説明

ウナギ蛍光タンパク質

【課題】ウナギ由来の蛍光タンパク質を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有し、分子量が16kDa〜17kDa、好ましくは16.5kDa、であり、蛍光波長が480nm〜600nm、好ましくは527nm、及び励起波長が480nm〜540nm、好ましくは493nm、であるウナギ蛍光タンパク質。
【効果】前記ウナギ蛍光タンパク質と外来タンパク質とを連結した融合タンパク質を形質転換体で発現させることにより、前記外来タンパク質の発現、局在又は相互作用を評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ウナギ由来の蛍光タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
オワンクラゲ(Aequorea victorea)から得られた緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein :GFP)は、動植物細胞や生物個体における遺伝子マーカーとして、あるいは細胞内オルガネラの可視化、タンパク質の局在の可視化及びタンパク質間の相互作用の可視化に活発に利用されている(非特許文献1〜3)。
【0003】
非特許文献1には、例えば、オワンクラゲ由来GFP等の蛍光タンパク質やその変異体を目的のタンパク質と融合させることで、生細胞中でのタンパク質の配置、移動又は化学現象の分析を行うことができることが開示されている。
非特許文献2には、様々な花中類(Anthozoa)由来のGFP様タンパク質について開示されている。
さらに、非特許文献3には、光活性化可能な蛍光タンパク質の特性及びその用途について記載されている。
【0004】
現在市販されているオワンクラゲあるいは花虫類由来GFPの分子量は、26kDa程である。また、これらのGFPの中には、2量体や4量体を形成するものがある。
【0005】
一般的に、外来遺伝子を細胞に導入し、外来遺伝子からコードされるタンパク質を当該細胞内で発現させる場合には、凝集が起こり難い点から、単量体で、且つ分子量の小さなタンパク質が有利であるといえる。このような理由から、上述した様々な用途でGFP等の蛍光タンパク質を使用する場合には、単量体で、且つ分子量の小さな蛍光タンパク質が有利である。そこで、単量体で、且つ分子量のより小さな蛍光タンパク質が見出されることが期待されている。
【0006】
一方、脊椎動物由来の蛍光タンパク質については、従来知られていなかったが、本発明者は、日本ウナギ(Anguilla japonica)の筋肉に蛍光タンパク質が存在することを見出した(非特許文献4及び5)。しかしながら、当該蛍光タンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子については十分に分析されていなかった。
【0007】
【非特許文献1】Jennifer Lippincott-Schwartz及びGeorge H. Patterson, 「Science」, 2003年, 第300巻, p.87-91
【非特許文献2】Vladislav V Verkhusha及びKonstantin A Lukyanov, 「Nature Biotechnology」, 2004年, 第22巻, p.289-296
【非特許文献3】Konstantin A. Lukyanov, Dmitry M. Chudakov, Sergey Lukyanov及びVladislav V. Verkhusha, 「Nature Reviews/Molecular Cell Biology」, 2005年, 第6巻, p.885-891
【非特許文献4】本田将雄, 岸野仁輔, 今村美由紀, 林征一, 「平成16年度日本水産学会大会 講演要旨集」, 2004年4月2日, p.203, 1101
【非特許文献5】本田将雄, 小野一也, 林征一, 「平成17年度日本水産学会大会 講演要旨集」, 2005年4月1日, p.138, 716
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した実情に鑑み、ウナギ由来の蛍光タンパク質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ウナギから水性抽出物を得て、該抽出物から蛍光タンパク質を精製し、トリプシン消化や配列決定分析を行うことで、特定の部分アミノ酸配列を有し、分子量16kDa〜17kDaで、且つ蛍光波長480nm〜600nm及び励起波長400nm〜540nmのウナギ蛍光タンパク質を単離・同定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下を包含する。
(1)以下の(a)〜(d)の特徴を有するウナギ蛍光タンパク質。
(a) 配列番号1〜8に示されるアミノ酸配列
(b) 配列番号10又は12に示されるアミノ酸配列
(c) 分子量16kDa〜17kDa
(d) 蛍光波長480nm〜600nm及び励起波長400nm〜540nm
(2)上記分子量が16.5kDaであることを特徴とする、(1)記載のウナギ蛍光タンパク質。
(3)蛍光最大波長が527nmであることを特徴とする、(1)記載のウナギ蛍光タンパク質。
(4)励起最大波長が493nmであることを特徴とする、(1)記載のウナギ蛍光タンパク質。
(5)(1)〜(4)のいずれか1記載のウナギ蛍光タンパク質をコードするDNA。
(6)配列番号9又は11に示される塩基配列を有することを特徴とする、(5)記載のDNA。
(7)(5)又は(6)記載のDNAを含む組換えベクター。
(8)(1)〜(4)のいずれか1記載のウナギ蛍光タンパク質と外来タンパク質とを連結した融合タンパク質。
(9)(8)記載の融合タンパク質をコードするDNA。
(10)(9)記載のDNAを含む組換えベクター。
(11)(10)記載の組換えベクターを有する形質転換体。
(12)(11)記載の形質転換体を培養し、ウナギ蛍光タンパク質と外来タンパク質とを連結した融合タンパク質をコードするDNAを発現させる工程と、前記ウナギ蛍光タンパク質の蛍光に基づき、前記外来タンパク質の発現、局在又は相互作用を評価する工程とを含むことを特徴とする、タンパク質の発現、局在又は相互作用評価方法。
(13)(11)記載の形質転換体を培養し、ウナギ蛍光タンパク質と外来タンパク質とを連結した融合タンパク質をコードするDNAを発現させる工程と、前記ウナギ蛍光タンパク質の蛍光に基づき、細胞内オルガネラを可視化する工程とを含み、前記外来タンパク質が前記細胞内オルガネラに特異的なタンパク質であることを特徴とする、細胞内オルガネラの可視化方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分子生物学分野等で有用な蛍光タンパク質が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は、以下の(a)〜(d)の特徴を有するタンパク質である。
(a) 配列番号1〜8に示されるアミノ酸配列
(b) 配列番号10又は12に示されるアミノ酸配列
(c) 分子量16kDa〜17kDa
(d) 蛍光波長480nm〜600nm及び励起波長400nm〜540nm
【0013】
本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は、日本ウナギから水性抽出物を得て、該抽出物から単離・精製された。精製したウナギ蛍光タンパク質のアミノ酸配列決定分析によれば、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は、上記(a)及び(b)のアミノ酸配列を有することが見出された。
【0014】
以下では、上記(a)〜(d)の各特徴を説明する。
(a)及び(b) 本発明に係るウナギ蛍光タンパク質が有する部分アミノ酸配列
精製したウナギ蛍光タンパク質をトリプシン消化に供し、さらに得られたペプチド8種をアミノ酸配列決定分析に供した。その結果、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は、配列番号1〜8に示されるアミノ酸配列を有する。
【0015】
さらに、配列番号1〜8に示されるアミノ酸配列に基づいて設計したプライマーを用いて、ウナギmRNAと逆転写酵素とを用いて得られた1本鎖cDNAを鋳型としてPCRを行い、ウナギ蛍光タンパク質をコードするDNAのDNA断片を2種得た。次いで、得られた2種のDNA断片を塩基配列決定分析に供した。その結果、配列番号10に示されるアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号9)及び配列番号12に示されるアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号11)が得られた。すなわち、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は、配列番号10又は12に示されるアミノ酸配列を有する。配列番号10又は12に示されるアミノ酸配列は56アミノ酸から成り、上記(c)の特徴(分子量16kDa〜17kDa)を考慮すると、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質の全長の約3分の1に相当する。配列番号10に示されるアミノ酸配列と配列番号12に示されるアミノ酸配列とは、21位及び35位のアミノ酸が異なる。また、配列番号10及び12に示されるアミノ酸配列のN末端は上述した配列番号8に示されるアミノ酸配列と一致する。さらに、C末端は上述した配列番号5に示されるアミノ酸配列と一部一致する。
【0016】
(c) 本発明に係るウナギ蛍光タンパク質の分子量
精製した本発明に係るウナギ蛍光タンパク質をSDS-PAGEに供した結果、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質の分子量は16kDa〜17kDa(例えば16.5kDa)である。
【0017】
(d) 本発明に係るウナギ蛍光タンパク質の蛍光波長及び励起波長
精製した本発明に係るウナギ蛍光タンパク質をスペクトル測定に供した結果、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質の蛍光波長は480nm〜600nmであり、特に、蛍光最大波長は527nmである。また、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質の励起波長は400nm〜540nmであり、特に励起最大波長は493nmである。本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は自己完結的に黄緑色に発光する。ここで、「自己完結的」とは、ウナギ蛍光タンパク質中の発色団形成に酸素以外の物質(例えば、酵素など)を必要としないことを意味する。
【0018】
以上に説明した本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は、外来タンパク質と連結された融合タンパク質(以下では、「本発明に係る融合タンパク質」という)とすることができる。すなわち、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は、レポータータンパク質として使用できる。ここで、外来タンパク質とは、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質に対して外因的なタンパク質(ポリペプチド、ペプチドを含む)を意味する。外来タンパク質としては、例えば、発現や特定の細胞内オルガネラにおける局在の評価目的のタンパク質等が挙げられる。例えば、本発明に係る融合タンパク質をコードするDNAを含む組換えベクターを、宿主に形質転換することで、外来タンパク質を融合タンパク質として発現させることができる。次いで、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質の蛍光に基づき、外来タンパク質の発現量や特定の細胞内オルガネラにおける局在を評価することができる。本発明に係るウナギ蛍光タンパク質に対して外来タンパク質を連結する位置は、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質と外来タンパク質とがそれぞれの機能又は活性を有するように適宜選択することができる。
【0019】
本発明に係るDNAは、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質をコードするDNA又本発明に係る融合タンパク質をコードするDNAである。これらDNAを含む組換えベクターを宿主に導入することで、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質又は融合タンパク質を発現し、産生させることができる。好ましくは、本発明に係るDNAは、上述した配列番号10に示されるアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号9に示される塩基配列)又は配列番号12に示されるアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号11に示される塩基配列)を有する。
【0020】
本発明に係るウナギ蛍光タンパク質をコードするDNA又は外来タンパク質をコードするDNAは、例えば、これらDNAが由来する生物(例えば、日本ウナギ)のゲノムDNA等を鋳型として、該領域の両端の塩基配列に相補的なプライマーを用いたPCRによって容易に得ることができる。なお、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質をコードするDNAは、上述した配列番号1〜8に示されるアミノ酸配列や配列番号10又は12に示されるアミノ酸配列に基づいて設計したプライマーを用いて、日本ウナギのゲノムDNAやcDNAを鋳型としてPCRによって容易に得ることができる。あるいは、日本ウナギのゲノムDNAやcDNAのライブラリーから、上述した配列番号1〜8に示されるアミノ酸配列や配列番号10又は12に示されるアミノ酸配列に基づいて設計したプローブを用いたハイブリダイゼーションによるスクリーニングによって本発明に係るウナギ蛍光タンパク質をコードするDNAを得ることができる。また、本発明に係る融合タンパク質をコードするDNAの調製は、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質をコードするDNAと外来タンパク質をコードするDNAとを適当な制限酵素で切断し、連結することにより行われる。
【0021】
本発明に係る組換えベクターは、適当なベクターに本発明に係るDNAを挿入することにより得ることができる。本発明に係るDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミド、ファージ、シャトルベクター、ヘルパープラスミド等が挙げられる。なお、ベクターには、宿主中で本発明に係るDNAから本発明に係るウナギ蛍光タンパク質又は本発明に係る融合タンパク質が発現するように、プロモーター等が適宜含有されている。
【0022】
プラスミドとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13等のYEp系、YCp50等のYCp系)等が挙げられ、ファージとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルス等の動物ウイルスベクター、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0023】
ベクターに本発明に係るDNAを挿入するには、まず、精製された本発明に係るDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法等が採用される。またベクターと本発明に係るDNAのそれぞれ一部に相同な領域を持たせることにより、PCR等を用いたin vitro法又は酵母等を用いたin vivo法によって両者を連結する方法であってもよい。
【0024】
本発明に係る形質転換体は、本発明に係る組換えベクターを宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、特に限定されるものではないが、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属又はシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属等に属する細菌、COS細胞等の動物細胞、Sf9等の昆虫細胞、あるいはアブラナ科等に属する植物が挙げられる。
【0025】
酵母への本発明に係る組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えば電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。また、YIp系等のベクターあるいは染色体中の任意の領域と相同なDNA配列を用いた染色体への置換・挿入型の酵母の形質転換法であってもよい。
【0026】
細菌への本発明に係る組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0027】
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞等が用いられる。動物細胞への本発明に係る組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0028】
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞等が用いられる。昆虫細胞への本発明に係る組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0029】
植物を宿主とする場合は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、植物培養細胞等が用いられる。植物への本発明に係る組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法等が挙げられる。
【0030】
形質転換されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、本発明に係るDNAに特異的なプライマーを設計してPCRを行う。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用してもよい。
【0031】
このようにして得られた形質転換体(本発明に係る融合タンパク質をコードするDNAを有する組換えベクターにより形質転換)を用いて、外来タンパク質の発現又は細胞内における局在を評価することできる。先ず、得られた形質転換体を培養し、本発明に係る融合タンパク質を発現させる。培養条件は、宿主に応じて適宜決定することができるが、発現する本発明に係る融合タンパク質が機能又は活性を有するような条件を選択する。本発明に係る融合タンパク質の発現後、例えば、蛍光検出器(例えば、日立F-2000形分光蛍光光度計)を用いて、又はフローサイトメトリーにより、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質の蛍光強度を測定する。このようにして測定された蛍光強度に基づき、本発明に係る融合タンパク質の発現量を計算することができる。あるいは、本発明に係る融合タンパク質の発現後、蛍光顕微鏡等により、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質の蛍光に基づき、本発明に係る融合タンパク質(すなわち、外来タンパク質)の細胞内オルガネラにおける局在を確認することができる。
【0032】
また、本発明に係る形質転換体を用いて、外来タンパク質のタンパク質間相互作用を評価することができる。例えば、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質に連結した外来タンパク質と結合する別のタンパク質を、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質とは蛍光波長が異なる(例えば、蛍光波長が10nm以内で異なる)別の蛍光タンパク質と連結し、本発明に係る形質転換体に同時に発現させる。次いで、双方の外来タンパク質が相互作用(結合)することにより、一方の蛍光タンパク質が他方の蛍光タンパク質を励起することにより、当該外来タンパク質間の相互作用を評価することができる。
【0033】
さらに、以下のような応用例に本発明に係るウナギ蛍光タンパク質を使用することができる。本発明に係るウナギ蛍光タンパク質と他の蛍光タンパク質(例えば、シアン蛍光タンパク質(CFP)や黄色蛍光タンパク質(YFP))との間にカスパーゼ(アポトーシスに関係するタンパク質分解酵素)の基質ペプチドを連結した本発明に係る融合タンパク質(この場合、外来タンパク質は他の蛍光タンパク質及び基質ペプチドである)を本発明に係る形質転換体で発現させる。次いで、細胞内にカスパーゼが存在する場合には、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質と他の蛍光タンパク質との間の基質ペプチドが切断されて、FRET(fluorescence resonance energy transfer)が消失することとなる。また、チロシンキナーゼやセリン/スレオニンキナーゼ等のキナーゼのレポーターとして、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質を使用できる。本発明に係るウナギ蛍光タンパク質と他の蛍光タンパク質とにそれぞれ、一方にキナーゼの基質ペプチドを、他方にリン酸化アミノ酸に結合するドメイン部分を連結した融合タンパク質を本発明に係る形質転換体に同時に発現させる。次いで、細胞内にキナーゼが存在する場合には、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質と他の蛍光タンパク質との間でFRETが生じる。このような手法は、例えば、癌遺伝子(Abl、Src)、上皮増殖因子受容体、インシュリン受容体、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼCにも適用されている(J. Zhangら, Nature Reviews Molecular Cell Biology, 3(12), 906-918 (2002))。
【0034】
あるいは、本発明に係る形質転換体を用いて、細胞内オルガネラを可視化することができる。この場合には、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質に連結する外来タンパク質は、可視化対象の細胞内オルガネラに特異的なタンパク質とする。このような外来タンパク質/可視化対象の細胞内オルガネラとしては、例えば、ヒトα-チューブリン/微小管、カルレチキュリンの局在化配列/小胞体、ヒトβ1,4-ガラクトシル基転移酵素由来局在化配列/ゴルジ体、neuromodulinのpalmitoylationドメイン由来ファルネシア配列/膜、チトクロムc酸化酵素のサブユニットVIII由来局在化配列/ミトコンドリア、及びSV40T抗原の核局在化シグナル/核(CLONTECH総合カタログ2000、pp.210-211)が挙げられる。例えば、本発明に係る形質転換体を培養すると、本発明に係る融合タンパク質が可視化対象の細胞内オルガネラに発現されることとなる。その結果、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質により当該細胞内オルガネラが可視化される。
【0035】
以上に説明した本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は、分子量16kDa〜17kDaであり、例えば、従来より使用されているオワンクラゲ由来GFP(26kDa)に比べて約10kDa小さい。低分子量であることは、蛍光タンパク質と融合したタンパク質の機能が損なわれないこと、凝集し難いこと、タンパク質合成が速やかに完了すること、の点から有利である。
【0036】
また、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は単量体である。一方、オワンクラゲあるいは花中類由来GFPの中には2量体や4量体を形成するGFPが存在する。従って、本発明に係るウナギ蛍光タンパク質は取り扱いの点で従来のGFPと比べて容易である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 ウナギ蛍光タンパク質の抽出及び精製
1. 材料及び方法
1-1. 実験材料
養殖された日本ウナギを使用した。
【0038】
1-2. 試薬等
コラゲナーゼは、新田ゼラチン株式会社製のものを使用した。
また、SephadexG50、SephadexG75、Source15Q PE4.5/100カラム及びSuperdex75 HR10/30カラムは、GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社(旧社名:アマシャムバイオサイエンス株式会社)より入手した。
【0039】
1-3. ウナギ蛍光タンパク質の抽出方法
0.25% 2-フェノキシエタノール水中で麻酔したウナギから皮膚及び骨を除いた筋肉を肉挽き器で細切した。
次いで、細切した筋肉100gに対して以下の操作を行った。
まず、細切した筋肉100gをミキサーにとり、これに500mlの20mM Na-リン酸バッファー(pH7.5)-1mM EDTAを加え、ホモジナイズした。得られたホモジネートを1Lビーカーにとり、一方、ミキサーを同バッファー100mlで洗浄し、得られた洗浄液もホモジネートに合わせた。
【0040】
次いで、ホモジネートを、約200mlずつ超音波(Ultrasonic Generator 4280, KAIJO DENKI)処理に供した。超音波処理後、ホモジネートのpHを7.5に調整した後、6,000xg、5℃で30分間、遠心分離を行った。
遠心分離後、上清を2Lビーカーにとり、一方、沈殿を300mlの20mM Na-リン酸バッファー(pH7.5)-1mM EDTAに懸濁し、ミキサーで再度ホモジナイズした。再度遠心分離後、得られた上清を先の遠心分離で得られた上清と合わせ、これを抽出液(水性抽出物)とした。
【0041】
1-4. ウナギ蛍光タンパク質の精製方法
ウナギ蛍光タンパク質の精製を以下の手順に従って行った。
(1) 硫安塩析
上記1-3で得られた抽出液に、60%飽和硫安溶液となるように硫安を加えた。硫安添加後の溶液のpHを7.5に合わせた。
次いで、溶液を低温室(5℃)において150〜250rpmで3時間撹拌した後、6,000xg、5℃で30分間、遠心分離を行った。遠心分離後、得られた上清に90%飽和硫安溶液となるように硫安を添加し、pHを7.6に調整した後、一晩150〜250rpmで撹拌した。その後、撹拌を止め、溶液を24時間低温室に静置した。24時間の静置後、溶液を6,000xg、5℃で60分間遠心分離し、集めた沈殿を60〜90%飽和硫安画分とした。
【0042】
(2) SephadexG75カラム(カラムサイズ26 x 400mm)を用いたカラムクロマトグラフィー
上記(1)で得られた60〜90%飽和硫安画分を、20mM Na-リン酸バッファー(pH7.5)-1mM EDTA-10%グリセロール-0.15M NaClに溶解した後、同バッファー中で透析を行った。透析した試料を、同バッファーで平衡化したSephadexG75カラムに添加し、流速0.36ml/分で3mlずつ分画を行った。
【0043】
(3) ヒドロキシアパタイトカラム(カラムサイズ36 x 48mm)を用いたカラムクロマトグラフィー
ヒドロキシアパタイトは、Tiselius等(A. Tiselius, S. Hjerten, and O. Levin (1956): Protein chromatography on calcium phosphate columns. Arch. Biochem. Biophys., 65, 132-155)の方法に従って調製したものを用いた。具体的には、以下の操作によりヒドロキシアパタイトを調製した。
【0044】
先ず、2Lビーカーに水を約150ml入れた。次いで、スターラーで撹拌しながら、0.5M Na2HPO4500mlと0.5M CaCl2 500mlとを上記ビーカーに滴下添加し、その後、約20分間静置した。静置後、上清を吸引除去した。
【0045】
次いで水を約1L添加し、ガラス棒でゆっくり撹拌した後、約3分間静置した。静置後、上清を吸引除去した。この約1Lの水の添加から上清の吸引除去までの操作を計4回繰り返した。
【0046】
その後、水を約1L添加した後、撹拌機で撹拌しながら40%(w/w)NaOH 25mlを添加した。次いで、撹拌機で撹拌しながら、ガスバーナーで加熱し、1時間煮沸した。煮沸後、火を消し、さらに約5分間撹拌し続け、その後約3分間静置した。静置後、上清を吸引除去した。
【0047】
次いで、水を約1L添加し、ガラス棒でゆっくり撹拌した後、約3分間静置した。静置後、上清を吸引除去した。この約1Lの水の添加から上清の吸引除去までの操作を計4回繰り返した。
【0048】
その後、1Lビーカー中で0.01M Na2HPO4 500mlと0.01M NaH2PO4500mlとを混合した混合液を、上記2Lビーカーに加え、撹拌機で撹拌しながら、ガスバーナーで加熱し、沸騰直前で火を消した。なお、撹拌は火を消した後、さらに5分間行い、その後約3分間静置した。
【0049】
次いで、静置後、上清を吸引除去し、0.01M Na2HPO4 500mlと0.01M NaH2PO4500mlとを混合した混合液を加え、撹拌しながら5分間煮沸した後、火を消した。火を消してから更に5分間撹拌した後、約3分間静置した。
【0050】
静置後、上清を吸引除去し、0.01M Na2HPO4 500mlと0.01M NaH2PO4500mlとを混合した混合液を加え、撹拌しながら15分間煮沸した後、火を消した。火を消してから更に5分間撹拌した後、約3分間静置した。
【0051】
さらに、静置後、上清を吸引除去し、0.001M Na2HPO4 500mlと0.001M NaH2PO4500mlとを混合した混合液を加え、撹拌しながら15分間煮沸した後、火を消した。火を消してから更に5分間撹拌した後、約3分間静置した。静置後、上清を吸引除去した。この0.001M Na2HPO4 500mlと0.001M NaH2PO4 500mlとを混合した混合液の添加から上清の吸引除去までの操作を計2回繰り返した。
【0052】
次いで、0.5mM Na2HPO4 350mlと0.5mM NaH2PO4350mlとを混合した混合液を加え、撹拌した後、500mlメスシリンダーに移し、一晩静置した。
【0053】
一晩の静置後、上清を除き、得られたゲル(ヒドロキシアパタイト)を0.02%NaN3溶液中で保存した。
【0054】
このようにして調製したヒドロキシアパタイトを用いて、以下で使用するヒドロキシアパタイトカラムを作製した。
【0055】
上記(2)により得られたウナギ蛍光タンパク質画分を、20mM Na-リン酸バッファー(pH7.0)中で透析した後、同バッファーで平衡化したヒドロキシアパタイトカラムに添加した。
【0056】
ヒドロキシアパタイトカラムからのウナギ蛍光タンパク質の溶出は、20mM Na-リン酸バッファー(pH7.0) 300ml、0.25M K-リン酸バッファー(pH7.0) 300mlの直線濃度勾配により行った。流速を1.16ml/分とし、5mlずつ分画を行った。ウナギ蛍光タンパク質画分を集め、10mM NH4HCO3中で透析した後、真空凍結乾燥を行うことで凍結乾燥させた。
【0057】
(4) SephadexG50カラム(カラムサイズ26 x 970mm)を用いたカラムクロマトグラフィー
上記(3)で得られた凍結乾燥試料を、20mM Tris-HCl(pH7.5)-1mM EDTA-0.15M NaClに溶解した後、18,000xg、5℃で30分間、遠心分離した。遠心分離後、得られた上清を、同バッファーで平衡化したSephadexG50カラムに添加した。流速を0.21ml/分とし、3mlずつ分画を行った。
分画後、ウナギ蛍光タンパク質画分を集め、10mM NH4HCO3中で透析し、真空凍結乾燥に供した。
【0058】
(5) ヒドロキシアパタイトカラム(カラムサイズ10 x 125mm)を用いたカラムクロマトグラフィー
上記(4)で得られた凍結乾燥試料を、少量の20mM Na-リン酸バッファー(pH7.0)に溶解し、再度ヒドロキシアパタイトカラム(10 x 125mm)に添加した。なお、ヒドロキシアパタイトは上記(3)で調製したものと同様であった。
ヒドロキシアパタイトカラムからのウナギ蛍光タンパク質の溶出は、0.25M K-リン酸バッファー(pH7.0)の直線濃度勾配により行った。流速を0.3ml/分とし、1.5mlずつ分画を行った。溶出後、ウナギ蛍光タンパク質画分を集め、10mM NH4HCO3中で透析し、真空凍結乾燥を行うことで凍結乾燥させた。
【0059】
(6) Source15Q PE 4.6/100カラム(カラムサイズ4.6 x 100mm)を用いたカラムクロマトグラフィー
上記(5)で得られた凍結乾燥試料を、少量の20mM Tris-HCl(pH7.5)に溶解し、15,000xgで2分間遠心分離した。遠心分離後、得られた上清をSource15Q PE 4.6/100カラムに添加した。なお、Source15Q PE 4.6/100カラムは、予め同バッファーで平衡化した。流速を1ml/分とし、溶出を20mM Tris-HCl(pH7.5)-0.25M NaClの直線濃度勾配により行い、1mlずつ分画した。
【0060】
なお、上記(5)及び(6)の操作では、AKTApurifier(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)の装置にカラムをセットし、UNICORN(V. 3.00)のソフトウェアを用いて行った。
【0061】
1-5. 蛍光測定
蛍光測定は、日立分光蛍光光度計(F-2000)により行った。
【0062】
1-6. SDS-PAGE
SDS-PAGEは、Laemmliの方法(U. K. Laemmli (1970): Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature, 227,680-685)に従って行った。
【0063】
1-7. タンパク質定量
タンパク質定量は、Smith等の方法(P. K. Smith, R. I. Krohn, G. T. Hermanson, A. K. Mallia, F. H. Gartner, M. D. Provenzano, E. K. Fujita, N. M. Goeke, B. J. Olson, and D. C. Klank (1985): Measurement of protein using bicinchoninic acid. Anal. Biochem., 150, 76-85)に従って測定した。なお、標準タンパク質にはウシ血清アルブミンを用いた。測定には日立分光光度計(U-2001)を用いた。
【0064】
1-8. ウナギ筋肉及び筋細胞の蛍光観察
ウナギ遊離筋細胞の調製は、Alam等の方法(N. Alam, K. Nakamura, and S. Hayashi (2004): Lipoprotein metabolism in a coculture system with eel skeletal muscle cells and hepatocytes. Fisheries Science, 70, 326-335)に従って、コラゲナーゼを用いて調製した。ウナギ筋肉断面、遊離筋細胞の蛍光観察は、蛍光実体顕微鏡(Leika MZ FLIII)を用いて行った。
【0065】
2. 結果
2-1. ウナギ筋肉及びウナギ筋細胞の蛍光観察
ウナギ筋肉横断面の白色光による写真(上の写真)及び蛍光写真(下の写真)を図1Aに示す。下の蛍光写真は、励起フィルター(450〜490nm)及び蛍光フィルター(500〜550nm)で観察した蛍光写真である。図1Aに示すように、背骨の周辺に黄緑色の蛍光が見られた。
【0066】
一方、ウナギ遊離筋細胞の白色光による写真(上の写真)及び蛍光写真(下の写真)を図1Bに示す。下の蛍光写真は、上述した励起フィルター及び蛍光フィルターで観察したものである。筋細胞のサイズは、長さ2.5〜3.0mm及び幅15〜25μmであった。図1Bに示すように、筋細胞の中には、蛍光を持つ筋細胞と持たない筋細胞とが存在することが分かった。このことは、図1Aに示す筋肉横断面の蛍光写真が蛍光を持つ部分と持たない部分とが存在することと一致している。
【0067】
2-2. ウナギ筋肉からのウナギ蛍光タンパク質の精製
下記の表1は、400gの筋肉からウナギ蛍光タンパク質を精製した結果をまとめたものである。具体的には、上記1-3及び1-4の各ステップ後に得られた試料についての結果を要約している。
【0068】
【表1】

【0069】
表1中、「容量(ml)」は各ステップ後に得られた試料容量(ml)である。「タンパク質(mg/ml)」は各ステップ後に得られた試料中のタンパク質濃度(mg/ml)である。「全タンパク質(mg)」は各ステップ後に得られた試料中の全タンパク質量(mg)である。「Em/ml」は溶液1ml当たりの527nmでの蛍光強度である。「Em/mg」はタンパク質1mg当たりの527nmでの蛍光強度である。「全Em」はEm/ml × 全容量(ml)又はEm/mg × 全タンパク質(mg)である。「%」はホモジネートの総蛍光強度(全Em)に対する各ステップの総蛍光強度の割合である。
【0070】
表1に示すように、Source15Q PE 4.6/100カラムを用いた最終精製後のウナギ蛍光タンパク質の比蛍光強度(Em/mg タンパク質)は、抽出液の約3200倍となった。抽出の際、超音波処理を行うことにより、60〜90%飽和硫安画分へのウナギ蛍光タンパク質の回収率を高くすることができた。なお、硫安塩析におけるウナギ蛍光タンパク質の回収率を上げるために、60%以下の飽和硫安画分を加えると、SephadexG75カラムによる精製効率を著しく低下させた。
【0071】
図2に、SephadexG75カラムによるウナギ蛍光タンパク質精製時の吸光度(A 280 nm)又は蛍光強度(Em 527 nm)を各画分毎に示した。図2に示すように、60〜90%飽和硫安画分をSephadexG75カラムにより精製した場合、ウナギ蛍光タンパク質(画分番号43〜54)と他の大半のタンパク質とを効率良く分離することができた。しかし、60%以下の飽和硫安画分を加えるとウナギ蛍光タンパク質がかなりの割合で前の大きなピークに重なって現れ、図2に示すように分離することができなかった。SephadexG75カラムによる精製に用いたバッファー中にはグリセロールを10%加えた。10%グリセロールを添加しなかった場合は、カラム操作中に不溶性タンパク質が生じ、以後のカラム操作を不可能にした。SephadexG75カラムにより分離されたウナギ蛍光タンパク質は不溶化することはなかった。
【0072】
一方、図3には、1度目のヒドロキシアパタイトカラムによるウナギ蛍光タンパク質精製時の吸光度(A 280 nm)又は蛍光強度(Em 527 nm)を各画分毎に示した。図3において、斜線はK-リン酸バッファーの直線濃度勾配を示す。また、図4にはSephadexG50カラムによるウナギ蛍光タンパク質精製時の吸光度(A 280 nm)又は蛍光強度(Em 527 nm)を各画分毎に示した。さらに、図5には、Source15Q PE 4.6/100カラムによるウナギ蛍光タンパク質精製時の280nmにおける吸光度(上のパネル)及び蛍光強度(Em 527 nm)(下のパネル)を各画分毎に示した。図5の上のパネルにおける左の縦軸は280nmにおける吸光度、右の縦軸はNaClのモル濃度(0.25M(100%)に対する割合(%))を示し、また、横軸は溶出開始後の溶出位置(ml)を示す。さらに、図5の上のパネルにおける斜線はNaClの直線濃度勾配を示す。
【0073】
図6A及びBは、抽出及び精製の各ステップ後に得られた精製ウナギ蛍光タンパク質のSDS-PAGEの写真を示す。ポリアクリルアミドゲル濃度は17%均一であった。各レーンは、以下の通りである。
a: SephadexG75カラムにより精製したウナギ蛍光タンパク質(10μg)
b: 1度目のヒドロキシアパタイトカラムにより精製したウナギ蛍光タンパク質(2μg)
c: SephadexG50カラムにより精製したウナギ蛍光タンパク質(2μg)
d: Source15Q PE 4.6/100カラムにより精製したウナギ蛍光タンパク質(1.5μg)
マーカー: phosphorylase b 94kDa、albumin 67kDa、ovalbumin 43kDa、carbonic anhydrase 30kDa、trypsin inhibitor 20.1kDa、α-lactalbumin 14.4kDa
【0074】
ヒドロキシアパタイトカラム及びSephadexG50カラムのいずれも効率よくウナギ蛍光タンパク質(ヒドロキシアパタイトカラムでは画分番号50〜67、SephadexG50カラムでは画分番号87〜96)を精製することができた(図3及び4並びに表1)。しかし、この段階ではなお数種のタンパク質を含んでいた(図6A)。ヒドロキシアパタイトカラムによる精製を再度行った後、Source15Q PE 4.6/100カラムで精製されたウナギ蛍光タンパク質(画分番号7)は、SDS-PAGE上均一なタンパク質として精製された(図5及び6B)。
【0075】
2-3. 精製ウナギ蛍光タンパク質の性質
(1) 分子量
図7には、SDS-PAGEによるウナギ蛍光タンパク質の分子量測定結果を示す。各記号は以下の通りである。a) phosphorylase b 94kDa、b) albumin 67kDa、c) ovalbumin 43kDa、d) carbonic anhydrase 30kDa、e) trypsin inhibitor 20.1kDa、f) α-lactalbumin 14.4kDa。縦軸のMWは分子量(kDa)を示し、横軸のRfは、泳動中のゲルの最先端の距離に対する各タンパク質の泳動距離の比を示す。
【0076】
還元剤(DTT)存在下で17%均一濃度のポリアクリルアミドゲル上でのSDS-PAGEから、ウナギ蛍光タンパク質の分子量を測定したところ、16.5kDaであった(図7中矢印の箇所)。
【0077】
また、未変性のウナギ蛍光タンパク質の分子量を測定するために、Superdex75カラムを用いた。図8は、Superdex75カラムによる未変性ウナギ蛍光タンパク質の分子量測定の結果を示す。バッファーには50mM Tris-HCl(pH7.5)-0.15M NaClを用い、流速は0.5ml/分であった。標準タンパク質は、Transferin(75kDa)、Ovalbumin(43kDa)、Myoglobin(17.6kDa)及びRibonuclease(13.7kDa)であった。上のパネルは、ウナギ蛍光タンパク質の溶出位置(ml)を示し、一方、下のパネルは、各標準タンパク質の溶出位置(ml)を横軸に、分子量を縦軸にとり作製した検量線を示す。
【0078】
図8に示すように、未変性ウナギ蛍光タンパク質の分子量は16.5〜17kDaであった(下のパネル中、矢印の箇所)。これらの結果からウナギ蛍光タンパク質は単量体であり、且つその分子量は約16.5kDaであることが分かった。
【0079】
(2) 励起・蛍光スペクトル及び吸収スペクトル
SephadexG50カラムにより精製したウナギ蛍光タンパク質を20mM Tris-HCl(pH7.5)-1mM EDTA-0.15M NaClに溶解し、スペクトル測定を行った。スペクトル測定結果として、ウナギ蛍光タンパク質の蛍光スペクトル(EM:上のパネル)及び励起スペクトル(EX:下のパネル)を図9に示す。図9に示すように、蛍光最大波長は527nm、励起最大波長は493nmであった。この特性はオワンクラゲGFPの改変体であるEYFPによく類似している。EYFPの蛍光最大波長はウナギ蛍光タンパク質と同じ527nmであり、励起最大波長は513nmである。
【0080】
さらに、Source15Q PE 4.6/100カラムにより精製したウナギ蛍光タンパク質(20mM Tris-HCl(pH7.5)中)を用いて吸収スペクトルの測定を行った。220nm〜550nmにおけるウナギ蛍光タンパク質の吸収スペクトルを図10に示す。図10に示すように、極大吸収波長は280nm及び500nmであった。前者は全てのタンパク質に共通にみられるものであるが、後者はGFP特有の吸収と考えられる。すなわち、オワンクラゲ由来GFPでは、蛍光を示す発色団が明らかにされ、-X(65)-Tyr(66)-Gly(67)-が環状構造をとることにより発色団が形成されることが分かっている。環状構造中のTyr由来のフェノール基の水酸基がイオン化された状態の時、500nm付近に吸収が現れることが知られている(宮脇敦史、安藤亮子 (2003): 新規蛍光タンパク質Kaedeを用いた光技術。細胞工学、22, 316-326)。ウナギ蛍光タンパク質の吸収スペクトルにおける500nmの吸収は、オワンクラゲ由来GFPと同じような発色団を持つことによると考えられた。
【0081】
(3) 加熱、90%アセトン又は5%トリクロロ酢酸(TCA)による処理
下記の表2には、SephadexG50カラムにより精製したウナギ蛍光タンパク質を95℃、5分間の加熱処理、90%アセトン処理又は5%TCA処理に供した後の上清の残存蛍光強度を求めた結果を示す。残存蛍光強度は、未処理(対照)に対する相対的な蛍光強度(%)として表す。
【0082】
【表2】

【0083】
表2に示すように、処理後の上清に残った蛍光強度は、いずれの処理の場合も消失していた。表2の結果はウナギ蛍光タンパク質自体が蛍光を持つことを示している。
【0084】
〔実施例2〕 ウナギ蛍光タンパク質の部分アミノ酸配列決定及びそれをコードする遺伝子の部分塩基配列決定
1. 材料及び方法
1-1. 材料
ウナギ筋肉からのRNA抽出を行う上で、下記の材料を予めオートクレーブ処理に供した;鉄製乳鉢・乳棒、200mlビーカー(1個)、ガラス棒、テフロン遠心管(16本)、200ml分液ロウト、オートクレーブ水(250ml(1本))、1.2M NaCl-0.8M クエン酸Na(pH調整は必要なし)(100ml中、NaCl 7.01g及びクエン酸三ナトリウム二水和物(MW 294.10) 23.53g)、パスツールピペット、5ml用チップ、スパチュラ(2本)、100mlメスシリンダー(1本)、100ml試薬瓶(3本)、及び300ml三角フラスコ。
【0085】
1-2. 試薬
試薬は、以下のものを用いた;4Mグアニジンチオシアン酸-0.1M Tris-HCl (pH8.0)100ml(グアニジンチオシアン酸47g及び1M Tris-HCl(pH8.0)10mlをオートクレーブ水で100mlとした)、TE-buffer(10mM Tris-HCl(pH8.0)-1mM EDTA)、及びイソゲン(100ml)(和光純薬)。
【0086】
1-3. ウナギ筋肉からのmRNA調製及び当該mRNAからのcDNA合成
ウナギ筋肉からのmRNA調製を以下のように行った。
先ず、ウナギを麻酔した後、皮をつけたまま、筋肉の片身を約10g素早くとり、液体窒素に入れた。その際、2cm幅ほどに素早くメスで切ってから液体窒素に入れた。なお、液体窒素は予め鉄製乳鉢に満たしておき、乳棒もその中へ入れておいた。さらに、乳鉢・乳棒全体は発砲スチロール中に入れ、発砲スチロールの中にも液体窒素を入れておいた。
【0087】
次いで、乳鉢中でウナギ筋肉を乳棒で砕いた。その過程で皮が筋肉からはがれ、皮がとれてから更に乳棒によりウナギ筋肉を粉末状にした。なお、粉末状にしたウナギ筋肉を採るためのスパチュラも予め液体窒素中で冷却しておいた。
【0088】
さらに、200mlビーカー中にイソゲン100mlを入れた後、得られた粉末状のウナギ筋肉10gをスパチュラを用いて加えた。この際、ウナギ筋肉の粉末を加えると同時にガラス棒でよく撹拌して液体窒素を飛ばした。
【0089】
次いで、ポリトロンホモゲナイザーでウナギ筋肉をホモゲナイズし、テフロン遠心管8本に約13mlずつホモジネートを入れた。それらのテフロン遠心管を、12,000xg(10,000rpm)で10分間、4℃で遠心分離に供した。
【0090】
遠心分離後、上澄を分液ロートに移し、これにクロロホルム20ml(100mlのイソゲン当たり)を加え、激しく撹拌し(約15秒)、2〜3分間、室温で放置した。
【0091】
室温で放置後、テフロン遠心管8本に約13mlずつ上澄とクロロホルムとの混合液を入れ、12,000xg(10,000rpm)で15分間、4℃で遠心分離に供した。
【0092】
遠心分離後、水層(上の層)を回収した。水層は用いたイソゲン(100ml)の約60%(約60ml)となった。この際、100mlのメスシリンダーを使用して容積を測定した。得られた水層に、水層の容積の1/2量の1.2M NaCl-0.8Mクエン酸Naと2-プロパノール(分子生物学用)を加え、5〜10分間静置した。静置後、混合液を10,000xg(9,000rpm)で15分間、4℃で遠心分離に供した。この際、遠心管はPC(ポリカーボネート)製のものを用い、予め、4Mグアニジンチオシアン酸-0.1M Tris-HCl(pH8.0)で内壁を処理しておいた。
【0093】
遠心分離後、上澄を除き、RNA沈殿(ゲル様のぺレットで遠心管の底に見られる)に70%エタノールを5ml加えて、軽く撹拌し、1本の遠心管に集めた。回収したRNA沈殿を含有する遠心管を、7,500xg(8,000rpm)で5分間、4℃で遠心分離に供した。
【0094】
遠心分離後、上澄を除き、沈殿をTE-buffer 1mlに溶解し、65℃で10分間加熱した後、氷冷した。得られた溶液50μlをとり、そこに水950μlを加えて、280nm及び260nmの吸光度を測定した。このようにして、ウナギ筋肉より全RNAを調製した。
【0095】
次いで、得られた全RNAより、mRNAの調製をmRNA Purification Kit (GE Healthcare Bioscience)を用いて行った。操作はキットに添付のマニュアルに従って行った。
【0096】
さらに、得られたmRNAより、1本鎖cDNA合成を、Ready-To-Go You-Prime First-Strand Beads (GE Healthcare Bioscience)を用いて行った。操作は添付のマニュアルに従って行った。
【0097】
1-4. ウナギ蛍光タンパク質のトリプシンによるゲル内消化
実施例1において精製したウナギ蛍光タンパク質を、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し、泳動後、タンパク質を染色し、ウナギ蛍光タンパク質のバンドを切り出した。切り出したゲルは、1〜2mm角のさいころ状に細切し、ミクロチューブに入れた。
【0098】
次いで、脱色液(50%アセトニトリル-25mM NH4HCO3)100μlを、ミクロチューブに入れ、室温で10分間振盪した後、脱色液を除き、脱色を行った。なお、完全に脱色されるまで繰り返した。
【0099】
脱色後、100%アセトニトリル100μlを加えて、脱水した。室温で5分間後、脱水液を除き、減圧下でゲルを乾燥させた。
【0100】
さらに、乾燥後のゲルに還元剤(10mM DTT-25mM NH4HCO3)100μlを加え、56℃で60分間振盪させた。その後、還元剤を除き、25mM NH4HCO3 100μlで洗浄した。洗浄後、アルキル化液(55mMヨードアセトアミド-25mM NH4HCO3)100μlを加え、遮光しながら室温で45分間振盪した。45分間の振盪後、アルキル化液を除き、洗浄液で洗浄した。
【0101】
次いで、ゲルを含むミクロチューブに200μlの脱水液を入れ、室温で10分間後、脱水液を除いた。この操作を2回行った後、減圧下でゲルを乾燥させた。さらに、乾燥後のゲルにトリプシン液200μlを加え、氷上で30分間静置した。その後、余分なトリプシン液を除き、37℃で一晩インキュベートした。インキュベート後、抽出液(50%アセトニトリル-5%TFA)100μlを加え、ゲル内で生じたペプチドを抽出した。抽出液を回収し後、再度、50μlの抽出液で抽出を行い、先の抽出液に加えた。このようなゲル内消化により、ウナギ蛍光タンパク質のペプチドを得た。
【0102】
1-5. ウナギ蛍光タンパク質のペプチド精製
上記1-4で得られたウナギ蛍光タンパク質のペプチドを、逆相カラム(Sephasil peptide C18 5μカラム)により分離精製した。装置は、AktaPurifier HPLCシステム(GE Healthcare Bioscience)を用いた。溶媒としてA液(2%アセトニトリル-0.1%TFA)及びB液(90%アセトニトリル-0.09%TFA)を用い、溶出はB液の直線的濃度上昇により行った。
【0103】
1-6. ウナギ蛍光タンパク質のペプチドのアミノ酸配列決定分析
上記1-5で精製したウナギ蛍光タンパク質のペプチドのアミノ酸配列決定分析を、プロテインシークエンサー(Model 492 Procise-PE Biosystems)を用いて行った。
【0104】
1-7. ウナギ蛍光タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子断片(PCR産物)のクローニング
PCR産物のクローニングは、TAKARA Mighty Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて行った。操作は、添付の説明書に従って行った。
【0105】
1-8. クローニングされたウナギ蛍光タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子断片の塩基配列決定分析
Applied Bioscience社のBig Dye Terminator V.3.1を用いて、塩基配列の分析を行った。DNAシークエンサーは、ABI PRISM3100 Genetic Analyzer-PE Biosystemsを用いた。
【0106】
2. 結果
2-1. ウナギ筋肉から得られたmRNA
全RNAは、ウナギ筋肉10gから3,332μg(333μg/g筋肉)得られた。この全RNAより、mRNAが94.4μg得られた。さらに、得られたmRNAから1本鎖cDNAライブラリーを作製した。
【0107】
2-2. ゲル内消化によって得られたウナギ蛍光タンパク質のペプチドのアミノ酸配列
図11は、逆相カラム(Sephasil peptide C18 5μカラム)による、ゲル内消化によって得られたウナギ蛍光タンパク質のペプチドの精製結果を示す。図11Aに示すNo.25及び27の画分、図11Bに示すNo.25の画分並びに図11Cに示すNo.8、9、10及び12の画分に含まれるペプチドのアミノ酸配列を決定した。
【0108】
図11に示したように、3回のゲル内消化によって8個のペプチドのアミノ酸配列を明らかにすることができた。ただし、図11CのNo.10の画分には、2個のペプチドが存在した。8個のアミノ酸配列は以下の通りである。
図11A:
No.25の画分:Phe Val Gly Asn Leu Val Gly Glu Lys (配列番号1)
No.27の画分:Ile Ala Asp Ser His Asn Phe (配列番号2)
図11B:
No.25の画分:Ser Val Gly Thr Leu Lys (配列番号3)
図11C:
No.8の画分:Phe Val Gly Thr Leu Val Gly Glu Lys (配列番号4)
No.9の画分:Ile Glu Asn Gly Pro Asn Thr Phe Leu Asp Thr Gln (配列番号5)
No.10の画分:Ile Gly Asp Ser Phe Asp Glu Phe Pro Tyr Leu Arg Val (配列番号6)
No.10の画分:Leu Ala Glu Gly Pro Asn Phe Gly Leu Ser Asp Lys Arg (配列番号7)
No.12の画分:Ile Glu Asn Gly Pro Pro Thr (配列番号8)
【0109】
2-3. ウナギ蛍光タンパク質のペプチドのアミノ酸配列に基づくPCR用プライマーの作製
上記2-2で得られた8個のペプチドのアミノ酸配列のうち、4個のペプチドを選んでPCR用プライマーの作製に利用した。選択した4個のペプチドは、図11Aに示すNo.25の画分並びに図11Cに示すNo.8、9及び12の画分にそれぞれ含まれるペプチド(以下では、それぞれの画分に含まれるアミノ酸配列を「A-No.25」、「C-No.8」、「C-No.9」、「C-No.12」という)であった。それぞれのアミノ酸配列から5'-プライマー及び3'-プライマーを設計し、作製した。
A-No.25:
5'-プライマー(プライマー10):5' TTY GTI GGI AAY YTI GTI GGI GAR AA (配列番号13)
3'-プライマー(プライマー11):5' TT YTC ICC IAC IAR RTT ICC IAC RAA (配列番号14)
C-No.8:
5'-プライマー(プライマー6):5' TTY GTI GGI ACI YTI GTI GGI GAR AA (配列番号15)
3'-プライマー(プライマー7):5' TT YTC ICC IAC IAR IGT ICC IAC RAA (配列番号16)
C-No.9:
5'-プライマー(プライマー3):5' ATH GAR AAY GGN CCN AAY CAN TT (配列番号17)
5'-プライマー(プライマー9):5' CCI AAY CAN TTY YTI GAY ACI CA (配列番号18)
3'-プライマー(プライマー4):5' TG IGT RTC IAR RAA NGT RTT IGG (配列番号19)
3'-プライマー(プライマー8):5' AA NGT RTT NGG NCC RTT YTC DAT (配列番号20)
C-No.12:
5'-プライマー(プライマー1):5' ATH GAR AAY GGN CCN CCN AC (配列番号21)
3'-プライマー(プライマー2):5' GT NGG NGG NCC RTT YTC DAT (配列番号22)
(プライマー5):TGG AAG AAT TCG CGG CCG CAG T18 (NotI dTプライマー:配列番号23、ここで、「T18」はTが18個を意味する)
【0110】
2-4. プライマー1(配列番号21)とプライマー4(配列番号19)とを用いたPCRから得られたPCR産物のクローニング
上記2-3に示すプライマーを種々組み合わせた結果、プライマー1(配列番号21)とプライマー4(配列番号19)との組み合わせを用いて得られたPCR産物のクローニングを行った。その結果、2個のウナギ蛍光タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子断片がクローニングされ、それぞれRV-12、RV-2とした。RV-12の遺伝子断片(配列番号9)とRV-2の遺伝子断片(配列番号11)との間の塩基配列の比較を、図12に示す。
【0111】
プライマー1はRV-12及びRV-2遺伝子断片の5'側の20塩基全てと一致したが、プライマー4はRV-12及びRV-2遺伝子断片の3'側の16塩基のみが一致した。すなわち、プライマー4の23塩基中3'末端を含む16塩基がプライマーの役割を果たしたことになる。図12において、二重下線を引いた塩基は、RV-12とRV-2とで異なる塩基である。しかしながら、下記に示すようにアミノ酸レベルでは、RV-12とRV-2とでそれぞれコードされるアミノ酸配列を比較すると、2ヶ所の違いであった。
【0112】
2-5. ウナギ蛍光タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子断片によりコードされるアミノ酸配列
RV-12の遺伝子断片とRV-2の遺伝子断片とによりコードされるアミノ酸配列(それぞれ、配列番号10、12で示されるアミノ酸配列)間の比較を図13に示す。
【0113】
図13に示すように、RV-12及びRV-2の遺伝子断片によりコードされるアミノ酸配列は、二重下線で示した2ヶ所のアミノ酸以外は全て一致した。また、N-末端側のアミノ酸配列は、プライマー1の設計に利用したC-No.12のペプチドのアミノ酸配列と一致した(下線)。同様にC-末端側のアミノ酸配列は、プライマー4の設計に利用したC-No.9のペプチドの12アミノ酸から成るアミノ酸配列のうち、N-末端側の8アミノ酸が一致した(四角の囲み)。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1A】図1Aは、ウナギ筋肉横断面の白色光による写真(上の写真)及び蛍光写真(下の写真)を示す。
【図1B】図1Bは、ウナギ遊離筋細胞の白色光による写真(上の写真)及び蛍光写真(下の写真)を示す。
【図2】図2は、SephadexG75カラムによるウナギ蛍光タンパク質精製時の吸光度(A 280 nm)又は蛍光強度(Em 527 nm)を各画分毎に示した図である。
【図3】図3は、1度目のヒドロキシアパタイトカラムによるウナギ蛍光タンパク質精製時の吸光度(A 280 nm)又は蛍光強度(Em 527 nm)を各画分毎に示した図である。
【図4】図4は、SephadexG50カラムによるウナギ蛍光タンパク質精製時の吸光度(A 280 nm)又は蛍光強度(Em 527 nm)を各画分毎に示した図である。
【図5】図5は、Source15Q PE 4.6/100カラムによるウナギ蛍光タンパク質精製時の280nmにおける吸光度(上のパネル)及び蛍光強度(Em 527 nm)(下のパネル)を各画分毎に示した図である。
【図6A】図6Aは、抽出及び精製の各ステップ後に得られた精製ウナギ蛍光タンパク質のSDS-PAGEの写真を示す。
【図6B】図6Bは、抽出及び精製の各ステップ後に得られた精製ウナギ蛍光タンパク質のSDS-PAGEの写真を示す。
【図7】図7は、SDS-PAGEによるウナギ蛍光タンパク質の分子量測定結果を示す。
【図8】図8は、Superdex75カラムによる未変性ウナギ蛍光タンパク質の分子量測定の結果を示す。
【図9】図9は、ウナギ蛍光タンパク質の蛍光スペクトル(EM:上のパネル)及び励起スペクトル(EX:下のパネル)を示す。
【図10】図10は、220nm〜550nmにおけるウナギ蛍光タンパク質の吸収スペクトルを示す。
【図11】図11は、逆相カラム(Sephasil peptide C18 5μカラム)による、ゲル内消化によって得られたウナギ蛍光タンパク質のペプチドの精製結果を示す。
【図12】図12は、RV-12の遺伝子断片(配列番号9)とRV-2の遺伝子断片(配列番号11)との間の塩基配列の比較を示す。
【図13】図13は、RV-12の遺伝子断片とRV-2の遺伝子断片とによりコードされるアミノ酸配列(それぞれ、配列番号10、12で示されるアミノ酸配列)間の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)の特徴を有するウナギ蛍光タンパク質。
(a) 配列番号1〜8に示されるアミノ酸配列
(b) 配列番号10又は12に示されるアミノ酸配列
(c) 分子量16kDa〜17kDa
(d) 蛍光波長480nm〜600nm及び励起波長400nm〜540nm
【請求項2】
上記分子量が16.5kDaであることを特徴とする、請求項1記載のウナギ蛍光タンパク質。
【請求項3】
蛍光最大波長が527nmであることを特徴とする、請求項1記載のウナギ蛍光タンパク質。
【請求項4】
励起最大波長が493nmであることを特徴とする、請求項1記載のウナギ蛍光タンパク質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のウナギ蛍光タンパク質をコードするDNA。
【請求項6】
配列番号9又は11に示される塩基配列を有することを特徴とする、請求項5記載のDNA。
【請求項7】
請求項5又は6記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項記載のウナギ蛍光タンパク質と外来タンパク質とを連結した融合タンパク質。
【請求項9】
請求項8記載の融合タンパク質をコードするDNA。
【請求項10】
請求項9記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項11】
請求項10記載の組換えベクターを有する形質転換体。
【請求項12】
請求項11記載の形質転換体を培養し、ウナギ蛍光タンパク質と外来タンパク質とを連結した融合タンパク質をコードするDNAを発現させる工程と、
前記ウナギ蛍光タンパク質の蛍光に基づき、前記外来タンパク質の発現、局在又は相互作用を評価する工程と、
を含むことを特徴とする、タンパク質の発現、局在又は相互作用評価方法。
【請求項13】
請求項11記載の形質転換体を培養し、ウナギ蛍光タンパク質と外来タンパク質とを連結した融合タンパク質をコードするDNAを発現させる工程と、
前記ウナギ蛍光タンパク質の蛍光に基づき、細胞内オルガネラを可視化する工程と、
を含み、前記外来タンパク質が前記細胞内オルガネラに特異的なタンパク質であることを特徴とする、細胞内オルガネラの可視化方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−141988(P2008−141988A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330991(P2006−330991)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】