説明

ウイルス除去方法および透過水の製造方法

【課題】pH調整などの操作を必要としない簡便な方法でウイルスを凝集させ、分離膜によるウイルス除去率を高める方法を提供する。
【解決手段】ウイルスを含み、電気伝導度が3000μS/cm未満の原水に塩を添加し、原水の電気伝導度が3000μS/cm以上となるように調整後、膜表面の平均孔径が5nm以上30nm以下の分離膜でろ過するウイルス除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理分野、医薬品製造分野、食品工業分野などで、分離膜によりウイルスを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、河川水や地下水の除濁、工業用水の清澄化、廃水の高度処理などの浄水分野に分離膜が適用されるようになってきた。これら浄水分野で用いられる分離膜には、クリプトスポリジウムなどの病原性微生物が透過処理水に混入しない分離特性が必要とされている。また飲料水製造、医薬品製造、食品工業分野では、製造工程内にウイルスなどの病原体が混入すると製造ラインが汚染され、ウイルス感染症などを引き起こす危険性がある。このために種々の殺菌技術が用いられ、物理的にウイルスを細孔で除去できる分離膜の利用が注目されるようになってきた。ウイルスの除去率については、一般的に4log(99.99%)以上の除去率であれば、十分にウイルスを除去できていると認められる。
【0003】
ウイルスを分離膜で除去するためには、ウイルスよりも孔径の小さい分離膜でろ過すれば良い。しかし多くの分離膜は孔径に分布があり、平均孔径がウイルスより小さくても部分的に大きな孔が存在すると、そこからウイルスが漏れてしまう。従ってウイルスを十分に除去するためには分離膜の平均孔径をウイルスよりも大幅に小さくする必要があるが、平均孔径が小さくなると処理液体の透過流束は低下してしまう。
【0004】
ウイルスより大きなサイズの細孔が存在する分離膜でウイルスを除去する方法として、ウイルスを凝集させる方法が挙げられる。例えば特許文献1ではタンパク質溶液をpH6未満かつ電気伝導度7mS/cm以下に調整して保持することによりウイルスを凝集させ、次いで単分散状態のウイルス径よりも大きい膜孔径を有する親水性膜に該タンパク質溶液を透過させることでタンパク質溶液中のウイルスを除去する方法が記載されている。また特許文献2では溶液のpHを4〜8に調整するとともに、溶液に対してアミノ酸を加えることにより溶液中のウイルスを凝集させ、ろ過膜でろ過することでタンパク質およびウイルスが共存する溶液からウイルスを除去する方法が記載されている。
【0005】
また非特許文献1ではpHをウイルスの等電点に調整し、塩を加えることでウイルスの荷電を中和し、分離膜との静電気的反発を抑え、疎水性相互作用で分離膜にウイルスを吸着させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−151840号公報
【特許文献2】特開2004−339079号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E.M.van Voorthizen、他2名、「Journal of Membrane Science」194(2001年)、p.69−79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2の方法はいずれもpHを調整する必要があるため、特に処理液量が多い場合などはコストが高くなるという問題がある。また、非特許文献1の方法では、ろ過水量が増えるとウイルス吸着量が飽和し、それ以上ウイルスを除去できなくなるという問題がある。
【0009】
本発明は、より簡便な方法で、高いウイルス除去率を得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は次の構成をとる。
【0011】
(1)ウイルスを含み、電気伝導度が3000μS/cm未満の原水に、塩を添加して原水の電気伝導度が3000μS/cm以上となるように調整後、膜表面の平均孔径が5nm以上30nm以下の分離膜でろ過するウイルス除去方法。
【0012】
(2)分離膜がフッ素系樹脂またはポリスルホン系樹脂を含有する、(1)に記載のウイルス除去方法。
【0013】
(3)分離膜が親水性樹脂を含有する、(1)または(2)に記載のウイルス除去方法。
【0014】
(4)親水性樹脂が、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、及びポリアクリル酸エステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の物質である(3)に記載のウイルス除去方法。
【0015】
(5)前記分離膜が、球状構造層と、前記球状構造に積層された三次元網目構造層とを有する、(1)〜(4)のいずれかに記載のウイルス除去方法。
【0016】
なお、上記(1)〜(5)のいずれかの方法によってウイルスを除去する工程を含む透過水の製造方法も、本発明の範囲内に含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、pH調整の必要性を低減しつつ、ウイルスを凝集させることで、分離膜によるウイルス除去率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るウイルスの除去方法の実施形態の一例を説明する。
【0019】
本実施形態におけるウイルスの除去方法は、ウイルスを含む原水の電気伝導度を3000μS/cm以上に調整してウイルスを荷電中和させ、凝集したウイルスを膜表面の平均孔径が5nm以上30nm以下の分離膜でろ過することで、ウイルスを高い効率で除去する方法である。
【0020】
膜表面の孔径には分布があるため、平均孔径よりも大きい孔も存在し、そこからウイルスが透過してしまうが、本発明のウイルス除去方法ではウイルスを凝集させることでウイルスの見かけサイズを大きくし、分離膜によるウイルス除去率を高めることができる。
【0021】
本発明で除去対象となるウイルスは、上述の方法で凝集し、分離膜で除去されるものであれば特に限定されない。また原水の種類も、ウイルスを含み、電気伝導度が3000μS/cm未満のものであれば特に限定されない。例えば河川水、湖沼水、地下水などの自然水、飲料水、下水処理水、タンパク質溶液などが挙げられる。
【0022】
本発明ではウイルスを含む原水に塩を添加し、荷電中和によりウイルスを凝集させてから分離膜でろ過するが、ウイルスを十分に凝集させるには原水の電気伝導度を3000μS/cm以上に調整してウイルスの荷電を中和する必要がある。また多量の塩を添加するとコストが上昇するため、電気伝導度の範囲は3000μS/cm以上20000μS/cm以下が好ましい。ウイルスを含む原水に添加する塩は原水の電気伝導度を3000μS/cm以上に調整できるものなら特に限定されないが、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。本発明ではウイルスを含む原水の電気伝導度を高めてウイルスの荷電を中和してウイルスを凝集させるが、荷電中和には2価イオンから成る塩の方がより効果が高いと考えられる。他の電気伝導度の調整方法として、塩濃度の高い溶液を添加する方法なども考えられる。また本発明において原水の電気伝導度は、電気伝導率計(東亜電波工業製、WM−50EG)を用いて測定したものとする。
【0023】
本発明では、使用する分離膜の膜表面の平均孔径は5nm以上30nm以下とすることができ、10nm以上25nm以下とすることがさらに好ましい。ウイルスの大きさは数十nmから数百nmだが、最も小さいもので20nm程度である。従って膜表面の平均孔径を30nm以下とし、電気伝導度の調整によりウイルスを凝集させれば、20nm程度の大きさのウイルスも除去することができる。また膜表面の平均孔径を5nm以上とすることで、膜の透過流束の低下を抑制することができる。
【0024】
「膜表面」とは、原水が触れる面であり、例えば平膜は2つの面を有するが、そのうち少なくとも原水が触れる側の面における平均孔径が上述の範囲を満たせばよく、中空糸膜でもその外面と内面のうち、原水が触れる側の面における平均孔径が上述の範囲を満たせばよい。他の面及び膜内部については、平均孔径はより大きくてもよい。
【0025】
本発明において膜表面の平均孔径は、走査型電子顕微鏡を用いて60000倍で写真撮影し、30個の任意の細孔の直径を測定し、数平均して求めたものとする。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求める。
【0026】
本発明で使用する分離膜の構造は特に限定されないが、例えば中空糸膜や平膜などを使用することができる。特に中空糸膜は一般的に平膜よりも比表面積が大きく、単位時間当たりにろ過できる液量が多いため有利である。中空糸膜の構造としては全体的に孔径が一様な対称膜や、膜の厚み方向で孔径が変化する非対称膜、強度を保持するための支持層と対象物質の分離を行うための分離機能層を有する複合膜などが存在する。
【0027】
複合膜の一つの形態として例えば球状構造の支持層と三次元網目構造層とを備える分離機能層を有する複合膜が挙げられる。ここで三次元網目構造とは、固形分が三次元的に網目状に広がっている構造をいう。三次元網目構造層は網を形成する固形分に仕切られた細孔およびボイドを有する。三次元網目構造層は例えば非溶媒誘起相分離や熱誘起相分離などの手法で形成させることができ、分離機能に優れている。球状構造とは、多数の球状もしくは略球状の固形分が、直接もしくは筋状に固形分を介して連結している構造のこという。球状構造層は例えば熱誘起相分離などの手法で形成させることができ、引っ張り強度が高く、透水性が高いという特徴を有している。従って球状構造を有する支持層と三次元網目構造を有する分離機能層とを備える複合膜は破断しにくく、優れた分離機能を持つという特徴を有している。支持層と分離機能層とは積層されていればよく、三次元網目構造層は、球状構造層の表面の一部または全部を覆うように形成されていてもよい。なお、支持層と分離機能層との間に、他の層が配置されていてもよい。
【0028】
本発明では上記の対称膜、非対称膜、複合膜のいずれも使用することができるが、特に球状構造の支持層(つまり球状構造層)と三次元網目構造の分離機能層(つまり三次元網目構造層)を備える複合膜を好適に用いることができる。
【0029】
ここで非溶媒誘起相分離とはポリマーを良溶媒に溶解させた後、非溶媒と接触させ、溶媒と非溶媒とを交換することで溶液中のポリマーの溶解性を低下させて相分離を起こし、多孔質構造をつくる技術である。また熱誘起相分離とは、ポリマーを貧溶媒に高温で溶解し、凝固浴と接触させることで冷却し、貧溶媒の溶解力を低下させることで相分離を起こし、多孔質構造をつくる技術である。
【0030】
ここで、貧溶媒とは、高分子を60℃以下の低温では、5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつ高分子の融点以下の高温領域で5重量%以上溶解させることができる溶媒のことである。貧溶媒に対し、60℃以下の低温領域でも高分子を5重量%以上溶解させることができる可能な溶媒を良溶媒、高分子の融点または溶媒の沸点まで、高分子を溶解も膨潤もさせない溶媒を非溶媒と定義する。
【0031】
本発明で使用する分離膜の材質は特に限定されないが、分離膜は、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体などのフッ素系樹脂、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリイミドなどの樹脂を含有することができる。また、分離膜は、これらの樹脂を主成分として含有することができる。特にフッ素系樹脂やポリスルホン系樹脂からなる分離膜は物理的強度、化学的耐久性が高いことから、本発明に好適に用いることができる。
【0032】
「主成分」とは、分離膜全体における含有率が50重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上である成分を指す。なお、上述の樹脂は組み合わせて用いられてもよく、その含有率の合計が、主成分としての上述の範囲を満たしていればよい。
【0033】
また、分離膜は、フッ素系樹脂やポリスルホン系樹脂に加えて、親水性樹脂をさらに含有してもよい。親水性樹脂によって、分離膜の親水性を高め、膜の透水性を向上させることができる。親水性樹脂は、分離膜に親水性を付与することができる樹脂であればよく、具体的な化合物に限定されるものではないが、例えば、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、及びポリアクリル酸エステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好適に用いられる。また親水性樹脂の添加によりポリマー溶液の粘度を調節することができ、細孔径の制御やマクロボイドの抑制が可能となる。マクロボイドは膜中に存在する直径5μm以上の空孔で、ウイルス除去性能の低下の要因となる場合がある。ここで、親水性樹脂のフッ素系樹脂及び/またはポリスルホン系樹脂に対する混和比は、本発明の目的を達成するように自由に設定できるが、0.5重量%以上であることが好ましく、50重量%以下であることが好ましい。親水性樹脂の割合が0.5重量%以上であることで、十分な親水化効果及びマクロボイドの抑制効果を得ることができ、50重量%以下であることで、良好な化学的耐久性を得ることができる。
【0034】
なお、分離膜は、上述した成分以外に、耐電防止剤、可塑剤等の添加物を、5重量%以下、2重量%以下、又は1重量%以下の割合で含有することができる。
【0035】
分離膜が単層膜であっても、複合膜であっても、分離膜全体における各成分の含有率は、上述の範囲内の値をとることができる。
【0036】
分離膜の厚みは、100μm以上又は200μm以上であってもよく、500μm以下、又は400μm以下であってもよい。分離膜が厚い方が、物理的強度が得られるが、薄い方が高い透水性を得られる。特に、100μm以上であると、物理的強度が高まるという利点があり、500μm以下であると、高い透水性を得られるという利点がある。
【0037】
本発明の透過水の製造方法は、以上に述べたウイルス除去方法によってウイルスを除去する工程を含む。すなわち、この製造方法は、
(a)ウイルスを含み、電気伝導度が3000μS/cm未満の原水に、塩を添加して原水の電気伝導度が3000μS/cm以上となるように調整すること、
(b)膜表面の平均孔径が5nm以上30nm以下の分離膜で上記工程(a)後の原水をろ過すること、
を含む。上記(a)及び(b)の詳細については、上述したとおりである。
【実施例】
【0038】
実施例における分離膜の球状構造の平均直径は、分離膜の断面を走査型電子顕微鏡(S−800、日立製作所製)を用いて10000倍で写真撮影し、30個の任意の細孔の孔径および球状構造の直径を測定し、数平均して求めた。また、三次元網目構造層の表面の平均孔径は、分離膜の表面を上記の走査型電子顕微鏡を用いて60000倍で写真撮影し、30個の任意の細孔の孔径の直径を測定し、数平均して求めた。
【0039】
純水透過性能は、次のように求めた。まず、分離膜が中空糸膜の場合には、中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製し、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下で、逆浸透膜ろ過水の外圧全ろ過を10分間行い、透過量(m)を求めた。次に、その透過量(m)を単位時間(h)および有効膜面積(m)あたりの値に換算し、さらに(50/16)倍することにより、圧力50kPaにおける値に換算することで純水透過性能を求めた。
【0040】
原水の電気伝導度は電気伝導率計(東亜電波工業製、WM−50EG)を用いて測定した。
【0041】
ウイルスとしてはMS2ファージ(ATCC 15597−B1、大きさは約25nm)を使用した。MS2ファージの濃度測定は、Overlay agar assay、Standard Method 9211−D(APHA、1998、Standard method for the examination of water and wastewater、18th ed.)の方法に基づいて、透過水1mLを検定用シャーレに接種し、プラークを計数することによって求めた。透過水は必要に応じて希釈を行った。同様にウイルスを含む原水についてもMS2ファージの濃度を測定し、透過水との濃度差から除去性能を求めた。除去性能は対数で表した。例えば2logとは2log10のことであり、残存濃度が100分の1であることを意味する。また原水中のMS2ファージ濃度が1×10PFU/mL以上であって、透過液中にMS2ファージがまったく計測されない場合、除去性能>7logとした。
【0042】
<実施例1>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ−ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解した。この高分子溶液をγ−ブチロラクトンを中空部形成液体として随伴させながら口金から吐出し、温度20℃のγ−ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して球状構造からなる中空糸膜を作製した。
【0043】
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを12重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社製、CA−435−75S)を3重量%、N−メチル−2−ピロリドンを79重量%、T−20C(ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン、三洋化成株式会社製、商品名イオネット(登録商標)T−20C)を3重量%、水を3重量%の割合で95℃で混合溶解して高分子溶液を調製した。この高分子溶液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに30重量%N−メチル−2−ピロリドン水溶液中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
【0044】
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.8μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径20nm、純水透過性能0.25m/m/hrであった。
【0045】
121℃で20分間高圧蒸気滅菌した蒸留水(電気伝導度1μS/cm)を用いて0.03mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液(電気伝導度4340μS/cm、pH6.0)を調製し、ウイルスとしてMS2ファージを1×10PFU/mL以上となるように添加した。上記の中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製し、温度約20℃、ろ過差圧10kPa(外圧)の条件でウイルスを含む原水をろ過した。膜面積当たりのろ過水量が400L/mの時点で透過水のサンプリングを行い、MS2ファージの濃度を測定した。同様にウイルスを含む原水についてもMS2ファージの濃度を測定した。
【0046】
<実施例2>
使用するウイルスを含む原水を0.10mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液(電気伝導度14460μS/cm、pH6.0)とする以外は実施例1と同じ条件で行った。
【0047】
<実施例3>
使用するウイルスを含む原水を0.03mol/Lの塩化ナトリウム水溶液(電気伝導度3430μS/cm、pH6.0)とする以外は実施例1と同じ条件で行った。
【0048】
<実施例4>
使用するウイルスを含む原水を0.03mol/Lの塩化ナトリウム水溶液に少量の水酸化ナトリウムを加え、pH9.0とした水溶液(電気伝導度3450μS/cm)とする以外は実施例1と同じ条件で行った。
【0049】
<実施例5>
使用するウイルスを含む原水を0.03mol/Lの塩化ナトリウム水溶液に少量の塩酸を加え、pH4.5とした水溶液(電気伝導度3480μS/cm)とする以外は実施例1と同じ条件で行った。
【0050】
<実施例6>
ポリエーテルスルホン(ICI社製、Victrex200)を20重量%、ポリビニルピロリドン(重量平均分子量36万)を7重量%、グリセリン10重量%、N−メチル−2−ピロリドンを63重量%の割合で50℃で混合溶解し、高分子溶液を調整した。この高分子溶液を10重量%N−メチル−2−ピロリドン水溶液を中空部形成液体として随伴させながら口金から吐出し、温度20℃の水浴中で固化して中空糸膜を作製した。
【0051】
得られた中空糸膜は、外径1360μm、内径800μm、膜表面の平均孔径25nm、純水透過性能0.28m/m/hrであった。
【0052】
121℃で20分間高圧蒸気滅菌した蒸留水(電気伝導度1μS/cm)を用いて0.03mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液(電気伝導度4340μS/cm、pH6.0)を調製し、ウイルスとしてMS2ファージを1×10PFU/mL以上となるように添加した。上記の中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製し、温度約20℃、ろ過差圧10kPa(外圧)の条件でウイルスを含む原水をろ過した。膜面積当たりのろ過水量が400L/mの時点で透過水のサンプリングを行い、MS2ファージの濃度を測定した。同様にウイルスを含む原水についてもMS2ファージの濃度を測定した。
【0053】
<比較例1>
使用するウイルスを含む原水を121℃で20分間高圧蒸気滅菌した蒸留水(電気伝導度1μS/cm)に少量の塩酸を加え、pH5.5とした水溶液(電気伝導度23μS/cm)とする以外は実施例1と同じ条件で行った。
【0054】
<比較例2>
使用するウイルスを含む原水を0.02mol/Lの塩化ナトリウム水溶液(電気伝導度2280μS/cm、pH6.0)とする以外は実施例1と同じ条件で行った。
【0055】
<比較例3>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ−ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解した。この高分子溶液をγ−ブチロラクトンを中空部形成液体として随伴させながら口金から吐出し、温度20℃のγ−ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して球状構造からなる中空糸膜を作製した。
【0056】
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを11重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社製、CA435−75S)を2重量%、N−メチル−2−ピロリドンを81重量%、T−20Cを3重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに30重量%N−メチル−2−ピロリドン水溶液中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
【0057】
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.8μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径34nm、純水透過性能0.34m/m/hrであった。
【0058】
121℃で20分間高圧蒸気滅菌した蒸留水(電気伝導度1μS/cm)を用いて0.03mol/Lの塩化ナトリウム水溶液(電気伝導度3430μS/cm、pH6.0)を調製し、ウイルスとしてMS2ファージを1×10PFU/mL以上となるように添加した。上記の中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製し、温度約20℃、ろ過差圧10kPa(外圧)の条件でウイルスを含む原水をろ過した。膜面積当たりのろ過水量が400L/mの時点で透過水のサンプリングを行い、MS2ファージの濃度を測定した。同様にウイルスを含む原水についてもMS2ファージの濃度を測定した。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように膜表面の平均孔径が5nm以上30nm以下で、原水の電気伝導度が3000μS/cm以上のとき(実施例1〜6)、4log以上のウイルス除去率を示した。実施例1〜6の原水のpHの範囲は4.5〜9.0だったが、いずれのpHの原水でも十分にウイルスを除去できていた。一方、膜表面の平均孔径が20nmでもウイルスを含む原水の電気伝導度が3000μS/cm未満のときは(比較例1、2)、ウイルス除去率は3log以下だった。また膜表面の平均孔径が34nmのときは(比較例3)、電気伝導度を3000μS/cm以上にしてもウイルス除去率は1.0logと低い値だった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のウイルス除去方法及び透過水の製造方法は、飲料水製造、浄水処理、廃水処理などの水処理分野、医薬品製造分野、食品工業分野、血液浄化用膜分野に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスを含み、電気伝導度が3000μS/cm未満の原水に、塩を添加して原水の電気伝導度が3000μS/cm以上となるように調整後、膜表面の平均孔径が5nm以上30nm以下の分離膜でろ過するウイルス除去方法。
【請求項2】
前記分離膜がフッ素系樹脂またはポリスルホン系樹脂を含有する、請求項1に記載のウイルス除去方法。
【請求項3】
前記分離膜が親水性樹脂を含有する、請求項1又は2に記載のウイルス除去方法。
【請求項4】
前記親水性樹脂が、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、およびポリアクリル酸エステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の物質である、請求項3に記載のウイルス除去方法。
【請求項5】
前記分離膜が、球状構造層と、前記球状構造に積層された三次元網目構造層とを有する、請求項1〜4のいずれかに記載のウイルス除去方法。
【請求項6】
ウイルスを含み、電気伝導度が3000μS/cm未満の原水に、塩を添加して原水の電気伝導度が3000μS/cm以上となるように調整後、膜表面の平均孔径が5nm以上30nm以下の分離膜でろ過する工程を含む、透過水の製造方法。

【公開番号】特開2012−76075(P2012−76075A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194585(P2011−194585)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】