説明

ウレタン結合を有するメタクリレート系モノマー、その製造及び使用プロセス

本発明は、以下の構造式(1)によって表されるモノマー又はモノマーの混合物を含む歯科用組成物に関する。式中、Rは、独立して、H、アルキル(例えば、CH)、及びフェニルから選択され、3,4Rは、独立して、H、アルキル(例えば、CH)、及びハロゲン(Cl、Br、F)から選択され、Rは、独立して、H、アルキル(例えば、CH)から選択され、m、n=1、2、及びx+y=2〜10であり、但し、m=n=2である場合、x+y=2を超え、m=n=1である場合、x+y=4〜10である。本発明はまた、モノマー又はモノマーの混合物の製造プロセス、及びそれらの特に歯科用組成物としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、特定の式を有するモノマー又はモノマーを含有する混合物、及び歯科分野におけるそのモノマー又はモノマー混合物の製造及び使用プロセス、並びにそのモノマー又はモノマー混合物を含む歯科用組成物に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2007年9月26日に出願された欧州特許出願公開第07117211.8号に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
いくつかの市販の歯科材料において、(メタ)アクリレート系モノマーが使用されている。
【0004】
例えばビス−GMAのような比較的高分子量である二官能性(メタ)アクリレート系モノマーは、例えばトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)のような比較的低分子量であって、比較的粘度も低い(メタ)アクリレート系コモノマーと混合されることがある。
【0005】
特に、比較的高分子量のモノマーは、例えばビスフェノールA又はトリシクロデカン部分のようなモノマーの中心において比較的強固な炭化水素骨格を有するという構造原理を示すことがある。(メタ)アクリレート官能基は、例えば酸素のようなヘテロ原子を含有し得る脂肪族鎖を介して、(メタ)アクリル酸エステルとしてこの骨格に結合する。これらの材料は、典型的には、アルキメデスの浮力原理、DIN規格13907(リノメーター測定(アメリカン・ジャーナル・オブ・デンシティ(Am. J. Dent.)、2000年、13号(特集)、82D〜84D、及びデンタル・マテリアル(Dent. Mater.)、1993年、9号、11頁〜14頁参照)に従って決定され、硬化中に平均で約2.0〜約3.5重量%の体積収縮を示す。
【0006】
硬化中の体積収縮が高いと、例えばエナメル質の破損、咬頭の亀裂、及び咬頭の移動のような不必要及び/又は有害な副作用、並びにコンポジット−歯境界面の不具合が引き起こされる恐れがあるため、低減されるべきである。その一方で、歯科用組成物は、十分な機械的特性を有するべきである。
【0007】
硬化組成物の機械的特性を高レベルで維持するだけでなく、硬化中の体積収縮も低減するために、様々な試みが提案されている。
【0008】
典型的な試みの1つは、無機充填剤を増量することである。しかしながら、これは、有機樹脂の存在量が低下するために、(メタ)アクリレート基の硬化中の転化率の低下が引き起こされ得る。
【0009】
その他の試みは、モノマーの分子量を増加することである。この点において、ビスフェノール誘導体をもとにしたプレポリマーの(メタ)アクリレート官能性ウレタンが提案されている。
【0010】
更なる試みは、特別な比率における異なる二官能性(メタ)アクリレートモノマーの混合物、又は特別な一官能性(メタ)アクリレートモノマー及び二官能性(メタ)アクリレートモノマーの混合物を使用することである。
【0011】
しかしながら、十分なレベルの機械的特性を維持する場合に、多成分組成物の複雑な反応挙動に起因して、体積収縮をわずかに改善するためだけに多大な努力を必要とすることがある。
【0012】
米国特許第4,744,827号は、トリシクロデカンの(メタ)アクリル酸誘導体及びその使用が記載されている。
【0013】
米国特許第2004/0209990号は、有機又は無機充填剤の混合物、及び2重量%未満の体積の重合収縮を有する重合性樹脂マトリックスを含む低収縮重合性歯科用組成物について言及している。
【0014】
国際公開第2005/107626号は、歯科修復組成物における二量体酸誘導ジメタクリレート及びその使用に関する。
【0015】
日本特許第2306955号は、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン及び/又はそのポリアルキレングリコールエステルに注目している。これらの分子は、コーティング、接着剤、インク、電気絶縁体、光学材料、写真材料、印刷、歯科用セメント、繊維、フォトレジスト、医薬品などにおける架橋剤として有用であり得ると述べられている。しかしながら、CF部分を含有するビスフェノールA誘導体は、比較的低い屈折率を示すことがあり、歯科分野において常に好適ではないことが分かっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述から、特に現代の歯科材料に関して満たされるべき要件に対して、未だに改善の余地があることが明らかになっている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
1つの態様において、本発明は以下の式(1):
【化1】

式中
1、2Rは、独立して、H、アルキル(C1〜C4など、CH及びCを包含する)、及びフェニルから選択され、
3、4Rは、独立して、H、アルキル(C1〜C4など、CH及びCを包含する)及びハロゲン(Cl、Br、Fを包含する)から選択され、
Rは、独立して、H、アルキル(C1〜C4など、CH及びCを包含する)から選択され、
m、n=1、2であり、及び
x+y=2〜10又は2〜9又は2〜8である(4、6.5及び8.5を包含する)
特に、但し、m=n=2である場合、x+y=2を超え、及びm=n=1である場合、x+y=4〜10を超える、で表されるモノマー又はモノマーの混合物、及びかかるモノマーを含有する混合物を含む歯科用組成物に関する。
【0018】
その他の態様では、本発明は、かかるモノマー又はモノマーの混合物を製造するプロセスに関し、そのプロセスは、イソシアネートエチルメタクリレートとジヒドロキシ官能性ビスフェノール誘導体とを反応させる工程を含む。
【0019】
更なる態様では、本発明は、歯科材料の製造において、かかるモノマー又はモノマーの混合物を使用するプロセスに関する。
【0020】
本発明はまた、以下:
a)全組成物に対して少なくとも10重量%で含まれる樹脂マトリックス、及び
b)全組成物に対して少なくとも40重量%で含まれる充填剤マトリックス、
c)樹脂マトリックス中に存在する硬化性成分の硬化プロセスを開始することができる反応開始剤、
d)選択的に、顔料、着色料、安定剤、抑制剤、可塑剤、風味剤、抗菌剤、芳香剤、蛍光及び/又は乳白光を付与する薬剤、並びにフッ化物放出性材料並びにこれらの混合物からなる群から選択される更なる添加物、
を含み、
ここで、かかる樹脂マトリックスは、上記の式(1)で要約され得るモノマー又はモノマーの混合物を含む、歯科用組成物に関する。
【0021】
本発明の特定の実施形態では、歯科用組成物の樹脂は、少なくとも約10、20、30、40又は50重量%の本発明のモノマーを含む。
【0022】
更に、本発明は、本発明の文中で記載されているような歯科用組成物を、人工歯冠、前部又は後部充填物、鋳込材料、キャビティライナー、セメント、コーティング組成物、ミルブランク、歯列矯正装置、修復材、補綴物、又はシーラントとして用いる方法、あるいはこれらを製造するために用いる方法に関する。
【0023】
驚くべきことに、上記の式(1)で特徴付けられるモノマー又はモノマーの混合物は、特に、他の成分の存在下で硬化させた場合、粘度、屈折率、分子量及び収縮値において、均衡の取れた特性を示すことが分かっている。
【0024】
粘度が十分に低いと、手順が取り扱いやすく、モノマーと組成物の他の成分との混合が促進され得る。
【0025】
充填剤のような他の成分の屈折率と適合する屈折率は、施術者の審美的な特性に対する要望を満たす組成物を提供するのに役立ち得る。特定のハロゲン含有基(例えば、CF)を担時するモノマーが、かかるハロゲン含有基を含有しないモノマーと比較して低い屈折率を有することがあることが分かっている。
【0026】
モノマーの分子量が十分に高いと、物質が医療/歯科分野で使用される場合に満たされる必要がある、毒性に関する要望を満たすのに役立ち得る。分子量が十分に高いと、硬化プロセス中又は硬化プロセス後のモノマーの収縮を低減させるのにも役立ち得る。
【0027】
特定の実施形態では、本発明で使用されるモノマー又はモノマーの混合物は、以下の特徴を示す:
・モノマーはメタクリレート官能性であって、市販のモノマー(ビス−GMA、オキセタニル化(2)ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化(4)ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化(6)ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化(10)ビスフェノールAジメタクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジメタクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジアクリレートなど)に相当する分子量を有する。
・モノマーは、メタクリレート基に対して二官能性である。
・モノマーの骨格は、アルコキシル化ビスフェノール(ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールAPを包含し、それぞれがフェノール性ヒドロキシル基においてアルコキシル化され、例えばエトキシル化及び/又はプロポキシル化及び/又はオキセタニル化ビスフェノールAのようなジヒドロキシル官能性ビスフェノール誘導体エステルを形成する)に基づく。
・メタクリレート基は、ウレタン結合を介して中心骨格に結合する。特定の理論に束縛されるものではないが、これは、高い耐久性に及び/又は重合収縮の低減に関する特性を改善するのに役立つと考えられる。
・モノマーは、イソシアネート官能性ビルディングブロックとして、例えば2−イソシアネートエチルメタクリレート(IEM;2−メタクロイルオキシエチルイソシアネート、CAS番号30674−80−7)を使用して入手可能であり、これは、ビルディングブロックとしてジヒドロキシ官能性中心骨格と反応することが可能である。
【0028】
かかるモノマー又はこれらのモノマーの混合物を含む本発明による歯科用組成物の特定の実施形態は、改善された機械的特性を示す。無機充填剤を(市販の複合材料と比較して)増量することなく、この特性における改善が達成されることがあることが分かっている。
【0029】
更には、本発明の組成物の特定の実施形態に関して、市販材料と比較して重合収縮を低下させ、及び/あるいは耐久性を維持又は更に改善するために、高分子量(平均分子量が約1500を超える)を有するプレポリマー化合物を添加する必要もなく、固有の比率における固有のモノマーによる特定の混合物を使用する必要もないことが分かっている。
【0030】
したがって、本発明の歯科用組成物の特定の実施形態は、耐久性の改善と合わせた重合収縮の低減を包含する特徴の独自の組み合わせを示す。
【0031】
許容可能な粘度(例えば23℃において約500Pas未満)と許容可能な屈折率(例えば1.51〜1.54(nD)の範囲内)とを兼ね備えた比較的高分子量(例えば約600を超える)を有する本発明のモノマー又はモノマーの混合物を使用することによって、歯科用組成物のこれらの特徴は、ある程度影響を受ける。
【0032】
特定の組成物が有用であるかどうかを決定するために、硬化した組成物の圧縮強度(CS)、曲げ強度(FS)及びE−弾性率のような機械的特性が典型的には測定される。これらに加えて、硬化したコンポジットの耐摩耗性(例えばACTAによる二体耐磨耗性として測定される)、並びに関連条件下(例えば体温の温度の水の中)における硬化した組成物の耐久性(即ち長期性能)が重要である場合がある。
【0033】
特定期間にわたる患者の口内における硬化したコンポジットの十分な耐久性を予見するために、様々な試験が提案されている。例えば硬化したコンポジットの初期機械的特性が十分なレベルであるとともに、関連条件下において特定期間にわたってこの初期機械的特性レベルが穏やかに低下するのみであることは、有用な概念であると見なされることがある。
【0034】
この評価は、硬化した組成物を、例えば体温(37℃)の水の中で一定期間、付属の測定器とともに保管することで実行され得る。促進老化試験(例えば、硬化した組成物を水中で10時間、約93℃の温度まで加熱する)のような負荷試験も、特に、初期データを負荷後のデータと比較する場合に、硬化したコンポジットの潜在的な耐久性をより早く予測するのに有用な概念であり得る。これらの測定のより詳細な説明は、実施例の項目で見ることができる。
【0035】
定義
本発明の意味の範囲内の「歯科用組成物」は、歯科分野に使用することができる任意の組成物である。この点において、組成物は患者の健康にとって有害であってはならず、したがって、組成物から出て移動することのできる有害成分及び有毒成分は含まれない。歯科用組成物の例には、永久的及び一時的歯冠及びブリッジ材料、人工歯冠、前部又は後部充填物、接着剤、ミルブランク、ラボ材料並びに歯列矯正装置が挙げられる。
【0036】
本発明の意味の範囲内の「モノマー」は、オリゴマー又はポリマーに重合されることが可能であり、それによって分子量が増加する重合性基((メタ)アクリレート基を包含する)を担持する化学式によって特長付けられ得る任意の化学物質である。通常、モノマーの分子量は、与えられた化学式に基づいて単純に計算することができる。
【0037】
本発明の意味の範囲内の「硬化性化合物」は、例えば重合、化学架橋、放射線誘導重合又は架橋を引き起こすために加熱するか、又はレドックス反応開始剤を使用して、硬化又は固化し得る任意の化合物である。硬化性化合物は、ただ1つ、2つ、3つ以上の重合性基を含有し得る。重合性基の典型的な例は、(とりわけ(メタ)アクリレート基中に存在する)ビニル基のような不飽和炭素基である。
【0038】
本発明の意味の範囲内の「樹脂マトリックス」は、硬化性組成物中に存在する全ての硬化性化合物(モノマー、オリゴマー及び/又はポリマー)を包含する。樹脂マトリックスは、単一の硬化性化合物又は異なる硬化性化合物の混合物を含有し得る。本発明のモノマー又はモノマーの混合物は、樹脂マトリックスにも同様に含まれる。
【0039】
本発明の意味の範囲内の「充填剤マトリックス」は、硬化性組成物中に存在する全ての充填剤を包含する。充填剤マトリックスは、単一の充填剤又は異なる充填剤の混合物を含有し得る。
【0040】
「樹脂内に分散した」は、充填剤粒子が樹脂中に、分離性である非結合(即ち非凝集及び非会合)粒子として存在することを意味する。
【0041】
本発明の意味の範囲内の「ナノサイズ充填剤」は、それらの個々の粒子が、例えば平均粒径が約200nm未満であるようなナノメートル範囲の寸法を有する充填剤である。米国特許第6,899,948号及び米国特許第6,572,693号に有用な例が示されており、これらの特許の、特にナノサイズシリカ粒子に関する内容は、本明細書に参照として組み込まれる。
【0042】
本発明の意味の範囲内の「反応開始剤又は反応開始剤系」は、硬化性化合物の硬化プロセスを開始することができる物質である。
【0043】
本発明の意味の範囲内の「硬化(curing)、硬化(hardening)又は凝結反応」は、互換可能に使用され、個々の成分間の化学反応によって、組成物の粘度及び硬度などの物理的特性が経時的に変化する反応を表す。
【0044】
本発明の意味の範囲内の「誘導体」は、対応する参照化合物と密接に関係する化学構造を示し、対応する参照化合物の全ての特徴化された構造要素を含有するが、対応する参照化合物と比較して、例えばCH、Br、Cl又はFのような比較的小さな付加的な化学基を更に担持するように若干の修正を有するか、あるいは例えばCHのような比較的小さな化学基を担持しない化合物である。以下の例はこれを説明するものである:参照化合物ビスフェノールAについて、4つの付加的なメチル基を担持するテトラメチルビスフェノールA及び参照化合物ビスフェノールAについて、2つの付加的なメチル基を担持しないビスフェノールFは、本定義の意味の範囲内のビスフェノールAの誘導体である。
【0045】
「周囲条件」は、本発明の組成物が、保管及び取り扱い中に通常さらされる条件を意味する。周囲条件は、例えば、圧力約90〜約110kPa(900〜約1100ミリバール)、温度約−10〜約60℃、及び相対湿度約10〜約100%であり得る。実験室周囲条件は、約23℃及び約101.3kPa(1013ミリバール)に調整される。
【0046】
本明細書で使用するとき、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つの」、及び「1つ以上の」は、同じ意味で使用されている。用語「含む」又は「含有する」及びこれらの変化形は、これらの用語が明細書及び特許請求の範囲で用いられた場合、制限的な意味を有しない。また本明細書において、端点による数の範囲の列挙には、その範囲内に包含される全ての数(例えば、1〜5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5、など)が包含される。
【0047】
別に示されない限り、明細書及び請求項で使用される成分の量、コントラスト比のような特性の測定などを表す全ての数は、全ての場合に用語「約」によって修正されることが理解されるべきである。したがって、特に異議を唱えない限り、先の明細書及び添付した特許請求の範囲に記載した数値パラメータは、当業者により本発明の教示を利用して得ようとされる所望の性質に応じて変化し得る近似値である。最低限でも、また特許請求の範囲の範囲と同等物の原則の適用を制限しようとするものではないが、それぞれの数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数値を考慮して、通常の数値のまるめ方を適用することによって解釈されるべきである。本発明の広範囲で示す数値的範囲及びパラメータは近似値であるが、具体例に記載の数値は可能な限り正確に報告する。しかしながら、いずれの数値もそれらのそれぞれの試験測定値において見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明は、上述の式(1)に従う硬化性モノマー又はモノマーの混合物を含む歯科用組成物に関する。本発明の文中、これらのモノマーはモノマー(A1)としても表される。硬化性組成物中に存在し得る他の硬化性モノマーは、硬化性成分(A2)として表される。硬化性成分(A2)は、本発明のモノマー(A1)とともに使用され得る。
【0049】
具体的な実施形態では、本発明のモノマー又はモノマーの混合物は、以下のパラメータのうちの少なくとも1つを満たす:
【表A】

【0050】
本発明のモノマー又はモノマーの混合物における好ましい実施形態の例は、以下の式(2)で示される:
【化2】


1,2Rは、独立して、H、CH及びフェニルから選択され、
3,4Rは、独立して、H及びCH、Br及びClから選択され、
Rは、独立してH及びCHから選択され、
m、n=1、2及び
x+y=2〜10又は2〜9又は2〜8であって、4、6.5及び8.5を包含する。
【0051】
本発明のモノマー又はモノマーの混合物におけるその他の好ましい実施形態のその他の例は、以下の式(3)で示される:
【化3】

【0052】
本発明で使用され得る他のモノマー又はモノマーの混合物の例は、以下を包含する:
【化4】

【0053】
適切な反応成分が選択される場合、式(1)〜(8)のいずれかで表されるモノマー又はモノマーの混合物が入手可能であるか、又は好ましくは一段階ワンポット付加反応である非常に単純なプロセスによって製造することができる。
【0054】
1つの実施形態によると、プロセスは、イソシアネートエチルメタクリレート(IEM)とジヒドロキシル官能性ビスフェノール誘導体(セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)220(CAS番号901−44−0)、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)240(CAS番号32492−61−8)、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)265(CAS番号32492−61−8)、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)285(CAS番号32492−61−8)、セピック社(Seppic)のシムルソール(Simulsol)BPJE(CAS番号32492−61−8)、セピック社(Seppic)のシムルソール(Simulsol)BPJE/AP(CAS番号32492−61−8)、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)320(CAS番号37353−75−6)、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)340、セピック社(Seppic)のシムルソール(Simulsol)BPPE、セピック社(Seppic)のシムルソール(Simulsol)BPPE/A、コグニス社(Cognis)のフォトノール(PHOTONOL)PHO−7028(CAS番号32492−61−8)、シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)のビスフェノールAエトキシレート(EO/フェノール2(CAS番号32492−61−8)、EO/フェノール3(CAS番号32492−61−8))、シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)のビスフェノールAプロポキシレート(PO/フェノール1、CAS番号37353−75−6)、モノマー・ポリマー・アンド・ダジャック・ラボラトリーズ(Monomer-Polymer & Dajac Laboratories)のエトキシル化ビスフェノールA(CAS番号32492−61−8)など)とを反応させる工程を含む。
【0055】
ジブチルスズジラウレート(DBTDL)又はビスマスネオデカノエート、例えばシェパード社(Shepherd)のビカット(Bicat)8108M、ABCR社のビスマス(III)ネオデカノエート(超伝導体級)、ネオデカン酸中約60%(15〜20%ビスマス)、又はストレムケミカルズ社(Strem Chemicals)のビスマス(III)ネオデカノエート(超伝導体級)、ネオデカン酸中約60%(15〜20%ビスマス)などの触媒が適切な量(例えば500ppm)で使用され得るが、必ずしも必要ではない。
【0056】
反応は、典型的には、好ましくは乾燥状態(例えば乾燥空気)の下、約40〜約70℃の温度範囲で実行され得る。反応は、共通溶媒中(シクロヘキサン、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチル−エーテル、テトラヒドロフランを包含する)、又は溶媒を用いずに実行され得る。
【0057】
合成中の不必要なラジカル重合を防ぐために、適切な量(例えば50〜500ppm)で、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−トルエン(BHT)、4−メトキシフェノール(MOP)、又はヒドロキノン(HQ)のような安定剤を使用し得るが、必ずしも必要ではない。
【0058】
反応の完了は、赤外分光法によって、特に、約2273cm−1において吸収を示すNCOバンドに注目して決定することができる。
【0059】
典型的なプロセスが、以下で要約され得る:
【化5】


式中、添数は上述の式(1)で定義される意味を有する。
【0060】
モノマー又はモノマーの混合物は、歯科用組成物を製造するのに使用され得る。好ましい実施形態では、モノマー又はモノマーの混合物は、更なる精製工程を経ることなく、反応槽から取り出して直接使用することができる。
【0061】
本発明はまた、このモノマー又はモノマーの混合物を含み、充填剤マトリックスを含まない歯科用組成物に関する。
【0062】
特定の実施形態では、充填剤マトリックスを含まない本発明の組成物は、硬化後に以下のパラメータのうちの少なくとも1つを満たす:
・曲げ強度(MPa):ISO 4049に従って決定され、少なくとも約90、又は少なくとも約100、又は少なくとも約110、
・E−弾性率(GPa):ISO 4049に従って決定され、少なくとも約1.9、又は少なくとも約2.1、又は少なくとも約2.3、及び/又は
・体積収縮度(重量%):ヘリウム・ピクノメーター(Pyconmeter)(マイクロメリティクス社(Micrometritics)のアキュピック(AccuPyc)1330)を使用し、約5.5以下、又は約5.3以下、又は約5.1以下。
【0063】
本発明はまた、充填剤マトリックスとともに本発明のモノマー又はモノマーの混合物を含む歯科用組成物に関する。
【0064】
特定の実施形態では、充填剤マトリックスを含有する本発明の組成物は、硬化後に以下のパラメータのうちの少なくとも1つを満たす:
・圧縮強度(MPa):立方体の試料(寸法:3mm×3mm×5mm)を使用して、ISO 9917に従って決定され、少なくとも約320、又は少なくとも約340、又は少なくとも約350、
・曲げ強度(MPa):ISO 4049に従って決定され、少なくとも約120、又は少なくとも約130、又は少なくとも約140、
・E−弾性率(GPa):ISO 4049に従って決定され、少なくとも約9、又は少なくとも約10、又は少なくとも約11、及び/又は
・接着ディスク収縮歪み(容量%):ワッツプロトコル(Watts protocol)に従って決定され、約1.6以下、又は約1.5以下、又は約1.4以下。
【0065】
特定の実施形態(例えば歯科用複合材料)において、以下のパラメータの組み合わせが好ましい:圧縮強度(例えば少なくとも約350MPa)及び曲げ強度(例えば少なくとも約140MPa)。これらの実施形態において、接着ディスク収縮歪み(ワッツプロトコル(Watts protocol))が約1.50重量%未満であることが好ましい。
【0066】
本発明の歯科用組成物は、樹脂マトリックスを含む。樹脂マトリックスは、全組成物の少なくとも約10重量%、少なくとも約15重量%又は少なくとも約16重量%で含まれる。樹脂マトリックスは、1つの硬化性成分又は異なる硬化性成分の混合物から構成され得る。
樹脂マトリックスの少なくとも約10、20、30、40、50又は60重量%は、上述の式(1)で要約され得る成分から構成され得る。
【0067】
本発明によると、樹脂マトリックスは、以下から構成され得る:
・硬化性化合物単体として、本発明のモノマー(A1)又はその混合物、
・本発明のモノマー(A1)の混合物又はモノマー(A1)とは異なるその他の硬化性成分(A2)を一緒にしたモノマー(A1)の混合物、又は
・本発明のモノマー(A1)の混合物又はモノマー(A1)とは異なる他の硬化性成分(A2)の混合物を一緒にしたモノマー(A1)の混合物。
【0068】
つまり、樹脂マトリックスは、1つ、2つ、3つ又は4つの硬化性成分のみから構成されることが可能であり、これらのうちの少なくとも1つは上述の式(1)で要約され得る。
【0069】
本発明の更なる実施形態では、樹脂マトリックスは、1つ又は2つの重合性基を有する、約4つを超えるか又は約3つを超える異なる硬化性成分を含有しない。
【0070】
本発明のその他の実施形態では、樹脂マトリックスは、2つの重合性基を有する硬化性成分のみを含有するが、重合性基を1つだけ有する硬化性成分は含有しない。
【0071】
更なる実施形態では、本発明のモノマー又はモノマーの混合物と組み合わせた樹脂マトリックス中に存在し得る他の又は更なる硬化性成分(A2)には、1つ以上の重合性(例えばエチレン性不飽和性)基を有する、モノマー、オリゴマー、及びポリマーが挙げられる。
【0072】
フリーラジカル活性官能基を有する硬化性樹脂の部類において、本発明での使用に好適な材料は、少なくとも1つのエチレン系不飽和結合を含有し、付加重合を実施することができる。このようなフリーラジカル重合性材料には、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジアクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ソルビトールヘキサクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルメタクリレート(「ビス−GMA」)、ビス[1−(2−アクリルオキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、及びトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメタクリレートのようなモノ−、ジ−又はポリアクリレート及びメタクリレート;分子量200〜500のポリエチレングリコールのビス−アクリレート及びビス−メタクリレート、米国特許第4,652,274号の中のもののようなアクリレート化モノマーの共重合性混合物、及び米国特許第4,642,126号のもののようなアクリレート化オリゴマー;並びに、スチレン、ジアリルフタレート、ジビニルスクシナート、ジビニルアジパート及びジビニルフタレートのようなビニル化合物が挙げられる。所望であれば、これらのフリーラジカル重合性材料の2つ以上の混合物が使用され得る。
【0073】
好ましいエチレン性不飽和モノマーは、メチル(メタ)アクリレート、n−又はi−プロピル(メタ)アクリレート、n−、i−又はtert−ブチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシテトラヒドロフラン、2−(((アルキルアミノ)カルボニル)オキシ)エチル(メタ)アクリレート、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール及びエイコサンジオールのジ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのジ(メタ)アクリレート、エトキシル化ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、例えば2,2’−ビス(4−(メタ)アクリルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、ウレタン(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリルアミドのようなメタクリレート及びアクリレートモノマーである。使用するモノマーは、更には、[α]−シアノアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸及びソルビン酸のエステルであり得る。
【0074】
欧州特許第0 235 826号に記載のメタクリルエステル、例えば、ビス[3[4]−メタクリル−オキシメチル−8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デシルメチルトリグリコレートを使用することも可能である。2,2−ビス−4(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニルプロパン(ビス−GMA)、2,2−ビス−4(3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニルプロパン、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、7,7,9−トリメチル−4,13−ジオキソ−3,14−ジオキサ−5,12−ジアザへキサデカン−1,16−ジオキシジメタクリレート(UDMA)、ビスヒドロキシメチルトリシクロ−(5.2.1.02,6)デカンのウレタン(メタ)アクリレート及びジ(メタ)アクリレートも好適である。
【0075】
これらエチレン性不飽和モノマーは、単独で若しくは更なるエチレン性不飽和モノマーと組み合わせて、本発明の歯科用組成物に使用することができる。
【0076】
添加され得る他の硬化性成分としては、7,7,9−トリメチル−4,13−ジオキソ−3,14−ジオキサ−5,12−ジアザへキサデカン−1,16−ジオキシジメタクリレートのような低分子量化合物及び/又はポリエステルウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテルウレタン(メタ)アクリレート、ポリカーボネートウレタン(メタ)アクリレート及びポリ(メタ)アクリレートウレタン(メタ)アクリレートのようなオリゴマー又はポリマー化合物を包含するウレタンメタクリレートが挙げられる。これら化合物の分子量は20,000g/モル未満、特に15,000g/モル未満、とりわけ10,000g/モル未満が好ましい。
【0077】
硬化性成分(A2)は、全組成物に対し、少なくとも約5重量%、又は少なくとも約10重量%、又は少なくとも約15重量%の量で存在し得る。
【0078】
硬化性成分(A2)は、全組成物に対し、最大約40重量%、又は最大約35重量%、又は最大約30重量%の量で存在し得る。
【0079】
本発明の歯科用組成物は、充填剤マトリックスを含む。充填剤マトリックスは、1つの充填剤又は異なる充填剤の混合物から構成され得る。
【0080】
本発明の組成物の充填剤の性質は、特に限定されない。充填剤粒子は、樹脂マトリックスを形成する硬化性成分との均質混合物を得ることができるような寸法であるべきである。
【0081】
有用な充填剤には、ヒュームドシリカ、フルオロアルミノケイ酸ガラス、石英、粉末ガラス、CaFなどの非水溶性フッ化物、ケイ酸、特に発熱性ケイ酸などのシリカゲル及びその粒状物、クリストバライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、分子篩を含むゼオライト、酸化アルミニウム若しくは酸化亜鉛又はそれらの混合酸化物などの金属酸化物粉末、硫酸バリウム、フッ化イットリウム、炭酸カルシウムを基体とする充填剤が挙げられる。
【0082】
シリカは、通常、樹脂マトリックス内に分散される。本発明の歯科用組成物に使用されるシリカ粒子は、好ましくは、約200nm未満の平均直径を有し、粒子は、より好ましくは、約100nm未満の平均直径を有する。これらの測定は、TEM(透過電子顕微鏡法)法に基づくのが好ましく、これにより集団を分析して平均粒径を得る。粒径を測定するのに好ましい方法を以下のように説明することができる。
【0083】
厚さ約80nmの試料を、炭素安定化フォルムバール基板(ペンシルバニア州ウェストチェスター(West Chester)のエスピーアイ・サプライズ−ストラクチャープローブ社(SPI Supplies- a division of Structure Probe, Inc.)を備える200メッシュの銅グリッド上に配置する。透過型電子顕微鏡写真(TEM)を、200KVでJEOL200CX(日本、昭島の日本電子株式会社(JEOL, Ltd.)、日本電子USA社により販売)を使用して得た。約50〜100粒子の集団寸法を測定することができ、平均直径を判定する。
【0084】
シリカ粒子の平均表面積は約15m/gを超えるのが好ましく、より好ましくは約30m/gを超える。
【0085】
樹脂中に分散されると、シリカ粒子は、分離(独立)した非結合(即ち非凝集、非会合)状態となる。本明細書で使用するとき、「会合」は、通常は電荷又は極性により結合される粒子の弱い結合を説明しており、より小さな物質に分解され得る。本明細書で使用するとき、「凝集」は、多くの場合、例えば、残留化学物質の処理によって結合される粒子の強い結合を説明しており、更により小さな物質に分解するのは非常に達成困難である。
【0086】
本発明の歯科材料に使用し得るシリカ粒子は、実質的に球形であり、実質的に多孔性でないのが好ましい。シリカは本質的に純粋であるのが好ましいが、アンモニウム及びアルカリ金属イオンなどの安定化イオンを少量含有してもよい。
【0087】
好適なヒュームドシリカには、例えば、ドイツ、ハーナウ(Hanau)のデグサ社(Degussa AG)から商標名アエロジル(AEROSIL)シリーズOX−50、−130、−150、及び−200、及びイリノイ州タスコラ(Tuscola)のキャボット・コーポレーション(Cabot Corp)から入手可能なCAB−O−SIL M5が挙げられる。
【0088】
有用なフルオロアルミノケイ酸ガラスには、米国特許第5,332,429号に記載されるようなシラノール処理されたフルオロアルミノケイ酸ガラス充填剤が含まれ、この特許の開示は参照として本明細書に明示的に組み込まれる。例えば、フッ化物放出性ガラスを歯科用組成物に添加して、例えば口腔での使用中に、フッ化物を長期間放出するという利益を提供してよい。
【0089】
任意に、重金属酸化物を本発明の歯科材料に含ませて放射線不透過歯科材料を提供することができる。重金属酸化物は、放射線不透過性を付与するのに有効な量で存在するのが好ましい。本明細書で使用するとき、「放射線不透過性」は、従来の方法で標準歯科用X線装置を使用して歯牙構造と区別される硬化歯科材料の能力を表す。歯科材料中の放射線不透過性は、X線を使用して歯の状態を診断する特定の場合において有利である。例えば、放射線不透過材料は、充填物を囲んでいる歯組織に形成されている場合がある二次齲蝕の発見を可能とする。特定用途及びX線フィルムを診断する施術者の期待に応じて、所望の放射線不透過性の程度を変えることができる。
【0090】
約28より大きい原子番号を有する重金属の酸化物が好ましい。重金属酸化物が中に分散した硬化樹脂に望ましくない色又は濃淡が付与されないように、重金属酸化物を選択するべきである。例えば、鉄及びコバルトは、歯科材料の歯の中間色に黒ずんだ色及び対比色を付与するので好まれない。より好ましくは、重金属酸化物は30より大きい原子番号を有する金属の酸化物である。好適な金属酸化物は、イットリウム、ストロンチウム、バリウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオビウム、タンタル、タングステン、ビスマス、モリブデン、スズ、亜鉛、ランタニド元素(即ち、原子番号57〜71の範囲の元素)、セリウム、及びこれらの組み合わせの酸化物である。最も好ましくは、原子番号が30より大きいが72未満である重金属の酸化物が、本発明の材料に任意に含まれる。放射線不透過性を付与する特に好ましい金属酸化物には、酸化ランタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化セリウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。重金属酸化物粒子は会合してよい。その場合は、会合粒子の平均直径は約200nm未満であるのが好ましく、より好ましくは約90nm未満である。
【0091】
好ましい実施形態では、充填剤マトリックスは、ナノサイズシリカを包含するナノサイズ充填剤を含む。
【0092】
好ましいナノサイズシリカは、ナルコ・ケミカル社(Nalco Chemical Co.)(イリノイ州ネーパービル(Naperville))から商品名「ナルコ・コロイダルシリカズ(NALCO COLLOIDAL SILICAS)」として市販されている。例えば、好ましいシリカ粒子は、ナルコ(NALCO)製品1040、1042、1050、1060、2327及び2329を使用して入手することができる。好ましい実施形態では、硬化性樹脂がカチオン開始系を使用する場合、開始シリカは酸性である(ナルコ(Nalco)1042など)ことが好ましい。
【0093】
歯科材料に入れる前にナノサイズシリカ粒子を表面処理することにより、樹脂中に安定して分散させることができる。本明細書で使用するとき、「安定」は、標準周囲条件、例えば室温(約20〜約22℃)、大気圧、及び極端な電磁力のない状態で、一定期間、例えば約24時間放置した後に粒子が凝集しない歯科材料を意味する。好ましくは、表面処理は、粒子が硬化性樹脂の中に良好に分散され、それによって組成物が実質的に均質となるように、ナノサイズの粒子を安定化させる。更には、シリカがその表面の少なくとも一部分にわたって表面処理剤により改質され、硬化中に安定化された粒子が硬化性樹脂と共重合できる、ないしは別の方法で反応できることが好ましい。
【0094】
シリカ粒子は、樹脂相溶化表面処理剤で処理することができる。特に好ましい表面処理剤又は表面改質剤には、樹脂と重合することが可能なシラン処理剤が挙げられる。好ましいシラン処理剤には、ウィトコOSiスペシャルティーズ社(Witco OSi Specialties)(コネチカット州ダンベリー(Danbury))から市販されている商品名「A−174」で市販のγ−メタクリルオキシルプロピルトリメトキシシラン、及びユナイテッドケミカルテクノロジーズ社(United Chemical Technologies)(ペンシルベニア州ブリストル(Bristol))から商品名「G6720」で入手可能な製品であるγ−グリシドオキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0095】
あるいは、表面改質剤の組み合わせが有用な可能性があり、薬剤の少なくとも1つは、硬化性樹脂と共重合が可能な官能基を有する。例えば、重合化基は、エチレン性不飽和であるか、又は開環重合を起こす環式官能基であることができる。エチレン性不飽和重合化基は、例えば、アクリレート基又はメタクリレート基、若しくは又はビニル基であることができる。開環重合を起こす環式官能基は一般的に、酸素、硫黄、又は窒素のようなヘテロ原子を含有し、好ましくは、エポキシドのような3員環含有酸素である。一般的には硬化性樹脂と反応しない他の表面改質剤を、分散性又はレオロジー特性を強化するために含むことができる。この種のシランの例には、例えば、アルキル若しくはアリールポリエーテルシラン、アルキルシラン、ヒドロキシアルキルシラン、ヒドロキシアリールシラン、又はアミノアルキル官能性シランが挙げられる。
【0096】
シリカ粒子の表面処理の際、それらを本発明の歯科用組成物を形成するために、適切な硬化性樹脂と組み合わせることができる。
【0097】
使用し得る充填剤の性質及び量は、組成物の粘度に影響を与えることができるだけでなく、審美的外観(高い光沢、高いつやの保持など)及び硬度を包含する機械的特性にも影響を与えることができる。
【0098】
充填剤マトリックスは、全組成物に対し、少なくとも約25重量%、又は少なくとも約30重量%、又は少なくとも約40重量%、又は少なくとも約50重量%で含まれることができる。
【0099】
充填剤マトリックスは、全組成物に対し、最大約90重量%、又は最大約85重量%、又は最大約80重量%で含まれることができる。
【0100】
充填剤マトリックスに使用される充填剤の量は、通常、歯科用組成物が使用される目的によって異なる。
【0101】
一時的歯冠及びブリッジ材料は、通常、充填剤を多量に含有することはない。これらの組成物に関して、通常の充填剤含有量は、全組成物に対して約30〜約60重量%の範囲である。
【0102】
典型的には一時的歯冠及びブリッジ材料と比較してより多くの量の充填剤を含有する歯科充填材において、充填剤含有量は、通常、全組成物に対して約60〜約85重量%の範囲である。
【0103】
本発明の歯科用組成物はまた、樹脂マトリックス中に存在する硬化性成分の硬化プロセスを開始することができる反応開始剤又は反応開始剤系を含む。
【0104】
本発明の歯科材料は、化学的硬化性、熱硬化性又は光硬化性組成物であり得る。光硬化性材料は、適切な反応開始剤系を有する必要がある。化学的硬化性材料は自動硬化(例えばレドックス反応開始剤によって)することができる。あるいは、本発明の材料は自動硬化と光硬化との組み合わせにより硬化することができる。
【0105】
フリーラジカル重合(硬化)については、反応開始系は、放射線、熱、又はレドックス/自動硬化化学反応を介して、重合を開始する系から選択され得る。フリーラジカル活性官能基の重合を開始できる反応開始剤の部類には、光増感剤又は促進剤と組み合わせられるか又は組み合わされないで、フリーラジカル生成光開始剤が挙げられる。このような反応開始剤は、典型的には、約200〜約800nmの範囲の波長を有する光エネルギーへの曝露に基づき、付加重合するためのフリーラジカルを生成することが可能なものであり得る。
【0106】
多様な可視又は近赤外光開始剤系が、本発明に有用なフリーラジカル重合性材料の光重合のために使用されてよい。例えば、フリーラジカル重合(硬化)では、光開始剤系は、参照として本明細書に組み込まれる米国特許第4,071,424号に記載されるように、アミン及びα−ジケトンの2成分系を介して重合を開始する系から選択され得る。あるいは、樹脂は、参照として本明細書に組み込まれる米国特許第5,545,676号に記載されるように、3成分又は3元の光開始剤系と組み合わせることができる。
【0107】
3元の光開始剤系では、第1成分は、ヨードニウム塩、即ち、ジアリールヨードニウム塩である。ヨードニウム塩は、増感剤及び供与体の存在下でモノマー中に溶解されるとき、好ましくはモノマー中に可溶性であり、また貯蔵安定性がある(即ち、自発的には重合を促進しない)。したがって、特定のヨードニウム塩の選択は、選択された特定のモノマー、ポリマー又はオリゴマー、増感剤及び供与体にある程度依存し得る。好適なヨードニウム塩は、米国特許第3,729,313号、同第3,741,769号、同第3,808,006号、同第4,250,053号、及び同第4,394,403号に記載されており、これらの特許のヨードニウム塩に関する開示は、参照として本明細書に組み込まれる。ヨードニウム塩は、単塩(例えば、Cl、Br、I、又はCSOのようなアニオンを含有する)、又は金属錯塩(例えば、SbFOH、又はAsFを含有する)であり得る。所望により、ヨードニウム塩の混合物を使用することができる。好ましいヨードニウム塩には、ジフェニルヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート及びジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレートが挙げられる。
【0108】
3元の光開始剤系の第2成分は、増感剤である。増感剤は望ましくは、モノマー中に可溶性であり、400より大きく1200ナノメートルまで、より好ましくは400より大きく700ナノメートルまで、及び最も好ましくは400より大きく約600ナノメートルまでの波長範囲内のどこかで光吸収ができる。増感剤はまた、参照として本明細書に組み込まれる、米国特許第3,729,313号に記載される試験手順を用いて、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンの増感が可能であり得る。好ましくは、増感剤は、この試験に合格することの他に、貯蔵安定性もある程度考慮して選択される。それ故に、特定の増感剤の選択は、選択された特定のモノマー、オリゴマー又はポリマー、ヨードニウム塩及び供与体にある程度依存し得る。
【0109】
好適な増感剤には、以下の範疇の化合物:ケトン、クマリン染料(例えば、ケトクマリン)、キサンテン染料、アクリジン染料、チアゾール染料、チアジン染料、オキサジン染料、アジン染料、アミノケトン染料、ポルフィリン、芳香族多環式炭化水素、p−置換アミノスチリルケトン化合物、アミノトリアリルメタン、メロシアニン、スクアリリウム染料及びピリジニウム染料を挙げることができる。ケトン(例えば、モノケトン又はα−ジケトン)、ケトクマリン、アミノアリールケトン及びp−置換アミノスチリルケトン化合物が、好ましい増感剤である。高い感度を必要とする用途においては、ジュロリジニル部分を含有する増感剤を用いるのが好ましい。高度の硬化(例えば、高度充填コンポジットの硬化)を必要とする用途の場合、光重合に望ましい照射波長で、約1,000未満、より好ましくは約100未満の減衰係数を有する増感剤を用いるのが好ましい。あるいは、照射の際に励起波長において光吸収の低減を示す染料が使用され得る。
【0110】
例えば、ケトン増感剤の好ましい部類は以下の化学式を有する:ACO(X)B(式中、Xは、CO又はCRであり、R及びRは、同じであるか又は異なっていてよく、水素、アルキル、アルカリル、又はアラルキルであってよく、bは、0又は1であり、AとBは異なり、置換されていてもよく(1つ以上の非干渉置換基を有する)、同じであるか、又は非置換であってよいアリール基、アルキル基、アルカリル基、若しくはアラルキル基であるか、又はA及びBが一緒になって環状構造を形成し、これは、置換又は非置換脂環式、芳香族、複素環式芳香族、又は縮合芳香族環にすることができる)。
【0111】
上述の化学式の好適なケトンには、2,2−、4,4−又は2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ジ−2−ピリジルケトン、ジ−2−フラニルケトン、ジ−2−チオフェニルケトン、ベンゾイン、フルオレノン、カルコン、ミヒラーケトン、2−フルオロ−9−フルオレノン、2−クロロチオキサントン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、1−又は2−アセトナフトン、9−アセチルアントラセン、2−、3−又は9−アセチルフェナントレン、4−アセチルビフェニル、プロピオフェノン、n−ブチロフェノン、バレロフェノン、2−、3−又は4−アセチルピリジン、3−アセチルクマリンなどのようなモノケトン(b=0)が挙げられる。好適なジケトンには、アントラキノン、フェナントレンキノン、o−、m−及びp−ジアセチルベンゼン、1,3−、1,4−、1,5−、1,6−、1,7−及び1,8−ジアセチルナフタレン、1,5−、1,8−及び9,10−ジアセチルアントラセンなどのようなアラルキルジケトンが挙げられる。好適なα−ジケトン(b=1及びX=CO)には、2,3−ブタンジオン、2,3−ペンタンジオン、2,3−ヘキサンジオン、3,4−ヘキサンジオン、2,3−ヘプタンジオン、3,4−ヘプタンジオン、2,3−オクタンジオン、4,5−オクタンジオン、ベンジル、2,2’−3 3’−及び4,4’−ジヒドロキシルベンジル、フリル、ジ−3,3’−インドリルエタンジオン、2,3−ボルナンジオン(カンファーキノン)、ビアセチル、1,2−シクロヘキサンジオン、1,2−ナフタキノン、アセナフタキノンなどが挙げられる。
【0112】
3元の反応開始剤系の第3成分は、供与体である。好ましい供与体には、例えば、アミン(アミノアルデヒド及びアミノシランを包含する)、アミド(ホスホルアミドを包含する)、エーテル(チオエーテルを包含する)、尿素(チオ尿素を包含する)、フェロセン、スルフィン酸及びそれらの塩、フェロシアニドの塩、アスコルビン酸及びその塩、ジチオカルバミン酸及びその塩、ザンテートの塩、エチレンジアミン四酢酸の塩並びにテトラフェニルボロン酸の塩が挙げられる。供与体は、非置換であることも、又は1つ以上の非干渉置換基により置換されることもできる。特に好ましい供与体は、窒素、酸素、リン又はイオウ原子のような電子供与体原子、及び電子供与体原子に対してα位置にある炭素原子又はシリコン原子に結合された抽出可能な水素原子を含有する。様々な種類の供与体が、参照として本明細書に組み込まれる米国特許第5,545,676号に開示されている。
【0113】
あるいは、本発明に有用なフリーラジカル反応開始剤は、米国特許第4,737,593号に記載されるようなアシルホスフィンオキシドの部類を含む。このようなアシルホスフィンオキシドは次の一般式のものである。
(R−P(=O)−C(=O)−R10
(式中、それぞれのRは、独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール及びアラルキルのようなヒドロカルビル基であり得、そのいずれもがハロ−、アルキル−、又はアルコキシ基で置換され得るか、又は2つのR基が結合してリン原子とともに環を形成することができ、式中、R10は、ヒドロカルビル基、S−、O−、又はN−含有5又は6員複素環基、若しくは−Z−C(=O)−P(=O)−(R基であり、式中、Zは2〜6個の炭素原子を有するアルキレン又はフェニレンのような二価のヒドロカルビル基を表している)。
【0114】
本発明に有用な好ましいアシルホスフィンオキシドは、R及びR10基が、フェニル、又は低級アルキル−若しくは低級アルコキシ−置換フェニルであるものである。「低級アルキル」及び「低級アルコキシ」とは、1〜4個の炭素原子を有するかかる基を意味する。最も好ましくは、アシルホスフィンオキシドは、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(イルガキュア(IRGACURE)(商標)819、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、ニューヨーク州タリータウン(Tarrytown))である。
【0115】
三級アミン還元剤を、アシルホスフィンオキシドと組み合わせて使用してもよい。本発明で有用な三級アミンの例としては、エチル−4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート及びN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。
【0116】
400nmより大きく1200nmまでの波長で照射されたときにフリーラジカルを開始するのが可能な市販のホスフィンオキシド光開始剤には、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの25:75重量混合物(イルガキュア(IRGACURE)(商標)1700、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、2−ベンジル−2−(N,N−ジメチルアミノ)−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン(イルガキュア(商標)369、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタン(イルガキュア(商標)784DC、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの1:1重量混合物(ダロキュア(DAROCUR)(商標)4265、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、及びエチル−2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート(ルシリン(LUCIRIN)(商標)LR8893X、BASF社(BASF Corp.)、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte))が挙げられる。
【0117】
本発明の歯科材料において、代わりに使用できるその他のフリーラジカル反応開始剤系には、ボレートアニオン及び相補的なカチオン染料を含むイオン性染料対イオン錯体反応開始剤の部類が挙げられる。
【0118】
ボレート塩の光開始剤は、例えば、米国特許第4,772,530号、同第4,954,414号、同第4,874,450号、同第5,055,372号、及び同第5,057,393号に記載されており、これらの特許の開示は参照として本明細書に組み込まれる。
【0119】
これらの光開始剤に有用なボレートアニオンは、一般的に、式Rであり、式中、R、R、R、及びRは、独立して、アルキル、アリール、アルカリル、アリル、アルケニル、アルキニル、脂環式及び飽和又は不飽和の複素環基であり得る。好ましくは、R、R、及びRはアリール基であり、より好ましくはフェニル基であり、Rは、アルキル基であり、より好ましくは二級アルキル基である。
【0120】
カチオン対イオンは、カチオン染料、四級アンモニウム基、遷移金属配位錯体などであり得る。対イオンとして有用なカチオン染料は、カチオン性のメチン、ポリメチン、トリアリールメチン、インドリン、チアジン、キサンテン、オキサジン又はアクリジン染料であり得る。より具体的には、染料は、カチオン性のシアニン、カルボシアニン、ヘミシアニン、ローダミン及びアゾメチン染料であってもよい。有用なカチオン染料の具体例には、メチレンブルー、サフラニンO、及びマラカイトグリーンが挙げられる。対イオンとして有用な四級アンモニウム基は、トリメチルセチルアンモニウム、セチルピリジニウム、及びテトラメチルアンモニウムであり得る。他の有機親和性カチオンには、ピリジニウム、ホスホニウム、及びスルホニウムを挙げることができる。
【0121】
使用され得る感光性遷移金属配位錯体には、ピリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、3,4,7,8−テトラメチルフェナントロリン、2,4,6−トリ(2−ピリジル−s−トリアジン)及び関連した配位子などの配位子を有するコバルト、ルテニウム、オスミウム、亜鉛、鉄、及びイリジウムの錯体が挙げられる。
【0122】
フリーラジカル活性官能基の重合を開始できる反応開始剤の更にその他の代替的部類には、従来の化学的反応開始剤系、例えば過酸化物とアミンとの組み合わせが挙げられる。熱的レドックス反応に依存するこれらの反応開始剤は、多くの場合「自動硬化触媒」と称される。それらは、典型的には、2部系として供給され、その中で反応物質は、互いに離れて保管され、その後使用直前に混ぜ合わされる。
【0123】
更なる代替案において、フリーラジカル活性基の硬化又は重合を開始するために、熱を使用してよい。本発明の歯科材料に好適な熱供給源の例としては、誘導、対流及び放射が挙げられる。熱供給源は、標準条件又は高圧下において、少なくとも40℃〜15℃の温度を生じさせ得るべきである。この方法は、口腔環境外で生じる材料の重合を開始させるのに好ましい。
【0124】
有機ペルオキシド化合物もいわゆる活性剤と相まって、レドックス反応開始剤系として好適である。特に、ラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、及びp−クロロベンゾイルペルオキシド、並びにp−メチルベンゾイルペルオキシドなどの化合物は、有機ペルオキシド化合物であると考えることができる。
【0125】
活性剤として好適なのは、例えば、米国特許第3,541,068号で既知のN,N−ビス−(ヒドロキシアルキル)−3,5−キシリジン、並びにN,N−ビス−(ヒドロキシアルキル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、特に、N,N−ビス−([β]−オキシブチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン並びにN,N−ビス−(ヒドロキシアルキル)−3,4,5−トリメチルアニリンなどの三級芳香族アミンである。
【0126】
適切な活性剤は、米国特許出願第2003/008967号、ドイツ特許第14 95 520号に記載されるようなバルビツール酸及びバルビツール酸誘導体、並びに米国特許第4,544,742号(欧州特許第0 059 451号に対応)に記載されるマロニルスルファミドである。好ましいマロニルスルファミドは、2,6−ジメチル−4−イソブチルマロニルスルファミド、2,6−ジイソブチル−4−プロピルマロニルスルファミド、2,6−ジブチル−4−プロピルマロニルスルファミド、2,6−ジメチル−4−エチルマロニルスルファミド及び2,6−ジオクチル−4−イソブチルマロニルスルファミドである。
【0127】
更なる促進のために、この場合の重合は、重金属化合物及び無機ハロゲン又は擬ハロゲンの存在下で行われるのが好ましい。重金属は、可溶性有機化合物の形態で好適に使用される。同様に、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物イオンは可溶性塩の形態で好適に使用され、例として可溶性アミン塩酸塩並びに四級塩化アンモニウム化合物を挙げることができる。好適な促進剤は、特に、鉄族又は銅族からの金属であり、好ましくは銅及び鉄錯体、特に銅錯体である。重金属は、好ましくは可溶性有機化合物の形態で用いられる。例えば、カルボン酸鉄、カルボン酸銅、プロセトナート鉄、プロセトナート銅、ナフテン酸銅、酢酸銅及びナフテン酸鉄が好適である。
【0128】
本発明の歯科用組成物が、有機ペルオキシドと活性剤とを含むレドックス反応開始剤系を含有する場合は、ペルオキシド及び活性剤は一部分において互いに物理的に分離して存在するのが好ましく、使用直前にのみ均質に混合される。有機ペルオキシド、銅化合物、ハロゲン化物及びマロニルスルファミド並びに/又はバルビツール酸が互いに隣接して存在する場合、有機ペルオキシド、マロニルスルファミド及び/又はバルビツール酸並びに銅化合物/ハロゲン化物の混合物が、互いに物理的に分離した3つの構成要素として存在するのが特に有用である。例えば、銅化合物/ハロゲン化物、重合性モノマー、及び充填剤の組み合わせをペーストに混練し、他の成分を、それぞれが少量の充填剤又は特にチキソトロピー助剤、例えばシラン化ケイ酸、及び可塑剤、例えばフタレートを有する2つの別個のペーストに混練してもよい。一方、重合性モノマーは、有機ペルオキシド及び充填剤とともに存在することもできる。あるいは、有機ペルオキシド、銅化合物、ハロゲン化物及びマロニルスルファミド並びに/又はバルビツール酸の分布は、米国特許第6,852,775号(ドイツ特許第199 28 238号対応する)に従って実現することができる。
【0129】
反応開始剤又は反応開始剤系は、典型的には、樹脂系の硬化(cure)又は硬化(hardening)を開始する、あるいは硬化(cure)又は硬化(hardening)の速度を高めるのに有効な量で本発明の歯科用組成物中に提供される。
【0130】
反応開始剤は、全組成物に対し、少なくとも約0.1重量%、又は少なくとも約0.2重量%、又は少なくとも約0.3重量%の量で存在することができる。反応開始剤は、充填剤マトリックスを含有する全組成物に対し、最大約3重量%、又は最大約2重量%、又は最大約1.8重量%の量で存在することができる。
【0131】
本発明の組成物は、更なる添加物を含有できるか又は含有できない。
【0132】
典型的な添加物には顔料及び着色剤が挙げられる。例としては、二酸化チタン又は硫化亜鉛(リトポン)、ベンガラ3395、バイフェロックス(Bayferrox)920Zイエロー、ネアゾポン(Neazopon)ブルー807(銅フタロシアニン系染料)、又はヘリオファースト(Helio Fast)イエローERが挙げられる。これらの添加物は、歯科用組成物の個々の着色剤として使用することができる。
【0133】
添加することのできる更なる添加物には、安定剤、特にフリーラジカルスカベンジャー、例えば、置換及び/又は非置換のヒドロキシ芳香族化合物(例えばブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エトキシフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(ジメチルアミノ)メチルフェノール又は2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(UV−9)、2−(2’−ヒドロキシ−4’,6’−ジ−tert−ペンチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−5’メタクリルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、フェノチアジン、及びHALS(ヒンダードアミン光安定剤)が挙げられる。かかる補助剤は、樹脂と共重合されるように反応性官能基を任意に含んでよい。
【0134】
添加することのできる添加物には、抑制剤(1,2−ジフェニルエチレンなど)、可塑剤(ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール、低分子量ポリエステル、ジブチル、ジオクチル、ジノニル及びフタル酸ジフェニル、ジ(イソノニルアジパート)、リン酸トリクレシル、パラフィン油、三酢酸グリセロール、ビスフェノールAジアセテート、エトキシル化ビスフェノールAジアセテート、並びにシリコーン油を包含する)、風味料、抗菌剤、芳香剤、蛍光及び/又は乳白光を付与する薬剤、並びにフッ化物放出性材料も挙げられる。
【0135】
歯科材料の可撓性を増大させるために、ポリ酢酸ビニルなどの可溶性有機ポリマー、及びそれらのコポリマーを添加することも可能である。
【0136】
これらの添加物は必須ではないので、添加物は全く存在しなくてもよい。しかしながら、存在する場合は、典型的には全組成物に対し、少なくとも約0.01重量%、又は少なくとも約0.5重量%、又は少なくとも約1重量%の量で存在する。
【0137】
添加物は、全組成物に対し、最大約25重量%、又は最大約20重量%、又は最大約15重量%の量で存在してよい。
【0138】
更なる実施形態では、本発明の歯科用組成物は:
・約35〜約90重量%、又は約40〜約85重量%、又は約45〜約82重量%の量の充填剤マトリックス、
・約10〜約65重量%、又は約15〜約60重量%、又は約18〜約50重量%の量の樹脂マトリックス、
・約0.1〜約3重量%、又は約0.2〜約2重量%、又は約0.3〜約1.8重量%の量の反応開始剤、
・選択的に、約0〜約25重量%、又は約0.1〜約15重量%、又は約0.2〜約5重量%の量の添加物、
を含む(重量%は組成物全体に関してである)。
【0139】
本発明の具体的な実施形態では、組成物は、重合収縮を減少させるために、とりわけ国際特許第01/95862号で使用される、例えばジイソシアネートとジオールとの反応によって入手可能な重合性ジ又はポリ(メタ)アクリレートを必ずしも含有する必要はない。
本発明の特定の実施形態は、低沸点溶媒(例えば周囲気圧において約150℃未満の沸点)を実質的に含まない。本文中、「実質的に含まない」は、全組成物に対する含有量が、典型的には、約1重量%未満、又は約0.5重量%未満、又は約0.1重量%未満であることを意味する。
【0140】
その他の実施形態では、本発明の組成物の樹脂マトリックス中に含まれるモノマー又は硬化性化合物は、重合収縮を低減させるために、とりわけ国際特許第05/107626号で使用される、大容積又は嵩高な残基(直鎖又は分岐状C〜C25アルキル基など)を有さない。
【0141】
本発明の歯科用組成物は、例えば、人工歯冠、前部又は後部充填物、鋳込材料、キャビティライナー、セメント、コーティング組成物、ミルブランク、歯列矯正装置、修復材、補綴物、及びシーラントとして使用することができる。
【0142】
好ましい態様では、歯科材料は歯科充填材である。本発明の充填材は、口中に直接配置し、その場で硬化(cured/hardened)することができるか、あるいは、口外の補綴物の中に加工して、その後、口の内部の適切な位置に接着してもよい。
【0143】
本発明はまた、歯科用組成物の製造における本発明のモノマー又はモノマーの混合物の使用に関し、この使用プロセスは、以下:
a)式(1)によるモノマー又はモノマーの混合物を含む歯科用組成物を歯と接触するように配置する工程、
b)組成物を硬化する工程、を含む。
本発明の歯科用組成物は、典型的には、使用するまで容器中で保管される。選択する反応開始剤系に応じて、様々な容器が好適であり得る。
【0144】
歯科用組成物が一成分型として提供される場合、コンピュールなどの単一のチャンバを有する容器中に保管され得る。コンピュールは、典型的には、前端部及び後端部並びにノズルを備える円筒形ハウジングを有する。ハウジングの後端部は、通常、可動ピストンで密封されている。典型的には、歯科用組成物は、可動プランジャを有する塗布器(例えばコーキングガンの形状を有する塗布装置)を使用して、コンピュール又は容器から分注される。好適なコンピュール又は容器の例は、米国特許第5,624,260号、欧州特許第1 340 472(A1)号、米国特許出願公開第2007/0172789(A1)号、米国特許第5,893,714号及び同第5,865,803号に記載され、そのコンピュール又は容器の説明に関する内容は、本明細書に参照として組み込まれる。
【0145】
あるいは、歯科用組成物が二成分型として提供される場合、2チャンバ容器又はカートリッジ中に保管されることが可能であり、使用前に混合される。
【0146】
使用され得るカートリッジは、例えば、米国特許出願公開第2007/0090079号又は米国特許第5,918,772号に記載され、その開示は参照として本明細書中に組み込まれる。使用され得るカートリッジは、ズルツァーミックスパック社(SulzerMixpac AG)(スイス)から市販されている。
【0147】
使用され得る静的混合チップは、例えば米国特許出願公開第2006/0187752号又は米国特許第5,944,419号に記載され、その開示は参照として本明細書中に組み込まれる。使用され得る混合チップは、ズルツァーミックスパック社(SulzerMixpac AG)(スイス)から市販されている。
【0148】
以下に本発明を実施例により記載する。実施例は、例示のみを目的として示され、発明の範囲を限定することを意図しない。
【0149】
実施例
特記しない限り、全てのパーセントは重量パーセントで示され、全てのプロセスは周囲条件の下で実行される。
【表B】


【表C】


【表D】


【表E】

【0150】
測定
圧縮強度(CS)
圧縮強度の測定において、それぞれの材料につき6個の試料を調製し、ISO 9917に従って、万能材料試験機(ズウィック(Zwick)Z010)を使用して、4mm/分のクロスヘッド速度で3mm×3mm×5mmの寸法を有する試験片を使用する条件で、測定を実行した。圧縮強度は、MPaで示す。
【0151】
曲げ強度(I)
曲げ強度の測定は、ISO 4049に従って、万能材料試験機(ズウィック(Zwick)Z 010、1mm/分のクロスヘッド速度)を使用して実行した。曲げ強度は、MPaで示す。
【0152】
曲げ強度(II)
FS(II)はMPaで示し、ISO 4049に従って、93℃で10時間にわたる水中での更なる負荷試験の後に決定した。
【0153】
E−弾性率(I)
E−M(I)はGPaで示し、ISO 4049に従って決定した。
【0154】
E−弾性率(II)
E−M(II)はGPaで示し、ISO 4049に従って、93℃で10時間にわたる水中での更なる負荷試験の後に決定した。
【0155】
2体耐磨耗性(TBWR)
2体耐磨耗性は、スリーエム・エスペ社(3M ESPE)から市販されている充填材であり、参照値1.00として選択されるフィルテック(Filtek)(商標)Z250(シェードA3)に関する公報に従って決定した。パラブP.(Pallav P.)著、「歯科における咬耗−基本メカニズム、臨床的意味、実験的評価(Occlusal Wear in Dentistry - Fundamental Mechanism, Clinical Implications, and Laboratory Assessment)」(シーシスパブリッシャーズ(Thesis Publishers)、アムステルダム、1996年、63頁〜76頁)において、より詳しい説明が示される。
【0156】
接着ディスク収縮歪み(SHR)
接着ディスク収縮歪みは%で示され、デンタル・マテリアル(Dent. Mater.)(1991年、7号、281〜287頁)により詳細が記載されるようなワッツプロトコル(Watts protocol)に従って決定した。
【0157】
体積収縮(VC)
体積収縮は%で示され、ヘリウム・ピクノメーター(マイクロメリティクス社(Micromeritics))のアキュピック(AccuPyc)1330を使用し、方法に準拠して決定した。より詳しい説明がデンタル・マテリアル(Dent. Mater.)(1999年、15号、447〜449頁)で示される。
【0158】
屈折率(n20
クリュス社(Kruess)AR 4 D装置(アッベの測定原理に従う屈折計)で屈折率を測定した。屈折率は、589nmの波長において20.0℃で測定した。
【0159】
粘度(η)
ハーケ社(Haake)のロトビスコ(RotoVisco)RV1装置(最大8000mPasまでの粘度においては、固定子P61を備えるローターC60/1、又は8000mPasを超える粘度においては、固定子P61を備えるローターC20/1)で粘度を測定した。23.0℃において、2枚の平面かつ平行なプレート(即ち回転子とローターとの)間の粘度を測定した。この系の活性及び調整後、適切なローターを取り付けた。次に、粘度測定のために、このローターを引き下げ、回転子とローターとの間の距離を0.052mmに調整(ソフトウェアレオウィンプロジョブマネージャー(Software RheoWin Pro Job Manager)ソフトウェアバージョン2.94を使用)した。次に、ローターを引き上げて、測定する材料を(ローターC60/1を備える1.0mL、又はローターC20/1を備える0.04mL)固定子に注入した。遅滞なく、事前に調整した測定位置までローターを引き下げた。測定する材料を23.0℃で測定した。測定におけるせん断速度は、トルクが少なくとも5000μNmとなる値に調整されるべきである(したがって、通常、せん断速度100、200、500、又は1000s−1は、測定される材料の粘度に応じて使用される)。測定を開始し、60秒間稼動した。測定開始20秒後の粘度値(Pas)を記録し、記録値の平均値を粘度として示した。
【0160】
一般手順A:
温度50〜55℃で、乾燥空気雰囲気下で機械的に攪拌しながら、IEMを適切な量で使用される触媒(触媒が使用される場合には常に)及び200ppmのBHT(抽出物の全量に対して)を含有するジヒドロキシル官能性中心骨格に添加する。次に、温度50℃で、イソシアネート残留物が検出されなくなるまで攪拌を続ける(FT−IRによって検出し、NCOの残留物限度は、2273cm−1における単一のNCOバンドの高さとして0.05未満である)。典型的には、特に明記されない限り、温度約50℃において16〜24時間の攪拌後に反応の完了が達成される。生成物は、更に精製することなく使用され得る。
【0161】
スズを触媒としたヒドロキシル基のIEMのイソシアネート基への付加によるモノマーの合成
(実施例1)
一般手順Aに従って、500ppmのジラウリン酸ジブチルスズ(DBTDL、抽出物の全量に対して)を含有する50.0gの2,2−ビス[4−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)−フェニル]プロパンに、44.6gのIEMを添加した。粘稠な油として、94.8gの2,2−ビス{4−[3−(N−2−メタクロイルオキシエチル)−カルバモイルオキシプロピルオキシ]−フェニル}プロパン(P−IEM)を単離した(η=460Pas、n20=1.5356)。
【0162】
(実施例2)
一般手順Aに従って、500ppmのDBTDLを含有する60.7gのエトキシル化ビスフェノールA(1フェノール当たり約2つのEO、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)240)に、46.1gのIEMを添加した。粘稠な油として、107gの(理想)2,2−ビス{4−(2−[2−(N−2−メタクロイルオキシエチル)−カルバモイルオキシエチルオキシ]−エチルオキシ)−フェニル}プロパン(D−IEM)を単離した(η=165Pas、n20=1.5323)。
【0163】
(実施例3)
一般手順Aに従って、46.0gの2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)−フェニル]プロパン(500ppmのDBTDLを含有するTMPアルコール)に、35.3gのIEMを添加した。粘稠な油として、81.6gの2,2−ビス{3,5−ジメチル−4−[3−(N−2−メタクロイルオキシエチル)−カルバモイルオキシプロピルオキシ]−フェニル}プロパン(TMP−IEM)を単離した(η>750Pas、n20=1.5302)。
【0164】
(実施例4)
一般手順Aに従って、500ppmのDBTDLを含有する46.8gの2,2−ビス[3,5−ジクロロ−4−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)−フェニル]プロパン(TCPアルコール)に、29.8gのIEMを添加した。粘稠な油として、76.9gの2,2−ビス{3,5−ジクロロ−4−[3−(N−2−メタクロイルオキシエチル)−カルバモイルオキシプロピルオキシ]−フェニル}プロパン(TMP−IEM)を単離した(η=400Pas、n20=1.5391)。
【0165】
(実施例5)
一般手順Aに従って、500ppmのDBTDLを含有する51.3gの1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)−フェニル]プロパン(HFPアルコール)に34.8gのIEMを添加した。粘稠な油として、86.4gの1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス{4−[3−(N−2−メタクロイルオキシエチル)−カルバモイルオキシプロピルオキシ]−フェニル}プロパン(HFP−IEM)を単離した(η>750Pas、n20=1.5095)。
【0166】
比較例1
一般手順Aに従って、500ppmのDBTDLを含有する51.3gのビス−GMAに31.0gのIEMを添加した。粘稠な油として、82.3gのビス−GMAジウレタンジメタクリレート(BUM)を単離した(η=1060Pas、n20=1.5267)。
【0167】
ビスマスを触媒としたヒドロキシル基のIEMのイソシアネート基への付加によるモノマーの合成
(実施例6)
一般手順Aに従って、抽出物の全量に対して、100ppmのビスマス(ビスマス20重量%ネオデカノエート、シェパード社(Shepherd)のビカット(BICAT)8108M)を含有する60.7gのエトキシル化ビスフェノールA(1フェノール当たり約2つのエトキシ(EO)基、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)240)に、46.1gのIEMを添加した。粘稠な油として、107gの(理想)2,2−ビス{4−(2−[2−(N−2−メタクロイルオキシエチル)−カルバモイルオキシエチルオキシ−エチルオキシ)−フェニル}プロパン(D−IEM)を単離した(η=165Pas、n20=1.5326)。
【0168】
(実施例7)
一般手順Aに従って、100ppmのビスマスを含有する76.5gのエトキシル化ビスフェノールA(フェノール1つ当たり約3.25のEO基、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)265)に、46.1gのIEMを添加した。粘稠な油として、123gの対応するジメタクリレート化合物(D2−IEM)を単離した(η=36Pas、n20=1.5257)。
【0169】
(実施例8)
一般手順Aに従って、100ppmのビスマスを含有する77.6gのエトキシル化ビスフェノールA(1フェノール当たり約4.25のEO基、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)285)に、39.9gのIEMを添加した。粘稠な油として、118gの対応するジメタクリレート化合物(D3−IEM)を単離した(η=15Pas、n20=1.5197)。
【0170】
(実施例9)
一般手順Aに従って、100ppmのビスマスを含有する66.3gのプロポキシル化ビスフェノールA(1フェノール当たり約2つのプロピルオキシ(PO)基、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)340)に、46.1gのIEMを添加した。粘稠な油として、113gの対応するジメタクリレート化合物(D5−IEM)を単離した(η=750Pas、n20=1.5214)。
【0171】
(実施例10)
一般手順Aに従って、100ppmのビスマスを含有する80.0gのエトキシル化ビスフェノールA(1フェノール当たり約2つのEO基、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)240)及び20.0gのエトキシル化ビスフェノールA(1フェノール当たり約4.25のEO基、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)285)に、71.1gのIEMを添加した。粘稠な油として、170gの対応するジメタクリレート化合物の混合物(D−IEM:D3−IEM=80:20(重量))を単離した(η=119Pas、n20=1.5309)。
【0172】
触媒を使用しないヒドロキシル基のIEMのイソシアネート基への付加によるモノマーの合成
(実施例11)
一般手順Aに従って、60.7gのエトキシル化ビスフェノールA(1フェノール当たり約2つのEO基、セピック社(Seppic)のジアノール(Dianol)240)に、46.1gのIEMを添加した。60℃で96時間攪拌した後、粘稠な油として、107gの(理想)2,2−ビス{4−(2−[2−(N−2−メタクロイルオキシエチル)−カルバモイルオキシエチルオキシ]−エチルオキシ)−フェニル}プロパン(D−IEM)を単離した(η=183Pas、n20=1.5330)。
【0173】
比較例2
一般手順Aに従って、51.0gのトリシクロデカンジメタノール(TCDアルコールDM)に、78.0gのIEMを添加した。粘稠な油として、129gのTCDアルコール−IEM(T−IEM)を単離した(η=390Pas、n20=1.5099)。
以下の表2で列挙される歯科用組成物を、一般手順Bに従って調製した。
【0174】
一般手順B:
光排除下で機械的に攪拌しながら、50℃以下の温度(使用するモノマーの固有粘度に依存する)で反応開始剤系成分をモノマー中に溶解した。次に、得られた歯科用組成物を800mWハロゲン硬化ライト(スリーエム・エスペ社(3M ESPE)のエリパー(Elipar)(商標)トリライト(Trilight))を使用して光硬化し、上記で列挙される対応する測定に従って試験した。
【0175】
モノマーのうちのいくつかは、機械的特性及び収縮挙動に関して試験した。試験された組成物の含有量及び試験結果を以下の表2で示す。
【表F】

【0176】
一般手順Cに従って、以下の表3及び4で列挙される歯科用組成物を調製した。
一般手順C
一般手順Bに従って、反応開始剤系成分をモノマーに溶解した。光排除下で2アームニーダーを使用して、反応開始剤系とモノマーとの混合物と充填剤を部分的に混合した。歯科用組成物における所望の操作特性に応じて、充填剤の量を手動により決定した。次に、歯科用組成物を800mWハロゲン硬化ライト(スリーエム・エスペ社(3M ESPE)のエリパー(Elipar)(商標)トリライト(Trilight))を使用して光硬化し、上記で列挙される対応する測定に従って試験した。表3及び4で比較値を示す。

【表G】

【表H】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造:
【化6】


[式中、
1,2Rは、独立して、H、アルキル、及びフェニルから選択され、
3,4Rは、独立して、H、アルキル及びハロゲンから選択され、
Rは、独立して、H及びアルキルから選択され、
m、n=1、2及び
x+y=2〜10である
(但し、m=n=2である場合はx+y=2を超え、m=n=1である場合はx+y=4〜10を超える)]
で表されるモノマー又はモノマーの混合物を含む、歯科用組成物。
【請求項2】
前記モノマー又はモノマーの混合物が、以下のパラメータ:
屈折率:約1.51〜1.54(nD)の範囲内、
分子量:約600超、
粘度:23℃において約500Pas未満、
のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記モノマーが、
【化7】


及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
イソシアネートエチルメタクリレートとジヒドロキシル官能性ビスフェノール誘導体とを反応させる工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用組成物の製造プロセス。
【請求項5】
a)硬化性成分を含む樹脂マトリックスであって、全組成物に対して少なくとも10重量%で含まれる前記樹脂マトリックス、
b)全組成物に対して少なくとも約30重量%で含まれる充填剤マトリックス、
c)前記樹脂マトリックス中に存在する前記硬化性成分を硬化するプロセスを開始することができる反応開始剤、
d)選択的に、顔料、着色料、安定剤、抑制剤、可塑剤、風味剤、抗菌剤、芳香剤、蛍光及び/又は乳白光を付与する薬剤、及びフッ化物放出性材料、並びにこれらの混合物からなる群から選択される更なる添加物、
を含む、歯科用組成物であって、
前記樹脂マトリックスが、請求項1〜3のいずれか一項に記載されたようなモノマー又はモノマーの混合物を含む、歯科用組成物。
【請求項6】
硬化後に、以下のパラメータ:
圧縮強度(MPa):少なくとも約320であり、立方体の試料(寸法:3mm×3mm×5mm)を使用しISO9917に従って決定される、
曲げ強度(MPa):少なくとも約120であり、ISO4049に従って決定される、
E−弾性率(GPa):少なくとも約9であり、ISO4049に従って決定される、及び/又は
接着ディスク収縮歪み(容量%):約1.6以下であり、ワッツプロトコル(Watts protocol)に従って決定される、
のうちの少なくとも1つを満たす、請求項5に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記充填剤マトリックスが、約200nm未満の平均粒径を有する充填剤、及びこれらの混合物を含む、請求項5又は6に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記樹脂マトリックスが、請求項1〜3に記載のモノマー又はモノマーの混合物と異なり、かつフリーラジカル活性官能基を有する、少なくとも1つの硬化性成分を含む、請求項5〜7のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記反応開始剤が、放射線、熱、若しくはレドックス反応、又はこれらの系の混合によって重合を開始する系から選択される、請求項5〜8のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
約10重量%〜約50重量%の量の前記樹脂マトリックス、
約30重量%〜約85重量%の量の前記充填剤マトリックス、
約0.1重量%〜約3重量%の量の前記反応開始剤、
選択的に、約0重量%〜約25重量%の量の添加物、
(ここで、重量%は組成物全体に対してのものである)
を含む、請求項5〜9のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
前記歯科用組成物の使用方法であって、人工歯冠、前部又は後部充填物、鋳込材料、キャビティライナー、セメント、コーティング組成物、ミルブランク、歯列矯正装置、修復材、補綴物、若しくはシーラントとしての、又はその製造のための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の歯科用組成物の使用方法。
【請求項12】
コンピュール(compule)又はデュアルチャンバーカートリッジの形状を有する容器に保管される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項13】
a)前記モノマー又はモノマーの混合物を含む前記歯科用組成物を歯と接触するように配置する工程と、
b)前記組成物を硬化する工程と、
を含むプロセスにおいて使用される前記歯科用組成物の製造のための、請求項1〜3のいずれか一項に記載のモノマー又はモノマーの混合物の使用。


【公表番号】特表2010−540546(P2010−540546A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527076(P2010−527076)
【出願日】平成20年9月23日(2008.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/077346
【国際公開番号】WO2009/042574
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】