016】
第2の態様では、本発明は、
(a)対象から血液を収集するステップと、
(b)血液から樹状細胞を単離するステップと、
(c)単離した樹状細胞を、TヘルパーおよびウイルスCTLエピトープ、および/または抗体エピトープを含むリポペプチドに曝すステップと
を含む方法により生成された、リポペプチドがパルス投与された樹状細胞(DC)の集団を提供する。
【0017】
第3の態様では、本発明は、本発明の第2の態様の方法により調製された樹状細胞(CD)を対象に再導入するステップを含む、ウイルス感染した対象を治療するための、リポペプチドがパルス投与された樹状細胞(DC)の集団の使用を提供する。
【0018】
第4の態様では、本発明は、対象のCTLを活性化するのに十分な時間および条件下で、本発明の第1の態様の方法により対象を治療するステップを含む、対象に細胞媒介性免疫を誘導するための方法を提供する。
【0019】
第5の態様では、本発明は、
(a)対象から血液を収集するステップと、
(b)血液から樹状細胞を単離するステップと、
(c)単離した樹状細胞を、TヘルパーおよびウイルスCTLエピトープ、および/または抗体エピトープを含むリポペプチドに曝すステップと、
(d)樹状細胞を対象に再導入するステップと
を含む、感染していない対象の予防的治療方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、一般に、ウイルス感染した患者の療法における樹状細胞の使用を対象とする。詳細には本発明は、慢性ウイルス感染、特にC型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)の治療を対象とする。
【0021】
第1の態様では、本発明は、
(a)対象から血液を収集するステップと、
(b)血液から樹状細胞を単離するステップと、
(c)単離した樹状細胞を、TヘルパーおよびウイルスCTLエピトープ、および/または抗体エピトープを含むリポペプチドに曝すステップと、
(d)樹状細胞を対象に再導入するステップと
を含む、対象のウイルス感染を治療するための治療方法を提供する。
【0022】
本出願人は、液体部分と、Tヘルパーエピトープ(Th)および免疫応答が望まれる標的エピトープの両方を含むポリペプチド部分とを有する免疫原性リポペプチドを開発した(WO04/014956およびWO04/014957)。標的エピトープは、CD8+T細胞(即ち細胞傷害性Tリンパ球(CTL))および/またはB細胞(即ち抗体エピトープ)によって認識されるものである。リポペプチドは、内部リジンの末端側鎖ε-アミノ基を介して、または例えば、ThエピトープとCTLおよび/または抗体エピトープのアミノ酸配列の間に位置決めされたオルニチンやジアミノプロピオン酸、またはジアミノ酪酸などの内部リジン類似体の末端側鎖基を介して結合された、脂質部分を有する。これは、従来技術のN末端結合またはC末端結合とは明らかに異なっている。
【0023】
本発明者等は、驚くべきことに、脂質化タンパク質でパルス投与したDCが、非脂質化タンパク質でパルス投与されたDCに比べて生体内でかなり大幅に活性化することを見出した。これらの生物学的効果は、分枝構造が生成されるようにエピトープ間に脂質を配置することによって得られるようである(Zeng他、2002)。エピトープ間の脂質部分を位置決めすることにより、ワクチンの溶解性および免疫原性が増大することも見出された。
【0024】
第1の態様の別の好ましい実施形態では、リポペプチドが、1つまたは複数の脂質部分に結合したポリペプチドを含み、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびCTLエピトープのアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が異なるものと、
(b)1つまたは複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基であって、前記リジンまたはリジン類似体のε-アミノ基または末端側鎖基を介して前記脂質部分のそれぞれと共有結合するための残基と
を含んだアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1つまたは複数の脂質部分のそれぞれは、前記1つまたは複数の内部リジン残基のε-アミノ基に、または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に、直接または間接的に共有結合する。
【0025】
本明細書で使用する「リポペプチド」という用語は、1つまたは複数の脂質部分と、直接または間接的に結合している1つまたは複数のアミノ酸配列とを含む物質の、任意の非天然由来組成物であって、非特異的な非結合脂質またはタンパク質を実質的に含まない物質の組成物を意味する。
【0026】
本発明において、「エピトープ」という用語は、「ペプチド」または「抗原」という用語と同義に使用するものとする。
【0027】
「直接」とは、脂質部分とアミノ酸配列とがスペーサー分子によって切り離されていないことを意味する。
【0028】
「間接的」とは、脂質部分とアミノ酸配列とが、例えば1つまたは複数のアミノ酸残基のような1つまたは複数の炭素含有分子を含むスペーサーによって切り離されていることを意味する。
【0029】
本明細書で使用する「内部リジン残基」という用語は、TヘルパーエピトープおよびCTLエピトープの両方を含むポリペプチド内のリジン残基であって、前記リジンが前記ポリペプチドのN末端アミノ酸残基またはC末端残基ではないものを意味する。あるいは、内部リジン残基は、ポリペプチド内に内在化することを条件に、TヘルパーエピトープまたはCTLエピトープのC末端またはN末端残基でよい。これは、脂質部分が結合している内部リジン残基が、Tヘルパー細胞エピトープのアミノ酸配列内またはCTLエピトープのアミノ酸配列内に存在する残基であることを意味する。内部リジン残基は、TヘルパーエピトープおよびCTLエピトープとは明らかに異なってもよく、その場合はポリペプチドの2つのエピトープに結合しなければならない。
【0030】
同様に、「内部リジン類似体残基」という用語は、TヘルパーエピトープおよびCTLエピトープの両方を含むポリペプチド内のリジン類似体残基であって、前記リジン類似体が前記ポリペプチドのN末端アミノ酸残基またはC末端残基ではないものを意味する。リジン残基が「内部」であるか否かを定めるための基準は、リジン類似体が内部であるか否かの決定に必要な変更を加えることになる。
【0031】
「リジン類似体」とは、脂質部分を結合することができる適切な側基を有するペプチドの内部に組み込むことが可能な合成化合物であって、そのようなアミノ側基を有するアミノ酸類似体または非天然由来のアミノ酸を含むものを意味する。好ましいリジン類似体は、下記の一般式の化合物を含む。
【0032】
【化1】

【0033】
(式中、nは0から3の整数であり、Xは、NH、O、およびSからなる群から選択された前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基である)。より好ましくは、nは1から3の値を有する整数である。より好ましくは、Xはアミノ基であり、リジン類似体はジアミノ化合物である。特に好ましい実施形態では、リジン類似体は、2,3ジアミノプロピオン酸(Dpr)、2,4-ジアミノ酪酸(Dab)、および2,5-ジアミノ吉草酸[即ちオルニチン(Orn)]からなる群から選択される。
【0034】
当業者なら、「ε-アミノ基」という用語の意味が分かるであろう。
【0035】
「末端側鎖基」という用語は、リジン類似体の側鎖上の置換基であって、例えばDprのβ-アミノやDabのγ-アミノ、またはOrnのδ-アミノなど、前記類似体のα-炭素から遠位にあるものを意味する。
【0036】
特許WO04/014956およびWO04/014957に記載されるような、リポペプチドの一般化された構造の様々な実施形態は、参照により本明細書に組み込まれるものとみなす。
【0037】
脂質部分は、任意のC2からC30の飽和、不飽和、またはポリ不飽和の線状または分枝状の脂肪アシル基を含むことができ、好ましくはパルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイル、およびデカノイルからなる群から選択された脂肪酸基である。両親媒性分子、特に、Pam3Cys(N-パルミトイル-S-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システイン)の疎水性を超えない疎水性を有するものが好ましい。特許(WO04/014956およびWO04/014957)に開示された脂質部分は、参照により本明細書に組み込まれると見なす。脂質部分は、ジパルミトイル-S-グリセリル-システインとしても知られるS-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ-プロピル)]-システイン(Pam2Cys)であることが最も好ましい。
【0038】
リポペプチド構造を、以下に概略的に示す。
【0039】
【化2】

【0040】
好ましい構成では、2つのセリン(Ser)残基(SS)がペプチドと脂質部分との間に加えられる。この構成を、[Th]-K(Pam2CSS)-[CTL]と示す。
【0041】
血液、特に、血液細胞のある特定の集団を対象から収集することができる方法は、当業者によく知られているであろう。血液は、白血球搬出法によって対象から収集することが好ましい。この手順は、アフェレーシスとも呼ぶ。所望の数の細胞を得るために、対象は複数の白血球搬出法またはアフェレーシスの処置を受けることが必要と考えられる。樹状細胞は、白血球搬出法の処置の間に血液から収集された抹消血単核細胞(PBMC)画分に含有されることが好ましい。したがって本発明において、「血液」という用語は、抹消血単核細胞(PBMC)、単核細胞(MNC)、またはリンパ様前駆細胞と呼ばれる細胞集団を含むものと解釈されることになる。
【0042】
白血球搬出法から収集された細胞は、一般に、樹状細胞集団を単離するためにさらに処理することが必要になる。DCは、CD14+単球から生成することが好ましい。これらの単球由来のDCを、典型的にはMo-DCと呼び、サイトカイン中での培養後に未成熟DCへと発達する。リポペプチドに曝される未成熟DCは、表現型MHCクラスI+、MHCクラスII+、CD80low、CD86low、CD83-、CD3-、CD16/CD56-、およびCD19-を有することがより好ましい。
【0043】
あるいは、骨髄CD11c+DCを血液から直接単離することができる。これらのDCは、T細胞、NK細胞、および単球の欠失の後、CD4+細胞のポジティブ選択(Cella他、2000)によって、あるいはCMRF-44またはCMRF-56モノクローナル抗体(Hart他、提出された; Lopez他、2003)によって調製することができる。
【0044】
DCは、DCがリポペプチドを内在化することができ、かつ自然の過程によってMHC経路を経てペプチドエピトープを提示することが可能になる期間および条件下、リポペプチドに曝されることが好ましい。典型的な場合、これは、DCおよびリポペプチドを培地中で一緒に生体外培養することにより実現される。
【0045】
本明細書で「リポペプチドパルス(投与)」という用語を用いた場合は、リポペプチドを吸収しかつMHC経路を経てペプチドエピトープを提示したDCを指すものとする。
【0046】
ウイルス感染は、慢性または潜伏性のウイルス感染を包含するものとする。ウイルス感染は、慢性ウイルス感染であることが好ましい。様々なタイプの慢性ウイルス感染が当業者に知られており、かつ本発明で考えられる。慢性ウイルス感染は、C型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)からなる群から選択することが好ましい。より好ましくは、ウイルス感染はHCVである。
【0047】
したがってCTLエピトープは、C型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)から得られることが好ましい。
【0048】
HCVに感染している個体のうちかなりの割合で、持続感染が発症し、これがしばしば慢性肝臓疾患の原因となる。約2億5千万〜5億人のキャリアが世界中にいると推定されている。したがってHCVは深刻な問題であり、その結果、これらの課題に対処する試みが、国民の健康という観点から最も重要である。
【0049】
抗原提示細胞上のMHCクラスII分子による不適切なHCV特異的抗原の提示が原因で、HCVに感染している個体はその感染を排除することができないと仮定される。この不適切な抗原提示によって、HCV特異的免疫細胞が増殖できない可能性がある。
【0050】
したがって、HCV感染している対象を治療するために、リポペプチドは、CTLエピトープがHCVから得られるものであることが好ましい。
【0051】
CTLエピトープは、CD8+T細胞によって認識されるエピトープであることが好ましい。より好ましくは、Th細胞エピトープがリポペプチドのN末端にあり、CTLまたは抗体エピトープがリポペプチドのC末端にあり、脂質部分が2つのエピトープの間に位置付けられている。
【0052】
この設計は、樹状細胞表面でのクラスII分子の発現のアップレギュレーションにこの構成が最も効率的であり(Zeng他、2002)、また記憶および保護CTL応答がこの幾何形状を有する構成体によって誘導される(Deliyannis他、2002)という本発明者等の知見に基づいている。
【0053】
好ましくはCTLエピトープは、コア配列、DLMGYIPLV(132-140、配列番号1);YLLPRRGPRL(35-44、配列番号2)、またはFLLALLSCLTV(178-187、配列番号3); HCV NS3配列KLVALGINAV(1406-1415、配列番号4)、またはCINGVCWTV(1073-1081、配列番号5)またはHCV NS4配列LLFNILGGWV(配列番号6)またはILAGYGAGV(配列番号7)からなる群から選択されたC型肝炎ウイルス(HCV)エピトープである。
【0054】
これらエピトープのそれぞれは、IFN-γ生成細胞を決定するための細胞溶解アッセイおよびELISPOTアッセイによって測定されるように、HLA-A2制限ヒトPBMCによって認識される。エピトープDLMGYIPLVおよびCINGVCWTVの場合、これらの生物学的関係は、テトラマー染色によっても実証された(Ward他、2002)。
【0055】
しかし、上述のCTLエピトープは好ましい実施形態に関連し、その他のCTLエピトープはウイルスの病因に応じて考えることができると見なされる。
【0056】
Th細胞エピトープは、P25、KLIPNASLIENCTKAEL(配列番号8)であって、麻疹ウイルスのFタンパク質からのものであることが好ましい(Ghosh他、2001)。このエピトープは、これまで本発明者により研究されてきた全ての非近交系のイヌで乱交雑であり、検査をしたマウスおよびウシの全ての株でも同様である(結果は非公表)。このエピトープは、ヒトボランティアから抽出された血液サンプルの50%でPBMC増殖を引き起こすこともできる。Fタンパク質は、ほとんどの麻疹ウイルス全体にわたって保存され、P25の場合は、イヌジステンパーウイルス、牛疫、およびはしかウイルスで保存される。エピトープが、これらウイルスのそれぞれの天然宿主で活性であるという事実は、多くの異なるMHCクラスII分子に関して乱交雑であることを示している。
【0057】
HCVそのものからのヘルパーT細胞エピトープを使用してもよい。
【0058】
さらに、上記配列番号1〜8で述べたペプチド配列は、その免疫機能に悪影響を及ぼすことなく周知の方法によって特定の目的で変更できることが、当業者により一般に認識される。例えば特定のペプチド残基は、その免疫応答を高めるために、またはその他の物質、特に脂質とのその結合を可能にするために、誘導体化しまたは化学的に変性させることができる。また、ペプチドの全体的な構造または抗原性を妨げることなく、配列内の特定のアミノ酸を変更することも可能である。そのような変更を、一般に「保存」変更と呼ぶ。そのような保存変更は、本発明の範囲内に包含されると見なされる。
【0059】
第2の態様では、本発明は、
(a)対象から血液を収集するステップと、
(b)血液から樹状細胞を単離するステップと、
(c)単離された樹状細胞を、TヘルパーおよびウイルスCTLエピトープ、および/または抗体エピトープを含むリポペプチドに曝すステップと
を含む方法によって生成されたリポペプチドパルス樹状細胞(DC)の集団を提供する。
【0060】
リポペプチドパルスDCは、上記にて定義されたリポペプチドを含む。DCは上述の通りであることが好ましい。
【0061】
リポペプチドはPam2Cys脂質部分を有することが好ましい。
【0062】
好ましくは、リポペプチドはHCVから得られたCTLエピトープを有し、より好ましくは、DLMGYIPLV(配列番号1)、YLLPRRGPRL(配列番号2)、FLLALLSCLTV(配列番号3)、KLVALGINAV(配列番号4)、CINGVCWTV(配列番号5)、LLFNILGGWV(配列番号6)、またはILAGYGAGV(配列番号7)からなる群から選択されたエピトープである。
【0063】
リポペプチドは、Thエピトープ配列KLIPNASLIENCTKAEL(配列番号8)を有することが好ましい。
【0064】
第3の態様では、本発明は、ウイルスに感染した対象を治療するための、リポペプチドパルス樹状細胞(DC)の集団の使用であって、本発明の第2の態様の方法により調製された樹状細胞(DC)を対象に再導入するステップを含む使用を提供する。
【0065】
本発明により治療されることが意図されるウイルス感染対象は、好ましくは慢性HCV感染を示すものである。対象は、4タイプの白血球抗原HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-Dのいずれか1つを有することができる。対象は、組織タイプHLA-Aを有することが好ましく、より好ましくはHLA-A2.1である。対象は、遺伝子型Iウイルスに感染したHCV RNA陽性であることが好ましい。対象は、従来の第一線のインターフェロンを基にした療法がうまくいかなかった者であることが好ましい。
【0066】
リポペプチドパルスDCは、注射可能な組成物の形で対象に再導入されることが好ましい。注射は、筋肉内、皮下(SC)、静脈内(IV)、皮内(ID)、腹膜内(IP)、またはその他の既知の経路によるものでよい。リポペプチドパルスDCは、IVカニューレを通した静脈内注入によって再導入することが好ましい。より好ましくは、リポペプチドパルスDCを、IDおよびIVの両方で対象に投与する。
【0067】
典型的な場合、注射可能な組成物は、リポペプチドパルスDCが医薬品として許容される賦形剤または希釈剤と共に投与されるワクチンの形になる。
【0068】
本発明での使用が考えられる、医薬品として許容される賦形剤または希釈剤は、当技術分野で標準的なものであり、水性または非水性溶媒、無毒性賦形剤、例えば塩、保存剤、緩衝剤などが含まれる。医薬品組成物の様々な成分のpHおよび正確な濃度は、当技術分野での通常の技術により調節される。
【0069】
リポペプチドパルスDCは、塩化ナトリウム注射BPに10%ヒト血清(HSA)を加えたものに懸濁することが好ましい。
【0070】
外因的アジュバントのリポペプチド製剤への添加は、一般には必要ではないが、やはり本発明に包含される。典型的なアジュバントは、当業者なら分かるであろう。
【0071】
再導入される自己リポペプチドパルスDCの量は、免疫原性エピトープの性質、投与経路、および免疫化される対象の体重、年齢、性別、または全身の健康と、求められるCD8+T細胞応答の性質に応じて変わることになる。
【0072】
ID注射の場合、対象に再導入される組成物中のリポペプチドパルスDCの数は、約0.7×107から1.5×107細胞の範囲内であることが好ましく、より好ましくは約1×107細胞である。
【0073】
IV注射の場合、対象に注射されるリポペプチドパルスDCの数は、約1から5×107細胞の範囲内であることが好ましい。
【0074】
第4の態様では、本発明は、対象に細胞媒介性免疫を導入するための方法であって、対象のCTLを活性化するのに十分な時間および条件下で、本発明の第1の態様の方法により対象を治療するステップを含む方法を提供する。
【0075】
ウイルスは、HCVであることが好ましい。
【0076】
「活性化」とは、CTLエピトープが得られる抗原またはペプチドを収容する細胞を認識し溶解する能力が得られること、または前記抗原またはペプチドのT細胞エピトープを認識するT細胞の能力が、一時的にまたは持続的に高められることを意味する。「活性化」という用語は、ウイルスによる潜伏感染を活性化した後、またはウイルスに再感染した後、または本発明のリポペプチドまたは組成物に以前感染した対象を免疫化の後の、T細胞集団の再活性化も含むように解釈すべきである。
【0077】
当業者なら、最適なT細胞活性化には、T細胞受容体(TcR)による抗原/MHCの同族認識と、T細胞上の様々な細胞表面分子と抗原提示細胞(APC)上のものとのライゲーションを含む同時刺激が必要であることに気付くであろう。同時刺激相互作用CD28/B7、CD40L/CD40、およびOX40/OX40Lが好ましいが、T細胞活性化には必須ではない。その他の同時刺激経路を作用させることができる。
【0078】
CD8+T細胞の活性化またはエピトープ特異的活性のレベルを決定するには、標本中のCD8+T細胞の数をアッセイするための標準的な方法を使用することができる。好ましいアッセイのフォーマットには、例えば標準的なクロムリリースアッセイなどの細胞傷害アッセイ、例えばELISPOTアッセイなどのIFN-γ生成のためのアッセイが含まれる。
【0079】
CD4+Th細胞応答の検出は、リンパ球増殖アッセイによることが好ましい。
【0080】
CD4+Tヘルパー細胞は、例えばIL-2などのサイトカインの産生者として細胞媒介性免疫(CMI)で機能し、その結果CD8+T細胞の増殖を促進させまたはAPCと相互に作用し、それによって、CD8+T細胞が活性化されるようによりコンピテントになるので、サイトカインの産生は、T細胞活性化の間接的な尺度である。したがってサイトカインアッセイは、CTLまたは前駆体CTLの活性化、あるいはヒト対象における細胞媒介性免疫のレベルを決定するのに使用することもできる。そのようなアッセイでは、例えばIL-2などのサイトカインを検出し、またはサイトカインの産生を、エピトープ特異的反応性T細胞のレベルの指標として決定する。
【0081】
「CMI」とは、活性化しクローン状に増殖したCTLが、MHC制限されCTLエピトープに特異的であることを意味する。CTLは、抗原特異性およびMHC制限に基づいて分類される(即ち、非特異的キラー細胞、および抗原特異的MHC制限CTL)。非特異的キラー細胞は、NK細胞を含めた様々な細胞型からなり、免疫応答で非常に早く機能してウイルス負荷を低下させることができ、一方、抗原特異的応答は依然として確立されたままである。対照的に、MHC制限CTLは、最適な活性を非特異的CTLよりも遅く実現し、一般には抗体産生の前に実現する。抗原特異的CTLは、ウイルスの広がりを阻害しまたは低下させ、好ましくは感染を終結させる。
【0082】
T細胞活性化またはCMIは、全身に誘発しまたは区分ごとに局在化することができる。細胞媒介性免疫は、リポペプチドパルスDCをIDおよびIV投与の組合せによって対象に誘導することが好ましい。
【0083】
第5の態様では、本発明は、
(a)対象から血液を収集するステップと、
(b)血液から樹状細胞を単離するステップと、
(c)単離した樹状細胞を、TヘルパーおよびウイルスCTLエピトープ、および/または抗体エピトープを含むリポペプチドに曝すステップと、
(d)樹状細胞を対象に再導入するステップと
を含む、感染していない対象の予防的治療のための方法を提供する。
【0084】
本発明のこの態様は、感染していない対象の予防的治療であって、投入されたDCが、感染していない対象において記憶CD4+Th細胞および記憶CD8+T細胞を介して免疫学的記憶を誘発する治療を提供する。
【0085】
本発明の性質をより明らかに理解できるようにするために、次にその好ましい形について、以下の非限定的な実施例を参照しながら記述する。
【0086】
(実施例)
(実施例1)
材料および方法
マウス
BALB/cマウス、6〜8週齢、またはC57BL6マウスを、メルボルン大学の繁殖施設から得た。これらのマウスに対し、実験期間の全体を通して明確な識別が可能になるように、耳に標識を付けることによって個々に標識を付けた。
【0087】
樹状細胞培養
樹状細胞(DC)を、完全IMDMをベースにした培地で培養した。これは、25mM HEPESを含有しかつα-チオグリセロールまたはL-グルタミン(JRH Bioscience, Lenexa, USA)を含まない、10%(v/v)熱不活性化(56℃、30分)ウシ胎児血清(CSL Ltd., Parkville, Victoria,オーストラリア)、ゲンタマイシン(24μg/mL)、グルタミン(2mM)、ピルビン酸ナトリウム(2mM)、ペニシリン(100IU/mL)、ストレプトマイシン(180μg/mL)、および2-メルカプトエタノール(0.1mM)が補われたIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)からなるものであった。DC生成では、完全IMDMにさらに、培養したNIH/3T3細胞からの30%の上澄みと、GM-CSF遺伝子をトランスフェクトしたAg8653細胞(DC培地)からの上澄みの形をとる5% GM-CSFとで補った。
【0088】
未成熟樹状細胞の生成および培養方法は、Winzler他、J.Exp Med. 185, 317(1997)を応用したものである。BALB/cマウスからの脾臓細胞を、3mlのDC培地中、55mmの皿(Techno-Plas, S.A.,オーストラリア)当たり1.5×106細胞で蒔き、5% CO2と共に37℃でインキュベートした。培養に使用した全ての装置は、発熱物質を含まなかった。培地を4日毎に交換し、全ての細胞を皿に戻した。12日目、懸濁した細胞と弱く付着した細胞の両方を、強制的にピペットで分取することによって収集し、次いで培地を吸引した。この手順を、PBS 2mlを用いて繰り返した。残りの強力な付着細胞を廃棄した。収集された細胞を、遠心分離によってペレット化し、新しい皿に再び蒔いた。細胞を、引き続き4日間の培地交換および経過サイクルで維持した。連続培養の1カ月後、浮遊し半付着状態の細胞は、未成熟DCの外観および染色特性を有し、これをD1細胞と呼ぶ。これらの経過条件下、培養D1細胞の大多数は、細胞表面MHCクラスII分子の中間発現レベルによって特徴付けられる未成熟表現型を維持する。
【0089】
フローサイトメトリー
D1細胞を、培養物から収集し、FACS洗浄液で1回洗浄した。細胞を、試験間当たり1×106細胞で蒔き、正常マウス血清(NMS)20μLと共に室温で5分間インキュベートした。ラット抗マウスTLR2抗体(6C2、ラットIgG2b); 正常ラットIg; またはFACS洗浄液を、それぞれの試験管に添加し、氷上で30分間インキュベートした。抗体は、サンプル当たり1μgで使用した。細胞をFACS洗浄液で1回洗浄し、次いでFITC結合ヒツジ抗ラット免疫グロブリンと共に氷上で30分間インキュベートした。次いで細胞を1回洗浄し、フローサイトメトリーにより分析した。30,000D1細胞を分析したが、これは2つの独立した実験を表すものである。
【0090】
D1細胞のリポペプチドパルス投与
100万個のD1細胞を、DC培地中で一晩、GALNNRFQIKGVELKS-K(Pam2CSS)-TYQRTRALV 9nmolと共にインキュベートした。次いで細胞を回収し、RPMIで1回洗浄した。次いでリポペプチドパルスD1細胞を、3000rpmのFicollクッション上で15分間、4℃で遠心分離することにより、未結合のリポペプチドから分離した。界面に位置決めされている細胞を回収し、温めたRPMIで3回洗浄し、それぞれ3000rpmで5分間行った。同量のGALNNRFQIKGVELKS-K(Pam2CSS)-TYQRTRALVを、D1細胞無し(リポペプチド対照)でDC培地中でインキュベートし、同じ方法を使用して処理して、分離プロセスの効率をモニタした。次いで細胞を、温めたPBS中で1mL当たり1×107細胞に再調節した。未処理のマウスに、100μLの細胞懸濁液; リポペプチド対照、またはPBSを、静脈内から与えた。接種後7日目に、マウスに104.5プラーク形成単位(pfu)のMem 71インフルエンザウイルスを鼻内から投与した。感染後5日目に、肺および脾臓を収集し、これらの器官中のCTLエピトープ特異的CD8+T細胞を、細胞内IFN-γ生成アッセイにより数え上げた。
【0091】
マウスに対し、9nmolのGALNNRFQIKGVELKS-K(Pam2CSS)-TYQRTRALVまたはこれに相当する非脂質化ペプチドを、鼻内からまたは尾の付け根の皮下から接種した。鼻内接種では、サンプルを、吸入用ペントランで麻酔したマウスの鼻孔に塗布した。
【0092】
リポペプチドパルスDCの接種では、細胞を、1mL当たり1×107細胞に調節し、細胞懸濁液100μLを、静脈内または皮下注射に使用した。
【0093】
アッセイ
プラークアッセイによる肺ウイルス力価の決定、および細胞内サイトカイン染色アッセイによる肺IFN1γ-生成CD8+T細胞の決定のための方法は、Deliyannis他、2002に記載されている。
【0094】
合成ペプチドの調製
ペプチド合成に使用される一般的手順は、Jackson他、1999により記述されている。ペプチド合成は、Symphonyコンピュータ制御自動ペプチド合成器に関する製造業者の取扱い説明書に従って実施される。
【0095】
CD4+T細胞エピトープとCTLエピトープとの間の脂質結合を可能にするために、Fmoc-リジン(Mtt)-OHを、樹脂結合ペプチドのほぼ中央で、2つのエピトープ間の1点に挿入する。ペプチド合成の終了後、ジクロロメタンに溶かした1% TFAを用いた30〜45分間にわたる連続的な流動洗浄によってMtt基を除去し、それによってリジン残基のεアミノ基を露出させる。2つのセリン残基を、リジン残基のεアミノ基に結合する。
【0096】
Pam2Cys含有リポペプチドの合成:
Fmoc-Dhc-OH[N-フルオレニルメトキシカルボニル-S-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-システイン]を、Jones他、1975およびMetzger他、1991に記載されている手順に従って調製するが、このとき3-クロロ-プロパン-1,2-ジオールの代わりに3-ブロモ-プロパン-1,2-ジオールを使用し、生成物の回収には遠心分離を使用して濾過は使用しない。
【0097】
Fmoc-Dhc-OHと樹脂結合ペプチドとの結合:
Fmoc-Dhc-OH(100mg、0.24mmol)を、HOBt(36mg、0.24mmol)およびDICI(37ul、0.24mmol)を含むDCMおよびDMF(1:1、v/v、3ml)中で、0℃で5分間活性化する。次いで混合物を、樹脂結合ペプチド(0.04mmol、0.25gアミノペプチド樹脂)が入っている容器に添加する。2時間振盪した後、溶液をガラス焼結漏斗(多孔度3)で濾過することによって濾過し、樹脂をDCMおよびDMFで洗浄する(それぞれ3×30ml)。反応を、TNBSA試験を使用して終了までモニタする。必要に応じて2回結合を行う。
【0098】
Fmoc-Dhc-ペプチド樹脂の2つのヒドロキシ基のパルミトイル化:
パルミチン酸(204mg、0.8mmol)、DICI(154ul、1mmol)、およびDMAP(9.76mg、0.08mmol)を、DCM 2mlおよびDMF 1mlに溶解する。樹脂結合Fmoc-Dhc-ペプチド樹脂(0.04mmol、0.25g)を、この溶液に懸濁し、室温で16時間振盪させる。溶液を濾過によって除去し、次いで樹脂をDCMおよびDMFで完全に洗浄して、尿素の残りを全て除去する。Fmoc基の除去は、2.5% DBUによって実現される(2×5分)。
【0099】
固相支持体(SPS)からのペプチドの切断:
SPSに対してペプチドを保持する共有結合を、TFA(88% TFA、5%フェノール、5%水、および2% TIPS)によって切断し、ペプチドの個々のアミノ酸の側鎖保護基を同時に酸によって除去する。カルボカチオンおよびその他の反応種が脱保護ペプチドと反応しないように、フェノールやTIPS、および水などのスカベンジャーを切断試薬に組み込んで、これらの化学的に反応する基を隔離する。
【0100】
全てのペプチドの質を、HPLCおよび質量分析法によって試験した。
【0101】
マウスの調査
実施例3で概説される実験では、マウスを毎日試験し計量し、次いで35日目にCO2で窒息させて殺した。胸部を切開し、心臓がまだ脈打つ状態で心臓穿刺によって血液サンプルを採取した。血液サンプルを、生化学分析用に簡単な滅菌チューブに収集し、血液学分析用にヘパリンチューブに収集した。血液スミアも採取した。器官を各マウスから除去し、事前に計量したホルマリンポットに収集し、各器官の重量を、事前の重量からポット+器官の重量を差し引くことによって算出した。
【0102】
肝臓、脾臓、および注射部位の皮膚のサンプルを、3群のマウスの性質が分からない獣医病理学者が固定化し、処理し、組織学的に検査した。
【0103】
腎臓、肺、消化管の粘膜、および鼠径部リンパ節のサンプルを、ホルマリン固定し、上記サンプルのいずれかに組織病理的変化が見られる場合には、各群からアーカイブした。
【0104】
(実施例2)
樹状細胞の養子移入
未成熟樹状細胞系(D1)でのtoll様受容体2(TLR2)の発現を試験した。D1細胞を、まずラット抗マウスTLR2モノクローナル抗体で染色し、次いで任意の結合した抗体を、FITC結合抗ラット免疫グロブリンにより検出した。次いで細胞を、フローサイトメトリーによって分析した(データは図示せず)。
【0105】
この染色プロフィルと、D1細胞を無関係な1次抗体と共にまたは1次抗体無しでインキュベートすることによって得られたプロフィルとを比較することによって、TLR2の低レベルの表面発現がD1細胞上で検出された。D1細胞上のTLR2の表面発現は、リポペプチドがどのようにDCを狙い、その成熟をもたらし、MHC分子および同時刺激分子のその表面発現のアップレギュレーションと、IL-12などのサイトカインの放出をもたらすのか、説明することができる。
【0106】
これらの観察事項は、非脂質化ペプチドに比べて生体内リポペプチドの免疫原性が高まったことを説明することができるが、依然として、リポペプチドのペプチドエピトープを実際に処理することができかつ適切なMHC分子によって提示できることを立証する証拠に欠けている。さらに、いくつかの生体外研究に基づけば、Pam2Cysのようなこれらの脂質部分は、DCやマクロファージなどの広く様々な細胞型と生体内で相互に作用する可能性があり、したがって、脂質部分がDCに及ぼす刺激作用と、リポペプチドの免疫原性との関連を確立するために、いくつかの生体内実験を行うことが求められている。
【0107】
したがって、養子移入実験を実施した。未成熟D1細胞に、配列GALNNRFQIKGVELKS-K(Pam2CSS)-TYQRTRALVのPam2Cys含有リポペプチドを、培養中に一晩パルス投与した。配列GALNNRFQIKGVELKS(配列番号9)は、Th細胞エピトープを表し、配列TYQRTRALV(配列番号10)は、インフルエンザウイルスの核タンパク質からのCTLエピトープを表す。脂質部分(Pam2Cys)は、2つのエピトープの間に位置するリジン残基のεアミノ基から結合する。次いで細胞を収集し、任意の未結合リポペプチドを、Ficollクッション上で遠心分離することによって細胞から分離した。この分離ステップは、細胞懸濁液中に存在する任意の未結合リポペプチドが、それ自体で抗原特異的応答を開始することができるので、重要である。この分離ステップの効力は、細胞を全く含まない培地に同量のリポペプチドを添加し、これを同じ分離手順にかけることによってモニタした。次いで精製された細胞またはリポペプチド残基を界面で収集し、3回洗浄した。
【0108】
次いで100万個の細胞または同等に希釈した対照サンプルを、静脈内経路によって未処理のマウスに移入した。次いでこれらのマウスに、接種後7日目に鼻内から、104.5プラーク形成単位(pfu)のMem 71インフルエンザウイルスを投与した。感染後5日目にマウスを犠牲にし、肺および脾臓を収集して、抗原特異的CD8+T細胞の数を、細胞内IFN-γ生成アッセイにより決定した。図1Aは、リポペプチドパルスDCで初回刺激を受けたマウスから得られた肺サンプルの、FACSプロットを示す。肺の中のCD8+T集団の約27.5%は、CTLエピトープに特異的であった。図1Bおよび1Cは、それぞれ肺および脾臓の中の抗原特異的CD8+T細胞の総数を示した。リポペプチドパルスDCが与えられたマウスは、どちらの器官においても、分離プロセスからのリポペプチド残基またはPBSが与えられたものに比べてかなりの抗原特異的CD8+T細胞集団を有していた。これは、分離プロセスが効果的であり、リポペプチドパルスDCが与えられた群に見られる抗原特異的CD8+T細胞応答の加速された浸透は、細胞懸濁液中の任意の未結合リポペプチドによって、または感染そのものに対する1次免疫応答が原因で、誘発されそうにないことを示唆した。
【0109】
この実験装置を使用して、生体内でDCの初回刺激能力を高める際の脂質部分の役割と、この初回刺激プロトコルが記憶CD8+T細胞を誘発できるか否かを決定した。D1細胞に、リポペプチドまたは同量の非脂質化ペプチドを、生体外で一晩パルス投与し、次いで全ての未結合免疫原をFicoll上で除去した。次いで細胞を3回洗浄し、リポペプチドまたは非脂質化ペプチドがパルス投与された種々の数の細胞を、静脈内経路によって未処理のマウスに移入した。初回刺激後28日目に、これらのマウスに鼻内から104.5pfuのMem 71インフルエンザウイルスを投与し、感染後5日目に犠牲にして、その肺を得た。肺の中の抗原特異的CD8+T細胞の数を、細胞内IFN-γ生成アッセイにより決定した。
【0110】
図2に示すように、非脂質化ペプチドがパルス投与されたD1細胞も、抗原特異的CD8+T細胞応答を開始させることができた。しかしその際、リポペプチドパルスDCに比べてそれほど効果的ではなかった。同等の大きさ応答は、約10分の1のリポペプチドパルスDCを使用することによって得ることができた。非脂質化ペプチドは、リポペプチドに比べてDCに対する免疫刺激効果に欠けることが既に実証されており(Zeng他、2002; Chua他、2003)、したがって、DCに対する脂質部分の免疫刺激効果は、より効率的な初回刺激プロセスを引き起こすためにDCをより良好なものにすることが可能になる。さらにこの実験は、抗原特異的記憶CD8+T細胞を、この初回刺激プロトコルによって誘導することができ、かつ感染部位に、即ち肺に、加速された速度で復活させることができることも実証した。
【0111】
したがって、この抗原特異的記憶CD8+T細胞の肺への加速された流入が、感染中の肺ウイルス負荷の低下に寄与するか否かを試験することは、興味のあることであった。マウスに、1×106リポペプチドパルスDCで初回刺激を行い、初回刺激後28日目に104.5pfuのMem 71インフルエンザウイルスを投与した。感染後5日目に肺を収集し、肺ウイルス力価をプラーク形成アッセイにより決定した。図3に示すように、前のデータと一致して、リポペプチドパルスDCで初回刺激を行ったマウスはPBSが与えられたマウスに比べて、Mem 71インフルエンザウイルスの投与後に肺ウイルス力価に99%の低下を示した。
【0112】
Pam2Cys含有リポペプチドは、生体内の強力な免疫原であり、鼻内経路により投与されたときに、抗原特異的記憶CD8+T細胞応答を誘発可能であることを立証している。以前、本発明者等は、Pam2Cys含有リポペプチドの免疫原性が接種経路によって影響を受ける可能性があることを実証した。マウスには、鼻内(IN)から、または尾の付け根(BT)の皮下から、リポペプチドまたは非脂質化ペプチドを接種した。図4に示すように、鼻内から与えられた場合、リポペプチドで初回刺激を行ったマウスの肺および脾臓には、非脂質化ペプチドが与えられたものに比べてより多くの抗原特異的CD8+T細胞が存在するので、脂質部分の存在によって免疫原の免疫原性が高められる。しかし、尾の付け根の皮下経路により投与した場合、リポペプチドにより誘発された抗原特異的CD8+T細胞応答は、脂質部分の存在によって高められなかった。
【0113】
皮下投与したときにリポペプチドの免疫原性が失われる理由を決定するために、実験を引き続き行った。この実験では、皮下経路により、異なる外部アジュバントの存在下でマウスにリポペプチドの初回刺激を行い、この初回刺激の28日目に、Mem 71インフルエンザウイルスを投与して、どの製剤がリポペプチドの免疫原性を回復できるか試験した。図5に示すように、感染後5日目では、PBS中のリポペプチドを接種したマウスの肺に、抗原特異的CD8+T細胞が少ししか存在しなかった。また、細菌細胞壁ペプチドグリカン、即ちTLR2リガンドの最小構造であるMDPと共にリポペプチドを同時注入することによっても、抗原特異的CD8+T細胞の数に著しい上昇はなかった。対照的に、リポペプチドとLPS(TLR4リガンド)との同時注入、または不完全フロインドアジュバント(IFA)による乳化は、リポペプチドによって誘発された免疫応答を高めた。最後に、完全フロインドアジュバント(CFA)で乳化されたリポペプチドが与えられたマウスは、鼻内投与した場合にリポペプチドによって誘発されるレベルに匹敵した最も強力な細胞応答を示した。これらの結果は、b.t.を通して皮下注射した場合、Pam2Cys含有リポペプチドによって誘発される不十分な細胞応答の原因として、2つの理由がある可能性を示唆しており、即ち(a)リポペプチドは、抗原が時間と共に放出されて抗原提示細胞を刺激することが可能になるように、注射部位にデポーを形成することができないこと、および(b)追加のTLR2リガンドの同時投与によって回復することのできない、脂質部分の自己アジュバント機能の損失である。これは、皮下部位での適切なTLR2+初回刺激DCの不足に起因する可能性がある。
【0114】
これら2つの仮説を試験するために、TLR-2を発現することが知られているリポペプチドパルスD1 DCを皮下経路によって未処理のマウスに注射し、これらリポペプチドパルスDCにより誘発される細胞免疫応答が、リポペプチドを単独で皮下投与した場合よりも強力であるかどうか決定した。マウスに、1×106リポペプチドパルスDCまたはPBSに溶かした9nmolのリポペプチドをb.t.により接種し、これらに対して28日目に、104.5pfuのMem 71インフルエンザウイルスを投与した。感染後5日目の、肺の中の抗原特異的CD8+T細胞の数を、IFN-γ生成アッセイによって決定した。図6に示すように、リポペプチドパルスDCが与えられた群の抗原特異的CD8+T細胞の数は、CFA中のリポペプチドが与えられた場合(図5)に匹敵し、b.t.によってリポペプチドのみ与えられた群よりも約10倍多かった。これらの発見は、特に、接種部位における局所APCのTLRの発現パターンが分かっていない状況で、価値ある手段になり得る。
【0115】
(実施例3)
マウスへの自己輸血後の、HCVペプチドパルスマウス樹状細胞の毒物学分析
3つのグループの20 C57BL6を、この研究で使用した:
グループ1-治療せず; グループ2- T=0、T=14日、およびT=28日というワクチン接種スケジュールで、idおよびiv経路(それぞれ50%)により2×106同系マウスDCを注射した。グループ3-リポペプチドパルスマウスDCを同様の手法で注射し、複数回投与分のDCは、以下に示すように3つの投与スケジュールで投与した。
【0116】
【表1】

【0117】
使用されるリポペプチドは、HCVタンパク質からの下記のMHCクラス1制限細胞傷害性T細胞エピトープに結合される、麻疹ウイルス、イヌジステンパーウイルスの融合タンパク質から得られる一般的なThエピトープ; KLIPNASLIENCTKAEL(配列番号8)であった。
・コア-DLMGYIPLV(配列番号1)
・コア-YLLPRRGPRL(配列番号2)
・コア-FLLALLSCLTV(配列番号3)
・NS3-KLVALGINAV(配列番号4)
・NS4-LLFNILGGWV(配列番号6)
・NS4-ILAGYGAGV(配列番号7)
【0118】
リポペプチドを、最終濃度が7.5μMになるように等モル量の未成熟マウスDCに添加し、細胞と共に一晩インキュベートした。
【0119】
このスケジュール全体を通して、動物を毎日計量し、困難な状態のいかなる徴候に関しても試験をした。最終投与から1週間後、マウスを殺し、十分な生化学的および血液学的研究を実施した。さらに、主な器官を各動物から取り出し、計量し、ホルマリンに固定し、肝臓、脾臓、およびid注射部位の組織学的分析を実施した。
【0120】
この研究の結果は、マウスの3つのグループの間で、血液学的および生化学的な値に少しの相違しか無いことを示した。組織学的分析では、グループ2およびグループ3のマウスにおけるid注射部位での軽度な好酸球増加症は、HCVリポペプチドでは無くDCがこの変化を誘発することを示唆している。肝臓および脾臓の組織学的分析は、全てのマウスで正常であった。
【0121】
したがって、DCそのものが注射部位で軽度好酸球増加症を誘発するが、HCV特異的リポペプチドパルスDCは、毒性または病理のいかなる徴候も誘発しなかった。
【0122】
(実施例4)
DCの生体外成熟、成熟DCの自己輸血、およびHCV抗原に対する生体内免疫応答の測定
以下の研究は、自己輸血後にHCV陽性患者の細胞免疫応答を開始させるため、成熟しかつHCV特異的リポペプチドが生体外投入された自己DCの可能性を試験することを提案する。ウイルス負荷および付随する肝臓疾患に対するHCV抗原成熟DCの自己輸血の作用について、HCV感染患者で試験をし、それと共に免疫学的応答の評価も行う。
【0123】
材料および方法
患者
標準的な治療経過の後にウイルスを根絶できないことが原因で、従来のIFNベースの療法に応答することのできず、かつ最低ウイルス負荷(,5.9logコピー/ml)を有するHLA A2陽性対立患者。肝臓生検を患者から採取して、肝臓損傷の程度を評価する。
遺伝子型1感染、少なくとも6カ月間、18〜60才(男性または女性)
【0124】
アフェレーシス
PBMCの血液収集を、CliniMACS Instrument(Miltenyli Biotec)上でSpectra MNCプログラムを使用して、標準的な手順に従い実施する。MNC収集は、十分な合計細胞収量が集まるまで毎日続ける。
【0125】
測定される応答変数
臨床状態を、投与1および2(表2参照)の後3日目まで、また第3の投与の後7日目まで、毎日評価する。血清ALT、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間(INR)、全血検査、血清グルコース、HCVウイルス負荷、抗HCVレベル、およびHCV特異的細胞媒介性免疫を含めたマーカーを測定する。肝臓合成機能を損なう著しい壊死炎症応答のあらゆる証拠は、プレドニゾンまたはアゼチオプリンで抑制される。
【0126】
ウイルス負荷およびALTレベルに対する作用を相関させるため、IFN-γ分泌細胞、CTL活性、およびCD4+Th細胞の検査をする。
【0127】
DCの調製
製造業者の取扱い説明書に従ってCliniMACS Tubing SetおよびCliniMACS CD14試薬と組み合わせてCliniMACS Instrumentを使用した、アフェレーシス収集により得られたCD14+単球を、CD14マイクロビーズシステムを使用してヒト末梢血細胞から精製する。このプロトコルは、合計が≧20×109であるMNCから4×109個の細胞が得られるように設計する。最小許容限界は、細胞生存度80%(トリパンブルー排除)、およびCD14+細胞80%である。
【0128】
次いでCliniMACSシステムにより単離されたCD14+細胞を、300Gで15分間、室温でペレット化し、上澄みを除去する。ルアーフィッティングに接続された使い捨て注射器を使用して、GM-CSF(1000IU/ml)(CellGenix,フライブルグ)およびIL-4(800IU/ml)(CellGenix,フライブルグ)が補われた無血清細胞培地CellGro(CellGenix,フライブルグ)50mlを添加する。サンプル0.5mlを取り出し、細胞のカウントを行って、最終濃度0.5×106細胞/mlを実現するのに必要とされる細胞培地の体積を計算する。次いで懸濁した細胞を、GMP級Teflonバッグに移し、37℃、5%CO2で4〜5日間インキュベートする。
【0129】
表現型分析では4〜5日後に、培養された細胞について、フローサイトメトリーにより未成熟DCが存在するかどうか評価する。1.5mlの一定分量の培養物サンプルがバッグから得られ、1.0mlをフローサイトメトリー用に使用して、未成熟DC表現型のマーカーを評価する。評価される最小限のマーカーには、MHCクラスII、CD80、およびCD86が含まれ、DCは、下記の表現型、即ちMHCクラスI+、MHCクラスII+、CD80low、CD86low、CD83-、CD3-、CD16/CD56-、CD19-を有する。200μlの一定分量の培養物を、直接顕微鏡検査に使用し、直接グラム染色を行って、明らかな細菌または新規汚染が無いことを確認する。生存細胞の計数(トリパンブルー排除)も記録する。細胞は、約80%またはそれ以上の生存度示し、かつ微生物感染の証拠が示されない場合に受け入れられる。
【0130】
成熟HCV抗原負荷樹状細胞の調製
上記にて単離された細胞を、500mlのPBS/EDTA/HASで洗浄し、300Gで10分間、室温で遠心分離する。次いで細胞を、20mlの無血清CellGro培地とGM-CSF(1000IU/ml)およびIL-4(800IU/ml)とを合わせたものに再懸濁し、その濃度を、同じ培地で1×106細胞/mlに調節する。
【0131】
リポペプチドの投入:
HCV CD8+T細胞エピトープをベースにして精製された合成リポペプチドを、細胞に添加して最終濃度20nMにし、5%CO2中37℃で4時間、細胞と共にインキュベートする。次いで細胞を、300Gで15分間、室温で遠心分離し、上澄みを除去し、GM-CSF(1000IU/ml)およびIL-4(800IU/ml)を含有する新鮮な無血清CellGro培地50mlを添加する。次いで細胞を2日間、5%CO2中37℃でインキュベートする。
【0132】
リポペプチドに曝露すると、DC成熟を誘発する固有の能力が得られると共に、関連あるMHC分子上でのHCV抗原の効率的な提示が可能になる。IL-1βやIL-6、TNF-α、および/またはPGE2などの追加のDC成熟刺激を必要に応じて使用することができる。
【0133】
CD14+単球から得られるDCは、PBMCの付着細胞集団から得られるDCに比べてばらつきが少ない、比較的一貫した生成物をもたらす。DCの成熟に関連した表現型の変化(活性化マーカーCD83、CMRF-44、DMRF-56)、同時刺激分子とMHCクラスIおよびII分子の発現増加(CD86、CD80、CD40)は、FACS分析によって決定される。
【0134】
自己輸血および凍結保存のための成熟樹状細胞の調製および分析:
培養された細胞の一定分量を採取して、微生物学的試験、細胞の計数および生存度、およびフローサイトメトリーを行う。
【0135】
細胞を2日間培養した後、この細胞を300Gで15分間、室温で遠心分離し、上澄みを除去する。次いで細胞を、AIM-V培地50mlに再懸濁する。
【0136】
細胞の計数が決定したら、1×107個の細胞を注射器で取り出してID注射に使用し、1〜5×107個の細胞(用量に応じて)をIV注射に使用する。残りの細胞は、凍結保存のために保持する。
【0137】
ID注射では、細胞を遠心分離し、1mlの塩化ナトリウム注射液BPに10%HSAを加えたものに再懸濁する。
【0138】
IV輸血では、細胞を遠心分離し、100mlの塩化ナトリウム注射液BPに10%HSAを加えたものに再懸濁する。
【0139】
凍結保存では、残りの細胞を、5%グルコース、80%HSA、および10%DMSOを含む4.5mlの凍結培地に再懸濁する。次いで再懸濁した細胞を、1.5mlの凍結保存アンプルに分配する。アンプル当たり2×107の細胞濃度を使用する。次いで細胞を、制御された速度の凍結を使用して凍結する。
【0140】
フローサイトメトリーでは、細胞を洗浄し、CellGro、10%HSAに再懸濁して、5×106細胞/mlにする。フローサイトメトリーにより試験された最小限のマーカーには、HLA DR、CD83、CD86が含まれる。
【0141】
樹状細胞(DC)の注入
対象に第1および第2の注入を行った後、3日間まで病院に入院させ、絶え間ないモニタを可能にする。対象に第3の注入を行った後、7日間まで入院させる。輸血および注射前の前投薬は、事前に行われた自己輸血に対して副作用を生じる患者または診療所員によって指示された患者には必要となる可能性がある。
【0142】
静脈内輸血:
調製された細胞を、IVカニューレを通して静脈内投与する。細胞を、30分間かけて対象に注入する。
【0143】
皮内注射:
IV輸血と同時に、対象は、細胞のID注射も受ける。注射は、腹壁に行われる。
【0144】
プロトコル
A)ペプチドで誘導されるDCの成熟
ペプチドベースのDC成熟候補は、C末端のCTL、N末端のTh細胞エピトープ、および分子中央の脂質によって認識されるエピトープを有する。この設計は、DC表面でのクラスII分子の発現のアップレギュレーションに、この構成が最も効率的である(Zeng他、2002)という本発明者等の知見に基づいている。
【0145】
リポペプチドのCTLエピトープは、HCVコア配列: DLMGYIPLV(132-140;配列番号1); YLLPRRGPRL(35-44;配列番号2)、およびFLLALLSCLTV(178-187;配列番号3); HCV NS3配列KLVALGINAV(1406-1415;配列番号4)、およびHCV NS4配列LLFNILGGWV(配列番号6)、およびILAGYGAGV(配列番号7)からなる群から選択される。
【0146】
これらのエピトープは、IFN-γ生成細胞を決定するための細胞溶解アッセイおよびELISPOTアッセイによって測定されるように、HLA-A2制限ヒトPBMCによって認識される。
【0147】
エピトープは、Ghosh他、2001に記載されている麻疹ウイルスのFタンパク質からのP25(KLIPNASLIENCTKAEL;配列番号8)である。
【0148】
ペプチドの組合せを、未成熟DC培養製剤に添加し、活性化のマーカーを示す細胞の割合を、自己輸血の前にFACS分析により決定する。
【0149】
B)HCV陰性個体での、初回刺激を与えたDCの養子移入
自己PBMCを、自己血漿中でアフェレーシスによって収集し、約10〜12Lの全血を処理する。次いで細胞を、Heiser他(2002)に記載されているように、気体透過性バッグに移し、CellGro培地で培養する。次いでDC細胞を、成熟後に1日注入する。
【0150】
提案された成熟DCの用量を、下記の表に示す。
【0151】
【表2】

【0152】
次いで細胞を静脈内注射し、それに伴って、それぞれの場合ごとに1×107DCの皮内送達がなされる(Heiser他、2002)。
【0153】
最終注入から2週間後、血液450mlを収集し、次いで精製されたPBMCおよびインターフェロン-γ分泌細胞、CTL活性およびCD4+Th細胞を測定する。このアッセイを、3カ月後に繰り返す。一定分量の成熟DCを液体窒素中に保存して、輸血スケジュールを促進させる。
【0154】
C)持続性HCV感染に罹患した人の、初回刺激を行ったDCの養子移入
上述の手順を、肝臓疾患を持つHCV陽性患者からのDCを使用して繰り返す。患者は、従来のインターフェロンベースの療法に応答せず、かつ感染した肝細胞がほとんど無いためにウイルス負荷が最低である、HLA A2対立患者であることが好ましい(しかしその他のHLA型を使用してもよい)。肝臓生検は、肝臓損傷の程度を評価するために各患者に関して実施する。
【0155】
DCを患者に投与し、それと同時に患者を入院させ、退院後、3カ月にわたって毎週再調査することにより、肝機能の臨床評価および適切な実験室試験を行う。一部の患者では、追跡のためDCに生体外標識し、これらの患者では、輸血の直前にDCに2-[18F]フルオロデオキシグリコース(FDG)を標識する。次いで注入の後、患者に対して2時間後および4時間後にPETスキャンを繰り返し行う。
【0156】
同様に、別の患者では、DCをインジウム111で標識し、4、24、48、および72時間後にSPECTでスキャンする。FDGは高解像度を有するが、半減期が長いインジウムに比べて半減期が短く、空間解像度が劣っている。
【0157】
本明細書の全体を通して、「含む(comprise)」という用語または「含む(comprises)」や「含む(comprising)」などの変形例は、記述される要素、整数、またはステップ、あるいは要素、整数、またはステップの群を包含するが、任意のその他の要素、整数、またはステップ、あるいは要素、整数、またはステップの群を排除しないものであることが理解されよう。
【0158】
本明細書で述べる全ての文献を、参照により本明細書に組み込む。本明細書に含まれる文書、行為、材料、装置、物品などの任意の考察は、単に本発明の内容を示すためのものである。これら事項のいずれかまたは全ては、本出願の各請求項の優先日前にオーストラリアまたはその他の場所で存在するような、従来技術の基礎の一部を形成しあるいは本発明に関連した分野で共通の一般的知識であることを認めるものと解釈すべきでない。
【0159】
広く記述される本発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されるように本発明に数多くの変更および/または修正を行うことができることが、当業者に理解されよう。したがって本発明の実施形態は、全ての観点から例示的なものであり制限するものではないと見なすべきである。
【0160】
単語の単数形の使用は、その単語の複数形を包含するものとする。
(参考文献)







【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】リポペプチド([Th]-K(Pam2CSS)-[CTL])がパルス投与された(D1)細胞(即ちGALNNRFQIKGVELKS-K(Pam2CSS)-TYQRTRALV)による抗原特異的CD8+CTL応答の開始を示す図である。静脈内から、リポペプチド、リポペプチド対照、またはPBSを添加した細胞100μLを、未処理のマウスに与えた。次いでマウスに、鼻内から、104.5プラーク形成単位(pfu)のMem 71インフルエンザウイルスを投与した。感染後5日目に肺および脾臓を収集し、これらの器官内のCTLエピトープ特異的CD8+T細胞を、細胞内IFN-γ生成アッセイにより数え上げた。リポペプチドパルスDCを与えたマウスの、肺の中のCD8+T細胞の約27%は、試験をしたCTLエピトープに特異的であった(A)。B(肺)およびC(脾臓)の棒および誤差棒は、1群当たり3匹のマウスの平均および標準偏差を表す。各サンプルごとに1万個のCD8+T細胞について分析した。
【図2】リポペプチドパルスDCは、非脂質化ペプチドパルスDCよりも、抗原特異的CTL応答を開始するのに強力であることを示す図である。未処理のマウスに、示される数のリポペプチドまたは非脂質化ペプチドパルスDCを静脈内から与えた。接種後28日目に、マウスに、鼻内から104.5pfuのMem 71インフルエンザウイルスを投与した。肺を、感染後5日目に収集し、これらの器官内のCTLエピトープ特異的CD8+T細胞を、細胞内IFN-γ生成アッセイによって数え上げた。グラフ内の棒および誤差棒は、1群当たり3匹のマウスの平均および標準偏差を表す。各サンプルごとに1万個のCD8+T細胞について分析した。
【図3】リポペプチドパルスDCにより発生した免疫応答は、高いウイルスクリアランスをもたらしたことを示す図である。マウスに、前述のようにリポペプチドパルスCDを与え、接種後28日目に、マウスに鼻内から104.5pfuのMem 71インフルエンザウイルスを投与した。投与後5日目にサンプリングされた肺ホモジネート中の感染性ウイルスの力価を、MDCK細胞単層上でのプラーク形成によって決定した。塗りつぶされた円のそれぞれは、個々のマウスの肺ウイルス力価を表し、線は、マウス群の幾何平均を表す。PBS対照群に対する平均ウイルス力価の減少パーセンテージを、各データカラムの上方に示す。
【図4】接種経路は、GALNNRFQIKGVELKS-K(Pam2CSS)-TYQRTRALVの免疫原性に影響を及ぼす可能性があることを示す図である。マウスに、GALNNRFQIKGVELKS-K(Pam2CSS)-TYQRTRALVまたはこれに相当する非脂質化ペプチドを鼻内からまたは尾の付け根の皮下から接種した。28日後に、マウスに鼻内から104.5pfuのMem 71インフルエンザウイルスを投与し、5日後に種々の器官を収集して、抗原特異的CD8+T細胞を細胞内IFN-γ生成アッセイにより数え上げた。グラフ内の棒および誤差棒は、1群当たり3匹のマウスの平均および標準偏差を表す。各サンプルごとに1万個のCD8+T細胞について分析した。
【図5】接種部位で、デポーを形成することができずまたTLR2リガンド刺激に対する応答が減少したことは、皮下投与したときのGALNNRFQIKGVELKS-K(Pam2CSS)-TYQRTRALVの免疫原性の低下に関与する可能性があることを示す図である。マウスの尾の付け根に、GALNNRFQIKGVELKS-K(Pam2CSS)-TYQRTRALVを、単独でまたは示されるような外部アジュバントと混合して接種した。28日後に、これらマウスに鼻内から104.5pfuのMem 71インフルエンザウイルスを投与し、感染後5日目に、肺の中の抗原特異的CD8+T細胞を細胞内IFN-γ生成アッセイにより数え上げた。グラフ内の棒および誤差棒は、1群当たり3匹のマウスの平均および標準偏差を表す。各サンプルごとに1万個のCD8+T細胞について分析した。
【図6】リポペプチドパルスDCの皮下接種は、強力な抗原特異的CD8+T細胞応答を開始できたことを示す図である。マウスの尾の付け根に、1万のリポペプチドパルスCDまたは9nmolのGALNNRFQIKGVELKS-K(Pam2CSS)-TYQRTRALVをPBSに溶かしたものを、皮下から与えた。28日目に、これらマウスに鼻内から104.5pfuのMem 71インフルエンザウイルスを投与し、感染後5日目に、肺の中の抗原特異的CD8+T細胞を細胞内IFN-γ生成アッセイにより数え上げた。グラフ内の棒および誤差棒は、1群当たり3匹のマウスの平均および標準偏差を表す。各サンプルごとに1万個のCD8+T細胞について分析した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象から血液を収集するステップと、
(b)血液から樹状細胞を単離するステップと、
(c)単離した樹状細胞を、TヘルパーおよびウイルスCTLエピトープ、および/または抗体エピトープを含むリポペプチドに曝すステップと、
(d)樹状細胞を対象に再導入するステップと
を含むことを特徴とする、対象のウイルス感染を治療するための治療方法。
【請求項2】
リポペプチドが、内部リジンまたはリジン類似体の末端側鎖ε-アミノ基を介して結合された脂質部分を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リポペプチドが、1つまたは複数の脂質部分に結合したポリペプチドを含み、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびCTLエピトープのアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が異なるものと、
(b)1つまたは複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基であって、前記リジンまたはリジン類似体のε-アミノ基または末端側鎖基を介して前記脂質部分のそれぞれと共有結合するための残基と
を含んだアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1つまたは複数の脂質部分のそれぞれは、前記1つまたは複数の内部リジン残基のε-アミノ基に、または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に、直接または間接的に共有結合する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
リポペプチドは、脂質部分がS-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)-プロピル]-システイン(Pam2Cys)であるものであることを特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
リポペプチドは、CTLエピトープがC型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)からなる群から得られるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
リポペプチドは、CTLエピトープがHCVから得られるものであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
HCV CTLエピトープが、DLMGYIPLV(配列番号1)、YLLPRRGPRL(配列番号2)、FLLALLSCLTV(配列番号3)、KLVALGINAV(配列番号4)、CINGVCWTV(配列番号5)、LLFNILGGWV(配列番号6)、またはILAGYGAGV(配列番号7)からなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
リポペプチドは、ThエピトープがKLIPNASLIENCTKAEL(配列番号8)であるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(a)対象から血液を収集するステップと、
(b)血液から樹状細胞を単離するステップと、
(c)単離した樹状細胞を、TヘルパーおよびウイルスCTLエピトープ、および/または抗体エピトープを含むリポペプチドに曝すステップと
を含む方法により生成されたことを特徴とする、リポペプチドパルス樹状細胞(DC)の集団。
【請求項10】
リポペプチドは、脂質部分がS-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)-プロピル]-システイン(Pam2Cys)であるものであることを特徴とする請求項9に記載の集団。
【請求項11】
リポペプチドは、CTLエピトープがC型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)からなる群から得られるものであることを特徴とする請求項9に記載の集団。
【請求項12】
リポペプチドは、CTLエピトープがHCVから得られるものであることを特徴とする請求項11に記載の集団。
【請求項13】
HCV CTLエピトープが、DLMGYIPLV(配列番号1)、YLLPRRGPRL(配列番号2)、FLLALLSCLTV(配列番号3)、KLVALGINAV(配列番号4)、CINGVCWTV(配列番号5)、LLFNILGGWV(配列番号6)、またはILAGYGAGV(配列番号7)からなる群から選択されることを特徴とする請求項12に記載の集団。
【請求項14】
リポペプチドは、ThエピトープがKLIPNASLIENCTKAEL(配列番号8)であるものであることを特徴とする請求項9に記載の集団。
【請求項15】
請求項9により調製された樹状細胞(DC)を、ウイルスに感染した対象に再導入するステップを含むことを特徴とする、前記対象を治療するためのリポペプチドパルス樹状細胞(DC)の集団の使用。
【請求項16】
リポペプチドパルス樹状細胞が、医薬品として許容される賦形剤または希釈剤と一緒に対象に投与されるワクチンの形で対象に再導入されることを特徴とする請求項15に記載の使用。
【請求項17】
対象が、慢性HCV感染を有することを特徴とする請求項15または16に記載の使用。
【請求項18】
対象のCTLを活性化するのに十分な時間および条件下で、本発明の第1の態様の方法により対象を治療するステップを含むことを特徴とする、対象に細胞媒介性免疫を導入するための方法。
【請求項19】
(a)対象から血液を収集するステップと、
(b)血液から樹状細胞を単離するステップと、
(c)単離した樹状細胞を、TヘルパーおよびウイルスCTLエピトープ、および/または抗体エピトープを含むリポペプチドに曝すステップと、
(d)樹状細胞を対象に再導入するステップと
を含むことを特徴とする、感染していない対象の予防的治療のための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−510736(P2008−510736A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528510(P2007−528510)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【国際出願番号】PCT/AU2005/001289
【国際公開番号】WO2006/021048
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(507062107)ザ・マクファーレーン・バーネット・インスティテュート・フォー・メディカル・リサーチ・アンド・パブリック・ヘルス・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】