説明

ウロキナーゼ型(uPA)および組織型(tPA)プラスミノーゲン活性化剤を調節するペプチドおよび治療上の効能を最適化する方法

ポリペプチドEEIIMI、Ac-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミド、抗-LRP抗体、LRPアンタゴニスト、および/または1またはそれ以上のフィブリン溶解剤を含む組成物を、フィブリン溶解活性を高め、該フィブリン溶解剤によって引起される血管作用性による副作用を減じ、および/または該フィブリン溶解剤の半減期を延長するために処方する。本発明は、更に組成物および/または治療養生の組み合わせに係り、これらは、ポリペプチドEEIIMIおよび/またはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドおよび通常使用されているプラスミノーゲン活性化因子を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(他の出願との相互引照)
本特許出願は、2001年7月10日付で出願された、「組織を調節するペプチド(Peptide for Regulation of Tissue Plasminogen Activator)」と題する、米国特許出願No. 09/902,135;2002年6月24日付の、「組織プラスミノーゲン活性化剤を調節するペプチド」と題する、国際特許出願PCT/US02/02007;および2002年3月14日付の、「ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤を調節するペプチドおよび治療上の効能を最適化する方法(Peptide for Regulation of Urokinase Plasminogen Activator and Method of Optimizing Therapeutic Efficacy)」と題する、米国特許出願No. 10/063,046の一部継続出願であり、これら特許出願全ての内容全体を、本発明の参考とする。
【0002】
本発明は、6個のアミノ酸(EEIIMI)または18個のアミノ酸(Ac-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミド)を含むペプチドを開示するが、これらペプチドは、ウロキナーゼプラスミノーゲン(uPA)活性化剤におけるおよび活性サイトの外側の、組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA)における「ドッキング」サイトにおいて結合する性質を持つ。本発明は、またtPAまたはuPAが、虚血性発作の治療において与えられた場合に、tPAまたはuPAの活性の調節、および特にtPAまたはuPAが脳内出血(ICH)を誘発する能力を調節し、または発作または心筋梗塞を引起す、凝血塊を除去するための、単鎖ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤(scuPA)の調節に関するものである。
【背景技術】
【0003】
組織型プラスミノーゲン活性化剤は、急性の血栓塞栓的発作に対する、食品医薬品局(FDA)によって承認された唯一の治療薬である。しかし、虚血性発作を治療するためのtPAの使用は、患者を二次的な脳内出血の危険性に曝すという問題がある(Wardlaw JC等, Lancet, 1997, 350:607-614)。というのは、約6%の発生率で、後に症候性の脳内出血が見られ、かつこれら患者の約50%が死亡しているからである。tPAによる治療後の脳内出血の発生は、このものの脳内血管の正常な血管作用を妨害する能力によるものである。TPAは、プラスミノーゲンの活性化を促進する作用以外に、投与量-依存性の血管収縮性または血管拡張性をもつことが明らかにされている。
組織型プラスミノーゲン活性化剤は、血管内皮細胞から遊離される、天然に産する分子であり、また血液からのt-PAの迅速な除去が、肝臓におけるクリアランスによって生じる。肝細胞は、低密度リポタンパクレセプタ-関連タンパクまたはtPAと結合するd2-マクログロブリンレセプタおよびtPAおよびtcuPAとプラスミノーゲン活性化剤阻害剤(PAI-1)との複合体を発現する。あるいは、内皮細胞は、同様に迅速なtPAのクリアランスに関与する、170Kdaのマンノース-依存性レセプタを発現する。
【0004】
単鎖ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤(scuPA)としても知られる、プロ-ウロキナーゼ(Pro-UK)は、血液凝血塊および他の病理的状態の生成に応答して、内皮細胞から遊離される、天然に産する分子である。scuPAまたはPro-UKは、2つの異なるメカニズム、即ちa) 2つの鎖(tcuPA)で構成される活性型の発生に導く、プラスミンによる単一のペプチド結合の開裂により、およびb) scuPAとそのレセプタであるウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤レセプタ(uPAR)との結合によって活性化することができる。
プラスミノーゲン活性化剤阻害剤タイプ1(PAI-1)は、tcuPAと結合し、その触媒活性を阻害する。しかし、高いアフィニティーにてtcuPA と結合するPAI-1は、あるとしても、scuPAとは、低いアフィニティーでのみ結合する。
プラスミノーゲン活性化剤阻害剤タイプ1は、tPAおよびuPA両者と相互作用し、かつこれら両タンパクの触媒活性を阻害する。高いアフィニティーにてtPAおよびuPA と結合するPAI-1は、高血圧症に罹っている患者の循環系において高濃度で存在する。また、医療による血圧の低下が、PAI-1濃度の減少をもたらす。幾つかの病理的状態における、PAI-1の増加をもたらす作用に関連するメカニズムは、十分には理解されていない。しかし、tPAおよび/またはuPAとの逆の関連性は、PAI-1が、ある様式で、tPAおよび/またはuPAの血管作用性効果を中和するように機能することを示唆する。Simmons M., Cardiol. Clin., 1995, 13:339-345; Cipolla M.等, Stroke, 2000, 31:940-945; of PAI-1; およびHigazi, A.A.-R等, J. Biol. Chem., 1995, 270:9472-9477。
【0005】
幾つかの病理的状態におけるPAI-1増大の程度と、天然に産するtPAとの間に関連性があるか否か、あるいはPAI-1と、工業的に生産されたtPAの使用による脳内出血との間に関連性があるか否かに係る問題は、これまで綿密な評価がなされていない。本発明は、存在する場合に、PAI-1またはtPAあるいはuPAの調節に関するより良好な理解を得るために、あるいはtPAまたはuPAの活性を調節して、tPAおよび/またはuPA等による、血栓溶解治療を受けている患者における、脳内出血の危険性を減じる上で、最も効果的な組成物または製品を提供することを目的とする。
幾つかの血栓溶解治療法が検討中であり、その一つは、天然に産するまたは工業的に生産された様々な組換え性のフィブリン溶解剤を含む活性化剤の全身的な注入である。ウロキナーゼは、プラスミノーゲンをプラスミンに転化することにより、その活性を示す、血栓溶解剤である。ウロキナーゼは、尿中に痕跡量で見出される、未知の構造を持つ複合タンパクである。ウロキナーゼの組換え型が開発され、その臨床的な有効性についてテストされており、例えばアボットラボラトリーズ(Abbott Laboratories)社に付与された米国特許第4,558,010号は、組換えデオキシリボ核酸を開示しており、これはヒトウロキナーゼ活性を持つ、プラスミノーゲン活性化剤タンパクをコードする。
【0006】
本発明は、6個のアミノ酸からなるペプチドEEIIMDまたは18個のアミノ酸からなるペプチド(Ac-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミド)が、フィブリン溶解剤の望ましからぬ副作用、例えばtPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PAまたはアルテプラーゼ、rt-PA誘導体またはアニソイル化ストレプトキナーゼ複合体の投与を受けている患者における、脳内出血の危険性を減じることができる。使用されたプロトコールにおいて、このペプチドは、後の段階で血栓溶解養生に組み込まれ、該主要な血栓溶解剤の血管作用性または副作用を阻害した。
このペプチドが、血栓溶解治療の初期段階で投与された場合に、如何なる効果を持つかという問題は、これまで検討されていなかった。本発明は、該血栓溶解治療のまさに初期段階に、プラスミノーゲン活性化剤との組み合わせで、このペプチドを投与した場合に得られた、予想外の幾つかの結果を記載する。該ペプチドとプラスミノーゲン活性化剤とを、一緒にインビボおよびインビトロ系で投与した場合に、相乗効果が明らかにされたことから、これらの結果は予想外のものである。従って、本発明は種々のプラスミノーゲン活性化剤および該ペプチドを含む組成物および組み合わせ的治療養生における、血栓溶解剤の有効性を最適化する方法を提供する。このような方法は、該ペプチドの存在下では、該血栓溶解剤の有効投与量を減じ得ることを示唆している。これは、更にこれら薬剤の副作用の危険性を減じ、該副作用は、治療の後の段階で現れる。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、6個のアミノ酸からなるポリペプチドEEIIMDまたは18個のアミノ酸からなるポリペプチドAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを、scuPA、tPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PAまたはアルテプラーゼ(alteplase)、rt-PA誘導体(例えば、レテプラーゼ(reteplase)、ラノテプラーゼ(lanoteplase)およびTNK-rt-PA)、アニソイル化(anisoylated)プラスミノーゲンストレプトキナーゼ複合体(APSC)またはアニストレプラーゼ(anistreplase)、またはストレプトキナーゼ誘導体を含む(これらに限定されない)、1種以上の血栓溶解剤との組み合わせとして含む組成物およびその使用に関するものである。
本発明は、tPAおよびuPAの血管作用性活性に対する阻害活性を持つ、6個のアミノ酸(EEIIMD)で構成されるポリペプチドを含む組成物およびその使用に関する。このペプチドEEIIMDのアミノ酸配列は、以下の通りである:
Glu-Glu-Ile-Ile-Met-Asp
【0008】
本発明は、またtPAおよびuPAの血管作用性活性に対する阻害活性を持つ、18個のアミノ酸 (Ac-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミド)で構成されるポリペプチドを含む組成物およびその使用にも関連する。このペプチドのアミノ酸配列は、以下の通りである:
Ac-Arg-Met-Ala-Pro-Glu-Glu-Ile-Ile-Met-Asp-Arg-Pro-Phe-Leu-Tyr-Val-Val-Arg-アミド
具体的には、これらのポリペプチドは、上記血栓溶解剤(例えば、scuPA、tPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PAまたはアルテプラーゼ、rt-PA誘導体(例えば、レテプラーゼ、ラノテプラーゼおよびTNK-rt-PA)、アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ複合体(APSC)またはアニストレプラーゼ、またはストレプトキナーゼ誘導体を含むが、これらに限定されない)の活性を増大して、血栓塞栓疾患の予防および/または治療に必要とされる、該血栓溶解剤の有効投与量を減じる上で有効である。
より詳しくは、これらのポリペプチドEEIIMDおよび/またはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドは、血栓塞栓疾患の治療の目的で投与される、tPA療法に関連する出血性疾患の予防および/または治療において有用である。
また、フィブリン溶解治療として、tPAまたはuPAの投与を受ける患者に見られる、脳内出血の発生を、EEIIMDおよび/またはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを用いた、補助的な治療によって減じる方法も、本発明の意図するものである。
【0009】
また、本発明は、血栓溶解剤(例えば、scuPA、tPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PAまたはアルテプラーゼ、rt-PA誘導体(例えば、レテプラーゼ、ラノテプラーゼおよびTNK-rt-PA)、アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ複合体(APSC)またはアニストレプラーゼ、またはストレプトキナーゼ誘導体を含むが、これらに限定されない)によるフィブリン溶解治療を受けている患者における、脳内出血の発生を減じる方法をも意図している。
更に別の態様において、本発明は、哺乳動物における血栓塞栓性疾患を治療するための薬理的キットの提供を目的とし、このキットは、血栓溶解剤(例えば、scuPA、tPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PAまたはアルテプラーゼ、rt-PA誘導体(例えば、レテプラーゼ、ラノテプラーゼおよびTNK-rt-PA)、アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ複合体(APSC)またはアニストレプラーゼ、またはストレプトキナーゼ誘導体を含むが、これらに限定されない)および市販品として入手できる形状にある、上記ペプチドの一種またはそれ以上を含有する無菌容器を含み、これら物質は、両者共に、該血栓塞栓性疾患を治療するために、治療上有効な量で含まれる。
【0010】
更に他の態様では、本発明は、哺乳動物における血栓塞栓性疾患を治療するための薬理的キットの提供を目的とし、このキットは、市販品として入手できる形状にあるtPAを含有する無菌容器およびEEIIMDまたはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを含有する無菌容器を含み、これら物質は、両者共に、該血栓塞栓性疾患を治療すると共に、同一の養生において、tPAの副作用の発生を防止するのに、治療上有効な量で含まれる。
上記のキットは、必要ならば、血栓溶解剤(例えば、scuPA、tPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PAまたはアルテプラーゼ、rt-PA誘導体(例えば、レテプラーゼ、ラノテプラーゼおよびTNK-rt-PA)、アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ複合体(APSC)またはアニストレプラーゼ、またはストレプトキナーゼ誘導体を含むが、これらに限定されない)を、血栓塞栓性疾患を治療すると共に、あらゆる副作用を抑制するのに、治療上有効な量で含むことができる。
上記キットは、所望により、uPAおよびEEIIMDおよび/またはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを、血栓塞栓性疾患を治療すると共に、あらゆる副作用を抑制するのに、治療上有効な量で含むことができる。
【0011】
適当な場合には、該ペプチドと共に、2種またはそれ以上の血栓溶解剤の組み合わせを含む、キットを提供することも本発明の範囲内にある。更に、例えば、scuPA、tPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PAまたはアルテプラーゼ、rt-PA誘導体(例えば、レテプラーゼ、ラノテプラーゼおよびTNK-rt-PA)、アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ複合体(APSC)またはアニストレプラーゼ、またはストレプトキナーゼ誘導体を含むフィブリン溶解剤の1種またはそれ以上を用いた治療と組み合わせた、複合療法を利用した、血栓塞栓性疾患を治療する方法を提供することも、本発明の目的である。この方法は、この養生の最初から、該組み合わせ療法を行うことを含む。
適当な場合には、EEIIMDおよび/またはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドと共に、他のフィブリン溶解剤による養生との組み合わせで、tPAまたはuPAを含むキットを提供することも、本発明の範囲内にある。更に、例えばtPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PAまたはアルテプラーゼ、rt-PA誘導体(例えば、レテプラーゼ、ラノテプラーゼおよびTNK-rt-PA)、アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ複合体(APSC)またはアニストレプラーゼ、またはストレプトキナーゼ誘導体を含むフィブリン溶解剤の1種またはそれ以上を用いた治療と組み合わせた、複合療法として、EEIIMDまたはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを使用した、血栓塞栓性疾患を治療する方法を提供することも、本発明の目的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の利点および特徴は、以下の詳細な説明を読み、また添付図を参照することによって、容易に理解されるであろう。
本発明によれば、ペプチドEEIIMD(Glu-Glu-Ile-Ile-Met-Asp)および/またはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミド(Ac-Arg-Met-Ala-Pro-Glu-Glu-Ile-Ile-Met-Asp-Arg-Pro-Phe-Leu-Tyr-Val-Val-Arg-アミド)を含む薬理的組成物が提供され、このような組成物は、上記のようなフィブリン溶解剤の重大な副作用としてもたらされる、tPAおよび/またはuPA-関連出血性疾患に対して阻害作用を持つ。また、血栓塞栓性疾患の治療において、tPAまたはuPAの投与を受けた患者における、脳内出血の発生を減じる方法も、本発明が意図するものである。
本発明は、またポリペプチドEEIIMDおよび/またはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを、例えばtPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PAまたはアルテプラーゼ、rt-PA誘導体(例えば、レテプラーゼ、ラノテプラーゼおよびTNK-rt-PA)、アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ複合体(APSC)またはアニストレプラーゼ、またはストレプトキナーゼ誘導体を含むフィブリン溶解剤の1種またはそれ以上との組み合わせとして含む、薬理組成物およびキットをも提供する。
【0013】
更に、本発明は、フィブリン溶解剤と上記ペプチドとを、夫々0.1/1.0〜1.0/0.1なる比で組み合わせることにより、該フィブリン溶解剤の薬効を改善し、結果的に有効投与量を減じる方法を提供することを目的とする。
本発明は、更に副作用を抑制しおよび/または阻止するために、EEIIMDおよび/またはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドの有効量の投与との組み合わせで、単独または組み合わせた治療養生を行うことによって、tPAまたはuPA等のフィブリン溶解剤と関連する、脳内出血および関連する血管異常等の副作用を予防しおよび/または治療する方法をも提供する。
TPAは、初めは527個のアミノ酸が同定されていたが、530個のアミノ酸で構成される、単鎖セリンプロテアーゼである。該t-PA酵素は、他のタンパクとの相同性を持つ幾つかのドメインで構成される:
【0014】
残基4-50を含むフィンガードメイン;
残基50-87を含む成長因子ドメイン;
残基87-176および残基176-262を含む、2つのクリングル、および触媒三つ組み残基を含む、残基276-527によって構成されるプロテアーゼドメイン。殆どのtPAとフィブリンとの結合は、該フィンガードメインおよび該第二クリングルドメインを介して起こるものと考えられる。tPAとフィブリンとの最初の結合は、該フィンガードメインおよびクリングル2によって支配され、露出したカルボキシ-末端を持つリジン残基に結合する。
TPAは、フィブリンの不在下では、プラスミノーゲンに対して弱いアフィニティーを持つ(Km=76μM)が、フィブリンの存在下では、より一層高いアフィニティーを持つ(K=0.15〜1.5μM)。この反応において、プラスミノーゲンは、主として、「リジン-結合サイト」と呼ばれる特別な構造を介して、フィブリンと結合する。このように、フィブリン溶解性を調節する一つの方法は、該フィブリン表面に局在化された、プラスミノーゲン活性化のレベルにある。
【0015】
プラスミノーゲン活性化因子の阻害剤、特にPAI-1およびPAI-2は、生理的プラスミノーゲン活性化因子を阻害し、例えばPAI-1は、血漿中のt-PAまたはu-PAに対する主な阻害剤である。セリンプロテアーゼ阻害剤であるPAI-1は、内皮細胞および他の細胞型由来の、単鎖糖タンパクである。PAI-1は、tPAの活性サイトと、PAI-1の「ベイト」残基(Arg 346-Met 347)との間に複合体を形成することによって、tPAを阻害する。
血漿中の該PAI-1の濃度は、血栓塞栓症、肥満症、敗血症および冠動脈疾患を含む幾つかの疾患において増大する。高いPAI-1活性は、最初の発症から3年以内の、若年対象における心筋梗塞に関する、独立危険因子と同等である。約8 amにおいて最大の発生率を持つ、心筋梗塞の発症時間における、約24時間周期の変動と、同様に早朝において最大となる血漿PAI-1活性との間には、明確な相関関係がある。
【0016】
プラスミノーゲン活性化因子の阻害剤タイプ1は、tPAおよびuPA両者と相互作用し、かつ両者のタンパク触媒活性を阻害する。高いアフィニティーで、tPAおよびuPAと結合するPAI-1(Heckman CM, Archires of Biochem Biophysics, 1988, 262:199-210)も、高血圧症に罹患した患者の循環系に、高濃度で存在する。医学的な治療による血圧の低減は、PAI-1濃度の減少をもたらす。Erden YC等, Am. J. Hypertens., 1999, 12:1071-1076。幾つかの病理的な状態における、PAI-1の増加を説明するための、基本的な作用機構は、理解されていない。
PAI-1は、単鎖tPA、二本鎖tPAおよびtcuPAと反応する。PAI-1による単鎖tPAの阻害に関する二次の速度定数は、約107 Ms-1であり、一方二本鎖tPAおよびtcuPAの阻害は、幾分迅速である。tPA(残基296-304)およびuPA(残基179-184)における正に帯電した領域は、この迅速な反応に関与する。PAI活性は、肝臓により該循環系から極めて迅速に除去される。機能性および不活性PAI-1両者を含む血小板を除いて、PAI-1は細胞内に蓄積されないが、合成後迅速、かつ構成的に分泌される。
【0017】
PAI-1はtPAおよびuPAと、2つの独立したエピトープを介して結合し、該エピトープの一方は、該活性サイトと相互作用する。他方のエピトープは、6個のアミノ酸残基EEIMPからなり、これはPAI-1のアミノ酸残基350〜355に相当する。このPAI-1の第二のエピトープは、該活性サイトの外側に位置する、tPAおよびuPA内の結合「ドッキング」サイトと相互作用する。Adams DS等, J. Biol. Chem., 1999, 266:8476-8482。
scuPA
本発明は、上記6アミノ酸ペプチドの、scuPAのフィブリン溶解活性に及ぼす効果を記載し、また該ペプチドが、血液凝塊の溶解に及ぼすscuPAの活性を、相乗的に刺激することを示す。これらの観測は、実施例の章において詳細に記載する。
本発明のペプチドは、血管に及ぼすscuPAの悪影響を抑制しおよび/または阻害するが、scuPAのフィブリン溶解活性には何の影響も与えない。従って、該ペプチドは、心筋梗塞、発作および関連する合併症における、血栓溶解療法中の、血塊溶解において有用である。
【0018】
市販品として入手できるtPAは、2つの形状で、即ち単鎖調製物(アルテプラーゼ)および二本鎖調製物[デューテプラーゼ(dute plase)]で、組換えDNA技術(例えば、組換えt-PA、rt-PA)により製造される。他のtPA型は、レテプラーゼ(r-PA)およびrt-PAの変異体、TNK-rt-PAを含む。その詳細については、以下の「TNA=t-PAおよびrtPA」と題する章を参照のこと。
フィブリン-選択的アルテプラーゼの好ましい投薬養生は、90分間に渡る体重-調節された加速(フロント-負荷(front-loaded))養生からなる(15mgの大型丸剤、30分間に渡る0.75mg/kgの投与(50mgを越えない)、および60分間に渡る0.05mg/kgの投与(35mgを越えない))。本発明は、上記投薬養生において達成されるフィブリン溶解活性のレベルが、実際にアルテプラーゼのより一層低い用量で達成されるように、アルテプラーゼと該ペプチドとの組成物を提供する。これは、アルテプラーゼと該ペプチドとの組み合わせが、より良好な溶解活性をもたらすからである。
上記の改良は、またフィブリン-選択的アルテプラーゼの該好ましい投薬養生が、90分間に渡る体重-調節された加速(フロント-負荷)養生からなる(15mgの大型丸剤、30分間に渡る0.75mg/kgの投与(50mgを越えない)、および60分間に渡る0.05mg/kgの投与(35mgを越えない))場合にも観測される。
【0019】
該ペプチドに関する好ましい投薬養生は、そのフィブリン溶解活性を最適に増大させ、かつまた各場合毎に、フィブリン溶解剤の、有害な血管作用活性を阻害するのに有効な量を投与することからなる。該ペプチドは、変動する数のアミノ酸を含む配列の成分であり得、あるいは該ペプチドは、その配列における1またはそれ以上のアミノ酸の変更を含むこともできる。ペプチド/tPA、UPA、またはTNK-tPAの比は、0.1/1.0〜1.0/0.1なる範囲内であり得る。
本発明のペプチドは、有効量にて単独で、または伝統的な抗-凝集療法との組み合わせで投与した場合に、敗血症の治療において有用である。生理的条件下において、幾つかの抗-血栓メカニズムが、凝血塊生成防止のために、また血液の流動性維持のために、共同して作用する。この生理的な抗-凝集系の監視を逃れたあらゆるトロンビンが、フィブリノーゲンをフィブリンに転化するために利用される。これは、次にはフィブリン溶解系を誘発する。
tPA
本発明は、tPAおよびuPAの、血管作用性に及ぼす該ペプチドの効果を記載し、また該ペプチドが、大動脈輪培養における、フェニレフリン-誘発性血管収縮に及ぼす、tPAの高い効果を阻害することを示す。同様に、本発明のペプチドは、フェニレフリン-誘発性血管収縮に及ぼす、uPAの高い効果を阻害する。これら観測は、実験部分において詳細に説明する。
【0020】
本発明のEEIIMDおよび/またはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドペプチドは、血管に及ぼす、tPAまたはuPAの悪影響を抑制しおよび/または阻害するが、tPAまたはuPAのフィブリン溶解活性には何の影響も示さず、従って心筋梗塞、発作、および関連する合併症の血栓溶解治療中の、血栓溶解において有用である。
市販品として入手できるtPAは、2つの形状で、即ち単鎖調製物(アルテプラーゼ)および二本鎖調製物[デューテプラーゼ(dute plase)]で、組換えDNA技術(例えば、組換えt-PA、rt-PA)により製造される。他のtPA型は、レテプラーゼ(r-PA)およびrt-PAの変異体、TNK-rt-PAを含む。
フィブリン-選択的アルテプラーゼの好ましい投薬養生は、90分間に渡る体重-調節された加速(フロント-負荷(front-loaded))養生からなる(15mgの大型丸剤、30分間に渡る0.75mg/kgの投与(50mgを越えない)、および60分間に渡る0.05mg/kgの投与(35mgを越えない))。
【0021】
該ペプチドに関する好ましい投薬養生は、各場合毎に、tPAの有害な血管作用活性を阻害するのに有効な量を投与することからなる。該ペプチドは、変動する数のアミノ酸を含む配列の成分であり得、あるいは該ペプチドは、その配列における1またはそれ以上のアミノ酸の変更を含むこともできる。
本発明のペプチドは、有効量にて単独で、または伝統的な抗-凝集療法との組み合わせで投与した場合に、敗血症の治療において有用である。生理的条件下において、幾つかの抗-血栓メカニズムが、凝血塊生成防止のために、また血液の流動性維持のために、共同して作用する。この生理的な抗-凝集系の監視を逃れたあらゆるトロンビンが、フィブリノーゲンをフィブリンに転化するために利用される。これは、次にはフィブリン溶解系を誘発する。
【0022】
TNK-tPAおよびrtPA
T-PAは、以下の5つのドメインからなる:フィブロネクチンのフィンガー状ドメイン、表皮成長因子ドメイン(EGF)、2つのクリングルドメイン(K1およびK2)、およびプロテアーゼドメイン。TNK-t-PAは、K1およびプロテアーゼドメイン中のrtPAとは異なっている。K1において、アミノ酸117(N117)におけるグリコシルサイトは、アミノ酸103にシフトされ、かつ該プロテアーゼドメインにおいては、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤-1(PAI-1)による不活性化に対して抵抗性にする、PAI-1のドッキングサイトに、テトラ-アラニン置換(K296A/H297A/R298A/R299A)が存在する。
TNK-組織プラスミノーゲン活性化因子(TNK-tPA)は、tPAよりも長い半減期を持つ、組織型のプラスミノーゲン活性化因子(t-PA)の、生物工学的に操作された変異体である。これは、該プロテアーゼドメインにおいてテトラ-アラニン置換(K296A/H297A/R298A/R299A)を持つので、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤-1による不活化に対して抵抗性である。
TNK-tPAは、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤-1(PAI-1)に対して、tPAよりも80倍高い抵抗性、および14倍高い相対的フィブリン特異性を示す。
インビトロでは、TNK-tPAは、夫々全血および血小板に富む凝血塊に対して、tPAよりも8倍および13倍高い効力を持つ。
【0023】
インビトロでは、ウサギにおけるフィブリン溶解の動静脈シャントモデルにおいて、50%の溶解を達成するために、TNK-tPAが要する時間は、rtPAにより必要とされる時間の僅かに1/3に過ぎなかった。tPAを凌駕する、TNK-tPAのこれら莫大な利点にも拘らず、臨床的研究においては、TNK-tPAは、tPAを越える有意な利点を持たない。
比較としての臨床的な実験において、TNK-tPAが、rtPAと等価な薬効を有し、またrtPAと等価な割合で頭蓋内出血をもたらすことが見出されている。rtPAを超える、TNK-tPAの固有の重大な利点は、TNK-tPAが、より希な脳以外の出血エピソード(4.66%対5.94%)と関連しているという事実である。
本発明は、TNK-tPAのインビトロ作用と、ヒトにおけるインビボ作用との間に見られるズレの根本を明らかにする。具体的には、TNK-tPA、rtPAおよび/またはtPAの作用を、単離された輪のPE-誘発性収縮(狭窄)について検討した。得られた結果は、以下の実施例の章で詳細に説明する。簡単に言えば、得られた結果は、rtPAが、血管作用活性に関与する2つの結合エピトープを持つことを示す。その第一のエピトープは、より高いアフィニティー(約1 nM)を有し、かつ該PE-誘発性血管収縮を阻害する。第二のエピトープは、より低いアフィニティー(約20 nM)を有し、また該PE-誘発性血管収縮を刺激する。本発明は、また前拡張(pro-dilatation)を誘発する該第一のエピトープが、TNK-tPAにおいて不活化されることを示唆する。
【0024】
本発明において得られた結果は、TNK-tPAの血管作用効果が、等モル濃度のPAI-1ペプチドによって影響されないことを示す。しかし、該ペプチドの5モル濃度において、TNK-tPAの血管作用効果が阻害される。このように、実施例に記載される結果は、該PAI-1由来の6ペプチドEEIIMDが、tPA、rtPAおよび/またはTNK-tPAの血管作用効果を阻害する上で有用であることを示唆している。同様な結果は、Ac-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドによっても得られた(結果は示さず)。
TPAおよびLRP
TPAは結合することが知られている(Strickland JHaDK.LRP: 多官能性スカベンジャーおよびシグナル発生レセプタ(a multifunctional scavenger and signaling receptor):J. Clin. Invest., 2001, 108:779-784) (LRP)。この結合はPAI-1によって調節される。本発明において得られた結果は、LRPも、またtPAの血管作用活性に関与していることを、明らかにしている(詳細については、以下の実施例に係る章を参照のこと)。
【0025】
具体的には、抗-LRP抗体およびそのLRPアンタゴニストである、組換えレセプタ関連タンパク質、rRAP両者は、tPAおよびTNK-tPAの血管作用効果を阻害した。本発明において記載される結果は、該抗-LRP抗体および/またはrRAPは、循環系におけるtPAの半減期を延長することを示唆している。これらの結果は、また抗-LRP抗体および/またはRAPが、scuPAまたはscuPA/suPAR複合体の半減期を延長するのに利用できる(継続中の1999年6月4日付けで出願された米国特許出願第09/325,917号、2001年10月2日付で出願された同第09/968,752号、2001年7月10日付で出願された同第09/302,392号、および2001年7月10日付で出願された同第09/902,135号に記載されている:これらの開示事項全体を、本発明の参考とする)。
【実施例】
【0026】
実施例1
単離された動脈輪における、PE-誘発性収縮(狭窄)に及ぼすTNK-tPAの作用を、tPAの作用と比較した。行った実験手順は、以前に記載されたものであった(Haj-Yehia A, Nassar T, Sachais B, Kuo A, Bdeir K, Al-Mehdi A-B, Mazar A, Cines D, Higazi AA-R. ウロキナーゼ由来のペプチドは、インビトロおよびインビボにおいて、血管の平滑筋の収縮を調節する(Urokinase-derived peptides regulate vascular smooth muscle contraction in vitro and in vivo), FASEB J., 2000, 14:1411-1422)。
図1Aは、1nMのtPAが、PE-誘発性血管収縮を阻害したことを示す。図1Bは、同一の濃度(1nM)において、TNK-tPAが、動脈輪の収縮に対して、tPAと逆の作用を及ぼしたことを示している。1nMのTNK-tPAは、PEにより誘発された血管収縮を刺激した。
前の実験で使用したtPAの濃度が、生理的な範囲にあったが、治療範囲よりも大幅に低かったので、血管作用性に及ぼす、より高濃度のtPA変異体の作用を検討した。図1Aは、rtPAの濃度を増やすと、1nMのTNK-tPAによって誘発される効果と同様な効果が生じることを示している。20nMのrtPAは、PEにより誘発された収縮を刺激し、またEC50は、34から1.6nMに減少した。
図1Bは、TNK-tPAの濃度を1nMから20nMに増やすことにより、そのEC50を34から0.63nMに低下することを通して、PEにより誘発された血管収縮に及ぼす刺激作用が増大したことを示している。
【0027】
実施例2
TNK-tPAの血管作用性の改善に関する基礎を理解する試みにおいて、この過程のPAI-1ドッキングサイトの役割を検討した。図2は、該rtPAの前-血管拡張並びに前-血管収縮作用が、等モル濃度のPAI-1により阻害されることを示している。
PAI-1は、該アミノ酸296〜299に存在する独立サイト、即ちその触媒サイトおよびドッキングサイトを介してtPAと相互作用する。該PAI-1のドッキングサイトは、TNK-tPAにおいて変異される。更に詳細に検討するために、具体的にはTNK-tPAの、および一般的にはrtPAの血管作用活性における該PAI-1のドッキングサイトの役割を、更に詳細に検討するために、我々は、該PAI-1由来のヘキサペプチドEEIMD、即ちPAI-1のアミノ酸残基350〜355に相当するペプチドの作用について検討した(該tPAドッキングサイトと相互作用するPAI-1内のエピトープ(Medision EL, Goldsmith EJ, Gerard RD, Gething MJH, Sambrook JF, Bassel-Duby RS.); 組織プラスミノーゲン活性化因子とプラスミノーゲン活性化因子阻害剤1との相互作用に影響を与えるアミノ酸残基(Proceedings of the National Academy of Science, USA, 1990, 87:3530-3534; Medision EL, Goldsmith EJ, Gething M-J, H., Sambrook JF, Gerard RD, タンパク質工学によるセリンプロテアーゼ-阻害剤相互作用の復元(Journal of Biological Chemistry, 1990, 265:21423-21426)。
【0028】
図2は、2μM濃度の、該PAI-1由来のペプチドが、rtPAの血管作用性効果を阻害したことを示す。興味深いことに、TNK-tPAの血管作用性効果は、2μM濃度の該PAI-1ペプチドにより影響されなかった。しかし、10μMでは、該ペプチドは、TNK-tPAの該作用を阻害した。
従って、本発明は、tPAおよびTNK-tPAを、有効量の該PAI-1ペプチドと組み合わせることにより、これら両者の血管作用性を阻害する手段を提供する。同様な結果は、Ac-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドによっても得られた(結果は示さず)。
実施例3
該PE誘発性血管収縮に及ぼす、リバーターゼ(revertase)およびTNK-tPAの作用を、LRPアンタゴニスト(RAP)または抗-LRP抗体の存在下または不在下にて検討した。こうして得た、図3に示す結果は、tPAおよびTNK-tPAの血管作用性効果が、該抗-LRP抗体並びに該LRPアンタゴニストrRAPによって完全に阻害されることを示す。
【0029】
実施例4:フェニレフリン誘発性収縮に及ぼすtPAの効果
図4は、インビトロでの単離したラット動脈輪の、フェニレフリン誘発性収縮に及ぼすtPAの効果を説明するグラフである。該動脈輪の収縮は、tPAの不在下(黒塗りの三角)、1nMのtPAの存在下(黒塗りの四角)または10nMのtPAの存在下(白抜きの四角)における、変動する濃度のフェニレフリンによって誘発された。これらの実験は、Haj-Yehia A等, FASEB J., 2000, 14:1411-1422に記載されている手順に従って行った。
得られた結果は、tPAが、血管拡張誘発能力を持つことを明確に示している。
図4は、1nMのtPAの存在が、フェニレフリンによって誘発された血管収縮を阻害することを示す。高濃度のtPAは、逆の作用を誘発した。即ち、1nMのtPAの存在は、1-nMのtPAの存在は、フェニレフリンによって誘発される血管収縮を刺激した。同様に、uPAは、血管拡張誘発能力をもつ(Haj-Yehia A等, FASEB J., 2000, 14:1411-1422)。
【0030】
実施例5:uPAおよびtPAの血管作用性に及ぼすPAI-1の効果
図5は、PAI-1の存在下または不在下における、uPAおよびtPAの血管作用性に関する実験結果を説明するための棒グラフであり、例えばフェニレフリンによって誘発された血管収縮に及ぼす2nMのuPまたは1nMのtPAの作用は、等モル濃度のPAI-1の存在下または不在下にて測定した。
実施例6
図6は、tPA血管作用性に及ぼすPAI-1由来のペプチドの効果について行った研究の結果を説明するための棒グラフである。1nMのtPA;1nMのtPAと1 OM;10nMのtPA;および10nMのtPAと1 OMの存在下または不在下において、フェニレフリン濃度を増大することによって、動脈輪の収縮を誘発させた。
得られた結果は、1 OMが、フェニレフリンによって誘発された血管収縮に及ぼす、tPAの高い効果を阻害したことを示している。また、uPAに対しても同様な効果を及ぼした。PAI-1と組み合わせた場合も、単独の場合も、動脈輪の収縮に対して何の影響も及ぼさなかった(図3)。従って、PAI-1が、uPAまたはtPAの血管作用効果に影響を与える、メカニズムは、ドッキングサイトとの相互作用を介するものである。
【0031】
実施例7:tPAによる血塊溶解に及ぼすPAI-1由来のペプチドEEIIMDの効果
図7は、tPAにより媒介された血塊溶解に及ぼす、PAI-1由来のペプチドの効果に関する実験結果を説明する棒グラフである。このtPAの血塊溶解を誘発する能力を、10Mの存在下または不在下で測定した。これらの実験において、志願者から得た血液を、室温にて1時間掛けて凝血させ、この凝血塊を血漿から分離し、吸取り紙上において、全血清を除去し、幾つかの細片に切断した。これらの細片を秤量し、PBSバッファーのみ、または10Mの存在下または不在下で、100nMのtPAを含む該バッファー中に入れた。室温にて3時間インキュベートした後、該媒体からトロンビン(thrombi)を分離し、乾燥し、秤量した。
2つの方法を利用して、該ペプチドが、プラスミノーゲン活性を阻害することにより、tPAのフィブリン溶解活性に影響を与えるか否かを決定した:1) 以前に詳細に記載された発色アッセイ(Higazi AA.-R等, J. Biol. Chem., 1995, 270:9472-9477);および2) 以前に記載された血塊溶解テスト(Higazi AA.-R等, Blood, 1988, 92:2075-2083)。
得られた結果は、該ペプチドが、該tPAの触媒活性に対して有意な効果を示さないことを明らかにしている(図7)。
【0032】
従って、これらのデータは、PAI-1由来のペプチドEEIIMD(および/またはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミド、これに関する結果は示さず)およびその誘導体が、tPAまたはuPAの血管作用性を中和でき、結果的にその血管に対する悪影響を減じ、かつ心筋梗塞、発作および同様な疾患におけるような、血栓溶解治療中に見られる合併症の予防を可能とすることを示している。
本発明は、その範囲において、本発明の一局面を例示するものである実施例に記載した態様により限定されるものではなく、機能的に等価なあらゆる方法が、本発明の範囲内にある。事実、本明細書に提示し、かつ説明した事項に加えて、本発明の様々な改良は、当業者にとっては、上記説明から明らかとなるであろう。このような改良は、添付した特許請求の範囲に入るものである。
当業者は、単に日常的な実験を利用するだけで、本明細書に記載した本発明の特定の態様と等価なあらゆる態様を認識し、もしくは確認することができるであろう。このような等価物は、上記特許請求の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1Aは、単離されたラット動脈輪のPE-誘発性収縮に及ぼす、tPAの効果に関する実験結果を説明するグラフである。動脈輪の収縮は、tPAの不在下(黒三角)または1nMのtPA(黒四角)もしくは20nMのtPA(白四角)の存在下において、フェニレフリン(PE)の濃度を増大することにより誘発させた。図1Bは、動脈輪の収縮が、TNK-tPAの不在下(黒三角)、1nMのtPA(黒四角)もしくは20nMのtPA(白四角)の存在下において、誘発された実験の結果を示すものである。
【図2】tPAの血管作用性に及ぼす、PAI-1の効果を検討するための実験において得られた結果をグラフで表したものである。PEのEC50を、添加剤の不在下(コントロール);1nMのtPA;20nMのtPA;1nMのtPAと等モル濃度のPAI-1;20nMのtPAと等モル濃度のPAI-1;1nMのtPAと2μMのEEIIMD;または20nMのtPAと2μMのEEIIMDの存在下で測定した。
【図3】tPAの血管作用性に及ぼす、RAPおよび抗-LRPの効果を検討するための実験において得られた結果を、グラフで表したものである。PEのEC50を、添加剤の不在下(コントロール);または1nMのtPA;20nMのtPA;1nMのtPAと等モル濃度のPAI-1;20nMのtPAと等モル濃度のPAI-1;1nMのtPAと2μMのEEIIMD;または20nMのtPAと2μMのEEIIMDの存在下で測定した。
【図4】インビトロでの、単離されたラット動脈輪のフェニレフリン-誘発性収縮に及ぼす、tPAの効果を示すグラフである。該動脈輪の収縮は、tPAの不在下(黒三角)または1nMのtPA(黒四角)もしくは10nMのtPA(白四角)の存在下において、フェニレフリンの濃度を変えることにより誘発させた。これらの実験は、Haj-Yehia A等, FASEB J., 2000, 14:1411-1422に以前に記載された手順に従って行った。
【図5】PAI-1の存在下または不在下における、uPAおよびtPAの血管作用性に関する実験結果を説明するための棒グラフであり、例えばフェニレフリンによって誘発された血管収縮に及ぼす2nMのuPまたは1nMのtPAの作用は、等モル濃度のPAI-1の存在下または不在下にて測定した。
【図6】tPA血管作用性に及ぼすPAI-1由来のペプチドの効果について行った研究の結果を説明するための棒グラフである。1nMのtPA;1nMのtPAと1 OMのEEIIMD;10nMのtPA;または10nMのtPAと1 OMのEEIIMDの存在下または不在下において、フェニレフリン濃度を増大することによって、動脈輪の収縮を誘発させた。
【図7】tPAにより媒介された血塊溶解に及ぼす、PAI-1由来のペプチドの効果に関する実験結果を説明する棒グラフである。このtPAの血塊溶解を誘発する能力を、1 OMのEEIIMDの存在下または不在下で測定した。これらの実験において、志願者から得た血液を、室温にて1時間掛けて凝血させ、この凝血塊を血漿から分離し、吸取り紙上において、全血清を除去し、幾つかの細片に切断した。これらの細片を秤量し、PBSバッファーのみ、または1 OMのEEIIMDの存在下または不在下で、100nMのtPAを含む該バッファー中に入れた。室温にて3時間インキュベートした後、該媒体からトロンビン(thrombi)を分離し、乾燥し、秤量した。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスミノーゲン活性化因子により誘発される血管作用活性に対する阻害作用を持つポリペプチドであって、該ポリペプチドがEEIIMIまたはAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを含むことを特徴とする、上記ポリペプチド。
【請求項2】
該ポリペプチドEEIIMIが、アミノ酸配列:Glu-Glu-Ile-Ile-Met-Aspを持つ、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
該ポリペプチドAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドが、アミノ酸配列:Ac-Arg-Met-Ala-Pro-Glu-Glu-Ile-Ile-Met-Asp-Arg-Pro-Phe-Leu-Tyr-Val-Val-Arg-アミドを持つ、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項4】
該プラスミノーゲン活性化因子が、tcuPA、tPA、ストレプトキナーゼ、rt-PA、rt-PA誘導体、APSC、組換えscuPAプロウロキナーゼ、または共有結合的に架橋されたscuPA/suPAR複合体を含む、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項5】
該アミノ酸配列が、8個またはそれ以上のアミノ酸を含む配列の成分である、請求項2記載のポリペプチド。
【請求項6】
該アミノ酸配列が、8個またはそれ以上のアミノ酸を含む配列の成分である、請求項3記載のポリペプチド。
【請求項7】
ポリペプチドEEIIMIを有効量で含み、出血を防止することを特徴とする、組成物。
【請求項8】
ポリペプチドAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを有効量で含み、出血を防止することを特徴とする、組成物。
【請求項9】
更に、scuPA、tPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PA、アルテプラーゼ、rt-PA誘導体、レテプラーゼ、ラノテプラーゼ、TNK-rt-PA、アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ複合体、アニストレプラーゼ、またはストレプトキナーゼ誘導体からなる群から選択されるフィブリン溶解剤をも含む、請求項7記載の組成物。
【請求項10】
更に、scuPA、tPA、uPA、tcuPA、ストレプトキナーゼ、rt-PA、アルテプラーゼ、rt-PA誘導体、レテプラーゼ、ラノテプラーゼ、TNK-rt-PA、アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ複合体、アニストレプラーゼ、またはストレプトキナーゼ誘導体からなる群から選択されるフィブリン溶解剤をも含む、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
有効量のフィブリン溶解剤と、十分な量のLRP抗体とを含み、使用したフィブリン溶解剤によって誘発される血管作用活性を阻害することを特徴とする、組成物。
【請求項12】
有効量のポリペプチドEEIIMIおよびフィブリン溶解剤を投与して、出血を生じること無しに、所定レベルのフィブリン溶解活性を誘発することにより、該フィブリン溶解剤のフィブリン溶解活性を高める方法。
【請求項13】
有効量のポリペプチドAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドおよびフィブリン溶解剤を投与して、出血を生じること無しに、所定レベルのフィブリン溶解活性を誘発することにより、該フィブリン溶解剤のフィブリン溶解活性を高める方法。
【請求項14】
フィブリン溶解剤による治療を要する患者において、該治療を行う方法であって、該患者に、血栓溶解剤の血栓溶解用量を投与し、その後出血または副作用を防止する量である、有効な補助的用量のEEIIMIを投与する工程を含み、該補助的用量のEEIIMIを、該治療期間中、1〜10日毎に一回投与することを特徴とする、上記方法。
【請求項15】
フィブリン溶解剤による治療を要する患者において、該治療を行う方法であって、該患者に、血栓溶解剤の血栓溶解用量を投与し、その後出血または副作用を防止する量である、有効な補助的用量のAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを投与する工程を含み、該補助的用量のAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを、該治療期間中、1〜10日毎に一回投与することを特徴とする、上記方法。
【請求項16】
該血栓溶解剤が、tPAまたはuPAを含み、かつ標準的、臨床的な血栓溶解剤として投与され、かつ十分な用量のEEIIMIを投与する、請求項17記載のフィブリン溶解剤による治療方法。
【請求項17】
該血栓溶解剤が、tPAまたはuPAを含み、かつ標準的、臨床的な血栓溶解剤として投与され、かつ十分な用量のAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを投与する、請求項17記載のフィブリン溶解剤による治療方法。
【請求項18】
該血栓溶解剤が、tPAまたはuPAを含み、かつ標準的、臨床的な血栓溶解剤として投与され、かつ十分な用量のEEIIMI とAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドとの組み合わせを投与する、請求項17記載のフィブリン溶解剤による治療方法。
【請求項19】
該EEIIMIの補助的用量が、500mgまでの大型丸剤である、請求項17記載のフィブリン溶解剤による治療方法。
【請求項20】
該Ac-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドの補助的用量が、500mgまでの大型丸剤である、請求項17記載のフィブリン溶解剤による治療方法。
【請求項21】
上記方法の適用を受ける患者における出血を防止する方法であって、該患者に、所定量のEEIIMIを含む大型丸剤を、1〜10日毎に一回投与する工程を含み、その後該EEIIMIが、標準的臨床的用量で与えられた、tPAまたはuPAを含むプラスミノーゲン活性化剤の血管作用性効果を阻害することを特徴とする、上記出血を防止する方法。
【請求項22】
上記方法の適用を受ける患者における出血を防止する方法であって、該患者に、所定量のAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドを含む大型丸剤を、1〜10日毎に一回投与する工程を含み、その後該Ac-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドが、標準的臨床的用量で与えられた、tPAまたはuPAを含むプラスミノーゲン活性化剤の血管作用性効果を阻害することを特徴とする、上記出血を防止する方法。
【請求項23】
上記方法の適用を受ける患者における出血を防止する方法であって、該患者に、有効量の、EEIIMI とAc-RMAPEEIIMDRPFLYVVR-アミドとの組み合わせを含む大型丸剤を、1〜10日毎に一回投与する工程を含み、その後該組み合わせが、標準的臨床的用量で与えられた、tPAまたはuPAを含むプラスミノーゲン活性化剤の血管作用性効果を阻害することを特徴とする、上記出血を防止する方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−502096(P2006−502096A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−503490(P2004−503490)
【出願日】平成15年3月12日(2003.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2003/007683
【国際公開番号】WO2003/095476
【国際公開日】平成15年11月20日(2003.11.20)
【出願人】(504014808)スロンボテック リミテッド (1)
【Fターム(参考)】