説明

ウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法

【課題】獣毛糸が持つ独特な風合いを維持しつつ、洗濯耐久性に優れた撥水性と形態安定性並びに強伸度とを兼ね備えた実用性に優れた画期的なウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法を提供する。
【解決手段】羊毛、カシミア毛、ラクダ毛、アルパカ毛などの獣毛からなる獣毛糸に、第一処理工程として、ジクロロトリアジン系架橋剤及びポリハロゲノピリミジン系架橋剤のいずれか若しくは双方を用いて架橋処理を施し、この架橋処理を施した前記獣毛糸に、第二処理工程として、フッ素系撥水加工剤と撥水加工助剤とを用いて吸尽処理を施し、この吸尽処理を施した前記獣毛糸に、第三処理工程として、乾式若しくは湿式の熱処理を施すウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯耐久性能に優れたウォッシャブル性、超撥水性、風合い並びに良好な強伸度を兼ね備えたウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば羊毛を含む布帛や糸などの羊毛繊維材料の防縮加工法としては、水溶性ポリイソシアネート初期重合体が多く用いられており、また、撥水加工法としては、フッ素系撥水・撥油剤で処理する加工法がよく知られているが、これらは撥水性の洗濯耐久性が不十分であり、更に、初期撥水性も不十分であった。
【0003】
そこで、上記問題を解決するために、イソシアネート基が重亜硫酸塩でブロックされた水溶性ポリイソシアネート初期重合体と、自己分散性ポリウレタン樹脂により水性媒体中に分散されたフッ素樹脂水性分散液を併用することにより、防縮性と洗濯耐久性に優れた撥水性が同時に付与できる薬剤の製法並びに加工法(特許文献1)が提案されている。
【0004】
また、上記以外にも、羊毛布帛を低温プラズマ処理した後、フッ素系撥水・撥油剤とアミノ基、シラノール基を有するポリジメチルシロキサン等から成る樹脂液とをパッド・ドライ・キュアする耐久性撥水撥油加工法(特許文献2)や、羊毛繊維にスルホン化ビスフェノールSのホルマリン縮合物を付与した後、フッ素系撥水加工剤、メラミン樹脂及び多官能ブロックイソシアネート基含有ウレタン樹脂を混合した処理液を付与して熱処理することで、風合いと洗濯耐久性に優れた撥水加工を付与する製法(特許文献3)が提案されている。
【0005】
また更に、ジハロゲノトリアジン化合物と共にパーフルオロアクリレート、メラミン尿素誘導体及びウレタンの内から選ばれた少なくとも一種を繊維に含浸させスチーミングしたあと、60℃以上で実質的に乾燥するまで乾熱処理する加工法(特許文献4)や、天然繊維のコーン及びカセを、先ず、ジハロゲノトリアジン化合物を用いて60℃〜95℃で処理し、水洗・乾燥した繊維を製織、製編した後、パーフルオロアクリレートの調合液でパッド・ドライし、更に、140℃〜190℃でキュアリングして繊維を疎水化する(撥水性を付与する)製法(特許文献5)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−31852号公報
【特許文献2】特公平07−26335号公報
【特許文献3】特許第3307148号公報
【特許文献4】特許第4213182号公報
【特許文献5】特開2007-84987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、上述した従来の製造・加工方法は、一般的に布帛を対象に行われる方法であるが、セーター、その他のニット製品のような編物製品は、製品にした段階で上述した方法で撥水加工処理すると型崩れ等の品質問題が発生し易い上に、非常に撥水加工の生産効率が低下するという問題があり、そのため、製品となる前、即ち、獣毛糸の段階で形態安定加工処理や撥水加工処理を施してから流通されることが切望されていたが、この獣毛糸自体に形態安定加工処理や撥水処理加工することは、獣毛糸の強度や伸度を低下させ、糸切れが起こり易くなる原因となってしまうこと、編み立て性や風合いの悪化を招くことから、従来敬遠されていた。
【0008】
言い換えると、従来の獣毛糸の形態安定加工方法や撥水加工方法では、ニッティング性と同時に撥水性も維持しながら糸を製造・加工することは非常に難しく、例えば、羊毛糸を巻き直したり、製織・製編する時の摩擦による撥水性の劣化、高熱処理による糸の硬化(風合いの劣化)、ニッティング中の糸切れ問題等により実現出来ていなかった。
【0009】
即ち、従来の製造・加工方法では、糸の強度、風合い、撥水性の耐久性、形態安定性の耐久性など品質面で問題を多く抱えており、また、排水負荷などの環境問題、高価な設備、複雑な工程など加工工程上の諸問題があったり、また更に、加工コストなど経済的な問題もあったりするなど様々な問題を抱えることで、これら従来の加工方法に対して改良が望まれているのが現状である。
【0010】
そこで、本発明は上記のような獣毛糸の品質やコストに掛かる問題を解決し、獣毛糸が持つ独特な風合いを維持しつつ、洗濯耐久性に優れた撥水性と形態安定性並びに強伸度とを兼ね備えた実用性に優れた画期的なウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0012】
羊毛、カシミア毛、ラクダ毛、アルパカ毛などの獣毛からなる獣毛糸に、第一処理工程として、ジクロロトリアジン系架橋剤及びポリハロゲノピリミジン系架橋剤のいずれか若しくは双方を用いて架橋処理を施し、この架橋処理を施した前記獣毛糸に、第二処理工程として、フッ素系撥水加工剤と撥水加工助剤とを用いて吸尽処理を施し、この吸尽処理を施した前記獣毛糸に、第三処理工程として、乾式若しくは湿式の熱処理を施すことを特徴とするウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法に係るものである。
【0013】
また、前記第一処理工程は、前記ジクロロトリアジン系架橋剤として、塩化シアヌルを加水分解若しくはアミン類と反応させて得た水溶性のジクロルトリアジン系化合物の単体若しくは混合物を用いることを特徴とする請求項1記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法に係るものである。
【0014】
また、前記第一処理工程は、前記ポリハロゲノピリミジン系架橋剤として、2,4,6−トリクロロピリミジン、4,5,6−トリクロロピリミジン、2,6−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロピリミジン、5−シアノ−2,4,6−トリクロロピリミジン、2−アミノ−4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロ−5−メトキシピリミジン、6−メチル−2,4−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロ−2−メチルチオピリミジン、2−エトキシ−4,6−ジクロロピリミジン及びジフルオロモノクロロピリミジンからなる群の中の少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法に係るものである。
【0015】
また、前記第二処理工程は、前記フッ素系撥水加工剤として、フルオロアルキル基を有するアクリレート若しくはメタクリレートからなるフルオロアルキル(メタ)アクリレートと、このフルオロアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なフッ素を含まない単量体とを併用し、20℃〜70℃の温度範囲で、5分〜90分間、浸染法に準じた前記吸尽処理を施して、前記第一処理工程を施した獣毛糸に前記フッ素系撥水加工剤を吸着させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法に係るものである。
【0016】
また、前記第三処理工程は、前記熱処理として、130℃〜190℃で1分〜10分間の乾式熱処理、若しくは80℃〜130℃で10分〜30分間のスチーミングによる湿式熱処理を施して、獣毛糸に吸着させた前記フッ素系撥水加工剤を固着させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のようにしたから、獣毛糸の有する風合いと強伸度を維持しつつ、この獣毛糸に洗濯耐久性の優れた形態安定性と撥水性を付与することができる実用性に優れたウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法となる。
【0018】
即ち、本発明の製造方法で製造した獣毛糸は、水系洗濯での撥水性の耐久性、収縮性が向上し、更に、抗ピリング性も向上し、編み立て時に糸切れが生じない実用性に優れた獣毛糸を製造することができる画期的なウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法となる。
【0019】
また、従来、乾式熱処理を用いてキュアリングする方法では生産性が低く、生産量の増加に対応できるかどうかが懸念されていたが、この乾式熱処理の代わりに湿式熱処理を採用することで、同等の品質を得ることができると同時に、熱処理工程の生産性を従来よりも10倍程度向上させることができる生産性に優れた画期的なウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の性能比較試験結果を示す表である。
【図2】実施例2の性能比較試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0022】
本発明は、本発明は、第一処理工程としてのジクロロトリジン系架橋剤及びポリハロゲノピリミジン系架橋剤のいずれか若しくは双方を用いた架橋処理によって、獣毛糸に風合いを維持・改良する形態安定加工処理が施されると共に、第二処理工程以降の加工効果を複合的且つ相乗的に発揮させるための架橋反応及び置換基付与反応が行われ、次いで、第二処理工程としてのフッ素系撥水加工剤と撥水加工助剤とを用いた吸尽処理によって、第一処理工程にてウォッシャブル性を付与された獣毛糸に、撥水加工薬剤類を吸着させ、次いで、第三処理工程としての乾式若しくは湿式の熱処理によって、超撥水加工と呼ぶに相応しい撥水加工が施され、この三つの処理工程による複合的相乗効果によって、良好な風合いと強伸度、洗濯耐久性の優れた形態安定性並びに撥水性・防汚性を兼ね備えた高品質な獣毛糸を製造・加工することができる実用性に優れた画期的なウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法となる。
【実施例1】
【0023】
本発明の具体的な実施例1について説明する。
【0024】
本実施例は、獣毛糸、具体的には羊毛糸に、第一処理工程として、特定の架橋剤で架橋処理して風合いを維持若しくは改良する形態安定加工を行うと共に、次処理の第二処理工程以降の加工効果を複合的相乗効果として付与するための架橋及び置換基付与反応を行い、次いで、第二処理工程として、この架橋剤によってウォッシャブル性を付与された羊毛糸に対してフッ素系撥水加工剤と撥水加工助剤とを用いた吸尽処理を行い、次いで、第三処理工程として、乾式若しくは湿式の熱処理を行うことで、羊毛糸が有する風合いと強伸度を維持しつつ、この羊毛糸に洗濯耐久性のある形態安定性と撥水性を付与するウォッシャブル性及び撥水性を有する羊毛含有繊維材料の製造方法である。
【0025】
尚、本実施例に用いられる羊毛は、羊毛表面のスケール(キューティクルまたはクチクルともいう)と呼ばれるウロコ状の突起を削り取って平坦化することによって、羊毛特有の摩擦係数の異方向性を減少させるオフスケールが施されて表面改質されたものである。
【0026】
本実施例の第一処理工程は、特定の架橋剤としてジクロロトリジン系架橋剤及びポリハロゲノピリミジン系架橋剤のいずれか若しくは双方を用い、パッド・ドライ・スチーミング法(ドライ工程は省略可能)を用いた架橋処理を行うウォッシャブル加工工程である。
【0027】
具体的には、上記架橋剤を1%owf〜20%owf使用し、重炭酸ソーダ(炭酸水素ナトリウム)、ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)、炭酸カリウム、ケイ酸ソーダ(ケイ酸ナトリウム)などの酸結合剤を、架橋反応と共に発生する塩酸のモル数を20%〜100%上回る量を加えて、チーズ染色機やカセ染色機などの糸に適用可能な加工装置を用いて80℃〜130℃で10分〜60分程度、保温・循環することで架橋反応及び新置換基導入反応を生じさせる架橋処理を行う。
【0028】
この架橋処理によって、羊毛糸にウォッシャブル性を付与すると共に、トリアジン環に結合した水酸基やスルホン基、若しくはピリミジン環が導入されることとなり、この羊毛糸に新たに導入された水酸基やスルホン基、或いはピリミジン環は、この羊毛糸上の新たな置換基として第二処理工程以降における加工効果に複合的相乗効果をもたらす働きをするものとなる。
【0029】
また、この第一処理工程で用いるジクロルトリアジン系架橋剤は、塩化シアヌルを原料として、これを加水分解若しくはアミン類と反応させて得た水溶性のジクロルトリアジン系化合物の単体若しくは混合物であり、具体的には以下に示す化合物の単体或いは混合物を例として挙げることができる。
【0030】
2,6−ジクロル−4−ヒドロキシ−S−トリアジン及びそのNa塩,K塩,Li塩,Mg塩,Ca塩などの塩類、2,6−ジクロル−4−(6,8−ジスルホナフタレン−2−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(5,7−ジスルホナフタレン−2−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3,6,8−トリスルホナフタレン−1−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(8−オキシ−6−スルホナフタレン−2−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(5−ヒドロキシ−7−スルホナフタレン−2−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(2,4−ジスルホアニリノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(2−スルホアニリノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(2,5−ジスルホアニリノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3,5−ジスルホアニリノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3−スルホ−4−オキシ−5−カルボキシアニリノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3,6−ジスルホ−8−オキシナフタレン−1−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(4,8−ジスルホナフタレン−2−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(2−スルホニルエチルアミノ)−S−トリアジン
【0031】
尚、ジクロルトリアジン系化合物は、上記したジクロルトリアジン系化合物以外にも数多くの有効な化合物が考えられ、本実施例はこれらの具体例に制約されるものではなく、上記ジクロルトリアジン系化合物と同等の効果を発揮するものであれば適宜採用し得るものとする。
【0032】
また、ポリハロゲノピリミジン系架橋剤としては、具体的には、2,4,6−トリクロロピリミジン、4,5,6−トリクロロピリミジン、2,6−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロピリミジン、5−シアノ−2,4,6−トリクロロピリミジン、2−アミノ−4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロ−5−メトキシピリミジン、6−メチル−2,4−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロ−2−メチルチオピリミジン、2−エトキシ−4,6−ジクロロピリミジン、ジフルオロモノクロロピリミジンが例として挙げられ、これらのポリハロゲノピリミジン系架橋剤は、これらの中から1つだけ選択し使用しても良く、また、これらの中から複数選択し混合して使用しても良い。
【0033】
また、上記したジクロルトリアジン系架橋剤、ポリハロゲノピリミジン系架橋剤には、それぞれ長所、短所があり、ジクロルトリアジン系架橋剤は、水溶性のため化合物の安定性に若干の問題があり、5℃以上で保管すると加水分解を起こしてしまうので、保管においては温度管理とpH8〜8.5の弱アルカリ性に管理するpH管理が必須であり、特に長期保存をする場合には、冷凍保存が必要となる。
【0034】
また、ポリハロゲノピリミジン系架橋剤は、室温で安定な油性の化合物であり架橋効果が強いが、皮膚に付着すると皮膚障害を起こす危険性を有するものであるため、使用時の取り扱いに十分な注意が必要であり、保護具の着用は必須である。勿論、このポリハロゲノピリミジン系架橋剤は、架橋反応処理中に羊毛と架橋反応するか、或いは加水分解を起こして水溶性となって無害化し、更に、ソーピングによって完全に洗浄除去されるので、羊毛含有繊維材料自体に架橋剤が残存することはなく、安全性に関しては全く問題ないものである。
【0035】
また、本実施例は、上述したように、スケールと呼ばれるウロコ状の突起を埋めて、この羊毛糸表面を平坦化することによって羊毛特有の摩擦係数の異方向性を減少させているが、一般的に、羊毛糸は、スケールによって一方向に収縮が起こるとされており、オフスケールした羊毛糸は、その点が若干改善されるものの、オフスケールに使用される薬剤は塩素系が主流であり、排水などにより環境負荷の増大という問題が指摘されている。
【0036】
本実施例は、環境問題、更にはコストアップなどの経済性も考慮し、非塩素系の酸化剤を用いた酸化法や酵素法によって、マイルドにオフスケールしたものにも採用できることを特徴としている。即ち、強酸化剤処理やプラズマ処理によって100%オフスケールしようとする場合は、厳密に加工条件を制御しないと羊毛のコルテックス部にまで影響が及び、羊毛糸に致命的なダメージ(脆化)をもたらす危険性が大きいというリスクがあるが、キューティクル部の60%〜90%を除去する程度のマイルドなオフスケールであれば、リスクも小さくオフスケールが容易に可能となる。
【0037】
このようなマイルドなオフスケールにすることによって、オフスケールの不足が生じるが、本実施例では、このオフスケールの不足を、第一処理工程の架橋剤による架橋反応によってもたらされる効果によって補うことができる。
【0038】
また、本実施例の第二処理工程及び第三処理工程は、第一処理工程を施した羊毛糸にフッ素系撥水加工剤を用いて撥水加工処理を行う工程である。
【0039】
具体的には、第二処理工程は、フッ素系撥水加工剤と撥水加工助剤とを用いた吸尽処理によって羊毛糸に撥水加工薬剤を吸着させる工程であり、より具体的には、フッ素系撥水加工剤の単独若しくは混合剤を2wt%〜15wt%濃度のエマルジョンとし、これに1wt%〜3wt%のブロックイソシアネートを触媒的に加えた吸尽液を作成し、この吸尽液とチーズ状若しくはカセ状の羊毛糸とを、チーズ染色機若しくはカセ染色機にセットし、20℃〜70℃の温度範囲で5分〜90分、好ましくは40℃〜60℃の温度範囲で10分〜30分、浸染法に準じた撥水剤の吸尽処理を施してフッ素系撥水加工剤を羊毛糸に吸着させる工程である。
【0040】
また、この第二処理工程において、フッ素系撥水加工剤を吸着させた羊毛は、後述する次工程の第三処理工程で乾式熱処理を行う場合は、セントルなどを用いて絞り率70%〜120%で絞った後、100℃〜120℃で乾燥処理を行い、また、湿式熱処理を行う場合は、乾燥せずに湿ったままの状態にしておく。
【0041】
また、この第二処理工程は、フッ素系撥水加工剤として、フルオロアルキル基を有するアクリレート若しくはメタクリレートからなるフルオロアルキル(メタ)アクリレートと、このフルオロアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なフッ素を含まない単量体とを併用している。
【0042】
このフルオロアルキル(メタ)アクリレートは、例えば、炭素数が2〜20のパーフルオロアルキル基を有するもので、より好ましくは、炭素数6〜16のものを用いると良く、具体的には、以下に示す化合物の単量体が挙げられる。
【0043】
CF(CFCHCHOCOCH=CH(n=5〜11)
CF(CFCHCHOCOC(CH)=CH
CF(CFCHCHOCOC(CH)=CH
(CFCF(CF(CHOCOCH=CH
(CFCF(CF10(CHOCOCH=CH
CF(CFSON(C)CHCHOCOCH=CH
CF(CFSON(CH)CHCHOCOC(CH)=CH
CF(CFSON(CH)CHCHOCOCH=CH
CF(CF(CHOCOCH=CH
CF(CFOCOCH=CH
CF(CFSON(C)(CHOCOCH=CH
CF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH
CF(CFCON(C)CHCHOCOC(CH)=CH
CF(CFCON(C)CHCHOCOCH=CH
【0044】
また、このパーフルオロアルキルアクリレートの具体例としては、アサヒガードGS−10(明成化学工業社製)、AG−7005(明成化学工業社製)、AG−E081(明成化学工業社製)、AG−1100(明成化学工業社製)などが挙げられる。
【0045】
また、洗濯耐久性を高める効果を発揮するブロックイソシアネートの具体例としては、メイカネートFM−1(明成化学工業社製)、メイカネートMF(明成化学工業社製)、メイカネートWEB(明成化学工業社製)などが挙げられる。
【0046】
また、第三処理工程は、上述した撥水剤を吸着させた羊毛糸に熱処理を施す工程であり、具体的には、乾式熱処理若しくは湿式熱処理のいずれかの熱処理を行う。
【0047】
乾式熱処理を行う場合は、上述したように第二処理工程において、セントルなどを用いて絞り率70%〜120%で絞った後、100℃〜120℃で乾燥処理を行った羊毛糸を用いて、130℃〜190℃で1分〜10分の乾式熱処理を行う。
【0048】
また、湿式熱処理を行う場合は、第二処理工程において、セントルなどを用いて絞り率70%〜120%で絞ったままの状態の羊毛糸と用いて、この羊毛糸を真空・加圧処理機(真空セット機)にセットし、真空状態にした後、スチームを通入して常圧若しくは加圧下で、80℃〜130℃で10分〜30分の湿式熱処理を行う。
【0049】
このように撥水剤を吸着させた羊毛糸に熱処理を施すことによって、フッ素系撥水加工剤を羊毛糸に強固に固着させることができる。
【0050】
上述のように、羊毛糸に、第一処理工程から第三処理工程を順次施すことによって、超撥水加工されると同時にウォッシャブル加工された風合いと強伸度の優れた羊毛糸を製造することができる。
【0051】
また、このように仕上げた羊毛糸は、製織性・製編性の向上した撥水機能が付与された羊毛糸となり、これを用いて編み立てすることで糸切れのトラブルが可及的に低減でき、また、防汚性に優れた編物の製造が容易に可能となり、しかも、第一処理工程における架橋反応及びオフスケールによって、イージーケア性が付与されるので、洗濯耐久性の優れた高レベルの超撥水性と、洗濯耐久性の優れた防縮性、抗ピリング性、及び良好な風合いと強伸度を兼ね備えた高品質な羊毛糸を製造することができるウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法となる。
【0052】
以下に、上述した本実施例をより具体的な条件を示して詳細に説明する。尚、本実施例では、第三処理工程において湿式熱処理を採用した場合を説明する。
【0053】
本実施例は、先ず、第一処理工程として、高圧チーズ染色機にバソラン加工(BASF社塩素系オフスケール)が施された羊毛糸(梳毛2/48)をセットし、20%owfの2,6−ジクロル−4−ヒドロキシ−S−トリアジンNa塩水溶液と、芒硝(硫酸ナトリウム・10水和物)15g/lと、重曹20g/lとを投入して、常温で5分間処理した後、20℃〜30℃の間を1℃/minの割合で昇温し、30℃〜60℃の間を5℃/minの割合で昇温し、60℃〜95℃の間を2℃/minの割合で昇温し、温度が95℃に達したら、この温度を保持しながら40分間、液を循環させながら処理する。
【0054】
その後、槽内の処理液を排水し、40℃の温水の中でソーピングを行い、次いで、1g/lのクエン酸水溶液で酸水洗して、第一処理工程を終了する。
【0055】
次いで、第二処理工程として、フッ素系撥水加工剤としてアサヒガードGS−10(明成化学工業社製)を50g/lと、イソシアネート系ブロック剤としてメイカネートFM−1(明成化学工業社製)を10g/lとを染色機に充填し、25℃で15分間循環した後、槽内温度を60℃まで昇温して20分間吸着処理を行う。
【0056】
この撥水剤の吸着処理終了後、ピックアップ約100%まで絞り、この絞ったままの湿った状態で次工程に進める。
【0057】
尚、この第二処理工程において、撥水剤液が浴比20:1の場合は、排水への廃棄量が増え、環境負荷増、コスト増などの悪影響が生じる。そのため、回収するための専用設備を設置し、規定回数、薬剤をリサイクル使用することが必須である。
【0058】
この撥水剤を吸着させた羊毛糸を熱処理する第三処理工程では、真空セット機を用いて、高圧下で、90℃〜110℃で20分間湿式熱処理を行った後、減圧下で乾燥する。
【0059】
このようにして得られた羊毛糸は、風合いが良好となり、編み立て時も糸切れが生じない良好な結果を得ることができた。
【0060】
上記に示した具体的な条件で製造した羊毛糸(梳毛糸)の優れた実用性、即ち、イージーケア性、防汚性が向上していることを実証するために、繊維の防汚性・防縮性・ピリング性を評価する性能比較試験を行った。
【0061】
また、上記試験に用いる本実施例の製造方法で製造した羊毛糸は、第三処理工程において湿式熱処理を施したものを用い、比較対象となる羊毛糸は、本実施例の処理を施していない未加工の羊毛糸を用いた。
【0062】
性能比較試験の結果は、図1に示すように、撥水性(この撥水性試験に関しては、比較対象の未加工品は初期撥水試験のみとした)、ピリング性、SR性(汚れ除去性)の全ての項目において、未加工品よりも優れた値を示す良好な結果が得られた(図1中の数値は等級を表し、この等級は1級〜5級に区分され、評価結果が優れているものほど数値が大きくなり、本試験では5級が最上等級となる。)。
【0063】
即ち、本実施例に示した製造方法で製造した羊毛糸は、水系洗濯での撥水性の耐久性、収縮性が向上し、更に抗ピリング性も向上した実用性に優れた画期的な羊毛糸となることが証明されたので、本実施例に示す獣毛糸の製造方法は、洗濯耐久性の優れた高レベルの超撥水性と、洗濯耐久性の優れた防縮性、抗ピリング性、及び良好な風合いと強伸度を兼ね備えた高品質な獣毛糸を製造することができるウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法となることが証明された。
【0064】
また、従来、乾式熱処理を用いてキュアリングする方法では、高品質なものが得られる半面、生産性が低く、生産量の増加に対応できるかどうかが懸念されていたが、本実施例に示すように、乾式熱処理の代わりに湿式熱処理を採用しても、極めて良好な品質の高い羊毛糸に仕上げ得ることができ、この湿式熱処理を採用することで、熱処理工程の生産性を従来よりも10倍程度向上させることができる生産性に優れた画期的なウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法となる。
【実施例2】
【0065】
本発明の具体的な実施例2について説明する。
【0066】
本実施例は、先ず、第一処理工程として、高圧チーズ染色機にバソラン加工(BASF社塩素系オフスケール)が施された羊毛糸(梳毛2/30)をセットし、20%owfの2,6−ジクロル−4−ヒドロキシ−S−トリアジンNa塩の20wt%水溶液と、芒硝(硫酸ナトリウム・10水和物)15g/lと、重曹20g/lとを投入して、常温で5分間処理した後、20℃〜30℃の間を1℃/minの割合で昇温し、30℃〜60℃の間を5℃/minの割合で昇温し、60℃〜95℃の間を2℃/minの割合で昇温し、温度が95℃に達したら、この温度を保持しながら40分間、液を循環させながら処理する。
【0067】
その後、槽内の処理液を排水し、40℃の温水の中でソーピングを行い、次いで、1g/lのクエン酸水溶液で酸水洗して、第一処理工程を終了する。
【0068】
次いで、第二処理工程として、フッ素系撥水加工剤としてアサヒガードGS−10(明成化学工業社製)を50g/lと、イソシアネート系ブロック剤としてメイカネートFM−1(明成化学工業社製)を10g/lとを染色機に充填し、常温で10分間循環した後、槽内温度を50℃まで昇温して20分間循環させてフッ素系撥水財及びイソシアネート系ブロック剤を吸着及び准反応させる。
【0069】
この吸着及び准反応終了後、槽内から取り出し絞り、この絞った羊毛糸をカセ乾燥機にセットし、90℃〜100℃で熱処理し乾燥させる。
【0070】
次いで、キュアリング工程としての第三処理工程に進め、巻き上げ工程の仕上げ機を用いて180℃で5分間、乾式熱処理を行い、羊毛糸にキュアリングを行う。
【0071】
このようにして得られた羊毛糸は、風合いが良好となり、編み立て時も糸切れが生じない良好な結果を得ることができた。
【0072】
上記に示した具体的な条件で製造した羊毛糸(梳毛糸)の優れた実用性、即ち、イージーケア性、防汚性が向上していることを実証するために、繊維の防汚性・防縮性・ピリング性を評価する性能比較試験を行った。
【0073】
尚、性能比較試験は、実施例1と同様の試験方法で行った。
【0074】
性能比較試験の結果は、図2に示すように、撥水性(この撥水性試験に関しては、比較対象の未加工品は初期撥水試験のみとした)、ピリング性、SR性(汚れ除去性)の全ての項目において、実施例1同様とほぼ同等の結果が得られ、未加工品よりも優れた値を示す良好な結果が得られた。
【実施例3】
【0075】
本発明の具体的な実施例3について説明する。
【0076】
本実施例は、先ず、第一処理工程として、容量12Lのチーズ染色機に12Lの水を仕込み、バソラン加工(BASF社、塩素系オフスケール)が施された羊毛のチーズ巻き糸(梳毛2/48)を1kgセットする。
【0077】
次いで、液を循環させながら、脱気剤としてALBEGAL FFA−01(CIBA社製)を3%owf、均染剤としてALBEGAL B(CIBA社製)を1%owf、無水芒硝を80g/l仕込む。
【0078】
更に、乳化剤ペレテックスN(ミヨシ油脂社製)2%owfを水100g中に溶解させ、その中に2,4,6−トリクロロピリミジン2%owfを加えて乳化したものをチーズ染色機に仕込む。
【0079】
更に、ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)2%owfを加えて、常温にて5分間処理した後、1.5℃/minの昇温レートで90℃まで昇温し、90℃で30分間保温、循環処理を行い、次いで、70℃まで温度を下げ、pHスライド剤としてSandacid V Liquid(Clarian社製)を5g/l加えて100℃に昇温し30分間保温した後、槽内の処理液を排水して水洗処理を行い、60℃の温水でソーピングを実施し、更に、1g/lのクエン酸水溶液で酸水洗し、この酸水洗後、排水、水洗して、第一処理工程が終了する。
【0080】
次いで、第二処理工程として、撥水剤としてアサヒガードGS−10(明成化学工業社製)を50g/l、イソシアネート系ブロック剤としてメイカネートFM−1(明成化学工業社製)を10g/lとをチーズ染色機に充填し、25℃で15分間循環した後、槽内温度を60℃まで昇温して20分間循環させてフッ素系撥水財及びイソシアネート系ブロック剤を吸着及び准反応させ、その後、ピックアップ約100%まで絞り、第二処理工程が終了する。
【0081】
次いで、第三処理工程として、湿式熱処理を行う。この湿式熱処理は、真空セット機を用いて、この真空セット機に第二処理工程まで施した羊毛糸をセットし、先ず、真空状態にして20分間保持した後、スチームでブレイクしてから高圧下で、100℃〜110℃で20分間湿式熱処理を行い、その後、減圧乾燥し、第三処理工程が終了し、全ての処理が終了する。
【0082】
本実施例で得られた羊毛糸に対して、実施例1と同様の撥水性、抗ピリング性、SR性を評価する試験を行った結果、実施例1及び実施例2で得られた羊毛糸とほぼ同等の評価結果が得られた。
【0083】
尚、実施例1〜3では、獣毛糸として羊毛糸を用いているが、実施例1〜3は羊毛糸に限った製造方法ではなく、羊毛糸以外に、カシミア毛、ラクダ毛、アルパカ毛などを含有する獣毛糸を用いた場合も、同様の効果を発揮し得るものである。
【0084】
また、本発明は、実施例1〜3に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
羊毛、カシミア毛、ラクダ毛、アルパカ毛などの獣毛からなる獣毛糸に、第一処理工程として、ジクロロトリアジン系架橋剤及びポリハロゲノピリミジン系架橋剤のいずれか若しくは双方を用いて架橋処理を施し、この架橋処理を施した前記獣毛糸に、第二処理工程として、フッ素系撥水加工剤と撥水加工助剤とを用いて吸尽処理を施し、この吸尽処理を施した前記獣毛糸に、第三処理工程として、乾式若しくは湿式の熱処理を施すことを特徴とするウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法。
【請求項2】
前記第一処理工程は、前記ジクロロトリアジン系架橋剤として、塩化シアヌルを加水分解若しくはアミン類と反応させて得た水溶性のジクロルトリアジン系化合物の単体若しくは混合物を用いることを特徴とする請求項1記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法。
【請求項3】
前記第一処理工程は、前記ポリハロゲノピリミジン系架橋剤として、2,4,6−トリクロロピリミジン、4,5,6−トリクロロピリミジン、2,6−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロピリミジン、5−シアノ−2,4,6−トリクロロピリミジン、2−アミノ−4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロ−5−メトキシピリミジン、6−メチル−2,4−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロ−2−メチルチオピリミジン、2−エトキシ−4,6−ジクロロピリミジン及びジフルオロモノクロロピリミジンからなる群の中の少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法。
【請求項4】
前記第二処理工程は、前記フッ素系撥水加工剤として、フルオロアルキル基を有するアクリレート若しくはメタクリレートからなるフルオロアルキル(メタ)アクリレートと、このフルオロアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なフッ素を含まない単量体とを併用し、20℃〜70℃の温度範囲で、5分〜90分間、浸染法に準じた前記吸尽処理を施して、前記第一処理工程を施した獣毛糸に前記フッ素系撥水加工剤を吸着させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法。
【請求項5】
前記第三処理工程は、前記熱処理として、130℃〜190℃で1分〜10分間の乾式熱処理、若しくは80℃〜130℃で10分〜30分間のスチーミングによる湿式熱処理を施して、獣毛糸に吸着させた前記フッ素系撥水加工剤を固着させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153996(P2012−153996A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13239(P2011−13239)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(500147805)株式会社 きものブレイン (13)
【Fターム(参考)】