説明

ウコギ属植物(Eleutherococcusspp.)の抽出物、並びにその調製方法及び使用

【課題】多くのメタボリックシンドローム患者が存在するため、当該症候群の治療に対処すること。
【解決手段】ウコギ属植物抽出物を調製する工程の提供。当該抽出物の提供。当該抽出物を含んでなる組成物の提供。被験者の、少なくとも1つのメタボリックシンドロームの症状を予防若しくは治療する方法であって、それを必要とする被験者に本発明の組成物を投与することを含んでなる方法の提供。被験者のアディポネクチンに関連する疾患の予防若しくは治療方法であって、それを必要とする被験者に本発明の組成物を投与することを含んでなる方法の提供。被験者のPPARγに関連する疾患の予防若しくは治療方法であって、それを必要とする被験者に本発明の組成物を投与することを含んでなる方法の提供。被験者の酸化ストレスを減少させる方法であって、それを必要とする被験者に本発明の組成物を投与することを含んでなる方法の提供。メタボリックシンドロームの少なくとも1つの症状の予防若しくは治療用薬剤の製造への、本発明の当該抽出物の使用の提供。アディポネクチンに関連する疾患の予防若しくは治療用薬剤の製造への、本発明の当該抽出物の使用の提供。PPARγに関連する疾患の予防若しくは治療用薬剤の製造への、本発明の当該抽出物の使用の提供。酸化ストレスを減少させるための薬剤の製造への、本発明の当該抽出物の使用の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーブ抽出物及びその調製方法に関する。本発明はまた、メタボリックシンドロームの治療又は予防のための、上記抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
メタボリックシンドローム(「エックス症候群」、「インスリン耐性症候群」、「Reavenの症候群」及び「死の四重奏」とも呼ばれる)とは、心血管疾患に係る一群の危険因子を表す。メタボリックシンドロームの幾つかの定義のうち、代表的なものとして、全米コレステロール教育プログラム(National Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III(NCEP))、世界保健機構(WHO)、国際糖尿病連合(International Diabetes Federation(IDF))及び米国内分泌学会議(American College Endocrinology)により提唱されている。一般に、メタボリックシンドロームは、以下の特徴のうちの少なくとも2つ若しくはそれ以上を有するものとして定義することができる:中心性肥満(腹部)、高血圧(例えば≧140/90mmHg)、高いトリグリセリド値、及び高い絶食時血糖値、並びに低い高比重リポタンパク(HDL)コレステロール値。メタボリックシンドロームに罹患する個人は、2型糖尿病並びに心血管疾患の危険性が高い。
【0003】
一般に、個々のメタボリックシンドロームの障害は、別々の薬剤によって別々に治療される。高血圧の治療には、利尿剤及びACE阻害剤が使用されうる。コレステロール剤は、LDLコレステロール及びトリグリセリド濃度が高いときにはそれを低下させる場合に、またHDL濃度が低い場合にはそれを上昇させる場合に、使用できる。インスリン耐性を緩和する薬剤(例えばメトホルミン及びチアゾリジンジオン)を利用してもよい。
【0004】
Eleutherococcus senticosus(Ruper.Et Maxim.)Maxim(当初Acanthopanax senticosus(Araliaceae)と命名されていた)は、漢方薬において、それ単独若しくは他のハーブとの組み合わせにより、疾患の治療に広く用いられている。特許文献1:特開2003−277282号及び特許文献2:特開2006−234603号は、Acanthopanax senticosus Harmsから医薬化合物を抽出する方法を開示している。特許文献3:特開2007−277128号は、肥満、糖尿病及び高脂血症の治療用の漢方薬の、有効成分の1つとしての、Eleutherococcus senticosusの粉末の利用に関して開示している。特許文献4:特開2006−348054号は、Acanthopanax dieboldianusの水、アルコール、エーテル及びアセトン抽出物が、リパーゼの阻害効果を有し、また当該抽出物が肥満及び高脂血症の予防若しくは治療に効果的であることを示唆している。しかしながら、特開2006−348054号の明細書では、上記水抽出物が、in vitroで、リパーゼ活性を170μg/0.5mlのIC50値で阻害することが証明されているのみである。Hikino H.ら(非特許文献1:J.Nat.Prod.,1986,49(2):293−7)及びMedon P.J.ら(非特許文献2:Zhongguo Yao Li Xue Bao.,1981,2(4):281−5)は、Eleutherococcus senticosus抽出物の投与が、マウスの血漿グルコース濃度を効果的に減弱させたことを開示している。特許文献5:中国特許第101356968号には、メタボリックシンドロームの改善効果を有するPolygonum multiflorum Thunb.ex Murray var.hypoleucum(Ohwi)の抽出物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−277282号明細書
【特許文献2】特開2006−234603号明細書
【特許文献3】特開2007−277128号明細書
【特許文献4】特開2006−348054号明細書
【特許文献5】中国特許第101356968号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Nat.Prod.,1986,49(2):293−7)
【非特許文献2】Zhongguo Yao Li Xue Bao.,1981,2(4):281−5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ますます多くのメタボリックシンドローム患者が存在する。本発明は、当該症候群の治療に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的の1つは、ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物を調製する工程を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、本発明のウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物を含んでなる組成物を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、被験者の、少なくとも1つのメタボリックシンドロームの症状を予防若しくは治療する方法であって、それを必要とする被験者に本発明の組成物を投与することを含んでなる方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、被験者のアディポネクチンに関連する疾患の予防若しくは治療方法であって、それを必要とする被験者に本発明の組成物を投与することを含んでなる方法を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、被験者のペルオキシゾーム増殖因子活性化受容体(peroxisome proliferator−associated receptor)γ(PPARγ)に関連する疾患の予防若しくは治療方法であって、それを必要とする被験者に本発明の組成物を投与することを含んでなる方法を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、被験者の酸化ストレスを減少させる方法であって、それを必要とする被験者に本発明の組成物を投与することを含んでなる方法を提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、メタボリックシンドロームの少なくとも1つの症状の予防若しくは治療用薬剤の製造への、本発明のウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物の使用を提供することである。
【0016】
本発明の更なる目的は、アディポネクチンに関連する疾患の予防若しくは治療用薬剤の製造への、本発明のウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物の使用を提供することである。
【0017】
本発明の更なる目的は、PPARγに関連する疾患の予防若しくは治療用薬剤の製造への、本発明のウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物の使用を提供することである。
【0018】
本発明の更なる目的は、酸化ストレスを減少させるための薬剤の製造への、本発明のウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物の使用を提供することである。
【0019】
本発明を、以下のセクションにおいて詳述する。本発明の他の特徴、目的及び効果は、本発明の詳細な説明及び請求項中に見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】E.giraldiiの抽出物が、PPARγ活性を活性化するのみならず、3T3−L1細胞におけるPPARγの産生をも増加させることを示す。「Trog」はトログリタゾンを表し、「EA16」はE.giraldiiの50% EtOH−EtOAc抽出物を表す
【図2】4週齢のSDラットにおける、経口グルコース負荷試験の結果を示す。値を、平均±SD(n=7〜8)として示す。* p<0.05、群Cとの比較。# p<0.05、群Fとの比較。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願明細書において、特に明記されない限り、本発明で用いられる科学用語及び技術用語は、当業者が通常理解している意味において用いられる。かかる用語の意味及び範囲は明確であるべきだが、潜在的に曖昧な意味を有する場合には、本願明細書における定義が、いかなる辞書的若しくは外部的な定義に優先して用いられる。
【0022】
文脈から特定されない限り、単数形の用語はその複数形を含み、また複数形の用語はその単数形を含む。
【0023】
以下の用語は、本発明の開示において用いられる場合には、特に明記しない限り、以下の意味を有するものとして理解される。
【0024】
本明細書で用いられる「予防すること」又は「予防」の用語は、感受性を有する被験者における症状の発症を遅延させること、又は疾患の発症を減少させることを意味する。
【0025】
本明細書で用いられる「治療すること」又は「治療」の用語は、感受性を有する被験者の症状を減少させること、及び/又は、改善すること、を意味する。
【0026】
本明細書で用いられる用語「被験者」とは、動物(特に哺乳動物)を意味する。好ましい実施形態では、「被験者」は「ヒト」を意味する。
【0027】
本明細書で用いられる「治療上有効量」という用語は、単独で、又は、同じ疾患を治療するための他の治療/薬剤との組み合わせにより用いられる有効成分の、治療的有効性を示す量のことを意味する。
【0028】
「担体」又は「薬学的に許容できる担体」という用語は、当業者に周知の、医薬組成物の製造に用いられる希釈剤、賦形剤、アクセプタ又は類縁体を意味する。
【0029】
用語「ウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)」とは、ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)、好ましくはエゾウコギ(E.senticosus)(Ruper.et Maxim.)Maxim.、紅毛五加(E.giraldii)又はE.trifoliatuの、根、葉、茎及び/又は植物体全体のことを指す。本発明では、上記の植物のサンプルは未処理であってもよく、又は例えば乾燥、スライス、グラインドなどの処理がなされていてもよい。
【0030】
<調製工程>:
被験者への投与に用いるウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物を調製する工程は、以下のステップを含んでなる:
a)Eleutherococcus sp.をアルコール溶液で抽出するステップと、
b)ステップa)から得られる抽出物から固体分を除去し、それによりウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物を得るステップ。
【0031】
本発明の方法では、Eleutherococcus sp.の、アルコール溶液に対する重量比率は約1/5〜約1/50、好ましくは約1/10〜約1/30、最も好ましくは約1/20の量である。
【0032】
本発明の方法において、用語「アルコール溶液」とは、無水アルコール又はアルコールと水とを混合することにより調製される溶液のことを指す。本発明では、アルコールは、1〜6の炭素原子数、好ましくは1〜4の炭素原子数、より好ましくは1〜3の炭素原子数の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル部分を有する。例えば、上記アルコールはメタノール、エタノール、イソプロパノール、又はそれらの混合物である。好ましくは、上記アルコールはメタノール又はエタノールである。
【0033】
本発明の工程において用いられる上記アルコール溶液中のアルコールの濃度は、約30〜100%(v/v)である。好ましい実施形態では、上記アルコール溶液は、約30〜100%(v/v)、好ましくは約40〜90%(v/v)、最も好ましくは約50〜70%(v/v)のメタノール溶液である。他の好ましい実施形態では、上記アルコール溶液は、約30〜100%(v/v)、好ましくは約40〜90%(v/v)、最も好ましくは約50〜70%(v/v)のエタノール溶液である。
【0034】
本発明の方法において、ステップa)の抽出は、いかなる従来公知の方法(例えば煮沸抽出(decoction)、浸漬、超音波処理、撹拌、激しい撹拌(agitation)又はそれらの組み合わせ)によっても実施できる。上記抽出の時間は、約1〜約48時間、好ましくは約12〜36時間、最も好ましくは約24時間である。抽出温度は約20〜45℃、好ましくは約25〜35℃である。
【0035】
本発明の方法において、ステップb)では、固体分は、いかなる従来公知の方法(例えば濾過膜(cheesecloth)を用いた濾過、遠心分離又はそれらの組み合わせ)によっても除去できる。
【0036】
本発明の方法は更に、いかなる従来公知の方法を用いて、ウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物を、例えば凍結乾燥又は蒸発(J.Pharmacol.Sci.,99:294−300,2005及びJ.Chromatography,932:91−95,2001)により濃縮して、濃縮されたウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物を得るステップc)を含んでなってもよい。
【0037】
本発明の方法において、ステップc)からの濃縮ウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物を更に、中極性〜高極性の溶媒で抽出/分画して、第2のウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物を得ることもできる。本発明において、上記の中極性〜高極性の溶媒は、公知のいかなるもの(例えばエーテル、アルコール、エステル又はその混合物)であってもよい。上記溶媒の例としては、限定されないが、イソブチルアルコール、nブタノール、n−酢酸ブチル、クロロホルム、酢酸エチル及びそれらの混合物が挙げられる。濃縮ウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物 対 溶媒の比率(v/v)は、約1:1〜1:4である。
【0038】
本発明の方法の好ましい実施形態では、上記溶媒は酢酸エチルであり、その抽出は液体−液体抽出により実施される(Free Radic Res.,38(1):97−103,2004、及びJ.Herb.Pharmacother.,7:107−128,2007)。一般に、濃縮ウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物を、酢酸エチルと接触させ、次に0.5%の炭酸水素ナトリウムを、約1:1の比率(v/v)でエステル層に添加し、脂肪酸を除去する(Biosci.Biotechnol.Biochem.62(3):532−534,1998)。
【0039】
<組成物>:
本発明は、治療上有効量の、本発明のウコギ属植物(Eleutherococcus sp.)抽出物を含んでなる組成物の提供に関する。本発明の組成物は、食品成分又は医薬組成物として用いることができる。
【0040】
本発明の組成物は、あらゆる適切な投与経路(例えば経口投与)によって被験者に投与してもよい。適切な製剤としては、錠剤、ロゼンジ、ハードカプセル若しくはソフトカプセル、水性若しくは油性懸濁液、エマルジョン、分散可能な粉末若しくは顆粒、シロップ又はエリキシルが挙げられるが、これらに限定されない。必要に応じて、それを滅菌してもよく、又はいかなる薬理学的に許容できる担体(例えば安定化剤、湿潤剤など)と混合してもよい。
【0041】
本発明の組成物は、周知技術である従来の医薬賦形剤を使用して、従来公知の手順に従い調製してもよい。すなわち、経口的な使用を目的とする組成物は、例えば1つ以上の着色剤、甘味料、調味料及び/又は保存料を含有してもよい。
【0042】
本発明の組成物は、メタボリックシンドロームの治療用の1つ以上の他の服用中の薬剤(例えば脂質を低下させる薬剤、抗糖尿病薬及び抗酸化剤)(Cardiovasc Hematol Agents Med Chem.2008,6(4):237−52)との組み合わせで用いることができる。
【0043】
<用途>:
本発明の組成物は、少なくとも1つ、好ましくは2つ以上のメタボリックシンドロームの症状の予防若しくは治療のために用いることができる。メタボリックシンドロームの主な症状としては、肥満、中心性肥満症(腹部肥満)、異脂肪血症、耐糖能異常、心血管疾患、インスリン耐性及び2型糖尿病(Life Sci.2003,73:2395−2411)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の組成物は、アセチルCoAカルボキシラーゼ活性の阻害に用いることができる。アセチルCoAカルボキシラーゼは、脂肪酸合成に関与する鍵となる酵素の1つである。アセチルCoAカルボキシラーゼ反応の生成物(マロニル−CoA)は、脂肪酸合成酵素(FAS)の基質であり、かつ、カルニチンパルミトイルCoA転移酵素(CPT)の阻害剤でもある。従って、ACCの阻害は、トリグリセリドの合成を減少させるのみならず、脂肪酸の合成をも低下させる(Kusunokiら、Endocrine,29:91−100,2006、Abu−Elheighら、PNAS,100:10207−10212,2003、Arbeenyら、J.Lipid Res.,33(6):843−851.,1992、Rose−Kahn及びBar−Tana.,Biochim.Biophys.Acta.1042:259−264,1990、並びにHarwood,Expert.Opin.Ther.Targets,9(2):267−281,2005)。
【0045】
本発明の組成物は、アディポネクチンに関連する疾患の予防若しくは治療に用いることができる。アディポネクチンに関連する疾患としては、限定されないが、肥満、インスリン耐性、高血糖及びアテローム性動脈硬化症が挙げられる(J.Cardiometab.Syndr.,2007,2(4):288−94、及びJ.Clin.Endocrinol.Metab.,2005,90:4792−4796)。
【0046】
本発明の組成物は、PPARγの活性化に用いることができる。PPARγの活性化により、前脂肪細胞の分化及び脂肪の代謝を誘導でき、また細胞のインスリン感受性を改善できる(Endocrine Rev.,1999,20:649−688)。
【0047】
本発明の組成物は、酸化防止剤などのような、活性酸素種(ROS)のスカベンジャーとして用いることができる。ROSの過剰生成は有害であり、細胞及び組織に対する毒性をもたらし、またそれは糖尿病、アテローム性動脈硬化(atheroscleropathy)、ネフロパシ、神経障害及び網膜症の進行において顕著な役割を果たす(Am.J.Nephrol.,29:62−70,2009、及びCardiovascular Diabetology,1:3−32,2002)。食品用の酸化防止剤(酸化ストレスに対して保護効果がある)が、肝障害(Crit.Rev.Food Sci.Nutr.,44:575−586,2004)、網膜傷害(Diabetes Metab.Rev.,22:38−45,2006)及びアテローム性動脈硬化症(J.Pharmacol.Sci.,99:294−300,2005)に対抗する作用を発揮させるための治療剤として提案されている。
【0048】
当業者にとり、治療のための適切な投与経路及び投与量の選択は困難ではない。本発明では、好適な投与経路は経口投与である。投与量は、障害の性質及び状況、患者の年齢及び健康状態、投与経路及びあらゆる過去に行われた治療などに依存する。当業者であれば、投与量が、個人の年齢、サイズ、健康症状及び他の関連する要因に応じて変化しうることは自明である。
【0049】
以下の実施例は、当業者が本発明を実施する際の参考として提供されるものである。当技術分野の当業者であれば、本願明細書に記載される実施態様に対する修飾及び変更を、本発明の技術思想又は範囲から逸脱することなく実施できるため、それらの実施例は、本発明を過度に限定するものとして解釈すべきでない。
【実施例】
【0050】
<実施例1>:ウコギ属植物(Eleutherococcus ssp.)の抽出物の調製:
【0051】
i)アルコール抽出:
各ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)(エゾウコギ(Eleutherococcus senticosus(Ruper.et Maxim.)Maxim.)、E.giraldii及びE.trifoliatusを含む)の茎を、機械も用いて粉砕(grind)し、次に溶媒(例えば50%又は70%のメタノール又はエタノール)で、約1/20の重量/体積比で、24時間にわたり、4枚の層のチーズクロスで濾過して抽出し、次に減圧濃縮した。
【0052】
ii)酢酸エチル(EtOAc)抽出:
上記で調製した濃縮MeOH抽出物及びEtOH抽出物を、等量の酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を5%の重炭酸ナトリウムで処理して脂肪酸を除去し、次に濃縮し、MeOH又はEtOH−EtOAc抽出物を得た。
【0053】
<実施例2>:アセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)に対する、ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物の抑制効果:
ACCを、ラット肝臓から単離、精製し、実施例1から得られた抽出物によるACC活性の阻害を、Tanabeら(1981.Methods in Enzymology,71(Pt C):5−16)に記載の方法に従いアッセイした。表1に示すように、すべての抽出物が、ACC活性に対する阻害効果を示した。
【0054】
表1:ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)の抽出物の、ACC活性に対する阻害効果:
【表1】

【0055】
<実施例3>:3T3−L1の前駆脂肪細胞の分化に対する、ウコギ属植物(E.giraldii)抽出物の効果:
Wakiその他(2007.Cell Metab.5:357−370)の方法に従い、3T3−L1細胞を、10%のウシ胎仔血清、2mMのグルタミン、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン及び110μg/mlのピルビン酸ナトリウムを添加したDMEM(4,500mg/Lのグルコース入り)で、37℃で、5%のCOインキュベータで培養した。3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化を、培地への10μg/mLインスリン(0日目)の添加により開始させた。インスリン含有培地での7日間(2日目及び4日目で培地交換した)の培養の後、細胞を更に、2日間、インスリンを含有しない培地でインキュベートした。また、E.giraldiiの抽出物を、0日目の培地及び交換した際の培地にも添加した。試験に供した細胞中のトリグリセリド(TG)及びアディポネクチンの量、並びに細胞のPPARγの結合活性を、市販のアッセイキット(それぞれR&D Systems社製のQuantikine Mouse Adiponectin immunoassay、Audit Diagnostics社製のTriglycerol Assay Kits、及びBD(商標)Transfactor Family Colorimetric Kits−PPARαβγ(BD Biosciences社製)又はTranscription Factor PPARγ ELISA Kit(Panomics社製))を用いてアッセイし、PPARγの発現を、ウエスタンブロットにより測定した。表2に示すように、E.giraldiiの抽出物は、用量依存的に3T3−L1前脂肪細胞の分化を刺激しうるのみならず、分泌型のアディポネクチン及び細胞内のアディポネクチンの産生をも刺激しうる。図1は、周知のPPARγアゴニスト(トログリタゾン)と異なり、E.giraldiiの抽出物が、PPARγ活性を活性化しうるのみならず、3T3−L1細胞中でのPPARγの産生をも増加させうることを示す。
【0056】
表2:3T3−L1前脂肪細胞の分化に対する、E.giraldii抽出物の効果:
【表2】

【0057】
<実施例4>:高フルクトース餌料によりメタボリックシンドロームを誘導させた、オス スピローグ−ドーリー(SD)ラットに対する、70% エタノール中のE.giraldii抽出物の効果:
動物実験を実施し、メタボリックシンドロームの予防及び治療に対する、E.giraldii抽出物の効果を評価した。200gのオスのSDラット(BioLASCO Taiwan社から購入)を、一定の12時間/12時間の光/暗サイクルで、23±2℃の温度に制御された部屋におけるマイクロアイソレータのケージ1つにつき2匹を飼育した。動物に、水及び食餌を自由に摂取させた。
【0058】
ラットを4つの群(各群n=8)に分けた。通常のコントロール(C)群には、定期的に動物飼育用の餌料(Altromin 1362N、Altromin社製、Im Seelenkamp、ドイツ)を供給した。その他の3つの群には、メタボリックシンドロームを誘発させるために、高フルクトース(40%)餌料を供給し、一方、L及びH群には、70%のエタノール中のE.giraldii抽出物を、94及び188mg/kgで毎日注入し、また高フルクトースコントロール(F)群には、同じ量の蒸留水を注入した。
【0059】
体重及び摂食量を計量した。体重を、9:00〜11:00(AM)に測定した。経口グルコース負荷試験(OGTTs)を、4週目及び8週目に実施した。ラットを、試験前16時間にわたり、一晩絶食させた。試験開始時(0時間目)にラットを秤量し、0.5mLの血液サンプルを尾部静脈から採取し、次にラットに、10%のD−グルコース(1.5g/kg体重)を経口的に点滴した。更に、注入の30、60、90及び120分後に、血液サンプル(0.5mL)を採取した。4週目に実施したOGTTの結果を、図2に示す。図2より、60、90及び120分において、群Fの血糖値が、群Cのそれらより高く(p<0.05)、また、90及び120分においては、群L及びHの血糖値が、群F(p<0.05)のそれより顕著に低いことが明らかとなった。8週目の結果は、4週目の結果と類似している。
【0060】
10週後にラットを安楽死させ、精巣上体の脂肪パッド、肝臓及び腎臓を摘出し、秤量した。表3は、10週にわたる食餌治療の後、群L及びHの精巣上体の脂肪パッドの相対重量が、全て、群Fのそれより顕著に低かったことを示す。器官重量の異常は、実験終了後に実施した検死において観察されなかった。肝臓のトリグリセリド値も測定し、その結果、H群における値が、10週にわたる食餌療法の後、F群のそれらより顕著に低いことが明らかとなった(12.5±1.4mg/g肝臓に対して、10.7±1.7mg/g肝臓、p<0.05)。
【0061】
以上の結果から、E.giraldii抽出物が、in vivoで糖耐性を改善し、精巣上体の脂肪重量の減少に対して、劇的な効果を示すことが明らかとなった。
【0062】
表3:10週にわたる食餌療法の後の、SDラットの組織の相対重量
【表3】


数値を、平均±SD(n=7〜8)として示す。
p<0.05、群Cとの比較。
p<0.05、群Fとの比較。
【0063】
<実施例5>:ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)の抽出物の、HepG2細胞における、高グルコース誘導されたトリグリセリドのレベル減少に対する効果:
HepG2細胞を、DMEM−LG(5.5mMのグルコースを含む)中に播き(2.5×10細胞/ウェル)、37℃の温度、95%の湿度で、24時間にわたり、5%のCO雰囲気のチャンバ内でインキュベートした。ウェル中の培地を、新鮮なDMEM−LG、DMEM−HG(50mMのグルコースを含む)又はDMEM−HG−抽出物(50mMのグルコース及び異なるウコギ属植物(Eleutherococcus ssp.)の抽出物を含む)と交換し、細胞を更に120時間インキュベートした。細胞を、D−PBSで二回洗浄し、溶解バッファ(50mMのHepes、1%のトリトンX−100、150mMのNaCl、2mMのNaVO及び1mMのPMSF)で処理した。トリグリセリド(TG)及びタンパク質の濃度を、市販のキット(それぞれ、トリグリセリドGPO−PAPキット(E.Merck社製、ダルムシュタット、ドイツ)及びBioRad プロテインアッセイキット(BioRad社製、ヘラクレス、CA、米国))で測定した。表4に示すように、E.trifoliatus及びE.giraldiiの70% エタノール抽出物は、高グルコース条件でインキュベートしたHepG2細胞におけるTGの蓄積を減少させ、またその阻害の程度は、酢酸エチル抽出によって更に強化された。
【0064】
表4:ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)の抽出物による、HepG2細胞における、高グルコース誘導されたトリグリセリド蓄積の阻害:
【表4】


*阻害%=(TG 抽出液−TG 高グルコース)/(TG 低グルコース−TG 高グルコース)×100
【0065】
<実施例6>:ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)の抽出物の抗酸化活性:
in vitroでの全抗酸化活性を、活性酸素吸収能力(ORAC)法を用いて測定した(Ouら、2001,J.Agric.Food Chem.,49:4619−4626、及びHuangら、2002,J.Agric.Food Chem.,50:4437−4444)。20μLのブランク(75mMのリン酸バッファ)測定後、0〜200μMのtrolox(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(Aldrich社製、WI、米国)又はウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)の異なる抽出物を含有する試験サンプルを、96ウェルの黒いプレート中にそれぞれ添加し、96nMのフルオレセイン2ナトリウム(Aldrich社製)を150μL、ウェルに添加した。プレートを、Infinite M200蛍光マイクロプレートリーダー(TECAN)に置き、混合した。320mMのAAPH(2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、Aldrich社製)を30μL添加し、プレートを元の位置に戻し、490nmで励起し、530nmでの放出を測定した。ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)の全てのエタノール抽出物は、相対的な抗酸化活性を示した(表5)。ウコギ属植物(E.trifoliatus)抽出物の場合を除き、エタノール抽出による抗酸化活性は、それぞれの酢酸エチル抽出による場合と比較し、高かった。
【0066】
表5:ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)の抽出物の抗酸化活性。
【表5】


*TE:trolox同等物。
結果を、3つの実験の平均+SDとして示す。
【0067】
Puhlら(1994.Methods in Enzymology 233:425−41)に記載の方法に従い、50%のEtOH−EtOAcによるE.giraldii抽出物の酸化防止剤活性を更にアッセイした。一晩絶食させた後、ヒトLDL(d=1.019〜1.063g/mL)を、同意を得たる脂質値の健常なヒト被験者の血漿サンプルから、超遠心分離によって、経時的に分離した(Miyazakiら、1994.J Biol.Chem.269:5264−9)。LDLを、0.15mol/LのNaCl及び1mmol/LのEDTA(pH7.4)を含有するPBSで透析した。透析されたLDLサンプル(100μgのタンパク質/mL)150μLを、様々な濃度の各々の抽出物でプレインキュベートし、次に5μMのCuSO(最終濃度)を添加した。形成された共役ジエンの量を、232nmでモニターした。E.giraldiiの50% EtOH−EtOAc抽出物(20g/mL)の存在下で、ラグ時間が58分(ブランク)から268分まで延長されることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物を調製する工程であって、
a)ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)をアルコール溶液で抽出するステップと、
b)ステップa)で得られた抽出物から、固体成分を除去して、それによりウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物を得るステップと、を含んでなる工程。
【請求項2】
ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)が、Eleutherococcus senticosus(Ruper. et Maxim.)Maxim.、E.giraldii又はE.trifoliatusである、請求項1記載の工程。
【請求項3】
前記アルコール溶液に対するウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)の重量比率が、約1/5〜約1/50である、請求項1記載の工程。
【請求項4】
前記アルコール溶液が、エタノール、メタノール又はイソプロパノール溶液である、請求項1記載の工程。
【請求項5】
前記アルコールの濃度が、約30〜100%(v/v)である、請求項1記載の工程。
【請求項6】
前記ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物を濃縮するステップc)を更に含んでなる、請求項1から5のいずれか1項記載の工程。
【請求項7】
前記濃縮されたウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物を、中極性〜高極性の溶媒で抽出/分画して、第2のウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物を得るステップd)を更に含んでなる、請求項6記載の工程。
【請求項8】
前記中極性〜高極性の溶媒が、イソブチルアルコール、nブタノール、n−酢酸ブチル、クロロホルム、酢酸エチル又はその混合物から選択される、請求項7記載の工程。
【請求項9】
前記中極性〜高極性の溶媒が、酢酸エチルである、請求項8記載の工程。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項記載の工程により調製される、ウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物。
【請求項11】
治療上有効量の請求項10記載のウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物と、任意に、薬理学的に許容できる担体、希釈剤若しくは賦形剤を含んでなる組成物。
【請求項12】
食品成分又は医薬組成物である、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
少なくとも1つのメタボリックシンドロームの症状を予防若しくは治療するための薬剤の製造への、請求項10記載のウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物の使用。
【請求項14】
前記症状が、中心性肥満症(腹部肥満)、脂質異常症、心血管疾患、耐糖能異常又はインスリン耐性である、請求項13記載の使用。
【請求項15】
アセチルCoAカルボキシラーゼの活性を阻害するための薬剤の製造への、請求項10記載のウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物の使用。
【請求項16】
アディポネクチンに関連する疾患を予防若しくは治療するための薬剤の製造への、請求項10記載のウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物の使用。
【請求項17】
ペルオキシゾーム増殖因子活性化受容体γを活性化するための薬剤の製造への、請求項10記載のウコギ属植物(Eleutherococcus spp.)抽出物の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−20954(P2011−20954A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−167228(P2009−167228)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(506062779)フード インダストリー リサーチ アンド ディベロップメント インスティテュート (3)
【Fターム(参考)】