説明

ウォームホイールおよびこれを備える電動パワーステアリング装置

【課題】小型でコスト安価であり、且つ耐久性に優れたウォームホイールを提供する。
【解決手段】ウォームホイール21の歯面23は、主歯面26と、延設歯面27と、を含む。主歯面26は、ウォームホイール21のピッチ円C1の半径r1よりも、ウォームホイール21のモジュールmに所定の係数αを乗じた値分大きい半径r2を有する基準円C2の内側に配置されている。延設歯面27は、主歯面26から基準円C2の外側に延び主歯面26の延長面P1に対して歯部24の内側に傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームホイールと、これを備える電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置の電動モータの出力を伝達する減速機として、ウォーム減速機構が知られている。ウォーム減速機構は、螺旋状の金属歯を有するウォーム軸と、このウォーム軸に噛み合うウォームホイールとを含んでいる。ウォームホイールの歯部は、例えば、合成樹脂製である(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−334724号公報
【特許文献2】特開2007−255524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電動パワーステアリング装置の高出力化に伴い、減速機構が大型化しており、車両へのレイアウトが非常に厳しくなってきている。ウォームホイールとして樹脂を用いた場合、強度を満足するためにウォームホイールが大型になる傾向にある。また、高出力に耐え得る樹脂は高価であり、製造コストが高くなる。
一方、ウォームホイールを金属等の硬質の材料で成形した場合、ウォームホイールを大型にすることなく、ウォームホイールの強度を満足し得る。しかしながら、ウォームホイールの歯とウォーム軸の歯の両方が金属であると、両方の歯がエッジ当たりを起こすおそれがある。エッジ当たりは、ウォームホイールの歯先の角部にウォーム軸の歯が局所的に接触する現象である。エッジ当たりが生じると、ウォームホイールの歯先に大きな圧力(面圧)が生じてしまうので、ウォームホイールの耐久性の向上の観点からは、好ましくない。
【0005】
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、小型でコスト安価であり、且つ耐久性に優れたウォームホイール、およびこれを備える電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、ウォーム軸(20)に噛み合うための歯面(23)が形成された歯部(24)を有するウォームホイール(21)において、前記歯面は、前記ウォームホイールのピッチ円(C1)の半径(r1)よりも、前記ウォームホイールのモジュール(m)に所定の係数(α)を乗じた値分大きい半径(r2)を有する基準円(C2)の内側に配置された主歯面(26;26A)と、前記主歯面から前記基準円の外側に延び前記主歯面の延長面(P1)に対して前記歯部の内側に傾斜した延設歯面(27;27A)と、を含むことを特徴とする(請求項1)。
【0007】
通常、ウォームホイールの歯先円の半径は、ウォームホイールのモジュールに所定の係数(例えば、低歯であれば0.8,並歯であれば1.0)を乗じた値をピッチ円の半径に加算した値となる。したがって、通常、ウォームホイールの歯面は、上記の歯先円に対してウォームホイールの径方向内側に位置している。
これに対し、本発明のウォームホイールの延設歯面は、上記歯先円に相当する基準円よりもウォームホイールの径方向の外側に延びている。これにより、ウォーム軸の歯面がウォームホイールの歯面に噛み合うとき、ウォーム軸の歯面は、主に主歯面に接触しつつ、延設歯面にも接触することができる。これにより、ウォーム軸の歯面とウォームホイールの歯面との接触面積を増すことができる。また、ウォーム軸の歯面がウォームホイールの歯面の先端に局所的に接触することを抑制できる。その結果、ウォームホイールの歯先の一部が局所的にウォーム軸の歯面に接触するエッジ当たりを抑制できる。よって、ウォームホイールの歯面に作用する圧力のピークを低くできる。その結果、ウォームホイールの負荷の偏りの抑制を通じてウォームホイールの耐久性をより向上できる。さらに、延設歯面は、主歯面に対して歯部の内側に傾斜しているので、延設歯面とウォーム軸の歯面との間に潤滑剤が入り込むことができる。この潤滑剤により、ウォームホイールの歯面の摩耗を抑制できるので、ウォームホイールの耐久性をより向上できる。しかも、ウォーム軸の歯部との接触面積を増すために、ウォームホイールの歯部を合成樹脂等の高価な弾性部材で形成する必要がない。これにより、コスト安価な金属材料を用いることができる。また、ウォームホイールの材料を合成樹脂にしなければならないという制限がないので、金属材料等の高強度材料を用いることができる。よって、ウォームホイールの歯を小さくでき、これにより、ウォームホイールの小型化を達成できる。
【0008】
また、本発明において、前記延設歯面は、前記主歯面に滑らかに連続する曲面に形成されている場合がある(請求項2)。
この場合、ウォーム軸の歯面と延設歯面との接触を、より滑らかにできる。これにより、ウォームホイールの歯面の損傷を小さくできる。よって、ウォームホイールの耐久性をより向上できる。
【0009】
また、本発明において、前記歯面は、前記主歯面および前記延設歯面に設けられたウォームホイール歯形形状部(29)を含む場合がある(請求項3)。
この場合、ウォーム軸の歯面との噛み合いに極めて適した形状を有するウォームホイール歯形形状部を設けることにより、ウォームホイールの歯面とウォーム軸の歯面との接触面積を確実に大きくできる。これにより、ウォームホイールの歯面に作用する面圧のピークを確実に低減できるので、ウォームホイールの耐久性を、より確実に向上できる。
【0010】
また、本発明において、前記ウォームホイール歯形形状部は、鍛造によって形成される場合がある(請求項4)。
この場合、樹脂材料等と比べて高強度な金属材料を鍛造することにより、ウォームホイールの歯面を形成することができる。これにより、ウォームホイールの耐久性をより向上できる。さらに、鍛造でウォームホイール歯形形状部を形成することにより、ホブカッタでウォームホイール歯形形状部を形成する場合と比べて、歯面の形状の自由度を高くできる。よって、延設歯面を有するウォームホイールに、ウォームホイール歯形形状部を容易に形成できる。その結果、ウォームホイールを、よりコスト安価に製造できる。
【0011】
なお、ウォームホイールの歯部全体を、鍛造成形してもよい。
また、本発明において、前記ウォームホイール歯形形状部は、前記歯部の歯すじ方向(D1)に関して前記歯面の中間部に配置されており、前記歯部の歯先面(33)は、前記ウォームホイール歯形形状部から前記歯すじ方向の外側に遠ざかるに従い前記ウォームホイールの径方向内方に進むように傾斜している場合がある(請求項5)。
【0012】
この場合、歯すじ方向に関する歯先面の両端部を、面取りまたはクラウニング加工された傾斜状とすることができる。これにより、ウォームホイールをウォーム軸に組み付けるとき等に上記歯先面の両端部がウォーム軸等に接触しても、ウォームホイールの歯部が欠けることを抑制できる。また、上記歯先面の両端部を傾斜状にすることにより、ウォームホイールの歯先面の両端部から歯面に向けて潤滑剤を導き易くされている。これにより、ウォームホイールの歯面がウォーム軸の歯面と噛み合って摩耗することをより確実に抑制できるので、ウォームホイールの耐久性をより向上できる。
【0013】
また、本発明において、前記所定の係数は、0.8または1.0である場合がある(請求項6)。
この場合、所定の係数を0.8とすることにより、歯末のたけが並歯よりも短い低歯としてウォームホイールの歯部を用いることができる。また、所定の係数を1.0とすることにより、歯末のたけがモジュールの値と等しい並歯としてウォームホイールの歯部を用いることができる。
【0014】
また、本発明は、電動モータ(18)と、前記電動モータによって駆動されるウォーム軸(20)と、前記ウォーム軸に噛み合う前記ウォームホイールと、を備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置(1)を提供する(請求項7)。
この場合、耐久性に優れ、小型で、且つコスト安価な電動パワーステアリング装置を実現できる。
【0015】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態のウォームホイールを含む電動パワーステアリング装置の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るウォームホイールの概略斜視図である。
【図3】歯部周辺の斜視図である。
【図4】歯部の断面図であり、ウォームホイールの軸方向から見た状態を示す。
【図5】ウォームホイールの歯部周辺の一部断面図であり、ウォームホイールの周方向から見た状態を示している。
【図6】ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合い動作について説明するための主要部の断面図である。
【図7】ウォームホイールの製造方法を説明するための主要部の側面図である。
【図8】本実施形態のウォームホイールと従来のウォームホイールとを対比するための側面図である。
【図9】本発明の別の実施形態の主要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は本発明の一実施形態のウォームホイールを含む電動パワーステアリング装置の模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、操舵部材としてのステアリングホイール2と、ステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を操舵する操舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と操舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0018】
本実施形態では、操舵補助機構5がステアリングシャフト6にアシスト力(操舵補助力)を与える例に則して説明する。しかしながら、本発明は、操舵補助機構5から後述するピニオン軸13にアシスト力が与えられる構造に適用することも可能である。
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。
【0019】
ステアリングシャフト6の周囲に配置されたトルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に入力された操舵トルクを検出する。トルクセンサ11のトルク検出結果は、操舵補助のためのモータ制御装置としてのECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)12に入力される。また、車速センサ90からの車速検出結果がECU12に入力される。中間軸7は、ステアリングシャフト6と操舵機構4とを連結している。
【0020】
操舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示せず)を介して転舵輪3が連結されている。
ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端(図1では下端)には、ピニオン16が設けられている。
【0021】
ラック軸14は、自動車の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の途中部には、上記ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に
変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることで、転舵輪3を転舵することができる。
【0022】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助用の電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを操舵機構4に伝達するための伝達機構としての減速機構19とを含む。減速機構19は、駆動ギヤとしてのウォーム20と、このウォーム20と噛み合うウォームホイール21とを含む。減速機構19は、ギヤハウジング22内に収容されている。
【0023】
ウォーム20は、図示しない継手を介して電動モータ18の回転軸(図示せず)に連結されている。ウォーム20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、ステアリングシャフト6に一体回転可能に連結されている。
電動モータ18がウォーム20を回転駆動すると、ウォーム20によってウォームホイール21が回転駆動され、ウォームホイール21およびステアリングシャフト6が一体回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォーム20を回転駆動することで、転舵輪3が転舵されるようになっている。
【0024】
電動モータ18は、三相ブラシレスモータからなり、モータ制御装置としてのECU12によって制御される。ECU12は、トルクセンサ11からのトルク検出結果、車速センサ90からの車速検出結果等に基づいて電動モータ18を制御する。具体的には、ECU12では、トルクと目標アシスト量との関係を車速毎に記憶したマップを用いて目標アシスト量を決定し、電動モータ18の発生するアシスト力を目標アシスト量に近づけるように制御する。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態に係るウォームホイール21の概略斜視図である。ウォームホイール21は、金属製であり、歯面23の少なくとも一部は、鍛造により形成されている。本実施形態では、歯面23を含む歯部24の全体が鍛造によって形成されている。ウォームホイール21は、所定のモジュールm(例えば、2.0)を有している。ウォームホイール21は、中心孔21aを有している。ウォームホイール21は、その外周21bに、進み角A1を有する多数の歯部24を有している。歯部24は、ウォームホイール21の軸方向X1に関して、ウォームホイール21の全域に形成されている。ウォームホイール21は、隣接する歯部24,24間に形成された歯溝25を有している。
【0026】
図3は、歯部24,24周辺の斜視図である。ウォームホイール21の各歯部24は、互いに対向する一対の歯面23,23を有している。各歯面23,23は、互いに同様の形状に形成されている。歯面23は、主歯面26と、延設歯面27と、を含んでいる。また、歯面23は、はすば歯形形状部28と、ウォームホイール歯形形状部29と、を含んでいる。
【0027】
図4は、歯部24の断面図であり、ウォームホイール21の軸方向X1から見た状態を示している。以下、図4を参照して説明するときは、ウォームホイール21を軸方向X1から見た状態を基準に説明する。
主歯面26は、歯面23のうち、ウォーム軸20と最も広い面で噛み合う面である。主歯面26は、ウォームホイール21のピッチ円C1と交差している。主歯面26は、ウォームホイール21の歯溝25に連続しており、歯溝25からウォームホイール21の径方向R1の外方に向けて延びている。主歯面26の先端26aは、基準円C2上に配置されている。基準円C2は、ピッチ円C1と同心である。基準円C2の半径r2は、モジュールmに所定の係数αを乗じた値を、ピッチ円C1の半径r1に加算した値{r2=r1+(α×m)}とされている。
【0028】
基準円C2は、延設歯面27が設けられていない従来のウォームホイールの歯先円に相当する。すなわち、基準円C2は、ウォームホイール21のモジュールmと同じモジュールを有し、且つ上記所定の係数αと同じ係数を有する歯部をホブで切削加工したときの歯部の歯先円に合致する。
所定の係数αは、例えば、0.6〜1.2に設定される。所定の係数αが0.6未満であると、歯部24の歯末のたけhkが短くなりすぎてしまい、所定の係数αが1.2より大きいと、歯末のたけhkが長くなり過ぎてしまう。
【0029】
本実施形態では、所定の係数αは0.8に設定されており、歯部24は、低歯として設けられている。なお、所定の係数αを1.0とすることにより、歯部24を並歯として設けてもよい。所定の係数αが1.0未満のときは、歯部24は、低歯となり、所定の係数αが1.0を超えるときは、歯部24は高歯となる。
上記の構成により、主歯面26は、径方向R1に関して、基準円C2と、歯溝25との間に配置された湾曲面とされている。
【0030】
延設歯面27は、主歯面26と協働してウォーム軸20に噛み合うように構成されている。延設歯面27は、主歯面26に滑らかに連続しており、主歯面26から径方向R1の外方に向けて延びている。延設歯面27は、曲面となっている。延設歯面27は、基準円C2に対して径方向R1の外方に配置されている。延設歯面27は、主歯面26を延長した仮想の延長面P1に対して、歯部24の内側(ウォームホイール21の周方向Y1の内側に傾斜して延びている。すなわち、延設歯面27は、延長面P1から退避するように延びている。
【0031】
延設歯面27の先端27aは、歯部24の先端である。延設歯面27の先端27aを通る円としての歯先円C3は、ピッチ円C1と同軸に配置されている。歯先円C3の半径r3は、例えば、基準円C2の半径r2よりも、モジュールmの数%から数十%分大きい。
図3および図4を参照して、はすば歯形形状部28は、はすば歯車の歯面の形状に合致する形状に形成されている。はすば歯形形状部28の断面形状は、例えば、インボリュート曲線形状とされている。はすば歯形形状部28は、主歯面26のうち、後述する第1部分31が設けられている部分以外の部分に設けられている。なお、はすば歯形形状部28は、後述する第2部分32にも設けられていてもよい。
【0032】
ウォームホイール歯形形状部29は、ウォーム軸20と接触する歯当たり領域に設けられている。ウォームホイール歯形形状部29は、ウォーム軸の螺旋状の歯部を模した刃部を有するホブカッタ(図示せず)で切削加工を施してなるウォームホイールの歯部の歯面の形状に合致する形状に形成されている。このホブカッタの刃部は、ウォーム軸の歯部の断面形状と同じ断面形状(包絡線形状)を有している。
【0033】
ウォームホイール歯形形状部29は、歯すじ方向D1に関する歯面23の中間部に配置されている。ウォームホイール歯形形状部29の外周縁部の形状は、劣弧形状と、この劣弧の両端を繋ぐ弦形状とによって形成されている。ウォームホイール歯形形状部29は、主歯面26に形成された第1部分31と、延設歯面27に形成された第2部分32と、を含んでいる。
【0034】
第1部分31は、主歯面26のはすば歯形形状部28に対して僅かに窪んでいる。第1部分31は、第1部分31の歯すじ方向D1の端部から中央に向かうに従い径方向R1の幅(歯たけ方向の幅)が広くなっている。
第2部分32は、第1部分31と滑らかに連続している。第2部分32は、径方向R1の長さが略一定とされている。
【0035】
図5は、ウォームホイール21の歯部24周辺の一部断面図であり、歯部24をウォームホイール21の周方向Y1から見た状態を示している。以下、図5を参照して説明するときは、ウォームホイール21を周方向Y1から見た状態を基準に説明する。歯部24の歯先面33のうち、歯すじ方向D1に関する両端部33a,33bは、湾曲状に形成されている。換言すれば、歯先面33の両端部33a,33bは、中間部33cに対して傾斜している。
【0036】
具体的には、歯先面33の一端部33aは、ウォームホイール歯形形状部29に対して歯すじ方向D1の外側に配置されている。一端部33aは、歯すじ方向D1に沿ってウォームホイール歯形形状部29から遠ざかるに従い、径方向R1の内方に進むように傾斜している。
同様に、歯先面33の他端部33bは、ウォームホイール歯形形状部29に対して歯すじ方向D1の外側に配置されている。他端部33bは、歯すじ方向D1に沿ってウォームホイール歯形形状部29から遠ざかるに従い、径方向R1の内方に進むように傾斜している。
【0037】
図4を参照して、ウォームホイール21の歯溝25は、周方向Y1の両端が角張った形状に形成されている。歯溝25の歯底25aを通る歯底円C4の半径r4は、前述した、ホブカッタ(図示せず)で切削加工を施してなる歯底25a’の歯底円C4’の直径r4’よりも小さくされている。
図6を参照して、ウォーム軸20が回転しているとき、ウォームホイール21の歯部24の歯面23は、ウォーム軸20の歯部41の歯面42に接触する。このとき、ウォームホイール20の歯面23の延設歯面27の周辺に充填された潤滑剤としてのグリースは、歯面42との間のくさび状の空間S1に、矢印K1に示すように引き込まれる。このくさび効果により、グリースは、歯面23,42間に供給される。
【0038】
次に、ウォームホイール21の製造方法の主要点について説明する。
まず、図7に示すように、製造用中間体50を用意する。製造用中間体50は、はすば歯車であり、鍛造によって形成されている。なお、製造用中間体50は、環状の金属材料を切削加工することにより形成されていてもよい。
製造用中間体50の歯部52は、鍛造金型51による鍛造代を確保するため、完成後のウォームホイール21の歯部24と比較して、その歯厚を太くされている。また、製造用中間体50の歯部52の歯先円C5は、前述の基準円C2よりも大きくされている。製造用中間体50の歯部52の歯面53の基端側部53aは、はすば歯形形状部28に相当する形状に形成されている。また、製造用中間体50の歯面53の先端側部53bは、延設歯面27が形成される面であり、滑らかに面取りされた形状となっている。
【0039】
この製造用中間体50の歯部52,52間の歯溝55に、鍛造金型51をプレス機(図示せず)により押し込む。これにより、ウォームホイール21のウォームホイール歯形形状形成部29が鍛造成形される。なお、鍛造金型51による鍛造時に、歯部52,52を周方向Y1に挟む金型(図示せず)や、歯部52,52の先端面を押さえる金型(図示せず)をさらに設けてもよい。これにより、鍛造金型51による鍛造時に、歯部52,52のうち、鍛造金型51に接触していない表面の意図しない塑性変形を抑制できる。以上が電動パワーステアリング装置1の概略構成である。
【0040】
図8に示すように、延設歯面27が設けられていないウォームホイールとしての通常のウォームホイール21’の歯先円C3’の半径r3’は、ウォームホイール21’のモジュールmに所定の係数α(低歯であれば、例えば0.8)を乗じた値をピッチ円C1の半径r1に加算した値となる。通常のウォームホイール21’の歯面23’は、歯先円C3’に対してウォームホイール21’の径方向内側に位置している。なお、図8では、ウォームホイール21’の歯先および歯底については想像線である2点鎖線で示している。
【0041】
これに対し、本実施形態のウォームホイール21の延設歯面27は、上記歯先円C3’に相当する基準円C2よりもウォームホイール21の径方向R1の外側に延びている。これにより、図6に示すように、ウォーム軸20の歯面42がウォームホイール21の歯面23に噛み合うときには、ウォーム軸20の歯面42は、主に主歯面26に接触しつつ、延設歯面27にも接触することができる。
【0042】
これにより、ウォーム軸20の歯面42とウォームホイール21の歯面23との接触面積を増すことができる。また、ウォーム軸20の歯面42がウォームホイール21の歯面23の先端に局所的に接触することを抑制できる。その結果、ウォームホイール21の歯先の一部が局所的にウォーム軸20の歯面42に接触するエッジ当たりを抑制できる。よって、ウォームホイール21の歯面23に作用する圧力のピークを低くできる。その結果、ウォームホイール21の負荷の偏りの抑制を通じて、ウォームホイール21の耐久性をより向上できる。
【0043】
例えば、図8に示すように、延設歯面が設けられていない通常のウォームホイール21’を用いた場合には、全歯たけhk’が短い。このため、歯面23’の歯先に面取りを施すことでエッジ当たりを抑制しようとすると、ウォーム軸20の歯面42との接触面積が小さくなる。その結果、ウォームホイール21’の歯面23’に作用する面圧のピークが大きくなり、耐久性を向上し難い。本実施形態のウォームホイール21によれば、歯末のたけhkが長くされている結果、全歯たけも長く、上記のような不具合が生じることを抑制できる。
【0044】
また、ウォームホイール21の延設歯面27は、主歯面26に対して歯部24の内側に傾斜している。したがって、延設歯面27とウォーム軸20の歯面42との間にグリースが入り込むことができる。このグリースにより、ウォームホイール21の歯面23の摩耗を抑制できるので、ウォームホイール21の耐久性をより向上できる。
しかも、ウォーム軸20の歯面42との接触面積を増すために、ウォームホイール21の歯面23を合成樹脂等の高価な弾性部材で形成する必要がない。これにより、コスト安価な金属材料を用いてウォームホイール21の歯部24を形成できる。また、ウォームホイール21の材料を合成樹脂にしなければならないという制限がないので、金属材料等の高強度材料を用いて歯部24を形成できる。よって、ウォームホイール21の歯部24を小さくでき、これにより、ウォームホイール21の小型化を達成できる。
【0045】
また、延設歯面27は、主歯面26に滑らかに連続する曲面に形成されている。これにより、ウォーム軸20の歯面42と延設歯面27との接触を、より滑らかにできる。これにより、ウォームホイール21の歯面23の損傷を小さくできる。よって、ウォームホイール21の耐久性をより向上できる。
さらに、歯面23に、ウォーム軸20の歯面42との噛み合いに極めて適した形状を有するウォームホイール歯形形状部29を設けている。これにより、ウォームホイール21の歯面23とウォーム軸20の歯面42との接触面積を確実に大きくできる。これにより、ウォームホイール21の歯面23に作用する面圧のピークを確実に低減できるので、ウォームホイール21の耐久性を、より確実に向上できる。
【0046】
また、ウォームホイール歯形形状部29は、鍛造によって形成される。このように、合成樹脂材料等と比べて高強度な金属材料を鍛造することにより、ウォームホイール21の歯面23を形成することができる。これにより、ウォームホイール21の耐久性をより向上できる。さらに、鍛造でウォームホイール歯形形状部29を形成することにより、ホブカッタでウォームホイール歯形形状部を形成する場合と比べて、歯面23の形状の自由度を高くできる。よって、延設歯面27を有するウォームホイール21に、ウォームホイール歯形形状部29を容易に形成できる。その結果、ウォームホイール21を、よりコスト安価に製造できる。
【0047】
また、歯すじ方向D1に関する歯先面33の両端部33a,33bを、面取りまたはクラウニング加工された傾斜状に形成している。これにより、ウォームホイール21をウォーム軸20に組み付けるとき等に歯先面33の両端部33a,33bがウォーム軸20等に接触しても、ウォームホイール21の歯部24が欠けることを抑制できる。
さらに、歯先面33の両端部33a,33bを傾斜状にすることにより、ウォームホイール21の歯先面33の両端部33a,33bから歯面23に向けてグリースを導き易くされている。これにより、ウォームホイール21の歯面23がウォーム軸20の歯面42と噛み合って摩耗することをより確実に抑制できるので、ウォームホイール21の耐久性をより向上できる。
【0048】
また、所定の係数αを0.8としていることにより、歯末のたけが並歯よりも短い低歯として歯部24を用いることができる。
なお、所定の係数αを1.0とした場合には、歯末のたけがモジュールmの値と等しい並歯として歯部24を用いることができる。
以上より、耐久性に優れ、小型で、且つコスト安価な電動パワーステアリング装置1を実現できる。
【0049】
本発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、歯面23に、歯すじ方向D1に延びる溝を設けてもよい。この場合、溝で潤滑剤を保持することが可能となる。これにより、歯面23,42間の潤滑状態をより良くできるので、歯面23,42の摩擦による温度を、より確実に100度以下にできる。よって、減速機構19を、より長時間に亘って連続使用できる。
【0050】
また、延設歯面27のうち、ウォームホイール歯形形状部29以外の部分は、ウォームホイール歯形形状部29の形成に先立って形成されていてもよいし、ウォームホイール歯形形状部29の形成より後に形成されていてもよい。
また、図9に示すように、直線状の主歯面26Aおよび延設歯面27Aを有する歯部24Aを設けてもよい。また、本発明を、電動パワーステアリング装置以外の他の一般の装置に備えられるウォーム減速機構に適用してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…電動パワーステアリング装置、18…電動モータ、20…ウォーム軸、21…ウォームホイール、23…歯面、24…歯部、26,26A…主歯面、27,27A…延設歯面、29…ウォームホイール歯形形状部、33…歯先面、C1…ピッチ円、C2…基準円、D1…歯すじ方向、m…モジュール、P1…延長面、r1…ピッチ円の半径、r2…基準円の半径、α…所定の係数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォーム軸に噛み合うための歯面が形成された歯部を有するウォームホイールにおいて、
前記歯面は、前記ウォームホイールのピッチ円の半径よりも、前記ウォームホイールのモジュールに所定の係数を乗じた値分大きい半径を有する基準円の内側に配置された主歯面と、前記主歯面から前記基準円の外側に延び前記主歯面の延長面に対して前記歯部の内側に傾斜した延設歯面と、を含むことを特徴とするウォームホイール。
【請求項2】
請求項1において、前記延設歯面は、前記主歯面に滑らかに連続する曲面に形成されていることを特徴とするウォームホイール。
【請求項3】
請求項1または2において、前記歯面は、前記主歯面および前記延設歯面に設けられたウォームホイール歯形形状部を含むことを特徴とするウォームホイール。
【請求項4】
請求項3において、前記ウォームホイール歯形形状部は、鍛造によって形成されることを特徴とするウォームホイール。
【請求項5】
請求項3または4において、前記ウォームホイール歯形形状部は、前記歯部の歯すじ方向に関して前記歯面の中間部に配置されており、
前記歯部の歯先面は、前記ウォームホイール歯形形状部から前記歯すじ方向の外側に遠ざかるに従い前記ウォームホイールの径方向内方に進むように傾斜していることを特徴とするウォームホイール。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項において、前記所定の係数は、0.8または1.0であることを特徴とするウォームホイール。
【請求項7】
電動モータと、
前記電動モータによって駆動されるウォーム軸と、
前記ウォーム軸に噛み合う請求項1〜6の何れか1項に記載のウォームホイールと、を備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−184783(P2012−184783A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46597(P2011−46597)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】