説明

ウール、セルロース系繊維、再生繊維構造物の改質加工法

【課題】ウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物の吸湿、放湿及び放熱、保熱性の機能を向上させる。
【解決手段】親水性の置換基を有するジハロゲノ−S−トリアジン系化合物とウールセルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を一般的な染色条件にて染色し排液、水洗した後吸尽法を用いて水溶性の加水分解シルクを共存させ反応させることによって改質加工するにあたり、下記一般式で表される2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体の単体あるいは混合物を使用して加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を一般的な染色条件にて染色、排液、水洗した後、親水性置換基を有するジハロゲノトリアジン系化合物、水溶性の加水分解シルクの単独あるいは混合物を共存させ吸尽法を用いて30℃〜90℃までの昇温熱処理を付し反応させる事によってウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物の吸湿、放湿及び放熱、保熱の機能を向上させる製造方法。より具体的には、本発明はウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を一般的な染色条件にて染色、排液、水洗した後、一般式(1)で表される2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体、水溶性の加水分解シルクを共存させ、ウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物へ吸湿、放湿及び放熱、保熱の機能を付与しウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物の用途を拡大する事を目的とした改質加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物は風合いや吸湿、放湿及び放熱、保熱性などの面で合成繊維に比べて優れた素材である。それは、これらの繊維構造物が合成繊維と比較して内部に親水基であるアミノ基や水酸基を多く有して公定水分率が高いためである。しかし昨今の地球温暖化のおける環境の変化、中東地域国家間の紛争は石油資源の安定的な供給を不安定化させ、中国の飛躍的な経済発展は石油価格を上昇させるなど社会、経済問題化している。更に、日本をはじめ欧米、先進国は化石原料を用いる合成繊維から天然素材への移行処置をとり、各種の原料から生分解100%の素材への移行を含め環境や省エネルギー、二酸化炭素排出消滅などの対策を打ち出している。この様な状況の中で地球温暖化防止、二酸化炭素排出消滅並び省エネルギーの一環としてクールビズ、ウォームビズとしてのビジネス、ライフスタイルの提唱がなされた。天然素材は、公定水分率が化石原料を用いる合成繊維より衣料の着衣、着用快適性は損なわれないがその繊維構造上の繊維の結合度合いが弱く水、雨並び発汗作用などによってすぐに濡れてしまって体内の温度を急激に奪ってしまったりして着衣快適性が損なわれる。これらの対応策の一貫として撥水加工、発熱加工などの化学装飾技術が実施されているがこの様な技術の多くが樹脂加工や有機溶剤を用いている。これらの技術は樹脂加工でのホルマリン基を有していたりして私たちの健康に対して悪影響を及ぼしたり、有機溶剤は河川排水時における環境負荷(生物科学的酸素要求量、B.O.D)を与えている。更に樹脂加工の更なる機能性向上については塗布量のアップによって達成できるが粗硬となって着衣、着用における快適性を損なうのみならず、これらの加工については莫大なエネルギーを消費する結果となるなど様々な状況、状態において地球環境への影響、健康問題等を生ずる結果となっている
【0003】
親水性置換基を有するジハロゲノトリアジン系化合物を用いた形態安定加工技術としては特許文献1に記載されているが、ここに記載されているのは天然繊維やセルロース系繊維等に対する改質加工法であり、吸湿、放湿及び放熱、保熱の機能を向上させる改質加工法については何ら開示されていなかった。
【0004】
【特許文献1】特許第345576号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記したとおり、ウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物は、風合いや吸湿、放湿及び放熱、保熱性などの面で合成繊維に比べて優れた素材である。地球温暖化防止、地球環境保全、政治問題、社会問題、私達のライフスタイルの変化、生分解100%の繊維構造物の提供などを考慮し該繊維構造物に更なる生分解100%における機能性を付与するために親水性の置換基を有するジハロゲノトリアジン化合物並び吸湿、放湿及び放熱、保熱に効果があるとされる。生分解100%の18種類の遊離アミノ酸を有する水溶性の加水分解シルクを共存させウール,セルロース系繊維、再生繊維構造物を一般的な染色条件にて染色、排液、水洗いした後に吸尽法を用いる事によって該繊維構造物の更なる吸湿、放湿及び放熱、保熱性を向上させる事を見出した。親水性置換基を有するジハロゲノトリアジン化合物は酢酸、氷酢酸、リンゴ酸、クエン酸等の酸性側では急激に加水分解を引き起こしてシアヌ−ル酸化合物となり該構造物は電子置換性における−電気(−)イオンを帯びる事となる。又重炭酸ソーダ−、炭酸ソーダ−、苛性ソーダ−等のアルカリ側では親水性のアミノ基や水酸基と置換反応を引き起こす事が知られている。親水性の水溶性の加水分解シルクは18種類の遊離アミノ酸を有する。ウール,セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物に対して吸湿、放湿及び放熱、保熱の更なる機能性を付与するにあたり親水性の置換基を有するジハロゲノトリアジン化合物と水溶性の加水分解シルクを共存させ熱処理工程を有し該繊維構造物に更なる機能性を付与、向上させる改質加工法による。更に親水性の置換基を有するジハロゲノトリアジン化合物は加水分解、置換反応を実施すると極めて安全性が高く排水による環境負荷(生物化学的酸素要求量。B.O.D)を著しく軽減するなど環境保全、安全、健康志向、省エネルギー、コスト合理化の大きく貢献する
【0006】
即ち、本発明の目的は、ウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を一般的な染色条件にて染色、排液、水洗した後親水性の置換基を有するジハロゲノトリアジン系化合物、水溶性の加水分解シルクの単独あるいは混合物を共存させウール、セルロース系繊維、再生繊維の更なる吸湿、放湿及び放熱、保熱性能の機能を付与し着用、着衣快適性を改善向上する事によってクールビズ、ウオームビズに対応できうる繊維構造物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るウール、セルロース系繊維、再生繊維の改質加工法はウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を一般的な染色条件にて染色、排液、水洗した後、該繊維構造物に吸湿、放湿及び放熱、保熱の機能を付与するにあたって親水性の置換基を有するジハロゲノトリアジン化合物を該繊維構造物に含浸させて吸尽法を用いて該繊維構造物を30℃〜90℃まで昇温熱処理に付し、ウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物の吸湿、放湿及び放熱、保熱の機能を付与する改質加工法を特徴とする方法からなる。
【0008】
即ち、本発明は、ウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を一般的な染色条件にて染色、排液、水洗した後親水性の置換基を有するジハロゲノ−S−トリアジン系化合物と水溶性の加水分解シルクを共存させる事によって吸湿、放湿及び放熱、保熱性能を向上させ付与する改質加工にあたって下記一般式(1)で表される2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体の単体あるいは混合物を使用して加工する事でウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物の改質加工法を見出したものである。
【0009】
【化2】

【0010】
上記式(1)中、Xは塩素、フッ素および臭素からなる群より選ばれるハロゲン基、Yはスルホン基、カルボキシル基、水酸基およびチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基により置換されたアリールアミノ基、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、トリアジニルアミノ基、トリアジニルオキシ基、トリアジニルチオ基、またはトリアジニルアミノスチルベンアミノ基であり、前記スルホン基、カルボキシル基、水酸基およびチオール基はその水素原子がアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子で置換されてもよい。
【0011】
前記一般式(1)で表される親水性の置換基を有するジハロゲノトリアジン化合物を用いてウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を改質加工させる条件は、酸性染料を染色する条件とよく似た条件で加工できる。それによって廃水の削減を達成し、経済性並びに環境適応性を著しく改善する事ができる。
【0012】
前記一般式(1)で表される親水性の置換基を有する、ジハロゲノトリアジン化合物を用いてセルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を改質加工させる条件は反応染料を染色する条件とよく似た条件で加工法できる、それによって廃水の消滅を達成し経済性並び環境適応性を著しく改善する事ができる。
【0013】
また、吸湿、放湿及び放熱、保熱性能を向上させるため親水性の18種類の遊離アミノ酸を有する水溶性の加水分解シルクを用いる。
【0014】
ウールからなる繊維構造物を吸湿、放湿及び放熱、保熱性能を向上させる場合は、ジハロゲノトリアジン化合物と親水性である水溶性の加水分解シルクを共存させ酸性側で反応させる。水溶性の加水分解シルク、−電気(+イオン)とジハロゲノトリアジン化合物の酸性側で反応において急激に加水分解を実施、シアヌール酸となってその電気置換性は、−電気(−イオン)となってウールからなる繊維構造物に耐久性のあるイオン結合によって被膜化を実施する。親水性である水溶性の加水分解シルクの吸湿、放湿及び放熱、保熱性能を付与、更なる機能を向上させる事ができると考えられる。
【0015】
セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物の吸湿、放湿及び放熱、保熱性能を向上させる場合はジハロゲノトリアジン化合物と親水性である水溶性の加水分解シルクを共存させアルカリ側で反応させる。ジハロゲノトリアジン化合物のアルカリ側の反応は共有結合による反応形態となる。該構造物の反応形態は温度とアルカリ助剤と反応温度30℃〜35℃にて一次の反応を実施、モノクロル環となって60℃〜95℃にて二次の反応を実施する。親水性のジハロゲノトリアジン化合物の親水性であるアミノ基、水酸基との反応性は芳香族アミン>脂肪族アミン>アルコール>フェノールの順であることが知られており30℃〜35℃の一次反応は親水性の18種類の遊離アミノ酸を有する水溶性の加水分解シルクと反応、モノクロトリアジン化合物となって60℃〜95℃の二次反応においてセルロース系繊維、再生繊維(アルコール)水酸基と共有結合を実施、耐久性のある該繊維構造物の吸湿、放湿及び放熱、保熱性能を付与、向上させる事ができると考えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって得られるウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物は未加工品に対して、吸湿、放湿及び放熱、保熱性能が向上し着衣と着用快適性を向上させる事ができる。本発明の機能は、非常に耐久性に優れたものになっている。さらに本発明の特徴は、有害な薬剤を使用することなく安全で環境適合性に優れた加工薬剤である事。更に廃水のおける環境負荷を軽減させるなど優れた経済性の元で従来制約が多かった使用分野にもウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物の用途を一層拡大できる等、実用的価値が高く、我々の健康問題や地球規模の省エネルギー、環境問題にも大いに貢献する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに、詳細に説明する。本発明は、ウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を一般的な染色条件にて染色、排液、水洗した後、該繊維構造物に吸湿、放湿及び放熱、保熱性能の機能性を付与するにあたって親水性の置換基を有するジハロゲノ−S−トリアジン系化合物と吸湿、放湿及び放熱、保熱に効果のある親水性の18種類の遊離アミノ酸を含有する水溶性の加水分解シルクの単独あるいは混合物を共存させウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物に導入させ吸湿、放湿及び放熱、保熱に効果のある着衣、着用快適性に優れたウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を提供せんとするものである。
【0018】
本発明で用いる事ができる親水性置換基を有するのジハロゲノトリアジン化合物は、下記一般式(1)で表される2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体である事を特徴とする。
【0019】
【化3】

【0020】
上記式(1)中、Xは塩素、フッ素および臭素からなる群より選ばれるハロゲン基、Yはスルホン基、カルボキシル基、水酸基およびチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基により置換されたアリールアミノ基、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、トリアジニルアミノ基、トリアジニルオキシ基、トリアジニルチオ基、またはトリアジニルアミノスチルベンアミノ基であり、前記スルホン基、カルボキシル基、水酸基およびチオール基はその水素原子がアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子で置換されてもよい。
【0021】
また本発明において吸湿、放湿及び放熱、保熱性能を附与する18種類の遊離アミノ酸を有する水溶性の加水分解シルクは以下のようにして得ることができる。
【0022】
水溶性の加水分解シルクとなる繭、毛羽、生糸(以下、原料とする)を洗濯槽内へ投入して常温で約1時間洗濯を実施して不純物を除去する。洗浄した原料を遠心の脱水機を用いて充分脱水する。水溶液中に原料を投入して重炭酸ソーダ−を用いて100℃まで昇温煮沸し、その時間を120分継続し、再度遠心脱水機を用いてセリシンとフィビィロインに分離する。セリシンを有している水溶液は酵素分解槽内へ投入、アルカラーゼ、セルラーゼ等の酵素を用いて約60℃までの温度で300分間精練を実施する。分離されたフィビィロインも同様の精練を実施する。セリシンを有している水溶液を真空濃縮器に投入してリンゴ酸、クエン酸等を用いて濃縮工程を数回繰り返してゼムライト等を使用して濾過をしてその後300℃まで昇温したスプレードライ器内で噴射して、パウダー化を行う。遠心脱水機並び濾過して残留したフィビィロインは酵素精練並び高アルカリ下において再三、再四フィビィロインを分解して同様に濃縮工程実施セリシン水溶液と同様のスプレードライを実施する。
【0023】
この様にして得られた加水分解シルク(セリシンパウダー)を京都府.織物機械金属振興センター、織物課にて高速液体クロマトグラフ(HPLC)でGPCカラムを用いて測定し重量平均分子量10000の親水性のある水溶性の加水分解シルクを得た。
【0024】
重量平均分子量10000の加水分解シルク(セリシンパウダー)を(財)日本食品分析センターにおいてアミノ酸自動分析法並び高速液体クロマトグラフ法をもちいて18種類の遊離アミノ酸分析試験を実施した。
【0025】
分析試験結果は次のようである。
遊離アミノ酸

【0026】
この様にして得られた加水分解シルク(シルクパウダー)を京都府.織物機械金属振興センター、織物課にて高速液体クロマトグラフ(HPLC)でGPCカラムを用いて測定し重量平均分子量1000の加水分解シルクを得た
【0027】
重量平均分子量1000の加水分解シルク(シルクパウダー)を(財)日本食品分析センターにおいてアミノ酸自動分析法並び高速液体クロマトグラフ法をもちいて18種類の遊離アミノ酸分析試験を実施した。
【0028】
分析試験結果は次のようである。
遊離アミノ酸

これらの分析の結果、高濃度のアミノ酸が存在するため検出限界を0.1%として、それ以下の場合には検出せずと記す。
【0029】
前記一般式(1)で表されるウール、セルロース系繊維、再生繊維を改質する薬剤をより具体的に説明すると、トリハロゲノ−S−トリアジン、好ましくは塩化シアヌルを主原料として用い、カルボキシル基、水酸基、チオール基、アミノ基、スルホン基、スルホン酸基等水溶性あるいは親水性置換基を有するアニリン類、フェノール類、チオフェノール類、ナフチルアミン類、ナフトール類、アミノ酸類、トリアジン類等の単体あるいは混合物を塩化シアヌル1モルに対して1モルの酸結合剤を共存させた中性ないし弱アルカリ性で縮合させる。あるいは塩化シアヌルを重炭酸ソーダ、炭酸ソーダ、苛性ソーダ、苛性カリ、水酸化マグネシウム等を用いてアルカリ性で加水分解させることによって得られる。これらの化合物は純粋である必要はなく、前記2種以上の混合物と塩化シアヌルを反応させたものであってもよいし、純粋に作られたものをあとから混合して多成分系として使用することが好ましい場合もある
【0030】
本発明で用いられる前記一般式(1)で表される加工薬剤とは具体的には次のような化合物の単体あるいは混合物を例として挙げる事ができる。
【0031】
2,6−ジクロル−4−(3−スルホアリニノ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−(4−スルホアリニノ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−(3−スルホアリニノ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−(2,5−ジスルホアリニノ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−(3,5−ジスルホアリニノ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−(3−カルボキシアリニノ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−(4−カルボキシアリニノ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−(2−カルボキシアリニノ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−(β−カルボキシエチルアミノ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−ウレイド−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−チオウレイド−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−(4−カルボキシフェノキシ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−(4−カルボキシフェニルチオ)−S−トリアジン
2,6−ジクロル−4−オキシ−S−トリアジンNa塩
2,6−ジクロル−4−オキシ−S−トリアジンLi塩
2,6−ジクロル−4−オキシ−S−トリアジンMg塩
2,6−ジクロル−4−チオ−S−トリアジンNa塩
【0032】
親水性の置換基を有するジハロゲノトリアジン類はこの他にも数多くの有効な化合物が考えられるのであって、本発明はこれらの具体例に制約されるものではなく、親水性置換基を有する化合物である事と、活性ハロゲン原子またはそれに類する反応性基を2個以上有する事がポイントである。本発明で吸湿、放湿及び放熱、保熱性機能を向上させる機能を付与されるウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物は単品でも混合品でもよく、ポリエステル、半合成繊維やナイロン繊維、アセテート、トリアセテート、アクリルを含めた複合系繊維構造物であってもよい。
【0033】
これらの繊維構造物は、パラ毛、コーン、カセの糸の段階、織物・編物製品、不織布で加工する事も可能である。
【0034】
また、加工対象は、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン等石油系合成素材との複合系繊維構造物であってもよい。
【0035】
本発明の加工薬剤ジハロゲノトリアジン類は、ドイツ公開公報2357252号、あるいはアメリカ特許公報5601971号等に記載があるように、公知の合成法に準じて合成する事ができる。
塩化シアヌル1.00モルを5℃以下の氷水の中へ仕込み、次いで例えばm−スルファニル酸1.02モルと炭酸ソーダ約1モルをよく撹拌しながら徐々に仕込む。M−スルファニル酸と炭酸ソーダの仕込みはPH=7±1で約3時間を要して5℃〜10℃で仕込み高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析し、塩化シアヌルがほぼ消滅すれば、更に1時間保湿撹拌して反応を完結させる。この間PHは6〜8に維持し、HPLCによって組成を分析し、モノスルファニル体が90%以上となれば反応を終了する。反応後微量の不容物を濾過して除き、最終的にはPHは7に調整する。このようにして2.6−ジクロル−4−(3−スルファア二リノ)−S−トリアジンNa塩水溶液が高収率で得られる。この化合物は冷蔵庫内で5℃以下保管すれば約1ヶ月は安定である。
【0036】
本発明において上記薬剤を用いて繊維を加工する方法は浴中吸尽法を用いる。加工条件を説明すると、加工薬剤を目的に応じて薬剤の純度100%換算で0.1%〜10%(o.m.f)と水溶性の加水分解シルク0.1%〜10%(o.m.f)を共存させ使用する。ウール繊維構造物が70%以上混交している場合には酢酸、氷酢酸、リンゴ酸、クエン酸を0.1%〜5.0%(o.m.s)にて酸性浴に調液する。セルロース系繊維、再生繊維構造物が30%以上混交している場合には無水炭酸ソーダ−、重炭酸ソーダ−、あるいは苛性ソーダ−を0.1%〜3.0%(o.m.s)用いてアルカリ浴に調合する。薬剤を混合するときは薬剤の温度を30℃未満で行うように注意する。30℃以上になると水溶性ジハロゲノトリアジン化合物の擬集が著しく繊維構造物に均一に付着させることが困難になるためである。
【0037】
ウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物を一般的な染色条件にて染色、排液、水洗した後、調液温度に注意しながら調合した浴液を液流染色機、ウインス染色機、ジッカー染色機等の浴槽内に注入する。処理加工するウール、セルロース系繊維、再生繊維構造物の総重量に対し浴比を1:60以下になるよう染色機内の加工水量を調整し、該繊維構造物を所定の加工条件、処理条件に従い加工する。処理温度を30℃以上とし15分間以上処理した後、徐々に昇温しながら槽内加工液の温度を60℃〜90℃で15分間以上処理する。その後ソーピング、水洗等、該繊維構造物を加工する。これらの熱処理にてイオン結合、共有結合を実施、該繊維構造物に吸湿、放湿及び放熱、保熱性能を向上させる機能性を付与する。
【0038】
これらの加工条件はウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物の種類並びに加工目的に応じて制約されることなく、例えば加工効果をより強くするために加工薬剤、水溶性の加水分解シルクの便用量を増加させ加工条件を強化する等、自由に変化させる事ができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものではない。
【0040】
実施例1
液流染色機内においてウール100%、平織地36kgをブラックフォーマルの黒にクロム染色を実施した。この生地を煮絨を実施、水洗した後、同染色機内へ水400kg、2.6−ジクロル−4−(3−スルフォアニリノ)−S−トリアジン10%水溶液7.2kg(純度換算720g)、加水分解シルク(シルクパウダー)720g、酢酸100cc投入した。この時ph5.5であり酸性浴となった。この水温25℃の状態で10分間稼動した。その後2℃/分にて昇温稼動50℃まで昇温しこの温度を15分間持続した。その後2℃/分にて65℃まで昇温して、この温度を40分間維持、稼動した。排水後80℃にて5分間ソーピング、水洗、脱水してテンターにて乾燥処理を実施した。この様にして得られたウール100%平織地を京都府織物.機械金属センター、織物課において湿潤発熱の測定を実施した。この結果を表1に表す。
【0041】
比較例1
実施例1で使用したものと同じ布帛を薬剤のみで実施例1と同様の加工を実施した。このようにして得られた布帛を実施例1と同様に測定した結果を表2に示す。
【0042】
実施例2
染色機内においてコーン状態に巻かれた綿100%、60/2、3kgの糊落しを酵素で実施その後、蛍光染料を用いて白に染色した。同染色内でソーピング、水洗いを実施しその後 水45kg、2.6−ジクロル−4−オキシ−S−トリアジンNa塩10%水溶液600g(純分換算60g)、加水分解シルク(セリシンパウダー)60g、無水盲硝1.35kg、重曹1.125kg、ソーダ灰25gを投入した。この時ph10でありアルカリ浴となった。この状態で水温23℃で5分間稼動した。その後2℃/分で昇温稼動50℃まで昇温、この温度を20分間稼動した。その後3℃/分にて85℃まで昇温稼動を実施、この温度を40分間維持した。排水後、ソーピング85℃にて15分間水洗をして脱水乾燥を実施した。この綿100%、60/2を24個に分割して製編し靴下を製造した。この靴下をサーモグラフィーの影像解折による身体の体熱の測定を実施した。この結果を表3に示す。
【0043】
比較例2
実施例2で加工したコーン状態に巻かれた綿100%、60/2を薬剤のみで同様の加工を実施した。このようにして得られた靴下を実施例2と同様に測定した結果を表4に示す。
【0044】
実施例3
染色機内においてコーン状に巻かれたレーヨン100%(テンセル)60/2の反応染色を実施し、その後製編、スムース地に仕立てた。液流染色機を用い、水1500kg、2.6−ジクロル−4−(4−スルフォアニリノ)−S−トリアジン10%水溶液20kg(純分換算2kg)無水亡硝75kg、重曹37.5kg、ソーダ灰7.5kg、加水分解シルク(シルクパウダー)2kgを23℃の中で混合した。その染色機内へ製編されたレーヨン100%(テンセル)のスムース地、生地重量100kgを投入し染色機内混合液温28℃で15分間稼動した。その後3℃/分にて昇温稼動して50℃で20分間稼動した。終了した時点でソーダ灰1.5kg投入しその後後3℃/分にて85℃まで昇温、85℃の水温を40分間維持した。排水後、ソーピング85℃にて15分間実施の際、酢酸を用いて中和、水洗して脱水、シエリンク乾燥を実施してテンター仕上げした。この様にして製編された生地を吸放湿差△MR(%)の結果を表5に示す。
【0045】
比較例3
実施例3と同様染色、製編されたスムース地を薬剤のみで同様の加工を実施した。このようにして得られたレーヨン100%(テンセル)スムース地を実施例3と同様に測定した結果を表5に示す。
【0046】
実施例4
染色機内においてコーン状態に巻かれた綿100%、80/2を酵素で処理を実施したのちシルケット加工をした。この綿100%、80/2を80本に分割してフライス地に製編した。液流染色機を用い、水800kg、2.6−ジクロル−4−4−オキシ−S−トリアジンNa塩10%水溶液40kg(純度換算4kg)無水盲硝24kg、重曹20kg、ソーダ灰400g、加水分解シルク(セリシンパウダー)4kgを水温25℃にてアルカリ浴に混合した。槽内へ綿100%、80/2フライス地、生地重量60kgを投入し25℃の水温で10分間稼動運転を実施した後、2℃/分にて50℃まで昇温、この温度を20分間維持、稼動した。この後、3℃/分にて85℃まで昇温して85℃を30分間維持して稼動した。排水処理してソーピング85℃にて15分間実施の際、酢酸を用いて中和、水洗して脱水、シュリンク乾燥を実施してテンター仕上げをした。この様にして製編された生地を、皮膚貼布試験を男性と女性に実施した。その結果を表6に示す。
【0047】
比較例4
実施例4と同様に製編されたフライス地を薬剤のみで同様の加工を実施した。この様にして得られた、綿100%フライス地を実施例4と同様に測定した結果を表6に示す。
【0048】
実施例5
染色機内においてカセ状に巻かれた綿100%、40/2に酵素処理を実施、その後反応染料にてベージュに染色した。この綿100%をコーンに巻き上げ、天竺、に製編した。ウインス染色機を用い、水150kg、2.6−ジクロル−4−4−オキシ−S−トリアジンNa塩10%水溶液3kg(純分換算300g)、無水盲硝4.5kg、重曹6.25kg、ソーダ灰750g、加水分解シルク(セリシンパウダー)300gを水温25℃にてアルカリ欲に混合した。槽内へ、綿100%、C40/2天竺、生地重量10kgを投入、25℃の水温で10分間稼動した後、2℃/分で40℃まで昇温、15分間この水温を維持、稼動した。その後3℃/分で80℃まで昇温稼動し80℃の水温を40分間維持、稼動した。排水処理を実施、ソーピング85℃にて10分間、その際、酢酸を用いて中和、水洗を3回繰り返し、脱水してテンター乾燥した。この様にして製編された天竺を京都府織物.機械金属振興センターにて衣料内外環境テストを実施した、その結果を表7、表8、に示す。
【0049】
比較例5
実施例5と同様に製編された天竺地を薬剤のみで同様の加工を実施した、この様にして得られた天竺を実施例と同様に測定結果を表7、表8、に示す。
【湿潤発熱の測定方法】
【0050】
湿潤発熱の測定には、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計DSC6200を用い、アルミ製のオープンパンを使用した。セル内の湿度調整は、セル内の4箇所に十分湿潤した脱脂綿を置き、セルを閉じて後、所定量の窒素を流入し、温度が平衡状態に到達した後窒素流入を止めることで湿度飽和状態を与えた。試料は一週間以上恒温恒湿(20℃65%RH)に放置し、測定前の試料の水分率を一定にした。基準的な湿潤発熱量の測定法は次のとおりである。まず、リファレンス(空のアルミパン)をセル内に装着した後、湿潤した脱脂綿を置いたセル内を37℃に設定し、所定量の窒素を流入する。温度が平衡状態に到達したら、水分率を一定に保った試料をセルの中へ挿入する。数分後、再び平衡状態になった所で測定を開始、測定開始後4分30秒たってから、窒素ガスのバルブをゆっくりと閉める。窒素ガスの流入が止まると同時に、試料は水分吸着により急速な発熱を示す。その後試料の発熱は徐々に減少し、平衡状態に到達する。試料は4mg使用した。試料を挿入前の平衡状態と発熱がほぼ完了したと考えられる湿潤後の平衡状態までの発熱量の合計を全発熱量とした。
実施例1
【表1】

【0051】
比較例1
【表2】

【試験内容及び条件】
【0052】
試験品着用による生体へのサーモグラフィー(人体温度解析)
被験者は試験品を着用して20分間の歩行運動を実施した。
計測部位 足部
環境温湿度 23.5℃ 50%RH
被験者 女性
A 着用前熱画像
B 試験品を着用20分間歩行運動後着用熱画像
C 試験品を着用20分間歩行運動後脱衣熱画像
D 脱衣3分後の熱画像
実施例2 サーモグラフィー表面皮膚温解析
【表3】

【0053】
比較例2
【表4】

【0054】
着用による表面皮膚温の変化、表3、表4参照
<ヒストグラム解析による表面皮膚温の変化>

【0055】
【表5】

【0056】
試験方法
A 皮膚貼布試験(密閉法)
1cmX1cmの試布を肌に直接貼り、貼付前、7時間後及び24時間後の肌表面への影響を見る
B 被験者 男性1名 女性1名
C 保湿性試験(平均水分率の測定)20±2℃ 80±5%RHでの水分率
実施例3 7.61% 比較例3 4.64%
【0057】
【表6】

【表6】

【0058】
試験方法
京都府織物・機械金属振興センター織物課によってカトーテック株式会社の衣服内環境測走装置を用いた。本装置は人が衣服を着用した時に感じる快適感や不快感を計測するためのシュミレーションシステムで衣服内外の環境温度、湿度を高精度にてコントロールできる温湿度発生装置を基幹に人体の表面体温を計測できるセンサー、温度、湿度の経時的な記録、表示のためのデーター解析ソフトからなる。計測内容として衣服内外の温度・湿度変化、保湿特性熱伝導特性、通気特性、浸透特性等を計測する
実施例5、比較例5を同じグラフで示す
【表7】

【表8】

【0059】
実施例1と比較例1からわかる様に本発明では、総発熱量が湿潤発熱効果が実証され、保熱効果が向上しウォームビズに対応できる良好な結果が得られた。
【0060】
実施例2と比較例2からわかる様に本発明では、セルロース系繊維構造物に放熱効果向上しクールビズに対応できる良好な結果が得られた。
【0061】
実施例3と比較例3からわかる様に本発明では、再生繊維構造物に吸湿、放湿性能を付与している結果が得られた。
【0062】
実施例4と比較例4からわかる様に身体の肌の状態が24時間貼付しても状態が変化すること無く、ある程度の状態が維持されている、しかし比較例は皮膚が身体からの発熱、発汗作用によって蒸れている状態となっている。この測定の結果、本発明は吸湿、放湿及び放熱、保熱効果が向上している良好な結果が得られた。
【0063】
実施例4と比較例4から分かるように、本発明では保湿、放湿効果が向上し、人の皮膚の湿度の状況を一定に保つ効果を証明した。
【0064】
実施例5と比較例5から分かるように、本発明ではセルロース系繊維に湿潤発熱における衣料内の環境が良好である結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体が付与されていることを特徴とするウール、セルロース系繊維、再生繊維構造物。
【化1】

(式中、Xは塩素、フッ素および臭素からなる群より選ばれるハロゲン基、Yはスルホン基、カルボキシル基、水酸基およびチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基により置換されたアリールアミノ基、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、トリアジニルアミノ基、トリアジニルオキシ基、トリアジニルチオ基、またはトリアジニルアミノスチルベンアミノ基であり、前記スルホン基、カルボキシル基、水酸基およびチオール基の水素原子はアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子で置換されてもよい。)
【請求項2】
該2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体が2,6−ジクロロ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体であることを特徴とする請求項1記載のウール、セルロース系繊維、再生繊維構造物。
【請求項3】
2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体の水溶液をウール、セルロース系繊維、再生繊維からなる繊維構造物に含浸させた後、該繊維構造物を30℃〜90℃で吸尽法を用いて熱処理する処理工程を有することを特徴とするウール、セルロース系繊維、再生繊維構造物の製造方法。
【請求項4】
該水溶液中に水溶性の加水分解シルクを含有させることを特徴とする請求項3に記載のウール、セルロース系繊維、再生繊維構造物の製造方法。
【請求項5】
ウール、セルロース系繊維、再生繊維構造物を一般的な染色条件にて染色して、排液、水洗した後、該2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体を純度100%換算で繊維構造物の重量比0.1%以上、10%以下、浴比1:60以下になるように調整した溶液に水溶性の加水分解シルク、繊維構造物重量比0.1%以上、10%以下を共存させ浴液温度30℃より温度を徐々に昇温させ90℃までの吸尽法を用いて熱処理工程を有することを特徴とするウール、セルロース系繊維、再生繊維構造物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のウール、セルロース系繊維、再生繊維構造物を用いてなることを特徴とする防寒衣、スキーウェアー、ライフジャケット等のアウター類。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のウール、セルロース系繊維、再生繊維構造物を用いてなることを特徴とする靴下、ショーツ、ブラジャー等の下着類。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の帽子、コート、オーバー等の防寒衣類、スキー衣類、カジュアル衣類、トレッキング衣類、ユニホーム類、スキー、ボトム等のアウター類。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の靴下、ショーツ、ガードル、スリップ、ブラジャー、ボディスーツ、ランジェリー、ファンデーション等の下着、インナー類。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の毛布、シーツ、ベッドカバー、布団カバー、枕カバー等の寝具類。

【公開番号】特開2007−308857(P2007−308857A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165327(P2006−165327)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(506204092)
【出願人】(505393728)
【出願人】(505393739)
【Fターム(参考)】