説明

ウレタン系樹脂材料、および熱伝導性材料

【課題】 高耐熱性、低硬度、および高粘着性で、成型品表面の平滑性に優れ、しかも、オイルブリードが抑制されたウレタン系樹脂材料と、このウレタン系樹脂材料をベースとした熱伝導性材料を提供すること。
【解決手段】 本発明のウレタン系樹脂材料は、175重量部のポリウレタンに対して、75〜300重量部のオレフィン系オイルと、1.5〜225重量部の液状酸化防止剤とを配合してなる。液状酸化防止剤としては、融点10℃以下のヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いるとよく、より具体的には、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−,C7−C9側鎖アルキルエステルを用いるとよい。このウレタン系樹脂材料100重量部に対して、180〜580重量部の熱伝導性フィラーを配合することにより、熱伝導性材料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性、低硬度、且つ高粘着性のウレタン系樹脂材料と、そのウレタン系樹脂材料をベースとした熱伝導性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料を低硬度化する技術としては、ベースとなる樹脂材料に対して多量の可塑剤を添加する技術が知られていた(例えば、下記特許文献1参照)。
このような技術によって製造された低硬度材料は、例えば、緩衝材や制振材などの用途に用いるのに好適なものであった。また、上記のような低硬度材料は、さらに熱伝導性フィラーや導電性フィラーを配合することにより、熱対策、電磁妨害(EMI:Electro Magnetic Interference)対策などの用途に用いられることもあった。また、この種の低硬度材料は、表面に粘着性(タック性)を有するものも多く、この粘着性を活かせば、実装箇所に対して貼り付けるようなこともできた。
【0003】
一方、従来、樹脂材料の耐熱性を向上させる技術としては、ベースとなる樹脂材料に対して酸化防止剤を添加する技術が知られていた。
この種の酸化防止剤は、通常、ベースとなる樹脂材料100重量部に対して、0.3〜0.5重量部程度添加されるものであった。
【特許文献1】特開平8−259758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような背景技術の下、本件発明者らは、ポリウレタンをベースにして低硬度で耐熱性の高い樹脂材料を開発しようと試みた。
しかし、ベースとなるポリウレタンに対して多量の可塑剤を添加した場合、オイルブリードを起こす傾向があり、添加した可塑剤が成形物から滲み出して、その成形物を実装した箇所の周辺を汚損してしまうおそれがあった。
【0005】
また、ベースとなるポリウレタンに対して粉末状の酸化防止剤を添加すると、得られた成形物の表面に無数の微細な凹部ができて平滑性の低い表面になり、そのような成形物を実装箇所に貼り付けても界面に無数の微細な空間ができることから、その空間が成形物と実装箇所との間の熱伝導を妨げる要因になるおそれがあった。
【0006】
さらに、ベースとなるポリウレタンに対して粉末状の酸化防止剤を添加すると、成形物表面の粘着性が低下する傾向があるため、粘着性を活かして貼り付けるようなことができなくなるおそれがあった。
【0007】
そこで、本件発明者らは、これらの諸問題をも解決すべくさらに検討を重ねた。その結果、特定の物性を持つ酸化防止剤を通常よりも多く配合すると、耐熱性の改善のみならず、材料の低硬度化、粘着性の向上、成型品表面の平滑性向上、およびオイルブリードの抑制を図ることができる、との知見を見いだすに至った。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その目的は、高耐熱性、低硬度、および高粘着性で、成型品表面の平滑性に優れ、しかも、オイルブリードが抑制されたウレタン系樹脂材料を提供することにある。また、このウレタン系樹脂材料をベースとした熱伝導性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明において採用した特徴的構成について説明する。
本発明のウレタン系樹脂材料は、175重量部のポリウレタンに対して、75〜300重量部のオレフィン系オイルと、1.5〜225重量部の液状酸化防止剤とを配合してなることを特徴とする。
【0010】
このように構成されたウレタン系樹脂材料によれば、液状酸化防止剤の作用によって高耐熱性の材料となる。しかも、液状酸化防止剤を本来の目的で使用する場合に比べ多量に添加しているため、1.5重量部未満の液状酸化防止剤や粉末状の酸化防止剤を配合した場合とは異なり、低硬度で高粘着性の材料となり、成型品表面が平滑性に優れた表面になり、オイルブリードも抑制されたものとなる。
【0011】
なお、本発明のウレタン系樹脂材料において、前記液状酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であると好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤には、液状のものも粉末状のものもあるが、本発明においては、液状のものを利用する。
【0012】
特に、本発明においては、融点10℃以下のヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いると好ましく、より具体的な例を挙げれば、前記液状酸化防止剤は、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−,C7−C9側鎖アルキルエステルであると好ましい。なお、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−,C7−C9側鎖アルキルエステルは、市販品(例えば、製品名:IRGANOX(登録商標)1135、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)を利用すればよい。
【0013】
また、液状酸化防止剤の配合比は、上述した通りであるが、さらに好ましくは、175重量部のポリウレタンに対して、前記液状酸化防止剤を、60〜225重量部配合してなるものであるとよい。
【0014】
この程度まで液状酸化防止剤の配合比を大きくすると、酸化防止剤としての一般的な配合比に比べ、液状酸化防止剤の配合比が格段に大きくなるが、これにより、本発明のウレタン系樹脂材料をさらに低硬度化することができ、粘着性も向上し、成型品表面の平滑性が向上し、オイルブリードを抑制することができる。
【0015】
以上のような本発明のウレタン系樹脂材料は、各種機能性複合材料を製造するためのベース樹脂材料として利用することができる。より具体的には、例えば、本発明のウレタン系樹脂材料に対して熱伝導性フィラーを添加することにより、熱伝導性材料を得ることができる。あるいは、本発明のウレタン系樹脂材料に対して導電性フィラーを添加することにより、導電性材料を得ることができる。あるいは、本発明のウレタン系樹脂材料単独、もしくは上記各種フィラーを添加してなる材料は、緩衝材料や制振材料としても好適なものである。
【0016】
熱伝導性材料の具体例としては、例えば、本発明のウレタン系樹脂材料100重量部に対して、180〜580重量部の熱伝導性フィラーを配合してなるものを挙げることができる。熱伝導性フィラーの配合量は、180重量部より少ないときは熱伝導性材料としての特性が低くなる傾向があり、また逆に580重量部より多いときは熱伝導性材料としての特性は良いものの粘性が高くなるため成形が困難になる傾向がある。
【0017】
このような熱伝導性フィラーとしては、アルミナ粉末またはマグネシア粉末のいずれか一方または両方の混合物を用いるとよい。その他には、炭化ケイ素、窒化ホウ素、水酸化アルミニウムなども、熱伝導性フィラーとして配合するのに好適である。
【0018】
また、硬度(ASKER−C)が、5〜40度程度に調整されていると、きわめて柔軟に変形するようになるので、実装箇所に対する密着性を高め、その界面における熱伝導性を改善することができるので好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、より具体的な例を挙げて説明する。
(1)製造方法
まず、11種の試料(実施例1〜7,および比較例1〜4)を得るため、下記表1に示すような重量比となるように各物質を秤量した。
【0020】
【表1】

【0021】
上記表1において、熱伝導性フィラーの量は、ベースとなる樹脂成分(本発明のウレタン系樹脂材料に相当)100重量部に対する重量比で、240重量部となるように設定したものである。
【0022】
なお、この実施形態において、上記表1中のポリオールとしては、出光石油株式会社製の市販品(品名:「エポール」)を利用し、変性ポリオールとしては、伊藤製油株式会社製の「URIC Y−202」を利用した。また、オレフィン系オイルとしては、動粘度63cSt(40℃時)のものを利用した。また、イソシアネートとしては、IPDI(イソホロンジイソシアネート)を利用した。さらに、液状酸化防止剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製の「IRGANOX(登録商標)1135」を利用し、粉末状酸化防止剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製の「IRGANOX(登録商標)245」を利用した。また、熱伝導性フィラーとしては、アルミナ粉末およびマグネシア粉末の混合物(平均粒径10μm)を使用した。ただし、これらの各物質は、本発明の一実施形態として例示するものであり、本発明を実施する上で上記の具体的な各物質が必須であることを示すものではない。
【0023】
次に、秤量した各物質を混練して真空脱泡を行い、その後、コーターを使用して、温度150℃、成形時間7分で成形を行い、厚さ2.0mmのシート状の成形品を得た。
(2)性能試験
上記11種の試料について、以下の5種の試験を実施した。
【0024】
[1.硬度測定]
厚み12mmまでシートを積層して、ASKER−C硬度計(高分子計器株式会社製)で硬度を測定した。なお、硬度に関する規格の一つとしては「JIS K 6253」のJIS A硬度などが知られているが、ASKER−C硬度(準拠規格:JIS K 7312 JIS S 6050)は、JIS A硬度での測定が好適な材料よりもやや硬度が低い材料を測定対象として硬度を測定する際に広く用いられている測定基準の一つである。
【0025】
[2.ボールタック試験]
ASTM D 3121に準じて試験を行った。このボールタック試験により、各試料表面の粘着性を比較することができる。
【0026】
[3.オイルブリード試験]
□20mmの試料を、室温条件下でコピー用紙の上に50時間放置し、その後、コピー用紙へ移行したオイル跡のサイズを測定した。
【0027】
[4.耐熱試験]
100℃の恒温槽の中に試料を放置し、初期形状を維持できた場合はOK、初期形状を維持できなかった場合はNGと判定し、OK、NG、いずれの場合とも、試験開始から判定に至るまでの経過時間を測定した。
【0028】
以上の各試験の結果を、下記表2に示す。
[5.表面平滑性]
試料表面の性状を目視にて観察し、平滑な表面を有する場合はOK、無数の微細な凹部が形成されている場合はNGと判定した。
【0029】
【表2】

【0030】
上記表2に示した実験結果から、次のことがわかる。
まず、比較例4、実施例1、実施例3、実施例2は、この順序で、液状酸化防止剤の配合比を0、1.5、60、225重量部と変化させた場合の測定結果となる。
【0031】
この測定結果から、液状酸化防止剤の配合比を増大させることにより、硬度が徐々に低下することがわかる。特に、液状酸化防止剤の配合比が60重量部以上になると、硬度が30度を下回り、きわめて低硬度の材料となることがわかる。また、ボールタック試験からは、液状酸化防止剤の配合比を増大させることにより、ボールの転がる距離が徐々に短くなる(すなわち、粘着性が増大している)ことがわかる。また、オイルブリードは、実施例1〜3には差異がないものの、実施例1〜3と比較例4とでは差異が生じたことから、液状酸化防止剤を僅か1.5重量部配合するだけでもオイルブリードを抑制できることがわかる。さらに、耐熱試験の結果から、液状酸化防止剤を僅か1.5重量部配合するだけでも耐熱性が十分に向上していることがわかる。
【0032】
次に、比較例4、比較例1、比較例2は、この順序で、粉末状酸化防止剤の配合比を0、1.5、60重量部と変化させた場合の測定結果となる。
この測定結果から、粉末状酸化防止剤の場合は、配合比を増大させることにより、硬度が徐々に高くなることがわかる。つまり、上記実施例1〜3とは反対の結果であり、粉末状酸化防止剤では、低硬度化と耐熱性向上を両立させることが難しいことがわかる。また、粉末状酸化防止剤の配合比を増大させるほど、オイルブリードが生じやすくなることがわかる。したがって、粉末状酸化防止剤では、低硬度化とオイルブリードの抑制を両立させることが難しいこともわかる。
【0033】
次に、実施例2、比較例1、比較例3は、液状酸化防止剤とオレフィン系オイルについて、いずれか一方のみを配合した場合と両方を配合した場合の測定結果となる。
この測定結果から、液状酸化防止剤とオレフィン系オイルは、いずれか一方を配合した場合、硬度はほぼ同等(比較例1=43度、比較例3=44度)となるが、両方を配合することにより、格段に硬度が低下する(実施例2=10度)ことがわかる。また、ボールタック試験からは、液状酸化防止剤とオレフィン系オイルのいずれか一方を配合した場合よりも、両方を配合した場合の方が、ボールの転がる距離が短くなる(すなわち、粘着性が増大している)ことがわかる。さらに、オイルブリードについても、液状酸化防止剤とオレフィン系オイルのいずれか一方を配合した場合よりも、両方を配合した場合の方が、オイルブリードを抑制できることがわかる。
【0034】
以上説明した通り、上記ウレタン系樹脂材料は、ポリウレタンをベースにオレフィン系オイルと液状酸化防止剤とを配合したものであり、特に、液状酸化防止剤を通常よりも多量に配合したものなので、オレフィン系オイルのみを配合したもの、液状酸化防止剤のみを配合したもの、粉末状酸化防止剤を配合したものなどに比べ、高耐熱性、低硬度、高粘着性、オイルブリード抑制、高表面平滑性といった物性のすべてを、いずれかを犠牲にすることなくバランスよく改善することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
例えば、上記実施形態では、本発明のウレタン系樹脂材料に熱伝導性フィラーを配合することにより、熱伝導性材料を構成する例を示したが、本発明のウレタン系樹脂材料は、高耐熱性、低硬度、高粘着性、オイルブリード抑制、高表面平滑性といった特性を有する点に特徴がある材料であり、これらの特性を活かせる用途であれば、熱伝導性フィラー以外のフィラーを配合したり、あるいは、フィラーを配合することなく利用したりすることも可能である。
【0036】
具体的には、例えば、導電性フィラーを配合することにより、高耐熱性、低硬度、高粘着性、オイルブリード抑制、高表面平滑性といった特性を有する導電性材料や電磁妨害(EMI:Electro Magnetic Interference)対策材料を構成することができる。あるいは、フィラーを配合することなく、高耐熱性、低硬度、高粘着性、オイルブリード抑制、高表面平滑性といった特性を有する緩衝材、制振材などを構成することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
175重量部のポリウレタンに対して、75〜300重量部のオレフィン系オイルと、1.5〜225重量部の液状酸化防止剤とを配合してなる
ことを特徴とするウレタン系樹脂材料。
【請求項2】
前記液状酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤である
ことを特徴とする請求項1に記載のウレタン系樹脂材料。
【請求項3】
前記液状酸化防止剤は、融点10℃以下のヒンダードフェノール系酸化防止剤である
ことを特徴とする請求項2に記載のウレタン系樹脂材料。
【請求項4】
前記液状酸化防止剤は、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−,C7−C9側鎖アルキルエステルである
ことを特徴とする請求項3に記載のウレタン系樹脂材料。
【請求項5】
ポリウレタン175重量部に対して、60〜225重量部の前記液状酸化防止剤を配合してなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のウレタン系樹脂材料。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載のウレタン系樹脂材料100重量部に対して、180〜580重量部の熱伝導性フィラーを配合してなる
ことを特徴とする熱伝導性材料。
【請求項7】
硬度(ASKER−C)が、5〜40度である
ことを特徴とする請求項6に記載の熱伝導性材料。

【公開番号】特開2007−91858(P2007−91858A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282237(P2005−282237)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】