説明

ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造方法

【課題】 本発明は、従来の問題を解決できるウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造法を提供することを課題とする。即ち、本発明は、ウレタン化反応における反応性(ウレタン化反応性)の安定したウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール、特にイソシアネート化合物によるウレタン化反応において安定した高い反応性を有するウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールを容易に製造できる方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の課題は、エステル交換触媒を含有するポリカーボネートジオールを亜リン酸トリエステルの存在下に加熱処理することを特徴とするウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造法により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造方法に関する。更に詳しくは、ウレタン化反応における反応性(ウレタン化反応性)の安定したウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール、即ち、イソシアネート化合物によるウレタン化反応において安定した高い反応性を有するウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造方法に関する。ポリカーボネートジオールは、各種ウレタン化合物の原料として有用な化合物である。なお、本発明で、ウレタン化とは「(ポリカーボネートジオールを)ウレタンに転化する」ことをさす。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートジオールはカーボネート化合物とジオール化合物をエステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させることにより製造されるが、通常は、失活処理を施さない限り、エステル交換触媒を活性なままで含有している。
【0003】
このため、前記のようにして得られるポリカーボネートジオール(エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール)は、該エステル交換触媒がポリカーボネートジオールのイソシアネート化合物によるウレタン化反応も促進することから、ウレタン化反応、即ち、イソシアネート化合物によるウレタン化反応における反応性(ウレタン化反応性)が一定しないものとなる。
【0004】
従って、このようなポリカーボネートジオールを使用してウレタン化反応を実施する場合には、反応制御が困難又は煩雑になる(例えば、反応後期に反応性が著しく低下する、反応スケールが大きくなると急激な発熱を引き起こす)、或いは反応中に反応物がゲル化するなどの問題が生じていた。また、イソシアネート化合物として脂肪族イソシアネート化合物を使用する場合は、ポリカーボネートジオールのウレタン化反応性が非常に低いという問題があった。
【0005】
このような問題を解決しようとすれば、従来は、酸や水などでエステル交換触媒を予め失活させ、その後、ウレタン化反応の際に新たにウレタン化触媒を加えてポリカーボネートジオールのウレタン化反応性を調節するという煩雑な操作が必要であった(特許文献1など)。
【特許文献1】特公平8−26140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような問題を解決できるウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造法を提供することを課題とする。即ち、本発明は、ウレタン化反応における反応性(ウレタン化反応性)の安定したウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール、特にイソシアネート化合物によるウレタン化反応において安定した高い反応性を有するウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールを容易に製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、エステル交換触媒を含有するポリカーボネートジオールを亜リン酸トリエステルの存在下で加熱処理することを特徴とするウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造法により解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ウレタン化反応における反応性(ウレタン化反応性)の安定したウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造法、即ち、イソシアネート化合物によるウレタン化反応において安定した高い反応性を有するウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールを容易に製造する方法を提供できる。また、本発明により、イソシアネート化合物によるウレタン化反応における反応性(ウレタン化反応性)が不安定で種々の問題を生じるエステル交換触媒含有ポリカーボネートジオールを、ウレタン化反応性が安定していてかつその反応性が高いウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールに変換することができる。即ち、ポリカーボネートジオール中に含有されるエステル交換触媒を亜リン酸トリエステルの存在下で加熱処理することによって、該エステル交換触媒が有するウレタン化触媒活性を安定化させる(高活性に維持する)ことができる。同時に、ウレタン化反応におけるイソシアネート化合物(イソシアネート基)の転化率も高いものとすることができる。本発明のウレタン化反応性の安定したウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールは、イソシアネート化合物によるウレタン化反応において安定した高い反応性を有する(即ち、イソシアネート化合物によるウレタン化反応の反応速度定数が安定していてかつ高い)ものであり、反応制御が困難又は煩雑になる(例えば、反応後期に反応性が著しく低下する、反応スケールが大きくなると急激な発熱を引き起こす)、或いは反応中に反応物がゲル化するなどの問題を引き起こすことなく、イソシアネート化合物によるウレタン化反応を円滑に行うことができる。また、脂肪族イソシアネート化合物によるウレタン化反応も反応性が非常に低いという問題を克服して円滑に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用される、エステル交換触媒を含有するポリカーボネートジオール(エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール)は、カーボネート化合物とジオール化合物をエステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させて得られるものである。なお、このエステル交換反応で生成するポリカーボネートジオールは、次式で示されるように分子末端が実質的に水酸基となっているものである。
【0010】
【化1】

(式中、Rはジオール化合物の残基を表す。nはポリカーボネートジオールの平均重合度を表し、特に制限されない実数であるが、好ましくは1〜100、更に好ましくは1〜50の実数である。)
【0011】
前記エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオールには、カーボネート化合物とジオール化合物のエステル交換反応におけるエステル交換触媒がそのまま含有されているが、エステル交換触媒の含有量は、ポリカーボネートジオール1モルに対して0.001〜30ミリモル、更には0.001〜15ミリモル、特に0.003〜8ミリモルであることが好ましい。また、エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオールは、水分を0〜5000ppm、好ましくは0〜3000ppm、更に好ましくは0〜2000ppm含んでいても差し支えない。但し、水分含有量は重量基準である。
【0012】
前記エステル交換触媒としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラフェノキシチタン等の炭素数4〜40のアルコキシ又はアリールオキシチタン化合物や、ジブチルチンオキシド、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート等の炭素数2〜40の有機スズ化合物や、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−s−ブトキシアルミニウム等の炭素数3〜30のアルコキシアルミニウム化合物などが好ましく挙げられる。これらエステル交換触媒の中では、前記チタン化合物が特に好ましい。
【0013】
エステル交換触媒は前記エステル交換反応において単独で使用しても複数で使用しても差し支えないが、ジオール化合物1モルに対して0.001〜5ミリモル、更には0.001〜3ミリモル、特に0.003〜1ミリモルの割合で使用することが好ましい。
【0014】
前記カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等の炭素数1〜10のアルキル基を含有するジアルキルカーボネートや、ジベンジルカーボネート等の炭素数7〜10のアラルキル基を含有するジアラルキルカーボネートや、ジフェニルカーボネート等の炭素数6〜10のアリール基を含有するジアリールカーボネートや、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭素数2〜10のアルキレン基を含有するアルキレンカーボネートなどが挙げられる。
【0015】
カーボネート化合物は前記エステル交換反応において単独で使用しても複数で使用してもよいが、ジオール化合物1モルに対して0.5〜1.5モルの割合で使用することが好ましい。なお、カーボネート化合物はこの化合物に由来する副生アルコールを効率よく抜き出せるものを適宜選択することが好ましい。
【0016】
前記ジオール化合物としては、炭素数3〜25のアルキレン基(ジオール化合物の残基)の両端に水酸基を有するジオール化合物(脂肪族ジオール)が好ましい。このアルキレン基は各種異性体を含み、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基、炭素数6〜12のアリール基を置換基として少なくとも1つ有していてもよい。また、アルキレン基の炭素鎖が少なくとも1つのエーテル結合を含んでいてもよく、脂環式構造を含んでいてもよい。なお、ジオール化合物は単独で使用しても複数で使用しても差し支えない。
【0017】
ジオール化合物としては、例えば、次のような化合物が具体的に挙げられる。即ち、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,20−エイコサンジオールなどや、
【0018】
2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等のアルキレン基が異性体であるか又はアルキル基を置換基として有しているものや、
【0019】
1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,7−ノルボルナンジオール、2,2′−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール等のアルキレン基の炭素鎖が脂環式構造を含むものや、
【0020】
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のアルキレン基の炭素鎖がエーテル結合を含むものや、
【0021】
テトラヒドロフランジメタノール、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン等のアルキレン基の炭素鎖が脂環式構造とエーテル結合を含むものなどが挙げられる。
【0022】
なお、前記ジオール化合物には、p−キシレンジオール、p−テトラクロロキシレンジオール、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス〔(4−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパン等の芳香環をもつジオール化合物や、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等のポリオール化合物が、単独又は複数で、全ジオール化合物に対して25重量%以下、更には20重量%以下、特に15重量%以下の割合で含まれていてもよい。
【0023】
本発明で使用されるエステル交換触媒含有ポリカーボネートジオールは、カーボネート化合物とジオール化合物をエステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させて得られるが、カーボネート化合物とジオール化合物のエステル交換反応によって同様にして得られたもの(エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール)であれば、市販のポリカーボネートジオールも使用できる。
【0024】
前記エステル交換反応は、公知の方法に従って、1段階、2段階、又は3段階で行うことができる。例えば、蒸留装置(蒸留塔など)を備えた反応器を用いて、エステル交換触媒の存在下、副生するアルコールを蒸留で抜き出しながら、カーボネート化合物とジオール化合物をアルコールが殆ど留出しなくなるまで反応させて、ポリカーボネートジオールを1段階で生成させてもよい。このとき、カーボネート化合物は最初に全量を仕込んでもよく、連続的又は逐次的にジオール化合物に添加してもよい。
【0025】
また、必要に応じて(分子量を調節するため)、前記エステル交換触媒をそのまま存在させ、副生するジオール化合物を同様に抜き出しながら、1段階で生成したポリカーボネートジオールを更に分子間で縮重合反応させて、目的分子量のポリカーボネートジオールを2段階で生成させてもよい。なお、本発明では、この場合の縮重合反応も含めて反応全体としてエステル交換反応として扱う。
【0026】
また、必要に応じて(分子量を調節するため)、1段階で生成したポリカーボネートジオールにジオール化合物を添加して、前記エステル交換触媒をそのまま存在させ、そのポリカーボネートジオールとジオール化合物を更にエステル交換反応させて、目的分子量のポリカーボネートジオールを2段階で生成させてもよい。また、前記の縮重合反応を含む2段階で生成したポリカーボネートジオールにジオール化合物を添加して更にエステル交換反応させて、目的分子量のポリカーボネートジオールを3段階で生成させてもよい。
【0027】
エステル交換反応を1段階で行う場合、反応温度は100〜210℃であることが好ましく、反応圧力は特に制限されないが、常圧又は50〜500mmHgの減圧とすることが好ましい。但し、反応温度及び反応圧力は、副生するアルコールが留出する条件で、かつジオール化合物が実質的に留出しない条件とすることが好ましい。なお、反応は、空気、炭酸ガス、もしくは不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム等)の雰囲気下又は気流中で行うことができるが、不活性ガス雰囲気下又は気流中で行うことが好ましい。
【0028】
生成したポリカーボネートジオールを更に分子間で縮重合反応させることによってエステル交換反応を2段階で行う場合、反応温度は150〜240℃、更には150〜230℃とすることが好ましく、反応圧力は0.1〜50mmHg程度の減圧とすることが好ましい。触媒は前記エステル交換触媒をそのまま用いることができる。副生するジオール化合物は蒸留で抜き出すことが好ましく、反応雰囲気等は前記と同様であることが好ましい。抜き出されたジオール化合物はカーボネート化合物とのエステル交換反応に再使用できる。
【0029】
また、生成したポリカーボネートジオールにジオール化合物を添加して更にエステル交換反応させることによってエステル交換反応を2段階又は3段階で行う場合、反応温度,反応圧力などの反応条件は前記のエステル交換反応を1段階で行う場合と同様である。
【0030】
エステル交換反応を、1段階、2段階、又は3段階で終了させた後、反応液をそのまま冷却すれば、エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオールを得ることができる。このエステル交換触媒含有ポリカーボネートジオールは、前記のように分子末端が実質的に水酸基となっているものであり、エステル交換触媒及び水分を前記割合で含有している。
【0031】
本発明では、前記のようにして得られる、エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール(イソシアネート化合物によるウレタン化反応における反応性(ウレタン化反応性)が不安定で前記のような種々の問題を生じる)を、亜リン酸トリエステルの存在下で加熱処理することによって、ウレタン化反応性の安定したウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールに変換することができる。即ち、本発明のウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールは、エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオールを亜リン酸トリエステルの存在下で加熱処理したものである。そして、このウレタン化反応性の安定したウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールは同時にウレタン化反応性の高いものでもある。
【0032】
このように、本発明では、ポリカーボネートジオール中に含有されるエステル交換触媒を亜リン酸トリエステルの存在下で加熱処理することによって、該エステル交換触媒が有するウレタン化触媒としての活性を安定化させる(高活性に維持する)ことができる。そして、ウレタン化反応におけるイソシアネート化合物(イソシアネート基)の転化率も高いものとすることができる。
【0033】
加熱処理において、エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオールは単独で使用してもよく、複数を混合して使用してもよい。また、そのポリカーボネートジオールを、炭素数2〜20のアルキレン基を含有するラクトン(ブチロラクトン、カプロラクトン、ラウロラクトン等)や、炭素数2〜20のアルキレン基を含有するアルキレンカーボネート(エチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1,3−プロピレンカーボネート、2,2−ジメチルプロピレンカーボネート等)と更に共重合させたものでもあってもよく、これらラクトンやアルキレンカーボネートの開環重合物と更に共重合させたものであってもよい。このアルキレンカーボネートのアルキレン基は、前記のジオール化合物におけるアルキレン基と同様に異性体や置換基などを有していてもよい。
【0034】
本発明で使用される亜リン酸トリエステルとしては、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリヘキシル、亜リン酸トリオクチル等の炭素数1〜20のアルキル基を含有する亜リン酸トリアルキルや、亜リン酸トリベンジル等の炭素数7〜20のアラルキル基を含有する亜リン酸トリアラルキルや、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリクレジル等の炭素数6〜20のアリール基を含有する亜リン酸トリアリールなどが挙げられる。また、アルキル基、アラルキル基、アリール基を混合して含有する亜リン酸トリエステルも挙げることができる。
【0035】
亜リン酸トリエステルの中では、亜リン酸トリアルキルが好ましいが、その中でも、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリヘキシル、亜リン酸トリオクチル等の炭素数3〜20のアルキル基を含有する亜リン酸トリアルキルが特に好ましい。
【0036】
加熱処理において、亜リン酸トリエステルは、カーボネート化合物とジオール化合物とのエステル交換反応に使用したエステル交換触媒1モル(触媒中の金属1g原子)に対して0.8〜10モル、更には0.9〜5モル、特に1〜2モルで使用することが好ましい。
【0037】
エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオールを亜リン酸トリエステルの存在下で加熱処理する際の温度は、70〜145℃、更には80〜145℃、特に95〜135℃であることが好ましい。加熱処理の際の雰囲気は、ヘリウム、窒素、アルゴン、炭酸ガス等の不活性ガスの雰囲気下又は気流下であることが好ましい。圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでもよい。加熱処理時間は条件により異なるが、通常0.5〜24時間である。
【0038】
加熱処理終了後、処理液を冷却して本発明のウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールを得ることができるが、このウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールは、エステル交換触媒、亜リン酸トリエステル、水分を前記割合で含有するもので、そのまま(新たに触媒を加えることなく、亜リン酸トリエステルを含有したままで)イソシアネート化合物によるウレタン化反応に使用することができる。なお、イソシアネート化合物によるウレタン化反応は、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを使用して公知の方法に従って行うことができる。
【0039】
このようにして得られる本発明のウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールは、ウレタン化反応性の安定したもので、かつウレタン化反応性の高いものである。即ち、イソシアネート化合物によるウレタン化反応において安定した高い反応性を有する(イソシアネート化合物によるウレタン化反応の反応速度定数が安定していてかつ高い)ものである。
【0040】
例えば、イソシアネート化合物としてジフェニルメタンジイソシアネートを使用するウレタン化反応(後述の実施例の方法による)において、本発明のウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールは、反応後期(反応開始50〜60分)の平均の反応速度定数が反応初期(反応開始10〜20分)の平均の反応速度定数の0.7倍以上であり、反応後期に若干速度定数が低下するもののその度合が著しくなく、反応速度定数が安定しているものである。そして、反応全体でみれば、平均の反応速度定数が4〜5g/モル・秒の範囲で、反応速度の高いものである。
【0041】
また、イソシアネート化合物としてジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを使用するウレタン化反応(後述の実施例の方法による)においては、反応後期(反応開始2〜5時間)の平均の反応速度定数が反応初期(反応開始10〜60分)の平均の反応速度定数の0.6倍以上であり、反応後期に若干速度定数が低下するもののその度合が著しくなく、反応速度定数が安定しているものである。そして、反応全体でみれば、平均の反応速度定数が0.2〜0.5g/モル・秒の範囲で、反応速度の高いものである。
【0042】
なお、ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールは単独で使用しても複数を混合して使用してもよく、また、前記のラクトンやアルキレンカーボネートと更に共重合させるか、或いはこれらの開環重合物と更に共重合させてウレタン化反応に使用してもよい。
【実施例】
【0043】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、ポリカーボネートジオールのイソシアネート化合物によるウレタン化反応における反応性は、次のようにウレタン化反応の反応速度定数を求めることにより評価した。
【0044】
1.イソシアネート基の定量
ポリカーボネートジオールのイソシアネート化合物によるウレタン化反応の反応液2〜3gを経時的にサンプリングして、ジブチルアミン−THF溶液10mlとTHF20mlの混合溶液に加えて攪拌し、次いで、このものにTHF50mlと指示薬のブロモフェノールブルー溶液を加えて、0.1モル/L(リットル)の塩酸で未消費のジブチルアミンを滴定した。この滴定値とブランク実験との差より反応液中に残存するイソシアネート基(モル数)を求めた。なお、THFはテトラヒドロフランを表し、各溶液は次の通りである。
【0045】
ジブチルアミン−THF溶液:ジブチルアミン3.23gをTHFで希釈して250mlとした溶液ブロモフェノールブルー溶液:ブロモフェノールブルー0.5gをメタノール中で50mlとした溶液
【0046】
2.ウレタン化反応の反応速度定数の測定
次式より、反応時間tに対してx/a(a−x)をプロットし、その傾きからウレタン化反応の反応速度定数Kを求めた。
Kt=x/a(a−x)
【0047】
但し、各記号は次のように定義される。
K:反応速度=K[イソシアネート基濃度][ポリカーボネートジオールが有する水酸基の濃度]としたときの反応速度定数
t:反応時間
a:イソシアネート基の初濃度(モル/g;イソシアネート基の定量により測定される仕込み時の反応液1g当たりの消費ジブチルアミンモル数)
a−x:時間t後のイソシアネート基の濃度(モル/g;イソシアネート基の定量より測定される時間t後の反応液1g当たりの消費ジブチルアミンモル数)
x:時間t後の消費イソシアネート基の濃度(モル/g)
【0048】
また、イソシアネート基転化率は次のように求めた。
イソシアネート基転化率(%)=100×(仕込みイソシアネート基モル数−残存イソシアネート基モル数)/仕込みイソシアネート基モル数
【0049】
実施例1
〔ポリカーボネートジオール(エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール)の製造〕
蒸留塔を備えた1L(リットル)容ガラス製フラスコに、ジメチルカーボネート427g(4.74モル)、1,6−ヘキサンジオール560g(4.74モル)、及びテトラブトキシチタン0.054g(0.16ミリモル)を入れ、反応温度100〜200℃で、攪拌下、メタノールとジメチルカーボネートの混合物を留去しながら常圧で5時間エステル交換反応させた。
【0050】
次いで、100mmHgの減圧としてメタノールとジメチルカーボネートの混合物を更に留去した後,1〜5mmHgの減圧下、160〜200℃で、1,6−ヘキサンジオールを留去しながら8時間更に反応させて、ポリカーボネートジオール(エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール)537gを得た。このポリカーボネートジオールは水酸基価56.1mgKOH/g、平均分子量2000、色相(APHA)15のものであった。なお、反応操作は窒素気流中で行い、平均分子量は水酸基価より求めた。
【0051】
〔加熱処理〕
500ml容ガラス製フラスコに、前記で得られたエステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール100g(ポリカーボネートジオールとして0.05モル、チタン含有量14ppm、水分含有量700ppm)を入れ、これに、亜リン酸トリブチル8.78mg(0.0351ミリモル;チタン1g原子に対して1.2モル)を入れ、窒素気流中、130℃で攪拌しながら2時間加熱処理した。加熱処理終了後、処理液を冷却して、ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール100gを得た。なお、チタン含有量、水分含有量は重量基準である。
【0052】
〔ウレタン化反応〕
500ml容ガラス製フラスコに、前記で得られたウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール100gと2−ブタノン225gを入れて、バス温70℃(液温65℃)で加熱攪拌した。次いで、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート12.51g(0.05モル)を加え、同温度で引き続き加熱攪拌した。反応操作は窒素気流中で行った。
【0053】
反応液を経時的にサンプリングして反応液中に残存するイソシアネート基を定量したところ、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期(反応開始10〜20分;以下、省略)で4.81g/モル・秒、反応後期(反応開始50〜60分;以下、省略)で3.67g/モル・秒で、反応後期の速度定数の低下が小さく(反応速度定数比:0.76)、反応性は安定していた。反応全体での平均の反応速度定数は4.44g/モル・秒であった。また、1時間後のイソシアネート基の転化率は82.4%であった。なお、平均の反応速度定数は最小二乗法により求め、反応速度定数比は「反応後期の平均の反応速度定数:反応初期の平均の反応速度定数」を意味する。
【0054】
比較例1
〔ウレタン化反応〕
加熱処理を行うことなく、エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール100gをそのまま使用したほかは、実施例1と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期で2.94g/モル・秒、反応後期で1.88g/モル・秒で、反応後期に徐々に速度定数が低下して(反応速度定数比:0.64)、反応性が不安定であった。反応全体での平均の反応速度定数も2.73g/モル・秒で低かった。また、1時間後のイソシアネート基の転化率は65.6%であった。
【0055】
実施例2
〔加熱処理〕
実施例1で得られ吸湿度の異なるエステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール100g(ポリカーボネートジオールとして0.05モル、チタン含有量14ppm、水分含有量300ppm)を使用したほかは、実施例1と同様に加熱処理を行った。
【0056】
〔ウレタン化反応〕
前記で得られたウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール100gを使用したほかは、実施例1と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期で4.83g/モル・秒、反応後期で3.69g/モル・秒で、反応後期の速度定数の低下が小さく(反応速度定数比:0.76)、反応性は安定していた。反応全体での平均の反応速度定数は4.43g/モル・秒であった。また、1時間後のイソシアネート基の転化率は82.3%であった。
【0057】
実施例3
〔加熱処理〕
加熱温度を100℃に変えたほかは、実施例2と同様に加熱処理を行った。
【0058】
〔ウレタン化反応〕
前記で得られたウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール100gを使用したほかは、実施例1と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期で4.77g/モル・秒、反応後期で3.62g/モル・秒で、反応後期の速度定数の低下が小さく(反応速度定数比:0.76)、反応性は安定していた。反応全体での平均の反応速度定数は4.38g/モル・秒であった。また、1時間後のイソシアネート基の転化率は81.9%であった。
【0059】
比較例2
〔ウレタン化反応〕
加熱処理を行うことなく、エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール100gをそのまま使用したほかは、実施例2と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期で4.57g/モル・秒、反応後期で2.36g/モル・秒で、反応後期に速度定数が低下して(反応速度定数比:0.52)、反応性が不安定であった。反応全体での平均の反応速度定数は4.12であった。また、1時間後のイソシアネート基の転化率は86.8%であった。
【0060】
実施例4
〔加熱処理〕
実施例1と同様に行った。
【0061】
〔ウレタン化反応〕
2−ブタノン使用量を56.6gに変え、イソシアネート化合物を4,4′−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート13.12g(0.05モル)に代えたほかは、実施例1と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期(反応開始10〜60分;以下、省略)で0.497g/モル・秒、反応後期(反応開始2〜5時間;以下、省略)で0.369g/モル・秒で、反応後期の速度定数の低下が小さく(反応速度定数比:0.74)、反応性は安定していた。反応全体での平均の反応速度定数は0.421g/モル・秒であった。また、5時間後のイソシアネート基の転化率は82.8%であった。
【0062】
実施例5
〔加熱処理〕
亜リン酸トリエステルを亜リン酸トリメチル4.35mg(0.0351ミリモル)に代えたほかは、実施例1と同様に行った。
【0063】
〔ウレタン化反応〕
前記で得られたウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール100gを使用したほかは、実施例4と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期で0.360g/モル・秒、反応後期で0.238g/モル・秒で、反応後期の速度定数の低下が小さく(反応速度定数比:0.66)、反応性は安定していた。反応全体での平均の反応速度定数は0.290g/モル・秒であった。また、5時間後のイソシアネート基の転化率は78.9%であった。
【0064】
実施例6
〔加熱処理〕
亜リン酸トリエステルを亜リン酸トリフェニル10.9mg(0.0351ミリモル)に代えたほかは、実施例1と同様に行った。
【0065】
〔ウレタン化反応〕
前記で得られたウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール100gを使用したほかは、実施例4と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期で0.342g/モル・秒、反応後期で0.234g/モル・秒で、反応後期の速度定数の低下が小さく(反応速度定数比:0.68)、反応性は安定していた。反応全体での平均の反応速度定数は0.283g/モル・秒であった。また、5時間後のイソシアネート基の転化率は73.2%であった。
【0066】
比較例3
〔ウレタン化反応〕
加熱処理を行うことなく、エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール100gをそのまま使用したほかは、実施例4と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期で0.114g/モル・秒、反応後期で0.055g/モル・秒で、反応後期に速度定数が低下して(反応速度定数比:0.48)、反応性が不安定であった。反応全体での平均の反応速度定数も0.066g/モル・秒で低かった。また、5時間後のイソシアネート基の転化率は39.8%であった。
【0067】
実施例7
〔加熱処理〕
実施例2と同様に行った。
【0068】
〔ウレタン化反応〕
2−ブタノン使用量を56.6gに変え、イソシアネート化合物を4,4′−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート13.12g(0.05モル)に代えたほかは、実施例2と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期で0.383g/モル・秒、反応後期で0.326g/モル・秒で、反応後期の速度定数の低下が小さく(反応速度定数比:0.85)、反応性は安定していた。反応全体での平均の反応速度定数は0.351g/モル・秒であった。また、5時間後のイソシアネート基の転化率は79.7%であった。
【0069】
比較例4
〔ウレタン化反応〕
加熱処理を行うことなく、エステル交換触媒含有ポリカーボネートジオール100gをそのまま使用したほかは、実施例7と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期で0.191g/モル・秒、反応後期で0.067g/モル・秒で、反応後期に速度定数が低下して(反応速度定数比:0.35)、反応性が不安定であった。反応全体での平均の反応速度定数も0.090g/モル・秒で低かった。また、5時間後のイソシアネート基の転化率は58.2%であった。
【0070】
比較例5
〔加熱処理〕
亜リン酸トリエステルをリン酸ジブチル7.37mg(0.0351ミリモル)に代えたほかは、実施例1と同様に加熱処理を行った。
【0071】
〔ウレタン化反応〕
前記で得られたウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール100gを使用したほかは、実施例1と同様にウレタン化反応を行った。その結果、ウレタン化反応の平均の反応速度定数は反応初期で0.051g/モル・秒、反応後期で0.043g/モル・秒で、反応後期の速度定数の低下は小さかったが(反応速度定数比:0.84)、反応全体での平均の反応速度定数も0.045g/モル・秒で非常に低かった。また、1時間後のイソシアネート基の転化率は4.0%に過ぎなかった。
【0072】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン化合物の原料用ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造方法であって、エステル交換触媒を含有するポリカーボネートジオールを亜リン酸トリエステルの存在下で加熱処理することを含み、亜リン酸トリエステルによる加熱処理後のウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールは、65℃におけるジフェニルメタンジイソシアネートとのウレタン化反応の平均反応速度定数が4〜5g/モル・秒であることを特徴とする方法。
【請求項2】
ウレタン化合物の原料用ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造方法であって、エステル交換触媒を含有するポリカーボネートジオールを亜リン酸トリエステルの存在下で加熱処理することを含み、亜リン酸トリエステルによる加熱処理後のウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールは、65℃におけるジシクロヘキシルメタンジイソシアネートとのウレタン化反応の平均反応速度定数が0.2〜0.5g/モル・秒であることを特徴とする方法。
【請求項3】
エステル交換触媒を含有するポリカーボネートジオールが、カーボネート化合物とジオール化合物をエステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させて得られるものである、請求項1又は2記載のウレタン化合物の原料用ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造方法。
【請求項4】
エステル交換触媒が、アルコキシ又はアリールオキシチタン化合物、有機スズ化合物、或いは、アルコキシアルミニウム化合物である、請求項1〜3のいずれか1項記載のウレタン化合物の原料用ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造方法。
【請求項5】
亜リン酸トリエステルをエステル交換触媒に対して0.8〜10倍モル存在させて加熱処理する、請求項1〜4のいずれか1項記載のウレタン化合物の原料用ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造方法。
【請求項6】
加熱処理温度が70〜145℃である、請求項1〜5のいずれか1項記載のウレタン化合物の原料用ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法により得られる、ウレタン化合物の原料用ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオール。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法によりウレタン化合物の原料用ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールを得る工程と、得られたウレタン化合物の原料用ウレタン化触媒含有ポリカーボネートジオールとイソシアネート化合物とを反応させる工程とを含むウレタン化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の製造方法により得られるウレタン化合物。

【公開番号】特開2008−121029(P2008−121029A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32709(P2008−32709)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【分割の表示】特願2000−215547(P2000−215547)の分割
【原出願日】平成12年7月17日(2000.7.17)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】