説明

ウシの優良産肉形質判定方法

【課題】ウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異を利用したウシの優良産肉形質判定方法を提供する。
【解決手段】ウシがウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)を有するヘテロ変異体であるとき、月齢28〜31ヶ月の範囲内のウシが出荷月齢逆依存的に冷屠体重の増加及び/又はバラ厚の増加を示すという特性を活用して、飼養期間の短縮を目標とした場合のウシの優良産肉形質を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ウシ脂肪細胞分化制御因子(PPARγ2)遺伝子の遺伝的変異を利用したウシの優良産肉形質判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、遺伝情報を活用したマイクロサテライトマーカーやAFLP(Amplified fragment length polymorphism)等の手法を用いて、ウシ産肉形質と関連するマーカーやプライマーの組合わせについて探索が行われている。
【0003】
上述のマイクロサテライトマーカーを利用した手法では、マーカーの数を増加させることによって、精度の向上は望めるものの、染色体レベルから遺伝子レベルに到達することに多大な労力と費用を要し、産肉形質を制御する遺伝子を特定することは著しく困難である。また、AFLPを用いた手法では、適当な選択プライマーの数を増加させることによって、良好な産肉形質を持つ個体の識別精度が増すものの、原理的に産肉形質を制御する遺伝子に関する情報を得ることはできない。このように、遺伝情報を活用したマイクロサテライトマーカーやAFLP等の手法では、産肉形質に関与する遺伝子に関する情報を得ることは難しい。
【0004】
一方、ウシ産肉形質に関与する遺伝子について、成長ホルモン遺伝子の多型(変異)と産肉形質との関連について報告がなされている(非特許文献1)。しかしながら、当該多型によって全てのウシが何れかに分類されることから、区分けが大きすぎ、優良なウシの特殊性を十分に説明することができない。
【0005】
ところで、PPARγ2タンパク質は、転写因子として機能する脂肪細胞分化の主要な調節因子であり、脂肪細胞の分化を強く促進する(非特許文献2〜4)。
【0006】
非特許文献5には、ウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(第18番目アミノ酸のアラニンからバリンへの置換:「Ala18Val」)をヘテロ変異で有する黒毛和種のウシは、バラ厚の有意な増加並びに冷屠体重及び脂肪交雑基準値の増加傾向を示すことが開示されている。また、ウシPPARγ2遺伝子の前記変異体の検出方法は特許文献1に開示されている。
【0007】
しかしながら、当該遺伝的変異と出荷月齢逆依存的な冷屠体重又はバラ厚の増加との関連は知られていなかった。
【特許文献1】特許第3174854号公報
【非特許文献1】岡 章生ら, 「兵庫県立農林水産技術総合センター研究報告(畜産編)」, 2005年, 第41号, p.6-9
【非特許文献2】Rosen EDら, 「Genes and Development」, 2000年, 第14巻, p.1293-1307
【非特許文献3】高田 伊知男ら, 「最新医学」, 1997年, 第52巻, p.12-19
【非特許文献4】Tontonoz Pら, 「Cell」, 1994年, 第7巻, p.1147-1156
【非特許文献5】相川 勝弘ら, 「日本畜産学会報」, 2004年, 第75巻, p.25-29
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した実情に鑑み、ウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異を利用したウシの優良産肉形質判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明者らは、ウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)をヘテロ変異で有するウシ(ヘテロ変異体)が出荷月齢逆依存的に冷屠体重の増加及び/又はバラ厚の増加を統計学的に有意に示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下を包含する。
(1)ウシが、配列番号2に示されるアミノ酸配列における第18番目のアラニンがバリンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子を有するヘテロ変異体であるとき、月齢28〜31ヶ月の範囲内のウシが出荷月齢逆依存的に冷屠体重の増加及び/又はバラ厚の増加を示すという特性を活用したウシの優良産肉形質判定方法。
(2)上記第18番目のアラニンからバリンの置換は、配列番号1に示される塩基配列における第53番目の塩基がCからTに置換されることによるものであることを特徴とする、(1)記載の方法。
(3)上記ウシは、図3に示す家系図に属するウシ又はその子孫であることを特徴とする、(1)記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)をマーカーとして、冷屠体重の増加及び/又はバラ厚の増加といった産肉形質の優れたウシを月齢逆依存性により飼養期間の短縮を目標に生産することができ、これによってウシの優良産肉形質を簡易な方法で判定することができるという格別の効果が付与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
ウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)について、ヘテロ変異体であることが確認されている鶴丸土井(兵庫県産種雄牛)の産子251頭(図1)を選別し、出荷月齢31.7ヶ月を境として、当該251頭を出荷月齢の早いグループ(125頭)と出荷月齢の遅いグループ(126頭)とに分け、そのPPARγ2遺伝子の遺伝子型と産肉成績とを比較することで、当該遺伝子にヘテロ変異を有するウシにおいて、冷屠体重とバラ厚の増加が出荷月齢の早いグループで顕著であることが明らかになり、且つ、特定の月齢範囲内で冷屠体重とバラ厚の増加が出荷月齢逆依存的であることを見出した。
【0013】
本発明に係るウシの優良産肉形質判定方法(以下、「本方法」という)は、ウシ由来の生物学的サンプルにおいて、配列番号1に示される部分塩基配列(アミノ酸配列:配列番号2)を含むウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)を検出し、一方の対立遺伝子における当該遺伝的変異の存在を指標として、当該生物学的サンプルが由来するウシがヘテロ変異体であると決定されたとき、月齢28〜31ヶ月の範囲内のウシが出荷月齢逆依存的に冷屠体重の増加及び/又はバラ厚の増加を示すという本発明の特徴的基準に従って、ウシの産肉形質を評価することを含む。また、上述の配列番号1に示される部分塩基配列は、ウシPPARγ2タンパク質のN末端より第1番目〜第77番目のアミノ酸配列(配列番号2)に対応する塩基配列であり、γ2特異的エキソン(B1)に関するものである(特許文献1参照)。
【0014】
本方法では、具体的に、ウシ由来の生物学的サンプルにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列における第18番目のアラニンがバリンに置換されたアミノ酸配列を含むウシPPARγ2タンパク質をコードする遺伝子を検出する。特に、このアミノ酸置換は、ウシPPARγ2遺伝子における配列番号1に示される塩基配列の第53番目の塩基がCからTに置換されることによるものである。
【0015】
ここで、出荷月齢逆依存的とは、ウシの月齢28〜33ヶ月、好ましくは28〜31ヶ月の範囲内での、出荷月齢と冷屠体重及び/又はバラ厚との負の相関関係をいう。この関係は、ヘテロ変異体のウシで認められ、一方、非変異体では認められなかった。ヘテロ変異体のウシでは、上記月齢範囲内で、出荷月齢が早いほど冷屠体重及びバラ厚が増加する。本発明では、冷屠体重とバラ厚の増加に関して好ましい出荷月齢範囲は28〜31ヶ月である。
【0016】
また、「冷屠体重」とは、ウシを屠殺した後に、冷凍庫で例えば1日間保管した後のウシ枝肉の重量(kg)をいう(図2)。
【0017】
一方、「バラ厚」とは、格付面の広背筋の上端より約10cm下部の部分で計った枝肉の厚味(皮下脂肪を含まない)をいう。具体的には、バラ厚は、「牛・豚・枝肉・部分肉取引規格解説書」(平成8年、社団法人 日本食肉格付協会)の第13頁に示される枝肉格付面における「枝肉の特定部分」の厚さ(cm)(皮下脂肪を含まない)をいう。
【0018】
図3は、ウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)について、ヘテロ変異体である4種のウシを含む家系図を示す。図3において、四角形はオスを示し、丸はメスを示す。また、白抜きはPPARγ2遺伝子について非変異体(野生型)であることを示し、一方、白抜き/黒塗りはPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)についてヘテロ変異体であることを示す。
【0019】
現在、当該ヘテロ変異体である種雄牛としては、図3の家系図に属する家系内にのみ見出されている。
【0020】
従って、被験体となるウシの種類としては、特に限定されることはないが、例えば、図3に示す家系図の子孫に相当する種雄牛を活用することによって、ヘテロ変異体の効率的入手が可能となる。
【0021】
本発明では、先ず被験体であるウシから生物学的サンプルを調製する。ここで、「生物学的サンプル」とは、ウシの臓器、組織、細胞等を意味する。生物学的サンプルとしては、例えば、精液、脂肪組織、血液、毛根、筋肉などが挙げられる。
【0022】
次いで、生物学的サンプルからDNAを調製する。生物学的サンプルからのDNAの調製方法としては、例えば、プロテイナーゼKなどのタンパク質分解酵素とフェノール、クロロホルム等の有機溶剤を用いた抽出方法が挙げられる。また、例えば、精液からのDNAの調製及び精製は、Puwaravutipanich Tら(「Experimental Cell Research」, 1975年, 第90巻, p.153-158)の方法に準じて行うことができる。脂肪組織からのDNAの調製及び精製は、中山ら(「バイオ実験イラストレイテッド 2遺伝子解析の基礎」, 1997年, 秀潤社, 東京, p.117-121)の方法に準じて行うことができる。さらに、血液からのDNAの調製及び精製は、DNA精製キット「Genとるくん」(宝酒造株式会社製)を用いて行うことができる。
【0023】
あるいは、本方法では、DNAに代えてRNA(又はcDNA)を用いることができる。RNAの調製方法としては、例えばグアニジンチオシアネートと塩化セシウム溶液とを用いるグアニジン-塩化セシウム超遠心法及びAGPC(Acid Guanidinium-Phenol-Chloroform)法が挙げられる。また、市販品のトリゾル試薬を用いても効率よくRNAを調製できる。RNAからのcDNAの調製は、逆転写酵素によって行うことができる。
【0024】
次いで、本方法では、生物学的サンプル由来のDNA又はRNA(若しくはcDNA)を用いて、上述したウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)を検出する。検出方法としては、例えば、当該遺伝的変異の塩基配列部位(例えば、配列番号1において、第53番目の塩基を含む部位)を対象とした特異的なプライマーを用いたPCR、およびダイレクトシーケンスが挙げられる。
【0025】
特に、本方法では、ヘテロ変異(すなわち、ウシPPARγ2遺伝子において、一方の対立遺伝子では、第18番目のアミノ酸としてアラニンをコードし、他方の対立遺伝子では当該箇所でバリンをコードする)を正確且つ簡便に検出すべく、例えば、以下に示すミスマッチプライマーセットを用いたPCR-RFLPを行う(相川 勝弘ら, 「日本畜産学会報」, 1999年, 第70巻, J1-J5及び特許文献1参照)。
ミスマッチプライマーセット;
フォワードプライマー:GCT GTG ATG GGT GAA ACT CTG GGA GA(配列番号3)
リバースプライマー:GTG AGG TCC TTG CAG ACA CTG TGT CA(配列番号4)
【0026】
次いで、例えばアクリルアミドゲルあるいはアガロースゲル電気泳動等によって、遺伝的変異(Ala18Val)についてヘテロ変異特異的なバンドを検出することにより、ヘテロ変異体として検出されたウシは、出荷月齢逆依存的な冷屠体重の有意な増加及び/又はバラ厚の有意な増加を有すると判断することができる。
【0027】
あるいは、本方法では、DNA又はRNA(cDNA)レベルでの検出に代えて、タンパク質レベルで遺伝的変異(Ala18Val)のヘテロ変異を検出することができる。例えば、上述した生物学的サンプルからタンパク質を抽出する。生物学的サンプルからのタンパク質抽出では、例えば生物学的サンプル中の組織や細胞等を破砕し、遠心分離し、上清をタンパク質含有溶液として得ることができる。さらに、タンパク質を含む上清を、溶媒抽出法やクロマトグラフィー等の手法に供し、タンパク質を精製してもよい。
【0028】
次いで、得られたタンパク質について、遺伝的変異(Ala18Val)を有するタンパク質に特異的な抗体及び当該変異箇所が野生型(すなわち、配列番号2における第18番目のアミノ酸がアラニン)であるタンパク質に特異的な抗体を用いる免疫学的方法により、遺伝的変異(Ala18Val)のヘテロ変異を検出することができる。免疫学的方法としては、例えば、ELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッテイング等が挙げられる。
【0029】
以上に説明した本方法によれば、被験体であるウシが出荷月齢逆依存的な冷屠体重の増加及び/又はバラ厚の増加を有するか否かを評価することができる。このような評価に基づいて、遺伝的変異(Ala18Val)をヘテロ変異で有するウシは早い月齢(例えば、月齢28ヶ月〜31ヶ月)で出荷した場合、冷屠体重の増加及び/又はバラ厚の増加が期待でき、飼養期間短縮に基づく飼料費等諸経費の節減による経済的効果も同時に期待できる。
【0030】
さらに、優良なウシの生産において、交配に使用するウシを選択する際に、上述の評価を交配の指標として使用することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
PPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)についてヘテロ変異体であるウシの産肉形質評価
(1) ヘテロ変異体と非変異体との分別
本実施例では、ヘテロ変異体の雄牛として、鶴丸土井を選び、その産子251頭の産肉形質を比較した。
【0033】
図1は、PPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)について、ヘテロ変異体であることが確認されている鶴丸土井(兵庫県産種雄牛)の産子251頭の調査法の概略を示す。図1において、四角形はオスを示し、丸はメスを示す。また、白抜きはPPARγ2遺伝子について非変異体(野生型)であることを示し、一方、白抜き/黒塗りはPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)についてヘテロ変異体であることを示す。
【0034】
図1に示すように、鶴丸土井は、兵庫県内のメス牛集団とランダムに交配され、生まれた産子は県内の肥育農家で肥育され、県内の屠場で屠殺・格付された。調査に用いた鶴丸土井産子はこのようにして生産された去勢肥育牛251頭である。
【0035】
上述のメス牛集団の大部分はPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)について非変異体であると推定されるので、これら鶴丸土井の産子には1/2の確率でヘテロ変異体と非変異体とが存在すると推定された。
【0036】
これら鶴丸土井の産子251頭の腎臓脂肪組織を用いて、中山らの方法(「バイオ実験イラストレイテッド 2遺伝子解析の基礎」, 1997年, 秀潤社, 東京, p.117-121)によりDNAを調製した。
【0037】
次いで、得られたDNAを鋳型として、以下のミスマッチプライマーセットを用いたPCR-RFLPを行うことによって(相川 勝弘ら, 「日本畜産学会報」, 1999年, 第70巻, J1-J5及び特許文献1参照)、全産子251頭を132頭のヘテロ変異体と119頭の非変異体とに分別した。
ミスマッチプライマーセット;
フォワードプライマー:GCT GTG ATG GGT GAA ACT CTG GGA GA(配列番号3)
リバースプライマー:GTG AGG TCC TTG CAG ACA CTG TGT CA(配列番号4)
【0038】
(2) 産肉形質に関するヘテロ変異体と非変異体との比較
上記(1)で分別したヘテロ変異体と非変異体とについて、産肉形質を調査した。調査した産肉形質は、冷屠体重(図2)、格付面(「牛・豚・枝肉・部分肉取引規格解説書」(平成8年、社団法人 日本食肉格付協会)の第13頁)より得られるロース芯面積、バラ厚、皮下脂肪厚とこれらの値から計算される歩留基準値及び脂肪交雑度を示すウシ脂肪交雑基準値(Beef marbling standard; BMS)であった。
【0039】
なお、統計処理は以下の式を用いて分散分析を行った。
産肉形質ijklmn=総平均+変異の効果i+出荷時期の効果j+系統の効果k+屠場の効果l+年次の効果m+変異と出荷時期の交互作用ij+変異と系統の交互作用ik+残差ijklmn
変異の効果iのiは、ヘテロ変異体であるか非変異体であるかを示す。
【0040】
出荷時期の効果jのjは、全251頭の産子を出荷月齢順に並べ、出荷月齢31.7ヶ月を境として、単純に2つのグループに分け、出荷の早い125頭と出荷の遅い126頭の何れに含まれるかを示す。
【0041】
系統の効果kのkは、産子の母の父である種雄牛(母父牛)が安美系であるか菊美系であるかを示す。
屠場の効果lのlは、2つある屠場の何れを使用したかを示す。
年次の効果mのmは、調査年次2000〜2004年の何れに屠殺したかを示す。
残差ijklmnのnは、同一試験区内の反復を示す。
【0042】
分散分析の結果を以下の表1に示す。また、へテロ変異体及び非変異体についての月齢に対する個体数及び冷屠体重(平均値)の関係を示すグラフを図4に示す。さらに、へテロ変異体及び非変異体についての月齢に対する個体数及びバラ厚(平均値)の関係を示すグラフを図5に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示されるように、非変異体と比較して、ヘテロ変異体では冷屠体重が有意に9.9Kg増加することが明らかとなり、またバラ厚も有意に増加することも示された。さらに変異と出荷時期の交互作用が存在する傾向(P<0.1)が認められたことから、変異の効果は出荷時期と関連があることが示唆された(表1並びに図4及び5)。
(3) 出荷月齢に関連した遺伝子型と産肉成績の比較
表1並びに図4及び5に示されるように、変異の効果は出荷時期と関連があることが示唆された。
【0045】
そこで、全産子251頭(出荷月齢28〜37ヶ月)を、出荷月齢31.7ヶ月を境として、出荷時期の早いグループと出荷時期の遅いグループとに分け、その遺伝子型と産肉成績を比較した。
【0046】
出荷時期の早いグループの分散分析結果を表2に示す。また、出荷時期の遅いグループの分散分析結果を表3に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表2に示されるように、出荷時期の早いグループでは、非変異体と比較して、ヘテロ変異体では冷屠体重が有意に13.9Kg増加することが明らかとなった。また、ヘテロ変異体におけるバラ厚の有意性も増加し、1%水準での有意性が認められた。
【0050】
一方、表3に示されるように、出荷時期の遅いグループでは、非変異体と比較して、ヘテロ変異体におけるこれら冷屠体重とバラ厚の有意な増加は観察されなかった。
【0051】
以上の結果から、ヘテロ変異体における冷屠体重とバラ厚は、出荷時期の早いグループ(出荷月齢の小さいグループ;出荷月齢28〜31.7ヶ月)では増大することが明らかになり、さらに図4及び5より、出荷時期の早いグループ内のヘテロ変異体における冷屠体重及びバラ厚の出荷月齢逆依存的な増加が示された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、ウシの産肉形質を容易に評価することができ、これによってウシの優良産肉形質の判定が容易になり、月齢逆依存性を活用した飼養期間短縮に基づく飼料費等諸経費の節減による経済的効果も同時に期待できることから、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、PPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)について、ヘテロ変異体であることが確認されている鶴丸土井(兵庫県産種雄牛)の産子251頭の調査法の概略を示す。
【図2】図2は、冷凍庫で例えば1日間保管した後のウシ枝肉を示す。
【図3】図3は、ウシPPARγ2遺伝子の遺伝的変異(Ala18Val)について、ヘテロ変異体である4種のウシを含む家系図を示す。
【図4】図4は、へテロ変異体及び非変異体についての月齢に対する個体数及び冷屠体重(平均値)の関係を示すグラフを示す。
【図5】図5は、へテロ変異体及び非変異体についての月齢に対する個体数及びバラ厚(平均値)の関係を示すグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシが、配列番号2に示されるアミノ酸配列における第18番目のアラニンがバリンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子を有するヘテロ変異体であるとき、月齢28〜31ヶ月の範囲内のウシが出荷月齢逆依存的に冷屠体重の増加及び/又はバラ厚の増加を示すという特性を活用したウシの優良産肉形質判定方法。
【請求項2】
上記第18番目のアラニンからバリンの置換は、配列番号1に示される塩基配列における第53番目の塩基がCからTに置換されることによるものであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記ウシは、図3に示す家系図に属するウシ又はその子孫であることを特徴とする、請求項1記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−306869(P2007−306869A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140503(P2006−140503)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1. 刊行物名:近畿中国四国農業研究センター研究報告 第5号 発行所:独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構(現 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究所)近畿中国四国農業研究センター 発行日:平成17年12月7日 2. 2006年度(平成18年)日本畜産学会第106回大会にて発表 主催者名:社団法人日本畜産学会 開催日:平成18年3月29日〜平成18年3月31日 発表日:平成18年3月31日 発表番号:III31−13 講演要旨集発行日:平成18年3月20日
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】