説明

ウシのClaudin−16欠損症の遺伝子診断法

【課題】 ウシClaudin-16欠損症の診断法を提供する。
【解決手段】 ウシClaudin-16欠損症の原因がClaudin-16遺伝子の一部を含む約30 kbに及ぶDNA欠損に起因することを見出し、かかる欠損により、該遺伝子を含む領域が特定のPCRプライマーの使用により増幅できたり、できなかったりすることなどを利用して、該疾患を遺伝子診断する。具体的には対象遺伝子の周辺の領域を特異的に増幅せしめ、当該欠損を検知することにより、診断を行う。ウシのClaudin-16欠損症及びそのキャリアーを簡便かつ迅速に検出し、診断することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ウシのClaudin-16欠損症の遺伝子診断法(又は検出方法)に関する。
【0002】
【発明に関わる語句の定義】本明細書において、「Claudin-16」はClaudin-16遺伝子が転写され翻訳されて生成したタンパク質を意味し、「Claudin-16遺伝子」はClaudin-16をコードしている翻訳領域のエクソン部分、隣接している非翻訳領域のエクソン部分、それらのイントロン部分、該遺伝子の発現の制御に関わる領域に加え、本疾患に関連する変異部分が含まれるDNAの領域を意味する。
【0003】
【従来の技術】Claudin-16欠損症は、先天性腎尿細管形成不全を主徴とする常染色体性劣性遺伝病であり、臨床的には発育不良、背湾姿勢、過長蹄などを呈し、生化学的特徴として血液中のBUN(尿素態窒素)値及びクレアチニン値の高い疾患である。本疾患は、和牛においては1991年以降発生が認められているが、ヒトにおいて同様な疾患の報告は無い。Claudin-16欠損症を発症したウシは、血液中のBUN値及びクレアチニン値の異常な高さを伴う発育不良として発見することができる。しかし、一方の染色体上にのみ異常に関連した遺伝子を有するヘテロ接合体であるウシ、すなわち遺伝的にClaudin-16欠損症のキャリアーであるウシについてはその異常を知ることが難しい。したがって見かけ上は異常の認められないウシ同士を交配させた場合でも生まれてくる子牛に異常が現れることがあり、本疾患の発生を未然に防ぐ上では問題を有している。
【0004】
【発明が解決しようとしている課題】ウシのClaudin-16欠損症を予防する手段の1つとして、ヘテロ接合体同士の交配を避けるという方法が考えられる。そのためにはウシのClaudin-16欠損症の診断を遺伝子レベルで行い、疾患遺伝子のキャリアーを早急に見つけだす必要がある。異常を持つウシの疾患遺伝子が正常なものに比べてどのように変異しているかを明らかにし、様々な遺伝子工学的手法により変異遺伝子を迅速に検出できる手段を得ることができれば、このような遺伝子診断法を確立することができる。したがって、本発明の目的はウシのClaudin-16欠損症の遺伝子診断法(遺伝子検出法)を提供することである。これにより、Claudin-16欠損症のキャリアーをスクリーニングすることによって今後の本疾患の発生を未然に防ぐことができる。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するために研究を重ねた結果、本疾患と密接に関連する約30 kbに及ぶDNAの欠損を見出し、この領域に存在する新規の遺伝子を同定することに成功した。この遺伝子の構造は、最近、マウスで報告されているClaudin遺伝子ファミリー(M. Furuse et al., J. Cell Biol., 141, 1539-1550(1998); K. Morita et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 511-516 (1999))と類似していたため、Claudin-16と命名した。さらに、本発明者らは、DNAの欠損という変異によりClaudin-16遺伝子が発現していないことが本疾患の原因であることを見出し、該遺伝子上に設定した特定のオリゴヌクレオチドプライマーを含むオリゴヌクレオチドプライマーを用いるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法により、かかる変異が検出されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】すなわち、本発明の要旨は、(1)工程(a):ウシの核酸試料を得る行程、工程(b):工程(a)にて得られた核酸試料を遺伝子増幅反応に付して、ウシのClaudin-16遺伝子に存在しうる変異部位を含む領域が増幅された核酸断片を得る工程、及び工程(c):工程(b)の核酸断片について変異の存在を調べる工程、を含むウシのClaudin-16欠損症遺伝子診断法。
(2)変異部位を含む領域がウシClaudin-16遺伝子の塩基配列中、配列表の配列番号:1に示される塩基配列の1〜629位を含む領域である前記 (1)記載の遺伝子診断法。
(3)遺伝子増幅反応が PCR法によって行われる前記(1)又(2)に記載の遺伝子診断法。
(4)変異の存在を核酸断片長型を検出して調べることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の遺伝子診断法。
(5)核酸試料がゲノミックDNA、cDNA、又はmRNAを含む試料である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の遺伝子診断法。
【0007】別の態様では、本発明は、(6)ウシのClaudin-16欠損症を検出するためのキットであって、ウシのClaudin-16遺伝子に存在しうる変異部位を含む領域を遺伝子増幅反応により増幅するのに利用されるオリゴヌクレオチドプライマーを含有していることを特徴とするキット。
(7)オリゴヌクレオチドプライマーが、(a)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの任意の領域に相当する塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び(b)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの任意の領域に対する相補塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなる群から選ばれたものであることを特徴とする上記(6)に記載のキット。
(8)オリゴヌクレオチドプライマーが、(a)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの5'端側の任意の領域に相当する塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び(b)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの3'端側の任意の領域に対する相補塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなる群から選ばれたものであることを特徴とする上記(6)又は(7)に記載のキット。
(9)オリゴヌクレオチドプライマーが、3?100個のヌクレオチドからなるものであることを特徴とする上記(6)〜(8)のいずれかに記載のキット。
(10)オリゴヌクレオチドプライマーが、10?50個のヌクレオチドからなるものであることを特徴とする上記(6)〜(9)のいずれかに記載のキット。
(11)オリゴヌクレオチドプライマーが、15?35個のヌクレオチドからなるものであることを特徴とする上記(6)〜(10)のいずれかに記載のキット。
(12)オリゴヌクレオチドプライマーが、配列表の配列番号2〜7に示されたものからなる群から選ばれたものであることを特徴とする上記(6)〜(11)のいずれかに記載のキット。
【0008】(13)ウシClaudin-16遺伝子及びウシClaudin-16欠損症の遺伝子に対応するヌクレオチド配列又はその相補鎖の全体又はその一部。
(14)(a)配列表の配列番号:1で示されたヌクオチド配列又はその相補鎖の全体又はその一部、(b)前記配列(a)とハイブリッド形成し、PCRによりウシのClaudin-16遺伝子に存在しうる変異部位を含む領域を遺伝子増幅するのに利用できる一切の配列、(c)遺伝子コードの縮退のために前記配列(a)及び(b)から派生した配列からなる群から選ばれたものであることを特徴とする(13)記載の配列。
(15)配列表の配列番号:1で示されたヌクレオチド配列又はその相補鎖の全体又はその一部を含むことを特徴とするヌクレオチド配列。
(16)ゲノミックDNA配列、cDNA配列、RNA配列、ハイブリッド配列、合成配列、及び半合成配列からなる群から選ばれたものであることを特徴とする上記(13)〜(15)のいずれかに記載のヌクオチド配列。
【0009】(17)上記(13)〜(15)のいずれかー記載の配列又は対応するmRNAとハイブリッド形成できることを特徴とするヌクレオチドプローブ。
(18)ウシClaudin-16欠損症を検出するため、ウシのClaudin-16遺伝子に存在しうる変異部位を含む配列を明らかにしたり、及び/又は、単離するための上記(17)記載のヌクレオチドプローブの使用。
(19)上記(6)〜(12)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(20)上記(19)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含有することを特徴とするウシのClaudin-16欠損症用遺伝子診断試薬。
【0010】本発明の目的、特徴、利点及びそのアイデアは、本明細書の記載により当業者には明らかであろう。以下の発明の実施の形態の項の記載及び具体的な実施例などの記載は、本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみここにおいて示されているものであることは理解されるべきであり、本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で様々な改変並びに修飾が、それらの記載に基づいて当業者に容易に明らかになるであろう。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。ウシClaudin-16欠損症の遺伝子診断法(検出方法)の確立:後述のように、ウシClaudin-16欠損症の原因となる遺伝子上の変異が解明され(図1)、この変異を利用して該疾患の検出を行うことができる。具体的なウシClaudin-16欠損症の遺伝子診断法(検出方法)としては、次のような工程を含む様態が例示される。すなわち、工程(a):ウシの核酸試料を得る工程、工程(b):工程(a)にて得られた核酸試料を遺伝子増幅反応に付して、ウシのClaudin-16遺伝子に存在しうる変異部位を含む領域が増幅された核酸断片を得る工程、及び工程(c):行程(b)の核酸断片について変異の存在を調べる工程、である。
【0012】第1に、工程(a)について述べる。本発明に用いられるウシの核酸試料としては、Claudin-16をコードするヌクレオチド配列を有するものであれば特に限定されるものではなく、適当な細胞又は組織由来の核酸(全ゲノムDNA及び細胞の全RNAから転写されたcDNAを包含する)、例えば、ゲノミックDNA、cDNA、mRNA等があげられる。ウシの核酸試料の調整は、公知の方法、例えばMolecular cloning,a laboratory manual (2nd edition)(J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (1989))に記載の方法により行うことができる。
【0013】第2に、工程(b)について述べる。工程(a)で得られた核酸試料及び適当なプライマーを用いて、ウシClaudin-16遺伝子に存在しうる変位部位を含む領域が増幅され、所望の核酸断片を得ることができる。本工程で用いられる遺伝子増幅反応の方法としては、該領域を増幅できる方法であれば特に限定されないが、PCR法、RNAポリメラーゼを利用した核酸増幅法や鎖置換増幅法のような核酸増幅法を利用することができる。なかでもPCR法が好ましく用いられる。増幅の対象となる、変異部位を含む領域としては、ウシClaudin-16遺伝子の塩基配列のうち、ウシClaudin-16欠損症の原因となる変異を含んでいる領域であれば特に限定されず、例えば、配列表の配列番号:1に示される塩基配列の中の1〜629位を含む領域が挙げられる。
【0014】本明細書中、「ポリメラーゼ連鎖反応」又は「PCR」とは、一般的に、米国特許第4683195号明細書に記載されたような方法を指し、例えば、所望のヌクレオチド配列をインビトロで酵素的に増幅するための方法を指している。一般に、PCR法は、鋳型核酸と優先的にハイブリダイズすることのできる2個のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、プライマー伸長合成を行うところのサイクルを繰り返し行うことを含むものである。典型的には、PCR法で用いられるプライマーは、鋳型内部の増殖されるべきヌクレオチド配列に対して相補的なプライマーを使用することができ、例えば、該増幅されるべきヌクレオチド配列とその両端において相補的であるか、あるいは該増幅されるべきヌクレオチド配列に隣接しているものを好ましく使用され得る。
【0015】PCR法は、M. A. Innis, D. M. Gelfaud, J. J. Snindky, & T. J. White (Ed.), PCR protocols: a guide to methods and applications, Academic Press, Inc., New York (1990); M. J. McPherson, P. Quirke & G. R. Taylor (Ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford (1991); R. K. Saiki et al.,Science, 239, 487-491 (1988); M. A. Frohman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998-9002 (1988)などに記載の方法あるいはそれを修飾したり、改変した方法により行うことができる。また、PCR法は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコールに従って実施することもできる。
【0016】本明細書中、「オリゴヌクレオチド」とは、比較的短い一本鎖又は二本鎖のポリヌクレオチドで、好ましくはポリデオキシヌクレオチドが挙げられ、Agnew. Chem. Int. Ed. Engl., Vol. 28, p. 716-734 (1989)に記載されているような既知の方法、例えば、トリエステル法、ホスファイト法、ホスホアミダイト法、ホスホネート法などの方法により化学合成されることができる。通常合成は、修飾された固体支持体上で合成を便利に行うことができることが知られており、例えば、自動化された合成装置を用いて行うことができ、該装置は市販されている。該オリゴヌクレオチドは、一つ又はそれ以上の修飾された塩基を含有していてよく、例えば、イノシンなどの天然においては普通でない塩基あるいはトリチル化された塩基などを含有していてよい。
【0017】PCR法で用いるプライマーとしては、上記の変異部位を含むDNA断片を増幅できるものであれば、特に限定されない。代表的には、プライマーは(a)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの任意の領域に相当する塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び(b)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの任意の領域に対する相補塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを使用することができ、より好ましくは(1)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの5'端側の任意の領域に相当する塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び(2)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの3'端側の任意の領域に対する相補塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを使用することができ、例えば、3〜100個、好ましくは10〜50個、さらに好ましくは15〜35個のヌクレオチドを含有するものが挙げられる。また、PCR条件も特に限定されず、通常行われる公知の条件でよく、例えば、上記した文献の記載を参考に選択することができる。PCRにおいては、DNA鎖の熱変性、プライマーのアニーリング及びポリメラーゼによる相補鎖の合成からなる一つのサイクルが、例えば、10〜50回、好ましくは20〜35回、より好ましくは25〜30回繰り返して行われる。
【0018】第3に、工程(c)について述べる。本工程において、工程(b)で得られる核酸断片について変異の存在が調べられる。変異の存在の検出方法としては、特に限定されないが、PCR法により得られたDNA断片長を調べることにより検出される。DNA断片長を調べる方法は特に限定されないが、ポリアクリルアミド又はアガロースゲル上の電気泳動によりDNA断片を分離し、例えば、既知分子量のマーカーDNAフラグメントの移動度に対してのそれの移動度に基づいて、目的のDNA断片を同定する方法が好まれる。
【0019】上記以外の検出法としては、前記に例示された態様の工程(c)をその他の変異検出方法に変更した方法がある。変異の検出には、例えば変異部位を含む適当なDNA断片をプローブに用いるハイブリダイゼーション法のような公知の変異検出方法が使用できる。さらに、増幅されたDNAを適当なベクターにクローニングして塩基配列を決定する方法や、あるいは増幅断片そのものを鋳型としてその塩基配列を決定する方法によっても変異の検出を行うことができる。
【0020】オリゴヌクレオチドやプローブなどは、検出を容易にするためのラベル成分により標識されていることができる。該ラベル成分は、分光学的手段、光学的手段、生化学的手段、免疫学的手段、酵素化学的手段、放射化学的手段などにより検出できるものであることができる。ラベル成分の例としては、ペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼなどの酵素、32Pなどの放射性ラベル、アイソトープ、ビオチン、蛍光色素、発光物質、発色物質などが挙げられる。
【0021】本発明のウシClaudin-16欠損症の遺伝子診断法(検出方法)により、Claudin-16欠損症を発病しているウシのみならず、Claudin-16欠損症のキャリアーのウシについても検出し、診断することができる。従って、本発明でいうウシClaudin-16欠損症とは、遺伝子的に異常であることを意味し、症状の有無を問わず、またキャリアーを含めて広義に解釈するものとする。
【0022】正常ウシ及びClaudin-16欠損症発症ウシのClaudin-16遺伝子の解析:遺伝子上の変異と本疾患との関連を調べるために、まず正常なウシのClaudin-16をコードする遺伝子(cDNA)を単離し、その塩基配列を明らかにする。該遺伝子が単離された例はこれまで報告されていないが、本発明者らは、本疾患牛を含む家系のゲノム連鎖解析を行い、ポジショナルクローニング法と云われる手法を用いてウシClaudin-16遺伝子を単離した。
【0023】次に、得られた正常ウシのClaudin-16をコードするcDNAの全塩基配列を配列表の配列番号:1に示す。DNA断片の塩基配列の決定(シークエンシング)は、化学分解法(Maxam & Gilbert法)、チェーンターミネーター法(Sangerジデオキシ法)などにより行うことができる。
【0024】Claudin-16欠損症の原因となる遺伝子上の変異は、正常ウシ及び発症ウシのClaudin-16遺伝子の塩基配列を比較することによって明らかにすることができる。すなわち、前記の正常ウシの場合と同様に発症ウシのClaudin-16遺伝子の塩基配列を調べ、これを正常ウシ遺伝子と比較することにより、該疾患の原因である変異を確認することができる。
【0025】本発明ではClaudin-16欠損症ウシのClaudin-16遺伝子上では配列表の配列番号:1に示される正常ウシのClaudin-16遺伝子上のClaudin-16をコードする翻訳領域の塩基配列のうち、1〜629位の部分が欠損する変異を見出した(図1)。
【0026】
【実施例】以下、本発明を実施例、実験例をもってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものでばない。以下の記載では、特に説明がない場合には、D. M. Glover & B. D. Hames (Ed.), DNA Cloning 1, Core Techniques (2nd edition), A Practical Approach, Oxford University Press, Oxford (1995); J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (2nd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); M. A. Innis, D. M. Gelfaud, J. J. Snindky & T. J.White (Ed.), PCR protocols: a guide to methods and applications, Academic Press, Inc., New York (1990); M. J. McPherson, P. Quirke & G. R. Taylor (Ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford (1991)に記載の方法あるいはそれを修飾したり、改変した方法により行われている。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールの指示に従って行ってある。
【0027】[実験例1]
(1) 正常ウシClaudin-16遺伝子の塩基配列の決定まず正常ウシ(和牛)より採取した新鮮な腎臓を材料とし、RNA調製用試薬であるトリゾール(Gibco-BRL社製)を使用して全RNAを調製した。得られた全RNAにオリゴ(dT)nセルロース(社製)を加え、ポリAを含むRNA画分を分離し、mRNA画分とした。このmRNA画分を鋳型に用い、スーパースクリプトcDNA合成キット(Gibco-BRL社製)を使用してcDNAを合成した。上記cDNAから、Uni-ZAPのcDNAライブラリー合成キット(STRATAGENE社製)を用いてcDNAライブラリーを合成した。
【0028】一方、Claudin-16欠損症の疾患牛(29頭)及びそれらの両親牛からなる家系について、多型性DNAマーカーを用いてClaudin-16欠損症と連鎖するウシ染色体の領域を決定した。別に調製したウシの人工酵母染色体(YAC)ライブラリー[文献H. Takeda et al., Animal Genetics, 29, 216-219(1998年)]からこの領域に存在するYACクローンを分離し、さらに該当するコスミドクローンに含まれている遺伝子様構造部分を見い出した。この部位に相当するcDNAを上記のcDNAライブラリーからクローニングし、BigDye Terminator Cycle Sequencing 試薬(PEバイオシステムズ社製)により、377蛍光DNAシークエンサー(PEバイオシステムズ社製)を用いてその塩基配列を決定した。得られた塩基配列のうち翻訳領域の配列を配列表の配列番号:1に示す。この部分の塩基配列を他の既知の遺伝子と比較したところ、Claudin遺伝子ファミリーに属する新規の遺伝子であることが判明し、Claudin-16と命名した。
【0029】(2) Claudin-16遺伝子の発現実験例1-(1)記載の方法にしたがって、mRNA画分を該疾患牛の新鮮な腎臓から調製し、Claudin-16遺伝子の発現について常法に従って調べた。mRNA画分をホルムアルデヒドを含む1%アガロースゲルで電気泳動して、ナイロンメンブレンにブロットし、Claudin-16遺伝子の断片をプローブにしてClaudin-16遺伝子の発現を調べるノーザンブロットを行ったところ、腎臓に特異的に発現する遺伝子で、正常ウシに比べ該疾患牛ではほとんど発現していないことが明かとなった。
【0030】(3) Claudin-16欠損症ウシClaudin-16遺伝子の塩基配列の決定実験例1-(2)に述べたようにClaudin-16欠損症ウシでのClaudin-16遺伝子の発現が認められないことから、ゲノミックDNA上のClaudin-16遺伝子の塩基配列を決定した。実験例1-(1)にて記載しているClaudin-16遺伝子を含むコスミドクローン、及び、該疾患牛のゲノミックDNAから該当する領域のコスミドクローンを材料にショットガン塩基配列決定法を行った。まず、ネブライザーで物理的にコスミドクローンのDNAを約700 bpの大きさに細断し、両端をDNAポリメラーゼで平滑にし、プラスミドにクローニングした。これらのプラスミドクローンから無作為に選び、それぞれ両端からDNAの塩基配列を読んだ。配列表の配列番号:lの配列を参照しつつ塩基配列をつないで、正常ウシとClaudin-16欠損症ウシにおけるClaudin-16遺伝子のDNA塩基配列を決定した。決定された塩基配列を前記の正常ウシについて決定されたものと比較した結果、Claudin-16欠損症ウシのClaudin-16遺伝子では、配列表の配列番号:1に示された塩基配列中、1〜629位を含む約30 kbの欠損が認められた。このため、該疾患牛ではClaudin-16遺伝子の発現が見られないと考えられる。
【0031】[実験例2]
ウシのゲノミツクDNA上のClaudin-16遺伝子の変異が無いことの確認:Claudin-16欠損症ウシに認められた欠損部位を含むDNA断片を増幅するためのプライマーDN-F1、DN-F2、DN-Rを合成した。配列表の配列番号:2、3、4にぞれぞれプライマーDN-F1、DN-F2、DN-Rの塩基配列を示す。
【0032】
DN-F1: tatgctgttg atgtttatgt ag [配列番号:2]
DN-F2: tatgtagaac gttcttctct g [配列番号:3]
DN-R: cccccccccg cctttttc [配列番号:4]
【0033】正常ウシ、Claudin-16欠損症ウシ、及びその母牛の血液(抗擬固剤としてEDTA、ヘパリンを含む)より、自動核酸分離装置NA-1000(クラボウ社製)を用いてゲノミックDNAを調製した。これらのゲノミックDNAを鋳型とし、ブライマーDN-F1とDN-R、及び/又はDN-F2とDN-Rを用いたPCR (TAKARA Taqを使用、94 ℃で1分間、57 ℃で1分間、72 ℃で1分間からなる工程を1サイクルとした40サイクル反応)を行い、反応液を1.5%ゲル(0.5 x TBE)を用いた電気泳動に供し、泳勤後のゲルをエチジムブロマイド染色して増幅DNA断片を確認した。正常ウシとClaudin-16欠損症ウシの母牛のゲノミックDNAを鋳型とした場合、図2aに示すように、375 bp及び/又は360 bpのDNA断片の増幅が見られた。しかし、Claudin-16欠損症ウシのゲノミックDNAを鋳型にした場合は増幅が認められなかった。
【0034】[実験例3]
ウシのゲノミツクDNA上のClaudin-16遺伝子の変異が有ることの確認:Claudin-16欠損症ウシのゲノミックDNAにおいてのみDNA断片を増幅するため、実験例1-(3)記載の約30 kbの欠損部分の両端にプライマーDA-F1、DA-F2、DA-Rを合成した。配列表の配列番号:5、6、7にぞれぞれプライマーDA-F1、DA-F2、DA-Rの塩基配列を示す。
【0035】
DA-F1: attgtatttt taggagtgac tc [配列番号:5]
DA-F2: tgattccata aaccatacag g [配列番号:6]
DA-R: ccccccccca ctctatac [配列番号:7]
【0036】正常ウシ、Claudin-16欠損症ウシ、及びその母牛のゲノミックDNAを鋳型とし、プライマーDA-F1とDA-R、及び/又はDA-F2とDA-Rを用いたPCR (TAKARA Taqを使用、94 ℃で1分間、57 ℃で1分間、72 ℃で1分間からなる工程を1サイクルとした40サイクル反応)を行い、反応液を1.5%ゲル(0.5 x TBE)を用いた電気泳動に供し、泳動後のゲルをエチジムブロマイド染色して増幅DNA断片を確認した。Claudin-16欠損症ウシ、及びその母牛のゲノミックDNAを鋳型とした場合、図2bに示すように、722 bp及び/又は753 bpのDNA断片の増幅が見られたが、正常ウシでは認められなかった。
【0037】これらの結果より、Claudin-16 遺伝子の翻訳領域の1〜629位を含む約30 kbの欠損について、発症ウシの母牛はこの変異に関してへテロ接合体であり、Claudin-16欠損症が染色体性劣性遺伝をする遺伝性疾患であることが確認された。
【0038】
【発明の効果】本発明によりウシのClaudin-16欠損症およぴそのキヤリアーを簡便かつ迅速に検出し、診断することが可能となる。
【0039】
【配列表】
SEQUENCE LISTING<110> Japan Livestock Technology Association<120> Gene Diagnosis for Bovine Claudin-16 Deficiency<130> Co990106(整理番号)
<140><141><160> 7<170> PatentIn Ver.2.0<210> 1<211> 765<212> DNA<213> Bovine<400> 1ATGGGCCCAG GGCTGGCAGC TTCCCATGTG TCCTTTCCAG ACAGTCTGCT CGCTAAGATG 60AGGGATCTTC TTCAGTATGT TGCCTGCTTC TTTGCTTTTT TCTCCGCTGG GTTCTTGGTT 120GTGGCCACCT GGACAGACTG TTGGATGGTG AATGCAGATG ACTCCCTGGA GGTGAGCACA 180AAATGCCGAG GCCTCTGGTG GGAGTGTGTC ACAAATGCTT TTGATGGAAT TCGCACCTGT 240GATGAGTATG ATTCTATACT TGCTGAGCAC TCCTTGAAGC TGGTGGTAAC TCGGGCGCTG 300ATGATTACTG CAGATATTCT AGCTGGATTT GGATTTATTA CTCTGCTCCT TGGACTTGAC 360TGCGTGAAAT TCCTCCCTGA TGAGCCATAC ATCAAAGTCC GCATCAGCTT TGTTGCTGGA 420ACCACGTTAC TAATAGCAGG TGCCCCAGGA ATAATTGGCT CTGTTTGGTA TGCTGTTGAT 480GTTTATGTAG AACGTTCTTC TCTGGTTTTG CACAATATAT TTCTTGGCAT CCAATATAAA 540TTTGGTTGGT CCTGTTGGCT TGGAATGGCT GGTTCTTTGG GTTGTTTTTT GGCTGGTGCT 600ATCCTCACAT GCTGCTTATA CCTGTTCAAA GATGTTGGAC CTGAGAGGAG CTATCCTTAT 660TCCACAAGGA AAGCCTATTC AACAACAGCT GTTTCCATGC CCCGGTCACA TGCGATCCCT 720CGAACACAGA CTGCCAAAAT GTATGCTGTC GACACCAGGG TGTGA 765<210> 2<211> 22<212> DNA<213> Artificial Sequence<220><223> Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR<400> 2tatgctgttg atgtttatgt ag 22<210> 3<211> 21<212> DNA<213> Artificial Sequence<220><223> Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR<400> 3tatgtagaac gttcttctct g 21<210> 4<211> 18<212> DNA<213> Artificial Sequence<220><223> Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR<400> 4cccccccccg cctttttc 18<210> 5<211> 22<212> DNA<213> Artificial Sequence<220><223> Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR<400> 5attgtatttt taggagtgac tc 22<210> 6<211> 21<212> DNA<213> Artificial Sequence<220><223> Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR<400> 6tgattccata aaccatacag g 21<210> 7<211> 18<212> DNA<213> Artificial Sequence<220><223> Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR<400> 7ccccccccca ctctatac 18
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)Claudin-16欠損症ウシ由来のウシClaudin-16遺伝子の欠損部分を示す図である。
(b)欠損部分を検出するためのPCRプライマーの位置。
【図2】(a)Claudin-16遺伝子の変異の無いゲノミックDNAを鋳型とすれば、PCRで増幅することを示す電気泳動パターン図である。
(b)Claudin-16遺伝子の変異の有るゲノミックDNAを鋳型とすれば、PCRで増幅することを示す電気泳動パターン図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 工程(a):ウシの核酸試料を得る行程、工程(b):行程(a)にて得られた核酸試料を遺伝子増幅反応に付して、ウシのClaudin-16遺伝子に存在しうる変異部位を含む領域が増幅された核酸断片を得る行程、及び工程(c):行程(b)の核酸断片について変異の存在を調べる行程、を含むウシのClaudin-16欠損症の遺伝子診断法。
【請求項2】 変異部位を含む領域がウシClaudin-16遺伝子の塩基配列中、配列表の配列番号:1に示される塩基配列の1〜629位を含む領域である請求項1に記載の遺伝子診断法。
【請求項3】 遺伝子増幅反応がPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法によって行われる請求項1又は2に記載の遺伝子診断法。
【請求項4】 変異の存在をPCR増幅により調べることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の遺伝子診断法。
【請求項5】 核酸試料がゲノミックDNA、cDNA、又はmRNAを含む試料である請求項1〜4のいずれか一項に記載の遺伝子診断法。
【請求項6】 ウシのClaudin-16欠損症を検出するためのキットであって、ウシのClaudin-16遺伝子に存在しうる変異部位を含む領域を遺伝子増幅反応により増幅するのに利用されるオリゴヌクレオチドプライマーを含有していることを特徴とするキット。
【請求項7】 オリゴヌクレオチドプライマーが、(a)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの任意の領域に相当する塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び(b)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの任意の領域に対する相補塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項6に記載のキット。
【請求項8】 オリゴヌクレオチドプライマーが、(1)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの5'端末の領域に相当する塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び (2)配列表の配列番号:1に示された塩基配列のうちの3'端末の領域に対する相補塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項6又は7に記載のキット。
【請求項9】 オリゴヌクレオチドプライマーが、3〜100個のヌクレオチドからなるものであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】 オリゴヌクレオチドプライマーが、10〜50個のヌクレオチドからなるものであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】 オリゴヌクレオチドプライマーが、15〜35個のヌクレオチドからなるものであることを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載のキット。
【請求項12】 オリゴヌクレオチドプライマーが、配列表の配列番号2〜7に示されたものからなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項6〜11のいずれか一項に記載のキット。
【請求項13】 ウシClaudin-16遺伝子及びウシClaudin-16欠損症の遺伝子に対応するヌクレオチド配列又はその相補鎖の全体又はその一部。
【請求項14】 (a)配列表の配列番号:1で示されたヌクオチド配列又はその相補鎖の全体又はその一部、(b)前記配列(a)とハイブリッド形成し、PCRによりウシのClaudin-16遺伝子に存在しうる変異部位を含む領域を遺伝子増幅するのに利用できる一切の配列、(c)遺伝子コードの縮退のために前記配列(a)及び(b)から派生した配列からなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項13に記載の配列。
【請求項15】 配列表の配列番号:1で示されたヌクレオチド配列又はその相補鎖の全体又はその一部を含むことを特徴とするヌクレオチド配列。
【請求項16】 ゲノミックDNA配列、cDNA配列、RNA配列、ハイブリッド配列、合成配列、及び半合成配列からなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項に記載のヌクオチド配列。
【請求項17】 上記請求項13〜15のいずれかに記載の配列又は対応するmRNAとハイブリッド形成できることを特徴とするヌクレオチドプローブ。
【請求項18】 ウシClaudin-16欠損症を検出するため、ウシのClaudin-16遺伝子に存在しうる変異部位を含む配列を明らかにしたり、及び/又は、単離するための上記請求項17に記載のヌクレオチドプローブの使用。
【請求項19】 上記請求項6〜12のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
【請求項20】 上記請求項19記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含有することを特徴とするウシのClaudin-16欠損症用遺伝子診断試薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−270880(P2000−270880A)
【公開日】平成12年10月3日(2000.10.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−84373
【出願日】平成11年3月26日(1999.3.26)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(595038556)社団法人畜産技術協会 (10)
【Fターム(参考)】